JP7016133B1 - 植物性タンパク質の分解物を含有する組成物及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】外部からの効果成分の添加によらず、タンパク質の分解の程度とその分解生成物の組成や比率を調整することにより、呈味の先味、中味、及び後味の強度が同等のバランスとなるように調整された、自然で雑味や異質な風味のない、好ましい呈味を有する組成物を提供する。【解決手段】植物性タンパク質の分解物を含有する組成物であって、下記(A)の23種類のペプチドから選ばれる1種又は2種以上(成分(A))、及び、下記(B)の20種類の遊離アミノ酸から選ばれる1種又は2種以上(成分(B))を含有すると共に、成分(A)の合計質量に対する成分(B)の合計質量の比が150以上800未満である組成物。(A)Glu-Phe、Glu-Pro、Pro-Glu、Phe-Pro、Gly-Ile、Gly-Leu、Ile-Glu、Glu-Ile、Val-Glu、Ile-Pro、Leu-Pro、Pro-Pro、Tyr-Pro、Ala-Glu、Gly-Ser、Val-Gly、Pro-Thr、Pro-Ser、Ser-Pro、Val-Pro-Pro、Ile-Pro-Pro、Val-Pro、及びPro-Val。(B)アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、システイン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、リジン、トリプトファン、アルギニン、アスパラギン、及びグルタミン。【選択図】なし

Description

本発明は、植物性タンパク質の分解物を含有する組成物及びその製造方法に関する。
非特許文献1の記載によれば、食品における好ましい呈味とは、その先味、中味、及び後味が、同等の強度を伴うバランスに調整されているものとされている。斯かる呈味の先味、中味、及び後味を、同等の強度を伴うバランスに調整することは、食品の味の濃厚さやコク、満足感を付与する観点から重要である。しかしながら、非特許文献2等に記載があるように、天然調味料は通常、中味が強い一方で先味及び後味が弱い場合が多く、これら先味及び後味の増強が課題であった。
斯かる課題の解決手段として、非特許文献2及び3には、天然調味料に対して(1)化学調味料(アミノ酸等)、(2)核酸やコハク酸、又は(3)ペプチドを添加することにより、先味や後味を補ったり、更には中味をより高めたりする方法が開示されている。しかしながら、このような外部からの効果成分の添加による方法では、上記(1)の成分の添加では先味のみ、上記(2)の成分の添加では後味のみ、上記(3)の成分の添加では中味のみという、別々の呈味の向上効果しか得られなかった。これらの効果を同時に発揮させようと、これらの成分の全部を組み合わせて添加すると、得られる天然調味料の呈味は人工的なものとなり、自然な味わいを損なったり、添加物由来の有効成分以外の風味の付加により、雑味や異質な風味を有したりするものになってしまうという課題があった。
一方で、非特許文献4には、天然調味料にピログルタミルペプチドを含有させることにより、天然調味料の呈味全体を向上させる技術が開示されている。しかし、この方法による呈味の向上効果は、呈味の強度パターンをそのまま底上げさせるものであって、必ずしも呈味の先味、中味、及び後味の強度バランスを同等となるように調整できる手法ではなかった。
更には、特許文献1及び2には、特殊なジペプチドを用いて天然調味料の旨味を増強する技術や、種々のペプチドが天然調味料の旨味に対して与える寄与度が開示されている。しかし、これらの文献にも、天然調味料の呈味の先味、中味、及び後味を、同等の強度を伴うバランスに調整する手法や、それによって得られる効果については、何ら記載も示唆もされていない。
「もう食レポで悩まない!味と香りを正しく伝える専門用語とコツ」(https://www.yogurtgeek.com/entry/foodword) 「日清製粉の「NS調味料」のご紹介」(http://www.hayashisyoten.co.jp/blog/79.html) 「ハイマックスGL」(https://www.fuji-foods.co.jp/common/pdf/product_process/highmax_gl.pdf) 「醤油のうま味増強化合物の単離と同定」、日本醸造協会誌、2012年、107巻、12号、892~899頁
特開2015-39299号公報 特開2020-74702号公報
以上の背景の下、外部からの効果成分の添加によらず、タンパク質の分解の程度とその分解生成物の組成や比率を調整することにより、その呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスとなるように調整された、自然で雑味や異質な風味のない、好ましい呈味を有する組成物が求められている。
本発明者らは、上記の事情に鑑みて鋭意研究した結果、植物性タンパク質の分解物を含有する組成物において、特定のペプチドの総含有量と特定の遊離アミノ酸の総含有量との比率を調整することによって、その呈味の先味、中味、及び後味を、同等の強度を伴うバランスに調整することが可能となり、上記課題を簡易に解決できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は例えば以下の項に記載の態様を提供するものである。
[項1]植物性タンパク質の分解物を含有する組成物であって、
下記(A)の23種類のペプチドから選ばれる1種又は2種以上のペプチド(以下「成分(A)」とする。)、及び、
下記(B)の20種類の遊離アミノ酸から選ばれる1種又は2種以上の遊離アミノ酸(以下「成分(B)」とする。)
を含有すると共に、
上記成分(A)の合計質量に対する上記成分(B)の合計質量の比が150以上800未満である、組成物。
(A)Glu-Phe、Glu-Pro、Pro-Glu、Phe-Pro、Gly-Ile、Gly-Leu、Ile-Glu、Glu-Ile、Val-Glu、Ile-Pro、Leu-Pro、Pro-Pro、Tyr-Pro、Ala-Glu、Gly-Ser、Val-Gly、Pro-Thr、Pro-Ser、Ser-Pro、Val-Pro-Pro、Ile-Pro-Pro、Val-Pro、及びPro-Val。
(B)アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、システイン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、リジン、トリプトファン、アルギニン、アスパラギン、及びグルタミン。
[項2]上記(A)の23種類のペプチドを全て含有する、項1に記載の組成物。
[項3]上記(B)の20種類の遊離アミノ酸のうち、システイン、アスパラギン、及びグルタミンを除く他の17種類の遊離アミノ酸全てを含有する、項1に記載の組成物。
[項4]下記(aa)の6種類のペプチドから選ばれる1種又は2種以上のペプチド(以下「成分(aa)」とする。)を含有すると共に、
上記成分(A)の合計質量に対する上記成分(aa)の合計質量の割合が9%以上である、項1~3の何れか一項に記載の組成物。
(aa)Phe-Pro、Ile-Glu、Val-Glu、Tyr-Pro、Val-Pro-Pro、及びIle-Pro-Pro。
[項5]上記(aa)の6種類のペプチドを全て含有する、項4に記載の組成物。
[項6]下記(C)の7種類のピログルタミルペプチドから選ばれる1種又は2種以上のピログルタミルペプチド(以下「成分(C)」とする。)を含有すると共に、
成分(C)の合計含有量が60mg/100g以上である、項1~5の何れか一項に記載の組成物。
(C)pGlu-Ile、pGlu-Leu、pGlu-Gly、pGlu-Pro、pGlu-Glu、pGlu-Pro-Pro、及びpGlu-Pro-Gly。
[項7]上記(C)の7種類のピログルタミルペプチドを全て含有する、項6に記載の組成物。
[項8]飲食品である、項1~7の何れか一項に記載の組成物。
[項9]発酵調味料である、項8に記載の組成物。
[項10]液体調味料である、項8又は9に記載の組成物。
[項11]項1~10の何れか一項に記載の組成物を製造する方法であって、1種又は2種以上の成分(A)を含有する1種又は2種以上の第1の原料と、1種又は2種以上の成分(B)を含有する1種又は2種以上の第2の原料とを、上記成分(A)の合計質量に対する上記成分(B)の合計質量の比が、150以上800未満となるように混合することを含む製造方法。
[項12]飲食品の呈味の先味、中味、及び後味を、同等の強度を伴うバランスに調整する方法であって、前記飲食品が、項8~10の何れか一項に記載の組成物であると共に、1種又は2種以上の成分(A)を含有する1種又は2種以上の第1の原料と、1種又は2種以上の成分(B)を含有する1種又は2種以上の第2の原料とを、上記成分(A)の合計質量に対する上記成分(B)の合計質量の比が、150以上800未満となるように混合することを含む方法。
本発明によれば、外部からの効果成分の添加によらず、タンパク質の分解の程度とその分解生成物の組成や比率を調整することにより、その呈味の先味、中味、及び後味が、同等の強度を伴うバランスとなるように調整された、自然で雑味や異質な風味のない、好ましい呈味を有する植物性タンパク質分解物含有組成物が提供される。
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
[植物性タンパク質分解物含有組成物]
本発明の一態様は、植物性タンパク質の分解物を含有する組成物であって、1種又は2種以上の特定のペプチド(成分(A))と、1種又は2種以上の特定の遊離アミノ酸(成分(B))を含有すると共に、上記成分(A)の合計質量に対する上記成分(B)の合計質量の比が所定範囲内である組成物(これを適宜「本発明の植物性タンパク質分解物含有組成物」或いは単に「本発明の組成物」と称する。)に関する。
[植物性タンパク質及びその分解物等]
本発明の組成物は、植物性タンパク質の分解物を含有する。本発明において「植物性タンパク質(の)分解物」とは、植物性タンパク質を含有する素材(これを適宜「植物性タンパク質含有素材」と称する。)、及び/又は、植物性タンパク質含有素材から抽出・精製された植物性タンパク質(これを適宜「植物性タンパク質精製物」と称する。)に、植物性タンパク質の分解処理を施して得られる、遊離アミノ酸やペプチド等を含有する処理産物を指す。
植物性タンパク質含有素材としては、タンパク質を含有するものであれば、本発明の所望の効果が奏される限りにおいて特に制限されるものではないが、例としては、一般的な米、小麦、コーン、大麦、大豆等の穀類や豆類等を用いることができる。また、別の例としては、これらに加工等の処理がなされた素材である、酒かすや脱脂大豆等も用いることができる。一方、植物性タンパク質精製物も、本発明の所望の効果が奏される限りにおいて特に制限されるものではないが、例としては、小麦グルテンや分離大豆タンパク質等から分離・精製して得られた精製タンパク質等が挙げられる。これらの種類や組合せも特に制限されず、1種又は2種以上の植物性タンパク質含有素材を用いてもよく、1種又は2種以上の植物性タンパク質精製物を用いてもよく、1種又は2種以上の植物性タンパク質含有素材と1種又は2種以上の植物性タンパク質精製物との組合せを用いてもよい。2種以上の植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物を併用する場合、その組合せも任意である。
斯かる1種又は2種以上の植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物に対して、植物性タンパク質の分解処理を施すことで、植物性タンパク質分解物が得られる。植物性タンパク質の分解処理としては、特に制限されるものではないが、酸等による化学的分解処理、酵素や微生物等による生化学的若しくは生物学的分解処理、又は、これらが複合した発酵分解処理等が挙げられるが、何れであってもよい。また、斯かる分解処理によって、植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物に由来するタンパク質の全部が分解・低分子化されてもよいが、一部のタンパク質が分解されず、未分解のタンパク質が残存していてもよい。
植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物の分解処理により得られる植物性タンパク質分解物の形状や性状も特に制限されない。形状としては、例えば粉末状、粒状、割砕状等が挙げられるが、何れであってもよく、2種以上の形状の組合せであってもよい。性状としては、乾燥状態、湿潤状態(生の状態や蒸煮等の加工処理をした状態)等が挙げられるが、何れであってもよく、2種以上の性状の組合せであってもよい。これらの形状や性状は、本発明の組成物の製造条件や原料の取り扱い性等に応じて適宜選択すればよい。また、形状及び/又は性状の異なる2種以上の植物性タンパク質分解物を併用する場合、その組合せや配合比等も任意である。斯かる植物性タンパク質分解物の種類・組合せ・比率は、本発明の組成物の所望の態様(後述)を考慮し、更にペプチド、遊離アミノ酸、及びピログルタミルペプチド等に関する後述の所定のパラメーターを充足するように、適宜選択すればよい。
本発明の組成物は、上記の植物性タンパク質分解物に加えて、未分解の植物性タンパク質を含有していてもよい。斯かるタンパク質としては、上記の植物性タンパク質分解物の調製時に、植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物の分解処理により一部が分解されずに残存した植物性タンパク質であってもよく、上記の植物性タンパク質分解物とは独立に本発明の組成物に添加された1種又は2種以上の植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物に起因する植物性タンパク質であってもよく、これらの組合せであってもよい。斯かる未分解の植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物の使用の有無・種類・組合せ・比率は、本発明の組成物の所望の態様(後述)及び使用する植物性タンパク質分解物を考慮し、更に後述のペプチド、遊離アミノ酸、及びピログルタミルペプチド等に関する所定のパラメーターを充足するように、適宜選択すればよい。
[その他の成分]
本発明の組成物は、上記の植物性タンパク質分解物及び(任意により含有される)未分解植物性タンパク質のみからなる組成物であってもよいが、他の成分を含有していてもよい。
例えば、本発明の組成物は、動物性タンパク質及び/又はその分解物を含有していてもよい。斯かる動物性タンパク質及び/又はその分解物としては、上記の植物性タンパク質及び/又はその分解物の場合と同様、本発明の組成物に添加された1種又は2種以上の動物性タンパク質含有素材及び/又は動物性タンパク質精製物及び/又はその分解物が挙げられる。但し、一態様によれば、斯かる動物性タンパク質含有素材や動物性タンパク質精製物、更にはその分解物は、使用しないことが好ましい場合がある。その理由としては、動物性タンパク質を含有する素材は、遊離アミノ酸やペプチド以外の旨味成分(例えば核酸等)を多量に含有する場合がある上に、素材由来の風味の特徴が強すぎる傾向があるため、本発明において所望される呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整される効果に対して阻害的に働くおそれがあるからである。但し、このような本発明の所望の効果に対する阻害作用が生じない限りにおいては、本発明の組成物は、動物性タンパク質及び/又はその分解物を含有していても構わない。
また、本発明の組成物は、その用途に応じて、その他の1種又は2種以上の任意の原料を含んでいてもよい。斯かるその他の原料の種類としては、食塩、砂糖、等の調味剤、風味剤、増粘剤、結着剤、塩、酸、塩基、香料、その他「指定添加物リスト(日本食品化学研究振興財団)」に挙げられる食品添加物等、天然素材やその処理物(抽出物、エキス、粉砕・破砕・細断処理物等)や加工物(調味・調理加工物、分解・発酵加工物等)等が挙げられる。斯かるその他の原料の使用の有無・種類・組合せ・比率は、本発明の組成物の所望の態様(後述)及び使用する植物性タンパク質分解物を考慮し、更に後述のペプチド、遊離アミノ酸、及びピログルタミルペプチド等に関する所定のパラメーターを充足するように、適宜選択すればよい。
[ペプチド・遊離アミノ酸等]
本発明の組成物は、以下に詳述する種々のペプチド、遊離アミノ酸、及びピログルタミルペプチドを、好ましくは後述の所定の含量及び/又は比率で含有する。これらのペプチド、遊離アミノ酸、及びピログルタミルペプチドの由来は制限されず、同一原料に由来するものであってもよく、異なる原料に由来するものであってもよい。具体的には、これらのペプチド、遊離アミノ酸、及びピログルタミルペプチドは、各々独立に、上記の植物性タンパク質分解物に由来するものであってもよく、未分解の植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物に由来するものであってもよく、他の原料に由来するものであってもよく、これらのうち複数の原料に由来するものであってもよい。上記の植物性タンパク質分解物に由来する場合、これらのペプチド、遊離アミノ酸、及びピログルタミルペプチドは、植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物の分解処理によって生じたものであってもよく、分解処理前の植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物に当初から含まれていたものであってもよい。各成分がどのような由来であっても、原料を混合して最終的に調製された本発明の組成物において、以下に詳述する組成、含量、比率等が満たされていればよい。
なお、本開示では、ペプチド及びピログルタミルペプチドのアミノ酸配列は、別途断りなき限り、N末端を左側、C末端を右側として記載する。また、ペプチド及びピログルタミルペプチドを構成する各アミノ酸は、別途断りなき限り、三文字コードで略記する。また、光学異性体を有するアミノ酸(即ち、グリシン以外のアミノ酸)については、別途断りのない限り、光学異性体の種類は特に制限されない。即ち、各アミノ酸はL体であってもよく、D体であってもよく、L体とD体とを任意の比率で含むDL体であってもよい。
・成分(A):23種類の特定のペプチド
本発明の組成物は、下記(A)の23種類のペプチド(ジペプチド又はトリペプチド)から選ばれる1種又は2種以上のペプチド(これを適宜「成分(A)」と称する。)を含有する。なお、以下の各ペプチドのアミノ酸配列から明らかなとおり、これらのペプチドを構成するアミノ酸は、何れもα-アミノ酸である。
(A)Glu-Phe、Glu-Pro、Pro-Glu、Phe-Pro、Gly-Ile、Gly-Leu、Ile-Glu、Glu-Ile、Val-Glu、Ile-Pro、Leu-Pro、Pro-Pro、Tyr-Pro、Ala-Glu、Gly-Ser、Val-Gly、Pro-Thr、Pro-Ser、Ser-Pro、Val-Pro-Pro、Ile-Pro-Pro、Val-Pro、及びPro-Val。
成分(A)の23種類のペプチドは、後述の実施例において、所望の呈味バランスを有する本発明の組成物を後述する方法で同定・定量したところ、他の成分に比べて比較的大きなピーク面積を示したものであり、これから想定されるその含有量の多さから、呈味への影響が大きいと推測されたものである。なお、実施例にて詳述はしないが、成分(A)の23種類のペプチドを後述の方法で各々合成し、0.1質量%グルタミン酸ナトリウム水溶液に各々添加したところ、その旨味の質や強度に影響を及ぼすことが確認され、組成物の呈味に何らかの作用を及ぼすことが推測された。
本発明の組成物は、成分(A)の23種類のペプチドのうち、少なくとも1種又は2種以上を含んでいればよい。しかし、複数のペプチドの併用による未知の相加及び/又は相乗効果が期待されることや、自然で雑味や異質な風味のない、好ましい呈味を奏することが期待されることから、本発明の組成物は、成分(A)の23種類のペプチドの全てを含有することが好ましい。
成分(A)の23種類のペプチドは、以下の方法で同定・合成・分析する。なお、その詳細は、Ejima, A., Nakamura, M., Suzuki, A.Y., Sato, K. (2018) Identification of food-derived peptides in human blood after ingestion of corn and wheat gluten hydrolysates. J. Food Bioact. 2, 104-111の記載に準拠して行う。
(組成物に含まれる各種のペプチドの同定方法)
組成物に含まれる成分(A)の23種類のペプチドは、LC-MS/MSのプロダクトイオンスキャンモードで分析し、構造推定することにより同定する。具体的には、組成物試料を蒸留水で10倍希釈し、0.1容量%ギ酸存在下、水・アセトニトリル溶離液を用い、サイズ排除クロマトグラフィー(カラムとしては例えばSuperdex peptide 10/300 GL(GE Healthcare製)を使用できる。)によって分画を行う。溶離開始後30分から50分までの間、1分間毎に画分を回収する。回収した画分に含まれる各種のペプチドを、6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AccQ・Tag)によって誘導体化し、LC-MS/MS(測定機器としては例えば「LCMS-8040」(Shimadzu製)を、カラムとしては例えばODS-3(2.1×250mm、5μm、GL Sciences製)を使用できる。)を用いて、プリカーサーイオンスキャンモードにて分析を実施する。主要ピークのスペクトルから質量電化比(m/z)を求め、プロダクトイオンスキャンモードで再度LC-MS/MS分析を実施する。得られたプリカーサーイオン、プロダクトイオン、及びインモニウムイオンのm/zを元に、各種のペプチドを推測・同定する。
(各種のペプチドの合成・精製方法)
成分(A)の23種類のペプチドは、自動ペプチド合成機(例えば「PSSM-8」(Shimadzu製)を使用できる。)を用いて、Fmoc固相合成法によって合成する。合成したペプチドは、TFA(トリフルオロ酢酸、純品)を用いて脱樹脂を行い、真空下で乾燥する。得られたこれらの各種のペプチドの混合物を、0.1質量%ギ酸存在下で、水・アセトニトリル溶離液を用い、HPLC(カラム:Cosmosil 5C18-MS-II, 250×10 mm, 5 μm, Nacalai Tesque製)によって分離・精製を行う。
(各種のペプチド溶液の濃度測定方法)
分離・精製した各種のペプチド溶液の濃度は、HCl(6M塩酸)加水分解後、アミノ酸分析によって決定する。具体的には、上記合成したペプチドを、150℃の6M HCl(塩酸)で気相加水分解し、アミノ酸へと分解する。得られたアミノ酸を、フェニルイソチオシアナート(PITC)試薬を用いて誘導体化し、HPLC(カラムとしては例えばL-column3 C18(4.0×25mm、5μm、CERI製)を使用できる。)によりアミノ酸量を定量する。標準としては、アミノ酸混合標準液H型(Wako製)を用い、1点検量線法によって濃度を決定する。得られたアミノ酸の濃度に基づき、合成した各種のペプチド溶液の濃度を算出する。なお、後述する各ペプチドの添加試験では、本方法で調製した各種のペプチド溶液の溶媒を真空乾燥にて除去し、その精製品を用いた。
(組成物中の各種のペプチドの含量測定)
上記算出した各種のペプチド濃度に基づき、試料10μL中の標準各ペプチドの濃度が100pmolとなるように各種のペプチド混合標準液を調製した。標準液及び測定対象組成物は、6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AccQ・Tag)によって、含有する各種のペプチドを誘導体化し、LC-MS/MS(「LCMS-8040」、Shimadzu製、カラム:ODS-3、2.1×250mm、5μm、GL Sciences製)の多重反応モニタリング(Multiple Reaction Monitoring:MRM)にて、標準液の濃度から1点検量線法によってペプチド含量を算出し、組成物中の各種のペプチドの定量分析を行う。
・成分(B):20種類の特定の遊離アミノ酸
本発明の組成物は、下記(B)に記載の20種類の遊離アミノ酸から選ばれる1種又は2種以上の遊離アミノ酸(これを適宜「成分(B)」と称する。)を含有する。なお、本開示において「遊離アミノ酸」とは、タンパク質やペプチドを構成しているアミノ酸とは別に、組成物中に単独で遊離の状態で存在しているアミノ酸を指す。
(B)アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、システイン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、リジン、トリプトファン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン
成分(B)の20種類の遊離アミノ酸は、多様な食品中に含まれ、アミノ酸の中でも特に主要なアミノ酸である。また、これら20種類の遊離アミノ酸は各々、多様な呈味を有することが一般的に知られている。
本発明の組成物は、成分(B)の20種類の遊離アミノ酸のうち、少なくとも1種又は2種以上を含んでいればよい。しかし、本発明が目的とする、自然で雑味や異質な風味のない、好ましい呈味を奏することが期待される観点から、本発明の組成物は、成分(B)の20種類の遊離アミノ酸のうち、システイン、アスパラギン、及びグルタミンを除く、他の17種類の遊離アミノ酸の全てを含有することが好ましい。
成分(B)の20種類の遊離アミノ酸は、以下の方法で分析する。即ち、まず分析対象とする組成物試料を、その性状に応じて前処理に供する。組成物試料が液状の場合には、当該組成物試料を、蒸留水とクエン酸リチウム緩衝液(pH2.2)とを半量ずつ混合した溶液で希釈し、0.2μmフィルタで濾過して粗大物を除き、分析に供する。一方、組成物試料が固形状又は半固体状の場合には、当該組成物試料の一定量を量り取り、適宜蒸留水を加え、常温で十分に攪拌しながら懸濁させる。この懸濁液をNo.2濾紙で濾過し、濾液を得る。その後は液状の場合と同様に処理する。
前記前処理を行った組成物試料を用い、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル」に記載のアミノ酸分析法に則って、成分(B)の20種類の遊離アミノ酸含量を測定する。具体的には、アミノ酸自動分析計(例えば「JLC-500/V2(日本電子製)」を使用できる。)を用いて測定すればよい。
・成分(A)と成分(B)との比
本発明の組成物は、成分(A)の23種類のペプチドの合計質量に対する、成分(B)の20種類の遊離アミノ酸の合計質量の比(これを適宜「(B)/(A)比」と称する。)が、所定範囲内であることを特徴の一つとする。具体的に、斯かる(B)/(A)比の下限は、通常150以上である。中でも170以上、更には200以上であることが好ましい。一方、斯かる(B)/(A)比の上限は、通常800未満である。中でも650未満が好ましく、更には520未満が好ましい。
前記(B)/(A)比を所定範囲内に調整することによる、本発明の組成物による効果奏功の作用機序は、定かではないが、次のように推測される。すなわち、前記(B)/(A)比が前記所定の下限に満たないとは、原料である植物性タンパク質の分解が十分に進んでいないことを意味する。このため、植物性タンパク質を低分子化することによって生じる本発明の所望の効果成分の生成が少なく、呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整がなされないものと推測される。一方で、前記(B)/(A)比が前記所定の上限を超えているとは、原料である植物性タンパク質の分解が進み過ぎていることを意味する。このため、植物性タンパク質の分解の途中で生成する本発明の所望の効果成分の残存が少なく、呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整がなされないものと推測される。従って、前記(B)/(A)比を前記所定の範囲内に調整することで、本発明の所望の効果が奏されるものと推測される。
・成分(aa):6種類のペプチド
本発明の組成物は、成分(A)の23種類のペプチドの中でも、下記(aa)記載の6種類の特定のペプチド(これを適宜「成分(aa)」と称する。)のうち1種又は2種以上を含むことが好ましい。
(aa)Phe-Pro、Ile-Glu、Val-Glu、Tyr-Pro、Val-Pro-Pro、及びIle-Pro-Pro。
ここで、成分(aa)の6種類のペプチドとは、成分(A)の23種類のペプチドの中でも、特に本発明の組成物の呈味に対する影響が強いことが確かめられたペプチドである。上記したように、実施例にて詳述はしないが、成分(A)の23種類のペプチドを後述の方法で各々合成し、0.1質量%グルタミン酸ナトリウム水溶液に各々添加したところ、その旨味の質や強度に影響を及ぼすことが確認されたが、中でも成分(aa)の6種類のペプチドを添加した場合には、他のペプチドを添加した場合に比べて、組成物の旨味の質や強度に影響を及ぼすことが確認され、組成物の呈味に何らかの作用を及ぼすことが推測された。
本発明の組成物は、成分(aa)の6種類のペプチドのうち、少なくとも1種を含むことが好ましい。しかし、複数のペプチドの併用による未知の相加及び/又は相乗効果が期待されることや、自然で雑味や異質な風味のない、好ましい呈味を奏することが期待されることから、本発明の組成物は、成分(aa)の6種類のペプチドのうち2種以上を含有することがより好ましく、3種以上を含有することが更に好ましく、6種類全てを含有することが特に好ましい。
本発明の組成物は、成分(A)の23種類のペプチドの合計質量に対する、成分(aa)の6種類のペプチドの合計質量の割合が、所定範囲内であることが好ましい。具体的には、斯かる成分(aa)の割合の下限は、通常9%以上、中でも11%以上、更には13%以上であることが好ましい。成分(aa)の割合が前記下限に満たないと、呈味のうち特に後味が弱まってバランス崩れると共に、呈味全体の口当たり強度も低い場合がある。
・成分(C):7種類のピログルタミルペプチド
本発明の組成物は、下記(C)記載の7種類のピログルタミルペプチド(これを適宜「成分(C)」と称する。)のうち、少なくとも1種を含有することが好ましい。なお、以下のピログルタミルペプチドのアミノ酸配列は、pGlu-X(-Y)と表す。ここでpGluはピログルタミン酸残基を表し、X及びYは任意のアミノ酸残基を表す。これらのアミノ酸配列から明らかなとおり、成分(C)の7種類のピログルタミルペプチドを構成するアミノ酸は、何れもα-アミノ酸である。
(C)pGlu-Ile、pGlu-Leu、pGlu-Gly、pGlu-Pro、pGlu-Glu、pGlu-Pro-Pro、及びpGlu-Pro-Gly。
本発明の組成物は、成分(A)記載の23種類のペプチドの合計質量に対する成分(B)の20種類の遊離アミノ酸の合計質量の比(前記(B)/(A)比)を一定範囲内に調整することで、組成物の呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに整えられる。これに成分(C)のピログルタミルペプチドを1種又は2種以上含有させると、上記調整された呈味のバランスに影響を及ぼすことなく、先味、中味、及び後味の全てを底上げ・増強することができ、惹いては組成物の味の濃厚さやコク、満足感、これらに伴う嗜好性をより一層向上することが可能となる。
本発明の組成物は、成分(C)の7種類のピログルタミルペプチドのうち、少なくとも1種を含有することが好ましく、2種以上を含有することがより好ましく、3種以上を含有することが更に好ましく、7種類全てを含有することが特に好ましい。
本発明の組成物における、成分(C)の7種類のピログルタミルペプチドの合計質量は、特に制限されるものではないが、好ましくは以下のとおりである。即ち、成分(C)の合計質量の下限は、通常60mg/100g以上、中でも70mg/100g以上、更には80mg/100g以上であることが好ましい。成分(C)の割合が前記下限に満たないと、呈味全体の口当たり強度が低下する場合がある。一方、成分(C)の合計質量の上限は、通常220mg/100g以下、中でも200mg/100g以下であることが好ましい。成分(C)の割合が前記上限を超えると、呈味の先味、中味、及び後味のバランスが崩れる場合がある。
成分(C)の7種類のピログルタミルペプチドの合成及びペプチド溶液の濃度測定は、成分(A)の23種類のペプチドと同様の操作で行う。なお、その詳細は、前記のEjima et al. (2018)の記載に準拠して行う。また、成分(C)の7種類のピログルタミルペプチドの分析(同定、定量)は、次の操作で行う。
(組成物中に含まれる各種ピログルタミルペプチドの同定方法)
組成物に含まれる成分(C)のピログルタミルペプチドは、強カチオン交換樹脂(例えばAG50W-×8(Bio-Rad社製)を使用できる。)を充填したスピンカラム(例えばUltrafree MC(Merck-Millipor 社製)を使用できる。)に通し、素通り画分として分離する。得られた画分を、LC-MS/MSを用いて、ピログルタミン酸のインモニウムイオン(m/z84)を生じるプリカーサーイオンとして検出後、プロダクトイオンスキャンモードで分析し、構造推定する。プリカーサーイオン、プロダクトイオン、インモニウムイオンのm/zを元に、各ピログルタミルペプチドを推測・同定する。
(組成物中の各種ピログルタミルペプチド含量測定)
上記算出した各種ピログルタミルペプチド濃度に基づき、試料10μL中の標準各ピログルタミルペプチドの濃度が100pmolとなるように、各種ピログルタミルペプチドの混合標準液を調製する。標準液及び測定対象組成物は、LC-MS/MS(測定装置としては例えば「LCMS-8040」(Shimadzu製)、カラムとしては例えばODS-3(2.1×250mm、5μm、GL Sciences製)を使用できる。)の多重反応モニタリング(Multiple Reaction Monitoring:MRM)にて、標準液の濃度から1点検量線法によってペプチド含量を算出し、組成物中の各種のペプチド含量の定量分析を行う。
[全窒素]
全窒素(Total Nitrogen又はTN)は、分析対象試料中に含有される含窒素化合物(タンパク質、ペプチド、遊離アミノ酸等)に含まれる全ての窒素分、或いはこれを固液分離した場合に、液中に遊離した含窒素化合物(タンパク質、ペプチド、遊離アミノ酸等)に含まれる全ての窒素分を示す。全窒素の分析は、本発明の組成物に含まれる植物性タンパク質分解物の分解度を把握するために重要な測定項目である。
具体的に、本発明の組成物の全窒素(TN)は、制限されるものではないが、通常0.1g/100g以上、中でも0.2g/100g以上、更には0.3g/100g以上であることが好ましく、また、通常3.00g/100g以下、中でも2.50g/100g以下、更には2.30g/100g以下であることが好ましい。全窒素(TN)の値が前記下限に満たないと、基本五味の内、特に旨味の受容閾値を下回り、本発明の効果を明瞭に確認できない場合がある。一方、全窒素(TN)の値が前記上限を超えると、基本五味の内、特に旨味の受容閾値を上回り、本発明の効果を明瞭に確認できない場合がある。
分析対象試料中の全窒素は、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル」に記載のタンパク質分析法の内、燃焼法(改良デュマ法)に則って測定する。具体的には、全窒素測定装置スミグラフ「NCH-22A(住化分析センター製)」を用いる。なお、分析対象とする組成物をそのまま分析に供すればよい。
[呈味の先味、中味、及び後味]
前述のように、本発明の組成物は、成分(A)の23種類のペプチドの合計質量に対する、成分(B)の20種類の遊離アミノ酸の合計質量の比((B)/(A)比)が、前記の一定範囲内に調整されていることで、その呈味の先味、中味、及び後味が、同等の強度を伴うバランスに整えられている。これによって、本発明の組成物は、味の濃厚さやコク、満足感を付与され、極めて嗜好性に優れたものとなる。なお、各ペプチド間の未知の相加及び/又は相乗効果の奏効が期待されること、また、自然で雑味や異質な風味のない、好ましい呈味を奏することが期待されることから、本発明の組成物は、成分(A)の23種類のペプチドの全てを含有することが好ましく、また、成分(B)の20種類の遊離アミノ酸のうち、成分(B)の20種類の遊離アミノ酸のうち、システイン、アスパラギン、及びグルタミンを除く、他の17種類の遊離アミノ酸の全てを含有することが好ましい。
なお、組成物の呈味の「先味」、「中味」、及び「後味」とは、それぞれ次のように定義される。
・先味:口に入れて直ぐに感じる呈味。
・中味:口に入れ、噛み始めるか、口に含んでいる際の呈味。
・後味:口に入れ、飲み込む直前、及び、その後の余韻の呈味。
また、組成物の呈味の先味、中味、及び後味が「同等の強度を伴うバランスにある」ということは、各々の呈味を感じるとともに、それらの強度が口に入れて直ぐから(先味)、口に含み(中味)、飲み込み、余韻を生じる(後味)までの間でほぼ一定で大きな変化がないことを指す。
[組成物の態様]
本発明の組成物の態様としては、固形状、半固体状、液体状、更にはこれらを乾燥させた乾燥物、更にはこれを粉砕した粉末状、更にはこれを顆粒化した顆粒状等であってもよく、その態様は何ら制限されない。但し、製造操作の容易性及び植物性タンパク質の分解効率の観点から、これらは、半固体状、液体状でその分解工程を経ることが好ましい。
本発明の組成物として、具体的には、発酵調味料である、食酢類、酒類、みりん類、味噌類、しょうゆ類、その他所謂「発酵調味料」と呼ばれる群の調味料類等の液状調味料や半固体状の発酵調味料、更にはこれらを顆粒化や粉末化させた固体状調味料が挙げられる。但し、これら既定の調味料の分類に入らない組成物(飲食品)についても本発明の所望の効果を奏するものであれば、何ら限定されるものではない。
なお、本発明の組成物は、酵素や微生物等による発酵分解を経て調製された発酵調味料であることが好ましい。これは、含有するタンパク質の分解程度を、本発明の所望の効果が奏する条件を一定範囲に制御しやすいためである。但し、酸分解や酵素分解や麹分解であっても、酸の濃度や温度制御による分解スピードの調整によって、タンパク質の分解程度を制御できれば、その限りではない。
また、本発明の組成物は、単独で、その成分組成が本発明の所望の効果を奏する条件が一定範囲に調製されたものであってもよいが、本発明の所望の効果のない本発明の組成物と飲食品を混合して、その成分組成を本発明の所望の効果を奏する条件を一定範囲に調製することで、本発明の所望の効果を奏する飲食品も調製できる。なお、この場合、調製の容易さの観点から、飲食品は調味料であること、更には液体調味料であることが好ましい。
[組成物の製造方法]
本発明の別の一態様は、本発明の組成物を製造する方法(以下適宜「本発明の製造方法」と称する。)に関する。本発明の製造方法は、1種又は2種以上の成分(A)及び/又は1種又は2種以上の成分(B)を含有する、1種又は2種以上の原料を、成分(A)の合計質量に対する成分(B)の合計質量の比((B)/(A)比)が前記所定範囲を充足するように混合することを含む。
本発明の製造方法に使用される1種又は2種以上の原料は、制限されるものではないが、少なくとも原料の1種として、1種又は2種以上の成分(A)及び/又は1種又は2種以上の成分(B)を含有する原料を用いればよい。斯かる原料としては、前述の植物性タンパク質分解物が挙げられる。斯かる植物性タンパク質分解物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで用いてもよい。
また、植物性タンパク質分解物以外の原料を用いる場合、その種類は限定されるものではないが、前述したように、未分解の植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物や、動物性タンパク質含有素材及び/又は動物性タンパク質精製物及び/又はそれらの分解物、更にはその他の各種原料等が挙げられる。これらの植物性タンパク質分解物以外の原料も、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで用いてもよい。
各原料の配合比、混合タイミング、混合方法や、前処理・後処理の有無及び種類等は、本発明の所望の効果を奏功する条件に影響を及ぼさない範囲で、適宜選択・調整することができる。また、植物性タンパク質含有素材及び/又は植物性タンパク質精製物に分解処理を施して植物性タンパク質分解物を生成する工程の前、中、後の何れの段階において、植物性タンパク質分解物以外の成分を加えてもよい。何れの場合でも、最終的に得られる組成物が、前記の各種の組成要件を満たしていればよい。その他の詳細については、既に詳述した通りである。
[飲食品の呈味の調整方法]
本発明の更に別の一態様は、飲食品の呈味の先味、中味、及び後味を、同等の強度を伴うバランスに調整する方法(以下適宜「本発明の呈味調整方法」と称する。)に関する。本発明の呈味調整方法は、本発明の製造方法と同様、1種又は2種以上の成分(A)及び/又は1種又は2種以上の成分(B)を含有する、1種又は2種以上の原料を、成分(A)の合計質量に対する成分(B)の合計質量の比((B)/(A)比)が前記所定範囲を充足するように混合することを含む。こうして得られる本発明の組成物が、呈味の先味、中味、及び後味を、同等の強度を伴うバランスに調整された飲食品としに該当することになる。その他の詳細は、既に詳述した通りである。
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
[試験1:各種組成物の調製と分析、呈味の比較]
本試験では、表1に示す各種植物性タンパク質を含有する素材を原料として用い、その配合割合を変化させ、加水した後、表1に示す各種分解法によって分解処理を施すことにより、植物性タンパク質の分解物を含有する各実施例及び比較例の組成物を調製した。
具体的には、比較例1の酸分解では、原料に加水し、最終出来高(50L)の8割程度の仕込み量で濃塩酸を投入し、pHを1.0以下にした後、90℃で18時間の酸分解を行った。その後に冷却し、濃水酸化ナトリウム溶液を添加してpHを5.0になるよう調整し、最後に水を添加し、最終出来高を50Lとした。なお、この時の濃塩酸及び濃水酸化ナトリウムの濃度及び添加量は、食塩生成量が最終出来高の20%になるよう設定した。
比較例2の酵素分解では、原料に加水して出来高を50Lに調整した後、これを市販の液化酵素、糖化酵素を用いて常法に従い液化(90℃、30分)した後、市販のプロテアーゼ製剤及びペプチダーゼ製剤を各0.5質量%添加し、常法に従い、緩く攪拌しながら55℃にて24時間の酵素分解を行った。その後、冷却し、食塩を20質量%添加して防腐処理を施した。
比較例3の麹分解では、原料素材を混合した後、これを121℃で20分間蒸煮し、40℃程度に冷却した後、これに市販の麹の種菌(醸造用黄麹、ニホンコウジカビ:Aspergillus oryzae)をまんべんなく接種し、30℃で48時間製麹した。製麹は、半自動式箱型製麹装置(フジワラテクノアート製)を用いて行った。その後、製麹した原料全部に加水し出来高を50Lとし、常法に従い、緩く攪拌しながら55℃にて24時間の麹分解を行った。その後、冷却し、食塩を20質量%添加して防腐処理を施した。
比較例4、5、及び6並びに実施例1及び2では、比較例3と同様に、原料素材を全て製麹した後、25℃にて麹分解とともに市販の耐塩性酵母及び市販の耐塩性乳酸菌(各0.1質量%)の接種により、6か月間の発酵分解を行った。なお、食塩を添加した理由は、添加しない場合、アルコール発酵性酵母や非耐塩性乳酸菌が増殖し、結果、エタノールや乳酸を多量に含有する組成物が出来てしまい、その他の組成物との間で呈味が大きく異なるものとなり、各処理物間での比較を伴う官能試験が困難になるためである。但し、このことは、高濃度のエタノールを含有する組成物が調製できないという意味ではなく、ここではエタノールや乳酸の刺激によって呈味評価が困難になってしまうという都合からであって、所望する組成物がエタノールや乳酸を高濃度に含有するものであっても、その調製に何ら差支えはない。
上記の各実施例及び比較例の手順で組成物を調製した後、常法に従って圧搾濾過及び固液分離を行い、最終的に所望とする各実施例及び比較例の液状組成物を得た。下記表1に各実施例及び比較例の製造処方及び製造方法を示す。
Figure 0007016133000001
次に、上記調製した各実施例及び比較例の液状組成物の官能試験を行った。官能試験は、本発明の所望の作用効果である、(1)呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスにあるか否か、及び、(2)自然で雑味や異質な風味のない好ましい呈味を有するか否かを評価する目的で、以下の評価基準に基づいて実施した。
各官能試験を行う官能検査員としては、予め食品の味、食感や外観等の識別訓練を実施した上で、特に成績が優秀で、商品開発経験があり、食品の味、食感や外観等の品質についての知識が豊富で、各官能検査項目に関して絶対評価を行うことが可能な検査員を選抜した。次に、以上の手順で選抜され、訓練された官能検査員10名が、各実施例及び比較例の液状組成物について、以下の評価基準に基づき、その品質を評価する官能試験を行った。具体的には、以下の基準に従い、それぞれ5点満点で評価を行った。上記の何れの評価項目でも、事前に検査員全員で標準試料の評価を行い、評価基準の用語やスコアについて標準化を行った上で、10名によって客観性のある官能検査を行った。評価項目の評価は、5段階の評点の中から、各検査員が自らの評価と最も近い数字をどれか一つ選択する方式で評価した。評価結果の集計は、10名のスコアの算術平均値から算出し、小数点以下は四捨五入した。
<評価基準1:先味、中味、及び後味の各々の強さ>
5:著しく強い。
4:強い。
3:やや強い。
2:やや弱い。
1:弱い。
<評価基準2:先味、中味、及び後味のバランス>
5:バランスが良く揃っており、特に好ましい。
4:バランスが概ね良く揃っており、好ましい。
3:ややバランスが良く揃っており、やや好ましい。
2:ややバランスが崩れており、あまり好ましくない。
1:バランスが崩れており、好ましくない。
<評価基準3:呈味全体の口当たり強度>
5:大変強く、好ましい。
4:強く、好ましい。
3:やや強く、やや好ましい。
2:やや弱く、あまり好ましくない。
1:弱く、好ましくない。
<評価基準4:総合評価
※総合評価は、評価基準1~3の各評価結果を総合的に勘案すると共に、自然で雑味や異質な風味がなく、好ましいかどうかも考慮して評価した。
5:大変好ましい。
4:好ましい。
3:やや好ましい。
2:あまり好ましくない。
1:好ましくない。
試験1で調製した各実施例及び比較例の組成物の官能試験結果及び全窒素(表中TN)の分析結果を下記表2に示す。全窒素を分析した理由は、タンパク質の分解度合いを比較するためである。なお、全窒素の分析方法は上述の方法に依った。
Figure 0007016133000002
結果、実施例1及び2の発酵分解法による組成物は、上記各評価項目について優れた結果を示した。また、比較例1の酸分解法と比較例3の麹分解法による組成物では、先味、中味、及び後味のバランスには劣るものの、呈味全体にわたる口当たり強度が大きく、総合評価も先味、中味、及び後味のバランスの評点の割には高いことが分かった。
しかしながら、上記官能評価結果と全窒素(表中TN)との対比によれば、これらの間には明確な相関が認められなかった。そこで、これらの作用効果が何によってもたらされているかを調べるため、各実施例及び比較例の組成物について、更に詳細な成分分析を行った。結果を下記の表3(ペプチド)、表4(遊離アミノ酸)、及び表5(総合的解析値)に示す。なお、これら分析項目を選択した理由は、技術常識的に呈味に及ぼす影響が特に強いと推測されたためである。なお、各分析項目の分析方法は、上述の方法に依った。
Figure 0007016133000003
表3に示す各種のペプチド類の分析の結果、上記各評価項目について優れた結果を示した実施例1及び2の発酵分解法による組成物は、発酵分解法により調製された組成物の中でも、23種のペプチド(成分(A))のうち特定の6種のペプチド(成分(aa))の割合が高いことが分かった。しかしながら、比較例2においては、本値が高いにもかかわらず、評価結果は芳しくないという矛盾が認められた。他方、実施例1及び2の発酵分解法、比較例1の酸分解法と比較例3の麹分解法による組成物では、呈味全体にわたる口当たり強度が大きいとの評価であったが、7種のピログルタミルペプチド(成分(C))の総量が共通して高いことが分かった。
Figure 0007016133000004
表4に示す各種遊離アミノ酸類の分析の結果と、上記各評価項目について優れた結果を示した実施例1及び2の発酵分解法による組成物との間には、明確な相関が認められなかった。そこで、上記全窒素、各種のペプチド類、各種遊離アミノ酸類の分析の結果を総合的に解析することとした。結果を下記表5に示す。
Figure 0007016133000005
結果、本発明の所望の効果について総合的に優れた結果を示した実施例1及び2の発酵分解法による組成物は、23種のペプチド(成分(A))の合計質量に対する20種の遊離アミノ酸(成分(B))の合計質量の比((B)/(A)比)が近しい値であって、かつ、他の組成物の値と特徴的に異なることが判明した。すなわち、組成物中のタンパク質の遊離アミノ酸及びペプチド類への分解度が一定の範囲にあることで、本発明の効果が奏されるという仮説が得られた。なお、本試験の結果によれば、発酵分解法によって調製した植物性タンパク質含有素材として、小麦由来精製グルテンが含有されることが、本発明の効果の奏効の観点から好ましいと思われた。
[試験2:本発明の所望の効果の発現とタンパク質分解度の関係の検証]
以上の検討検結果に基づき、本試験では、23種のペプチド(成分(A))の合計質量に対する20種の遊離アミノ酸(成分(B))の合計質量の比((B)/(A)比)が一定の範囲内にある場合に、所望の効果が奏されるか否かを検証した。
試験1の実施例1及び2に準じて、下記表6の通り、発酵期間を変えた各実施例及び比較例の組成物を調製し、試験1と同様に官能試験及び成分分析を実施した。結果を下記の表7、8、及び9に示す。
Figure 0007016133000006
Figure 0007016133000007
Figure 0007016133000008
Figure 0007016133000009
結果、本発明の所望の効果を奏するためには、23種のペプチド(成分(A))の合計質量に対する20種の遊離アミノ酸(成分(B))の合計質量の比((B)/(A)比)が、下限としては150以上であればよいこと、更には170以上、特には200以上であればより好ましいことが分かった。一方で、上限としては800未満であればよいこと、更には650未満、特には520未満であればより好ましいことが分かった。
また、本発明の効果を奏する前記(B)/(A)比の範囲において、23種のペプチド(成分(A))総量中の特定の6種のペプチド(成分(aa))総量の割合が、下限としては、9%以上が好ましく、中でも11%以上であればより好ましいことが分かった。なお、上限としては特に限定されるものはないが、20%未満が好ましく、更には15%未満がより好ましいことが分かった。
更には、本発明の効果を奏する前記(B)/(A)比の範囲において、組成物中のピログルタミルペプチド(成分(C))の総含有量が、下限としては、60mg/100g以上が好ましく、中でも70mg/100g以上、更には80mg/100g以上であればより好ましいことが分かった。なお、上限としては、ピログルタミルペプチドの呈味への作用効果(上記)の観点から、特に限定されるものではないが、220mg/100g以下が好ましく、200mg/100g以下であればより好ましいことが分かった。
以上から、本発明の所望の効果を奏する要因としては、(1)23種のペプチド(成分(A))の合計質量に対する20種の遊離アミノ酸(成分(B))の合計質量の比((B)/(A)比)が一定範囲に調整されていること、(2)23種のペプチド(成分(A))総量中の特定の6種のペプチド(成分(aa))総量の割合が一定値以上、(3)7種のピログルタミルペプチド(成分(C))の総含有量が一定値以上、に調整されていればより好ましいことが分かった。
[試験3:本発明の所望の効果の支配的要因の検証]
試験2の結果、本発明の所望の効果の作用要因として、上記3つ(要因(1)、(2)、及び(3))が挙げられた。そこで、本試験では、これらの要因のうち、本発明の所望の効果の奏効に対して最も支配的な要因は何れにあるかを検証することとした。
試験1における比較例1、3、及び4の分析結果と、後述する比較例8及び9並びに実施例7及び8の分析結果を、下記の表10に示す。
Figure 0007016133000010
結果、比較例1の酸分解及び比較例3の麹分解による各組成物では、要因(3):7種のピログルタミルペプチド(成分(C))の総含有量が一定値以上に調整されているにもかかわらず、本発明の主効果である、呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整されていないことが分かった。
一方で、比較例4の発酵分解では、要因(1):前記(B)/(A)比が一定範囲に調整されておらず、要因(2):23種のペプチド(成分(A))総量中の特定の6種のペプチド(成分(aa))総量の割合が一定値以上でなく、且つ、要因(3):7種のピログルタミルペプチド(成分(C))の総含有量が一定値以上でなく、本発明の主効果である、呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整されておらず、呈味全体の口当たり強度も低いことが分かった。
これらに対して、比較例4の組成物に、上記の方法で合成した各ピログルタミルペプチド(成分(C))を比較例8のごとく添加して、要因(3):7種のピログルタミルペプチド(成分(C))の総含有量のみを一定値以上に調整した場合は、本発明の主効果である、呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整されなかった。但し、各ピログルタミルペプチド(成分(C))の添加により、呈味全体の口当たり強度が高まることが確認された。
また、比較例4の組成物に、上記の方法で合成した特定の6種類のペプチド(成分(aa))を比較例9のごとく添加して、要因(2):23種のペプチド(成分(A))総量中の特定の6種のペプチド(成分(aa))総量の割合のみを一定値以上に調整した場合は、本発明の主効果である、呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整されなかった。但し、特定の6種類のペプチド(成分(aa))の添加により、中味及び後味の強度が高まることが分かった。
更には、比較例4の組成物に、上記の方法で合成した23種類のペプチド(成分(A))を実施例7のごとく添加して、要因(1):前記(B)/(A)比のみを一定範囲内に調整した場合は、本発明の主効果である、呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整されることが分かった。
加えて、比較例4の組成物に、上記の方法で合成した7種のピログルタミルペプチド(成分(C))、及び、特定の6種類のペプチド(成分(aa))を、それぞれ実施例8のごとく添加して、それぞれ一定値以上に調整すると共に、23種類のペプチド(成分(A))を実施例8のごとく添加して、要因(1):前記(B)/(A)比も一定範囲内に調整した場合は、本発明の主効果である、呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整されることに加えて、呈味全体の口当たり強度が高まることが分かった。
以上のことから、本発明の主効果である、呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整される効果は、要因(1):前記(B)/(A)比が一定範囲に調整されていることに起因して奏されることが判明した。なお、要因(2):23種のペプチド(成分(A))総量中の特定の6種のペプチド(成分(aa))総量の割合を一定値以上に調整する効果は、中味及び後味の増強を補強すること、要因(3):ピログルタミルペプチド(成分(C))の総含有量を一定値以上に調整する効果は、呈味全体の口当たり強度を高めることを通じて、呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整される効果(要因(1)による主効果)をより顕著に発現させる作用を有することが確認された。
[試験4:本発明の応用による所望の効果の付与に関する検証]
以上の試験から、本発明の組成物は、その呈味の先味、中味、及び後味が同等の強度を伴うバランスに調整された、自然で雑味や異質な風味のない、好ましい呈味を有すること、そのためには、組成物に含まれるタンパク質の分解度を、23種のペプチド(成分(A))の合計質量に対する20種の遊離アミノ酸(成分(B))の合計質量の比((B)/(A)比)が一定範囲に調整するように制御することで調製できることが判明した。
試験3において、各種合成ペプチドの添加により、本発明の所望の効果を有する組成物を調製できることを示したが、合成ペプチドの添加による品質の調整には、膨大な手間やコストがかかり、現実的でない場合もある。そこで本試験では、植物性タンパク質分解物含有組成物を使用して、本発明の所望の効果が奏される飲食品が調製できることを実証した。
表12に示す通り、本発明の所望の効果のない市販食酢(比較例10)と、試験2で調製した植物性タンパク質分解物含有組成物(実施例5及び比較例7)とを、下記表11に示す原料ブレンド処方で混合し、調味料の代表的一例として、酢の物用の合わせ酢を調製した。これを試験1と同様に、官能試験及び成分分析に供した。結果を下記の表12に示す。
Figure 0007016133000011
Figure 0007016133000012
結果、本発明の所望の効果を有する植物性タンパク質分解物含有組成物のみならず、本発明の所望の効果を有さない植物性タンパク質分解物含有組成物についても、他の飲食品と混合することにより、要因(1):前記(B)/(A)比を前記の所定範囲内に調整することができれば、配合調製された飲食品は、本発明の所望の効果を奏しうることが実証された。なお、本発明の所望の効果の発現の主要因は、要因(1):前記(B)/(A)比を所定範囲内に調整することである(即ち、所望効果の奏功を支配する要因が、絶対値ではなく比率である)から、本発明の組成物及び飲食品は、その効果の発現において希釈耐性や濃縮耐性を有することが認められた。

Claims (6)

  1. 原料として少なくとも穀類又は大豆を用いた発酵調味料であって、
    該穀類又は大豆のタンパク質の分解物を含み、
    下記(A)の23種類のペプチド全て(以下「成分(A)」とする。)、
    下記(B)の20種類の遊離アミノ酸(以下「成分(B)」とする。)のうち、システイン、アスパラギン、及びグルタミンを除く他の17種類の遊離アミノ酸全て、
    下記(aa)の6種類のペプチド全て(以下「成分(aa)」とする。)、並びに、
    下記(C)の7種類のピログルタミルペプチド全て(以下「成分(C)」とする。)を含有すると共に、
    上記成分(A)の合計質量に対する上記成分(B)の合計質量の比が150以上650未満である、発酵調味料。
    (A)Glu-Phe、Glu-Pro、Pro-Glu、Phe-Pro、Gly-Ile、Gly-Leu、Ile-Glu、Glu-Ile、Val-Glu、Ile-Pro、Leu-Pro、Pro-Pro、Tyr-Pro、Ala-Glu、Gly-Ser、Val-Gly、Pro-Thr、Pro-Ser、Ser-Pro、Val-Pro-Pro、Ile-Pro-Pro、Val-Pro、及びPro-Val。
    (B)アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、システイン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、リジン、トリプトファン、アルギニン、アスパラギン、及びグルタミン。
    (aa)Phe-Pro、Ile-Glu、Val-Glu、Tyr-Pro、Val-Pro-Pro、及びIle-Pro-Pro。
    (C)pGlu-Ile、pGlu-Leu、pGlu-Gly、pGlu-Pro、pGlu-Glu、pGlu-Pro-Pro、及びpGlu-Pro-Gly。
    ここで、上記成分(A)、成分(B)、成分(aa)、及び成分(C)は上記穀物又は大豆のタンパク質の分解物に由来する。
  2. 成分(A)の合計質量に対する上記成分(aa)の合計質量の割合が9%以上である、請求項1に記載の発酵調味料。
  3. 成分(C)の合計含有量が60mg/100g以上である、請求項1又は2に記載の発酵調味料。
  4. 液体調味料である、請求項1~3の何れか一項に記載の発酵調味料。
  5. 請求項1~4の何れか一項に記載の発酵調味料を製造する方法であって、穀類又は大豆のタンパク質の分解物を含む原料を、上記成分(A)の合計質量に対する上記成分(B)の合計質量の比が150以上650未満となるように混合することを含む製造方法。
  6. 飲食品の呈味の先味、中味、及び後味を、同等の強度を伴うバランスに調整する方法であって、前記飲食品が、請求項1~4の何れか一項に記載の発酵調味料であると共に、穀類又は大豆のタンパク質の分解物を含む原料を、上記成分(A)の合計質量に対する上記成分(B)の合計質量の比が150以上650未満となるように混合することを含む方法。
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