以下に、図面を参照して本発明に係る超音波観測装置の実施の形態を説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。本発明は、特徴量画像を生成する機能を備える超音波観測装置一般に適用することができる。
また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る超音波観測装置を備えた超音波観測システムの構成を示すブロック図である。同図に示す超音波観測システム1は、観測対象である被検体へ超音波を送信し、該被検体で反射された超音波を受信する超音波内視鏡2(超音波プローブ)と、超音波内視鏡2が取得した超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波観測装置3と、超音波観測装置3が生成した超音波画像を表示する表示装置4と、を備える。
超音波内視鏡2は、その先端部に、超音波観測装置3から受信した電気的なパルス信号を超音波パルス(音響パルス)に変換して観察対象へ照射するとともに、観察対象で反射された超音波エコーを電圧変化で表現する電気的なエコー信号(超音波信号)に変換して出力する超音波振動子21を有する。超音波振動子21は、コンベックス振動子、リニア振動子及びラジアル振動子のいずれでも構わない。超音波内視鏡2は、超音波振動子21をメカ的に走査させるものであってもよいし、超音波振動子21として複数の素子をアレイ状に設け、送受信にかかわる素子を電子的に切り替えたり、各素子の送受信に遅延をかけたりすることで、電子的に走査させるものであってもよい。
超音波内視鏡2は、通常は撮像光学系及び撮像素子を有しており、観察対象である被検体の消化管(食道、胃、十二指腸、大腸)、又は呼吸器(気管・気管支)へ挿入され、消化管や呼吸器、その周囲臓器(膵臓、胆嚢、胆管、胆道、リンパ節、縦隔臓器、血管等)を撮像することが可能である。また、超音波内視鏡2は、撮像時に被検体へ照射する照明光を導くライトガイドを有する。このライトガイドは、先端部が超音波内視鏡2の被検体への挿入部の先端まで達している一方、基端部が照明光を発生する光源装置に接続されている。なお、超音波内視鏡2に限らず、撮像光学系及び撮像素子を有しない超音波プローブであってもよい。
超音波観測装置3は、超音波内視鏡2と電気的に接続され、所定の波形及び送信タイミングに基づいて高電圧パルスからなる送信信号(パルス信号)を超音波振動子21へ送信する送信部31と、超音波振動子21から電気的な受信信号であるエコー信号を受信してデジタルの高周波(RF:Radio Frequency)信号のデータ(以下、RFデータという)を生成、出力する受信部32と、受信部32から受信したRFデータをもとにデジタルのBモード用受信データを生成する信号処理部33と、受信部32から受信したRFデータに対して所定の演算を施す演算部34と、各種画像データを生成する画像処理部35と、キーボード、マウス、タッチパネル等のユーザインタフェースを用いて実現され、各種情報の入力を受け付ける入力部36と、超音波観測システム1全体を制御する制御部37と、超音波観測装置3の動作に必要な各種情報を記憶する記憶部38と、を備える。
送信部31は、観察対象に対して中心周波数が互いに異なる複数の超音波を超音波振動子21に照射させる複数の送信信号を送信する。具体的には、送信部31は、第1送信信号と、第1送信信号より周波数が高い第2送信信号とを超音波振動子21に送信する。また、送信部31は、制御部37が出力する各種制御信号を超音波内視鏡2に対して送信する。第1送信信号及び第2送信信号により超音波内視鏡2から観察対象に照射される超音波は、周波数帯域が狭く(例えば周波数帯域の幅が1MHz以下)、かつ強度が大きいパルス信号である。なお、中心周波数とは、強度が最大値から所定の範囲内(例えば3dB以内)に含まれる周波数帯域の中心の周波数である。また、送信部31は、超音波振動子21に中心周波数が互いに異なる3以上の複数の超音波を照射させてもよい。また、送信部31は、観察対象に対して、第1送信信号と第2送信信号とを順次送信してもよく、第1送信信号と第2送信信号とを同時に送信してもよい。また、送信部31は、第1送信信号及び第2送信信号により、超音波内視鏡2に平面波を照射させてもよい。平面波を送信する場合、超音波振動子21の各音線から同時に超音波パルス送信するため、超音波観測システム1を高フレームレートで動作させることができる。
受信部32は、観察対象において反射された複数の超音波を超音波振動子21が受信して出力した複数の受信信号を受信する。具体的には、受信部32は、超音波振動子21が出力した第1受信信号及び第2受信信号を受信する。第1受信信号は、第1送信信号に基づいて照射された超音波の観察対象における反射を電気信号に変換した信号である。同様に、第2受信信号は、第2送信信号に基づいて照射された超音波の観察対象における反射を電気信号に変換した信号である。
受信部32は、エコー信号を増幅する信号増幅部321を有する。信号増幅部321は、受信深度が大きいエコー信号ほど高い増幅率で増幅するSTC(Sensitivity Time Control)補正を行う。図2は、本発明の実施の形態に係る超音波観測装置の信号増幅部が行う増幅処理における受信深度と増幅率との関係を示す図である。図2に示す受信深度zは、超音波の受信開始時点からの経過時間に基づいて算出される量である。図2に示すように、増幅率β(dB)は、受信深度zが閾値zthより小さい場合、受信深度zの増加に伴ってβ0からβth(>β0)へ線型に増加する。また、増幅率β(dB)は、受信深度zが閾値zth以上である場合、一定値βthをとる。閾値zthの値は、観測対象から受信する超音波信号がほとんど減衰してしまい、ノイズが支配的になるような値である。より一般に、増幅率βは、受信深度zが閾値zthより小さい場合、受信深度zの増加に伴って単調増加すればよい。なお、図2に示す関係は、予め記憶部38に記憶されている。
受信部32は、信号増幅部321によって増幅されたエコー信号に対してフィルタリング等の処理を施した後、A/D変換することによって時間ドメインのRFデータを生成し、信号処理部33及び演算部34へ出力する。また、受信部32は、超音波内視鏡2から識別用のIDを含む各種情報を受信して制御部37へ送信する機能も有する。
なお、超音波内視鏡2が複数の素子をアレイ状に設けた超音波振動子21を電子的に走査させる構成を有する場合、送信部31及び受信部32は、複数の素子に対応したビーム合成用の多チャンネル回路を有する。また、送信部31及び受信部32を1つの回路で構成してもよい。
信号処理部33は、RFデータに対してバンドパスフィルタ、包絡線検波、対数変換など公知の処理を施し、デジタルのBモード用受信データを生成する。対数変換では、RFデータを基準電圧Vcで除した量の常用対数をとってデシベル値で表現する。信号処理部33は、生成したBモード用受信データを、画像処理部35へ出力する。信号処理部33は、CPU(Central Processing Unit)や各種演算回路等を用いて実現される。
演算部34は、受信部32が生成したRFデータに対して受信深度zによらず増幅率β(dB)を一定とするよう増幅補正を行う増幅補正部341と、増幅補正を行ったRFデータに高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を施して周波数解析を行うことにより周波数スペクトルを算出する周波数解析部342と、周波数解析部342により算出された周波数スペクトルをもとに、該周波数スペクトルの特徴量を算出する特徴量算出部343と、を有する。演算部34は、CPUや各種演算回路等を用いて実現される。
図3は、本発明の実施の形態に係る超音波観測装置の増幅補正部が行う増幅補正処理における受信深度と増幅率との関係を示す図である。図3に示すように、増幅補正部341が行う増幅補正処理における増幅率βは、受信深度zがゼロのとき最大値βth-β0をとり、受信深度zがゼロから閾値zthに達するまで線型に減少し、受信深度zが閾値zth以上のときゼロである。このように定められる増幅率βによって増幅補正部341がデジタルRF信号を増幅補正することにより、信号処理部33におけるSTC補正の影響を相殺し、一定の増幅率βthの信号を出力することができる。なお、増幅補正部341が行う受信深度zと増幅率βの関係は、信号処理部33における受信深度と増幅率の関係に応じて異なることは勿論である。
このような増幅補正を行う理由を説明する。STC補正は、アナログ信号波形の振幅を全周波数帯域にわたって均一に、かつ、深度に対しては単調増加する増幅率で増幅させることで、アナログ信号波形の振幅から減衰の影響を排除する補正処理である。このため、エコー信号の振幅を輝度に変換して表示するBモード画像を生成する場合、かつ、一様な組織を走査した場合には、STC補正を行うことによって深度によらず輝度値が一定になる。すなわち、Bモード画像の輝度値から減衰の影響を排除する効果を得ることができる。
一方、本実施の形態のように超音波の周波数スペクトルを算出して解析した結果を利用する場合、STC補正でも超音波の伝播に伴う減衰の影響を正確に排除できるわけではない。なぜなら、一般に減衰量は周波数によって異なるが(後述する式(1)を参照)、STC補正の増幅率は距離だけに応じて変化し、周波数依存性がないためである。
上述した問題、すなわち、超音波の周波数スペクトルを算出して解析した結果を利用する場合、STC補正でも超音波の伝播に伴う減衰の影響を正確に排除できるわけではない、という問題を解決するには、Bモード画像を生成する際にSTC補正を施した受信信号を出力する一方、周波数スペクトルに基づいた画像を生成する際に、Bモード画像を生成するための送信とは異なる新たな送信を行い、STC補正を施していない受信信号を出力することが考えられる。ところがこの場合には、受信信号に基づいて生成される画像データのフレームレートが低下してしまうという問題がある。
そこで、本実施の形態では、生成される画像データのフレームレートを維持しつつ、Bモード画像用にSTC補正を施した信号に対してSTC補正の影響を排除するために、増幅補正部341によって増幅率の補正を行う。
周波数解析部342は、受信部32が受信した第1受信信号及び第2受信信号のそれぞれに基づいた周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部342aを有する。周波数解析部342は、増幅補正部341が増幅補正した各音線のRFデータ(ラインデータ)を所定の時間間隔でサンプリングし、サンプルデータを生成する。さらに、周波数スペクトル算出部342aは、サンプルデータ群にFFT処理を施すことにより、RFデータ上の複数の箇所(データ位置)における周波数スペクトルを算出する。ここでいう「周波数スペクトル」とは、サンプルデータ群にFFT処理を施すことによって得られた「ある受信深度zにおける強度の周波数分布」を意味する。また、ここでいう「強度」とは、例えばエコー信号の電圧、エコー信号の電力、超音波エコーの音圧、超音波エコーの音響エネルギー等のパラメータ、これらパラメータの振幅や時間積分値やその組み合わせのいずれかを指す。
一般に、周波数スペクトルは、観測対象が生体組織である場合、超音波が走査された生体組織の性状によって異なる傾向を示す。これは、周波数スペクトルが、超音波を散乱する散乱体の大きさ、数密度、音響インピーダンス等と相関を有しているためである。ここでいう「生体組織の性状」とは、例えば悪性腫瘍(癌)、良性腫瘍、内分泌腫瘍、粘液性腫瘍、正常組織、嚢胞、脈管などのことである。
図4は、超音波信号の1つの音線におけるデータ配列を模式的に示す図である。同図に示す音線SRkにおいて、白又は黒の長方形は、1つのサンプル点におけるデータを意味している。また、音線SRkにおいて、右側に位置するデータほど、超音波振動子21から音線SRkに沿って計った場合の深い箇所からのサンプルデータである(図4の矢印を参照)。音線SRkは、受信部32が行うA/D変換におけるサンプリング周波数(例えば50MHz)に対応した時間間隔で離散化されている。図4では、番号kの音線SRkの8番目のデータ位置を受信深度zの方向の初期値Z(k)
0として設定した場合を示しているが、初期値の位置は任意に設定することができる。周波数解析部342による算出結果は複素数で得られ、記憶部38に格納される。
図4に示すデータ群Fj(j=1、2、・・・、K)は、FFT処理の対象となるサンプルデータ群である。一般に、FFT処理を行うためには、サンプルデータ群が2のべき乗のデータ数を有している必要がある。この意味で、サンプルデータ群Fj(j=1、2、・・・、K-1)はデータ数が16(=24)で正常なデータ群である一方、サンプルデータ群FKは、データ数が12であるため異常なデータ群である。異常なデータ群に対してFFT処理を行う際には、不足分だけゼロデータを挿入することにより、正常なサンプルデータ群を生成する処理を行う。この点については、周波数解析部332の処理を説明する際に詳述する(図7を参照)。
図5は、本発明の実施の形態に係る超音波観測装置の周波数スペクトル算出部により算出された周波数スペクトルの例を示す図である。図5では、横軸が周波数fである。また、図5では、縦軸が、強度I0を基準強度Ic(定数)で除した量の常用対数(デシベル表現)I=10log10(I0/Ic)である。周波数スペクトルC1は、第1受信信号に基づいた周波数スペクトルであり、周波数スペクトルC2は、第2受信信号に基づいた周波数スペクトルである。図5に示す直線L1については後述する。なお、本実施の形態において、曲線及び直線は、離散的な点の集合からなる。
図5に示す周波数スペクトルC1及びC2において、以後の演算に使用する周波数帯域の下限周波数fL及び上限周波数fHは、超音波振動子21の周波数帯域、送信部31が送信するパルス信号の周波数帯域などをもとに決定されるパラメータである。以下、図5において、下限周波数fL及び上限周波数fHによって定まる周波数帯域を「周波数帯域F」という。
特徴量算出部343は、設定されている関心領域(ROI)内において、周波数スペクトルC1及びC2を用いて定まる複数の特徴量をそれぞれ算出する。特徴量算出部343は、周波数スペクトルC1及びC2を直線で近似することによって減衰補正処理を行う前の直線の特徴量(以下、補正前特徴量という)を算出する近似部343aと、近似部343aが算出した補正前特徴量に対して減衰補正を行うことによって特徴量を算出する減衰補正部343bと、を有する。
近似部343aは、所定周波数帯域における周波数スペクトルの回帰分析を行って周波数スペクトルを一次式(回帰直線)で近似することにより、この近似した一次式を特徴付ける補正前特徴量を算出する。例えば、図5に示す周波数スペクトルC1及びC2の場合、近似部343aは、周波数スペクトルC1及びC2それぞれの強度が最大値から所定の範囲(例えば3dB以内)に含まれる周波数帯域に対して、回帰分析を行い周波数スペクトルC1及びC2を一次式で近似することによって回帰直線L1を得る。換言すると、近似部343aは、回帰直線L1の傾きa1、切片b1、及び周波数帯域Fの中心周波数fM=(fL+fH)/2の回帰直線上の値であるミッドバンドフィット(Mid-band fit)c1=a1fM+b1を補正前特徴量として算出する。
3つの補正前特徴量のうち、傾きa1は、超音波の散乱体の大きさと相関を有し、一般に散乱体が大きいほど傾きが小さな値を有すると考えられる。また、切片b1は、散乱体の大きさ、音響インピーダンスの差、散乱体の数密度(濃度)等と相関を有している。具体的には、切片b1は、散乱体が大きいほど大きな値を有し、音響インピーダンスの差が大きいほど大きな値を有し、散乱体の数密度が大きいほど大きな値を有すると考えられる。ミッドバンドフィットc1は、傾きa1と切片b1から導出される間接的なパラメータであり、有効な周波数帯域内の中心におけるスペクトルの強度を与える。このため、ミッドバンドフィットc1は、散乱体の大きさ、音響インピーダンスの差、散乱体の数密度に加えて、Bモード画像の輝度とある程度の相関を有していると考えられる。なお、特徴量算出部343は、回帰分析によって二次以上の多項式で周波数スペクトルを近似するようにしてもよい。
減衰補正部343bが行う補正について説明する。一般に、超音波の減衰量A(f,z)は、超音波が受信深度0と受信深度zとの間を往復する間に生じる減衰であり、往復する前後の強度変化(デシベル表現での差)として定義される。減衰量A(f,z)は、一様な組織内では周波数に比例することが経験的に知られており、以下の式(1)で表現される。
A(f,z)=2αzf・・・(1)
ここで、比例定数αは減衰率と呼ばれる量である。また、zは超音波の受信深度であり、fは周波数である。減衰率αの具体的な値は、観測対象が生体である場合、生体の部位に応じて定まる。減衰率αの単位は、例えばdB/cm/MHzである。なお、本実施の形態において、減衰率αの値を入力部36からの入力によって変更できる構成とすることも可能である。
減衰補正部343bは、近似部343aが抽出した補正前特徴量(傾きa1、切片b1、ミッドバンドフィットc1)に対し、以下に示す式(2)~(4)に従って減衰補正を行うことにより、特徴量a、b、cを算出する。
a=a1+2αz・・・(2)
b=b1・・・(3)
c=c1+A(fM,z)=c1+2αzfM(=afM+b)・・・(4)
式(2)、(4)からも明らかなように、減衰補正部343bは、超音波の受信深度zが大きいほど、補正量が大きい補正を行う。また、式(3)によれば、切片に関する補正は恒等変換である。これは、切片が周波数0(Hz)に対応する周波数成分であって減衰の影響を受けないためである。
さらに、式(2)~(4)から、補正した回帰直線である直線L1’を算出する。直線L1’の式は、
I=af+b=(a1+2αz)f+b1・・・(5)
で表される。この式(5)からも明らかなように、直線L1’は、減衰補正前の直線L1と比較して、傾きが大きく(a>a1)、かつ切片が同じ(b=b1)である。
画像処理部35は、エコー信号の振幅を輝度に変換して表示する超音波画像であるBモード画像データを生成するBモード画像データ生成部351と、減衰補正部343bが算出した特徴量を視覚情報と関連付けてBモード画像とともに表示する特徴量画像データを生成する特徴量画像データ生成部352と、を有する。
Bモード画像データ生成部351は、信号処理部33から受信したBモード用受信データに対してゲイン処理、コントラスト処理等の公知の技術を用いた信号処理を行うとともに、表示装置4における画像の表示レンジに応じて定まるデータステップ幅に応じたデータの間引き等を行うことによってBモード画像データを生成する。Bモード画像は、色空間としてRGB表色系を採用した場合の変数であるR(赤)、G(緑)、B(青)の値を一致させたグレースケール画像である。
Bモード画像データ生成部351は、信号処理部33からのBモード用受信データに対して走査範囲を空間的に正しく表現できるよう並べ直す座標変換を施した後、Bモード用受信データ間の補間処理を施すことによってBモード用受信データ間の空隙を埋め、Bモード画像データを生成する。Bモード画像データ生成部351は、生成したBモード画像データを特徴量画像データ生成部352へ出力する。
特徴量画像データ生成部352は、特徴量算出部343が算出した特徴量に関連する視覚情報をBモード画像データにおける画像の各画素に対して重畳することによって特徴量画像データを生成する。特徴量画像データ生成部352は、例えば図4に示す1つのサンプルデータ群Fj(j=1、2、・・・、K)のデータ量に対応する画素領域に対し、そのサンプルデータ群Fjから算出される周波数スペクトルの特徴量に対応する視覚情報を割り当てる。特徴量画像データ生成部352は、例えば上述した傾き、切片、ミッドバンドフィットのいずれか一つに視覚情報としての色相を対応付けることによって特徴量画像データを生成する。具体的には、特徴量画像データ生成部352は、特徴量aに視覚情報としての色相を対応付ける場合、記憶部38に記憶された色相スケールを参照して視覚情報を割り当てる。特徴量に関連する視覚情報としては、色相のほか、例えば彩度、明度、輝度値、R(赤)、G(緑)、B(青)などの所定の表色系を構成する色空間の変数を挙げることができる。
制御部37は、演算及び制御機能を有するCPUや各種演算回路等を用いて実現される。制御部37は、記憶部38が記憶、格納する情報を記憶部38から読み出し、超音波観測装置3の作動方法に関連した各種演算処理を実行することによって超音波観測装置3を統括して制御する。なお、制御部37を信号処理部33及び演算部34等と共通のCPU等を用いて構成することも可能である。
記憶部38は、減衰補正部343bが周波数スペクトルごとに算出した複数の特徴量や、画像処理部35が生成した画像データを記憶する。また、記憶部38は、特徴量aに視覚情報としての色相を対応付けるための色相スケールを記憶する。
記憶部38は、上記以外にも、例えば増幅処理に必要な情報(図2に示す増幅率と受信深度との関係)、増幅補正処理に必要な情報(図3に示す増幅率と受信深度との関係)、減衰補正処理に必要な情報(式(1)参照)、周波数解析処理に必要な窓関数(Hamming、Hanning、Blackman等)の情報等を記憶する。
また、記憶部38は、超音波観測装置3の作動方法を実行するための作動プログラムを含む各種プログラムを記憶する。作動プログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、フレキシブルディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。なお、上述した各種プログラムは、通信ネットワークを介してダウンロードすることによって取得することも可能である。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)などによって実現されるものであり、有線、無線を問わない。
以上の構成を有する記憶部38は、各種プログラム等が予めインストールされたROM(Read Only Memory)、及び各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を用いて実現される。
図6は、本発明の実施の形態に係る超音波観測装置が行う処理の概要を示すフローチャートである。図6において、超音波観測装置3は、制御部37の制御に基づいて、送信部31から第1送信信号を送信する(ステップS1)。超音波内視鏡2は、第1送信信号に基づいて、超音波パルスを出力する。
そして、受信部32は、観察対象において反射された第1送信信号のエコー信号である第1受信信号を超音波内視鏡2から受信する(ステップS2)。
続いて、超音波観測装置3は、制御部37の制御に基づいて、送信部31から第2送信信号を送信する(ステップS3)。超音波内視鏡2は、第2送信信号に基づいて、超音波パルスを出力する。
そして、受信部32は、観察対象において反射された第2送信信号のエコー信号である第2受信信号を超音波内視鏡2から受信する(ステップS4)。
続いて、信号増幅部321は、第1受信信号及び第2受信信号の増幅を行う(ステップS5)。ここで、信号増幅部321は、例えば図2に示す増幅率と受信深度との関係に基づいてエコー信号の増幅(STC補正)を行う。
続いて、Bモード画像データ生成部351は、信号増幅部321が増幅した第1受信信号又は第2受信信号を用いてBモード画像データを生成して、表示装置4へ出力する(ステップS6)。Bモード画像データを受信した表示装置4は、そのBモード画像データに対応するBモード画像を表示する(ステップS7)。
信号増幅部321は、受信部32から出力された第1受信信号及び第2受信信号に対して受信深度によらず増幅率が一定となる増幅補正を行う(ステップS8)。ここで、信号増幅部321は、例えば図3に示す増幅率と受信深度との関係が成立するように増幅補正を行う。
この後、周波数解析部342の周波数スペクトル算出部342aは、FFT処理による周波数解析を行うことによって第1受信信号及び第2受信信号の全てのサンプルデータ群に対する周波数スペクトルを算出する(ステップS9)。図7は、本発明の実施の形態に係る超音波観測装置の周波数解析部が実行する処理の概要を示すフローチャートである。以下、図7に示すフローチャートを参照して、周波数解析処理を詳細に説明する。なお、図7の周波数解析処理は、第1受信信号及び第2受信信号のそれぞれに対して行われる。
まず、周波数解析部342は、解析対象の音線を識別するカウンタkをk0とする(ステップS21)。
続いて、周波数解析部342は、FFT処理用に取得する一連のデータ群(サンプルデータ群)を代表するデータ位置(受信深度に相当)Z(k)の初期値Z(k)
0を設定する(ステップS22)。例えば、図4では、上述したように、音線SRkの8番目のデータ位置を初期値Z(k)
0として設定した場合を示している。
その後、周波数解析部342は、サンプルデータ群を取得し(ステップS23)、取得したサンプルデータ群に対し、記憶部38が記憶する窓関数を作用させる(ステップS24)。このようにサンプルデータ群に対して窓関数を作用させることにより、サンプルデータ群が境界で不連続になることを回避し、アーチファクトが発生するのを防止することができる。
続いて、周波数解析部342は、データ位置Z(k)のサンプルデータ群が正常なデータ群であるか否かを判定する(ステップS25)。図4を参照した際に説明したように、サンプルデータ群は、2のべき乗のデータ数を有している必要がある。以下、正常なサンプルデータ群のデータ数を2n(nは正の整数)とする。本実施の形態では、データ位置Z(k)が、できるだけZ(k)が属するサンプルデータ群の中心になるように設定される。具体的には、サンプルデータ群のデータ数は2nであるので、Z(k)はそのサンプルデータ群の中心に近い2n/2(=2n-1)番目の位置に設定される。この場合、サンプルデータ群が正常であるとは、データ位置Z(k)の前方に2n-1-1(=Nとする)個のデータがあり、データ位置Z(k)の後方に2n-1(=Mとする)個のデータがあることを意味する。図4に示す場合、サンプルデータ群F1、F2、F3、・・・、FK-1はともに正常である。なお、図4ではn=4(N=7,M=8)の場合を例示している。
ステップS25における判定の結果、データ位置Z(k)のサンプルデータ群が正常である場合(ステップS25:Yes)、周波数解析部342は、後述するステップS27へ移行する。
ステップS25における判定の結果、データ位置Z(k)のサンプルデータ群が正常でない場合(ステップS25:No)、周波数解析部342は、不足分だけゼロデータを挿入することによって正常なサンプルデータ群を生成する(ステップS26)。ステップS25において正常でないと判定されたサンプルデータ群(例えば図4のサンプルデータ群FK)は、ゼロデータを追加する前に窓関数が作用されている。このため、サンプルデータ群にゼロデータを挿入してもデータの不連続は生じない。ステップS26の後、周波数解析部342は、後述するステップS27へ移行する。
ステップS27において、周波数解析部342の周波数スペクトル算出部342aは、サンプルデータ群を用いてFFT処理を行うことにより、振幅の周波数分布である周波数スペクトルを算出する(ステップS27)。
続いて、周波数解析部342は、データ位置Z(k)をステップ幅Dで変化させる(ステップS28)。ステップ幅Dは、記憶部38が予め記憶しているものとする。図4では、D=15の場合を例示している。ステップ幅Dは、Bモード画像データ生成部351がBモード画像データを生成する際に利用するデータステップ幅と一致させることが望ましいが、周波数解析部342における演算量を削減したい場合には、ステップ幅Dとしてデータステップ幅より大きい値を設定してもよい。
その後、周波数解析部342は、データ位置Z(k)が音線SRkにおける最大値Z(k)
maxより大きいか否かを判定する(ステップS29)。データ位置Z(k)が最大値Z(k)
maxより大きい場合(ステップS29:Yes)、周波数解析部342はカウンタkを1増加させる(ステップS30)。これは、処理をとなりの音線へ移すことを意味する。一方、データ位置Z(k)が最大値Z(k)
max以下である場合(ステップS29:No)、周波数解析部342はステップS23へ戻る。このようにして、周波数解析部342は、音線SRkに対して、[(Z(k)
max-Z(k)
0+1)/D+1]個のサンプルデータ群に対するFFT処理を行う。ここで、[X]は、Xを超えない最大の整数を表す。
ステップS30の後、周波数解析部342は、カウンタkが最大値kmaxより大きいか否かを判定する(ステップS31)。カウンタkが最大値kmaxより大きい場合(ステップS31:Yes)、周波数解析部342は一連の周波数解析処理を終了する。一方、カウンタkが最大値kmax以下である場合(ステップS31:No)、周波数解析部342はステップS22に戻る。この最大値kmaxは、医師等のユーザが入力部36を通じて任意に指示入力した値、もしくは、記憶部38にあらかじめ設定された値とする。
このようにして、周波数解析部342は、解析対象領域内の(kmax-k0+1)本の音線の各々について複数回のFFT処理を行う。FFT処理の結果は、受信深度及び受信方向とともに記憶部38に格納される。
なお、以上の説明では、周波数解析部342が超音波信号を受信したすべての領域に対して周波数解析処理を行うものとしたが、設定された関心領域内においてのみ周波数解析処理を行うようにすることも可能である。
以上説明したステップS9の周波数解析処理に続いて、特徴量算出部343は、図5に示す周波数スペクトルC1及びC2を用いて定まる補正前特徴量を算出する(ステップSS10)。近似部343aは、周波数解析部342が生成した周波数スペクトルC1及びC2をそれぞれ回帰分析することにより得られる直線の補正前特徴量を算出する。具体的には、近似部343aは、周波数スペクトルC1及びC2を回帰分析することによって一次式で近似し、補正前特徴量として傾きa1、切片b1、ミッドバンドフィットc1を算出する。例えば、図5に示す直線L1は、近似部343aが周波数帯域Fの周波数スペクトルC1及びC2に対し回帰分析によって近似した回帰直線である。
続いて、減衰補正部343bは、近似部343aが回帰直線に対して近似した補正前特徴量に対し、減衰率αを用いて減衰補正を行うことにより、補正特徴量を算出し、算出した補正特徴量を記憶部38に格納する(ステップS11)。減衰補正部343bは、上述した式(2)、(4)における受信深度zに、超音波信号の音線のデータ配列を用いて得られるデータ位置Z=(fsp/2vs)Dnを代入することによって算出する。ここで、fspはデータのサンプリング周波数、vsは音速、Dはデータステップ幅、nは処理対象のサンプルデータ群のデータ位置までの音線の1番目のデータからのデータステップ数である。例えば、データのサンプリング周波数fspを50MHzとし、音速vsを1530m/secとし、図4に示すデータ配列を採用してステップ幅Dを15とすると、z=0.2295n(mm)となる。
その後、Bモード画像データ生成部351が生成したBモード画像データにおける各画素に対し、ステップS11で算出された特徴量のうち、表示対象の特徴量とは異なる特徴量に基づいて表示対象の特徴量の表示仕様(色相スケール)を設定する。例えば、傾きを示す特徴量aの表示仕様である色相スケールを、ミッドバンドフィットを示す特徴量cに基づいて設定する。そして、特徴量画像データ生成部352は、Bモード画像データ生成部351が生成したBモード画像データにおける各画素に対し、ステップS11で算出された特徴量に関連づけた視覚情報であって、設定された色相スケールを用いて、視覚情報(例えば色相)を重畳することによって特徴量画像データを生成する(ステップS12)。
この後、表示装置4は、制御部37の制御のもと、特徴量画像データ生成部352が生成した特徴量画像データに対応する特徴量画像を表示する(ステップS13)。
以上説明してきた一連の処理(ステップS1~S13)において、ステップS1、S2の処理、ステップS3、S4の処理、ステップS5の処理、ステップS6~S13の処理のいずれかを並行して行うようにしてもよい。
以上説明したように、本実施の形態の超音波観測装置3は、周波数帯域が狭く、かつ強度が大きい超音波による計測結果に基づいて、特徴量を算出する。本実施の形態によれば、超音波の強度(図5における縦軸方向の大きさ)が大きいことにより、受信信号のS/N比を従来よりも向上させることができる。一方で、実施の形態によれば、超音波の周波数帯域を狭くすることにより、照射する超音波の総量(図5における面積に相当する量)が少ないため、生体への影響を考慮して定められた基準値の範囲内で観測を行うことができる。
なお、上述した実施の形態において、送信部31から送信する第1送信信号と第2送信信号とにより超音波振動子21が照射する超音波の中心周波数の差を大きく(例えば5MHz以上)してもよい。中心周波数の差を大きくすることにより、回帰直線の近似精度を向上させることができる。
また、超音波観測装置3は、超音波の観察モードとして、エコー信号の振幅を輝度に変換して画像を生成するBモードと、生体組織の非線型性を利用して画像を生成するTHI(Tissue Harmonic Imaging)モードとを切り替えることが可能であってもよい。この場合、Bモードにおいて照射する超音波の中心周波数と、THIモードにおいて照射する超音波の中心周波数とは一般に異なるため、これらの観察モードの超音波を中心周波数が異なる2つの超音波として観察対象に照射してもよい。
(変形例1)
変形例1において、送信部31は、第1送信信号と第2送信信号とにより、超音波振動子21に波長帯域が互いに重複する超音波を送信させる。図8は、変形例1に係る超音波観測装置の周波数スペクトル算出部により算出された周波数スペクトルの例を示す図である。図8に示すように、変形例1において、特徴量算出部343は、周波数スペクトル算出部342aが算出した周波数スペクトル(図8の周波数スペクトルC11、C12)を用いて補正前特徴量(直線L2の傾きa2、直線L2の切片b2、ミッドバンドフィットc2)を算出する。周波数スペクトルC11と周波数スペクトルC12とは互いに重複している。その結果、照射する超音波に含まれる波長帯域が増加し、回帰直線の近似精度を向上させることができる。
(変形例2)
図9は、変形例2に係る超音波観測装置の周波数スペクトル算出部により算出された周波数スペクトルの例を示す図である。図9に示すように、変形例2において、特徴量算出部343は、周波数スペクトル算出部342aが算出した周波数スペクトル(図9の周波数スペクトルC21~C23)を用いて合成スペクトル(図9の周波数スペクトルC3)を算出し、該合成スペクトルの特徴量(直線L3の傾きa3、直線L3の切片b3、ミッドバンドフィットc3)を算出する。このように、複数の周波数スペクトルの合成周波数スペクトルを算出し、該合成スペクトルの特徴量を算出してもよい。
以下において、超音波観測装置3が備えるその他の機能について説明する。図10は、表示装置に表示される画像の一例を表す図である。図10に示すように、表示装置4の画面101には、超音波画像102が表示されている。超音波画像102には、特徴量に応じて色分けされた特徴量画像が重畳されている。ただし、図10では、色の違いをハッチングのパターンの違いにより図示した。さらに、超音波画像102には、カラーバー103が重畳されている。カラーバー103は、特徴量と色との対応関係を表示する。なお、カラーバー103の位置は、超音波画像102上でもよいが、超音波画像102の外部でもよい。また、カラーバー103の位置は、可変とされていてもよい。
超音波観測装置3は、特徴量が設定した値以下である場合に、特徴画像の色付けをなくす(透明にする)リジェクション機能を備えている。図10は、リジェクション機能が用いられていない状態を表す図である。
図11は、リジェクション機能が用いられた状態を表す図である。図11に示すように、ユーザにより特徴量が3以下である場合にリジェクション機能が有効になるように設定されると、特徴量画像において対応する領域の色付けがなくされる。このとき、カラーバー103の特徴量が3以下を表す領域も同様に、色付けがされていないことを表す表示(図11中ではカラーバー103の下端の黒い領域)に切り替わる。設定値が初期値から変更された場合に、カラーバー103の数字の表示を強調表示するようにしてもよい。なお、この変更された設定値は、検査終了の度にユーザが設定した初期値にリセットされる。なお、検査終了とは、検査終了の所定のボタンが押下された場合、超音波観測装置3の電源がOFFにされた場合等を指す。表示装置4に表示されているその他の値についても、変更された場合に強調表示するようにしてもよい。また、設定値が変更されている場合に、ユーザがこの値を初期値として設定すると、カラーバー103の数字の強調表示が解除される。
また、超音波画像102には、リジェクション機能の設定値を設定値表示104として表示してもよい。この設定値表示104の数値もリジェクション機能が有効である場合に強調表示されてもよい。
また、図11において、強調表示として数字を白抜きにする例を示したが、強調表示の態様は特に限定されない。例えば、強調表示として、数字の色や太さを変えてもよいし、数字を点滅させてもよい。
超音波観測装置3は、RAWデータを切り替え可能に記憶部38に記憶させる機能を備えていてもよい。ユーザがRAWデータを記憶可能なモードに設定した場合、表示装置4には、Bモード画像のみが表示されるRAWモードとBモード画像に特徴量画像が重畳表示されるTSモードとを切り替えるモード切替ボタンが表示される。モード切替ボタンにより、RAWモードが選択されると、RAWデータを1フレーム分記憶させるボタン(例えば枠で囲まれたRAWの文字)が表示され、このボタンを押下するとRAWデータとBモード画像データとが記憶部38に記憶される。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、以上のように表し、かつ記述した特定の詳細及び代表的な実施の形態に限定されるものではない。従って、添付のクレーム及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。