本発明は、核酸鎖の酵素的合成および増幅を可能にする方法および成分を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、核酸鎖の合成および増幅のための新たな酵素法および成分を提供することを目的とする。
また、本発明は、指数関数的な増幅において標的核酸鎖の合成の特異性を向上させる方法を提供することを別の目的とする。
さらに、本発明は、特異性が向上した合成を利用した指数関数的な増幅方法を実施するための手段を提供することを別の目的とする。
さらに、本発明は、プライマー間で合成された配列部分を検証することによって、合成された配列部分と標的配列のマッチングの程度に応じて、増幅反応の効率または配列の増幅反応時間に影響を与えることができる手段および方法を提供することを別の目的とする。
さらに、本発明は、合成された配列をリアルタイムで検証することができ、これによって、合成された配列をさらなる増幅サイクルに使用可能とするための制御を行う(リアルタイム制御/オンライン品質管理)手段および方法を提供することを別の目的とする。
さらに、本発明は、核酸鎖の塩基組成を検証してフィードバックする機能を備えた指数関数的な核酸鎖の増幅方法を提供するための手段および方法を提供することを別の目的とする。この方法において、核酸鎖の塩基組成を検証してフィードバックする機能は、指数関数的な増幅と並行して行われる。この方法における制御系は、増幅される各成分によって構成される。
本発明の方法を使用して、配列組成が定義された核酸鎖を合成および増幅することができる。
本発明の課題は、本発明の増幅方法およびこの方法を実施するための手段を提供することによって解決される。
前記増幅は、両プライマーから新たに合成された産物(プライマー伸長産物)がさらなる合成工程の鋳型として使用される指数関数的な増幅であることが好ましい。この増幅において、各プライマー配列は少なくとも部分的に複製され、その結果、合成直後には二本鎖の配列セグメントとして存在する相補的プライマー結合部位が生成する。この増幅方法では、両鎖の合成工程と新たに合成された配列部分の二本鎖開裂工程が交互に起こる。合成後に二本鎖が十分に分離することは、さらなる合成を行うために必須である。したがって、このように合成工程と二本鎖分離工程とが交互に起こることによって、指数関数的な増幅を達成することができる。
本発明の増幅方法の増幅(標的配列を含む核酸鎖の増幅)において、特に主産物の二本鎖の開裂は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと呼ばれるオリゴヌクレオチドによって行われる。アクチベーターオリゴヌクレオチドは、標的配列に一致する配列セグメントを含むことが好ましい。
詳細に述べると、本発明によれば、鎖分離は、所定の配列を有するアクチベーターオリゴヌクレオチドを使用することによって行われ、このアクチベーターオリゴヌクレオチドは、核酸を介した配列依存的鎖置換によって、両方の特異的プライマーの伸長産物からなる新たに合成された二本鎖を分離することが好ましい。一本鎖に分離されたプライマー伸長産物の一方には標的配列が含まれ、他方にはこの標的配列に対応するプライマー結合部位が含まれ、このプライマー結合部位は、さらなるプライマーオリゴヌクレオチドの結合部位として機能することができ、その結果、増幅対象の核酸鎖が指数関数的に増幅される。基本的に、プライマー伸長反応と鎖置換反応は同時に進むことが好ましい。増幅は、合成された特異的な両方のプライマー伸長産物が自然に分離することができない反応条件下で起こることが好ましい。
標的配列を含む核酸鎖の特異的かつ指数関数的な増幅は、核酸鎖を増加させるために不可欠な必要条件として、合成工程と二本鎖開裂工程(プライマー結合部位の活性化工程)を繰り返すことを含む。
合成された二本鎖の開裂は、アクチベーターオリゴヌクレオチドによって配列特異的に行われる反応工程として実施される。この開裂は、両方の相補的プライマー伸長産物が完全に解離するまで行うことができ、または、部分的に行ってもよい。
本発明によれば、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、標的配列と相互作用することができる配列部分と、この相互作用を引き起こしたり、可能としたり、有利なものとするためのさらなる配列部分とを含む。アクチベーターオリゴヌクレオチドとの相互作用の過程において、合成されたプライマー伸長産物の二本鎖部分は、配列特異的な鎖置換によって一本鎖の形態に変換される。このプロセスは配列依存的であり、合成された二本鎖の配列が、アクチベーターオリゴヌクレオチドの対応する配列とある程度の相補性を有している場合においてのみ、十分な二本鎖の開裂が起こり、合成の継続に必須の配列部分(たとえばプライマー結合部位など)が一本鎖の形態に変換され、「活性状態」となる。したがって、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、標的配列を含む新たに合成されたプライマー伸長産物を特異的に「活性化」させて、さらなる合成工程を行うことができる。
これに対して、標的配列を含まない配列部分は一本鎖の形態に変換されず、二本鎖のまま残り、これは「不活性」な状態に相当する。このような二本鎖において、プライマー結合能を備えたプライマー結合部位は、新たなプライマーとの相互作用が阻害されるか、または完全に妨げられるため、このような「非活性化」鎖に対しては、通常さらなる合成工程は起こらない。合成工程後、合成された核酸鎖においてこのような活性化(すなわち一本鎖形態への変換)が欠如または低下していることから、後続の合成工程において、わずかな量のプライマーしか、プライマー伸長反応に関与できなくなる。
目的とする主産物(標的配列を含む増幅対象の核酸鎖)が指数関数的に増幅されることから、数回の合成工程と活性化工程(二本鎖の開裂工程)を1つの増幅方法において組み合わせ、特定の核酸鎖が所望の量で得られるまでこの増幅方法を実施するか、または繰り返し行う。
この増幅方法の反応条件(たとえば温度)は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの非存在下において相補的プライマー伸長産物の自然分離が起こりにくくなるか、または有意に減速されるように設計する。
したがって、標的配列を含む相補的プライマー伸長産物を配列依存的に分離させることによって、目的とする増幅の特異性が高くなる。アクチベーターオリゴヌクレオチドは、自体の配列部分とプライマー伸長産物の所定の配列部分とがマッチすることによって、このような二本鎖の分離を行うことができるか、または促進することができる。このマッチングは、各合成サイクルの後にアクチベーターオリゴヌクレオチドによって検証される。合成プロセスと、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる新たに合成されたプライマー伸長産物の配列特異的な鎖置換とが成功裏に繰り返されることによって、すなわち、「活性化」される(二本鎖開裂/二本鎖分離/鎖置換の結果、対応するプライマー結合部位が一本鎖の形態で生じる)ことによって、指数関数的な増幅が起こる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの設計および反応条件によって、アクチベーターオリゴヌクレオチドと非特異的プライマー伸長産物との間で様々な相互作用が起こる。アクチベーターオリゴヌクレオチドと非特異的プライマー伸長産物の間の相補性が不十分であると、鋳型鎖からのこのような非特異的プライマー伸長産物の十分な二本鎖分離/鎖置換は見られない。したがって、非特異的産物は、主に「不活性な」二本鎖の形態のまま残る。
したがって、所定のアクチベーターオリゴヌクレオチドを使用することによって、指数関数的な増幅の各合成工程において、プライマー伸長産物の塩基組成の配列依存的な検証が可能となり、後続の合成工程を行うための配列を選択または選別することが可能となる。ここで、アクチベーターオリゴヌクレオチドとの相互作用に成功した結果、新たに合成された一本鎖形態の「活性な」特異的プライマー伸長産物と、アクチベーターオリゴヌクレオチドとの相互作用が欠如していたり、不十分であったり、低減していたり、かつ/または減速された結果、新たに合成された二本鎖形態の「不活性な」非特異的プライマー伸長産物とは、区別することができる。
指数関数的な増幅によって、以下の効果が得られる。
非変性条件下では、特異的に合成された鎖の分離が、アクチベーターオリゴヌクレオチドの協力よって起こる。
標的配列を含む核酸鎖の指数関数的な増幅は、配列によって制御される(主反応)。配列によるこの制御は、各合成工程の後に起こり、プライマー間に存在し、かつ標的配列を含む配列セグメントが関与する。各合成工程の後で合成結果の検証が成功することによって、両方の特異的プライマー伸長産物が分離される。これは、さらなる特異的合成工程を行うための必要条件である。
増幅中、非特異的プライマー伸長産物の初期の生成は基本的に排除することができない(副産物)。鋳型依存性のため、このような非特異的プライマー伸長産物は、合成直後は通常、二本鎖の形態で存在する。しかし、アクチベーターオリゴヌクレオチドとの相互作用を全く行うことができないか、または制限されるため、鎖分離が起こらないか、または主反応と比べて鎖分離が減速する。したがって、誤った配列情報は1つの合成サイクルから次の合成サイクルへと伝達されない。
したがって、反応条件を選択し、かつアクチベーターオリゴヌクレオチドを設計することによって、増幅方法の各合成工程間における正しい核酸鎖鋳型の再生効率に特異的に影響を及ぼすことが可能となる。一般に、合成された配列と所定のアクチベーターオリゴヌクレオチド配列とのマッチングの程度が高いほど、合成された産物の分離が成功することが多く、ひいては、1つの合成工程から次の合成工程への正しい鋳型の再生が成功することが多くなる。一方、副産物において配列の差異が存在することによって、鋳型鎖の再生が不十分となり、したがって、合成の開始が遅くなり、後続の各サイクルにおいて収率が低下する。副産物の指数関数的な増幅は、全体的に進行が遅くなるか、または全く起こらなくなるか、かつ/または検出不能なレベルに留まる。
副産物の増幅速度を低下させ、さらには特定の副産物の形成を阻止することによって、増幅の特異性を高めることができ、したがって、増幅反応を利用した試験全体の特異性に影響を与えることができる。
したがって、本発明の方法は、合成された配列をリアルタイムで、すなわち反応を停止することなく検証することができるため、すべてのアッセイ成分が反応開始時に既に反応混合物中に含まれている均質なアッセイの開発が可能であることを示している。
本発明の方法は、フィードバック機能(制御機能)を有する、核酸鎖の指数関数的な増幅方法である。簡潔に述べると、単一の構造からなるこの機能は、(DIN EN 60027-6に記載のブロック図に従って)以下のように要約することができる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドと両方のプライマーは、事前に配列が選択されていることから、増幅中に合成されるべき配列(標的配列を含む増幅対象の核酸鎖)の「設定点」を規定する。各合成サイクルにおいて生成された新たなプライマー伸長産物は、「制御値」(実際値)を構成する。アクチベーターオリゴヌクレオチドは、制御系(「センサー」、「制御因子」および「制御要素」を含む)の一部を構成し、新たに合成された鎖とアクチベーターオリゴヌクレオチド鎖との間の相補性の調整と、(該調整の結果として)「調整可能な変数」の両方に影響を及ぼすことができる。ここで、「調整可能な変数」とは、「実際値」と「設定点」とが十分にマッチした場合は、合成された鎖の一本鎖形態への変換(「プライマー結合部位の活性化」または「鋳型鎖の再生」)を意味し、または十分にマッチしていない場合は、合成された鎖の二本鎖形態の維持(「活性化の失敗」;プライマー結合部位は二本鎖の形態のままであり、したがって、新たなプライマーとの結合には利用できない)を意味する。
合成された配列の組成は、増幅過程/増幅中に継続的に制御されるため、アクチベーターオリゴヌクレオチドを「制御オリゴヌクレオチド」と見なすこともできる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドによる合成された配列の制御は、プライマー領域やプライマー結合部位だけに留まらず、両プライマー間に存在する合成された核酸鎖の内部配列領域も含む。一実施形態において、標的配列の配列全体または増幅対象の核酸鎖の配列全体を制御することができる。
前記制御(配列の検証)は、指数関数的な増幅の後で行われるだけでなく、指数関数的な合成の段階で既に起こり、合成反応の結果/収率に影響を与える。
したがって、反応条件と組み合わせて、アクチベーターオリゴヌクレオチドにおいて所定の配列を使用することによって、プライマー領域に留まることなく、指数関数的な増幅に対して影響を及ぼすことができる。このように影響を及ぼすことによって、標的配列内の特定の配列差異を許容することができたり、指数関数的な増幅が完全に阻害されるまで増幅反応の速度を抑制することができる。
用語とその定義:
本発明において使用する用語は以下の意味を有する。
本明細書において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、プライマー、アクチベーターオリゴヌクレオチド、プローブ、増幅対象の核酸鎖に関して使用され、2個以上、好ましくは3個を超えるデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ヌクレオチド修飾および/または非ヌクレオチド修飾を含む分子であると定義される。その全長は、たとえば3~300個のヌクレオチド単位またはその類似体を含み、5~200個のヌクレオチド単位またはその類似体を含むことが好ましい。その厳密な長さは様々な要因に左右され、さらにはこのオリゴヌクレオチドの最終的な機能または使用にも左右される。
本明細書において「プライマー」は、天然のものであるか(たとえば精製され、制限酵素で切断された天然のプライマー)、合成により作製されたものであるかに関わらず、オリゴヌクレオチドに関する。プライマーは、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下で使用された場合、すなわち、ヌクレオチドと誘導物質(たとえばDNAポリメラーゼなど)の存在下で適切な温度と適切なpHにおいて使用された場合に、合成の開始点として作用することができる。増幅効率を最大とするためには、プライマーは一本鎖であることが好ましい。また、プライマーは、誘導物質の存在下で伸長産物の合成を開始するために、十分な長さを有していなければならない。プライマーの厳密な長さは、様々な要因に左右され、たとえば、反応温度、プライマーの供給源および使用する方法の用途に左右される。たとえば、診断用途で使用する場合、オリゴヌクレオチドプライマーの長さは、標的配列の複雑さに応じて、5~100ヌクレオチド長であり、6~40ヌクレオチド長であることが好ましく、7~30ヌクレオチド長であることが特に好ましい。短鎖のプライマー分子は、通常、プライマーとしての機能を発揮して、鋳型とともに十分に安定な複合体を形成するために低い反応温度を必要とし、あるいは、プライマーと鋳型からなる形成された複合体が十分に長くなるように、その他の反応成分(たとえばDNAポリメラーゼ)が高い濃度で存在することを必要とする。
本発明において使用するプライマーは、増幅対象の特定の各配列の様々な鎖に対して「実質的に」相補的であるように選択される。これは、プライマーが、対応する鎖とハイブリダイズしてプライマーの伸長反応を開始するために十分な相補性を有しておかなければならないことを意味する。したがって、たとえば、プライマー配列は、標的配列の配列を厳密に反映するものである必要はない。たとえば、非相補的なヌクレオチド断片をプライマーの5’末端に結合することができ、残りのプライマー配列は、増幅対象の鎖の配列に相補的である。別の一実施形態において、プライマー配列が、増幅対象の鎖の配列と十分に高い相補性を有し、この増幅対象の鎖の配列とハイブリダイズし、伸長産物を合成できるプライマー-鋳型複合体を生成することができる場合、1個の非相補的塩基またはこれよりも長い非相補的配列をプライマーに挿入することができる。
鋳型に相補な鎖の酵素的合成の過程では、この鋳型鎖に完全に相補的なプライマー伸長産物が生成される。
Tm-融解温度
相補的または部分的に相補的な二本鎖の融解温度は、一般に、鎖の約50%が二本鎖として存在し、残りの約50%が一本鎖として存在するときの反応温度の測定値であると解される。このような系は、(2本の鎖の会合と解離の間で)平衡状態にある。
二本鎖のTmに影響を与えうる様々な要因(たとえば、配列長、配列のCG含有量、緩衝条件、二価金属カチオン濃度など)が存在するため、増幅対象の核酸のTmは、実施する増幅反応と同じ条件下で測定される。
測定可能な融解温度は、複数の反応パラメータ、たとえば、各緩衝条件および各反応パートナーの濃度に依存するため、融解温度は、二本鎖を構成する各相補鎖の濃度を約0.1μmol/l~約10μmol/l、好ましくは約0.3μmol/l~約3μmol/l、好ましくは約1μmol/lとして、指数関数的な増幅と同じ反応緩衝液中で測定した値を意味する。融解温度の各値は、対応する二本鎖の安定性と相関する目安値である。
デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)であるdATP、dCTP、dGTPおよびTTP(またはdUTP、またはdUTP/TTPの混在)は、合成混合物に十分な量で添加される。一実施形態において、dNTPに加えて、少なくとも1種のdNTP類似体を合成混合物に添加することができる。一実施形態において、このようなdNTP類似体は、たとえば、特徴的な標識(たとえばビオチンや蛍光色素)を含み、dNTP類似体が核酸鎖に組み込まれると、この標識も核酸鎖に組み込まれる。別の一実施形態において、前記dNTP類似体は、ヌクレオチドの糖リン酸部分に少なくとも1つの修飾を含み、このような修飾dNTP類似体として、たとえば、α-ホスホロチオエート-2’-デオキシリボヌクレオシド三リン酸(または核酸鎖にヌクレアーゼ耐性を付与するその他の修飾)、2’,3’-ジデオキシリボヌクレオシド三リン酸、およびアシクロヌクレオシド三リン酸(または合成を停止させるその他の修飾)が挙げられる。さらなる一実施形態において、前記dNTP類似体は、核酸塩基に少なくとも1つの修飾を含み、このような修飾として、たとえば、イソシトシン、イソグアノシン(または拡張された遺伝子アルファベットを含むその他の核酸塩基修飾)、2-アミノアデノシン、2-チオウリジン、イノシン、7-デアザアデノシン、7-デアザグアノシン、5-Me-シトシン、5-プロピルウリジン、および5-プロピルシトシン(またはポリメラーゼによって天然の核酸塩基に組み込むことができ、鎖の安定性を変化させることができるその他の核酸塩基修飾)が挙げられる。さらなる一実施形態において、dNTP類似体は、核酸塩基の修飾と糖リン酸部分の修飾の両方を含む。さらなる一実施形態において、少なくとも1個の天然のdNTP基質の代わりに、少なくとも1種のdNTP類似体を合成混合物に添加する。
核酸合成を誘導する因子は、プライマーの伸長産物の合成を引き起こす作用を有する酵素含有化合物または酵素含有系であってもよい。この目的に適した酵素としては、たとえば、DNAポリメラーゼ、たとえばBstポリメラーゼおよびその改変体、Ventポリメラーゼなどが挙げられ、好ましくは、ヌクレオチドを正しく組み込むことができ、これによって、合成された各核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物を形成させることができる熱安定性DNAポリメラーゼが挙げられる。通常、この合成は、各プライマーの3’末端から開始され、次いで鋳型鎖に沿って5’方向に伸長した後、合成が完了するか、または中断される。
鎖置換を起こすことができるポリメラーゼを使用することが好ましい。このようなポリメラーゼとしては、たとえば、Bstポリメラーゼの大きい方の断片またはその改変体(たとえば、Bst 2.0 DNAポリメラーゼ)、クレノウ断片、Vent(exo-)ポリメラーゼ、Deep Vent(exo-)DNAポリメラーゼ、Bsu DNAポリメラーゼの大きい方の断片、およびBsm DNAポリメラーゼの大きい方の断片が挙げられる。
一実施形態において、5’-3’エキソヌクレアーゼ活性を持たないポリメラーゼ、または5’-3’FEN活性を持たないポリメラーゼを使用することが好ましい。
一実施形態において、少なくとも2種のポリメラーゼを使用し、たとえば、鎖置換活性を有するポリメラーゼと3’-5’校正活性を有するポリメラーゼを使用する。
好ましい実施形態において、特定の温度に達した後でのみ、その機能を発揮するホットスタート機能を有するポリメラーゼを使用する。
反応条件
反応条件には、緩衝条件、温度条件、反応の持続時間、各反応成分の濃度などが含まれる。
反応中、特異的に生成された増幅対象の核酸の量は、指数関数的に増加する。伸長産物の合成を含む反応は、所望の量の特定の核酸配列が得られるまで実施することができる。本発明の方法は、継続的に実施することが好ましい。好ましい一実施形態において、増幅反応は等温反応温度で進行させ、この温度は50℃~70℃であることが好ましい。別の一実施形態において、反応温度を様々に変更することができ、増幅反応の各工程をそれぞれ異なる温度で進めることもできる。
指数関数的な増幅に必要とされる試薬は、反応の開始時に既に同じバッチに存在していることが好ましい。別の一実施形態において、本発明の方法の後の段階で試薬を添加することもできる。
増幅対象の核酸から新たに合成された二本鎖を分離するために、反応混合物中においてヘリカーゼやリコンビナーゼを使用しないことが好ましい。
好ましい一実施形態において、反応混合物は、ATPなどの、生化学的エネルギーを付与する化合物を含んでいない。
反応の開始時において増幅対象の核酸は、1つのバッチにおいて、数コピー~数十億コピーの量で存在していてもよい。診断用途で使用する場合、増幅対象の核酸鎖の量は不明であってもよい。
増幅対象でない別の核酸が反応中に存在していてもよい。このような核酸は、天然のDNAもしくは天然のRNAまたはその同等物に由来するものであってもよい。一実施形態において、増幅対象の核酸と並行して増幅する必要のある制御配列を同じバッチに存在させる。
増幅対象の核酸鎖を合成するための、鋳型鎖を含む反応混合物に、使用するプライマーおよびアクチベーターオリゴヌクレオチドを、約103:1~約1015:1(プライマー:鋳型)のモル過剰量で添加することが好ましい。
本発明の方法を診断用途で使用する場合、標的核酸の量が不明である場合があり、この場合、相補鎖に対するプライマーの相対量およびアクチベーターオリゴヌクレオチドの相対量を確実に決定することはできない。通常、増幅対象の配列が、複雑な長鎖核酸の混合物中に含まれている場合、プライマーは、相補鎖(鋳型)の量に対してモル過剰量で添加する。本発明の方法の効率を向上させるためには、大幅に過剰なモル量であることが好ましい。
使用するプライマー1、プライマー2およびアクチベーターオリゴヌクレオチドの濃度は、たとえば0.01μmol/l~100μmol/lの範囲であり、0.1μmol/l~100μmol/lであることが好ましく、0.1μmol/l~50μmol/lであることが好ましく、0.1μmol/l~20μmol/lであることがより好ましい。各成分の濃度が高いと、増幅速度を増加させることができる。所望の反応結果を得るために、各成分の濃度を別々に変更することができる。
ポリメラーゼの濃度は、0.001μmol/l~50μmol/lの範囲であり、0.01μmol/l~20μmol/lであることが好ましく、0.1μmol/l~10μmol/lであることがより好ましい。
各dNTP基質の濃度は、10μmol/l~10mmol/lの範囲であり、50μmol/l~2mmol/lであることが好ましく、100μmol/l~1mmol/lであることがより好ましい。dNTPの濃度は、二価金属カチオンの濃度に影響を及ぼす場合がある。状況に応じて、二価金属カチオンの濃度を任意で調整する。
二価金属カチオンとして、たとえばMg2+が使用される。対応するアニオンとして、たとえば、Cl、酢酸アニオン、硫酸アニオン、グルタミン酸アニオンなどを使用することができる。二価金属カチオンの濃度は、たとえば、対応するポリメラーゼに最適な範囲に適合させ、0.1mmol/l~50mmol/lの範囲を含み、0.5mmol/l~20mmol/lであることがより好ましく、1mmol/l~15mmol/lであることが好ましい。
通常、酵素的合成は緩衝水溶液中で行う。緩衝溶液として、Tris HCl、Tris酢酸塩、グルタミン酸カリウム、HEPES緩衝液、グルタミン酸ナトリウムなどの従来の緩衝物質を一般的な濃度で溶解させたものを使用することができる。緩衝溶液のpH値は、通常、7~9.5であり、約8~8.5であることが好ましい。緩衝条件は、たとえば、使用するポリメラーゼの製造業者の推奨に従って適合させてもよい。
いわゆるTm降下剤(たとえば、DMSO、ベタイン、TPAC)などのさらなる物質を緩衝液に添加することができる。このような物質は、二本鎖の融解温度を低下させて(「Tm降下剤」)、二本鎖の開裂に対して有利な効果を与えることができる。また、Tween 20やTriton 100などのポリメラーゼ安定化成分を通常の量で緩衝液に添加することもできる。EDTAまたはEGTAを通常の量で添加して、重金属を錯化することができる。また、トレハロースやPEG 6000などのポリメラーゼ安定化物質を反応混合物に添加することもできる。
反応混合物は、鎖置換反応を阻害する物質や、ポリメラーゼ依存的なプライマーの伸長を阻害する物質を含んでいないことが好ましい。
一実施形態において、反応混合物は、DNA結合性色素、好ましくはEvaGreenやSYBR Greenなどのインターカレート色素を含む。このような色素によって、核酸鎖の再生の検出が可能となってもよい。
反応混合物は、たとえば原材料に由来し、かつ好ましくは増幅に影響を及ぼさないタンパク質またはその他の物質がさらに含まれていてもよい。
温度条件
温度は、二本鎖の安定性に対して大きな影響を与える。
好ましい一実施形態において、増幅反応中、アクチベーターオリゴヌクレオチドの非存在下において、増幅対象の核酸の二本鎖を実質的に分離させる温度条件を使用しない。このようにすれば、増幅全体を通して、アクチベーターオリゴヌクレオチドの存在に応じて、増幅対象の核酸鎖の二本鎖を確実に分離させることができる。
増幅対象の核酸の融解温度(Tm)の測定値にほぼ等しい温度では、増幅対象の核酸の二本鎖が自然に分離し、合成された鎖の分離に対するアクチベーターオリゴヌクレオチドの影響が最小限に抑制され、ひいては、増幅の配列特異性に対するアクチベーターオリゴヌクレオチドの影響が最小限に抑制される。
配列特異性が低い条件(すなわち、アクチベーターオリゴヌクレオチドへの依存性が低い条件)で進行させる必要のある指数関数的な増幅では、反応温度は、たとえば、増幅対象の核酸の融解温度付近(すなわちTm±3℃~5℃)であってもよい。このような温度では、鎖置換反応におけるアクチベーターオリゴヌクレオチドと合成されたプライマー伸長産物の間の配列の違いは通常、十分に許容されうる。
Tm-約3℃~Tm-約10℃の温度範囲でも、効率は低くなるものの、合成されたプライマー伸長産物同士の自然な鎖分離は起こりうる。増幅対象の核酸の配列特異性に対してアクチベーターオリゴヌクレオチドが及ぼす影響は、増幅対象の核酸鎖の融解温度(Tm)付近の温度条件において大きくなる。
確かに、反応温度を低下させても、新たに合成された二本鎖とアクチベーターオリゴヌクレオチドが相互作用することから、鎖分離が実質的に起こるが、プライマーの二本鎖は、前記条件下の伸長温度において自然に、すなわち、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる配列依存的な鎖置換を伴わずに分解されうる。たとえば、配列特異的が低い増幅における反応温度は、Tm-約3℃~Tm-約10℃の範囲であり、Tm-約5℃~Tm-約10℃であることが好ましい。このような温度では、鎖置換反応におけるアクチベーターオリゴヌクレオチドと合成されたプライマー伸長産物の間の配列の違いはあまり許容されない。
本発明の方法において配列特異性の高い増幅は、特に、反応条件下において増幅対象の核酸から新たに合成された鎖が一本鎖の形態へと自然に解離することができない場合に達成される。このような場合、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる配列特異的な鎖置換によって配列特異的な鎖分離が行われ、このアクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換が増幅反応の配列特異性を主に担う。これは、通常、反応温度が、増幅対象の核酸を構成する両鎖の融解温度よりも有意に低く、かつ鎖分離のためのさらなる成分(たとえばヘリカーゼまたはリコンビナーゼ)が使用されない場合に達成することができる。たとえば、配列特異的な増幅における反応温度は、Tm-約10℃~Tm-約50℃の範囲であり、Tm-約15℃~Tm-約40℃であることが好ましく、Tm-約15℃~Tm-約30℃であることがより好ましい。
増幅の好ましい一実施形態において、増幅反応全体における反応温度の最大値を、増幅対象の核酸鎖の融解温度よりも高い温度へと上昇させない。
増幅のさらなる一実施形態において、反応温度を、増幅対象の核酸鎖の融解温度よりも高い温度に少なくとも1回上昇させることができる。この温度の上昇は、たとえば増幅反応の開始時に行ってもよく、これによってゲノムDNAの二本鎖が変性する。このような工程において、アクチベーターオリゴヌクレオチドの効果に依存的な二本鎖分離は、解除されるか、または少なくとも有意に低下することに注意されたい。
増幅反応の各工程の反応温度は、約15℃~約85℃の範囲であってもよく、約15℃~約75℃の範囲がより好ましく、約25℃~約70℃の範囲が好ましい。
後述する実施例2および実施例3では、増幅反応の反応温度を65℃とし、増幅対象の核酸のTmは約75℃~約80℃であった。したがって、増幅対象の核酸の二本鎖はこの反応条件下で安定であり、増幅反応は配列特異的であった(実施例3参照)。
通常、反応温度は、各反応工程において前述のような温度が得られるように、各反応工程において最適に調整することができる。したがって、増幅反応は、温度を繰り返し変更することを含み、温度変更は周期的に行われる。本発明の方法の有利な一実施形態において、温度を変更する工程の数が反応工程の数より少なくなるように、いくつかの反応工程の反応条件を統一する。本発明のこのような好ましい一実施形態において、増幅における複数の工程のうちの少なくとも1つは、増幅における他の工程の反応温度とは異なる反応温度で行われる。したがって、反応は等温で進行せず、反応温度が周期的に変更される。
増幅中、たとえば、少なくとも2つの温度範囲を使用し、交互に変更する(ある温度範囲と別の温度範囲の間で温度を周期的に変化させる)。一実施形態において、低温側の温度範囲は、たとえば25℃~60℃の範囲を含み、35℃~60℃であることがより好ましく、50℃~60℃であることが好ましく、高温側の温度範囲は、たとえば60℃~75℃の範囲を含み、60℃~70℃であることがより好ましい。
さらなる一実施形態において、低温側の温度範囲は、たとえば15℃~50℃の範囲を含み、25℃~50℃であることがより好ましく、30℃~50℃であることが好ましく、高温側の温度範囲は、たとえば50℃~75℃の範囲を含み、50℃~65℃であることがより好ましい。
さらなる一実施形態において、低温側の温度範囲は、たとえば15℃~40℃の範囲を含み、25℃~40℃であることがより好ましく、30℃~40℃であることが好ましく、高温側の温度範囲は、たとえば40℃~75℃の範囲を含み、40℃~65℃であることがより好ましい。
これらの温度は、各温度範囲において一定に維持してもよく、あるいは変化させて(低下または上昇させて)温度勾配を形成してもよい。
温度の調節に関しては、以下の実施形態においてさらに詳細に説明する。
設定された各温度は、特定の時間にわたって維持することができ、このようにして、インキュベーション工程が行われる。したがって、増幅において、反応混合物を、選択された温度で特定の時間にわたってインキュベートすることができる。このインキュベーション時間は、インキュベーション工程ごとに異なっていてもよく、所定の温度における各反応の進行(たとえば、プライマーの伸長または鎖置換など)に左右されうる。インキュベーション工程の時間は、0.1秒間~10,000秒間の範囲を含んでいてもよく、0.1秒間~1000秒間の範囲であることがより好ましく、1秒間~300秒間の範囲であることが好ましく、1秒間~100秒間の範囲であることがより好ましい。
このような温度変更により、各反応工程を選択された温度で好適に実施することができる。このようにすれば、各反応工程の収率を向上させることができる。特定の温度範囲から別の温度範囲への温度変更または温度調節は、任意で、1つの合成サイクルにおいて数回行うことができる。したがって、1つの合成サイクルは少なくとも1回の温度変更を含むことができる。このような温度変更は、たとえば、PCR機器/サーモサイクラーにおいて、日常的に行われるように時間プログラムによって実施することができる。
一実施形態において、鎖置換を含む少なくとも1つの工程と、プライマーの伸長反応を含む少なくとも1つの工程を、同時にまたは並行して、同じ反応条件下で行う増幅方法が好ましい。このような一実施形態において、たとえば、少なくとも1つのプライマーオリゴヌクレオチド(たとえば第1のプライマーオリゴヌクレオチド)のプライマー伸長反応を、低い温度範囲の温度条件で好適に行うことができる。一方、アクチベーターオリゴヌクレオチドと、別のプライマー(たとえば第2のプライマーオリゴヌクレオチド)の伸長反応とを含む鎖置換を、高い温度範囲の反応工程において行うことが好ましい。
さらなる一実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換を含む少なくとも1つの工程と、プライマーの伸長反応を含む少なくとも1つの工程を、異なる温度で行う増幅方法が好ましい。このような一実施形態において、たとえば、少なくとも1つのプライマーオリゴヌクレオチド(たとえば第1のプライマーオリゴヌクレオチドおよび/または第2のプライマーオリゴヌクレオチド)のプライマー伸長反応を、低い温度範囲の温度条件で好適に行うことができる。一方、アクチベーターオリゴヌクレオチドの協力による鎖置換を、高い温度範囲の反応工程において行うことが好ましい。
さらに好ましい一実施形態において、増幅反応のすべての工程を同じ反応条件下で進行させる。
このような一実施形態において、増幅方法は等温条件下で実施することができ、すなわち、増幅方法を実施する際に温度を変更する必要はない。本発明のこのような好ましい一実施形態において、増幅反応全体が一定の温度で行われ、すなわち、反応は等温で行われる。このような反応の持続時間は、たとえば、100秒間~30,000秒間の範囲が含まれ、100秒間~10,000秒間の範囲であることがより好ましく、100秒間~1000秒間の範囲であることがさらにより好ましい。
「実施例」において、等温反応が可能となるように、各反応成分の構造および関連する反応工程を互いに適合させることが可能であることを示す。
本発明の方法のすべての工程を行うことによって、増幅対象の核酸鎖の量を倍加させることができる操作を、「合成サイクル」と呼ぶことができる。このような合成サイクルは状況に応じて等温で進行させることができ、またはその過程において温度を変更することを特徴とすることもできる。温度の変更は周期的に繰り返すことができ、温度を等温とすることもできる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域の5個を超えるヌクレオチドが第1のプライマーの伸長産物に相補的に結合できる場合、より好ましくはアクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域の10個を超えるヌクレオチドが第1のプライマーの伸長産物に相補的に結合できる場合、さらにより好ましくはアクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域の20個を超えるヌクレオチドが第1のプライマーの伸長産物に結合する場合、達成可能な最高温度においてのみ、アクチベーターオリゴヌクレオチドの協力によって鎖分離が実質的に可能となる増幅方法が特に有利である。通常、合成された鎖が反応条件下で解離する前において、増幅に必要な、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーの伸長産物の相補鎖とが結合した鎖の長さが長いほど、増幅反応がより特異的となる。詳細に述べると、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域を長くするか、または短くすることによって、特異性の程度を所望のものとすることができる。
本発明の方法の工程を繰り返す場合、本発明の方法の持続時間全体を一定の温度で行うことができ、異なる温度で行うこともできる。
本発明の方法の各工程は、各成分を連続的に添加することによって実施することができる。有利な一実施形態において、増幅を実施するために必要なすべての反応成分を、増幅の開始時に1つの反応混合物中に存在させる。
増幅反応は、1種の成分を添加することによって開始することができ、たとえば、標的配列を含む核酸鎖(たとえば出発核酸鎖)、ポリメラーゼまたは二価金属イオンを添加することによって開始することができ、あるいは、増幅に必要とされる反応条件を達成することによって開始することができ、たとえば、本発明の方法の1つ以上の工程において、必要な反応温度に調整することによって開始することができる。
増幅は、増幅対象の核酸が所望の量で得られるまで実施することができる。別の一実施形態において、増幅反応は、増幅対象の核酸の存在下において十分な量を得るために十分であると予測された時間にわたって実施される。別の一実施形態において、増幅反応は、増幅対象の核酸の存在下において十分な量を得るために十分であると予測された十分な回数の合成サイクル(複製時間)で実施される。
反応は、様々な介入によって停止させることができる。たとえば、温度を変更することによって反応を停止させることができ(たとえば、冷却または加熱することによって反応を停止させることができ、この場合、たとえば、ポリメラーゼの機能が妨害される)、またはポリメラーゼによる反応を停止させる物質(たとえばEDTAまたはホルムアミド)を添加することによって反応を停止させることができる。
増幅後、増幅された核酸鎖をさらなる解析に使用することができる。この場合、合成された核酸鎖を様々な検出方法で解析することができる。たとえば、蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブ、シーケンシング法(Sangerシーケンシングまたは次世代シーケンシング)、固相解析(たとえばマイクロアレイ解析またはビーズアレイ解析)などを使用することができる。合成された核酸鎖は、さらなるプライマー伸長反応の基質/鋳型として使用することもできる。
有利な一実施形態において、反応中の合成反応の進行をモニタリングする。これは、たとえば、インターカレート色素(たとえば、SYBR GreenまたはEva Green)、標識プライマー(たとえば、LUXプライマーまたはScorpionプライマー)、または蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブを使用することによって行うことができる。
本発明の増幅方法を、診断方法において、生体試料中または診断材料中の標的核酸鎖の有無を確認するために使用することができる。
第1のプライマーオリゴヌクレオチド:
第1のプライマーオリゴヌクレオチド(図5および図6)は、第1のプライマー領域および第2の領域を含む。第1のプライマー領域は、増幅対象の核酸内の実質的に相補的な配列またはその同等物に結合し、プライマーの伸長反応を開始することができる。第2の領域は、アクチベーターオリゴヌクレオチドに結合することができるポリヌクレオチドテールを含み、このポリヌクレオチドテールによって、第1のプライマーの伸長産物のその他の部分をアクチベーターオリゴヌクレオチドに空間的に近接させて、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換を開始させるのに十分な距離とすることができる。第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域は、ポリメラーゼ依存的合成の継続を阻害することによってポリメラーゼによるポリヌクレオチドテールの複製を阻止することができる少なくとも1つの修飾(ヌクレオチド修飾または非ヌクレオチド修飾)をさらに含む。この修飾は、たとえば、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域と第2の領域の移行部に位置する。したがって、第2のプライマーの伸長産物の合成中に、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域が、ポリメラーゼによって複製され、該ポリメラーゼによって第1の領域に相補的な配列を形成させることができる。第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域のポリヌクレオチドテールは、ポリメラーゼによって複製されないことが好ましい。一実施形態において、これは、ポリヌクレオチドテールの手前でポリメラーゼを停止させる修飾を第2の領域に付加することによって達成することができる。さらなる一実施形態において、ポリヌクレオチドテールの全長がこのような修飾ヌクレオチドで実質的に構成されるように、第2の領域にヌクレオチド修飾を付加することによって、ポリメラーゼによるポリヌクレオチドテールの複製を阻止することができる。
一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドはそれぞれ、増幅対象である1つの核酸に特異的である。
一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドはそれぞれ、実質的に異なる配列を含む少なくとも2種の、増幅対象の核酸に特異的である。
一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドは特徴的なマーカーで標識され、このようなマーカーとして、たとえば、蛍光色素(たとえば、TAMRA、フルオレセイン、Cy3、Cy5)、親和性マーカー(たとえば、ビオチン、ジゴキシゲニン)、およびたとえば検出、固相化またはバーコード標識を目的として特定のオリゴヌクレオチドプローブを結合するためのさらなる配列断片が挙げられる。
第2のプライマーオリゴヌクレオチド:
第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、その3’末端セグメントを介して、増幅対象の核酸内の実質的に相補的な配列またはその同等物に結合し、第2のプライマーの特異的な伸長反応を開始することができる。したがって、この第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの特異的な伸長産物の3’末端セグメントに結合することができ、これによって、第2のプライマーの伸長産物のポリメラーゼ依存的な合成が開始される。
第2のプライマーオリゴヌクレオチドの長さは、15~100ヌクレオチド長であってもよく、20~60ヌクレオチド長であることが好ましく、30~50ヌクレオチド長であることが特に好ましい。
一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドはそれぞれ、増幅対象である1つの核酸に特異的である。
一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドはそれぞれ、実質的に異なる配列を含む少なくとも2種の、増幅対象の核酸に特異的である。
一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは特徴的なマーカーで標識され、このようなマーカーとして、たとえば、蛍光色素(たとえば、TAMRA、フルオレセイン、Cy3、Cy5)、親和性マーカー(たとえば、ビオチン、ジゴキシゲニン)、およびたとえば、検出、固相化またはバーコード標識を目的として特定のオリゴヌクレオチドプローブを結合するためのさらなる配列断片が挙げられる。
プライマー伸長産物:
プライマー伸長産物(本明細書において“primer extension product”とも“primer elongation product”とも呼ぶ)は、ポリメラーゼの触媒作用による鋳型依存的合成の結果、プライマーオリゴヌクレオチドが酵素(ポリメラーゼ依存的作用)により伸長されることによって生成される。
プライマー伸長産物は、5’末端セグメントのプライマーオリゴヌクレオチド配列と、ポリメラーゼによって鋳型依存的に合成された伸長産物配列(本明細書において“extension product”とも“elongation product”とも呼ぶ)とを含む。ポリメラーゼによって合成された伸長産物は、合成の元となった鋳型鎖に相補的である。
特異的なプライマー伸長産物(図12~14)(主産物)は、増幅対象の核酸鎖の配列を含む。このような特異的なプライマー伸長産物は、特異的に増幅される核酸鎖を鋳型として、特異的な合成、すなわち目的とするプライマー伸長反応が正しく行われることによって得られる。好ましい一実施形態では、合成されたプライマー伸長産物の配列は、増幅対象の核酸の予想される配列に完全に相補的である。別の一実施形態において、得られた配列と理論上予想される配列との間の差異が許容される。一実施形態において、増幅の結果得られた配列と理論上予想される増幅対象の核酸の配列の一致度は、たとえば、(合成された全塩基の)90%~100%であり、前記一致度が95%を超えることが好ましく、98%を超えることが理想的である。
特異的なプライマーの伸長における伸長産物の長さは、10~300ヌクレオチド長であってもよく、10~180ヌクレオチド長であることがより好ましく、20~120ヌクレオチド長であることが好ましく、30~80ヌクレオチド長であることが特に好ましい。
非特異的なプライマー伸長産物(副産物)は、たとえば、非特異的な、あるいは不正確な、あるいは意図しないプライマー伸長反応が起こったことによって生成された配列を含む。このような非特異的なプライマー伸長産物には、たとえば、誤った複製の開始(誤ったプライミング)の結果生成されたプライマー伸長産物、または塩基置換や塩基欠失などのポリメラーゼ依存的な配列変化などのその他の副反応の結果生成されたプライマー伸長産物が含まれる。非特異的なプライマー伸長産物の配列は、通常、二本鎖副産物を鋳型から引き剥がすことができるアクチベーターオリゴヌクレオチドの能力が及ばないほどに逸脱していることから、このような副産物の増幅の進行は遅くなり、あるいは増幅が起こらない。配列の逸脱が許容される程度または許容限界は、たとえば、反応温度および配列の差異の種類に左右される。非特異的なプライマー伸長産物の例としては、増幅対象の核酸ではないプライマーダイマーまたは配列バリアント、たとえば標的配列を含まない配列が挙げられる。
増幅反応における十分な特異性は、その目的に関連して評価されることが多い。多くの増幅方法において、所望の結果を得ることができる限り、増幅反応における非特異性はある程度許容することができる。好ましい一実施形態において、増幅反応の最終的な結果における増幅対象の核酸鎖の割合は、新たに合成された核酸鎖の全量の1%を超え、10%を超えることがより好ましく、30%を超えることがより好ましい。
増幅対象の核酸
増幅対象の核酸は、プライマーとアクチベーターオリゴヌクレオチドを使用して行われる指数関数的な増幅反応において、ポリメラーゼによって配列特異的あるいは少なくとも実質的に配列特異的に増幅される核酸鎖である。
増幅対象の核酸の長さは、20~300ヌクレオチド長であってもよく、30~200ヌクレオチド長であることが好ましく、40~150ヌクレオチド長であることが好ましく、50~100ヌクレオチド長であることが特に好ましい。
増幅対象の核酸鎖は、1つ以上の標的配列またはその同等物を含んでいてもよい。さらに、増幅対象の核酸は、標的配列に実質的に相補的であり、かつ増幅反応において標的配列と同程度の効率で増幅される配列を含んでいてもよく、標的配列またはその一部を含んでいてもよい。増幅対象の核酸は、標的配列に加えて、配列セグメントを含んでいてもよく、たとえばプライマー配列、プライマー結合部位を含む配列、検出プローブに結合する配列セグメント、バーコード配列をコードする核酸鎖配列の配列セグメント、および/または固相に結合させるための配列セグメントをさらに含んでいてもよい。たとえば、前記プライマー配列またはその配列部分および前記プライマー結合部位またはその配列部分は、標的配列の一部を構成していてもよい。
一実施形態において、増幅対象の核酸は標的配列に相当する。
別の一実施形態において、標的配列は、増幅対象の核酸鎖の配列の一部を構成している。このような標的配列は、その3’末端側および/または5’末端側において別の配列と隣接していてもよい。このような隣接する別の配列は、たとえば、プライマー結合部位もしくはその一部、プライマー配列もしくはその一部、検出プローブ結合部位、(たとえば、マイクロアレイや、ビーズを使用した解析において)固相に相補的に結合させるためのアダプター配列、および/または配列をデジタル署名するためのバーコード配列を含んでいてもよい。
増幅を開始させるためには、増幅対象の核酸鎖を合成するための最初の鋳型として機能する核酸鎖を、反応の開始時に反応混合物に添加する必要がある。このような核酸鎖を「出発核酸鎖」と呼ぶ。出発核酸鎖によって、増幅対象の核酸鎖の形成/合成/指数関数的な増幅に関与する各配列要素の配置が決まる。
好ましい一実施形態において、増幅反応の開始時に添加されるか、または反応混合物に添加される最初の鋳型(出発核酸鎖)は、増幅対象の核酸鎖の配列組成に相当する配列組成を有する。
増幅反応の初期段階およびその以降の過程において、各プライマーは、出発核酸鎖内の対応する結合部位に結合し、特異的なプライマー伸長産物の合成が開始される。増幅反応において、このような特異的なプライマー伸長産物は指数関数的に蓄積し、蓄積されたプライマー伸長産物が、指数関数的な増幅において、相補的なプライマー伸長産物を合成するための鋳型として次々と利用される。
したがって、指数関数的な増幅において鋳型依存的な合成プロセスが繰り返され、増幅対象の核酸鎖が形成される。
増幅反応が終了に近づくにつれて、反応の主産物(増幅対象の核酸)は、主に一本鎖の形態をとってもよく、主に相補的二本鎖の形態をとってもよい。主産物がどちらの形態であるかは、たとえば、両プライマーの相対濃度および適切な反応条件によって決定することができる。
増幅対象の核酸の同等物は、増幅対象の核酸と実質的に同一の情報量の核酸を含む。たとえば、増幅対象の核酸の相補鎖は同一の情報量を有することから、「同等物」と呼んでもよい。
標的配列
一実施形態において、標的配列は、増幅対象の核酸に特徴的な配列として機能することが可能な、増幅対象の核酸鎖のセグメントである。標的配列は、別の核酸の有無を示すマーカーとして機能することができる。したがって、この別の核酸は、標的配列の供給源として機能し、たとえば、ゲノムDNAもしくはゲノムRNAまたはその一部(たとえば、mRNA);生物由来のゲノムDNAまたはゲノムRNAの同等物(たとえば、cDNA、修飾RNA(たとえば、rRNA、tRNA、マイクロRNAなど));生物由来のゲノムDNAまたはゲノムRNAの定義された改変、たとえば、変異(たとえば、欠失、挿入、置換、付加、配列の増加(たとえば、マイクロサテライト不安定性検査における反復回数のばらつきの増加));スプライスバリアント;再編成バリアント(たとえば、T細胞受容体バリアント)などを含んでいてもよい。これらの標的配列は、たとえば抗生物質耐性や予後の情報などの表現型の特徴を示すものであってもよく、したがって、診断用アッセイまたは診断検査を目的としたものであってもよい。標的配列の供給源あるいは起源としての核酸は、たとえば、標的配列を配列要素として含んでいてもよい。したがって、標的配列は、別の核酸由来の特定の配列組成の有無を示す特徴的なマーカーとして機能することができる。
標的配列は、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。標的配列は、増幅対象の核酸と実質的に同一のものであってもよく、増幅対象の核酸の一部であってもよい。
標的配列の同等物は、標的配列と実質的に同一の情報量の核酸を含む。たとえば、標的配列の相補鎖は同一の情報量を有することから、「同等物」と呼んでもよい。同一の情報量の一例として、特定の配列のRNAバリアントおよびDNAバリアントが挙げられる。
増幅反応のための材料の調製において、前述したような標的配列は、この配列が由来する環境から単離することができ、増幅反応を行うために調製することができる。
好ましい一実施形態において、増幅対象の核酸は標的配列を含む。一実施形態において、前記標的配列は増幅対象の核酸に相当する。さらに好ましい一実施形態において、出発核酸鎖は標的配列を含む。一実施形態において、前記標的配列は出発核酸鎖に相当する。
出発核酸鎖
増幅を開始させるためには、増幅対象の核酸鎖を合成するための最初の鋳型として機能する核酸鎖を、反応の開始時に反応混合物に添加する必要がある(図23B)。このような核酸鎖を「出発核酸鎖」と呼ぶ。出発核酸鎖によって、増幅対象の核酸鎖の形成/合成/指数関数的な増幅に関与する各配列要素の配置が決まる。
このような出発核酸鎖は、反応の開始時において、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。反応の開始時において出発核酸鎖が二本鎖であったか、それとも一本鎖であったかに関わらず、出発核酸鎖の相補二本鎖は分離されて、特異的な相補的プライマー伸長産物を合成するための鋳型として機能することができる。
アクチベーターオリゴヌクレオチド:
アクチベーターオリゴヌクレオチド(図10)は、増幅対象の核酸の増幅において特異的に生成された第1のプライマーの伸長産物の一部に実質的に相補的な所定の配列を含む一本鎖核酸鎖であることが好ましい。したがって、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドと、第1のプライマーオリゴヌクレオチドから伸長された特異的な伸長産物の少なくとも5’末端セグメントとに実質的に相補的に結合することができる。一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドがアクチベーターオリゴヌクレオチドに相補的に結合する場合、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、アクチベーターオリゴヌクレオチドを鋳型としたポリメラーゼによる相補鎖の合成を阻止するヌクレオチド修飾をその内部配列セグメントに含む。さらに、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、選択された反応条件下において、特異的な第1のプライマー伸長産物に結合している特異的な第2のプライマー伸長産物を、鎖置換によって完全にまたは部分的に引き剥がすことができる。この際、相補的な領域を有するアクチベーターオリゴヌクレオチドは、特異的な第1のプライマー伸長産物に結合する。アクチベーターオリゴヌクレオチドと特異的な第1のプライマー伸長産物が結合に成功すると、特異的な第2のプライマー伸長産物の3’末端側のセグメントが、第1のプライマーオリゴヌクレオチドとの結合に適した一本鎖の形態に戻り、新たなプライマー伸長反応を行うことができる。第2のプライマーの伸長産物の合成過程において、たとえばポリメラーゼおよび/または第2のプライマーオリゴヌクレオチドを介した鎖置換によって、第1のプライマーの伸長産物と結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドを、第1のプライマーの伸長産物から分離することができる。
鎖置換法(strand displacement):
鎖置換法とは、適切な手段によって、第1の二本鎖(たとえば、A1鎖とB1鎖からなる二本鎖)が完全または部分的に分離され、これと同時にまたは並行して新たな第2の二本鎖が形成される方法を指し、この方法においては、少なくとも一方の鎖(A1鎖またはB1鎖)が新たな第2の二本鎖の形成に関与する。鎖置換法には、2種の方法がある。
1つ目の鎖置換法では、鎖置換反応の開始時に通常一本鎖として存在する相補鎖を利用して新たな第2の二本鎖を形成することができる。この方法では、鎖置換の手段(たとえば、A1鎖に相補的な配列を有する事前に作製された一本鎖C1)が、(A1鎖とB1鎖からなる)既存の第1の二本鎖に作用してA1鎖に相補的に結合し、これによって、A1鎖に結合しているB1鎖が引き剥がされる。B1鎖が完全に引き剥がされた場合、C1鎖の作用によって新たな二本鎖(A1:C1)が形成され、一本鎖B1が生じる。B1鎖の引き剥がしが不完全に起こった場合、いくつかの要因によって結果が左右される。たとえば、A1:B1とA1:C1からなる部分的二本鎖の複合体が中間産物として存在しうる。
2つ目の鎖置換法では、相補鎖の酵素的合成が進むのと同時に、新たな第2の二本鎖が形成される。この方法においては、事前に作製された第1の二本鎖を構成する2本の鎖のうちの一方が、ポリメラーゼによる合成の鋳型となる。この方法では、鎖置換の手段(たとえば、鎖置換活性を有するポリメラーゼ)が、事前に作製された(A1鎖とB1鎖からなる)二本鎖に作用してA1鎖に相補的な新たなD1鎖を合成し、これと同時に、A1鎖に結合しているB1鎖が引き剥がされる。
科学論文では、鎖置換法を含む自然生物学的技術および分子生物学的技術またはバイオナノテクノロジーの様々な例が報告されている。タンパク質または酵素を使用した鎖置換法や、核酸鎖を使用した鎖置換法の例が報告されている。また、事前に作製された一本鎖核酸を使用した鎖置換法や、鎖置換が起こって初めて新たな鎖が合成される鎖置換法の例が報告されている。
タンパク質または酵素を使用した鎖置換法(たとえばポリメラーゼまたはヘリカーゼを使用した鎖置換法)では、タンパク質または酵素の補助によって二本鎖が分離される。鎖置換増幅法(SDA)では、DNAポリメラーゼを使用した鎖置換が、たとえば相補鎖の合成と同時に起こる(米国特許第5,455,166号およびWalker et al. PNAS 89, 1992, 392-396)。使用するポリメラーゼは、核酸の重合を引き起こすとともに、下流の鎖を引き剥がすことができ、かつ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性が低下しているものでなければならない。このような特性を有するものとしては、たとえば、大腸菌のポリメラーゼIから得られるクレノウ断片、Bsuポリメラーゼ、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来のポリメラーゼの大きい方の断片(Bstポリメラーゼおよびその改変体)、Ventポリメラーゼ、Deep Ventポリメラーゼ、および鎖置換活性を有するその他のポリメラーゼが挙げられる。
ポリメラーゼを使用した鎖置換の別の例として、LAMP増幅法(Loop mediated isothermal amplification)が挙げられる。タンパク質または酵素を使用した鎖置換法の別の例として、たとえばRecAなどを用いたリコンビナーゼ反応が挙げられる。この反応では、タンパク質-核酸鎖複合体と二本鎖の間で相互作用が起こることによって、二本鎖が部分的に鎖置換されるとともに、タンパク質-核酸鎖複合体が解離する。リコンビナーゼポリメラーゼ増幅法(RPA)ではこのプロセスが利用されている。RPA法は特許出願WO 2008035205に記載されている。タンパク質または酵素を使用した鎖置換法は、エネルギー消費を伴うことがほとんどであり、たとえばRPA法ではATPが消費される。
核酸を介した鎖置換では(図4および図22)、同一または類似した鎖の置換と同時に、または並行して新たな二本鎖が形成される。学術文献において、この反応は一般に鎖置換と呼ばれる。この現象は、相同な二本鎖の交叉点移動に関与あるいは大きく関わっており、内部分子がヘアピン構造を取らないように、一本鎖オリゴヌクレオチド、DNAクローニング、DNAを使用した「足がかり配列(toehold)」によるカスケード反応、およびSNP解析が利用されている。核酸を使用したあるいは核酸を介した鎖置換現象の特性は、40年以上にわたり詳細に研究されており、様々な学術文献において報告されている(“The Kinetics of Oligonucleotide Replacement”, Reynaldo et al. J.Mol.Biol. 2000, 297, 511-;“Formation of a single base mismatch impedes spontaneous DNA branch migration” Panyutin et al. J.Mol.Biol. 1993, 230, 413-;“The kinetics of spontaneous DNA branch migration” Panyutin et al. PNAS 1994, 91,2021-;“Programmable energy landscapes for Kinetic control of DNA strand displacement” Machinek et al. Nature Commun 2014, 5, 5324-;“Remote Toehold: A mechanism for flexible control of DNA hybridization Kinetics” Genot et al. JACS, 2011, 133, 2177-;“A new class of homogeneous nucleic acid probes based on specific displacement hybridization” Li et al. NAR, 20102, v30, No.2 e5;“On the biophysics and kinetics of toehold-mediated DNA strand displacement”, Srinivas et al. NAR 2013, 10641-58;“Modelling toehold-mediated RNA strand displacement” Sulc et al. Biophysical Journal, 2015, 1238-;“Branch Migration through DNA sequence heterology” Biswas et al. J.Mol.Biol. 1998, 279, 795-;“Toehold-mediated nonenzymatic DNA strand displacement as a platform for DNA genotyping” Khodakov et al. JACS 2013, 135, 5612-;“Protected DNA Strand Displacement for enhanced single nucleotide discrimination in double stranded DNA” Khodakov et al. Nature, Scientific Reports, 2015, 5, 8721-;“Allele-Specific Holliday Junction Formation: a new mechanism of allelic discrimination for SNP Scoring” Yang et al. Genome Research 2003, 1754-;“Conditionally fluorescent molecular probes for detecting single base changes in double-stranded DNA” Chen et al. Nature Chemistry, 2013, 782-;“Optimizing the specificity of nucleic acid hybridization” Zhang et al. Nature Chemistry, 2012, 208-)。これらの従来技術およびその他の文献において、鎖置換法を成功させるために、使用する核酸鎖の構造に必要とされる条件、鎖置換の開始、鎖置換の速度論、反応条件や、使用する構造物の各セクションにおける配列差異が鎖置換に及ぼす影響が研究されており、詳細に報告されている。これらの報告において、鎖置換法の配列依存性は特に大きな役割を果たしている。核酸を介した鎖置換法に、既に配列の決まった特定の核酸鎖を使用する場合があることから、鎖置換法の結果も配列に特異的なものとなる。交叉点移動を利用した過去の報告では、配列依存性によって核酸鎖に差が見られることが実証されている。(交叉点移動は鎖置換に関連する方法であり、Lishanskiらによる米国特許出願第6,232,104号に記載されている。交叉点移動における修飾核酸鎖の使用は、Wetmurらによる米国特許第5,958,681号に記載されている。)
学術文献において報告されている核酸を介した鎖置換法は、競合分子の誘導による分子複合体の解離の一例であると認識されている。“A general mechanism for competitor-induced dissociation of molecular complexes”, Paramanathan et al. Natur Commun, 2014, 5207-を参照されたい。
核酸を介した鎖置換法がいくつか知られており、たとえば、「足がかり配列を介した」鎖置換(“toehold-mediated” strand displacement)または「3交叉点移動(3-branch-migration)」が当業者に知られている。
「核酸を介した鎖置換法」では、互いに平衡状態になりうるすべて/一連の中間工程を組み合わせて実施することによって、事前に作製された(相補的なA1鎖とB1鎖からなる)第1の二本鎖を一時的または永続的に開裂し、(相補的なA1鎖とC1鎖からなる)新たな第2の二本鎖を形成する。この方法において、A1鎖とC1鎖は相補的である。この方法を実施例1に示す(下記参照)。
鎖置換を開始するための構造的な必須要件として、二本鎖の末端(事前に作製されたA1鎖とB1鎖からなる第1の二本鎖)と、鎖置換を開始するための一本鎖(C1)とを空間的に近接させる必要があることが知られている(これによって、A1鎖とC1鎖が相補的二本鎖を形成することができる)。このような空間的近接は、一本鎖(C1)に一時的または永続的に相補的に結合することができる一本鎖オーバーハングによって好適に達成することができ(学術文献では、この一例として短いオーバーハングを使用することが知られており、英語では「toehold」と呼ばれる(前記文献参照))、これによって、C1鎖とA1鎖の相補的なセグメント同士を十分に近接させて、B1鎖の鎖置換を成功裏に開始させることができる。通常、A1鎖とC1鎖の相補的なセグメント同士が近接していればいるほど、核酸を介した鎖置換の開始の効率が高くなる。
内部セグメントにおいて、核酸を介した鎖置換を効率的に継続させるためのさらなる構造的な必須要件として、新たな二本鎖を形成する一方の鎖と他方の鎖(たとえばA1鎖とC1鎖)の間の相補性が高いことが必要とされる。そのため、たとえば、(C1鎖内に)ヌクレオチド変異があると、鎖置換が阻害されることがある(たとえば、交叉点移動でこのような事例が報告されている)。
本発明では、相補的な核酸の能力を利用して、核酸を介した配列依存的な鎖置換を行う。
本発明の好ましい実施形態を以下の図面および実施例において詳しく説明する。
本発明の方法(図8~21)において、一本鎖の形態に変換された二本鎖核酸または一本鎖核酸鎖は、出発物質として使用することができる。前記増幅は配列特異的であることが好ましく、すなわち、増幅対象の核酸が増加することが好ましい。
本発明の増幅系の成分は、増幅対象の核酸鎖、特異的な第1のプライマーオリゴヌクレオチド、第2のプライマー、および新たに合成された鎖の分離に関与するアクチベーターオリゴヌクレオチド、ならびに適切なポリメラーゼおよび基質(たとえばdNTP)である。本発明の増幅は、両方のプライマーのプライマー伸長反応を実施することができ、かつアクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換を介した両方のプライマーの伸長産物の分離を補助することが可能な条件下において、緩衝溶液で行われる。
一実施形態において、適切なアクチベーターオリゴヌクレオチドの非存在下では合成されたプライマー伸長産物が分離しない条件下において、本発明の方法のすべての工程を実施する。たとえば、両方のプライマーの伸長産物からなる二本鎖のTmが反応温度よりも有意に高くなるように、反応液の温度が選択される。
このような条件下では、両方のプライマーの伸長産物の分離は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの効果に依存して起こる。アクチベーターオリゴヌクレオチドは、第1のプライマーの伸長産物に相補的に結合し、これによって、第1のプライマーの伸長産物と結合している第2のプライマーの伸長産物を引き剥がすことができる。鎖置換反応を開始させるため、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域には、反応条件下でアクチベーターオリゴヌクレオチドと一時的に結合することができるポリヌクレオチドテールが付加されており、これによって、第1のプライマーの伸長ヌクレオチドのその他の領域をアクチベーターオリゴヌクレオチドに空間的に近接させることができる。アクチベーターオリゴヌクレオチドにより鎖置換が開始されると、第1のプライマーの伸長産物と結合している第2のプライマーの伸長産物が引き剥がされる。これによって、第1のプライマーの伸長産物の3’末端側セグメントが遊離状態となり、さらなる結合に利用可能となる。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドのポリヌクレオチドテールは、ポリメラーゼによって複製できないことが好ましい。これは、ポリヌクレオチドテールの領域内に適切な修飾を付加することによって、または第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域と第2のプライマー領域の間に第1のブロッキングユニットを挿入することによって達成することができる。
第2のプライマーの伸長産物の合成は、第2のプライマーオリゴヌクレオチドが第1のプライマーの伸長産物の3’末端側セグメントに結合した後に開始される。第1のプライマーの伸長産物の3’末端側セグメントは、アクチベーターオリゴヌクレオチドに結合せず、かつ第2のプライマーオリゴヌクレオチドに結合して該プライマーの伸長反応を補助できるように十分に長いことが好ましい。第2のプライマーの伸長産物の合成は、第1のプライマーの伸長産物と結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドが引き剥がされることによって開始される。これは、たとえば、ポリメラーゼに依存的な鎖置換によって、または第2のプライマーによる鎖置換によって行うことができる。
第1のプライマーと第2のプライマーの各プライマー伸長産物は、複製可能な領域を含み、交互に鋳型として機能する。一方、アクチベーターオリゴヌクレオチドは鋳型として機能しない。これは、第1のプライマーの伸長産物に相補的に結合することができるが、ポリメラーゼによって鋳型として利用されないヌクレオチド修飾を使用することによって好適に達成することができる。このようなヌクレオチド修飾としては、修飾されたリン酸糖からなる主鎖部分を有するヌクレオチド化合物が挙げられ、たとえば、2’-O-アルキルRNA修飾(たとえば2’-OMe)、LNA修飾、モルホリノ修飾などが挙げられる。通常、鎖内にこのような修飾が存在することによって、DNA依存的ポリメラーゼによる鎖の読み取りが阻止される。このような修飾の数は様々であってよく、ポリメラーゼによる鎖の読み取りを阻止するためには、通常、数個(1~20個)の修飾で十分であると考えられる。このようなヌクレオチド修飾は、たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドに対する第1のプライマーオリゴヌクレオチドの結合部位もしくはその周辺部位において使用することができ、かつ/または第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域の構成ヌクレオチドとして使用することができる。
このような修飾を使用することによって、ポリメラーゼの機能が局所的に阻害され、これによって、使用する構造の特定のセグメントがポリメラーゼによって複製されなくなり、主として一本鎖のまま残される。この一本鎖の形態では、別の反応成分にさらに結合することが可能となり、これにより、その機能を発揮することができる。
二本鎖が変性されない反応条件下では、核酸を介した配列依存的な鎖置換を使用することによって、本発明の方法の増幅反応において、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物が配列特異的に分離される。本発明の方法では、プライマーオリゴヌクレオチドから新たに合成された伸長断片と、増幅の開始時に添加されたアクチベーターオリゴヌクレオチドの配列との間に十分な相補性があることが鎖置換の達成に必要とされ、したがって、この相補性は、(第1のプライマーの伸長産物および第2のプライマーの伸長産物からなる)二本鎖の鎖分離の効率にも影響を及ぼしうる。これらの配列の間にわずかな差異がある場合、鎖置換の速度が低下し、したがって鎖分離の速度も低下する。この結果、反応全体の速度も低下する。新たに合成された伸長産物の配列と、反応の開始時に添加されたアクチベーターオリゴヌクレオチドの配列との間の差異が大きくなればなるほど、鎖置換が起こりにくくなり、最終的には第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物を十分に分離することができなくなる。新たに合成されたこれらの鎖は十分に分離することができなくなり、その結果、各伸長産物の結合部位にプライマーオリゴヌクレオチドが結合できなくなる。通常、配列に差異がある場合、このようにして配列の増幅が停止する。
要約すれば、第1のプライマーまたは第2のプライマーとその鋳型の結合における特異性だけでなく、各プライマーの配列セグメントの特性も増幅に影響を及ぼしうる。すなわち、反応の開始時に添加されたアクチベーターオリゴヌクレオチドの配列と各プライマーの配列セグメントとの間のマッチングの程度に応じて、各プライマーの配列セグメントの十分な鎖置換が達成可能であるかどうかが決まる。これに基づき、本発明の方法は、従来の増幅方法よりも全体的に高い特異性を達成することができる。
本発明の方法では、アクチベーターオリゴヌクレオチドと二本鎖との間で鎖置換を起こすために特定のタンパク質(たとえばRecAなど)を使用しないことが好ましい。本発明の方法では、反応の開始時に添加した核酸鎖(アクチベーターオリゴヌクレオチド)による鎖置換と、これと並行したポリメラーゼによる鋳型依存的な鎖重合とを一時的に組み合わせて実施する。各成分の配列特異的な構造(配列特異的なアクチベーターオリゴヌクレオチドと配列特異的なプライマー)とこのような成分の特定の組み合わせによって、鎖置換と鎖重合とを組み合わせて同時に実施することができる。一方、ポリメラーゼの活性は、配列特異的に制御される。たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドは鋳型としては機能せず、第2のプライマーの伸長産物の合成は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドにおいて位置特異的に停止する。
新たに合成されたプライマー伸長産物を好ましくは自然に分離させない反応条件において各成分を使用することによって、特異的な増幅がさらに達成される。
驚くべきことに、本発明者らは、前述した鎖置換と鎖重合を好適に組み合わせることに成功した。すなわち、これらの反応(配列特異的な鎖置換とプライマーの伸長)を1つのバッチで好適に進行させることに成功した。このように、配列特異的プライマーオリゴヌクレオチド、配列特異的アクチベーターオリゴヌクレオチド、ポリメラーゼおよびヌクレオチド基質(dNTP)を含む均質な増幅系を構築することができる。このような増幅系を使用して、増幅対象の核酸を増幅させることができる。各プライマーオリゴヌクレオチドの配列とアクチベーターオリゴヌクレオチドの配列は、増幅対象の核酸とマッチしている。
本発明の方法(図23)は、後述するいくつかのプロセスを含む。これらのプロセスは、1つのバッチで行ってもよく、別々のバッチで行ってもよい。これらのプロセスを1つのバッチで行う場合、これらのプロセスは同じ条件下、たとえば等温条件で行うことができ、あるいは異なる条件下、たとえば周期的に温度を変更して行うこともできる。プライマーオリゴヌクレオチドおよびアクチベーターオリゴヌクレオチドは、反応の開始時に存在することが好ましい。しかし、各試薬を連続して添加することも可能である。
さらに、たとえばPCRなどの他の増幅方法と組み合わせることも可能であり、たとえば、まず、PCRを1~10サイクル行い、次に、たとえば、等温条件下で反応を行うこともできる。
有利な一実施形態において、核酸鎖を特異的に増幅する前記方法は、
a)標的配列を含む増幅対象の核酸鎖の3’末端セグメントに第1のプライマーオリゴヌクレオチドをハイブリダイズする工程、
b)ポリメラーゼにより第1のプライマーオリゴヌクレオチドを伸長して、前記増幅対象の核酸鎖および/またはその標的配列(工程a)に相補的な配列部分を含む第1のプライマーの伸長産物を形成させる工程、
c)前記伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域のポリヌクレオチドテールに、アクチベーターオリゴヌクレオチドを結合させる工程、
d)前記伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域に相補的な、前記増幅対象の核酸鎖を引き剥がしながら、該第1のプライマー領域に前記アクチベーターオリゴヌクレオチドを結合させる工程、
e)前記伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物に相補的な、前記増幅対象の核酸鎖を引き剥がしながら、該第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の相補的セグメントに前記アクチベーターオリゴヌクレオチドを結合させて、該第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントを一本鎖とする工程、
f)第1のプライマーの伸長産物にハイブリダイズすることができる配列を3’末端セグメントに含む第2のオリゴヌクレオチドプライマーを、第1のプライマーの伸長産物にハイブリダイズする工程、
g)ポリメラーゼにより第2のオリゴヌクレオチドプライマーを伸長して、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域を含むように該第1のプライマー領域まで伸長を進めて該第1のプライマー領域を複製するが、第2の領域のポリヌクレオチドテールは複製しないことによって、第2のプライマーの伸長産物を形成させる工程、および
h)所望の増幅度に達するまで工程a)~g)を繰り返す工程
を含み、
第1のプライマーオリゴヌクレオチドが、その3’末端セグメントに、前記増幅対象の核酸鎖に配列特異的に結合することができる第1のプライマー領域を含み、かつ
該第1のプライマー領域の5’末端に直接またはリンカーを介して連結された第2の領域を含むこと、
前記第2の領域が、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドへの結合と該アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換の補助(工程c)に適しているポリヌクレオチドテールを含むこと、
前記ポリヌクレオチドテールが、選択された反応条件下でポリメラーゼによって実質的に複製されないこと、
前記アクチベーターオリゴヌクレオチドが、
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域のポリヌクレオチドテールに結合することができる第1の一本鎖領域、
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域に実質的に相補的であり、該第1の領域に結合することができる第2の一本鎖領域、および
ポリメラーゼによって合成された第1のプライマーの伸長産物の少なくとも1つのセグメントに実質的に相補的な第3の一本鎖領域を含むこと、ならびに
前記アクチベーターオリゴヌクレオチドが、第1のプライマーオリゴヌクレオチドのプライマー伸長用の鋳型として機能しないこと
を特徴とする。
一実施形態において、前記方法は、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドの非存在下において増幅対象の核酸の相補鎖同士の分離が起こらない条件下で行う。
一実施形態において、第2のプライマー領域の前記ポリヌクレオチドテールの複製は、第1の領域と第2の領域との間に位置するポリメラーゼ停止領域において起こる。
一実施形態において、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の一本鎖領域は、第1のプライマー領域の直後に続くように前記ポリメラーゼによって合成された、第1のプライマーの伸長産物の前記少なくとも1つのセグメントに実質的に相補的である。
一実施形態において、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の一本鎖領域は、第1のプライマーの伸長産物の伸長された部分の前記5’セグメントに完全に相補的であり、この相補配列部分の長さは、少なくとも3~70ヌクレオチド長であり、少なくとも5~50ヌクレオチド長がより好ましく、5~40ヌクレオチド長であることが好ましく、5~30ヌクレオチド長であることがさらに好ましく、5~20ヌクレオチド長であることが特に好ましい。
さらなる一実施形態において、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の一本鎖領域の配列と、第1のプライマーの伸長産物の伸長された部分の前記5’末端セグメントの対応する配列は、(ワトソン・クリック型塩基対の定義による)非相補的塩基対を有する1つの配列位置(ヌクレオチド対/塩基対)を除き、少なくとも3~70ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも5~60ヌクレオチド長、好ましくは10~40ヌクレオチド長、特に好ましくは10~20ヌクレオチド長の相補的配列を含む。
さらなる一実施形態において、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の一本鎖領域の配列と、第1のプライマーの伸長産物の伸長された部分の前記5’末端セグメントの対応する配列は、(ワトソン・クリック型塩基対の定義による)非相補的塩基対を有する2つの配列位置(ヌクレオチド対/塩基対)を除き、少なくとも3~70ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも5~60ヌクレオチド長、好ましくは10~40ヌクレオチド長、特に好ましくは10~20ヌクレオチド長の相補的配列を含む。
さらなる一実施形態において、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の一本鎖領域の配列と、第1のプライマーの伸長産物の伸長された部分の前記5’末端セグメントの対応する配列は、少なくとも3~70ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも5~60ヌクレオチド長、好ましくは10~40ヌクレオチド長、特に好ましくは10~20ヌクレオチド長の(ワトソン・クリック型塩基対の定義による)相補的配列を含み、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の一本鎖領域の配列と、第1のプライマーの伸長産物の伸長された部分の前記5’末端セグメントの対応する配列は、少なくとも3つの配列位置に非相補的塩基対をさらに含み、これらの位置は、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域の5’末端セグメント内にある。
さらなる一実施形態において、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の一本鎖領域の配列と、第1のプライマーの伸長産物の伸長された部分の前記5’末端セグメントの配列は、(ワトソン・クリック型塩基対の定義による)非相補的塩基対を有する少なくとも1箇所から最大で10箇所の配列位置を除き、少なくとも3~70ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも5~60ヌクレオチド長、好ましくは10~40ヌクレオチド長、特に好ましくは10~20ヌクレオチド長の相補的配列を含み、(ワトソン・クリック型塩基対の定義による)非相補的塩基対を有する配列位置に、修飾核酸塩基を有する少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含む。このような修飾核酸塩基には、たとえば、天然の核酸塩基の結合力を向上させた核酸塩基(たとえば2-アミノアデニン)、または天然の核酸塩基の結合力を低下させた、イノシンや5-ニトロインドールなどのいわゆるユニバーサル塩基が含まれる。修飾核酸塩基は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の配列領域に位置することが好ましい。
前記方法のさらなる一実施形態において、前記工程(e)が、前記伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物に相補的な、前記増幅対象の核酸鎖が該第1のプライマーの伸長産物から完全に離れるまで該相補的な核酸鎖を引き剥がしながら、前記伸長産物の相補的セグメントに前記アクチベーターオリゴヌクレオチドを結合させ、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントを一本鎖とすることを含むように、該工程をさらに変更する。
前記方法のさらなる一実施形態において、前記工程(f)が、第1のプライマーの伸長産物に第2のオリゴヌクレオチドプライマーをハイブリダイズするのと同時に、鎖置換によって、第1のプライマーの伸長産物に結合している前記アクチベーターオリゴヌクレオチドを少なくとも部分的に引き剥がすことを含むように、該工程をさらに変更する。
前記方法のさらなる一実施形態において、前記工程(g)が、ポリメラーゼを使用して、第1のプライマーの伸長産物に結合している前記アクチベーターオリゴヌクレオチドを引き剥がすことを含むように、該工程をさらに変更する。
前記方法のさらなる一実施形態において、前記工程(h)が、前記伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドの複製されていないポリヌクレオチドテールに前記アクチベーターオリゴヌクレオチドを結合させて、第1のプライマーの伸長産物に結合している第2のプライマーの伸長産物を引き剥がしながら、これと同時に、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの特異的な第1の伸長産物のセグメントと相補的二本鎖を形成させることを任意で含むように、該工程をさらに変更する。
前記方法のさらなる一実施形態において、h)前記工程(a)~(g)を繰り返すことが可能な条件下で前記反応を継続する工程を含むように、前記方法をさらに変更する。
前記方法のさらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチド、第2のプライマーオリゴヌクレオチドおよび前記アクチベーターオリゴヌクレオチドを使用して、第1のプライマーの伸長産物および第2のプライマーの伸長産物を指数関数的反応において同時に増幅することを含み、形成された各プライマーの伸長産物が、同時合成の鋳型として機能するように、前記方法をさらに変更する。
出発核酸鎖の好ましい実施形態:
増幅反応の開始時に使用された核酸鎖または増幅反応の開始時に使用する核酸鎖を、以下、出発核酸鎖とも呼ぶ(図23B~23D)。
出発核酸鎖は、プライマーを正しい位置に配置することができ、両プライマー間の合成部位を提供することができ、結合反応および伸長反応の開始を可能とする最初の鋳型として機能する。好ましい一実施形態において、出発核酸鎖は標的配列を含む。
各プライマーがそれぞれのプライマー結合部位(PBS1およびPBS2)と結合し、適切なプライマー伸長反応が開始されることによって、第1のプライマーの伸長産物が生成される。第1のプライマーの伸長産物は、反応の開始時に存在している核酸鎖の特異的な複製物として合成される。
一実施形態において、増幅反応の開始前の反応混合物に加えられるこの核酸鎖(出発核酸鎖)は、増幅対象の核酸鎖と同一のものであってもよい。増幅反応によって、この核酸鎖の量だけが増加する。
さらなる一実施形態において、増幅対象の核酸と出発核酸鎖は異なるものであってもよく、出発核酸鎖によって増幅対象の核酸鎖に含まれる各配列要素の配置が決まるが、出発核酸鎖の配列組成は、増幅対象の核酸鎖の配列と異なっていてもよい。たとえば、増幅反応におけるプライマーの結合と伸長によって、(出発核酸鎖には含まれない)新たな配列組成が、増幅対象の核酸鎖に組み込まれてもよい。さらに、増幅対象の核酸鎖に含まれる配列要素は、出発核酸鎖の配列要素とその組成(たとえばプライマー結合部位またはプライマー配列)が異なっていてもよい。出発核酸のみが、増幅対象の核酸鎖を特異的に合成するための最初の鋳型として機能することができる。この最初の鋳型は、増幅終了時まで反応混合物中に残存していてもよい。しかしながら、指数関数的に増幅が進むことから、増幅反応の終了時における増幅対象の核酸鎖の量は、反応に添加した出発核酸鎖の量よりも多くなる。
さらなる一実施形態において、出発核酸鎖は、増幅されない少なくとも1つの配列部分を含んでいてもよい。したがって、このような出発核酸鎖は、増幅対象の配列と同一ではない。出発核酸鎖中の増幅されないこのような配列部分は、たとえば、配列の調製工程または事前の配列操作工程によって構築された配列部分であってもよい。
好ましい一実施形態において、反応の開始前に反応混合物に添加される出発核酸鎖は、少なくとも1つの標的配列を含む。
さらなる一実施形態において、前記出発核酸鎖は、少なくとも1つの標的配列と、非標的配列である別の配列とを含む。増幅反応において、標的配列を含む配列セグメントは指数関数的に増幅されるが、前記別の配列セグメントは、指数関数的な増幅が全く認められないか、または部分的にしか指数関数的に増幅されない。
出発核酸鎖の構造
前述の出発核酸鎖の一例として、標的配列、配列断片Aおよび配列断片Bを含む核酸鎖が挙げられる。
出発核酸鎖の配列断片Aは、増幅に使用されるプライマーのうちの一方の配列と有意な相同性を有する配列、または一方のプライマーの3’末端セグメントの複製可能な部分と実質的に同一である配列を含む。このセグメントに相補的な鎖の合成では、各プライマー結合部位となる相補的配列が生成される。
出発核酸鎖の配列断片Bは、対応する他方のプライマーまたはその3’末端セグメントに相補的に結合して伸長可能なプライマー-鋳型複合体を形成するのに適した配列を含む。配列断片Aと配列断片Bは、大部分において互いに相補的ではないか、または互いに相補的ではないことが好ましい。
好ましい一実施形態において、以下の特性を有する出発核酸鎖を増幅方法の反応混合物に添加する。
配列断片Aは、出発核酸鎖の5’末端セグメントに位置することが好ましい。この配列断片Aは、出発核酸鎖の5’方向において境界を形成することが好ましい。
配列断片Bは、配列断片Aの下流に位置することが好ましい。
好ましい一実施形態において、前記配列断片Bは、前記核酸鎖の3’方向において境界を形成する。さらなる一実施形態において、前記配列断片Bは、該核酸鎖の3’方向において境界を形成せず、3’側の別の配列に隣接している。前記別の配列は標的配列ではなく、指数関数的な増幅に関与しないことが好ましい。
一実施形態において、標的配列は、配列断片Aおよび配列断片Bのうちの少なくとも1つを含む。さらなる一実施形態において、標的配列は、配列断片Aと配列断片Bの間に位置する。
一実施形態において、前述のような出発核酸鎖は、第1のプライマーの伸長産物を合成するための鋳型として機能することができる(図23B)。この出発核酸鎖は、たとえば、第2のプライマーオリゴヌクレオチドを使用したプライマーの伸長反応を行う場合、指数関数的な増幅を行う前の調製工程において、出発核酸鎖を含む長い配列セグメント(図23B、A))として提供することができ、一本鎖の形態に変換することができる。たとえば、出発核酸鎖はゲノムDNAであってもよく、ゲノムRNAであってもよく、標的配列の供給源として使用することができる(図23BのA)に二本鎖として模式的に示す)。出発核酸鎖は、5’末端側から順に、出発核酸鎖の5’方向の境界を形成し、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列部分を含むセグメント1(図23B、B));標的配列またはその一部を含むセグメント2;第1のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含むセグメント3;および出発核酸鎖の3’末端に位置し、セグメント3の3’末端側に隣接し、非標的配列を含むセグメント4を含む。
増幅の開始時において、第1プライマーは、少なくともその第1の領域の3’末端セグメントにおいて、出発核酸鎖のセグメント3に結合することができ(図23B、C))、適切なポリメラーゼとヌクレオチドの存在下で伸長することができる。これによって、出発核酸鎖の鋳型鎖に相補的であり、鋳型鎖の長さに制限された第1のプライマーの伸長産物が生成される(図23B、D))。増幅反応において、このようなプライマー伸長産物は、アクチベーターオリゴヌクレオチドによって鋳型鎖から配列特異的に引き剥がされ(図23B、E~F))、合成された第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントの対応する配列部分が、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの結合部位として使用される(図23B、F))。
したがって、好ましい一実施形態において、出発核酸鎖は以下の配列断片を含む(図23B)。
・配列セグメント1(図23Bにおいてセグメント1と呼ぶ)。このセグメントは、第2のプライマーの配列と有意な相同性を有する配列、または第2のプライマーの3’末端セグメントの複製可能な部分と実質的に同一の配列を含む。この配列セグメント1は、出発核酸鎖の5’末端セグメントに位置し、5’方向において該核酸鎖の境界を形成することが好ましい。
・配列セグメント3(図23Bにおいてセグメント3と呼ぶ)。このセグメントは、第1のプライマーの第1の領域またはその3’末端セグメントに相補的に結合し、伸長可能なプライマー-鋳型複合体を形成するのに適した配列を含む。配列セグメント3は、配列セグメント1の下流に位置することが好ましい。
・標的配列。セグメント1~セグメント3の一部またはその全体にわたる配列である(図23Bにおいて標的配列の一部をセグメント2と呼ぶ)。好ましい一実施形態において、標的配列は、セグメント1および/またはセグメント3の少なくとも1つを含む。
・出発核酸鎖に任意で含まれる3’末端セグメント。このセグメントは、増幅されないフランキング配列部分を含む(図23Bにおいてセグメント4と呼ぶ)。
さらなる一実施形態において、このような出発核酸鎖は、第2のプライマーの伸長産物を合成するための鋳型として機能することができる(図23C)。
この出発核酸鎖は、たとえば、第1のプライマーオリゴヌクレオチドを使用したプライマーの伸長反応を行う場合、指数関数的な増幅を行う前の調製工程において、出発核酸鎖を含む長い配列セグメント(図23C、A))として提供することができ、一本鎖の形態に変換することができる。たとえば、出発核酸鎖はゲノムDNAであってもよく、ゲノムRNAであってもよく、標的配列の供給源として使用することができる(図23CのA)に二本鎖として模式的に示す)。出発核酸鎖(図23C、B))は、5’末端セグメント側から順に、出発核酸鎖の5’方向の境界を形成し、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列部分を含むセグメント5;標的配列またはその一部を含むセグメント6;第2のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含むセグメント7;および出発核酸鎖の3’末端に位置し、セグメント7の3’末端側に隣接し、非標的配列を含むセグメント8を含む。
増幅の開始時において、第1プライマーは、少なくともその第1の領域の3’末端セグメントにおいて、出発核酸鎖のセグメント7に結合することができ(図23C、C))、適切なポリメラーゼとヌクレオチドの存在下で、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの停止部分まで伸長することができる。これによって、出発核酸鎖の鋳型鎖に相補的であり、鋳型鎖の長さに制限された第2のプライマーの伸長産物が生成される(図23C、D))。増幅反応において、このようなプライマー伸長産物は、アクチベーターオリゴヌクレオチドによって鋳型鎖から配列特異的に引き剥がされ(図23C、E~F))、合成された第2のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントの対応する配列部分が、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの結合部位として使用される(図23C、F))。
したがって、この好ましい実施形態において、出発核酸鎖は以下の配列断片を含む(図23C)。
・配列セグメント5(セグメント5と呼ぶ)。このセグメントは、第1のプライマーの領域配列と有意な相同性を有する配列、または第1プライマーの第1の領域の複製可能な部分と実質的に同一の配列を含む。この配列セグメント7は、出発核酸鎖の5’末端セグメントに位置し、(第1のプライマーオリゴヌクレオチドと同様に)複製されないオリゴヌクレオチドテールに隣接する。この配列セグメント7は、5’方向において、この複製可能な核酸鎖の境界を形成することが好ましい。
・配列セグメント7(セグメント7と呼ぶ)。このセグメントは、第2のプライマーまたはその3’末端セグメントに相補的に結合し、伸長可能なプライマー-鋳型複合体を形成するのに適した配列を含む。この配列セグメント7は、配列セグメント5の下流に位置することが好ましい。
・標的配列。セグメント5~セグメント7の一部またはその全体にわたる配列である(図23において標的配列の一部をセグメント6と呼ぶ)。好ましい一実施形態において、標的配列は、セグメント5および/またはセグメント7の少なくとも1つを含む。
・出発核酸鎖に任意で含まれる3’末端セグメント。このセグメントは、増幅されないフランキング配列部分を含む(図23Cにおいてセグメント8と呼ぶ)。
出発核酸鎖の機能方法
増幅反応の開始時、出発核酸鎖は、各プライマーの伸長産物を最初に生成するための鋳型として機能する。したがって、出発核酸鎖は、増幅対象の核酸鎖を得るための出発鋳型となる。出発核酸鎖は、増幅対象の核酸鎖と必ずしも同一のものでなくてもよい。増幅反応において両方のプライマーが結合して伸長することにより、増幅対象の核酸鎖の両末端セグメントにおいて、どの配列が増幅中に生成されるのかが実質的に決まる。
本発明の方法の好ましい一実施形態において、指数関数的な増幅プロセスにおいて、二本鎖を変性させない反応条件が維持される。したがって、出発核酸鎖は、ポリメラーゼによって伸長することができる5’配列セグメント内に、ポリメラーゼによる各プライマーの伸長を停止させるような制限を有していると有利である(たとえば、図23Dのセグメント1、セグメント5、セグメント9またはセグメント12)。したがって、反応条件下で生成されるプライマー伸長断片の長さが制限される。これは、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換において有利な効果をもたらし、各鎖を解離させて、プライマー結合部位を一本鎖の形態に変換し、これにより、該プライマー結合部位にプライマーが新たに結合することが可能となる。
本発明の方法のさらに好ましい一実施形態において、初期の合成工程(たとえば、最初の1~10回の反復合成)では、二本鎖に対して変性反応条件(たとえば、最高で90℃の温度)が使用されるが、これに続く反復合成工程の指数関数的な増幅プロセスでは、非変性条件が維持される。このような温度条件の組み合わせでは、出発核酸鎖がその5’末端配列セグメントに制限を有しているか否かは重要ではない。PCRと同様に、最初に変性した後に合成された鎖の分離は、その長さとは無関係に起こる。
出発核酸鎖の設計
出発核酸鎖は、指数関数的な増幅を行う前に別の反応工程において設計することができる。標的配列を含む核酸鎖を設計して、それを使用する様々な方法、および事前に設計されるさらなる配列部分は当業者に公知である。出発核酸鎖の設計において、たとえば、鋳型依存的なプライマーの伸長工程、制限酵素による消化工程、ライゲーション工程、ポリアデニル化工程などを含む方法を使用することができる。これらの製造工程は、単独で、または組み合わせて使用することができる。このような反応において、様々な構造を有する出発核酸鎖を設計することができる(図23D)。
出発物質(A)として使用される二本鎖のDNAを図23Dに模式的に示す。このDNAの配列の一部は、標的配列を含む出発核酸鎖を調製するための材料または鋳型として機能する。適切な方法を使用して、このような材料から、様々な構造の適切な出発核酸鎖を調製することができる。
調製される出発核酸鎖(図23DのB))に含まれていてもよい配列セグメントとしては、たとえば、5’方向の境界を形成し、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列部分を含む、出発核酸鎖の5’末端のセグメント1;標的配列またはその一部を含むセグメント2;第1のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含むセグメント3;および出発核酸鎖の3’末端に位置し、セグメント3の3’末端側に隣接する、非標的配列を含むセグメント4が挙げられる。このような出発核酸鎖は、たとえばプライマーの伸長反応によって合成することができ、または1種以上の制限酵素を使用した制限酵素消化または制限酵素切断によって作製することができる。
さらに、設計される出発核酸鎖(図23DのC))に含まれていてもよい配列セグメントとしては、たとえば、5’方向の境界を形成し、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列部分を含む、出発核酸鎖の5’末端のセグメント5;標的配列またはその一部を含むセグメント6;第2のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含むセグメント7;および出発核酸鎖の3’末端に位置し、セグメント7の3’末端側に隣接する、非標的配列を含むセグメント8が挙げられる。このような出発核酸鎖は、たとえば、プライマーの伸長反応によって合成することができる。
さらに、設計される出発核酸鎖(図23DのD))に含まれていてもよい配列セグメントとしては、5’方向の境界を形成し、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列部分を含む、出発核酸鎖の5’末端のセグメント9;標的配列またはその一部を含むセグメント10;および第2のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含むセグメント11が挙げられる。このような出発核酸鎖は、1種以上の制限酵素を使用した制限酵素消化または制限酵素切断によって作製することができる。
さらに、設計される出発核酸鎖(図23DのE))に含まれていてもよい配列セグメントとしては、5’方向の境界を形成し、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列部分を含む、出発核酸鎖の5’末端のセグメント12;標的配列またはその一部を含むセグメント13;および第2のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含むセグメント14が挙げられる。このような出発核酸鎖は、1種以上の制限酵素を使用した制限酵素消化または制限酵素切断を行い、それぞれの部位に対応するリガーゼ酵素系を使用して、セグメント12および/またはセグメント14の少なくとも1つをセグメント13にライゲートすることによって作製することができる。
出発核酸鎖の設計において、得られる出発核酸鎖は、二本鎖の形態で存在していてもよく、一本鎖の形態で存在していてもよい。出発核酸鎖の構造およびその設計方法に応じて、増幅前に出発核酸鎖を一本鎖の形態に変換することが必要となる場合がある。これは、たとえば、別の工程において行うことができ、または夾雑成分から出発核酸鎖を分離するためのクリーンアップ操作中に行うこともできる。
たとえば、出発核酸鎖は、指数関数的な増幅に使用されるプライマー(たとえば、第1のプライマーオリゴヌクレオチドまたは第2のプライマーオリゴヌクレオチド)、標的配列を含む一本鎖のDNAもしくはRNA、ポリメラーゼおよびdNTPを用いた別のプライマー伸長反応において合成することができる。このような方法によって、鋳型に結合する出発核酸鎖を得ることができる。指数関数的な増幅に使用する場合、指数関数的な増幅を行う前に、出発核酸鎖を一本鎖の形態に変換することができる。このような一本鎖への変換は、様々な公知の方法を使用して行うことができ、たとえば、温度による変性、アルカリ変性、および(たとえば、RNase H、DNaseまたは5’エキソヌクレアーゼを使用した)部分的または完全な鎖分解が挙げられる。さらに、上流に位置する別のプライマー(いわゆるバンパープライマーまたはアウタープライマー)を使用して、別のプライマー伸長反応を行うこともでき、その結果、ポリメラーゼに依存的な鎖置換によって出発核酸鎖が一本鎖の形態に変換される。
出発核酸鎖を一本鎖の形態に変換するため、二本鎖核酸を一本鎖の形態に変換することができる別の酵素系とその補因子またはエネルギー源を増幅混合物に添加することによって、二本鎖の形態で作製された出発核酸鎖を一本鎖の形態に変換することができる。このような酵素系として、たとえば、(エネルギー源としてATPまたはdATPを使う)ヘリカーゼおよびリコンビナーゼが挙げられる。好ましい一実施形態において、増幅反応中にこのような酵素が配列に非特異的な鎖解離を引き起こさないように、指数関数的な増幅反応を行う前にこれらの酵素を不活性化させる。
有利な一実施形態において、指数関数的な増幅を行う前にこのような出発核酸鎖を設計するが、別個に処理を行う必要はない。
有利なさらなる一実施形態において、増幅反応の成分または増幅反応を行うために提供される反応混合物の存在下において出発核酸鎖を設計する。この方法では、設計した出発核酸鎖を直接そのまま指数関数的な増幅反応に円滑に移行させることができる。このような実施形態において、均質なアッセイを設計することができる。
有利な一実施形態において、このような出発核酸鎖を得るための出発物質は、ゲノムDNAまたはその断片、プラスミドDNAまたはその断片、mRNAまたはその断片、ならびにマイクロRNAおよびその断片からなる群から選択される。出発物質としての機能を有する核酸は、たとえば、臨床材料の供給源に由来するものであってもよい。
本発明の方法の好ましい一実施形態において、増幅反応の開始時に使用される出発核酸鎖の配列は、増幅対象の核酸鎖の配列と同一である。この場合、増幅バッチにおける増幅の開始時に、(第1のプライマーの伸長産物または第2のプライマーの伸長産物として)増幅対象の核酸鎖の一方の鎖のみを使用してもよく、または両方の鎖を使用してもよい。
本発明の方法の一実施形態において、相補鎖の合成中に、選択された温度でアクチベーターオリゴヌクレオチドの協力によって一本鎖に解離することができる二本鎖断片が生成されるように、増幅反応に添加する出発核酸鎖は、少なくとも一方の末端においてその長さが制限されていることが好ましい。
これは、たとえば、増幅混合物に添加される出発核酸鎖が、増幅プライマーまたはその一部に対応する少なくとも1つの配列断片を5’末端セグメントに含むとともに、プライマー結合部位に相当するか、または増幅方法において適切なプライマーが結合することができるプライマー結合部位として機能し、ポリメラーゼ依存的合成反応によって出発核酸鎖に相補的な鎖を生成することができる下流の別の配列断片を含むことによって達成することができる。
第1のプライマーオリゴヌクレオチド(プライマー1)の好ましい実施形態
第1のプライマーオリゴヌクレオチド(プライマー1)は、少なくとも以下の領域を含む核酸鎖である(図5および図6)。
・第1のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端セグメントに位置する第1のプライマー領域。この第1のプライマー領域は、増幅対象の核酸鎖に実質的に配列特異的に結合することができる。
・第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域の5’末端に直接またはリンカーを介して連結された第2の領域。この第2の領域は、アクチベーターオリゴヌクレオチドへの結合と該アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換の補助(工程c)に適したポリヌクレオチドテールを含む。このポリヌクレオチドテールは、反応条件下で実質的に複製されずに一本鎖として残り、すなわち、安定したヘアピン構造やds構造を形成せず、好ましくはポリメラーゼによって複製されない。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの全長は、10~80個のヌクレオチド、好ましくは15~50個のヌクレオチド、より好ましくは20~30個のヌクレオチド、またはこのような長さの同等物(たとえば、修飾ヌクレオチド)で構成される。第1のプライマーオリゴヌクレオチドの構造は、選択された反応条件下でアクチベーターオリゴヌクレオチドに可逆的に結合できるように構成されている。また、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの構造は、プライマー機能を発揮するのに適するように構成されている。さらに、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの構造は、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換を行えるように構成されている。したがって、第1の領域および第2の領域の構造は、指数関数的な増幅を行えるように構成されている。
本発明の有利な一実施形態において、第1のプライマーの第1の領域と第2の領域は、通常の5’末端と3’末端で連結される。本発明のさらなる一実施形態において、第1の領域と第2の領域は、5’末端同士で連結され、この場合、第2の領域は第1の領域と反対方向になる。
第1の領域と第2の領域の間の結合は、共有結合により行われることが好ましい。一実施形態において、第1の領域と第2の領域の間の結合は、DNAにおいて通常見られる5’-3’ホスホジエステル結合である。さらなる一実施形態において、第1の領域と第2の領域の間の結合は、5’-5’ホスホジエステル結合である。さらなる一実施形態において、第1の領域と第2の領域の間の結合は、第1の領域と第2の領域の隣接する末端ヌクレオチド同士の間または末端修飾ヌクレオチド同士の間に少なくとも1つのリンカー(たとえば、C3リンカー、C6リンカー、C12リンカー、HEGリンカー、または塩基を含まない修飾)が存在する5’-3’ホスホジエステル結合である。
第1の領域と第2の領域は様々なヌクレオチド修飾を含むことができる。この場合、ヌクレオチドの各構成要素、すなわち、核酸塩基および主鎖を修飾することができる(糖部分および/またはリン酸部分)。さらに、標準的なヌクレオチド単位の少なくとも1つの部分が欠失または修飾されている修飾(たとえばPNA)を使用することもできる。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域は、アクチベーターオリゴヌクレオチドに結合しない別の配列を含む。このような配列は、その他の目的のため、たとえば、固相に結合させるために使用することができる。このような配列は、ポリヌクレオチドテールの5’末端に位置することが好ましい。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、特徴的な標識を含むことができる。このような標識としては、色素(たとえば、FAM、TAMRA、Cy3、Alexa 488など)、ビオチン、特異的に結合させることができるその他の基(たとえばジゴキシゲニン)が挙げられる。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域の配列長は、約3~30ヌクレオチド長、好ましくは5~20ヌクレオチド長であり、この第1のプライマー領域の配列は、その大部分が、増幅対象の核酸鎖の3’末端セグメントに相補的である。詳細に述べると、第1のプライマー領域は、第2のプライマーの伸長産物の相補的な3’末端セグメントに特異的に結合できるものでなければならない。第1の領域は逆方向の合成で複製することができ、第2鎖の鋳型として機能する。各ヌクレオチド単位は、通常の5’-3’ホスホジエステル結合またはホスホチオエステル結合によって互いに連結されていることが好ましい。
第1のプライマー領域は、ポリメラーゼの機能に影響を及ぼさないか、またはわずかにしか影響を及ぼさないヌクレオチドモノマーを含んでいることが好ましい。このようなヌクレオチドモノマーとして、たとえば、
・天然のヌクレオチド(dA、dT、dC、dGなど)または塩基対が変化しないように修飾された天然のヌクレオチド、
・修飾ヌクレオチド(2-アミノ-dA、2-チオ-dTなど)または塩基対が異なるその他の修飾ヌクレオチド
が挙げられる。
好ましい一実施形態において、第1のプライマー領域の3’-OH末端は修飾されていないことが好ましく、ポリメラーゼによって認識することができる機能性の3’-OH基を有する。第1のプライマー領域は、増幅反応において、第1のプライマーの伸長産物の合成の開始剤として機能する。さらに好ましい一実施形態において、第1の領域は、ポリメラーゼの3’エキソヌクレアーゼ活性によって第1のプライマーの3’末端が分解されないように、少なくとも1つのホスホロチオエート化合物を含む。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域の配列とアクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域の配列は、互いに相補的であることが好ましい。
一実施形態において、第1のプライマー領域またはその3’末端セグメントは、標的配列の配列セグメントに結合することができる。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域は、少なくとも1つのポリヌクレオチドテールを含む核酸配列であることが好ましく、このポリヌクレオチドテールは、合成反応においてポリメラーゼによって複製されず、かつアクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域に結合することができることが好ましい。第2の領域において、主にアクチベーターオリゴヌクレオチドに結合するセグメントをポリヌクレオチドテールと呼ぶことができる。
さらに、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域は、反応条件下でアクチベーターオリゴヌクレオチドに特異的に結合することが必要とされるだけでなく、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換に関与することが必要とされる。したがって、第2の領域は、アクチベーターオリゴヌクレオチドを、これに対応する二本鎖末端(より詳しくは、第2のプライマーの伸長産物の3’末端)に空間的に近接させるのに適した構造を有していなければならない。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域の構造の構成を、実施形態のいくつかで詳細に説明する。これらの構造では、ポリメラーゼの触媒による合成を停止させるためのオリゴヌクレオチドセグメントの配置および修飾の使用を考慮に入れている。
第2の領域の全長は、3~60個のヌクレオチド、好ましくは5~40個のヌクレオチド、好ましくは6~15個のヌクレオチド、またはこのような長さの同等物で構成される。
第2の領域の配列は無作為に選択してもよい。第2の領域の配列は、増幅対象の核酸、第2のプライマーオリゴヌクレオチドおよび/または第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域に非相補的であることが好ましい。さらに、第2の領域の配列は、ヘアピン構造やステムループなどの自己相補的セグメントを含んでいないことが好ましい。
第2の領域の配列は、反応条件下でアクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域の配列に結合できるように、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域の配列に適合したものであることが好ましい。好ましい一実施形態において、第2の領域とアクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域の結合は、反応条件下で可逆的であることから、互いに結合している状態と結合していない状態の間で平衡が存在する。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域の配列は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域に結合することができる相補的塩基の数が1~40個、より好ましくは3~20個、好ましくは6~15個となるように選択することが好ましい。
第2の領域は、アクチベーターオリゴヌクレオチドに結合することを主な機能とする。一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域が特定のアクチベーターオリゴヌクレオチドに結合することができるように、第2の領域とアクチベーターオリゴヌクレオチドの結合は特異的であることが好ましい。別の一実施形態において、第2の領域は、反応条件下で1つを超えるアクチベーターオリゴヌクレオチドに結合することができる。
通常、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域の配列とアクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域の配列が完全にマッチしている必要はない。第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域とアクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域との間の相補性の程度は、20%~100%であってもよく、50%~100%であることがより好ましく、80%~100%であることが好ましい。それぞれの相補的な領域は互いに直接隣接していてもよく、相補的な領域と別の相補的な領域の間に非相補的な配列セグメントを含んでいてもよい。
一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域は、Tmを変化させる修飾を少なくとも1つ含んでいてもよい。このような修飾を組み込むことによって、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域とアクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域との間の結合の安定性を変化させることができる。たとえば、Tmを上昇させる修飾(ヌクレオチド修飾または非ヌクレオチド修飾)を使用してもよく、このような修飾として、LNAヌクレオチド、2-アミノアデノシン、MGB修飾などが挙げられる。一方、Tmを低下させる修飾を使用することもでき、このような修飾として、イノシンヌクレオチドなどが挙げられる。また、第2の領域の構造に、リンカー(たとえばC3リンカー、C6リンカー、HEGリンカーなど)を組み込むこともできる。
鎖置換を行うためには、アクチベーターオリゴヌクレオチドが増幅対象の核酸の二本鎖の末端に空間的に近接する必要がある。増幅対象の核酸の二本鎖の末端は、第1のプライマーの伸長産物の第1のプライマー領域のセグメントと、これに対応する、第2のプライマーの伸長産物の相補的な3’末端セグメントからなる。
反応条件下でポリヌクレオチドテールは、主として、アクチベーターオリゴヌクレオチドに相補的に結合し、これによって、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域と、伸長された第1のプライマー伸長産物の第1の領域とが一時的に接近し、その結果、鎖置換反応において、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域と第1のプライマー伸長産物の第1の領域の間で相補的結合の形成を開始することができる。
一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドのポリヌクレオチドテールにアクチベーターオリゴヌクレオチドが結合すると直ちに、両者が接触する。これは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドにおいてポリヌクレオチドテールと第1のプライマー領域とが互いに直接連結されていなければならないことを意味する。このような配置になっていることから、アクチベーターオリゴヌクレオチドが第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域に結合すると、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域の相補的塩基と、第1のプライマー領域の対応する塩基とが直接接触し、鎖置換を開始することができる。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドにおいて、ポリヌクレオチドテール構造と第1のプライマー領域構造との間に別の構造として第2の領域が存在する。したがって、アクチベーターオリゴヌクレオチドがポリヌクレオチドテールに結合した後、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、第1のプライマー領域に直接近接せず、第1のプライマー領域との間にある程度の距離が存在する。第1のプライマーオリゴヌクレオチドの複製不可能なポリヌクレオチドテールと複製可能な第1のプライマー領域との間の前記構造によってこのような距離が生じる。この距離は、0.1~20nmであり、0.1~5nmであることが好ましく、0.1~1nmであることがより好ましい。
このような構造として、たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドに相補的でない(たとえば、非相補的で複製不可能な修飾ヌクレオチドの形態の)リンカー(たとえばC3リンカー、C6リンカーまたはHEGリンカー)またはセグメントが挙げられる。このような構造の長さは、通常、鎖長としての原子数で測定することができる。この構造の長さは、鎖長として1~200原子であり、1~50原子であることが好ましく、1~10原子であることがより好ましい。
増幅条件下においてポリヌクレオチドテールがポリメラーゼによって複製されないように維持するため、通常、第1のプライマー領域を複製した後のポリメラーゼによる第2のプライマーの伸長産物の合成を停止させることができる配列配置または配列構造を、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域に含む。このような構造によって、第2の領域のポリヌクレオチドテールの複製を阻止することができる。したがって、ポリヌクレオチドテールはポリメラーゼによって複製されないことが好ましい。
一実施形態において、前記構造は、第1のプライマー領域とポリヌクレオチドテールの間に位置する。
さらなる一実施形態において、ポリヌクレオチドテールの配列は、ポリメラーゼを停止させるヌクレオチド修飾を含んでいてもよい。この場合、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域の配列セグメントは、ポリヌクレオチドテールとしての機能と、ポリメラーゼを停止させる修飾ヌクレオチド配列としての機能を有する。
本明細書において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域に含まれ、合成を停止させることによりポリヌクレオチドテールの複製を阻止する修飾を、「第1のブロッキングユニットまたは第1の停止領域」とまとめて呼ぶ。
以下、第2鎖の合成を停止することができる構造のさらなる実施形態を示す。
オリゴヌクレオチドの合成において、ポリメラーゼによる鋳型の読み取りを阻害し、ポリメラーゼによる合成を停止させることができる構成単位がいくつか知られている。たとえば、複製不可能なヌクレオチド修飾または非ヌクレオチド修飾が知られている。また、オリゴヌクレオチドにおいて、ポリメラーゼを停止させる合成ヌクレオチドモノマーや、そのような機能を発揮する配置も知られている(たとえば、5’末端同士を連結する配置または3’末端同士を連結する配置)。さらに、複製不可能なポリヌクレオチドテールを有するプライマーオリゴヌクレオチドも先行技術において知られている(たとえば、Scorpionプライマー構造または固相に結合させるためのプライマー)。第1のプライマーおよび第2のプライマーのバリアントは、プライマー伸長反応を起こして鎖合成を開始させることができるプライマーオリゴヌクレオチド構造として機能する。伸長反応によって、テールを有するプライマー構造がプライマー伸長産物に組み込まれた第1鎖が得られる。第1のプライマーの伸長産物に相補的な鎖の合成(たとえばPCR反応)では、第1のプライマー構造の「ブロッキングユニット/停止構造」まで第2鎖が伸長される。第1のプライマー構造および第2のプライマー構造は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの5’末端部分が一本鎖のまま、ポリメラーゼによって複製されないように設計される。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域はポリヌクレオチドテールを含み、このポリヌクレオチドテールは、その全長にわたって通常の5’末端から3’末端の方向の配置を有し、複製不可能なヌクレオチド修飾を含む。このような複製不可能なヌクレオチド修飾としては、たとえば、2’-O-アルキルRNA修飾、PNA、モルホリノが挙げられる。このような修飾は、第2のプライマー領域において様々に分配される。
ポリヌクレオチドテールに含まれる複製不可能な修飾ヌクレオチドは、ヌクレオチド単位の20%~100%を占め、50%を超える割合を占めることが好ましい。このような修飾ヌクレオチドは、第2の領域の3’末端セグメントに位置することが好ましく、したがって、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域との境界に位置することが好ましい。
一実施形態において、複製不可能な修飾ヌクレオチドの配列は、鋳型鎖の配列に少なくとも部分的に相補的であり、この修飾ヌクレオチドの少なくとも一部を介して第1のプライマーが鋳型に結合する。さらなる一実施形態において、複製不可能な修飾ヌクレオチドの配列は、鋳型鎖の配列に非相補的である。
複製不可能な修飾ヌクレオチドは、互いに共有結合で連結されていることが好ましく、したがって、第2の領域において配列セグメントを形成する。この修飾ヌクレオチドからなるセグメントの長さは、1~40ヌクレオチド長の範囲を含み、1~20ヌクレオチド長であることが好ましく、3~10ヌクレオチド長であることがより好ましい。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域はポリヌクレオチドテールを含み、このポリヌクレオチドテールは、その全長にわたって通常の5’末端から3’末端の方向の配置を有し、複製不可能なヌクレオチド修飾(たとえば2’-O-アルキル修飾)と少なくとも1つの非ヌクレオチドリンカー(たとえばC3リンカー、C6リンカー、HEGリンカー)を含む。非ヌクレオチドリンカーは、隣接するヌクレオチド同士または修飾ヌクレオチド同士を共有結合により連結させ、これと同時にポリメラーゼの合成能を部位特異的に阻害する機能を有する。
このような非ヌクレオチドリンカーは、ポリヌクレオチドテール構造と第1のプライマー領域構造とを互いに遠ざけすぎないものである。むしろ、ポリヌクレオチドテールは、第1のプライマー領域と空間的に近接して位置する。非ヌクレオチドリンカーは、200原子以下の鎖長の修飾であり、その鎖長は50原子以下であることがより有利であり、10原子以下の鎖長が特に好ましい。このリンカーの長さは最短で1原子であってもよい。このような非ヌクレオチドリンカーの一例として、少なくとも1個、有利には少なくとも2~30個、より好ましくは4~18個の炭素原子を含むアルキル鎖を有する直鎖または分枝鎖のアルキルリンカーが挙げられる。このようなリンカーは、オリゴヌクレオチド化学においてよく知られており(たとえば、C3リンカー、C6リンカー、C12リンカーなど)、オリゴヌクレオチドの固相合成工程において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドのポリヌクレオチドテールの配列と第1の領域の配列との間に組み込むことができる。このような非ヌクレオチドリンカーの別の例として、直鎖状または分枝鎖状のポリエチレングリコール誘導体が挙げられる。オリゴヌクレオチド化学において知られているものとしては、ヘキサエチレングリコール(HEG)が挙げられる。このような非ヌクレオチドリンカーとしては、さらに、塩基を含まない修飾(たとえば、D-リボースの類似体であるTHF修飾)が挙げられる。
1つ以上の前記修飾が第2の領域に組み込まれている場合、ポリメラーゼによる第2のプライマーの伸長産物の合成の際に、この修飾によってポリメラーゼの複製能を効果的に阻害することができ、この修飾以降の下流のセグメントは複製されなくなる。第2の領域に含まれるこのような修飾の数は、1~100個であってもよく、1~10個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましい。
このような非ヌクレオチドリンカーは、第2の領域の3’末端に位置していてもよく、したがって、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域と第2の領域の間の移行部を形成してもよい。
また、第2の領域の中央のセグメントに非ヌクレオチドリンカーを配置することもできる。これによって、ポリヌクレオチドテールが少なくとも2つのセグメントに分割される。この実施形態において、ポリヌクレオチドテールの3’末端セグメントは、少なくとも1個の複製不可能なヌクレオチド修飾を含み、複製不可能なヌクレオチド修飾の数は多いほど好ましく、たとえば2~20個、好ましくは2~10個である。このような複製不可能なヌクレオチド修飾は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域と第2の領域の間の移行部に位置することが好ましい。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域は、ポリヌクレオチドテールを含み、このポリヌクレオチドテールは、その全長にわたって5’末端から3’末端の方向の配置を有し、3’末端から5’末端の「逆」方向の配置の少なくとも1つのヌクレオチドモノマーを含み、この逆方向の配置のヌクレオチドモノマーは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域と第2の領域の間の移行部に位置している。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域は、ポリヌクレオチドテールを含み、このポリヌクレオチドテールは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域の境界に隣接して逆方向の配置で位置するヌクレオチドのみからなり、そのため、第1の領域と第2の領域が5’末端同士で連結されている。このような配置の利点としては、第1の領域を複製した後のポリメラーゼが「逆」方向の配置のヌクレオチドに遭遇し、これによって、通常、この部位で合成が停止することが挙げられる。
ポリヌクレオチドテールの全長が「逆」方向の配置のヌクレオチドで構成されている場合、副反応を阻止するためには、ポリヌクレオチドテールの3’末端ヌクレオチドにおいて3’-OH末端をブロックすることが好ましい。別の方法では、3’-OH基を有していない末端ヌクレオチド(たとえばジデオキシヌクレオチド)を使用することもできる。
このような実施形態でも、このようなヌクレオチドの配置に対応するようにアクチベーターオリゴヌクレオチドを適合させることができることは言うまでもない。この場合、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域と第2の領域は、3’末端同士で連結する必要がある。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域は、ポリヌクレオチドテールを含み、このポリヌクレオチドテールは、その全長にわたって通常の5’末端から3’末端の方向の配置を有し、天然のdNTP(dATP、dCTP、dGTP、dTTPまたはdUTP)のみを用いて合成を行う場合、ポリメラーゼに相補的な核酸塩基ではない少なくとも1つのヌクレオチド修飾を含む。
たとえば、Iso-dGヌクレオチド修飾またはIso-dCヌクレオチド修飾を第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域に単独で組み込むことができるが、数個(少なくとも2~20個)のIso-dGまたはIso-dCヌクレオチド修飾を組み込むことが好ましい。核酸塩基修飾の別の例として、拡張された遺伝子アルファベットを使用した様々な修飾が挙げられる。このようなヌクレオチド修飾は、天然のヌクレオチドとの相補的な塩基対合を形成しないものであることが好ましく、これによって、ポリメラーゼは(少なくとも理論的には)天然の一連のヌクレオチド(dATP、dCTP、dGTP、dTTPまたはdUTP)を挿入することがない。しかし、実際には、特に、dNTP基質濃度を高くし、かつインキュベーション時間を長くした場合(たとえば60分以上)では、痕跡的な挿入が起こりうる。したがって、このような数個のヌクレオチド修飾を隣接する部位で使用することが好ましい。このような修飾を付加することによって、適切な相補的基質を欠失させることにより、ポリメラーゼによる合成を停止することができる。Iso-dCまたはIso-dGを有するオリゴヌクレオチドは、標準的な方法を用いて合成することができ、いくつかの製造会社(たとえば、Trilink-Technologies、Eurogentec、Biomers GmbH)からも入手可能である。別の方法では、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域の配列を、このような第2のプライマー領域の配列に適合させることもできる。したがって、この場合、アクチベーターオリゴヌクレオチドの化学合成中に、拡張された遺伝子アルファベットからなる相補的な核酸塩基をアクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域に組み込むことができる。たとえば、Iso-dGを第1のプライマーヌクレオチドの第2の領域に組み込むことができ、その相補的ヌクレオチド(Iso-dC-5-Me)を、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域内の適切な部位に配置することができる。
要約すれば、様々な方法を使用して、第2の領域でのポリメラーゼによる合成を停止させることができる。しかし、ポリメラーゼが第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域を複製した後においてのみ、ポリメラーゼによる合成を停止させることが好ましい。このようにすれば、第2のプライマーの伸長産物がその3’末端セグメントにおいて適切なプライマー結合部位を持つことができる。このプライマー結合部位は、鎖置換中に露出され、さらなる第1のプライマーオリゴヌクレオチドを新たに結合することができる。
第1のプライマーの伸長産物に相補的な鎖の合成では、プライマーの伸長反応はポリヌクレオチドテールの手前で停止する。このようにすれば、ポリヌクレオチドテールの一本鎖の形態が維持され、アクチベーターオリゴヌクレオチドと相互作用して結合することができるため、ポリヌクレオチドテールは、アクチベーターオリゴヌクレオチドの対応する相補的セグメントを適切な二本鎖の末端と近接させて、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換反応の開始を補助することができる。このような方法では、アクチベーターオリゴヌクレオチドの相補的部分(第2の領域)と、伸長されたプライマーオリゴヌクレオチドの相補的部分(第1の領域)との距離が最短になる。このように空間的に近接させることによって、鎖置換の開始が容易となる。
核酸を介した鎖置換反応の概略図では、このとき、アクチベーターオリゴヌクレオチドの相補的配列は、適切な二本鎖の末端に近接した状態である。これによって、アクチベーターオリゴヌクレオチド鎖と第1のプライマーに相補的な鋳型鎖との間において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域との結合に対する競合が起こる。第1のプライマーの第1の領域とアクチベーターオリゴヌクレオチドの相補的セグメント(アクチベーターヌクレオチドの第2の領域)とが繰り返し近接して塩基対合が形成され、または第1のプライマーの第1の領域と鋳型鎖の相補的セグメントとが繰り返し近接して塩基対合が形成されることによって、核酸を介した鎖置換が開始される。
一般に、第1のプライマーの第1の領域の相補的セグメントと、アクチベーターオリゴヌクレオチドの対応する相補的な配列部分とが近接すればするほど、鎖置換の開始の収率は高くなる。一方、両者の間隔が大きくなればなるほど、鎖置換の開始の収率は低下する。
本発明において、鎖置換の開始を最大収率で実施することは必須ではない。したがって、アクチベーターオリゴヌクレオチドが、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域のポリヌクレオチドテールに結合した場合、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域の5’末端セグメント(鋳型の相補鎖に結合して相補的二本鎖を形成するセグメント)と、アクチベーターオリゴヌクレオチドの対応する相補的な配列部分との間の距離は、0.1~20nmであってもよく、0.1~5nmであることがより好ましく、0.1~1nmであることがさらに好ましい。好ましい実施形態において、この距離は1nm未満である。別の単位で表した場合、前記距離は、200原子未満に相当し、50原子未満であることがより好ましく、10原子未満であることがさらに好ましい。好ましい実施形態では、前記距離は1原子である。これらの距離に関する情報は、これらの構造間の距離が短いほどより好ましいことを示すことのみを目的としたものである。前記距離は、オリゴヌクレオチドの構造を厳密に解析して、配列同士の距離またはリンカーの長さの測定値を評価することによって決定されることが多い。
第1のプライマーは、アクチベーターオリゴヌクレオチドや鋳型鎖との相互作用に必要とされないさらなる配列部分を含んでいてもよい。このような配列部分は、たとえば、検出プローブまたは固相との結合における固相化パートナーとして使用される別のオリゴヌクレオチドに結合することができる。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドのプライマーとしての機能
第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、いくつかの工程で使用してもよい。まず、第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、増幅においてプライマーとしての機能を発揮する。これによって、第2のプライマーの伸長産物を鋳型として使用して、プライマーの伸長反応が行われる。さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、増幅反応の開始時に出発核酸鎖を鋳型として使用することができる。さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、出発核酸鎖の設計/提供に使用することができる。
増幅反応において、第1のプライマーは、第2のプライマーの伸長産物を鋳型として使用することにより、第1のプライマーの伸長産物の合成の開始剤として機能する。第1のプライマーの3’末端セグメントは、第2のプライマーの伸長産物に大部分が相補的に結合することができる配列を含む。第2のプライマーの伸長産物を鋳型として使用して第1のプライマーオリゴヌクレオチドが酵素的に伸長されることによって、第1のプライマーの伸長産物が形成される。このような第1のプライマーの伸長産物は、標的配列またはその配列部分を含む。第2のプライマーの伸長産物の合成において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの複製可能な部分の配列がポリメラーゼによって鋳型として認識され、対応する相補的配列が合成されて、第1のプライマーオリゴヌクレオチドに対応するプライマー結合部位が生じる。第1のプライマーの伸長産物の合成は、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントを含むように該5’末端セグメントまで行われる。第1のプライマーの伸長産物が合成された直後、該第1のプライマーの伸長産物は第2のプライマーの伸長産物に結合し、二本鎖複合体を形成する。第2のプライマーの伸長産物は、アクチベーターオリゴヌクレオチドによって前記複合体から配列特異的に引き剥がされる。これによって、アクチベーターオリゴヌクレオチドが第1のプライマーの伸長産物に結合する。アクチベーターオリゴヌクレオチドによって鎖置換が成功裏に行われた後、第2のプライマーの伸長産物自体が、第1のプライマーの伸長産物を合成するための鋳型として機能することができる。次いで、第1のプライマーの伸長産物の遊離状態の3’末端セグメントは、別の第2のプライマーオリゴヌクレオチドに結合することができ、これによって、第2のプライマーの伸長産物の新たな合成を開始することができる。
さらに、第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、増幅の開始時において、出発核酸鎖から開始される第1のプライマーの伸長産物の合成の開始剤として機能することができる。一実施形態において、第1のプライマーの配列は、出発核酸鎖の対応する配列セグメントに完全に相補的である。さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列は、出発核酸鎖の対応する配列セグメントに部分的にのみ相補的である。このように一部が相補的でなくても、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの主として配列特異的なプライマー伸長反応の開始は妨げられない。第1のプライマーオリゴヌクレオチドと、出発核酸鎖の対応する位置の間の相補性の差異は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域の5’末端セグメントに存在することが好ましく、これによって、3’末端セグメントでは、相補的な塩基対合が大部分を占めることになり、合成の開始が可能となる。合成を開始させるためには、たとえば、特に3’末端セグメントの最初の4~10番目の位置が鋳型(出発核酸鎖)と完全に相補的でなければならない。他の位置のヌクレオチドは、完全な相補性を有していなくてもよい。したがって、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域の5’末端セグメントにおいて、塩基組成の50%~100%が完全な相補性を有していてもよく、塩基組成の80%~100%が完全な相補性を有していることがより好ましい。第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域の長さに応じて、1箇所から最大で15箇所の位置に配列の差異が見られてもよく、配列の差異は、1箇所から最大で5箇所の位置に留まることがより好ましい。したがって、第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、出発核酸鎖の合成を開始することができる。これに続く第2のプライマーの伸長産物の合成では、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの複製可能な配列部分がポリメラーゼによって複製され、次の合成サイクルにおいて、第1のプライマーオリゴヌクレオチドに結合する完全に相補的なプライマー結合部位が第2のプライマーの伸長産物に形成され、さらなる合成サイクルにおいて使用される。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドを、出発核酸鎖の調製において使用することができる。この場合、この第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、核酸(たとえば、標的配列を含む一本鎖のゲノムDNAもしくはRNAまたはその同等物)にその大部分が/好ましくは配列特異的に結合し、ポリメラーゼの存在下で鋳型依存的なプライマー伸長反応を開始することができる。結合する位置は、プライマー伸長産物が所望の標的配列を含むように選択される。第1のプライマーオリゴヌクレオチドが伸長されると、鋳型に相補的な配列を有する核酸鎖が得られる。この核酸鎖は、(たとえば熱またはアルカリによって)鋳型から解離させ、一本鎖の形態に変換することができる。このようにして得られた一本鎖核酸は、増幅の開始時に出発核酸鎖として機能することができる。この出発核酸鎖は、その5’末端セグメントに、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列部分を含み、標的配列またはその同等物と第2のプライマーオリゴヌクレオチドの結合部位をさらに含む。さらなる工程は「出発核酸鎖」の節で説明している。
第1のプライマーの伸長産物の合成はプライマーの伸長反応であり、増幅反応の一工程である。この工程の反応条件は、状況に応じて適宜調整される。反応温度および反応時間は、反応が連続的に進むことができるように選択する。この工程での好ましい反応温度は、使用するポリメラーゼと、第1のプライマーオリゴヌクレオチドのプライマー結合部位に対する結合強度に依存し、たとえば15℃~75℃の範囲を含み、20~65℃であることがより好ましく、25℃~65℃であることが好ましい。第1のプライマーオリゴヌクレオチドの濃度は、0.01μmol/l~50μmol/lの範囲を含み、0.1μmol/l~20μmol/lであることがより好ましく、0.1μmol/l~10μmol/lであることが好ましい。
一実施形態において、非特異的産物/副産物の形成を阻止するか、またはこれらの形成を遅延させるストリンジェントな条件下において増幅反応のすべての工程を実施する。このような条件としては、たとえば高温条件、たとえば50℃よりも高い温度が挙げられる。
一実施形態において、1つのバッチで2種以上の特定の核酸鎖を増幅対象として使用する場合、配列特異的プライマーオリゴヌクレオチドを使用して、各標的配列を増幅することが好ましい。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列およびアクチベーターオリゴヌクレオチドの配列は、副反応(たとえばプライマーダイマーの形成)が最小限となるように互いに適合させることが好ましい。これを達成するため、たとえば、適切な鋳型および/または標的配列および/または出発核酸鎖の非存在下において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドおよび第2のプライマーオリゴヌクレオチドが増幅反応を開始したり補助したりすることがないように、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列と第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列を互いに適合させる。これは、たとえば、第2のプライマーオリゴヌクレオチドが第1のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含まず、かつ第1のプライマーオリゴヌクレオチドが第2のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含まないことによって達成することができる。さらに、各プライマー配列が、伸長された自己相補的構造(自己相補鎖)を含まないようにする必要がある。
一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物の合成および第2のプライマーの伸長産物の合成は同じ温度で進行する。さらなる一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物の合成および第2のプライマーの伸長産物の合成は異なる温度で進行する。さらなる一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物の合成およびアクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換は同じ温度で進行する。さらなる一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物の合成およびアクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換は異なる温度で進行する。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの好ましい実施形態
アクチベーターオリゴヌクレオチド(図10)は、
・第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域のポリヌクレオチドテールに結合することができる第1の一本鎖領域、
・第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域に実質的に相補的に結合することができる第2の一本鎖領域、および
・第1のプライマーの伸長産物の伸長された部分の少なくとも1つのセグメントに実質的に相補的な第3の一本鎖領域
を含む。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドまたは第2のプライマーオリゴヌクレオチドを伸長するための鋳型として機能しない。
通常、増幅対象の核酸は、第1のプライマーの伸長産物においてヌクレオチドの順序を決める鋳型となることから、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域の配列を、増幅対象の核酸の配列に適合させる。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域の配列は、第1のプライマー領域の配列に適合させる。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域の構造は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域の配列、特に、ポリヌクレオチドテールの特性に適合させる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、第1の領域、第2の領域、第3の領域のいずれにも属さないさらなる配列セグメントを含むこともできる。このような配列は、たとえばフランキング配列として3’末端および5’末端に付加することができる。このような配列セグメントは、アクチベーターオリゴヌクレオチドの機能を阻害しないことが好ましい。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの構造は、以下の特性を有することが好ましい。
各領域は互いに共有結合されている。この結合は、たとえば、通常の5’-3’結合でであってもよい。たとえば、ホスホジエステル結合またはヌクレアーゼ耐性ホスホチオエステル結合を使用してもよい。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、その第1の領域を介して、第1のプライマーオリゴヌクレオチドのポリヌクレオチドテールに結合することができ、この結合は、主に、相補的塩基をハイブリダイズすることによって行われる。前記第1の領域の長さは、3~80ヌクレオチド長であり、4~40ヌクレオチド長であることが好ましく、6~20ヌクレオチド長であることが特に好ましい。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域の配列と第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域の配列との間のマッチングの程度は、20%~100%であってもよく、50%~100%であることが好ましく、80%~100%であることが特に好ましい。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域の結合は、反応条件下において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域に特異的であることが好ましい。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域の配列は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域に相補的に結合することができる相補的塩基の数が1~40個、より好ましくは3~20個、好ましくは6~15個となるように選択することが好ましい。
アクチベーターオリゴヌクレオチドはポリメラーゼの鋳型としては機能しないため、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、ポリメラーゼの機能を補助しないヌクレオチド修飾を含んでいてもよく、このようなヌクレオチド修飾は、塩基修飾および/または糖リン酸主鎖修飾であってもよい。アクチベーターオリゴヌクレオチドは、その第1の領域に、たとえば、DNA、RNA、LNA(「ロックド核酸」;糖残基に2’-4’架橋型結合を有する類似体)、UNA(「アンロックド核酸」;糖残基の2’-3’原子間に結合を有していない類似体)、PNA(「ペプチド核酸」類似体)、PTO(ホスホロチオエート)、モルホリノ類似体、2’-O-アルキルRNA修飾(たとえば2’-O-Me、2’-O-プロパルギル、2’-O-(2-メトキシエチル)、2’-O-プロピルアミン)、2’-ハロRNA、2’-アミノRNAなどから選択されるヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド修飾を含んでいてもよい。このようなヌクレオチドまたはヌクレオチド修飾は、たとえば、通常の5’-3’結合または5’-2’結合によって互いに連結されている。たとえば、ホスホジエステル結合またはヌクレアーゼ耐性ホスホチオエステル結合を使用することができる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、その第1の領域に、ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド修飾を含んでいてもよく、この場合、核酸塩基は、アデニンおよびその類似体、グアニンおよびその類似体、シトシンおよびその類似体、ウラシルおよびその類似体、チミンおよびその類似体、イノシンまたはその他のユニバーサル塩基(たとえば、ニトロインドール)、2-アミノアデニンおよびその類似体、イソシトシンおよびその類似体、イソグアニンおよびその類似体から選択される。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、その第1の領域に、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドの間の結合強度に影響を及ぼしうるインターカレート物質(たとえばMGB、ナフタレンなど)から選択される非ヌクレオチド化合物を含んでいてもよい。また、同じ成分を第1のプライマーの第2の領域において使用することもできる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、その第1の領域に、第1の領域の各セグメントを互いに連結することができる非ヌクレオチド化合物、たとえば、C3リンカー、C6リンカー、HEGリンカーなどのリンカーを含んでいてもよい。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、その第2の領域を介して、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域に結合することができ、この結合は、相補的塩基のハイブリダイゼーションを実質的に介して行われる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域の長さは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域の長さに適合されており、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域に一致することが好ましい。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域の長さは、約3~30ヌクレオチド長であり、5~20ヌクレオチド長であることが好ましい。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域の配列は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域に相補的であることが好ましい。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域と第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域との間の相補性のマッチングの程度は、80%~100%であり、95%~100%であることが好ましく、100%であることが好ましい。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域は、ポリメラーゼによる第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長を阻止するが相補的二本鎖の形成を阻害したり実質的に妨害したりしないヌクレオチド修飾を含んでいることが好ましく、このようなヌクレオチド修飾として、たとえば、2’-O-アルキルRNA類似体(たとえば、2’-O-Meヌクレオチド修飾、2’-O-(2-メトキシエチル)ヌクレオチド修飾、2’-O-プロピルヌクレオチド修飾、2’-O-プロパルギルヌクレオチド修飾)、LNAヌクレオチド修飾、PNAヌクレオチド修飾またはモルホリノヌクレオチド修飾が挙げられる。各ヌクレオチドモノマーは、5’-3’結合で連結されていることが好ましいが、各ヌクレオチドモノマー間の結合に5’-2’結合を使用することもできる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域と第2の領域の配列長およびその特性は、反応条件下でのこれらの領域の第1のプライマーオリゴヌクレオチドへの結合が、本発明の方法の少なくとも1つの反応工程において可逆的となるように選択することが好ましい。これによって、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、確実に特異的に結合することができるが、この結合は、反応条件下で永続的に安定な、アクチベーターと第1のプライマーからなる複合体を形成するものではない。むしろ、反応条件下での少なくとも1つの反応工程において、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドが結合した複合体の形態と、これらの成分が遊離した形態との間で平衡が存在するか、またはこのような平衡状態をとることが可能である。このようにすることによって、反応条件下において第1のプライマーオリゴヌクレオチドの少なくとも一部が遊離形態で存在し、鋳型と相互作用してプライマー伸長反応を確実に開始することができる。また、このような方法では、アクチベーターオリゴヌクレオチドの各配列領域を、伸長されたプライマーオリゴヌクレオチドと確実に結合させることができる。
反応温度を選択することによって、一本鎖の遊離成分、すなわち反応性成分に影響を与えることができる。すなわち、温度を低下させることによって、第1のプライマーオリゴヌクレオチドをアクチベーターオリゴヌクレオチドに結合させて、両者を相補的二本鎖複合体の形態にすることができる。このような方法では、一本鎖形態の各成分の濃度を低下させることができる。また、温度を上昇させることによって、両成分を解離して一本鎖の形態とすることができる。前記複合体(アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドからなる複合体)の融解温度の範囲では、約50%が一本鎖の形態で存在し、残りの約50%が二本鎖複合体として存在する。したがって、適切な温度を使用することによって、反応混合物中の一本鎖形態の濃度を変化させることができる。
各反応工程間で温度を変化させることを含む本発明の増幅方法の実施形態において、反応工程ごとに所望の反応条件を構築することができる。たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドを含む複合体の融解温度付近の温度範囲を使用することによって、これらの成分を遊離形態とすることができる。このとき、使用した前記温度によって、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドを含む複合体が不安定になり、その結果、この反応工程において、複合体の各成分が少なくとも一時的に一本鎖の形態となり、他の反応パートナーと相互作用することが可能となる。たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の配列領域は、伸長されていない第1のプライマーと形成された二本鎖複合体から解離することができ、これにより、伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の配列領域と相互作用することが可能となり、この結果、鎖置換を開始することができる。一方、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドを含む複合体から伸長されていない第1のプライマーオリゴヌクレオチドが解離することによって、この第1のプライマー領域が一本鎖となり、鋳型と相互作用することが可能となり、その結果、ポリメラーゼによるプライマーの伸長を開始することができる。このとき、使用する反応温度は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドを含む複合体の融解温度に厳密に一致していなければならない。1つの反応工程で使用される温度が融解温度付近の範囲にあれば十分である。たとえば、1つの反応工程の温度は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドを含む複合体のTm±10℃の範囲を含み、Tm±5℃であることがより好ましく、Tm±3℃であることが好ましい。
このような温度は、たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる配列特異的な鎖置換を含む反応工程において調整することができる。
各反応工程間で温度を変化させず、増幅反応の持続時間全体にわたって等温条件を維持しながら増幅を進行させる実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドからなる複合体の形態と、これらの各成分の遊離形態との間で平衡状態をとることが可能である。
アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドからなる複合体の形態と、これらの各成分の遊離の形態との比率は、反応条件(たとえば、温度およびMg2+濃度)ならびに各成分の構造と濃度によって影響を受けることがある。
一実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域および第2の領域の配列長およびその特性は、所定の反応条件下(たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換反応工程)において、遊離状態のアクチベーターオリゴヌクレオチドと、第1のプライマーオリゴヌクレオチドと複合体を形成している状態のアクチベーターオリゴヌクレオチドとの比率が1:100~100:1、好ましくは1:30~30:1、特に好ましくは1:10~10:1となるように選択する。遊離状態の第1のプライマーオリゴヌクレオチドと、アクチベーターオリゴヌクレオチドと複合体を形成している状態の第1のプライマーオリゴヌクレオチドとの比率は、1:100~100:1であってもよく、1:30~30:1であることが好ましく、1:10~10:1であることが特に好ましい。
一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの濃度は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの濃度よりも高い。この場合、反応において第1のプライマーが過剰に存在することから、適切な反応温度を選択することによって、第1のプライマーと結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドを解離させる必要がある。これは、通常、遊離形態のアクチベーターオリゴヌクレオチドが十分な濃度に達するまで温度を上昇させることによって行われる。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの濃度は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの濃度よりも低い。この場合、アクチベーターオリゴヌクレオチドが過剰に存在することから、適切な反応温度を選択することによって、アクチベーターオリゴヌクレオチドと結合している第1のプライマーオリゴヌクレオチドを解離させる必要がある。これは、通常、遊離形態の第1のプライマーオリゴヌクレオチドが十分な濃度に達するまで温度を上昇させることによって行われる。
等温条件では平衡が存在し、反応において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの一部とアクチベーターオリゴヌクレオチドの一部は互いに結合しており、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの残りの一部とアクチベーターオリゴヌクレオチドの残りの一部は一本鎖の形態で存在する。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、その第3の領域を介して、第1のプライマーオリゴヌクレオチドから特異的に合成された伸長産物の少なくとも1つのセグメントに結合することができる(図11~21)。この結合は、ポリメラーゼによって合成された伸長産物とアクチベーターオリゴヌクレオチドとの間の相補的塩基のハイブリダイゼーションによって行われることが好ましい。
鎖置換反応を補助するため、第3の領域の配列は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物と高い相補性を有することが好ましい。一実施形態において、第3の領域の配列は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物に対して100%の相補性を有する。
第3の領域は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域の直後に続く伸長産物セグメントに結合することが好ましい。したがって、この伸長産物セグメントは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の全長の5’末端セグメントに位置することが好ましい。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の全長にわたって結合しないことが好ましい。第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の3’末端セグメントは未結合のまま残ることが好ましい。この3’末端セグメントは、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの結合に必要とされる。
したがって、第3の領域の長さは、第3の領域が第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の5’末端側のセグメントに結合するが、該伸長産物の3’末端側のセグメントには結合しないような長さとする。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域の全長は、2~100個のヌクレオチド、好ましくは6~60個のヌクレオチド、特に好ましくは10~40個のヌクレオチド、またはこのような長さの同等物で構成される。アクチベーターオリゴヌクレオチドは、この長さにわたって、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の前記セグメントに相補的に結合し、これによって、相補的鋳型鎖に結合している該伸長産物の5’末端側セグメントを引き剥がすことができる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合しない前記伸長産物の3’末端側のセグメントの長さは、たとえば、5~60ヌクレオチド長の範囲を含み、10~40ヌクレオチド長であることが好ましく、15~30ヌクレオチド長であることが好ましい。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の3’末端側のセグメントは、鋳型鎖と結合したままの状態を保ち、アクチベーターオリゴヌクレオチドによって引き剥がされることはない。また、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域が前記伸長産物の相補的セグメントに完全に結合している場合、第1のプライマーの伸長産物の3’末端側のセグメントは、鋳型鎖と結合したままの状態を保つことができる。この複合体の結合強度は、たとえば、反応条件下においてこの複合体が自然に解離することができるように(工程e))選択することが好ましい。これは、たとえば、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の3’末端側のセグメントと鋳型鎖からなる複合体の融解温度が、反応工程(反応工程e)の反応温度範囲とほぼ同じであるか、あるいはこの反応温度よりも低いことによって達成することができる。前記伸長産物の3’末端セグメントと鋳型鎖の複合体の安定性が低い場合、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域は、前記伸長産物の5’末端側のセグメントと完全に結合することができ、これによって、第1のプライマーの伸長産物が、鋳型鎖から急速に解離する。
したがって、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、その機能の発揮に適した構造を有している。すなわち、各反応条件下で、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドを鋳型鎖との結合から配列特異的に引き剥がすことができ、この結果、鋳型鎖が一本鎖の形態に変換される。したがって、一本鎖の形態になった鋳型鎖は、新たな第1のプライマーオリゴヌクレオチドとさらに結合し、ポリメラーゼによって標的配列に特異的な伸長が可能となる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドが鎖置換の機能を発揮するためには、反応条件下においてアクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域、第2の領域および第3の領域が主として一本鎖の形態である必要がある。したがって、自己相補的な二本鎖構造(たとえばヘアピン構造)がこれらの領域に存在すると、アクチベーターオリゴヌクレオチドの機能性が低下する場合があるため、可能であれば、このような自己相補的な二本鎖構造を回避すべきである。
本発明の方法では、反応条件下において第1のプライマーオリゴヌクレオチドがアクチベーターオリゴヌクレオチドに結合している場合、アクチベーターオリゴヌクレオチドはポリメラーゼによって伸長されるべきではないため、アクチベーターオリゴヌクレオチドは鋳型として機能してはならない。
これは、ポリメラーゼによるアクチベーターオリゴヌクレオチドの複製を阻止するヌクレオチド修飾を使用することによって達成することが好ましい。反応条件下において第1のプライマーオリゴヌクレオチドがアクチベーターオリゴヌクレオチドに結合している場合、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端は伸長されないことが好ましい。
反応のブロッキング/阻害/減速/妨害の程度は、これらのブロック/阻害/減速/妨害が十分に達成されてもよく(たとえば、所定の反応条件下で100%のブロッキングが達成されてもよく)、これらのブロック/阻害/減速/妨害が一部達成されてもよい(たとえば、所定の反応条件下で30~90%のブロッキングが達成されてもよい)。修飾ヌクレオチドを単独で、または複数個を連結させて(たとえば修飾ヌクレオチドからなる配列断片として)使用することによって、第1のプライマーの伸長が70%を超えないように、好ましくは90%を超えないように、より好ましくは95%を超えないように、特に好ましくは100%を超えないようにすることが好ましい。
前記修飾ヌクレオチドは、塩基修飾および/または糖リン酸残基修飾を含んでいてもよい。修飾された糖リン酸残基と通常の核酸塩基を組み合わせることによって、アクチベーターオリゴヌクレオチドの相補的配列を自由に構成することができるため、修飾された糖リン酸残基が好ましい。ポリメラーゼによる合成を阻害またはブロッキングすることができる糖リン酸残基修飾を有するヌクレオチドとしては、たとえば、2’-O-アルキル修飾ヌクレオチド(たとえば、2’-O-メチル修飾ヌクレオチド、2’-O-(2-メトキシエチル)修飾ヌクレオチド、2’-O-プロピル修飾ヌクレオチド、2’-O-プロパルギル修飾ヌクレオチド)、2’-アミノ-2’-デオキシ修飾ヌクレオチド、2’-アミノ-アルキル-2’-デオキシ修飾ヌクレオチド、PNA、モルホリノ修飾ヌクレオチドなどが挙げられる。
ブロッキングは、1個の修飾ヌクレオチドを使用することによって行うことができ、またはいくつかの修飾ヌクレオチドを連結させて(たとえば修飾ヌクレオチドからなる配列断片として)使用することによっても行うことができる。たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドにおいて、少なくとも2個、好ましくは少なくとも5個、特に好ましい少なくとも10個の修飾ヌクレオチドを隣接するもの同士で互いに連結させることができる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、同じ種類のヌクレオチド修飾を有していてもよく、少なくとも2種の異なるヌクレオチド修飾を含んでいてもよい。
アクチベーターオリゴヌクレオチドにおけるこのようなヌクレオチド修飾の位置は、アクチベーターオリゴヌクレオチドに結合した第1のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端がポリメラーゼによって伸長されることを阻止することができる位置であることが好ましい。
一実施形態において、このようなヌクレオチド修飾は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域に位置する。さらなる一実施形態において、このようなヌクレオチド修飾は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域に位置する。さらなる一実施形態において、このようなヌクレオチド修飾は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域および第3の領域に位置する。
たとえば、このような修飾ヌクレオチドは、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域の配列内の位置の少なくとも20%を占め、少なくとも50%を占めることが好ましい。
たとえば、このような修飾ヌクレオチドは、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域の配列内の位置の少なくとも20%を占め、少なくとも50%を占めることが好ましい。
このような修飾ヌクレオチドの核酸塩基の配列は、各領域の配列に必要とされる要件に適合させる。
前記修飾ヌクレオチド以外の残基は、たとえば、ポリメラーゼの機能を全く阻害しないか、またはわずかにしか阻害しない天然のヌクレオチドまたは修飾ヌクレオチドであり、このようなヌクレオチドとして、たとえば、DNAヌクレオチド、PTOヌクレオチド、LNAヌクレオチドおよびRNAヌクレオチドが挙げられる。このようなヌクレオチドにさらに修飾を付加することによって、アクチベーターオリゴヌクレオチドの各領域の結合強度を調整することができ、たとえば、2-アミノアデノシン、2-アミノプリン、5-メチルシトシン、イノシン、5-ニトロインドール、7-デアザアデノシン、7-デアザグアノシン、5-プロピルシトシン、5-プロピルウリジンなどの修飾塩基;および色素、MGB修飾などの非ヌクレオチド修飾が挙げられる。各ヌクレオチドモノマーは、通常の5’-3’結合によって互いに連結させることができ、5’-2’結合によっても互いに連結させることができる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドに結合している第1のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端がポリメラーゼによって伸長されることを阻止するヌクレオチド修飾を有するアクチベーターオリゴヌクレオチドのセグメントを、「第2のブロッキングユニット」と呼ぶ。このセグメントは、1~50ヌクレオチド長、好ましくは4~30ヌクレオチド長の修飾ヌクレオチド配列を含んでいてもよい。このセグメントは、たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドに結合した第1のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端がこのセグメントに位置するように、アクチベーターオリゴヌクレオチド内に配置することができる。したがって、このセグメントは第2の領域および第3の領域にわたって配置されてもよい。
一実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドに結合した第1のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端の伸長を阻止するために、C3リンカー、C6リンカー、HEGリンカーなどのリンカー構造やスペーサー構造を使用しないことが好ましい。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、第1の領域、第2の領域および第3の領域に加えて、これらの領域に隣接するさらなる配列セグメントを、たとえばアクチベーターオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントまたは3’末端セグメントにさらに含んでいてもよい。このような配列要素は、たとえば、プローブとの相互作用や固相との結合などのさらなる機能を発揮させるために使用することができる。このような領域は、第1~第3の領域の機能を阻害しないことが好ましい。このようなフランキング配列の長さは、たとえば1~50ヌクレオチド長であってもよい。さらに、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、固相に固定するための少なくとも1つの要素、たとえばビオチン残基を含んでいてもよい。さらに、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、検出するための少なくとも1つの要素、たとえば蛍光色素を含んでいてもよい。
配列依存的鎖置換による二本鎖分離に対するアクチベーターオリゴヌクレオチドの効果(模式的説明)
以下に、アクチベーターオリゴヌクレオチドの作用機構を模式的に説明する。
プライマー結合部位を含む新たに合成された鎖は、合成された直後に鋳型に結合するため、別のプライマーとは実質的に直接結合することはない。二本鎖の分離もしくは開裂、またはプライマー結合部位を有する配列部分同士の分離または開裂が起こった場合にのみ(たとえば、鎖置換反応の最中もしくは鎖置換反応の後、または二本鎖の解離の後)、プライマー結合部位を有するこのような配列部分が新たなプライマーオリゴヌクレオチドに結合することができ、これによって、合成反応をさらに一巡させることができる。
したがって、プライマー結合部位を有する新たに合成された配列部分同士をそれぞれ一本鎖の形態に変換することは、合成プロセスを繰り返すために必須であり、したがって、増幅させるために必須である。合成プロセスに対して影響を及ぼしうる要因は、増幅にも影響を与えうる。
本発明による第2のプライマーの伸長産物の鎖置換は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの協力によって、または第1のプライマーの伸長産物にアクチベーターオリゴヌクレオチドが結合することによって行われる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、第1のプライマーの配列以降の伸長された部分にも結合する。この場合、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、第1のプライマーの伸長産物の新たに合成された鎖セグメントに結合して、鋳型鎖(たとえば第2のプライマーの伸長産物)との結合から第1のプライマーの伸長産物の新たに合成された鎖セグメントを引き剥がすことができる。
この鎖置換によって、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物からなる二本鎖が開裂する。この二本鎖の開裂は局所的であってもよく(たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドによって直接的に引き剥がされる配列セグメントのみで二本鎖の開裂が起こってもよく)、あるいは、この二本鎖の開裂は、直接的に引き剥がされる配列セグメントからさらに先に進んでもよい。たとえば、直接的に引き剥がされる配列セグメント以降の二本鎖がさらなる影響要因によって不安定化し、この結果、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物が完全な分離してもよい(第2のプライマーの伸長産物の完全な分離)。このような要因としては、たとえば、所定の反応条件下で二本鎖の安定性に影響を与える温度による効果であってもよい。別の要因としては、たとえば、二本鎖を不安定化もしくは開裂させることができる酵素(たとえば、ヘリカーゼまたはリコンビナーゼ)、または鎖置換によって二本鎖を開裂させることができる別のオリゴヌクレオチドが挙げられる。
鎖置換の結果、第1のプライマーの結合部位および第2のプライマーの結合部位は、二本鎖の形態から一本鎖の形態に変換される。このようにして、これらのプライマー結合部位のプライマー結合能が回復する。
このプロセスに影響を及ぼし、増幅にも影響を及ぼす要因としては、たとえば、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物の完全な分離が挙げられる。
第1のプライマーの伸長産物から第2のプライマーの伸長産物が完全に解離/分離することによって(完全な鎖解離)、各工程の反応速度に対して有利な効果を与えることができる。これは特に、反応混合物中の第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物の濃度が微量である場合に顕著である。このような場合、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物が二本鎖に再結合する速度が低下し、各プライマー結合部位は長時間にわたって一本鎖の形態のまま残される。
アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換の平衡/可逆性
第1のプライマーの伸長産物へのアクチベーターオリゴヌクレオチドの結合は、これらの鎖の間で相補的塩基対が形成されることによって起こり、したがって、この結合は、反応条件下で可逆的である。
第1のプライマーの伸長産物へのアクチベーターオリゴヌクレオチドの結合は、いくつかの要因によって元に戻すことができる。このような要因としては、たとえば、
・第1のプライマーの停止部位まで第2のプライマーの伸長産物が合成された際の、ポリメラーゼ依存的鎖置換、
・第2のプライマーの伸長産物による鎖置換を介した、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物からなる相補的二本鎖の形成、および
・アクチベーターオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントによる引き剥がしを介した、第2のプライマーの3’末端セグメントの部分的鎖置換および第2のプライマーと第1のプライマーの伸長産物の結合
が挙げられる。
第2のプライマーの伸長産物は、第1のプライマーの伸長産物に結合して相補的塩基対合を形成し、これによって、アクチベーターオリゴヌクレオチドを引き剥がすことができる。したがって、第1のプライマーの伸長産物との結合に対して、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第2のプライマーの伸長産物との間に競合が存在する。これら3種の鎖すべてからなる三本鎖複合体が形成される限り(この複合体は、相補的配列部分を介して第2のプライマーの伸長産物とアクチベーターオリゴヌクレオチドに結合した第1のプライマーの伸長産物を含む)、鎖置換反応は両方向であってもよい。すなわち、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、第2のプライマーの伸長産物を引き剥がすことができ、第2のプライマーの伸長産物が、アクチベーターオリゴヌクレオチドを引き剥がすこともできる。これらの鎖置換反応は平衡状態にある。この複合体において起こる鎖置換は、所定の反応条件下において、三本鎖複合体から特定の鎖を完全に解離/分離させる配列位置まで進む場合がある(図22)。
これは特に、(たとえば、適切な反応温度、Mg2+濃度、およびTmを変化させる物質を使用した)反応条件によって二本鎖が不安定になっており、かつ、たとえば各配列部分の安定性の調整などによって、配列部分の構造がこのような分離/解離に有利に働く場合に見られる。この場合、各配列部分からなる各複合体の安定性が重要となり、より具体的には、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域と第1のプライマーの第2の領域からなる複合体の安定性、および第2のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を有する第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントと第2のプライマーオリゴヌクレオチドまたは第2のプライマーの伸長産物からなる複合体の安定性が重要となる。これらの複合体の安定性は、三本鎖複合体の平衡状態に対して影響を及ぼすことがある。すなわち、通常、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーからなる複合体の安定性が高ければ高いほど、第2のプライマーの伸長産物の鎖置換が起こりやすい。一方、通常、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントと第2のプライマーオリゴヌクレオチドの間の安定性が高ければ高いほど、アクチベーターオリゴヌクレオチドの鎖置換が起こりやすい。
各配列部分の安定性は、たとえば、各配列部分の長さを短くしたり、長くしたりすることによっても影響を受ける。通常、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域と、これに対応する第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域の長さを長くすると、合成される第2のプライマーの伸長産物の鎖置換がより起こりやすくなる。一方、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントと、これに対応する第2のプライマーの伸長産物の長さを長くすると、アクチベーターオリゴヌクレオチドの鎖置換がより起こりやすくなる。
三本鎖複合体の鎖置換反応において中間段階が存在することがあり、この中間段階では、鎖置換に関与する鎖のうちの1種が所定の反応条件下で特に容易に分離/解離する。
特定の場合、第1のプライマーの伸長産物と結合している第2のプライマーの伸長産物が完全に分離され、別の場合では、第1のプライマーの伸長産物と結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドを完全に分離することができる。
3種の鎖すべてが三本鎖複合体の形態で結合されている限り、両方向に進行する鎖置換にはある平衡が成り立つ。
この平衡は、いくつかの要因の影響を受けることがある。
前記平衡に影響を及ぼす要因としては、たとえば、鎖の分離、各構造間の相補性の程度または配列の差異(たとえば変異)の有無、核酸鎖同士の相補的結合に対して安定化効果または不安定化効果を与えるヌクレオチド修飾または非ヌクレオチド修飾の使用が挙げられる。
前記平衡に特に重要であるのは、アクチベーターオリゴヌクレオチドと、ポリメラーゼによって合成された二本鎖との間の相補性の程度であり、1個のヌクレオチドのみが配列間で異なる場合、増幅が遅くなる可能性があり、3個のヌクレオチドが異なる場合、増幅が停止する可能性がある。
通常、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーの伸長産物との間で配列に差異があると、第1のプライマーの伸長産物と二本鎖を形成するアクチベーターオリゴヌクレオチドの能力に対して負の効果が見られる。
これに対して、第2のプライマーの伸長産物は、通常、第1のプライマーの伸長産物を使用して、ポリメラーゼにより完全にマッチした産物として合成される。通常、この場合、二本鎖が容易に形成される。
アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーの伸長産物との間に配列の差異がある場合、三本鎖複合体の鎖置換の平衡状態がシフトする可能性がある。
第1のプライマーの伸長産物との結合に対する競合の結果、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物との間において、ミスマッチ二本鎖の形成よりも、完全にマッチした二本鎖の形成の方が起こりやすくなる。これによって、第2のプライマーの伸長産物の鎖置換の速度が低下し、さらにはこの鎖置換が阻害される。この結果、増幅の速度または増幅の収率が低下し、さらには増幅が阻害される可能性がある。
このような配列依存性(第1のプライマーの伸長産物とアクチベーターオリゴヌクレオチドの間において配列が完全にマッチしているのか、それともミスマッチが存在するのか)によって、鎖置換の平衡状態がシフトするため、反応に影響が見られることがある。たとえば、反応速度に影響が見られる場合があり、第1のプライマーの伸長産物とアクチベーターオリゴヌクレオチドの間で完全にマッチしている二本鎖が増幅により利用され、ミスマッチが増幅から排除される場合がある。
配列依存性によるこのような影響を、実施例1、実施例3および実施例4に具体的に示す。
前記平衡が変化することによって、第1のプライマーの伸長産物および第2のプライマーの伸長産物の解離反応が加速したり、減速したり、さらには停止する場合がある。したがって、増幅は、加速したり、減速したり、さらには全く起こらない場合がある。
したがって、(オリゴヌクレオチドの設計および化学合成の際に)アクチベーターオリゴヌクレオチド内の相補的配列部分を設計することによって、所定の配列を有する核酸鎖を増幅することができる。配列に差異を有する他の核酸鎖は、増幅から排除されたり、または増幅速度が低下しうる。
特に驚くべきことに、アクチベーターオリゴヌクレオチドにおけるこのような配列による効果は第3の領域において非常に顕著であった。本発明のアクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域は、第1のプライマーの伸長産物の、ポリメラーゼによって合成された配列部分に結合する。したがって、第1のプライマーの伸長産物のこの配列部分は、増幅対象の核酸鎖の中央のセグメントに位置する。たとえば、この配列部分は標的配列を含んでいてもよい。
したがって、増幅は、この配列セグメントの配列組成によって常に制御される。すなわち、第2のプライマーの伸長産物の鎖置換、つまり第2のプライマーの伸長産物の一本鎖形態への変換は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーの伸長産物の相補性のマッチングの程度に依存する。
したがって、各プライマーが伸長された後、アクチベーターオリゴヌクレオチドによって配列が制御される。
この制御によって、いくつかの状態を得ることができる。
・合成された鎖とアクチベーターオリゴヌクレオチドとが完全にマッチしている場合、鎖置換が起こり、第2のプライマーの伸長産物の解離まで反応を進行させることができる。この結果、プライマー結合部位を有する対応する配列部分が一本鎖の形態に変換され、合成反応をさらに一巡させることができる。
・合成された鎖とアクチベーターオリゴヌクレオチドとの間でミスマッチがある場合(たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域の所定のヌクレオチド配列と配列が一致していない場合)、鎖置換が負の影響を受ける場合がある。平衡は、第1のプライマーの伸長産物とこれに対応する鋳型との間での二本鎖形成の方向にシフトする。鎖置換反応は遅延するか、または部分的にしか進行せず、さらなる合成に利用可能な、遊離のプライマー結合部位を有する配列部分が減少する。したがって、ミスマッチによって増幅の速度が低下するか、または増幅が起こらなくなる。
このようにして、反復して行われる合成工程ごとに制御ループを確立することができる。
プライマーが結合し、伸長された後、所定の反応条件下においてアクチベーターオリゴヌクレオチドの非存在下で十分に安定な二本鎖が形成され、自然解離は起こらない。形成された二本鎖において、プライマー結合部位を有する配列部分は、新たなプライマーとの相互作用が阻止されている。この系では、合成はこれ以上進まない。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの存在下では、新たに合成された配列は、アクチベーターオリゴヌクレオチドとの相互作用によって、その配列組成が確認される。
・所定の配列組成のアクチベーターオリゴヌクレオチドと正しくマッチする場合、鎖置換が起こり、新たに合成された鎖によって鋳型鎖が置換される。これによって、プライマー結合部位が一本鎖の形態に変換され、プライマーとの新たな相互作用に利用可能となり、さらなる合成を行うことができる。したがって、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物とを含むこの系は活性状態となる。このように、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、この系に対して活性化作用を有する。
・所定の配列組成のアクチベーターオリゴヌクレオチドとマッチしない場合、新たに合成された鎖による鋳型鎖の鎖置換が影響を受ける。鎖置換および/または鎖分離が定量的に減速するか、または全く起こらなくなる。これによって、プライマー結合部位は一本鎖の形態に全く変換されないか、または低い頻度で変換される。したがって、プライマーとの新たな相互作用に利用可能なプライマー結合部位は全く存在しないか、または定量的に減少する。この結果、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物とを含むこの系は、低い頻度でしか活性状態になることができないか、または全く活性状態にならない。
各合成工程後に新たに合成された第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物からなる二本鎖の開裂の効率は、これに続くサイクルにおいて得られる収率に影響を及ぼす。すなわち、合成工程の開始時に、増幅対象の核酸鎖に対して提供される遊離/一本鎖のプライマー結合部位が少なければ少ないほど、合成工程において増幅対象の核酸鎖から新たに合成される鎖の数が少なくなる。換言すれば、合成サイクルの収率は、対応する相補的プライマーとの相互作用に利用可能なプライマー結合部位の量に比例する。したがって、このようにして制御ループを実現することができる。
前記制御ループは、合成された断片をリアルタイム/オンラインで制御するものである。配列制御は、増幅が進行中の反応混合物において行われる。この配列制御は、所定のパターンに従って行われ、(アクチベーターオリゴヌクレオチドの鎖開裂効果による)オリゴヌクレオチド系が「正しい」状態であるか、「誤った」状態であるのかを、外的介入を行わずに識別することができる。正しい状態では配列の合成が継続され、誤った状態では合成が減速するか、または完全に阻害される。各工程を行った後の「正しい」配列の収率と「誤った」配列の収率の差は、このような工程を複数含む増幅全体に対して影響を及ぼす。
指数関数的な増幅では、前記配列依存性は指数関数的であり、配列の差異によって1つの合成サイクルでの効率がわずかに異なっても、増幅時間全体では有意な遅延を意味しうるか、または所定の時間枠における検出可能な増幅が全く見られなくなる場合がある。
新たに合成された核酸鎖のリアルタイム制御が有するこのような効果は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの使用と関連しており、したがって、増幅中のアクチベーターオリゴヌクレオチドによる影響は、プライマーオリゴヌクレオチドの長さによる影響よりも有意に大きい。
さらなる影響要因
通常、鎖置換反応に対して影響を及ぼしうる要因、たとえば、鎖置換反応の程度、平衡および/または速度に影響を及ぼしうる要因は、指数関数的な増幅にも影響を及ぼしうる。
このような要因としては、たとえば、反応条件(たとえば、温度、Mg2+濃度、DMSO、ベタイン、TPAC、緩衝成分);アクチベーターオリゴヌクレオチドにおける二次構造の存在(たとえば、ヘアピン構造またはG四重鎖);アクチベーターオリゴヌクレオチドにおけるヌクレオチド修飾の使用(二本鎖を安定化させるヌクレオチド修飾、たとえば、2-アミノ-dA、5-プロパルギル-dCもしくはLNAヌクレオチド、または二本鎖を不安定化させるヌクレオチド修飾、たとえばイノシン);二本鎖を安定化させる非ヌクレオチド修飾(たとえばMGB);二本鎖を不安定化させる非ヌクレオチド修飾(たとえば、A型核酸鎖またはB型核酸鎖の幾何構造に影響を及ぼす立体的に「嵩高い基」(たとえば、ヌクレオチドに結合させた色素またはリガンド));またはインターカレート物質(たとえば、SYBR Green色素、Eva Green色素)が挙げられる。
それぞれの場合において、このような要因を使用して、鎖置換の平衡に正または負の影響を与えることができ、したがって、特定の配列の増幅を促進したり、減速させたり、阻止したりすることができる。前記要因による影響の程度は実験により測定することができる。
鎖置換反応の反応条件
第1のプライマーの伸長産物と結合している第2のプライマーの伸長産物を、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる配列依存的な鎖置換を利用して引き剥がす反応は、増幅の一工程で行われる。この工程の反応条件は、状況に応じて適宜調整される。反応温度および反応時間は、反応が成功するように選択する。
好ましい一実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換は、第1のプライマーの伸長産物に結合している第2のプライマーの伸長産物が分離/解離するまで進行する。第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物の温度依存的な/温度と関連する分離において、第2のプライマーの伸長産物の相補的部分からの第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントの解離は自然に起こってもよい。このような解離は、増幅反応の速度に対して有利に作用し、たとえば温度条件などの反応条件の選択による影響を受けることがある。したがって、温度条件は、アクチベーターオリゴヌクレオチドが相補的に結合することによって鎖置換が成功裏に行われ、これが、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントからの第2のプライマーの伸長産物の解離に有利に働くように選択される。
この工程の温度は、たとえば15℃~75℃の範囲を含み、30℃~70℃であることがより好ましく、50℃~70℃であることが好ましい。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域と第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域が所定の長さを有していれば(たとえば、3~25個のヌクレオチドモノマー、より好ましくは5~15個のヌクレオチドモノマーを含む)、通常、鎖置換反応をうまく開始させることができる。アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーの伸長産物の対応する部分とが完全に相補的である場合、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメント以外の部分で第1のプライマーの伸長産物に結合し、第2のプライマーの伸長産物を引き剥がすことができる。したがって、第2のプライマーの伸長産物は、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントに結合したままとなる。この結合の強度は、温度による影響を受けうる。臨界温度に達すると、この結合は解除されて、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物を解離させることができる。3’末端セグメントの配列が短ければ短いほど、結合はより不安定となり、自然解離が引き起こされる温度が低くなる。
自然解離は、たとえば、融解温度付近の温度範囲で起こりうる。一実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換工程の温度は、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合していない第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントと第2のプライマーオリゴヌクレオチドまたは第2のプライマーの伸長産物とを含む複合体の融解温度付近(Tm±3℃)である。
一実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換工程の温度は、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合していない第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントと第2のプライマーオリゴヌクレオチドまたは第2のプライマーの伸長産物とを含む複合体の融解温度付近(Tm±5℃)である。
一実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換工程の温度は、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合していない第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントと第2のプライマーオリゴヌクレオチドまたは第2のプライマーの伸長産物とを含む複合体の融解温度よりも高い温度である。このような温度は、Tm+約5℃~Tm+約20℃の範囲を含み、Tm+5℃~Tm+10℃であることがより好ましい。融解温度よりも高い温度を使用することによって、この反応工程における平衡を解離の方向にシフトさせることができる。これによって、この反応の速度に有利な影響を与えることができる。アクチベーターオリゴヌクレオチドを利用したこの鎖置換工程において温度が低すぎると、増幅が有意に減速しうる。
また、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換工程の温度を近似的に概算し、解離温度とすることもできる。
さらなる一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物は、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合せず、かつ4~約8ヌクレオチド長の配列を含む3’末端セグメントを含む。この実施形態では、通常、15℃~50℃の温度範囲において自然解離を起こすことができる。さらに高い温度でも解離を起こすことができる。
一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物は、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合せず、かつ9~約18ヌクレオチド長の配列を含む3’末端セグメントを含む。この実施形態では、通常、40℃~65℃の温度範囲において自然解離を起こすことができる。さらに高い温度でも解離を起こすことができる。
一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物は、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合せず、かつ15~約25ヌクレオチド長の配列を含む3’末端セグメントを含む。この実施形態では、通常、50℃~70℃の温度範囲において自然解離を起こすことができる。さらに高い温度でも解離を起こすことができる。
一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物は、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合せず、かつ20~約40ヌクレオチド長の配列を含む3’末端セグメントを含む。この実施形態では、通常、50℃~75℃の温度範囲において自然解離を起こすことができる。さらに高い温度でも解離を起こすことができる。
温度の選択に影響を及ぼしうるものとしては、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントの組成、任意で付加され、融解温度に影響を与えるオリゴヌクレオチド修飾(たとえばMGB)、および任意で付加され、反応条件に影響を与えるオリゴヌクレオチド修飾(たとえば、TPAC、ベタイン)が挙げられる。したがって、これに応じて適宜調整することができる。
一実施形態において、非特異的産物/副産物の形成を阻止するか、またはこれらの形成を遅延させるストリンジェントな条件下において増幅反応のすべての工程を実施する。このような条件としては、たとえば高温条件、たとえば50℃よりも高い温度が挙げられる。
一実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換の各工程は、第1のプライマーの伸長産物の合成および第2のプライマーの伸長産物の合成が実施される温度と同じ温度で行われる。さらなる一実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換の各工程は、第1のプライマーの伸長産物の合成および第2のプライマーの伸長産物の合成が実施される温度とは異なる温度で行われる。さらなる一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物の合成およびアクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換は同じ温度で行われる。さらなる一実施形態において、第2のプライマーの伸長産物の合成およびアクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換は同じ温度で行われる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの濃度は、0.01μmol/l~50μmol/lの範囲を含み、0.1μmol/l~20μmol/lであることがより好ましく、0.1μmol/l~10μmol/lであることが好ましい。
第2のプライマーオリゴヌクレオチド(プライマー2)の好ましい実施形態
第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、その3’末端セグメントを介して、増幅対象の核酸内の実質的に相補的な配列またはその同等物に結合し、第2のプライマーの特異的な伸長反応を開始することができる(図13)。したがって、この第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの特異的な伸長産物の3’末端セグメントに結合することができ、これによって、第2のプライマーの伸長産物のポリメラーゼ依存的な合成が開始される。一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドはそれぞれ、増幅対象である1つの核酸に特異的である。第2のプライマーオリゴヌクレオチドは逆方向の合成で複製することができ、第1のプライマーの伸長産物の合成において鋳型として機能する。
第2のプライマーオリゴヌクレオチドの長さは、15~100ヌクレオチド長であってもよく、20~60ヌクレオチド長であることが好ましく、30~50ヌクレオチド長であることが特に好ましい。各ヌクレオチド単位は、通常の5’-3’ホスホジエステル結合またはホスホチオエステル結合によって互いに連結されていることが好ましい。このようなプライマーオリゴヌクレオチドは、所望の方法で化学合成することができる。
一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、ポリメラーゼの機能に影響を及ぼさないか、またはわずかにしか影響を及ぼさないヌクレオチドモノマーを含んでいてもよい。このようなヌクレオチドモノマーとして、たとえば、
・天然のヌクレオチド(dA、dT、dC、dGなど)または塩基対合が変化しないように修飾された天然のヌクレオチド、および
・修飾ヌクレオチド(2-アミノ-dA、2-チオ-dTなど)または塩基対合が異なるその他の修飾ヌクレオチド(たとえば、ユニバーサル塩基対、たとえば、イノシン、
5-ニトロインドールなど)
が挙げられる。
好ましい一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの3’-OH末端は修飾されていないことが好ましく、ポリメラーゼによって認識することができ、かつ鋳型依存的に伸長することができる機能性の3’-OH基を有する。さらに好ましい一実施形態において、第2のプライマーの3’末端セグメントは、ポリメラーゼの3’エキソヌクレアーゼ活性によって第2のプライマーの3’末端が分解されないように、少なくとも1つのホスホロチオエート化合物を含む。
第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、いくつかの工程で使用することができる。まず、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、増幅においてプライマーとしての機能を発揮する。これによって、第1のプライマーの伸長産物を鋳型として使用して、プライマーの伸長反応が行われる。さらなる一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、増幅反応の開始時に出発核酸鎖を鋳型として使用することができる。さらなる一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、出発核酸鎖の設計/提供に使用することができる。
増幅反応において、第2のプライマーは、第1のプライマーの伸長産物を鋳型として使用することにより、第2のプライマーの伸長産物の合成の開始剤として機能する。第2のプライマーの3’末端セグメントは、第1のプライマーの伸長産物に大部分が相補的に結合することができる配列を含む。第1のプライマーの伸長産物を鋳型として使用して第2のプライマーオリゴヌクレオチドが酵素的に伸長されることによって、第2のプライマーの伸長産物が形成される。このような合成は、通常、第1のプライマーの伸長産物と結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドが引き剥がされるのと並行して起こる。この引き剥がしは、主にポリメラーゼによるものであるが、第2のプライマーオリゴヌクレオチドによって部分的に行うこともできる。このような第2のプライマーの伸長産物は、標的配列またはそのセグメントを含む。第2のプライマーの伸長産物の合成において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの複製可能な部分の配列がポリメラーゼによって鋳型として認識され、対応する相補的配列が合成される。前記配列は、第2のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントに存在し、第1のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含む。第2のプライマーの伸長産物の合成は、第1のプライマーオリゴヌクレオチド内の停止位置まで行われる。第2のプライマーの伸長産物が合成された直後、該第2のプライマーの伸長産物は第1のプライマーの伸長産物に結合し、二本鎖複合体を形成する。第2のプライマーの伸長産物は、アクチベーターオリゴヌクレオチドによって前記複合体から配列特異的に引き剥がされる。アクチベーターオリゴヌクレオチドによって鎖置換が成功裏に行われた後、第2のプライマーの伸長産物自体が、第1のプライマーの伸長産物を合成するための鋳型として機能することができる。
さらに、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、増幅の開始時において、出発核酸鎖から開始される第2のプライマーの伸長産物の合成の開始剤として機能することができる。一実施形態において、第2のプライマーの配列は、出発核酸鎖の対応する配列セグメントに完全に相補的である。さらなる一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列は、出発核酸鎖の対応する配列セグメントに部分的にのみ相補的である。このように一部が相補的でなくても、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの主として配列特異的なプライマー伸長反応の開始は妨げられない。第2のプライマーオリゴヌクレオチドと、出発核酸鎖の対応する位置の間の相補性の差異は、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントに存在することが好ましく、これによって、3’末端セグメントでは、相補的な塩基対合が大部分を占めることになり、合成の開始が可能となる。合成を開始させるためには、たとえば、特に3’末端セグメントの最初の4~10番目の位置が鋳型(出発核酸鎖)と完全に相補的でなければならない。他の位置のヌクレオチドは、完全な相補性を有していなくてもよい。したがって、5’末端セグメントにおいて、塩基組成の10%~100%が完全な相補性を有していてもよく、塩基組成の30%~100%が完全な相補性を有していることがより好ましい。第2のプライマーオリゴヌクレオチドの長さに応じて、5’末端セグメントにおいて完全に相補的ではないヌクレオチドは、1~40箇所に含まれ、1~20箇所に留まることがより好ましい。さらなる一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、その3’末端セグメントのみを介して出発核酸鎖に結合し、その5’末端セグメントを介して出発核酸鎖に結合することはない。出発核酸鎖に完全に相補的な、第2のプライマーオリゴヌクレオチドのこの3’末端セグメントの長さは、6~40ヌクレオチド長の範囲を含み、6~30ヌクレオチド長であることがより好ましく、6~20ヌクレオチド長であることが好ましい。これに応じて、出発核酸鎖に非相補的な、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントの長さは、5~60ヌクレオチド長の範囲を含み、10~40ヌクレオチド長であることがより好ましい。したがって、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、出発核酸鎖の合成を開始することができる。これに続く第1のプライマーの伸長産物の合成では、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列部分がポリメラーゼによって複製され、次の合成サイクルにおいて、第2のプライマーオリゴヌクレオチドに結合する完全に相補的なプライマー結合部位が第1のプライマーの伸長産物に形成され、さらなる合成サイクルにおいて使用される。
さらなる一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドを、出発核酸鎖の調製において使用することができる。この場合、この第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、核酸(たとえば、標的配列を含む一本鎖のゲノムDNAもしくはRNAまたはその同等物)にその大部分が/好ましくは配列特異的に結合し、ポリメラーゼの存在下で鋳型依存的なプライマー伸長反応を開始することができる。結合する位置は、プライマー伸長産物が所望の標的配列を含むように選択される。第2のプライマーオリゴヌクレオチドが伸長されると、鋳型に相補的な配列を有する鎖が得られる。この核酸鎖は、(たとえば熱またはアルカリによって)鋳型から解離させ、一本鎖の形態に変換することができる。このようにして得られた一本鎖核酸は、増幅の開始時に出発核酸鎖として機能することができる。この出発核酸鎖は、その5’末端セグメントに、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列部分を含み、標的配列またはその同等物と第1のプライマーオリゴヌクレオチドの結合部位をさらに含む。さらなる工程は「出発核酸鎖」の節で説明している。
好ましい一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、少なくともその3’末端セグメントにおいて、標的配列の配列セグメントに相補的であることから、この配列セグメントに配列特異的に結合してポリメラーゼによるプライマー伸長反応を開始/補助することができる配列部分を含む。このような配列セグメントの長さは、6~40ヌクレオチド長の範囲を含み、8~30ヌクレオチド長であることがより好ましく、10~25ヌクレオチド長であることが好ましい。
一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、その3’末端セグメントおよび5’末端セグメントに、第1のプライマーの伸長産物の合成においてポリメラーゼによって複製される複製可能な配列部分を含む。したがって、第2のプライマーのすべての配列部分がポリメラーゼによって複製される。これによって、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントにプライマー結合部位が形成される。
さらなる一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、複製可能な配列部分を有する5’末端セグメントと隣接した位置に、複製不可能な部分を含むさらなる配列セグメントを含んでいてもよい。このようなプライマーを、たとえば、検出において「Scorpionプライマー」として使用することができる。このような一実施形態において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、ポリメラーゼによる前記隣接配列セグメント(フランキング配列セグメント)の複製を妨害する修飾を含む。このような修飾には、たとえば、C3リンカーもしくはHEGリンカー、またはポリメラーゼを停止させるその他の修飾が含まれる。このような修飾のさらなる例は、「第1のプライマーオリゴヌクレオチドの実施形態」の節に記載しているため、これらを参照されたい。
一実施形態において、複製可能な部分を有する第2のプライマーオリゴヌクレオチドの長さは、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合しない、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントの長さと一致する(図14B、プライマー5C)。第2のプライマーオリゴヌクレオチドと第1のプライマーの伸長産物を含む複合体において、この第2のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端は、第1のプライマーの伸長産物に結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドの末端と同じ位置にある。この第2のプライマーの伸長は、第1のプライマーの伸長産物を鋳型として使用することによって行われる。第2のプライマーが伸長されると、ポリメラーゼ依存的鎖置換によって、第1のプライマーの伸長産物に結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドが引き剥がされる。得られる第2のプライマーの伸長産物(プライマー伸長産物6C)を図14Cに示す。
さらなる一実施形態において、複製可能な配列部分を有する第2のプライマーオリゴヌクレオチドの長さは、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合しない、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントよりも短い(図14B、プライマー5B)。したがって、第2のプライマーオリゴヌクレオチドと第1のプライマーの伸長産物を含む複合体において、第2のプライマーの3’末端と、第1のプライマーの伸長産物に結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドの末端との間に、第1のプライマーの伸長産物の一本鎖部分が存在する。この第2のプライマーの伸長は、第1のプライマーの伸長産物を鋳型として使用することによって行われる。第2のプライマーが伸長されると、ポリメラーゼ依存的鎖置換によって、第1のプライマーの伸長産物に結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドが引き剥がされる。得られる第2のプライマーの伸長産物(プライマー伸長産物6B)を図14Cに示す。
さらなる一実施形態において、複製可能な部分を有する第2のプライマーオリゴヌクレオチドの長さは、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合しない、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントよりも長い(図14B、プライマー5A、5D、5E)。第2のプライマーオリゴヌクレオチドと第1のプライマーの伸長産物を含む複合体において、第2のプライマーの3’末端セグメントとアクチベーターオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントは、第1のプライマーの伸長産物に対する結合において競合する。合成の開始に必要とされる第1のプライマーの伸長産物に第2のプライマーの3’末端セグメントが結合し、これと同時に、アクチベーターオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントが部分的に引き剥がされる。
第1のプライマーの伸長産物を鋳型として使用してポリメラーゼによる合成が開始された後、第2のプライマーが引き剥がされる。第2のプライマーが伸長されると、ポリメラーゼ依存的鎖置換によって、第1のプライマーの伸長産物に結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドが引き剥がされる。得られる第2のプライマーの伸長産物(プライマー伸長産物6A、6D、6E)を図14Cに示す。アクチベーターオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントを引き剥がすことができる第2のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端セグメントの配列の長さは、1~50ヌクレオチド長であってもよく、3~30ヌクレオチド長であることがより好ましく、5~20ヌクレオチド長であることが好ましい。第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントの長さよりも長い第2のプライマーオリゴヌクレオチドを使用すると、いくつかの実施形態において、たとえば有利である場合がある。このような実施形態には、たとえば、アクチベーターオリゴヌクレオチドが結合しない5~40ヌクレオチド長、より好ましくは10~30ヌクレオチド長の3’末端セグメントを有する第1のプライマーの伸長産物が含まれる。特に、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントが短く、第2のプライマーオリゴヌクレオチドが長いほど、合成の開始時に配列特異性が向上する。
プライマー結合部位に対する第2のプライマーオリゴヌクレオチドの結合力は、自体の長さに依存する。通常、第2のプライマーオリゴヌクレオチドが長いほど、より高い反応温度で使用することができる。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列およびアクチベーターオリゴヌクレオチドの配列は、副反応(たとえばプライマーダイマーの形成)が最小限となるように互いに適合させることが好ましい。これを達成するため、たとえば、適切な鋳型および/または標的配列および/または出発核酸鎖の非存在下において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドおよび第2のプライマーオリゴヌクレオチドが増幅反応を開始することがないように、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列と第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列を互いに適合させる。これは、たとえば、第2のプライマーオリゴヌクレオチドが第1のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含まず、かつ第1のプライマーオリゴヌクレオチドが第2のプライマーオリゴヌクレオチドを結合するプライマー結合部位を含まないことによって達成することができる。さらに、各プライマー配列が、伸長された自己相補的構造(自己相補鎖)を含まないようにする必要がある。
第2のプライマーの伸長産物の合成はプライマーの伸長反応であり、増幅反応の一工程である。この工程の反応条件は、状況に応じて適宜調整される。反応温度および反応時間は、反応が成功するように選択する。この工程での好ましい反応温度は、使用するポリメラーゼと、第2のプライマーオリゴヌクレオチドのプライマー結合部位に対する結合強度に依存し、たとえば15℃~75℃の範囲を含み、20~65℃であることがより好ましく、25℃~65℃であることが好ましい。第2のプライマーオリゴヌクレオチドの濃度は、0.01μmol/l~50μmol/lの範囲を含み、0.1μmol/l~20μmol/lであることがより好ましく、0.1μmol/l~10μmol/lであることが好ましい。
一実施形態において、非特異的産物/副産物の形成を阻止するか、またはこれらの形成を遅延させるストリンジェントな条件下において増幅反応のすべての工程を実施する。このような条件としては、たとえば高温条件、たとえば50℃よりも高い温度が挙げられる。
一実施形態において、1つのバッチで2種以上の特定の核酸鎖を増幅対象として使用する必要がある場合、配列特異的プライマーオリゴヌクレオチドを使用して各標的配列を増幅することが好ましい。
一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物の合成および第2のプライマーの伸長産物の合成は同じ温度で行われる。さらなる一実施形態において、第1のプライマーの伸長産物の合成および第2のプライマーの伸長産物の合成は異なる温度で行われる。さらなる一実施形態において、第2のプライマーの伸長産物の合成およびアクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換は同じ温度で行われる。さらなる一実施形態において、第2のプライマーの伸長産物の合成およびアクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換は異なる温度で行われる。
指数関数的な増幅と線形増幅の対比
両方の相補鎖(第1のプライマーの伸長産物および第2のプライマーの伸長産物のそれぞれが鋳型となって相補鎖を合成することができる)が同じバッチ内で実質的に互いに並行して合成される場合、このような反応において、これらのプライマー伸長産物の指数関数的な増幅が起こりうる。
合成プロセスにおいて新たに合成されたプライマー伸長産物は、それぞれの相補的配列部分を使用されるプライマーに近接させて、新たなプライマー結合部位を生成する。この方法では、新たに合成された鎖自体が、さらなる合成プロセスにおける鋳型として機能することができる。
合成プロセスを周期的に繰り返すことによって、実質的に一方のプライマー伸長産物のみが合成された場合、このプライマーの伸長産物の線形増幅が起こる。
指数関数的な増幅の速度は、一般に、出発核酸鎖の初期量が非常に少なく、かつ反応速度に対する反応産物の影響が無視できるほど小さい場合、特に増幅の開始時において線形増幅の速度よりも速くなりうる。通常、反応速度は、合成産物の量の多くなればなるほど低下し、増幅速度が遅くなると予測される。詳細に述べると、各反応工程の効率および速度は、本発明の方法の速度全体に対して影響を及ぼす。各工程の効率を変更/調整することによって、本発明の増幅方法の速度および効率に影響を及ぼすことができる。
以下に、本発明の方法の好ましい一実施形態、すなわち、増幅対象の核酸鎖の指数関数的な増幅を一例として詳細に説明する。
指数関数的な合成反応(増幅)によって、新たに合成された第1のプライマーの伸長産物および第2のプライマーの伸長産物が蓄積され、これらの伸長産物は、増幅対象の核酸鎖と見なされる。このような伸長産物の蓄積は、各プライマー伸長産物の合成プロセスが周期的に繰り返されることと、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる第2のプライマーの伸長産物の配列特異的な鎖置換(各プライマー結合部位同士の開裂を伴う)を少なくとも部分的な条件とする鎖置換反応が起こることを条件とする。
この結果、第1のプライマーの伸長産物にアクチベーターオリゴヌクレオチドが相補的結合することによって第2のプライマーの伸長産物の鎖置換が起こり、第1のプライマーの伸長産物および第2のプライマーの伸長産物を永続的または一時的に分離することができる。この分離は、アクチベーターオリゴヌクレオチドが配列特異的に関与することによって完全または部分的に行うことができる。
アクチベーターオリゴヌクレオチドが第1のプライマーの伸長産物への結合に成功すると、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物との間の相補的な塩基対合の数は減少する。所定の反応条件では、これによって、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物がそれぞれ分離することができる程度まで第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物との間の結合の安定性が低下することが好ましい(この工程の反応温度は、たとえば、反応中に残った、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物の複合体の融解温度付近である)。この結果、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物が完全に解離する。
反応の開始時は、合成されたプライマー伸長産物の濃度が低いため、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物の再会合の速度は有意に低い。合成産物の濃度は、たとえば、フェムトモル単位以下からナノモル単位までの濃度範囲であってもよい。この濃度範囲では相補鎖同士の再会合が遅いことが知られている。このような濃度範囲にすれば、第1のプライマーの伸長産物から第2のプライマーの伸長産物が完全に分離することによって、反応速度に対して有利な効果を得ることができる。第1のプライマーおよび第2のプライマーがモル過剰量で存在することによって、遊離状態となった各プライマー結合部位に第1のプライマーおよび第2のプライマーが結合し、新たな合成を開始することができる。
好ましい一実施形態において、アクチベーターオリゴヌクレオチドによって、第2のプライマーの伸長産物を第1のプライマーの伸長産物から分離させる鎖置換は、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメント領域において温度依存的な鎖分離が有利に補助される反応条件で行われる。
ただし、このような反応条件は、アクチベーターオリゴヌクレオチドが第1のプライマーの伸長産物に結合しないか、または不完全にしか結合しない場合に第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物との間で完全な鎖解離が起こらないように選択される。
これら2種のプライマーの伸長産物が完全に分離すると、第2のプライマーの伸長産物は反応液中で一本鎖の形態で存在し、新たな第1のプライマーが第2のプライマーの伸長産物の対応するプライマー結合部位に実質的に妨害されることなく結合する。通常、これは、第1のプライマーの伸長産物の合成反応の開始時の反応速度に対して有利な効果を有する。
すなわち、いくつかの場合では、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換工程の反応条件と、第2のプライマーの伸長産物の鎖置換の進行度/程度とを組み合わせると有利であり、この場合、反応中に残った、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントと第2のプライマーの伸長産物とからなる二本鎖の不安定性が増して、このような反応条件下で非常に分離しやすくなる配列位置まで第2のプライマーの伸長産物の鎖置換を進めることによって、第1のプライマーの伸長産物を完全に分離させる。
反応の開始時の合成産物の濃度が低く、合成された両方の鎖の再会合が無視できるほど少ないため、両鎖の合成速度に対して有利な効果が発揮される。
通常、新たに合成された鎖の濃度が高くなるにつれて、反応速度は低下する。このような影響は、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物の再会合が増加することによって、プライマー結合部位の露出が少なくなることに少なくとも一部起因する。
このような再会合を抑制する反応条件を変更することによって、反応速度に有利に働く場合がある。たとえば、第2のプライマーの濃度を上昇させることができ、これによって、第2のプライマーの結合部位に対して競合反応が起こりうる。一方、本発明の方法を行う温度を上昇させると、反応の進行を早めることができる。
本発明の方法の有利な一実施形態において、第1のプライマーおよび第2のプライマーは、実質的に等しい高濃度またはほぼ同等の高濃度範囲で使用される。
本発明の方法のさらなる有利な一実施形態において、第1のプライマーおよび第2のプライマーの少なくとも一方は、他方よりも高い濃度で使用される。このときの濃度の差は、1:2~1:50の範囲であってもよく、有利には1:2~1:10の範囲であってもよい。
このようにすることによって、一方のプライマー伸長産物の濃度が他方のプライマー伸長産物よりも高くなる非対称な増幅反応を達成することができる。
以下の実施例は、本発明の方法を実証することのみを目的として記載されたものであり、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例に示す構造、配列および反応条件は、本発明の方法における操作を示し、これを説明することのみを目的としたものであり、本発明を限定するものではない。
材料と方法
試薬は以下の販売会社から購入した。
・非修飾オリゴヌクレオチドおよび修飾オリゴヌクレオチド(ユーロフィンMWG、Eurogentec、Biomers、Trilink Technologies、IBA Solutions for Life Sciences)
・ポリメラーゼNEB(ニュー・イングランド・バイオラボ)
・dNTP:Jena Bioscience
・EvaGreenインターカレート色素:Jena Bioscience
・緩衝物質およびその他の化学物質:シグマ アルドリッチ
・プラスチック製品:Sarstedt
溶液1(緩衝溶液1):
・グルタミン酸カリウム、50mmol/l、pH8.0
・酢酸マグネシウム、10mmol/l
・TritonX-100、0.1%(v/v)
・EDTA、0.1mmol/l
・TPAC(テトラプロピルアンモニウムクロリド)、50mmol/l、pH8.0
・EvaGreen色素(この色素はメーカーの説明書に従い1:50に希釈して使用した)
溶液2(増幅反応溶液2)(標準反応):
・グルタミン酸カリウム、50mmol/l、pH8.0
・酢酸マグネシウム、10mmol/l
・dNTP(dATP、dCTP、dTTP、dGTP)、各200μmol/l
・ポリメラーゼ(Bst 2.0 WarmStart、120,000U/ml、NEB)、12U/10μl
・Triton X-100、0.1%(v/v)
・EDTA、0.1mmol/l
・TPAC(テトラプロピルアンモニウムクロリド)、50mmol/l、pH8.0
・EvaGreen色素(この色素はメーカーの説明書に従い1:50に希釈して使用した)
・プライマー1:10μmol/l
・プライマー2:10μmol/l
・アクチベーターオリゴヌクレオチド:10μmol/l
・鋳型鎖-実施例に示す様々な濃度で使用した
濃度はいずれも各反応における最終濃度を示す。標準的な反応からの変更はその都度示す。
使用した核酸成分の融解温度(Tm)は、溶液1中の各核酸成分の濃度を1μmol/lとして測定した。変更したパラメータは各実施例に示す。
各反応に関する一般的な情報
プライマーの伸長反応および増幅は、標準的な方法において65℃の反応温度で行った。変更した場合は別途に示す。
Bst 2.0 Warmstartポリメラーゼは、(メーカーの説明書によれば)温度感受性オリゴヌクレオチドであり、低温ではその機能が大幅に抑制されることから、前記増幅反応溶液を前記反応温度に加熱することによって増幅反応を開始した。このポリメラーゼは、温度が約45℃以上になると急速に活性が上昇し、65℃ではBst 2.0ポリメラーゼとBst 2.0 Warmstartポリメラーゼの間に差はほとんど見られない。反応の調製段階における様々な副産物(たとえばプライマーダイマー)の形成を阻止するためにBst 2.0 Warmstartポリメラーゼを使用した。変更した場合は別途に示す。
反応溶液を80℃よりも高い温度に加熱する(たとえば95℃で10分間)ことによって増幅反応を停止させた。この温度において、Bst 2.0ポリメラーゼは不可逆的に変性し、合成反応の結果を後から変更することはできない。
増幅反応は、フルオロメーターを備えた恒温装置で行った。この恒温装置として、市販のリアルタイムPCR装置であるStepOne Plus(アプライドバイオシステムズ、サーモフィッシャー)を使用した。反応量はデフォルト設定の10μlとした。変更した場合は別途に示す。
エンドポイントの検出と反応速度解析を行った。エンドポイントの検出では、たとえば核酸に結合する色素のシグナルを記録し、この色素として、たとえばTMR(テトラメチルローダミン(TAMRAとも呼ぶ)やFAM(フルオレセイン)を使用した。FAMの蛍光シグナルおよびTMRの蛍光シグナルの励起波長および測定波長は、StepOne PlusリアルタイムPCR装置の工場出荷時の設定をそのまま使用した。さらに、たとえば融解曲線の測定などにおいてエンドポイントを測定するため、インターカレート色素(EvaGreen)を使用した。EvaGreenは、インターカレート色素であり、よく使用されるSYBR Green色素の類似体であるが、SYBR Green色素と比べてポリメラーゼの阻害がわずかに少ない。SYBR Greenの蛍光シグナルおよびEvaGreenの蛍光シグナルの励起波長および測定波長は同一であり、StepOne PlusリアルタイムPCR装置の工場出荷時の設定をそのまま使用した。蛍光は、PCR装置に内蔵されている検出器を用いて連続的に、すなわち「オンライン」あるいは「リアルタイム」で検出することができる。また、前記ポリメラーゼは、合成反応において二本鎖を合成することから、これらの色素を利用した技術を、この反応の反応速度解析(リアルタイム解析)に使用することができる。TMR標識プライマーを1μmol/lを超える濃度(たとえば10μmol/l)で使用した測定などでは、StepOne Plus装置に搭載されたカラーチャンネル間のクロストークによりベースシグナルの強度に部分的な上昇が観察された。SYBR Greenチャンネルで測定したTMRシグナルは、基底値の上昇を起こすことが分かった。基底値の上昇を考慮に入れて算定を行った。
増幅反応の反応速度解析を行うため、フルオレセイン(FAM-TAMRAからなるFRETペア)またはインターカレート色素(EvaGreen)の蛍光シグナルを定期的に記録した。シグナルの時間経過を検出した(StepOne Plus PCR装置におけるリアルタイムシグナル検出)。コントロール反応との比較により検出された反応中のシグナルの上昇は、バッチの構成に従って解釈した。たとえば、EvaGreen色素を使用した際のシグナルの上昇は、増幅反応における二本鎖核酸の量の増加を示すものとして解釈し、したがって、DNAポリメラーゼによる合成がなされたと判断した。
いくつかの反応では、増幅反応の実施後に融解曲線を決定した。この測定によって、二本鎖の存在を確認することができ、たとえばインターカレート色素を取り込むことによって該色素のシグナル強度を有意に上昇させることができる二本鎖の存在を確認することができる。温度を上昇させると、二本鎖の割合が低下し、シグナル強度も低下する。シグナル強度は、核酸鎖の長さおよび配列組成に左右される。このような技術は当業者によく知られている。
修飾された核酸鎖(たとえばアクチベーターオリゴヌクレオチドまたはプライマー)が多くの割合を占める反応において融解曲線解析を行ったところ、EvaGreen色素のシグナルが異なる挙動を示す場合があり、たとえばB型DNAと修飾されたA型核酸鎖の間で異なる挙動を示す場合があることが分かった。たとえば、(通常、古典的なDNA構造を取る)B型の二本鎖核酸は、(たとえばヌクレオチドのいくつかが2’-O-Meで修飾されていることによって)A型様の構造を持つ同じ核酸塩基配列の二本鎖核酸よりも高いシグナル強度を示した。インターカレート色素を使用した場合、このような観察結果を考慮に入れた。
必要に応じて、キャピラリー電気泳動を用いて増幅反応を解析し、形成された断片の長さを標準品と比較した。キャピラリー電気泳動を実施するため、標識された核酸の濃度が約20nmol/lとなるように、緩衝液(Tris-HCl、20mmol/l、pH8.0およびEDTA、20 mmol/l、pH8.0)中に反応混合物を希釈した。キャピラリー電気泳動は、契約サービスを利用してGATC-Biotech社(ドイツ国コンスタンツ)において行った。キャピラリー電気泳動による標準的な条件のサンガーシーケンシングは、メーカーの説明書に従って、POP7ゲルマトリックスおよびABI 3730 Cappilary Sequencerを使用して、約50℃、定電圧(約10kV)の条件で行った。この条件において二本鎖は変性し、キャピラリー電気泳動において一本鎖の核酸鎖が分離された。電気泳動は遺伝子分析において標準的な技術である。全自動キャピラリー電気泳動は、現在、サンガーシーケンシング法において日常的に使用されている。キャピラリー電気泳動(通常、バーチャルフィルターを使用)の際に、蛍光シグナルを連続的に記録し、電気泳動時間とシグナル強度を関連付けた電気泳動図を作製する。短い断片(たとえば未使用のプライマー)は、初期のシグナルピークに観察され、伸長断片では、伸長領域の長さに比例した一時的なシグナルのシフトが観察される。長さが判明しているコントロールから、伸長断片の長さを測定することができる。このような技術は当業者に公知であり、一般に断片長多型の検出に使用されている。
実施例1:
等温条件下での核酸依存的鎖置換
本実施例では、鎖分離活性を有するタンパク質または酵素(たとえばヘリカーゼまたはリコンビナーゼ)の非存在下において、相補的一本鎖核酸が、ATPの形態で蓄積されたエネルギーを化学的に消費することなく、核酸依存的に、特に配列特異的に鎖置換を行う基本的な能力について示す。反応条件下で安定な二本鎖(この二本鎖を構成する各鎖をA1およびB1と呼び、したがって、これらから構成される二本鎖をA1:B1と呼ぶ)は、A1鎖の特定のセグメントに実質的に相補的な一本鎖核酸鎖によって開裂することができることが示された(この一本鎖核酸鎖をC1オリゴヌクレオチドと呼ぶ)。この二本鎖が開裂した結果、B1鎖は一本鎖に変換され、これと同時に二本鎖A1:C1が新たに形成される。本実施例において使用されるC1核酸鎖の配列は、等温条件下の二本鎖DNA断片に対して、核酸鎖を介した配列特異的な鎖置換反応が起こるように構築されたものである。本実施例において、ポリメラーゼは反応に加えず、したがって、新たな核酸鎖は合成されず、核酸鎖の増幅も起こらなかった。
事前に作製した二本鎖の鎖置換および鎖分離を検出するため、この二本鎖から分離する両鎖を蛍光色素で標識し、(フルオレセインおよびTAMRAからなる)FRETペアが形成されるようにした。蛍光色素はA1:B1二本鎖の末端、すなわち、両鎖の相補的末端に配置した。ここで使用する各核酸鎖は化学的に合成されたものであり、化学合成の際に蛍光色素を対応する鎖末端に化学的に結合させた。両鎖が互いに相補的である場合の蛍光色素の間の距離は、TAMRA色素によってフルオレセインの蛍光が効果的にクエンチされるように選択した。二本鎖を構成する各鎖がなんらかの作用(たとえば温度や鎖置換)によって分離された場合、蛍光色素間の距離が遠くなり、フルオレセインマーカーの蛍光シグナルの強度が増加する。両鎖(A1およびB1)が完全に分離されると、フルオレセインマーカーの強度が最大となる。蛍光強度と、各種パラメータの作用(たとえば、温度、鎖置換を行うための相補的配列または非相補的配列の添加など)に対する蛍光強度の依存性を観察することによって、互いに結合したままの標識された両鎖の量を知ることができる。
実施例1において、核酸依存的かつ配列特異的な鎖置換反応の原理を示す。反応中の蛍光シグナルを記録することによって、鎖置換反応の速度と、事前に作製した二本鎖(A1:B1)の開裂の温度依存性を解析した。等温反応条件と温度勾配条件の両方で試験を行った。
出発物質の調製:
各配列および配列番号を示すとともに、研究室で使用した名称を示した。
二本鎖(A1:B1)
二本鎖A1:B1の配列は無作為に選択した人工配列であり、この際、大きなヘアピン構造と長いGセグメントやCセグメントが含まれないように注意した。この二本鎖の各鎖は、相補的二本鎖を形成することができる。二本鎖のTmは約75℃であり(別の二本鎖のTmは約77℃(下記参照)であり)、これは反応温度(65℃)よりも高い。したがって、この二本鎖は反応条件下で安定である。A1鎖は各B1鎖よりも長いため、5’オーバーハングが発生する。A1鎖の5’オーバーハングは、第1のプライマーの伸長産物のポリヌクレオチドテールと相似性を有するように設計した。ただし、合成を容易にするために、この5’オーバーハングには、ポリメラーゼ活性をブロックする修飾を含めなかった。本実施例の反応においては、ポリメラーゼを使用しなかったため、このような修飾の有無はそれほど重要ではない。前記5’オーバーハングは、一本鎖核酸(C1)の第1の領域に相補的であり、反応条件下において、C1核酸鎖が前記5’オーバーハングに特異的に結合することができる。この結合によって、A1:B1二本鎖の一方の末端と一本鎖核酸C1の対応する相補的セグメントとが空間的に十分に近接し、鎖置換反応を起こすことができる。この鎖置換反応によって、新たな二本鎖A1:C1を発生させ、B1鎖を一本鎖に変換することができる。
この配列はDNAからなる。3’末端のTAMRAによる修飾(末端TMR修飾)は、合成の際に付加した。
これらの鎖はいずれもDNAからなる。5’末端のフルオレセイン色素による修飾(末端FAM修飾)はレポーターとして選択し、オリゴヌクレオチド化学による従来の方法で合成の際に各鎖に付加した。
2種の二本鎖バリアントを作製した。バリアント1は、A1鎖の5’セグメントに短いオーバーハング(6ヌクレオチド)を有する二本鎖を含み、この二本鎖は配列番号1と配列番号2からなる。バリアント2は、A1鎖の5’セグメントに長いオーバーハング(9ヌクレオチド)を有する二本鎖を含み、この二本鎖は配列番号1と配列番号3からなる。各相補的セグメントは下線で示す。A1鎖の3’セグメントのオーバーハングは合成を行うために設計されたものであり、本実施例においてはそれほど重要ではない。
一本鎖核酸(C1オリゴヌクレオチド):
特定の条件下において、一本鎖核酸(本実施例においてC1オリゴヌクレオチドと呼ぶ)によって、A1:B1鎖の鎖置換反応を起こすことができ、これと同時にA1とC1オリゴヌクレオチドからなる新たな二本鎖(A1:C1二本鎖)を形成することができる。このとき、B1鎖は少なくとも部分的に一本鎖形態に変換される。極端な場合、鎖置換によってA1:B1を完全に解離させ、A1鎖からB1鎖を完全に分離することができる。
C1オリゴヌクレオチドとアクチベーターオリゴヌクレオチドは類似した機能を有しており、核酸依存的に二本鎖の鎖置換を媒介する。本実施例ではC1オリゴヌクレオチドという名称を使用する。C1オリゴヌクレオチドは、ポリメラーゼをブロックするヌクレオチド修飾を含んでいてもよいが、本実施例ではポリメラーゼを使用しないため、このような修飾は鎖置換の実施に必須ではない(下記参照)。アクチベーターオリゴヌクレオチドという名称は、ポリメラーゼが含まれる反応混合物において指数関数的な増幅を行う実施例において使用する。アクチベーターオリゴヌクレオチドを使用する場合は、C1オリゴヌクレオチドを使用する場合とは異なり、ポリメラーゼをブロックするヌクレオチド修飾を含んでいなければならない。
C1オリゴヌクレオチドとアクチベーターオリゴヌクレオチドは類似した機能を持つことから、C1オリゴヌクレオチドは、アクチベーターオリゴヌクレオチドの構造とよく似た配列組成を持つように設計している。鎖置換を実施できるように、C1オリゴヌクレオチドは、A1鎖に相補的なセグメントを含んでいなければならない。C1オリゴヌクレオチドは、いずれも一本鎖の第1の領域、第2の領域および第3の領域を持つ(アクチベーターオリゴヌクレオチドの構造を参照されたい)。アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーの伸長産物の結合のように、C1オリゴヌクレオチドの第1の領域は、A1鎖の一本鎖5’オーバーハングに結合することができ、第2の領域および第3の領域は、A1鎖の内部セグメントに結合することができる。
本実施例においては、アクチベーターオリゴヌクレオチド構造が、効果的な鎖置換活性を発揮することも示す。この理由から、いくつかのC1核酸鎖は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと同一の配列を有するように設計した(たとえば配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7)。その他のC1核酸鎖(配列番号8、配列番号9および配列番号10)は、本実施例において鎖置換を実証することのみを目的として使用され、これらのC1核酸鎖はDNAからなり、ポリメラーゼ活性をブロックすることができる内部修飾を含んでいない。本発明のこの実施例の反応においては、ポリメラーゼを使用しなかったため、このような修飾の有無はそれほど重要ではない。各一本鎖核酸(C1オリゴヌクレオチド)の構造を以下にまとめる。
C1オリゴヌクレオチド(グループ1、アクチベーターオリゴヌクレオチドの構造を有するオリゴヌクレオチド):
以下の4種のC1オリゴヌクレオチドは、アクチベーターオリゴヌクレオチドとして使用することができる。
配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7に示される各配列は、アクチベーターオリゴヌクレオチドとして構築された。これらの配列は、2’-O-Me修飾ヌクレオチド(角括弧([])内に示す)とDNAヌクレオチド(3’セグメントおよび場合に応じて5’セグメント)を含み、3’末端ヌクレオチドの3’-OH基は、リン酸残基でブロックした。これらのオリゴヌクレオチドは、製造会社によって化学的に合成されたものであった。A1鎖に相補的に結合することができる配列を下線で示す。配列番号4、配列番号5および配列番号6に示される各核酸は、第1の領域、第2の領域および第3の領域でA1鎖の配列に相補的である(第2の領域の相補配列は、第3の領域の相補配列と連続している)。相補的な核酸塩基がこのように連続的に並んでいることによって、鎖置換が可能となる。
配列番号7に示される核酸は、第1の領域および第2の領域(33番目~49番目)においてA1鎖の配列に相補的であるが、A1鎖に相補的でない配列(1番目~18番目および27番目~32番目)も含んでいる。この非相補的配列の一部は、第2の領域の5’末端セグメントの直前に配置されており、この領域以降の鎖置換の進行を阻止するために配置した。この核酸鎖はネガティブコントロールとして機能した。
C1オリゴヌクレオチド(グループ2、アクチベーターオリゴヌクレオチドの構造を持たないオリゴヌクレオチド):
さらに、以下の3種のオリゴヌクレオチドも鎖置換反応に使用した。
配列番号8~10に示される配列は、前記アクチベーターオリゴヌクレオチドと同様の核酸塩基組成で構築した。ただし、これらのオリゴヌクレオチドでは、ポリメラーゼ活性をブロックすることができる残基を内部セグメントの対応する部位に挿入しなかった。また、これらの配列の内部領域の糖リン酸主鎖には修飾(ポリメラーゼをブロックする修飾)を付加せず、3’末端のブロッキング基も付加しなかった。これらのC1オリゴヌクレオチドは、DNAヌクレオチドのみからなる。これらのオリゴヌクレオチドは、製造会社によって化学的に合成されたものであった。A1鎖に相補的に結合することができる配列を下線で示す。前記C1オリゴヌクレオチドのうち、配列番号8は一続きの相補的セグメントを含む。このセグメントは、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域、第2の領域および第3の領域に相当する。配列番号9に示される核酸および配列番号10に示される核酸は、A1鎖に相補的な一続きの配列の2種のバリエーションを示す。配列番号9の18番目および36番目には、Cヌクレオチドの代わりにAヌクレオチドが含まれる。これらの位置のヌクレオチドは、A1鎖の対応する位置の核酸塩基に対して相補性を示さない。配列番号10に示される核酸鎖は、相補的配列の別のバリエーションを示し、特定の残基が欠失しており、すなわち26番目と27番目の間で2個のヌクレオチド(CT)が欠失している。この欠失により、二本鎖A1:C1の形成において相補的配列に分断が生じる。
第1のプライマーオリゴヌクレオチド(プライマー1)
第1のプライマーオリゴヌクレオチドを反応に使用して、温度依存的な鎖置換反応を開始させた。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、2’-O-Me修飾ヌクレオチド(角括弧([])内に示す)とDNAヌクレオチド(3’セグメントおよび場合に応じて5’セグメント)を含み、3’末端ヌクレオチドの3’-OH基はブロックされていなかった。このオリゴヌクレオチドは、TAMRA色素で修飾されたdTヌクレオチド(配列においてT*で示す)を11番目に有する。このオリゴヌクレオチドは、製造会社によって化学的に合成されたものであった。この配列を有するプライマーは、C1オリゴヌクレオチドに相補的に結合することができる。プライマー1とC1オリゴヌクレオチドの間のこの結合によって、(室温で行われる)反応混合物の調製の際に、各C1オリゴヌクレオチドの特定の配列セグメントが二本鎖を形成するが、このC1オリゴヌクレオチドの特定の配列セグメントは、A1鎖の一本鎖オーバーハングとは相互作用を起こすことはできない。
相補的二本鎖(A1およびB1)の調製
各相補的核酸鎖(A1およびB1)を、(EvaGreen色素を含んでいない)緩衝溶液1にそれぞれ1μmol/lの濃度で混合し、短時間加熱し、室温に放置して冷却することによって、相補的な領域で二本鎖(A1:B1)を形成させた。この結果、以下の2種の二本鎖バリアントが生じた。
バリアント1は、配列番号1と配列番号2からなる配列を含む。
バリアント2は、配列番号1と配列番号3からなる配列を含む。
一本鎖核酸(C1)の調製(プライマー1との複合体化なし)
各一本鎖核酸(C1)は、(EvaGreen色素を含んでいない)緩衝溶液1中に10μmol/lの濃度で調製した。
一本鎖核酸(C1)とプライマー1からなるC1:プライマー1複合体の調製
一本鎖核酸(C1)の第1の領域と第2の領域を可逆的にブロックするため、各C1オリゴヌクレオチドにプライマー1を等モル濃度で加えることによって、部分的に二本鎖となったC1:プライマー1複合体を形成することができた。プライマー1は、C1オリゴヌクレオチドの第1の領域と第2の領域に特異的に結合することによって、(室温での)反応混合物の調製の際にA1鎖のオーバーハングと相互作用しうる配列セグメントをブロックする。この複合体は室温で安定であり、反応条件下においてのみそれぞれの鎖に解離して、一本鎖になったC1オリゴヌクレオチドの第1の領域と第2の領域を、二本鎖(A1:B1)の対応する構造と相互作用させることができる。C1オリゴヌクレオチドとプライマー1の複合体も、(EvaGreen色素を含んでいない)緩衝溶液1中に10μmol/lの濃度で調製した。
反応混合物の調製、反応の開始および反応条件
二本鎖(A1:B1)を含む溶液と、C1オリゴヌクレオチドまたはC1-プライマー1複合体を含む溶液とを等量(各5μl)で混合することによって、室温で試験を行うための反応混合物を調製した。得られた反応混合物には、各鎖が以下の濃度で含まれていた。
・0.5μmol/lの濃度の二本鎖A1:B1
・5μmol/lの濃度の一本鎖(C1)またはC1-プライマー1複合体
・0.5μmol/lの濃度の(FAMシグナルコントロールとしての)一本鎖B1
65℃の等温条件下における鎖置換の経時観察
前述のようにして調製した反応混合物を、蛍光検出機能を備えた恒温装置中の適切な反応容器(マイクロウェルプレート)に移した。恒温装置として、リアルタイムPCR装置(「StepOne Plus」、StepOneソフトウェアv2.1、ABI、サーモフィッシャー)を使用した。まず、反応混合物を50℃で約50秒間(1~5サイクル)予熱し、次いで65℃で加熱した。この温度で約10分間維持し(6~30サイクルを記録)、鎖置換反応を等温条件下で進行させ、経過を観察した。FAM蛍光シグナルを、(前記装置のリアルタイム機能を利用して)経時的に記録した。前記リアルタイムPCR装置を使用したことから、メーカーから提供された適切に調整されたFAMフィルターとソフトウェアプログラムとを使用することができた。メーカーによって指定された2つの測定間の時間間隔の最小値(設定可能な時間間隔の最小値)は10秒であったため、前記装置を使用した測定サイクルは約15~18秒とした。FAMの経時シグナルはこの最大記録サイクルで記録した。
C1オリゴヌクレオチドの存在下または非存在下での温度勾配(50℃~95℃)におけるA1とB1の分離の観察
さらなる実験では、反応混合物を50℃から95℃へと連続的に加熱した(温度勾配)。この加熱過程においても、温度を0.5℃上昇させるごとにFAMシグナルを測定することによりFAMシグナルを検出した。測定されたFAMシグナル強度を温度ごとに記録した反応混合物の温度プロファイルが得られた。さらに、リアルタイムPCR装置(StepOne Plus)を用いて同じ実験を行い、プログラム(メーカーによってプリインストールされていたStepOneソフトウェアv2.1)を使用して融解曲線を決定した。
いずれの実験も各反応混合物について評価を行った。結果を以下に示す。各反応物の組成は適切な箇所に記載する。
結果:
1.検出システムの試験:
2つのコントロールバッチにおいて、FAMとTAMRAからなるFRETペアの機能性を試験した。第1のコントロールバッチは、FAM色素で標識したB1鎖のみを含んでいた(図24、矢印1)。第2のコントロールバッチは、TAMRAで標識したA1鎖と、FAMで標識したB1鎖の両方を含んでいた(A1:B1二本鎖)(図24、矢印2)。等温条件下でのシグナルの経時変化(図24A)と温度勾配下でのシグナルの挙動(図24B)を記録した。いずれのコントロールバッチでも、等温条件下(65℃)において安定なシグナルが示されている(図24A)。二本鎖(矢印2)を温度勾配下で記録した場合(図24B)、約70℃からFAMレポーターの蛍光の増加が観察される。シグナルは約80℃で最大に達し、その後は一本鎖のような挙動を示している(矢印1参照)。算出されたこの鎖(9ヌクレオチド長の5’オーバーハングを有するA1鎖を含む二本鎖A1:B1のバリアント2)の融解温度は、約75℃である(矢印3)。定義によれば、この温度において、二本鎖の50%が解離しており、したがって、A1鎖およびB1鎖のそれぞれ50%が一本鎖である。6ヌクレオチド長の5’オーバーハングを有するA1鎖を含む二本鎖A1:B1のバリアント1のコントロールバッチも類似の挙動を示し、このバリアント1のTmは約77℃である。
後掲の図24~29においても、矢印1は、FAMで標識した一本鎖B1鎖のみを含むコントロールバッチを示し(矢印1)、矢印2は、標識した二本鎖A1:B1を含むコントロールバッチを示す(矢印2)。
2.相補的一本鎖オリゴヌクレオチドによる鎖置換
連続した相補的残基を配列中に含むC1オリゴヌクレオチドとA1鎖を反応させた場合(たとえば、A1:B1のバリアント2とC1オリゴヌクレオチド(配列番号5、A6 8504)の反応)、非常に速い速度でB1鎖の鎖置換が起こり、反応混合物の調製中あるいは記録の開始前に既にB1鎖の大部分が一本鎖の形態で存在する場合があることが観察された。これは、図25(矢印3)におけるシグナル強度の増加から見ることができる。既に最初の測定(サイクル1)において、C1オリゴヌクレオチドを含まないA1:B1二本鎖のコントロール反応よりも有意に高いシグナル量が観察されている。したがって、B1鎖は、最初の測定よりも前に一本鎖の形態で既に存在していたと認められる。A1:B1二本鎖のバリアント1の反応も類似した挙動を示す。
一続きの相補的セグメントを含む別のC1オリゴヌクレオチド(たとえば配列番号4、配列番号6または配列番号8)を使用した場合のC1オリゴヌクレオチドによる置換でも、基本的に類似した挙動が示される。測定の開始時において既にFAMレポーターの蛍光シグナル強度が高いことから、最初の測定の前にB1鎖が既に一本鎖の形態で存在していたと見られる。各C1オリゴヌクレオチドの挙動から、本実施例における糖リン酸主鎖によって組成が違っていても(すなわち、DNAであるか、2’-Oメチル修飾を有しているかに関わらず)、一本鎖C1オリゴヌクレオチドによる鎖置換に有意な差は認められないことが示された。2’-O-Meで修飾された長いセグメントを有するオリゴヌクレオチドでも、DNAのみからなるオリゴヌクレオチドでも、同じ結果が得られた。相補塩基が連続している場合、特にC1オリゴヌクレオチドの第2の領域と第3の領域において相補塩基が連続している場合、鎖置換が高収率で起こる。
相補的な第3の領域が短いものの、全領域にわたって連続した相補的配列を有する配列番号4(8504、短鎖)のC1鎖を使用した場合、図26に示す結果が得られた。A1:B1二本鎖のバリアント1およびC1を使用したバッチと、A1:B1二本鎖のバリアント2およびC1を使用したバッチは類似した挙動を示し(矢印3)、温度を65℃に上昇させた後でしか鎖置換が起こらなかった。
C1配列の5’末端を短くすると(アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域に相当)(配列番号4)、A1鎖の3’末端セグメント中の長い配列部分が、C1オリゴヌクレオチドと相補的に結合せず、A1鎖のこの3’末端側のセグメントが、B1鎖の5’末端セグメントに接触したまま残った(B1鎖の5’末端セグメントの1番目~18番目)。この二本鎖断片は、50℃で十分に安定であり、A1:B1二本鎖の標識された末端が50℃でも十分に接触を維持することができ、この温度においてFAMのシグナルは十分にクエンチされる(矢印3、1~5サイクル、図26)。温度を65℃に上昇すると(矢印3B、図26)、C1オリゴヌクレオチドの存在によって、A1:B1二本鎖集団の半分程度が一本鎖に解離した。A1:B1二本鎖形態と一本鎖形態のB1鎖との間で平衡に達する(三本鎖複合体)。このバッチ中のFAMレポーターの蛍光強度から、約50%が遊離鎖であることが認められる。C1オリゴヌクレオチドによる鎖置換が完全に起こったと想定すると(すなわち、A1鎖の相補的領域とC1オリゴヌクレオチドの相補的領域が完全に結合したと想定すると)、この平衡挙動は、A1鎖の3’末端セグメントとB1鎖の5’末端セグメントとの間で維持されていた接触が、前記温度ではもはや十分に安定ではなく、このセグメントにおいてA1鎖とB1鎖が温度依存的に自然に分離したということに起因する。反応条件下において、一本鎖B1鎖は次いでA1鎖の3’末端セグメントに結合し、C1オリゴヌクレオチドの鎖置換が起こりうる。したがって、この系は、A1:B1二本鎖、C1:A1二本鎖およびこれらの中間体の間で平衡状態にある(三本鎖複合体)。
3.配列組成に差異を有する一本鎖オリゴヌクレオチドによる鎖置換
第2の領域または第3の領域の核酸塩基組成に2個以上の非相補的塩基を含むC1オリゴヌクレオチドを使用して、配列の差異の影響を試験した。このように塩基組成が一部異なるC1を使用したところ、A1:C1からなると予想された二本鎖において連続した相補的な塩基対合は発生しなかった。
C1オリゴヌクレオチド(配列番号5)とA1:B1二本鎖のバリアント1の相互作用の結果を図27に示す。前述の連続した相補的配列との違いは、18番目と36番目(配列番号9)に見られるか、または26番目と27番目(配列番号10)の欠失に見られる。これらのC1オリゴヌクレオチドを使用したところ、FAMレポーターの蛍光にわずかな変化が認められた(図27、矢印3)。FAMレポーターのシグナル強度がこのような低い値を示したことは、B1鎖の大部分がA1鎖に結合していたことによるものである。換言すれば、第2の領域および第3の領域において核酸塩基の組成が一部異なるC1オリゴヌクレオチドでは、鎖置換における収率が低下した。すなわち、A1:B1二本鎖はほとんど開裂せず、わずかな量のB1鎖のみが一本鎖の形態に変換された。反応の平衡状態は、主にA1:B1二本鎖側にシフトした。
核酸塩基組成においてさらに多くの差異があると、鎖置換が全く起こらなくなった。配列番号7で示されるC1オリゴヌクレオチドは、第1の領域と第2の領域において連続した相補的な核酸塩基配列を含むが、第3の領域において塩基組成が大幅に異なっている。これらの配列差異の一部は、C1オリゴヌクレオチドの第3の領域の3’末端セグメント(26番目~32番目)にあり、したがって、第2の領域の直前に配置されている。このようなC1オリゴヌクレオチドを、前記A1:B1二本鎖に添加しても、65℃よりも低い温度では、FAMレポーターの蛍光の測定可能な変化は認められず、結合した状態を保ったままのA1:B1二本鎖を示すシグナルが維持された。すなわち、C1オリゴヌクレオチドが第1の領域と第2の領域(これらの領域は、C1鎖とA1鎖との間で相補的配列を含む)においてA1鎖と相補的に結合できたとしても、第3の領域における配列組成の違いによって、所定の反応条件下での鎖置換は全く起こらなくなり、A1:B1二本鎖の大部分は、結合した状態を保ったまま維持していた。これは、維持されたA1:B1二本鎖が安定であることに関連する。このC1オリゴヌクレオチドの第1の領域および第2の領域のA1鎖に対する相補的結合では、A1鎖とB1鎖が、有意に長いセグメントを介して互いに相補的な結合を維持していた。所定の条件下では、引き剥がされることなく維持されたこの二本鎖セグメント(A1:B1)の安定性は、十分に高く、両鎖を結合したまま維持し、A1鎖とB1鎖の測定可能な分離を阻止することができる。この場合、反応の平衡状態は、A1:B1二本鎖のみにおいて見られ、A1鎖とB1鎖の測定可能な分離は起こらない。
4.鎖置換の速度論
鎖置換の速度を測定するため、C1:プライマー1複合体と調製されたA1:B1二本鎖を使用した。C1-プライマー1複合体を使用することの利点としては、鎖置換の実施前にC1オリゴヌクレオチドの相補的領域にプライマー1が既に結合しているため、室温で安定な二本鎖が得られることが挙げられる。このような反応構成のため、反応条件下で初めて、たとえば反応温度を65℃(プライマー1のTm付近の温度(Tm±5℃)に相当)に上昇してから初めてC1鎖からプライマー1が分離し、鎖置換が開始される。C1オリゴヌクレオチドの相補的な領域からプライマー1が解離すると、プライマー1が反応条件下でA1:B1二本鎖と相互作用することができ、鎖置換を起こすことができる。
配列依存的鎖置換の速度論を実証するため、前記と同様に、A1:B1鎖のバリアント1をC1-プライマー1複合体(配列番号5および配列番号11からなる)と接触させ、まず50℃(1~5サイクル)に加熱し、次いで65℃(6サイクル以上)で加熱した。FAMレポーターの経時シグナルを図28に示す。FAMレポーターの蛍光は、1~5サイクル(50℃)ではほぼ一定レベルに保たれているものの、次の6サイクル目の測定(65℃)からFAMレポーターの蛍光が急激に増加していることが分かる。その後の10サイクル(6~16サイクル)では、FAMレポーターのシグナル強度は約90%の最大可能蛍光強度に達する。シグナル強度の増加は、A1鎖からB1鎖が分離したことを示唆する。A1:B1二本鎖の分離までの半減期を測定結果から算出したところ、約40~50秒であった。一方、A1:B1鎖のバリアント2と、同じC1:プライマー1複合体(配列番号5および配列番号11からなる)とを使用した場合、FAMレポーターの蛍光の増加は、バリアント1を使用した場合よりも有意に速かった(図29、矢印3)。このバッチにおいて所定の反応条件下でのA1:B1二本鎖の分離までの半減期を算出したところ、10秒未満であった。
A1:B1二本鎖のバリアント1とバリアント2の差異としては、まず、C1オリゴヌクレオチドと最初に接触するA1鎖の5’オーバーハングの長さが挙げられる。バリアント1のB1鎖はバリアント2のB1鎖よりも長いことから、バリアント1の5’オーバーハングは6ヌクレオチド長となり、バリアント2の5’オーバーハングは9ヌクレオチド長となる。C1オリゴヌクレオチドの対応するセグメントの相補的な塩基組成による結合は、6ヌクレオチド長のオーバーハングに対する結合よりも、9ヌクレオチド長のオーバーハングに対する結合の方がある程度安定であると考えられる。
A1:B1二本鎖のバリアント1とバリアント2の間での蛍光の増加速度を比較したところ、A1鎖の5’オーバーハングの長さが関与しており、したがって、反応中に形成されるA1鎖のオーバーハングとC1オリゴヌクレオチドからなる中間複合体の安定性が関与することが分かった。同じパラメータで反応を行った場合、A1鎖のオーバーハングとC1オリゴヌクレオチドからなる複合体が安定しているほど、より効果的またはより速い鎖置換が起こる。A1鎖のオーバーハングとC1オリゴヌクレオチドの第1の領域からなるこの中間複合体は、C1オリゴヌクレオチドを、A1:B1オリゴヌクレオチドの対応する二本鎖末端に空間的に十分に近接させることができ、これによって鎖置換が起こる。本実施例のバッチでは、C1オリゴヌクレオチドとA1鎖の5’オーバーハングの結合によって複合体が形成され、バリアント1を使用した場合とバリアント2を使用した場合のいずれでも、複合体化したC1オリゴヌクレオチドは、ほぼ同程度の距離でA1:B1二本鎖の末端に空間的に近接した。しかし、鎖置換の速度に差が見られたことから、同じ空間的近さでも、中間複合体の結合の安定性が高いほど、鎖置換反応の効率が増加しうることが示された。これによって、平衡はより速くにシフトしうる。
以下の実施例において、指数関数的な増幅の実施形態をそれぞれ示す。これらの実施例は、指数関数的な増幅の各要素の機能を説明することを目的として示したものであり、本発明をなんら限定するものではない。以下の方法は等温条件で実施される。
指数関数的な増幅において、ポリメラーゼ依存的核酸合成は、核酸依存的鎖置換と同時に進行させる。反応バッチは、ポリメラーゼと、基質としてのdNTPを含む。C1オリゴヌクレオチドの代わりに、ポリメラーゼ活性を局所的にブロックするヌクレオチド修飾を含むアクチベーターオリゴヌクレオチドを使用するが、このヌクレオチド修飾が含まれていることによって、増幅中にアクチベーターオリゴヌクレオチドが鋳型として作用することが阻止される。各増幅反応において2種のプライマー、すなわち第1のプライマーオリゴヌクレオチドと第2のプライマーオリゴヌクレオチドを使用する。第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、アクチベーターオリゴヌクレオチドに特異的に結合することができるポリヌクレオチドテールを含み、これによって、増幅対象の核酸の二本鎖末端に空間的に近接することができ、第2のプライマーの伸長産物の鎖置換を行うことができる。第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントに結合することができ、これによって、第2のプライマーの伸長産物の合成が開始される。
実施例2:
本実施例は、等温条件下における人工のDNA断片の指数関数的増幅を実証する。この増幅において、新たに合成された鎖は、相補的パートナー鎖を合成するための鋳型として機能する。この合成は、特異的な鋳型の存在に依存して起こる。増幅対象の核酸は、使用した鋳型の最初の量の約109倍に増幅される。
出発物質: 鋳型:
増幅対象の核酸の一部として、一本鎖DNAの鋳型を使用した。鋳型001(配列番号12)の配列を無作為に選択し、いわゆるヘアピン構造の形成を阻止するため、自己を鋳型として二本鎖を形成するような極端に長い(6塩基を超える)配列が含まれていないことを確認した。このDNA配列は、製造会社によって人工的に合成されたものであった。また、このDNA配列は、ヌクレオチド修飾を含んでいない。この鋳型鎖の3’末端は遊離の状態であり、3’末端のブロックは行わなかった。この鋳型は、増幅対象の一本鎖核酸の一例として機能するものである。
一方の鎖として鋳型001を含む二本鎖DNAにおいて測定された融解温度は、77℃である(溶液1中で測定したTm)。
プライマー1(第1のプライマーオリゴヌクレオチド)
第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、2’-O-Me修飾ヌクレオチド(角括弧([])内に示す)とDNAヌクレオチド(3’セグメントおよび場合に応じて5’セグメント)を含み、3’末端ヌクレオチドの3’-OH基はブロックされていなかった。このオリゴヌクレオチドは、TAMRA色素で修飾されたdTヌクレオチド(配列においてT
*で示す)を11番目に有する。
プライマー2(第2のプライマーオリゴヌクレオチド)
このプライマーは、第2鎖の合成を開始するために必要である。9番目~27番目のヌクレオチド配列は鋳型001と同一である。
アクチベーターオリゴヌクレオチド001-01
このアクチベーターオリゴヌクレオチドは、2’-O-Me修飾ヌクレオチド(角括弧([])内に示す)と、(3’末端セグメントに)DNAヌクレオチドを含む。3’末端ヌクレオチドの3’-OH基は、リン酸残基(配列中にXで示す)でブロックした。このオリゴヌクレオチドは、製造会社によって化学的に合成されたものであった。第1のプライマーの伸長産物に相補的に結合することができる配列を下線で示す。相補的な核酸塩基がこのように連続的に並んでいることによって、鎖置換が可能となる。各ヌクレオチドおよび各修飾ヌクレオチドは、ホスホジエステル結合で互いに連結されている。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは以下の3つの領域を含む。
第1の領域=35番目~50番目
第2の領域=28番目~34番目
第3の領域=1番目~27番目
以下の成分を使用して反応混合物を調製した。
・鋳型001: 2fmol/l
・アクチベーターオリゴヌクレオチド001-01:10μmol/l
・プライマー001-01: 10μmol/l
・プライマー001-02: 10μmol/l
以下のさらなる反応成分を増幅反応溶液2として使用した。
・グルタミン酸カリウム、50mmol/l、pH8.0
・酢酸マグネシウム、10mmol/l
・dNTP(dATP、dCTP、dTTP、dGTP)、各200μmol/l
・ポリメラーゼ(Bst 2.0 WarmStart、120,000U/ml、NEB)、12U/10μl
・TritonX-100、0.1%(v/v)
・EDTA、0.1mmol/l
・TPAC(テトラプロピルアンモニウムクロリド)、50mmol/l、pH8.0
・EvaGreen色素(この色素はメーカーの説明書に従い1:50に希釈して使用した)
反応の開始および反応条件
反応混合物の調製は室温で行った。鋳型は最後に反応バッチに添加した。コントロールバッチには鋳型を加えなかった。
このようにして調製した各反応混合物を、蛍光検出機能を備えた恒温装置中の適切な反応容器(マイクロウェルプレート)に移した。恒温装置として、リアルタイムPCR装置(「StepOne Plus」、StepOneソフトウェアv2.1、ABI、サーモフィッシャー)を使用した。反応混合物を65℃に加熱することによって反応を開始した。
増幅工程全体(40分間)を通して反応温度を一定(65℃)に保った(等温増幅)。次に反応混合物を95℃で10分間加熱した。反応中、EvaGreen色素の蛍光シグナル強度を記録した。測定間の時間間隔は1分間とした。
評価: 予想されるプライマー伸長産物:
鋳型001を元に第1のプライマーを伸長した後に得られることが予想される第1のプライマーの伸長産物001-01(配列番号16)を以下に示す。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドにおいて2’-O-Meで修飾した領域を下線で示す。下線を引いていない領域は2’-デオキシリボヌクレオチド(DNA)である。
この第1のプライマーの伸長産物は、3’末端領域において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドと相補的に結合することができ、したがって、第2のプライマーの伸長産物を合成するための鋳型として機能する。
第2のプライマーの伸長産物の合成は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの修飾領域まで行われる。この合成では、修飾領域の直前において、またはいくつかの修飾ヌクレオチドが複製された後にポリメラーゼを停止させることができる。第1のプライマーの伸長産物を鋳型として使用して得られることが予想される第2のプライマーの伸長産物001-02(配列番号17)を以下に示す。
この配列において、第1のプライマーの伸長産物の配列を元に第2のプライマーの伸長産物を最大限に伸長した場合に予想される3’末端側の4個のヌクレオチドを下線で示す。これらのヌクレオチドは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの2’-O-Me修飾ヌクレオチドのいくつかに相補的な残基である。ポリメラーゼによる合成は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの修飾領域の手前、またはいくつかの修飾ヌクレオチドが複製された後に停止することができるため、ポリメラーゼは、反応条件下で前記配列よりも短い鎖を合成する場合があり、この結果、様々なプライマー伸長産物の混合物が生じることがある。したがって、このようなプライマー伸長産物は短いものとなる(プライマー伸長産物の混合物は、たとえば、1番目~52番目の残基からなる伸長産物、1番目~53番目の残基からなる伸長産物、1番目~54番目の残基からなる伸長産物、または1番目~55番目の残基からなる伸長産物を含む)。増幅可能な第2のプライマーの伸長産物がいずれも第1のプライマーオリゴヌクレオチドと結合することができ、かつ第1のプライマーの伸長産物を合成するための鋳型として機能する限り、第2のプライマーの伸長産物の合成の終点の正確な位置、すなわち、合成が終了した時点での第2のプライマーの伸長産物の3’末端までの正確な長さは、それほど重要ではない。第2のプライマーの伸長産物がポリメラーゼ依存的に複製されることによって、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントに相補的な配列を含むさらなる第1のプライマーの伸長産物が形成される。
指数関数的な増幅の結果、相補的二本鎖を形成することができる2種のプライマー伸長産物が形成される。
最大限に伸長された前記2種のプライマー伸長産物からなる二本鎖の予想される構造を以下に示す。
指数関数的な増幅が起こる過程で、指数関数的な増幅の主産物であるこれらのプライマー伸長産物が蓄積する。したがって、増幅された鎖は、増幅対象の核酸の配列を示す。増幅された鎖は、反応で使用した鋳型の配列も含む。2’-O-Meで修飾された領域を下線で示す。下線を引いていない領域は2’-デオキシリボヌクレオチド(DNA)である。
反応中に形成された二本鎖は、EvaGreen色素に結合することができることから、反応が進むに従ってEvaGreen色素のシグナル強度が上昇する。
シグナル強度の経過を図30に示す。矢印1は、鋳型との反応のシグナルの経過を示す。矢印2は、鋳型を使用していない反応の経過を示す。鋳型001を含む反応において、初期のプラトー段階の後、約30分後から蛍光シグナルの増加が観察された。鋳型001を使用していないコントロール反応では、40分間の記録時間全体を通してシグナル強度の変化は観察されなかった。基底レベルの蛍光強度の連続的な上昇は、プライマー001-01に蛍光マーカー(11番目のdT-TMR)が含まれていることによる。
シグナルの由来を確認するため、両方の反応から得たアリコートをキャピラリー電気泳動(CE)で解析した。第1のプライマーオリゴヌクレオチドは蛍光マーカー(11番目のdT-TMR)を含んでいたことから、キャピラリー電気泳動(CE)において蛍光シグナルを記録することができた。キャピラリー電気泳動(CE)の結果を図31に示す。
図31(A)において、コントロール反応のキャピラリー電気泳動(CE)の経過を示す。未反応のプライマー001-01に帰属するピークが確認できる。図31(B)において、鋳型との反応におけるキャピラリー電気泳動(CE)の経過を示す。未反応のプライマー001-01に相当するピーク(1)と、右方向に約460CEユニット分シフトした別のピーク(2)(プライマー001-01よりも長い分子に相当)が確認できる。並行して行ったコントロール実験において、所定のCE条件下では、約10.2~10.3CEユニット長が1ヌクレオチドの配列差に相当することが分かった。したがって、キャピラリー電気泳動(CE)において測定されたピーク(1)とピーク(2)の間の距離から、分離された標識配列間の長さが約44~45ヌクレオチド長であることが分かる。この配列の長さの差は、指数関数的な増幅において予想される第1のプライマーの伸長産物(配列番号20)の伸長された部分の長さに相当し、この伸長された部分の長さは45ヌクレオチド長である。
ピーク(2)のシグナルの強度から、最初に使用したプライマー001-01の50%未満が反応において伸長されたことが分かる。消費されたプライマーのシグナル強度から、増幅産物の濃度は約1μmol/l~2μmol/lであると推定された。したがって、プライマー001-01の消費量から測定された収率は、約10~20%であった。
したがって、この指数関数的な増幅では、増幅対象の配列の増幅が鋳型の誘導によって起こり、鋳型001の初期濃度は2fmol/lに相当し、増幅反応産物の濃度は約1~2μmol/lと推定された。したがって、この結果から算出された増幅率は約5×108~109である。この指数関数的な増幅は等温条件下で進行した。
指数関数的な反応の結果は、鋳型およびアクチベーターオリゴヌクレオチドの存在だけでなく、プライマー1、プライマー2、ポリメラーゼ、dNTPおよび適切な緩衝条件にも左右される。さらに、指数関数的な反応は、反応に関与する各核酸成分、すなわち、アクチベーターオリゴヌクレオチド、プライマー1およびプライマー2の配列組成にも左右される。以下、これらの成分の構造と作用の原理について説明する。
配列の設計に関する説明
鋳型:
増幅対象の核酸の配列を出発点として、プライマー1、プライマー2およびアクチベーターオリゴヌクレオチドの配列を設計する。増幅対象のこの核酸は、特異的な増幅の対象となる標的配列を含む。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドから伸長されることが予想される伸長産物の配列の長さは、45ヌクレオチド長である。第1のプライマーの伸長産物の全長は65ヌクレオチド長である。予想される伸長産物の長さは25~29ヌクレオチド長である。第2のプライマーの伸長産物の全長は、(第2のプライマーの伸長産物の合成におけるポリメラーゼターミネーターの位置によれば)52~56ヌクレオチド長である。増幅対象の核酸の相補的二本鎖は、第1のプライマーの伸長産物および第2のプライマーの伸長産物から構成されるため、その全長は52~56ヌクレオチド長である。第1のプライマーの伸長産物は、その5’末端セグメントに、第1のプライマーオリゴヌクレオチドのポリヌクレオチドテールに相当する一本鎖領域を有する。
本実施例における増幅対象の核酸の配列の長さは十分に長いため、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物の反応において形成される特異的な二本鎖の融解温度は約78℃となり、これは、65℃の反応温度よりも高い。この反応において形成される二本鎖は実質的に安定であり、自然には一本鎖に解離しないと考えられる。
プライマー1
第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、第1のプライマー領域と第2の領域を含み、第2の領域は、ポリメラーゼによって複製されず、アクチベーターオリゴヌクレオチドに結合することができるポリヌクレオチドテールを含む。
第1のプライマー領域:
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの14番目~20番目が第1のプライマー領域を構成する。
プライマー001-01の3’末端側のヌクレオチド(14番目~20番目)は、鋳型に特異的に結合し、プライマー伸長反応を起こす。したがって、この位置の配列は鋳型001(38番目~44番目)に適合する。3’末端のこの7個のヌクレオチドはDNAヌクレオチドであり、ホスホジエステル化合物によって連結されている。このセグメントは、第1鎖の合成においてポリメラーゼによるプライマーの伸長を開始し、ポリメラーゼによる第2鎖の合成の鋳型として機能することによって、このセグメントに対応する相補鎖を形成することができる。
第2のプライマー領域:
5’末端側の第2の領域(1番目~13番目)は、第1のプライマー領域に付加されている。第2の領域の構造は、特に、ポリメラーゼによるポリヌクレオチドテールの複製によって第2鎖が合成されることを阻止することができる。さらに、第2の領域の構造は、アクチベーターオリゴヌクレオチドに結合して、鎖置換を補助することができる。これらの理由から5’-3’ホスホジエステル結合で互いに連結された2’-O-メチル修飾ヌクレオチドを主に使用した(4番目~10番目および12番目~13番目)。この2’-O-メチル修飾ヌクレオチドは、ポリメラーゼによるポリヌクレオチドテールの複製を阻害することができる修飾の一例である。
プライマー001-01の5’末端側ヌクレオチド(1番目~9番目)の配列は、無作為に選択し、この際、広範な自己相補型セグメントが存在しないこと、増幅対象の鋳型に相補的な結合部位を持たないこと、および隣接した複数のGヌクレオチドが存在しないこと、すなわち、G四重鎖が形成されないことに注意を払った。10番目~13番目は鋳型001に相補的であり、特に、第1の領域と鋳型の結合を補助することができる。
1番目~9番目の配列はポリヌクレオチドテールとして機能し、反応中にアクチベーターオリゴヌクレオチドと結合することができ、これによって、アクチベーターオリゴヌクレオチドを二本鎖末端に空間的に近接させて、鎖置換を行うことができる。1~3番目はDNAヌクレオチドで構成され、4~9番目は2’-O-Me修飾ヌクレオチドである。各ヌクレオチドまたは各修飾ヌクレオチドは、互いにホスホジエステル結合で連結されている。
本実施例において、ポリヌクレオチドテールを有する第2の領域と第1のプライマー領域の間の移行部は滑らかであり、第2の領域は、ホスホジエステル結合によって第1の領域に直接連結されている。このような構成であると、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる二本鎖末端の鎖置換の開始に有利である。第1の領域と第2の領域は同じ方向、すなわち、5’末端から3’末端の方向に整列している。ポリヌクレオチドテールを有する第2の領域は5’末端セグメントに位置し、第1のプライマー領域は3’末端セグメントに位置する。
第2の相補鎖の合成中、ポリメラーゼは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの13番目において、ポリメラーゼの合成の進行をブロックまたは抑制する2’-O-メチル修飾ヌクレオチドに遭遇する。(2’-O-Me修飾ヌクレオチドが鋳型鎖に挿入されている場合において)1個の2’-O-Me修飾ヌクレオチドに遭遇したとしても、ポリメラーゼによる合成が必ずしも完全にブロックされるわけではないが、これ以降の合成は難しくなるか、あるいは減速する。複数の修飾ヌクレオチドが連続して結合されていることから、ポリメラーゼの合成能を抑制することができ、以降のポリヌクレオチドテールは複製されない。第2の領域(ポリヌクレオチドテール)において複製されていないヌクレオチドまたは修飾ヌクレオチドが十分に残されており、反応条件下でアクチベーターオリゴヌクレオチドに結合して鎖置換を成功裏に開始することができるのであれば、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域において1個の2’-O-メチル修飾ヌクレオチドが複製された後にポリメラーゼが完全に阻害されるのか、あるいは、複数個の2’-O-メチル修飾ヌクレオチドが複製された後にポリメラーゼが完全に阻害されるのかということは二次的な重要性しかない。
説明のための一例として、ポリメラーゼは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの10番目までを含むように複製することができるが、これに限定されない。すなわち、第1のプライマー領域に隣接する第2の領域のセグメントは、ポリメラーゼによって部分的に複製される。したがって、図面では、第2の領域の4番目までのヌクレオチドがポリメラーゼによって複製されると考えられる。第2の領域の残りの位置のヌクレオチドは複製されず、アクチベーターオリゴヌクレオチドに特異的に結合することができる。
プライマー2:
プライマー2は第2鎖の合成の開始に必要である。9番目~27番目のヌクレオチド配列は鋳型001と同一である。増幅の開始時において、これらの位置のヌクレオチドは、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントに相補的に結合し、これによって、第2鎖の合成が開始される。プライマー2は、通常の5’-3’ホスホジエステル結合で互いに連結されたDNAヌクレオチドからなる。本実施例において、第2のプライマーの5’末端セグメントは、増幅の開始時にオーバーハング(1番目~8番目)を形成しているが、このオーバーハングは、ポリメラーゼによって複製することができる。反応過程において、増幅対象の核酸鎖は、第2のプライマーの5’オーバーハングによって伸長される。
プライマー2は、第1のプライマーの伸長産物を鋳型として使用するため、第1のプライマーの伸長産物の複製可能な部分はポリメラーゼによって複製される。その結果、第2のプライマーは伸長され、第1のプライマーの伸長産物の複製可能なセグメントにおいて二本鎖が形成される。しかしながら、第1のプライマーの第2の領域のポリヌクレオチドテールは複製されない。第2のプライマーの伸長産物は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドに相補的に結合可能な配列を3’末端セグメントに含む。
アクチベーターオリゴヌクレオチド:
第1の領域:
第1の領域(35番目~50番目)は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域(1番目~13番目)に相補的な配列(35番目~47番目)を含む。3’末端の3個のヌクレオチドが3’オーバーハングを形成し、本発明の実施例では、特別な機能を有していない。本実施例における第1の領域は、通常の5’-3’ホスホジエステル結合によって連結された2’-デオキシリボヌクレオチドからなる。3’末端のOH基はリン酸残基によってブロックされており、したがって、ポリメラーゼによって伸長することができない。
第2の領域:
アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域(14番目~20番目)に相補的な配列(28番目~34番目)を含む。アクチベーターオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントにある第2の領域は、2’-O-メチル修飾ヌクレオチド(28番目~32番目)を含む。34番目と35番目は、2’-デオキシリボヌクレオチドで構成されている。各ヌクレオチドまたは各修飾ヌクレオチドは、通常の5’-3’ホスホジエステル結合で互いに連結されている。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域と第2の領域は、通常の5’-3’ホスホジエステル結合で互いに滑らかに連結されている。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域と第2の領域の配列の長さおよびその特性は、反応条件下において第1のプライマーオリゴヌクレオチドがアクチベーターオリゴヌクレオチドに可逆的に結合することができるように、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの相補的領域に適合している。したがって、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドにおいて、遊離状態の一本鎖形態と、結合状態の二本鎖形態の間で平衡が成り立つ。
第3の領域:
アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域は、増幅中にポリメラーゼによって合成されると予想される第1のプライマーの伸長産物(21番目~39番目)のセグメントに相補的な配列(9番目~27番目)を含む。第3の領域は、その全長にわたって2’-O-メチル修飾ヌクレオチド(1番目~27番目)からなる。各修飾ヌクレオチドは、通常の5’-3’ホスホジエステル結合で互いに連結されている。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域と第3の領域は、通常の5’-3’ホスホジエステル結合で互いに滑らかに連結されている。5’末端の8個の修飾ヌクレオチド残基は、第1のプライマーの伸長産物に非相補的な5’オーバーハングを形成している。
アクチベーターオリゴヌクレオチドの9番目~47番目の配列は、第1のプライマーの伸長産物の一部(1番目~39番目)と相補的二本鎖を形成することができるように構成されている。アクチベーターオリゴヌクレオチドの1番目~9番目および48番目~50番目は、第1のプライマーの伸長産物との二本鎖の形成に関与しない。これと同時に、アクチベーターオリゴヌクレオチドの28番目~47番目の配列は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドと相補的二本鎖を形成することができるように構成されている。したがって、第1のプライマーの3’末端は、アクチベーターオリゴヌクレオチドに相補的に結合することができる。ポリメラーゼによって第1のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端が伸長されないように、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、ポリメラーゼの合成作用を阻止するヌクレオチド修飾を含んでいる。本実施例において、ポリメラーゼの合成作用を阻止するヌクレオチド修飾は、2’-O-メチルヌクレオチド修飾である。本実施例において、アクチベーターオリゴヌクレオチドの1番目~32番目は、2’-O-メチル修飾ヌクレオチドからなる。したがって、正確なハイブリダイゼーションが行われた場合、第1のプライマーの3’末端は、ヌクレオチド修飾を含む配列セグメントに結合する。アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドの間の相互作用がこのように構成されているため、アクチベーターオリゴヌクレオチドに相補的に結合した第1のプライマーオリゴヌクレオチドの望ましくない伸長を阻止することができる。アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域は修飾が付加されていることから、ポリメラーゼによる非特異的な伸長が起こる可能性を予防的に大幅に低減することもできる。鎖置換を促進するために、第1のプライマーの伸長産物の配列内の結合パートナーに相補的な配列を、アクチベーターオリゴヌクレオチドの各セグメントにおいて使用している。配列のミスマッチや、核酸塩基を持たない修飾(たとえばC3リンカーやC18リンカー)による核酸鎖の乱れが存在すると、鎖置換の効率および/またはその速度が低下することがあるため、このような構造バリアントは本実施例において使用しなかった。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、反応条件下において、第1のプライマーの伸長産物のポリヌクレオチドテールとの結合を介して、増幅対象の核酸の二本鎖と接触する。本実施例において、反応条件下の結合は可逆的であることが好ましい。したがって、反応の初期では、第1のプライマーの伸長産物と鋳型001からなる二本鎖が形成され、反応の後期では、第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物からなる二本鎖が形成される。
アクチベーターオリゴヌクレオチドは、十分な収率でプライマー伸長産物同士を分離させる鎖置換を実施するのに十分な特性および長さを有する。プライマー伸長産物同士が十分に分離されることによって、プライマー結合部位を有する配列部分を持つ各プライマー伸長産物の配列セグメントが、それぞれに対応する相補的プライマーオリゴヌクレオチドに確実に結合することができる。本実施例において、アクチベーターオリゴヌクレオチドの長さは50ヌクレオチド長であり(デオキシリボヌクレオチドと修飾ヌクレオチドからなり)、このうちの39残基は第1のプライマーの伸長産物に相補的に結合することができる。したがって、アクチベーターオリゴヌクレオチドは、反応条件下での鎖置換を介して、反応の初期において鋳型001を少なくとも部分的に引き剥がすことができ、反応の後期では、第1のプライマーの伸長産物に結合している第2のプライマーの伸長産物を引き剥がすことができる。
したがって、鋳型001および第2のプライマーの伸長産物はそれぞれ、完全または部分的に一本鎖の形態になり、この結果、第1のプライマーオリゴヌクレオチドが相補的配列セグメントに新たに結合することができ、ポリメラーゼによって伸長することが可能となる。本実施例では、第3の領域は、第1のプライマーの伸長産物の5’末端側のセグメントにのみ結合することができる。本実施例では、この相補的セグメントの長さは19ヌクレオチド長である。
第1のプライマーの伸長産物の3’末端側の配列部分は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと結合しなかった。第1のプライマーの伸長産物の3’末端側セグメントは一本鎖の形態であり、第2のプライマーオリゴヌクレオチドと結合して、プライマー伸長反応を起こすことができる。この反応において、別の第2のプライマーオリゴヌクレオチドを第1のプライマーの伸長断片に結合させるためには、第1のプライマーの伸長産物の3’末端側のセグメントを一本鎖の形態に変換し、鋳型または第2のプライマーの伸長産物との結合から分離する必要がある。本実施例では、反応条件下の等温反応において、合成された第1のプライマーの伸長産物および合成された第2のプライマーの伸長産物をそれぞれ分離することによってこれを達成している。アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換反応において、第1のプライマーの伸長産物、アクチベーターオリゴヌクレオチドおよび第2のプライマーの伸長産物からなる、鎖置換反応の中間産物が形成される。この中間産物中において、第2のプライマーの伸長産物は、第1のプライマーの伸長産物の3’末端側のセグメントに相補的に結合している。しかし、この二本鎖の安定性は、完全に結合した第2のプライマーの伸長産物と比較して大幅に低い。反応条件下では、この二本鎖は自然に分離し(第1のプライマーの伸長産物と第2のプライマーの伸長産物の解離)、第2のプライマーの伸長産物が第1のプライマーの伸長産物から完全に分離する。第2のプライマーの伸長産物から分離した直後の第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントは一本鎖の形態をとる。
第1のプライマーの伸長産物の3’末端の一本鎖セグメントは、鋳型と第2のプライマーの伸長産物の両方に接触することができ、第2のプライマーオリゴヌクレオチドに結合することができる。使用する第2のプライマーオリゴヌクレオチドがモル過剰量で存在するため、第2のプライマーオリゴヌクレオチドと接触する可能性の方がかなり高くなる。特に、これは反応の初期において顕著であり、本実施例では鋳型を1fmol/lの濃度で使用して反応を開始する。指数関数的な増幅の1回目の複製サイクルでは、合成された第2のプライマーの伸長産物の濃度は、長時間にわたって1μmol/lを下回る大幅に低い濃度のままである。これに対して、第2のプライマーオリゴヌクレオチドは10μmol/lの濃度で使用される。したがって、特に指数関数的な増幅の初期において、鋳型や合成された第2のプライマーの伸長産物と比べて第2のプライマーオリゴヌクレオチドが1010倍の過剰量となる。増幅の後期では、高濃度で存在する第2のプライマーの伸長産物が、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントに対する結合において競合し、反応を減速させることができる。
実施例3:
増幅反応の特異性の検証
本実施例では、鋳型配列の変更が増幅に及ぼす影響を調査した。鋳型の中央の領域から3個のヌクレオチドを欠失させた。プライマーの結合に必須の末端領域は実施例2と同じ設計とした。第1のプライマーオリゴヌクレオチドを伸長すると、鋳型の配列に相補的な相補鎖が形成され、したがって、この相補鎖の配列中にも前記欠失が含まれる。このようにして、形成された第1のプライマーの伸長産物とアクチベーターオリゴヌクレオチドの間でのこのようなミスマッチが増幅に及ぼす影響を検証した。これらの配列の設計は実施例2に記載した通りに行った。
以下の鋳型を使用した。
・アクチベーターオリゴヌクレオチドと完全にマッチする第1のプライマーの伸長産物を形成する配列組成を有する鋳型(配列番号21):
・アクチベーターオリゴヌクレオチドとミスマッチを有する第1のプライマーの伸長産物を形成する配列組成を有する鋳型(配列番号22):
これらの鋳型において、各プライマー結合部位は同一であり、プライマーオリゴヌクレオチドによる第1のプライマーの伸長反応を開始できると予想される。
したがって、第1のプライマーオリゴヌクレオチドおよび第2のプライマーオリゴヌクレオチドの各プライマー伸長産物においても相違する位置が出てくると予想される。また、この相違する残基は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の5’末端セグメントに位置する。
以下のプライマーを使用した。
・第1のプライマーオリゴヌクレオチド(配列番号23):
・第2のプライマーオリゴヌクレオチド(配列番号24):
以下のアクチベーターオリゴヌクレオチド002-01(配列番号25)を使用した。
各ヌクレオチドまたは各修飾ヌクレオチドは、互いにホスホジエステル結合で連結されている。ポリメラーゼによる伸長を阻止するため、3’末端はリン酸基でブロックされている。
完全にマッチした配列組成を有する鋳型は、1nmol/l、1pmol/lおよび1fmol/lの濃度で使用した。
ミスマッチを有する配列組成の鋳型は、1nmol/lの濃度で使用した。
コントロール反応では、鋳型を使用しなかった。その他の反応条件は実施例2と同様とした。反応の結果を図32に示す。
完全にマッチした鋳型(配列番号21)を使用した場合、プライマー伸長産物の相補鎖が合成される。この伸長産物は、完全にマッチした鋳型および使用したアクチベーターオリゴヌクレオチドの両方に相補的である。このような構成については、実施例2において詳細に述べている。このような構成の使用は、増幅を成功させるための基礎となる。
これに対して、第1のプライマーの伸長産物の合成においてミスマッチ配列(配列番号22)を使用した場合、伸長産物の相補鎖は形成されるものの、ミスマッチを有する鋳型に完全に相補的であることから、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域には相補的でなくなる。このような部分的に非相補的な配列は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと反応して鎖置換を進行させることができる部位である、第1のプライマーの伸長産物の5’末端側セグメントにおいて見られる。本実施例で示したように、アクチベーターオリゴヌクレオチドに対応する部位において3個のヌクレオチドが欠失していることから、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換が妨害される。
図32は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の間での配列の差異が及ぼす影響を示す。ミスマッチを有する鋳型を元に合成されたプライマー伸長産物の配列とアクチベーターオリゴヌクレオチドの配列との間で3つの残基位置に差異があったことから、アクチベーターオリゴヌクレオチドと鋳型または第1のプライマーの伸長産物との間における相補塩基の順序のマッチングの程度に増幅が依存することが示された。伸長産物の前記領域から3個の塩基を欠失しただけで、増幅量が抑制され、本実施例では、ネガティブコントロールよりも低くなった。
完全にマッチした鋳型を使用したコントロール反応(矢印1~3)から、増幅が濃度依存性に進行することが示された。濃度を低下させた反応では、ベースラインレベルを超えるシグナルが得られる十分な量にまで増幅対象の核酸を合成するのにより長い時間を要した。
鋳型を使用しなかったネガティブコントロール反応でも、シグナルの増加が示されたが、シグナルが増加するまでの時間は、完全にマッチした鋳型を使用した反応と比べて有意に遅延した。
図32の矢印はそれぞれ以下を示す。
・1nmol/lの濃度の完全にマッチした鋳型(配列番号21)(矢印1)
・1pmol/lの濃度の完全にマッチした鋳型(配列番号21)(矢印2)
・1fmol/lの濃度の完全にマッチした鋳型(配列番号21)(矢印3)
・ネガティブコントロール:鋳型なしの反応(矢印4)
(2つのコントロール反応を示し、いずれも鋳型を使用せずに行った)
・1nmol/lの濃度の、ミスマッチを有する鋳型(配列番号22)(矢印5)
この結果から、アクチベーターオリゴヌクレオチドの塩基組成が重要であることが示された。すなわち、アクチベーターオリゴヌクレオチドとプライマー伸長産物との間において相補性が部分的に失われると、増幅速度が低下したり、さらには増幅が阻害されうる。
本実施例において、完全にマッチした鋳型とミスマッチを有する鋳型の間で末端の配列が同じ場合、プライマーオリゴヌクレオチドはいずれの鋳型にも同等に結合することができるが、これらの鋳型による反応は全く異なることが示された。アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の5’末端セグメントとの間で完全な相補性がある場合、増幅は計画したように進行した。一方、配列差異(本実施例の場合、第1のプライマーの伸長産物の5’末端セグメントにおいて3個のヌクレオチドが欠失している)によって鎖置換が阻害され、この結果、増幅が大幅に抑制された。
実施例4:
別の適切なアクチベーターオリゴヌクレオチドと別の鋳型配列の使用
まず、プライマー1結合部位とプライマー2結合部位の間にレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)のMIP遺伝子配列を含む、49ヌクレオチド長の人工配列(配列番号26)(鋳型003-01)を合成した(ユーロフィン)。コントロールとして、アクチベーターオリゴヌクレオチドとミスマッチ(5個のヌクレオチド)を有する第1のプライマーの伸長産物を生じる配列組成を有する鋳型003-02(配列番号27)を合成した(ユーロフィン)。この新たな鋳型003を増幅するため、2種のプライマー(プライマー1、すなわち第1のプライマーオリゴヌクレオチド(実施例2の配列番号13と同一)と、プライマー2、すなわち第2のプライマーオリゴヌクレオチド(配列番号28))、および鋳型003-01に適したアクチベーターオリゴヌクレオチド(配列番号29)を作製した。これらの配列の設計は実施例2と同様に行った。
以下の鋳型を使用した。
・アクチベーターオリゴヌクレオチドと完全にマッチする第1のプライマーの伸長産物を形成する配列組成を有する鋳型003-01(配列番号26):
L.ニューモフィラのMIP遺伝子の配列セグメントを下線で示す。この鋳型はDNAヌクレオチドからなる。
・アクチベーターオリゴヌクレオチドとミスマッチを有する第1のプライマーの伸長産物を形成する配列組成を有する鋳型(配列番号27):
L.ニューモフィラのMIP遺伝子の配列セグメントを下線で示す(このセグメントは配列番号26よりも5ヌクレオチド短い)。この鋳型はDNAヌクレオチドからなる。
これらの鋳型において、各プライマー結合部位は同一であり、各プライマーオリゴヌクレオチドによる第1のプライマーの伸長反応を開始できると予想することができる。
この相違する位置は、第1のプライマーの伸長産物の合成において、ポリメラーゼによって合成される領域内にある。また、この相違する残基は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の5’末端セグメントに位置する。したがって、第1のプライマーオリゴヌクレオチドおよび第2のプライマーオリゴヌクレオチドの各プライマー伸長産物においても相違する位置が出てくると予想される。
以下のプライマーを使用した。
第1のプライマーオリゴヌクレオチド(配列番号13)は、実施例2のプライマー1と同一のものである。
プライマー1
プライマー001-01(20ヌクレオチド長):
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの配列を以下に示す。
2’-O-Meで修飾された領域を下線で示す。下線を引いていない領域は2’-デオキシリボヌクレオチド(DNA)である。
・第2のプライマーオリゴヌクレオチド(配列番号28):
第1のプライマーオリゴヌクレオチドおよび第2のプライマーオリゴヌクレオチドは、両方の鋳型(配列番号26および配列番号27)の各プライマー結合部位に結合することができる。
以下のアクチベーターオリゴヌクレオチド003(配列番号29)を使用した。
3’末端側のセグメントの配列はDNAヌクレオチドからなる。
A=2’-デオキシアデノシン
C=2’-デオキシシトシン
G=2’-デオキシグアノシン
T=2’-デオキシチミジン(チミジン)
角括弧([])内に示した配列(9番目~58番目)は、ホスホジエステル結合で連結された2’-O-Me修飾ヌクレオチドで構成されており、それぞれ、2’-OMe A(2’-O-メチルアデノシン)、2’-OMe C(2’-O-メチルシトシン)、2’-OMe G(2’-O-メチルグアノシン)および2’-OMe U(2’-O-メチルウリジン)を示す。
5’末端側のヌクレオチド間(1番目~8番目)は、ホスホロチオエート結合(PTO)によって連結されており、ホスホロチオエート結合の位置をアスタリスク(*)で示す。
Xは、ポリメラーゼによる伸長をブロックするための3’末端リン酸基を示す。
ポリメラーゼによる伸長を阻止するため、3’末端はリン酸基でブロックされている。
反応開始時の鋳型(完全にマッチした鋳型およびミスマッチを有する鋳型)の濃度は10pmol/lであった。別のコントロール反応では鋳型を使用しなかった。反応は65℃で60分間行った。その他の反応条件は実施例1と同様とした。
結果
反応の経過を図33に示す。完全にマッチした鋳型を使用した反応では、35分後に蛍光シグナルの増加が観察される(矢印1)。ミスマッチを有する鋳型を使用した反応およびネガティブコントロールを使用した反応でもシグナルは検出されたが、シグナルの発生は有意に遅延した(それぞれ約45分後または約50分後)。
評価:
図33に示したシグナルの増加は、完全にマッチした鋳型003-01の存在と相関する。5個のヌクレオチドが欠失しているものの、同じプライマー結合部位および有意に類似したプライマー結合部位間セグメントを有する非常に類似した配列では、増幅の経過が異なり、ネガティブコントロールの範囲内に含まれた。
この差は以下の状況に起因する。完全にマッチした鋳型(配列番号26)を使用した場合、プライマー伸長産物の相補鎖が合成される。この伸長産物は、完全にマッチした鋳型および使用したアクチベーターオリゴヌクレオチド(配列番号29)の対応する部位の両方に相補的である。このような構成については、実施例1において詳細に述べている。このような構成の使用は、増幅を成功させるための基礎となる。
以下では、各配列を比較し、反応において適切な反応パートナーと相補的二本鎖を形成する各セグメントを明示した。
鋳型
プライマー1およびプライマー2:
(下線で示した第2のプライマーオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントは、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントに相補的に結合することができるが、この第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントは、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域に非相補的である。)
アクチベーターオリゴヌクレオチド
(鋳型003-01(配列番号14)を元に伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物に完全にマッチする、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域の位置を下線で示す。)
(鋳型003-01(配列番号14)を元に伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物に完全にマッチする、アクチベーターオリゴヌクレオチドの位置を下線で示す。)第1のプライマーオリゴヌクレオチドのプライマー伸長産物は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドとその伸長産物からなるため、このアクチベーターオリゴヌクレオチド断片は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物と相互作用する断片よりも長くなっている。
(完全にマッチした鋳型003-01から合成された)第1のプライマーの伸長産物と、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域および第3の領域からなるセグメントとの間において完全な相補性があることが分かる。このような構成であることから、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーの伸長産物との間で新たな二本鎖が形成され、これによって、鋳型鎖の鎖置換が十分に進行することができ、あるいは、第2のプライマーの伸長産物を形成することができる。この結果、増幅を達成することができる。
これに対して、第1のプライマーの伸長産物の合成においてミスマッチ配列(配列番号15)を使用した場合、伸長産物の相補鎖は形成されるものの、ミスマッチを有する鋳型に完全に相補的であることから、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域に部分的に相補的ではなくなる。このような部分的に非相補的な配列は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと反応して鎖置換を進行させることができる部位である、第1のプライマーの伸長産物の5’末端側セグメントにおいて見られる。本実施例で示したように、アクチベーターオリゴヌクレオチドに対応する部位において5個のヌクレオチドが欠失していることから、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換が妨害され、その結果、増幅が阻害される。
(鋳型003-02(配列番号26)を元に伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物に完全にマッチする、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域の位置を下線で示す。)
(鋳型003-01(配列番号27)を元に伸長された第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物に完全にマッチする、アクチベーターオリゴヌクレオチドの位置を下線で示す。)
ミスマッチを有する鋳型を元に形成された第1のプライマーの伸長産物と、アクチベーターオリゴヌクレオチド003との間では、相補的二本鎖の結合が阻害されると予想される。この阻害は、鋳型003-02(配列番号27)を元に伸長されたプライマー伸長産物の、鋳型003-02の欠失セグメントに相当する部位において起こる。この欠失部位に相当するプライマー伸長産物の部位は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域と第3の領域の間に相当する。
アクチベーターオリゴヌクレオチド003(配列番号29)との二本鎖形成の相補性において、完全にマッチした鋳型003-01を元に伸長された第1のプライマーの伸長産物と、ミスマッチを有する鋳型003-02を元に伸長された第1のプライマーの伸長産物との間で差が生じることが予想されることから、鎖置換反応においても差が生じると考えられ、ひいては増幅が阻害されると考えられる。
この結果から、アクチベーターオリゴヌクレオチドの塩基組成が重要であることが示された。すなわち、アクチベーターオリゴヌクレオチドとプライマー伸長産物との間において相補性が部分的に失われると、増幅が阻害されうる。
本実施例において、完全にマッチした鋳型とミスマッチを有する鋳型の間で末端の配列が同じ場合、プライマーオリゴヌクレオチドはいずれの鋳型にも同等に結合することができるが、これらの鋳型による反応は全く異なることが示された。アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の5’末端セグメントとの間で完全な相補性がある場合、増幅は計画したように進行した。一方、前述したように、配列差異(本実施例の場合、第1のプライマーの伸長産物の5’末端セグメントにおいて5個のヌクレオチドが欠失している)によって鎖置換が阻害され、この結果、増幅が抑制された。
実施例5:
本実施例では、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの別の構造バリアントを使用して、増幅対象の核酸鎖を指数関数的に増幅させることが可能であることを示す。これらの構造バリアントは、第2のプライマーの伸長産物の合成においてポリメラーゼを停止させるために使用される基が異なる。C3リンカー、C18リンカー(HEGリンカー(ヘキサエチレングリコールリンカー)としても知られている)またはIso-dC-5-Meのいずれか1つの修飾を、ポリメラーゼを停止させる基として使用した。
さらに、本実施例では、第1のプライマーの伸長産物に相補的な3’末端セグメントを有するプライマー2によって、第1のプライマーの伸長産物に結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドを部分的に引き剥がすことができ、これによって増幅を達成できることを示す。
この試験を行うため、実施例2に記載したものと同じ核酸を増幅対象の核酸として使用した。
アクチベーターオリゴヌクレオチド:
実施例2に記載したものと同じアクチベーターオリゴヌクレオチド001-01を使用した。
このアクチベーターオリゴヌクレオチドは、2’-O-Me修飾ヌクレオチド(角括弧([])内に示す)と、(3’末端セグメントに)DNAヌクレオチドを含む。3’末端ヌクレオチドの3’-OH基は、リン酸残基(配列中にXで示す)でブロックした。
以下の第1のプライマーオリゴヌクレオチドのバリアントを使用した。
以降の各位置は以下を示す。
A=2’-デオキシアデノシン
C=2’-デオキシシトシン
G=2’-デオキシグアノシン
T=2’-デオキシチミジン(チミジン)
修飾:
5=2’-OMe A(2’-O-メチルアデノシン)
6=2’-OMe G(2’-O-メチルグアノシン)
7=2’-OMe C(2’-O-メチルシトシン)
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの5’末端はTAMRA色素で修飾した(TMR修飾)。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域をそれぞれ下線で示す。
隣接する各ヌクレオチドおよび各修飾ヌクレオチドは、通常の5’-3’結合で連結した。前記修飾も5’末端から3’末端の方向に付加した。いずれの配列も、標準的な合成化学法(ホスホロアミダイト法)を使用して製造会社によって合成されたものであった。
以下の第2のプライマーオリゴヌクレオチドを使用した。
この第2のプライマーはDNAからなる。
反応混合物の調製および反応の開始は、実施例2と同様にして行った。
以下の成分を使用して反応混合物を調製した。
・鋳型001-01: 10pmol/l
・アクチベーターオリゴヌクレオチド001-01:10μmol/l
・各プライマー1: 10μmol/l
・プライマー001-02: 10μmol/l
以下のさらなる反応成分を、増幅反応溶液2として使用した。
・グルタミン酸カリウム、50mmol/l、pH8.0
・酢酸マグネシウム、10mmol/l
・dNTP(dATP、dCTP、dTTP、dGTP)、各200μmol/l
・ポリメラーゼ(Bst 2.0 WarmStart、120,000U/ml、NEB)、12U/10μl
・TritonX-100、0.1%(v/v)
・EDTA、0.1mmol/l
・TPAC(テトラプロピルアンモニウムクロリド)、50mmol/l、pH8.0
・EvaGreen色素(この色素はメーカーの説明書に従い1:50に希釈して使用した)
65℃の等温反応条件下で(図に示した)所定の時間にわたり増幅反応溶液2中で反応を行った。実施例2と同様にして反応中のEvaGreenの蛍光シグナルを記録した。反応中のシグナル強度を記録した結果を図34に示す。
評価:
前述した第1のプライマーオリゴヌクレオチドを使用することによって、以下の第1のプライマーの伸長産物が形成されると予想される。
それぞれの第1のプライマーオリゴヌクレオチドに対応する配列を「XXXXXXX」で示す。この配列の直後の予想される第1の伸長産物の配列(41nt)を示している。伸長産物を下線で示す。
等温条件下の指数関数的な増幅を補助する能力について、様々なプライマー1構造を試験した。この試験を行うため、ポリメラーゼを停止させる様々な基を第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域に組み込んだ。ポリメラーゼを停止させる様々な基として、C3リンカー、C18リンカー(HEGリンカー(ヘキサエチレングリコールリンカー)としても知られている)またはIso-dC-5-Meを使用した。第2のプライマーの伸長産物の合成において、第2のプライマーの伸長産物の合成が位置特異的に阻害され、第2の領域に含まれるポリヌクレオチドテールは複製されなかった。
各反応のシグナルプロファイルを図34に示す。配列番号30に示されるプライマー1(C3リンカー)を使用した反応を図34(A)に示す。配列番号31に示されるプライマー1(C18リンカー)を使用した反応を図34(B)に示す。配列番号32に示されるプライマー1(Iso-dC-5-Me)を使用した反応を図34(C)に示す。
第1のプライマーオリゴヌクレオチドの前記構造バリアントのいずれを使用した場合でも、指数関数的な増幅を達成することができた。第1のプライマーオリゴヌクレオチドを設計する際には、以下の点を考慮に入れた。
・第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域は、増幅対象の核酸に特異的に結合することができ、かつ使用するポリメラーゼによって伸長される検出可能なプライマー伸長反応を開始できるものでなければならない。
・第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1のプライマー領域は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第2の領域に相補的に結合でき、これによって鎖置換反応が効果的に実施できるものでなければならない。
・第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第2の領域は、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第1の領域に特異的に結合するポリヌクレオチドテールを含む。
・ポリメラーゼ依存的合成をブロックして合成を終わらせることができるか、あるいはポリメラーゼ依存的合成を停止させることができる第1のブロッキングユニットを、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの第1の領域と、第2の領域のポリヌクレオチドテールとの間に組み込むことによって、ポリメラーゼによるポリヌクレオチドテールの複製を阻止する。
・第1のプライマーオリゴヌクレオチドとアクチベーターオリゴヌクレオチドの結合は、使用する等温条件下で可逆的であると考えられる。したがって、選択された反応条件下において、第1のプライマーオリゴヌクレオチドは、一本鎖形態と、アクチベーターオリゴヌクレオチドに相補的に結合した形態との間で平衡状態にあると考えられる。
第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列長および配列組成を選択する際には、以下の点を考慮に入れた。
・第2のプライマーの全長に30個のヌクレオチドを含む。第2のプライマーオリゴヌクレオチドの配列の5番目~30番目は、第1プライマーの伸長反応の後に形成された第1のプライマーの配列特異的な伸長産物に相補的である。したがって、プライマー2は、第2のプライマーの伸長産物を形成させるためのプライマー伸長反応を開始することができる。
・本実施例の第2のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端セグメント(23番目~30番目)は、第1のプライマーの配列特異的な伸長産物に対する結合において、アクチベーターオリゴヌクレオチドと競合する。この3’末端セグメントは、アクチベーターオリゴヌクレオチドの対応するセグメントの核酸依存的鎖置換を引き起こすことができる。このような鎖置換において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの3’末端のヌクレオチドは、第1のプライマーの配列特異的な伸長産物と接触し、これによってポリメラーゼが、第2のプライマーの配列特異的な伸長反応を効果的に開始することができ、配列特異的な第2鎖を合成することができる。この合成は、ポリメラーゼによるアクチベーターオリゴヌクレオチドの鎖置換と同時に起こる。本実施例の前記3’末端セグメントの長さは、第1のプライマーオリゴヌクレオチドと相補的配列部分が重複しないように選択した。
・本実施例において、第2のプライマーオリゴヌクレオチドの5’末端セグメント(22ヌクレオチド、1番目~22番目)は、第1のプライマーの配列特異的な伸長産物の3’末端セグメントに相補的に結合することができる。この5’末端セグメントは、第1のプライマーの伸長産物に対する結合において、アクチベーターオリゴヌクレオチドと競合しないため、第1のプライマーの伸長産物に結合しているアクチベーターオリゴヌクレオチドの鎖置換を起こさない。第2のプライマーオリゴヌクレオチドの5’末端セグメントのTmは、第1のプライマーの配列特異的な伸長産物にアクチベーターオリゴヌクレオチドが完全に結合すると、第1のプライマーの配列特異的な伸長産物に結合している第2のプライマーの配列特異的な伸長産物が特定の温度下で自然に分離するように選択する。これらの鎖が分離されることによって、第1のプライマーの伸長産物の3’末端セグメントが一本鎖の形態になる。
実施例6:
鋳型中のヌクレオチドの変更が増幅反応速度に及ぼす影響
本実施例では、鋳型配列の変更が増幅に及ぼす影響を調査した。この実験では、1個のヌクレオチドモノマーを別のヌクレオチドモノマーと置換した。プライマーの結合に関与する末端領域は同一の設計とした。このようにして、形成された第1のプライマーの伸長産物と所定のアクチベーターオリゴヌクレオチドの間でのこのようなミスマッチの位置が増幅に及ぼす影響を検証した。配列の設計は、実施例2および実施例3と同様に行った。
以下の鋳型を使用した。
・アクチベーターオリゴヌクレオチドと完全にマッチする第1のプライマーの伸長産物を形成する配列組成を有する鋳型(配列番号21):
第1のプライマーオリゴヌクレオチドと結合する配列を下線で示す
さらに、アクチベーターオリゴヌクレオチドとミスマッチを有する第1のプライマーの伸長産物を形成する配列組成を有する別の複数の鋳型(配列番号36~38)を使用した。
これらの鋳型(完全にマッチした鋳型およびミスマッチが組み込まれた鋳型)のいずれでも、各プライマー結合部位は同一であり、各プライマーオリゴヌクレオチドによる第1のプライマーの伸長反応を開始することができる。
ポリメラーゼを使用して増幅を行い、変更を加えていない鋳型(配列番号21)を使用した場合と比較すると、増幅された配列に差が見られる。この差異は、第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の5’末端セグメントに位置する。
以下のプライマーを使用した。
・第1のプライマーオリゴヌクレオチド(配列番号23)
・第2のプライマーオリゴヌクレオチド(配列番号24):
以下のアクチベーターオリゴヌクレオチド002-01(配列番号25)を使用した。
各ヌクレオチドまたは各修飾ヌクレオチドは、互いにホスホジエステル結合で連結されている。ポリメラーゼによる伸長を阻止するため、3’末端はリン酸基でブロックされている。
完全にマッチした配列組成を有する鋳型は、1nmol/l、1pmol/lおよび1fmol/lの濃度で使用した。ミスマッチを有する配列組成の鋳型は、1nmol/lの濃度で使用した。
コントロール反応では、鋳型を使用しなかった。その他の反応条件は実施例2と同様とした。反応の結果を図35に示す。
完全にマッチした鋳型(配列番号21)を使用した場合、プライマー伸長産物の相補鎖が合成される。この伸長産物は、完全にマッチした鋳型および使用したアクチベーターオリゴヌクレオチドの両方に相補的である。このような構成については、実施例2において詳細に述べている。このような構成の使用は、増幅を成功させるための基礎となる。
これに対して、第1のプライマーの伸長産物の合成においてミスマッチ配列(配列番号35~38)を使用した場合、伸長産物の相補鎖は形成されるものの、ミスマッチを有する鋳型に完全に相補的であることから、アクチベーターオリゴヌクレオチドの第3の領域には完全には相補的でなくなる。このような部分的に非相補的な配列は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと反応して鎖置換を進行させることができる部位である、第1のプライマーの伸長産物の伸長された部分の5’末端側セグメントにおいて見られる。本実施例で示したように、対応する部位間でミスマッチが存在することから、アクチベーターオリゴヌクレオチドによる鎖置換が妨害されうる。したがって、増幅は全体的に遅い速度で進行する。
図35は、アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の間での配列の差異が及ぼす影響を示す。ミスマッチを有する鋳型を元に合成されたプライマー伸長産物の配列とアクチベーターオリゴヌクレオチドの配列との間において1つの位置にのみ差異があったことから、アクチベーターオリゴヌクレオチドと鋳型または第1のプライマーの伸長産物との間における相補塩基の順序のマッチングの程度に増幅が依存することが示された。それぞれの変異によって増幅反応の速度が低下する。
完全にマッチした鋳型を使用したコントロール反応(矢印1~3、図35A)から、増幅が濃度依存性に進行することが示された。濃度を低下させた反応では、ベースラインレベルを超えるシグナルが得られる十分な量にまで増幅対象の核酸を合成するのにより長い時間を要した。
鋳型を使用しなかったネガティブコントロール反応でも、シグナルの増加が示されたが、シグナルが増加するまでの時間は、完全にマッチした鋳型を使用した反応と比べて有意に遅延した。
図35Aの矢印はそれぞれ以下を示す。
・1nmol/lの濃度の完全にマッチした鋳型(配列番号21)(矢印1)
・1pmol/lの濃度の完全にマッチした鋳型(配列番号21)(矢印2)
・1fmol/lの濃度の完全にマッチした鋳型(配列番号21)(矢印3)
・ネガティブコントロール:鋳型なしの反応(矢印4)
図35Bの矢印はそれぞれ以下を示す。
・1nmol/lの濃度の完全にマッチした鋳型(配列番号21)(矢印1)
・ネガティブコントロール:鋳型なしの反応(矢印4)
・1nmol/lの濃度の、ミスマッチを有する鋳型(配列番号35)(矢印5)T-A6P-15-4401-1
・1nmol/lの濃度の、ミスマッチを有する鋳型(配列番号36)(矢印6)T-A6P-15-4401-2
・1nmol/lの濃度の、ミスマッチを有する鋳型(配列番号37)(矢印7)T-A6P-15-4401-3
・1nmol/lの濃度の、ミスマッチを有する鋳型(配列番号38)(矢印8)T-A6P-15-4401-4
この結果から、アクチベーターオリゴヌクレオチドの塩基組成が重要であることが示された。すなわち、アクチベーターオリゴヌクレオチドとプライマー伸長産物との間において1つの相補的塩基が異なるだけで、指数関数的な増幅が有意に遅延する場合がある。
本実施例において、完全にマッチした鋳型とミスマッチを有する鋳型の間で末端セグメントの配列が同じ場合、指数関数的な増幅において、プライマーオリゴヌクレオチドはいずれの鋳型にも同等に結合することができるが、これらの鋳型による反応は異なることが示された。アクチベーターオリゴヌクレオチドと第1のプライマーオリゴヌクレオチドの伸長産物の5’末端セグメントとの間で完全な相補性がある場合、増幅は計画したように進行した。一方、アクチベーターオリゴヌクレオチドとプライマー伸長産物の間でミスマッチが存在すると、指数関数的な増幅反応の速度が低下する場合がある。