<第1実施形態>
1.リン回収設備
本発明のリン回収設備の第1実施形態としてのリン回収設備1を、図1を参照して説明する。
リン回収設備1は、リンを含有する汚水から、リン酸カルシウムを回収するための汚水処理設備である。
リン回収設備1は、晶析ユニット2と、リン供給部の一例としてのリン供給ユニット3と、カルシウム供給部の一例としてのカルシウム供給ユニット4と、返送ユニット9と、固液分離ユニット7と、回収容器8と、を備える。
晶析ユニット2は、リン供給ユニット3から供給されるリン含有液(後述)と、カルシウム供給ユニット4から供給されるカルシウム溶液(後述)とを混合して、リン酸カルシウムを生成する。
晶析ユニット2は、リン酸カルシウムを生成するための晶析槽20と、取出部の一例としての取出ライン21と、排出ライン25と、を備える。
晶析槽20は、密閉される中空形状を有している。つまり、晶析槽20の内部空間は、密閉空間である。詳しくは、晶析槽20は、円筒形状を有する側壁26と、側壁26の上端部を閉鎖する上壁27と、側壁26の下端部を閉鎖する底壁28とを備える。
また、晶析槽20は、隔壁23および撹拌部材24を備えている。
隔壁23は、晶析槽20の内部空間に設けられる。隔壁23は、晶析槽20の内部空間を、リンとカルシウムとを反応させる反応部と、生成したリン酸カルシウムを沈降分離する分離部とに仕切る。これによって、隔壁23は、反応部と分離部とが互いに影響を受けないように仕切り、晶析槽20からリン酸カルシウムが流出することを抑制する。隔壁23は、上下方向に延びる円筒形状を有する。本実施形態では、隔壁23の下端部は、下方に向かうにつれて大径となる。隔壁23は、隔壁23の外周面が側壁26の内周面に対して、側壁26の径方向に間隔を空けて位置するように、晶析槽20内に配置される。このような晶析槽20の反応部容積については、後で詳述する。なお、隔壁23は、必須構成ではなく、晶析槽20は、隔壁23を備えなくてもよい。また、隔壁23の下端部を大径とせず、直胴型でもよい。
撹拌部材24は、水平羽根と、それを回転させる駆動軸とを備え、晶析槽20に収容される分散液(後述)、より詳しくは、隔壁23内に位置する分散液(後述)を撹拌するように構成される。撹拌部材24の駆動軸は、図示しない駆動源からの駆動力により回転駆動する。なお、撹拌部材24は、分散液(後述)を撹拌できれば特に制限されず、晶析槽20内において分散液(後述)を循環できるポンプなどであってもよい。
このような晶析槽20には、種晶が分散する分散液が収容される。
分散液は、例えば、リン供給ユニット3から晶析槽20に供給されるリン含有液(後述)と、カルシウム供給ユニット4から晶析槽20に供給されるカルシウム溶液(後述)との混合液であって、種晶が分散されている。つまり、晶析槽20は、リン含有液(後述)とカルシウム溶液(後述)との混合液と、混合液に分散される種晶とを収容する。
種晶の材料は、リン酸カルシウムの種晶として用いることができれば、特に制限されない。
種晶の材料として、例えば、リン酸ヒドロキシアパタイト、骨炭、珪酸カルシウム、非晶質リン酸カルシウム、フッ化カルシウム、珪砂などが挙げられ、好ましくは、リン酸ヒドロキシアパタイトが挙げられる。
種晶の平均粒子径は、晶析槽20から取り出されるリン酸カルシウム粒子の平均粒子径(後述)よりも小さい。種晶の平均粒子径は、例えば、50μm以上、好ましくは、70μm以上、例えば、500μm以下、好ましくは、300μm以下である。なお、粒子の平均粒子径は、後述する実施例に記載の方法により測定できる(以下同様)。
なお、分散液(混合液)における種晶濃度については、後で詳述する。
取出ライン21は、晶析槽20において生成したリン酸カルシウム粒子を晶析槽20から取り出すための配管であって、リン酸カルシウム粒子を含む回収物を排出するための配管である。取出ライン21は、晶析槽20の底部に設けられる。取出ライン21の排出方向の上流端部は、晶析槽20の底壁28に接続される。取出ライン21の排出方向の下流端部は、固液分離ユニット7の固液分離器70(後述)に接続される。
また、取出ライン21には、バルブ22が設けられる。バルブ22は、取出ライン21において、晶析槽20と固液分離器70(後述)との間に設けられる。バルブ22は、例えば、公知の開閉弁であって、取出ライン21を開閉する。なお、バルブ22は、常には、取出ライン21を閉鎖している。
排出ライン25は、晶析槽20から処理水(リン酸カルシウム回収後の混合液)を排出するための配管である。排出ライン25は、晶析槽20の側壁26に支持される。排出ライン25の排出方向の上流端部は、側壁26を貫通して、晶析槽20の内部空間、より具体的には、隔壁23の外周面と側壁26の内周面との間(晶析槽20の分離部)に位置する。排出ライン25の排出方向の上流端部は、上側に向かって開口されている。
なお、排出ライン25の排出方向の上流端部には、図示しないが、種晶が排出ライン25に流入することを規制するとともに、処理水の通過を許容するフィルタが設けられる。
排出ライン25の排出方向の下流端部は、晶析槽20の外部において、返送ユニット9の処理水槽90(後述)に接続される。
リン供給ユニット3は、リン含有液を晶析槽20に供給する。本実施形態では、リン供給ユニット3は、リンを含有する汚水からリンを取り出し、後述するリン酸態リン濃度を有するリン含有液を調製して、そのリン含有液を晶析槽20に供給する。
リン供給ユニット3は、濃縮ユニット5と、貯留槽の一例としてのリン貯留槽6と、リン送液ユニット10と、を備える。
濃縮ユニット5は、濃縮部の一例としての濃縮塔50と、汚水供給ライン51と、汚水排出ライン52と、リン含有液排出ライン53と、を備える。
濃縮塔50は、リンを含有する汚水からリンを吸着した後、吸着したリンを溶出して、後述するリン酸態リン濃度を有するリン含有液を調製する。
濃縮塔50には、リンを吸着可能な吸着剤が充填されている。つまり、濃縮塔50は、リンを吸着可能な吸着剤を含む。
吸着剤は、リンを吸着可能であれば特に制限されないが、例えば、特開2011-255341号公報に記載される金属酸化物系吸着剤などが挙げられる。金属酸化物系吸着剤として、具体的には、活性アルミナ、水和酸化鉄、水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン、水和酸化イットリウムなどが挙げられる。これら吸着剤は、担体(例えば、樹脂、フェライトなど)に担持されていてもよい。このような吸着剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
濃縮塔50の数は、特に制限されないが、リンの吸着および溶出を連続的に稼働するために好ましくは、2以上である。本実施形態では、濃縮ユニット5は、複数(2つ)の濃縮塔50を備える。なお、2つの濃縮塔50を互いに区別する場合、2つの濃縮塔50のうち一方を第1濃縮塔50Aとし、2つの濃縮塔50のうち他方を第2濃縮塔50Bとする。
汚水供給ライン51は、濃縮塔50に汚水を供給するための配管である。汚水供給ライン51の供給方向の下流端部は、濃縮塔50の個数に対応して分岐し、各濃縮塔50の上端部(塔頂部)に接続される。また、汚水供給ライン51の供給方向の上流端部は、図示しないが、汚水が貯留される汚水貯留部に接続される。
汚水供給ライン51には、バルブ54が設けられる。バルブ54は、例えば、公知の開閉弁であって、汚水供給ライン51を開閉する。バルブ54は、汚水供給ライン51において、汚水供給ライン51が分岐する分岐点と各濃縮塔50との間に、1つずつ設けられる。なお、本実施形態では、分岐点と第1濃縮塔50Aとの間に設けられるバルブ54を、第1バルブ54Aとし、分岐点と第2濃縮塔50Bとの間に設けられるバルブ54を、第2バルブ54Bとする。
汚水排出ライン52は、濃縮塔50を通過した汚水を濃縮塔50から排出するための配管である。汚水排出ライン52の排出方向の上流端部は、濃縮塔50の個数に対応して分岐しており、濃縮塔50の下端部(塔底部)に接続される。また、各濃縮塔50に接続される汚水排出ライン52の分岐部分は互いに合流し、その後、汚水排出ライン52の排出方向の下流端部は、図示しない汚水処理施設(例えば、し尿処理施設、下水処理施設など)に接続される。
汚水排出ライン52には、バルブ56が設けられる。バルブ56は、例えば、公知の開閉弁であって、汚水排出ライン52を開閉する。バルブ56は、汚水排出ライン52において、汚水排出ライン52が合流する合流点と各濃縮塔50との間に、1つずつ設けられる。なお、本実施形態では、合流点と第1濃縮塔50Aとの間に設けられるバルブ56を、第1バルブ56Aとし、合流点と第2濃縮塔50Bとの間に設けられるバルブ56を、第2バルブ56Bとする。
リン含有液排出ライン53は、リン含有液を濃縮塔50から排出するための配管である。リン含有液排出ライン53の排出方向の上流端部は、濃縮塔50の個数に対応して分岐しており、各濃縮塔50の下端部(塔底部)に接続される。また、各濃縮塔50に接続されるリン含有液排出ライン53の分岐部分は互いに合流し、その後、リン含有液排出ライン53の排出方向の下流端部は、リン貯留槽6に接続される。
リン含有液排出ライン53には、バルブ55が設けられる。バルブ55は、例えば、公知の開閉弁であって、リン含有液排出ライン53を開閉する。バルブ55は、リン含有液排出ライン53において、リン含有液排出ライン53が合流する合流点と各濃縮塔50との間に、1つずつ設けられる。なお、本実施形態では、合流点と第1濃縮塔50Aとの間に設けられるバルブ55を、第1バルブ55Aとし、合流点と第2濃縮塔50Bとの間に設けられるバルブ55を、第2バルブ55Bとする。
リン貯留槽6は、濃縮ユニット5から排出されるリン含有液を貯留可能である。リン貯留槽6は、密閉される中空形状を有している。つまり、リン貯留槽6の内部空間は、密閉空間である。
リン貯留槽6の容積は、各濃縮塔50の容積に対して、例えば、1倍以上、好ましくは、3倍以上、例えば、9倍以下、好ましくは、6倍以下である。なお、リン貯留槽6に貯留されるリン含有液については、後で詳述する。
リン送液ユニット10は、リン貯留槽6に貯留されるリン含有液を、リン貯留槽6から晶析槽20に送液する。リン送液ユニット10は、リン送液ライン11と、リン送液ポンプ12とを備える。
リン送液ライン11は、リン含有液を、リン貯留槽6から晶析槽20に送液するための配管である。リン送液ライン11の送液方向の上流端部は、リン貯留槽6に接続される。リン送液ライン11の送液方向の下流端部は、隔壁23の内側に送液できるように、晶析槽20に接続される。
リン送液ポンプ12は、リン送液ライン11に設けられる。リン送液ポンプ12は、例えば、公知の送液ポンプであり、吐出量を調整可能である。リン送液ポンプ12の吐出量は、リン貯留槽6から晶析槽20へのリン含有液の供給量と同じである。リン送液ポンプ12の吐出量を調整することにより、晶析槽20に対するリン含有液の適宜供給量を調整できる。
カルシウム供給ユニット4は、カルシウム溶液を晶析槽20に供給する。カルシウム供給ユニット4は、カルシウム貯留槽40と、カルシウム送液ユニット43と、を備える。
カルシウム貯留槽40は、カルシウム溶液を貯留している。なお、カルシウム貯留槽40に貯留されるカルシウム溶液については、後で詳述する。
カルシウム送液ユニット43は、カルシウム貯留槽40に貯留されるカルシウム溶液を、カルシウム貯留槽40から晶析槽20に送液する。カルシウム送液ユニット43は、カルシウム送液ライン41と、カルシウム送液ポンプ42と、を備える。
カルシウム送液ライン41は、カルシウム溶液を、カルシウム貯留槽40から晶析槽20に送液するための配管である。カルシウム送液ライン41の送液方向の上流端部は、カルシウム貯留槽40に接続される。カルシウム送液ライン41の送液方向の下流端部は、晶析槽20に接続され、より具体的には、隔壁23の内側に送液できるように、上壁27に接続される。
カルシウム送液ポンプ42は、カルシウム送液ライン41に設けられる。カルシウム送液ポンプ42は、例えば、公知の送液ポンプであり、吐出量を調整可能である。カルシウム送液ポンプ42の吐出量は、カルシウム貯留槽40から晶析槽20へのカルシウム溶液の供給量と同じである。カルシウム送液ポンプ42の吐出量を調整することにより、晶析槽20に対するカルシウム溶液の供給量を適宜調整できる。
返送ユニット9は、晶析槽20から排出された処理水をリン供給ユニット3に返送する。返送ユニット9は、処理水槽90と、還流ライン91と、返送ポンプ92と、を備える。
処理水槽90は、排出ライン25から排出される処理水を貯留可能である。処理水槽90に貯留される処理水は、晶析槽20を通過したリン含有液とカルシウム溶液との混合液であって、リン酸カルシウムが回収された後の混合液である。処理水については、後で詳述する。
処理水槽90は、排出ライン25の排出方向の下流端部に接続される。処理水槽90は、密閉される中空形状を有している。つまり、処理水槽90の内部空間は、密閉空間である。処理水槽90の容積の範囲は、例えば、上記したリン貯留槽6の容積の範囲と同じである。
還流ライン91は、処理水槽90から濃縮ユニット5に、処理水を還流(返送)するための配管である。還流ライン91の還流方向の上流端部は、処理水槽90に接続される。還流ライン91の還流方向の下流端部は、濃縮塔50の個数に対応して分岐して、各濃縮塔50の上端部(塔頂部)に接続される。
還流ライン91には、バルブ93が設けられる。バルブ93は、例えば、公知の開閉弁であって、還流ライン91を開閉する。バルブ93は、還流ライン91において、還流ライン91が分岐する分岐点と各濃縮塔50との間に、1つずつ設けられる。なお、本実施形態では、分岐点と第1濃縮塔50Aとの間に設けられるバルブ93を、第1バルブ93Aとし、分岐点と第2濃縮塔50Bとの間に設けられるバルブ93を、第2バルブ93Bとする。
返送ポンプ92は、還流ライン91に設けられる。返送ポンプ92は、例えば、公知の送液ポンプであり、吐出量を調整可能である。返送ポンプ92の吐出量は、処理水槽90から濃縮塔50への処理液の返送量(供給量)と同じである。返送ポンプ92の吐出量を調整することにより、濃縮塔50に対する処理液の返送量(供給量)を適宜調整できる。
固液分離ユニット7は、取出ライン21から取り出されたリン酸カルシウムを含む回収物を固液分離して、得られた固体成分を回収容器8に輸送するとともに、液体成分をリン供給ユニット3に返送する。
固液分離ユニット7は、固液分離器70と、返送部の一例としての返送ライン71と、輸送ライン72と、を備える。
固液分離器70は、取出ライン21から取り出されたリン酸カルシウムを含む回収物を、リン酸カルシウムを含む固体成分と、液体成分とに固液分離する。固液分離器70は、取出ライン21の排出方向の下流端部に接続される。
固液分離器70は、特に制限されず、公知の固液分離器が挙げられる。固液分離器70として、具体的には、スクリュープレス、ローラープレス、ベルトスクリーン、振動ふるい、フィルタープレス、ロータリードラムスクリーン、多重円板機、遠心濃縮機などが挙げられる。このような固液分離器70のなかでは、好ましくは、ロータリードラムスクリーンが挙げられる。
なお、このような固液分離器70では、固体成分と液体成分とは完全に分離されない。液体成分には、副成分として固体が混入する場合がある。液体成分における固体の混入割合は、例えば、1質量%以下であり、液体成分における液体の含有割合は、例えば、99質量%以上である。
一方、固体成分には、液体(例えば、水など)が残存する。固体成分における液体の残存割合は、例えば、80質量%以下であり、固体成分における固体の含有割合は、例えば、20質量%以上である。
返送ライン71は、固液分離器70により分離された液体成分を、リン供給ユニット3に返送するための配管であって、本実施形態では、液体成分をリン貯留槽6に返送するための配管である。返送ライン71の返送方向の上流端部は、固液分離器70に接続される。返送ライン71の返送方向の下流端部は、リン貯留槽6に接続される。
輸送ライン72は、固液分離器70により分離された固体成分を、回収容器8に輸送するための配管である。輸送ライン72の搬送方向の上流端部は、固液分離器70に接続される。輸送ライン72の搬送方向の下流端部は、回収容器8の上方において、開口している。
回収容器8は、輸送ライン72から輸送された固体成分を収容可能である。回収容器8は、例えば、上側が開放され、下側が閉鎖される中空形状(例えば、袋形状、筒状など)を有している。回収容器8の個数は、特に制限されず、1つの回収容器8に固体成分を収容してもよく、複数の回収容器8に固体成分を分割して収容してもよい。
回収容器8は、固体成分の脱水と乾燥の観点から好ましくは、通気性を有する。回収容器8が通気性を有する場合、回収容器8は、例えば、メッシュ状に形成される。
このような回収容器8として、好ましくは、樹脂材料から形成されるフレキシブルコンテナバッグ(以下、フレコンバッグとする。)や、ネット状の袋、不織布製の袋が挙げられ、さらに好ましくは、樹脂材料からメッシュ状に形成されるフレコンバッグが挙げられる。
メッシュ状に形成されるフレコンバッグを用いる場合、隙間により通気性を確保できるので、収容する固体成分に残存する液体(例えば、水など)を効率よく蒸発させることができ、固体成分を容易に脱水・乾燥させることができる。
2.晶析槽の反応部容積
次に、晶析槽20の反応部容積について説明する。
晶析槽20の反応部容積は、晶析槽20の容積のうち上記した種晶が撹拌されて分散し収容される領域の容積である。より詳しくは、晶析槽20の反応部容積は、晶析槽20に収容される分散液の液面よりも下側の領域であり、かつ、隔壁23を晶析槽20の全体に延長したと仮定したときに、その延長した隔壁23の撹拌部材24側に区画される領域の容積である。なお、図1において、晶析槽20の反応部容積に対応する領域Cを、仮想線にて示す。言い換えれば、晶析槽20の反応部容積は、晶析槽20の全容積から、分散液の液面と上壁27との間の容積と、隔壁23に対して撹拌部材24の反対側に位置する容積を除いた容積である。また、晶析槽20が隔壁23を備えない場合、晶析槽20の反応部容積は、晶析槽20に収容される分散液の液面よりも下側の領域の容積である。
晶析槽20の反応部容積は、少なくとも下記式(1)を満たす。なお、下記式(1)は、晶析槽20の反応部容積の下限を示す。
式(1)
z≧0.15(x/y×w) (1)
(式(1)中、zは、晶析槽の反応部容積[m3]を示す。xは、リン含有液におけるリン酸態リン濃度[mg-P/L]を示す。yは、混合液における種晶濃度[g/L]を示す。wは、晶析槽に対する供給水量[m3/日]を示す。)
また、晶析槽20の反応部容積は、好ましくは、下記式(1A)を満たす。なお、下記式(1A)は、晶析槽20の反応部容積の好ましい下限を示す。
式(1A)
z≧0.21(x/y×w) (1A)
(式(1A)中、w、x、yおよびzは、上記式(1)のw、x、yおよびzと同義である。)
晶析槽20の反応部容積が上記式(1)および/または上記式(1A)を満たすと、リン酸カルシウムを十分に成長可能な滞留時間を晶析槽20において確保することができる。詳しくは、晶析槽20の反応部容積が上記式(1)を満たすと、生成するリン酸カルシウム粒子の平均粒子径を50μm以上に成長可能な滞留時間を確保でき、晶析槽20の反応部容積が上記式(1A)を満たすと、生成するリン酸カルシウム粒子の平均粒子径を70μm以上に成長可能な滞留時間を確保できる。
そのため、晶析槽20においてリン酸カルシウムを円滑に沈殿させることができ、リン酸カルシウムを効率よく回収できる。
また、晶析槽20の反応部容積は、例えば、下記式(1B)を満たす。なお、下記式(1B)は、晶析槽20の反応部容積の上限を示す。
式(1B)
z≦1.50(x/y×w) (1B)
(式(1B)中、w、x、yおよびzは、上記式(1)のw、x、yおよびzと同義である。)
さらに、晶析槽20の反応部容積は、好ましくは、下記式(1C)を満たす。なお、下記式(1C)は、晶析槽20の反応部容積の好ましい上限を示す。
式(1C)
z≦0.90(x/y×w) (1C)
(式(1C)中、w、x、yおよびzは、上記式(1)のw、x、yおよびzと同義である。)
晶析槽20の反応部容積が上記式(1B)および/または上記式(1C)を満たすと、晶析槽20の反応部容積が過度に大型化することを抑制でき、晶析槽20における滞留時間が過度に長くなることを抑制できる。なお、晶析槽20の反応部容積が上記式(1B)を満たす場合、生成するリン酸カルシウム粒子の平均粒子径が500μm以下にとなるように滞留時間を調整でき、晶析槽20の反応部容積が上記式(1C)を満たす場合、生成するリン酸カルシウム粒子の平均粒子径が300μm以下となるように滞留時間を調整できる。
そのため、リン酸カルシウムの製造効率の向上を図ることができる。
上記式(1)においてxで示されるリン酸態リン濃度は、上記したリン供給ユニット3から晶析槽20に供給されるリン含有液1Lあたりに含まれるリン酸態リンの含有割合である。
リン含有液におけるリン酸態リン濃度は、例えば、300mg-P/L以上、好ましくは、500mg-P/L以上、例えば、5000mg-P/L以下、好ましくは、2400mg-P/L以下である。なお、リン酸態リン濃度は、後述する実施例に記載の方法により測定できる(以下同様)。
上記式(1)においてyで示される種晶濃度は、晶析槽20内に収容される混合液(分散液)1Lあたりに含まれる種晶の含有割合である。
分散液における種晶濃度は、例えば、20g/L以上、好ましくは、33g/L以上、例えば、100g/L以下、好ましくは、80g/L以下である。なお、分散液における種晶濃度は、後述する実施例に記載の方法により測定できる(以下同様)。
上記式(1)においてwで示される晶析槽に対する供給水量は、晶析槽20において1日あたりに処理される水量であって、晶析槽20に供給されるリン含有液の1日あたりの供給量(後述)と、晶析槽20に供給されるカルシウム溶液の1日あたりの供給量(後述)との総量である。また、言い換えれば、リン送液ポンプ12の1日あたりの吐出量と、カルシウム送液ポンプ42の1日あたりの吐出量との総量である。
晶析槽に対する供給水量は、例えば、0.1m3/日以上、好ましくは、0.8m3/日以上、例えば、83m3/日以下、好ましくは、2.5m3/日以下である。
リン酸態リン濃度、種晶濃度および供給水量のそれぞれが上記の範囲であると、晶析槽20の反応部容積を、上記式(1)を確実に満たすように設定することができる。
3.リン回収方法
次に、本発明のリン回収方法の第1実施形態について説明する。
第1実施形態において、リン回収方法は、リン含有液を調製する工程と、リン含有液を貯留する工程と、リン含有液を晶析槽に供給する工程と、カルシウム溶液を晶析槽に供給する工程と、リン含有液およびカルシウム溶液の混合液を滞留させて、リン酸カルシウムを成長させる工程とを含む。このようなリン回収方法は、例えば、図1に示すリン回収設備1により実施される。
リン回収方法では、まず、リン含有液を調製する。
リン含有液を調製するには、例えば、リンを含有する汚水を濃縮塔50に供給して、リンを濃縮塔50の吸着剤に吸着させる。
より具体的には、第2バルブ54Bを閉鎖して第2濃縮塔50Bに対する汚水の供給を規制するとともに、第1バルブ54Aを開放して第1濃縮塔50Aに対する汚水の供給を許容する。
また、第1バルブ56Aを開放して、第1濃縮塔50Aから汚水排出ライン52への汚水の流入を許容するとともに、第1バルブ55Aを閉鎖して、第1濃縮塔50Aからリン含有液排出ライン53への汚水の流入を規制する。
これによって、汚水は、汚水供給ライン51を介して第1濃縮塔50Aに供給され、第1濃縮塔50Aの内部を塔頂部から塔底部に向かって通過する。このとき、第1濃縮塔50Aに充填される吸着剤が、汚水に含まれるリンを、リン酸イオンとして吸着する。その後、汚水は、第1濃縮塔50Aから汚水排出ライン52に排出され、図示しない汚水処理施設に送られる。
濃縮塔50に供給される汚水として、例えば、し尿や浄化槽汚泥などのし尿系やその処理工程水、下水道からの下水やその処理工程水などが挙げられる。
汚水におけるリン酸態リン濃度は、例えば、1mg-P/L以上、好ましくは、10mg-P/L以上、例えば、50mg-P/L以下、好ましくは、30mg-P/L以下である。
濃縮塔50に対する汚水の供給量は、汚水におけるリン酸態リン濃度に応じて適宜調整される。
また、濃縮塔50に対する汚水の空間速度は、例えば、3m3/m3・日-1以上、好ましくは、5m3/m3・日-1以上、例えば、20m3/m3・日-1以下、好ましくは、10m3/m3・日-1以下である。
これによって、吸着剤にリン(リン酸イオン)が十分に吸着される。
次いで、リンを吸着した吸着剤からリンを溶出させて、リン含有液を調製する。
吸着剤からリンを溶出させるには、まず、第1バルブ54Aを閉鎖して、第1濃縮塔50Aに対する汚水の供給を規制するとともに、第2バルブ54Bを開放して、第2濃縮塔50Bに対する汚水の供給を許容する。また、第2バルブ56Bを開放して、第2濃縮塔50Bから汚水排出ライン52への汚水の流入を許容するとともに、第2バルブ55Bを閉鎖して、第2濃縮塔50Bからリン含有液排出ライン53への汚水の流入を規制する。
これによって、第1濃縮塔50Aにおいてリンを溶出させるときに、第2濃縮塔50Bにおいて上記したリンの吸着を実施できる。つまり、本実施形態のリン回収設備1では、複数の濃縮塔50においてリンの吸着とリンの溶出とを適宜切り替えることができ、下水からのリンの吸着を連続的に実施できる。
次いで、第1濃縮塔50Aにアルカリ液を供給する。本実施形態では、アルカリ液として、処理水槽90に貯留される上記した処理水が再利用される。
具体的には、第2バルブ93Bを閉鎖して第2濃縮塔50Bに対する処理水の供給を規制するとともに、第1バルブ93Aを開放して第1濃縮塔50Aに対する処理水の供給を許容する。
また、第1バルブ56Aを閉鎖して、第1濃縮塔50Aから汚水排出ライン52へのリン含有液の流入を許容するとともに、第1バルブ55Aを開放して、第1濃縮塔50Aからリン含有液排出ライン53へのリン含有液の流入を許容する。
そして、返送ポンプ92を駆動して、処理水を処理水槽90から第1濃縮塔50Aに供給する。すると、処理水は、第1濃縮塔50Aの内部を塔頂部から塔底部に向かって通過する。
濃縮塔50に供給される処理水(アルカリ液)のアルカリ剤濃度は、例えば、1質量%以上、好ましくは、3質量%以上、例えば、10質量%以下、好ましくは、5質量%以下である。
より詳しくは、処理水(アルカリ液)は、例えば、アルカリ剤と、水とを含む。
アルカリ剤として、例えば、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)などが挙げられる。アルカリ剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。アルカリ剤のなかでは、好ましくは、アルカリ金属水酸化物、さらに好ましくは、水酸化ナトリウムが挙げられる。
濃縮塔50に対する処理水(アルカリ液)の空間速度は、例えば、1m3/m3・日-1以上、好ましくは、2m3/m3・日-1以上、例えば、5m3/m3・日-1以下、好ましくは、3m3/m3・日-1以下である。
また、濃縮塔50に対する処理水(アルカリ液)の供給量は、各濃縮塔50の容積に対して、例えば、1倍以上、好ましくは、2倍以上、例えば、5倍以下、好ましくは、3倍以下である。
このとき、吸着剤に吸着されたリン(リン酸イオン)が、アルカリ性の処理水に溶出して、アルカリ性のリン含有液が調製される。このようなリン含有液におけるリン酸態リン濃度の範囲は、上記の範囲である。
その後、リン含有液は、第1濃縮塔50Aからリン含有液排出ライン53に排出された後、リン含有液排出ライン53を通過してリン貯留槽6に供給される。そして、リン含有液は、リン貯留槽6において一旦貯留される。
そのため、濃縮塔50から排出されるリン含有液が、直接晶析槽20に流入することを防止でき、晶析槽20に供給されるリン含有液の供給量を後述する範囲に適宜調整することができる。
そして、リン貯留槽6に貯留されるリン含有液は、リン送液ポンプ12により、リン送液ライン11を介して晶析槽20に連続的に供給される。
晶析槽20に対するリン含有液の供給量は、例えば、0.1m3/日以上、好ましくは、0.8m3/日以上、例えば、83m3/日以下、好ましくは、2.5m3/日以下である。
これにより、リン含有液は、晶析槽20において、予め上記の種晶濃度となるように種晶が分散されている分散液(混合液)に供給される。そして、供給されたリン含有液と、晶析槽20内の分散液(混合液)とが混合されることにより、リン含有液に種晶が分散される。
また、カルシウム貯留槽40に貯留されるカルシウム溶液を、カルシウム送液ポンプ42により、カルシウム送液ライン41を介して晶析槽20に連続的に供給する。
晶析槽20に供給されるカルシウム溶液として、例えば、カルシウム化合物が水に溶解されるカルシウム水溶液などが挙げられる。
カルシウム化合物として、例えば、水酸化カルシウム、塩化カルシウムなどが挙げられ、好ましくは、塩化カルシウムが挙げられる。カルシウム化合物は、単独使用または2種以上併用することができる。
カルシウム溶液におけるカルシウム化合物の濃度は、例えば、3質量%以上、好ましくは、35質量%以上である。
晶析槽20に対するカルシウム溶液の供給量は、例えば、1.1L/日以上、好ましくは、9.1L/日以上、例えば、9.1m3/日以下、好ましくは、0.27m3/日以下である。なお、リン含有液の供給量とカルシウム溶液の供給量との総和の範囲は、上記した晶析槽に対する供給水量の範囲と同じである。
また、晶析槽20に供給されるリン原子に対する、晶析槽20に供給されるカルシウム原子のmol比(Ca/P)は、例えば、0.9以上、好ましくは、1.5以上、例えば、2.4以下、好ましくは、1.7以下である。
これによって、種晶が分散されるアルカリ性のリン含有液にカルシウム溶液が供給される。
そして、リン含有液とカルシウム溶液とは、晶析槽20における反応部(領域C)において、撹拌部材24により均一となるように撹拌混合される。そして、それらの混合液は、晶析槽20において所定時間滞留される。
晶析槽20における混合液の滞留時間は、少なくとも下記式(2)を満たす。なお、下記式(2)は、混合液の滞留時間の下限を示す。
式(2)
z≧0.15(x/y)
(式(2)中、zは、混合液の滞留時間[日]を示す。xは、リン含有液におけるリン濃度[mg-P/L]を示す。yは、混合液における種晶濃度[g/L]を示す。)
また、混合液の滞留時間は、好ましくは、下記式(2A)を満たす。なお、下記式(2A)は、混合液の滞留時間の好ましい下限を示す。
式(2A)
z≧0.21(x/y) (2A)
(式(2A)中、x、yおよびzは、上記式(2)のx、yおよびzと同義である。)
混合液の滞留時間が上記式(2)および/または上記式(2A)を満たすと、リン酸カルシウムを十分に成長させることができる。詳しくは、混合液の滞留時間が上記式(2)を満たすと、生成するリン酸カルシウム粒子の平均粒子径を50μm以上に成長させることができ、混合液の滞留時間が上記式(2A)を満たすと、生成するリン酸カルシウム粒子の平均粒子径を70μm以上に成長させることができる。
そのため、晶析槽20においてリン酸カルシウムを円滑に沈殿させることができ、リン酸カルシウムを効率よく回収できる。
また、混合液の滞留時間は、例えば、下記式(2B)を満たす。なお、下記式(2B)は、混合液の滞留時間の上限を示す。
式(2B)
z≦1.50(x/y) (2B)
(式(2B)中、x、yおよびzは、上記式(2)のx、yおよびzと同義である。)
さらに、混合液の滞留時間は、好ましくは、下記式(2C)を満たす。なお、下記式(2C)は、混合液の滞留時間の好ましい上限を示す。
式(2C)
z≦0.90(x/y) (2C)
(式(2C)中、x、yおよびzは、上記式(2)のx、yおよびzと同義である。)
混合液の滞留時間が上記式(2B)および/または上記式(2C)を満たすと、晶析槽20における滞留時間が過度に長くなることを抑制でき、リン酸カルシウムの製造効率が低下することを抑制できる。なお、混合液の滞留時間が上記式(2B)を満たす場合、生成するリン酸カルシウム粒子の平均粒子径は500μm以下であり、混合液の滞留時間が上記式(2C)を満たす場合、生成するリン酸カルシウム粒子の平均粒子径は300μm以下である。
上記式(2)においてxで示されるリン酸態リン濃度は、上記式(1)においてxで示されるリン酸態リン濃度と同義であって、上記式(2)においてxで示されるリン酸態リン濃度の範囲は、上記したリン含有液におけるリン酸態リン濃度の範囲と同じである。
上記式(2)においてyで示される種晶濃度は、上記式(1)においてyで示される種晶濃度と同義であって、上記式(2)においてyで示される種晶濃度の範囲は、上記した分散液における種晶濃度の範囲と同じである。
リン酸態リン濃度および種晶濃度のそれぞれが上記の範囲であると、晶析槽20における滞留時間を、上記式(2)を確実に満たすように確保することができる。
そして、上記式(2)においてzで示される混合液の滞留時間は、具体的には、0.45日以上、好ましくは、1.3日以上、例えば、375日以下、好ましくは、65.4日以下である。
混合液の滞留時間が上記下限以上であると、リン酸カルシウム粒子を十分に成長させることができ、混合液の滞留時間が上記上限以下であると、リン酸カルシウムの製造効率が低下することを抑制できる。
また、滞留する混合液の温度(滞留温度)は、例えば、15℃以上、好ましくは、20℃以上、例えば、50℃以下、好ましくは、40℃以下である。
これによって、リンとカルシウムとが反応して、種晶の表面にリン酸カルシウムが生成し、リン酸カルシウム粒子が成長する。
そして、十分に成長したリン酸カルシウム粒子、例えば、粒子径が300μm以上に成長したリン酸カルシウム粒子は、晶析槽20の底部に円滑に沈降する。
一方、粒子径が上記下限未満のリン酸カルシウム粒子は、円滑に沈降せずに混合液に分散された状態が維持される。そして、そのようなリン酸カルシウム粒子は、種晶として作用する。これによって、混合液における種晶の濃度は、上記した範囲に維持される。
また、沈降するリン酸カルシウム粒子の平均粒子径は、例えば、100μm以上、好ましくは、300μm以上、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下である。
沈降するリン酸カルシウム粒子は、主成分として、リン酸ヒドロキシアパタイトを含んでいる。つまり、沈降するリン酸カルシウム粒子において、リン酸ヒドロキシアパタイトが支配的であり、リン酸ヒドロキシアパタイトの含有割合は、例えば、50質量%以上である。
また、混合液は、リン酸カルシウム粒子が分離された後、晶析槽20における分離部(隔壁23の外周面と側壁26の内周面との間の領域)において、撹拌部材24による撹拌の影響を受けずに穏やかに上向きに流れる。そして、分離部を通過した混合液は、処理液として、排出ライン25を介して、晶析槽20から処理水槽90に排出される。処理液は、上記したように、濃縮ユニット5に供給されるまで、処理水槽90に貯留される。
なお、処理液のアルカリ剤濃度が上記したアルカリ剤濃度の範囲未満である場合、処理水槽90において、処理液に上記したアルカリ剤を添加して、処理液のアルカリ剤濃度を調整する。
次いで、沈降したリン酸カルシウム粒子を晶析槽20から取り出す。
リン酸カルシウム粒子を取り出すには、バルブ22を開放して、沈降したリン酸カルシウム粒子を混合液とともに回収物として、取出ライン21から回収する。
これによって、リン酸カルシウム粒子と液体成分(混合液)とを含む回収物が回収される。
次いで、回収物は、取出ライン21を介して固液分離器70に搬送され、リン酸カルシウム粒子を含む固体成分と、液体成分とに固液分離される。このとき、固体成分は、必要に応じて、水により洗浄される。
そして、固液分離器70により分離された液体成分と、必要に応じて固体成分の洗浄に用いられた水とは、返送ライン71を介して、リン貯留槽6に返送される。
また、固液分離器70により分離された固体成分は、輸送ライン72により回収容器8に輸送されて、回収容器8に収容される。
その後、リン酸カルシウム粒子を含む固体成分は、必要に応じて、回収容器8に収容された状態で、自然乾燥される。
これによって、固体成分の含水率(固体成分における水の含有割合)は、例えば、50質量%以下、好ましくは、30質量%以下、例えば、0質量%以上に調整される。
このような固体成分は、主成分としてリン酸カルシウム粒子を含み、より具体的には、リン酸カルシウム粒子と水とからなり、それ以上乾燥させることなく、リン資源として再利用可能である。
以上によって、リン資源として再利用可能なリン酸カルシウムが製造される。
4.作用効果
本実施形態によれば、晶析槽20の反応部容積が上記式(1)を満たすので、図1に示すように、所定のリン酸態リン濃度を有するリン含有液とカルシウム溶液とを、所定の供給水量となるように晶析槽20に供給することにより、晶析槽20においてリン含有液およびカルシウム溶液の混合液の滞留時間を十分に確保することができる。
そのため、混合液に分散される種晶の表面にリン酸カルシウムを十分に成長させることができ、生成するリン酸カルシウム粒子の粒子径の向上を図ることができる。その結果、生成するリン酸カルシウム粒子がフロックを形成することを抑制でき、混合液においてリン酸カルシウムを円滑に沈降させることができる。これによって、リン酸カルシウム粒子を混合液から円滑に取り出すことができる。
そして、リン酸カルシウム粒子の粒子径が向上されているので、回収後のリン酸カルシウム粒子を容易に脱水させることができる。そのため、リン回収設備1の構成の簡略化を図ることができながら、再利用可能なリン酸カルシウムを効率よく回収できる。
また、リン供給ユニット3は、リンを吸着可能な吸着剤を含み、吸着剤に吸着されたリンを溶出して、リン含有液を調製する濃縮塔50と、リン含有液を貯留可能なリン貯留槽6と、を備える。
そして、濃縮塔50において調製されたリン含有液は、リン貯留槽6において一旦貯留された後、晶析槽20に供給される。そのため、晶析槽20に対するリン含有液の供給量を適宜調整でき、ひいては、リン回収設備1の処理水量を適宜調整することができる。
その結果、濃縮されたリン含有液が直接晶析槽20に供給される場合と比較して、晶析槽20の反応部容積の低減を図ることができるとともに、生成するリン酸カルシウム粒子の粒子径の向上を確実に図ることができる。
また、晶析槽20の底部には、リン酸カルシウム粒子を取り出すための取出ライン21が設けられている。そのため、晶析槽20の底部に沈降したリン酸カルシウム粒子を、より一層効率よく晶析槽20から取り出すことができる。
また、リン回収設備1は、取出ライン21から取り出されたリン酸カルシウムを含む回収物を固液分離する固液分離器70と、固液分離器70により分離された液体成分を、リン貯留槽6に返送する返送ライン71と、を備える。
そのため、固液分離器70が、晶析槽20からの回収物を、固体成分と液体成分とに分離するので、分離後の固体成分をより円滑に脱水させることができ、ひいては、リン酸カルシウムをより一層効率よく回収できる。
また、返送ライン71が、固液分離器70により分離された液体成分を、リン貯留槽6に返送する。そのため、液体成分中に残存するリンやカルシウムを有効に利用でき、リン酸カルシウムの生成効率が低下することを抑制できる。
また、晶析槽20における、リン含有液およびカルシウム溶液の混合液の滞留時間は、上記式(2)を満たす。
そのため、混合液に分散される種晶の表面にリン酸カルシウムを十分に成長させることができ、生成するリン酸カルシウム粒子の粒子径の向上を図ることができる。そのため、リン酸カルシウム粒子を混合液から円滑に取り出すことができる。また、回収後のリン酸カルシウムを容易に脱水させることができ、リン回収設備の構成の簡略化を図ることができながら、リン酸カルシウムを効率よく回収できる。
また、混合液の滞留時間、リン含有液におけるリン酸態リン濃度および混合液における種晶濃度のそれぞれは、上記範囲である。そのため、生成するリン酸カルシウム粒子の粒子径の向上を確実に図ることができる。
5.第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
第1実施形態では、図1に示すように、リン供給ユニット3が濃縮ユニット5を備えるが、リン供給ユニット3の構成はこれに限定されない。
第2実施形態では、リン供給ユニット3は、濃縮ユニット5を備えない。具体的には、リン供給ユニット3は、汚水供給ライン51と、リン貯留槽6と、リン送液ユニット10とを備える。
第2実施形態では、汚水供給ライン51は、リン貯留槽6に上記した汚水を供給するための配管である。汚水供給ライン51の供給方向の下流端部は、リン貯留槽6に接続される。また、返送ユニット9の還流ライン91の還流方向下流端部は、リン貯留槽6に接続される。
このような第2実施形態では、汚水供給ライン51から供給される汚水と、還流ライン91から返送される処理水とが、リン貯留槽6において混合されることにより、アルカリ性のリン含有液が調製される。
そして、リン含有液は、リン貯留槽6において一旦貯留された後、第1実施形態と同様に、晶析槽20に連続的に供給される。
その後、第1実施形態と同様にして、晶析槽20において、リン含有液とカルシウム溶液とが混合された後、それらの混合液が、晶析槽20において上記の滞留温度において、上記の滞留時間滞留される。
これによって、晶析槽20において、リン酸カルシウム粒子を円滑に沈殿させることができる。そのため、このような第2実施形態においても、上記した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、リン供給ユニット3は、濃縮ユニット5およびリン貯留槽6を備えなくてもよい。この場合、リン供給ユニット3は、リン送液ユニット10のみから構成される。
そして、リン送液ユニット10において、リン送液ライン11の送液方向の上流端部は、図示しないが、上記した汚水が貯留される汚水貯留部に接続される。この場合、還流ライン91の還流方向下流端部は、リン送液ポンプ12に対して上流側において、リン送液ライン11に接続される。
そして、汚水貯留部から供給される汚水と、還流ライン91から返送される処理水とが、リン送液ライン11内において混合されることにより、アルカリ性のリン含有液が調製される。そして、リン含有液は、一旦貯留されることなく、第1実施形態と同様に、晶析槽20に連続的に供給される。
このような変形例によっても、上記した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
6.第3実施形態
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
上記した第1実施形態および第2実施形態では、濃縮ユニット5およびリン貯留槽6は、任意構成である一方、第3実施形態では、リン回収設備1は、必須構成として濃縮ユニット5およびリン貯留槽6を備える。
つまり、第3実施形態に係るリン回収設備は、図1に示すように、必須構成として、リンを吸着可能な吸着剤を含み、吸着剤に吸着されたリンを溶出して、リン含有液を調製する濃縮塔50と、リン含有液を貯留可能なリン貯留槽6と、リン貯留槽6からリン含有液が供給され、リン酸カルシウムを生成するための晶析槽20と、カルシウム溶液を晶析槽20に供給するカルシウム供給ユニット4とを備える。
このような構成によれば、濃縮塔50において調製されたリン含有液は、リン貯留槽6において一旦貯留された後、晶析槽20に供給される。
そのため、濃縮塔50において調製されるリン含有液が、直接晶析槽20に流入する場合と比較して、晶析槽20に対するリン含有液の供給量を適宜調整することができる。
その結果、晶析槽20の反応部容積が上記式(1)を満たすか否かに関わらず、晶析槽20の反応部容積に応じて、晶析槽20に対するリン含有液の供給量を好適な範囲に調整できる。
これによっても、晶析槽20において、種晶の表面にリン酸カルシウムを十分に成長させることができ、生成するリン酸カルシウム粒子の粒子径の向上を図ることができる。
また、回収後のリン酸カルシウムを容易に脱水させることができ、リン回収設備の構成の簡略化を図ることができながら、リン酸カルシウムを効率よく回収できる。
また、第3実施形態に係るリン回収方法は、必須工程として、リンを吸着および溶出する工程と、リン含有液を貯留する工程とを含む。
つまり、第3実施形態に係るリン回収方法は、必須工程として、リンを吸着した吸着剤からリンを溶出させて、アルカリ性のリン含有液を調製する工程と、リン含有液を貯留する工程と、リン含有液を種晶が分散する分散液に供給して、種晶が分散されるリン含有液を調製する工程と、種晶が分散されるリン含有液にカルシウム溶液を供給する工程と、リン含有液およびカルシウム溶液の混合液を滞留させて、リン酸カルシウムを成長させる工程とを含む。
このような方法によれば、リン含有液は、一旦貯留された後、種晶が分散する分散液に供給される。そして、種晶が分散されるリン含有液に、カルシウム溶液が供給される。
そのため、濃縮塔50において調製されるリン含有液が、直接晶析槽20に供給される場合と比較して、分散液に対するリン含有液の供給量を適宜調整できる。その結果、晶析槽20の反応部容積に応じて、晶析槽20に対するリン含有液の供給量を好適な範囲に調整できる。これによれば、混合液の滞留時間が上記式(2)を満たすか否かに関わらず、種晶の表面にリン酸カルシウムを十分に成長させることができ、生成するリン酸カルシウム粒子の粒子径の向上を図ることができる。
よって、このような第3実施形態によっても、上記した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
7.変形例
上記した第1実施形態~第3実施形態では、リン回収設備1が返送ユニット9を備え、返送ユニット9がアルカリ性の処理水をリン供給ユニット3に返送して、処理水を再利用しているが、本発明はこれに限定されない。
例えば、リン回収設備1は、返送ユニット9を備えなくてもよい。この場合、リン含有液には、別途調製されたアルカリ液が添加されて、リン含有液がアルカリ性となるように調整される。一方、ランニングコストの観点から、上記した第1実施形態~第3実施形態がより好ましい。
また、上記した第1実施形態~第3実施形態では、固液分離器70により分離された液体成分が、リン貯留槽6に返送されているが、本発明はこれに限定されない。
固液分離器70により分離された液体成分は、リン供給ユニット3におけるいずれの部分に返送されてもよく、図1に仮想線で示すように晶析槽20に返送されてもよい。
また、上記した第1実施形態~第3実施形態では、リン回収設備1が固液分離ユニット7を備えているが、本発明はこれに限定されない。
例えば、取出ライン21から取り出されるリン酸カルシウム粒子を含む回収物は、直接回収容器8に収容されてもよい。一方、リン酸カルシウムの乾燥時間低減の観点から、上記した第1実施形態~第3実施形態がより好ましい。
また、上記した第1実施形態および第3実施形態では、リン供給ユニット3が、複数の濃縮塔50を含んでいるが、濃縮塔50の個数はこれに限定されず、濃縮塔50は、1つであってもよく、3つであってもよい。一方、リンの吸着および溶出の連続運転の観点から、上記した第1実施形態および第3実施形態に示すように、濃縮塔50は2つ以上であることがより好ましい。
また、濃縮塔50は、処理液の返送によりリン含有液を排出後、汚水を通水する前に、濃縮塔内に残留する処理液を排出し、濃縮塔内を洗浄中和するための洗浄・中和手段を備えていることが好ましい。
また、リン回収設備1は、濃縮塔50の洗浄排水あるいは返送ライン71からの返送液を、系内のアルカリ剤やカルシウム、その他不純物の濃度に応じて、適量引き抜ける機能を備えていることが好ましい。
これら変形例によっても、上記の第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「未満」として定義されている数値)に代替することができる。
以下において記載される物性値は、以下の通り測定した。
<リン酸態リン濃度(PO4-P)>
JIS K 0102:2013 46.1.1 モリブデン青吸光光度法に準拠して測定した。
<平均粒子径>
JIS Z 8825:2013 粒子径解析-レーザー回折・散乱法に準拠して測定した。
<種晶濃度>
JIS K 0102:2013 14.1懸濁物質に準拠して測定した。
実施例1~5および比較例1
晶析槽に、反応部容積が0.015m3となるように、リン酸態リン濃度が2400mg-P/Lであり、水酸化ナトリウム濃度が5質量%であるリン含有液を収容した。
次いで、晶析槽内のリン含有液に、リン酸ヒドロキシアパタイトから形成される種晶を、表1に示す種晶濃度となるように添加して混合した。なお、種晶の平均粒子径を表1に示す。
これによって、リン含有液に種晶が分散された。
次いで、晶析槽に、上記したリン含有液(リン酸態リン濃度:2400mg-P/L、水酸化ナトリウム濃度:5質量%)と、濃度が3.5質量%である塩化カルシウム水溶液(カルシウム溶液)とを、表1に示す供給水量となるように連続的に供給した。
なお、リン含有液の供給量と、塩化カルシウム水溶液の供給量との総和が供給水量である。
これによって、晶析槽において、リン含有液および塩化カルシウム水溶液が混合され、それらの混合液を表1に示す滞留日数滞留させた。なお、混合液の滞留において、混合液の温度は、25℃に維持された。また、滞留する混合液における種晶濃度が、表1に示す値に維持されていることを上記の方法により確認した。
また、滞留後の混合液は、処理水として、晶析槽から連続的に排出された。
このような混合液の滞留において、リンとカルシウムとが反応して、種晶の表面にリン酸カルシウムが生成し、リン酸カルシウム粒子が成長した。そして、成長したリン酸カルシウム粒子が、晶析槽の底部に沈降した。
その後、沈降したリン酸カルシウム粒子を回収して、平均粒子径を測定して結晶の成長性を下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
○:沈降したリン酸カルシウム粒子の平均粒径は種晶の平均粒子径よりも大きい。
×:沈降したリン酸カルシウム粒子の平均粒径は種晶の平均粒子径以下である。
また、リン酸態リン濃度/種晶濃度×供給水量を横軸とし、晶析槽の反応部容積を縦軸として、各実施例および比較例の値をプロットした。その結果を図2に示す。
また、リン酸態リン濃度/種晶濃度を横軸とし、滞留時間を縦軸として、各実施例および比較例の値をプロットした。その結果を図3に示す。
また、実施例1において回収されたリン酸カルシウム粒子の顕微鏡写真を図4に示し、比較例1において回収されたリン酸カルシウム粒子の顕微鏡写真を図5に示す。
<考察>
実施例1~実施例5では、晶析槽の反応部容積が式(1)を満たし、かつ、滞留時間が式(2)を満たしており、沈降したリン酸カルシウム粒子の平均粒径が種晶の平均粒径よりも大きくなっていることを確認できた(リン酸カルシウム成長性○)。
一方、比較例1では、晶析槽の反応部容積が式(1)未満であり、かつ、滞留時間が式(2)未満であるため、リン酸カルシウム粒子の十分な成長が確認できなかった(リン酸カルシウム成長性×)。
この点、比較例1のリン酸カルシウム粒子の顕微鏡写真(図5)と、実施例1のリン酸カルシウム粒子の顕微鏡写真(図4)とからも確認できた。図5の拡大倍率は700倍であり、図5では、粒径が80μm程度のリン酸カルシウム粒子とともに、微細なリン酸カルシウム粉末が大量に確認される。一方、図4の拡大倍率は300倍であり、図4では、粒径が100μm程度のリン酸カルシウム粒子が確認され、微細なリン酸カルシウム粉末は確認されない。