[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る緩衝器を図1~図6を参照して以下に説明する。
図1に示す第1実施形態に係る緩衝器11は、作動流体として作動液体が用いられる液圧緩衝器であり、より具体的には作動液体として油液が用いられる油圧緩衝器である。緩衝器11は、主に自動車のサスペンション装置に用いられるものである。
緩衝器11は、内筒12と、内筒12より大径で内筒12との間にリザーバ室13を形成するように同軸状に配置される外筒14と、内筒12の中心軸線上に配置されるとともに軸方向一側が内筒12の内部に挿入され軸方向他側が内筒12および外筒14から外部に延出されるピストンロッド15と、このピストンロッド15の一端部に連結され内筒12内に摺動可能に嵌装されて内筒12内を二つの室16,17に区画するピストン18とを有している。つまり、この緩衝器11は、そのシリンダ19が内筒12と外筒14とを有する複筒式となっている。ピストン18は、シリンダ19の内筒12内に摺動可能に嵌装され、シリンダ19の内筒12内を二室16,17に区画する。ピストンロッド15は、ピストン18に連結されるとともにシリンダ19の外部に延出されている。
なお、本発明は、複筒式に限らず単筒式の液圧緩衝器に用いることができ、さらには、減衰力調整機構を用いた液圧緩衝器等にも利用可能である。
ピストンロッド15は、一端部に連結されたピストン18と一体的に移動することになり、他端部がシリンダ19つまり内筒12および外筒14から外部に突出している。シリンダ19は、その内筒12内に、作動液体としての油液が封入されることになり、内筒12と外筒14との間のリザーバ室13には、作動液体としての油液および高圧ガスが封入されることになる。なお、リザーバ室13内には、高圧ガスにかえて大気圧の空気を封入してもよい。
緩衝器11は、シリンダ19におけるピストンロッド15が突出する側の端部位置に配置されるロッドガイド20と、シリンダ19のピストンロッド15が突出する側の端部位置であってシリンダ19の軸方向における内外方向(図1,図2の上下方向で、以下、シリンダ内外方向という)のロッドガイド20よりも外部側(図1,図2の上下方向上側)に配置されるシール部材21と、シール部材21よりもシリンダ内外方向の内部側(図1,図2の上下方向下側)であってシール部材21とロッドガイド20との間に配置される摩擦部材22と、シリンダ19の軸方向のロッドガイド20、シール部材21および摩擦部材22とは反対側の端部に配置されるベースバルブ23とを有している。
ロッドガイド20、シール部材21および摩擦部材22は、いずれも環状をなしており、それぞれの内側にピストンロッド15が摺動可能に挿通される。ロッドガイド20は、ピストンロッド15を、その径方向移動を規制しつつ軸方向移動可能に支持して、このピストンロッド15の移動を案内する。シール部材21は、その内周部で、軸方向に移動するピストンロッド15の外周部に摺接して、内筒12内の油液と外筒14内のリザーバ室13の高圧ガスおよび油液とがシリンダ19から外部に漏洩するのを防止する。言い換えれば、シール部材21は、シリンダ19内の油液およびガスの緩衝器11から外部への漏洩を防止する。摩擦部材22は、その内周部でピストンロッド15の外周部に摺接して、ピストンロッド15に摩擦抵抗を発生させるもので、シールを目的とするものではない。
シリンダ19の外筒14は、円筒状の胴部材25と、この胴部材25におけるピストンロッド15の突出側とは反対の一端側を閉塞させる底部材26とを有する略有底円筒状をなしている。胴部材25は、ピストンロッド15の突出側の開口部27の位置から径方向内方に突出する係止部28を有している。外筒14の開口部27側には係止部28およびシール部材21を覆うようにカバー29が取り付けられている。
シリンダ19の内筒12は、円筒状をなしており、軸方向の一端側が、外筒14の底部材26の内側に配置されるベースバルブ23のベースボディ30に嵌合状態で支持され、軸方向の他端側が外筒14の開口部27の内側に嵌合されるロッドガイド20に嵌合状態で支持されている。
ベースバルブ23のベースボディ30には、内筒12内の室17と、外筒14と内筒12との間のリザーバ室13とを連通可能な油通路31,32が形成されている。また、ベースボディ30には内側の油通路31を開閉可能な縮み側減衰バルブとしてのディスクバルブ33が軸方向の底部材26側に配置されるとともに、外側の油通路32を開閉可能なチェックバルブとしてのディスクバルブ34が軸方向の底部材26とは反対側に配置されている。これらディスクバルブ33,34は、ベースボディ30に挿通されるリベット35でベースボディ30に取り付けられている。
ディスクバルブ33は、ディスクバルブ34の図示略の通路穴および油通路31を介して室17からリザーバ室13側への油液の流れを許容して減衰力を発生する一方で逆方向の油液の流れを規制する。これとは反対に、ディスクバルブ34は油通路32を介してリザーバ室13から室17側への油液の流れを抵抗無く許容する一方で逆方向の油液の流れを規制する。つまり、ディスクバルブ33は、ピストンロッド15が縮み側に移動しピストン18が室17側に移動して室17の圧力が上昇すると油通路31を開くことになり、その際に減衰力を発生する減衰バルブである。また、ディスクバルブ34は、ピストンロッド15が伸び側に移動しピストン18が室16側に移動して室17の圧力が下降すると油通路32を開くことになるが、その際にリザーバ室13から室17内に実質的に減衰力を発生せずに油液を流すサクションバルブである。
なお、チェックバルブとしてのディスクバルブ34で伸び側の減衰力を積極的に発生させてもよい。また、これらのディスクバルブ33,34を廃止してオリフィスとしてもよい。
ピストンロッド15は、一定径の円筒面からなる外周面37を有する主軸部38と、内筒12に挿入される側の端部の、主軸部38よりも小径の内端軸部39とを有している。この内端軸部39にはナット40が螺合されており、このナット40によってピストン18およびその両側のディスクバルブ41,42が内端軸部39に取り付けられている。
室16は、ピストン18とロッドガイド20との間に形成されており、その内側にピストンロッド15が貫通するロッド側室である。室17はピストン18とベースバルブ23との間に形成されており、シリンダ19における底部材26側にあるボトム側室である。ピストンロッド15は、室17の内側は貫通していない。
ピストンロッド15には、主軸部38のピストン18とロッドガイド20との間の部分に、いずれも円環状のストッパ部材47および緩衝体48が設けられている。ストッパ部材47は、内周側にピストンロッド15を挿通させており、加締められて主軸部38に固定されている。緩衝体48は、内側にピストンロッド15が挿通されており、ストッパ部材47とロッドガイド20との間に配置されている。
ピストン18には、内筒12の底部材26側の室17と底部材26とは反対側の室16とを連通可能な油通路44,45が形成されている。また、ピストン18には、油通路44を開閉可能な縮み側減衰バルブであるディスクバルブ41が底部材26とは反対側に配置されるとともに、油通路45を開閉可能な伸び側減衰バルブとしてのディスクバルブ42が底部材26側に配置されている。
ディスクバルブ41は、油通路44を介する室17から室16側への油液の流れを許容する一方で逆方向の油液の流れを規制し、これとは反対に、ディスクバルブ42は、油通路45を介する室16側から室17への油液の流れを許容する一方で逆方向の油液の流れを規制する。なお、ディスクバルブ41とピストン18との間には、ディスクバルブ41が閉じた状態でも室17と室16とを油通路44を介して連通させる図示略の固定オリフィスが設けられており、ディスクバルブ42とピストン18との間にも、ディスクバルブ42が閉じた状態でも室17と室16とを油通路45を介して連通させる図示略の固定オリフィスが設けられている。
ピストンロッド15が縮み側に移動しピストン18が室17側に移動して室17の圧力が上昇すると、ピストン18の移動速度(以下、ピストン速度という)が遅い領域では、図示略の固定オリフィスが一定の流路面積で室17から室16に油液を流すことになり、オリフィス特性の減衰力を発生させる。また、ピストン速度が速い領域では、ディスクバルブ41が、ピストン18から離間して油通路44を開いて室17から室16に、ピストン18からの離間量に応じた流路面積で油液を流すことになり、バルブ特性の減衰力を発生させる。
ピストンロッド15が伸び側に移動しピストン18が室16側に移動して室16の圧力が上昇すると、ピストン速度が遅い領域では、図示略の固定オリフィスが一定の流路面積で室16から室17に油液を流すことになり、オリフィス特性の減衰力を発生させる。また、ピストン速度が速い領域では、ディスクバルブ42が、ピストン18から離間して油通路45を開いて室16から室17に、ピストン18からの離間量に応じた流路面積で油液を流すことになり、バルブ特性の減衰力を発生させる。
なお、ピストンロッド15が伸び側に移動してシリンダ19からの突出量が増大すると、その分の油液がリザーバ室13からベースバルブ23のディスクバルブ34を開きつつ油通路32を介して室17に流れることになり、逆にピストンロッド15が縮み側に移動してシリンダ19への挿入量が増大すると、その分の油液が室17からディスクバルブ33を開きつつ油通路31を介してリザーバ室13に流れることになる。
図2に示すように、ロッドガイド20は、略段付き円筒状をなす金属製のロッドガイド本体50を有している。ロッドガイド本体50は、軸方向一側に大径外径部51が形成され、軸方向他側に大径外径部51よりも小径の小径外径部52が形成されるとともに、これらの間にこれらの中間の外径の中径外径部53が形成された外形形状をなしている。ロッドガイド本体50は、大径外径部51において外筒14の胴部材25の内周部に嵌合し、小径外径部52において内筒12の内周部に嵌合する。
ロッドガイド本体50の径方向の中央には、軸方向の大径外径部51側の端部に最大径穴部54が、最大径穴部54よりも軸方向の小径外径部52側に最大径穴部54よりも小径の大径穴部55が、大径穴部55の軸方向の最大径穴部54とは反対側に大径穴部55よりも若干小径の中径穴部56が、中径穴部56の軸方向の大径穴部55とは反対側に中径穴部56よりも小径の小径穴部57が、それぞれ形成されている。
中径穴部56には、その内周面および底面に連続して連通溝58が形成されている。連通溝58は中径穴部56の内周面に軸方向の全長にわたって形成され、中径穴部56の底面に径方向の全長にわたって形成されている。つまり、連通溝58は、大径穴部55の内周面と小径穴部57の内周面とを繋ぐように形成されている。
ロッドガイド本体50の軸方向の大径外径部51側の端部には、環状凸部59が、軸方向外方に突出するように形成されている。最大径穴部54は、この環状凸部59の内側に形成されている。ロッドガイド本体50には、環状凸部59の内径側に、軸方向に沿って貫通する連通穴61が形成されている。連通穴61は、一端側が最大径穴部54内に開口しており、他端側が中径外径部53の小径外径部52側の端面に開口している。連通穴61は、外筒14と内筒12との間のリザーバ室13に連通している。
ロッドガイド20は、このロッドガイド本体50と、ロッドガイド本体50の内周部に嵌合固定される円筒状のカラー62とからなっている。カラー62は、SPCC材やSPCE材などの金属製の円筒体の内周にフッ素樹脂含浸青銅が被覆されて形成される。カラー62は、ロッドガイド本体50の小径穴部57内に嵌合されており、ロッドガイド20には、このカラー62内にピストンロッド15が主軸部38の外周面37において摺接するように挿通される。カラー62は、小径穴部57における中径穴部56とは反対側の端部に嵌合固定されている。言い換えれば、小径穴部57には中径穴部56側にカラー62が存在しない部分がある。
シール部材21は、シリンダ19の軸方向の一端部に配置され、その内周部においてピストンロッド15の主軸部38の外周面37に圧接することになり、ロッドガイド20とピストンロッド15の主軸部38との隙間から漏れ出る油液等の外側への漏れ出しを規制する。なお、図2においては、緩衝器11のロッドガイド20側をピストンロッド15を除いた状態で示しており、よって、シール部材21は、ピストンロッド15が挿通される前の自然状態となっている。そして、挿通された場合のピストンロッド15の主軸部38の外周面37を仮想線(二点鎖線)で示している。
シール部材21は、ニトリルゴムやフッ素ゴムなどの摺動性のよい弾性ゴム材料からなるシール部65と、シール部65内に埋設されシール部材21の形状を維持し、固定のための強度を得るための金属製の円環状の環状部材66とからなる一体成形品のオイルシール本体67と、オイルシール本体67のシール部65のシリンダ内外方向外側の外周部に嵌合される環状のスプリング68と、シール部65のシリンダ内外方向内側の外周部に嵌合される環状のスプリング69とからなっている。
シール部65の径方向内側部分は、環状部材66の内周側のシリンダ内外方向外側から軸方向に沿って環状部材66から離れる方向に延出する円環筒状のダストリップ72と、環状部材66の内周側のシリンダ内外方向内側から軸方向に沿って環状部材66から離れる方向に延出する円環筒状のオイルリップ73とを有している。また、シール部65の径方向外側部分は、その外端位置にて環状部材66の外周面を覆う外周シール74と、外周シール74からシリンダ内外方向内側に延出する円環状のシールリップ75とを有している。さらに、シール部65は、径方向中間部分のシリンダ内外方向内側に、シリンダ内外方向内側に向けて突出し、突出先端側ほど拡径するように広がるテーパ状のチェックリップ76を有している。
ダストリップ72は、全体として環状部材66からシリンダ内外方向外側に離れるほど内径が小径となる先細筒状をなしており、その外周部には、上記したスプリング68を嵌合させる環状溝78が径方向内方に凹むように形成されている。
オイルリップ73は、全体として環状部材66からシリンダ内外方向内側に離れるほど小径となる先細筒状をなしており、その外周部には、上記したスプリング69が嵌合される環状溝79が径方向内方に凹むように形成されている。
シール部材21は、ダストリップ72が大気側つまりシリンダ内外方向の外側に配置され、オイルリップ73がシリンダ内外方向の内側に配置された状態で、外周シール74において外筒14の胴部材25の内周部に密封接触することになり、この状態で環状部材66の位置がロッドガイド20の環状凸部59と外筒14の加締められた係止部28とに挟持されて係止される。この際に、シール部材21は、シールリップ75が、ロッドガイド20の環状凸部59と外筒14との間に配置されて、これらに密封接触する。また、オイルリップ73がロッドガイド20の大径穴部55内に径方向の隙間をもって配置される。
そして、シリンダ19に取り付けられた状態のシール部材21には、ダストリップ72およびオイルリップ73の内側にピストンロッド15の主軸部38が挿通されることになる。この状態で、ピストンロッド15はその一端がシリンダ19の一端から突出することになり、ダストリップ72は、シリンダ19のピストンロッド15が突出する一端側に設けられ、オイルリップ73は、ダストリップ72のシリンダ内外方向の内側に設けられることになる。
ダストリップ72の環状溝78に嵌合されるスプリング68は、ダストリップ72のピストンロッド15への密着方向の締付力を一定状態に保つためのもので、また、設計仕様を満足させるための締付力の調整にも用いられる。オイルリップ73の環状溝79に嵌合されるスプリング69は、オイルリップ73のピストンロッド15への密着方向の締付力を調整する。
シール部65のチェックリップ76は、ロッドガイド20の最大径穴部54の軸直交方向に沿う平坦な底面に所定の締め代を持って全周に渡り密封接触可能となっている。ここで、室16からロッドガイド20とピストンロッド15との隙間を介して漏れ出た油液は、シール部材21のチェックリップ76よりもこの隙間側の主に大径穴部55により形成される室85に溜まることになる。チェックリップ76は、この室85とロッドガイド20の連通穴61との間にあり、室85の圧力が、リザーバ室13の圧力よりも所定量高くなった時に開いて室85に溜まった油液を連通穴61を介してリザーバ室13に流す。つまり、チェックリップ76は、室85からリザーバ室13への方向にのみ油液の流通を許容し逆方向の油液およびガスの流通を規制する逆止弁として機能する。
上記のシール部材21は、ダストリップ72がその締め代およびスプリング68による緊迫力でピストンロッド15に密着して気密性を保持することになり、外部露出時にピストンロッド15に付着した異物の進入を主にこのダストリップ72が規制することになる。また、オイルリップ73もその締め代およびスプリング69による緊迫力でピストンロッド15に密着して気密性を保持することになる。オイルリップ73は、ピストンロッド15に付着した油液をピストンロッド15の外部への進出時に掻き取ってその外部への漏出を規制し室85に留めることになる。
摩擦部材22は、ロッドガイド20の中径穴部56内に嵌合されることになり、よって、シール部材21よりシリンダ19の内部側に配置されている。摩擦部材22は、その内周部においてピストンロッド15の主軸部38の外周面37に圧接することになり、ピストンロッド15への摩擦抵抗を発生させる。なお、図2,図3においては、ピストンロッド15を除いた状態を示しており、摩擦部材22も、ピストンロッド15が挿通される前の自然状態となっている。そして、挿通された場合のピストンロッド15の主軸部38の外周面37を仮想線(二点鎖線)で示している。すなわち、図2,図3において、摩擦部材22がピストンロッド15に食い込んでいるわけではない。
図2に示すように、摩擦部材22は、ニトリルゴムやフッ素ゴムなどの弾性ゴム材料からなる環状の弾性ゴム部91と、弾性ゴム部91が固着される金属製の環状のベース部92とからなる一体成形品である。摩擦部材22は、ベース部92においてロッドガイド20の中径穴部56内に嵌合され、弾性ゴム部91において、ピストンロッド15の主軸部38の外周面37に摺接する。ベース部92は、弾性ゴム部91の形状を維持し、固定のための強度を得るためのものである。
図3に片側の断面を示すように、摩擦部材22は、ベース部92が、平坦な有孔円板状の底部101と、底部101の外周側から軸方向に延びる円筒状の筒部102とから構成される円環状をなしている。筒部102は底部101の外周側から軸方向一側のみに延びている。これら底部101および筒部102は中心軸を一致させており、底部101に対し筒部102は垂直に延出している。ベース部92は、例えば平板状の素材から例えばプレス成形により形成されている。
底部101は、軸方向の筒部102側の円形平坦面からなる内底面103と、径方向の筒部102とは反対側の円筒面からなる内端面104と、軸方向の筒部102とは反対側の円形平坦面からなる外底面105とを有している。内底面103の内周端部は、内端面104の軸方向の一端部に繋がっており、外底面105の内周端部は、内端面104の軸方向の他端部に繋がっている。
筒部102は、径方向の底部101側の円筒面からなる内周面106と、軸方向の底部101とは反対側の円形平坦面からなる先端面107と、径方向の底部101とは反対側の円筒面からなる外周面108とを有している。内周面106の軸方向の底部101とは反対側の端部は先端面107の内径部に繋がっており、外周面108の軸方向の底部101とは反対側の端部は先端面107の外径部に繋がっている。内底面103と内周面106との相互近接側には円環状の内側R面取り109が形成されており、外底面105と外周面108との相互近接側にも円環状の外側R面取り110が形成されている。
ベース部92は、内端面104と内周面106と外周面108とが中心軸線を一致させており、内底面103と外底面105と先端面107とは、この中心軸線に対して直交するように広がっている。ベース部92は、その最も小径の内側端が、底部101の内端面104となっている。よって、内端面104は、ベース部92の底部101においても最も小径となる。
弾性ゴム部91は、ベース部92と中心軸を一致させた円環状をなしており、ベース部92の筒部102の径方向内側かつ底部101の軸方向の筒部102側に形成される主体部121と、主体部121の内周部の軸方向の底部101側の端部から軸方向外方に延出して底部101の内周側に形成される内側被覆部122とを有している。
主体部121は、外周側の筒部固着面126でベース部92の筒部102の内周面106に固着され、筒部固着面126の軸方向の一側に繋がる角部固着面127でベース部92の内側R面取り109に固着され、角部固着面127の筒部固着面126とは反対側に繋がる底部固着面128でベース部92の底部101の内底面103に固着されている。内側被覆部122は、底部固着面128の角部固着面127とは反対側に繋がる内周固着面129でベース部92の底部101の内端面104に固着されている。弾性ゴム部91は、ベース部92に接触する部分が全面的にベース部92に固着されている。
弾性ゴム部91は、主体部121の底部固着面128とは軸方向反対向きに、ベース部92に固着されずに露出する露出面135を有している。また、弾性ゴム部91は、主体部121および内側被覆部122の内周側にもベース部92に固着されずに露出する内周面136を有している。
弾性ゴム部91は、その内周部が、摩擦部材22の中で最小径となる最小内径部137と、最小内径部137の軸方向両側にあって最小内径部137から離れるほど大径となるように拡径するテーパ状の第1拡径部138および第2拡径部139とを有している。第1拡径部138および第2拡径部139のうち、第1拡径部138は軸方向の露出面135側に配置され、第2拡径部139は軸方向の露出面135とは反対側に配置されている。また、弾性ゴム部91は、その内周部が、第2拡径部139の最小内径部137とは反対側に繋がる一定径の定径部140と、定径部140の第2拡径部139とは反対側に繋がるテーパ部145とを有している。テーパ部145は、定径部140から離れるほど小径となるテーパ状である。
言い換えれば、弾性ゴム部91には、内周側に、最小内径部137と最小内径部137の軸方向両側の第1拡径部138および第2拡径部139と定径部140とテーパ部145とが設けられており、第1拡径部138および第2拡径部139の境界部分が最小内径部137となっている。第1拡径部138および第2拡径部139は、弾性ゴム部91の軸方向において、第1拡径部138がベース部92の底部101から遠い側に、第2拡径部139が底部101に近い側に配置されている。
最小内径部137、第1拡径部138、第2拡径部139、定径部140およびテーパ部145は、いずれも弾性ゴム部91の周方向の全周にわたって連続する円環状である。
第1実施形態において、第2拡径部139は、最小内径部137から離れるほど大径となるように拡径するテーパ状の拡径本体部201と、拡径本体部201よりも径方向内方に突出する複数、具体的には4カ所の凸部であるリブ202とを有している。リブ202は、拡径本体部201の周方向の全周にわたって連続する環状であり、拡径本体部201の中心軸線を中心とする円環状である。よって、複数のリブ202は、全部が平行に形成されている。
複数のリブ202は、拡径本体部201の軸方向に等間隔で配置されており、拡径本体部201から径方向内方に同等に突出している。複数のリブ202は、中心軸線を含む面での断面が円弧状となるように拡径本体部201から突出している。複数のリブ202は、拡径本体部201の軸方向の中間範囲に形成されており、言い換えれば、第2拡径部139の軸方向の両端部は拡径本体部201となっている。
第2拡径部139は、複数のリブ202が間隔をあけて形成されることにより、これらリブ202の内周端部よりも径方向外側に凹む凹部である凹溝203が、複数、具体的には3カ所形成されている。凹溝203は、拡径本体部201の周方向の全周にわたって連続する環状であり、拡径本体部201の中心軸線を中心とする円環状である。よって、複数の凹溝203は、全部が平行に形成されている。
複数の凹溝203は、拡径本体部201の軸方向に等間隔で配置されており、複数のリブ202の内周端部から径方向内方に同等に凹んでいる。複数の凹溝203は、拡径本体部201の軸方向の中間範囲に形成されている。
以上により、第2拡径部139の内周面212には、複数の凹溝203および複数のリブ202が形成されており、言い換えれば、複数の凹凸が形成されている。第1拡径部138には、このような凹凸は形成されていない。
弾性ゴム部91の内周面136は、第1拡径部138の凹凸のない滑らかなテーパ面からなる内周面211(第1当接面)と、第2拡径部139の凹凸を有するテーパ状の内周面212(第2当接面)と、定径部140の凹凸のない滑らかな円筒面からなる内周面213と、テーパ部145の凹凸のない滑らかなテーパ面からなる内周面214とで構成されている。第1拡径部138の内周面211は、第1拡径部138から最小内径部137までの間に設けられ、第2拡径部139の内周面212は、最小内径部137から第2拡径部139までの間に設けられている。第2拡径部139の内周面212は、拡径本体部201の凹凸のない滑らかなテーパ面からなる本体内周面215と、複数のリブ202のそれぞれの突出内周面216とで構成されている。
一方の第1拡径部138のテーパ面状の内周面211の軸方向における最小内径部137とは反対側の端部が露出面135に繋がっており、他方の第2拡径部139のテーパ面状の本体内周面215の最小内径部137とは反対側の端部が定径部140の円筒面状の内周面213に繋がっている。
最小内径部137は、主体部121に形成されており、軸方向位置をベース部92の筒部102と重ね合わせている。言い換えれば、最小内径部137は、ベース部92の底部101に対し軸方向位置をずらしている。
複数のリブ202は、いずれも主体部121に形成されており、軸方向位置をベース部92の筒部102と重ね合わせている。言い換えれば、複数のリブ202は、ベース部92の底部101に対し軸方向位置をずらしている。
上述したように、弾性ゴム部91は、ベース部92と中心軸を一致させているため、露出面135、第1拡径部138の内周面211、最小内径部137、第2拡径部139の内周面212、定径部140の内周面213およびテーパ部145の内周面214が、ベース部92と中心軸を一致させている。よって、第2拡径部139の拡径本体部201の本体内周面215および複数のリブ202の突出内周面216も、ベース部92と中心軸を一致させている。この中心軸が、摩擦部材22の中心軸となっている。第2拡径部139の複数のリブ202は、摩擦部材22の中心軸を中心とし摩擦部材22の周方向の全周にわたって連続する円環状をなしており、摩擦部材22の軸方向に間隔をあけている。
弾性ゴム部91は、主体部121の露出面135の筒部102側つまり径方向外側に、露出面135の径方向内側の主面部150よりも軸方向の底部101側に底部101まで到達しない範囲で凹む凹状部151が形成されている。露出面135の主面部150は、摩擦部材22の中心軸を中心とする円環状をなしており、摩擦部材22の中心軸に直交する面内に配置される円形平坦面からなっている。また、凹状部151は、摩擦部材22の中心軸を中心とし摩擦部材22の周方向の全周にわたって連続する円環状をなしており、径方向において底部101の筒部102側と位置を重ね合わせるように形成されている。
凹状部151は、主体部121の軸方向厚さの半分に満たない深さに形成されている。凹状部151は、摩擦部材22の中心線を含む断面による形状が円弧状をなして軸方向の底部101側に凹む凹底面152と、凹底面152の径方向外側の端部から、軸方向の底部101とは反対側に、底部101から離れるほど大径となるように傾斜して延出するテーパ面からなる外側延出面153と、凹底面152の径方向内側の端部から、軸方向の底部101とは反対側に、底部101から離れるほど小径となるように傾斜して延出するテーパ面からなる内側延出面154とを有している。凹状部151は、凹底面152の軸方向の底部101側の端部つまり底位置が、深さが最も深い最深部155となっている。凹底面152、外側延出面153および内側延出面154も摩擦部材22の中心軸を中心として形成されており、最深部155も摩擦部材22の中心軸を中心とした円形状をなしている。
弾性ゴム部91の主体部121は、凹状部151の径方向の筒部102側に、凹状部151の最深部155より軸方向の浅い位置まで延びる延出部160を有している。延出部160は、内周面が、凹底面152の最深部155よりも径方向外側部分および外側延出面153からなっており、外周面が筒部固着面126からなっている。この延出部160の軸方向先端位置は、主面部150よりも若干底部101側となっており、ベース部92の筒部102の先端面107よりも所定量底部101側となっている。言い換えれば、ベース部92の筒部102の内周面106は、その先端面107側の一部を除いて、延出部160を含む弾性ゴム部91で被覆されている。
凹状部151の最深部155の深さは、最小内径部137の軸方向位置より浅くなっている。つまり、最深部155は、摩擦部材22の軸方向において、最小内径部137よりも底部101とは反対側に位置しており、第1拡径部138および第2拡径部139のうちの第1拡径部138と位置を重ね合わせている。第1拡径部138の複数のリブ202は、摩擦部材22の軸方向において、凹状部151と位置をずらしている。
弾性ゴム部91は、主面部150と内側延出面154との境界位置から底部101の方向に摩擦部材22の中心線に平行に延ばした線と内側延出面154とのなす角の角度が、最小内径部137から底部101の方向に摩擦部材22の中心線に平行に延ばした線と第2拡径部139の本体内周面215とのなす角の角度よりも大きくなっている。言い換えれば、第2拡径部139の本体内周面215の底部101とは反対側への延長面と、凹状部151の径方向内側の内側延出面154とが、軸方向に底部101から離れるにしたがい径方向に近づくようになっている。
弾性ゴム部91は、第1拡径部138の内周面211と第2拡径部139の本体内周面215とのなす角が120°以上の鈍角とされている。最小内径部137から底部101の方向に摩擦部材22の中心線に平行に延ばした線と第2拡径部139の本体内周面215とのなす角の角度は、最小内径部137から底部101とは反対の方向に摩擦部材22の中心線に平行に延ばした線と第1拡径部138の内周面211とのなす角の角度よりも大きくなっている。
上記構造の摩擦部材22は、図2に示すように、ベース部92の筒部102が、ベース部92の底部101からシリンダ内外方向外側に突出する姿勢で、ロッドガイド20の大径穴部55側から中径穴部56に嵌合される。このとき、摩擦部材22は、ベース部92の筒部102が外周面108において中径穴部56の内周面に嵌合し、底部101が外底面105において中径穴部56の底面に当接する。弾性ゴム部91の内周側においては、第1拡径部138が最小内径部137よりも軸方向のシール部材21側に配置され、第2拡径部139が最小内径部137よりも軸方向のシール部材21とは反対側、すなわちピストン18側に配置される。
そして、摩擦部材22には、弾性ゴム部91の内側にピストンロッド15の主軸部38が、所定の締め代をもって挿通されることになり、よって、摩擦部材22は、弾性ゴム部91が径方向外側に弾性変形しつつピストンロッド15の主軸部38に密着する。その際に、摩擦部材22は、図3に示す最小内径部137と、第1拡径部138の最小内径部137側の部分と、第2拡径部139の最小内径部137側の部分とでピストンロッド15の主軸部38に密着する。そして、ピストンロッド15がシリンダ内外方向に移動すると、弾性ゴム部91がピストンロッド15に摺接する。その際に、摩擦部材22は、摩擦特性の調整を行うことになる。
図2に示すように、摩擦部材22を嵌合させた状態でロッドガイド20の中径穴部56と摩擦部材22との間には、中径穴部56に形成された連通溝58で連通路161が形成されることになる。この連通路161は、ロッドガイド20の小径穴部57と大径穴部55側とを連通させる。すなわち、この連通路161は、小径穴部57内のカラー62よりも中径穴部56側に形成された室162と、大径穴部55側の室85とを連通させて、これらの差圧を小さくする。言い換えれば、連通路161は、摩擦部材22の軸方向両側を連通させて摩擦部材22の軸方向両側の差圧を小さくする。
小径穴部57内の室162は、カラー62とピストンロッド15との微少隙間を介して室16に連通しており、よって、連通路161は室85と室16とを連通させて、これらの差圧を小さくする。よって、摩擦部材22は、積極的にシールとしての役割を果たすものではない。
なお、連通路161に代えて、または、加えて、摩擦部材22の内周に軸方向両側の差圧を小さくする連通路を設けてもよい。また、連通路161は常時連通していなくとも、例えば、シリンダ19内から外側への逆止弁を設けてもよい。ようは、摩擦部材22が完全なシールとして作用するものでなければよい。
ピストンロッド15の主軸部38は、ピストンロッド15が緩衝器11の全長を縮める縮み側に移動すると、ピストン18側の部分が内筒12内の油液中に入ることになり、その後、ピストンロッド15が緩衝器11の全長を伸ばす伸び側に移動すると、油液中に入っていた部分がロッドガイド20、摩擦部材22およびシール部材21を通ってシリンダ19の外部側に向け移動することになる。その際に、主軸部38には、外周面37に油液が付着していることになるが、この油液は、最終的にシール部材21のオイルリップ73で掻き取られて室85に留まる。
摩擦部材22は、図3に示す弾性ゴム部91の露出面135が、図2に示す室85を形成することになり、図3に示す定径部140の内周面213およびテーパ部145の内周面214が、図2に示す室162を形成することになる。このため、摩擦部材22は、露出面135側が室85の油液に接触し、テーパ部145側が室162の油液に接触する。
摩擦部材22は、弾性ゴム部91がピストンロッド15の主軸部38に密着する際に径方向外側に押圧されて弾性変形することになる。すると、図3に示す第1拡径部138の内周面211において主軸部38の外周面37に当接し、第2拡径部139の内周面212において主軸部38の外周面37に当接し、これらの間の最小内径部137において主軸部38の外周面37に当接する。
以上に述べた第1実施形態の緩衝器11は、上記したように、ピストンロッド15が縮み側に移動する場合には、ピストン速度が遅い領域では、図示略の固定オリフィスによるオリフィス特性の減衰力を発生させることになり、ピストン速度が速い領域では、ディスクバルブ41がピストン18から離れてバルブ特性の減衰力を発生させることになる。また、ピストンロッド15が伸び側に移動する場合には、ピストン速度が遅い領域では、図示略の固定オリフィスによるオリフィス特性の減衰力を発生させることになり、ピストン速度が速い領域では、ディスクバルブ42がピストン18から離れてバルブ特性の減衰力を発生させることになる。
上記の図示略の固定オリフィスおよびディスクバルブ41,42による油圧減衰力を発生させる油圧減衰領域に対し、ピストン速度がさらに遅い領域は、基本的に図示略の固定オリフィスおよびディスクバルブ41,42による減衰力が殆ど発生しないため、常に発生しているシール部材21および摩擦部材22によるピストンロッド15への弾性力および摩擦抵抗とピストン18の内筒12への摩擦抵抗とが減衰力の主発生源となる。このような摩擦領域において、摩擦部材22の設定によってピストンロッド15への作用力すなわち軸力を適正化することができる。
ピストンロッド15は、縮み側に移動する際には、摩擦部材22のベース部92に対してシリンダ内外方向内側、すなわちシール部材21とは反対側に移動する。すると、摩擦部材22の弾性ゴム部91は、ピストンロッド15の主軸部38に密着している、図3に示す最小内径部137、第1拡径部138の最小内径部137側の部分および第2拡径部139の最小内径部137側の部分が、摩擦で主軸部38の外周面37とともに移動してシール部材21とは反対側に変形する。
その際に、弾性ゴム部91は、ベース部92で支持されていることから、第1拡径部138が内周面211の主軸部38の外周面37への密着を強め、第2拡径部139が内周面212の主軸部38の外周面37への密着を弱める方向のモーメントを生じることになる。その結果、弾性ゴム部91は、第1拡径部138の内周面211が主体となって主軸部38の外周面37へ当接する状態となる。そして、この状態のまま、第1拡径部138が主体となって、移動する主軸部38の外周面37に対し摺接する。すなわち、摩擦部材22は、ピストンロッド15が縮み側に移動する際には、第1拡径部138の内周面211がピストンロッド15に対する摺動面となる。
このとき、ピストンロッド15と摺接する第1拡径部138の内周面211には、第2拡径部139のようなリブ、すなわち油液を保持するための凹溝が形成されていないため、摩擦力は大きくなる。言い換えれば、第1拡径部138の内周面211は、主軸部38の外周面37との間に油溜まりを形成するようにはなっていないため、摩擦係数μ、すなわち摩擦力を小さく抑えることはできない。
ピストンロッド15は、伸び側に移動する際には、摩擦部材22のベース部92に対してシリンダ内外方向外側、すなわちシール部材21側に移動する。すると、摩擦部材22の弾性ゴム部91は、ピストンロッド15の主軸部38に密着する、最小内径部137、第1拡径部138の最小内径部137側の部分および第2拡径部139の最小内径部137側の部分が、摩擦で主軸部38の外周面37とともに移動してシール部材21側に変形する。
その際に、弾性ゴム部91は、ベース部92で支持されていることから、第1拡径部138が内周面211の主軸部38の外周面37への密着を弱め、第2拡径部139が内周面212の主軸部38の外周面37への密着を強める方向のモーメントを生じることになる。その結果、第2拡径部139の内周面212が主体となって主軸部38の外周面37へ当接する状態となる。そして、この状態のまま、第2拡径部139が主体となって、移動する主軸部38の外周面37に対し摺接する。すなわち、摩擦部材22は、ピストンロッド15が伸び側に移動する際には、第2拡径部139の内周面212がピストンロッド15に対する摺動面となる。
このとき、ピストンロッド15と摺接する第2拡径部139の内周面212には、複数のリブ202が形成されているため、第2拡径部139の内周面212と主軸部38の外周面37との間には、隣り合うリブ202同士の間に形成された凹溝203内に油液が保持されることになって、縮み側に移動する場合よりも、摩擦力を小さく抑えることになる。言い換えれば、第2拡径部139の内周面212には、主軸部38の外周面37との間に複数の油溜まりを形成する凹溝203が形成されているため、摩擦係数μ、すなわち摩擦力を小さく抑えることができる。
以上のように、摩擦部材22の弾性ゴム部91は、第1拡径部138のピストンロッド15への当接面である内周面211と比して、第2拡径部139のピストンロッド15への当接面である内周面212の方が、摩擦力、すなわち摩擦係数μが小さくなっている。言い換えれば、この摩擦部材22が設けられた緩衝器11では、ピストンロッド15に、摩擦部材22によって、シリンダ19の外側方向への移動は動きやすく、シリンダ19の内側方向への移動は動き難くなるよう軸力を付与することになる。さらに言い換えれば、摩擦部材22は、ピストンロッド15に、伸び側が縮み側よりも小さい軸力となる特性を付与する。
上記した特許文献1には、ピストンロッドに摺接する摩擦部材を設け、この摩擦部材の軸方向両側を連通する連通路を設けた液圧緩衝器が記載されている。また、上記した特許文献2には、このような摩擦部材として、円環状の弾性ゴム部と、有孔円板状の底部および円筒状の筒部とからなる金属製のベース部とを有するものが記載されている。
摩擦部材を用いた緩衝器では、ピストン速度が0からの動き始めの摩擦領域において、摩擦部材はピストンロッドと滑りを生じずゴムの弾性変形によるバネ力が発生し、このバネ力が作用力となる(動ばね領域)。その後、ある程度(0.1mm)以上ピストンロッドが動くと、摩擦部材とピストンロッドとの間で滑りが発生し、動摩擦力が発生することになる(動摩擦領域)。
この摩擦領域における動ばね領域を拡大し、動摩擦領域を小さくすることで、油圧減衰領域への接続を滑らかにすることと、ピストン速度の上昇に対する減衰力の上昇の傾きを大きくすることとが可能になり、その結果、高周波のざらざらするような振動を抑えて乗り心地を良くし、ロールの始まりや収まり時に力を発生することになって操縦安定性がより良くなることになる。特許文献2の摩擦部材を用いた緩衝器では、動摩擦領域が減少し、ピストン速度の上昇に対して滑らかに減衰力が上がるように特性が変化して、油圧減衰力に滑らかに繋がることになり、良好な減衰力特性を得ることができるようになっている。
ところで、自動車のサスペンション装置に使用されている緩衝器において、摩擦部材によりピストンロッドに付与される伸び側の軸力をさらに小さくしたいという要望がある。
第1実施形態に係る緩衝器11によれば、摩擦部材22において、弾性ゴム部91の縮み行程でのピストンロッド15との当接面である第1拡径部138の内周面211と比して、伸び行程でのピストンロッド15との当接面である第2拡径部139の内周面212は、摩擦力すなわち摩擦係数μが小さい。このように、摩擦部材22が、弾性ゴム部91の内周面212の摩擦力によって、ピストンロッド15に付与する伸び側の軸力をさらに小さくすることができる。したがって、良好な減衰力特性を得ることができる。
具体的に、弾性ゴム部91には、ピストンロッド15が伸び側に移動する際に摺接する第2拡径部139の内周面212に、複数のリブ202が形成されており、隣り合うリブ202同士の間に形成された複数の凹溝203内に油液が保持されることになって摩擦力を小さく抑える。他方、弾性ゴム部91には、ピストンロッド15が縮み側に移動する際に摺接する第1拡径部138の内周面211には、リブすなわち凹溝が形成されておらず、ピストンロッド15が伸び側に移動する場合よりも、摩擦力は大きくなる。このように、弾性ゴム部91の内周面211,212のうちの内周面212のみに複数のリブ202および凹溝203を形成することによって、ピストンロッド15に付与する伸び側の軸力をさらに小さくするため、簡素な構造で、このような軸力をピストンロッド15に付与することができる。
以上の第1実施形態においては、ピストンロッド15が伸び側に移動する際に摺接する第2拡径部139の内周面212に複数の円環状のリブ202を形成することによって油液を保持する場合を例にとり説明したが、ピストンロッド15が伸び側に移動する際に摺接する第2拡径部139の内周面212に油液を保持可能な構造部を設ければよい。例えば、図4に示す変形例1の摩擦部材22aや、図5に示す変形例2の摩擦部材22b、図6に示す変形例3の摩擦部材22cを用いることが可能である。
「変形例1」
図4に示すように、変形例1の摩擦部材22aは、摩擦部材22の弾性ゴム部91とは一部異なる弾性ゴム部91aを有している。図4においても、ピストンロッド15が挿通される前の自然状態の摩擦部材22aを示しており、挿通された場合のピストンロッド15の主軸部38の外周面37を仮想線(二点鎖線)で示している。
摩擦部材22aは、弾性ゴム部91aの主体部121aおよび内側被覆部122aに形成された第2拡径部139aが、上記と同様の拡径本体部201と、拡径本体部201よりも径方向内方に突出する多数の凸部である粒状の突起232とを有している。これらの突起232は、略均等な密度で拡径本体部201に配置されており、拡径本体部201から径方向内方に同等に突出している。これらの突起232は、拡径本体部201の中心軸線を含む面での断面が円弧状となるように拡径本体部201から突出している。これらの突起232は、拡径本体部201の軸方向の中間範囲に形成されており、言い換えれば、第2拡径部139aの軸方向の両端部は拡径本体部201となっている。
第2拡径部139aは、複数の突起232が間隔をあけて形成されることにより、これら突起232の突出先端部よりも径方向外側に凹む凹部である複数の凹部233が形成されている。複数の凹部233は、拡径本体部201の周方向の全周にわたって連続するとともに、拡径本体部201の軸方向の全長にわたって連続する。
変形例1においては、弾性ゴム部91aの内周面136aのうちの第2拡径部139aの内周面212aに、複数の凹部233および複数の突起232が形成されており、言い換えれば、複数の凹凸が形成されている。第1拡径部138には、このような凹凸は形成されていない。
第2拡径部139aの内周面212a(第2当接面)は、拡径本体部201の凹凸のない滑らかなテーパ面状の本体内周面215aと、多数の突起232のそれぞれの突出内周面235とで構成されている。
このような変形例1においても、ピストンロッド15が伸び側に移動する際に摺接する第2拡径部139aの内周面212aに油液を保持可能な凹部233が形成されているため、上記と同様、ピストンロッド15に付与する伸び側の軸力をさらに小さくすることができる。突起232にかえて拡径本体部201の本体内周面215aから径方向外方に凹む多数の凹部を形成しても良い。
「変形例2」
図5に示すように、変形例2の摩擦部材22bは、摩擦部材22の弾性ゴム部91とは一部異なる弾性ゴム部91bを有している。図5においても、ピストンロッド15が挿通される前の自然状態の摩擦部材22bを示しており、挿通された場合のピストンロッド15の主軸部38の外周面37を仮想線(二点鎖線)で示している。
摩擦部材22bは、弾性ゴム部91bの主体部121bおよび内側被覆部122bに形成された第2拡径部139bが、上記と同様の拡径本体部201と、拡径本体部201よりも径方向内方に突出する複数の凸部である傾斜リブ242とを有している。傾斜リブ242は、拡径本体部201の中心軸線に直交する面に対して傾斜しており、楕円形状をなしている。複数の傾斜リブ242は、全部が平行をなすように形成されている。
複数の傾斜リブ242は、拡径本体部201の軸方向に等間隔で配置されており、拡径本体部201から径方向内方に同等に突出している。複数の傾斜リブ242は、それぞれの中心軸線を含む面での断面が円弧状となるように拡径本体部201から突出している。複数の傾斜リブ242は、拡径本体部201の軸方向の中間所定位置から定径部140側の端部までの範囲に形成されており、言い換えれば、第2拡径部139bの軸方向の最小内径部137側の端部は拡径本体部201となっている。
第2拡径部139bは、複数の傾斜リブ242が間隔をあけて形成されることにより、これらの内周端部よりも径方向外側に凹む凹部である傾斜凹溝243が、複数形成されている。傾斜凹溝243は、拡径本体部201の中心軸線に直交する面に対して傾斜しており、楕円形状をなしている。
複数の傾斜凹溝243は、拡径本体部201の軸方向に等間隔で配置されており、複数の傾斜リブ242の内周端部から径方向内方に同等に凹んでいる。複数の傾斜凹溝243は、拡径本体部201の軸方向の中間所定位置から定径部140側の端部までの範囲に形成されている。
変形例2においても、弾性ゴム部91bの内周面136bのうちの第2拡径部139bの内周面212b(第2当接面)に、複数の傾斜凹溝243および複数の傾斜リブ242が形成されており、言い換えれば、複数の凹凸が形成されている。第1拡径部138には、このような凹凸は形成されていない。
第2拡径部139bの内周面212bは、拡径本体部201の凹凸のない滑らかなテーパ面状の本体内周面215bと、複数の傾斜リブ242のそれぞれの突出内周面245とで構成されている。
このような変形例2においても、ピストンロッド15が伸び側に移動する際に摺接する第2拡径部139bの内周面212bに油液を保持可能な傾斜凹溝243が形成されているため、上記と同様、ピストンロッド15に付与する伸び側の軸力をさらに小さくすることができる。
「変形例3」
図6に示すように、変形例3の摩擦部材22cは、摩擦部材22の弾性ゴム部91とは一部異なる弾性ゴム部91cを有している。図6においても、ピストンロッド15が挿通される前の自然状態の摩擦部材22cを示しており、挿通された場合のピストンロッド15の主軸部38の外周面37を仮想線(二点鎖線)で示している。
摩擦部材22cは、弾性ゴム部91cの主体部121cがベース部92の筒部102から全体的に離間しており、主体部121の底部固着面128とは軸方向反対向きの露出面135cが、径方向内側の主面部150と、主面部150の外周縁部からテーパ面状をなして延出するテーパ面301とからなっている。テーパ面301は、主面部150から軸方向に離れるほど大径となる凹凸のない滑らかなテーパ面からなっている。テーパ面301は、主面部150とは反対側の端部が、ベース部92の底部101の内底面103の径方向の中間位置に接続されている。
弾性ゴム部91cは、最小内径部137が上記よりも主面部150側に形成されており、よって、第1拡径部138よりも第2拡径部139の方が軸方向に長くなっている。そして、第2拡径部139には、上記よりも多い複数、具体的には8カ所のリブ202が形成されており、上記よりも多い複数、具体的には7カ所の凹溝203が形成されている。
このような変形例3においても、ピストンロッド15が伸び側に移動する際に摺接する第2拡径部139の内周面212に油液を保持可能な凹溝203が形成されているため、ピストンロッド15に付与する伸び側の軸力をさらに小さくすることができる。
また、弾性ゴム部91cの主体部121cがベース部92の筒部102から全体的に離間しているため、主体部121cはピストンロッド15が伸び側に移動する際の径方向外方への変形代が大きいため、ピストンロッド15に付与する伸び側の軸力を、より一層小さくすることができる。
ここで、摩擦部材22cの複数のリブ202にかえて、変形例1で述べた多数の突起232を形成したり、変形例2で述べた複数の傾斜リブ242を形成することも可能である。
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態を主に図7に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
第2実施形態においては、第1実施形態の摩擦部材22に対して一部異なる摩擦部材22Aを用いている。なお、図7においても、ピストンロッド15が挿通される前の自然状態の摩擦部材22Aを示しており、挿通された場合のピストンロッド15の主軸部38の外周面37を仮想線(二点鎖線)で示している。
摩擦部材22Aは、弾性ゴム部91とは一部異なる弾性ゴム部460を有している。弾性ゴム部460は、弾性ゴム部91に対し複数のリブ202が形成されていないテーパ状の第2拡径部139Aを有する主体部121Aおよび内側被覆部122Aを含む弾性ゴム部91Aと、弾性ゴム部91Aの第2拡径部139Aの凹凸のない滑らかなテーパ面からなる内周面212Aに設けられたコーティング層461とを有している。コーティング層461は、第1拡径部138の内周面211よりも摩擦力が小となっており、例えば、弾性ゴム部91Aの第2拡径部139Aの内周面212Aにコーティング材を塗布することより形成されている。
弾性ゴム部460においては、弾性ゴム部91Aの第2拡径部139Aに施されたコーティング層461が、第2拡径部462となる。弾性ゴム部460は、第2拡径部462の表面であるコーティング層461の内周面463(第2当接面)においてピストンロッド15の主軸部38の外周面37に当接する。コーティング層461は、シール性を有しており、第1拡径部138を含む弾性ゴム部91Aよりも摩擦係数μが小さい材料からなっている。弾性ゴム部460の内周面136Aは、第1拡径部138の内周面211と、第2拡径部462のコーティング層461の内周面463とを有している。
このように、ピストンロッド15が伸び側に移動する際に摺接する第2拡径部462の内周面463を、ピストンロッド15が縮み側に移動する際に摺接する第1拡径部138の内周面211よりも摩擦係数μ、すなわち摩擦力が小となるコーティング層461で形成することによって、摩擦部材22Aは、ピストンロッド15に付与する伸び側の軸力をさらに小さくする。このため、簡素な構造で、このような軸力をピストンロッド15に付与することができる。したがって、良好な減衰力特性を得ることができる。なお、コーティング層461を塗布で形成する以外にも、別材料を接着等して形成しても良い。
以上の実施形態では複筒式の油圧緩衝器を液圧緩衝器として示したが、単筒式油圧緩衝器、油圧アクティブサスペンション等の液圧緩衝器にも適用可能である。
以上に述べた実施形態の第1の態様は、作動液体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に嵌装され、該シリンダ内を二室に区画するピストンと、前記ピストンに連結されるとともに前記シリンダの外部に延出されるピストンロッドと、前記ピストンロッドに摺接して前記作動液体の前記シリンダから外部への漏洩を防止するシール部材と、前記シール部材よりも前記シリンダの内部側に設けられ、前記ピストンロッドに摺接する環状の弾性ゴム部と該弾性ゴム部が固着される環状のベース部とからなる摩擦部材と、前記摩擦部材の軸方向両側の差圧を小さくする連通路と、を備え、前記弾性ゴム部には、内周側に、最小内径部と該最小内径部の軸方向の前記シール部材側の第1拡径部と前記最小内径部の軸方向の前記シール部材とは反対側の第2拡径部とが設けられ、前記弾性ゴム部は、前記第1拡径部の前記ピストンロッドと当接する第1当接面と比して、前記第2拡径部の前記ピストンロッドと当接する第2当接面の摩擦力が小さい。これにより、良好な減衰力特性を得ることができる。
第2の態様は、第1の態様において、前記ベース部は、有孔円板状の底部と、該底部の外周側から軸方向に延びる筒部とから構成され、前記第2当接面には、複数の凹凸が形成されている。これにより、第2当接面を第1当接面と比して摩擦力が小さくすることが、簡素な構成で実現できる。
第3の態様は、第1の態様において、前記第2当接面は、前記第1当接面よりも摩擦力が小となるコーティング層からなっている。これにより、良好な減衰力特性を簡素な構成で得ることができる。