以下、図面を参照して実施形態について説明する。なお、実施形態において、同一又は同等の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略される。
<実施形態>
図1~図12Eを参照して、本発明の一実施形態に係るノイズフィルタの構成例について説明する。本実施形態に係るノイズフィルタは、例えば産業機器や家庭用電気器具などの機器に実装し、電源ライン等を介して侵入するノイズを除去する。以下、本実施形態に係るノイズフィルタが単相交流用のノイズフィルタであることを前提として説明するが、本実施形態に係るノイズフィルタは三相交流用など他種のノイズフィルタとすることもできる。
図1は、本実施形態に係るノイズフィルタの一構成例を示す外観斜視図である。図2は、図1のノイズフィルタにおいて上蓋(ケースカバー)及びインダクタを外した状態を示す概略断面図で、コンデンサの絶縁構造の一例を示す断面図である。図3は、図1のノイズフィルタにおけるケース本体の一構成例を示す斜視図である。図4は、図3のケース本体にXコンデンサ、インダクタ、及びYコンデンサを取り付けた状態を示す概略斜視図で、図5は、その上面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るノイズフィルタ1は、金属製の底板10と、端子台21,22が一体化され且つ底板10に取り付けられたケース本体20と、を備える。
さらに、本実施形態に係るノイズフィルタ1は、図2に示すように、Xコンデンサ50,60と、端子台21,22にそれぞれ設けられたコンデンサ収納部21e,22eと、を備える。Xコンデンサ50,60は、アクロス・ザ・ライン・コンデンサであり、相間に挿入されるコンデンサである。Xコンデンサ50は入力側に挿入されるXコンデンサで、Xコンデンサ60は出力側に挿入されるXコンデンサであり、いずれも主にノーマルモードノイズを除去するために設けられる。なお、図2は、後述するインダクタ及びYコンデンサ等を省略しているが、図5のII-II方向から見た断面図に相当する。
また、図1に示すように、ノイズフィルタ1はケースカバー90を備えることができ、また端子台21,22の上側にも上蓋を備えることができる。ノイズフィルタ1のケースは、ケース本体20及びケースカバー90等により構成することができ、上記ケースは、絶縁のために樹脂等で形成することができる。ケースカバー90は、少なくとも後述するインダクタ70(図4及び図5参照)を覆うように、ケース本体20の上面側に取り付けられる。ケースカバー90は、ケース本体20と嵌合する形状を有することが好ましい。
ケース本体20に一体化された端子台21,22は、それぞれ入力側、出力側の端子台、つまりそれぞれ入力端子台、出力端子台とすることができる。端子台21には、その上方部分に、Xコンデンサ50等の端子がそれぞれ接続される接続台21a,21bを有することができる。接続台21a,21bには、それぞれ端子を接続するための金属端子(以下、金属板)21c,21dが設置される。端子台22についても同様であり、図3~図5に示すように、金属板22c,22dがそれぞれ設置される接続台22a,22bを有することができる。
端子台21側のコンデンサ収納部21eは、ケース本体20における端子台21の内部(接続台21a,21bの下側の内部空間)に形成され、入力側のXコンデンサ50を収納する。なお、図2では、コンデンサ収納部21eにおいてXコンデンサ50の最下部が底板10に接して収納されている例を挙げている。但し、Xコンデンサ50が底板10に接しなくてもコンデンサ収納部21eの側壁の内側に接するなどにより、Xコンデンサ50の位置が保持されるような構成であればよい。
同様に、端子台22側のコンデンサ収納部22eは、ケース本体20における端子台22の内部(接続台22a,22bの下側)に形成され、出力側のXコンデンサ60を収納する。
Xコンデンサ50は、その本体から導出された一対の端子51を有する。一対の端子51は、Xコンデンサ50の本体がコンデンサ収納部21eに収納された状態で、端子台21の金属板21c,21dのそれぞれに電気的に接続される。金属板21c,21dのそれぞれには交流電源の入力のための外部導線がそれぞれ電気的に接続されることになる。また、図示しないが、Xコンデンサ50の一対の端子51に放電抵抗を接続しておくことができる。
Xコンデンサ60は、その本体から導出された一対の端子61を有する。一対の端子61は、Xコンデンサ60の本体がコンデンサ収納部22eに収納された状態で、端子台22の金属板22c,22dのそれぞれに電気的に接続される。金属板22c,22dのそれぞれには交流電源の出力のための外部導線がそれぞれ電気的に接続されることになる。また、図示しないが、Xコンデンサ60の一対の端子61に放電抵抗を接続しておくことができる。
なお、ノイズフィルタ1がXコンデンサ50,60を備えることを前提として説明しているが、本実施形態に係るノイズフィルタはこれに限らず、入力側又は出力側のいずれか一方のXコンデンサを備えるものであってもよい。その場合、上記一方のXコンデンサに対応してコンデンサ収納部が備えられていればよい。また、端子台21,22の内部に形成されるコンデンサ収納部21e,22eに収納されるコンデンサは、Xコンデンサに限ったものではない。
また、図4及び図5に示すように、ノイズフィルタ1はインダクタ70を備える。インダクタ70は、主にコモンモードノイズを除去するために設けられる。インダクタ70は巻線71を有し、巻線71の入力側の端部は、端子台21の金属板21c,21dにおいて電気的に接続され、出力側の端部は、端子台22の金属板22c,22dにおいて電気的に接続される。インダクタ70は、ケース本体20の上面側であって、且つ、端子台21と端子台22との間、つまり端子台ではない領域に配設されている。インダクタ70は、例えばチョークコイルとすることができ、その例を挙げているが、これに限ったものではない。
次に、本実施形態の主たる特徴の1つである入力側のコンデンサ収納部21eの詳細について説明する。なお、出力側のコンデンサ収納部22eについても、収納対象がXコンデンサ60となるだけで、基本的に同様であるため、以下では基本的に、入力側のコンデンサ収納部21eについてのみ説明する。
入力側のコンデンサ収納部21eは、底板10に対してXコンデンサ50を傾斜させた状態で、且つ、Xコンデンサ50における端子51の導出部分がXコンデンサ50における傾斜方向の上端部側に位置するように、Xコンデンサ50を収納する。なお、ここで、傾斜方向の上端部側とは、傾斜方向の両端部のうち上側に位置する端部を指し、無論、傾斜方向に略垂直な方向の、端子51が導出される側の端部とは異なる。
換言すると、コンデンサ収納部21eは、Xコンデンサ50を底板10に対して(斜め方向に)傾斜させた状態で収納する。そして、Xコンデンサ50の端子51が底板10に近い方に傾斜して収納されると絶縁できなくなるため、Xコンデンサ50は、端子51側が底板10から離れた方にあるように傾斜して収納される。
上述のようにXコンデンサ50を斜めに横倒しにし、端子台21の下部のスペースに収納することで、使用していなかったデットスペースを削減することができるため、ノイズフィルタ1の小型化(特に低背化)が可能になる。さらに、上述のようにXコンデンサ50を端子51の導出側の端部が非導出側の端部より上側に配置されるように斜めに収納することで、金属製の底板10と端子51との絶縁距離の確保が可能となる。よって、このような収納により、小型化と絶縁距離の確保の両立が可能となる。即ち、ノイズフィルタの特性(減衰特性や絶縁耐圧等)を向上させることができ、安全性の向上にも繋がる。また、Xコンデンサ50を斜めに挿入することで取り付けの作業性を向上させることができ、組み立ての容易化を図ることができる。なお、Xコンデンサ50の端子51は、図2に示すように、例えば導出部から略直角に折り曲げることができるが、これに限らず、下方向に折り曲げるのでなければよい。
このように、本実施形態に係るノイズフィルタ1によれば、外形寸法の小型化(低背化)が可能であり、また、その小型化を実現させるために必要とされるノイズフィルタの特性の向上が可能になる。
また、入力側のコンデンサ収納部21eは、図2で例示するように、底板10が取り付けられ且つインダクタ70が配設されていない状態で、インダクタ70の配設位置側から、Xコンデンサ50を底板10に対して斜め方向に嵌挿可能な形状をもつことが好ましい。これにより、ノイズフィルタ1を製造する際のXコンデンサ50の設置が容易になり、設置後のXコンデンサ50の固定も可能となる。
また、Xコンデンサ50,60は、例えばプラスチック等の樹脂製の外装ケースを有することが好ましい。これにより、嵌挿時にXコンデンサ50,60を損傷させることなく且つ嵌挿可能な程度の剛性をもたせることができる。特に、Xコンデンサ50,60は、略直方体の外装ケースを有することが、コンデンサ収納部21e,22eの形状を簡素化できるため好ましい。
また、コンデンサ収納部21eは、Xコンデンサ50の嵌挿時に、Xコンデンサ50の嵌挿方向に沿う側の上面を上記斜め方向にガイドするための傾斜部(傾斜構造)23を有することが好ましい。これにより、ノイズフィルタ1の製造時においてXコンデンサ50の設置を容易にすることができる。なお、図3に示すように、Xコンデンサ60においても同様の傾斜部25を有することができる。
さらに、コンデンサ収納部21eは、傾斜部23の一部に接した状態で、Xコンデンサ50を収納することが好ましい。特に、コンデンサ収納部21eにおける入り口に相当する傾斜部23は、傾斜部23に垂直な方向の厚みd2がXコンデンサ50の厚みd1と同じに又は若干小さくなるように構成しておくことで、このような収納が実現できる。このような構造により、Xコンデンサ50の収納時の固定具合を良好にすることができる。
コンデンサ収納部21eは、Xコンデンサ50が収納された状態で、Xコンデンサ50の傾斜方向に沿う側の下面(嵌挿時で説明すると嵌挿方向に沿う側の下面)を押圧する押圧部24を有することが好ましい。ここで、押圧部24は、収納完了時にXコンデンサ50を押圧できればよいが、実際には嵌挿時にも押圧された状態となる。また、押圧部24は、Xコンデンサ50を保持するだけの弾性力をもつ形状であればよく、例えば図2で例示したような爪部とすることができる。なお、コンデンサ収納部22eの押圧部は押圧部26で図示している。また、押圧部26は、図3で図示したように押圧部26の材質と形状等に応じて2カ所など複数箇所に設けることもでき、押圧部24についても同様である。
このような押圧部24を備えることで、Xコンデンサ50を収納した際にXコンデンサ50を押圧して保持することができる。特に、図2で例示したように押圧部24の先(爪部の先端)がXコンデンサ50の収納時に底板10に当接されることが、Xコンデンサ50の位置固定のために好ましいと言える。但し、Xコンデンサ50は3点以上でコンデンサ収納部21e又は底板10に当接していれば、その位置を固定させることができる。例えば、図2では、コンデンサ収納部21eにおいてXコンデンサ50が底板10とコンデンサ収納部21eの側壁の内側に接して収納されているが、さらにXコンデンサ50は傾斜部23における傾斜方向の下端部に接して収納されることが好ましい。
さらに、押圧部24は、Xコンデンサ50の端子(リード線)51と底板10との絶縁を確保する役割も果たすことができる。特に、押圧部24にXコンデンサ50が乗り上げるような構造をとることで、Xコンデンサ50の端子51と金属製の底板10との間に樹脂部分が介在することになるため、絶縁距離を確保することができる。また、本実施形態では、押圧部24の先(爪部の先端)が底板10に向かって突出するようにL字状に形成されることで、Xコンデンサ50と底板10との絶縁に必要な最短距離を確実に保つことができるよう構成されている。但し、押圧部24はこれに限らず、Xコンデンサ50と底板10との絶縁に必要な距離が保てればどのような形状であってもよく、また、押圧部24の先が突出した形状でなくてもよい。
さらに、ノイズフィルタ1は、一方の端子が底板10に接続され、他方の端子が端子台21,22の金属板21c,21d,22c,22dに接続されるYコンデンサ81a,81b,82a,82bを備えることもできる。Yコンデンサ81a,81b,82a,82bは、ライン・バイパス・コンデンサであり、相とフレームグラウンドなどの間に挿入されるコンデンサであって、主に効果的にコモンモード成分を減衰させるために設けられる。
Yコンデンサ81aは、入力端子となる金属板21cと底板10の一方のアース端子13との間に接続される。Yコンデンサ81bは、入力端子となる金属板21dと底板10の他方のアース端子13との間に接続される。つまり、Yコンデンサ81a,81bの入力側の端子(リード線)は、それぞれ端子台21上の金属板21c,21dにおいて外部導線と接続されており、出力側の端子(リード線)は、アース端子13に接続されている。
Yコンデンサ82aは、出力端子となる金属板22cと上記一方のアース端子13との間に接続される。Yコンデンサ82bは、出力端子となる金属板22dと上記他方のアース端子13との間に接続される。つまり、Yコンデンサ82a,82bの出力側の端子は、それぞれ端子台22上の金属板22c,22dにおいて外部導線と接続されており、Yコンデンサ82a,82bの入力側の端子は、アース端子13に接続されている。
Yコンデンサ81a,81b,82a,82bは、ケース本体20におけるYコンデンサ収納部分(収納ポケット)31a,31b,31c,31dにそれぞれが実装される。Yコンデンサ81a,81b,82a,82bは、いずれもアース端子13と接続する側の端子を短くすることでノイズフィルタの特性を良くすることができるため、できるだけ対象の端子をアース端子13に近づけ且つできるだけ底板10側に近い位置に配置することが望ましい。
また、ケース本体20には、アース端子13と嵌合する形状の孔であるアース端子嵌合部29を備えることができる。なお、Yコンデンサ81a,81b,82a,82bは、回路定数によっては実装されない場合もある。
さらに、ノイズフィルタの外形寸法の小型化により、組み立て作業の作業性が悪化してしまうという問題が生じる。そのため、作業性を悪化させないような工夫も求められる。本実施形態では、作業性の向上のため、次のような構成を採用することが好ましい。
即ち、ケース本体20は、その側面の一部に、ケースカバー90を外した状態でYコンデンサ81a,81b,82a,82bを取り付ける際の作業空間を形成するための切欠き部32を有することが好ましい。切欠き部32は、側面の壁の高さを低くした部分である。切欠き部32を有することで、側壁が同じ高さで形成された場合に比べ、Yコンデンサ81a,81b,82a,82bの取り付け(主にそのリード線のからげ作業及び半田作業)の作業性を向上させることができる。また、Yコンデンサ81a,81b,82a,82bの取り付けの作業性が向上することにより、Yコンデンサ81a,81b,82a,82bをできるだけ底板10側に近い位置に配置することや、アース端子13に対象の端子を近づけることも可能となり、ノイズフィルタの特性をより向上させることができる。また、切欠き部32を有することで、ケース本体20の全体を大きくして作業性を確保する場合に比べて、ケース本体20の小型化を図ることもできる。切欠き部32は、このような作業に全く支障がない程度の高さまで低くすることが好ましい。
また、切欠き部32の形状に対応してケースカバー90の取り付け時にノイズフィルタ1のケース本体20とケースカバー90との間に大きな隙間を有さないようにするために、ケースカバー90は、切欠き部32を塞ぐ形状をもつ突起部91を有することが好ましい。
ここで、図6を参照しながら、ノイズフィルタ1の回路構成について説明する。図6は、図4のXコンデンサ50,60、インダクタ70、及びYコンデンサ81a,81b,82a,82bを含むノイズフィルタ1の回路図である。
ノイズフィルタ1は、ノイズ除去用にL、C回路を組み合わせた装置である。具体的には、ノイズフィルタ1は、図6に示すように各ラインにXコンデンサCx1(50),Cx2(60)及びYコンデンサCy1(81a),Cy2(81b),Cy3(82a),Cy4(82b)がそれぞれ電線や金属端子を介して接続される。図6に示すように、Xコンデンサ50,60は入力端子、出力端子にそれぞれ接続され、Yコンデンサ81a,81b,82a,82bの一方の端子は各ラインに接続され、他方の端子はアース端子13に接続される。
次にインダクタ70及びその配置について、図7及び図8を併せて参照しながら説明する。図7は、図4及び図5のインダクタ70におけるコアケース72の一例を示す下面図である。図8は、図5をVII-VII方向から透過させた透過図である。但し、図5においてVII-VII方向を左右で異なる位置に図示しているように、この透過させる面を段差状としている。より具体的には、図8は、図5のケース本体20における下側に図示された側壁33を透過させた状態を示す透過図であると言える。
インダクタ70は、コアを収納し、周囲に電線を巻き付けるコアケース72を有することができる。コアケース72は、図7で例示するように、ドーナツ型など環状面の外形を有するものとすることができ、また、樹脂製とすることができる。
特に、コアケース72は、インダクタ70のケース本体20に対する位置決めを行う位置決め部73を有することが好ましい。位置決め部73の形状は問わないが、図7に示すように少なくともインダクタ70の水平方向の向きを決めることが可能とすることが好ましい。また、ケース本体20は、図3に示すように、位置決め部73に嵌合する形状をもつケース側位置決め部30を有することができる。
位置決め部73をケース側位置決め部30に嵌合させることで、巻線71がコアケース72から離脱する離脱位置(コアケース72と非接触となる位置)の、端子台21に対する位置決め(金属板21c又は金属板21dに対する位置決め)を行うことができる。つまり、位置決め部73をケース側位置決め部30に嵌合させることで、インダクタ70の2つの入力側端子がそれぞれ端子台21の金属板21c,21dに向かう方向(入力側の2つのリード線が延伸される方向)を決めることができる。即ち、インダクタ70の2つの入力側端子の位置をそれぞれ端子台21の金属板21c,21dの位置に容易に合わせることができる。インダクタ70の2つの出力側端子についても同様に、このような嵌合により、端子台22の金属板22c,22dに向かう方向を決めることができる。
このようにしてインダクタ70の水平方向の向きを位置決め可能に構成することで、インダクタ70をケース本体20に設置する作業(組み込み作業)を行う作業者は、容易にコアケース72からの巻線71の延伸方向を決めることができる。即ち、位置決め可能に構成することで、ノイズフィルタ1の小型化により、組み立て作業の作業性が悪化しても、容易に組み込み作業を行うことができるため、ノイズフィルタ1の小型化がより実現できる。これにより、ノイズフィルタの特性に係わる、インダクタ70の端子と底板10等との絶縁距離を均一に確保すること、つまり製品としてノイズフィルタの特性を均一化することができ、安全性も向上させることができる。
特に、位置決め部73は、インダクタ70の底板10に対する高さ方向の位置決めを行うことが好ましい。高さ方向の位置決めは、ケース側位置決め部30の上下方向の厚みを調整することや、位置決め部73の上下方向への突出する高さによって、容易に設定することができる。高さ方向の位置決めが後述する放熱材料16の量等に依存してしまう場合に比べ、インダクタ70の組み込み作業における高さ方向の均一化が可能となり、製品としてノイズフィルタの特性を均一化することができ、安全性も向上させることができる。また、後述する放熱孔27を有する場合、インダクタ70の下面(つまり底板10との対向面)と底板10との距離の均一化が可能となる。これにより、ノイズフィルタの特性に係わる、インダクタ70の巻線71と底板10等との絶縁距離を確実に保つことができる。すなわち、製品としてノイズフィルタの特性を均一化することができ、安全性も向上させることができる。
また、ケース本体20は、図3で例示するように、インダクタ70が配設される領域の少なくとも一部において放熱孔27を有することができる。放熱孔27は、インダクタ70の発熱を底板10側へ逃がすための孔であり、空洞となっている部分である。放熱効率を上げることによって、インダクタ70の発熱が要因となりノイズフィルタの特性に上限があった周波数帯等を縮小させること(或いはその上限を上げること)ができ、ノイズフィルタの特性を向上させることができる。無論、放熱孔27は、主にインダクタ70の発熱への対策となるが、ケース本体20の内部のそれ以外の回路による発熱への対策にもなる。また、このように放熱効率を上げることが可能な構成により、この構成を採用しなかった場合に比べ、巻線71の巻数を多くすることができ、ノイズフィルタの特性を向上させることができるとも言える。
さらに、インダクタ70の下面側の少なくとも一部(放熱孔27の部分を含む)には、放熱材料16を塗布することが好ましい。つまり、放熱材料16は、インダクタ70の下部に塗布される。放熱材料16は、例えば、シリコーンと熱伝導性物質の混合材料とすることができるが、熱伝導性の高い材料であればよい。また、放熱材料16は、塗布後、時間経過とともに固まる材料であることが好ましい。放熱材料16を塗布することで、より底板10へ効率的に熱を逃がすこと、つまり熱伝導効率(放熱効率)をより向上させることができる。
放熱材料16の有無による放熱効率の違いを検証したが、実際に放熱効率を向上させることができることが確認できた。これにより、ノイズフィルタ1は、そのケース(筐体)の全面を金属にする必要がなくなる。つまり、図1等で説明したように、ノイズフィルタ1は、ケースの全面の素材を金属とするのではなく、底板10の部分のみを金属素材とすることができる。
また、ノイズフィルタ1は、図8で例示するように、放熱材料16が塗布される領域に対応する底板10に配設された絶縁紙等の絶縁シート15を備えることができる。つまり、ノイズフィルタ1には、絶縁シート15を底板10と放熱材料16との間に配設すること(挿入しておくこと)ができる。また、絶縁シート15は、その両側に耳の輪のような部分(図示せず)を形成しておき、そこにアース端子13を通すようにして配設することで、絶縁シート15の水平方向の移動を制限することができる。
このように、インダクタ70と底板10との間に絶縁シート15を挿入して両者の絶縁を確保することができ、絶縁シート15の上から放熱材料16を塗布することで放熱効率を高めることができる。
次に、ケースカバー90を用いたインダクタ70の絶縁構造について、図9及び図10を併せて参照しながら説明する。図9は、ケースカバー90の上下反転させた状態の斜視図である。図10は、ノイズフィルタ1の断面図で、インダクタ70の絶縁構造を示す断面図である。図10では、図1のノイズフィルタ1を図5のIX-IX方向から見た断面を示している。
図9に示すように、ケースカバー90は、絶縁用仕切り部92を有することができる。一方で、図3及び図10に示すように、ケース本体20は、例えば放熱孔27の側壁として、絶縁用仕切り部92と嵌合可能な形状の絶縁用仕切り部28を有することができる。絶縁用仕切り部28及び絶縁用仕切り部92は、インダクタ70の外形よりやや大きめの形状を有することができる。
そして、図10に示すように、絶縁用仕切り部28と絶縁用仕切り部92とが嵌合するようにケース本体20にケースカバー90を取り付けることで、インダクタ70とアース端子13との間に物理的な壁を形成し、両者の絶縁を確保することができる。なお、絶縁用仕切り部28の高さを伸ばすことにより、絶縁用仕切り部92を省略してもよい。
次に、図11を併せて参照しながら底板10の一例について説明する。図11は、ノイズフィルタ1における底板10を示す斜視図である。図11に示すように、底板10は、一対のアース端子13と一体に形成することができる。一対のアース端子13は、一方がYコンデンサ81a,82aと接続される端子で、他方がYコンデンサ81b,82bと接続される端子となる。
特に、底板10は、1つの対角線上に、ノイズフィルタ1を他の装置又は他の部材等に取り付ける(設置する)ための一対の取り付け部11を有することができる。双方の対角線上ではなく一方の対角線上にだけ一対の取り付け部11を備えることで、ノイズフィルタ1の小型化を実現させることができる。なお、底板10は、アース線を取り付けるための一対の取り付け部12を有することができる。
さらに、このような一対の取り付け部11の配置により、Xコンデンサ50,60がそれぞれ収納される端子台21,22が図3~図5に示すように入力側と出力側とで異なり、他方の対角線上に配置されている。つまり、端子台21,22は対角線上に配置されている。通常、ノイズフィルタの入力端子から出力端子までは一直線であることが望ましい。本実施形態では、小型化のために入力端子から出力端子までがインダクタ70を中心として対角線上に配置されているため、インダクタ70もこの対角線上に平行に配置する必要がある。ケース側位置決め部30も対角線上に配置することで、インダクタ70の端子における金属板21cへ接続する側の端子と金属板21dへ接続する側の端子との間の絶縁距離、及び金属板22cへ接続する側の端子と金属板22dへ接続する側の端子との間の絶縁距離を稼ぐことができる。
次に、図12A~図12Eを参照しながら、底板10及びインダクタ70のコアの材質等の選定について説明する。図12A~図12Eは、図1のノイズフィルタ1におけるノーマルモードインダクタンスLnを計算したシミュレーション結果を示す図である。図12A~図12Eでは、コアの材質の種類、コイルの巻回数、及び底板の材質の種類等を変えてノーマルモードインダクタンスLnを計算した結果を示している。
ここで、計算には、図1~図11で例示したノイズフィルタ1を用いた。なお、ケース本体20及びケースカバー90はプラスチック製とした。また、計算には、インダクタ70の一例として、直径が1.4mmの巻線71を2本用いコイルの巻回数が7T(定格電流30Aの製品を想定)となるインダクタIを用いた。さらに、計算には、他の例として、直径が1.0mmの巻線71を1本用いコイルの巻回数が25T(定格電流6Aの製品を想定)となるインダクタIIも用いた。
また、計算には、コアケース72内のコアの材料として、ナノクリスタルとフェライトとの2種類を用い、外形21.5mm、内径14.5mm、高さ10mmのトロイダルコアを用いた。さらに、計算には、底板10として、強磁性体の例である鉄板(透磁率μが150H/m、最大周波数が1kHz)及び非磁性導電体の例であるアルミニウム板の2種類を用い、いずれも厚み1.2mmのものを用いた。また、絶縁シート15は、厚みが0.1mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの4種類を用い、放熱材料16は用いなかった。また、比較のために、底板10に非磁性絶縁体の例であるプラスチック板を用い、絶縁シート15を用いない場合についても計算した。なお、図12A~図12Eにおける「なし」は、底板10にプラスチック板を用い、絶縁シート15を用いない場合を指す。
図12Aは、インダクタIにおいてナノクリスタルのコアを使用し、底板10に鉄板を使用し、絶縁シート15の厚みを変え、ノーマルモードインダクタンスLn[μH]をシミュレーションした結果を示す図である。図12Aで示す結果は、概略的にLnが次のようになっている。即ち、周波数が小さいほどLnが大きくなり、底板10に非磁性絶縁体を使用した場合が最もLnが小さく、絶縁シート15の厚みが小さくなる程、Lnが大きくなっている。
図12Bは、インダクタIにおいてナノクリスタルのコアを使用し、底板10にアルミニウム板を使用し、絶縁シート15の厚みを変え、Ln[μH]をシミュレーションした結果を示す図である。図12Bで示す結果は、図12Aの場合において底板10を鉄板からアルミニウム板に変えたものであり、概略的にLnが次のようになっている。即ち、周波数が小さいほどLnが大きくなる傾向は図12Aの場合と同様であるが、図12Aの結果と異なり、底板10に非磁性絶縁体を使用した場合が最もLnが大きく、絶縁シート15の厚みが小さくなる程、Lnが小さくなっている。さらに、図12Bでは、図12Aの結果と比べ、高周波数におけるLnへの影響が小さくなっている。
図12Cは、インダクタIにおいてフェライトのコアを使用し、底板10に鉄板を使用し、絶縁シート15の厚みを変え、Ln[μH]をシミュレーションした結果を示す図である。図12Cで示す結果は、図12Aの場合においてコアをナノクリスタルからフェライトに変えたものであり、概略的にLnが、図12Aと同様の傾向となっている。
図12Dは、インダクタIIにおいてナノクリスタルのコアを使用し、底板10に鉄板を使用し、絶縁シート15の厚みを変え、Ln[μH]をシミュレーションした結果を示す図である。図12Dで示す結果は、図12Aの場合において巻線71の巻回数を増やしたものであり、概略的にLnが次のようになっている。即ち、周波数や絶縁シート15の厚み等による傾向は図12Aの場合と同様であったが、Lnの値自体が図12Aの場合に比べて略1桁大きい値となっている。
図12Eは、インダクタIIにおいてナノクリスタルのコアを使用し、底板10にアルミニウム板を使用し、絶縁シート15の厚みを変え、Ln[μH]をシミュレーションした結果を示す図である。図12Eで示す結果は、図12Bの場合において巻線71の巻回数を増やしたものであり、概略的にLnが次のようになっている。即ち、周波数や絶縁シート15の厚み等による傾向は図12Bの場合と同様であったが、Lnの値自体が図12Bの場合に比べて略1桁大きい値となっている。
まず、図12A~図12Eの結果により、インダクタ70と底板10との間の距離を変更するとノーマルモードインダクタンスLnが変化することが分かった。
また、図12Aと図12Bとの比較により、底板10の材質が強磁性体である場合と非磁性導電体である場合とでは、Lnの変化の仕方が異なることが分かった。特に、底板10が強磁性体である鉄板である場合には、絶縁シート15の厚みが小さくなる、即ちインダクタ70と底板10との間の距離が短くなる程、Lnが大きくなり、非磁性導電体であるアルミニウム板である場合にはインダクタ70と底板10との間の距離が短くなる程、Lnが小さくなることが分かった。なお、図示しないが、図12Cの場合において同様に鉄板をアルミニウム板に変えた場合のシミュレーションも行ったが同様の傾向であった。この理由は、底板10が強磁性体である場合には透磁率の影響でLnが大きくなり、非磁性導電体である場合には渦電流の影響でLnが小さくなっているものと推察される。
また、図12Aと図12Bとの比較、並びに図12Dと図12Eとの比較により、絶縁シート15が薄く、インダクタ70が底板10に近い程、底板10の材質の影響が大きいことが分かった。なお、図示しないが、図12Cの場合において鉄板をアルミニウム板に変更した場合と、図12D及び図12Eの場合においてコアの材料をナノクリスタルからフェライトに変更した場合についてもシミュレーションしたが、同様の傾向が見られた。
そして、これらの結果により、底板10が強磁性体である場合には、透磁率の影響でインダクタ70と底板10との間の距離が近い程(絶縁シート15の厚みが小さくなる程)、Lnが大きくなるのが分かった。同時に、底板10が非磁性導電体である場合には、渦電流の影響でインダクタ70と底板10との間の距離が近い程、Lnが小さくなることが分かった。
このように、底板10の材質及びインダクタ70と底板10との間の距離を変更することによってノーマルモードインダクタンスLnの調整が可能であり、ノイズフィルタ1の性能(ノイズフィルタの特性)を調節することができる。これにより、ノイズフィルタ1として上記距離を変更するだけの性能の異なる様々な製品を容易に製造、流通させることができる。
よって、ここで例示したように、底板10は強磁性体(フェリ磁性体やフェロ磁性体を含む)とすることができる。また、ここで例示したように底板10は非磁性導電体とすることができる。いずれの場合にも、インダクタ70と底板10との間の距離を変更することによってノーマルモードインダクタンスLnの調整が可能となる。なお、底板10は、鉄板のように強度がある場合には薄くすることができ、アルミニウム板のように強度が少し弱い場合には厚めのものを使用することができる。
また、図12A,図12C,図12Dでは底板10に鉄板を用いているが、いずれの結果も高周波数になる程、底板10がない場合の特性に近づいている。この結果は、鉄板のμ-f特性からμ=1に近づくためであると推察される。
なお、図12Aと図12Cとの比較により、コアの材質を変更しても、ノーマルモードインダクタンスLnの調整度合いに差がないことが分かった。また、図12B、図12D、及び図12Eについても同様にコアをフェライトにしてシミュレーションを行った結果、図示しないが同様にノーマルモードインダクタンスLnの調整度合いにコアの材質が影響を与えないことが分かった。
以上、本実施形態に係るノイズフィルタ1について説明したが、ノイズフィルタ1の各構成要素の形状や大きさ等は、各構成要素の機能が果たせるものであればよい。また、本実施形態で説明した様々な例は適宜組み合わせることが可能である。
<他の実施形態>
本発明の他の実施形態に係るノイズフィルタは、先に説明した実施形態に係るノイズフィルタにおける次の構成要素を必須とし、他の構成要素を備えないこともできる。
即ち、本実施形態に係るノイズフィルタは、金属製の底板10と、端子台21,22が一体化され、且つ底板10に取り付けられたケース本体20と、端子台21,22において接続される端子を有し、ケース本体20の上面側に配設されたインダクタ70と、を備える。そして、インダクタ70は、コアを収納し、周囲に電線(巻線71)を巻き付けるコアケース72を有し、コアケース72は、インダクタ70のケース本体20に対する位置決めを行う位置決め部73を有する。さらに、ケース本体20は、位置決め部73に嵌合する形状をもつケース側位置決め部30を有する。そして、位置決め部73は、ケース側位置決め部30と嵌合することで、巻き付けられた電線がコアケース72から離脱する離脱位置の、端子台21,22に対する位置決めを行うとともに、インダクタ70の底板10に対する高さ方向の位置決めを行う。
本実施形態によれば、図7及び図8を参照して説明したように、外形寸法の小型化を実現させるために必要とされるノイズフィルタの特性の向上が可能になる。
なお、本実施形態においても、先に説明した実施形態と同様に、例えば端子台の数は1つであってもよいなど、上記様々な例が適用でき、また、各構成要素の形状や大きさ等は、各構成要素の機能が果たせるものであればよい。また、本実施形態においても上記様々な例は適宜組み合わせることが可能である。