まず、実施形態の制動装置の概要から説明する。実施形態の制動装置は、回転体の回転速度が大きくなるほど、導電性部材と磁石の対向方向での間隔が小さくなるように、その間隔を調整可能な間隔調整機構を備える。ここでの「対向方向」とは、回転体の回転軸方向又は径方向で導電性部材及び磁石が対向して設けられる方向をいう。
図1は、回転体の回転速度と制動力の関係を示すグラフである。本グラフでは、特許文献1に記載の制動装置により得られる制動力Fxと、実施形態の制動装置により得られる制動力Fyの一例を示す。特許文献1の制動装置では、回転体の回転速度の増大に伴い一次関数的に制動力が増加する。一方、実施形態の制動装置では、回転体の回転速度の増大に伴い加速度的に制動力が増加する。これらの理由を説明する。
ここでは、説明を簡単にするため、導電性部材と磁石が回転軸方向に対向して配置され、回転体と一体的に導電性部材が回転することで、導電性部材と磁石の周方向での相対位置が変化する場合を例に説明する。これは、後述する図2の例を想定している。
磁石に対して導電性部材が相対回転したとき、磁石が作る磁場の影響を受けて、電磁誘導により導電性部材に渦電流が生じ、その渦電流により導電性部材に磁極が生じる。この渦電流により生じる導電性部材の磁極と磁石の磁極の間には、磁荷に関するクーロンの法則に基づき、下記の式(1)で表されるクーロン力F1[N]が磁気力として作用する。このクーロン力F1は、回転体の回転方向とは反対方向に向かう制動力として導電性部材に作用する。なお、k1は係数、m1は導電性部材に生じる磁極の磁荷[Wb]、m2は磁石の磁荷[Wb]、rは導電性部材と磁石の間の対向方向(回転軸方向)での間隔[m]である。
F1=(k1×m1×m2)/r2・・・(1)
また、導電性部材に生じる渦電流には、電磁誘導によって、次の式(2)で表されるローレンツ力F2[N]が作用する。このローレンツ力F2は、回転体の回転方向とは反対方向に向かう制動力として導電性部材に付与される。なお、qは渦電流の電荷量[C]、vは導電性部材の運動速度[m/s]、Bは磁石が作る磁場の対向方向での磁束密度[Wb/m2]である。
F2=q×v×B ・・・ (2)
磁石に対して導電性部材が回転したとき、導電性部材には前述のクーロン力F1とローレンツ力F2の合力Faが作用する。一方、磁石には、作用反作用の法則により、この合力Faとは逆向きに大きさの等しい力Fb(以下、反作用力Fbという)が作用する。かりに、導電性部材ではなく磁石が回転したときも同様である。この合力Fa又は反作用力Fbの何れかは、導電性部材及び磁石の何れかと一体的に回転する回転体に制動力として作用する。
ここで、磁荷に関するクーロンの法則から、磁石が作る磁場の磁束密度Bは、前述の間隔rの二乗に反比例した関係にあることが知られている。このことと、式(2)から、次の式(3)が導き出せる。式(3)のk3は係数である。式(1)と式(3)に示すように、クーロン力F1とローレンツ力F2の何れも、導電性部材と磁石の間の対向方向での間隔rの二乗に反比例した関係にある。
F2=(k3×v)/r2 ・・・ (3)
ここで、特許文献1の制動装置では、導電性部材と磁石の間の対向方向での間隔rが変動しない。このため、導電性部材には、式(1)に示すように、一定のクーロン力F1の他に、式(3)に示すように、回転体の回転速度の増大に伴い一次関数的に増大するローレンツ力F2が付与される。この結果、図1の制動力Fxが得られる。
(A)一方、実施形態の制動装置では、回転体の回転速度が大きくなるほど、導電性部材と磁石の間の対向方向での間隔rが小さくなる。このため、式(1)、(3)に示すように、回転体の回転速度の増大に伴い間隔rが小さくなるほど、クーロン力F1、ローレンツ力F2が加速度的に増大し、その合力Faや反作用力Fbを用いた制動力Fyも同様に加速度的に増大する。この結果、図1の制動力Fyが得られる。よって、図1に示すように、回転体の回転速度の増大に伴い一次関数的に制動力が増大する従来の制動装置と比べて、回転体の高速回転時には十分な制動力を得つつ、その低速回転時に付与される制動力を小さくし易くなる。
なお、実施形態の制動装置では、導電性部材と磁石の間の対向方向での間隔rが変化するのみであり、回転軸方向又は径方向のうちの対向方向とは異なる方向での導電性部材と磁石の位置関係は変化しない。たとえば、図2の例のように、対向方向が回転軸方向となる場合、導電性部材と磁石の径方向での位置関係は変化しないということである。このように対向方向とは異なる方向での位置関係が変化してしまうと、磁石の磁束が通らない箇所が導電性部材に生じる可能性がある。この場合、導電性部材の一部でしか渦電流に起因する制動力を発揮できず、導電性部材を用いて十分な制動力を得られなくなる。この点、実施形態の制動装置では、この対向方向とは異なる方向での位置関係が変化しない。よって、磁石の磁束が導電性部材の広範囲を通るように容易に設計でき、導電性部材を用いて十分な制動力を得やすくなる。
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。
(第1の実施の形態)
図2は、第1実施形態の制動装置10を模式的に示す断面図である。制動装置10は、主に、固定体12と、回転体14と、導電性部材16と、磁石18と、間隔調整機構20と、姿勢保持機構22と、ヨーク24とを備える。
固定体12は、不図示の外部構造体に固定される。本実施形態の固定体12は、制動装置10の他の構成部品を収容するハウジングとなる。本実施形態の固定体12は、筒状部12aと、筒状部12aの軸線方向の両端部を覆い塞ぐ端板部12bと、筒状部12aから径方向内側に突き出る保持部12cとを有する。
回転体14は、固定体12に対して回転中心線La周りに回転可能に設けられる。本実施形態の回転体14は、固定体12の端板部12bに軸受26を介して回転自在に支持される回転軸となる。軸受26は、転がり軸受、滑り軸受等である。本明細書では、回転体14の回転中心線Laに沿った方向を「回転軸方向X」、その回転中心線Laを中心とする円の半径方向、円周方向を「径方向」、「周方向」として説明する。
本実施形態の導電性部材16及び磁石18は、回転軸方向Xに対向して配置される。以下、導電性部材16及び磁石18が対向する方向(本例では回転軸方向X)を対向方向ということもある。導電性部材16及び磁石18の一方(以下、回転要素という)は回転体14と一体的に回転可能に設けられ、他方(以下、固定要素という)は固定体12に設けられる。本実施形態では導電性部材16が回転要素として設けられ、磁石18が固定要素として設けられる。これにより、導電性部材16及び磁石18は、回転体14の回転に連動して周方向での相対位置が変化する。これに伴い、磁石18が作る磁界に対して導電性部材16が相対回転することで導電性部材16に電磁誘導により渦電流が生じ、その渦電流に起因する制動力が回転体14に付与される。ここでの制動力の成分には、回転要素が導電性部材16の場合には前述の合力Faが含まれ、回転要素が磁石18の場合には反作用力Fbが含まれる。
本実施形態の磁石18は、フェライト磁石、ネオジム磁石等の永久磁石である。固定要素となる磁石18は、本実施形態において、固定体12の保持部12cに一体化されている。本明細書での「一体化」とは、言及している二つの要素が方向を問わず一体的に移動可能であることを意味し、その二つの要素が同じ部材の一部であるか否かは問わない。
本実施形態の磁石18の磁化方向は、前述の対向方向(回転軸方向X)に沿った方向となる。本実施形態の磁石18は、全体として環形の板状をなし、その板厚方向が磁化方向と同方向となる。磁石18の対向方向Xの片面はN極又はS極の何れかの極性が現われる磁極面18aとなる。
導電性部材16は、導電性を持つ素材であって、好ましくは非磁性体の素材である。非磁性体であれば磁石18との間で磁気的吸引力が作用せず、その吸引力に起因する位置ずれを避けられる。このような素材として、たとえば、アルミニウム、銅等が用いられる。
導電性部材16は、磁石18の磁極面18aと対向方向Xに対向する磁極対向面16aを有する。本実施形態の導電性部材16は、全体として環形の板状をなし、その板厚方向が磁石18の磁化方向と同方向である。
間隔調整機構20は、主に、可動部材28と、保持部材30と、リンク機構32と、第1付勢部材34と、第1ストッパ36及び第2ストッパ38と、を有する。
可動部材28は、回転体14と一体的に回転可能に設けられ、かつ、回転体14に対して径方向に移動可能に設けられる。これを実現するため、可動部材28は、リンク機構32を介して回転体14に連結される。より詳しくは、本実施形態の可動部材28は、リンク機構32を構成する複数のリンク40、42の接点となる連結軸44に取り付けられる。
可動部材28は、回転体14と一体的に回転したときに遠心力Fcを受けて径方向外側に移動可能である。この遠心力Fcは、可動部材28の回転速度と質量に正の相関関係がある。可動部材28は、回転体14の回転速度として予め想定される範囲にあるとき、その遠心力Fcを受けて径方向外側に移動可能となるように十分な質量を持つ。本実施形態の可動部材28とリンク機構32の組み合わせは周方向に等角度間隔を置いた箇所に位置するように複数設けられる。
保持部材30は、回転体14と一体的に回転可能に設けられ、かつ、回転体14に対して回転軸方向Xに移動可能に設けられる。これを実現するため、保持部材30は、リンク機構32を介して回転体14に連結される。本実施形態の保持部材30は筒状部材であり、その回転軸方向Xの一端側部分に前述の回転要素となる導電性部材16が一体化される。
リンク機構32は、可動部材28の径方向での動きを保持部材30の回転軸方向Xでの動きに変換可能である。リンク機構32は、第1リンク40と第2リンク42を有する二節リンク機構である。第1リンク40の一端部40aは、回転体14から径方向外側に張り出す第1張出部14aに連結軸周りに回転可能に連結される。第1リンク40の他端部と第2リンク42の一端部は、連結軸44周りに回転可能に連結される。第2リンク42の他端部42aは、保持部材30の回転軸方向Xの他端側部分に連結軸周りに回転可能に連結される。
第2リンク42の他端部42aは、後述する姿勢保持機構22を用いて、可動部材28に対して回転軸方向の一方側(図2中の右側)にて回転体14に対して回転軸方向Xに相対移動可能に設けられる。また、第1リンク40の一端部40aは、可動部材28に対して回転軸方向の他方側(図2中の左側)にて回転体14に対して回転軸方向Xに相対移動不能に設けられる。本実施形態の導電性部材16及び磁石18は、このような可動部材28に対して回転軸方向Xの一方側に配置される。
図3は、第1実施形態の制動装置10の動作状態を模式的に示す断面図である。図2、図3に示すように、回転体14に対して回転軸方向の他方側(図中の左側)に第2リンク42の他端部42aが移動すると、その動きに連動して、回転要素となる導電性部材16が保持部材30とともに回転軸方向Xで磁石18に接近する接近方向X1に移動する。回転体14に対して回転軸方向の一方側(図中の右側)に第2リンク42の他端部42aが移動すると、その動きに連動して、導電性部材16が保持部材30とともに接近方向X1とは回転軸方向Xの反対側の反接近方向X2に移動する。
図2に戻り、第1付勢部材34は、たとえば、コイルスプリング等の弾性体である。第1付勢部材34は、前述の反接近方向X2に保持部材30を付勢する。本実施形態の第1付勢部材34は、回転体14の第1張出部14aと保持部材30の回転軸方向Xの端部の間に介装される。第1付勢部材34は、固定要素となる磁石18に対して接近方向X1にずれた位置であって、磁石18とは回転軸方向Xに重ならない位置に配置される。
第1ストッパ36及び第2ストッパ38は、回転要素となる導電性部材16の対向方向(回転軸方向X)での可動範囲を定める。本実施形態の第1ストッパ36は、保持部材30と一体化されたヨーク24と当たることにより、可動範囲の一端側にある最遠位置に導電性部材16を保持する(図2参照)。本実施形態の第2ストッパ38は、保持部材30と当たることにより、可動範囲の他端側にある最近位置に導電性部材16を保持する(図3参照)。最遠位置は、導電性部材16と磁石18の対向方向Xでの間隔Lgが最も遠くなる位置である。最近位置は、導電性部材16と磁石18の対向方向Xでの間隔Lgが最も近くなる位置である。
図4は、磁石18が作る磁場の磁束線の一部を示す図である。図4(a)は、保持部材30が最遠位置にあるときの状態を示し、図4(b)は、保持部材30が最近位置にあるときの状態を示す。
(B)導電性部材16が最遠位置にあるとき、図4(a)に示すように、導電性部材16には磁石18の磁界が実質的に作用しない。ここでの「実質的に作用しない」とは、磁石18の磁界が導電性部材16に全く作用しない、又は、磁石18の磁界が導電性部材16に作用しても回転体14に渦電流に起因する制動力が付与されない程度に僅かな磁界であることをいう。これにより、回転体14の回転速度が小さいときは回転体14に渦電流に起因する制動力を付与されなくなる。この結果、制動装置10による制動対象物を低速で動かすとき、渦電流に起因する制動力を受けずに制動対象物を容易に動かせる。
図5は、図2のA-A線断面図である。姿勢保持機構22は、図2、図5に示すように、保持部材30が回転軸方向Xに動いたときに、固定要素となる磁石18に対する保持部材30の姿勢を保持するためのものである。姿勢保持機構22は、第1ガイド部材46と、第1ガイド部材46によりガイドされる第1被ガイド部48とを有する。第1ガイド部材46は、回転体14が貫通して配置される筒状部材であり、回転体14と一体化される。第1ガイド部材46の内側には、回転体14の他に可動部材28やリンク機構32が配置される。第1ガイド部材46の内周面には回転軸方向に延びるキー溝となる第1ガイド部50が形成される。なお、第1ガイド部材46には、可動部材28に対応する位置に、可動部材28の径方向での動きを許容するための開口部46aが形成される。
第1被ガイド部48は、保持部材30の外周面に形成されるとともに回転軸方向Xに延びる突条である。第1被ガイド部48はキー溝となる第1ガイド部50に嵌め込まれるキーとしての役割を持つ。
保持部材30が回転軸方向Xに動いたとき、第1ガイド部材46の第1ガイド部50に沿って保持部材30の第1被ガイド部48がスライドすることで、保持部材30の動きがガイドされる。これにより、保持部材30の回転軸方向Xでの動きの前後で磁石18に対する保持部材30の姿勢が保持される。ここでの「姿勢が保持」されるとは、磁石18に対する保持部材30の向きが保持されることをいう。この「姿勢が保持」されるとは、保持部材30と一体化されている回転要素が固定要素に対して対向方向Xに向いている面(本例では磁極対向面16a)の回転中心線Laに対する角度が保持されることと同義である。これにより、保持部材30の姿勢の変動に起因する制動力の変化を防止できる。
図2を参照する。ヨーク24は、導電性部材16を間に挟んで磁石18とは対向方向(回転軸方向X)の反対側に配置される。ヨーク24は、純鉄等の軟磁性材料を用いて構成される。本実施形態のヨーク24は、円板状等の板状をなす。本実施形態のヨーク24は、対向方向(回転軸方向X)から見て、磁石18の全体と重なる寸法を持つ。本実施形態のヨーク24は、導電性部材16に対して接着、かしめ等により一体化される。
図4(b)に示すように、ヨーク24は、磁石18から生じた磁束が導電性部材16を対向方向(回転軸方向X)に沿って通るように誘導するためのものである。これにより、導電性部材16を通る対向方向(回転軸方向X)成分での磁束密度Bを増大できる。この結果、導電性部材16に生じるローレンツ力F2を大きくでき、それに伴い前述の合力Faや反作用力Fbも大きくでき、渦電流に起因して回転体14に付与される制動力を増大できる。
以上の制動装置10の動作を説明する。図2、図3を参照する。回転体14が回転していない静止状態にあるとき、第1付勢部材34の付勢力により、保持部材30は可動範囲の最遠位置に保持される。回転体14と一体的に可動部材28が回転すると、可動部材28には回転速度に応じた大きさの遠心力Fcが付与される。可動部材28の遠心力Fcは、リンク機構32により保持部材30に付与される接近方向X1に向かう力に変換される。この力が第1付勢部材34の付勢力を上回ると、リンク機構32は、図3に示すように、二つのリンク40、42がなす角度が小さくなるように移動し、導電性部材16とともに保持部材30を接近方向X1に移動させる。このとき、可動部材28や保持部材30は第1付勢部材34の付勢力に抗して移動する。
可動部材28の回転速度が大きくなるほど可動部材28が受ける遠心力Fcが大きくなり、可動部材28の径方向外側への移動量や、保持部材30の接近方向X1での移動量が大きくなる。保持部材30の接近方向X1での移動量が大きくなるほど、導電性部材16と磁石18の対向方向での間隔Lgが小さくなる。保持部材30が可動範囲の中で最遠位置から最近位置に近づく途中で導電性部材16には磁石18の磁界が作用する。磁石18の磁界が導電性部材16に作用すると、渦電流に起因する制動力が回転体14に付与される。この制動力は、前述の通り、回転体14の回転速度が大きくなり、それに伴い導電性部材16と磁石18の間隔Lgが狭まるほど大きくなる。
可動部材28の回転速度が小さくなると、可動部材28が受ける遠心力Fcが小さくなる。これに伴い、第1付勢部材34の付勢力によって、リンク機構32は二つのリンク40、42がなす角度が大きくなるように移動する。これにより、リンク機構32は、導電性部材16とともに保持部材30を反接近方向X2に移動させるとともに、可動部材28を径方向内側に移動させる。
このように、間隔調整機構20は、回転体14の回転速度が大きくなるほど、導電性部材16と磁石18の対向方向(回転軸方向X)での間隔が小さくなるように、その間隔を調整可能に構成される。このとき、間隔調整機構20は、回転軸方向Xと径方向のうちの対向方向とは異なる方向(本例では径方向)での導電性部材16と磁石18の相対位置を保持しつつ、その対向方向での間隔を保持可能である。また、このとき、間隔調整機構20は、回転体14の回転速度の増大に伴い線形的に間隔rを小さくしてもよいし、非線形的に間隔rを小さくしてもよい。
また、間隔調整機構20は、可動部材28の径方向外側への移動に連動して、回転要素となる導電性部材16とともに保持部材30を接近方向X1に移動可能に構成される。また、リンク機構32は、可動部材28の径方向での動きを保持部材30の回転軸方向Xでの動きに変換可能である。詳しくは、可動部材28の径方向外側への動きを保持部材30の接近方向X1での動きに変換し、可動部材28の径方向内側への動きを保持部材30の反接近方向X2での動きに変換する。
以上の制動装置10の効果を説明する。
(C)導電性部材16と磁石18は回転軸方向Xに対向して配置される。よって、導電性部材16と磁石18の間の間隔Lgを調整するにあたり、導電性部材16と磁石18を径方向に相対移動させるための空間を確保せずともよくなる。これにより、制動装置10の径方向寸法の小型化を図れる。
(D)間隔調整機構20は、可動部材28の径方向での動きを保持部材30の回転軸方向Xでの動きに変換可能なリンク機構32を有する。よって、可動部材28が径方向に動いたとき、可動部材28と保持部材30の直接の接触を伴うことなく、保持部材30を回転軸方向Xに動かせるようになる。これに伴い、後述する図8の例と比べ、可動部材28と保持部材30の接触による摩擦抵抗の影響を排除でき、可動部材28や保持部材30をスムーズに動作させ易くなる。
(E)第1付勢部材34は、固定要素となる磁石18に対して接近方向X1にずれた位置に配置される。かりに、後述する図14の例のように、導電性部材16と磁石18の間の回転軸方向Xでの範囲に第1付勢部材34を配置する場合を考える。この場合、保持部材30を接近方向X1に動かすときに、第1付勢部材34が邪魔となり、導電性部材16と磁石18の間隔Lgを小さくし難くなる。この点、本実施形態によれば、導電性部材16と磁石18の間の回転軸方向Xでの範囲とは別の箇所に第1付勢部材34が配置される。よって、保持部材30を接近方向X1に動かすときに第1付勢部材34が邪魔となり難く、導電性部材16と磁石18の間隔Lgを小さくし易くなり、渦電流に起因して回転体14に付与される制動力を増大できる。
(第2の実施の形態)
図6は、第2実施形態の制動装置10を示す断面図である。本実施形態の制動装置10は、図2の例と比べて、導電性部材16、磁石18、保持部材30の位置、リンク機構32の詳細が相違する。また、本実施形態の制動装置10は、図2の例の姿勢保持機構22を備えていない。
導電性部材16及び磁石18は、図2の例とは異なり、可動部材28に対して回転軸方向Xの他方側(図6中の左側)に配置される。磁石18は、固定体12の保持部12cではなく、固定体12の端板部12bに一体化されている。本実施形態の保持部材30は、導電性部材16と同じ部材の一部として設けられ、導電性部材16と一体化されている。
リンク機構32の第2リンク42は、回転体14に回転軸方向Xにスライド可能に支持されるスライド部材52に連結軸周りに回転可能に連結される。スライド部材52は、回転体14が回転軸方向Xに貫通する筒状部材である。本実施形態の第1付勢部材34は、回転体14の第1張出部14aとスライド部材52の間に介装される。
リンク機構32は、第1リンク40と第2リンク42の他に、第1リンク40と保持部材30を連結する第3リンク54を有する。第3リンク54の両端部は、第1リンク40と保持部材30のそれぞれに連結軸周りに回転可能に連結される。
図7は、第2実施形態の制動装置10の動作状態を模式的に示す断面図である。第3リンク54は、第1リンク40と第2リンク42が互いのなす角度の小さくなる方向に動いたとき、保持部材30とともに導電性部材16を接近方向X1に押圧して移動させる。一方、第3リンク54は、第1リンク40と第2リンク42が前述の角度の大きくなる方向に動いたとき、保持部材30とともに導電性部材16を反接近方向X2に引き寄せて移動させる。
リンク機構32は、第1実施形態と同様、可動部材28の径方向外側への動きを保持部材30の接近方向X1での動きに変換し、可動部材28の径方向内側への動きを保持部材30の反接近方向X2での動きに変換することになる。このように、リンク機構32は、可動部材28の径方向での動きを保持部材30の回転軸方向Xでの動きに変換可能であれば、その具体的な構造は特に限定されない。
(第3の実施の形態)
図8は、第3実施形態の制動装置10を示す断面図である。本実施形態の制動装置10は、前述の例と比べて、間隔調整機構20の点で相違する。
導電性部材16及び磁石18は、可動部材28に対して回転軸方向Xの一方側(図8の左側)に配置される。本例では、この回転軸方向Xの一方側は、固定要素となる磁石18に回転要素となる導電性部材16が回転軸方向Xで接近する接近方向X1となる。また、回転軸方向Xの他方側(図8の右側)は、その接近方向X1とは反対側の反接近方向X2となる。
間隔調整機構20は、可動部材28と、保持部材30と、第1付勢部材34と、第1ストッパ36及び第2ストッパ38の他に、第2ガイド部56と、第2付勢部材58と、反力付与部材60と、第3付勢部材62とを備える。なお、本実施形態の間隔調整機構20は、図2の例のリンク機構32を備えていない。
可動部材28は、第2ガイド部56によって、回転体14と一体的に回転可能に設けられ、かつ、回転体14に対して径方向に移動可能に設けられる。第2ガイド部56は、回転体14と一体化されており、径方向に延びる長尺状である。可動部材28は、第2ガイド部56に沿ってスライド可能な第2被ガイド部72を有する。本実施形態の第2被ガイド部72は、第2ガイド部56が貫通する貫通孔である。第2ガイド部56は、可動部材28の第2被ガイド部72がスライドすることにより、可動部材28の径方向での動きをガイド可能である。
図9は、図8のB-B線断面の一部を示す図である。図8、図9に示すように、可動部材28と第2ガイド部56の組み合わせは周方向に等角度ずれた箇所に位置するように複数に亘り設けられる。
図8を参照する。保持部材30は、可動部材28に対して接近方向X1に配置される。保持部材30は、固定体12の端板部12bに対して回転軸方向Xに対向する位置に設けられる導電性部材16と一体化されている。本実施形態の保持部材30は、全体として筒状をなす筒状部材であり、その中央部には回転体14が貫通して配置される。本実施形態の保持部材30は、回転体14に対して回転軸方向Xに移動可能に支持される。保持部材30は、回転体14に対して回転軸方向Xに移動可能に設けられることになる。
本実施形態の保持部材30は、次の第3ガイド部74により回転体14と一体的に回転可能に設けられる。詳しくは、回転体14は径方向外側に突出するピン状の第3ガイド部74を有する。本実施形態の第3ガイド部74は周方向に等角度間隔を空けた位置に複数設けられる。保持部材30は、第3ガイド部74に対応する位置に第3被ガイド部76を有する。第3被ガイド部76は回転軸方向Xに延びる溝状をなし、その内側には第3ガイド部74が収容される。第3ガイド部74は、第3被ガイド部76を回転軸方向Xにスライドさせることにより、保持部材30の回転軸方向Xでの動きをガイド可能である。また、保持部材30は、第3ガイド部74に第3被ガイド部76の内壁面が当たることにより、回転体14と一体的に回転可能である。
可動部材28は、保持部材30と回転軸方向Xに対向する箇所に第1押圧面28aを有する。第1押圧面28aは、回転体14の回転中心線Laに対して傾斜する傾斜面である。保持部材30は、可動部材28と回転軸方向に対向する箇所に第1被押圧面30aを有する。第1被押圧面30aには第1押圧面28aが接触する。
反力付与部材60は、可動部材28に対して反接近方向X2に配置される。本実施形態の反力付与部材60は、全体として筒状をなす筒状部材であり、その中央部には回転体14が貫通して配置される。本実施形態の反力付与部材60は、回転体14に対して回転軸方向に移動可能に支持される。反力付与部材60は、回転体14に対して回転軸方向Xに移動可能に設けられることになる。
本実施形態の反力付与部材60は、次の第4ガイド部78により回転体14と一体的に回転可能に設けられる。詳しくは、回転体14は径方向外側に突出するピン状の第4ガイド部78を有する。本実施形態の第4ガイド部78は周方向に等角度間隔を空けた位置に複数設けられる。反力付与部材60は、第4ガイド部78に対応する位置に第4被ガイド部80を有する。第4被ガイド部80は回転軸方向Xに延びる溝状をなし、その内側には第4ガイド部78が収容される。第4ガイド部78は、第4被ガイド部80を回転軸方向Xにスライドさせることにより、反力付与部材60の回転軸方向Xでの動きをガイド可能である。また、反力付与部材60は、第4ガイド部78に第4被ガイド部80の内壁面が当たることにより、回転体14と一体的に回転可能である。
可動部材28は、反力付与部材60と回転軸方向Xに対向する箇所に第2押圧面28bを有する。第2押圧面28bは、回転体14の回転中心線Laに対して傾斜する傾斜面である。第1押圧面28aと第2押圧面28bの回転中心線Laに対する傾斜方向は逆向きとなり、回転中心線Laに対してなす傾斜角度は実質的に同じである。反力付与部材60は、可動部材28と回転軸方向Xに対向する箇所に第2被押圧面60aを有する。第2被押圧面60aには第2押圧面28bが接触する。
図10、図11は、第3実施形態の制動装置10の動作状態を模式的に示す図である。図10は図8と同じ視点から見た図であり、図11は図9と同じ視点から見た図である。図8、図10、図11に示すように、可動部材28は、回転体14と一体的に回転したときに遠心力Fcを受けて径方向外側に移動する。これに伴い、可動部材28の第1押圧面28aは、保持部材30の第1被押圧面30a上でのスライドを伴いつつ、保持部材30の第1被押圧面30aを接近方向X1に押圧する。また、このとき、可動部材28の第2押圧面28bは、反力付与部材60の第2被押圧面60a上でのスライドを伴いつつ、反力付与部材60の第2被押圧面60aを反接近方向X2に押圧する。このように間隔調整機構20は、可動部材28の径方向外側への移動に連動して接近方向X1に保持部材30を押圧可能に構成される。また、間隔調整機構20は、可動部材28の径方向外側への移動に連動して反接近方向X2に反力付与部材60を押圧可能に構成される。
これにより、可動部材28には、回転軸方向Xの反接近方向X2に向かう反力Fdが保持部材30から付与され、かつ、その接近方向X1に向かう反力Feが反力付与部材60から付与される。よって、保持部材30から可動部材28に付与される反力Fdの少なくとも一部を反力付与部材60から付与される反力Feにより相殺でき、その反力Fdが可動部材28から第2ガイド部56に伝達されることに伴う第2ガイド部56の負担を軽減できる。
図8を参照する。本実施形態の第1付勢部材34は、回転体14の第3ガイド部74と、保持部材30の第3被ガイド部76の内壁面の間に介装される。
第2付勢部材58は、たとえば、コイルスプリング等の弾性体である。第2付勢部材58は、可動部材28を径方向内側に付勢する。本実施形態の第2付勢部材58は、第2ガイド部56に設けられる第2張出部56aと第3張出部56bの間に介装される。第2張出部56aは、第2ガイド部56の径方向外側の端部に回転軸方向Xに張り出しており、第3張出部56bは、その径方向内側の端部に回転軸方向Xに張り出している。可動部材28は、回転体14が静止状態にあるとき、第2付勢部材58の付勢力によって第2ガイド部56の第3張出部56bに保持される。これにより、可動部材28は、その回転軸方向Xでの可動範囲の末端位置(以下、初期位置という)に保持される。
図9に示すように、互いに隣り合う可動部材28は、周方向に対向する箇所に接触面28cを有する。互いに隣り合う可動部材28は、それぞれの接触面28cを接触した状態で初期位置に保持される。
図8に戻り、第3付勢部材62は、たとえば、コイルスプリング等の弾性体である。第3付勢部材62は、反力付与部材60を接近方向X1に付勢する。本実施形態の第3付勢部材62は、回転体14の第4ガイド部78と、反力付与部材60の第4被ガイド部80の内壁面の間に介装される。
本実施形態の第1ストッパ36の役割は回転体14の第3ガイド部74が担っている。第1ストッパ36は、保持部材30と一体化された回転要素となる導電性部材16と当たることにより、可動範囲の最遠位置に保持部材30を保持する。
以上の制動装置10の動作を説明する。
図8、図10を参照する。回転体14が回転していない静止状態にあるとき、第1付勢部材34の付勢力により、保持部材30は可動範囲の最遠位置に保持される。また、第2付勢部材58の付勢力により、可動部材28は可動範囲の初期位置に保持される。
回転体14と一体的に可動部材28が回転すると、可動部材28には回転速度に応じた大きさの遠心力Fcが付与される。可動部材28の遠心力Fcが第1付勢部材34の付勢力、第2付勢部材58の付勢力、第3付勢部材62の付勢力の合力を上回ると、可動部材28は径方向外側に移動し、保持部材30を接近方向X1に押圧するとともに、反力付与部材60を反接近方向X2に押圧する。これにより、保持部材30は第1付勢部材34の付勢力に抗して接近方向X1に動かされ、反力付与部材60は第3付勢部材62の付勢力に抗して反接近方向X2に動かされる。
可動部材28の回転速度が大きくなるほど可動部材28が受ける遠心力Fcが大きくなり、可動部材28の径方向外側への移動量や、保持部材30や反力付与部材60の回転軸方向Xでの移動量が大きくなる。保持部材30の接近方向X1での移動量が大きくなるほど、導電性部材16と磁石18の対向方向Xでの間隔Lgが小さくなる。これにより、図2の例と同様、回転速度が大きくなり、それに伴い導電性部材16と磁石18の間隔Lgが狭まるほど、渦電流に起因する制動力が回転体14に大きく付与される。
可動部材28の回転速度が小さくなると、可動部材28が受ける遠心力Fcが小さくなる。これに伴い、第1付勢部材34の付勢力によって、保持部材30は、反接近方向X2に移動させられる。また、第3付勢部材62の付勢力によって、反力付与部材60は、接近方向X1に移動させられる。また、第2付勢部材58の付勢力によって、可動部材28は、径方向内側に移動させられる。
本実施形態の制動装置10でも、前述した(A)~(C)の作用効果を得られる。なお、本実施形態の第1付勢部材34は、回転要素となる導電性部材16に対して反接近方向X2にずれた位置に配置される。これにより、前述した(E)と同様の作用効果を得られる。この(E)の作用効果を得るうえで、第1付勢部材34は、回転要素に対して反接近方向X2にずれた位置、又は、固定要素に対して接近方向X1にずれた位置に配置されていればよい。
また、本実施形態の制動装置10では、可動部材28の第1押圧面28aの回転中心線Laに対する傾斜角度を大きくするほど、可動部材28の径方向での単位移動量に対する、導電性部材16と磁石18の間隔Lgの変化量の割合を小さくできる。また、この傾斜角度を小さくするほど、その単位移動量に対する間隔Lgの変化量の割合を大きくできる。
(第4の実施の形態)
図12は、第4実施形態の制動装置10の断面図である。本実施形態の制動装置10は、図8の例と比べ、間隔調整機構20が反力付与部材60を備えていない。また、本実施形態の制動装置10は、可動部材28に対して反接近方向X2に配置される固定体12の端板部12bと可動部材28の間に他の部材が配置されていない。可動部材28に対して反接近方向X2には可動部材28と接触する他の部材が配置されていないということである。これにより、制動装置10を構成する部品点数の削減により、制動装置10の回転軸方向での寸法の小型化を図れる。
(第5の実施の形態)
図13は、第5実施形態の制動装置10の断面図である。本実施形態の制動装置10も、図8の例と比べ、間隔調整機構20が反力付与部材60を備えていない。本実施形態の制動装置10は、単数の可動部材28の径方向での動きをガイド可能な複数のガイド部56、82を有する。このガイド部56、82とは、前述の第2ガイド部56の他に、第5ガイド部82が含まれる。
第5ガイド部82は、可動部材28に対して反接近方向X2に配置される。第5ガイド部82は、回転体14と一体化されている。本実施形態の第5ガイド部82は、全体として円形板状をなしている。可動部材28は、第5ガイド部82と回転軸方向に対向する箇所に第5被ガイド面28dを有する。第5ガイド部82は、第5被ガイド面28dを径方向にスライドさせることにより、可動部材28の径方向での動きをガイド可能である。これにより、単数の可動部材28の動きを単数のガイド部によりガイドする場合と比べ、ガイド部56、82に付与される反力を軽減でき、その負担を軽減できる。
(第6の実施の形態)
図14は、第6実施形態の制動装置10の断面図である。本実施形態の制動装置10は、図12の例と比べ、第1付勢部材34の位置が相違する。第1付勢部材34は、導電性部材16と磁石18の間に位置する回転軸方向Xでの範囲内に配置される。詳しくは、本実施形態の第1付勢部材34は、回転体14に設けられる第4張出部14bと回転要素となる導電性部材16の間に介装される。このように、第1付勢部材34の配置位置は特に限定されない。
(第7の実施の形態)
図15は、第7実施形態の制動装置10の模式的な断面図である。図16は、制動装置10の動作状態を模式的に示す図である。本実施形態の制動装置10は、前述の制動装置10と比べ、導電性部材16及び磁石18の対向する方向が異なる。詳しくは、導電性部材16及び磁石18は、回転体14の回転軸方向Xではなく径方向に対向して配置される。
本実施形態では固定要素となる磁石18は固定体12の筒状部12aに一体化されている。磁石18の磁化方向は、導電性部材16及び磁石18が対向する対向方向Y(本例では径方向)に沿った方向となる。本実施形態の磁石18は、全体として筒状をなす。
回転要素となる導電性部材16は、固定要素となる磁石18と対向方向Yに対向する箇所で可動部材28に設けられる。本実施形態の導電性部材16は、全体として円弧形の板状をなす。本実施形態の導電性部材16と磁石18の組み合わせは、回転軸方向Xに間を置いて複数組設けられる。
間隔調整機構20は、主に、可動部材28と、第1ストッパ36及び第2ストッパ38と、第2ガイド部56と、第2付勢部材58と、を備える。可動部材28は、図8の例(第3実施形態)と同様、第2ガイド部56によって、回転体14と一体的に回転可能に設けられ、かつ、回転体14に対して径方向に移動可能に設けられる。第2付勢部材58は、図8の例と同様、可動部材28を径方向内側に付勢する。
本実施形態の第1ストッパ36及び第2ストッパ38も、図2の例と同様、回転要素となる導電性部材16の対向方向(径方向Y)での可動範囲を定める。本実施形態の第1ストッパ36の役割は第2ガイド部56の第3張出部56bが担っており、第2ストッパ38の役割は第2ガイド部56の第2張出部56aが担っている。
本実施形態の第1ストッパ36は、可動部材28と当たることにより、可動範囲の一端側にある最遠位置に導電性部材16を保持する(図15参照)。本実施形態の第2ストッパ38は、可動部材28と当たることにより、可動範囲の他端側にある最近位置に導電性部材16を保持する(図16参照)。本実施形態の導電性部材16も最遠位置にあるとき、導電性部材16には磁石18の磁界が実質的に作用しない。
以上の制動装置10の動作を説明する。
回転体14が回転していない静止状態にあるとき、第2付勢部材58の付勢力により、可動部材28は可動範囲の最遠位置に保持される。回転体14と一体的に可動部材28が回転すると、可動部材28には回転速度に応じた大きさの遠心力Fcが付与される。可動部材28の遠心力Fcが第2付勢部材58の付勢力を上回ると、可動部材28は径方向外側に移動する。
可動部材28の回転速度が大きくなるほど、可動部材28が受ける遠心力Fcが大きくなり、可動部材28の径方向外側への移動量が大きくなる。可動部材28の径方向外側への移動量が大きくなるほど、導電性部材16と磁石18の対向方向(径方向Y)での間隔Lgが小さくなる。これにより、図2の例と同様、回転速度が大きくなり、それに伴い導電性部材16と磁石18の間隔が狭まるほど、渦電流に起因する制動力が回転体14に大きく付与される。
可動部材28の回転速度が小さくなると、可動部材28が受ける遠心力Fcが小さくなる。これに伴い、第2付勢部材58の付勢力によって、可動部材28は、径方向内側に移動させられる。
このように、本実施形態の間隔調整機構20も、回転体14の回転速度が大きくなるほど、導電性部材16と磁石18の対向方向(径方向Y)での間隔が小さくなるように、その間隔を調整可能に構成される。このときも、間隔調整機構20は、回転軸方向Xと径方向Yのうちの対向方向とは異なる方向(本例では回転軸方向X)での導電性部材16と磁石18の相対位置を保持しつつ、その対向方向での間隔を保持可能である。
本実施形態の制動装置10によれば、前述の(A)、(B)で説明した効果を得られる。また、本実施形態の制動装置10によれば、図2の例の保持部材30等が不要となり、間隔調整機構20の部品点数を減らすことができ、製品コストの削減を図れる。
このように、間隔調整機構20は、回転体14の回転速度が大きくなるほど、導電性部材16と磁石18の対向方向での間隔が小さくなるように調整可能であればよく、その具体的構造は特に限定されない。
(第8の実施の形態)
次に、前述の制動装置10の使用態様の一例を説明する。図17は、第8実施形態となる機器84を模式的に示す図である。機器84には、制動装置10による制動対象物となる可動体とともに制動装置10が組み込まれている。本実施形態の機器84は建具であり、可動体は建具の障子である。
建具は、建物の開口部に設けられるサッシ枠86と、サッシ枠86の内側に開閉可能に納められる障子88と、を備える。サッシ枠86は、複数の枠材を矩形状に枠組みして構成される。本実施形態の障子88は水平方向に沿った直動運動を伴い開閉可能な引き戸である。
図18は、範囲Paの内部を拡大して示す図である。制動装置10は、制動ユニット90の一部となる。制動ユニット90は、制動装置10の他に、障子88の開閉運動を受けて出力部材92から回転運動を出力可能な出力機構94を備える。本実施形態の出力機構94は、複数の歯車を用いた歯車機構である。出力機構94の一部や制動装置10の固定体12は、共通の台座部材96に取り付けられ、その台座部材96を介して障子88の上下いずれかの端辺部に固定される。本例では上側の端辺部に固定される。前述した固定体12が固定される外部構造体は、本実施形態では障子88になる。
本実施形態の出力機構94を構成する歯車機構は、不図示のラックアンドピニオンと増速機構とを含む。ラックアンドピニオンは障子88の開閉運動(直動運動)を回転運動に変換する。増速機構は、ラックアンドピニオンが変換した回転運動を増速して出力部材92に伝達する。本実施形態の出力部材92は、回転体14の回転中心線と同軸に設けられる軸体である。
制動装置10の回転体14は、出力機構94の出力部材92と一体的に回転可能に設けられる。回転体14は、出力部材92から出力される回転運動により出力部材92と一体的に回転させられる。制動装置10は、障子88の開閉動作に伴い回転体14が回転したとき、回転体14や出力機構94を通して障子88に制動力を付与する。
(第9の実施の形態)
図19は、第9実施形態の機器84を模式的に示す図である。第9実施形態の機器84も、図17の例と同様に建具であり、障子88の構成が相違する。本実施形態の障子88は、支持軸98周りの回転動作を伴い開閉可能な開き戸である。本実施形態の支持軸98は、建物の躯体等の支持構造体に固定される。本実施形態の障子88は、鉛直方向に延びる回転軸線Lb周りに回転可能に支持軸98に支持される。
図20は、図19の範囲Pbの内部を拡大して示す図である。本実施形態の制動ユニット90は、障子88に設けられた中空部88a内に配置される。制動ユニット90の出力機構94は、図18の例と同様、障子88の開閉運動を受けて出力部材92から回転運動を出力する。
本実施形態の出力機構94は、障子88の回転を変速して出力部材92から出力可能な変速機構(不図示)を有する。変速機構は、たとえば、支持軸98と一体化される太陽歯車が固定軸、障子88と一体化される内歯歯車が駆動軸、出力部材92と一体化される遊星歯車が従動軸となるソーラ型の遊星歯車機構である。この遊星歯車機構は、障子88の回転軸線Lb周りの回転が変速されて出力部材92に出力される。このとき、障子88の回転成分とは絶対速度の異なる回転成分が出力部材92から出力される。本実施形態の変速機構は増速機構も兼ねており、障子88の回転成分が増速されて出力部材92から出力される。
制動装置10は、図18の例と同様、障子88の開閉動作に伴い回転体14が回転したとき、回転体14や出力機構94を通して障子88に制動力を付与する。
このように制動対象物となる可動体は、直動運動、回転運動等を伴い動作可能に設けられる。制動装置10は、可動体が動作したときに可動体に制動力を付与可能である。このような可動体として建具の障子88を例に説明したが、その具体例は特に限定されない。可動体は、たとえば、自転車等の車両の車輪、家具の扉、蓋等の開閉体でもよい。また、制動ユニット90の出力機構94は、可動体の運動を受けて出力部材92から回転運動を出力可能なものであればよく、その具体例は特に限定されない。
(第10の実施の形態)
図21は、第10実施形態の制動装置10を示す断面図である。本実施形態の制動装置10は、図2に示す第1実施形態の構成に加え、第2磁石100をさらに備える。本実施形態では、区別のために、保持部12cに一体化された磁石18を「第1磁石18」と称する。第2磁石100は、フェライト磁石、ネオジム磁石等の永久磁石であってよい。第2磁石100は、固定体12の筒状部12aに一体化されている。
また本実施形態の制動装置10において、導電性部材16は、有底筒状であり、環形板状の第1導電性部材16bと、第1導電性部材16bの周縁部に位置する筒状の第2導電性部材16cとから成る。第1導電性部材16bと第2導電性部材16cは一体に形成されている。導電性部材16は、たとえば、アルミニウム、銅等を用いて形成されてよい。導電性部材16は、回転体14と一体的に回転可能であり、かつ、回転体14に対して回転軸方向Xに移動可能である。導電性部材16の可動範囲は、上記のように第1ストッパ36及び第2ストッパ38で規定される。導電性部材16が最近位置付近に移動したとき、第2導電性部材16cと第2磁石100は径方向に対向する。
図22は、第10実施形態の制動装置10の動作状態を示す断面図である。以下、図21及び図22を参照して、本実施形態の制動装置10の動作について説明する。図21に示すように、回転体14が回転していない静止状態にあるとき、第1付勢部材34の付勢力により、保持部材30は可動範囲の最遠位置に保持される。このとき、第1導電性部材16bと第1磁石18の対向方向での間隔Lgが大きいので、図21に示すように、第1導電性部材16bには第1磁石18の磁界が実質的に作用しない。同様に、第2導電性部材16cには第2磁石100の磁界が実質的に作用しない。ここでの「実質的に作用しない」とは、磁石の磁界が導電性部材に全く作用しない、又は、磁石の磁界が導電性部材に作用しても、導電性部材に生じる渦電流に起因する制動力が回転体14に付与されない程度に僅かな磁界であることをいう。
回転体14と一体的に可動部材28が回転すると、可動部材28には回転速度に応じた大きさの遠心力Fcが付与される。可動部材28の遠心力Fcは、リンク機構32により保持部材30に付与される接近方向X1に向かう力に変換される。この力が第1付勢部材34の付勢力を上回ると、リンク機構32は、図22に示すように、二つのリンク40、42がなす角度が小さくなるように移動し、導電性部材16とともに保持部材30を接近方向X1に移動させる。このとき、可動部材28や保持部材30は第1付勢部材34の付勢力に抗して移動する。
可動部材28の回転速度が大きくなるほど可動部材28が受ける遠心力Fcが大きくなり、可動部材28の径方向外側への移動量や、保持部材30の接近方向X1での移動量が大きくなる。保持部材30の接近方向X1での移動量が大きくなるほど、第1導電性部材16bと第1磁石18の対向方向での間隔Lgが小さくなる。保持部材30が可動範囲の中で最遠位置から最近位置に近づく途中で第1導電性部材16bには第1磁石18の磁界が作用する。第1磁石18の磁界が第1導電性部材16bに作用すると、渦電流に起因する制動力が回転体14に付与される。この制動力は、前述の通り、回転体14の回転速度が大きくなり、それに伴い第1導電性部材16bと第1磁石18の間隔Lgが狭まるにつれて加速度的に増大する(図1の制動力Fyを参照)。
また、保持部材30が可動範囲の中で最遠位置から最近位置に近づく途中においては、第2導電性部材16cに第2磁石100の磁界が作用する。第2磁石100に対して第2導電性部材16cが回転すると、第2導電性部材16cに電磁誘導により渦電流が生じ、その渦電流に起因する制動力が回転体14に付与される。この制動力は、回転速度に比例して増大する(図1の制動力Fxを参照)。
制動力により可動部材28の回転速度が小さくなると、可動部材28が受ける遠心力Fcが小さくなる。これに伴い、第1付勢部材34の付勢力によって、リンク機構32は二つのリンク40、42がなす角度が大きくなるように移動する。これにより、リンク機構32は、導電性部材16とともに保持部材30を反接近方向X2に移動させるとともに、可動部材28を径方向内側に移動させる。
以上説明したように、第10実施形態の制動装置10によれば、回転軸方向に対向する第1磁石18及び第1導電性部材16bにより生じる制動力に加えて、径方向に対向する第2磁石100及び第2導電性部材16cにより生じる制動力を回転体14に付与することができる。従って、第10実施形態の制動装置10は、図2に示す第1実施形態と比較して、大きな制動力を回転体14に作用させることができる。
以上、本発明の実施形態の例や変形例について詳細に説明した。前述した実施形態や変形例は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態や変形例の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
固定体12はハウジングとなり、回転体14はハウジングに回転可能に支持される回転軸である例を説明した。この他にも、固定体12は固定軸であり、回転体14は固定軸に回転可能に支持されるハウジングとなってもよい。この場合、間隔調整機構20の可動部材28、保持部材30等は、ハウジングとなる回転体14と一体的に回転可能に設けられることになる。
回転体14と一体的に回転可能に設けられる回転要素が導電性部材16であり、固定体12に設けられる固定要素が磁石18(第10実施形態では第1磁石18及び第2磁石100)である例を説明した。この他にも、回転要素が磁石18(第1磁石18及び第2磁石100)であり、固定要素が導電性部材16でもよい。
磁石18(第1磁石18及び第2磁石100)は永久磁石を例に説明したが、電磁石が用いられてもよい。
導電性部材16及び磁石18(第1磁石18及び第2磁石100)のうちの回転要素が最遠位置にあるとき、磁石18(第1磁石18及び第2磁石100)の磁界が導電性部材16に実質的に作用しない例を説明したが、磁界が作用してもよい。
ヨーク24は、第2実施形態~第7実施形態の例で用いられていてもよい。第7実施形態の例でヨーク24を用いる場合、ヨーク24は、導電性部材16を間に挟んで磁石18とは径方向(対向方向)の反対側に配置されていればよい。
姿勢保持機構22は、保持部材30が回転軸方向Xに動く前後で保持部材30の姿勢を保持可能であれば、その具体例は特に限定されない。たとえば、保持部材30の第1被ガイド部48は、回転体14に形成された第1ガイド部50に沿ってスライドすることで、保持部材30の姿勢を保持可能でもよい。
以上の実施形態、変形例により具体化される発明を一般化すると、以下の技術的思想が導かれる。以下、発明が解決しようとする課題に記載の態様を用いて説明する。
第2態様の制動装置は、第1態様において、前記導電性部材及び前記磁石は、前記回転軸方向に対向して配置されてもよい。
この態様によれば、導電性部材と磁石を径方向に相対移動させるための空間を確保せずともよくなり、制動装置の径方向寸法の小型化を図れる。
第3態様の制動装置は、第2態様において、前記回転体と一体的に回転可能に設けられ、かつ、前記回転体に対して径方向に移動可能に設けられる可動部材と、前記回転体と一体的に回転可能に設けられ、かつ、前記導電性部材及び前記磁石の何れか一方と一体化された保持部材と、を有し、前記間隔調整機構は、前記可動部材の径方向外側への移動に連動して、前記導電性部材と前記磁石を回転軸方向に接近させる接近方向に前記保持部材を移動可能に構成されてもよい。
第4態様の制動装置は、第3態様において、前記間隔調整機構は、前記可動部材の径方向での動きを前記保持部材の前記回転軸方向での動きに変換可能なリンク機構を有してもよい。
この態様によれば、可動部材と保持部材の接触による摩擦抵抗の影響を排除でき、可動部材や保持部材をスムーズに動作させ易くなる。
第5態様の制動装置は、第3または第4態様において、前記保持部材が回転軸方向に動いたとき、前記保持部材の姿勢を保持可能な姿勢保持機構を備えてもよい。
この態様によれば、保持部材の姿勢の変動に起因する制動力の変化を防止できる。
第6態様の制動装置は、第3態様において、前記間隔調整機構は、前記可動部材の径方向での動きをガイド可能なガイド部を有し、前記可動部材の径方向外側への移動に連動して前記接近方向に前記保持部材を押圧可能に構成されてもよい。
第7態様の制動装置は、第6態様において、前記保持部材は、前記可動部材に対して前記接近方向に配置され、前記間隔調整機構は、前記ガイド部材に対して前記接近方向とは回転軸方向の反対側の反接近方向に配置され、前記回転体に対して前記回転軸方向に移動可能に設けられる反力付与部材を有し、前記可動部材の径方向への移動に連動して前記反接近方向に前記反力付与部材を押圧可能に構成されてもよい。
この態様によれば、可動部材が径方向外側に移動したとき、保持部材から可動部材に付与される反力の少なくとも一部を反力付与部材から付与される反力により相殺できる。よって、その反力がガイド部に伝達されることに伴うガイド部の負担を軽減できる。
第8態様の制動装置は、第6または第7態様において、前記間隔調整機構は、単数の前記可動部材の径方向での動きをガイド可能な複数の前記ガイド部材を有してもよい。
この態様によれば、単数の可動部材の動きを単数のガイド部材によりガイドする場合と比べ、ガイド部に付与される反力を軽減でき、その負担を軽減できる。
第9態様の制動装置は、第3から第8態様のいずれかにおいて、前記間隔調整機構は、前記接近方向とは軸方向の反対側の反接近方向に前記保持部材を付勢可能な付勢部材を有し、前記付勢部材は、前記導電性部材及び前記磁石の一方に対して前記反接近方向にずれた位置、又は、前記導電性部材及び前記磁石の他方に対して前記接近方向にずれた位置に配置されてもよい。
この態様によれば、保持部材を接近方向に動かすときに付勢部材が邪魔となり難く、導電性部材と磁石の間隔を小さくし易くなり、渦電流に起因して回転体に付与される制動力を増大できる。
第10態様の制動装置は、第1態様において、前記導電性部材及び前記磁石は、前記回転体の径方向に対向して配置されてもよい。
この態様によれば、間隔調整機構の部品点数を減らすことができ、製品コストの削減を図れる。
第11態様の制動装置は、第1から第10態様のいずれかにおいて、前記間隔調整機構は、前記導電性部材及び前記磁石のうちの一方の要素を可動範囲内で前記対向方向に移動可能に構成され、前記可動範囲内で前記間隔が最も遠くなる位置に前記一方の要素があるとき、前記磁石の磁界が前記導電性部材に実質的に作用しなくともよい。
この態様によれば、制動装置による制動対象物を低速で動かすとき、渦電流に起因する制動力を受けずに制動対象物を容易に動かせるようになる。
第12態様の制動装置は、第1から第11態様のいずれかにおいて、前記導電性部材を間に挟んで前記磁石とは前記対向方向の反対側に配置されるヨークを備えてもよい。
この態様によれば、導電性部材を通る対向方向成分での磁束密度を増大でき、渦電流に起因して回転体に付与される制動力を増大できる。
第13態様の制動装置は、第2態様において、前記回転体の径方向に対向して配置される第2導電性部材及び第2磁石であって、前記第2導電性部材及び前記第2磁石の一方は前記回転体と一体的に回転可能に設けられ、それらの他方は前記固定体に設けられる第2導電性部材及び第2磁石をさらに備える。
この態様によれば、第2導電性部材及び第2磁石による制動力が生じるので、より大きな制動力を回転体に付与することができる。