<第1実施形態>
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る無線電力伝送システム100(以降、システム100)のシステム構成について説明するための図である。なお図1は、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸により定義される座標系170のZ軸方向の視点からシステム100を見た場合の図である。
システム100は、送電部101、受電部102、制御部103、プリントヘッド104、駆動部105、電源部106、レール150、伝送路130、伝送路131、伝送路160及び伝送路161を有する。また、送電部101は送電コイル110及び送電器111を有し、受電部102は受電コイル120及び受電器121を有する。
本実施形態では、システム100はプリンタに含まれ、送電コイル110から受電コイル120へ伝送される電力は、プリンタ内のプリントヘッド104においてインクの吐出を制御するために使用される。例えば、プリントヘッド104がピエゾ方式によるインク吐出を行う場合、伝送された電力は圧電素子への電圧の印加に使用される。また例えば、プリントヘッド104がサーマル方式によるインク吐出を行う場合、伝送された電力はヒーターによる加熱のために使用される。この吐出制御によって、プリンタに装着されたインクタンクからプリントヘッド104へ供給されるインクが、プリンタ内を搬送される用紙等の記録媒体に対して吐出され、記録媒体上に画像が形成される。ここで、プリントヘッド104が例えば記録媒体の搬送方向と垂直な方向に移動してインクの吐出を行うことによって、記録媒体の全体に画像を形成することが可能となる。具体的には、プリントヘッド104の移動及びインクの吐出と用紙の搬送とが交互に繰り返されながらプリントが行われる。
ただし、システム100の適用先はこれに限定されるものではない。例えば、工場で用いられる自動搬送車(AVG:Automatic Guided Vehicle)への電力伝送や、イメージスキャナのLED部への電力伝送など、所定の方向に移動し電力供給が必要な移動体全般への電力伝送に適用できる。なお、システム100をプリンタ以外に適用する場合、システム100はプリントヘッド104やレール150、駆動部105などを含まなくてよい。
また、本実施形態において、送電コイル110から受電コイル120への電力伝送には電磁誘導方式又は磁界共鳴方式が用いられる。なお、電磁誘導方式と磁界共鳴方式とが選択的に用いられてもよいし、その他の方式が用いられてもよい。
システム100内には、送電コイル110に流れる電流に応じて発生する磁界によって受電コイル120へ無線で電力を伝送するための送電コイル110と、送電コイル110から受電するための受電コイル120の2つのコイルが存在する。なお、システム100内のコイルの数はこれに限らない。例えば、1つの送電コイル110と複数の受電コイル120が存在してもよいし、複数の送電コイル110と1つの受電コイル120が存在してもよいし、複数の送電コイル110と複数の受電コイル120が存在してもよい。
送電コイル110は、座標系170のX軸方向と略平行な線状の導体部分181、導体部分182、導体部分183、及び導体部分184を有し、図1に示すように8の字形状を成す。ただし、導体部分181-184はX軸方向と平行なものに限定されない。送電コイル110は、受電コイル120のX軸方向における移動に伴うコイル間の結合係数の変化が抑えられるような形状であればよい。なお、送電コイル110の8の字の交点180において交差する2本の線状の導体部分は接触しない。
ここで、送電コイル110による漏洩電磁波の低減効果について図2を用いて説明する。送電コイル110は、導体部分181及び導体部分182を含む第一のループと、導体部分183及び導体部分184を含む第二のループを有する。なお、本実施形態においてコイルが有するループとは、コイルの一部又は全体であって、コイルに対する電圧の印加に応じて磁界を生成する環状の部分であり、また、ループ内を貫通する磁界に応じてコイルに電流が流れるような環状の部分である。
第一のループと第二のループには、送電コイル110に対する電圧の印加に応じて互いに逆向きの電流が流れる。例えば、第一のループに座標系170のZ軸方向から見て右回りの電流が流れる場合には、第二のループにはZ軸方向から見て左回りの電流が流れる。これにより、第一のループと第二のループは互いに逆向きの磁束を発生させる。その結果、送電コイル110の近傍には図2のように閉じた磁界が形成される。つまり、本実施形態に係る送電コイル110を用いることで、遠方界へ伝搬する磁界が低減され、漏洩電磁波を抑制することができる。
送電器111は、電磁誘導方式や磁界共鳴方式の無線電力伝送に用いられる公知の送電回路を有する。具体的には、送電器111は、電源部106から供給される直流電圧を、スイッチング回路を用いて送電に適した周波数の交流電圧へ変換し、送電コイル110に対して印加する。つまり、送電部101は、送電器111において直流電圧を交流電圧へ変換し、送電コイル110において交流磁界を生成する。
受電コイル120は、座標系170のX軸方向と略平行な線状の導体部分191、導体部分192、導体部分193、及び導体部分194を有し、送電コイル110と同様に8の字形状を成す。つまり、受電コイル120は、導体部分191及び導体部分192を含む第三のループと、導体部分193及び導体部分194を含む第四のループを有する。ただし、導体部分191-194はX軸方向と平行なものに限定されない。受電コイル120は、X軸方向における移動に伴うコイル間の結合係数の変化が抑えられるような形状であればよい。なお、受電コイル120の8の字の交点190において交差する2本の線状の導体部分は接触しない。第三のループと第四のループには、送電コイル110に対する電圧の印加に応じて互いに逆向きの電流が流れる。例えば、第三のループに座標系170のZ軸方向から見て右回りの電流が流れる場合には、第四のループにはZ軸方向から見て左回りの電流が流れる。
また、送電コイル110及び受電コイル120がX軸方向に平行な基準平面(XY平面)に投影された場合、即ちX軸方向に垂直な基準方向(Z軸方向)の視点から見た場合、送電コイル110の内部と受電コイルの内部は少なくとも一部が重なる。より具体的には、図1のように、第一のループの内部と第三のループの内部とが少なくとも一部重なり、第二のループの内部と第四のループの内部とが少なくとも一部重なる。このような構成により、送電コイル110により発生した磁束が第三のループの内部を貫通する方向と第四のループの内部を貫通する方向が逆方向となり、効率の良い電力伝送が実現される。
受電部102はプリントヘッド104と物理的に結合しているため、受電コイル120はレール150上をスライドするプリントヘッド104と連動して座標系170のX軸方向に移動可能である。即ち、受電コイル120は送電コイル110に対する位置がX軸方向において可変である。なお、受電コイル120は送電コイル110の8の字の横方向(X軸方向)に移動するため、上述した基準方向の視点におけるループの重なりの関係は、送電コイル110に対する受電コイル120の位置に応じて変化しない。即ち、受電コイル120の移動によって、受電コイル120のループの内部を貫通する磁束の向きは変化しない。そのため、受電コイル120に流れる電流の向きは、X軸方向における送電コイル110に対する受電コイル120の位置に関わらずに決まる。
もし仮に、受電コイル120が座標系のY軸方向に移動する場合、受電コイル120に流れる電流の向きが受電コイル120の位置によって変化する。例えば、Z軸方向から見て第三のループと第一のループが重なっている場合と、第四のループと第一のループが重なっている場合とで、受電コイル120に流れる電流の向きが異なる。そして、受電コイル120に流れる電流の向きが変化する境界付近に受電コイルが位置すると、コイル間の結合係数が大きく低下し、電力伝送の効率が低下する。一方、本実施形態に係るシステム100においては、受電コイル120はX軸方向に移動するため、このような送電コイル110と受電コイル120の位置関係に基づく電力伝送の効率低下を抑制できる。
なお、送電コイル110は受電コイル120よりもX軸方向における長さが長いものとする。具体的には、受電コイル120が移動可能なX軸方向において、第一のループと第二のループのうち長い方の外径の長さは、第三のループと第四のループのうち長い方の外形の長さよりも長い。また、受電コイル120のY軸方向の長さは、コイル間の結合係数を高くするという目的から、送電コイル110のY軸方向の長さと同等である。すなわち、導体部分182と導体部分184との間の距離と、導体部分192と導体部分194との間の距離とが同等である。さらに、導体部分182と導体部分181との間の距離と、導体部分192と導体部分191との間の距離とが同等であり、導体部分183と導体部分184との間の距離と、導体部分193と導体部分194との間の距離とが同等であれば、より望ましい。
受電器121は、電磁誘導方式や磁界共鳴方式の無線電力伝送に用いられる公知の受電回路を有し、送電器111による送電コイル110への電圧の印加に応じて受電コイル120に発生する電力をプリントヘッド104へ出力する。より具体的には、受電器121は、受電コイル120において交流磁界から生じた交流電圧を、整流回路を用いて直流電圧へ変換し、さらに電圧変換回路を用いて適切な電圧へ変換し、伝送路161を介してプリントヘッド104へ電力供給する。つまり、受電部102は、送電部101により生成された交流磁界に基づいて受電コイル120において受電し、受電器121において交流電圧を直流電圧へ変換し、電力を出力する。上記の構成により、プリントヘッド104への無線での電力供給が実現される。
制御部103は、伝送路130を介してプリントヘッド104と接続され、プリントヘッド104を制御する。また制御部103は、伝送路131を介して駆動部105と接続され、駆動部105を制御する。プリントヘッド104は、伝送路130を介して制御部103から伝送される制御信号に基づいてインク等を吐出し、紙などの媒体に文字や画像を記録する。駆動部105は、伝送路131を介して制御部103から伝送される制御信号に基づいて、プリントヘッド104をレール150に沿って移動させる。なお、プリントヘッド104と受電コイル120は連動するため、駆動部105はプリントヘッド104を移動させると共に、送電コイル110に対する受電コイル120の位置をX軸方向に移動させることになる。電源部106は、送電部101、制御部103及び駆動部105の各々に適した直流電圧を商用電源(不図示)などから生成し、伝送路160を介して電力供給する。
なお、本実施形態では、受電部102により受電された電力はプリントヘッド104によるインクの吐出制御のために使用され、プリントヘッド104の移動は電源部106から供給される電力を用いて駆動部105により行われるものとして説明する。ただしこれに限らず、プリントヘッド104自身がレール150に沿って移動するための機構を有し、受電部102により受電された電力がプリントヘッド104の移動のために使用されても良い。
また、伝送路130、伝送路131、伝送路160及び伝送路161は、有線の伝送路であってもよいし無線の伝送路であってもよい。なお、伝送路130を無線化すると、プリントヘッド104の移動が繰り返されることでケーブルが疲労することを回避できる。無線の伝送路は、Wi-Fiなどの標準規格に従った技術により実現してもよいし、独自の無線技術により実現してもよい。続いて、コイル間の位置と結合係数との関係について、図3を用いて説明する。図3(a)は、結合係数を算出するためのシミュレーションモデルにおける、送電コイル410と受電コイル420の斜視図である。8の字形状を成す送電コイル410上に、8の字形状を成す受電コイル420が配置されている。シミュレーションにおいて、送電コイル410のX軸方向の長さは1000mmとし、Y軸方向の幅は100mmとしている。また、受電コイル420のX軸方向の長さとY軸方向の長さはいずれも100mmとし、コイル間の距離は1mmとしている。
図3(b)は、図3(a)に示すモデルを用いたシミュレーションによる、コイル間の位置と結合係数との関係を示したグラフである。グラフの横軸は受電コイル420のX軸方向における位置(以降、受電コイル位置)を表しており、縦軸はコイル間の結合係数を表している。ここで受電コイル位置は、送電コイル410のX軸方向における端部と受電コイル420のX軸方向における端部との間の距離で表される。例えば、受電コイル位置が0mmのとき、送電コイル410の辺485と受電コイル420の辺495とがZ軸方向から見て重なりあう。
図3(b)から分かるように、受電コイル位置が0mm~900mmの全ての範囲で結合係数が0.25以上となっている。つまり、受電コイル420の可動範囲全体において、結合係数が極端に低くなる点(NULL点)が存在しない。このことから、本実施形態に係るシステム100によれば、互いの位置関係が可変である送電コイルと受電コイルの間で無線電力伝送を行う場合に、コイルの位置関係に基づく電力伝送の効率低下を抑制できると言える。
なお、図3(b)に示されるように受電コイル420の可動範囲内における広い範囲でコイル間の結合係数を略一定に保つことができる1つの理由として、第一のループと第二のループとの接続部(導体部分が交差する交点480)が送電コイル410のX軸方向における端部の近傍に位置していることがあげられる。
図4(a)は、第一のループと第二のループとの接続部(交点580)がX軸方向における中央部に位置する送電コイル510と、送電コイル510上の受電コイル520の斜視図である。また図4(b)は、図4(a)に示すモデルを用いたシミュレーションによる、コイル間の位置と結合係数との関係を示したグラフである。図4(b)からわかるように、受電コイル位置が450mmの場合、つまり受電コイル520が送電コイル510の中央部に位置する場合、その周辺に位置する場合(受電コイル位置が300mm又は600mmの場合)と比較して結合係数が高くなってしまう。
以上のことより、送電コイル510の交点580はX軸方向における端部の近傍に位置することが望ましい。例えば、送電コイル510のX軸方向における端部と交点580との間の距離が、受電コイル520のX軸方向における端部と交点590(第三ループと第四ループの接続部)との間の距離よりも短いことが望ましい。
なお、図1から図4の説明では、受電コイル120も送電コイル110と同様に2つのループを有する8の字形状を成すものとして説明したが、受電コイル120の形状はこれに限定されるものではない。例えば、図5(a)に示すように受電コイル320は1つのループを有する形状であってもよい。ただし図5(a)のように、Z軸方向の視点から見た場合に送電コイル110の第一のループと第二のループの双方と受電コイル320のループとが重なると、受電コイル320のループの内部を貫通する磁束が相殺され、無線電力伝送の効率が低下する。そのため、図5(b)のように、Z軸方向の視点から見た場合に第一のループの内部と第二のループの内部との何れか一方と受電コイル321のループの内部とが少なくとも一部重なるように、受電コイル321が配置されることが望ましい。そして、X軸方向における送電コイル110に対する受電コイル321の位置に関わらず、上記の重なりの関係が保たれることが望ましい。
また、本実施形態では送電コイル110が2つのループを有する8の字形状をなす場合について説明したが、ループの数は2個より多くてもよい。ただし、漏洩電磁波を抑制する観点から、ループの数は偶数個であることが望ましい。具体的には、送電コイル110に対する電圧の印加に応じて右回りの電流が流れるループの数と左回りの電流が流れるループの数が等しい場合に、より効果的に漏洩電磁波を抑制できる。
なお、以上の説明では、送電コイル110の開口面(ループの内部の面)と受電コイル120の開口面とが略平行に配置される場合を中心に説明した。ただし、送電コイル110の開口面に対する受電コイル120の開口面の傾きはこれに限らない。例えば、送電コイル110の開口面と受電コイル120の開口面とが略垂直に配置されてもよい。以下、この場合のシステム100について説明する。
図6(a)は、送電コイル110の開口面と受電コイル1020の開口面とが略垂直に配置される場合のシステム100のシステム構成を示す図であり、図6(b)は、送電コイル110及び受電コイル1020の斜視図である。図1に示したシステム100と図6に示したシステム100との差異は、受電部102の受電コイル1020のみであり、その他の構成要素は図1を用いて説明したものと同様である。
受電コイル1020は、送電コイル110の導体部分181と導体部分183との間の領域に配置され、座標系170におけるZX平面に平行な開口面を持つ。即ち、受電コイル1020はループを有し、X軸方向に垂直な基準方向(Z軸方向)の視点において、送電コイル110の第一のループと第二のループとの間に受電コイル1020のループが存在する。そして、X軸方向における送電コイル110に対する受電コイル1020の位置に関わらず、上記のようなループ間の位置関係は保たれる、なお、受電コイル1020のループは第一のループと第二のループが存在する平面と交差しないことが望ましい。このような配置及び形状の受電コイル1020を用いることで、漏洩電磁波を抑制する8の字形状を成す送電コイル110が生成する磁束が、効率よく受電コイル1020のループ内を貫通し、高効率な無線電力伝送を実現することができる。また、受電コイル1020を流れる電流の向きは受電コイル1020の移動によって変化しないため、受電コイル1020の位置に基づく電力伝送の効率低下が抑制される。
図7(a)は、上記のような構成を採用した場合の結合係数を算出するためのシミュレーションモデルにおける、送電コイル1110と受電コイル1120の斜視図である。XY平面と平行な開口面を有し8の字形状を成す送電コイル1110上に、ZX平面と平行な開口面を有する矩形の受電コイル1120が配置されている。シミュレーションにおいて、送電コイル1110のX軸方向の長さは1000mmとし、Y軸方向の幅は100mmとしている。また、受電コイル1120のX軸方向の長さとY軸方向の長さは何れも100mmとし、コイル間の距離は1mmとしている。
図7(b)は、図7(a)に示すモデルを用いたシミュレーションによる、コイル間の位置と結合係数との関係を示したグラフである。図11(b)から分かるように、受電コイル位置が0mm~900mmの全ての範囲で結合係数が0.07以上であり、受電コイル1120の可動範囲全体においてNULL点が存在しない。また、受電コイル位置が150mm~750mmの範囲では結合係数がほぼ一定であることがわかる。このことから、受電コイル1020を用いたシステム100において、コイルのQ値が高い場合でも、受電コイル1020の可動範囲内における広い範囲で高い伝送効率を維持することができると言える。
なお、受電コイル1020の位置は図6に示したものに限定されない。例えば、コイル間の結合係数は図6の場合と比べて低くなるが、図8に示すようにZ軸方向から見て送電コイル110の外側に受電コイル1020が位置してもよい。また、Z軸方向から見て第一のループの内部又は第二のループの内部に受電コイル1020が位置してもよい。
また、送電コイル110の開口面と受電コイル1020の開口面とが略垂直に配置されるシステム100において、受電コイル1020は2つのループを有する8の字形状であってもよい。図9(a)は、この場合のシステム100の構成を示す図であり、図9(b)は、送電コイル110及び受電コイル1420の斜視図を示す図である。なお、図6のシステム100との差異は、受電コイル1420の形状のみである。
受電コイル1420は、座標系170のX軸方向と略平行な線状の導体部分1481、導体部分1482、導体部分1483、及び導体部分1484を有し、ZX平面と平行な開口面を有する8の字形状を成す。つまり、受電コイル1420は、導体部分1481及び導体部分1482を含む第三のループと、導体部分1483及び導体部分1484を含む第四のループを有する。第三のループと第四のループには、送電コイル110に対する電圧の印加に応じて互いに逆向きの電流が流れる。
また、受電コイル1420は送電コイル110の導体部分181と導体部分183との間の領域に位置し、送電コイル110の第一のループ及び第二のループが存在する平面に対して、第三のループと第四のループとが互いに逆側に存在する。そして、X軸方向における送電コイル110に対する受電コイル1420の位置に関わらず、上記のようなループ間の位置関係は保たれる。即ち、送電コイル110により発生した磁束が第三ループをY軸の正方向に貫通するとき、Y軸の負方向の磁束が第四ループを貫通する。これにより、受電コイル1420は送電コイル110から効率的に受電することができる。
図10(a)は、上記のような構成を採用した場合の結合係数を算出するためのシミュレーションモデルにおける、送電コイル1510と受電コイル1520の斜視図である。XY平面と平行な開口面を有し8の字形状を成す送電コイル1510上に、ZX平面と平行な開口面を有する8の字形状を成す受電コイル1520が送電コイル1510と交差するよう配置されている。シミュレーションにおいて、送電コイル1510のX軸方向の長さは1000mmとし、Y軸方向の長さは100mmとしている。また、受電コイル1520のX軸方向の長さとY軸方向の長さは何れも100mmとしている。
図10(b)は、図10(a)に示すモデルを用いたシミュレーションによる、コイル間の位置と結合係数との関係を示したグラフである。なお本シミュレーションにおいて、受電コイル位置が0mmの場合は送電コイル1510と受電コイル1520が物理的に接触してしまう為、当該位置における結合係数の算出結果はグラフから除外している。図10(b)から分かるように、受電コイル位置が150mm~900mmの全ての範囲で結合係数が0.1以上であり、NULL点が存在しない。また、受電コイル位置が150mm~750mmの範囲では結合係数が略一定であることがわかる。
以上説明したように、本実施形態に係るシステム100は、送電コイルに流れる電流に応じて発生する磁界によって受電コイルへ無線で電力を伝送するための送電コイルを有する。また、送電コイルに対する位置が所定の動き方向(X軸方向)において可変である受電コイルを有する。そして送電コイルは、送電コイルに対する電圧の印加に応じて互いに逆向きの電流が流れる第1ループ及び第2ループを有する。また受電コイルには、送電コイルに対する電圧の印加に応じて、該動き方向における送電コイルに対する位置に関わらずに決まる向きの電流が流れる。これにより、位置関係が可変である送電コイルと受電コイルの間で無線電力伝送を行う場合に、漏洩電磁波を抑制しつつ電力伝送の効率低下を抑制することができる。
<第2実施形態>
第1実施形態では、8の字形状を成す送電コイル110を用いることで漏洩電磁波を低減するシステム100について説明した。ただし、漏洩電磁波を低減するための送電コイル110の形状としては、8の字形状に限らず、例えば送電コイル110に囲まれる領域の面積(開口面積)を小さくできるメアンダ(蛇行)形状であっても良い。本実施形態では、送電コイル110をメアンダ形状とした場合のシステム100について説明する。なお、本実施形態においてもシステム100をプリンタへ適用する場合を中心に説明するが、第1実施形態と同様、適用先はこれに限定されるものではない。
図11は、本実施形態に係るシステム100の構成を示す図である。図1との差異は送電部601の送電コイル610及び受電部602の受電コイル620の形状であり、それ以外の構成要素は図1を用いて説明したものと同様である。以下では、第1実施形態との差異を中心に説明する。
送電コイル610は、座標系170のX軸方向に略平行な線状の導体部分681、導体部分682、導体部分683、及び導体部分684を有する。ただし、導体部分681-684はX軸方向と平行なものに限定されない。送電コイル610は、受電コイル620のX軸方向における移動に伴うコイル間の結合係数の変化が抑えられるような形状であればよい。
ここで、導体部分681と導体部分682は隣り合うように配置され、送電コイル610に対する電圧の印加に応じて流れる電流の方向が互いに逆向きである。例えば、導体部分681にX軸の正方向の電流が流れるとき、導体部分682にはX軸の負方向の電流が流れる。同様に、導体部分683と導体部分684は隣り合うように配置され、流れる電流の方向が互いに逆向きである。一方、導体部分681と導体部分683には同じ向きの電流が流れ、導体部分682と導体部分684には同じ向きの電流が流れる。即ち、受電コイル620へ無線で電力を伝送するための送電コイル610は、X軸方向と略平行な導体部分を4つ有するメアンダ形状を成す。なお、メアンダ形状の送電コイル610が有するX軸方向に略平行な導体部分は4つより多くてもよい。
受電コイル620は、第1実施形態と同様に、送電コイル610に対する位置が座標系170のX軸方向において可変である。また、受電コイル620は、X軸方向に略平行な線状の導体部分691、導体部分692、導体部分693、及び導体部分694を有する。ただし、導体部分691-694はX軸方向と平行なものに限定されない。受電コイル620はX軸方向における移動に伴うコイル間の結合係数の変化が抑えられるような形状であればよい。ここで、導体部分691と導体部分692は隣り合うよう配置され、送電コイル610に対する電圧の印加に応じて流れる電流の方向が互いに逆向きである。同様に、導体部分693と導体部分694は隣り合うよう配置され、送電コイル610に対する電圧の印加に応じて流れる電流の方向が互いに逆向きである。一方、導体部分691と導体部分693には同じ向きの電流が流れ、導体部分692と導体部分694には同じ向きの電流が流れる。即ち、受電コイル620は、送電コイル610と同様に、X軸方向と略平行な導体部分を4つ有するメアンダ形状を成す。なお、メアンダ形状の受電コイル620が有するX軸方向に略平行な導体部分は4つより多くてもよい。
送電コイル610及び受電コイル620が座標系170のX軸方向に平行な基準平面(XY平面)に投影された場合、即ちX軸方向に垂直な基準方向(Z軸方向)の視点から見た場合、送電コイル110の内部と受電コイルの内部は少なくとも一部が重なる。例えば、受電コイル620が有するX軸方向と略平行な導体部分691-694がそれぞれ、送電コイル610が有するX軸方向と略平行な導体部分681-684に重なる。このような構成により、送電コイル610と受電コイル620との結合係数が大きくなり、高効率な無線電力伝送が実現できる。
以上のように、送電コイル610をメアンダ形状とすることで、上述したように送電コイル610の開口面積を小さくすることができ、結果、漏洩電磁波を低減することができる。また、NULL点の発生も抑止することができる。図12(a)は、本実施形態におけるコイル間の結合係数を算出するためのシミュレーションモデルにおける、送電コイル710と受電コイル720の斜視図である。メアンダ形状を成す送電コイル710上に、メアンダ形状を成す受電コイル720が配置されている。シミュレーションにおいて、送電コイル710のX軸方向の長さは1000mmとし、Y軸方向の幅は100mmとしている。また、受電コイル720のX軸方向の長さとY軸方向の長さは何れも100mmとし、コイル間の距離は1mmとしている。
図12(b)は、図12(a)に示すモデルを用いたシミュレーションによる、コイル間の位置と結合係数との関係を示したグラフである。グラフの横軸は受電コイル720のX軸方向における位置(受電コイル位置)を示しており、縦軸はコイル間の結合係数を示している。ここで受電コイル位置は、送電コイル610のX軸方向における端部と受電コイル620のX軸方向における端部との間の距離で表される。例えば、受電コイル位置が0mmのとき、送電コイル710の辺785と受電コイル720の辺795とがZ軸方向から見て重なりあう。
図12(b)から分かるように、受電コイル位置が0mm~900mmの全ての範囲で結合係数が0.2以上となっている。つまり、受電コイル620の可動範囲全体においてNULL点が存在しない。また、受電コイル位置が150mm~750mmの範囲では結合係数がほぼ一定であることがわかる。このことから、本実施形態に係るシステム100によれば、送電コイルと受電コイルの位置関係に基づく電力伝送の効率低下を抑制できると言える。
なお、図11の説明では、結合係数を大きくするために、受電コイル620も送電コイル610と同様にメアンダ形状を成すものとして説明した。ただし、受電コイル620の形状はこれに限定されるものではない。例えば、図13(a)に示すように受電コイル820は矩形であってもよい。なお、図13(a)のように、Z軸方向の視点から見た場合に送電コイル610の開口面の外側の領域が受電コイル820の開口面内に含まれてもよいが、図13(b)のように含まれない方がより効率の高い無線電力伝送を実現できる。
以上説明したように、本実施形態に係るシステム100は、送電コイルに対する位置が所定の動き方向(X軸方向)において可変である受電コイルを有する。また、送電コイルに流れる電流に応じて発生する磁界によって受電コイルへ無線で電力を伝送するための送電コイルを有する。そして送電コイルは、該動き方向と略平行な導体部分を4以上有するメアンダ形状を成す。これにより、位置関係が可変である送電コイルと受電コイルの間で無線電力伝送を行う場合に、漏洩電磁波を抑制しつつ電力伝送の効率低下を抑制することができる。
なお、上記の各実施形態に係る受電コイルは、磁性体コアを有していても良い。即ち、システム100は、受電コイルのループの内部に磁性体を有していてもよい。受電コイルが磁性体コアを有することで、送電コイルと受電コイルの結合係数を高めることができる。図14(a)は、上記のような構成を採用した場合のコイル間の結合係数を算出するためのシミュレーションモデルにおける、送電コイル1310、受電コイル1320及び磁性体コア1330の斜視図である。送電コイル1310及び受電コイル1320の形状は、図7(a)で説明した送電コイル1110及び受電コイル1120と同一であり、磁性体コア1330の比透磁率は1000としている。
図14(b)は、図14(a)に示すモデルを用いたシミュレーションによる、コイル間の位置と結合係数との関係を示したグラフである。図14(b)から分かるように、受電コイル位置が0mm~900mmの全ての範囲で結合係数が0.1以上となっており、磁性体コア1330を有さない受電コイル1120を用いた場合の図7(b)の結果と比べて、結合係数が増加していることがわかる。つまり、磁性体コア1330を有する受電コイル1320を用いることでより高効率な無線電力伝送を実現することができる。なお、図7(a)に示した受電コイル1120に限らず、上記の各実施形態で説明した何れの受電コイルを用いる場合でも、受電コイルの内部に磁性体コア1330を配置することで同様に無線電力伝送の効率を向上できる。
また、上記の各実施形態においては、送電コイルが1つである場合を中心に説明した。しかしながら、送電コイルの数は1つに限定されず、例えば受電コイルの移動方向に複数の送電コイルを並べて配置してもよい。高効率な無線電力伝送を行うためには、送電コイルに印加される交流電圧の周波数よりも送電コイルの自己共振周波数の方が高いことが望ましく、送電コイルの長さに制約が生じる。そこで、複数の送電コイルを並べてその上で受電コイルを移動させることで、上記の制約を満たしつつ受電コイルが受電可能な範囲を広げることができる。
以下、この場合の無線電力伝送システムについて説明する。図15は、複数の送電コイルを有する無線電力伝送システム1000(以降、システム1000)の構成を示す図である。ここでは工場内において自動で移動する車両である自動搬送車への電力伝送にシステム1000を適用する場合について説明するが、システム1000の適用先はこれに限定されず、例えばプリンタにシステム1000を適用してもよい。
システム1000は、無線による受電を行い動作する自動搬送車900と、床面に配置される送電部901a、送電部901b、送電部901c、電源部907、及びライン908を有する。自動搬送車900は、受電部902、制御部903、車輪904a、車輪904b、車輪904c、車輪904d、駆動部905、及びラインセンサ906を有する。受電部902は、受電コイル920と受電器921を含む。また、送電部901aは、送電コイル910aと送電器911aを含む。同様に、送電部901bは送電コイル910bと送電器911bを含み、送電部901cは送電コイル910cと送電器911cを含む。以降、送電部901a-901cを区別しない場合は送電部901と記載する。同様に、送電コイル910a-910cを区別しない場合は送電コイル910と記載し、送電器911a-911cを区別しない場合は送電器911と記載し、車輪904a-904dを区別しない場合は車輪904と記載する。なお、座標系990のXY平面は送電部901が配置される床面と平行であり、図15はZ軸方向の視点からシステム1000を見た場合の図である。
複数の送電部901は、図15のように座標系990のX軸方向に並べて配置される。送電部901は、図1で説明した送電部101と同様に、送電器911において直流電圧を交流電圧へ変換し、送電コイル910において交流磁界を生成する。電源部907は、送電部901に適した直流電圧を商用電源(不図示)などから生成し、伝送路970を介して電力供給する。なお、無線電力伝送の効率を高めるためには、複数の送電コイル910が互いに同じ向きの交流磁界を生成することが望ましい。また、システム1000が受電コイル920の位置を検知する機能を有し、受電コイル920に近い送電部901のみが送電動作を実施しても良い。
受電部902は、図1で説明した受電部102と同様に、送電部901により生成された交流磁界に基づいて受電コイル920により受電する。そして受電部902は、受電器921において交流電圧を直流電圧へ変換し、伝送路971を介して電力供給する。即ち受電器921は、送電コイル910に対する電圧の印加に応じて受電コイル920に発生する電力を、自動搬送車900を駆動させるための電力として駆動部905へ出力する。また、受電器921は制御部903及びラインセンサ906にも電力を出力する。
ラインセンサ906は、床面上にX軸方向に配置されるライン908をセンシングし、取得したセンシング情報を、伝送路930を介して制御部903へ出力する。制御部903は、ラインセンサ906が取得したセンシング情報を基に、自動搬送車900がライン908に沿って移動するよう、伝送路931を介して駆動部905へ制御信号を出力する。駆動部905は、制御部903から伝送される制御信号に基づいて、車輪904を駆動させる。このような構成により、受電コイル920は自動搬送車900と連動してX軸方向に移動可能である。
このようにシステム1000においては、送電コイル910が座標系990のX軸方向に複数並べられ、Z軸方向の視点から見た場合に送電コイル910の開口面と受電コイル920の開口面が少なくとも一部重なるように受電コイル920がX軸方向に移動する。上記の構成により、単一の送電コイル910を用いる場合と比べて、受電コイル920が受電可能な範囲を拡張することができる。その結果、自動搬送車900の移動可能範囲が広がる。
なお図15において、送電コイル910の形状は図1の送電コイル110と同様であり、受電コイル920の形状は図1の受電コイル120と同様である。ただしコイルの形状はこれに限定されず、例えば上記の各実施形態で説明した何れの送電コイル及び受電コイルをシステム1000の送電コイル910及び受電コイル920として用いてもよい。
なお、上記の各実施形態においては、送電コイルと受電コイルの巻き数が何れも1turn(1巻き)である場合のシミュレーション結果を基に説明を行った。ただし、送電コイル及び受電コイルの巻き数は1turnに限定されるものではない。また、送電コイルと受電コイルの巻き数が異なっていてもよい。このような場合においても、漏洩電磁波を抑制しつつ電力伝送の効率低下を抑制することができる。
また、上記の各実施形態においては、送電コイルと受電コイルが何れも直線状の導体部分から構成される場合を中心に説明を行ったが、送電コイルと受電コイルの形状はこれに限らない。例えば、送電コイル及び受電コイルが有するループの少なくとも何れかが円形や楕円形であってもよい。
また、上記の各実施形態においては、X軸方向において送電コイル上に受電コイルが位置する範囲内において、受電コイルが移動する場合のシミュレーション結果を基に説明を行った。ただし、X軸方向において送電コイル上から外れた位置まで受電コイルが移動してもよい。例えば、図3(b)における受電コイル位置が0mmより小さくなってもよいし、900mmより大きくなってもよい。
また、上記の各実施形態においては、送電コイルが固定されており受電コイルが移動する場合を中心に説明した。ただしこれに限らず、送電コイルと受電コイルとの位置関係が所定方向において可変であれば、本実施形態を適用できる。例えば、受電コイルが固定されており送電コイルが移動可能であってもよいし、送電コイルと受電コイルの両方が移動可能であってもよい。
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC等)によっても実現可能である。また、そのプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録して提供してもよい。