≪発明を実施する形態に至る経緯≫
弾性計測手法を用いた超音波弾性計測では、プッシュ波で弾性値を計測できる領域は狭い領域に限られる。以下、図面を用いて説明する。
図25(a)は、プッシュ波送信振動子列Pxnから送信されたプッシュ波に基づくせん断波Swnが伝播する態様を示す模式図である。プッシュ波ppn(n=1~nmax)の送信焦点FPnに対し、それぞれ送信焦点FPnを含み超音波ビームのエネルギ密度が所定値以上の領域それぞれをフォーカス領域FAnが形成される。
図25(b)は、プッシュ波ppnに基づくせん断波Swnによる組織変位の計測可能領域を示す模式図である。プッシュ波ppnは送信焦点FPn付近の被検体組織を深さ方向に振動させるので、送信焦点FPnを震源とするせん断波は被検体深さ方向に最大振幅を持つ横波である。せん断波は送信焦点FPnを中心に放射状に伝播し、せん断波の波面Swnは送信焦点FPnを中心に同心円状に拡大するが、被検体組織の変位の時間変化からせん断波の伝播状態を高精度に検出するためには、方位方向における被検体組織の変位の時間変化を測定することが好ましく、そのためには、せん断波の伝播方向と方位方向との角度ズレは所定値以下であることが必要である。そのため、せん断波の伝播方向と方位方向との角度ズレが所定値以下となる弾性計測可能領域Cxnは、被検体深さ方向において送信焦点FPnを中心とし、フォーカス領域FAnの大きさに基づく限られた長さCLとなる。
そのため、被検体内の異なる位置に複数のプッシュ波を送信することにより関心領域内に広い波面を有したせん断波を疑似的に発生させ、伝播解析の精度向上を図ることが考えられる。
広い計測領域を確保するためには、例えば、複数のプッシュ波を連続して入射することでプッシュ波列を形成し複数のせん断波源をほぼ同時に生成するMachCone法を用いることができる。通常、MachCone法では各プッシュ波の送信焦点の深さ方向の位置は等間隔に設定され、プッシュ波の送信間隔も同一に設定される。
図25(c)は、プッシュ波列を構成したときのせん断波による計測可能領域を示す模式図である。nmax=4とし、隣接する送信焦点fz間の間隔Δfz2、3、4を等価とした例である。送信焦点fz1~4において、フォーカス領域FA1~4における深さ方向の長さをAF1~4と表す。送信焦点fz1~4に位置する各波源から発生した球面波が合成されて仮想的な平面波を構成する。
そのため、この方法によれば、1つのプッシュ波を用いる場合と比べて、より広範囲な弾性計測を行うことができるとともに、1つのプッシュ波を用いた弾性計測を送信焦点fz1~4の位置をずらして4回繰り返し、得られた計測結果を繋ぎ合わせる方法に比べて、よりS/Nの高い弾性画像を得ることができる。しかしながら、せん断波は伝搬に伴い減衰するので、計測位置がプッシュ波列の形成位置から離れるにしたがい、変位計測のSNが低下するという課題が残る。
そこで、複数のプッシュ波列を所定距離だけ離間して形成し、それぞれのプッシュ波列に対する関心領域における計測結果を合成(加算、平均化等)することにより、より広い弾性計測の範囲を確保しつつ、S/N等の画質品質を高める方法が考えられる。すなわち、1つのプッシュ波列を用いる超音波弾性率計測(SWSサブシーケンス)を複数回行い、それぞれのSWSサブシーケンスから得られた結果を統合する統合SWSシーケンスの処理を行う方法である。
図26(a)は、複数のプッシュ波列に基づくせん断波が伝播する態様、(b)から(e)は、想定される関心領域の態様を示す模式図である。図26(a)において、丸の中の数字はプッシュ波列pps1、2においてプッシュ波(pp1~4)が送信される順序を表した数字である。図26(a)に示すように、プッシュ波列pps1、2を形成する複数のプッシュ波(pp1~4)の入射には有限時間がかかるため、最初と最後のプッシュ波(pp1と4)による各せん断波の発生時刻にはズレがある。この結果、各球面波を合成して得られる合成波は、プッシュ波列pps1、2の入射方向に対して直交する方向に伝搬するものでなく、一定の角度θMA(マッハ角)をなす
これに対し、プッシュ波列に対する計測対象領域rom1、2を単純に矩形のまま、幅W1を広く確保すると、浅部でプッシュ波列送信による組織の歪が過大でありその緩和に時間がかかるために弾性計測に適さない歪領域DRと重なり正常な変位計測が困難になる(図26(b))。対して、プッシュ波列の歪領域DRを避けて計測対象領域rom1、2を設定すると、計測対象領域rom1、2の幅W2そのものが狭くなる(図26(c))。これに対し、計測対象領域rom1、2を平行四辺形等に変形すれば、歪領域DRは回避できるものの、深部において隣接するプッシュ波列の計測対象領域rom1、2の重ね合せ領域の幅W4が浅部における重ね合せ領域の幅W3に比べて狭くなる(図26(d))。あるいは、深部において計測対象領域rom1、2を拡大するとプッシュ波からの計測距離L2が浅部における計測距離L1に比べて大きくなって減衰によるS/N低下が拡大し(図26(e))、深度による品質の不均一性という超音波計測における本質的課題を助長することとなる。
そこで、発明者は、複数のプッシュ波列に基づく弾性計測結果を合成する際に、プッシュ波列の形状に起因した計測品質の不均一性(深度依存性)を軽減する手法について鋭意検討し、本実施の形態に係る超音波診断装置、及び超音波信号処理方法に想到したものである。
≪実施の形態1≫
<超音波弾性計測の概要>
超音波診断装置100は、超音波弾性率計測法により組織の弾性率を表すせん断波の伝播速度を算出する処理を行う。図1は、超音波診断装置100における超音波弾性率計測法によるSWSシーケンスの概要を示す概略図である。図1中央の枠内に示すように、超音波診断装置100の処理は、「基準検出波パルス送受信」、「プッシュ波パルス送信」、「検出波パルス送受信」、「弾性率算出」の工程から構成される。
「基準検出波パルス送受信」の工程では、超音波プローブに基準検出波パルスpwp0を送信して、複数の振動子に被検体中の計測対象領域romに対応する範囲に検出波pw0の送信と反射波ecの受信とを行わせて、組織の初期位置の基準となる音響線信号を生成する。
「プッシュ波パルス送信」の工程では、超音波プローブにプッシュ波パルスpppを送信して、複数の振動子に被検体内の特定部位に超音波を集束させたプッシュ波ppを送信させて、被検体組織にせん断波を励起させる。
その後、「検出波パルス送受信」の工程で、超音波プローブに検出波パルスpwpl(lは1から検出波パルスpwpの送信回数mまでの自然数、番号を区別しない場合は検出波パルスpwplとする)を送信して、複数の振動子に検出波pwlの送信と反射波ecの受信とを複数回繰り返し行わせることで、せん断波を計測する。「弾性率算出」の工程では、先ず、プッシュ波の音響放射圧により生じたせん断波の伝播に伴う組織の変位分布ptlを時系列に算出し、次に、得られた変位分布ptlの時系列な変化から組織の弾性率を表すせん断波の伝播速度を算出するせん断波伝搬解析を行い、最後に組織弾性の分布を、例えば画像化して弾性画像(エラストグラフィ)として表示する。
以上に示した、プッシュ波pp送信に基づく1回のせん断波励起に伴う一連の工程を「SWSサブシーケンス」((SWS:Shear Wave Speed)とする。また、複数回の「SWSサブシーケンス」と、複数回の「SWSサブシーケンス」から得られた伝播速度又は組織弾性の分布を合成して合成弾性画像を生成する工程とを含む、統合された工程を「統合SWSシーケンス」とする。
<超音波診断システム1000>
1.構成概要
実施の形態1に係る超音波診断装置100を含む超音波診断システム1000について、図面を参照しながら説明する。図2は、実施の形態1に係る超音波診断システム1000の機能ブロック図である。図2に示すように、超音波診断システム1000は、被検体に向けて超音波を送信し、その反射波の受信する先端表面に列設された複数の振動子(振動子列)101aを有する超音波プローブ101(以下、「プローブ101」とする)、プローブ101に超音波の送受信を行わせプローブ101からの出力信号に基づき超音波画像を生成する超音波診断装置100、検査者からの操作入力を受け付ける操作入力部102、超音波画像を画面上に表示する表示部114を有する。プローブ101、操作入力部102、表示部114は、それぞれ、超音波診断装置100に各々接続可能に構成されている。
次に、超音波診断装置100に外部接続される各要素について説明する。
2.プローブ101
プローブ101は、例えば一次元方向(以下、「列方向」とする)に配列された複数の振動子101aからなる振動子列(101a)を有する。プローブ101は、後述の送信部106から供給されたパルス状の電気信号(以下、「送信信号」とする)をパルス状の超音波に変換する。プローブ101は、プローブ101の振動子側外表面を超音波ジェル等を介して被検体の皮膚表面に当てた状態で、複数の振動子から発せられる複数の超音波からなる超音波ビームを測定対象に向けて送信する。そして、プローブ101は、被検体からの複数の反射検出波(以下、「反射波」とする)を受信し、複数の振動子101aによりこれら反射波をそれぞれ電気信号に変換して超音波診断装置100に供給する。
3.操作入力部102
操作入力部102は、検査者からの超音波診断装置100に対する各種設定・操作等の各種操作入力を受け付け超音波診断装置100の制御部116に出力する。
操作入力部102は、例えば、表示部114と一体に構成されたタッチパネルであってもよい。この場合、表示部114に表示された操作キーに対してタッチ操作やドラッグ操作を行うことで超音波診断装置100の各種設定・操作を行うことができ、超音波診断装置100がこのタッチパネルにより操作可能に構成される。また、操作入力部102は、例えば、各種操作用のキーを有するキーボードや、各種操作用のボタン、レバー等を有する操作パネルやマウス等であってもよい。
4.表示部114
表示部114は、いわゆる画像表示用の表示装置であって、後述する表示制御部113からの画像出力を画面に表示する。表示部114には、液晶ディスプレイ、CRT、有機ELディスプレイ等を用いることができる。
<超音波診断装置100の構成概要>
次に、実施の形態1に係る超音波診断装置100について説明する。
超音波診断装置100は、プローブ101の複数ある振動子101aのうち、送信又は受信の際に用いる振動子を各々に選択し、選択された振動子に対する入出力を確保するマルチプレクサ部107、超音波の送信を行うためにプローブ101の各振動子101aに対する高電圧印加のタイミングを制御する送信部106と、プローブ101で受信した反射波に基づき、受信ビームフォーミングして音響線信号を生成する検出波受信部108を有する。
また、操作入力部102からの操作入力に基づき被検体内の検査者の関心のある領域を表す関心領域roiを設定し、関心領域roiとプッシュ波列ppsを構成する複数のプッシュ波の送信焦点の位置及び送信順序とに基づき実際の計測対象範囲である計測対象領域ronを複数の振動子101aを基準に設定する領域設定部103、複数の振動子101aにプッシュ波パルスpppを送信させるプッシュ波パルス発生部104、プッシュ波パルスpppに続き検出波パルスpwplを複数(m)回送信させる検出波パルス発生部105を有する。
また、音響線信号から計測対象領域rom内の組織の変位を検出する変位検出部109、検出した組織の変位からせん断波の伝播情報解析を行い計測対象領域rom内の各観測点におけるせん断波の波面到達時間を算出してせん断波の伝播速度を算出する伝播情報解析部110、SWSシーケンス毎に算出されたせん断波の伝播速度を複数のSWSシーケンスについて合成する合成部112、計測対象領域rom内の各観測点における弾性率を算出する弾性率算出部111を有する。
また、検出波受信部108が出力する音響線信号、変位検出部109が出力する変位量データ、伝播情報解析部110が出力する波面データ、波面到達時間データ及び速度値データ、弾性率算出部111が出力する弾性率データ等を保存するデータ格納部115、表示画像を構成して表示部114に表示させる表示制御部113、さらに、各構成要素を制御する制御部116を備える。
このうち、マルチプレクサ部107、送信部106、検出波受信部108、領域設定部103、プッシュ波パルス発生部104、検出波パルス発生部105、変位検出部109、伝播情報解析部110、弾性率算出部111は、超音波信号処理回路150を構成する。
超音波信号処理回路150を構成する各要素、制御部116、表示制御部113は、それぞれ、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェア回路により実現される。あるいは、CPU(Central Processing Unit)やGPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Unit)やプロセッサなどのプログラマブルデバイスとソフトウェアにより実現される構成であってもよい。これらの構成要素は一個の回路部品とすることができるし、複数の回路部品の集合体にすることもできる。また、複数の構成要素を組合せて一個の回路部品とすることができるし、複数の回路部品の集合体にすることもできる。
データ格納部115は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、MO、DVD、DVD-RAM、半導体メモリ等を用いることができる。また、データ格納部115は、超音波診断装置100に外部から接続された記憶装置であってもよい。
なお、本実施の形態1に係る超音波診断装置100は、図1で示した構成の超音波診断装置に限定されない。例えば、マルチプレクサ部107が不要な構成もあるし、プローブ101に送信部106や検出波受信部108、またその一部などが内蔵される構成であってもよい。
<超音波診断装置100の各部構成>
次に、超音波診断装置100に含まれる各ブロックの構成について説明する。
1.領域設定部103
一般に、表示部114にプローブ101によりリアルタイムに取得された被検体の断層画像であるBモード画像が表示されている状態において、操作者は、表示部114に表示されているBモード画像を指標として、被検体内の検査者の関心のある領域を指定し操作入力部102に入力する。領域設定部103は、操作入力部102から操作者により指定された情報を入力として設定し、制御部116に出力する。このとき、領域設定部103は、被検体内の検査者の関心のある領域をあらわす関心領域roiをプローブ101にある複数の振動子101aからなる振動子列(101a)の位置を基準に設定してもよい。例えば、関心領域roiは、複数の振動子101aからなる振動子列(101a)を含む検出波照射領域Ax内の全部又は一部領域であってもよい。
2.プッシュ波パルス発生部104
プッシュ波パルス発生部104は、制御部116から関心領域roiを示す情報を入力し、関心領域roiの近傍又は内部の所定位置に特定点を設定する。そして、複数の振動子101aに送信部106からプッシュ波パルスpppn(n=1~nmax)を複数(nmax)回送信させることにより、複数の振動子101aに特定点(以後、「送信焦点FPn」(n=1~nmax)とする。)に対応する被検体中の特定部位に超音波ビームが集束するプッシュ波ppn(n=1~nmax)を、被検体の浅部から深部に向けた送信順序又は深部から浅部に向けた送信順序の何れかで送信させるプッシュ波の送信を複数回(本実施例では2回)、行うことにより、プッシュ波列pps1、pps2(1,2を区別しない場合はプッシュ波列ppsとする)を形成する。このとき、プッシュ波列ppsを構成するプッシュ波の送信順序は、被検体の浅部から深部に向けた送信順序又は深部から浅部に向けた送信順序の何れから選択され、プッシュ波の送信は列方向に隣接する2つのプッシュ波列の送信において互いに異なる送信順序で行われる。これより、被検体中の送信焦点FPnに位置する各波源から発生した球面波が合成されて仮想的な平面波を構成する。プッシュ波列ppsにおける、プッシュ波パルスpppnの送信回数(nmax)は、例えば、3以上8以下、さらに好ましくは、4以上6以下としてもよい。しかしながら、nmaxは、上記に限定されず適宜変更可能であることは言うまでもない。
図3は、2つのSWSサブシーケンスを有する統合SWSサブシーケンスにおける、それぞれのSWSサブシーケンスにおいてプッシュ波パルス発生部104で発生させるプッシュ波ppnの送信焦点FPnの位置を示す模式図であり、(a)は後述する図12におけるSWSサブシーケンス1、(b)はSWSサブシーケンス2に対応する。図3(a)に示すように、プッシュ波列pps1ではプッシュ波の送信順序は被検体の浅部から深部に向けた送信順序(正方向:pps1「F」と表記する)であり、図3(b)に示すように、プッシュ波列pps2では深部から浅部に向けた送信順序(逆方向:pps2「R」と表記する)である。
関心領域roiの列方向長さw0及び被検体深さ方向の長さh0が、それぞれ平面波による超音波照射範囲の列方向長さa及び被検体深さ方向の長さb以下であり、超音波照射範囲の中心付近に関心領域roiが設定される場合を例に説明する。
送信焦点FPnは、関心領域roiの近傍であって関心領域roi外の所定位置に設定される構成としている。このとき、関心領域roiの近傍に設定する場合には、送信焦点FPは関心領域roiに対してせん断波が関心領域roiへ到達可能な距離に設定される。本実施の形態では、送信焦点FPnの位置のうち、例えば、列方向送信焦点位置fxは、関心領域roiの外方であって、図3(a)では関心領域roiの左方に位置し、図3(b)では関心領域roiの右方に位置する構成とし、深さ方向送信焦点位置fzn(n=1~nmax)は、隣接する送信焦点fzn間の間隔Δfznが被検体の深さにかかわらず一定である構成とした。
また、プッシュ波パルス発生部104は、関心領域roiを示す情報に基づき、プッシュ波の送信焦点FPnの位置とプッシュ波ppnを送信させる振動子列(以後、「プッシュ波送信振動子列Pxn」とする)を以下に示すように決定する。本実施の形態では、プッシュ波パルス送信振動子列Pxn(n=1~nmax)の長さは複数の振動子101a全部の列の長さaとする構成とした。
送信焦点FPnの位置と、プッシュ波送信振動子列Pxnを示す情報は、プッシュ波パルスpppnのパルス幅PWn、印加開始時刻PTnとともに、送信制御信号として送信部106に出力される。また、印加開始時刻PTnの時間間隔PInを含めてもよい。なお、プッシュ波パルスpppnのパルス幅PWn、印加開始時刻PTn、及び時間間隔PInについては後述する。
なお、以上の構成において、プッシュ波パルス送信振動子列Pxnの長さは上記に限られず、被検体の検査すべき部位の形態等により適宜変更してもよい。例えば、プッシュ波パルス送信振動子列Pxnを、複数の振動子101aの列の一部とする構成としてもよい。また、プッシュ波パルス送信振動子列Pxnの長さが送信焦点FPnによって異なる構成としてもよい。例えば、プッシュ波送信振動子列Pxは、深さ方向送信焦点位置fznに基づき設定される構成としてもよい。
また、関心領域roiと送信焦点FPnとの位置関係は上記に限られず、被検体の検査すべき部位の形態等により適宜変更してもよい。例えば、図3(a)(b)に示す例を、送信焦点FPの位置のうち列方向送信焦点位置fxが関心領域roiの内部であって、関心領域roiの列方向中心位置からX軸の正又は負の方向にオフセットされた構成に変更してもよい。
なお、プッシュ波による超音波ビームが「集束」するとは、超音波ビームが絞られフォーカスビームであること、すなわち、超音波ビームに照射される面積が送信後に減少し特定の深さにおいて最小値を採ることを指し、超音波ビームが1点にフォーカスされる場合に限られない。この場合、「送信焦点FP」とは、超音波ビームが集束する深さにおける超音波ビーム中心をさす。
また、本明細書では、以降において、プッシュ波パルスpppn、プッシュ波ppn、プッシュ波送信振動子列Pxn、送信焦点FPn、深さ方向送信焦点位置fzn、隣接する送信焦点fzn間の間隔Δfzn、プッシュ波パルスpppnのパルス幅PWn、印加開始時刻PTn、印加開始時刻PTnの時間間隔PInの送信順(n)の区別しない場合には、これらのnを付さずに表記するものとする。
(領域設定部103における計測対象領域romの決定について)
さらに、領域設定部103は、関心領域roiを含み複数のプッシュ波列pps毎に複数のプッシュ波列pps1、2を構成する複数のプッシュ波の送信焦点FPnの位置と、複数のプッシュ波の送信順序とに基づき被検体内の実際の計測対象範囲となる計測対象領域romを決定する。
図4(a)(b)は、図3(a)(b)に対応して、領域設定部103にて設定される計測対象領域romとプッシュ波列との位置関係を示す模式図である。具体的には、領域設定部103は、列方向に隣接する2つのプッシュ波列ppsを構成する複数のプッシュ波の送信焦点FPnを結ぶ中心線間LNにおいて、それぞれの中心線LN1、2(1,2を区別しない場合は中心線LNとする)から離間するように計測対象領域romを決定する。さらに、図4(a)に示すように、被検体の浅部から深部に向けた送信順序でプッシュ波が送信されたプッシュ波列pps1に対しては、深部における中心線LN1と計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnは浅部における中心線LN1と計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnよりも小さい構成とし、図4(b)に示すように、被検体の深部から浅部に向けた送信順序でプッシュ波が送信されたプッシュ波列pps2に対しては、浅部における中心線LN2と計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnは深部における中心線LN2と計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnよりも小さい構成としている。プッシュ波列ppsの中心線LNに位置する歪領域を避けて計測対象領域romを設定するためである。
また、計測対象領域romの幅w10は、関心領域roiの幅w0に基づき決定され、計測対象領域romの高さh10は、関心領域roiの高さh0に基づき決定される。
3.検出波パルス発生部105
検出波パルス発生部105は、制御部116から関心領域roiを示す情報を入力し、複数の振動子101aに送信部106から検出波パルスpwplを複数回送信させることにより超音波ビームが計測対象領域romを通過するよう、検出波パルス送信振動子列Txに属する複数の振動子101aに検出波pwを送信させる。具体的には、検出波パルス発生部105は、関心領域roiを示す情報に基づき、超音波ビームが関心領域roiを通過するよう、検出波パルスpwplを送信させる振動子列(以後、「検出波送信振動子列Tx」とする)を決定する。このとき、検出波パルスpwplの送信回数(m)は、例えば、30~100としてもよい。また、検出波パルスpwplの送信間隔は、例えば、100μsec~150μsecとしてもよい。しかしながら、これらの印加条件は、上記に限定されず適宜変更可能であることは言うまでもない。
図5は、検出波パルス発生部105で発生させる検出波パルスpwplの構成概要を示す模式図である。図5に示すように、検出波パルス発生部105は、検出波パルス送信振動子が同位相で駆動されるいわゆる平面波である検出波が計測対象領域rom全体を通過するように検出波パルス送信振動子列Txを設定する。検出波パルス送信振動子列Txの長さaは計測対象領域romの最大幅w10maxよりも大きく設定されることが好ましい。本例では、計測対象領域romの最大幅w10maxは検出波パルス送信振動子列Txの列方向の端部よりも所定距離βだけ内方に位置するように設定される。検出波pwは平面波であるので列方向と垂直なZ方向に伝播する。したがって、計測対象領域romは、X方向両端において距離βだけマージンを持って超音波照射領域Axに含まれる。これより、1回の検出波の送受信により計測対象領域rom全体にある観測点について音響線信号を生成できるとともに、超音波ビームが確実に計測対象領域rom全体を通過するように前記検出波パルスpwplを送信することができる。しかしながら、検出波の送受信回数は上記に限られず、例えば、1回の検出波の送受信により計測対象領域romの一部にある観測点について音響線信号を生成して、この検出波の送受信を複数回行うことにより、各送受信から得られた音響線信号を合成して計測対象領域rom全体の観測点について音響線信号を生成する構成としてもよい。
また、検出波パルス送信振動子列Txは複数の振動子101a全部とする構成としてもよい。超音波照射領域Axを、平面波による最大超音波照射領域Axmaxとすることができる。
検出波パルス送信振動子列Txを示す情報は、検出波パルスpwplのパルス幅とともに、送信制御信号として送信部106に出力される。
4.送信部106
送信部106は、マルチプレクサ部107を介してプローブ101と接続され、プローブ101から超音波の送信を行うために、プローブ101に存する複数の振動子101aの全てもしくは一部に当たるプッシュ波送信振動子列Px又は検出波送信振動子列Txに含まれる複数の振動子各々に対する高電圧印加のタイミングを制御する回路である。なお、図2に示すように、プッシュ波パルス発生部104と送信部106とを含む構成をプッシュ波パルス送信部1041とし、送信部106と検出波パルス発生部105とを含む構成を検出波パルス送信部1051とする。
図6(a)は、送信部106の構成を示す機能ブロック図である。図6(a)に示すように、送信部106は、駆動信号発生部1061、遅延プロファイル生成部1062、駆動信号送信部1063を含む。
(1)駆動信号発生部1061
駆動信号発生部1061は、プッシュ波パルス発生部104又は検出波パルス発生部105からの送信制御信号のうち、プッシュ波送信振動子列Px又は検出波送信振動子列Txを示す情報、プッシュ波パルスpppnのパルス幅PWn、印加開始時刻PTnを示す情報、検出波パルスpwplのパルス幅、印加開始時刻を示す情報とに基づき、プローブ101に存する振動子101aの一部又は全部に該当する送信振動子から超音波ビームを送信させるためのパルス信号spを発生する回路である。
(2)遅延プロファイル生成部1062
遅延プロファイル生成部1062では、プッシュ波パルス発生部104又は検出波パルス発生部105から得られる送信制御信号のうち、プッシュ波送信振動子列Pxn又は検出波送信振動子列Txと送信焦点FPnの位置を示す情報とに基づき、超音波ビームの送信タイミングを決める印加開始時刻PTnからの遅延時間tpk(kは、1から振動子101aの数kmaxまでの自然数)を振動子毎に設定して出力する回路である。これにより、遅延時間分だけ振動子毎に超音波ビームの送信を遅延させて超音波ビームのフォーカシングを行う。
(2)駆動信号送信部1063
駆動信号送信部1063は、駆動信号発生部1061からのパルス信号spと遅延プロファイル生成部1062からの遅延時間tpkとに基づき、プローブ101に存する複数の振動子101a中、プッシュ波送信振動子列Pxに含まれる各振動子にプッシュ波を送信させるためのプッシュ波パルスpppを供給するプッシュ波送信処理を行う。プッシュ波送信振動子列Pxは、マルチプレクサ部107によって選択される。
図7(a)から(b)は、プッシュ波パルスの印加タイミングを示す模式図である。
生体に物理的変位を起こすプッシュ波には、通常のBモード表示等に用いる送信パルスに比して格段に大きなパワーが求められる。即ち、パルサ(超音波発生器)に与える駆動電圧として、Bモード画像の取得では通常30~40Vでも成立する場合があるのに対して、プッシュ波では、例えば、50V以上を要する。また、Bモード画像の取得では、送信パルス長は数μsec程度であるが、プッシュ波には1送信あたり数百μsecの送信パルス長を必要とする。
本実施の形態では、図7(a)に示すように、駆動信号送信部1063から複数(nmax)回のプッシュ波パルスpppnがそれぞれの印加開始時刻PTnに複数の振動子101aに送信される。プッシュ波パルスpppnは、図7(b)に示すように、所定のパルス幅PWn(時間長)を有し所定の電圧振幅(+V~-V)、所定周波数からなるバースト信号からなる。具体的には、パルス幅PWnは、例えば、100~200μsec、周波数は、例えば、6MHz、電圧振幅は、例えば、+50V~-50Vとしてもよい。しかしながら、印加条件は上記に限定されないことは言うまでもない。
また、図7(a)に示すように、プッシュ波パルスpppnごとの印加開始時刻PTnは、プッシュ波パルスpppnごとの印加開始時刻PTnの時間間隔PInが、プッシュ波パルスpppnの印加ごとに変わらない構成としている。これにより、プッシュ波パルスpppnごとの深さ方向送信焦点位置fznは、図4(a)(b)に示すように、隣接する送信焦点fzn間の間隔Δfznが被検体の深さにかかわらず一定にすることができる。また、図7(a)に示すように、プッシュ波パルスpppnごとのパルス幅PWnは、プッシュ波パルスpppnの印加順にかかわらず一定としてもよい。あるいは、プッシュ波パルスpppnごとの印加開始時刻PTnの時間間隔を変化させてもよく、プッシュ波パルスpppnごとのパルス幅PWnを時間間隔に適合させて電力配分を適正化してもよい。
図8(a)から(d)は、プッシュ波の概要を示す模式図である。プッシュ波パルスpppnごとの印加開始時刻PTnにプッシュ波送信振動子列Pxに対し、振動子列の中心に位置する振動子に対して大きな遅延時間tpkを有する分布が適用されたプッシュ波パルスpppが送信される。これにより、プッシュ波送信振動子列Pxから送信焦点FPnに対応する被検体中の特定部位に超音波ビームが集束するプッシュ波ppnが送信させる。このとき、隣接する送信焦点fzn間の間隔Δfznは、被検体の深さにかかわらず一定となるようプッシュ波ppnが送信される。
また、超音波ビームが集束する深さにおける超音波ビーム中心である送信焦点FPnに対し、送信焦点FPを含み超音波ビームのエネルギ密度が所定値以上の領域それぞれをフォーカス領域FAnとすると、フォーカス領域FAnの深さ方向の長さAFnは、被検体の深部ほど長く浅部ほど短い構成となる。
また、駆動信号送信部1063は、プローブ101に存する複数の振動子101a中、検出波送信振動子列Txに含まれる各振動子に超音波ビームを送信させるための検出波パルスpwplを供給する検出波送信処理を行う。検出波送信振動子列Txは、マルチプレクサ部107によって選択される。
図9(a)は、検出波送信の概要を示す模式図である。検出波送信振動子列Txに含まれる振動子に対しては遅延時間tpkが適用されず、検出波送信振動子列Txに対して位相が等しい検出波パルスpwplが送信される。これにより、図9(a)に示すように、検出波送信振動子列Tx中の各振動子から被検体深さ方向に進行する平面波を伝搬させる。検出波が到達する被検体内の範囲に対応し検出波送信振動子列Txを含む平面内の領域が検出波照射領域Axとなる。
各SWSサブシーケンスにおいて、送信部106は、プッシュ波列ppsを形成するための一連のプッシュ波パルスppp送信後に、検出波パルス発生部105からの送信制御信号に基づき検出波パルスpwplを複数回送信する。一連のプッシュ波パルスppp送信後に、同一の検出波送信振動子列Txから複数回行われる一連の検出波パルスpwpl送信の各回を「送信イベント」と称呼する。
2.検出波受信部108の構成
検出波受信部108は、複数回の検出波パルスpwplの各々に対応して複数の振動子101aにおいて時系列に受信された被検体組織からの反射波に基づき、検出波照射領域Ax内の複数の観測点Pijに対する音響線信号を生成して音響線信号サブフレームデータdsl(lは1からmまでの自然数、番号を区別しない場合は音響線信号サブフレームデータdslとする)のシーケンスを生成する回路である。すなわち、検出波受信部108は、検出波パルスpwplを送信した後、プローブ101で受信した反射波に基づき、複数の振動子101aで得られた電気信号から音響線信号を生成する。ここで、iは検出波照射領域Axにおけるx方向の座標を示す自然数であり、jはz方向の座標を示す自然数である。なお、「音響線信号」とは、受波信号(RF信号)を整相加算処理した信号である。
図6(b)は、検出波受信部108の構成を示す機能ブロック図である。検出波受信部108は、入力部1081、受波信号保持部1082、整相加算部1083を備える。
2.1 入力部1081
入力部1081は、マルチプレクサ部107を介してプローブ101と接続され、プローブ101において反射波に基づき受波信号(RF信号)を生成する回路である。ここで、受波信号rfk(kは1からnまでの自然数である)とは、検出波パルスpwplの送信に基づいて各振動子にて受信された反射波から変換された電気信号をA/D変換したいわゆるRF信号であり、受波信号rfkは各受波振動子rwkにて受信された超音波の送信方向(被検体の深さ方向)に連なった信号の列(受波信号列)から構成されている。
入力部1081は、受波振動子rwkの各々が得た反射波に基づいて、送信イベントごとに各受波振動子rwkに対する受波信号rfkの列を生成する。受波振動子列はプローブ101に存する複数の振動子101aの一部又は全部にあたる振動子列から構成されており、制御部116からの指示に基づきマルチプレクサ部107によって選択される。本例では、複数の振動子101aの全部が受波振動子列として選択される構成とした。これにより、反射検出波受信の概要を示す図9(b)に示すように、1回の受信処理により検出波照射領域Ax内全域に存する観測点からの反射波を全ての振動子を用いて受波して全ての振動子に対する受波振動子列を生成することができる。生成された受波信号rfkは、受波信号保持部1082に出力される。
2.2 受波信号保持部1082
受波信号保持部1082は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、半導体メモリ等を用いることができる。受波信号保持部1082は、送信イベントに同期して入力部1081から、各受信振動子rwkに対する受波信号rfkを入力し、1枚の音響線信号サブフレームデータが生成されるまでこれを保持する。
なお、受波信号保持部1082は、データ格納部115の一部であってもよい。
2.3 整相加算部1083
整相加算部1083では、送信イベントに同期して計測対象領域rom内の観測点Pijから、検出波パルス受信振動子列Rxに含まれる受信振動子Rpkが受信した受波信号rfkに遅延処理を施した後、全ての受信振動子Rpkについて加算して音響線信号dsを生成する回路である。検出波パルス受信振動子列Rxはプローブ101に存する複数の振動子101aの一部又は全部にあたる受信振動子Rpkから構成されており、制御部116からの指示に基づき整相加算部1083とマルチプレクサ部107によって選択される。本例では、反射波受信振動子列Rxとして、各送信イベントにおける検出波パルス送信振動子列Txを構成する振動子を少なくとも全て含む振動子列が選択される構成とした。
整相加算部1083は、受波信号rfkに対する処理を行うための遅延処理部10831、加算部10832を備える。
(1)遅延処理部10831
遅延処理部10831は、検出波パルス受信振動子列Rx内の受信振動子Rpkに対する受波信号rfkから、観測点Pijと受信振動子Rpk各々との間の距離の差を音速値で除した受信振動子Rpk各々への反射超音波の到達時間差(遅延量)により補償して、観測点Pijからの反射超音波に基づく受信振動子Rpkに対応する受信信号として同定する回路である。
図10は、遅延処理部10831において、超音波の伝播経路の計算方法の概要を示す模式図である。検出波パルス送信振動子列Txから放射され計測対象領域rom内の任意の位置にある観測点Pijにおいて反射され受信振動子Rpkに到達する超音波の伝播経路を示したものである。
a)送信時間の算出
検出波送信振動子列Tx(振動子列(101a)全体)から送信される検出波pwlは上述のとおり平面波である。したがって、遅延処理部10831は、送信イベントに対応して、観測点Pijまでの送信経路を、検出波送信振動子列Txから発された検出波pwlが観測点Pijに到達するまでの最短経路401として算出し、これを音速で除して送信時間を算出する。
b)受信時間の算出
遅延処理部10831は、送信イベントに対応して、観測点Pijについて、観測点Pijで反射され検出波受信振動子列Rxに含まれる受信振動子Rpkに到達するまでの受信経路を算出する。観測点Pijでの反射波が受信振動子Rpkに戻っていくときの受信経路は、任意の観測点Pijから各受信振動子Rpkまでの経路402の長さは幾何学的に算出する。これを音速で除して受信時間を算出する。
c)遅延量の算出
次に、遅延処理部10831は、送信時間と受信時間とから各受信振動子Rpkへの総伝播時間を算出し、当該総伝播時間に基づいて、各受信振動子Rpkに対する受波信号列rfkに適用する遅延量を算出する。
d)遅延処理
次に、遅延処理部10831は、各受信振動子Rpkに対する受波信号列rfkから、遅延量に相当する受波信号rfk(遅延量を差引いた時間に対応する受波信号)を、観測点Pijからの反射波に基づく受信振動子Rpkに対応する信号として同定する。
遅延処理部10831は、送信イベントに対応して、受波信号保持部1082から受波信号rfkを入力として、計測対象領域rom内に位置する全ての観測点Pijについて、各受信振動子Rpkに対する受波信号rfkを同定する。
(2)加算部10832
加算部10832は、遅延処理部10831から出力される受信振動子Rpkに対応して同定された受波信号rfkを入力として、それらを加算して、観測点Pijに対する整相加算された音響線信号dsijを生成する回路である。
さらに、各受信振動子Rpkに対応して同定された受波信号rfkに対し、受信アポダイゼーション(重み数列)を乗じた後加算して、観測点Pijに対する音響線信号dsijを生成してもよい。受信アポダイゼーションは、検出波受振動子列Rx内の受信振動子Rpkに対応する受信信号に適用される重み係数の数列である。受信アポダイゼーションは、検出波受振動子列Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるよう設定され、受信アポダイゼーションの分布の中心軸は検出波受振動子列中心軸Rxoと一致し、分布は中心軸に対し対称な形状をなす。分布の形状は特に限定されない。
加算部10832は、計測対象領域rom内に存在する全ての観測点Pijについて音響線信号dsijを生成して音響線信号サブフレームデータdslを生成する。
そして、送信イベントに同期して検出波パルスpwplの送受信を繰り返し、全ての送信イベントに対する音響線信号サブフレームデータdslを生成する。生成された音響線信号サブフレームデータdslは、送信イベントごとにデータ格納部115に出力され保存される。
3.変位検出部109
変位検出部109は、音響線信号サブフレームデータdslのシーケンスから、検出波照射領域Ax内の組織の変位を検出する回路である。
図11は、変位検出部109、伝播情報解析部110、弾性率算出部111、合成部112の構成を示す機能ブロック図である。
変位検出部109は、音響線信号サブフレームデータdslのシーケンスに含まれる変位検出の対象となる1サブフレームの音響線信号サブフレームデータdslと、基準となる1サブフレームの音響線信号サブフレームデータds0(以下、「基準音響線信号サブフレームデータds0」とする)とを、制御部116を介してデータ格納部115から取得する。基準音響線信号サブフレームデータds0とは、各送信イベントに対応する音響線信号サブフレームデータdslにおけるせん断波による変位を抽出するための基準となる信号であり、具体的には、プッシュ波パルスppp送信前に検出波照射領域Axから取得した音響線信号のサブフレームデータである。そして、変位検出部109は、音響線信号サブフレームデータdslと基準音響線信号サブフレームデータds0との差分から、音響線信号サブフレームデータdslの検出波照射領域Ax内の観測点Pijの変位(画像情報の動き)Ptijを検出し、変位ptijを観測点Pijの座標と関連付けて変位量サブフレームデータptl(lは1からmまでの自然数、番号を区別しない場合は変位量サブフレームデータptlとする)を生成する。変位検出部109は、生成した変位量サブフレームデータptlをデータ格納部115に出力する。
4 伝播情報解析部110
伝播情報解析部110は、計測対象領域rom内の複数の観測点Pijについて波面到達時間データatijを算出し、計測対象領域romに対する波面到達時間サブフレームデータatoを算出する回路である。伝播情報解析部110は、波面検出部1101、波面到達時間検出部1102とから構成される。
波面検出部1101は、送信イベントごとに、変位量サブフレームデータptlのシーケンスから、計測対象領域rom内の観測点Pijについて、複数回の検出波パルスpwplのそれぞれに対応する時間軸上の複数時点におけるせん断波の波面位置wfijを表した波面サブフレームデータwfl(lは1からmまでの自然数、番号を区別しない場合は波面サブフレームデータwflとする)のシーケンスを生成してデータ格納部115に出力する。
具体的には、波面検出部1101は、変位量サブフレームデータptlをデータ格納部115から取得する。伝播情報解析部110は、変位量サブフレームデータptlから変位データptijの極大点を検出し、XZ平面内で連続している変位データptijの極大点をその座標ijをせん断波の波面位置wfijとして抽出する。変位データptijから波面位置wfijの抽出方法については、図14、図15(a)(b)において後術する。各送信イベントにおける計測対象領域romについて波面位置wfijを抽出して波面サブフレームデータwflのシーケンスを生成する。
波面到達時間検出部1102は、波面サブフレームデータwflのシーケンスから、波面サブフレームデータwflの依拠する変位量サブフレームデータptlを取得した各時刻における、せん断波の波面wfとその位置wfij、進行方向を検出し、波面サブフレームデータwflの波面位置wfijとサブフレームデータ取得時刻tlとに基づき、波面到達時間サブフレームデータato(oは異なる波面の数をあらわす自然数、番号を区別しない場合は波面到達時間サブフレームデータatとする)を生成してデータ格納部115に出力する。
伝播速度変換部1103は、波面到達時間サブフレームデータatoを、計測対象領域rom内の観測点Pijにおける伝播速度データvijに変換して、計測対象領域romに対する伝播速度サブフレームデータvを生成してデータ格納部115に出力する。
6 弾性率算出部111
弾性率算出部111は、計測対象領域rom内の観測点Pijについて組織の弾性率を算出し、計測対象領域romに対する弾性率サブフレームデータelsfを算出する回路である。弾性率算出部111は、弾性率変換部1111から構成される。弾性率変換部1111は、伝播速度サブフレームデータvsfを入力として、伝播速度データvを計測対象領域rom内の観測点Pijにおける弾性率データelに変換して、計測対象領域romに対する弾性率サブフレームデータelsfを生成してデータ格納部115に出力する。
7 合成部112
統合SWSシーケンスに含まれる複数のSWSサブシーケンスについて、弾性率サブフレームデータelsfが生成されてデータ格納部115に出力され保存されている状態において、合成部112は、それぞれのSWSサブシーケンスにおけるプッシュ波列ppsの送信に対応して得られた弾性率サブフレームデータelsfを合成して弾性率フレームデータelfを算出する。合成は、例えば、弾性率サブフレームデータelsfを観測点の座標ijを基準に平均化する処理であってもよい。
8.その他の構成
データ格納部115は、生成された受波信号列rf、音響線信号サブフレームデータdslのシーケンス、変位量サブフレームデータptlのシーケンス、波面サブフレームデータwflのシーケンス、波面到達時間サブフレームデータatoのシーケンス、伝播速度サブフレームデータvsf、弾性率サブフレームデータelsf、弾性率フレームデータelfを逐次記録する記録媒体である。
制御部116は、操作入力部102からの指令に基づき、超音波診断装置100内の各ブロックを制御する。制御部116にはCPU等のプロセッサを用いることができる。
また、図示しないが、超音波診断装置100は、プッシュ波パルスpppを送信することなく、送信部106及び検出波受信部108においてされた検出波の送受信に基づいて出力される音響線信号のうち、被検体の組織からの反射成分に基づき時系列に超音波画像(Bモード画像)を生成するBモード画像生成部を有する。Bモード画像生成部は、データ格納部115から音響線信号のサブフレームデータを入力して、音響線信号に対して包絡線検波、対数圧縮などの処理を実施してその強度に対応した輝度信号へと変換し、その輝度信号を直交座標系に座標変換を施すことでBモード画像のサブフレームデータを生成する。なお、Bモード画像生成のための音響線信号を取得するための送信部106及び検出波受信部108における超音波の送受信には公知の方法を用いることができる。生成されたBモード画像のサブフレームデータはデータ格納部115に出力され保存される。表示制御部113はBモード画像を表示画像として構成して表示部114に表示させる。
また、弾性率算出部111は、弾性率サブフレームデータelsfが表す弾性率に基づいて、色情報をマッピングした弾性画像を生成し表示する構成としてもよい。例えば、弾性率が一定値以上の座標は赤、弾性率が一定値未満の座標は緑、弾性率が取得できなかった座標は黒、というように色分けした弾性画像を生成してもよい。操作者の利便性を向上することができる。弾性率算出部111は、生成した弾性率サブフレームデータelsfと弾性画像とをデータ格納部115に出力し、制御部116は弾性画像を表示制御部113に出力する。さらに、表示制御部113は、弾性画像に対して画面表示用の画像データとなるよう幾何変換を行い、幾何変換後の弾性画像を表示部114に出力する構成としてもよい。
<動作について>
以上の構成からなる超音波診断装置100の統合SWSシーケンスの動作について説明する。
1.動作の概要
図12は、超音波診断装置100における統合SWSシーケンスの工程の概要を示す概略図である。超音波診断装置100におけるSWSサブシーケンスでは、1つのプッシュ波列を用いる超音波弾性率計測を行い弾性率サブフレームデータelsfを出力する。統合SWSシーケンスは、複数回のSWSサブシーケンスと、複数回のSWSサブシーケンスから得られた弾性率サブフレームデータelsfを合成して弾性画像フレームデータelfを生成する合成処理とを含む。
図12に示すように、本例では、例えば、統合SWSシーケンスがSWSサブシーケンス1及び2及び合成工程からなる例を示した。
具体的には、SWSサブシーケンス1及び2は、基準検出波送受信を行い、以後の各送信イベントに対応するせん断波による変位を抽出するための基準音響線信号サブフレームデータds0を取得する工程(1a、2a)、プッシュ波パルスpppn(n=1~nmax)を複数(nmax)回送信して被検体内の送信焦点FPnに集束するプッシュ波ppnを複数(nmax)回送信して被検体中にせん断波励起する工程(1b、2b)、計測対象領域romを通過する検出波pwlの送受信を複数(m)回繰り返す検出波パルスpwpl送受信する工程(1c、2c)、せん断波伝搬解析を行いせん断波の伝播速度サブフレームデータvfsfと弾性率サブフレームデータelsfを算出する弾性率算出の工程(1d、2d)から構成される。
合成工程は、SWSサブシーケンス1及び2で得られた弾性率サブフレームデータelsfを合成して弾性画像フレームデータelfを生成する合成処理(e)からなる。
2.SWSサブシーケンスの動作
以下、公知の方法に基づき被検体の組織からの反射成分に基づき組織が描画されたBモード画像が表示部114に表示された後の超音波弾性率計測処理の動作を説明する。
なお、Bモード画像のサブフレームデータは、プッシュ波パルスpppを送信されることなく、送信部106及び検出波受信部108においてされた超音波の送受信に基づいて被検体の組織からの反射成分に基づき時系列に音響線信号のサブフレームデータが生成され、音響線信号に対して包絡線検波、対数圧縮などの処理がされて輝度信号へと変換された後、輝度信号を直交座標系に座標変換して生成する。表示制御部113は被検体の組織が描画されたBモード画像を表示部114に表示させる。
図13は、超音波診断装置100における超音波弾性率算出の動作を示すフローチャートである。
[ステップS100~S140]
ステップS100では、表示部114にプローブ101によりリアルタイムに取得された被検体の断層画像であるBモード画像が表示されている状態において、領域設定部103は、操作入力部102から操作者により指定された情報を入力として、被検体内の検査者の関心のある領域をあらわす関心領域roiをプローブ101の位置を基準に設定し、制御部116に出力する。
操作者による関心領域roiの指定は、例えば、表示部114にデータ格納部115に記録されている最新のBモード画像を表示し、タッチパネル、マウスなどの入力部(図示しない)を通して関心領域roiを指定することによりされる。なお、関心領域roiは、例えば、Bモード画像の全域を関心領域roiとしてもよいし、あるいは、Bモード画像の中央部分を含む一定範囲としてもよい。
ステップS110では、プッシュ波パルス発生部104は、制御部116から関心領域roiを示す情報を入力し、複数のプッシュ波列ppsを構成するプッシュ波パルスpppn(n=1~nmax)の送信焦点FPnの位置と、プッシュ波送信振動子列Pxn、プッシュ波パルスpppnの送信順序を設定する。本例では、図3(a)(b)に示すように、プッシュ波送信振動子列Pxnは、プッシュ波の送信順位nによらず一定とし、複数の振動子101a全部とした。また、列方向送信焦点位置fxは関心領域roi近傍の列方向に所定距離離れた場所に位置し、深さ方向送信焦点位置fzn(n=1~nmax)は、深さ方向に関心領域roiと同じ範囲に位置し、隣接する送信焦点fzn間の間隔Δfznが被検体の深さによらず一定とした。また、プッシュ波列ppsを構成するプッシュ波の送信順序は、被検体の浅部から深部に向けた送信順序又は深部から浅部に向けた送信順序の何れのうち、列方向に隣接する2つのプッシュ波列の送信において互いに異なる送信順序で行われる構成とした。しかしながら、検出波照射領域Axと送信焦点FPとの位置関係は上記に限られず、被検体の検査すべき部位の形態等により適宜変更してもよい。
複数のプッシュ波列ppsを構成するプッシュ波の送信焦点FPの位置と、プッシュ波送信振動子列Pxを示す情報は、送信順序を示す情報は領域設定部103に出力される。プッシュ波の送信焦点FPの位置と、プッシュ波送信振動子列Px、プッシュ波パルスpppのパルス幅PWn、印加開始時刻PTnとともに、送信制御信号として送信部106に出力される。
ステップS112では、領域設定部103は、関心領域roiを含み複数のプッシュ波列pps毎に複数のプッシュ波列ppsを構成する複数のプッシュ波の送信焦点FPnの位置と、複数のプッシュ波の送信順序とに基づき被検体内の実際の計測対象範囲となる計測対象領域romを決定する。本例では、上述のとおり、被検体の浅部から深部に向けた送信順序でプッシュ波が送信されたプッシュ波列ppsに対しては、図4(a)に示すように、深部における中心線LN1と計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnは浅部における中心線LNと計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnよりも小さい構成とし、図4(b)に示すように、被検体の深部から浅部に向けた送信順序でプッシュ波が送信されたプッシュ波列ppsに対しては、浅部における中心線LNと計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnは深部における中心線LN2と計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnよりも小さい構成としている。計測対象領域romを示す情報は制御部116に出力される。
ステップS114では、検出波パルス発生部105は、制御部116から計測対象領域romを示す情報を入力し、検出波パルス送信振動子列Txを決定する。具体的には、検出波パルス送信振動子列Txに属する複数の振動子101aから送信される平面波が超音波ビームが計測対象領域romを通過するよう、列方向に計測対象領域romが含まれるよう検出波パルス送信振動子列Txを決定する。
次に、プッシュ波列の番号i_puを初期値(1)に設定し(ステップS120)、プッシュ波列の送信順序seq_puを初期値(F)に設定する(ステップS122)。
ステップS130では、送信部106は、検出波送信振動子列Txに含まれる振動子に検出波パルスpwp0を送信し、被検体内に向けて検出波pw0をさせ、検出波受信部108は、検出波pw0の反射波ecの受波を行い組織の変位の基準となる基準音響線信号サブフレームデータds0を生成する。基準音響線信号サブフレームデータds0はデータ格納部115に出力され保存される。音響線信号サブフレームデータの生成方法については後述する。
次に、送信部106は、プッシュ波列ppsに関する、プッシュ波送信振動子列Px1、プッシュ波パルスpppn(n=1~nmax)の送信焦点FPnの位置を設定し(ステップS140)、次に、プッシュ波送信振動子列Pxnに含まれる振動子に複数(nmax)回のプッシュ波パルスpppnを送信させることにより、当該振動子に送信焦点FPに対応する被検体中の特定部位に超音波ビームが集束するプッシュ波ppnを複数(nmax)回送信させる(ステップS142)。
具体的には、送信部106は、プッシュ波パルス発生部104より取得した送信焦点FPnの位置とプッシュ波送信振動子列Pxnを示す情報、プッシュ波パルスpppnのパルス幅PWn、印加開始時刻PTnからなる送信制御信号に基づき送信プロファイルを生成する。送信プロファイルは、プッシュ波送信振動子列Pxnに含まれる各送信振動子に対するパルス信号spと遅延時間tpkからなる。そして、送信プロファイルに基づき各送信振動子にプッシュ波パルスpppnを供給する。各送信振動子は被検体内の特定部位に集束するパルス状のプッシュ波ppnを送信する。送信部106は、は、この動作を複数(nmax)回行う。
ここで、プッシュ波ppによるせん断波の生成について、図14(a)から(e)の模式図を用いて説明する。図14(a)から(e)は、プッシュ波ppによるせん断波の生成の様子を示す模式図である。図14(a)は、検出波照射領域Axに対応した被検体内の領域の、プッシュ波pp印加前における組織を示した模式図である。図14(a)から(e)において、個々の“○”は、被検体内の組織の一部を、破線の交点は、負荷がない場合の組織”○“の中心位置を、それぞれ示している。
ここで、プローブ101を皮膚表面600に密接させた状態で送信焦点FPに対応する被検体中の焦点部位601に対してプッシュ波ppを印加すると、図14(b)の模式図に示すように、焦点部位601に位置していた組織632が、プッシュ波ppの進行方向に押されて移動する。また、組織632からプッシュ波ppの進行方向側にある組織633は、組織632に押されてプッシュ波ppの進行方向に移動する。
次に、プッシュ波ppの送信が終了すると、組織632、633が元の位置に復元しようとするので、図14(c)の模式図に示すように、組織631~633がプッシュ波ppの進行方向に沿った振動を開始する。
すると、図14(d)の模式図に示すように、振動が組織631~633に隣接する、組織621~623および組織641~643に伝播する。
さらに、図14(e)の模式図に示すように、振動がさらに組織611~663および組織651~653に伝播する。したがって、被検体内において、振動が振動の方向と直交する向きに伝播する。すなわち、せん断波がプッシュ波ppの印加場所に発生し、被検体内を伝播する。
[ステップS150]
図13に戻って説明を続ける。
ステップS150では、計測対象領域romに検出波パルスpwplを複数回送受信し、取得した音響線信号サブフレームデータdslのシーケンスを保存する。具体的には、送信部106は、検出波送信振動子列Txに含まれる振動子に被検体に向けて検出波パルスpwplを送信させ、検出波受信部108は、検出波パルス受信振動子列Rxに含まれる振動子により受信した反射波ecに基づき音響線信号サブフレームデータdslを生成する。最後のプッシュ波ppnmaxの送信終了の直後から、例えば、秒間1万回、上記処理を繰り返し行う。これにより、せん断波の発生直後から伝播が終わるまでの間、被検体の検出波照射領域Ax内の音響線信号サブフレームデータdslを繰り返し生成する。生成された音響線信号サブフレームデータdslのシーケンスはデータ格納部115に出力され保存される。
ステップS150における、音響線信号サブフレームデータdslの生成方法の詳細は後述する。
[ステップS170]
ステップS170では、変位検出部109は、各送信イベントにおける計測対象領域rom内の観測点Pijの変位を検出する。
図15は、変位検出及びせん断波の伝播解析の動作を示す模式図である。
先ず、変位検出部109は、ステップS130でデータ格納部115に保存された基準音響線信号サブフレームデータds0を取得する。上述したように、基準音響線信号サブフレームデータds0は、プッシュ波ppの送信前、すなわち、せん断波の発生前に取得された音響線信号サブフレームデータである。
次に、変位検出部109は、ステップS150でデータ格納部115に保存された各音響線信号サブフレームデータdslに対し、基準音響線信号サブフレームデータds0との差分から、当該音響線信号サブフレームデータdslが取得された時刻における、各画素の変位を検出する。
図15におけるA列は、基準音響線信号サブフレームデータds0、各送信イベントにて生成した音響線信号サブフレームデータdslを示し、B列は、ステップS150において、各送信イベントに対して算出する変位量サブフレームデータptlを示したものである。図15、A列及びB列に示すように、変位量サブフレームデータptlは、音響線信号サブフレームデータdslと基準音響線信号サブフレームデータds0を比較し、基準音響線信号サブフレームデータds0中の観測点Pijの音響線信号dsijが音響線信号サブフレームデータdslにおけるどの観測点P´ijの音響線信号dsijと類似するのかを検出して、観測点P´ijの観測点Pijに対する位置変化量を算出することにより検出する。
具体的には、例えば、音響線信号サブフレームデータdslを8ピクセル×8ピクセルなどの所定の大きさの領域に分割し、各領域と基準音響線信号サブフレームデータds0とをパターンマッチングすることで、音響線信号サブフレームデータdslの各画素の変位を検出する。
パターンマッチングの方法としては、例えば、各領域と基準音響線信号サブフレームデータds0内の同サイズの基準領域との間で、対応する画素毎に輝度値の差分を算出してその絶対値の合計値を算出し、その合計値が最も小さくなる領域と基準領域との組み合わせについて、領域と基準領域とが同一の領域であるものとし、領域の基準点(例えば、左上の角)と基準領域の基準点との距離を変位として検出する方法を用いることができる。
なお、領域のサイズは8ピクセル×8ピクセル以外であってもよいし、輝度値の差分の絶対値の合計値に替えて、例えば、輝度値の差分の2乗の合計値を用いてもよい。また、変位として、領域の基準点と基準領域の基準点とのy座標の差(深さの差)を算出してもよい。これにより、各音響線信号サブフレームデータdslの各観測点Pijに対応する被検体の組織が、プッシュ波ppまたはせん断波によってどれだけ動いたかが変位として算出される。
なお、変位の検出方法はパターンマッチングに限られず、例えば、音響線信号サブフレームデータdslと基準音響線信号サブフレームデータds0との相関処理など、2つの音響線信号サブフレームデータdsl間の動き量を検出する任意の技術を用いてもよい。変位検出部109は、1フレームの音響線信号サブフレームデータdslに係る各観測点Pijの変位を当該観測点の座標ijと対応付けることで計測対象領域rom内の観測点の変位量データptijを生成し、生成した計測対象領域romについての変位量サブフレームデータptlをデータ格納部115に出力する。
[ステップS172~S175]
伝播情報解析部110は、生成した変位量サブフレームデータptlをデータ格納部115に出力し保存する(ステップS173)。規定されている全ての送信イベントについてステップS170の処理が完了したか否かを判定し(ステップS172)、完了していない場合にはステップS170に戻り、次の検出波パルスpwplの送信イベントについての一連の処理を行い、完了している場合にはステップS173に進む。
ステップS173では、伝播情報解析部110は、変位量サブフレームデータptlのシーケンスを入力として、各送信イベントにおける計測対象領域rom内の観測点Pijの変位量データptijからせん断波の波面を検出して、波面位置wfijを表した波面サブフレームデータwflのシーケンスを生成する。さらに、伝播情報解析部110は、波面サブフレームデータwflのシーケンスから、サブフレームデータの依拠する変位量サブフレームデータptlを取得した各時刻における、せん断波の波面wfと位置wfijとを検出し、波面ごとに波面到達時間サブフレームデータatoを生成してデータ格納部115に出力する。さらに、計測対象領域rom内の観測点Pijについてせん断波の伝播速度データvijを算出してデータ格納部115に出力する。ステップS173における、せん断波の伝播情報解析方法の詳細は後述する。
ステップS175では、弾性率算出部111は、計測対象領域rom内の観測点Pijについて弾性率データelijを算出し、計測対象領域romに対する弾性率サブフレームデータelsfを算出してデータ格納部115に出力する。ステップS175における、弾性率サブフレームデータelsfの算出方法の詳細は後述する。
規定されている全てのプッシュ波列番号i_puについてステップS175の処理が完了したか否かを判定し(ステップS180)、完了していない場合には、プッシュ波列番号i_puをインクリメントし(ステップS182)、プッシュ波送信順序seq_puを反転(「F」←→「R」)して(ステップS184)、ステップS130に戻り、次のプッシュ波列についての一連の処理を行い、完了している場合にはステップS190に進む。
次に、ステップS190では、合成部112は、プッシュ波列ppsの送信に対応して得られた弾性率サブフレームデータelsfを合成して弾性率フレームデータelfを生成する。
最後に、ステップS192では、表示制御部113は、弾性率フレームデータelfが表す弾性率に基づいて、色情報をマッピングした弾性画像を生成し、表示制御部113は、弾性画像に対して画面表示用の画像データとなるよう幾何変換を行い、幾何変換後の弾性画像を表示部114に出力する。
以上により、図12に示した統合SWSシーケンスの処理が終了する。以上の超音波弾性率計測処理により、統合SWSシーケンスによる弾性率フレームデータelfを算出することができる。
3.ステップS173における処理の詳細について
ステップS173では、伝播情報解析部110は、各送信イベントにおける計測対象領域rom内の観測点Pijの変位量サブフレームデータptlから波面を検出する。
詳しくは、図16のフローチャートを用いて説明する。図16は、せん断波の伝播情報解析の動作を示すフローチャートである。図17(a)から(f)は、せん断波の伝播解析の動作を示す模式図である。
まず、データ格納部115から送信イベントに対応した各観測点Pijの変位量サブフレームデータptlを取得する(ステップS1731)。
次に、変位が相対的に大きい変位領域を抽出する(ステップS1732)。伝播情報解析部110は、変位量サブフレームデータptlから変位が所定の閾値より大きい変位領域を抽出する。
以下、図17の模式図を用いて説明する。
図17(a)は、変位量サブフレームデータが表す変位画像の一例を示している。図12と同じく、図中の“○”は計測対象領域romに対応する被検体内の組織の一部を示しており、プッシュ波ppを印加する前の位置は破線の交点である。また、x軸はプローブ101における振動子の列方向、z軸は、被検体の深さ方向である。伝播情報解析部110は、z座標ごとに変位量δを座標xの関数として、動的閾値を用いることで変位量δが大きい領域を抽出する。また、x座標ごとに変位量δを座標zの関数として、動的閾値を用いて、ある閾値を超える領域を変位量δが大きい領域として抽出する。動的閾値とは、対象領域内について信号解析又は画像解析を行って閾値を決定することである。閾値は一定値ではなく、対象領域の信号の幅や最大値などによって異なる値となる。図17(a)に、z=z1の直線710上における変位量をプロットしたグラフ711と、x=x1の直線720上における変位量をプロットしたグラフ721とを示す。これにより、例えば、変位量δが閾値より大きな変位領域730が抽出できる。
また、図15のB列は、各送信イベントに対して算出した変位量サブフレームデータptlを示したものであり、各変位量サブフレームデータptl中のハッチングされた領域は変位量δが閾値より大きな変位領域である。図15のB列に示すように、時間の経過に伴い変位領域はX方向に移動するとともに、変位領域の大きさは拡大する。
次に、伝播情報解析部110は、変位領域に細線化処理をおこなって波面を抽出する(ステップS1733)。図17(b)の模式図に示している変位領域740、750は、それぞれ、ステップS1732において変位領域730として抽出された領域である。伝播情報解析部110は、例えば、Hilditchの細線化アルゴリズムを用いて、波面を抽出する。例えば、図17(b)の模式図において、変位領域740から波面741が、変位領域750から波面751が、それぞれ抽出される。なお、細線化のアルゴリズムはHilditchに限らず、任意の細線化アルゴリズムを用いてよい。また、各変位領域に対して、変位量δが閾値以下の座標を変位領域から取り除く処理を、変位領域が幅1ピクセルの線になるまで、閾値を大きくしながら繰り返し行ってもよい。伝播情報解析部110は、抽出した波面を波面サブフレームデータwflとしてデータ格納部115に出力する。
次に、伝播情報解析部110は、波面サブフレームデータwflに対して空間フィルタリングを行い、長さが短い波面を除去する(ステップS1734)。例えば、ステップS1733で抽出した各波面の長さを検出し、全ての波面の長さの平均値の1/2よりも長さが短い波面を、ノイズとして削除する。具体的には、図17(c)の波面画像に示すように、波面761~764の長さの平均値を算出し、それよりも短い波面763、764を、ノイズとして消去する。これにより、誤検出された波面を消去できる。
伝播情報解析部110は、ステップS1731~S1734の動作を、全ての変位量サブフレームデータptlに対して行う(ステップS1735)。これにより、変位量サブフレームデータptlに対して1対1で波面サブフレームデータwflが生成される。
図15のC列は、各送信イベントに対して算出した波面サブフレームデータwflを示したものであり、各波面サブフレームデータwfl中の円弧状の細線は波面である。図15のC列に示すように、時間の経過に伴い波面wfはX方向に移動するとともに、波面wfの円弧の長さは増加する。
次に、伝播情報解析部110は、複数の波面サブフレームデータwflに対して時間フィルタリングを行い、伝播していない波面を除去する(ステップS1736)。具体的には、時間的に連続する2以上の波面サブフレームデータwflにおいて、波面位置の時間変化を検出し、速度が異常である波面をノイズとして除去する。
伝播情報解析部110は、例えば、時刻t=t1の波面画像770、時刻t=t1+Δtの波面画像780、時刻t=t1+2Δtの波面画像790との間で、波面位置の時間変化を検出する。例えば、波面771に対して、波面画像780のうち、波面771と同じ位置を中心に、波面と垂直な向き(図17においてはx軸方向)にΔtの間にせん断波が移動しうる領域776で、波面771との相関処理を行う。このとき、波面771のx軸の正方向(図の右側)と負方向(図の左側)の双方を含む範囲内で相関処理を行う。これは、透過波と反射波の両方を検出するためである。これにより、波面771の移動先が波面画像780内の波面781であると検出し、時間Δtにおける波面771の移動距離を算出する。同様に、波面772、773のそれぞれについて、波面画像780において当該波面と同じ位置を中心に、波面と垂直な向きにΔtの間にせん断波が移動しうる領域で相関処理を行う。これにより、波面772が波面783の位置に、波面773が波面782の位置に、それぞれ移動したことを検出する。
波面画像780と波面画像790との間でも同様の処理を行い、波面781が波面791の位置に、波面782が波面797の位置に、波面783が波面793の位置に、それぞれ移動したことを検出する。ここで、波面773、波面782、波面792で示される1の波面については、他の波面と比べて移動距離が著しく小さい(伝播速度が著しく遅い)。このような波面は誤検知である可能性が高いので、ノイズとして消去する。これにより、図17(e)の波面サブフレームデータ300に示すように、波面801、802が検出できる。
これらの動作により、時刻ごとの波面サブフレームデータwflのシーケンスが生成できる。伝播情報解析部110は、生成した複数の波面サブフレームデータwflのシーケンスをデータ格納部115に出力する。このとき、生成した複数の波面の対応情報もデータ格納部115へ出力してもよい(ステップS1737)。波面の対応情報とは、同一の波面が各波面画像のどの波面に対応するかを示した情報であり、例えば、波面772が波面783の位置に移動したことが検出された場合、波面783と波面772とが同一の波面であるという情報である。
次に、伝播情報解析部110は、波面到達時間サブフレームデータatを生成する(ステップS1738)。具体的には、時刻ごとの波面サブフレームデータwflと、波面の対応情報とから、各時刻における波面の位置との関係を検出する。
図17(e)を用いて波面到達時間サブフレームデータatの生成について説明する。図17(e)は、ある時刻tにおける波面サブフレームデータwflと、時刻t+Δtにおける波面サブフレームデータwflを1つの波面サブフレームデータ810として合成したものである。ここで、時刻tにおける波面811と、時刻t+Δtにおける波面812とが同一の波面であるとする対応情報が存在するものとする。伝播情報解析部110は、対応情報から、波面811上の座標(xt、zt)に対応する波面812上の座標(xt+Δt、zt+Δt)を検出する。これにより、時刻tに座標(xt、zt)を通過したせん断波が、時刻t+Δtに座標(xt+Δt、zt+Δt)に到達していると推定できる。これより、波面811が座標(xt、zt)に到達した時刻t、波面811と同一の波面である波面812が座標(xt+Δt、zt+Δt)した時刻t+Δtを関係付けることができる。同様に、取得時刻が既定されている波面サブフレームデータwflから検出された波面位置から任意の座標(x、z)に波面が到達する時刻は2次元の補間計算により算出することができる。
図15のD列は、各送信イベントに対して算出した波面サブフレームデータwfl中の波面wfを1枚のフレームに集めて、波面サブフレームデータwflの取得時刻を関数値としてプロットした波面到達時間サブフレームデータatであり、波面到達時間サブフレームデータat中の円弧状の細線は波面の到達時間である。
4.ステップS175における処理の詳細について
ステップS175では、弾性率算出部111は、計測対象領域rom内の観測点Pijについて、波面到達時間サブフレームデータato(oは異なる波面の数をあらわす自然数、番号を区別しない場合は波面到達時間サブフレームデータatとする)に基づいてせん断波の伝播速度、又は、弾性率を算出し、計測対象領域romに対する弾性率サブフレームデータelsfを算出する。
図18は、超音波診断装置100における弾性率算出の動作を示すフローチャートである。先ず、伝播速度変換部1103は、データ格納部115から波面到達時間サブフレームデータatoの読み出し(ステップS1751)、以下に示す方法により伝播速度サブフレームデータvfoに変換する(ステップS1752)。
図17(f)において、座標(xt、zt)を通過したせん断波の速度v(xt、zt)は、座標(xt、zt)と座標(xt+Δt、zt+Δt)との間の距離をmとしたとき、距離mを所要時間Δtで割った値として推定することができる。すなわち、
v(xt、zt)=m/Δt=√{(xt+Δt-xt)2+(zt+Δt-zt)2}/Δt
となる。伝播速度変換部1103は、全ての波面に対して波面到達時間サブフレームデータatoから波面到達時間データcatを取り出し上述の処理を行い、波面が通過した全座標についてせん断波の速度vを取得する。
図15のE列は、各送信イベントに対して算出した波面到達時間サブフレームデータatを微分した伝播速度サブフレームデータvfである。
次に、弾性率算出部111は、伝播速度サブフレームデータvfoを弾性率フレームデータに変換する(ステップS1753)。弾性率フレームデータは、せん断波の伝播速度を基に各座標における弾性率を算出する。弾性率は、せん断波の速度の2乗に比例し、
el(xt、zt)=KT × v(xt、zt)2
に基づき算出される。KTは定数であり人体の組織では約3となる。
図15のF列は、伝播速度サブフレームデータvfから上式により算出した弾性率サブフレームデータelsfである。
以上の手順により、弾性率算出部111は、全ての波面oについて弾性率フレームデータelo(oは異なる波面の数をあらわす自然数、番号を区別しない場合は弾性率フレームデータelとする)を合成する(ステップS1754)。弾性率算出部111は、全ての波面oについて弾性率フレームデータeloは座標ijを指標に平均され1フレームの弾性率サブフレームデータelsfを生成してデータ格納部115保存する(ステップS1755)。
以上によりせん断波伝播解析に基づく弾性率計測の計算処理を終了する。
5.ステップS150における処理の詳細について
ステップS150における、音響線信号サブフレームデータdslの生成処理の概要について説明する。図19は、検出波受信部108のビームフォーミングの動作を示すフローチャートである。
先ず、検出波の識別番号lを1に設定し(ステップS151)、送信部106は、プローブ101に存する複数の振動子101a中検出波送信振動子列Txに含まれる各振動子に検出波pwlを送信させるための検出波パルスpwplを送信する送信処理(送信イベント)を行う(ステップS152)。
次に、検出波受信部108は、プローブ101での反射波から得た電気信号に基づき受波信号rfkを生成しデータ格納部115に出力し、データ格納部115に受波信号rfkを保存する(ステップS153)。規定されている全ての送信イベントの回数mについて検出波の送受信が完了したか否かを判定する(ステップS154)。完了していない場合にはlをインクリメント(ステップS155)してステップS152に戻り、検出波送信振動子列Txからの送信イベントを行い、完了している場合にはステップS156に進む。
次に、検出波の識別番号lを0に初期化し(ステップS156)、検出波受信部108は、データ格納部115に保存されている受波信号rfkに基づいて、検出波照射領域Ax内の複数の観測点Pijに対する音響線信号を生成して音響線信号サブフレームデータdslを生成しデータ格納部115に出力し、データ格納部115に音響線信号サブフレームデータdslを保存する(ステップS157)。ステップS157における、音響線信号サブフレームデータdslの生成方法の詳細は後述する。
全ての送信イベントの回数mについて、検出波パルスpwplに基づく音響線信号サブフレームデータdslの生成を完了したか否かを判定し(ステップS159)、完了していない場合にはlをインクリメント(ステップS160)してステップS157に戻り、完了している場合には処理を終了する。
以上により、図19におけるステップS150の処理を終了する。
7.ステップS157における処理の詳細について
ステップS157における、音響線信号サブフレームデータdslの生成処理の詳細について説明する。
図20は、検出波受信部108における音響線信号サブフレームデータ生成動作を示すフローチャートである。
先ず、j、iを検出波照射領域Ax内の最小値に初期化する(ステップS1571、1572)。次に、検出波受信部108は、観測点Pijについて音響線信号dsijを生成する(ステップS1573)。ステップS1573における処理の詳細については後述する。
次に、検出波照射領域Ax内の全てのiについて処理を完了したか否か(ステップS1574)、検出波照射領域Ax内の全てのjについて処理を完了したか否か(ステップS1576)について判定し、完了していない場合はi、jをインクリメント(ステップS1575、S1577)して観測点Pijについて音響線信号を生成し(ステップS1573)、完了している場合にはステップS1578に進む。
この段階では、1回の送信イベントに伴う検出波照射領域Axにおける観測点Pijについて音響線信号dsijが生成されており、音響線信号サブフレームデータdslが生成されている。ステップS1578では、生成された音響線信号サブフレームデータdslをデータ格納部115に出力され保存される。
以上により、図19におけるステップS157の処理を終了する。
8.ステップS1573における処理の詳細について
次に、ステップS1573における、観測点Pijについて音響線信号を生成する処理の動作について説明する。図21は、検出波受信部108における観測点Pijについての音響線信号生成動作を示すフローチャートである。
先ず、ステップS15731において、遅延処理部10831は、検出波照射領域Ax内に存在する任意の観測点Pijについて、送信された超音波が被検体中の観測点Pijに到達する送信時間を算出する。送信時間は、上述のとおり、観測点Pijまでの送信経路を、検出波送信振動子列Txから振動子列に垂直に発された検出波pwlが観測点Pijに到達するまでの最短経路401として算出し、送信経路の長さを超音波の音速csで除することにより算出できる。
次に、検出波パルス受信振動子列Rxを設定する(ステップS15732)。
次に、検出波受信振動子列Rx内の受波振動子Rwkの振動子識別番号kを検出波受信振動子列Rx内の最小値に初期化し(ステップS15733)、送信された検出波が被検体中の観測点Pijで反射された後、検出波受信振動子列Rxの受波振動子Rwkに到達する受信時間を算出する(ステップS15734)。受信時間は、幾何学的に定まる観測点Pijから受波振動子Rwkまでの経路402の長さを超音波の音速csで除することにより算出できる。さらに、送信時間と受信時間の合計から、検出波送信振動子列Txから送信された超音波が観測点Pijで反射して受波振動子Rwkに到達するまでの総伝播時間を算出し(ステップS15735)、検出波受信振動子列Rx内の各受波振動子Rwkに対する総伝播時間の差異により、各受波振動子Rwkに対する遅延量を算出する(ステップS15736)。
ステップS15737において、遅延処理部10831は、検出波受信振動子列Rx内の受波振動子Rwkに対応する受波信号の列から、各受波振動子Rwkに対する遅延量を差引いた時間に対応する受波信号rfkを観測点Pijからの反射波に基づく受波信号として同定する。
次に、重み算出部(不図示)は、検出波受信振動子列Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるよう各受波振動子Rwkに対する受信アポダイゼーションを算出する(ステップS15738)。加算部10832は、各受波振動子Rwkに対応して同定された受波信号rfkに、各受波振動子Rwkに対する重みを乗じて加算して、観測点Pijに対する音響線信号dsijを算出する(ステップS15739)。
検出波受信振動子列Rx内に存在する全ての受波振動子Rwkについて音響線信号dsijの算出処理を完了したか否かを判定し(ステップS15740)、完了していない場合にはkをインクリメント(ステップS15741)して、更に受波振動子Rwkについて遅延量の算出し(ステップS15739)、完了している場合にはステップS15742に進む。この段階では、検出波受信振動子列Rx内に存在する全ての受波振動子Rwkについて観測点Pijに対する音響線信号dsijが算出されている。算出された観測点Pijに対する音響線信号dsijはデータ格納部115に出力され保存される(ステップS15742)。
以上により、図20におけるステップS1573の処理を終了する。
<効 果>
以下、実施の形態に係る超音波診断装置100による効果について説明する。
図22(a)は、超音波診断装置100におけるプッシュ波列に基づくせん断波が伝播する態様、せん断波による関心領域の態様を示す模式図であり、(b)(c)は、プッシュ波列pps1及びプッシュ波列pps2によるせん断の態様を示す実験結果である。図22(a)において、丸の中の数字はプッシュ波列pps1、2においてプッシュ波(pp1~4)が送信される順序を表した数字である。
図22(a)に示すように、超音波診断装置100では、プッシュ波列pps1、2を形成する複数のプッシュ波(pp1~4)の送信順序が、プッシュ波列pps1ではプッシュ波の送信順序は被検体の浅部から深部に向けた送信順序(正方向:pps1「F」と表記する)であるのに対し、プッシュ波列pps2では深部から浅部に向けた送信順序(逆方向:pps2「R」と表記する)としている。上述のとおり、プッシュ波列pps1、2を形成する複数のプッシュ波(pp1~4)の入射には有限時間がかかるため、最初と最後のプッシュ波(pp1と4)による各せん断波の発生時刻にはズレがある。その結果、各球面波を合成して得られる合成波は、プッシュ波列pps1、2の入射方向に対して直交する方向に伝搬するものでなく、一定の角度θMA(マッハ角)を有している。
超音波診断装置100では、列方向に隣接する2つのプッシュ波列の送信において、互いに異なる送信順序でプッシュ波(pp1~4)を送信してプッシュ波列pps1、2が送信されているので、それぞれのプッシュ波列pps1、2から、プッシュ波列pps1、2に挟まれた領域内方に向けて伝播する合成波の波面は、図22(a)に示すように、互いに平行な関係となる。そのため、プッシュ波列pps1、2に挟まれた領域内であって、領域内方に向けて伝播する合成波の波面と平行な直線LP上の任意の位置にある観測点Pijに着目したとき、観測点Pijから各プッシュ波列pps1、2から伝播する合成波の波面までの距離Lx1及びLx2は、被検体の深さにかかわらずそれぞれ一定となる。
そのため、図22(a)に示すように、プッシュ波列pps1、2に挟まれた領域内において、プッシュ波列ppsの送信順序に応じてプッシュ波列pps1、2の中心線LN1、2と計測対象領域romの列方向の外縁との距離を、計測対象領域romの列方向の外縁とプッシュ波列pps1、2から計測対象領域romの内方に向けて伝播する合成波の波面とが平行な関係となるように、深さ方向に異ならせた態様とする。
これにより、計測対象領域romの列方向の外縁からプッシュ波列pps1、2からの合成波の波面までの距離が被検体の深さにかかわらず等価となるように計測対象領域romを設定することができる。また、計測対象領域romの列方向の幅Wx1及びWx2についても被検体の深さにかかわらず等価となるように計測対象領域romを設定することができる。その結果、以下の効果を得ることができる。
先ず、超音波診断装置100では、プッシュ波列による歪を回避するために、2つのプッシュ波列pps1、2を構成する複数のプッシュ波の送信焦点FPnを結ぶ中心線間LNにおいて、それぞれの中心線LN1、2から所定距離以上離間して計測対象領域romを決定することにより、プッシュ波列ppsの中心線LN近傍に位置する歪領域DRを避けて計測対象領域romを設定できる。
図22(b)(c)は、プッシュ波列を形成する複数のプッシュ波の送信順が異なる場合の隣接するプッシュ波列に基づくせん断波の計測領域を重ね合せ後の画像であり、(b)は、プッシュ波の送信順を浅部から深部に送信焦点を移動した場合、(c)は、プッシュ波の送信順を深部から浅部に送信焦点を移動した場合の測定結果である。図22(b)では、浅部ほどプッシュ波列による歪がプッシュ波列pps1の中心線から離れて歪領域(中心線と歪との間の領域)が浅部ほど列方向において幅広く発生しており、(c)では、深部ほどプッシュ波列による歪がプッシュ波列pps1の中心線から離れて歪領域(中心線と歪との間の領域)が深部ほど列方向において幅広く発生していることが見て取れる。超音波診断装置100では、上記した構成により、歪領域DRを避けて計測対象領域romを設定できる。
また、超音波診断装置100では、被検体の浅部から深部に向けた送信順序でプッシュ波が送信されたプッシュ波列pps1に対しては、深部における中心線LN1と計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnは浅部における中心線LN1と計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnよりも小さい構成とし、被検体の深部から浅部に向けた送信順序でプッシュ波が送信されたプッシュ波列pps2に対しては、浅部における中心線LN2と計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnは深部における中心線LN2と計測対象領域romとの列方向の距離ΔXnよりも小さい構成を採ることにより、図26(c)から(e)に示した問題を改善できる。具体的には、図26(c)に示したように、計測対象領域rom1、2の幅Wが浅部又は深部において狭くなることや、図26(d)に示したように、計測対象領域rom1、2の重ね合せ領域の幅が浅部又は深部において狭くなること、あるいは、図26(e)図26(d)に示したように、プッシュ波からの計測距離が深部において大きくなって減衰によるS/N低下が拡大することを防止できる。
以上のとおり、超音波診断装置100では、超音波弾性率計測において、計測対象領域romを深度によらず一定とし、画質の均一性を改善する。すなわち、複数のプッシュ波列に基づく弾性計測結果を合成する際にプッシュ波列の形状に起因した計測品質の不均一性(深度依存性)を軽減することができる。
さらに、重ね合せ領域では、隣接するプッシュ波列からのせん断波の伝搬方向が正反対となり、両方の計測結果を平均化処理することにより、観測点に対して多方向からせん断波を伝播させて弾性計測ができるので測定対象である被検体組織に弾性率の異方性がある場合においても、その影響を軽減して、測定結果の信頼度を向上することができる。
その結果、S/N等の画像品質を確保しつつ、被検体内のより広い範囲における弾性計測を可能とすることができる。
<変形例1、2>
上記実施の形態においては、統合SWSシーケンスにおいて、プッシュ波列ppsを構成する複数のプッシュ波ppnの送信を送信焦点の列方向の位置と送信順序とを異ならせて2回行うことにより、プッシュ波列pps1、pps2を形成する構成とした。しかしながら、プッシュ波列ppsの形成は、構成するプッシュ波の送信焦点の列方向の位置と送信順序とが異ならせてあればよく、統合SWSシーケンスにおけるプッシュ波列ppsの本数は測定条件等に応じて適宜してもよい。
図23は、変形例1、2に係る超音波診断装置における、プッシュ波列に基づくせん断波による関心領域の態様を示す模式図であり、(a)は変形例1、(b)は変形例2について示した図である。図23(a)(b)において、丸の中の数字はプッシュ波列pps1~3においてプッシュ波(pp1~4)が送信される順序を表した数字である。図23(a)に示すように、変形例1に係る超音波診断装置では、統合SWSシーケンスにおいて、内包するプッシュ波ppnの送信焦点の列方向の位置が異なる3本のプッシュ波列pps1、2、3を形成した点で実施の形態と相違する。プッシュ波列pps1と3とは、プッシュ波ppnの送信順序が浅部から深部に向かう順序であり、プッシュ波列pps2は、プッシュ波ppnの送信順序が深部から浅部に向かう順序であり、列方向に隣接する2つのプッシュ波列の送信において、互いに異なる送信順序でプッシュ波が送信されている。係る構成により、実施の形態と比べて、さらに、深度依存性、異方性の影響を抑制して、S/N等の画像品質を確保しつつ、被検体内のより広い範囲における弾性計測を可能とすることができる。
また、図23(b)に示すように、変形例2に係る超音波診断装置では、変形例2の構成において、さらに、連続する統合SWSシーケンスにおけるプッシュ波列pps1、2、3のそれぞれにおいて、互いに異なる送信順序でプッシュ波が送信される態様とした点に特徴がある。このように、連続する統合SWSシーケンスにおいて、プッシュ波列におけるプッシュ波ppnの送信順をフレーム毎に入れ換えることにより、フレーム毎にプッシュ波の形状を交互に変化させて、被検体組織の弾性に異方性がある場合においても、せん断波の伝播方向を変えることによって異方性の影響を軽減することができる。それらの計測結果を平均化することにより、さらに、均一性、測定結果の信頼度を向上することができる。
<変形例3>
変形例3に係る超音波診断装置では、上記何れかの態様において、表示制御部113は、プッシュ波列ppsの中心線LN上にある複数の送信焦点FPnに近接する弾性率データに所定の処理を施して弾性率サブフレームデータelsfを生成する構成としてもよい。具体的には、例えば、所定の処理は、複数の送信焦点FPnに近接する弾性率データの平均化処理、複数の送信焦点FPnに近接する弾性率データの対応するせん断波の信号品質に応じた重み付け平均化処理、複数の送信焦点FPnに近接する弾性率データの対応するせん断波の伝搬速度の計測位置に応じた重み付け平均化処理、又は、複数の送信焦点FPnに近接する弾性率データの対応するせん断波の伝搬速度の計測位置と対応する送信焦点との距離差に応じた重み付け平均化処理としてもよい。
係る構成により、変形例3に係る超音波診断装置では、弾性画像を表示する際に、プッシュ波列を構成する複数のプッシュ波に対応する異なる送信焦点fznに位置する波源から発生した球面波が合成され平面波に近い合成波を形成するときの合成波の波面の態様を弾性画像に表示することができる。
<変形例4>
図24は、変形例4に係る超音波診断装置における、プッシュ波列に基づくせん断波による関心領域の態様を示す模式図である。図24において、丸の中の数字はプッシュ波列pps1においてプッシュ波(pp1~4)が送信される順序を表した数字である。変形例3に係る超音波診断装置では、フレーム画像を形成するために単数のプッシュ波列を用いた構成において、連続するSWSシーケンスにおけるプッシュ波列ppsにおいて、互いに異なる送信順序でプッシュ波が送信される態様とした点に特徴がある。連続する2つのフレームにおいて、例えば、図24の上図に示すプッシュ波列pps1のプッシュ波ppnの送信順序が浅部から深部に向かう順序であり、図24の下図に示すプッシュ波列pps1は、プッシュ波ppnの送信順序が深部から浅部に向かう順序であり、連続する2つのフレームにおけるプッシュ波列の送信において、互いに異なる送信順序でプッシュ波が送信されている。このように、連続するSWSシーケンスにおいて、単数のプッシュ波列におけるプッシュ波ppnの送信順をフレーム毎に入れ換えることにより、変形例2と同様に、フレーム毎にプッシュ波の形状を交互に変化させて、被検体組織に異方性がある場合にもせん断波の伝播方向を変えることによって異方性の影響を軽減することができる。それらの計測結果を平均化することにより、均一性、測定結果の信頼度を向上することができる。
<その他の変形例>
なお、本発明を上記実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、以下のような場合も本発明に含まれる。
実施の形態に係る超音波診断装置100では、送信部106、検出波受信部108、変位検出部109、伝播情報解析部110、弾性率算出部111の構成は、実施の形態に記載した構成以外にも、適宜変更することができる。
例えば、実施の形態では、プローブ101に存する全ての振動子101aからプッシュ波の送信を行う構成としたが、送信部106は、プローブ101に存する複数の振動子101aの一部に当たる振動子列からなるプッシュ波送信振動子列Pxを設定し、SWSシーケンスごとに送信振動子列を列方向に漸次移動させながら超音波送信を繰り返す構成としてもよい。プッシュ波による音響放射圧を増加することができる。
また、実施の形態では、関心領域roiは、複数の振動子101aからなる振動子列(101a)を含む検出波照射領域Ax内の一部領域に設定される構成としたが、関心領域roiをその最大範囲である検出波照射領域Ax全体に設定した構成としてもよい。
また、実施の形態では、検出波照射領域Ax内の一部領域に設定し、プッシュ波パルス発生部104は、プッシュ波送信振動子列Pxを、複数の振動子101a全部とし、プッシュ波の送信焦点FPを関心領域roi内に単数設定する構成とし、関心領域roiに検出波pwlの送受信を複数回繰り返すSWSシーケンスを行い、1回のSWSシーケンスにより関心領域roi内に位置する観測点について弾性率フレームデータelを算出する構成とした。しかしながら、関心領域roiを、検出波照射領域Ax内の一部領域に設定し、SWSシーケンス毎に送信焦点FPを列方向に漸次移動させてプッシュ波ppを送信するとともに、送信焦点FPの位置に基づいて関心領域roi内の対象観測領域を異ならせて検出波pwlの送受信を複数回繰り返し、SWSシーケンスごとに関心領域roiの一部領域について算出された合成弾性率フレームデータempを合成して関心領域roi全体に対する統合SWSシーケンス合成弾性率elを算出する構成としてもよい。
また、実施の形態では、観測点の存在領域は、受波振動子列と垂直であって振動子列と同幅の領域とした。
しかしながら、これに限定されるものではなく、超音波照射領域に含まれる任意の領域に設定してもよい。例えば、受信振動子列の列中心を通り振動子列に垂直な直線を中心線とする複数の振動子幅の帯状の矩形領域としてもよい。
また、本発明は、例えば、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、上記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、上記マイクロプロセッサは、上記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。例えば、本発明の超音波診断装置の診断方法のコンピュータプログラムを有しており、このプログラムに従って動作する(又は接続された各部位に動作を指示する)コンピュータシステムであってもよい。
また、上記超音波診断装置の全部、もしくは一部、またビームフォーミング部の全部又は一部を、マイクロプロセッサ、ROM、RAM等の記録媒体、ハードディスクユニットなどから構成されるコンピュータシステムで構成した場合も本発明に含まれる。上記RAM又はハードディスクユニットには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。上記マイクロプロセッサが、上記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置はその機能を達成する。
また、上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、1つのシステムLSI(Large Scale Integration(大規模集積回路))から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全てを含むように1チップ化されてもよい。なお、LSIは、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。上記RAMには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。上記マイクロプロセッサが、上記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。例えば、本発明のビームフォーミング方法がLSIのプログラムとして格納されており、このLSIがコンピュータ内に挿入され、所定のプログラム(ビームフォーミング方法)を実施する場合も本発明に含まれる。
なお、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサー(Reconfigurable Processor)を利用してもよい。
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。
また、各実施の形態に係る、超音波診断装置の機能の一部又は全てを、CPU等のプロセッサがプログラムを実行することにより実現してもよい。上記超音波診断装置の診断方法や、ビームフォーミング方法を実施させるプログラムが記録された非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体であってもよい。プログラムや信号を記録媒体に記録して移送することにより、プログラムを独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい、また、上記プログラムは、インターネット等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。
上記実施形態に係る超音波診断装置では、記憶装置であるデータ格納部を超音波診断装置内に含む構成としたが、記憶装置はこれに限定されず、半導体メモリ、ハードディスクドライブ、光ディスクドライブ、磁気記憶装置、等が、超音波診断装置に外部から接続される構成であってもよい。
また、ブロック図における機能ブロックの分割は一例であり、複数の機能ブロックを一つの機能ブロックとして実現したり、一つの機能ブロックを複数に分割したり、一部の機能を他の機能ブロックに移してもよい。また、類似する機能を有する複数の機能ブロックの機能を単一のハードウェア又はソフトウェアが並列又は時分割に処理してもよい。
また、上記のステップが実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記ステップの一部が、他のステップと同時(並列)に実行されてもよい。
また、超音波診断装置には、プローブ及び表示部が外部から接続される構成としたが、これらは、超音波診断装置内に一体的に具備されている構成としてもよい。
また、上記実施の形態においては、プローブは、複数の圧電振動子が一次元方向に配列されたプローブ構成を示した。しかしながら、プローブの構成は、これに限定されるものではなく、例えば、複数の圧電変換振動子を2次元方向に配列した2次元配列振動子や、一次元方向に配列された複数の振動子を機械的に揺動させて三次元の断層画像を取得する揺動型プローブを用いてもよく、測定に応じて適宜使い分けることができる。例えば、2次元に配列されたプローブを用いた場合、圧電変換振動子に電圧を与えるタイミングや電圧の値を個々に変化させることによって、送信する超音波ビームの照射位置や方向を制御することができる。
また、プローブは、送受信部の一部の機能をプローブに含んでいてもよい。例えば、送受信部から出力された送信電気信号を生成するための制御信号に基づき、プローブ内で送信電気信号を生成し、この送信電気信号を超音波に変換する。併せて、受信した反射波を受波信号に変換し、プローブ内で受波信号に基づき音響線信号を生成する構成を採ることができる。
また、各実施の形態に係る超音波診断装置、及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。更に上記で用いた数字は、全て本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。さらに、本実施の形態に対して当業者が思いつく範囲内の変更を施した各種変形例も本発明に含まれる。
≪まとめ≫
本実施の形態に係る超音波診断装置は、複数の振動子が列設されたプローブが接続可能に構成されており、前記プローブに被検体内に超音波ビームが集束するプッシュ波を送信させ、当該プッシュ波の音響放射圧により生じたせん断波の伝播速度を検出して組織の弾性分布を算出する超音波診断装置であって、前記複数の振動子から選択される複数の送信振動子それぞれに対し、プッシュ波パルスを複数回供給することにより、前記複数の送信振動子に被検体内の深さ方向に並んだ複数の送信焦点それぞれに集束する複数のプッシュ波を順次送信させるプッシュ波列の送信を、前記複数の送信焦点の列方向の位置を異ならせて複数回実施するプッシュ波パルス送信部と、計測対象領域を決定する領域設定部と、それぞれの前記プッシュ波列の送信に続き、前記複数の振動子の一部又は全部に検出波パルスを供給して、前記複数の振動子に前記計測対象領域を通過する検出波を複数回送信させる検出波パルス送信部と、前記複数回の検出波の各々に対応して前記複数の振動子にて時系列に受信された反射検出波に基づき、前記計測対象領域内のせん断波の伝播速度サブフレームデータを算出する伝播情報解析部と、前記伝播速度サブフレームデータに基づき、前記計測対象領域内の弾性率サブフレームデータを算出する弾性率算出部と、それぞれの前記プッシュ波列の送信に対応して得られた前記弾性率サブフレームデータを合成して弾性率フレームデータを算出する合成部とを備え、前記プッシュ波パルス送信部は、列方向に隣接する2つのプッシュ波列の送信において、被検体の浅部から深部に向けた送信順序又は深部から浅部に向けた送信順序の何れかのうち、互いに異なる送信順序で前記複数のプッシュ波を送信して前記プッシュ波列の送信を実施し、前記領域設定部は、前記複数のプッシュ波列を構成する前記複数のプッシュ波の送信焦点の位置と、前記複数のプッシュ波の送信順序とに基づき計測対象領域を決定することを特徴とする。
係る構成により、超音波診断装置100では、超音波弾性率計測において、計測対象領域romを深度によらず一定とし、画質の均一性を改善する。すなわち、複数のプッシュ波列に基づく弾性計測結果を合成する際にプッシュ波列の形状に起因した計測品質の不均一性(深度依存性)を軽減することができる。
さらに、重ね合せ領域では、隣接するプッシュ波列からのせん断波の伝搬方向が正反対となり、両方の計測結果を平均化処理することにより、多方向からせん断波を伝播させることにより測定対象である被検体組織の弾性に異方性がある場合もその影響を軽減して、測定結果の信頼度を向上することができる。
その結果、S/N等の画像品質を確保しつつ、被検体内のより広い範囲における弾性計測を可能とすることができる。
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記領域設定部は、列方向に隣接する2つのプッシュ波列を構成する前記複数のプッシュ波の送信焦点を結ぶ中心線間において、それぞれの中心線から離間するように前記計測対象領域を決定し、前記浅部から深部に向けた送信順序でプッシュ波が送信されたプッシュ波列に対しては、深部における中心線と前記計測対象領域との列方向の距離は浅部における中心線と関心領域との列方向の距離よりも小さく、前記深部から浅部に向けた送信順序でプッシュ波が送信されたプッシュ波列に対しては、浅部における中心線と前記計測対象領域との列方向の距離は深部における中心線と関心領域との列方向の距離よりも小さいとしてもよい。
係る構成により、それぞれのプッシュ波列ppsから、プッシュ波列ppsに挟まれた領域内方に向けて伝播する合成波の波面は、互いに平行な関係となる。そのため、プッシュ波列ppsに挟まれた領域内であって、領域内方に向けて伝播する合成波の波面と平行な直線上の任意の位置の観測点Pijから各プッシュ波列ppsから伝播する合成波の波面までの距離は、深さにかかわらず一定となる。そのため、プッシュ波列pps1、2に挟まれた領域内においてプッシュ波列ppsの送信順序に応じてプッシュ波列ppsの中心線と計測対象領域romの列方向の外縁との距離を、計測対象領域romの列方向の外縁と領域内方に向けて伝播する合成波の波面とが平行な関係となるように、深さ方向に異ならせた態様とすることにより、計測対象領域romの列方向の外縁からプッシュ波列ppsからの合成波の波面までの距離を被検体の深さにかかわらず等価となるように計測対象領域romを設定できる。これより、計測対象領域romを深度によらず一定とし、画質の均一性を改善する。その結果、複数のプッシュ波列に基づく弾性計測結果を合成する際にプッシュ波列の形状に起因した計測品質の不均一性(深度依存性)を軽減することができる。
また、別の態様では、上記何れかの態様において、伝播速度サブフレームデータを算出する処理を繰り返して伝播速度サブフレームデータのシーケンスする超音波診断装置であって、前記プッシュ波パルス送信部は、時間方向に連続する2つの伝播速度サブフレームデータの算出において、中心線が列方向の同じ位置であるプッシュ波列の送信において、互いに異なる送信順序で前記プッシュ波を送信して前記プッシュ波列の送信を実施する構成としてもよい。
係る構成により、フレーム毎にプッシュ波の形状を交互に変化させて、被検体組織に弾性の異方性がある場合においても、せん断波の伝播方向を変えることによって異方性の影響を軽減することができる。それらの計測結果を平均化することにより、さらに、均一性、測定結果の信頼度を向上することができる。
また、別の態様では、上記何れかの態様において、さらに、画像を表示する表示部が接続可能に構成されており、前記伝播速度サブフレームデータに基づき、前記関心領域内の弾性率フレームデータを算出する弾性率算出部と、前記弾性率フレームデータに基づき前記関心領域の弾性率データの分布を示す弾性画像を生成し、当該弾性画像を表示用の画像に変換して前記表示部に表示させる表示制御部とを備える構成としてもよい。
係る構成により、変位量サブフレームデータのシーケンスに基づき被検体組織の弾性率フレームデータを簡易に算出でき、変位量サブフレームデータのシーケンスに基づき被検体組織の弾性率分布画像を表示できる。
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記表示制御部は、プッシュ波列の中心線上にある複数の送信焦点に近接する弾性率データに所定の処理を施して弾性率サブフレームデータを生成する構成としてもよい。前記所定の処理は、複数の送信焦点に近接する弾性率データの平均化処理、複数の送信焦点FPnに近接する弾性率データの対応するせん断波の信号品質に応じた重み付け平均化処理、複数の送信焦点に近接する弾性率データの対応するせん断波の伝搬速度の計測位置に応じた重み付け平均化処理、又は、複数の送信焦点に近接する弾性率データの対応するせん断波の伝搬速度の計測位置と対応する送信焦点との距離差に応じた重み付け平均化処理としてもよい。
係る構成により、弾性画像を表示する際に、プッシュ波列を構成する複数のプッシュ波に対応する異なる送信焦点fznに位置する波源から発生した球面波が合成され平面波に近い合成波を形成するときの合成波の波面の態様を弾性画像に表示することができる。
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記プッシュ波パルス送信部は、同一の送信振動子の列に対してプッシュ波パルスを複数回供給する構成としてもよい。
係る構成により、容易に前記複数の送信振動子の列長に対する前記送信焦点の深さの比率が被検体の深部ほど大きく浅部ほど小さく、前記複数のプッシュ波を送信させることができる。
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記プッシュ波パルス送信部は、前記複数の送信振動子を特定し、前記送信振動子毎に適用される前記プッシュ波パルスの位相、前記プッシュ波パルス毎の前記プッシュ波パルスの印加電圧及び電圧印加時間、前記プッシュ波パルス毎の前記プッシュ波パルスの最小電圧印加開始時間を設定して、前記プッシュ波パルスを供給する構成としてもよい。
係る構成により、前記プッシュ波パルス送信部は、隣接する前記送信焦点間の間隔が被検体の深部ほど大きく浅部ほど小さく、かつ、前記複数の送信振動子の列長に対する前記送信焦点の深さの比率が被検体の深部ほど大きく浅部ほど小さく、前記複数のプッシュ波を送信させる構成を簡易に実現できる。
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記検出波は、被検体中を前記複数の振動子の列と垂直に伝播する平面波である構成としてもよい。
係る構成により、1回の検出波の送受信により関心領域全体について音響線信号を取得でき、所定時間内に平面波による検出波を複数回、送受信することにより、せん断波の伝播速度の検出が可能になる。
また、別の態様では、上記何れかの態様において、さらに、前記複数回の検出波の各々に対応した前記反射検出波に基づき、前記関心領域内の複数の観測点について音響線信号を生成して音響線信号サブフレームデータのシーケンスを生成する検出波受信部と、前記音響線信号サブフレームデータのシーケンスから、前記反射検出波の受信時刻それぞれにおける前記関心領域内の組織の変位を検出して変位量サブフレームデータのシーケンスを生成する変位検出部とを備え、前記伝播情報解析部は、前記変位量サブフレームデータのシーケンスに基づき、前記関心領域内のせん断波の伝播速度のサブフレームデータを算出する、構成としてもよい。
係る構成により、せん断波の伝播速度を解析するための変位量サブフレームデータのシーケンスを生成できる。
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記伝播情報解析部は、各前記受信時刻における前記変位量サブフレームデータのシーケンスからせん断波の波面位置を抽出して波面サブフレームデータのシーケンスを生成し、複数の前記波面サブフレームデータそれぞれに含まれる波面の位置と前記受信時刻とを対応させることにより波面到達時間サブフレームデータのシーケンスを生成し、前記波面到達時間サブフレームデータのシーケンスに基づき前記関心領域内のせん断波の伝播速度サブフレームデータを算出する構成としてもよい。
係る構成により、変位量サブフレームデータのシーケンスに基づきせん断波の伝播速度サブフレームデータを算出できる。
また、本実施の形態に係る超音波診断装置の制御方法は、複数の振動子が列設されたプローブが接続可能に構成されており、前記プローブに被検体内に超音波ビームが集束するプッシュ波を送信させ、当該プッシュ波の音響放射圧により生じたせん断波の伝播速度を検出して組織の弾性分布を算出する超音波診断装置の制御方法であって、前記複数の振動子から選択される複数の送信振動子それぞれに対し、プッシュ波パルスを複数回供給することにより、前記複数の送信振動子に被検体内の深さ方向に並んだ複数の送信焦点それぞれに集束する複数のプッシュ波を順次送信させるプッシュ波列の送信を、前記複数の送信焦点の列方向の位置を異ならせて複数回実施し、計測対象領域を決定し、それぞれの前記プッシュ波列の送信に続き、前記複数の振動子の一部又は全部に検出波パルスを供給して、前記複数の振動子に前記計測対象領域を通過する検出波を複数回送信させ、前記複数回の検出波の各々に対応して前記複数の振動子にて時系列に受信された反射検出波に基づき、前記計測対象領域内のせん断波の伝播速度サブフレームデータを算出し、前記伝播速度サブフレームデータに基づき、前記計測対象領域内の弾性率サブフレームデータを算出し、それぞれの前記プッシュ波列の送信に対応して得られた前記弾性率サブフレームデータを合成して弾性率フレームデータを算出し、前記プッシュ波パルスの送信では、列方向に隣接する2つのプッシュ波列の送信において、被検体の浅部から深部に向けた送信順序又は深部から浅部に向けた送信順序の何れかのうち、互いに異なる送信順序で前記複数のプッシュ波を送信して前記プッシュ波列の送信を実施し、前記計測対象領域の決定では、前記複数のプッシュ波列を構成する前記複数のプッシュ波の送信焦点の位置と、前記複数のプッシュ波の送信順序とに基づき計測対象領域を決定することを特徴とする。
また、別の態様では、前記計測対象領域の決定では、列方向に隣接する2つのプッシュ波列を構成する前記複数のプッシュ波の送信焦点を結ぶ中心線間において、それぞれの中心線から離間するように前記計測対象領域を決定し、前記浅部から深部に向けた送信順序でプッシュ波が送信されたプッシュ波列に対しては、深部における中心線と前記計測対象領域との列方向の距離は浅部における中心線と関心領域との列方向の距離よりも小さく、前記深部から浅部に向けた送信順序でプッシュ波が送信されたプッシュ波列に対しては、浅部における中心線と前記計測対象領域との列方向の距離は深部における中心線と関心領域との列方向の距離よりも小さい構成としてもよい。
係る構成により、計測対象領域romを深度によらず一定とし、S/N等の画像品質を確保しつつ、被検体内のより広い範囲における弾性計測が可能な超音波診断装置の制御を実現できる。