JP6998015B2 - 球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法 - Google Patents

球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法 Download PDF

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Description

特許法第30条第2項適用 発行日 平成27年5月1日、 刊行物 鋳造工学 第166回全国講演大会 講演概要集 (Reports of the 166nd JFS Meeting) 第96ページ 公益社団法人 日本鋳造工学会
本発明は、超微細球状黒鉛を有する球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法及び球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品に係る。より詳細には、熱処理を行わないアズキャストの状態で、チルが無く超微細化した球状化黒鉛の数が従来よりも多く以上存在し、引張強度・伸びその他の特性の向上が期待される超微細球黒鉛を有する球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法及び球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品に関する。
球状黒鉛鋳鉄は、銑鉄鋳物(別名、鋳鉄)の一種であり、ダクタイル鋳鉄ともいう。鋳鉄の一種であるねずみ鋳鉄の場合には、黒鉛は、細長い異方性の強い薄片状の形状を有している。それに対して、球状黒鉛鋳鉄の場合には、黒鉛は、球状の形状をしている。球状黒鉛は、鋳込み直前の溶湯にマグネシウムやカルシウムなどを含んだ黒鉛球状化剤を添加することによって達成される。
球状黒鉛鋳鉄は、強度のない黒鉛が球状で独立しているため、この鋳物は鋼と同程度に、粘り強く強靱な鋳物となる。球状黒鉛とは靭性を意味し、球状化黒鉛は、材料強度と伸びを具えた特性の原因となっている。現在は自動車産業をはじめ産業用機器用の材料として 多用されている。
黒鉛が細かくその粒数が多いほど衝撃時における亀裂の進展を抑止する効果が高まり、衝撃エネルギーが増加する。さらなる材質の向上を目的として、球状化黒鉛の微細化、均一分散を図る努力がなされている。
従来の球状化黒鉛鋳鉄の一般的な金属組織を図3に示す。図3に示すように、従来の球状化黒鉛鋳鉄は400個/mmの球状黒鉛を有するのが一般的である。
また、球状黒鉛鋳鉄につき、以下に記載の特許文献・非特許文献に記載されているような試みもなされている。
特許文献1(特開平1-309939号公報)では、適量のビスマスを添加することにより黒鉛粒数を300個/mm以上としている。この技術においてはさらにニッケルを適量添加してより高い引張強さ及び耐力を達成している。
特許文献2(特開平6-93369号公報)では、溶湯にマグネシウム(Mg)の存在下でCaを添加し、その後Biを添加することにより、従来の球状黒鉛鋳鉄よりも微細な球状黒鉛及び快削元素としてのCa化合物を鋼中に均一に分布させることにより被削性及び機械的性質の一層の向上を図ることが可能な快削球状黒鉛鋳鉄の技術が提供されている。
特許文献3(特開2003-286538号公報)では、ダクタイル鋳鉄材にBiの添加する量をコントロールすることにより,黒鉛を微細化させて,機械的性質を改善している。この技術においては、BiとCaの相乗作用によって引張り強度450MPa以上、かつ伸び20%以上であり、球状黒鉛が少なくとも2,000個/mm以上測定され、かつ、球状化率が90%以上維持している。
特許文献4(特開2000-45011号公報)では、Cを3.10~3.90%、Siを2.5~4.00%、Mnを0.45%以下、Pを0.05%以下、Sを0.008%以下、Cuを0.5%以下、Moを0.3%以下、Mgを0.05%以下、Bi+Sb+ Tiを0.1%以下含有し、金型鋳造法によって鋳造して鋳造物中に超微細黒鉛組織を有するようにした球状黒鉛鋳鉄の鋳造方法が開示され、これにより、黒鉛粒数がほぼ1900個/mmの超微細黒鉛組織を有するとともに、チル組織の発生が防止されするようにした球状黒鉛鋳鉄鋳物が提供されている。
一方、無チル化の観点から、非特許文献1(「反応論からみた鋳鉄」)には、溶湯中の窒素含有量とチル深さとの関係が示され、窒素を塩酸可溶性窒素と塩酸不溶性窒素とに分類し、それぞれのチル深さとの関連を示している(非特許文献1 第116-123頁)。
ただ、この分類では必ずしも当てはまらない場合があるため、非特許文献2では、窒素をフリー窒素とそれ以外の窒素とに分類し、フリー窒素量の制御によりチルの長さを低減する試みがなされている。ここで、フリー窒素量は、全窒素量から介在物となっている介在物窒素量を差し引いた窒素量である。なお、ここで、介在物窒素量は、JIS G 1228(蒸留-中和滴定法)により測定されている。
また、非特許文献3では、チル無しの球状黒鉛の数が850-1400個/mmのアズキャスト品が提供されている(非特許文献3 表IX上第1欄)。
特開平1-309939号公報 特開平6-93369号公報 特開2003-286538号公報 特開2000-45011号公報
「反応論からみた鋳鉄」初版 社団法人新日本鋳鍛造協会発行 平成4年3月31日発行 「鋳鉄の黒鉛凝固に及ぼすフリー窒素量の影響」 日本鋳造工学会、第163回全国公演大会概要集(2013)99 「Magnesium Mapofthe Spheroidalgraphite Structure in DuctiLe Castlrons(金型を用いて製造したダクタイル鋳鉄鋳物)」REVISTA DE METALURGIA, 49 (5)SEPTEMBRE-OCTUBRE 325-339 2013
上記した特許文献・非特許文献に記載の従来技術においては、金型鋳造を行うといずれもチルの発生を伴う。チルを無くすために熱処理を行わざるを得ない。
また、上記製造方法を用いて製造した球状黒鉛鋳鉄の組織内における球状黒鉛の個数は少ない。そのため、強度、伸びなどの機械的特性が必ずしも所望するものではない。
また、特許文献3の技術においては酸化物と思われる白い粉の発生が認められ伸び特性に欠ける。
非特許文献2では、チル長さはフリー窒素の量に影響されることから、フリー窒素の除去により、チル長の低減を図っている。しかし、非特許文献2は、冷やし金を含むとは言え金型鋳造ではないにもかかわらずチルは発生している。すなわち、生型に比べてよりチルが発生しやすい金型にこの技術を適用すれば、よりチル長が長いチルが発生することを示唆している。また、組織内における球状黒鉛の個数、粒径については触れられていない。
特許文献3記載の球状黒鉛鋳鉄では、球状黒鉛の個数は2,000個/mm以上を達成している。しかし、この技術は金型鋳造品の技術ではない。すなわち、金型鋳造品であって球状黒鉛の個数が2,000個/mm以上のものは提供されていない。
特許文献4では、BiとSbを必須としている。
非特許文献3では、金型鋳造品の中で、表面、中心ともにチルの無い品物は、ブレーキキャリパーG(7.5kg、肉厚43mm)のみであり、モジュラスM(cm)(M=V/S,Vは体積、Sは表面積)が2を超えるものに限られている。
本発明は、小さなモジュラスであっても、熱処理を行わないアズキャストの状態で、チルが無く、かつ、組織内における球状黒鉛を超微細化し、その個数を従来の数倍とすることが可能な超微細球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法及び金型鋳造品を提供することを目的とする。
請求項1に係る発明は、鋳鉄からなる原料を加熱溶解して元湯を得る溶解工程、 球状化処理を行う球状化処理工程、 接種を行う接種工程、 金型内に鋳込みを行う鋳込み工程、を有する球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法において、 前記金型鋳造品の融解時発生窒素量が0.9ppm(質量)以下になるように窒素量を調整する球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法であり、前記元湯を1500℃以上の所定の温度まで加熱後、加熱を停止しその温度に一定時間保持して前記元湯から酸素を除去し、次いで、前記元湯を℃/分以下の冷却速度で、T(℃)まで徐冷することにより前記元湯中の窒素を減少させ、次いで、球状化処理、接種及び鋳込みを行うチルの無い球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法である。
=Tk-273(℃)

log([Si]/[C])=-27,486/Tk+15.47
[Si]、[C]は質量%
請求項2に係る発明は、前記金型表面に断熱性を有する塗型を設けたことを特徴とする請求項1記載の球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法である。請求項3に係る発明は、前記断熱性を有する塗型の塗布厚は0.4mm以上であることを特徴とする請求項2記載の球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法である。請求項4に係る発明は、前記金型表面に熱伝導率が0.42W/(m・K)以下の塗型を塗布したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の球状黒鉛鋳鉄品の製造方法である。請求項5に係る発明は、前記一定時間保持の後、前記球状化処理温度までの直線的冷却速度よりも速い冷却速度で冷却し、次いで、温度を上げた後に直線的に前記球状化処理温度まで冷却する請求項1記載の球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法である。
小さなモジュラスであっても、熱処理を行わないアズキャストの状態で、チルが無く、かつ、組織内における球状黒鉛を超微細化し、その個数を従来の数倍とすることができる。
大きな伸びと高い強度とを兼ね備えた球状黒鉛鋳鉄を得ることができる。
本発明の実施例の工程を示すグラフである。 本発明の実施例により製造した製品の組織図である。 本発明の実施例により製造した製品のモジュールに対する黒鉛粒数を示すグラフである。 本発明の実施例により製造した製品の機械的特性を示すグラフである。 従来の球状黒鉛化鋳鉄の金属組織図である。
以下、図1に基づき本発明を実施するための形態を説明する。
(溶解工程)
溶解行程においては、球状黒鉛鋳鉄の元湯原料を溶解する。
元湯原料としては、例えば、JISG5502に規定する原料を用いればよい。他の鋳鉄でも適用可能である。また、必要に応じて、他の元素を添加してもよい。また、組成範囲を適宜変えてもよい。
JISG5502に規定する例としてFCD400-15、FCD450-10、FCD500-7、FCD600-3、FCD700-2、FCD800-2、FCD400-15、FCD450-10、FCD500-7などがあげられる。
なお、上記元湯原料あるいは、元湯原料溶解後に、上記成分に加えて、Bi,Ca,Ba,Cu,Ni,Cr,Mo,V、RE(希土類元素)を適宜添加してもよい。
また、CE(炭素当量)を適宜、例えば、3.9~4.6に制御してもよい。
本発明では、溶解後さらに加熱を行い元湯の昇温を行う。昇温により、元湯内から酸素は除去される。
昇温は、元湯内から酸素の除去が止まる温度Tに達するまで行う。その温度Tに達した時点で昇温を停止し、Tにおいて所定時間保温する。保温を続けると、ルツボ側面から気泡の発生が認められるためその時点で保温を停止する。通常、保温は2~10分の間で行われる。
(窒素の除去工程)
酸素を除去する工程の後に、窒素の除去を行う。
非特許文献2では、フリー窒素の制御を行っている。ただ、非特許文献2は生型を対象としており、金型にそのままでは適用できず、金型に非特許文献2に記載のフリー窒素の制御を行っても球状黒鉛の個数の増加は必ずしも認められない。
金型の場合は、融解時発生窒素量を基準に窒素の制御を行うと、球状黒鉛の個数の増加を制御できることがわかった。
融解時発生窒素量は、鋳造品を溶解した際の融解時の窒素ガス量である。鋳鉄が固体から液体になった際に発生する窒素である。最終鋳造品で調べればよい。
具体的に次の手順で測定する。酸化膜除去のためFUJI STAR500(三共理化学)サンドペーパーにて表面の金属光沢がなくなるまで酸化膜を取り除いた後、マイクロカッター又は鉄筋カッターで切断し0.5-1.0gの試料とした。せん断した試料は油分除去のためアセトンで洗浄しドライヤーで数秒乾燥または真空乾燥した後分析を実施する。
分析は装置に電源を入れHeガスを送入し、システムチェックとリークチェックを行い異常が無いのを確認する。安定化した後、分析を開始する。分析するにあたっては、捨て分析、ブランク測定を行い、ゼロ点補正を行う。
ブランク分析は、初めに坩堝をセットし、助燃材(黒鉛パウダー)を約0.4g前後添加する。助燃材は合金中の窒素抽出率を向上させる目的で添加する。Heを流入しながらアウトガスのパージを行い、試料室内をHeガスで置換する。次いで予備加熱により黒鉛坩堝から発生する酸素、窒素を取り除くため分析温度と同条件以上の温度(例えば2163℃)で15秒加熱保持し坩堝から発生するガスを除去する。その後昇温条件で分析を行い得られる数値をブランクとしゼロ点ベースとなるように補正する。
検量線作成標準試料としてLECO製114-001-5(窒素8±2ppm、酸素115±19ppm)、502-873(窒素47±5ppm 酸素34±5ppm)、502-869(窒素414±8ppm 酸素36±4ppm)、502-416(窒素782±14ppm 酸素33±3ppm)を用いて各3回測定し得られた数値から検量線を作成する。
昇温分析では低融点物質から徐々に溶解していき、各温度毎に溶融した物質中に含まれる窒素が抽出され波形ピークが得られる。
波形ピークの総面積(ピーク強度値の総和)と分析によって得られる窒素量から単位面積当たりの窒素量を算出し、1250-1350℃付近の昇温初期に発生する窒素を数値化する。
以上の分析においても、鋳鉄が固体から液体になった際に発生する窒素の部分に着目すれば融解時発生窒素量も求めることができる。
窒素については、元湯への溶解度を減少させることにより元湯内から除去することができる。そのために、溶湯を徐冷する。急激な冷却では、窒素は元湯内から抜ききれないことがある。冷却速度として、5℃/分以下が好ましい。
冷却は、式1におけるT(℃)まで行うことが好ましい。T(℃)より低い温度まで冷却を行うと、逆に酸素の取り込みが始まってしまう。窒素、酸素の両方を最小とするためにT〈℃〉まで冷却することが好ましい。実務上の観点を考慮すると(T-15℃)±20(℃)まで冷却することが好ましい。

式(1) T=T-273(℃)
log([Si]/[C])=-27,486/T+15.47
徐冷過程において、窒素は元湯から放出される。すなわち、徐冷により元湯中への窒素の飽和溶解度は小さくなるため他の元素と化合物を形成していない窒素は元湯から放出される。なお、例えば、アルゴンガスのバブリングを行ってもよい。かかる冷却により窒素は元湯から逃げる。
(球状化処理工程)
式1におけるT(℃)まで冷却した時点で、球状化処理を行う。
ここで、球状化処理はMg添加により行うことが一般的である。他の方法(例えば、Ceを含む処理剤による球状化処理)によってもよい。
ただ、Ceに比べて、Mgの場合は、微細化の程度及び単位当たりの球状化炭素の数は圧倒的に優れている。
前記Mg含有処理剤は、Fe-Si-Mgが好ましい。特に、Fe:Si:Mg=50:50:(1~10)(質量比)の処理剤を用いることが好ましい。Mg比が1未満では、十分な球状化を行うことができない。また、10を超えると、泡立ちが生じてしまいガスの巻き込みを起こしてしまう。かかる観点から1~10が好ましく、1~5がより好ましい。
酸素含有量が20ppm(質量)以下において前記球状化処理を行うことが好ましい。20ppm以下とすることにより微細な球状化黒鉛が得られる。
(接種工程)
球状化処理を行った後に直ちに接種を行う。接種は、溶湯に例えば、Fe-Siを添加することにより行う。例えば、Fe-75Si(質量比)が好適に用いられる。
(鋳込み工程)
接種剤Fe-Si添加後鋳込みを行う。接種剤が拡散撹拌しない状態で鋳込みを行うことが好ましい。設備上の要因などを考慮して、例えば、10分以下、5分以下、1分以下、5秒以下と短時間化をはかることが好ましい。
鋳込みは、T±20(℃)において行うことが好ましい。
ここで、T=1350-60M(℃)」
M=V/S
Vは製品体積(cm)、Sは製品表面積(cm
金型温度はT±20(℃)とすることが好ましい。
=470-520M(℃)
M=V/S
Vは製品体積(cm)、Sは製品表面積(cm
金型温度は、製品の体積に応じて制御を行うことが好ましい。金型温度を制御することにより球状化黒鉛をより微細かつ均一に形成することができる。
ただ、条件によっては湯周り不良を生ずるおそれがあるため、金型の最低温度は100℃とすることが好ましい。
(接種)
接種処理は、Fe-Siを添加することにより行うことが好ましい。
Fe-Si添加後可及的速やかに行うことが好ましい。接種後短時間であるほどより微細でかつ単位面積当たりの球状化黒鉛が多くなる。短時間であるほどFe-Siの溶湯中への拡散が遅くなり、それに伴い球状化黒鉛の密度が高くなる。
装置などにも依存するが、例えば、10分以内に前記鋳込みを行うが好ましく、5分以内に行うことがより好ましく、30秒以内、5秒以内と、短くするほど好ましい。に行うことがさらに好ましい。Fe-Siが溶解後拡散前の状態で鋳込みを行うと、均一に溶解した場合よりも球状化黒鉛の個数は飛躍的に増加する。かかる状態をさらに促進するために撹拌を行わずに鋳込みを行うことが好ましい。
金型には、断熱性の塗型を塗布することが好ましい。特に、断熱性塗型が好ましく熱伝導率:0.42w/(m・K)以下が特に好ましい。具体的に断熱性の塗型を厚み0.4mm以上に塗布することが好ましい。
(実施例1)
次の組成を有する原料を用いた。(質量%)
C:3.66、Si:2.58、Mn:0.09、P:0.022、S:0.006、残Fe
この原料の組成における式(1)のTを求めると次の通りである。
=1698(K)
T=T-273=1425(℃)
この原料を炉内において加熱して溶解した。溶解後も加熱を続け、1425(℃)を通過し、昇温を続けた。1425(℃)以上の温度においては酸素の除去が行われている。
昇温をさらに続けたところ、1510℃を超えた温度において、炉の耐熱材からの酸素の発生が認められた。そこで、1510℃において昇温を停止し、1510℃に5分間保温を行った(ここではスーパーヒートと称する。)。この期間は酸素が元湯から除去される期間である。
1510℃に5分間保温後平均で約5℃/分の割合で1425℃(=T℃)まで徐冷した。途中一旦1440℃まで温度を下げ、その後1460℃まで上昇させ、次いで、5分/分の速度で冷却した。
すなわち、スーパーヒートの後T℃まで直線的に徐冷するのではなく、一旦直線より速く冷却し、次いで、温度を上げた後に直線的に冷却した。かかる、徐冷を行うことにより、溶湯への大気成分の巻き込みを直線的に徐冷を行う場合よりも大きく低減させることができた。直線的に冷却しようとすると加温が必要となり、加温時に撹拌を行うことにより大気の巻き込みが生じるためと考えられる。スーパーヒート後は1460℃までは大気の巻き込みが生じないように自然冷却を行うことが好ましい。これにより、窒素の外部からの混入を減らすことができ、窒素の量、ひいては融解時発生窒素量をより正確に制御可能となり、低減させることができる。
溶湯温度の低下に伴い、溶湯への窒素の溶解度が減少するため、窒素が生じる。徐冷により窒素の溶湯への飽和量は低下し、不飽和窒素が溶湯から放出された。Tの温度まで冷却した時点で、溶湯から一部を取り出して酸素の含有量を分析したところ20ppm以下であった。
次いで、Mg処理を行った。Mg処理は、Fe-Si-3Mgを添加して行った。Mg処理後接種を行った。接種においては、0.6質量%Fe-75Siの接種剤を用い、湯面接種により撹拌して行った。製品は、直径1cm、厚さ(t)5.3mmのコインである。鋳込み温度及び金型温度は、次の通り設定した。
また、金型には、断熱性塗型0.4mm塗布した。塗型の熱伝導率は0.42w/(m・K)であった。
鋳込み温度Tは、
M=V/S=0.34
=1350-60M=1320℃
金型温度Tは、
=470-520M=293.2(℃)
上記設定の鋳込み温度及び金型温度のもとに、接種終了後10秒後に金型に鋳込みを行った。鋳込み後、次の結果が得られた。
製品の組成は次の通りであった。(質量%)
C :3.61、Si:3.11、Mn:0.10、P:0.024、S:0.008、
Mg:0.018であった。
鋳込み後の試料について顕微鏡写真により組織の観察を行った。組織図を図2(a)に示す。なお、図2(b)は砂型鋳造品の参考例である。
球状黒鉛は、非常に微細であり、均一に分布していた。球状化黒鉛の個数を数えたところ3222個/mmであった。
(実施例2)
本例では、融解時発生窒素量を変化させ、融解時発生窒素量とチルの発生有無との関係を調べた。
なお、実験は、実施例1と同様に行った。また、いずれの場合も金型表面に0.4mm厚の断熱性の塗型を形成した。結果を以下に示す。
融解時発生窒素量 T 鋳込温度 チルの有無
(ppm) (℃)
1.05 1415 1303 有
1.15 1439 1436 有
0.89 1430 1316 無
0.93 1429 1390 有
0.22 1432 1310 無
0.63 1432 1315 無
0.37 1430 1312 無

上記結果に示す通り、融解時発生窒素量は0.9ppmを臨界値とし、それ以下に制御した場合にはチルの発生が無かった。
なお、チルの発生が無い場合は、チルの発生が有る場合よりも球状黒鉛の個数ははるかに多かった。
(比較例)
本例では、原料溶解後、1510℃まで昇温後、金型に鋳込みを行った。ただ、本例では砂型を用いた。他の点は実施例1と同様とした。
その結果を図2(b)に示す。
本例では1005個/mmであった。
(実施例3)
本例では、塗型を変えた実験を行った。
次の3種類の塗型につき実験を行った。他の条件は実施例1と同様である。
A 断熱性塗型(厚み0.4mm)熱伝導率:0.42W(m・K)
B 断熱性塗型(厚み0.7mm)熱伝導率:0.2W/(m・K)
C 断熱性塗型(厚み0.2mm)熱伝導率:0.85W/(m・K)
D カーボンブラック 熱伝導率:5.8W/(m・K)
Aは実施例1と同じである。
断熱性塗型(A-C)の場合は、いずれもチルの発生は認められなかった。ただ、厚みが0.2mmの場合は、球状黒鉛の数は、0.4mmの場合よりも少なく、かつ、粒径が大きかった。0.7mmの場合は、0.4mmとほぼ同様であった。
また、カーボンブラックの場合は、チルの発生は認められなかったが、0.2mm厚の断熱性塗型の場合よりもさらに球状黒鉛の数は少なかった。
(実施例4)
本例では、金型温度を、25℃~300℃の範囲で変化させた。
試験は、25℃、178℃、223℃、286℃、300℃の5点で行った。
なお、塗型は、断熱性の塗型を0.4mm塗布した。
他の点は実施例1と同様とした。
25℃の場合はチルの発生が認められた。他の温度についてはチルの発生は認められなかった。286℃の場合が一番粒径は小さかった。
(実施例5)
本例では、モジュラス(M)を0.25~2.0(cm)の範囲で変化させて金型鋳造品を製造した。
製造条件は、実施例1と同様である。
製造したそれぞれの金型鋳造品につき、球状黒鉛の個数を測定した。
その結果を、生型の場合とともに図3に示す。
なお、いずれの製品についてもチルの発生は認められなかった。
図3に示すように、モジュラス(M)が小さくとも1500個/mm以上の微細な球状黒鉛を有する組織であった。
(実施例6)
本例では、ナックルを試作し機械的特性を評価した。
なお、本例では、湯口にフィルターを設置して、異物を極力除去した。ただし、僅かに異物残留はしていた。
試験結果を、従来例とともに図4に示す。
ナックル試作品の機械的特性の評価としては、球状黒鉛鋳鉄の材質であるにもかかわらず鋳鋼品の機械的特性を示す結果であった。例えば、ナックル試作品の一つの引張強さ525N/cm品は伸びが18.8%であり、一般の球状黒鉛鋳鉄では同等の伸びで比較すると引張強度が380N/cm前後であることから、1.5倍の引張強度となり、鋳鋼に匹敵する機械的特性が得られた。
高い靭性及び強度が要求されるナックルなどの自動車部品、電気・電子機器部品においても、本発明を適用することができる。

Claims (5)

  1. 鋳鉄からなる原料を加熱溶解して元湯を得る溶解工程、 球状化処理を行う球状化処理工程、 接種を行う接種工程、 金型内に鋳込みを行う鋳込み工程、を有する球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法において、 前記金型鋳造品の融解時発生窒素量が0.9ppm(質量)以下になるように窒素量を調整する球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法であり、前記元湯を1500℃以上の所定の温度まで加熱後、加熱を停止しその温度に一定時間保持して前記元湯から酸素を除去し、次いで、前記元湯を℃/分以下の冷却速度で、T(℃)まで徐冷することにより前記元湯中の窒素を減少させ、次いで、球状化処理、接種及び鋳込みを行うチルの無い球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法。
    =Tk-273(℃)

    log([Si]/[C])=-27,486/Tk+15.47
    [Si]、[C]は質量%
  2. 前記金型表面に断熱性を有する塗型を設けたことを特徴とする請求項1記載の球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法。
  3. 前記断熱性を有する塗型の塗布厚は0.4mm以上であることを特徴とする請求項2記載の球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法。
  4. 前記金型表面に熱伝導率が0.42W/(m・K)以下の塗型を塗布したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の球状黒鉛鋳鉄品の製造方法。
  5. 前記一定時間保持の後、前記球状化処理温度までの直線的冷却速度よりも速い冷却速度で冷却し、次いで、温度を上げた後に直線的に前記球状化処理温度まで冷却する請求項1記載の球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品の製造方法。
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