JP7032066B2 - 野菜育苗用紙とその使用方法 - Google Patents
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Description
例えば、農業分野では、従来から育苗用の容器や農業用被覆材に紙類が使用されてきた。育苗用の容器を作製する場合、強度を適度に保ちつつ、土中に埋めたときに適切な分解速度で分解するように設計することが、商品開発上の大きなポイントの一つとなっている。
ここで、本発明者らは、アルカリ処理によって分解され、抗菌剤としての機能を喪失する抗菌剤が存在することを見出した。また、アルカリ処理によって失活する抗菌剤を生分解性素材に含有させると、アルカリ処理によって抗菌剤としての機能が停止し、生分解の開始のタイミングを制御し得ることを見出した。さらに、アルカリ処理に対する耐久性に差異がある抗菌剤を複数、適切に組み合わせることによって、単年性の草本種子を育苗する容器として使用する期間の強度を適度に保ちつつ、アルカリ処理により失活し、適切なタイミングで生分解を開始するよう制御し得ることを見出した。本発明はこうした知見を基に到達することができたものである。すなわち、本発明は以下のような構成を有している。
本実施形態のパルプ繊維は、セルロースパルプを主成分とする。紙基材に使用するパルプ繊維としては、下記の各種パルプを1種または2種以上混合して使用することができる。例えば、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ;楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材繊維パルプ;古紙を原料とする脱墨パルプを挙げることができる。これらの他に、合成パルプ、レーヨン繊維などを含有させてもよい。パルプ繊維の原料となる木材は、針葉樹材でも広葉樹材でもよく、また混合して使用してもよい。原料パルプとして使用する際に、鉱物含有量が少ないパルプ繊維を選定することが好ましい。本実施形態で使用するパルプ繊維としては、供給量、品質の安定性、コスト等の面から、針葉樹クラフトパルプ(NUKP、NBKP)や広葉樹クラフトパルプ(LUKP、LBKP)が好適である。さらに、パルプ繊維以外に、生分解性プラスチックであるポリ乳酸(PLA)等からなる繊維を含有していてもよい。
本実施形態において、紙基材は抄紙法で製造されていることが好ましい。抄紙法には、大きく分けて乾式法と湿式法があるが、湿式抄紙法が好ましい。
湿式抄紙法では、短繊維を含有する水性スラリーを、抄紙機に送液し、短繊維を分散させた後、脱水、搾水および乾燥して、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機およびこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用される。
本実施形態において、抗菌剤として、アルカリ処理によって失活する抗菌剤を使用する。ここで、アルカリ処理とは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液であって、pH10~14の水溶液に浸漬することである。浸漬操作は原則として室温で行う。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液の濃度は特に限定されない。浸漬する時間も特に限定されず、数秒間でもよいし、数時間でもよい。実験室における代表的なアルカリ処理条件は、pH12の水酸化カルシウムの飽和水溶液に30秒~1分間浸漬するというものである。農業現場では、浸漬させて数時間放置する方法が、作業性において良好である。
(i)カーバメート系:マンゼブ、チウラム
(ii)ベンゾイミダール系:チオファネートメチル、
(iii)ジカルボキシイミド系:イプロジオン、
(iv)アミド系:フェンピラザミン、
(v)ストロビルリン系:トリフロキシストロビン、
(vi)有機窒素硫黄系:イソチアゾリノン
(i)カーバメート系:ジラム、
(ii)アミド系:エタボキサム、
(iii)ステロール生合成阻害剤:フェンブコナゾール、
(iv)抗生物質:カスガマイシン
(i)有機リン系:IBP(イプロベンホス)、
(ii)アミド系:メプロニル、
(iii)ステロール生合成阻害剤:メトコナゾール、
(iv)アニノピリミジン系:メパニピリム、
(v)有機窒素系:イミダゾール
紙基材に抗菌剤を含む溶液を塗布する方法について説明する。抗菌剤を含む溶液は、紙基材の少なくとも一方の面に塗布される。紙基材は土と接触した面から分解が進行するため、紙基材の土と接触する面に抗菌剤の溶液を塗布することが好ましい。また、抗菌剤を含む溶液の溶媒は、操作上、水であることが好ましい。
印刷方法で抗菌剤を紙基材に付着させる場合、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷等の公知の印刷装置を用いることができる。
抗菌剤を含有する紙基材は、野菜育苗用紙(以下、「育苗用紙」と略記することがある。)を構成する。育苗用紙の坪量は、30~100g/m2であることが好ましく、40~70g/m2であることがより好ましい。坪量を30g/m2以上とすることにより、引張強度を高め、加工時に断紙が発生する頻度を減らすことができる。一方、育苗用紙の坪量を100g/m2以下とすると、育苗用紙としての加工適性が向上し、生分解性にも優れる。本実施形態では、坪量を好ましい範囲に調節して本実施形態の効果を遺憾なく発揮させる観点から、シリンダードライヤーを使用して乾燥させることが好ましい。
このような、アルカリ処理後の分解速度を制御するために、前記の各種抗菌剤の混合比率と塗布量を調整することが肝要である。
抗菌剤A-1:アルカリ処理によって失活する抗菌剤であって、アルカリ処理に対する耐久性が比較的低く、アルカリ処理によって短時間で抗菌性を喪失する抗菌剤である。カーバメート系抗菌剤(主成分:マンゼブ、化学名:亜鉛イオン配位マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート)。
抗菌剤A-2:アルカリ処理によって失活する抗菌剤であって、アルカリ処理に対する耐久性が比較的高く、アルカリ処理によって時間をかけて徐々に抗菌性を喪失する抗菌剤である。ステロール生合成阻害剤系抗菌剤(主成分:フェンブコナゾール、化学名:(RS)-4-(4-クロロフェニル)-2-フェニル-2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イルメチル)ブチロニトリル)。
抗菌剤B:アルカリ処理によって失活しない抗菌剤である。有機リン系抗菌剤(主成分:IBP、化学名:O,O-ジイソプロピル-S-ベンジルチオホスフェート)。
SBR:スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス;0690、JSR社製、固形分濃度48%
<紙基材の作製>
パルプ繊維として、針葉樹クラフトパルプ(NUKP)40部と広葉樹クラフトパルプ(LUKP)60部を混合した繊維スラリー(カナダ標準濾水度470ml)を使用した。固形分換算で全パルプ繊維100部に対し、硫酸バンド1.5部、湿潤紙力剤としてポリアミド-エピクロロヒドリン樹脂(商品名:「WS4024」、固形分濃度25%、星光PMC社製)0.7部を添加した。これらを添加して得られた混合物を使用し、長網抄紙機とシリンダードライヤーにより抄紙及び乾燥を行い、坪量53g/m2の紙基材を得た。
抗菌剤A-1:抗菌剤B:SBR=50:50:10(固形分質量比)の比率で混合した固形分濃度4%の水溶液を作成した。上記で得られた紙基材の両面に、サイズプレスにより片面当り乾燥後の抗菌剤の塗布量0.5g/m2、両面の乾燥後の抗菌剤の塗布量合計1.0g/m2となるように含浸及び乾燥を行った。
上記で得られた育苗用紙について、消石灰の飽和水溶液(pH12)に約30秒間浸漬し、浸漬後に余分な消石灰水溶液をろ紙でふき取った。
抗菌剤A-2:SBR=100:10(固形分質量比)の比率で混合した固形分濃度4%の水溶液を作成した。上記で得られた紙基材の両面に、オフセット印刷方式で両面の乾燥後の抗菌剤の塗布量合計1.0g/m2となるように塗布及び乾燥を行った。その後、実施例1と同様の条件で、アルカリ処理を行った。
表1に従って、所望の含有割合となるように抗菌剤とSBRの種類、配合部数、塗布量を変更する以外は、実施例1と同様にして育苗用紙を得た。その後、実施例1と同様の条件で、アルカリ処理を行った
<湿潤引張強度>
アルカリ処理を行った育苗用紙またはアルカリ処理を行っていない育苗用紙を30℃の恒温条件下で土壌に2週間埋没させる処理を行った。当該埋没処理後の育苗用紙を水洗いした後に、湿潤引張強度を測定した。湿潤引張強度は、JIS P 8135:1998に準拠して測定した。浸漬時間は10分間とした。つかみ具の間隔を180mmとし、紙の縦方向について測定した。kN/m単位で数値化した。
アルカリ処理を行った育苗用紙について、上記の2週間埋没処理後の湿潤引張強度の結果について、以下の評価基準で生分解性の判定を行った。
(評価基準)
◎:湿潤引張強度が0.2kN/m以下であり、生分解性に問題がない。
○:湿潤引張強度が0.2kN/mを超え、0.4kN/m未満であり、生分解性に実用上問題がない。
×:湿潤引張強度が0.4kN/m以上であり、生分解性に問題がある。
アルカリ処理を行っていない育苗用紙について、上記の2週間埋没処理後の湿潤引張強度の結果について、以下の評価基準で強度保持性の判定を行った。
(評価基準)
◎:湿潤引張強度が0.45kN/m以上であり、強度保持性に問題がない。
○:湿潤引張強度が0.40kN/m以上、0.45kN/m未満であり、強度保持性に実用上問題がない。
×:湿潤引張強度が0.40kN/m未満であり、強度保持性に問題がある。
Claims (5)
- 土壌を被覆または収納するために使用される野菜育苗用紙であって、
パルプ繊維を含有する紙基材からなり、
前記紙基材は、土中の細菌によって生分解されるものであり、
前記紙基材がアルカリ処理によって失活する抗菌剤を含有し、
アルカリ処理によって前記抗菌剤を失活させて、生分解を開始させる使用方法に用いることを特徴とする野菜育苗用紙。 - 前記紙基材が前記アルカリ処理によって失活する抗菌剤を0.4g/m2以上含有することを特徴とする請求項1に記載の野菜育苗用紙。
- 前記抗菌剤が、アルカリ処理に対する耐久性に差異がある複数の抗菌剤の組み合わせからなる請求項1または請求項2に記載の野菜育苗用紙。
- 前記紙基材がアルカリ処理によって失活しない抗菌剤をさらに含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の野菜育苗用紙。
- パルプ繊維を含有する紙基材からなり、当該紙基材がアルカリ処理によって失活する抗菌剤を含有する野菜育苗用紙の使用方法であって、
アルカリ処理によって前記抗菌剤を失活させて、生分解を促進させる野菜育苗用紙の使用方法。
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