以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る遠心アトマイザの概略図である。まず、この図1を参照して、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Aの構成について説明する。
図1に示すように、遠心アトマイザ1Aは、チャンバ2と、溶融金属供給部としての溶解炉3およびノズル3aと、気体導入部としての不活性ガス導入部4と、気体導出部としての排気部5と、回転ディスク装置10Aとを主として備えている。
チャンバ2は、円筒状の周壁部2aと、周壁部2aの上端を閉塞する天板部2bと、周壁部2aの下端を閉塞する底板部2cとを有する真空容器からなる。本実施の形態においては、チャンバ2は、1槽の処理槽にて構成されている。底板部2cの周縁部は、漏斗状の形状を有しており、その中央部には、ブロック状の台座2dが設置されている。台座2dは、回転ディスク装置10Aを支持するための部位であり、ノズル3aの下方に配置されている。また、台座2dに隣接する部分の底板部2cには、遠心アトマイザ1Aにて製造された金属粉末を回収するための回収部2eが設けられている。
溶解炉3は、原料としての金属塊を溶融させることで溶融金属100を生成するものであり、当該溶解炉3の下方に設けられたノズル3aを介して、生成した溶融金属100をチャンバ2の内部に導入する。ノズル3aの下端は、チャンバ2の内部に配置されており、ノズル3aからは、溶融金属100が鉛直下方に向けて連続的に落下させられる。
台座2d上に設置された回転ディスク装置10Aは、その上部にディスク80を有している。ディスク80は、上述したノズル3aの下方に配置されており、これによりノズル3aから落下した溶融金属100は、ディスク80によって受け止められる。ここで、ディスク80は、回転ディスク装置10Aに設けられた後述する駆動部60(図2参照)によって高速に回転駆動される。
チャンバ2には、不活性ガス導入部4が接続されている。不活性ガス導入部4は、たとえばアルゴンやヘリウム等といった不活性ガスをチャンバ2の内部に導入するためのものであり、不活性ガス供給源4aと、切替弁4bとを有している。不活性ガス供給源4aとチャンバ2とは、配管によって接続されており、切替弁4bは、当該配管上に設けられている。切替弁4bは、たとえば流量調整弁によって構成されており、開閉操作されることによってチャンバ2の内部への不活性ガスの導入の有無が切り替えられるとともに、その開度が調節されることで導入される不活性ガスの流量が調整される。
また、チャンバ2には、排気部5が接続されている。排気部5は、チャンバ2の内部の気体を外部に導出するためのものであり、真空ポンプ5aと、切替弁5bとを有している。ここで、真空ポンプ5aは、大気圧環境下から低真空状態または中真空状態(おおよそ10-1[Pa]以上104[Pa]程度)を作り出すことができるものである。真空ポンプ5aとチャンバ2とは、配管によって接続されており、切替弁5bは、当該配管上に設けられている。切替弁5bは、たとえば流量調整弁によって構成されており、開閉操作されることによってチャンバ2の内部からの気体の導出の有無が切り替えられるとともに、その開度が調節されることで導出される気体の流量が調整される。なお、本実施の形態においては、排気部5は、台座2dに設けられた排気通路2d1を介してチャンバ2の内部の空間に接続されている。
これら気体導入部としての不活性ガス導入部4と気体導出部としての排気部5とは、チャンバ2の内部における気体の流動を調節する気体流動調節装置に該当する。すなわち、後述する金属粉末の製造時において、当該気体流動調節装置によってチャンバ2の内部へ導入される不活性ガスの量とチャンバ2の内部から導出される気体の量とが調節されることにより、チャンバ2の内圧Pが、金属粉末の製造に適した減圧雰囲気に維持できることになる。ここで、本実施の形態における遠心アトマイザ1Aにおいては、金属粉末の製造時におけるチャンバ2の内圧Pが、好適には低真空状態または中真空状態(おおよそ10-1[Pa]以上104[Pa]程度)に維持される。
次に、図1を参照して、本実施の形態に係る金属粉末の製造方法について説明する。本実施の形態に係る金属粉末の製造方法は、上述した図1に示す遠心アトマイザ1Aを用いることで行なわれる。
図1を参照して、金属粉末を製造するに際しては、まず、排気部5によってチャンバ2の内部の気体の導出(すなわち真空引き)が行なわれ、その後、不活性ガス導入部4を用いてチャンバ2の内部に不活性ガスが導入される。これにより、チャンバ2の内部の空間が不活性ガス雰囲気に置換されるとともに、チャンバ2の内圧Pが所定の減圧状態に維持されることになる。なお、この後に実施される金属粉末の製造時においては、チャンバ2に対する不活性ガスの導入および導出が維持された状態とされてもよいし、チャンバ2の内部の空間が封じ切りの状態(すなわち、切替弁4b,5bがいずれも閉状態とされた状態)とされてもよい。
次に、回転ディスク装置10Aのディスク80が高速で回転された状態としつつ、溶解炉3にて生成された溶融金属100がノズル3aを介してディスク80の上面に向けて落下させられる。
これにより、ノズル3aから落下した溶融金属100は、高速に回転した状態にあるディスク80によって受け止められることになり、受け止められた溶融金属100は、遠心力によってディスク80上において薄く引き伸ばされる。薄く引き伸ばされることでディスク80の端部に達した溶融金属100には、遠心力によってさらに剪断が生じることになり、これによってディスク80上の溶融金属100から離脱することで微細な溶融金属粒子101としてディスク80の端部から飛散する。
その際、溶融金属粒子101は、ディスク80の端部上の位置からディスク80の径方向外側(すなわち図中に示す矢印AR1方向)に向けて飛散することになり、これによってチャンバ2の内部の空間をチャンバ2の周壁部2aに向けて飛行することになる。その際、溶融金属粒子101が有する熱は、放射と気体伝熱とによって溶融金属粒子101から奪われ、これによって溶融金属粒子101は、その飛行中において凝固する。
溶融金属粒子101が凝固することで製造された金属粉末は、その後、チャンバ2の周壁部2aに衝突し、チャンバ2の底板部2cの傾斜形状の周縁部を伝って図中に示す矢印AR2方向に向けて転がり落ち、チャンバ2の下端中央部近傍に設けられた回収部2eに集められる。集められた金属粉末は、当該回収部2eを介してチャンバ2の外部へと搬出される。
なお、上述したノズル3aを介した溶融金属100のディスク80に向けての落下は、基本的に停止することなく所定時間にわたって連続して行なわれ、この溶融金属100の落下が継続されて実施される限りにおいて、連続的に金属粉末が製造されることになる。
ここで、本実施の形態に係る金属粉末の製造方法においては、微細でより高い真球度の金属粉末を得ることを目的に、溶融金属粒子101の飛行中において、溶融金属粒子101の形状がより真球に近い形状に維持される製造条件に設定される。以下、その製造条件について、製造する金属粉末がチタン粉末である場合を例示して詳説する。
遠心アトマイザにおいて、飛行する溶融金属粒子には、所定の粒径分布が発生することになるが、その中央値d[m]は、ディスクの回転速度N[rps]、ディスクの直径D[m]、溶融金属粒子の密度ρd[kg/m3]、溶融金属粒子の表面張力σ[N/m]を用いて、おおよそ以下の式(1)で求められる。なお、溶融金属粒子がチタンである場合には、ρdは、4110[kg/m3]であり、σは、1.55[N/m]である。
ここで、ディスクを回転駆動する駆動部として、機械式駆動装置(すなわち、駆動軸が玉軸受によって軸支された駆動装置)を想定した場合、ディスクからの熱の流入によっても破損なくディスクを回転駆動する必要があることを考慮すれば、その回転速度Nは、おおよそ1000[rps]以下に設定することが必要になるため、十分に微細な金属粉末(ここでは、直径が0.05[mm]以下)を当該1000[rps]以下の回転速度で製造するためには、上記式(1)より、ディスクの直径Dをおおよそ90[mm]以上とすれば足りることになる。
一方、溶融金属粒子は、その飛行中において雰囲気からの抗力を受け、その形状に真球からの変形が発生する(換言すれば、完全な真空中を溶融金属粒子が飛行する場合には、雰囲気からの抗力を受けないため、その表面張力によって完全な真球となる)。この変形は、無次元数であるウェーバー数Weおよびオーネゾルゲ数Ohに依存する。
ウェーバー数Weは、雰囲気の密度をρc[kg/m3]、溶融金属粒子の速度u[m/s]、溶融金属粒子の直径d[m]、溶融金属粒子の表面張力σ[N/m]を用いて、以下の式(2)で求められる。なお、ウェーバー数Weは、慣性力と表面張力とを関連付ける無次元数である。
また、オーネゾルゲ数Ohは、溶融金属粒子の粘性係数μd[Pa・s]、溶融金属粒子の密度ρd[kg/m3]、溶融金属粒子の直径d[m]、溶融金属粒子の表面張力σ[N/m]を用いて、以下の式(3)で求められる。なお、オーネゾルゲ数Ohは、粘性力と慣性力および表面張力とを関連付ける無次元数である。
ここで、一般に、オーネゾルゲ数Ohが0.1以下である場合には、溶融金属粒子の変形は、主としてウェーバー数Weに依存することが知られている(たとえば、"Drop deformation and breakup due to shock wave and steady disturbances", L.P.Hsiang and G.M.Feath, International Journal of Multiphase Flow, vol.21, No.4, 1995, pp.545-560参照)。
上述したウェーバー数Weおよびオーネゾルゲ数Ohを決定する因子のうち、溶融金属粒子の表面張力σ、溶融金属粒子の粘性係数μd、および、溶融金属粒子の密度ρdは、いずれも一意に決まるものであるため、金属粉末の製造に際して遠心アトマイザにおいて直接的に調節が可能となる因子は、これらを除いた雰囲気の密度ρcと、溶融金属粒子の速度uと、溶融金属粒子の直径dとである。これら因子は、いずれも主としてチャンバの内圧P、ディスクの直径Dおよび回転速度Nによって決まる。
そのため、上述したように、遠心アトマイザにおいて十分に微細なチタン粉末を製造するためには、たとえば、ディスクの直径を90[mm]とするとともに、ディスクの回転速度を1000[rps]とすることが必要であるため、このような条件のもとに、仮にチャンバの内圧Pが大気圧以下とされたアルゴン雰囲気にて充填されている場合を仮定すると、オーネゾルゲ数Ohは、当該内圧Pの値に依らず、0.1以下の値をとることになる。したがって、溶融金属粒子の変形の程度は、実質的にウェーバー数Weによって決まることになる。
ここで、溶融金属粒子の変形率を10%以下に抑制するためには、ウェーバー数Weがおおよそ1以下であることが必要であり、溶融金属粒子の変形率を5%以下に抑制するためには、ウェーバー数Weがおおよそ0.6以下であることが必要である(上記"Drop deformation and breakup due to shock wave and steady disturbances"参照)。そのため、たとえば十分に微細でかつ高い真球度を有するチタン粉末を製造するためには、ウェーバー数Weを1以下、より好ましくは0.6以下とすればよい。
以上に基づき、本実施の形態における金属粉末の製造方法においては、チャンバ2の内部の雰囲気の密度をρc、溶融金属粒子101の速度をu、溶融金属粒子101の直径をd、溶融金属粒子101の表面張力をσとした場合に、上記式(2)で定義されるウェーバー数Weが、溶融金属粒子101が飛散した時点から溶融金属粒子101が凝固する時点までに亘って、We≦1の条件を満たすように設定される。
このような製造条件を満たして金属粉末を製造することにより、溶融金属粒子101の飛行中において、溶融金属粒子101の形状がより真球に近い形状に維持されることになるため、結果として製造される金属粉末の真球度が十分に高いものとなる。
一方、量産に十分に適した長時間にわたって遠心アトマイザを連続的に運転するためには、溶融金属と直接接触するディスクを介して溶融金属の熱が入熱される駆動部が、その入熱によっても破損しないことが必要であり、換言すればディスクと駆動部との間における放熱を効率的に行なうことが必須となる。この点、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Aにおいては、以下の構成を具備することにより、金属粉末の製造が量産に十分に適した長時間にわたって連続的に行なえるように構成されている。
図2は、図1に示す遠心アトマイザに具備された回転ディスク装置の模式断面図であり、図3は、図2中に示す領域IIIの拡大断面図である。以下、この図2および図3を参照して、本実施の形態に係る回転ディスク装置10Aの構成について詳説する。
図2に示すように、回転ディスク装置10Aは、ベース20と、支持枠30と、ステータ40と、ロータ50と、駆動部60と、ディスク80とを主として備えている。回転ディスク装置10Aの外殻は、ベース20、支持枠30およびステータ40によって構成されており、これらによって囲まれた内部空間に、ロータ50および駆動部60等が収容されている。
ベース20は、略円盤状の形状を有しており、その上面に支持枠30および駆動部60が載置されている。より詳細には、ベース20の上面の中央部には凹部が設けられており、当該凹部にその一部が収容されるように駆動部60が配置されている。また、ベース20の上面の周縁部には、駆動部60を取り囲むように支持枠30が配置されている。
駆動部60は、収納部61と、回転軸62と、玉軸受63と、モータ65とを含んでおり、ロータ50を高速に回転させるものである。回転軸62は、その下端側の部分が収納部61の内部に位置しており、その上端側の部分が当該収納部61の外部に位置している。回転軸62の収納部61の内部に位置する部分には、玉軸受63およびモータ65が組付けられており、回転軸62の収納部61の外部に位置する部分には、ロータ50が固定されている。
モータ65は、ロータ50が固定された回転軸62を回転駆動するものであり、玉軸受63は、回転軸62を回転可能に支承するものである。このうちモータ65が駆動することにより、回転軸62が回転することでロータ50が回転軸62の軸線AX周りに高速で回転することになる。なお、回転軸62を回転可能に支承する手段としては、上述した玉軸受63に代えて磁気軸受を用いてもよい。
ロータ50は、その下端の中央部が駆動部60の回転軸62に固定されている。ロータ50は、ステータ40によって囲繞されており、回転軸62の軸線AXと平行な方向において多段に配置された複数のロータ側フィン部52Aを有している。複数のロータ側フィン部52Aは、ロータ50の軸部から径方向外側に向けて突出して位置している。また、ロータ50の軸部の上端位置には、ディスク取付座50aが設けられている。当該ディスク取付座50aには、アダプタ53を介してディスク80が良好な伝熱状態(たとえば部材同士が密着した状態等)で固定されている。
ディスク80は、高い耐熱衝撃性を有する円盤状の部材にて構成されており、その上面が平面状に構成されるとともに、その下面に軸部を有している。当該軸部は、アダプタ53によって保持される部分である。ここで、ディスク80の材質としては、たとえば窒化ホウ素、窒化珪素、チタン酸アルミニウム、サイアロン、カーボン等が挙げられる。
ステータ40は、略円筒状の形状を有しており、支持枠30上に配置されることでロータ50を囲繞するように位置している。ステータ40は、回転軸62の軸線AXと平行な方向において多段に配置された複数のステータ側フィン部42Aを有している。複数のステータ側フィン部42Aは、ステータ40の筒状部の内周面からそれぞれ径方向内側に向けて突出して位置している。
ここで、ロータ50に設けられた複数のロータ側フィン部52Aと、ステータ40に設けられた複数のステータ側フィン部42Aとは、互いに隙間を介して回転軸62の軸線AXと平行な方向において対向するように交互に配置されている。これにより、複数のロータ側フィン部52Aと複数のステータ側フィン部42Aとは、互いに所定のクリアランスをもって配置されることになり、ロータ50とステータ40とが、互いに噛み合う櫛歯構造を有することになる。
ステータ40の外周面上には、液冷式冷却部としての冷却管43およびこれを覆うジャケット44が組付けられている。当該液冷式冷却部は、冷却管43中に冷却液を通流させることにより、当該冷却液によってステータ40が有する熱を外部に向けて放熱するためのものである。
ここで、図3に示すように、本実施の形態における回転ディスク装置10Aにおいては、ロータ50に設けられた複数のロータ側フィン部52Aが、金属製の基材部52aと、当該基材部52aの表面を覆うように形成された被覆層52bとを有しているとともに、ステータ40に設けられた複数のステータ側フィン部42Aが、金属製の基材部42aと、当該基材部42aの表面を覆うように形成された被覆層42bとを有している。
これにより、本実施の形態における回転ディスク装置10Aにおいては、複数のロータ側フィン部52Aおよび複数のステータ側フィン部42Aが対向する部分において、これら複数のロータ側フィン部52Aおよび複数のステータ側フィン部42Aの表面に設けられた被覆層42b,52b同士が隙間を介して対面して位置することになる。これら被覆層42b,52bは、金属製の基材部42a,52aに比較して高い放射率を有しており、ロータ50からステータ40への放射による熱の移動を促進させるものである。
一般に、熱の移動は、熱伝導と、対流熱伝達と、放射とに分類される。熱伝導および対流熱伝達は、媒質の分子や自由電子の衝突による運動量変換によるエネルギー伝達であるのに対し、放射は、物質表面から放出される電磁波によるエネルギー伝達である点において熱伝導および対流熱伝達と区別される。
たとえば、上述した基材部42a,52aをアルミニウム合金製とし、上述した被覆層42b,52bをアルマイト層(たとえば黒色アルマイト層等)とした場合には、被覆層42b,52bの放射率を基材部42a,52aよりも高い放射率とすることができる。その場合、たとえば、アルミニウム合金表面(切削面)の温度が120[℃]である場合の当該表面における放射率(全放射率)は、概ね0.1以下であるのに対し、黒色アルマイト層表面の温度が120[℃]である場合の当該表面の放射率(全放射率)は、概ね0.7以上となる。そのため、ロータ側フィン部52Aおよびステータ側フィン部42Aを金属素地のままとするよりも、より放射率の高い材料にて被覆することにより、放射による放熱性能を大幅に高めることができる。
この種の放射率の高い被覆層42b,52bを基材部42a,52a上に形成する方法としては、種々の方法が考えられる。たとえば、基材部42a,52aをアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成した場合には、アルマイト処理を適用することが可能である。ここで、アルマイト処理とは、陽極酸化処理と呼ばれる表面処理の一種で、表面処理を行なう部材(ここでは、基材部42a,52a)を陽極とし、鉛等を陰極として電解質溶液中に浸漬して直流電解する処理のことである。当該処理により、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された基材部42a,52aの表面には、アルミナ(Al2O3)からなる酸化被膜が形成されることになり、当該酸化被膜が上述した被覆層42b,52bとなる。なお、アルミナからなる酸化被膜に含まれる多孔質層中にたとえばニッケル等を電気化学的に析出させることにより、被覆層を黒色とすることができ、このアルマイト処理のことを特に黒色アルマイト処理と言う。
また、この他にも、基材部42a,52aの表面にセラミックス層(たとえばSiO2系のセラミックコーティング層)を形成することにより、当該セラミック層にて上述した被覆層42b,52bを構成することも可能である。また、基材部42a,52aの表面に黒色の無電解ニッケルめっき層を形成することにより、当該無電解ニッケルめっき層にて上述した被覆層42b,52bを構成することも可能である。さらには、基材部42a,52aの表面にセラミック複合めっき層を形成したり、カーボンやニッケルクロム鋼等の被膜を形成したりすることにより、これらの層または被膜にて上述した被覆層42b,52bを構成することも可能である。
以上において説明した回転ディスク装置10Aとすることにより、ディスク80に溶融金属100が直接接触することでディスク80に移動した熱が、熱伝導によってロータ50のロータ側フィン部52Aに伝熱され、その後、放射によってロータ側フィン部52Aからステータ側フィン部42Aに伝熱され、さらにその後、当該ステータ側フィン部42Aに伝熱された熱が、ステータ40に組付けられた冷却管43中を通流する冷却液に伝熱されて外部に放熱されることになる。
このように、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Aおよびこれに具備された回転ディスク装置10Aとすることにより、溶融金属100からディスク80に移動した熱をロータ50およびステータ40を介して外部に効率的に放熱することが可能になるとともに、当該熱が駆動部60に伝熱されてしまうことが抑制可能になる。そのため、駆動部60が入熱によって破損してしまうことが防止できることになり、量産に十分に適した長時間にわたって遠心アトマイザ1Aを連続的に運転することが可能になる。
ここで、本実施の形態においては、回転軸62の軸線と平行な方向においてロータ側フィン部52Aおよびステータ側フィン部42Aが交互に多段に積層されており、上述した被覆層42b,52bは、これら複数のロータ側フィン部52Aおよびステータ側フィン部42Aの表面の全域に設けられている。
これにより、ロータ側フィン部52Aとステータ側フィン部42Aとが対向する領域の面積を大幅に増加させることができるため、ロータ側フィン部52Aからステータ側フィン部42Aに放射により伝熱される熱量を大幅に増加させることが可能になり、より効率的にロータ側フィン部52Aが有する熱をステータ側フィン部42Aに伝熱することができる。そのため、このように構成すれば、ロータ50に取付けられたディスク80からロータ50を介して駆動部60に伝わる熱をより効果的に減少させることができる。
以上において説明したように、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Aおよびこれに具備された回転ディスク装置10Aを用いることにより、生産性よく金属粉末を製造することが可能になる。また、上述した本実施の形態に係る金属粉末の製造方法を採用することにより、微細でかつ高い真球度を有する金属粉末を生産性よく製造することが可能になる。
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係る遠心アトマイザの概略図である。以下、この図4を参照して、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Bについて説明する。
図4に示すように、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Bは、上述した実施の形態1に係る遠心アトマイザ1Aと比較した場合に、不活性ガス導入部4および排気部5を含む気体流動調節装置の構成が異なっているとともに、気体浄化装置をさらに備えている点において、その構成が相違している。
具体的には、遠心アトマイザ1Bにおいては、不活性ガス導入部4がチャンバ2に接続されているとともに、排気部5がチャンバ2に接続されており、さらにこれら排気部5と不活性ガス導入部4とが、チャンバ2の外部に設けられた還流路6によって接続されている。これにより、遠心アトマイザ1Bにおいては、チャンバ2、排気部5、還流路6、不活性ガス導入部4からなる循環経路が構築されることになる。
不活性ガス導入部4は、還流路6を経由することで還流された気体をチャンバ2の内部に導入するためのものであり、上述した切替弁4bを有している。排気部5は、チャンバ2の内部の気体を還流路6に向けて導出するためのものであり、上述した真空ポンプ5aおよび切替弁5bを有している。真空ポンプ5aは、気体循環に用いられるものであり、たとえばルーツ圧縮機等にて構成される。
これにより、金属粉末の製造時において、真空ポンプ5aによってチャンバ2から排気部5へと導出された気体は、還流路6を経由して不活性ガス導入部4へと還流されることになり、再び不活性ガス導入部4を介してチャンバ2の内部へ導入されることになる。
不活性ガス導入部4には、不活性ガス供給部7が接続されている。不活性ガス供給部7は、たとえばアルゴンやヘリウム等といった新鮮な不活性ガスを循環経路に供給するためのものであり、気体供給源としての不活性ガス供給源7aと、切替弁7bとを有している。不活性ガス供給源7aと不活性ガス導入部4とは、配管によって接続されており、切替弁7bは、当該配管上に設けられている。切替弁7bは、たとえば流量調整弁によって構成されており、開閉操作されることによって循環経路への新鮮な不活性ガスの供給の有無が切り替えられるとともに、その開度が調節されることで供給される新鮮な不活性ガスの流量が調整される。
また、排気部5には、気体排出部8が接続されている。気体排出部8は、循環経路を通流する気体の一部を外部に排出するためのものであり、付加真空ポンプ8aと、切替弁8bとを有している。付加真空ポンプ8aと排気部5とは、配管によって接続されており、切替弁8bは、当該配管上に設けられている。切替弁8bは、たとえば流量調整弁によって構成されており、開閉操作されることによって循環経路からの気体の排出の有無が切り替えられるとともに、その開度が調節されることで排出される気体の流量が調整される。
これら不活性ガス供給部7と気体排出部8とは、循環経路を通流する気体に含まれる不純物を除去する気体浄化装置に該当する。すなわち、金属粉末の製造時において、当該気体浄化装置によって循環経路へ供給される新鮮な不活性ガスの量と循環経路から導出される気体の量とが調節されることにより、チャンバ2の内圧Pを金属粉末の製造に適した減圧雰囲気に維持しつつ、気体流動調節装置によって循環経路を通流する気体に含まれる不純物を効果的に除去することができる。なお、ここでいう不純物とは、もっぱら不活性ガス以外の気体のことである。
以上において説明した本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Bおよびこれに具備された回転ディスク装置10Aを用いることにより、上述した実施の形態1の場合と同様に、生産性よく金属粉末を製造することが可能になる。また、上述した本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Bを用いて、上述した実施の形態1に係る金属粉末の製造方法と同様の製造方法を適用して金属粉末を製造することにより、上述した実施の形態1の場合と同様に、微細でかつ高い真球度を有する金属粉末を生産性よく製造することが可能になる。
加えて、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Bおよびこれに具備された回転ディスク装置10Aを用いることにより、不活性ガスの使用量が抑制できる効果が得られるばかりでなく、チャンバ2の内部に含まれる不純物を効果的に除去することが可能になるため、上述した実施の形態1に係る遠心アトマイザ1Aに比べて、より長時間にわたってチャンバ2の内部の空間を金属粉末の製造に適した状態に維持することができる効果を得ることもできる。
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3に係る遠心アトマイザの概略図である。以下、この図5を参照して、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Cについて説明する。
図5に示すように、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Cは、上述した実施の形態2に係る遠心アトマイザ1Bと比較した場合に、チャンバ2の構成においてのみ相違している。
具体的には、遠心アトマイザ1Cにおいては、チャンバ2の内部に筒状の隔壁2fが設けられることにより、チャンバ2が、ディスク80の径方向において区画されることで2槽の処理槽にて構成されている。すなわち、チャンバ2は、ノズル3aおよび回転ディスク装置10Aが収容された中央処理槽2Aと、当該中央処理槽2Aよりも外側に位置する外側処理槽2Bとを有している。
隔壁2fのうちのディスク80の径方向外側に位置する部分には、当該隔壁2fの周方向に沿って延在するスリット2f1が設けられている。当該スリット2f1は、ディスク80から飛散する溶融金属粒子101を通過可能にするものであり、これにより、金属粉末の製造時においてディスク80から飛散した溶融金属粒子101は、スリット2f1を通過することで中央処理槽2Aから外側処理槽2Bへと飛行することになる。
不活性ガス導入部4は、外側処理槽2Bを規定する部分のチャンバ2に接続されており、排気部5は、中央処理槽2Aを規定する部分のチャンバ2に接続されている。これにより、これら不活性ガス導入部4および排気部5からなる気体流動調節装置によってチャンバ2の内部へ導入される不活性ガスの量とチャンバ2の内部から導出される気体の量とが調節されることにより、中央処理槽2Aの内圧P1と外側処理槽2Bの内圧P2とが、それぞれ所定の減圧雰囲気に維持できることになる。
ここで、中央処理槽2Aの内圧P1は、上述したWe≦1の条件を満たしつつ回転ディスク装置10Aの風損を低く抑制する観点から、好適には中真空状態(おおよそ10-1[Pa]以上102[Pa]程度)に維持され、外側処理槽2Bの内圧P2は、上述したWe≦1の条件を満たしつつ溶融金属粒子101の気体伝熱による放熱効果を高めるとともに、さらには溶融金属粒子101の減速を促す観点から、好適には上述した中央処理槽2Aの内圧P1よりも高い低真空状態(おおよそ102[Pa]以上104[Pa]程度)に維持される。
以上において説明した本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Cおよびこれに具備された回転ディスク装置10Aを用いることにより、上述した実施の形態2の場合と同様に、生産性よく金属粉末を製造することが可能になる。また、上述した本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Cを用いて、上述した実施の形態2に係る金属粉末の製造方法と同様の製造方法を適用して金属粉末を製造することにより、上述した実施の形態2の場合と同様に、微細でかつ高い真球度を有する金属粉末を生産性よく製造することが可能になる。
加えて、本実施の形態においては、上述したように外側処理槽2Bの内圧P2を中央処理槽2Aの内圧P1よりも高く設定しているため、当該外側処理槽2Bの内部において溶融金属粒子101の気体伝熱による放熱効果が高められることになり、ディスク80の端部から溶融金属粒子101が飛散した時点から当該溶融金属粒子101の凝固が完了するまでに必要となる時間を短縮することができる。そのため、当該構成を採用することにより、溶融金属粒子101の減速が促されることも相まって、チャンバ2の小型化が可能になる効果を得ることができる。
ここで、本実施の形態においては、チャンバの内部に筒状の隔壁を1つ設けることでチャンバの内部の空間を中央処理槽と1槽の外側処理槽とに区画した場合を例示したが、チャンバの内部に同心円状に筒状の隔壁を2つ以上設けることにより、中央処理槽の外側に2槽以上の外側処理槽を設ける構成としてもよい。その場合には、中央処理槽および2槽以上の外側処理槽を含む複数の処理槽の内圧を、外側に位置する処理槽から内側に位置する処理槽の順で次第に低くなるように設定することが好ましい。そのように構成することにより、さらなるチャンバの小型化が可能になる。なお、その場合には、複数の処理槽のうちの最も外側に位置する処理槽に気体導入部を接続するとともに、中央処理槽に気体導出部を接続することが効果的である。
(実施の形態4)
図6は、本発明の実施の形態4に係る遠心アトマイザの概略図であり、図7は、図6に示す遠心アトマイザに具備された回転ディスク装置の模式断面図である。以下、これら図6および図7を参照して、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Dおよびこれに具備された回転ディスク装置10Bについて説明する。
図6および図7に示すように、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Dは、上述した実施の形態2に係る遠心アトマイザ1Bと比較した場合に、排気部5の構成が異なっているとともに、異なる構成の回転ディスク装置10Bを備えている点において、その構成が相違している。
具体的には、図6に示すように、排気部5は、台座2dに設けられた排気通路2d1を介して回転ディスク装置10Bの後述する排気ポート21(図7参照)に接続されている。ここで、回転ディスク装置10Bは、後述するように、ネジ溝真空ポンプA(図7参照)が所定部位に設けられることによって排気機能を有する真空ポンプとしても構成されており、これに伴って排気部5は、上述した真空ポンプ5aに代えて補助真空ポンプ5a’を有している。補助真空ポンプ5a’は、チャンバ2内に中真空状態(10-1[Pa]~102[Pa]程度)を作り出すためのたとえばルーツ圧縮機等にて構成されており、回転ディスク装置10Bに設けられたネジ溝真空ポンプAは、中空真空状態(10-1[Pa]~102[Pa]程度)からさらに高真空状態(10-5[Pa]~10-1[Pa]程度)を作り出すことができるものである。
これにより、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Dにおいては、金属粉末の製造時において、チャンバ2の内圧Pを金属粉末の製造に適した減圧雰囲気に維持することができることになり、特に、当該内圧Pを高真空状態(おおよそ10-5[Pa]以上10-1[Pa]程度)に維持することができることになる。
図7に示すように、回転ディスク装置10Bは、ベース20と、上部側ステータ40Aと、下部側第1ステータ40B1と、下部側第2ステータ40B2と、ロータ50と、駆動部60と、ディスク80とを主として備えている。回転ディスク装置10Bの外殻は、ベース20、下部側第1ステータ40B1および上部側ステータ40Aによって構成されており、これらによって囲まれた内部空間に、下部側第2ステータ40B2、ロータ50および駆動部60等が収容されている。
回転ディスク装置10Bは、チャンバ2に接続される吸気ポート41と、チャンバ2の底板部2cに設置された台座2dの排気通路2d1に排気管22を介して接続される排気ポート21と、これら吸気ポート41と排気ポート21とを接続する排気路70とを有している。このうち、吸気ポート41は、上部側ステータ40Aの上端部に設けられており、排気ポート21は、ベース20に設けられている。また、排気路70は、排気部5を構成する配管に上述した排気通路2d1を介して接続されることにより、気体導出部の一部を構成している。
ここで、回転ディスク装置10Bは、前述の回転ディスク装置10Aと比較した場合に、基本的に同様の構成のベース20、駆動部60およびディスク80を有している。その一方で、回転ディスク装置10Bは、前述の回転ディスク装置10Aと比較した場合に、支持枠30およびステータ40に代えて、上述した下部側第1ステータ40B1、下部側第2ステータ40B2および上部側ステータ40Aを具備してなるものであり、これに伴ってロータ50も異なる構成のものを具備している。
ベース20の上面には、下部側第1ステータ40B1、下部側第2ステータ40B2および駆動部60が載置されている。より詳細には、ベース20の上面の中央部には凹部が形成されており、当該凹部にその一部が収容されるように駆動部60が配置されている。ベース20の上面のうち、上記凹部を取り囲む位置には、下部側第2ステータ40B2が配置されており、さらに当該下部側第2ステータ40B2を取り囲むようにベース20の上面の周縁部には、下部側第1ステータ40B1が配置されている。
ロータ50は、上部側ロータ部51Aと下部側ロータ部51Bとを有しており、上部側ロータ部51Aの下端の中央部が駆動部60の回転軸62に固定されている。
上部側ロータ部51Aは、上部側ステータ40Aによって囲繞されており、回転軸62の軸線AXと平行な方向において多段に配置された複数のロータ側フィン部52Aを有している。また、上部側ロータ部51Aの軸部の上端位置には、ディスク取付座50aが設けられており、当該ディスク取付座50aには、アダプタ53を介してディスク80が固定されている。
下部側ロータ部51Bは、下部側第1ステータ40B1によって囲繞されており、上部側ロータ部51Aの下端から下方に向けて延設されている。下部側ロータ部51Bは、略円筒状の形状を有しており、下部側第1ステータ40B1および下部側第2ステータ40B2によって径方向において挟まれている。
下部側第1ステータ40B1は、下部側ロータ部51Bを囲繞する略円筒状の形状を有しており、上述したようにベース20の上面の周縁部上に配置されている。下部側第1ステータ40B1は、その内周面が下部側ロータ部51Bの外周面に対向するように配置されている。
下部側第2ステータ40B2は、下部側ロータ部51Bによって囲繞された略円筒状の形状を有しており、上述したようにベース20の上面の所定位置に配置されている。下部側第2ステータ40B2は、その外周面が下部側ロータ部51Bの内周面に対向するように配置されている。
下部側ロータ部51Bの外周面に対向する部分の下部側第1ステータ40B1の内周面には、雌ネジ形状の一次側ネジ溝部45が設けられている。一方、下部側ロータ部51Bの内周面に対向する部分の下部側第2ステータ40B2の外周面には、雄ネジ形状の二次側ネジ溝部46が設けられている。
これにより、下部側ロータ部51B、下部側第1ステータ40B1および下部側第2ステータ40B2によってネジ溝真空ポンプAが構成されることになり、上述した排気路70上に排気機能を有する非接触シール部が形成されることになる。
上部側ステータ40Aは、下部側第1ステータ40B1上に配置されることで上部側ロータ部51Aを囲繞するように位置している。上部側ステータ40Aは、回転軸62の軸線AXと平行な方向において多段に配置された複数のステータ側フィン部42Aを有している。
ここで、ロータ50の上部側ロータ部51Aに設けられた複数のロータ側フィン部52Aと、上部側ステータ40Aに設けられた複数のステータ側フィン部42Aとは、互いに所定のクリアランスをもって配置されており、これらの間に形成された隙間が、上述した排気路70の一部を構成することになる。
上述したように、本実施の形態における回転ディスク装置10Bにおいては、上部側ステータ40Aに設けられた吸気ポート41とベース20に設けられた排気ポート21とを接続するように、その内部に排気路70が形成されている。具体的には、排気路70は、上部側ステータ40Aと上部側ロータ部51Aとの間の隙間や、下部側第1ステータ40B1と下部側ロータ部51Bとの間の隙間、下部側第2ステータ40B2と下部側ロータ部51Bとの間の隙間、下部側第2ステータ40B2の内側の空間、ベース20に設けられた通路等によって構成されており、これらが互いに連通することで構成されている。
このうち、上述したように下部側ロータ部51B、下部側第1ステータ40B1および下部側第2ステータ40B2によってネジ溝真空ポンプAが構成されているため、当該排気路70上には、排気機能を有する非接触シール部が形成されることになり、駆動部60が駆動した状態(すなわち、ロータ50が高速回転した状態)において、吸気ポート41が接続されるチャンバ2の内部の空間が高真空状態に維持できることになる。
なお、本実施の形態に係る回転ディスク装置10Bにおいても、前述の回転ディスク装置10Aと同様に、ロータ50の上部側ロータ部51Aに設けられた複数のロータ側フィン部52Aが、金属製の基材部52aと、当該基材部52aの表面を覆うように形成された被覆層52bとを有しているとともに、上部側ステータ40Aに設けられた複数のステータ側フィン部42Aが、金属製の基材部42aと、当該基材部42aの表面を覆うように形成された被覆層42bとを有している(図3参照)。
そのため、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Dおよびこれに具備された回転ディスク装置10Bとすることにより、溶融金属100からディスク80に移動した熱を上部側ロータ部51Aおよび上部側ステータ40Aを介して外部に効率的に放熱することが可能になるとともに、当該熱が駆動部60に伝熱されてしまうことが抑制可能になる。したがって、駆動部60が入熱によって破損してしまうことが防止できることになり、量産に十分に適した長時間にわたって遠心アトマイザ1Dを連続的に運転することが可能になる。
以上により、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Dおよびこれに具備された回転ディスク装置10Bを用いることにより、上述した実施の形態2の場合と同様に、生産性よく金属粉末を製造することが可能になる。また、上述した本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Dを用いて、上述した実施の形態2に係る金属粉末の製造方法と同様の製造方法を適用して金属粉末を製造することにより、上述した実施の形態2の場合と同様に、微細でかつ高い真球度を有する金属粉末を生産性よく製造することが可能になる。
加えて、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Dおよびこれに具備された回転ディスク装置10Bとすることにより、チャンバ2の内部の空間を減圧状態にしたり当該減圧状態を維持したりするための排気機能の一部を回転ディスク装置10Bに具備させることが可能になるため、遠心アトマイザ全体として見た場合のシステム構成を簡素化できる効果を得ることもできる。
(実施の形態5)
図8は、本発明の実施の形態5に係る遠心アトマイザの概略図であり、図9は、図8に示す遠心アトマイザに具備された回転ディスク装置の模式断面図である。また、図10は、図9に示す回転ディスク装置の静翼および動翼の拡大部分断面図である。以下、これら図8ないし図10を参照して、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Eおよびこれに具備された回転ディスク装置10Cについて説明する。ここで、図10は、図9に示す静翼42Bおよび動翼52Bの径方向における途中位置をそれらの軸方向と平行な方向に沿って切断して径方向外側から見た場合の切断面を示している。
図8ないし図10に示すように、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Eは、上述した実施の形態4に係る遠心アトマイザ1Dと比較した場合に、不活性ガス導入部4、還流路6、不活性ガス供給部7および気体排出部8を具備していない点と、異なる構成の回転ディスク装置10Cを備えている点とにおいて、その構成が相違している。
具体的には、図8に示すように、排気部5は、台座2dに設けられた排気通路2d1を介して回転ディスク装置10Cの排気ポート21(図9参照)に接続されている。ここで、回転ディスク装置10Cは、前述の回転ディスク装置10Bと同様にネジ溝真空ポンプA(図9参照)を有するばかりでなく、ターボ分子ポンプB(図9参照)が所定部位に設けられてなるものである。排気部5に設けられた補助真空ポンプ5a’は、チャンバ2内に中真空状態(10-1[Pa]~102[Pa]程度)を作り出すためのたとえば油回転真空ポンプ等にて構成されており、回転ディスク装置10Cに設けられたネジ溝真空ポンプAおよびターボ分子ポンプBは、中空真空状態(10-1[Pa]~102[Pa]程度)からさらに高真空状態あるいは超高真空状態(10-8[Pa]~10-1[Pa]程度)を作り出すことができるものである。
これにより、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Eにおいては、金属粉末の製造時において、チャンバ2の内圧Pを金属粉末の製造に適した減圧雰囲気に維持することができることになり、特に、当該内圧Pを高真空状態あるいは超高真空状態(おおよそ10-8[Pa]以上10-1[Pa]程度)に維持することができることになる。
図9および図10に示すように、回転ディスク装置10Cは、前述の回転ディスク装置10Bに比較して、当該回転ディスク装置10Bが具備していた複数のロータ側フィン部52Aおよび複数のステータ側フィン部42Aに代えて、複数の動翼52Bおよび複数の静翼42Bを具備してなるものである。
複数の動翼52Bは、回転軸62の軸線AXと平行な方向において多段に配置されており、複数の動翼52Bの各々は、上部側ロータ部51Aの軸部から径方向外側に向けて突出して位置している。複数の動翼52Bの各々は、回転軸62の軸線AXに対して所定方向に傾斜するタービン翼を有している。なお、図10中に示す矢印DRは、動翼52Bの回転方向を表わしている。
複数の静翼42Bは、回転軸62の軸線AXと平行な方向において多段に配置されており、複数の静翼42Bの各々は、上部側ステータ40Aの筒状部の内周面からそれぞれ径方向内側に向けて突出して位置している。複数の静翼42Bの各々は、回転軸62の軸線AXに対して所定方向に傾斜するタービン翼を有している。ここで、当該複数の静翼42Bに形成されたタービン翼の傾斜する向きは、上述した複数の動翼52Bに形成されたタービン翼の傾斜する向きとは異なる向き(すなわち反対向きの傾斜方向)とされる。
ここで、複数の動翼52Bと複数の静翼42Bとは、互いに隙間を介して回転軸62の軸線AXと平行な方向において対向するように交互に配置されている。これにより、複数の動翼52Bと複数の静翼42Bとは、互いに所定のクリアランスをもって配置されることになり、これにより上部側ロータ部51Aと上部側ステータ40Aとが、互いに噛み合う櫛歯構造を有することになる。
上記構成は、換言すれば、図7に示した回転ディスク装置10Bの複数のロータ側フィン部52Aと複数のステータ側フィン部42Aとに互いに異なる向きに傾斜するタービン翼が形成された構成と言え、これにより、本実施の形態における回転ディスク装置10Cにおいては、排気路70上にターボ分子ポンプBが設けられることになる。
ここで、図10に示すように、本実施の形態における回転ディスク装置10Cにおいては、上部側ロータ部51Aに設けられた複数の動翼52Bが、金属製の基材部52aと、当該基材部52aの表面を覆うように形成された被覆層52bとを有しているとともに、上部側ステータ40Aに設けられた複数の静翼42Bが、金属製の基材部42aと、当該基材部42aの表面を覆うように形成された被覆層42bとを有している。
これにより、本実施の形態における回転ディスク装置10Cにおいては、複数の動翼52Bおよび複数の静翼42Bが対向する部分において、これら複数の動翼52Bおよび複数の静翼42Bの表面に設けられた被覆層42b,52b同士が対面して位置することになる。これら被覆層42b,52bは、金属製の基材部42a,52aに比較して高い放射率を有しており、上部側ロータ部51Aから上部側ステータ40Aへの放射による熱の移動が促進されることになる。
そのため、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Eおよびこれに具備された回転ディスク装置10Cとすることにより、溶融金属100からディスク80に移動した熱を上部側ロータ部51Aおよび上部側ステータ40Aを介して外部に効率的に放熱することが可能になるとともに、当該熱が駆動部60に伝熱されてしまうことが抑制可能になる。したがって、駆動部60が入熱によって破損してしまうことが防止できることになり、量産に十分に適した長時間にわたって遠心アトマイザ1Eを連続的に運転することが可能になる。
以上により、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Eおよびこれに具備された回転ディスク装置10Cを用いることにより、上述した実施の形態4の場合と同様に、生産性よく金属粉末を製造することが可能になる。また、上述した本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Eを用いて、上述した実施の形態4に係る金属粉末の製造方法と同様の製造方法を適用して金属粉末を製造することにより、上述した実施の形態4の場合と同様に、高い真球度を有する金属粉末を生産性よく製造することが可能になる。
加えて、本実施の形態に係る遠心アトマイザ1Eおよびこれに具備された回転ディスク装置10Cとすることにより、上述した実施の形態4に係る遠心アトマイザ1Dおよびこれに具備された回転ディスク装置10Bとした場合と同様に、チャンバ2の内部の空間を減圧状態にしたり当該減圧状態を維持したりするための排気機能の一部を回転ディスク装置10Bに具備させることが可能になるため、遠心アトマイザ全体として見た場合のシステム構成を簡素化できる効果を得ることもできる。
(検証シミュレーション)
以下においては、本発明の効果の確認等のために行なった各種の検証シミュレーションについて説明する。
<第1検証シミュレーション>
第1検証シミュレーションは、本発明が適用された実施例に係る回転ディスク装置と、本発明が適用されていない比較例に係る回転ディスク装置とを模擬設計し、これらの間で、定常運転時においてディスクを介した入熱による温度上昇にどの程度の差が生じるかを計算により求めたものである。ここで、図11は、比較例に係る回転ディスク装置の模式断面図である。
実施例に係る回転ディスク装置は、上述した実施の形態1において示した回転ディスク装置10Aと基本的に同様の構成を有するものであり、ロータ側フィン部およびステータ側フィン部の段数は、それぞれ14段および13段に設定した。ロータ側フィン部の表面およびステータ側フィン部の表面は、その全面が高放射率の被覆層にて覆われているものとし、当該高放射率の被覆層としては、その表面温度が120[℃]である場合に放射率が0.9であるものに設定した。
また、ロータ側フィン部の外径は、126[mm]とし、ロータ側フィン部の総表面積は、0.37[m2]とした。ロータの回転速度は、定常運転時において1000[rps]となるように設定した。ロータに取付けるディスクの熱伝導率は、100[W/m・K]に設定した。なお、ディスクの軸部の直径は、8[mm]とし、当該軸部の長さは27[mm]とした。
図11に示すように、比較例に係る回転ディスク装置10Xは、ベース20と、ハウジング30’と、ロータ50’と、駆動部60と、ディスク80とを主として備えている。このうち、ベース20、駆動部60およびディスク80の構成は、上述した実施の形態1において示した回転ディスク装置10Aと同様である。
ロータ50’は、ロータ側フィン部が設けられていない円筒状の部材にて構成されており、その表面は、高放射率の被覆層によって覆われることなく、金属素地が露出している。ロータ50’は、駆動部60の回転軸62に固定されており、その上部にディスク取付座50aが設けられることでアダプタ53を介してディスク80が固定されている。なお、ハウジング30’は、当該ロータ50’を取り囲むようにベース20に固定されている。
このように、比較例に係る回転ディスク装置10Xは、その各々が高放射率の被覆層にて覆われた櫛歯構造を有するロータおよびステータからなる放熱構造を有していない点において、上述した実施例に係る回転ディスク装置とその構成が相違するものである。
ここで、比較例に係る回転ディスク装置においては、ロータをその表面温度が120[℃]である場合に放射率が0.1であるものに設定した。定常運転時におけるロータの回転速度、ロータに取付けるディスクの熱伝導率およびその直径、ならびに、ディスクの軸部の直径および長さは、いずれも実施例に係る回転ディスク装置と同様とした。
本第1検証シミュレーションにおいては、ディスクに対する入熱量を種々変化させた場合に、ロータの温度および駆動部の回転軸の温度がそれぞれどの程度にまで上昇するかを計算した。ここで、ロータの温度および駆動部の回転軸の温度は、いずれも一様であると仮定した。なお、模擬設計した実施例に係る回転ディスク装置を備えてなる遠心アトマイザにて、たとえばチタン粉末(融点1668[℃])を製造することを想定した場合に、ディスクに供給される溶融金属の温度と等しくなったディスクの軸部からロータへの熱伝導量は、ロータの温度が125[℃]になるときに概算で285[W]となる。一方、比較例に係る回転ディスク装置においては、それよりも遥かに少ない入熱量でロータの温度が急上昇することになる。
図12は、本第1検証シミュレーションの結果を示すグラフである。横軸は、ディスクに対する入熱量[W]を示しており、縦軸は、定常運転時におけるロータの温度[℃]ならびに駆動部の回転軸の温度[℃]を示している。
図12に示すように、比較例に係る回転ディスク装置においては、僅か10[W]の入熱により、ロータの温度が148[℃]に達し、駆動部の回転軸の温度が86[℃]になることが分かる。ここで、ロータの温度が148[℃]である場合のロータへの10[W]の入熱量は、ディスクに供給される溶融金属の温度が202[℃]である場合に対応し、チタンの融点には到底届かない。これに対し、実施例に係る回転ディスク装置においては、285[W]の入熱によっても、ロータの温度が125[℃]に抑えられ、駆動部の回転軸の温度が78.5[℃]に抑えられることが分かる。
ここで、回転ディスク装置として、アルミニウム合金製のロータと、グリース潤滑の玉軸受を備えた駆動部とを備えたものを使用することを想定した場合、上述した比較例に係る回転ディスク装置は、破損なくこれを連続運転できるものに到底ない反面、上述した実施例に係る回転ディスク装置は、正常にこれを連続運転することができるものである。
したがって、本第1検証シミュレーションの結果によれば、その各々が高放射率の被覆層にて覆われた櫛歯構造を有するロータおよびステータからなる放熱構造を有する回転ディスク装置を備えた遠心アトマイザとすることにより、量産に十分に適した長時間にわたっての連続運転が実現可能になることが確認できたと言える。
<第2検証シミュレーション>
第2検証シミュレーションは、本発明が適用された遠心アトマイザにおいて金属粉末を製造する場合の溶融金属粒子の挙動を分析したものである。具体的には、第2検証シミュレーションにおいては、上述した実施の形態5、4および3に係る遠心アトマイザをそれぞれ検証例1ないし3として模擬設計し、これら検証例1ないし3に係る遠心アトマイザにおいてチタン粉末を製造する場合の、溶融チタン粒子の飛行中におけるウェーバー数の変化、溶融チタン粒子の凝固が完了するまでに要する時間および飛行距離等を計算により求めた。
検証例1に係る遠心アトマイザは、上述した実施の形態5に係る遠心アトマイザ1E(図8参照)と同様の構成を有するものであり、運転動作時において、チャンバ2の内部の空間が超高真空状態に維持される(すなわち、内圧Pが限りなくゼロに近い)ものである。当該超高真空状態は、主として、遠心アトマイザ1Eに具備された回転ディスク装置10Cのネジ溝真空ポンプAおよびターボ分子ポンプB(いずれも図9参照)によって実現される。
検証例2に係る遠心アトマイザは、上述した実施の形態4に係る遠心アトマイザ1D(図6参照)と同様の構成を有するものであり、運転動作時において、チャンバ2の内部が不活性ガスとしてのアルゴンにて充填されるとともに、その内圧Pが102[Pa]に維持されるものである。当該内圧Pは、主として、遠心アトマイザ1Bに具備された気体流動装置の気体導入部としての不活性ガス導入部4と、回転ディスク装置10Cのネジ溝真空ポンプA(図7参照)とによって実現される。
検証例3に係る遠心アトマイザは、上述した実施の形態3に係る遠心アトマイザ1C(図5参照)と同様の構成を有するものであり、運転動作時において、チャンバ2の中央処理槽2Aおよび外側処理槽2Bがそれぞれ不活性ガスとしてのアルゴンにて充填されるとともに、中央処理槽2Aの内圧P1が102[Pa]に維持され、また外側処理槽2Bの内圧P2が104[Pa]に維持されるものである。当該内圧P1,P2は、主として、遠心アトマイザ1Cに具備された気体流動装置(気体導入部としての不活性ガス導入部4および気体導出部としての排気部5)によって実現される。
ここで、検証例3に係る遠心アトマイザにおいては、中央処理槽2Aと外側処理槽2Bとを区画する隔壁2fとして、ディスク80の周囲に位置する部分の直径が120[mm]のものを使用することとし、また、当該隔壁2fに設けられたスリット2f1の幅は、2[mm]とした。
以下において説明する本第2検証シミュレーションにおいては、ディスクの直径を90[mm]とし、ディスクの回転速度を1000[rps]とし、製造するチタン粒子の直径を0.05[mm]とし(上述した式(1)に基づけば、製造されるチタン粒子の粒径分布の中央値は、0.0357[mm]となるが、ここでは、直径が0.05[mm]以下の粒子の凝固を想定する)、チャンバ内の温度を300[K]とし、ディスクの端部から飛散する時点での溶融チタン粒子の温度をチタンの融点である1941[K]よりも100[K]高い2041[K]として検討を行なった。
チャンバ内を飛行する溶融チタン粒子は、検証例1においては、実質的に輻射のみによって冷却され、検証例2,3においては、輻射および気体伝熱の双方によって冷却される。
輻射による金属粒子の温度T[K]の時間的変化は、以下の式(4)で求められる。なお、tは、冷却開始時点からの経過時間であり、εは、金属粒子の表面の放射率であり、σSBは、ステファン・ボルツマン定数であり、Sは、金属粒子の表面積であり、cは、金属粒子の比熱であり、mは、金属粒子の質量である。
ここで、ステファン・ボルツマン定数σSBは、5.67×10-8[W/m2・K4]であり、溶融チタン粒子の表面の放射率εは、0.33であり、直径が0.05[mm]である溶融チタン粒子の表面積Sは、7.854×10-9[m2]であり、直径が0.05[mm]である溶融チタン粒子の質量mは、2.69×10-10[kg]であり、溶融チタン粒子の比熱cは、987[J/kg・K]である。また、tが0[s]である場合のTは、上述のとおり2041[K]である。
これらによれば、溶融チタン粒子が融点に達すまでの上記式(4)の解は、以下の式(5)となる。
気体伝熱による金属粒子の温度T[K]の時間的変化は、以下の式(6)で求められる。なお、tは、冷却開始時点からの経過時間であり、πは、円周率であり、κは、チャンバ内の雰囲気の熱伝導率であり、dは、金属粒子の直径であり、cは、金属粒子の比熱であり、mは、金属粒子の質量であり、Θは、チャンバ内の雰囲気の温度である。
ここで、溶融チタン粒子の直径dは、上述のとおり0.05[mm]であり、溶融チタン粒子の比熱cは、987[J/kg・K]であり、直径が0.05[mm]である溶融チタン粒子の質量mは、2.69×10-10[kg]であり、チャンバ内の雰囲気の温度Θは、上述のとおり300[K]である。また、tが0[s]である場合のTは、上述のとおり2041[K]であり、検証例3においては、外側処理槽にチタン粒子が進入した時点での温度が、この2041[℃]に相当する。さらに、チャンバ内の雰囲気の熱伝導率κ[W/K・m]は、減圧雰囲気下においては圧力に依存し、雰囲気がアルゴンである場合には、以下の式(7)および式(8)で求められる。なお、L0は、アルゴン分子の平均自由行程である。
これらによれば、溶融チタン粒子が融点に達すまでの上記式(6)の解は、以下の式(9)となる。ここで、λ=(2×π×κ×d)/(c×m)である。
なお、チャンバ内のアルゴンの圧力が102[Pa]である場合および104[Pa]である場合のアルゴン分子の平均自由行程は、それぞれ6.83×10-5[m]および6.83×10-7[m]であるため、それらの場合のチャンバ内のアルゴンの熱伝導率κは、それぞれ2.51×10-3[W/K・m]および1.62×10-2[W/K・m]である。
上記に基づけば、溶融チタン粒子が融点に到達するまでの期間は、検証例1においては、上記の式(5)に基づいて算出できることになり、検証例2,3においては、上記の式(5)および式(9)に基づいて算出できることになる。
一方、溶融チタン粒子が融点に到達した後、溶融チタン粒子の凝固が完了するまでの期間においては、潜熱としての融解熱(凝固熱)の放出が等温状態のまま進行することになる。そのため、溶融チタン粒子が融点に到達した後、溶融チタン粒子の凝固が完了するまでの期間の長さΔt[s]は、当該期間における放射による放熱量qr[W]と、当該期間における気体伝熱による放熱量qh[W]と、チタンの融解熱hm[J/kg]とに基づいて、以下の式(10)によって求められる。
ここで、直径が0.05[mm]である溶融チタン粒子の質量mは、上述したように2.69×10-10[kg]であり、チタンの融解熱hmは、2.95×105[J/kg]である。
一方、上述した放射による放熱量qr[W]および気体伝熱による放熱量qh[W]は、それぞれ以下の式(11)および式(12)によって求められる。
なお、溶融チタン粒子の直径dは、上述のとおり0.05[mm]であり、溶融チタン粒子の表面の放射率εは、上述したとおり0.33であり、ステファン・ボルツマン定数σSBは、上述したとおり5.67×10-8[W/m2・K4]であり、チャンバ内の雰囲気の温度Θは、上述のとおり300[K]であり、直径が0.05[mm]である溶融チタン粒子の表面積Sは、7.854×10-9[m2]である。また、tが0[s]である場合のTは、上述のとおり2041[K]である。さらに、上述のとおり、チャンバ内のアルゴンの圧力が102[Pa]である場合および104[Pa]である場合のチャンバ内のアルゴンの熱伝導率κは、それぞれ2.51×10-3[W/K・m]および1.62×10-2[W/K・m]である。
そのため、チャンバ内のアルゴンの圧力が102[Pa]である場合の放熱量qhは、1.29×10-3[W]となり、チャンバ内のアルゴンの圧力が104[Pa]である場合の放熱量qhは、8.35×10-3[W]となる。
上記に基づけば、溶融チタン粒子が融点に到達した後、溶融チタン粒子の凝固が完了するまでの期間は、検証例1においては、上記の式(10)および式(11)に基づいて算出できることになり、検証例2,3においては、上記の式(10)ないし式(12)に基づいて算出できることになる。
以上により、溶融チタン粒子がディスクの端部から飛散した時点から溶融チタン粒子の凝固が完了するまでに要する時間は、検証例1において、4.97×10-2[s]となり、検証例2において、3.06×10-2[s]となり、検証例3において、1.01×10-2[s]となる。なお、検証例3についての当該時間の計算には、溶融チタン粒子がディスクの端部から隔壁に設けられたスリットに到達するまでの時間が1.41×10-4[s]であること(詳細は後述する)を考慮に含め、その前後において雰囲気の圧力が変化することを加味している。
ところで、溶融金属粒子がチャンバ内の雰囲気中を飛行する際には、気体による抗力を受ける。球状の粒子に作用する当該抗力F[N]は、一般に以下の式(13)で求められる。ここで、pは、チャンバの雰囲気の圧力であり、Lは、溶融金属粒子の半径であり、Rは、比気体定数であり、Θは、上述のとおりチャンバ内の雰囲気の温度であり、uは、上述のとおり溶融金属粒子の速度であり、hDは、無次元化抗力である。
ここで、無次元化抗力hDは、以下の式(14)で与えられる雰囲気中の粒子の半径に基づくパラメータk(当該パラメータkは、クヌッセン数Knと、以下の式(15)の関係を有している)との間で、所定の関係性を有しており、当該パラメータkが決まれば、当該無次元化抗力hDも一意に求められる(曾根良夫,青木一生著、日本流体力学会編、「分子気体力学」、初版、朝倉書店、1994年12月10日、p.158参照)。なお、L0は、上述のとおり雰囲気であるアルゴン分子の平均自由行程である。
一方、粒子の運動方程式は、以下の式(16)で求められる。ここで、右辺のFは、上述した抗力に相当する。
これら式(13)および式(16)を解くことにより、溶融チタン粒子の飛行距離zを以下の式(17)および式(18)に基づいて求めることができる。
ここで、チャンバ内の雰囲気がアルゴンである場合には、β=p×L2×hD/353.1である。
図13ないし図15は、本第2検証シミュレーションの結果を示すグラフであり、それぞれ検証例1、検証例2および検証例3の結果を示している。横軸は、飛行時間t[s]を示しており、縦軸は、飛行距離z[m]およびウェーバー数Weを示している。
これら図13ないし図15に示すように、検証例1において、溶融チタン粒子の凝固が完了するまでの飛行距離は、約14.1[m]となり、検証例2において、溶融チタン粒子の凝固が完了するまでの飛行距離は、約7.73[m]となり、検証例3において、溶融チタン粒子の凝固が完了するまでの飛行距離は、約2.48[m]となる。
したがって、検証例1に係る遠心アトマイザおいては、チャンバの半径をおおよそ14.5[m]以上とすることにより、微細なチタン粉末を得ることが可能になり、検証例2に係る遠心アトマイザおいては、チャンバの半径をおおよそ8[m]以上とすることにより、微細なチタン粉末を得ることが可能になり、検証例3に係る遠心アトマイザおいては、チャンバの半径をおおよそ2.5[m]以上とすることにより、微細なチタン粉末を得ることが可能になることが確認できる。
また、図13ないし図15に示すように、検証例1においては、溶融チタン粒子の凝固が完了するまでの期間に亘り、ウェーバー数Weが4×10-11程度に維持されており、検証例2においては、溶融チタン粒子の凝固が完了するまでの期間に亘り、ウェーバー数Weが最大でも4×10-3(すなわち、0.004)程度に維持されており、検証例3においては、溶融チタン粒子の凝固が完了するまでの期間に亘り、ウェーバー数Weが最大でも4×10-1(すなわち、0.4)程度に維持されていることが確認できる。
ここで、検証例3においては、溶融チタン粒子がディスクの端部から隔壁に設けられたスリットを通過することで中央処理槽から外側処理槽に向けて飛行することになるが、ディスクの端部からスリットまでの距離が15[mm]であることを踏まえれば、上記式(16)に基づき、融チタン粒子がディスクの端部から隔壁に設けられたスリットに到達するまでの時間は、1.41×10-4[s]となることが分かる。
この溶融チタン粒子がスリットを通過する際には、当該スリットにおいて外側処理槽から中央処理槽側に向けて音速の気流が発生しているため、当該部分において瞬間的にでもウェーバー数Weが1を超えないかを確認することが必要である。
スリット内における気流の温度Ts、速度usおよび密度ρsは、それぞれ以下の式(19)ないし式(21)で求められる。ここで、γは、雰囲気の比熱比であり、Θは、外側処理槽の雰囲気の温度であり、Rは、上述のとおり比気体定数であり、Raは、一般気体定数であり、Mは、雰囲気の分子質量であり、ρcは、外側処理槽の雰囲気の密度である。
上記に基づけば、スリット内における気流の温度Tsは、225[K]であり、スリット内における気流の速度usは、279[m/s]であり、スリット内における気流の密度ρsは、0.103[kg/m3]となる。そのため、これらの値を上記(式)2に代入すれば、スリット内でのウェーバー数Wesは、おおよそ1.0であることが分かる。
したがって、検証例3においては、溶融チタン粒子がスリットを通過する際においてもWe≦1の条件が満たされることになり、溶湯チタン粒子の真球性が、当該溶湯チタン粒子の凝固が完了するまでに亘って概ね維持できることになる。
一方で、検証例3においては、運転動作時において、中央処理槽の内圧が102[Pa]に維持されるとともに、外側処理槽の内圧が104[Pa]に維持されることが必要である。その場合に、外側処理槽へのアルゴンの導入量と、中央処理槽に対する真空ポンプによる排気速度は、以下の要領で決定すればよい。
外側処理槽と中央処理槽との間に設けられたスリットにおけるアルゴンの流量は、以下の式(22)において表わされる臨界流量G[kg/s]となる。なお、pは、外側処理槽の雰囲気の内圧(すなわち上記内圧P2)であり、Aは、スリットの開口面積[m2]である。
ここで、スリットの開口面積Aは、7.54×10-4[m2]であり、アルゴンの比熱比γは、1.67であり、アルゴンの分子質量は、40×10-3[kg/mol]であり、外側処理槽の雰囲気の内圧pは、104[Pa]であり、一般気体定数Raは、8.314[J/K・mol]であるから、臨界流量Gは、0.0219[kg/s](=1348[Pa・m3/s])となる。
以上より、検証例3においては、運転動作時において、中央処理槽の内圧が102[Pa]に維持されるとともに、外側処理槽の内圧が104[Pa]に維持されることとなるように、外側処理槽にアルゴンを1348[Pa・m3/s](744[SLM])の流量にて導入しつつ、中央処理槽から1348[Pa・m3/s]/102[Pa](=13480[L/s]=48530[m3/h])の排気速度で排気を行なえばよいことになる。
なお、上述した排気速度の真空ポンプは、比較的大型のものとなるが、たとえばスリットの幅をより小さくすれば、その分だけ小さい排気速度の真空ポンプにて対応できることになり、また、中央処理槽の内圧を102[Pa]よりも幾分高く設定すれば、その分だけ小さい排気速度の真空ポンプにて対応できることになる。たとえば、スリットの幅を半分とし、中央処理槽の内圧を103[Pa]とした場合には、2427[m3/h]の排気速度の真空ポンプで対応できることになる。
他方、検証例1においては、たとえば、回転ディスク装置に設けられたターボ分子ポンプに100[L/s]程度の排気速度を持たせ、同じく回転ディスク装置に設けられたネジ溝真空ポンプに10[L/s]程度の排気速度を持たせ、さらに、補助真空ポンプに50[L/min]程度の排気速度を持たせればよい。これにより、チャンバ内を上述した高真空状態あるいは超高真空状態に維持することができる。
また、検証例2においては、たとえば、回転ディスク装置に設けられたネジ溝真空ポンプに1.86[L/s]の排気速度を持たせるとともに、補助真空ポンプに50[L/min]程度の排気速度を持たせ、さらに、気体導入部によってチャンバ内に100[sccm](=186[Pa・L/s])のアルゴンを導入することにより、チャンバ内の圧力を100[Pa]に維持することができる。
以上において説明した本第2検証シミュレーションの結果によれば、本発明を適用することにより、微細でかつ高い真球度を有する金属粉末を生産性よく製造することが実現可能になることが確認できたと言える。
なお、上述した第1および第2検証シミュレーションは、いずれも微細なチタン粉末を製造することを前提としたものであるが、製造する金属粉末の金属種が異なったり、製造する金属粉末の粒径が異なったりする場合には、それに応じて遠心アトマイザおよびこれに具備される回転ディスク装置の構成や運転条件を適宜変更すればよい。
その場合、ディスクやチャンバ等の大きさや、ディスクの回転速度、チャンバの内圧等を変更するばかりでなく、チャンバに充填される不活性ガスをアルゴン以外のものとすることもできる。たとえば、チャンバに充填される不活性ガスをヘリウムとした場合には、ヘリウムの熱伝導率がアルゴンよりも高いことにより、チャンバをさらに小型化できるメリット等を得ることができる。
今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。