図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的に及び/又は構造的に対応する部分には同一の参照符号を付与する。以下において、着磁ロータの回転軸に沿う方向をZ1-Z2方向と示し、Z1-Z2方向に直交する一方向をY1-Y2方向と示す。また、Z1-Z2方向及びY1-Y2方向の両方向に直交する方向をX1-X2方向と示す。特に断わりのない限り、X1-X2方向及びY1-Y2方向により規定される面の形状を平面形状とする。
(第1実施形態)
先ず、図1~図5に基づき、着磁ロータ及び回転検出装置の概略構成について説明する。図3は、図1の一部、具体的には回転検出装置の周辺を拡大した図である。拡大図である図3では、便宜上、着磁ロータを直線状に示している。図3では、便宜上、封止樹脂体を省略している。図4に示す回路構成については、特開2017-9411号公報の記載を援用することができる。
図1~図3に示すように、着磁ロータ10は、固定対象である回転体とともに回転する。着磁ロータ10は、たとえば車両において、エンジンのクランクシャフト、車軸などの回転体に固定される。着磁ロータ10は、着磁面10mを有している。本実施形態では、着磁ロータ10が平面略円環の板状をなしており、図2に示すように、着磁ロータ10において回転軸に直交する外周端面(側面)が着磁面10mとされている。図3に示すように、着磁面10mでは、着磁ピッチλ、着磁周期αで、N極10nとS極10sが回転方向に交互に着磁されている。なお、着磁周期α=2×λである。
回転検出装置20は、着磁ロータ10の回転状態を検出する。回転検出装置20は、着磁ロータ10とともに、回転検出システムを構成する。回転検出装置20は、所定の間隙(ギャップ)を有して着磁面10mに対向配置されている。回転検出装置20は、センサチップ21と、バイアス磁石22と、回路チップ23と、リードフレーム24と、封止樹脂体25を備えている。
リードフレーム24は、板厚方向がZ1-Z2方向と略平行となるように配置されている。センサチップ21及び回路チップ23は、リードフレーム24のアイランド24aにおける同じ一面に固定されている。バイアス磁石22は、アイランド24aの一面とは反対の面に固定されている。センサチップ21は、ボンディングワイヤ26を介して回路チップ23と電気的に接続されている。回路チップ23は、ボンディングワイヤ26を介して、リードフレーム24の端子24b~24dと電気的に接続されている。端子24bはグランド(GND)用の端子であり、アイランド24aに連なっている。端子24cは電源(Vcc)用の端子であり、端子24dは出力(Vout)用の端子である。
封止樹脂体25は、センサチップ21、バイアス磁石22、回路チップ23、及びアイランド24aを含むリードフレーム24の一部を一体的に封止している。封止樹脂体25は、たとえばエポキシ系樹脂を用いて形成されている。封止樹脂体25は、たとえばトランスファモールド法により成形されている。端子24b~24dは、Y2方向に延設されて、封止樹脂体25から外部に突出している。
センサチップ21は、着磁ロータ10の回転にともなって抵抗値が変化する磁気抵抗効果素子210が形成された半導体チップである。センサチップ21は、図3に示すように、着磁面10mに直交する検出面21dを有している。この検出面21dに、複数の磁気抵抗効果素子210が形成されている。磁気抵抗効果素子210としては、異方性磁気抵抗効果素子(AMR素子)、トンネル型磁気抵抗効果素子(TMR素子)、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)などを採用することができる。センサチップ21は平面略矩形の板状をなしており、リードフレーム24に対向する下面とは反対の上面が、検出面21dとされている。
センサチップ21は、磁気抵抗効果素子210として、第1素子211、第2素子212、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215を有している。第1素子211、第2素子212、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215は、磁気抵抗効果素子210が直列接続されてなるハーフブリッジ回路として構成されている。第1素子211、第2素子212、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215のそれぞれは、一対の磁気抵抗効果素子210がハの字状に配置されてなる。
図4に示すように、第1素子211は、電源(Vcc)とグランド(GND)との間に直列接続された2つの磁気抵抗効果素子210によって構成されている。第1素子211は、着磁ロータ10の回転にともなって2つの磁気抵抗効果素子210が磁場の影響を受けたときの抵抗値の変化を検出する。第1素子211は、2つの磁気抵抗効果素子210の中点電圧Aを信号として出力する。第2素子212~第5素子215も、第1素子211と同じ構成とされている。第2素子212は、2つの磁気抵抗効果素子210によって構成されており、中点電圧Bを出力する。
第3素子213は、2つの磁気抵抗効果素子210によって構成されており、中点電圧Cを出力する。第4素子214は、2つの磁気抵抗効果素子210によって構成されており、中点電圧Dを出力する。第5素子215は、2つの磁気抵抗効果素子210によって構成されており、中点電圧Eを出力する。
図3に示すように、第1素子211と第2素子212は、素子の中心間距離βが着磁ピッチλ未満となるように配置されている。第3素子213と第4素子214は、素子の中心間距離γが着磁ピッチλ未満となるように配置されている。第5素子215は、第3素子213と第4素子214の並び方向において、第3素子213と第4素子214の間に配置されている。
バイアス磁石22は、センサチップ21、すなわち複数の磁気抵抗効果素子210にバイアス磁界を印加することにより、センサチップ21の磁界の検出感度を一定分だけ上昇させる。本実施形態では、バイアス磁石22が平面略矩形の板状をなしている。バイアス磁石22のN極22n及びS極22sは、X1-X2方向及びY1-Y2方向により規定される面内において並んで配置されている。本実施形態では、N極22n及びS極22sがY1-Y2方向に並んで配置されており、N極22nとS極22sとの境界22bが、Y1-Y2方向に略直交している。また、N極22n及びS極22sの磁極中心を通る磁極中心線22cが、Y1-Y2方向に略平行とされている。バイアス磁石22は、Z1-Z2方向の投影視において、センサチップ21と重なるように配置されている。第1素子211、第2素子212、第3素子213、第4素子214、第5素子215、及びバイアス磁石22の配置の詳細については後述する。
回路チップ23には、センサチップ21の処理回路が形成された半導体チップである。回路チップ23は、差動増幅器230~233と、閾値生成部234と、コンパレータ235,236と、判定部237を有している。本実施形態では、センサチップ21及び回路チップ23が、回路チップ23をY2側として、Y1-Y2方向に並んで配置されている。
差動増幅器230は、信号A,Bの差分である(A-B)を演算し、差動信号S1として出力する。差動増幅器230が、第1素子211及び第2素子212の出力から作動信号を生成する差動部に相当する。差動信号S1は、たとえば図5に示すように、N極10nとS極10sの境界で節となり、磁極中心で振幅が最大又は最小(すなわち、ピーク)となる。
差動増幅器231は、信号E,Cの差分である(E-C)を演算し、その結果を出力する。差動増幅器232は、信号D,Eの差分である(D-E)を演算し、その結果を出力する。差動増幅器233には、差動増幅器231から(E-C)が入力され、差動増幅器232から(D-E)が入力される。差動増幅器233は、(E-C)-(D-E)を演算し、差動信号S2として出力する。すなわち、差動信号S2=2E-(C+D)である。差動増幅器231~233が、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215の出力から作動信号を生成する差動部に相当する。
差動信号S2は、差動信号S1に対して位相差をもった信号となる。差動信号S2は、たとえば図5に示すように、N極10nとS極10sの境界でピークとなり、磁極中心で節となる。
閾値生成部234は、差動信号S1,S2を2値化するための閾値Vthを生成する。閾値生成部234は、たとえば電源とグランドとの間に直列接続された図示しない2つの抵抗により構成され、中点電圧が閾値Vthとして用いられる。
コンパレータ235は、差動信号S1と閾値Vthとを比較して、差動信号S1を2値化した信号S3を生成する。コンパレータ236は、差動信号S2と閾値Vthとを比較して、差動信号S2を2値化した信号S4を生成する。
判定部237は、コンパレータ235,236の出力である信号S3,S4に基づいて、着磁ロータ10の回転方向が正転であるのか、逆転方向であるのかを判定する。判定部237は、着磁ロータ10の回転位置を示す情報及び着磁ロータ10の回転方向を示す情報を、出力端子27(Vout)を介して、図示しない外部機器に出力する。回転位置を示す情報は、上記した信号S3,S4のいずれかに基づく。
正転の場合、たとえば図5に示すように、差動信号S2の振幅は、時刻T1の前で閾値Vthよりも小さく、時刻T1の後で閾値Vthよりも大きくなる。このため、信号S4は、時刻T1でLoからHiに切り替わる。また、差動信号S1の振幅は、時刻T1の前後で閾値Vthよりも大きいため、信号S3は、時刻T1でHiとなる。判定部237は、信号S4がLoからHiに立ち上がり、且つ、信号S3がHiであると、着磁ロータ10が正転していると判定する。
逆転の場合、差動信号S2の振幅は、時刻T1の前で閾値Vthよりも大きく、時刻T1の後で閾値Vthよりも小さくなる。このため、信号S4は、時刻T1でHiからLoに切り替わる。差動信号S1の振幅は、時刻T1の前後で閾値Vthよりも大きいため、時刻T1で信号S3はHiとなる。判定部237は、信号S4がHiからLoに立ち下がり、且つ、信号S3がHiであると、着磁ロータ10が逆転していると判定する。
なお、回転検出装置20は、外部機器に接続される電源端子28(Vcc)及びグランド端子29(GND)を備えている。回転検出装置20は、電源端子28及びグランド端子29介して外部機器から電源が供給される。
次に、図3、図6~図27に基づき、磁気抵抗効果素子210及びバイアス磁石22の配置の詳細について説明する。図6、図8、図11、図16、図20に示す着磁ロータ10は、図3に対応している。たとえば図6において、X2方向の回転が正転、X1方向の回転が逆転を示す。本実施形態では、磁気ベクトルの角度を、反時計方向を正方向として示す。また、素子に作用する磁気ベクトルは、バイアス磁界のほうがロータ磁界よりも大きいものとする。なお、バイアス磁界の磁気ベクトルは、ロータ磁界を含む他の磁界の影響を受けない状態を示しており、合成磁界の磁気ベクトルが、ロータ磁界の影響を受けた状態を示している。
(バイアス磁界の磁気ベクトルの角度と信号の位相との関係)
先ず、図6~図15に基づき、素子に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの角度と信号の位相との関係について説明する。以下では、たとえば図6に示すように、着磁の1周期において、N極10nの磁極中心を回転位置P1とし、N極10n及びS極10sの境界を回転位置P2とする。また、S極10sの磁極中心を回転位置P3とし、S極10s及びN極10nの境界を回転位置P4とする。正転の場合、着磁ロータ10における素子との対向位置は、P1→P2→P3→P4の順に変化する。図8~図15では、素子として第1素子211を例に説明する。また、磁気ベクトルの角度の基準位置をX1軸とする。
図示しない素子に作用する着磁ロータ10の磁気ベクトルの向きは、図6に示すように、回転位置P1のときに、Y1-Y2方向に略平行であって着磁面10mから離れる方向、すなわちY2方向となる。回転位置P3では、回転位置P1とは逆方向、すなわちY1方向となる。回転位置P2,P4では、X方向に略平行であって、互いに逆方向となる。具体的には、回転位置P2のときにX1方向となり、回転位置P4のときにX2方向となる。したがって、ロータ磁界の磁気ベクトルは、図7に示すように、着磁1周期の間に360°回転する。
図8に示すように、バイアス磁石22を配置すると、素子としての第1素子211にバイアス磁界の磁気ベクトルが作用する。図8では、N極22n及びS極22sがN極22nをY1側(着磁ロータ10側)にしてY1-Y2方向に並び、境界22bがY1-Y2方向に略直交するように、バイアス磁石22が配置されている。また、第1素子211が境界22b上に配置されており、第1素子211に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの向きがY2方向となっている。
第1素子211には、バイアス磁界とロータ磁界との合成磁界の磁気ベクトルが作用する。第1素子211に作用するロータ磁界の磁気ベクトルの向きは、上記したように着磁1周期の間に360°回転する。このため、合成磁界の磁気ベクトルは、図9に示すように、着磁ロータ10の回転位置P1~P4に応じて変化する。
回転位置P1の場合、ロータ磁界の磁気ベクトルの向きは、バイアス磁界の磁気ベクトルと同じ方向、すなわちY2方向となる。したがって、合成磁界の磁気ベクトルは、バイアス磁界の磁気ベクトルにロータ磁界の磁気ベクトルが加算されたものとなり、合成磁界の磁気ベクトルの角度θxyは270°となる。回転位置P2の場合、ロータ磁界の磁気ベクトルの向きは、X1方向となる。したがって、合成磁界の磁気ベクトルの角度θxyは、270°よりも大きく、360°よりも小さい値となる。
回転位置P3の場合、ロータ磁界の磁気ベクトルの向きは、バイアス磁界の磁気ベクトルに対して逆方向、すなわちY1方向となる。したがって、合成磁界の磁気ベクトルは、バイアス磁界の磁気ベクトルからロータ磁界の磁気ベクトルが減算されたものとなり、角度θxyは270°となる。回転位置P4の場合、ロータ磁界の磁気ベクトルの向きは、X2方向となる。したがって、合成磁界の磁気ベクトルの角度θxyは、180°よりも大きく、270°よりも小さい値となる。
第1素子211の出力(信号A)は、図10に示すように回転位置P1~P4に応じて変化する。出力信号は、回転位置P1,P3で節、回転位置P2,P4でピークとなる。節のときの角度θxyは270°である。合成磁界の磁気ベクトルが、バイアス磁界の磁気ベクトルと同じ方向(Y2方向)となる回転位置P1,P3において、第1素子211の出力波形は節となる。
図11では、N極22n及びS極22sがN極22nをX2側にしてX1-X2方向に並び、境界22bがX1-X2方向に略直交するように、バイアス磁石22が配置されている。また、第1素子211が、境界22b上に配置されており、第1素子211に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの向きがX1方向となっている。この場合も、合成磁界の磁気ベクトルが、図12に示すように、着磁ロータ10の回転位置P1~P4に応じて変化する。
回転位置P1の場合、ロータ磁界の磁気ベクトルはY2方向となる。したがって、合成磁界の磁気ベクトルの角度θxyは、-90°よりも大きく、0°よりも小さい値となる。回転位置P2の場合、ロータ磁界の磁気ベクトルは、バイアス磁界の磁気ベクトルと同じ方向、すなわちX1方向となる。したがって、合成磁界の磁気ベクトルは、バイアス磁界の磁気ベクトルにロータ磁界の磁気ベクトルが加算されたものとなり、合成磁界の磁気ベクトルの角度θxyは0°となる。
回転位置P3の場合、ロータ磁界の磁気ベクトルはY1方向となる。したがって、合成磁界の磁気ベクトルの角度θxyは、0°よりも大きく、90°よりも小さい値となる。回転位置P4の場合、ロータ磁界の磁気ベクトルは、バイアス磁界の磁気ベクトルに対して逆方向、すなわちX2方向となる。したがって、合成磁界の磁気ベクトルは、バイアス磁界の磁気ベクトルからロータ磁界の磁気ベクトルが減算されたものとなり、角度θxyは0°となる。
第1素子211の出力(信号A)は、図13に示すように回転位置P1~P4に応じて変化する。出力信号は、回転位置P2,P4で節、回転位置P1,P2でピークとなる。節のときの角度θxyは0°である。合成磁界の磁気ベクトルが、バイアス磁界の磁気ベクトルと同じ方向(X1方向)となる回転位置P2,P4において、第1素子211の出力波形は節となる。
図示を省略するが、N極22n及びS極22sがS極22sをY1側(着磁ロータ10側)にしてY1-Y2方向に並び、第1素子211に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの向きがY1方向の場合、第1素子211の信号は、回転位置P1,P3で節となる。節のときの角度θxyは90°である。合成磁界の磁気ベクトルが、バイアス磁界の磁気ベクトルと同じ方向(Y1方向)となる回転位置P1,P3において、第1素子211の出力波形は節となる。
また、N極22n及びS極22sがS極22sをX2側にしてX1-X2方向に並び、第1素子211に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの向きがX2方向の場合、第1素子211の信号は、回転位置P2,P4で節となる。節のときの角度は180°である。合成磁界の磁気ベクトルが、バイアス磁界の磁気ベクトルと同じ方向(X2方向)となる回転位置P2,P4において、第1素子211の出力波形は節となる。
ここで、図14に示すように、信号の位相を定義する。すると、図8~図10に示したように、バイアス磁界の磁気ベクトルの角度が270°の場合、回転位置P1における信号の位相は0°であった。図11~図13に示したように、バイアス磁界の磁気ベクトルの角度が0°の場合、回転位置P1の位相は270°であった。また、上記したように、バイアス磁界の磁気ベクトルの角度が90°の場合、回転位置P1の位相は180°であった。バイアス磁界の磁気ベクトルの角度が180°の場合、回転位置P1の位相は90°であった。
以上をまとめると、第1素子211(素子)に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの角度と、回転位置P1における信号の位相との関係は、図15に示すようになる。図15は、バイアス磁界の磁気ベクトルの角度を変化させることで、信号の位相を変化させることができることを示している。たとえばバイアス磁界の磁気ベクトルの角度を90°変化させると、第1素子211の出力信号の位相を90°変化させることができる。
(2素子の配置)
次いで、第1素子211及び第2素子212とバイアス磁石22との配置について説明する。図16に示すように、本実施形態でのセンサチップ21には、検出面21dに2つの素子として第1素子211及び第2素子212が形成されている。第1素子211及び第2素子212は、第1素子211をX2側としてX1-X2方向に並んで配置されており、これら素子211,212の中心間距離はβとされている。中心間距離βは、ハの字の中心間の距離であり、着磁ピッチλ未満とされている。
ここで、着磁面10mとセンサチップ21との対向方向であるY1-Y2方向に略平行とされ、且つ、検出面21dに沿う線を、基準線L1とする。そして、基準線L1と、第1素子211に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルとのなす角をθ1とし、基準線L1と第2素子212に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルとのなす角をθ2とする。図16では、角度θ1,θ2を分かりやすくするために、バイアス磁界の磁気ベクトルを基準線L1に対して傾けて図示している。
上記したように、本実施形態では、反時計方向を正方向として磁気ベクトルの角度を示す。したがって、バイアス磁界とは異なる磁界が印加されない環境下において、第1素子211に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルが、基準線L1に対して第2素子212側に傾いていると角度θ1>0となり、第2素子212とは反対に傾いていると角度θ1<0となる。一方、第2素子212に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルが、基準線L1に対して第1素子211側に傾いていると角度θ2<0となり、第1素子211とは反対に傾いていると角度θ2>0となる。
第1素子211及び第2素子212は、着磁ロータ10の回転方向においてずれて配置されており、これにより信号A,B(中点電圧A,B)に位相差が生じる。第1素子211及び第2素子212の配置(中心間距離β)起因の位相差は、電気角で(β/α)×360°となる。たとえばβ=λの場合、位相差は180°となる。また、β=λ/2の場合、位相差は90°となる。従来は、第1素子に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの角度と、第2素子に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの角度が等しくなるように、第1素子及び第2素子がバイアス磁石に対して配置されていた。たとえば、第1素子及び第2素子のそれぞれにY2方向の磁気ベクトルが作用するように、第1素子及び第2素子がバイアス磁石に対して配置されていた。したがって、β<λの場合、差動信号S1の振幅が小さくなるという問題があった。
これに対し、本実施形態では、配置(中心間距離β)起因の位相差だけでなく、バイアス磁界の磁気ベクトル起因の位相差も考慮して、第1素子211及び第2素子212がバイアス磁石22に対して配置されている。上記したように、バイアス磁界の磁気ベクトルの角度変化の分、信号A,Bの位相が変化するため、バイアス磁界の磁気ベクトル起因の位相差は、電気角で(θ1-θ2)となる。したがって、信号A,Bの位相差は、(β/α)×360°+(θ1-θ2)となる。
図17は、バイアス磁界の磁気ベクトル起因の位相差である(θ1-θ2)と、第1素子211及び第2素子212の差動信号S1の振幅との関係を示している。図17に示すように、θ1=θ2のとき、差動信号S1の振幅は従来構成と同じとなる。また、差動信号S1の振幅は、(β/α)×360°+(θ1-θ2)=180°を満たすときに最大となる。すなわち、(θ1-θ2)=180°-(β/α)×360°を満たすときに最大となる。ここで、180°-(β/α)×360°=θmと定義する。
差動信号S1の振幅は、0≦(θ1-θ2)≦θmの範囲において、(θ1-θ2)が大きくなるほど増大し、(θ1-θ2)=θmで最大となる。また、θm≦(θ1-θ2)≦2×θmの範囲において、(θ1-θ2)が大きくなるほど減少し、(θ1-θ2)=2×θmで、θ1=θ2のときの振幅と同じになる。したがって、0<(θ1-θ2)<2×θmを満たすように、バイアス磁石22に対して第1素子211及び第2素子212を配置するとよい。これによれば、バイアス磁界の磁気ベクトルの効果により、従来よりも、差動信号S1の振幅を大きくすることができる。特に、(θ1-θ2)=θmを満たすように、バイアス磁石22に対して第1素子211及び第2素子212を配置すると、差動信号S1の振幅を最大化することができる。
図18は、バイアス磁界の磁気ベクトルの効果を示す具体的な信号波形を示している。図18の上段は参考例を示し、下段は差動信号S1の振幅を最大化する場合の例を示している。参考例では、第1素子211及び第2素子212に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの向きが互いに略平行とされている。具体的には、N極22nをY1側としてN極22n及びS極22sがY1-Y2方向に並んで配置され、境界22bがY1-Y2方向に略直交している。そして、第1素子211及び第2素子212に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの向きがともにY2方向とされている。すなわち、θ1=θ2=0°とされている。また、中心間距離β=λ/2とされている。したがって、信号A,Bの位相差は、電気角で90°となる。
参考例と同じ素子配置において、信号A,Bの位相差を180°とするには、(θ1-θ2)=90°とすればよい。たとえば、信号Aの位相を45°進角、すなわち-45°変化させ、信号Bの位相を45°遅角、すなわち+45°変化させればよい。このために、図18の下段では、角度θ1=+45°、角度θ2=-45°となる位置に、第1素子211及び第2素子212を配置している。これにより、バイアス磁界の磁気ベクトル起因の位相差(θ1-θ2)が90°となり、信号A,Bの位相差が電気角で180°となる。
図3及び図19は、バイアス磁石22に対する第1素子211及び第2素子212の配置の具体例を示している。本実施形態では、X1-X2方向の長さが2.8mm、Y1-Y2方向の長さが1.4mm、Z1-Z2方向の長さが0.65mmとされた矩形平板状のバイアス磁石22を採用している。そして、Z1-Z2方向において、バイアス磁石22のアイランド24a側の表面からセンサチップ21の検出面21dまでの距離が、0.7mmとされている。図19の矢印は、バイアス磁石22の磁場分布(磁気シミュレーション結果)を示している。図19では、バイアス磁石22の磁気ベクトルとして、Z1-Z2方向において、バイアス磁石22の表面から0.7mm離れた位置、すなわち検出面21dと同一平面のベクトルを示している。
図3及び図19に示すように、本実施形態では、N極22nとS極22sが、N極22nをY1側(着磁ロータ10側)としてY方向に並んで配置されている。そして、第1素子211及び第2素子212は、S極22sと重なる位置に配置されている。第1素子211及び第2素子212は、境界22bよりも着磁ロータ10から離れた位置に配置されている。X1-X2方向において、第1素子211及び第2素子212は、磁極中心線22cから離れた位置に配置されている。第1素子211は磁極中心線22cよりもX2側に配置され、第2素子212は磁極中心線22cよりもX1側に配置されている。第1素子211及び第2素子212は、磁極中心線22cに対して線対称配置とされている。図19に示すように、第1素子211に作用する磁気ベクトルの向きは、第2素子212側に傾いており、第2素子212に作用する磁気ベクトルの向きは、第1素子211側に傾いている。
(3素子の配置)
次いで、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215とバイアス磁石22との配置について説明する。図20に示すように、本実施形態でのセンサチップ21には、検出面21dに3つの素子として第3素子213、第4素子214、及び第5素子215が形成されている。第3素子213及び第4素子214は、第3素子213をX2側としてX1-X2方向に並んで配置されており、これら素子213,214の中心間距離はγとされている。中心間距離γは、着磁ピッチλ未満とされている。また、第5素子215は、X1-X2方向において、第3素子213と第4素子214の間に配置されている。
ここで、基準線L1と、第3素子213に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルとのなす角をθ3とし、基準線L1と第4素子214に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルとのなす角をθ4とする。図20では、角度θ3,θ4を分かりやすくするために、バイアス磁界の磁気ベクトルを基準線L1に対して傾けて図示している。バイアス磁界とは異なる磁界が印加されない環境下において、第3素子213に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルが、基準線L1に対して第4素子214側に傾いていると角度θ3>0となり、第4素子214とは反対に傾いていると角度θ3<0となる。一方、第4素子214に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルが、基準線L1に対して第3素子213側に傾いていると角度θ4<0となり、第3素子213とは反対に傾いていると角度θ4>0となる。
第3素子213、第4素子214、及び第5素子215は、着磁ロータ10の回転方向においてずれて配置されている。このため、図21に示すように、第3素子213から出力される信号C(中点電圧C)、第4素子214から出力される信号D(中点電圧D)、及び第5素子215から出力される信号E(中点電圧E)の位相に差が生じる。
ここで、信号Eを出力する第5素子215が、第3素子213と第4素子214との間の中間位置に配置されているとする。信号C,Dの位相差が0°よりも大きく180°よりも小さいとき、図22に示すように、信号Eと信号(C+D)は同位相となる。したがって、差動信号S2(=2E-C-D)の振幅は、信号(C+D)の振幅が小さいほど大きくなる。信号C,Dの位相差が180°のとき、図23に示すように、信号C,Dは逆位相となり、信号(C+D)はゼロで一定となる。したがって、差動信号S2の振幅は、信号Eの2倍の値となる。
信号C,Dの位相差が180°よりも大きく、360°よりも小さいとき、図24に示すように、信号Eと信号(C+D)は逆位相となる。したがって、差動信号S2の振幅は、信号(C+D)の振幅が大きいほど大きくなる。信号C,Dの位相差が360°のとき、図25に示すように、信号Eと信号(C+D)は逆位相となり、且つ、信号C,Dは同位相となる。このため、差動信号S2の振幅が最大となる。このように、差動信号S2を大きくするには、信号C,Dの位相差を360°に近づける、より好ましくは一致させるとよい。
信号C,Dの配置(中心間距離γ)起因の位相差は、電気角で(γ/α)×360°となる。たとえばβ=λ/2の場合、位相差は90°となる。従来は、第3素子に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの角度と、第4素子に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの角度が等しくなるように、第3素子及び第4素子がバイアス磁石に対して配置されていた。たとえば、第3素子及び第4素子のそれぞれにY2方向の磁気ベクトルが作用するように、第3素子及び第4素子がバイアス磁石に対して配置されていた。したがって、γ<λの場合、差動信号S2の振幅が小さいという問題があった。
これに対し、本実施形態では、配置(中心間距離γ)起因の位相差だけでなく、バイアス磁界の磁気ベクトル起因の位相差も考慮し、第3素子213及び第4素子214がバイアス磁石22に対して配置されている。上記したように、バイアス磁界の磁気ベクトルの角度変化の分、信号C,Dの位相が変化するため、バイアス磁界の磁気ベクトル起因の位相差は、電気角で(θ3-θ4)となる。したがって、信号C,Dの位相差は、(γ/α)×360°+(θ3-θ4)となる。
図26は、バイアス磁界の磁気ベクトル起因の位相差である(θ3-θ4)と、差動信号S2の振幅との関係を示している。θ3=θ4のとき、差動信号S2の振幅は従来構成と同じとなる。図26に示すように、差動信号S2の振幅は、(γ/α)×360°+(θ3-θ4)=360°を満たすときに最大となる。すなわち、(θ3-θ4)=360°-(γ/α)×360°を満たすときに最大となる。ここで、360°-(γ/α)×360°=θnと定義する。
差動信号S2の振幅は、0≦(θ3-θ4)≦θnの範囲において、(θ3-θ4)が大きくなるほど増大し、(θ3-θ4)=θnで最大となる。また、θm≦(θ3-θ4)≦2×θnの範囲において、(θ3-θ4)が大きくなるほど減少し、(θ3-θ4)=2×θmで、θ3=θ4のときの振幅と同じになる。したがって、0<(θ3-θ4)<2×θnを満たすように、バイアス磁石22に対して第3素子213及び第4素子214を配置するとよい。これによれば、バイアス磁界の磁気ベクトルの効果により、従来よりも、差動信号S2の振幅を大きくすることができる。特に、(θ3-θ4)=θnを満たすように、バイアス磁石22に対して第3素子213及び第4素子214を配置すると、差動信号S2の振幅をより大きくすることができる。
図27は、バイアス磁界の磁気ベクトルの効果を示す具体的な信号波形を示している。図27の上段は参考例を示し、下段は差動信号S2の振幅を最大化する場合の例を示している。参考例では、第3素子213及び第4素子214に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの向きが互いに略平行とされている。具体的には、N極22nをY1側としてN極22n及びS極22sがY1-Y2方向に並んで配置され、境界22bがY1-Y2方向に略直交している。そして、第3素子213及び第4素子214に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの向きがともにY2方向とされている。すなわち、θ3=θ4=0°とされている。また、中心間距離γ=λ/2とされている。したがって、信号C,Dの位相差は、電気角で90°となる。
参考例と同じ素子配置において、信号C,Dの位相差を360°とするには、(θ3-θ4)=270°とすればよい。たとえば、信号Cの位相を135°進角、すなわち-135°変化させ、信号Dの位相を135°遅角、すなわち+135°変化させればよい。このために、図27の下段では、角度θ3=+135°、角度θ4=-135°となる位置に、第3素子213及び第4素子214を配置している。これにより、バイアス磁界の磁気ベクトル起因の位相差(θ3-θ4)が270°となり、信号C,Dの位相差が電気角で360°となる。
図3及び図19は、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215の、バイアス磁石22に対する配置の具体例を示している。図3及び図19に示すように、本実施形態では、第3素子213及び第4素子214がS極22sと重なる位置に配置されている。第3素子213及び第4素子214は、境界22bよりも着磁ロータ10から離れた位置に配置されている。X1-X2方向において、第3素子213及び第4素子214は、磁極中心線22cから離れた位置に配置されている。第3素子213は磁極中心線22cよりもX2側に配置され、第4素子214は磁極中心線22cよりもX1側に配置されている。第3素子213及び第4素子214は、磁極中心線22cに対して線対称配置とされている。図19に示すように、第3素子213に作用する磁気ベクトルの向きは、第4素子214側に傾いており、第4素子214に作用する磁気ベクトルの向きは、第3素子213側に傾いている。
バイアス磁石22は、着磁ロータ10とは反対側、すなわち境界22bよりもY2側に2つの角部22r1,22r2を有している。角部22r1はX2側、角部22r2はX1側に設けられている。図19に示すように、バイアス磁界の磁気ベクトルは、角部22r1,22r2に近づくほど、基準線L1に対する傾きが大きくなる。第3素子213は、X2側に配置された第1素子211よりも角部22r1に近い位置に配置されている。これにより、θ3>θ1とされている。また、第4素子214は、X1側に配置された第2素子212よりも角部22r2に近い位置に配置されている。これにより、θ4<θ2とされている。θ4の絶対値は、θ2の絶対値よりも大きくされている。
第5素子215は、N極22nと重なる位置に配置されている。第5素子215は、境界22bよりも着磁ロータ10に近い位置に配置されている。第5素子215は、第3素子213及び第4素子214よりも着磁ロータ10に近い位置に配置されている。第5素子215は、磁極中心線22c上に配置されている。これにより、第5素子215に作用する磁気ベクトルの向きは、Y2方向となっている。X1-X2方向において、第5素子215は、第3素子213と第4素子214の間に配置されている。第5素子215は、第3素子213と第4素子214との中間位置に配置されている。第3素子213、第4素子214、及び第5素子215は、磁極中心線22cに対して線対称配置とされている。
次に、本実施形態に示した回転検出装置20の効果について説明する。
本実施形態では、0<(θ1-θ2)<2×{180°-(β/α)×360°}を満たすように、バイアス磁石22に対して第1素子211及び第2素子212が配置されている。したがって、バイアス磁界の磁気ベクトルの効果により、従来よりも差動信号S1の振幅を大きくすることができる。
特に、(β/α)×360°+(θ1-θ2)=180°を満たすように、バイアス磁石22に対して第1素子211及び第2素子212が配置されている。これにより、信号A,Bの位相差が電気角で180°となる。したがって、β<λを満たして回転検出装置20の体格を小型化しつつ、差動信号S1の振幅を最大化することができる。
本実施形態では、第3素子213と第4素子214の間に第5素子215が配置されている。そして、0<(θ3-θ4)<2×{360°-(γ/α)×360°}を満たすように、バイアス磁石22に対して第3素子213及び第4素子214が配置されている。これによれば、バイアス磁界の磁気ベクトルの効果により、従来よりも差動信号S2の振幅を大きくすることができる。
特に、(γ/α)×360°+(θ3-θ4)=360°を満たすように、バイアス磁石22に対して第3素子213及び第4素子214が配置されている。これにより、信号C,Dの位相差が電気角で360°となる。したがって、γ<λを満たして回転検出装置20の体格を小型化しつつ、差動信号S2の振幅をより大きくすることができる。
なお、第5素子215は、少なくとも第3素子213と第4素子214と間に配置されればよい。好ましくは、第5素子215が、第3素子213と第4素子214との中間位置であって、磁極中心線22c上に配置されるとよい。これによれば、第3素子213及び第4素子214が磁極中心線22cに対して線対称配置となり、信号(C+D)のピークと信号Eのピークが一致する。したがって、差動信号S2の振幅をさらに大きくすることができる。特に(γ/α)×360°+(θ3-θ4)=360°を満たす場合には、差動信号S2の振幅を最大化することができる。
本実施形態では、第5素子215が、境界22bよりも着磁ロータ10に近い位置に配置されている。これにより、検出感度を向上することができる。
なお、バイアス磁石22に対するセンサチップ21(各素子211~215)の配置は、たとえば図19に示した磁気シミュレーション(磁場分布)を活用すればよい。バイアス磁界とは異なる磁界が印加されない環境下における検出面21dの位置での磁場分布を求め、その結果から、各素子211~215の位置を決定すればよい。
本実施形態では、回転検出装置20が、バイアス磁石22を1つのみ備えており、N極22n及びS極22sが着磁ロータ10の着磁面10mとの対向方向に並んで配置されている。これによれば、上記した効果を奏しつつ、部品点数を削減するとともに、回転検出装置20の体格を小型化することができる。また、1つのバイアス磁石22に対してセンサチップ21を位置決め配置すればよいため、バイアス磁石22に対する各素子211~215の位置精度を向上することができる。
(第2実施形態)
本実施形態は、先行実施形態を参照できる。このため、先行実施形態に示した回転検出装置20と共通する部分についての説明は省略する。
本実施形態の回転検出装置20は、先行実施形態同様、磁気抵抗効果素子210として3素子、具体的には、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215を備えてる。そして、外部磁界の影響をより効果的にキャンセルできるように構成されている。
先ず、図28に基づき、3素子に対する外部磁界の影響について説明する。
図28では、磁気抵抗効果素子210に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルを破線矢印で示し、磁気抵抗効果素子210に作用する外部磁界の磁気ベクトルを一点鎖線の矢印で示している。そして、バイアス磁界と外部磁界との合成磁界の磁気ベクトルを、実線矢印で示している。3素子には、大きさ及び向きが互いにほぼ等しい外部磁界が作用する。また、外部磁界が作用することで、バイアス磁界の磁気ベクトルから合成磁界の磁気ベクトルへの角度変化をΔθで示している。Δθcは第3素子213における角度変化、Δθdは第4素子214における角度変化、Δθeは第5素子215における角度変化を示している。
上記したように、3つの素子の差動信号S2は、2E-(C+D)である。このため、角度変化について2×Δθe=Δθc+Δθdの関係が成立すると、外部磁界の影響を効果的にキャンセルすることができる。
しかしながら、本実施形態では、バイアス磁石22の中心である磁石中心22dに対して、第5素子215のほうが第3素子213及び第4素子214よりも近い位置に配置されている。磁石中心22d、すなわち磁石中心は、境界22bと磁極中心線22cとの交点である。また、一体化によりバイアス磁石22が小さいため、XY平面において磁力分布を有している。このため、バイアス磁界の磁気ベクトルは、第5素子215のほうが第3素子213及び第4素子214よりも大きい。第5素子215に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルが大きいため、合成磁界の磁気ベクトルの角度変化でΔθeも小さくなる。したがって、3素子として、たとえば同じ構成の磁気抵抗効果素子210を用いると、2×Δθe<Δθc+Δθdとなる。
次に、図29及び図30に基づき、外部磁界の影響を効果的にキャンセルできる構成について説明する。
本実施形態では、図29に示すように、2種類の磁気抵抗効果素子210を用いている。具体的には、図29(a)に示す高感度素子210Hと、図29(b)に示す低感度素子210Lを用いている。
磁気抵抗効果素子210は、たとえばNi-Fe系材料、Ni-Co系材料を用いて、ミアンダ形状(蛇行形状)をなすように形成されている。ミアンダ形状において、延設された長手部を正の感度を有する正感度部210aとすると、正感度部210aを繋ぐ折り返し部は、長手方向に略直交しており、負の感度を有する負感度部210bとなる。折り返し部は、長手部に対して延設長さが短くされている。図29は平面図であるが、正感度部210aと負感度部210bを区別するために、ハッチングを施している。
高感度素子210Hは、その大部分を正感度部210aが占めている。正感度部210aを構成する複数の長手部は、長手方向が互いに略平行となるように所定ピッチで並設されている。そして、負感度部210bが、隣り合う正感度部210aの両端間に設けられている。負感度部210bは、正感度部210aの短手方向に延設されている。高感度素子210Hの一端に対して、他端が、短手方向において反対の位置に設けられている。
本実施形態では、負感度部210bが、たとえば図示しないAl配線によってショートされている。すなわち、隣り合う正感度部210aの端部間がAl配線によって電気的に接続されている。これにより、高感度素子210Hは、実質的に負感度部210bを有さない構成と同程度の感度特性を有する。
低感度素子210Lは、高感度素子210Hよりも正感度部210aの割合が小さく、すなわち負感度部210bの割合が高められている。具体的には、低感度素子210Lの一端と他端とが、短手方向において同じ側に配置されている。そして、一端に連なるミアンダ形状の部分と、他端に連なるミアンダ形状の部分とが、短手方向において両端とは反対側で一体的に連なっている。このように、両端側にミアンダ形状の部分をそれぞれ設けることで、折り返し部、すなわち負感度部210bの割合が高められている。
低感度素子210Lでは、さらに、2つのミアンダ形状の部分を連結する部分の、短手方向の延設長さが、折り返し部よりも長くされている。これによっても、負感度部210bの割合が高められている。そして、低感度素子210Lにおいては、高感度素子210Hのように、Al配線による接続は行っていない。このようにして、低感度素子210Lは、高感度素子210Hに較べて素子の感度が低くなっている。
図30は、本実施形態の回転検出装置20において、バイアス磁石22に対する磁気抵抗効果素子210の配置を示している。第3素子213、第4素子214、及び第5素子215の配置は、先行実施形態(図19に示す3素子参照)と同じである。第3素子213及び第4素子214として低感度素子210Lを用い、第5素子215として高感度素子210Hを用いている点が先行実施形態とは異なっている。
第3素子213は、上記した4つの低感度素子210Lを備えて構成されている。4つの低感度素子210Lは、電源(Vcc)とグランド(GND)との間で直列に接続されている。具体的には、電源側(ハイサイド側)において2つの低感度素子210Lが直列接続され、グランド側(ローサイド側)において別の2つの低感度素子210Lが直列接続されている。そして、2番目と3番目の低感度素子210Lの接続点から中点電圧Cを出力する構成となっている。
なお、ハイサイド側の2つの低感度素子210Lは、長手方向が互いに平行となるように設けられている。ローサイド側の2つの低感度素子210Lは、長手方向が互いに平行となり、且つ、その長手方向がハイサイド側の長手方向と直交するように設けられている。ハイサイド側の1つの低感度素子210Lと、ローサイド側の1つの低感度素子210Lは、ハの字状をなすように配置されており、第3素子213は2組のハの字を有している。第4素子214は、第3素子213と同様の構成となっている。2番目と3番目の低感度素子210Lの接続点から中点電圧Dを出力する構成となっている。
第5素子215は、上記した4つの高感度素子210Hを備えて構成されている。4つの高感度素子210Hは、電源(Vcc)とグランド(GND)との間で直列に接続されている。具体的には、電源側(ハイサイド側)において2つの高感度素子210Hが直列接続され、グランド側(ローサイド側)において別の2つの高感度素子210Hが直列接続されている。そして、2番目と3番目の高感度素子210Hの接続点から中点電圧Eを出力する構成となっている。
なお、ハイサイド側の2つの高感度素子210Hは、長手方向が互いに平行となるように設けられている。ローサイド側の2つの高感度素子210Hは、長手方向が互いに平行となり、且つ、その長手方向がハイサイド側の長手方向と直交するように設けられている。ハイサイド側の1つの高感度素子210Hと、ローサイド側の1つの高感度素子210Hは、ハの字状をなすように配置されており、第5素子215は2組のハの字を有している。
上記したように、本実施形態では、磁石中心22dに近い第5素子215が高感度素子210Hとされ、磁石中心22dに遠い第3素子213及び第4素子214が低感度素子210Lとされている。このように、3つの素子において、意図的に感度に差をもたせたため、2×ΔθeをΔθc+Δθdとほぼ等しくすることができる。したがって、外部磁界が作用しても、それによる差動信号S2の変動を抑制することができる。すなわち、外部磁界の耐性を向上することができる。
なお、本実施形態では、第5素子215が第3素子213及び第4素子214よりも磁石中心22dに近い例を示した。第3素子213及び第4素子214が第5素子215よりも磁石中心22dに近い場合には、2×Δθe>Δθc+Δθdとなる。よって、第3素子213及び第4素子214として高感度素子210Hを用い、第5素子215として低感度素子210Lを用いればよい。
高感度素子210H、低感度素子210Lの構成は、上記例に限定されない。高感度素子210Hは、低感度素子210Lに対して相対的に感度が高く、低感度素子210Lは高感度素子210Hに対して相対的に感度が低ければよい。
本実施形態では、回転検出装置20が、磁気抵抗効果素子210として3素子のみを有する例を示したが、これに限定されない。先行実施形態同様、3素子に加えて、第1素子211及び第2素子212を備えてもよい。上記したように、第1素子211の中点電圧Aと第2素子211の中点電圧Bより、差動信号S1として(A-B)を生成する。したがって、線対称配置される第1素子211及び第2素子212としては、高感度素子210Hを用いるとよい。
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。たとえば、開示は、実施形態において示された要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものと解されるべきである。
回転検出装置20が、封止樹脂体25により封止されてモールドパッケージ化される例を示したが、これに限定されない。たとえばセラミック基板やプリント基板などの基板の一面上にセンサチップ21や回路チップ23が固定され、基板の裏面にバイアス磁石22が固定された構成を採用することもできる。
差動部としての差動増幅器230~233が、回路チップ23に形成される例を示したが、これに限定されない。差動増幅器230~233をセンサチップ21に集積化してもよい。
回転検出装置20が、回路チップ23に閾値生成部234、コンパレータ235,236、及び判定部237を有する例を示したが、これに限定されない。差動増幅器230~233とともに、閾値生成部234、コンパレータ235,236、及び判定部237をセンサチップ21に集積化してもよい。また、回転検出装置20が、閾値生成部234、コンパレータ235,236、及び判定部237を有さない構成、具体的には他の電子機器が閾値生成部234、コンパレータ235,236、及び判定部237を有する構成としてもよい。
(E-C)-(D-E)=2E-(C+D)を差動信号S2とする例を示したが、これに限定されない。差動信号S2は、3つの素子である第3素子213、第4素子214、及び第5素子215の出力から生成される差動信号であればよい。(E-C)で外部磁界の影響をキャンセルし、(D-E)でも外部磁界の影響をキャンセルすることができる。
回転検出装置20が、磁気抵抗効果素子210として、第1素子211及び第2素子212と、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215を有する例を示したが、これに限定されない。たとえば第1素子211及び第2素子212のみを有する構成としてもよい。また、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215のみを有する構成としてもよい。いずれの場合も、着磁ロータ10の回転位置を示す情報を出力することができる。
第3素子213、第4素子214、及び第5素子215のみを有する構成の場合、第3素子213及び第4素子214の出力から差動信号S1を生成し、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215の出力から差動信号S2を生成することもできる。すなわち、3つの素子を用いて、着磁ロータ10の回転位置を示す情報及び着磁ロータ10の回転方向を示す情報を出力することもできる。しかしながら、第3素子213と第4素子214を、差動信号S1を生成するための2つ素子、及び、差動信号S2を生成するための両端の素子として兼用するため、たとえば差動信号S1,S2をともに最大化することができない。本実施形態に示した構成によれば、第1素子211及び第2素子212と、第3素子213及び第4素子214を個別に配置できるため、兼用の場合よりも、差動信号S1,S2の振幅を大きくすることが可能である。
また、第1素子211及び第2素子212に加えて、他の磁気抵抗効果素子210を有してもよいし、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215に加えて、他の磁気抵抗効果素子210を有してもよい。第1素子211、第2素子212、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215に加えて、他の磁気抵抗効果素子210を有してもよい。
本実施形態では、コンパレータ235,236に対して閾値生成部234から閾値Vthを供給する例を示したが、これに限定されない。たとえばコンパレータ235,236ごとに閾値を設定してもよい。
差動信号S1が生成される2つの素子である第1素子211及び第2素子212の配置は、上記例に限定されない。また、差動信号S2が生成される3つの素子である第3素子213、第4素子214、及び第5素子215の配置が、上記例に限定されない。図19に示したように磁極中心線22c付近及び境界22b付近は、バイアス磁界の磁気ベクトルの向きがほぼY2方向に沿うものとなる。また、境界22bよりも着磁ロータ10から離れた位置においては、磁気ベクトルが磁極中心線22c側に向かう。したがって、第1素子211、第2素子212、第3素子213、及び第4素子214については、境界22bよりも着磁ロータ10から離れた位置であって、磁極中心線22c付近及び境界22b付近を除く位置に配置するとよい。
たとえば図31に示す変形例のように、第1素子211、第2素子212、第3素子213、第4素子214、及び第5素子215の少なくとも1つを、バイアス磁石22と重ならない位置に配置してもよい。たとえばセンサチップ21をバイアス磁石22よりも大きくすることで、このような配置が可能である。図31では、第3素子213及び第4素子214が、バイアス磁石22と重ならない位置に配置されている。第3素子213は、角部22r1よりも外側に配置されており、作用する磁気ベクトルの傾きが角部22r1付近よりも大きくなっている。同じく、第4素子214は、角部22r2よりも外側に配置されており、作用する磁気ベクトルの傾きが角部22r2付近よりも大きくなっている。これによれば、中心間距離γを大きくできなくても、信号C,Dの位相差を360°により近づけることが可能である。
バイアス磁石22として、N極22nを着磁ロータ10側にし、N極22n及びS極22sがY1-Y2方向に並んで配置される例を示したが、これに限定されない。たとえばN極22n及びS極22sがX1-X2方向に並んで配置されたバイアス磁石22を採用することもできる。また、N極22n及びS極22sの並び方向、換言すれば磁極中心線22cが、Y1-Y2方向及びX1-X2方向に対して傾くように配置されたバイアス磁石22を採用することもできる。
また、複数のバイアス磁石22を用いることで、各素子211~215に作用するバイアス磁界の磁気ベクトルの向きを最適化してもよい。たとえば第3素子213と第4素子214に対して、N極22n及びS極22sの並び方向が互いに異なるバイアス磁石22を個別に用いてもよい。
反時計回りを正方向として磁気ベクトルの角度を定めたが、これに限定されない。時計周り方向を正方向としてもよい。たとえば2つの素子の場合、X1側に第1素子211が配置され、X2側に第2素子212が配置されることとなる。
着磁ロータ10において、回転軸に直交する外周端面(側面)が着磁面10mとされ、この着磁面10mに回転検出装置20が対向配置される例を示したが、これに限定されない。図32に示す変形例のように、外周端面ではなく、円環面の一方を着磁面10mとし、この着磁面10mに回転検出装置20を対向配置してもよい。