本実施形態の説明に先立ち、本願発明者が検討した事項について説明する。
図1は、その検討に使用した赤外線検出器の断面図である。
この赤外線検出器10は、光電変換層に量子井戸構造を採用したQWIPであって、基板1を備える。
基板1は、検出対象の赤外線IRを透過するGaAs基板であり、その上には下部コンタクト層3、光電変換層4、上部コンタクト層5、及び反射層6がこの順に形成される。
このうち、下部コンタクト層3は、電子濃度が1×1018cm-3と高く電導性が良好なn型のGaAs層であって、その上に形成された下部電極8とオーミックコンタクトを形成する。
一方、光電変換層4は、赤外線IRによって電子と正孔とを生成する化合物半導体層であって、Al0.3Ga0.7Asの障壁層4aとGaAsの井戸層4bとを交互に複数積層してなる量子井戸構造を有する。各層の積層数や厚さは特に限定されないが、この例では障壁層4aと井戸層4bとを合わせた層数を50層とする。また、障壁層4aの厚さは40nmであり、井戸層4bの厚さは5nmである。
また、上部コンタクト層5は、反射層6を介してその上の上部電極7とオーミックコンタクトを形成する化合物半導体層である。その上部コンタクト層5として、この例では電子濃度が1×1018cm-3と高く電導性が良好なn型のGaAs層を形成する。
そして、反射層6は、金や白金等の金属層であって、光電変換層4から射出した赤外線IRを反射する。これにより、光電変換層4が赤外線IRに曝される機会が増え、光電変換層4における光電変換効率が高められると期待される。
更に、上部電極7と下部電極8は、金とゲルマニウムとの合金層と金層とをこの順に積層した積層膜である。赤外線IRの入射によって光電変換層4に蓄積した電子や正孔等のキャリアは、上部電極7と下部電極8から外部に取り出される。
このような赤外線検出器10においては、基板1の裏面1aから赤外線IRが入射するため、裏面1aにおける赤外線IRの反射を防止することで光電変換層4に入射する赤外線IRの光量を増やすことができる。
そこで、この例では裏面1aに反射防止膜2を形成することにより、光電変換層4が検出の対象とする波長の赤外線IRが裏面1aにおいて反射するのを防止する。
反射防止膜2の反射防止能力は、反射防止膜2の屈折率と膜厚によって定まる。この例では、反射防止膜2の屈折率を基板1のそれよりも低くし、かつ反射防止膜2内における赤外線IRの波長の1/4に等しくなるように反射防止膜2の膜厚を設定する。これにより、反射防止膜2の内部において赤外線IRが打ち消し合い、反射防止膜2から入射した赤外線IRが裏面1aで反射するのが防止される。
光電変換層4で検出できる赤外線の波長は障壁層4aと井戸層3bの各々の膜厚や材料によって変わるが、例えば光電変換層4で検出できる赤外線の波長が4.8μmの場合を考える。この波長の赤外線に対する基板1の屈折率は3.3であるため、これと同じ波長の赤外線に対する屈折率が2.25の硫化亜鉛膜を反射防止膜2として形成し、かつその膜厚を4.8μmの1/4とすることで、裏面1aにおける赤外線IRの反射を有効に防止できる。
以上説明した赤外線検出器10によれば、反射防止膜2によって裏面1aでの赤外線IRの反射を防止するため、光電変換層4に入射する赤外線IRの光量が増加する。
しかしながら、光電変換層4の検出対象となる赤外線IRの波長から多少ずれた波長の赤外線であっても、反射防止膜2の内部においてその赤外線が打ち消し合って反射がある程度防止されるため、光電変換層4に入射する赤外線IRの波長分布はブロードとなる。
その結果、検出対象の波長とは異なる波長の赤外線が光電変換層4に入射して光電変換層4にノイズが発生し、赤外線検出器10のS/N比が低下してしまう。
これを防ぐために、検出対象の波長のみを透過する波長選択フィルタを赤外線検出器10の前段に設けることも考えられるが、これでは波長選択フィルタの分だけコストが増加してしまう。
更に、この赤外線検出器10においては反射層6で赤外線IRを反射させることで光電変換層4の光電変換効率を高めようとしているものの、反射層6で反射した赤外線IRのうち光電変換に寄与しないものはそのまま基板1から外部に射出してしまう。
特に、QWIPにおいては、赤外線を吸収する量子井戸層4bの厚さがナノメートルスケールであるため、光電変換層4の全体で赤外線を吸収するバルク型の光電変換層と比較して光吸収量が小さく、単に反射層6を設けただけでは光電変換効率が向上しない。これについてはQDIPでも同様である。
そのため、この赤外線検出器10には、反射層6で反射した赤外光IRを光電変換に有効に利用できないという問題もある。
以下に、各実施形態について説明する。
(第1実施形態)
本実施形態に係る赤外線イメージセンサについて、その製造工程を追いながら説明する。
図2~図16は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの製造途中の断面図である。
まず、図2(a)に示すように、基板20として赤外線を透過するGaAs基板を用意し、その上にMOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法によりバッファ層21としてGaAs層を1μm程度の厚さに形成する。
そして、そのバッファ層21の上にMOVPE法でGaInP層を1μm程度の厚さに形成し、そのGaInP層をエッチングストッパ層22とする。
次に、図2(b)に示すように、エッチングストッパ層22の上に下部コンタクト層23としてn型のGaAs層をMOVPE法で1μm程度の厚さに形成する。下部コンタクト層23にドープするn型不純物は特に限定されないが、この例ではそのn型不純物としてシリコンを1×1018cm-3程度の濃度にドープする。
更に、下部コンタクト層23の上にMOVPE法でAl0.3Ga0.7Asの障壁層24aとGaAsの井戸層24bとをこの順に交互に複数形成し、これらの積層膜を光電変換層24とする。その光電変換層24のうち、障壁層24aの厚さは40nm程度であり、井戸層24bの厚さは5nm程度である。
また、障壁層24aと井戸層24bの積層数も特に限定されず、障壁層24aと井戸層24bとを合わせた層数は50層程度である。
このように障壁層24aと井戸層24bとを交互に積層してなる量子井戸構造を有する赤外線検出器はQWIPと呼ばれる。光電変換層24で検出できる赤外線の波長は障壁層24aと井戸層24bの各々の厚さと材料によって制御することができ、本実施形態ではその赤外線の波長は3μm~14μm程度となる。
なお、光電変換層24としてtype II超格子を採用してもよい。その場合は、障壁層24aとしてGaSb層を形成し、井戸層24bとしてInAs層を形成すればよい。
更に、光電変換層24として赤外線を吸収するバルクの化合物半導体層を形成してもよい。そのような化合物半導体層としては、例えば、HgCdTe層やInSb層等がある。
その後に、n型不純物としてシリコンが1×1018cm-3程度の濃度にドープされれたn型のGaAs層を光電変換層24の上にMOVPE法で1.1μm程度の厚さに形成し、そのGaAs層を上部コンタクト層25とする。
この例では各層23~25をMOVPE法で形成したが、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法で各層23~25を形成してもよい。これについては後述の各実施形態でも同様である。
続いて、図3(a)に示すように、フォトリソグラフィとドライエッチングで上部コンタクト層25の表面に複数の溝25gを一定の周期で形成することにより、上部コンタクト層25の表面に凹凸を設ける。
各々の溝25gは、後述のように光電変換層24から射出した赤外線に対する反射型の回折格子として機能し、その深さは300nm~1000nm程度である。
図17は、このように溝25gが形成された上部コンタクト層25の一部領域Rにおける拡大上面図である。なお、前述の図3(a)の一部領域Rにおける断面は、図17のI-I線に沿う断面に相当する。
図17に示すように、各々の溝25gは、第1の方向D1に沿って一定の周期qで形成され、かつ第1の方向D1に直交する第2の方向D2に沿って直線状に延びる。
なお、周期qは特に限定されないが、この例では光電変換層24が検出の対象とする赤外線の波長λの1/2程度に等しくなるように周期qを設定する。
次いで、図3(b)に示すように、上部コンタクト層25の上にシリコンを含有する第1のレジスト層29として富士フイルムエレクトロニックマテリアルズ社製のFH-SP3CLを塗布する。そして、第1のレジスト層29を電子線で露光して更にそれを現像することにより、第1のレジスト層29に複数の開口29aを形成する。
なお、電子線で第1のレジスト層29を露光する代わりに、露光光で第1のレジスト層29を露光してもよい。
次に、図4(a)に示す工程について説明する。
まず、不図示のエッチングチャンバ内に基板20を入れ、そのエッチングチャンバ内において基板20を水平面から45°程度の角度だけ傾ける。そして、この状態を維持しながら、開口29aを通じて光電変換層24と上部コンタクト層25の各々をドライエッチングし、光電変換層24の厚さ方向Dから傾いた方向に延びる複数の孔24hを間隔をおいて形成する。
そのドライエッチングで使用するエッチングガスとしては、光電変換層24や上部コンタクト層25の主材料であるGaAsを選択的にエッチングできる塩素ガスがある。
孔24hはその周囲よりも屈折率が低いため、このように孔24hを形成することで光電変換層24は屈折率が周期的に変化するフォトニック結晶となり、特定の波長の赤外線のみが光電変換層24を透過できるようになる。
孔24hの直径dは特に限定されないが、直径dを赤外線の波長の1/4程度の0.7μm~3.5μm程度とすることにより光電変換層24にフォトニック結晶としての特徴が発現し易くなる。
特に、第1のレジスト層29の材料であるシリコン含有レジストは前述の塩素ガスに対して優れたエッチング耐性を有するため、エッチングの最中にその断面形状が崩れず、直径dが小さくアスペクト比が大きな孔24hを形成することができる。
また、各孔24hの深さは特に限定されないが、この例ではエッチング時間を制御することにより下部コンタクト層23の上でエッチングを停止させ、光電変換層24を貫通するように各孔24hを形成する。
なお、そのエッチングを更に進めて下部コンタクト層23にも各孔24hを形成してもよい。
その後に、図4(b)に示すように、フッ酸等の薬液で第1のレジスト層29を除去する。
図18は、本工程を終了した後の上部コンタクト層25の一部領域Rにおける拡大上面図である。
なお、前述の図4(b)の一部領域Rにおける断面は、図18のII-II線に沿う断面に相当する。
図18に示すように、上部コンタクト層25の表面に表出した各孔24hの平面形状は楕円状となる。
また、複数の孔24hの各々は、上面視で第1の方向D1に沿って延びるように形成される。
なお、図18の例では孔24hが延びる方向と溝25gが延びる方向とを直交させているが、これらの方向は特に限定されない。例えば、孔24hが延びる方向に対して溝25gを斜めに延ばしてもよい。
続いて、図5(a)に示すように、上部コンタクト層25の上にフォトレジストを塗布し、それを露光、現像することにより、画素形状の第2のレジスト層31を形成する。
なお、各孔24hにフォトレジストが浸入するのを防止するために、本工程の前に上部コンタクト層25の上に樹脂層を形成し、その樹脂層で各孔24hを塞いでもよい。
次いで、図5(b)に示すように、第2のレジスト層31をマスクにしながら、下部コンタクト層23、光電変換層24、及び上部コンタクト層25の各々をドライエッチングする。これにより、光電変換層24に素子分離溝24xが間隔をおいて複数形成され、これらの素子分離溝24xによって光電変換層24が複数の画素32に分離される。
なお、このドライエッチングではエッチングガスとして塩素ガスが使用され、エッチングストッパ層22の上でそのエッチングは停止する。
その後に、図6(a)に示すように、第2のレジスト層31を除去する。
図19は、本工程を終了した後の上面図である。
なお、前述の図6(a)は、図19のIII-III線に沿う断面図に相当する。
図19に示すように、複数の画素32の各々は上面視で一辺の長さが20μm程度の正方形であり、基板20の上において行列状に配される。
次いで、図6(b)に示すように、各々の画素32の上にフォトレジストを塗布し、それを露光、現像することにより、画素32よりも小さな第3のレジスト層33を形成する。
そして、図7(a)に示すように、第3のレジスト層33で覆われていない部分の光電変換層24と上部コンタクト層25をドライエッチングすることにより、下部コンタクト層23の下部コンタクト領域CR1を露出させる。なお、このドライエッチングで使用し得るエッチングガスとしては、例えば塩素ガスがある。
その後に、図7(b)に示すように、第3のレジスト層33を除去する。
次いで、図8(a)に示すように、基板20の上側全面に蒸着法で金属層を形成し、それをリフトオフ法でパターニングすることにより、下部コンタクト領域CR1と上部コンタクト層25の各々に下部電極34と上部電極35を形成する。
その金属層は、例えば、金とゲルマニウムの合金層、ニッケル層、及び金層をこの順に積層した積層膜である。
続いて、図8(b)に示すように、基板20の上側全面に金属層を形成した後、その金属層をイオンミリング等でパターニングして上部コンタクト層25の上に反射層36として残す。
その反射層36の材料は特に限定されず、例えば厚さが0.005μm~0.05μm程度のチタン層、厚さが0.03μm~0.3μm程度の金層、及び厚さが0.03μm~0.3μm程度のプラチナ層をこの順に積層してなる積層膜を反射層36として形成し得る。
また、上部電極35はその反射層36によって覆われるのに対し、上部コンタクト層25の上部コンタクト領域CR2は反射層36で覆われずに露出する。
次に、図9(a)に示すように、基板20の上側全面にCVD(Chemical Vapor Deposition)法により絶縁層37として窒化シリコン層を形成し、その絶縁層37で各画素32を覆う。
そして、フォトリソグラフィとドライエッチングにより下部電極34の上の絶縁層37に下部開口37aを形成する。
その後、図9(b)に示すように、絶縁層37の上に蒸着法やスパッタ法で金属層を形成した後、その金属層をリフトオフ法やイオンミリングでパターニングし、下部開口37a内の下部電極34から上部コンタクト領域CR2に至る配線38を形成する。
その配線38の材料は特に限定されないが、この例では配線38としてチタン層、プラチナ層、及び金層をこの順に形成する。
続いて、図10に示すように、フォトリソグラフィとドライエッチングにより絶縁層37をパターニングし、上部電極35の上方の絶縁層37に上部開口37bを形成する。
そして、基板20の上側全面に蒸着法で金属層を形成した後、その金属層をリフトオフ法でパターニングすることにより、上部開口37b内と配線38の上に下地金属層41を形成する。その下地金属層41として、例えばチタン層、金層、及びプラチナ層をこの順に形成する。
次いで、図11に示すように、下地金属層41の上に端子43として蒸着法でインジウム層を形成する。その後に、基板20をダイシングして個片化することにより、複数の撮像素子45を得る。
図20は、ダイシングにより得られた複数の撮像素子45の上面図である。
撮像素子45は複数の画素32が平面内にアレイ状に配列されたFPA(Focal Plane Array)チップであって、ダイシングによって一枚の基板20から複数個の撮像素子45が切り出される。
次いで、図12に示すように、撮像素子45とは別に回路素子46を用意する。
その回路素子46には予めCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)プロセスで読み出し回路が形成されており、その読み出し回路によって各画素32の出力が読み出される。このように読み出し回路を備えた回路素子46はROIC(Read-Out Integrated Circuit)とも呼ばれる。
その回路素子46は、シリコン基板47とその表面に形成された電極48とを有する。電極48は、例えば銅めっき膜をパターニングすることにより形成され、回路素子46における読み出し電極と電気的に接続される。
そして、その回路素子46の上に撮像素子45を配し、端子43と電極48とを対向させる。
次に、図13に示すように、電極48に端子43を当接させた後に端子43をリフローし、その端子43を介して回路素子46に撮像素子45を接続する。
リフロー時の温度は特に限定されないが、この例では端子43の材料であるインジウムの融点(156.4℃)よりも高い180℃~200℃程度の温度に端子43を加熱する。
次いで、図14に示すように、撮像素子45と回路素子46との間にアンダーフィル樹脂49として熱硬化性の樹脂を充填し、その樹脂を80℃程度の温度に加熱して熱硬化させる。
続いて、図15に示すように、塩素ガスにより基板20とバッファ層21とをドライエッチングし、更に塩酸を用いてエッチングストッパ層22をウエットエッチングすることにより下部コンタクト層23を表出させる。
その後に、図16に示すように、エッチングガスとしてフルオロカーボン系ガスを使用するドライエッチングにより、隣接する画素32の間の絶縁層37を除去する。
以上により、本実施形態に係る赤外線イメージセンサ60の基本構造が完成する。
その赤外線イメージセンサ60の各々の画素32は、受光した赤外線の強度に応じたキャリアを蓄積する赤外線検出器として機能し、下部電極34と上部電極35の各々からそのキャリアが回路素子46に取り出される。
図21は、赤外線イメージセンサ60の斜視図である。
なお、図21においてはアンダーフィル樹脂49を省略してある。
図21に示すように、赤外線イメージセンサ60の受光面60aには撮像素子45の複数の画素32が露出する。また、撮像素子45は、端子43を介して回路素子46の読み出し回路と電気的に接続される。
図22は、この赤外線イメージセンサの等価回路図である。
図22に示すように、撮像素子45の画素32には回路素子46の読み出し回路が接続される。
読み出し回路は、CMOSプロセスによって形成されたリセットトランジスタRT、増幅トランジスタSF、及び選択トランジスタSLを有する。
このうち、リセットトランジスタRTは、オフ状態にすることにより画素32にキャリアを蓄積したり、オン状態にすることにより画素32の電位をリセットしたりする。
そして、選択トランジスタSLをオン状態にすることにより、画素32に蓄積されたキャリアの量の応じた読み出し電流Iが、電源電位Vddに維持された電源線61から信号線62に流れるようになる。
このように読み出し回路を回路素子46に設け、撮像素子45には画素32のみを設けることで、撮像素子45において画素32が占める割合を増やすことができる。
次に、この赤外線イメージセンサ60の動作について説明する。
図23は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサ60の動作について説明するための拡大断面図である。
図23に示すように、光電変換層24は、赤外線IR1が入射する上面24cとこれに相対する下面24dとを有する。そして、上面24cから入射した赤外線IR1によって光電変換層24内に電子と正孔が生成され、これにより光電変換層24において光電変換が行われる。
このとき、本実施形態では上面24cに対して斜めに延びる複数の孔24hを形成したため、光電変換層24の厚さ方向Dに沿って孔24hが一定の周期fで周期的に現れるようになる。
そのため、厚さ方向Dに沿って進行する赤外線IR1から見ると、光電変換層24は屈折率が周期的に変化するフォトニック結晶のように振る舞い、特定の波長の赤外線IR2のみが光電変換層24を透過できる。
光電変換層24を透過できる赤外線IR2の波長は周期fによって定まる。例えば、光電変換層24内での赤外線IR2の波長をλとすると、f=λ×1/4という共鳴条件を満たす赤外線IR2のみが光電変換層24を透過できる。
なお、光電変換層24の屈折率をnとすると、光電変換層24内での赤外線の波長は真空中における波長の1/n倍となる。
そこで、本実施形態では、光電変換層24が検出対象とする赤外線IR2の真空中での波長λ0が共鳴条件f=(λ0/n)×1/4を満たすように周期fを設定し、波長がλ0の赤外線IR2のみが光電変換層24を透過できるようにする。
赤外線の波長領域では、周期fは10μm以下、例えば5μm以下となる。
また、厚さ方向Dと孔24hが延びる方向との間の角度θは特に限定されないが、θを45°以上とすることにより厚さ方向Dに沿って現れる孔24hの個数を増やし、フォトニック効果を発現させ易くするのが好ましい。
なお、光電変換層24の内部における孔24hの周期pは、厚さ方向Dに沿った周期fを用いてp=f/sinθとも書ける。検出対象の赤外線の真空中での波長λ0が10μmで角度θが45°の場合、光電変換層24の主材料であるGaAsの屈折率は3.3であるから、p=10μm/(3.3×4×1.41)=0.53μmとすることにより、真空中での波長が10μmの赤外線のみが光電変換層24を透過するようになる。
図24(a)、(b)は、上記の赤外線IR1、IR2の波長分布を模式的に示すグラフである。
図24(a)に示すように、光電変換層24に入射する前の赤外線IR1の波長分布はブロードである。
これに対し、図24(b)に示すように、光電変換層24に入射した後の赤外線IR2の波長分布は、共鳴条件f=(λ0/n)×1/4を満たす波長λ0を中心にした急峻な分布となる。
これにより、光電変換層24自身が波長λ0の赤外線のみを透過する波長選択フィルタのように機能し、図1の例のような反射防止膜2で波長λ0の赤外線を選択する必要がない。
その結果、波長λ0からずれた波長の赤外線が光電変換層24に入射し難くなり、検出対象の波長以外の赤外線によって光電変換層24にノイズが発生するのを抑制することが可能となる。
本願発明者の調査によれば、厚さ方向Dと孔24hが延びる方向との間の角度θを45°とし、かつ光電変換層24の表面から2μmの深さにまで孔24hを形成したところ、図1の例よりも読み出し電流I(図22参照)のS/N比が50%向上することが明らかとなった。
しかも、このように光電変換層24に複数の孔24hを形成することにより光電変換層24の体積が減るため、光電変換層24を流れる暗電流を低減することもでき、ノイズを更に抑制することが可能となる。
但し、孔24hが大きすぎると光電変換層24の体積が過度に減少して撮像素子45の感度が低下するおそれがあるため、孔24hの直径は1μm以下とするのが好ましい。
更に、本実施形態では、図23に示すように、上部コンタクト層25の表面の溝25gを反映して反射層36の表面に凹凸36aが形成される。その凹凸36aは、赤外線IR2を厚さ方向Dに対して斜めに反射させる回折格子として機能する。
光電変換層24は強い角度依存性を有する透過特性を有し、厚さ方向Dに沿って進行する赤外線IR2は上面24cを透過するが、凹凸36aによって厚さ方向Dに対して斜めに反射した赤外線IR2は上面24cで反射して再び光電変換層24の内部に戻る。これにより赤外線IR2が光電変換層24の内部に閉じ込められるようになり、光電変換層24の光電変換効率を高めることが可能となる。
(第2実施形態)
本実施形態では、以下のようにして複数の波長の赤外線を撮像素子が受光できるようにする。
図25は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの上面図である。また、図26は、図25のIV-IV線に沿う断面図である。
なお、図25及び図26において第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
図25に示すように、本実施形態に係る赤外線イメージセンサ63においても基板20の上に複数の画素32が行列状に配される。
但し、本実施形態では3行3列の画素32をひとつのグループUとし、そのグループUに含まれる各々の画素32が検出する赤外線の真空中での波長λ1~λ9をそれぞれ異なる値にする。
このように各波長を異なる値にするため、本実施形態では、図26に示すように、厚さ方向Dに沿って孔24hが現れる周期fを画素32ごとに異なる値とする。
例えば、波長λ1に対応する画素32においては、波長λ1が共鳴条件f=(λ1/n)×1/4を満たすように周期fを設定する。但し、nは光電変換層24の屈折率である。
同様に、波長λ2に対応する画素32においては、波長λ2が共鳴条件f=(λ2/n)×1/4を満たすように周期fを設定する。残りの波長λ3~λ9に対応する画素32においてもこれと同様に周期fを設定する。
このように画素32ごとに周期fを変えることにより、光電変換層24を透過できる赤外線の波長を画素32ごとに変えることができる。各波長λ1~λ9の値は特に限定されず、例えば4.8μm~10μm程度の波長の範囲で各波長λ1~λ9を選択し得る。
これにより、一つの撮像素子45において波長の異なる赤外線像を同時に取得することができ、ユーザの便宜に資することが可能となる。
(第3実施形態)
第1実施形態では、図18に示したように、複数の孔24hの各々が延びる方向を第1の方向D1とした。
これに対し、本実施形態では複数の孔24hが延びる方向を二方向とする。
図27~図29は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの製造途中の断面図である。
なお、図27~図29において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
まず、第1実施形態の図2(a)~図4(b)の工程を行うことにより、図27(a)に示すように、光電変換層24と上部コンタクト層25の各々に複数の孔24hを形成する。
なお、図27(a)は、図4(b)の断面と直交する面に沿った断面図であり、図4(a)に示したように各孔24hは厚さ方向Dから傾いた方向に沿って延びる。また、上部コンタクト層25の表面には、第1実施形態で説明した溝25gも形成される。
次に、図27(b)に示すように、上部コンタクト層25の上にシリコンを含有する第4のレジスト層65として富士フイルムエレクトロニックマテリアルズ社製のFH-SP3CLを塗布する。そして、第4のレジスト層65を電子線で露光して更にそれを現像することにより、第4のレジスト層65に複数の開口65aを形成する。なお、電子線に代えて露光光で第4のレジスト層65を露光してもよい。
続いて、図28(a)に示すように、不図示のエッチングチャンバ内において基板20を水平面から45°程度の角度だけ傾けながら、開口65aを通じて光電変換層24と上部コンタクト層25の各々をドライエッチングする。そのドライエッチングでは、図4(a)における工程と同様にエッチングガスとして塩素ガスを使用する。
これにより、先に形成した孔24hとは異なる方向であって、光電変換層24の厚さ方向Dから傾いた方向に延びる孔24hが一定の周期pで形成される。
その後に、図28(b)に示すように、フッ酸等の薬液で第4のレジスト層65を除去する。
図30は、本工程を終了した後の上部コンタクト層25の一部領域Rにおける拡大上面図である。
なお、前述の図28(b)の一部領域Rにおける断面は、図30のV-V線に沿う断面に相当する。
図30に示すように、本工程の前に形成した孔24hは上面視で方向D1に沿って延びるのに対し、本工程で新に形成した孔24hは、上面視で方向D1に直交する方向D2に沿って延びる。
この後は、第1実施形態で説明した図5(a)~図16の工程を行うことにより、図29に示すような本実施形態に係る赤外線イメージセンサ70の基本構造を完成させる。
その赤外線イメージセンサ70においても、第1実施形態と同様に、各々の孔24hの厚さ方向Dに沿った周期fが共鳴条件f=λ×1/4を満たすように設定される。なお、λは、光電変換層24が検出対象とする赤外線の光電変換層24での波長である。
これにより、厚さ方向Dから入射する赤外線については波長がλの赤外線のみが光電変換層24を透過できる。
但し、λとは異なる波長λ’の赤外線が厚さ方向Dから傾いて入射しても、その赤外線の進行方向に沿って孔24hがλ’/4の周期で現れると、その赤外線は光電変換層24を透過してしまう。
そこで、本実施形態では、図30に示したように、複数の孔24hの各々を二つの方向D1、D2に沿って延ばす。
これにより、λとは異なる波長λ’の赤外線が厚さ方向Dから傾いて入射し、第1の方向D1に延びる孔24hがその赤外線の進行方向に沿ってλ’/4の周期で現れても、第2の方向D2に延びる孔24hはλ’/4の周期で現れ難くなる。
その結果、光電変換層24を透過できる赤外線の波長の幅が第1実施形態よりも更に狭くなるため、検出対象とは異なる波長の赤外線が光電変換層24を透過する可能性が減り、光電変換層24で発生するノイズを更に低減することが可能となる。
(第4実施形態)
本実施形態では、第1実施形態とは異なる方法で光電変換層24に孔24hを形成する。
図31~図34は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの製造途中の断面図である。なお、図31~図34において、第1~第3実施形態で説明したのと同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
まず、図31に示すように、第1実施形態の図2(a)~図16の工程を行うことにより、回路素子46と撮像素子45とが互いに接合された構造を得る。
但し、本実施形態では図3(b)~図4(b)の工程を省き、この時点では光電変換層24に孔24hを形成しない。
次に、図32に示すように、下部コンタクト層23の上に第1のレジスト層29を塗布し、それを電子線で露光して更に現像することにより複数の開口29aを形成する。その第1のレジスト層29として、第1実施形態と同様にシリコンを含有する富士フイルムエレクトロニックマテリアルズ社製のFH-SP3CLを使用する。
続いて、図33に示すように、不図示のエッチングチャンバ内においてシリコン基板47を水平面から45°程度の角度だけ傾けながら、開口29aを通じて下部コンタクト層23と光電変換層24とをドライエッチングする。
これにより、下部コンタクト層23と光電変換層24の各々に、光電変換層24の厚さ方向Dから傾いた方向に延びる複数の孔24hが一定の周期pで形成される。
また、第1実施形態と同様に、光電変換層24が検出対象とする赤外線の光電変換層24での波長をλとすると、各々の孔24hの厚さ方向Dに沿った周期fは、共鳴条件f=λ×1/4を満たすように設定される。これにより、厚さ方向Dから入射する赤外線については波長がλの赤外線のみが光電変換層24を透過できる。
なお、そのドライエッチングで使用するエッチングガスとしては、例えば塩素ガスがある。
その後に、図34に示すように、フッ酸等の薬液で第1のレジスト層29を除去する。
以上により、本実施形態に係る赤外線イメージセンサ80の基本構造を完成させる。
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、光電変換層24の厚さ方向Dに対して斜めに延びる複数の孔24hにより、光電変換層24が検出対象とする赤外線のみが光電変換層24を透過できる。そのため、光電変換層24が検出対象としない赤外線によって光電変換層24にノイズが発生するのを抑制することができ、高品位な赤外像を得ることが可能となる。
(第5実施形態)
第1実施形態では各々の画素32としてQWIPを形成した。これに対し、本実施形態ではQDIPを各画素32として形成する。
図35~図36は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの製造途中の断面図である。なお、図35~図36において第1~第4実施形態において説明したのと同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
まず、図35(a)に示すように、第1実施形態の図2(a)の工程を行うことにより、基板20の上にバッファ層21とエッチングストッパ層22とをこの順に形成する。
次に、図35(b)に示すように、エッチングストッパ層22の上に下部コンタクト層23としてn型のGaAs層をMOVPE法で1μm程度の厚さに形成する。
更に、下部コンタクト層23の上に、中間層24eと量子ドット24fとを交互に複数積層し、これらの積層膜を光電変換層24とする。
光電変換層24の各層の成膜条件は特に限定されない。本実施形態では、MBE法により中間層24eとしてn型のAl0.2Ga0.8As層を50nm程度の厚さに形成する。なお、中間層24eにドープされるn型不純物は、例えば濃度が1×1016cm-3程度のシリコンである。
また、量子ドット24fは、MBE法においてInAsの原子層を二層積層することにより、直径が約15nmで高さが約2nmの円盤状に形成される。
更に、光電変換層24の各層の積層数も特に限定されないが、この例では中間層24eの層数を21層とし、量子ドット24fの層数を20層とする。
そして、その光電変換層24の上にMOVPE法でn型のGaAs層を1.1μm程度の厚さに形成し、そのGaAs層を上部コンタクト層25とする。
この後は、第1実施形態の図3(a)~図16の工程を行うことにより、図36に示す本実施形態に係る赤外線イメージセンサ90の基本構造を完成させる。
以上説明した本実施形態においても、厚さ方向Dに対して斜めに延びる複数の孔24hによって光電変換層24がフォトニック結晶として振る舞うようになるため、特定の波長の赤外線のみが光電変換層24を透過できるようになる。
(第6実施形態)
本実施形態では、第1~第5実施形態で説明した赤外線イメージセンサを備えた撮像システムについて説明する。
図37は、本実施形態に係る撮像システムの構成図である。
なお、図37において、第1~第6実施形態で説明したのと同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
図37に示すように、この撮像システム200は、撮像レンズ201と、その後段に設けられたイメージセンサ60とを備える。
このうち、撮像レンズ201は、撮像対象の赤外像を得るためのレンズであって、その焦点面にイメージセンサ60が設けられる。
イメージセンサ60は容器202に収容されており、その容器202の開口部に設けられた赤外線透過窓203を介して赤外線IRを受光する。
容器202内にはコールドフィンガ204と冷却ヘッド205とが設けられる。コールドフィンガ204は、不図示のペルチェ素子等の冷却デバイスに接続されており、これにより冷却ヘッド205を介してイメージセンサ60を冷却し、イメージセンサ60に発生するノイズを低減する。
なお、イメージセンサ60の周囲の冷却ヘッド205にはコールドシールド206が立設されており、そのコールドシールド206によって迷光がイメージセンサ60に入るのが防止される。
このような撮像システム200によれば、第1実施形態で説明したように、イメージセンサ60が備える撮像素子45の光電変換層24に複数の孔24h(図23参照)を形成する。そのため、特定の波長の赤外線のみを透過するフォトニック結晶のように光電変換層24が振る舞うようになり、光電変換層24が検出対象としない赤外線によってノイズが発生するのを防止でき、撮像システム200によって鮮明な赤外像を得ることができる。
なお、この例では第1実施形態に係るイメージセンサ60を採用したが、これに代えて第2~第5実施形態に係るイメージセンサ63、70、80、90を採用してもよい。
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 赤外線が入射する上面を有すると共に、前記上面に対して斜めに延びた孔が間隔をおいて複数形成され、前記赤外線に対して光電変換を行う光電変換層、
を有する赤外線検出器。
(付記2) 前記光電変換層はフォトニック結晶であることを特徴とする付記1に記載の赤外線検出器。
(付記3) 前記光電変換層の厚さ方向に沿って前記複数の孔が現れる周期は、前記光電変換層における前記赤外線の波長の1/4に等しいことを特徴とする付記1に記載の赤外線検出器。
(付記4) 前記光電変換層は、前記上面に相対する下面を有し、
前記下面の下に、前記赤外線を反射する凹凸を備えた反射層を更に有することを特徴とする付記1に記載の赤外線検出器。
(付記5) 前記複数の孔の各々は、上面視において同一の方向に延びることを特徴とする付記1に記載の赤外線検出器。
(付記6) 前記複数の孔のうちの一部の前記孔は、上面視において第1の方向に延び、
前記複数の孔のうちの残りの前記孔は、上面視において前記第1の方向に直交する第2の方向に延びることを特徴とする付記1に記載の赤外線検出器。
(付記7) 平面内に間隔をおいて複数形成され、各々が赤外線に対して光電変換を行う光電変換層を備えた画素を備え、
前記光電変換層は前記赤外線が入射する上面を有し、前記上面に対して斜めに延びた孔が前記光電変換層に形成されたことを特徴とする撮像素子。
(付記8) 前記光電変換層の厚さ方向に沿って前記複数の孔が現れる周期が前記画素ごとに異なることを特徴とする付記7に記載の撮像素子。
(付記9) 撮像レンズと、
前記撮像レンズの後段に設けられた撮像素子とを備え、
前記撮像素子は、
平面内に間隔をおいて複数形成され、各々が赤外線に対して光電変換を行う光電変換層を有する画素を備え、
前記光電変換層は前記赤外線が入射する上面を有し、前記上面に対して斜めに延びた孔が前記光電変換層に形成されたことを特徴とする撮像システム。