以下、本開示に係る実施形態を添付図に基づいて説明する。同一の部品又は構成には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
本発明の第1実施形態に係るエンジン10について説明する。エンジン10は、以下に説明するようにシリンダー12がスイングするように設けられたエンジンであり、シリンダースイングエンジンと称されるものである。
エンジン10の概略構成図を図1に示し、その部分断面図を図2に示す。図2では、後述するケーシング14、16の紙面手前側が取り除かれている。図3は、エンジン10におけるケーシング14、16の連接箇所周囲の図1のIII−III線に沿った断面模式図である。図4は、エンジン10におけるシリンダー12のスイングの動きを説明するための図である。
エンジン10は、シリンダー12が設けられた第1ケーシング14と、この第1ケーシングに連接された第2ケーシング16とを備える。ここでは、図1に示すように、エンジン10の外側ケーシング11内において、第1ケーシング14は鉛直方向上側に位置し、その鉛直方向下側に第2ケーシング16は位置する。しかし、本開示は、第1ケーシング14と第2ケーシングの位置関係がこの関係以外の関係を有するようになることを排除するものではない。
第1ケーシング14は、外気つまり空気を取り入れることを可能な取り入れ口14aを有する。取り入れ口14aからの空気はエアクリーナー14bを介して、第1ケーシング14内に取り入れられる。第1ケーシング14の内側には、略円盤状の収容空間14sが区画形成されている。収容空間14sは、第1ケーシング14における、内側弧状面14fと、この内側弧状面14fを挟むように対向する2つの内側端面14d、14e(図3参照)により概ね形成されている。内側弧状面14fを円弧とする中心に延びる中心軸14cは2つの内側端面14d、14eに略直交する。内側弧状面14fは図3では中心軸14cに略平行な面として表されているが、この形状に限定されず、図3の断面において略半円状の形状を有してもよい。
収容空間14sに、シリンダー12が設けられている。シリンダー12は、弧状の筒体であり、その長手方向において断面形状が一定となるように設計されている。ここでは、その断面形状は円形であるが、四角形などの種々のその他の形状とすることもできる。
第1ケーシング14の中心軸14cに支点軸18が設けられ、その支点軸18を中心にして支点軸18周りにスイングするつまり揺動するように、シリンダー12は、第1ケーシング14の収容空間14sに設けられている。第1ケーシング14内でのシリンダー12のスイングの範囲は所定範囲に定められていて、後述する回転駆動部30の回転によりシリンダー12は所定範囲で往復動される。シリンダー12の支点軸18を中心とした径方向外側の面及び支点軸18方向の面が、第1ケーシング14の収容空間14sを区画形成する内側弧状面14f及び内側端面14d、14eに摺接した状態でスイングするように、つまり摺動するように、シリンダー12と第1ケーシング14とは設計されている(図1、図2、及び、図4参照)。
シリンダー12の内部には、ピストン部材20が配置される。ピストン部材20はシリンダー12に固定されておらず、シリンダー12内で自由に移動可能に配置されている。ピストン部材20は、シリンダー12のスイングに伴って、シリンダー12内でその長手方向に相対的に移動可能である。ここでは、シリンダー12の断面形状は円形であるので、ピストン部材20は断面円形の部材として構成されていて、特にここでは球体として構成されている。しかし、ピストン部材20は、球体であることに限定されず、その長手方向に湾曲し、その長手方向の各位置での断面形状が一定な部材、つまり湾曲した略円柱状の部材として構成されてもよい。シリンダー12の長手方向に直交する断面形状は円であり、その直径は、球体であるピストン部材20の直径に略等しく、より正確にはピストン部材20の直径よりもわずかに大きい。第1ケーシング14の内部には潤滑油が塗布され、第1ケーシング14とシリンダー12との間の潤滑性は好適に確保される。そして、その潤滑油はシリンダー12の両端部12a、12bからシリンダー12の内部にも流入し得、よって潤滑油によりシリンダー12とピストン部材20との間の気密性及び潤滑性は好適に確保される。
シリンダー12の長手方向の両端部12a、12bには空気取り入れ弁22(22a、22b)が設けられている。空気取り入れ弁22は逆止弁であり、シリンダー12の外部からその内部への空気の吸入用に設けられていて、シリンダー12の内部からその外部への空気の排出を防ぐように、自動開閉する機構を備える。ここでは、空気取り入れ弁22は弁体、ばねなどを備える機械式構成を備えるが、この構成に限定されない。
したがって、シリンダー12の内部には、ピストン部材20を間に挟んで2つの空気圧縮室24、26が区画形成される。図1及び図2では、第1端部12a側の第1の空気圧縮室24はピストン部材20の左側に位置し、第2端部12b側の第2の空気圧縮室26はピストン部材20の右側に位置する。空気取り入れ弁22aは第1の空気圧縮室24に対応付けられていて第1の空気圧縮室24へのガスつまり空気の取り入れを可能にし、空気取り入れ弁22bは第2の空気圧縮室26に対応付けられていて第2の空気圧縮室26へのガスつまり空気の取り入れを可能にする。
図1及び図2に示すように、シリンダー12は下側に凸の形態で第1ケーシング14に設けられていて、その内部にピストン部材20が設けられていて、ピストン部材20は所定重量以上の重量を有する。したがって、第1ケーシング14に対してシリンダー12がスイングするとき、ピストン部材20はシリンダー12内で最も鉛直方向下側に位置する箇所に慣性で実質的に留まる。よって、第1ケーシング14においてシリンダー12がスイングするとき、シリンダー12の位置変化に応じて第1の空気圧縮室24は拡張したり縮小したりし、第2の空気圧縮室26は縮小したり拡張したりする。
図4に、ピストン部材20が内部に配置されたシリンダー12を示す。図1及び図2の状態から図4(a)の状態になるようにシリンダー12が図4で紙面左側にスイングするとき、シリンダー12の移動とともに第1の空気圧縮室24は拡張し、一方で、第2の空気圧縮室26は縮小する。また、図4(a)から図4(b)の状態になるようにシリンダー12が図4で紙面右側にスイングするとき、シリンダー12の移動とともに第1の空気圧縮室24は縮小し、一方で、第2の空気圧縮室26は拡張する。なお、シリンダー12のスイングつまり揺動は、図4(a)の状態と、図4(b)の状態との間でのシリンダー12の繰り返し移動を意味する。
シリンダー12を所定範囲でスイングさせる駆動部として回転駆動部30が設けられている。回転駆動部30はその中心部周りに回転する歯車44を備え、回転駆動部30の歯車44が回転することでその歯車44に関して中心部からずれたところに設けられた動力伝達軸32が動き、これにより動力伝達軸32がつなげられたシリンダー12の支持部材34が動き、よってシリンダー12が所定範囲でスイングさせられる。なお、支持部材34は、支点軸18とシリンダー12とをつなぐように延びている。この支持部材34は第1ケーシング14の弧状開口孔14r(図1参照)を貫通して中心軸14cつまり支点軸18に平行に延びる連結軸34aを有し、この連結軸34aに動力伝達部材32が連結されている(図3参照)。そして、動力伝達軸32は、その一端が図1、図2及び図4において紙面裏側で歯車44に連結され、その他端側が支持部材34を挟むように延びるU字状の先端部を有するように構成されている。こうして、回転駆動部30の回転駆動力をシリンダー12に伝達するリンク機構が構成されている。
第1ケーシング14に接するように第2ケーシング16は設けられている。図3に示すように、第1ケーシング14と第2ケーシング16とは嵌合関係にある。ここでは、第1ケーシング14の上記内側弧状面14fを有する円弧状部14gが第2ケーシング16の外側凹部16aに嵌まり込むことで、それらは連接されている。しかし、この嵌合関係は逆であってもよい。
第2ケーシング16は、略半円状であり、中空の半円盤であり、下方に開放している。第2ケーシング16の内部の収容空間16sは、内側弧状面16fと、この内側弧状面16fを挟むように対向する2つの内側端面16d、16eにより概ね形成されている。内側弧状面16fを円弧とする中心に延びる中心軸16cは2つの内側端面16d、16eに略直交する。内側弧状面16fを有する円弧状部16gの径方向外側に前述の外側凹部16aが設けられている。
第2ケーシング16内には、回転体36が設けられている。回転体36は円柱状である。回転体36の回転軸36aは、第2ケーシング16の中心軸16cに一致し、第1ケーシング14のシリンダー12の支点軸18と平行である。回転体36は、所定方向A1に回転するように設けられていて、ここでは図1及び図2において時計回り方向に回転するように設けられている。回転体36は、第2ケーシング16の内側弧状面16f及び内側端面16d、16eに摺接した状態で回転するように、つまり摺動するように、回転体36と第2ケーシング16とは設計されている。第2ケーシング16の内部には潤滑油が塗布され、第2ケーシング16と回転体36との間の気密性及び潤滑性は好適に確保される。
回転体36の回転軸36aは第2ケーシング16を貫通し、その一方の端部に歯車42が設けられている(図1から図3参照)。歯車42は前述の回転駆動部30に設けられた歯車44に巻き掛けられたチェーン45が巻き掛けられ、これにより、チェーン45が所定方向A2に動く回転駆動部30の歯車44の回転により所定方向A1に回転させられ、よって回転体36は所定方向A1に回転する。チェーン45は動力伝達部材の一例であり、例えばベルトであってもよい。なお、動力伝達軸32及び歯車42、44は、シリンダー12の動きと連動して回転体36が回転するように設計されている。また、動力伝達軸3とチェーン45とが互いに干渉することなく作動するように、動力伝達軸32とチェーン45の各配置は設計されている。
シリンダー12の第1の空気圧縮室24の第1端部12a側にはその内外をつなぐ貫通孔である孔24aが設けられている。同様に、シリンダー12の第2の空気圧縮室26の第2端部12b側にはその内外をつなぐ貫通孔である孔26aが設けられている。そしてこれらの孔24a、26aはそれぞれシリンダー12の径方向外側の部分において径方向に延びている。一方で、第1ケーシング14の鉛直方向において最も下側の位置には、第1ケーシング14の内外をつなぐ貫通孔である開口部14hが設けられている。シリンダー12のスイングにより、第1の空気圧縮室24が実質的に最も圧縮された状態になるとき、その孔24aが第1ケーシング14の開口部14hに重なり連通し、一方で、第2の空気圧縮室26が実質的に最も圧縮された状態になるとき、その孔26aが第1ケーシング14の開口部14hに重なり連通する。
また、第1ケーシング14の開口部14hに連通する開口部16hが第2ケーシング16に設けられている。開口部16hは第2ケーシング16の内外を連通する貫通孔であり、開口部14hと同形状でありそこに連通されている。第1の空気圧縮室24の孔24aが第1ケーシング14の開口部14hに重なり連通するとき、第1の空気圧縮室24が第2ケーシング16の開口部16hに連通し、第2の空気圧縮室26の孔26aが第1ケーシング14の開口部14hに重なり連通するとき、第2の空気圧縮室26が第2ケーシング16の開口部16hに連通する。なお、第1の空気圧縮室24の孔24a及び第2の空気圧縮室26の孔26aのそれぞれが、第1ケーシング14の開口部14h及び第2ケーシング16の開口部16hに好適に連通するように、開口部14h、16hはシリンダー12のスイングする方向につまり回転体36の回転方向に長い長円形とされている。ただし、これは開口部14h、16hが楕円形、真円形にされることを排除するものではない。
回転体36の周囲に燃焼室38、40が設けられている。2つの燃焼室38、40は同じ形状、寸法を有する。図1及び図2に示すように、ここでは2つの燃焼室38、40が、回転体36の回転軸36aに関して180°回転対称の関係を有するように設けられている。図5に、2つの燃焼室38、40の一方の燃焼室38の斜視図を示す。燃焼室38は、図5では第2ケーシング16の内側弧状面16fで閉じられる上側の面が開いたように表されているが、その上側の面を含めて5つの面で区画形成されるように形成されている。具体的には、燃焼室38を区画形成する面は、所定方向A1と反対側を向いた面38aを含む。そして、燃焼室38は所定方向A1と反対側に向かうに従い縮小するように、ここでは先細りになるように設計されている。そして、燃焼室38は外周側が開放するように形成されていて、回転体36が第2ケーシング16の内面に、例えば内側弧状面16fに摺動することで実質的に密閉空間になる。これらは、燃焼室40においても同じである。そして、第1の空気圧縮室24の孔24aが第1ケーシング14の開口部14hに重なり連通するとき、第1燃焼室38が第2ケーシング16の開口部16hに連通し、第2の空気圧縮室26の孔26aが第1ケーシング14の開口部14hに重なり連通するとき、第2燃焼室40が第2ケーシング16の開口部16hに連通するように、回転体36は設計され、また燃焼室38、40は回転体36に配置されている。
したがって、第1の空気圧縮室24の孔24aが第1ケーシング14の開口部14hに重なり連通するとき、第1の空気圧縮室24で圧縮された空気は、第1の空気圧縮室24の孔24a及び第1及び第2ケーシング14、16の開口部14h、16hを通過して第1燃焼室38に流入することができる。そして、回転体36は所定方向A1に回転しているので、第1燃焼室38は第2ケーシング16の開口部16hから所定方向A1にずれることで第2ケーシング16との間に閉じられた空間となる。第1の空気圧縮室24は、燃料が自着火可能な所定レベルにまで圧縮されたガスを生じさせるように設計されていて、より具体的にはここでは14.0以上の圧縮比の空気を生じさせて第1燃焼室38に供給するように設計されている。ここでは、第1の空気圧縮室24の圧縮比が20になるように、シリンダー12は設計され、例えばシリンダー12の長手方向の長さつまり第1の空気圧縮室24のストロークは設計されているが、圧縮比はこれ以外であってもよい。したがって、これにより、第1燃焼室38には高温高圧の圧縮空気が充填されることになる。
同様に、第2の空気圧縮室26の孔26aが第1ケーシング14の開口部14hに重なり連通するとき、第2の空気圧縮室26で圧縮された空気は、第2の空気圧縮室26の孔26a及び第1及び第2ケーシング14、16の開口部14h、16hを通過して第2燃焼室40に流入することができる。そして、回転体36は所定方向A1に回転しているので、第2燃焼室40は第2ケーシング16の開口部16hから所定方向A1にずれることで第2ケーシング16との間に閉じられた空間となる。第2の空気圧縮室26も、燃料が自着火可能な所定レベルにまで圧縮されたガスを生じさせるように設計されていて、より具体的にはここでは14.0以上の圧縮比の空気を生じさせて第2燃焼室40に供給するように設計されている。具体的には、第1の空気圧縮室24の圧縮比と同じ20に第2の空気圧縮室26の圧縮比がなるように、シリンダー12は設計され、例えばシリンダー12の長手方向の長さつまり第2の空気圧縮室26のストロークは設計されているが、第2の空気圧縮室26の圧縮比はこれ以外であってもよい。したがって、これにより、第2燃焼室40には高温高圧の圧縮空気が充填されることになる。
このように圧縮空気が充填された燃焼室38、40に燃料を噴射するように、燃料噴射手段である燃料噴射弁50が設けられている。燃料噴射弁50は第2ケーシング16に設けられ、第2ケーシング16の開口部16hの所定方向A1の下流側に位置付けられている。また、燃料噴射弁50は、第2ケーシング16の下側の開放部16oの所定方向A1の上流側に位置付けられている。したがって、圧縮空気が充填された燃焼室38、40に、燃料噴射弁50から所定のタイミングで所定量の燃料が噴射される。これにより、燃焼室38、40で燃料が空気と混ざり、自着火するようになる。燃料噴射弁50の上流側には、図示しないが燃料タンク、燃料ポンプが設けられている。なお、燃料は、自着火用の燃料であり、ここでは軽油であるが、それ以外の燃料であってもよい。
なお、エンジン10では、回転駆動部30つまり歯車44の回転速度を検知するセンサが設けられ、そのセンサからの出力に応じた所定のタイミングで燃料噴射弁50が作動され、燃料が噴射される。また、回転駆動部30の初期駆動は、ここでは電動モータであるスタータ装置52を用いて実施される。
また、エンジン10では、第2ケーシング16の下方にオイルパン60が設けられている。オイルパン60のオイルはポンプ62により吸い上げられ、第1ケーシング14内に供給されるとともに、第2ケーシング16内に供給される。第1ケーシング14内に供給されたオイルは第1ケーシング14とシリンダー12との間に流れることができる。また、第2ケーシング16内に供給されたオイルは回転体36と第2ケーシング16との間に流れることができる。なお、外側ケーシング11には、その内部の圧力調整用にガス抜き孔64が設けられている。ガス抜き孔64に種々の弁が設けられてもよい。
上記構成を備えるエンジン10の作動について、図2に対応する図6に基づいて説明する。スタータ装置52で回転駆動部30の駆動つまり歯車44の回転駆動が開始されると、シリンダー12がスイング開始し、回転体36が所定方向A1に回転するようになる。このとき、上述の説明から明らかなように、シリンダー12と回転体36とは連動する。図6に示すように、第1の空気圧縮室24が圧縮されて、第1の空気圧縮室24の孔24aが第1ケーシング14の開口部14hに重なり連通するとき、第1の空気圧縮室24で上記所定レベルにまで圧縮された空気は、第1及び第2ケーシング14、16の開口部14h、16hを通過して第1燃焼室38に流入することができる。そして、回転体36が所定方向A1に更に回転することで、第1燃焼室38は第2ケーシング16の開口部16hから所定方向A1にずれ、第2ケーシング16との間で閉じられた空間となる。
そして、前述の圧縮空気が実質的に封入された第1燃焼室38(図6の符号「38p」参照)に燃料噴射弁50から燃料が噴射される。これにより、第1燃焼室38では自着火が生じるようになる。燃焼室38での燃料つまり混合気の自着火により、爆発エネルギーが生じたとき、第1燃焼室38は更に所定方向A1に進み、図6の符号「38q」の位置に至る。これにより、第1燃焼室38は、自着火ポイントの直ぐ所定方向A1の下流側に位置付けられた排気通路66の上流側端部につながり、更に排気通路66は所定方向A1の下流側に向けて排気通路66の開口面積が拡大するので、燃焼室38での燃焼爆発エネルギーが、回転体36を所定方向A1に回転させるエネルギーとして取り出される。なお、排気通路66には排気浄化装置68が設けられていて、その他に消音装置などが設けられてもよい。
また、前述のように、燃焼室38、40は、それぞれ、図5に示すように、5つの面を有するように形成されている。代表して燃焼室38について更に説明する。具体的には、燃焼室38を区画形成する面38sは、所定方向A1と反対側を向いた面38aを含む。そして、燃焼室38は所定方向A1と反対側に向かうに従い縮小するように設計されている。つまり、燃焼室38を区画形成する面38sは、面38a及び面38aに直交する側面38b、38c以外に、面38aの径方向内側の端部から所定方向A1と反対側に向けて延びかつ所定方向A1と反対側に向かうにしたがって径方向外側に向けて傾くつまり深さが浅くなる方向に傾斜する傾斜面38dを有する。したがって、回転体36の回転に関して、その燃焼室38での爆発エネルギーは主に面38a、38dに作用するが、面38aに作用する力が回転体36を所定方向A1に動かす力となり、回転体36の所定方向A1への回転をもたらし得る。これは、図7において、面38aに作用する力F1が、所定方向A1の力であり、径方向内側を向いた分力F2aと所定方向A1と反対側を向いた分力F2bに分けることができる面38dに作用する力F2の分力F2bよりも大きいことから理解できよう(F1>F2b)。
そして、更に、第1燃焼室38が所定方向A1の下流側に更に移動することで第1燃焼室38は第2ケーシング16内から出る。これにより、第1燃焼室38内のオイルなどはそこからオイルパン60などに排出可能になる。そして、第1燃焼室38は、回転体36の回転により更に所定方向A1に移動することで第2ケーシング16内に再度入ることになる。
第2燃焼室40についても、第1燃焼室38と同様に動き、機能する。第2燃焼室40についての更なる説明を省略する。
こうして作動するエンジン10では、燃焼室38、40での混合気の燃焼で回転体36が所定方向A1に回転し続け、回転駆動部30の歯車44が回転される。これにより、エンジン10は作動し続けることができる。回転駆動部30の回転は、そこに設けられて外側ケーシング11の外部に突き出た出力軸部材70を回転させ、回転動力を出力させる。出力軸部材70の回転動力は、種々の機械の動力として用いることができる。なお、出力軸部材70は、回転駆動部30に設けられることに限定されず、例えば回転体36に設けられてもよい。
上記構成を有するエンジン10では、回転体36の周囲の燃焼室38、40で混合気を燃焼させて回転体36を上記のように動かすことができる。また、混合気の燃焼は自着火であるので、点火プラグを使うよりも、その燃焼をより好適に生じさせることができる。したがって、エンジン10によれば、混合気の燃焼による爆発エネルギーをより直接的に回転動力として出力することができるとともに、混合気の燃焼をより好適に生じさせることが可能になる。
次に、本発明の第2実施形態に係るエンジン110を説明する。エンジン110も、上記エンジン10と同様に、シリンダー12がスイングするエンジンであり、シリンダースイングエンジンと称されるものである。なお、以下のエンジン110に説明では、エンジン10との相違点を主に説明し、かつ、エンジン10に関して既に説明した構成要素に対応する構成要素には同構成要素に付した符号を同様に付して、重複説明を省略する。
図8は、エンジン110の概略構成図であり、そのエンジン110のうちの動力伝達機構を省略した図であり、図9は図8のエンジン110を、図8の矢印IX方向からみた断面模式図であり、ケーシング14、16及びシリンダー12と、動力伝達機構112の関係を模式的に示す図である。
エンジン110では、第1ケーシング114がその長手方向に直交する断面が概ね半円状である、円弧状に湾曲した部材であり、第1実施形態の第1ケーシング14の一部と概ね全体が同じ形状を有する。したがって、空気を取り入れる取り入れ口14a及びエアフィルター14bは第1ケーシング114から切り離されて、入口部材104に設けられている。
第1ケーシング114の長手方向に直交する断面は、ここでは半円の円弧形状よりもわずかに長い円弧形状を有する。したがって、ピストン部材20が入れられたシリンダー12は第1ケーシング14に沿って、より好適に、第1実施形態のエンジン10のシリンダー12と同じくスイング移動することができる。ただし、第1ケーシング114の長手方向に直交する断面は、半円の円弧形状よりも短い円弧形状を有することも可能である。シリンダー12は、支持部材116により支持され、第1ケーシング114の中心部14cに延びる軸部材18周りに動くことができる。支持部材116は、扇形の板状部材であり、軸部材18に一端がスイング可能に支持され、シリンダー12の長手方向長さに概ね相当する円弧をその縁部に有する。
このように第1ケーシング114は閉じられた空間を形成しないので、第1ケーシング114と第2ケーシング16との間に仕切部材117が設けられている。仕切部材117には、第1ケーシング114の開口部14h及び第2ケーシング16の開口部16hが位置付けられていて、仕切部材117の第1ケーシング114側と、その第2ケーシング16側とは、それらの開口部14h、16hのみを介して連通する。これにより、入口部材104から外側ケーシング11内に取り入れられた空気は、第2ケーシング16の回転体36の燃焼室38、40からの排気などと交わることが無く、空気取り入れ弁22a、22bを介して空気圧縮室24、26に取り込まれることができる。
第2ケーシング16に設けられた回転体36の回転軸36aを中心軸として有する歯車42、駆動歯車44a、及びこれら歯車42、44aに巻き掛けられたベルト45aを有する動力伝達機構112は、第1及び第2ハウジング14、16及びシリンダー12とは別室に主に設けられている。外側ハウジング11内は、第1及び第2ハウジング14、16及びシリンダー12が収容された動力発生室11aと、動力伝達機構112が設けられ動力伝達室11bに隔壁11cで分けられている。隔壁11cを貫通する回転軸36aは隔壁11cの箇所に設けられた軸受B1で支持され、例えばシール軸受で支持されている。なお、ベルト45aはチェーンであってもよい。
駆動歯車44aはスタータ装置52で初期駆動が可能である。駆動歯車44aはスタータ装置52又は歯車42からの回転駆動力で回転し、その回転軸にはクランクシャフト118が設けられている。なお、隔壁11cを貫通するその回転軸つまりクランクシャフト118は隔壁11cの箇所に設けられた軸受B2で支持され、例えばシール軸受で支持されている。クランクシャフト118のクランク部118aは、図9に示すように動力発生室11aに位置付けられている。クランクシャフト118は動力伝達部材であるコネクティングロッド120を介してシリンダー12に、ここではシリンダー12の支持部材116につなげられている。図9に示すように、コネクティングロッド120はその先端が二股に分かれ、支持部材116を挟むようにその支持部材116に連結されている。上述のように第1ケーシング114は円弧状に湾曲した部材であるので、コネクティングロッド120は第1ケーシング114の孔などを貫通することなく支持部材116に連結することができる。
上記構成を有するエンジン110では、駆動歯車44aが回転することでクランクシャフト118が所定方向に回転し、よってシリンダー12が(第1実施形態において図4等に基づいて説明したように)所定範囲でスイングされ、ピストン部材20の両脇の空気圧縮室24、26で圧縮された空気は開口部14h、16hを介して対応する燃焼室38、40に供給され、そこに燃料噴射弁50から燃料が噴射供給され、それが自着火燃焼する。その結果生じた回転駆動力は、歯車42を介して駆動歯車44に伝達されるとともに、出力軸部材70を介してエンジン110外部に出力される。ここでは、出力軸部材70は回転体36の回転軸36aと平行に回転軸36aに直接的に連結されている。なお、変速機などが、出力軸部材70と回転体36の回転軸36aとの間に設けられてもよい。また、出力軸部材70はこのように回転体36側に設けられるのではなく、その以外の箇所に、例えば歯車42、44などに設けられてもよい。
なお、軸部材36a、70、118の滑らかな回転を可能にするようにそれらは軸受B1〜B6で支持されている。軸受B1〜B6の数、配置などは図9に示すものに限定されない。
エンジン110は、第1ハウジング114の上記構成、クランクシャフト118での動力伝達などの構成を備えるので、第1実施形態のエンジン10に比べて、製造が容易になるという利点を有する。その他、エンジン110は、上記エンジン10と同様の作用効果を奏することができる。
以上、本開示に係る2つの実施形態及びその変形例について説明したが、本開示はそれらに限定されない。本願の特許請求の範囲によって定義される本開示の精神及び範囲から逸脱しない限り、種々の置換、変更が可能である。
なお、燃焼室は前述の燃焼室38、40の形状に限定されず、他の形状を有してもよく、例えば傾斜面38dは所定方向A1の幅が一定であることに限定されず、所定方向A1の反対側に進むにしたがって幅が狭くなるように形作られてもよい。また、回転体36に設けられる燃焼室の数は2つに限定されず、少なくとも1つであり得、例えば1つであってもよい。
また、上記エンジン10、110は、シリンダー12をスイングさせて、そのスイングのときその内部でピストン部材20を慣性で所定位置に実質的に維持するものである。したがって、エンジン10、110は大型化に適する。よって、エンジン10、110は種々の機械の動力源として用いることができるが、例えば、エンジン10、110は船舶などの動力源として用いられるとよい。
なお、上記エンジン10、110の一部であるシリンダー12及びその周囲の構成は、エンジン10、110以外に適用されてもよく、例えばシリンダー12の空気圧縮室で生成された圧縮空気を取り出すように活用されてもよい。つまり、ピストン部材20を内部に収容するシリンダー12を備える装置をポンプ装置として作製してもよい。