特許法第30条第2項適用 1)発行者名 公益社団法人日本化学会コロイドおよび界面化学部会、刊行物名 第67回コロイドおよび界面化学討論会講演要旨集、発行年月日 平成28年9月8日 2)集会名 第67回コロイドおよび界面化学討論会、開催日 平成28年9月22日
以下、実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す形態に限定されるものではない。また、各実施形態およびその変形例において説明した事項は、特に断りのない限り、他の実施形態および変形例にも適用することができる。
(第1の実施形態:半導体ナノ粒子)
第1の実施形態として、Ag、InおよびSを含む半導体ナノ粒子を説明する。
本実施形態の半導体ナノ粒子は、Ag、In、およびSを含む、平均粒径が50nm以下の半導体ナノ粒子である。この半導体ナノ粒子の結晶構造は、正方晶、六方晶、または斜方晶からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
上記特定の元素を含み、かつその結晶構造が正方晶、六方晶、または斜方晶である半導体ナノ粒子は、一般的には、AgInS2の組成式で表されるものとして、文献等において紹介されている。なお、AgInS2の組成式で表される半導体であって、六方晶の結晶構造を有するものはウルツ鉱型であり、正方晶の結晶構造を有する半導体はカルコパイライト型である。結晶構造は、例えば、X線回折(XRD)により得られるXRDパターンを測定することによって同定される。具体的には、半導体ナノ粒子から得られたXRDパターンを、AgInS2の組成で表される半導体ナノ粒子のものとして既知のXRDパターン、または結晶構造パラメータからシミュレーションを行って求めたXRDパターンと比較する。既知のパターンおよびシミュレーションのパターンの中に、半導体ナノ粒子のパターンと一致するものがあれば、当該半導体ナノ粒子の結晶構造は、その一致した既知またはシミュレーションのパターンの結晶構造であるといえる。
ナノ粒子の集合体においては、異なる結晶構造のナノ粒子が混在していてよい。その場合、XRDパターンにおいては、複数の結晶構造に由来するピークが観察される。
AgInS2の組成式で表される半導体を得るには、Ag源、In源およびS源となる化合物の割合(仕込み比)を、化学量論組成のとおりとなるように選択して、半導体を合成するのが一般的である。本発明者らは、Ag、InおよびSから成る半導体あるいはこれらの元素を含む半導体において、これらの元素が化学量論組成比からはずれた組成をとる場合に、バンド端発光が得られる可能性を検討した。その結果、各元素源の仕込み比を、AgとInの原子数の合計に対するAgの原子数の比を、後述するとおり、0.33以上0.42以下となるように選択して半導体ナノ粒子を生成すると、非化学量論組成ではあるが、バンド端発光可能な半導体ナノ粒子が得られることを見出した。
本実施形態の半導体ナノ粒子においては、AgとInの原子数の合計に対するAgの原子数の比(Ag/Ag+In)が0.320以上0.385以下であり、AgとInの原子数の合計に対するSの原子数の比(S/Ag+In)が1.20以上1.45以下である。Ag/Ag+Inが0.320以上0.385以下であるということは、Inが化学量論組成比よりも多い割合で含まれていることを意味する。また、S/Ag+Inが1.20以上1.45以下であるということは、Sが化学量論組成比よりも多い割合で含まれていることを意味する。化学量論組成どおりにAg、InおよびSが含まれていると、Ag/Ag+Inは0.5となり、S/Ag+Inは1となる。
本実施形態の半導体ナノ粒子が比較的強いバンド端発光を与える理由は定かではないが、例えば、InとSとがIn2S3を形成し、これが何らかの影響をもたらしている可能性があるとも推察される。尤も、この推察により、特許請求の範囲に記載された発明が何ら限定されるものではない。
本実施形態において、Ag/Ag+Inは0.320以上0.385以下であり、特に0.350以上0.382以下であり、S/Ag+Inは1.20以上1.45以下であり、特に1.25以上1.40以下である。Ag/Ag+InおよびS/Ag+Inが、それぞれこれらの範囲内にあると、バンド端発光が得られやすく、あるいは発光強度のより大きいバンド端発光が得られやすい。
半導体ナノ粒子の化学組成は、例えば、エネルギー分散型X線分析法または蛍光X線分析法(XRF)によって同定することができる。Ag/Ag+InおよびS/Ag+Inは、これらの方法のいずれかで測定した化学組成に基づいて算出される。
第1の実施形態のナノ粒子は、Ag、InおよびSのみから実質的に成っていてよい。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にAg、InおよびS以外の元素が含まれることを考慮して使用している。あるいは、第1の実施形態のナノ粒子は、Ag/Ag+InおよびS/Ag+Inが上記の範囲内にある限りにおいて、他の元素を含んでいてよい。
本実施形態の半導体ナノ粒子は、50nm以下の平均粒径を有する。平均粒径は、例えば、1nm~20nmの範囲内、特に1nm~10nmの範囲内にあってよい。平均粒径が50nmを越えると量子サイズ効果が得られにくくなり、バンド端発光が得られにくくなる。
ナノ粒子の平均粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影されたTEM像から求めてよい。具体的には、TEM像で観察される粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分であって、当該粒子の中心を通過する線分のうち、最も長いものを指す。
ただし、粒子がロッド状の形状を有するものである場合には、短軸の長さを粒径とみなす。ここで、ロッド状の形状の粒子とは、長方形状を含む四角形状(断面は、円、楕円、または多角形状を有する)、楕円形状、または多角形状(例えば鉛筆のような形状)等として観察されるものであって、短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.2より大きいものを指す。ロッド状の形状の粒子について、長軸の長さは、楕円形状の場合には、粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長いものを指し、長方形状または多角形状の場合、外周を規定する辺の中で最も長い辺に平行であり、かつ粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長いものを指す。短軸の長さは、外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、前記長軸の長さを規定する線分に直交し、かつ最も長さの長い線分を指す。
平均粒径は、50000倍~150000倍のTEM像で観察される、すべての計測可能なナノ粒子について粒径を測定し、それらの粒径の算術平均とする。ここで、「計測可能な」粒子は、TEM像において粒子全体が観察できるものである。したがって、TEM像において、その一部が撮像範囲に含まれておらず、「切れて」いるような粒子は計測可能なものではない。
一つのTEM像に含まれるナノ粒子が合計100点以上である場合には、一つのTEM像を用いて平均粒径を求める。一つのTEM像に含まれるナノ粒子の数が少ない場合には、撮像場所を変更して、TEM像をさらに得、二つ以上のTEM像に含まれる100点以上の粒子について粒径を測定する。
本実施形態の半導体ナノ粒子は、Ag/Ag+InおよびS/Ag+Inが上記の範囲内にあることに起因して、バンド端発光を発光可能である。具体的には、本実施形態の半導体ナノ粒子は、350nm~500nmの範囲内にある波長の光が照射されると、照射された光よりも長い波長を有し、かつ発光寿命が200ns以下の光を発することができる。また、発光寿命が200ns以下の発光は、好ましくは、半導体ナノ粒子が与える発光スペクトルにおいて、半値幅が150nm以下として観察される。
発光寿命は、次の手順に従って求める。まず、半導体ナノ粒子に励起光を照射して発光させ、発光スペクトルのピーク付近の波長、例えば、(ピークの波長±50nm)の範囲内にある波長の光について、その減衰(残光)の経時変化を測定する。経時変化は、励起光の照射を止めた時点から測定する。得られる減衰曲線は一般に、発光や熱等の緩和過程に由来する複数の減衰曲線を足し合わせたものとなっている。そこで、本実施形態では、3つの成分(すなわち、3つの減衰曲線)が含まれると仮定して、発光強度をI(t)としたときに、減衰曲線が下記の式で表せるように、パラメータフィッティングを行う。パラメータフィッティングは、専用ソフトを使用して実施する。
I(t)=A1exp(-t/τ1)+A2exp(-t/τ2)+A3exp(-t/τ3)
上記の式中、各成分のτ1、τ2、τ3は、光強度が初期の1/e(36.8%)に減衰するのに要する時間であり、これが各成分の発光寿命に相当する。発光寿命の短い順にτ1、τ2、τ3とする。また、A1、A2およびA3は、各成分の寄与率である。本実施形態では、Axexp(-t/τx)で表される曲線の積分値が最も大きいものを主成分としたときに、当該主成分のτを、発光寿命を測定した光(前記ピーク付近の波長の光)の発光寿命とする。そして、発光寿命が200ns以下である発光は、バンド端発光であると推察される。なお、主成分の特定に際しては、Axexp(-t/τx)のtの値を0から無限大まで積分することによって得られるAx×τxを比較し、この値が最も大きいものを主成分とする。
本実施形態では、発光の減衰曲線が3つ、4つ、または5つの成分を含むものと仮定してパラメータフィッティングを行って得られる式がそれぞれ描く減衰曲線と、実際の減衰曲線とのずれは、それほど変わらない。そのため、本実施形態では、主成分のτを求めるにあたり、発光の減衰曲線に含まれる成分の数を3と仮定し、それによりパラメータフィッティングが煩雑となることを避けている。
本実施形態の半導体ナノ粒子の発光スペクトルは、350nm~1100nmの範囲から選択される特定の一つの波長の光を照射したときに得られる。例えば、正方晶の結晶構造を有し、Ag/Ag+Inが0.361、S/Ag+Inが1.30であるナノ粒子(後述する実施例2に相当)の場合、波長365nmの光を照射すると、図3にて点線で示すように、590nm付近にバンド端発光に由来する発光ピークが観察される発光スペクトルを得ることができる。
本実施形態の半導体ナノ粒子は、バンド端発光とともに、他の発光、例えば欠陥発光を与えるものであってよい。欠陥発光は一般に発光寿命が長く、またブロードなスペクトルを有し、バンド端発光よりも長波長側にそのピークを有する。バンド端発光と欠陥発光がともに得られる場合、バンド端発光の強度が欠陥発光の強度よりも大きいことが好ましい。
本実施形態の半導体ナノ粒子が発光するバンド端発光は、半導体ナノ粒子の形状および/または平均粒径、特に平均粒径を変化させることによって、そのピークの位置を変化させることができる。例えば、半導体ナノ粒子の平均粒径をより小さくすれば、量子サイズ効果により、バンドギャップエネルギーがより大きくなり、バンド端発光のピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。
本実施形態の半導体ナノ粒子の吸収スペクトルは、所定の範囲から選択される波長の光を照射することにより得られる。例えば、正方晶の結晶構造を有し、Ag/Ag+Inが0.361、S/Ag+Inが1.30であるナノ粒子(後述する実施例2に相当)の場合、波長190nm~1100nmの光を照射すると、図2にて実線で示すとおりの吸収スペクトルを得ることができる。図2は、波長190nm~1100nmの吸収スペクトルのうち、波長約350nm~750nmの範囲のものを示している。
本実施形態の半導体ナノ粒子はまた、その吸収スペクトルがエキシトンピークを示すものであることが好ましい。エキシトンピークは、励起子生成により得られるピークであり、これが吸収スペクトルにおいて発現しているということは、粒径の分布が小さく、結晶欠陥の少ないバンド端発光に適した粒子であることを意味する。エキシトンピークが急峻になるほど、粒径がそろった結晶欠陥の少ない粒子が半導体ナノ粒子の集合体により多く含まれていることを意味し、したがって、発光の半値幅は狭くなり、発光効率が向上すると予想される。本実施形態の半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいて、エキシトンピークは、例えば、350nm~650nmの範囲内で観察される。
本実施形態の半導体ナノ粒子は、その表面が任意の化合物で修飾されていてよい。ナノ粒子の表面を修飾する化合物は表面修飾剤とも呼ばれる。表面修飾剤は、例えば、ナノ粒子を安定化させてナノ粒子の凝集または成長を防止するためのものであり、ならびに/あるいはナノ粒子の溶媒中での分散性を向上させるためのものである。
本実施形態において、表面修飾剤は、例えば、炭素数4~20の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4~20の炭化水素基を有する含硫黄化合物、炭素数4~20の炭化水素基を有する含酸素化合物等であってよい。炭素数4~20の炭化水素基としては、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、ナフチルメチル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。含窒素化合物としてはアミン類やアミド類が挙げられ、含硫黄化合物としてはチオール類が挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類などが挙げられる。
表面修飾剤としては、炭素数4~20の炭化水素基を有する含窒素化合物が好ましい。そのような含窒素化合物は、例えばn-ブチルアミン、イソブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアルキルアミン、オレイルアミンなどのアルケニルアミンである。
表面修飾剤としては、また、炭素数4~20の炭化水素基を有する含硫黄化合物が好ましい。そのような含硫黄化合物は、例えば、n-ブタンチオール、イソブタンチオール、n-ペンタンチオール、n-ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等である。
表面修飾剤は、異なる二以上のものを組み合わせて用いてよい。例えば、上記において例示した含窒素化合物から選択される一つの化合物(例えば、オレイルアミン)と、上記において例示した含硫黄化合物から選択される一つの化合物(例えば、ドデカンチオール)とを組み合わせて用いてよい。
(第2の実施形態:半導体ナノ粒子の製造方法)
次に、第2の実施形態として、第1の実施形態の半導体ナノ粒子を製造する方法を説明する。本実施形態の製造方法は、Agの塩と、Inの塩と、Sの供給源となる化合物とを、有機溶媒中にて反応させることにより半導体ナノ粒子を製造する方法であって、
(a)Agの塩と、Inの塩と、Sの供給源となる化合物と、有機溶媒とを準備することと、
(b)AgとInの原子数の合計に対するAgの原子数の比が0.33以上0.42以下となるように、Agの塩と、Inの塩と、Sの供給源となる化合物とを、前記有機溶媒中に投入し、半導体ナノ粒子を生成すること、
を含む半導体ナノ粒子の製造方法である。この製造方法は、AgとInの原子数の合計に対するAgの原子数の比(Ag/Ag+In)が0.33以上0.42以下となるように、Agの塩と、Inの塩と、Sの供給源となる化合物とを、有機溶媒中に投入することを特徴とする。Ag/Ag+Inが前記範囲内となるように、各元素の供給源を投入することによって、Ag/Ag+Inが第1の実施形態にて説明した範囲内にあるAg-In-S半導体ナノ粒子を得ることができる。すなわち、本実施形態の製造方法は、各元素の供給源の仕込み比を、化学量論組成比どおりではない特定の比として、半導体ナノ粒子を生成する点にその特徴がある。
<第1の半導体ナノ粒子の生成手法>
半導体ナノ粒子の生成は、例えば、Agの塩と、Inの塩と、Sの供給源となる化合物として、Sを配位元素として錯体を形成し得る化合物と、を混合することにより錯体とし、この錯体を熱処理することを含む方法で作製してよい。Agの塩およびInの塩はいずれも、その種類は特に限定されず、有機酸塩および無機酸塩のいずれであってもよい。具体的には、塩は、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩酸塩、およびスルホン酸塩のいずれであってよく、好ましくは酢酸塩等の有機酸塩である。有機酸塩は有機溶媒への溶解度が高く、反応をより均一に進行させやすいことによる。
この生成方法で用いられる、Sの供給源となる化合物として、例えば、2,4-ペンタンジチオンなどのβ-ジチオン類;1,2-ビス(トリフルオロメチル)エチレン-1,2-ジチオールなどのジチオール類;ジエチルジチオカルバミド酸塩;チオ尿素が挙げられる。
錯体は、Agの塩、Inの塩、およびSの供給源となる化合物とを混合することにより得られる。錯体の形成は、Agの塩、Inの塩およびSの供給源となる化合物を、水もしくは有機溶媒(特に、エタノール、メタノール、アセトン等の極性の高い有機溶媒)中に投入して混合する方法で実施してよい。
有機溶媒は、表面修飾剤それ自体であってよく、または表面修飾剤を含むものであってよい。表面修飾剤は、第1の実施形態に関連して説明したとおりである。特に、炭素数4~20の炭化水素基を有するチオールから選択される少なくとも一種の溶媒と、炭素数4~20の炭化水素基を有するアミンから選択される少なくとも一種の溶媒が有機溶媒に含まれている、またはそれらの組み合わせから成る有機溶媒を用いることが好ましい。
錯体の形成を伴う生成手法においては、溶媒は、錯体が形成されるように選択される。例えば、水もしくは有機溶媒が、Agの塩、Inの塩、およびSの供給源となる化合物を溶解し得ない場合には、錯体が形成されない、または錯体が形成されにくくなる。尤も、有機溶媒がAgの塩、Inの塩、およびSの供給源となる化合物を溶解し得ない場合でも、各元素の供給源となる化合物の組み合わせによっては、下記「第2の半導体ナノ粒子の生成手法」で説明するように、Sの供給源となる化合物が配位子として機能することなく、半導体ナノ粒子が生成されることもある。
ここで、Agの塩、Inの塩およびSの供給源となる化合物は、AgとInの原子数の合計に対するAgの原子数の比(Ag/Ag+In)が0.33以上0.42以下となるような量で用いられる。また、Sの供給源となる化合物を、AgとInの原子数の合計に対するSの原子数の比(S/Ag+In)が0.95以上1.20以下となるような量で用いることが好ましい。これらの条件を満たすように各元素の供給源となる化合物を用いることにより、バンド端発光を与えやすい、またはバンド端発光の強度が大きい半導体ナノ粒子を生成することができる。
Ag/Ag+Inは、より好ましくは、0.38以上0.42以下であり、特に0.40である。また、S/Ag+Inは、より好ましくは、0.95以上1.10以下であり、特に1.00である。
次に、得られた錯体を熱処理して、半導体ナノ粒子を形成する。錯体の熱処理は、有機溶媒を表面修飾剤または表面修飾剤を含む溶媒として、塩およびSの供給源となる化合物を投入した後、加熱処理を実施することにより、錯体の形成、熱処理および表面修飾を連続的に又は同時に実施する方法で実施してよい。
上記加熱処理は、230℃以上260℃以下の温度にて、3分間以上実施することが好ましい。加熱時間は、より好ましくは5分間以上であり、さらにより好ましくは8分間以上であり、最も好ましくは10分間以上である。より好ましい加熱温度は、245℃以上255℃以下であり、特に250℃としてよい。加熱時間は、例えば、60分間以下であり、特に30分間以下である。加熱時間は、10分間であってよい。
あるいは、上記加熱処理は、30℃以上190℃以下の温度にて、1分間以上15分間以下加熱した後、230℃以上260℃以下の温度にて、3分間以上加熱する方法で実施してよい。加熱処理を2段階で実施する場合には、バンド端発光の強度がより強い半導体ナノ粒子が得られやすい。この場合、第1段階の加熱温度は、より好ましくは45℃~155℃であり、さらにより好ましくは145℃~155℃であり、特に150℃であってよい。第1段階の加熱時間は、より好ましくは8分間以上13分以下であり、さらにより好ましくは9分間以上11分間以下であり、特に10分間である。第2段階の加熱時間は、より好ましくは5分間以上であり、さらにより好ましくは8分間以上であり、最も好ましくは10分間以上である。第2段階の加熱温度は、より好ましくは、245℃以上255℃以下であり、特に250℃としてよい。第2段階の加熱時間は、例えば、60分間以下であり、特に30分間以下である。加熱時間は、10分間であってよい。
加熱処理を2段階で実施することにより、良好な再現性で、バンド端発光の強度が比較的高い半導体ナノ粒子を製造することができる。
<第2の半導体ナノ粒子の生成手法>
半導体ナノ粒子は、Agの塩、Inの塩、およびSの供給源となる化合物を一度に有機溶媒に投入し、その後、有機溶媒を加熱する方法で生成してよい。この方法によれば、簡便な操作によりワンポッドで再現性よくナノ粒子を合成できる。
あるいはまた、有機溶媒とAgの塩とを反応させて錯体を形成し、次に、有機溶媒とInの塩とを反応させて錯体を形成するとともに、これらの錯体とSの供給源となる化合物とを反応させ、得られた反応物を結晶成長させる方法で製造してよい。この場合、加熱は、Sの供給源となる化合物と反応させる段階にて実施する。
Agの塩、およびInの塩については、上記錯体の形成を含む生成方法(第1の半導体ナノ粒子の生成手法)に関連して説明したとおりである。
有機溶媒は、例えば、炭素数4~20の炭化水素基を有するアミン、特に、炭素数4~20のアルキルアミンもしくはアルケニルアミン、炭素数4~20の炭化水素基を有するチオール、特に炭素数4~20のアルキルチオールもしくはアルケニルチオール、炭素数4~20の炭化水素基を有するホスフィン、特に炭素数4~20のアルキルホスフィンもしくはアルケニルホスフィンである。これらの有機溶媒は、最終的には、得られる半導体ナノ粒子を表面修飾するものとなる。これらの有機溶媒は2以上組み合わせて使用してよく、特に、炭素数4~20の炭化水素基を有するチオールから選択される少なくとも一種の溶媒と、炭素数4~20の炭化水素基を有するアミンから選択される少なくとも一種の溶媒とを組み合わせた混合溶媒を使用してよい。これらの有機溶媒はまた、他の有機溶媒と混合して用いてよい。
第2の生成手法において、Sの供給源となる化合物は、例えば、硫黄、チオ尿素、チオアセトアミド、アルキルチオールである。
この生成手法を採用する場合も、Agの塩、Inの塩およびSの供給源となる化合物は、AgとInの原子数の合計に対するAgの原子数の比(Ag/Ag+In)が0.33以上0.42以下となるような量で用いられる。また、Sの供給源となる化合物を、AgとInの原子数の合計に対するSの原子数の比(S/Ag+In)が0.95以上1.20以下となるような量で用いることが好ましい。これらの条件を満たすように各元素の供給源となる化合物を用いることにより、バンド端発光を与えやすい半導体ナノ粒子を生成することができる。
Ag/Ag+Inは、より好ましくは、0.38以上0.42以下であり、特に0.40である。また、S/Ag+Inは、より好ましくは、0.95以上1.10以下であり、特に1.00である。
また、加熱処理は、230℃以上260℃以下の温度にて、3分間以上実施することが好ましい。加熱時間は、より好ましくは5分間以上であり、さらにより好ましくは8分間以上であり、最も好ましくは10分間以上である。より好ましい加熱温度は、245℃以上255℃以下であり、特に250℃としてよい。加熱時間は、例えば、60分間以下であり、特に30分間以下である。加熱時間は、10分間であってよい。
あるいは、加熱処理は、30℃以上190℃以下の温度にて、1分間以上15分間以下加熱した後、230℃以上260℃以下の温度にて、3分間以上加熱する方法で実施してよい。加熱処理を2段階で実施する場合には、バンド端発光の強度がより強い半導体ナノ粒子が得られやすい。この場合、第1段階の加熱温度は、より好ましくは45℃~155℃であり、さらにより好ましくは145℃~155℃であり、特に150℃であってよい。第1段階の加熱時間は、より好ましくは8分間以上13分以下であり、さらにより好ましくは9分間以上11分間以下であり、特に10分間である。第2段階の加熱時間は、より好ましくは5分間以上であり、さらにより好ましくは8分間以上であり、最も好ましくは10分間以上である。第2段階の加熱温度は、より好ましくは、245℃以上255℃以下であり、特に250℃としてよい。第2段階の加熱時間は、例えば、60分間以下であり、特に30分間以下である。加熱時間は、10分間であってよい。
加熱処理を2段階で実施することにより、良好な再現性で、バンド端発光の強度が比較的高い半導体ナノ粒子を製造することができる。
<第3の半導体ナノ粒子の生成手法>
半導体ナノ粒子は、いわゆるホットインジェクション法で生成してよい。ホットインジェクション法は、100℃~300℃の範囲内にある温度に加熱した溶媒に、各元素の供給源となる化合物(例えば、Agの塩、Inの塩、およびSの供給源となる化合物)を溶解または分散させた液体(前駆体溶液とも呼ぶ)を比較的短い時間(例えばミリ秒オーダー)で投入して、反応初期に多くの結晶核を生成させる半導体ナノ粒子の製造方法である。
あるいは、ホットインジェクション法においては、一部の元素の供給源となる化合物を有機溶媒中に予め溶解または分散させておき、これを加熱してから、その他の元素の前駆体溶液を投入してよい。溶媒を表面修飾剤、または表面修飾剤を含む溶媒とすれば、表面修飾も同時に実施できる。表面修飾剤は、第1の実施形態に関連して説明したとおりである。
ホットインジェクション法においても、最終的に溶媒に投入される各元素の供給源となる化合物は、AgとInの原子数の合計に対するAgの原子数の比(Ag/Ag+In)が0.33以上0.42以下となるような量で用いられる。また、Sの供給源となる化合物を、AgとInの原子数の合計に対するSの原子数の比(S/Ag+In)が0.95以上1.20以下となるような量で用いることが好ましい。これらの条件を満たすように各元素の供給源となる化合物を用いることにより、バンド端発光を与えやすい、又はバンド端発光の強度が大きい半導体ナノ粒子を生成することができる。
Ag/Ag+Inは、より好ましくは、0.38以上0.42以下であり、特に0.40である。また、S/Ag+Inは、より好ましくは、0.95以上1.10以下であり、特に1.00である。
半導体ナノ粒子の生成方法は上記のものに限定されない。各元素の供給源となる化合物の使用量を、Ag/Ag+Inが0.33以上0.42以下となるように選択する限りにおいて、任意の方法を用いてよい。
なお、いずれの生成方法を採用する場合でも、半導体ナノ粒子の製造は不活性雰囲気下、特にアルゴン雰囲気下または窒素雰囲気下で実施される。これは、酸化物の副生および半導体ナノ粒子表面の酸化を、低減ないしは防止するためである。
いずれの生成方法においても、加熱処理を実施する場合には、所定の加熱温度(例えば、一定時間保持する温度)に達するまでの昇温速度は例えば1℃/分~50℃/分としてよい。また、加熱処理後は、例えば、1℃/分~100℃/分の降温速度にて、所定の温度となるように冷却してよい。あるいは、加熱処理後の冷却は、加熱源をoffとして放冷することにより実施してよい。
いずれの生成方法においても、半導体ナノ粒子の生成が終了した後、得られた半導体ナノ粒子を処理後の有機溶媒から分離してよく、必要に応じて、さらに精製してよい。分離は、例えば、生成終了後、ナノ粒子を含む有機溶媒を遠心分離に付して、ナノ粒子を含む上澄み液を取り出すことにより行う。精製は、例えば、上澄み液に有機溶媒を添加して遠心分離に付し、半導体ナノ粒子を沈殿として取り出すことを含む。沈殿は、それ自体を取り出してよく、または上澄み液を除去することにより取り出してよい。取り出した沈殿は、例えば、真空脱気、もしくは自然乾燥、または真空脱気と自然乾燥との組み合わせにより、乾燥させてよい。自然乾燥は、例えば、大気中に常温常圧にて放置することにより実施してよく、その場合、20時間以上、例えば、30時間程度放置してよい。
あるいは、取り出した沈殿は、有機溶媒に溶解させてもよい。精製(アルコールの添加と遠心分離)は必要に応じて複数回実施してよい。精製に用いるアルコールとして、メタノール、エタノール、n-プロパノール等の低級アルコールを用いてよい。沈殿を有機溶媒に溶解させる場合、有機溶媒として、クロロホルム、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等を用いてよい。
このようにして得られる半導体ナノ粒子は、AgとInの原子数の合計に対するAgの原子数の比が、有機溶媒中に投入されるAgの塩およびInの塩についての、AgとInの原子数の合計に対するAgの原子数の比よりも小さいものとして得られる傾向にある。したがって、本実施形態の製造方法によれば、Ag、In、およびSを含む、半導体ナノ粒子であって、例えば、AgとInの原子数の合計に対するAgの原子数の比が0.320以上0.385以下であり、AgとInの原子数の合計に対するSの原子数の比が1.20以上1.45以下である半導体ナノ粒子を製造することができる。この半導体ナノ粒子は、350~500nmの範囲内にある波長の光が照射されると、発光寿命が200ns以下の光を発し得るものである。
また、有機溶媒を、表面修飾剤それ自体、または表面修飾剤を含むものとすれば、表面が修飾された半導体ナノ粒子を得ることができる。
(第3の実施形態:コアシェル型半導体ナノ粒子)
第3の実施形態として、コアと、コアの表面を覆いコアとヘテロ接合するシェルとを備えるコアシェル型半導体ナノ粒子を説明する。
本実施形態において、コアは、第1の実施形態として説明した半導体ナノ粒子である。したがって、その詳細な説明は省略する。
シェルは、実質的に第13族元素および第16族元素からなる半導体である。シェルを構成する半導体は、コアを構成する半導体よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する半導体であってよい。第13族元素としては、B、Al、Ga、In、およびTlが挙げられ、第16族元素としては、O、S、Se、TeおよびPoが挙げられる。
実質的に第13族元素および第16族元素からなる半導体(シェル)で、第1の実施形態の半導体ナノ粒子(コア)を被覆すると、シェルがない場合と比較して、バンド端発光の割合をより大きくすることができ、バンド端発光以外の発光(特に欠陥発光)の割合をより小さくすることができる。これは、コアがシェルで被覆されることにより、コアの表面欠陥サイトが無くなるためであると推察される。また、本実施形態において、シェルがコアよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する場合には、エネルギー的な障壁が形成されることによって、バンド端発光の割合が高くなるものと推察される。
シェルは、第13族元素および第16族元素の組み合わせとして、GaとSとの組み合わせを含んでよい。GaとSの組み合わせは、バンドギャップエネルギーがより大きいことから好ましく用いられる。GaとSとの組み合わせは、硫化ガリウムの形態であってよい。本実施形態においてシェルを構成する硫化ガリウムは化学量論組成のもの(Ga2S3)でなくてよく、その意味で、本明細書では硫化ガリウムを式GaSx(xは整数に限られない任意の数字、例えば0.8~1.5)で表すことがある。
シェルはアモルファス(非晶質)であってもよい。アモルファス(非晶質)のシェルが形成されているか否かは、本実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子を、HAADF-STEMで観察することにより確認できる。具体的には、規則的な模様(例えば、縞模様ないしはドット模様等)を有する部分が中心部に観察され、その周囲に規則的な模様を有するものとしては観察されない部分がHAADF-STEMにおいて観察される。HAADF-STEMによれば、結晶性物質のように規則的な構造を有するものは、規則的な模様を有する像として観察され、非晶性物質のように規則的な構造を有しないものは、規則的な模様を有する像としては観察されない。そのため、シェルがアモルファスである場合には、規則的な模様を有する像として観察されるコア(前記のとおり、正方晶系等の結晶構造を有する)とは明確に異なる部分として、シェルを観察することができる。
また、コアがAgとInとSとからなり、シェルがGaSからなる場合、GaがAgおよびInよりも軽い元素であるために、HAADF-STEMで得られる像において、シェルはコアよりも暗い像として観察される傾向にある。
シェルは、その表面が任意の化合物で修飾されていてよい。シェルの表面がコアシェル型半導体ナノ粒子の露出表面である場合には、当該表面を修飾することによって、ナノ粒子を安定化させて半導体ナノ粒子の凝集または成長を防止することができ、ならびに/あるいは半導体ナノ粒子の溶媒中での分散性を向上させることができる。表面修飾剤として適用可能な化合物は先に第1の実施形態において説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。
コアシェル型半導体ナノ粒子は、例えば、50nm以下の平均粒径を有してよい。平均粒径は、例えば、1nm~20nmの範囲内、特に1nm~10nmの範囲内にあってよい。粒径および平均粒径の求め方は第1の実施形態で説明したとおりである。
コアシェル型の半導体ナノ粒子において、コアは、例えば、10nm以下、特に、8nm以下の平均粒径を有してよい。コアの平均粒径は、2nm~10nmの範囲内、特に2nm~8nm、より特に2nm~6nmの範囲内にあってよく、あるいは4nm~10nm、5nm~8nmの範囲内にあってよい。コアの平均粒径が大きすぎると、量子サイズ効果が得られにくくなり、バンド端発光が得られにくくなる。
シェルは、0.1nm以上の厚さを有してよい。シェルの厚さは0.1nm~50nmの範囲内、特に0.1nm~20nmの範囲内、より特には0.2nm~10nmの範囲内にあってよい。あるいは、シェルの厚さは、0.1nm~3nmの範囲内にあってよく、特に0.3nm~3nmの範囲内にあってよい。シェルの厚さが小さすぎる場合には、シェルがコアを被覆することによる効果が十分に得られず、バンド端発光が得られにくくなる。
コアの平均粒径およびシェルの厚さは、コアシェル型半導体ナノ粒子を、例えば、HAADF-STEMで観察することにより求めてよい。特に、シェルがアモルファスである場合には、HAADF-STEMによって、コアとは異なる部分として観察されやすいシェルの厚さを容易に求めることができる。その場合、コアの粒径は半導体ナノ粒子について上記で説明した方法に従って求めることができる。シェルの厚さが一定でない場合には、最も小さい厚さを、当該粒子におけるシェルの厚さとする。
あるいは、コアの平均粒径は、シェルによる被覆の前に予め測定しておいてよい。それから、コアシェル構造の半導体ナノ粒子の平均粒径を測定し、当該平均粒径と予め測定したコアの平均粒径との差を求めることにより、シェルの厚さを求めてよい。
本実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子は、コアが第1の実施形態で説明した半導体ナノ粒子であり、コアにおいてAg/Ag+InおよびS/Ag+Inが特定の範囲内にあることに起因して、バンド端発光を発することができる。具体的には、350~500nmの範囲内にある波長の光が照射されたときに得られる発光スペクトルにおいて、ピーク波長が550nm~650nmの範囲内にあり、半値幅が80nm以下、特に50nm以下である発光ピークが25℃にて観察される。半値幅の下限は、例えば20nmであってよく、特に10nmであってよい。
また、本実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子は、上記特定のコアが、上記特定のシェルで被覆されていることによって、当該バンド発光を大きな割合で発することができる。具体的には、本実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子は、欠陥発光の強度で規格化したバンド端発光の強度が例えば5~300、特に20~150となるような、発光スペクトルを与えることができる。本実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子は、好ましくは欠陥発光に由来する光を発しない。
本実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子が発するバンド端発光の発光寿命は、シェルで被覆されていない半導体ナノ粒子(すなわち、第1の実施形態の半導体ナノ粒子)のそれよりも長くなる傾向にあり、場合によっては200nsを超えることがある。これはシェルによる被覆に起因して、励起電子の無輻射失活する緩和過程が減少し、バンド端準位での励起電子の寿命が増加するためと考えられる。本実施形態のコアシェル型ナノ粒子は、発光寿命が200nsを超える発光であっても、その半値幅が80nm以下である限りにおいては、バンド端発光を与えるものとみなされる。
(第4の実施形態:コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法)
次に、第4の実施形態として、第3の実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子を製造する方法を説明する。コアとなる半導体ナノ粒子の製造方法は、第2の実施形態として説明したとおりである。
コアとなる半導体ナノ粒子(以下、シェルで被覆する前のコアを便宜的に「一次半導体ナノ粒子」と呼ぶ)をシェルで被覆するに際しては、これを適切な溶媒に分散させた分散液を調整し、当該分散液中でシェルとなる半導体層を形成する。一次半導体ナノ粒子が分散した液体においては、散乱光が生じないため、分散液は一般に透明(有色または無色)のものとして得られる。一次半導体ナノ粒子を分散させる溶媒は特に限定されず、一次半導体ナノ粒子を作製するときと同様、任意の有機溶媒(特に、エタノール等の極性の高い有機溶媒)であってよい。有機溶媒は、表面修飾剤、または表面修飾剤を含む溶液であってよい。例えば、有機溶媒は、炭素数4~20の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1つであってよく、あるいは、炭素数4~20の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1つであってよく、あるいは炭素数4~20の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1つと炭素数4~20の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1つとの組み合わせであってよい。具体的な有機溶媒としては、オレイルアミン、n‐テトラデシルアミン、ドデカンチオール、またはその組み合わせがある。
一次半導体ナノ粒子の分散液は、分散液に占める粒子の割合が、例えば、0.02質量%~1質量%、特に0.1質量%~0.6質量%となるように調製してよい。分散液に占める粒子の割合が小さすぎると貧溶媒による凝集・沈澱プロセスによる生成物の回収が困難になり、大きすぎるとコアを構成する材料のオストワルド熟成、衝突による融合の割合が増加し、粒径分布が広くなる傾向にある。
シェルとなる半導体の層の形成は、第13族元素を含む化合物と、第16族元素の単体または第16族元素を含む化合物とを、上記分散液に加えて実施する。
第13族元素を含む化合物は、第13族元素源となるものであり、例えば、第13族元素の有機塩、無機塩、および有機金属化合物等である。具体的には、第13族元素を含む化合物としては、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩、アセチルアセトナト錯体が挙げられ、好ましくは酢酸塩等の有機塩、または有機金属化合物である。有機塩および有機金属化合物は有機溶媒への溶解度が高く、反応をより均一に進行させやすいことによる。
第16族元素の単体または第16族元素を含む化合物は、第16族元素源となるものである。例えば、第16族元素として硫黄(S)をシェルの構成元素とする場合には、高純度硫黄のような硫黄単体を用いることができ、あるいは、n-ブタンチオール、イソブタンチオール、n-ペンタンチオール、n-ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等のチオール、ジベンジルスルフィドのようなジスルフィド、チオ尿素、チオカルボニル化合物等の硫黄含有化合物を用いることができる。
第16族元素として、酸素(O)をシェルの構成元素とする場合には、アルコール、エーテル、カルボン酸、ケトン、Nオキシド化合物を、第16族元素源として用いてよい。第16族元素として、セレン(Se)をシェルの構成元素とする場合には、セレン単体、またはセレン化ホスフィンオキシド、有機セレン化合物(ジベンジルジセレニドやジフェニルジセレニド)もしくは水素化物等の化合物を、第16族元素源として用いてよい。第16族元素として、テルル(Te)をシェルの構成元素とする場合には、テルル単体、テルル化ホスフィンオキシド、または水素化物を、第16族元素源として用いてよい。
第13族元素源および第16族元素源を分散液に添加する方法は特に限定されない。例えば、第13族元素源および第16族元素源を、有機溶媒に分散または溶解させた混合液を準備し、この混合液を分散液に少量ずつ、例えば、滴下する方法で添加してよい。この場合、混合液は、0.1mL/時間~10mL/時間、特に1mL/時間~5mL/時間の速度で添加してよい。また、混合液は、加熱した分散液に添加してよい。具体的には、例えば、分散液を昇温して、そのピーク温度が200℃~300℃となるようにし、ピーク温度に達してから、ピーク温度を保持した状態で、混合液を少量ずつ加え、その後、降温させる方法で、シェル層を形成してよい(スローインジェクション法)。ピーク温度は、混合液の添加を終了した後も必要に応じて保持してよい。
ピーク温度が低すぎると、一次半導体ナノ粒子を修飾している表面修飾剤が十分に脱離しない、またはシェル生成のための化学反応が十分に進行しない等の理由により、半導体の層(シェル)の形成が不十分となることがある。ピーク温度が高すぎると、一次半導体ナノ粒子に変質が生じることがあり、シェルを形成してもバンド端発光が得られないことがある。ピーク温度を保持する時間は、混合液の添加が開始されてからトータルで1分間~300分間、特に10分間~60分間であってよい。ピーク温度の保持時間は、ピーク温度との関係で選択され、ピーク温度がより低い場合には保持時間をより長くし、ピーク温度がより高い場合には保持時間をより短くすると、良好なシェル層が形成されやすい。昇温速度および降温速度は特に限定されず、降温は、例えばピーク温度で所定時間保持した後、加熱源(例えば電気ヒーター)をoffとして放冷することにより実施してよい。
あるいは、第13族元素源および第16族元素源は、直接、全量を分散液に添加してよい。それから、第13族元素源および第16族元素源が添加された分散液を加熱することにより、シェルである半導体層を一次半導体ナノ粒子の表面に形成してよい(ヒーティングアップ法)。具体的には、第13族元素源および第16族元素源を添加した分散液は、例えば、徐々に昇温して、そのピーク温度が200℃~300℃となるようにし、ピーク温度で1分間~300分間保持した後、徐々に降温させるやり方で加熱してよい。昇温速度は例えば1℃/分~50℃/分としてよく、降温速度は例えば1℃/分~100℃/分としてよい。あるいは、昇温速度を特に制御することなく、所定のピーク温度となるように加熱してよく、また、降温を一定速度で実施せず、加熱源をoffとして放冷することにより実施してもよい。ピーク温度が低すぎる、または高すぎる場合の問題点は上記混合液を添加する方法で説明したとおりである。
ヒーティングアップ法によれば、スローインジェクション法でシェルを形成する場合と比較して、より強いバンド端発光を与えるコアシェル型半導体ナノ粒子が得られる傾向にある。
いずれの方法で第13族元素源および第16族元素源を添加する場合でも、両者の仕込み比は、第13族元素と第16族元素とからなる化合物半導体の化学量論組成比に対応させることが好ましい。例えば、第13族元素源としてGa源を、第16族元素源としてS源を用いる場合には、Ga2S3の組成式に対応して、仕込み比は1:1.5(Ga:S)とすることが好ましい。尤も、仕込み比は、必ずしも化学量論組成比にしなくてよく、目的とするシェルの生成量よりも過剰量で原料を仕込む場合には、例えば、第16族元素源を化学量論組成比より少なくしてよく、例えば、仕込み比を1:1(第13族:第16族)としてもよい。
また、分散液中に存在する一次半導体ナノ粒子に所望の厚さのシェルが形成されるように、仕込み量は、分散液に含まれる一次半導体ナノ粒子の量を考慮して選択する。例えば、一次半導体ナノ粒子の、粒子としての物質量10nmolに対して、第13族元素および第16族元素から成る化学量論組成の化合物半導体が0.01mmol~10mmol、特に0.1mmol~1mmol生成されるように、第13族元素源および第16族元素源の仕込み量を決定してよい。ただし、粒子としての物質量というのは、粒子1つを巨大な分子と見なしたときのモル量であり、分散液に含まれるナノ粒子の個数を、アボガドロ数(NA=6.022×1023)で除した値に等しい。
ヒーティングアップ法でシェルを形成する場合、保持時間を長くすると(例えば、40分以上、特に50分以上、上限は例えば60分以下)、バンド端発光が強く、かつバンド端発光の割合が大きい(バンド端発光/欠陥発光の強度比が大きい)コアシェル型半導体ナノ粒子が得られやすくなる。但し、保持時間を長くしすぎると、バンド端発光の強度それ自体が低下する傾向にあり、場合によっては、ほとんど発光が得られなくなることがある。また、保持時間を長くするほど、得られる半導体ナノ粒子が発するバンド端発光のピークが短波長側にシフトする傾向にあり、また、バンド端発光の半値幅が大きくなる傾向にある。
このようにして、シェルを形成してコアシェル型半導体ナノ粒子が形成される。得られたコアシェル型半導体ナノ粒子は、溶媒から分離してよく、必要に応じて、さらに精製および乾燥してよい。分離、精製および乾燥の方法は、第2の実施形態にて説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
(発光デバイス)
次に、本発明に係る別の実施形態として、上記において説明した半導体ナノ粒子、すなわち、第1の実施形態の半導体ナノ粒子、第2の実施形態の方法(第1ないし第3の半導体ナノ粒子の生成手法を含む)で製造された半導体ナノ粒子、第3の実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子、または第4の実施形態の方法で製造されたコアシェル型半導体ナノ粒子(以下、これらを総称して「本開示の半導体ナノ粒子」、または「本開示のナノ粒子」と呼ぶ)を用いた、発光デバイスを説明する。
本発明の実施形態である発光デバイスは、光変換部材および半導体発光素子を含む発光デバイスであって、光変換部材に本開示の半導体ナノ粒子を含むものである。この発光デバイスによれば、例えば、半導体発光素子からの発光の一部を、本開示の半導体ナノ粒子が吸収してより長波長の光が発せられる。そして、本開示の半導体ナノ粒子からの光と半導体発光素子からの発光の残部とが混合され、その混合光を発光デバイスの発光として利用できる。
具体的には、半導体発光素子としてピーク波長が400nm~490nm程度の青紫色光または青色光を発するものを用い、本開示の半導体ナノ粒子として青色光を吸収して黄色光を発光するもの(例えば、上記第1の実施形態における半導体ナノ粒子の平均粒径が、4.0~5.0nmの範囲のもの)を用いれば、白色光を発光する発光デバイスを得ることができる。あるいは、本開示の半導体ナノ粒子として、青色光を吸収して緑色光を発光するものと、青色光を吸収して赤色光を発光するものの2種類を用いても、白色発光デバイスを得ることができる。
あるいは、ピーク波長が400nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子を用い、紫外線を吸収して青色光、緑色光、赤色光をそれぞれ発光する、三種類の本開示の半導体ナノ粒子を用いる場合でも、白色発光デバイスを得ることができる。この場合、発光素子から発せられる紫外線が外部に漏れないように、発光素子からの光をすべて本開示の半導体ナノ粒子に吸収させて変換させることが望ましい。
あるいはまた、ピーク波長が490nm~510nm程度の青緑色光を発するものを用い、本開示の半導体ナノ粒子として上記の青緑色光を吸収して赤色光を発するものを用いれば、白色光を発光するデバイスを得ることができる。
あるいはまた、半導体発光素子として波長700nm~780nmの赤色光を発光するものを用い、本開示の半導体ナノ粒子として、赤色光を吸収して近赤外線を発光するものを用いれば、近赤外線を発光する発光デバイスを得ることもできる。
本開示の半導体ナノ粒子は、他の半導体量子ドットと組み合わせて用いてよく、あるいは他の量子ドットではない蛍光体(例えば、有機蛍光体または無機蛍光体)と組み合わせて用いてよい。他の半導体量子ドットは、例えば、背景技術の欄で説明した二元系の半導体量子ドットである。量子ドットではない蛍光体として、アルミニウムガーネット系等のガーネット系蛍光体を用いることができる。ガーネット蛍光体としては、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体が挙げられる。他にユウロピウム及び/又はクロムで賦活された窒素含有アルミノ珪酸カルシウム系蛍光体、ユウロピウムで賦活されたシリケート系蛍光体、β-SiAlON系蛍光体、CASN系又はSCASN系等の窒化物系蛍光体、LnSi3N11系又はLnSiAlON系等の希土類窒化物系蛍光体、BaSi2O2N2:Eu系又はBa3Si6O12N2:Eu系等の酸窒化物系蛍光体、CaS系、SrGa2S4系、SrAl2O4系、ZnS系等の硫化物系蛍光体、クロロシリケート系蛍光体、SrLiAl3N4:Eu蛍光体、SrMg3SiN4:Eu蛍光体、マンガンで賦活されたフッ化物錯体蛍光体としてのK2SiF6:Mn蛍光体などを用いることができる。
発光デバイスにおいて、本開示の半導体ナノ粒子を含む光変換部材は、例えばシートまたは板状部材であってよく、あるいは三次元的な形状を有する部材であってよい。三次元的な形状を有する部材の例は、表面実装型の発光ダイオードにおいて、パッケージに形成された凹部の底面に半導体発光素子が配置されているときに、発光素子を封止するために凹部に樹脂が充填されて形成された封止部材である。
または、光変換部材の別の例は、平面基板上に半導体発光素子が配置されている場合にあっては、前記半導体発光素子の上面および側面を略均一な厚みで取り囲むように形成された樹脂部材である。
あるいはまた、光変換部材のさらに別の例は、半導体発光素子の周囲にその上端が半導体発光素子と同一平面を構成するように反射材を含む樹脂部材が充填されている場合にあっては、前記半導体発光素子および前記反射材を含む樹脂部材の上部に、所定の厚さで平板状に形成された樹脂部材である。
光変換部材は半導体発光素子に接してよく、あるいは半導体発光素子から離れて設けられていてよい。具体的には、光変換部材は、半導体発光素子から離れて配置される、ペレット状部材、シート部材、板状部材または棒状部材であってよく、あるいは半導体発光素子に接して設けられる部材、例えば、封止部材、コーティング部材(モールド部材とは別に設けられる発光素子を覆う部材)またはモールド部材(例えば、レンズ形状を有する部材を含む)であってよい。
また、発光デバイスにおいて、異なる波長の発光を示す2種類以上の本開示の半導体ナノ粒子を用いる場合には、1つの光変換部材内で前記2種類以上の本開示の半導体ナノ粒子が混合されていてもよいし、あるいは1種類の量子ドットのみを含む光変換部材を2つ以上組み合わせて用いてもよい。この場合、2種類以上の光変換部材は積層構造を成してもよいし、平面上にドット状ないしストライプ状のパターンとして配置されていてもよい。
半導体発光素子としてはLEDチップが挙げられる。LEDチップは、GaN、GaAs、InGaN、AlInGaP、GaP、SiC、及びZnO等から成る群より選択される一種又は二種以上から成る半導体層を備えたものであってよい。青紫色光、青色光、または紫外線を発光する半導体発光素子は、好ましくは、一般式がInXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表わされるGaN系化合物を半導体層として備えたものであることが好ましい。
本実施形態の発光デバイスは、光源として液晶表示装置に組み込まれることが好ましい。本開示の半導体ナノ粒子によるバンド端発光は発光寿命の短いものであるため、これを用いた発光デバイスは、比較的速い応答速度が要求される液晶表示装置の光源に適している。また、本開示の半導体ナノ粒子は、バンド端発光として半値幅の小さい発光ピークを示し得る。したがって、発光デバイスにおいて:
- 青色半導体発光素子によりピーク波長が420nm~490nmの範囲内にある青色光を得るようにし、本開示の半導体ナノ粒子により、ピーク波長が510nm~550nm、好ましくは530nm~540nmの範囲内にある緑色光、およびピーク波長が600nm~680nm、好ましくは630~650nmの範囲内にある赤色光を得るようにする;または、
- 発光デバイスにおいて、半導体発光素子によりピーク波長400nm以下の紫外光を得るようにし、本開示の半導体ナノ粒子によりピーク波長430nm~470nm、好ましくは440~460nmの範囲内にある青色光、ピーク波長が510nm~550nm、好ましくは530~540nmの緑色光、およびピーク波長が600~680nm、好ましくは630~650nmの範囲内にある赤色光を得るようにする
ことによって、濃いカラーフィルターを用いることなく、色再現性の良い液晶表示装置が得られる。本実施形態の発光デバイスは、例えば、直下型のバックライトとして、またはエッジ型のバックライトとして用いられる。
あるいは、本開示の半導体ナノ粒子を含む、樹脂もしくはガラス等からなるシート、板状部材、またはロッドが、発光デバイスとは独立した光変換部材として液晶表示装置に組み込まれていてよい。
(実施例1~3)
0.10mmolの酢酸銀(AgOAc)、0.15mmolの酢酸インジウム(In(OAc)3)、および0.25mmolのチオ尿素を、0.10cm3の1-ドデカンチオールと2.90cm3のオレイルアミンの混合液に投入し、分散させた。酢酸銀と酢酸インジウムについて、Ag/Ag+Inはいずれの実施例も0.4であった。分散液を、撹拌子とともに試験管に入れ、窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、表1に示す条件で加熱処理を実施した。
加熱処理はいずれも所定の温度で10分実施した。加熱処理後、得られた懸濁液を放冷した後、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、上澄みである溶液を取り出した。これにナノ粒子の沈殿が生じるまでメタノールを加えて、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、クロロホルムに溶解させて以下の測定を実施した。
実施例2で得られた半導体ナノ粒子についてXRDパターンを測定し、正方晶(カルコパイライト型)のAgInS2、および斜方晶のAgInS2と比較した。測定したXRDパターンを図1に示す。XRDパターンより、実施例2の半導体ナノ粒子の結晶構造は、正方晶のAgInS2とほぼ同じ構造であることがわかった。XRDパターンは、リガク社製の粉末X線回折装置(商品名SmartLab)を用いて測定した(以下の実験例において同じ)。
また、得られた半導体ナノ粒子の形状を、透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名H-7650)を用いて観察するとともに、その平均粒径を820万倍のTEM像から測定した。ここでは、TEMグリッドとして、市販のエラスティックカーボン支持膜付き銅グリッド(応研商事)を用いた。得られた粒子の形状は、球状もしくは多角形状であった。
平均粒径は、TEM像に含まれているナノ粒子のうち、計測可能なものをすべて、すなわち、画像の端において粒子の像が切れているようなものを除くすべての粒子について、粒径を測定し、その算術平均を求める方法で求めた。一つのTEM像に含まれるナノ粒子が100点に満たない場合には、別のTEM像を測定して、そのTEM像に含まれる粒子について粒径を測定し、算術平均を100点以上の粒子から求めるようにした。
各実施例の半導体ナノ粒子の平均粒径は以下のとおりであった。
実施例1:4.1nm
実施例2:4.6nm
実施例3:5.1nm
次に、得られた半導体ナノ粒子について、エネルギー分散型X線分析装置(堀場製作所,EMAX Energy)を用いて、半導体ナノ粒子に含まれるAg、InおよびSの原子数を合わせて100としたときに、各原子の割合がどれだけであるかを求めた。結果を表1に示す。
エネルギー分散型X線分析装置を用いた測定は具体的には以下の手順で実施した(以下の実験例においても同じ)。
作製したナノ粒子分散溶液を試料台に固定したカーボンテープ上に滴下し、乾燥させた。エネルギー分散型X線分析装置により観測したスペクトルから、Ag、In、Sに由来するシグナルを用いて、シグナルの強度に基づいて各成分を定量した。測定箇所を変更しながら5点測定を行い、その平均値を結果とした。
実施例1~3で得られた半導体ナノ粒子について、吸収および発光スペクトルを測定した。その結果を図2(吸収スペクトル、実施例1:実線、実施例2:一点鎖線、実施例3:点線)および図3(発光スペクトル、実施例1:実線、実施例2:一点鎖線、実施例3:点線)に示す。吸収スペクトルは、ダイオードアレイ式分光光度計(アジレントテクノロジー社製、商品名Agilent 8453A)を用いて、波長を190nm~1100nmとして測定した。発光スペクトルは、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス社製、商品名PMA11)を用いて、励起波長365nmにて測定した。各実施例の発光スペクトルにて観察された急峻な発光ピークの波長および半値幅は、以下のとおりである。
実施例1:590nm付近、半値幅42nm
実施例2:590nm付近、半値幅50nm
実施例3:590nm付近、半値幅55nm
発光寿命の測定は、浜松ホトニクス株式会社製の蛍光寿命測定装置(商品名Quantaurus-Tau)を用いて、波長470nmの光を励起光として、得られた半導体ナノ粒子に照射して励起光とは異なる波長の光を発光させ、急峻な発光ピークのピーク波長付近の発光の減衰曲線を求めた。得られた減衰曲線を浜松ホトニクス株式会社製の蛍光寿命測定/解析ソフトウェアU11487-01を用いてパラメータフィッティングにより、3つの成分に分けた。その結果、τ1、τ2、およびτ3、ならびに各成分の寄与率(A1、A2およびA3)は以下の表3に示すとおりとなった。
実施例2の主成分の発光寿命(τ2:25.9ns)は、バンド端発光が確認されているCdSeナノ粒子の寿命(30~60ns)と同程度であり、本発光がバンド端によるのであることがわかった。
実施例1については、バンド端発光の強度が、バンド端発光よりも長波長側で観察される他の発光(欠陥発光含む)の強度よりも小さかった。これは、実施例1において、第1段階の加熱処理の温度が、実施例2のそれよりも低かったことによると考えられる。
実施例2および3の吸収スペクトルにおいては、550nm付近にエキシトンピークが観察された。
(実施例4、比較例1および2)
酢酸銀(AgOAc)および酢酸インジウム(In(OAc)3)を、Ag/Ag+Inがそれぞれ0.3(比較例1)、0.4(実施例4)、および0.5(比較例2)となり、かつ2つの金属塩を合わせた量が0.25mmolとなるように量り取った。酢酸銀(AgOAc)、酢酸インジウム(In(OAc)3)、および0.25mmolのチオ尿素を、0.10cm3のオレイルアミンと2.90cm3の1-ドデカンチオールの混合液に投入し、分散させた。酢酸銀と酢酸インジウムについて、分散液を、撹拌子とともに試験管に入れ、窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、150℃にて10分間加熱し(第1段階の加熱処理)、さらに250℃にて10分間加熱した(第2段階の加熱処理)。
加熱処理後、得られた懸濁液を放冷した後、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付した。
比較例1については、沈殿をメタノールで洗浄した後、沈殿にクロロホルムを加えて遠心分離(半径146mm、4000rpm、15分間)に付し、上澄みを回収し、以下の測定を実施した。
実施例4および比較例2については、上澄みである溶液を取り出した。これにナノ粒子の沈殿が生じるまでメタノールを加えて、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、クロロホルムに溶解させて以下の測定を実施した。
なお、実施例4は実施例2と同じ条件で製造したものであるが、実施例2とは別に作製したものであるから、平均粒径等において実施例2とは若干異なる。
また、得られた半導体ナノ粒子の形状を観察するとともに、平均粒径を測定した。得られた粒子の形状は、球状もしくは多角形状であった。比較例1の平均粒径は10.4nm、実施例4の平均粒径は4.3nm、比較例2の平均粒径は3.8nmであった。
次に、得られた半導体ナノ粒子について、蛍光X線分析装置(リガク社製、商品名EDXL300)を用いて、半導体ナノ粒子に含まれるAg、InおよびSの原子数を合わせて100としたときに、各原子の割合がどれだけであるかを求めた。結果を表4に示す。
比較例1~2および実施例4で得られた半導体ナノ粒子について、吸収および発光スペクトルを測定した。その結果を図4(吸収スペクトル、実施例4:実線、比較例1:点線、比較例2:一点鎖線)および図5(発光スペクトル、実施例4:実線、比較例1:点線、比較例2:一点鎖線)に示す。吸収スペクトルおよび発光スペクトルの測定は、実施例1~3に記載した装置および方法を用いて実施した。
図5に示すとおり、比較例1および2の発光スペクトルにおいては、実施例4のバンド端発光のピーク波長に相当する波長580nmあたりに小さなピークが見られるものの、その強度は極めて小さいものであった。
比較例1の吸収スペクトルでは、570nm付近にエキシトンピークが観察され、比較例2の吸収スペクトルでは、530nm付近にエキシトンピークが観察された。
(実施例5)
<1>コア(一次半導体ナノ粒子)の作製
酢酸銀(AgOAc)および酢酸インジウム(In(OAc)3)を、Ag/Ag+Inが0.4となり、かつ2つの金属塩を合わせた量が0.25mmolとなるように量り取った。酢酸銀(AgOAc)、酢酸インジウム(In(OAc)3)、および0.25mmolのチオ尿素を、0.10cm3のオレイルアミンと2.90cm3の1-ドデカンチオールの混合液に投入し、分散させた。酢酸銀と酢酸インジウムについて、分散液を、撹拌子とともに試験管に入れ、窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、150℃にて10分間加熱し(第1段階の加熱処理)、さらに250℃にて10分間加熱した(第2段階の加熱処理)。
加熱処理後、得られた懸濁液を放冷した後、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付した。その後、上澄みである溶液を取り出した。これにナノ粒子の沈殿が生じるまでメタノールを加えて、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物にエタノールを加えて撹拌し、再び遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、クロロホルムに溶解させて、以下の測定を実施した。
得られた半導体ナノ粒子の形状を観察するとともに、平均粒径を測定した。得られた粒子の形状は、球状もしくは多角形状であった。平均粒径は4.6nmであった。
次に、得られた半導体ナノ粒子について、蛍光X線分析装置(リガク社製、商品名EDXL300)を用いて、半導体ナノ粒子に含まれるAg、InおよびSの原子数を合わせて100としたときに、各原子の割合がどれだけであるかを求めた。結果を表5に示す。
得られた半導体ナノ粒子について、吸収および発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルおよび発光スペクトルの測定方法は、実施例1~3のそれらと同じである。その結果を図6に示す。図6に示すとおり、この半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては、波長580nm付近をピーク波長とする、半値幅50nmの急峻な発光ピークが観察されるとともに、波長705nm付近をピーク波長とするブロードな発光ピークが観察された。
発光寿命の測定を実施例2で採用した方法と同じ方法で実施した。結果を表6に示す。
この半導体ナノ粒子の主成分の発光寿命(τ2:39.3ns)は、バンド端発光が確認されているCdSeナノ粒子の寿命(30~60ns)と同程度であり、本発光がバンド端によるものであることがわかった。
<2>コアシェル型半導体ナノ粒子の作製(シェルの形成)
上記<1>で作製した半導体ナノ粒子をコア(一次半導体ナノ粒子)として、その表面にシェルを形成した。
具体的には、<1>で作製した一次半導体ナノ粒子のうち、ナノ粒子としての物質量で1.0×10-5mmol(10nmol)と、ガリウムアセチルアセトナト(Ga(acac)3)5.33×10-5mmolと、チオ尿素5.33×10-5mmolと、オレイルアミン2.9cm3と、1-ドデカンチオール0.1cm3とを、試験管に入れて、300℃にて60分間保持した後、加熱源をoffにして放冷した。その後、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、ナノ粒子を沈殿させた。上澄みを捨て、沈殿物にメタノールを加えて撹拌後、再び遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、エタノールを加えて撹拌し、再び遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、クロロホルムに溶解させて、以下の測定を実施した。
得られたコアシェル型半導体ナノ粒子の形状を観察するとともに、平均粒径を測定した。得られた粒子の形状は、球状もしくは多角形状であった。平均粒径は6.5nmであった。この平均粒径の値と、先に測定したコアの平均粒径の値との差から、シェルの厚さは平均で約0.95nmであった。
得られたコアシェル型半導体ナノ粒子について、吸収および発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルおよび発光スペクトルの測定方法は、実施例1~3のそれらと同じである。その結果を図7に示す。図7に示すとおり、この半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては、波長580nm付近をピーク波長とする、半値幅49nmの急峻な発光ピーク(バンド端発光)が観察された。また、波長710nm付近をピーク波長とするブロードな発光ピーク(欠陥発光)はその強度が極めて小さくかった。欠陥発光の強度で規格化したバンド端発光の強度は18であった。この結果より、特定のシェルによる被覆が、バンド端発光の割合を大きくするのに効果的であることがわかった。
発光寿命の測定を実施例2で採用した方法と同じ方法で実施した。結果を表7に示す。
このコアシェル型半導体ナノ粒子の主成分の発光寿命(τ3:248ns)は、コアのそれよりも長くなっていることが確認された。また、発光寿命が51.9nsの成分(τ2、A2)が主成分と同じ程度の強度で観測された。この発光寿命は、バンド端発光が確認されているCdSe(ナノ粒子)が発する蛍光で、寄与率の最も大きい成分の蛍光寿命(30ns~60ns)と同程度であった。
得られたコアシェル型半導体ナノ粒子を、HAADF-STEM(JEOL製、商品名JEM―ARM200F Cold)により観察した。HAADF像を図8に示す。HAADF像においては、規則的な模様を有する結晶性のコアと、その周囲に位置する規則的な模様を有しないシェルが観察され、この粒子においてシェルがアモルファスであることが観察された。
比較のために、<1>で得た半導体ナノ粒子(コア)のHAADF像を図9に示す。図9に示すHAADF像においては、規則的な模様を有する結晶性の粒子だけが観察され、その周囲に規則的な模様を有しない領域は観察されなかった。
得られたコアシェル型半導体ナノ粒子について、HAADF像にて、規則的な模様を有する結晶性のコアとして観察される中央の領域、および規則的な模様を有しないシェルとして観察される周縁の領域に含まれる、S(硫黄)とGa(ガリウム)の原子百分率を、エネルギー分散型X線分析(EDS)装置(堀場製作所社製、商品名EMAX Energy)により分析した。SとGaの原子百分率は、Ag、In、GaおよびSの原子数を合わせて100%としたときの割合である。分析結果を表8に示す。
表8に示すとおり、中央よりも周縁でGaおよびSがより多い割合で検出された。この結果より、元素組成の点からも、得られた粒子が、粒子の表面にGaSxが偏析したコア-シェル構造を取っていることを確認できた。