(第1実施形態)
以下、本実施形態を添付図面に基づいて説明する。まず、第1実施形態の汚染水貯留タンクの除染方法について図1から図15を用いて説明する。
図1の符号1は、汚染水貯留タンクの除染システムである。この除染システム1を用いてタンク2の除染を行う。このタンク2は原発事故で発生した放射性物質(放射性核種)を含む汚染水を貯留するために用いられたものである。そして、タンク2の耐用期間が過ぎて解体する必要が生じている。
タンク2の内面全体には、腐食防止のためのライニング3が施されている。このライニング3は、FRP(Fiber-Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)で構成されている。なお、FRPに含まれる繊維は、ガラス繊維でも良いし、炭素繊維でも良い。
このタンク2の内面は、数10mSv/hの非常に高い表面線量率となっていると考えられる。タンク2の内面の汚染物質は、貯留していた汚染水の残液が表面に付着して乾燥したものと、ライニング3の内部に浸透したものであると考えられる。
そのため、ライニング3を剥離して除去することで、線量率の低減が見込める。ここで、放射性物質で汚染されていない一般的なライニング3または塗膜の剥離技術は、公知技術として多数存在している。しかし、公知技術によりタンク2の内面全体のライニング3を剥離するためには、タンク2に大きな開口を開け、剥離用の装置本体または装置先端部を固定または移動可能に挿入する必要がある。高線量率のタンク2に大きな開口を開ける切断作業は、作業者の被ばくおよび汚染物質の飛散の危険性があり困難である。
また、公知技術として、ブラスト処理によりライニング3を剥離させる技術がある。このようなブラストを用いる場合は、ブラスト材が大量の放射性二次廃棄物となる。また、塗膜剥離剤をライニング3の表面に塗布または浸透させて剥離する技術がある。しかし、剥離剤をタンク2の内面全体に均一に塗布することが困難である。さらに、タンク2の内部を剥離剤で満たすことも考えられるが、複数の化学成分を高濃度に含んだ剥離剤が多量の放射性二次廃棄物となる。このような放射性二次廃棄物の処理は困難である。
本実施形態の除染方法では、タンク2の解体作業時の作業者の被ばくを抑制し、さらに汚染物質の拡散を防止するために、タンク2の解体前に水などの後処理が簡便な除染液を用いて一次除染としての液除染を行ってライニング3の線量率を低減させる。そして、線量率を低減させた状態でライニング3を剥離する二次除染としての剥離除染を行う。
なお、液除染とは、除染対象に除染液を接触させ、除染対象に付着した汚染物質を除染液に溶解させたり、除染対象中の汚染物質を除染液中に溶出させたりすることで、除染対象の線量を下げる除染方法のことである。
図1から図3に示すように、タンク2は、横長の円筒形状を成す円筒部4と、この円筒部4の両端部を閉止する半球形状を成す鏡板5とを有する。円筒部4および鏡板5は、鋼鉄などの金属材で形成されている。このタンク2は、円筒部4の軸方向(長手方向)が水平を成す横置き型となっている。なお、円筒部4の軸方向が垂直を成す縦置き型のタンクを横倒しにして除染作業を行っても良い。また、鏡板5は、半楕円形状または扁平な形状を成していても良い。
タンク2の上部には、既設の導入口6が設けられている。この導入口6は蓋材7(図6参照)の着脱により開閉される。タンク2の下部には、ドレン管8が設けられる。このドレン管8には、バルブ9が設けられる。なお、タンク2の通常使用時には、ドレン管8のバルブ9を閉止した状態で導入口6から汚染水が導入されて内部に貯留される。貯留された汚染水を排水する場合には、ドレン管8のバルブ9を開放する。
本実施形態の除染システム1は、除染対象となるタンク2を載せるターニングロール10と、ターニングロール10の高さ位置を変更する油圧シリンダ装置11と、ターニングロール10および油圧シリンダ装置11の駆動を制御する駆動制御部12とを備える。
まず、タンク2は、その円筒軸Cが水平を成す状態でターニングロール10に載せられる。ターニングロール10は、円筒形状を成す物体を円筒軸C周りに回転させる回転治具装置である。本実施形態では、タンク2の円筒部4のそれぞれの端部近傍に設けられた2台のターニングロール10で、1台のタンク2を支持する。ターニングロール10を駆動させることで、タンク2をその円筒軸C周りに回転させることができる(図6参照)。
また、それぞれのターニングロール10は、地面Gに設置された油圧シリンダ装置11により支持される。油圧シリンダ装置11の駆動により、円筒部4の一方の端部と他方の端部の高さ位置をそれぞれ異ならせることができる(図7および図8参照)。
まず、タンク2の内部の線量測定を行う。線量測定の方法は、例えば、図1に示すように、導入口6からタンク2の内部に投入させたクローラ式の駆動装置51に装荷させた線量測定装置52を用いる。クローラ式の駆動装置51の寸法は、導入口6を通ることが可能な寸法、つまり、導入口6の内径よりも小さい寸法であれば良い。また、線量測定装置52はクローラ式の駆動装置51が接触するタンク2の内壁と対向する位置に取り付けられることが好ましい。このように線量測定装置52を取り付けることで、主にβ線を精度よく測定することが可能である。
クローラ式の駆動装置51は、通信・電源の複合ケーブル53を介して操作される。複合ケーブル53は、通信用のケーブルと電源用のケーブルをまとめたケーブルである。ただし、導入口6の部分にアクセスポイントを設置し、無線で動かす場合は、通信用ケーブルの構成は不要となる。また、駆動装置51にバッテリーを搭載する場合は、電源用ケーブルの構成は不要となる。
線量測定装置52にて線量測定を行うときに、ターニングロール10を駆動させて、タンク2を円筒軸C周りに回転させても良い。ただし、線量測定装置52に複合ケーブル53がある場合は、±160度~±170度程度の回転が可能である。
なお、線量測定装置52で測定の対象となる放射線は、β線に限らず、α線またはγ線でも良い。特に、β線の放射線量は、タンク2の外部から測定することが困難であるため、クローラ式の駆動装置51を用いて線量測定装置52をタンク2の内部に導入することで、β線の放射線量の測定精度を向上させることができる。そして、測定した放射線量に基づいて、最適な液除染の方法または剥離除染の方法を決定することができる。また、導入口6からクローラ式の駆動装置51および線量測定装置52を導入することで、タンク2に大きな開口部を形成せずに、その内部の線量を測定できる。そのため、作業者の被ばくを抑えることができる。
なお、クローラ式の駆動装置51を用いずに、線量測定装置52をタンク2の内部に投入させても良い。例えば、導入口6から挿入可能なロボットアームの先端に線量測定装置52を取り付けてタンク2の内部に投入させても良い。
次に、タンク2の一次除染としての液除染を行う。除染システム1は、タンク2の内部に除染液13を散布するための散布機器14を備える。この散布機器14は、ランス15の先に設けられた散水ノズル16を有する。作業者は、散布機器14の散水ノズル16を導入口6からタンク2の内部に挿入する。そして、散水ノズル16からタンク2の内部に除染液13を散布する。
除染液13は、水でも良いし、他の薬剤を希釈した溶液でも良い。例えば、除染液13は、ギ酸、酢酸、アスコルビン酸、スルファミン酸、硝酸、塩酸のうちの少なくともいずれか1つの薬剤を希釈した溶液から成る。このようにすれば、効率的に液除染を行うことができる。
散水ノズル16から散布された除染液13は、タンク2の内面全体に接触される。なお、除染液13を所定の水圧で噴射することで、円筒部4から鏡板5の内面まで除染液13が到達するようになる。
散水ノズル16の形態は、他の形態であっても良い。例えば、図4に示す変形例1の散水ノズル16Aように、散水ノズル16Aがそれぞれ水平方向と鉛直方向に360度回転しても良い。そして、上下左右のいずれの方向にも除染液13を散水できるようにする。このような構成にすることで、散水ノズル16Aの移動を詳細に制御することなく、タンク2内の広い範囲、または全体に除染液13を接触させることができる。
また、図5に示す変形例2の散水ノズル16Bように、散水による推進力で水平方向に自走可能であっても良い。この自走式の散水ノズル16Bは、可撓性を有する給水ホース54の先端に接続される。そして、この給水ホース54から除染液13が散水ノズル16Bに供給される。そして、散水ノズル16Bから除染液13が噴出することで、散水ノズル16Bがタンク2の内部を自走する。この散水ノズル16Bは、その移動方向(図5中の矢印D1)と反対方向(図5中の矢印D2)に除染液13を噴出して移動方向D1への推進力とする。
さらに、散水ノズル16Bの2か所からそれぞれ異なる水圧で、移動方向D1に垂直な方向(図5中の矢印D3,D4)に除染液13を散水する。そして、散水ノズル16Bは、噴出する除染液13の水圧の差により、回転しながらタンク2内を移動する。散水ノズル16Bの回転とは、給水ホース54の先端が揺動する動作を含む。なお、散水ノズル16Bには、それぞれの方向D1~D4に除染液13を噴出可能なように、噴出孔が形成されている。このような構成にすることで、散水ノズル16Bの移動を詳細に制御することなく、タンク2の内部の広い範囲、または内面全体に除染液13を接触させることができる。
そして、除染液13を一定時間散布することで、所定量の除染液13をタンク2の内部に貯留させる。ここで、除染液13の貯留量は、タンク2の容積の半分以下であれば良い。例えば、タンク2の径寸法(上下寸法)の中央線(円筒軸C)よりも低い位置に除染液13を貯留する。所定量の除染液13が溜まったら、散水ノズル16をタンク2から取り出し、導入口6を蓋材7で塞ぐようにする。除染液13は、タンク2の円筒部4の内面の下部側の部分に溜まっており、この部分のライニング3の液除染がなされる。
なお、散水ノズル16Bの回転によって、散水ノズル16Bに繋がる給水ホース54が捻じれる場合がある。そのため、給水ホース54には、例えば、スイベルジョイントなどの回転可能な部材であって水密な接合部55を設けられる。
第1実施形態では、タンク2において、除染液13が溜められる部分であって、円筒部4の周方向の一部が、ライニング3の液除染の対象となる対象部となっている。また、除染液13が対象部の液除染を行う液除染部となっている。なお、タンク2を回転させることで除染液13が流動されるので、対象部をタンク2の周方向に沿って切り換えることができる。
図6に示すように、ターニングロール10を駆動させると、タンク2が円筒軸C周りに回転する。タンク2を回転させることで、除染液13が溜められる部分である対象部が、タンク2の円筒部4の周方向に沿って切り換えられる。除染液13が溜められる部分は、常に、タンク2の下部側であり、タンク2が回転されることによって、円筒部4の内面のライニング3をその周方向の全体に亘って除染することができる。
タンク2を円周方向に回転させることで除染液13が流動されるので、タンク2の円筒部4の内面の全体を除染することができる。そのため、タンク2に導入する除染液13が少量でも、円筒部4のライニング3を除染することができる。本実施形態では、タンク2の内部容積の半分以下の除染液13の量で除染を行うことができる。
なお、駆動制御部12は、タンク2の回転を一定時間継続する。この継続される液除染時間は、ライニング3の除染を行うために充分な時間を設定する。また、タンク2の回転速度についても、ライニング3に除染液13が充分に接触され、ライニング3が除染液13に浸漬される速度に設定する。
なお、駆動制御部12は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の除染方法は、プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
さらに、水を含む除染液13であることで、放射性物質を水により洗い流すことができる。また、液除染に用いた水が汚染されても、水の浄化処理の方が固形物の浄化処理よりも容易であるので、除染作業の効率を向上させることができる。
図7に示すように、一方の鏡板5の内面のライニング3を除染する場合には、油圧シリンダ装置11を駆動させる。そして、一方の鏡板5が下がるように、タンク2の円筒軸Cを傾ける。このようにタンク2を傾かせた状態で、ターニングロール10の駆動を継続し、タンク2を回転させる。
このように、タンク2の円筒軸Cが傾けられた状態でタンク2を回転させることで、液除染を行うときに、タンク2の円筒部4の内面のライニング3のみならず、鏡板5の内面のライニング3も除染することができる。
タンク2の円筒軸Cを傾けた状態でタンク2を回転させる場合には、除染液13の液面を、タンク2の径寸法(径方向)の中央線(円筒軸C)よりも若干高い位置にするとともに、タンク2の長手寸法(軸方向)の中央線Lよりも若干高い位置にする。このような位置に液面が配置されるように、除染液13の貯留量を予め設定しておく。このようにすれば、タンク2を回転させることで、一方の鏡板5の内面の全体と、円筒部4の内面の半分の範囲に除染液13が接触される。また、少ない量の除染液13で鏡板5を含めた除染を行える。
一次除染を行う時間、除染液の薬剤濃度と種類、タンクを回転させる回数または速度、散水ノズル16の操作は、線量測定のデータに基づき調整することができる。また、線量測定で得られたデータに基づいて、一次除染の実施方法を適切に選択することができる。
例えば、第1実施形態は、一次除染の際にタンク2の開口部が導入口6またはドレン管8に限られているため、線量測定でタンク2内の線量が高い場合の除染方法として液除染が適している。また、線量の高さに応じて薬剤濃度、除染液量、除染時間等を増減したりすることがある。
また、散水ノズル16からの散水だけで、タンク2の全内面に液除染に充分な除染液13が接触する場合は、タンク2の回転を省略することが可能である。
図8に示すように、一方の鏡板5の除染が完了した後に、他方の鏡板5の除染を開始する。ここで、油圧シリンダ装置11を駆動させて、他方の鏡板5が下がるように、タンク2の円筒軸Cを傾ける。このようにタンク2を傾かせた状態で、ターニングロール10の駆動を継続し、タンク2を回転させる。このようにすれば、タンク2を回転させることで、他方の鏡板5の内面の全体と、円筒部4の内面の残りの半分の範囲に除染液13が接触される。
なお、駆動制御部12は、タンク2の回転およびタンク2の傾きを適宜制御することで、タンク2の内面全体のライニング3を除染することができる。また、除染液13を散布機器14の散水ノズル16から散布させたときに鏡板5のライニング3が充分に除染される場合は、タンク2を傾けて除染する工程を省略しても良い。
発明者らは、水または希釈酸を用いた液除染による除染効果を確認するために、模擬汚染として安定ストロンチウムを用いた除染試験を実施した。その結果を図13のグラフに示す。
この試験では、海水成分を含む汚染水が付着して乾燥した状態を想定している。人工海水に、塩化ストロンチウム添加した溶液を、一般的なライニング材である不飽和ポリエステル系FRPの表面に既知量滴下した後、約100℃で乾燥し固着させた。FRPに付着させたストロンチウムは、塩化ストロンチウム量として0.5mgである。本試験片を、100mLの水、0.1mol/Lのギ酸、0.1mol/Lの硝酸に各々浸漬し、一定時間毎に溶液中に溶解したストロンチウム濃度を測定し、その除去率を求めた。
図13に示すように、硝酸溶液では浸漬1時間後にストロンチウムの除去率は100%に達した。これに対して、水およびギ酸溶液では浸漬2時間後にストロンチウムの除去率は100%に達した。これらの試験結果により一次除染として液除染が可能であることを確認した。
より短時間での除染処理が必要な場合は硝酸溶液を選択する。また、処理時間より薬剤または除染廃液処理のコスト低減を図る場合、または、二次廃棄物量低減が必要な場合は水を用いる。このように処理への要求の優先度により、除染液13の選択が可能である。
また、海水成分濃度が高い汚染水が貯留されていた場合は、放射性ストロンチウムが難溶解性の硫酸塩または炭酸塩として付着している可能性がある。その場合は、ストロンチウムの同族元素であるカルシウムの難溶解性塩の溶解性が高い薬剤を用いると効果的である。
なお、除去率100%に達する時間は、汚染水の付着状態により異なるため、必ずしも実機の除染が、本試験結果の時間通りとなる訳ではない。本実施形態の液除染時間は、汚染水の付着状態、タンク2の汚染履歴、タンク2の寸法、ライニング3の材質、除染液13の投入量などの各種条件に応じて適宜設定される。
図6に示すように、充分に液除染が行われた後に、タンク2の円筒軸Cが水平を成すように、タンク2の配置を変更する。そして、ドレン管8のバルブ9を開放し、除染液13を排水する。また、吸引ポンプを用いてタンク2の内部から除染液13を汲み出しても良い。なお、液除染に用いた除染液13は回収される。
本実施形態の除染システム1は、回収された除染液13などの廃液に含まれる放射性物質を除去する廃液処理装置17を備える。この廃液処理装置17によって、除染液13に含まれる放射性物質を除去する。この放射性物質が除去された除染液13は、次回の液除染時、または他の場所に設けられた除染システム1で液除染を行う時に、再びタンク2の内部に導入し、再利用する。このようにすれば、一度液除染に用いられた除染液13を繰り返し用いることができるので、二次廃棄物となる除染液13を減らすことができる。
なお、除染液13が水の場合は、そのまま再利用できる。また、除染液13が薬剤を含む場合は、その薬剤の濃度調整を行った後に再利用を行う。なお、回収した除染液13を再利用せずに所定の汚染水処理系で処理した後に廃棄しても良い。
また、タンク2内の液体を吸引することが可能な吸引ノズルを導入口6またはドレン管8から挿入し、この吸引ノズルによりタンク2内の除染液13を吸引することで排水処理を行っても良い。
本実施形態では、一次除染としての液除染後に、タンク2のライニング3を剥がす二次除染としての剥離除染を行う。このようにすれば、液除染によりライニング3の線量を低減させた状態で剥離除染を行えるので、剥離作業を行う作業者の被ばくを抑制することができる。剥離作業の際に作業員がタンク2に近づくか否かに関わらず、ライニング3の剥離作業およびタンク2の解体作業時における汚染物質の拡散を防止することができる。
図9に示すように、二次除染としての剥離除染では、タンク2の内部の除染液13を排出した後に、タンク2の鏡板5をワイヤーソーなどの切断装置18により切断する。切断する場合には、円筒部4と湾曲された鏡板5の境界線B(図6参照)を切断する。そして、円筒部4の両端に開口部19を形成する。この切断作業は、タンク2をターニングロール10に載せた状態で行っても良いし、一旦、ターニングロール10からタンク2を下して行っても良い。
本実施形態では、液除染後にタンク2に開口部19を形成するので、その開口作業を行う作業者の被ばくを抑制することができる。また、汚染物質の拡散を防止することができる。
なお、タンク2において境界線Bから離れた位置を切断しても良い。例えば、鏡板5の中央部近傍を切断して円形の開口部19を形成しても良い。つまり、液除染後にタンク2の少なくとも軸方向の端部を切断して開口部19を形成する。また、開口部19は、ライニング3の剥離に用いられる剥離機器をタンク2の内部に挿入可能な寸法に形成する。
また、ライニング3を剥離させる前に、開口部19からタンク2の内部にレーザ装置20を挿入する。このレーザ装置20から照射されるレーザ21により、ライニング3の一部を切断する。そして、ライニング3の複数箇所に切れ目を入れる。これらの切れ目がライニング3の剥離のきっかけとなり、剥離作業を効率的に行えるようになる。
発明者らは、レーザによるFRP切断についても確認試験を実施した。ライニング材として一般的な、不飽和ポリエステル系FRPを積層し、1cm×5cm×厚さ2mm程度の板状試験片を作製した。
本試験片の表面に、スポット径0.8mmφ、138W出力のファイバーレーザを200mm/分の速度で走査させたところ、FRPを充分に切断できることが分かった。
図10に示すように、第1実施形態では、剥離機器としての高圧水ジェット噴射装置22を用いてライニング3を剥離する。まず、油圧シリンダ装置11の駆動により、ターニングロール10に載せた状態のタンク2を傾斜させる。そして、タンク2の内部に軸方向に沿って延びるガイドレール23を設置する。このガイドレール23は、地面Gに固定された架台24により支持される。
高圧水ジェット噴射装置22のジェットノズル25は、ガイドレール23に沿ってタンク2の軸方向に移動される。このジェットノズル25は、タンク2の開口部19からガイドレール23に沿って挿入される。
そして、ジェットノズル25から所定の噴射圧で剥離用水26をタンク2の内面に向けて噴射する。このようにすれば、剥離用水26の圧力によりライニング3を剥離させることができる。剥離用水26には、通常の水を用いる。なお、除染用の薬剤を含んだ水を剥離用水26としても良い。
第1実施形態では、60MPa以上の噴射圧で剥離用水26を噴射してライニング3を剥離させる。好ましくは、100~150MPa以上の噴射圧で剥離用水26を噴射すると良い。このようにすれば、充分な噴射圧でライニング3を剥離させることができる。
ジェットノズル25は、タンク2の内面から一定の距離を維持しつつ、ガイドレール23に沿って移動される。なお、ジェットノズル25の移動および剥離用水26の噴射圧は、高圧水ジェット噴射装置22が有する水圧制御部にて制御される。
第1実施形態では、タンク2において、ジェットノズル25から剥離用水26が噴射される部分であって、円筒部4の周方向の一部が、ライニング3の剥離除染の対象となる対象部となっている。例えば、タンク2の円筒部4における下部側の部分が対象部として設定される。このようにすれば、ライニング3を剥がすときに、対象部をタンク2の下部側に配置することができるので、剥離除染を効率的に行うことができる。また、高圧水ジェット噴射装置22のジェットノズル25が対象部の剥離除染を行う剥離除染部となっている。
また、ターニングロール10を駆動させると、タンク2が円筒軸C周りに回転する。タンク2を回転させることで、ジェットノズル25から噴射される剥離用水26によってライニング3が剥離される部分である対象部が、タンク2の円筒部4の周方向に沿って切り換えられる。そして、タンク2が回転されることによって、円筒部4の内面のライニング3をその周方向の全体に亘って剥離することができる。また、ターニングロール10でタンク2を回転させながら、ジェットノズル25をタンク2の軸方向に沿って移動させて、ライニング3の剥離を行う。
また、ライニング3がFRPで構成されることで、含まれる繊維によってライニング3が細かい断片になり難く、繊維が含まれない場合と比較して、剥離除染を行う際にライニング3が一体的に剥がれ易くなっている。
発明者らは、高圧水ジェット噴射装置22を用いたライニング3の剥離効果を確認する試験を実施した。タンク2の内面の表面状態を模擬し、ブラスト処理を施した炭素鋼の表面に、下塗りのプライマを施すとともに不飽和ポリエステル系FRPを塗布し、縦横が25cm角の板状の試験片を作製した。なお、FRPの厚みは2mm程度である。
本試験片の表面に、2穴のジェットノズル25にて、剥離用水26を噴射し、FRPの剥離可否を確認した。その結果を図14の表に示す。この試験結果では、60MPa以上の噴射圧で、FRPが剥離可能であることが分かった。また、剥離速度を考慮すると、効率的な剥離除染を行うためには、100~150MPa以上の噴射圧が好適であることが分かった。
図10に示すように、タンク2の円筒軸Cが傾けられた状態でタンク2を回転させることで、剥離除染を行うときに、剥離されたライニング3の破片を傾斜に沿って落とすことができる。また、噴射された剥離用水26もタンク2の傾斜に沿って流れ落ちるようになる。なお、タンク2の下方位置には、タンク2から落ちてくる剥離用水26およびライニング3の破片を受ける水受部27が設けられている。さらに、剥離除染に用いた剥離用水26は回収される。
なお、第1実施形態では、タンク2の円筒軸Cを傾けた状態で剥離除染を行っているが、タンク2を傾けずに、タンク2の円筒軸Cが水平な状態で剥離除染を行っても良い。
本実施形態の除染システム1は、回収された剥離用水26などの廃液に含まれる固形分を除去する水処理装置28を備える。この水処理装置28によって、剥離用水26に含まれる固形分を除去する。この固形分が除去された剥離用水26は、次回の剥離除染時、または他の場所に設けられた除染システム1で剥離除染を行う時に、再利用する。このようにすれば、一度剥離除染に用いられた剥離用水26を繰り返し用いることができるので、二次廃棄物となる剥離用水26を減らすことができる。
なお、鏡板5の内面に設けられたライニング3についても、高圧水ジェット噴射装置22を用いて剥離させる。
図11に示すように、本実施形態の除染システム1は、剥離機器としての電磁誘導機器29を備える。電磁誘導機器29は、電磁誘導の原理を利用して金属材に電流を流して発熱させる誘導加熱を用いてライニング3を剥離させる。例えば、高圧水ジェット噴射装置22を用いた剥離除染を行ったときに、剥離されずに一部のライニング3がタンク2の内面に残る場合がある。このような場合に、電磁誘導機器29をタンク2のライニング3が残った部分の外面に当てる。そして、電磁誘導機器29を駆動させて誘導加熱を生じさせてタンク2を加熱し、ライニング3の温度を上昇させて、残ったライニング3を剥離させる。
このようにすれば、タンク2の外面側から電磁誘導機器29により加熱してライニング3を剥離させることができる。また、タンク2の内面に部分的に残ったライニング3の剥離を容易に行うことができる。なお、タンク2の内面に電磁誘導機器29を当ててライニング3を剥離させても良い。
図12に示すように、鏡板5の内面に剥離されずに残ったライニング3についても、電磁誘導機器29を外面に当てることで、剥離させることができる。なお、鏡板5においては、高圧水ジェット噴射装置22を用いずに、電磁誘導機器29を用いて全てのライニング3を剥離させても良い。
第1実施形態では、タンク2のライニング3の表面に付着した汚染物質を、一次除染としての液除染にて除去することができる。そして、ライニング3の線量率を大幅に低減させることができる。仮に、ライニング3の内部にて浸透した汚染物質が一次除染で除去しきれなかった場合でも、ライニングへの汚染浸透量は極少量であり、また、ライニングの自己遮蔽により作業者への影響が少ないと考えられる。このように、一次除染で主な汚染源を除去して線量率を大幅に低減することで、その後の作業者の被ばくおよび汚染物質の飛散の危険性を大幅に低減することが可能である。このことにより、二次除染に適用する技術の選択肢が広がり、効率的にタンク2の除染を行うことが可能となる。
次に、第1実施形態の汚染水貯留タンクの除染方法について図15のフローチャートを用いて説明する。なお、図2から図12を適宜参照する。
図15に示すように、まず、ステップS11において、作業者は、所定の重機を用いて、除染対象となるタンク2をその円筒軸Cが水平を成す状態でターニングロール10に載せる。このターニングロール10(回転治具装置)によりタンク2が回転可能に支持される。
次のステップS12において、作業者は、タンク2内の放射線量を測定する。ここで、作業者は、導入口6から線量測定装置52をタンク2の内部に挿入する。線量測定装置52は例えばクローラ式の駆動装置51と一体になっている。そして、クローラ式の駆動装置51がタンク2内を移動してタンク2の内面の放射線量を測定する。
次のステップS13において、作業者は、タンク2内の放射線量に基づいて、一次除染としての液除染の具体的な方法を決定する。なお、液除染の具体的な方法とは、液除染を行う時間、除染液13の薬剤濃度と種類、タンク2の回転の有無、タンク2の回転の回数、タンク2の回転の速度、散水ノズル16の操作態様である。また、液除染で使用する機器の搬入方法または散水方法をタンク2内の放射線量に基づいて決めても良い。
次のステップS14において、作業者は、一次除染としての液除染を開始する。例えば、ここで、作業者は、散布機器14の散水ノズル16を導入口6からタンク2の内部に挿入する。そして、散水ノズル16からタンク2の内部に除染液13を散布する。
次のステップS15において、散水ノズル16から散布された除染液13は、タンク2の内面全体に接触される。除染液13を一定時間散布することで、所定量の除染液13をタンク2の内部に貯留させる。除染液13は、タンク2の円筒部4における下部側の部分に溜まり、この部分のライニング3の液除染がなされる。
次のステップS16において、駆動制御部12は、ターニングロール10を駆動させることで、タンク2を円筒軸C周りに回転させる。ここで、タンク2は、水平を成す円筒軸C周りに回転される。そして、駆動制御部12は、タンク2の回転を一定時間継続する。タンク2を回転させることで除染液13が流動されるので、液除染がなされる対象部としてのタンク2の内面のライニング3を周方向に沿って切り換えることができる。
さらに、駆動制御部12は、油圧シリンダ装置11の駆動により、円筒部4の一方の端部と他方の端部の高さ位置に高低差を設けて、タンク2の円筒軸Cを傾ける。このようにタンク2を傾かせた状態で、ターニングロール10の駆動を継続し、タンク2を回転させる。そして、駆動制御部12は、タンク2の回転を一定時間継続し、一方の鏡板5の内面のライニング3を除染する。また、一方の鏡板5の内面のライニング3の除染が完了した後に、タンク2の傾きを逆転させて、他方の鏡板5の内面のライニング3を除染する。
次のステップS17において、作業者は、ドレン管8のバルブ9を開放し、タンク2の内部の除染液13を排出する。そして、この液除染に用いた除染液13を回収する。
次のステップS18において、作業者は、回収した除染液13に含まれる放射性物質を廃液処理装置17により除去する。ここで、放射性物質が除去された除染液13は、次回の液除染時、または他の場所に設けられた除染システム1で液除染を行う時に、再びタンク2の内部に導入し、再利用する。
次のステップS19において、作業者は、タンク2の鏡板5を切断装置18により切断し、円筒部4の両端に開口部19を形成する。
次のステップS20において、作業者は、開口部19からタンク2の内部にレーザ装置20を挿入する。このレーザ装置20から照射されるレーザ21により、ライニング3の一部を切断する。
次のステップS21において、作業者は、二次除染としての剥離除染を開始する。剥離除染とは、タンク2内のライニング3を剥離することである。作業者は、剥離機器としての高圧水ジェット噴射装置22を設置する。そして、ジェットノズル25は、タンク2の開口部19からガイドレール23に沿って挿入される。
高圧水ジェット噴射装置22は、ジェットノズル25から所定の噴射圧で剥離用水26をタンク2の内面に向けて噴射する。この剥離用水26の圧力によりライニング3を剥離させる。そして、ターニングロール10を駆動させると、タンク2が円筒軸C周りに回転する。タンク2を回転させることで、ジェットノズル25から噴射される剥離用水26によってライニング3が剥離される部分である対象部が、タンク2の円筒部4の周方向に沿って切り換えられる。なお、鏡板5の内面に設けられたライニング3についても、高圧水ジェット噴射装置22を用いて剥離させる。
次のステップS22において、作業者は、剥離除染に用いた剥離用水26を回収する。
次のステップS23において、作業者は、回収した剥離用水26に含まれる固形分を水処理装置28により除去する。ここで、固形分が除去された剥離用水26は、次回の剥離除染時、または他の場所に設けられた除染システム1で剥離除染を行う時に、再利用する。
次のステップS24において、作業者は、電磁誘導機器29をタンク2のライニング3が残った部分の外面に当てる。そして、電磁誘導機器29を駆動させて誘導加熱を生じさせてタンク2を加熱し、ライニング3の温度を上昇させて、残ったライニング3を剥離させる。また、鏡板5の内面に剥離されずに残ったライニング3についても、電磁誘導機器29を外面に当てることで、剥離させる。
なお、ステップS24の誘導加熱によるライニング3の剥離も剥離除染の一部である。ステップS21の剥離除染のみでライニングが充分に剥離できる場合には、ステップS24を省略しても良い。
そして、全てのライニング3を剥離させた後、処理を終了する。このようにして、液除染および剥離除染が完了したタンク2を解体する。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の汚染水貯留タンクの除染方法について図16を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
図16に示すように、第2実施形態では、タンク2の円筒軸Cが水平を保った状態で液除染を行う。この第2実施形態では、まず、地面Gに設置されたターニングロール10にタンク2を載せる。そして、鏡板5の中央部を切断して円形の挿入口30を形成する。また、挿入口30は、散布機器14のランス15および散水ノズル16をタンク2の内部に挿入可能な寸法に形成する。
そして、タンク2の一次除染としての液除染を行う。作業者は、散布機器14の散水ノズル16を挿入口30からタンク2の内部に挿入する。そして、散水ノズル16からタンク2の内部に除染液13を散布する。除染液13は、タンク2の下部側に溜まる。
ここで、除染液13の散布を継続しつつ、ターニングロール10を駆動してタンク2を回転させる。除染液13が溜められる部分である対象部が、タンク2の円筒部4の周方向に沿って切り換えられる。除染液13が溜められる部分は、常に、タンク2の下部側であり、タンク2が回転されることによって、円筒部4の内面のライニング3をその周方向の全体に亘って除染することができる。
また、散水ノズル16から散布された除染液13は、鏡板5の内面にも当たるので、鏡板5の内面のライニング3も除染することができる。
第2実施形態では、タンク2の円筒軸Cを傾ける必要がないので、油圧シリンダ装置11などの重機を省略することができる。そして、円筒部4および鏡板5の内面のライニング3を全体的に除染することができる。
また、散水ノズル16からの散水だけで、タンク2の全内面に液除染に充分な除染液13が接触する場合は、タンク2の回転を省略することが可能である。なお、第2実施形態の一次除染も、線量測定の後に行われる。線量測定において、タンク2の鏡板5に挿入口30を形成しても問題ないと判断された場合に実施される。挿入口30は、例えばコアボーリングの技術を用いて形成することができる。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の汚染水貯留タンクの除染方法について図17を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
図17に示すように、第3実施形態では、一次除染(液除染)および二次除染(剥離除染)で、同じ高圧水ジェット噴射装置22、ガイドレール60およびジェットノズル25を用いる。まず、地面Gに設置された油圧シリンダ装置11により支持されるターニングロール10にタンク2を載せる。そして、鏡板5の一部を切断して円形の挿入口30を形成する。また、挿入口30は、ガイドレール60およびジェットノズル25をタンク2の内部に挿入可能な寸法に形成する。なお、鏡板5に形成される挿入口30は、タンク2の円筒軸Cに対応する位置に設けられる。そのため、挿入口30の開口寸法を最小にすることができる。
ガイドレール60のタンク2内に挿入される一端は、揺動可能な支持脚61によって、タンク2内で支持される。ジェットノズル25は、この支持脚61に取り付けられている。この支持脚61の一端は、ガイドレール60に揺動可能に接続されている。支持脚61の他の一端には、車輪62が付いており、ガイドレール60およびジェットノズル25を支持したまま、タンク2の内面を移動可能に構成される。
ガイドレール60およびジェットノズル25を挿入口30に通す際には、支持脚61がガイドレール60と平行に重なるように折りたたまれる。なお、このときジェットノズル25もガイドレール60と平行を成す。そして、タンク2内では、支持脚61がガイドレール60対して垂直方向に延び、車輪62を介してタンク2内でガイドレール60を支持する。このときジェットノズル25の先端は、ライニング3の方向に向くようになる。なお、ガイドレール60には、支持脚61を揺動させる揺動駆動部と、車輪62を駆動させる車輪駆動部とが設けられても良い。なお、ガイドレール60は、タンク2の円筒軸Cに沿って配置される。そのため、タンク2を回転させても、ガイドレール60とタンク2の内面との距離を一定に保つことができる。
そして、ジェットノズル25から除染液13を噴出させてタンク2の一次除染としての液除染を行う。このように、ジェットノズル25からタンク2の内部に除染液13を散布する。なお、ジェットノズル25の水圧は、二次除染(剥離除染)時よりも弱くても良い。
ここで、除染液13の散布を継続しつつ、ターニングロール10を駆動してタンク2を回転させる。除染液13が溜められる部分である対象部が、タンク2の円筒部4の周方向に沿って切り換えられる。除染液13が溜められる部分は、常に、タンク2の下部側であり、タンク2が回転されることによって、円筒部4の内面のライニング3をその周方向の全体に亘って除染することができる。
一次除染の後、同じ高圧水ジェット噴射装置22、ガイドレール60、ジェットノズル25を用いて二次除染を行う。例えば、ジェットノズル25から剥離用水26を噴出させて剥離除染を行う。なお、ジェットノズル25の水圧は、少なくとも一次除染(液除染)時よりも強くする。
第3実施形態では、同じ装置で一次除染と二次除染を行うことができ、作業員の手間が少ない。また、ジェットノズル25からの散水だけで、タンク2の一次除染が充分な場合は、タンク2の回転を省略することが可能である。なお、第3実施形態の一次除染も、線量測定の後に行われる。線量測定において、タンク2の鏡板5に挿入口30を形成しても問題ないと判断された場合に挿入口30の開口作業が実施される。挿入口30は、例えば、コアボーリングの技術を用いて形成することができる。また、タンク2内の液体を吸引することが可能な吸引ノズルを、導入口6、ドレン管8または挿入口30から挿入し、この吸引ノズルによりタンク2内の除染液13を吸引することで排水処理を行っても良い。
また、二次除染でレーザ装置20を用いる場合は、レーザ装置20をガイドレール60に沿ってタンク2内に導入しても良い。
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の汚染水貯留タンクの除染方法について図18から図21を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
第4実施形態では、一次除染としての液除染を第1実施形態から第3実施形態のいずれかと同様の方法で完了する。そして、タンク2の鏡板5を切断し、円筒部4の両端に開口部19を形成する。
図18に示すように、第4実施形態の二次除染としての剥離除染では、加熱炉31を用いる。この加熱炉31を用いてタンク2のライニング3を加熱して剥離させる。加熱炉31は、タンク2を加熱するための加熱部32と、タンク2を移動させるローラ式移動装置33とを備える。
加熱部32は、油バーナ、ガスバーナ、ラジアントチューブなどの機器を用いた燃焼式でも良いし、抵抗加熱、電子加熱、誘導加熱、レーザ加熱などの電気式でも良い。これら各種の加熱方式が適用可能である。加熱対象となるタンク2のサイズ、確保可能な電源容量、または燃料などの各種条件を考慮して適切な加熱方式を選択する。
加熱炉31でタンク2を加熱するときには、まず、加熱炉入口34からタンク2を挿入する。タンク2は、ローラ式移動装置33により加熱炉31の内部に移動させる。なお、導入口6およびドレン管8がローラ式移動装置33に干渉しないように、タンク2の周方向の向きを適宜調整する。
そして、加熱部32を駆動させることでタンク2が加熱される。ここで、ライニング3が300℃以上の温度になるまで、一定時間に亘って加熱を継続する。ライニング3の樹脂の熱分解により発生する排ガスは、加熱炉31に設けられた排気口35より排気される。なお、この排ガスは、排ガス処理装置にて処理された後に環境に排出される。タンク2のライニング3の温度が充分に上昇し、その温度が一定時間維持された後に、加熱炉出口36からタンク2を取り出す。
図19に示すように、除染建屋37の建屋出入口38からタンク2を挿入して隔離する。なお、除染建屋37の内部には、ターニングロール10が設置されている。タンク2は、このターニングロール10に載せられる。
そして、剥離機器としての自走式斫り装置39を用いてライニング3の剥離除染を開始する。ここで、タンク2の放冷を行わず、加熱炉31の加熱により高められたライニング3の温度を維持した状態で、自走式斫り装置39によりライニング3を剥離させる。なお、自走式斫り装置39は、遠隔操作によりライニング3を剥離させるための装置である。ライニング3の表面を自走することができる。
タンク2の内面の下部側のライニング3の剥離が完了した後、ターニングロール10を駆動させる。ターニングロール10を駆動させると、タンク2が円筒軸C周りに回転する。タンク2を回転させることで、自走式斫り装置39によってライニング3が剥離される部分である対象部が、タンク2の円筒部4の周方向に沿って切り換えられる。そして、ターニングロール10の駆動を停止し、再び自走式斫り装置39によりライニング3を剥離させる。自走式斫り装置39によるライニング3の剥離と、ターニングロール10によるタンク2の回転により、円筒部4の内面のライニング3をその周方向の全体に亘って剥離することができる。なお、自走式斫り装置39が対象部の剥離除染を行う剥離除染部となっている。
また、除染建屋37には、給気口40と排気装置41が設けられている。さらに、ライニング3の剥離時には、粉塵が発生するため、粉塵を捕集するフィルタ42を排気装置41に設けるようにする。
なお、ライニング3の熱劣化が不充分で局所的に剥離困難部分が生じた場合には、電磁誘導機器29(図11参照)によりライニング3を加熱して剥離しても良い。また、切断したタンク2の端部などの比較的小さい部品に設けられたライニング3を電磁誘導機器29により加熱して剥離しても良い。
なお、第4実施形態では、自走式斫り装置39を用いてタンク2の内面のライニング3を剥離させるようしているが、その他の態様であっても良い。例えば、タンク2の放冷を行って、タンク2の温度が常温になるまで冷却した後に、スクレイパーを用いて作業者の人手によりライニング3を剥離させても良い。
また、鏡板5についても加熱炉31で加熱を行った後に、自走式斫り装置39またはスクレイパーを用いた人手により、ライニング3の剥離除染を行うようにする。
発明者らは、加熱によるライニング3の剥離効果を確認する試験を実施した。タンク2の内面の表面状態を模擬し、ブラスト処理を施した炭素鋼の表面に、下塗りのプライマを施すとともに不飽和ポリエステル系FRPを塗布し、縦横が5cm角の板状の試験片を作製した。なお、FRPの厚みは2mm程度である。
本試験片を、電気炉に入れて、加熱温度、加熱時間、さらに加熱後の放冷有無をパラメータとし、FRPの剥離性を確認した。その結果を図20の表に示す。
タンク2の加熱後に放冷しないで、高温のままの状態でFRPの剥離を行う場合には、300℃以上の温度になるまでタンク2を加熱し、0.5時間の加熱時間が必要であることが分かった。この放冷をしないで行う剥離作業は、自走式斫り装置39を用いた遠隔操作による剥離を想定している。従って、加熱後に放冷せずにライニング3の剥離を実施する場合は、300℃で、かつ0.5時間という短時間の加熱でライニング3の剥離を行うことができる。
一方、タンクの加熱後に常温まで放冷する場合には、375℃以上の温度になるまでタンク2を加熱し、5時間の加熱を行わないとライニング3の剥離ができなかった。これは、FRPまたはプライマを、降温してもその特性が復元しないほどに熱劣化させるためには、より高温かつ長時間の加熱が必要であると考えられるためである。この放冷をした後に行う剥離作業は、スクレイパーを用いた人手による剥離を想定している。実作業上は、タンク2の加熱後に、高温の状態で人手により剥離を行うことは、難易度が高いため、加熱後に放冷しても剥離可能な加熱処理を行うことが望ましい。
なお、剥離可能な加熱条件は、ライニング3の施工条件、経年劣化の度合により異なるため、必ずしも実機のタンク2のライニング3の剥離作業が本試験の時間通りの加熱で達成できるわけではない。
また、電磁誘導機器29(図11参照)による誘導加熱によりタンク2を加熱させた場合には、タンク2を構成する金属自体が加熱されるため、金属との界面部分のプライマを加熱して剥離する手段としては効率的である。しかし、タンク2の全体を加熱するために、大規模な電磁誘導機器29を製作することは困難である。そこで、電磁誘導機器29を小さい範囲を部分的に加熱する手段として用いる。
発明者らは、前述の試験片と同様の試験片を製作し、電磁誘導機器29を用いて加熱してライニング3の剥離効果を確認する試験を実施した。この試験の結果、1.2kWの電磁誘導機器29にて加熱を行うと、10分以内にプライマが軟化し、FRPがほとんど熱劣化することなく剥離されることが分かった。
第4実施形態では、300℃以上の温度でライニング3を加熱することで、ライニング3を剥離し易くなるので、剥離除染を効率的に行うことができる。
また、加熱により高められたライニング3の温度を維持した状態で、剥離機器によりライニング3を剥離させることで、剥離作業を効率的に行うことができる。
次に、第4実施形態の汚染水貯留タンクの除染方法について図21のフローチャートを用いて説明する。なお、図18から図19を適宜参照する。
この第4実施形態の除染方法は、ステップS21AからステップS23Aのステップのみが、第1実施形態の除染方法(図15参照)と異なり、他のステップは、第1実施形態の除染方法と同様のステップである。
図21に示すように、第4実施形態では、ステップS20の次に進むステップS21Aにて、作業者は、加熱炉31の内部にタンク2を配置する。そして、加熱部32を駆動してタンク2を加熱する。タンク2のライニング3の温度が充分に上昇し、その温度が一定時間維持された後に、加熱炉31からタンク2を取り出す。
次のステップS22Aにおいて、作業者は、除染建屋37の内部にタンク2を配置する。そして、剥離機器としての自走式斫り装置39を用いてライニング3の剥離除染を行う。
ここで、タンク2の内面の下部側のライニング3の剥離が完了した後、ターニングロール10を駆動させる。ターニングロール10を駆動させると、タンク2が円筒軸C周りに回転する。タンク2を回転させることで、自走式斫り装置39によってライニング3が剥離される部分である対象部が、タンク2の円筒部4の周方向に沿って切り換えられる。そして、ターニングロール10の駆動を停止し、再び自走式斫り装置39によりライニング3を剥離させる。自走式斫り装置39によるライニング3の剥離と、ターニングロール10によるタンク2の回転により、円筒部4の内面のライニング3をその周方向の全体に亘って剥離することができる。
次のステップS23Aにおいて、タンク2を一定時間以上に亘って放冷してその温度が常温になるまで冷却する。そして、ステップS24に進む。
なお、ステップS24の誘導加熱によるライニング3の剥離も剥離除染の一部である。ステップS22Aの剥離除染のみでライニングが充分に剥離できる場合には、ステップS24を省略しても良い。
(第5実施形態)
次に、第5実施形態の汚染水貯留タンクの除染方法について図22を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
図22に示すように、第5実施形態の回転治具装置43は、タンク2の円筒部4の端部近傍に固定される2つのエンドリング44と、これらのエンドリング44をそれぞれ回転可能な状態で支持する回転支持部45とを備える。
エンドリング44は、タンク2の円筒部4の外周全体を囲む環状の治具である。なお、回転支持部45は、油圧シリンダ装置11により支持されている。回転支持部45を駆動させることで、タンク2をその円筒軸C周りに回転させることができる。なお、回転治具装置43は、液除染時または剥離除染時のいずれにおいて用いても良い。
第5実施形態では、エンドリング44がタンク2に固定されるので、タンク2を回転させても、タンク2が位置ずれを起こすことがない。また、急角度でタンク2を傾斜させることができる。
本実施形態に係る汚染水貯留タンクの除染方法を第1実施形態から第5実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
なお、本実施形態の駆動制御部12で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
また、この駆動制御部12で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、この駆動制御部12は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、放射性物質を含む汚染水の貯留に用いられたタンクの内部の放射線量を測定し、この放射線量に基づいて、タンクの内部に除染液を導入し、除染液をタンクの内面に接触させる液除染を行うことにより、除染作業の効率を向上させることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。