本発明は、変調符号作成法、ホログラム記録再生方法、及びホログラム記録再生装置に関し、特に、n:r変調符号の作成法と、n:r変調された信号を記録・再生するホログラム記録再生方法、及びホログラム記録再生装置に関する。
近年、大容量のデータを効率的に記録することができる媒体として、ホログラム光メモリー媒体(ホログラム記録媒体)が注目されている。ホログラフィックメモリーは、画像や音声、コンピューター等の大容量メモリーとしての利用が期待されている。
ホログラフィックメモリー記録システムでは、一般に、デジタルデータを担持した物体光を参照光とともにホログラム記録媒体に同時に照射し、ホログラム記録媒体中に形成される干渉縞を光記録媒体に書き込むことによって、該デジタルデータを記録する。一方、デジタルデータが記録されたホログラム記録媒体に参照光を照射すると、ホログラム記録媒体中に書き込まれた干渉縞により光の回折を生じて、上記物体光が担持していたデジタルデータを再生することができる。現在用いられているホログラフィックメモリー記録システムの一例について図12及び図13を参照しながら簡単に説明する。
まず、記録時から説明する。図12は、ホログラフィックメモリー記録システム100の記録時の光学配置と光路(太い一点鎖線)の一例を示す図である。なお、記録時に使用されない光学要素は、細い二点鎖線で描かれている。
レーザ光源101から出力され、シャッタ102を通過したレーザ光(ここではS偏光(縦偏光))が1/2波長板103によって45度偏光に偏光面を回転させられた後、PBS(偏光ビームスプリッタ)104にてP偏光およびS偏光とに分けられる。P偏光はPBS104を透過後、シャッタ105を通過する。その後、拡大レンズ106により拡大された後、PBS107を透過し、反射型液晶素子等からなるSLM(空間光変調素子)108上に照射される。この照射された光は、SLM108の素子面に映出された白と黒のビットパターンによる2次元画像のデジタルデータを担持されるとともに、S偏光に変換されて(実際には、白表示とされた素子からの光がS偏光に変換される)反射され、物体光としてPBS107に戻る。このSLM108から戻った物体光は、PBS107により反射され、FT(フーリエ変換)レンズ109を通過後、空間フィルタ110でナイキスト周波数分を透過し、それ以上の周波数成分をカットし、再度、FT(フーリエ変換)レンズ111、FT(フーリエ変換)レンズ112を介してホログラム記録媒体113上に照射される。
一方、PBS104によって反射されたS偏光は1/2波長板117を通過するが、ここでは、1/2波長板117とビームの偏光軸を合わせておき、ビームの偏光面は回転させない。次にPBS116に入射し、ここで、反射され、ミラー120、ガルバノミラー121と反射され、リレーレンズ122を通過後、ホログラム記録媒体113上に照射される。このようにしてホログラム記録媒体113上に照射された参照光と物体光はいずれもS偏光とされているので、このホログラム記録媒体113上で干渉して干渉縞が形成され、該干渉縞がホログラム記録媒体113に書き込まれることになる。
次に再生時について図13を用いて説明する。図13は、ホログラフィックメモリー記録システム100の再生時の光学配置と光路(太い一点鎖線)の一例を示す図である。なお、再生時に使用されない光学要素は、細い二点鎖線で描かれている。
PBS104までは記録時と同様であるが、透過したP偏光はシャッタ105で止められる。一方、反射されたS偏光は1/2波長板117の軸を45度の設定値へ変更して偏光面を90度回転され、P偏光となる。このP偏光はPBS116を通過後、ガルバノミラー115によって反射され、リレーレンズ114を通過後ホログラム記録媒体113に入射する。ホログラム記録媒体113に書かれた干渉縞によって回折された信号光はFTレンズ112、FTレンズ111、空間フィルタ110、FTレンズ109、と通過後、PBS107を通過して2次元撮像素子118で撮像され、演算装置119で処理することにより、デジタルデータが復元されることになる。
このようなホログラフィックメモリー記録システムにおいて、FTレンズを通過する光は一種のローパスフィルタの効果を受け、信号再生する2次元撮像素子118では、点像が大きく広がり、また、近隣の点像が近い場合はその点像同士が接合してしまう再生像となる。また、レーザ光源101から出射する光を拡大レンズ106でSLM108の大きさまで大きくするので、SLM108の中心部が明るく、周辺部がやや暗い再生像となる。
この場合の閾値判定においては、輝度分布に応じて周辺部と中心部で閾値を変化させなければならない。しかしながら、輝度分布は記録条件、再生条件など種々の依存性があるので、一概には決定できない。そこで、記録コードとして、ある一定の範囲中で白と黒との判定を行う差分コードが提案されている(特許文献1)。この手法をとることにより、ある一定の範囲内での白と黒との判別により、データを再生できる特徴がある。
一方、ホログラフィックメモリー記録システムでは、輝度むらの他にも光学系、記録媒体からのノイズ、多重した記録ページからの漏洩などさまざまなノイズも加わる。このため、上述の差分コードのみで、そのまま誤りなく記録再生することは困難なため、通常誤り訂正コードを付加する。
誤り訂正コードには大きく分けて、ブロック符号と畳み込み符号とに分かれる。近年、ブロック符号では、LDPC(Low Density Parity Check)が、畳み込み符号では、ターボ符号がシャノン限界に迫る誤り訂正能力を示すことで、よく使われている。
このうち、ターボ符号は復号処理が複雑でレイテンシが比較的大きいところから、記録装置の誤り訂正といった点から考えると、適当ではない。一方、LDPCは線形時間復号である、並列実装に適している、などの点から、衛星放送、無線LANや無線インターネットをはじめとしてさまざまなところで使われている。ホログラフィックメモリー記録システムでも同様に、誤り訂正としてLDPCの使用が有望である(特許文献2)。
ここで、LDPC符号化/復号化の概要について説明する。
LDPCにおいては、符号化の対象とするビットが、一般に「情報ビット」と呼ばれる。また、LDPCの符号化を行うにあたっては、予め「検査行列」(Hと表記される)が定められる。符号化においては、先ず、入力された情報ビット列と上記検査行列Hとに基づき、「検査ビット列」(パリティ)が生成される。検査ビットが付加されたデータ単位、すなわち「情報ビット+検査ビット」の単位が、LDPC符号化/復号化の最小単位である「1LDPCブロック」となる。このようにLDPC符号化されたデータ(LDPC符号列)が、通信路に対して送出され、或いは記録媒体に対して記録される。
LDPC符号の復号化では、先ず、受信信号(又は読出し信号)から、LDPC符号列を構成する各ビットの「対数尤度比」(Log Likelihood Ratio:LLR)を計算する。この「対数尤度比」は、各ビットの値(「0」又は「1」)の尤度を表す情報として用いられるものであり、以下では「LLR」と略称する。
ここで、送信信号をXn(Xnは、+1又は−1)、受信信号をYnとしたときの、LLR(λnとおく)の求め方について説明する。通信路の条件付き確率P(Yn|Xn)より、LLRは次式(1)で計算できる。
一般的なAWGN(加法白色ガウス雑音)通信路を想定した場合のLDPC符号化・復号化のモデルの場合、通信路の条件付き確率は、次式(2)とおくことができる。但し、σ2はガウス雑音の分散であり、bは+1と−1の値をとる。
ここで、(1)式に、(2)式を代入すると、LLR(λn)は、次式(3)となる。
ビットごとのLLRについてはλ(n)と表記する。受信信号からビットごとのLLR(λ(n))を計算し、これらλ(n)と、予め定められた検査行列(H)とに基づき、LDPC復号アルゴリズムにより、LDPCブロックごとに情報ビットの各ビット値を推定するのがLDPC復号化である。
LDPC復号アルゴリズムは、いわゆるMAP(Maximum A posteriori Possibility)復号法を基礎としたものとなる。MAP復号法では、符号語Xを送信したとき受信語Yが受信される確率を表す条件付き確率を計算し、該条件付き確率Pを最大とする「0」又は「1」のシンボルをその推定値とする。但し、すべての符号語について事後確率P(Yn|Xn)の値を加算することでビットごとの事後確率を計算する手順を、定義に従ってそのまま実行するとした場合、計算量は膨大なものとなるので、この計算量を削減するためのLDPC復号アルゴリズムとして、例えばsum-productアルゴリズムが提案されている。このsum-productアルゴリズムは、MAP復号法の近似アルゴリズムといえる。次に、sum-productアルゴリズムについて説明する。
図14は、sum-productアルゴリズムによるLDPC復号処理の内容を簡略的に説明するための復号処理の内容を示すフローチャートである(非特許文献2)。
フローチャートの概要は、まず、ステップ1(S1)として、チェックノードmから変数ノードnへのメッセージαmnを求める処理を行い、次いで、ステップ2(S2)として、求められたαmnと対数尤度比λnに基づいて、変数ノードnからチェックノードmへのメッセージβnmを求める処理を行う。その後、ステップ3(S3)として、後述する対数事後確率比の近似値Lnを求め、この値に基づいて推定ビットを決定する。
その後、ステップ4(S4)として、得られた推定ビットに基づいてパリティ検査を行い、推定ビットがパリティ検査を満たす場合は、ステップ5(S5)で、これを正しい推定ビットとして出力し、満たさない場合は、ステップ1に戻って処理を繰り返す。
フローチャートの各式において、「A(m)」は、チェックノードmに接続する変数ノード集合を表し、「A(m)\n」は、集合A(m)からnを取り去って得られる差集合を表す。同様に、「B(n)」は変数ノードnに接続するチェックノード集合を表し、「B(n)\m」は集合B(n)からmを取り去って得られる差集合を表す。また、関数f(x)は、図中にも示されるように、次式(4)で定義される関数であり、f・fが恒等写像となる性質がある。
関数sign(x)は、xが正のとき+1、負のとき−1、0のとき0を値としてとる符号関数である。なお、復号処理においては、「変数ノードnからチェックノードmへのメッセージβnm」の初期値は「0」として計算を開始する。
ステップ3(S3)の推定ビット決定処理で計算しているLnは、事後確率Pに関連した「対数事後確率比」と呼ばれる量の近似値である。このLnの絶対値が推定の信頼性を表し、その値が大であるほど推定の信頼性が高いことを表す。このLnの値が正であれば、推定ビットの値として「0」を決定する(0(Ln>0))。また、Lnの値が負であれば推定ビットの値として「1」を決定する(1(Ln<0))。
ステップ4(S4)のパリティ検査処理において、予め定められた検査行列Hが用いられる。推定ビット系列がパリティ検査条件を満たす場合は、推定ビット系列を送信(記録)した情報ビット系列の推定値として出力する(S5)。
このようにして、sum-productアルゴリズムによる復号処理では、チェックノード処理・変数ノード処理・推定ビット決定処理を1ラウンドの処理として、推定ビット系列がパリティ検査条件を満たすまで、この処理を繰り返す。なお、このようなsum-productアルゴリズムを始めとしたLDPC復号アルゴリズムの詳細は文献(非特許文献1・非特許文献2・非特許文献3等)に説明されている。
ところで、一般的な信号は時系列の1次元信号であるため、尤度計算には、受信信号の振幅値を式(3)にあてはめて、計算すれば良い。一方、ホログラム記録では、上述のように、輝度むら等の対策のために、差分コードを使用することがある。このような場合には、受信信号を式(3)に直接あてはめることができない。
そこで、差分コードを用いたときの尤度計算の一例について説明する。ホログラム記録では、2×2の4bitのピクセルに対し、中から1つのbitのみ白とし、そのほかを黒とする、つまり2bitの情報を4bit使って記録再生することが試みられている。以下、nbitの情報を、rbitを使って表現する変調方法を「n:r変調」と呼ぶことにする。上記の2bitの情報を4bit使って記録再生する方法は、「2:4変調」である。n:r変調は、例えば、nbitの情報を、r箇所内における所定数のビット配置(ピクセル配置)によってrbitとして表現する等の方法で実現でき、信号を2次元データに変換するときや、信号の直流成分を除去するとき等に利用される。
2:4変調を利用する場合は、rbit(4bit)の各要素の測定値をr1〜r4として、次式(5)で2bitの受信語を求めることができる。
各受信語Yn(再生信号)は、ノイズがない場合に1となり、ノイズがある場合には1を平均値とする正規分布となるから、(2)式に相当する条件付き確率は、次の(6)〜(9)式となる。
これから、元の2bitについて、第1bitのLLRは次式(10)で、第2bitのLLRは次式(11)で求められる。
このLLRを使用して、LDPCの誤り訂正復号を行うことができる(特許文献2)。
このように、n:r変調とLDPCを組み合わせた符号化及び誤り訂正復号方法が提案されているが、特許文献2の4bitの2次元データの測定値から元の2bitのLLRを求め、このLLRを使用してLDPCの誤り訂正を行う方法は、符号長を長くするとその計算量が増大するという課題があった。
また、他にも、9bit情報を16bitで表現する9:16変調において、LDPCの尤度の計算方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、この計算方法も、並べ替えを何度も行い、また、最小値の検出などさまざまな計算を必要としているので、汎用性に欠けるとともに、符号長が大きくなった場合には、適用が難しいといった課題があった。
そこで、本発明者らは、測定値の尤度から測定ビット推定を経て、最終ビットを得るという経路ではなく、直接的に判定をする経路、つまり、測定値(rbit)の尤度から最終ビット(nbit)推定という手法を提案している(特願2016−175893号)。
ここで、本発明者らが提案した尤度決定方法(LLR算出手順)について、図15のフローチャートと、図16に示す受信(読出)信号の例に基づいて、説明する。
n:r変調の一例として、5:9変調を用いて説明する。ホログラフィックメモリー記録システムにおいては、5:9変調は、5bitのデータを9bit(3×3)のピクセルにして、その9個のピクセルのうち、2個を白とし、そのほかを黒とする変調符号である。9個のピクセルから2個を白とするので、その選択数は次式(12)のとおり、36通りである。
5bitのデータは25=32となるので、36通りの中から32通りを選択することにより、5:9変調の対応ができる。
ホログラムの記録再生時には、再生された3×3のピクセル中で白である2個のピクセルを識別して、そのピクセルの配置により、5bitを復号することになる。つまり、最終的には5bitのデータのLLRを、再生(測定)データから尤度として決定することができれば、5:9変調前の5bitでのLDPC復号を行えば良いことになる。
図15のフローチャートのステップ1(S1)において、ブロック化されたrbitの測定データ読み込む。ここでは、図16(1)のブロック化された9bitの入力信号データ(a1〜a9)を読み込む。各ビットのデータは、例えば、ホログラフィックメモリー記録システムにおいて、撮像素子で取得した8bit階調の測定データの場合、0〜255の階調信号となる。
次に、ステップ2(S2)において、rbitの入力信号からnbitへ変換(nbitの硬判定)を行う。ここでは、(1)の9bitの測定データ(a1〜a9)を白黒(1,0)のデータパターンに対応させて、どのような5bitに対応するか硬判定する。この場合、例えば、測定データを輝度の高いデータから順に並べ、上位2つの輝度を白と判定し、その位置から、硬判定結果求める。図16の例では、(1)の9bitの測定データのうち、輝度の最も高いデータ(例えばa6)と次に輝度の高いデータ(例えばa7)を白[1]とし、他のデータを黒[0]に対応させて、「000001100」の9bitデータを得て(図16(4)のデータに相当)、この9bitデータに対応する5bitデータである図16(2)の「10011」を、硬判定結果として導出している。
次に、ステップ3(S3)として、k=1とおく。このkは、nbitの上位からk番目のビットの尤度の情報(LLR)を求める処理であることを意味する。
ステップ4(S4)として、まず、ステップ2(S2)で得られたnbitについて、上位からkビット目の判定結果を1としたnbit(第1nbit)を作成する。例えば、硬判定結果の上位1bit(k=1)の尤度(LLR)を求める場合、上位1bitのみを「1」とし、他のbitは硬判定の結果のままとしたnbit(第1nbit)を作成する。図16の例では、硬判定結果(「10011」)の1ビット目は1であるから、第1nbitは(2)となり、硬判定結果のnbitと一致する。次に、ステップ2(S2)で得られたnbitについて、上位からkビット目の判定結果を0としたnbit(第2nbit)を作成する。例えば、上位1bit(k=1)の尤度(LLR)を求める処理では、上位1bitのみを「0」とし、他のbitは硬判定の結果のままとしたnbit(第2nbit)を作成する。図16の例では、図16(2)の5bitデータ「10011」の上位1bit(左端のbit)を「0」として(反転させて)、「00011」の第2nbit(3)を作成する。(2)と(3)の太枠で囲われた部分(ここでは上位1bit)が、尤度(LLR)を求めるビットである。
ステップ5(S5)として、ステップ4(S4)で得られた第1nbitのrbitへの変換データと、第2nbitのrbitへの変換データとのビットごとの差分を算出する。すなわち、ステップ4(S4)で得られた第1nbit(=硬判定結果)の「10011」より、その5bitに割り当てられている9bit(図16の(4)「000001100」)を求める。また、同様に、得られた第2nbit(「00011」)より、第2nbitの5bitに割り当てられている9bit(図16の(5)「100010000」)を求める。そして、尤度判定bit(上位1bit)が「1」である第1nbitに割り当てられている9bitのビット列(4)と、尤度判定bitが「0」である第2nbitに割り当てられている9bitのビット列(5)との差をとる。すなわち、9bitの各ビットごとに((4)−(5))を求めて、(6)のデータ列「−1000−11100」を得る。ビット列(4)とビット列(5)とが不一致の部分(ここでは、枠で囲んだ1,5,6,7番目のbit)が、(6)のデータ列で1又は−1となり、他のビットは0となる。5:9変調の場合は、9bitの内、データ1であるのは2bitであるから、不一致のbit数は最大4bitにすぎない。なお、差分を求める演算として(4)−(5)を行うか、(5)−(4)を行うかについては、次の規格化処理において、測定データの最大値を「−1」に対応させるか「+1」に対応させるかによっても変わり得るので、固定されたものではない。
ステップ6(S6)として、rbitの測定データを規格化する。例えば、図16(1)の9bitの測定データ(a1〜a9)を、次式(13)により、9個のデータ中で最大値(max(a1,…,a9))と最小値(min(a1,…,a9))に基づいて、−1から1に規格化し、図3(7)の規格化データ(a1’〜a9’)を得る。例えば、撮像素子で得られた測定データが、最小15、最大200の諧調データであった場合、185諧調に分布するデータを−1から1に規格化して対応させる。
なお、測定データ(a1〜a9)の最大・最小を、−1から+1に対応させるか、或いは、+1から−1に対応させるかは、ステップ5の演算として(4)−(5)を行うか、(5)−(4)を行うかにも関連しており、適切なLLRとなるよう適宜設定する。また、入力信号が例えば通信路を経て伝送された受信信号のように、測定データ(a1〜a9)が−1から1に分散している場合は、特に、規格化処理を行う必要はない。
ステップ7(S7)として、ステップ5(S5)で得られた差分データと、S6で規格化されたrbitデータ(規格化が不要な場合はrbitの測定データ)とを、ビットごとに乗算する(積を求める)。なお、乗算するといっても、差分データは1又は−1であるから、乗算は実質的に測定データの正負の符号の操作だけであり、計算量は少ない。そして、乗算結果の全体の平均値を求める。例えば、図16の例では、差分データと規格化された測定データの積として、(−a1’−a5’+a6’+a7’)が求まり、これを差分の生じたビットの数(ここでは、4)で割って、全体の平均値を求める。そして、この平均値を、図16(8)のように受信信号Ynとみなす。
ステップ8(S8)として、ステップ7(S7)の算出結果を受信信号Ynとしてk番目のビットの尤度としてのLLRを算出する。すなわち、前述の式(3)のYnに図16(8)のYn(平均値)を代入する。このとき、雑音σ2は、実測値として求めても、推定値として適当な値を入力しても良い。得られた結果をnbitデータの上位1bit(k=1)の対数尤度比(LLR)とする。
その後、ステップ9(S9)として、k=nであるか否かを判定する。判定結果Yes(k=n)であれば終了し、No(k<n)であれば、ステップ10(S10)に進む。
ステップ10(S10)では、kに1を加えて、ステップ4(S4)から、再び処理を行う。すなわち、上記ステップでは5bit中の最上位の1bitの説明をしたが、次の処理ではk=2として、5bit中の2番目のbitの尤度を求める。2番目のbitの尤度(LLR)を計算する場合には、同様に、硬判定結果のnbitのデータに基づいて、2番目のbit(k=2)を「1」とした第1nbit(図16の例では「11011」)と、2番目のbitを「0」とした第2nbit(図16の例では「10011」)を作成して、同様の計算を行う。
このような演算処理をすることにより、rbitの測定データから一挙にビット列(nbit)の尤度(LLR)決定、さらにはビット決定をすることができる。この計算では、差分、かけ算、平均値という、ごく基本的な四則演算しか行っていないため、非常に高速かつ、効率的に尤度(LLR)を計算することができる。そして、この後、nbitの尤度に基づく誤り訂正を行い、精度の高いデータ復号を実現することができる。
なお、図16の説明において、(2)は硬判定結果としているが、LDPCの繰り返し計算の中では、推定ビットとして置き換える。
特許第3209493号公報
特開2007−272973号公報
特開2010−186503号公報
「LDPC符号の実践的な構成法(上)」日経エレクトロニクス 2005年8月15日号(126〜130頁)
「LDPC符号の実践的な構成法(中)」日経エレクトロニクス 2005年8月29日号(127〜132頁)
「LDPC符号の実践的な構成法(下)」日経エレクトロニクス 2005年9月12日号(137〜145頁)
これまでのn:r変調を利用した記録システムでは、nbitのビット列とrbitのピクセルのブロックとを任意に対応付けており、ピクセル(シンボル)の読み取り誤りとビット列のビット誤りとの相関関係は、考慮されていなかった。
このことを、5:9変調を例として説明する。前述のとおり、5:9変調は、5bitのデータを9bit(3×3)のピクセルにして、その9個のピクセルのうち、2個を白とし、そのほかを黒とする変調符号であり、その選択数は、(12)式のとおり、36通りである。図2に、36通り全てのパターンを示す。図2は、3×3個のピクセルから2個を白とするパターンを機械的に36通り全て作成し、これに$0から$35までの仮番号を付与したものである。なお、図2のパターンは、一方の白(白1)を初めに左上に配置し、他方の白(白2)を左中央に配置したものを$0とし、次に、白1を固定して白2を左下に配置したものを$1とし、同様に白2の配置を順次移動させて$2〜$7のパターンを作成し、次いで、白1を左中央に固定して白2の配置を順次移動させて$8〜$14のパターンを作成し、以下同様に、白1と白2の配置を順次移動させて、機械的に36通りのパターンを作成している。
従来の5:9変調では、これら36通りのパターンと5bitのビット列を任意に対応付けていたため、パターンの読み取り誤りが大きなビット誤りを生じる可能性があった。例えば、左上と左中央に白が配置されたパターン(図2のパターン$0)にデータ0(ビット列「00000」)を対応させ、中央上と左中央に白が配置されたパターン(図2のパターン$9)にデータ7(ビット列「00111」)を対応させたとする。記録されたパターン$0を再生する際に、パターン$0の白の一つを近隣のピクセルと読み取り誤りをする可能性があり、パターン$0がパターン$9として判定される場合がある。つまり、ホログラム記録の再生信号では1ピクセル(シンボル)の誤りが、最終的なビット列では、3ビットの誤りとなってしまう場合があった。
このように、従来のn:r変調を利用したホログラム記録再生装置において、nbitのデータ列とrbitのパターンとの相関関係がないことが、測定値からnbitのビット列データを復号する際に、誤差を生じる一因となっていた。
本発明者らは、さらに、提案した図15、図16に示した復号方法について、nbitのデータ列とrbitのパターンとの相関関係を持たせること、すなわち、測定値の尤度と、最終的なビットの尤度とに関連性を付けることで、誤り訂正能力を向上させることができることを発見した。
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、誤り訂正の能力を向上させることのできるn:r変調符号の生成法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、n:r変調信号に基づいて記録・再生処理を行い、誤り訂正の能力を向上させることのできるホログラム記録再生方法、及び、再生信号の誤り率を低下させることができるホログラム記録再生装置を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係る変調符号作成法は、
nbitのデータからコンピュータを用いて作成するrbitのパターンへの変調のための変調符号作成法であって、n:r変調に必要な個数のrbitのピクセルからなるブロックのパターンの全ての組み合わせについて、輝点(白)間ユークリッド距離の和を求め、各パターン間の輝点(白)間ユークリッド距離の和をマトリックス配置したAmatrixを作成する工程と、nbitのビット列の全ての組み合わせについて、相互のビット列間の各ビットのユークリッド距離の和を求め、各ビット列間の各ビットのユークリッド距離の和をマトリックス配置したBmatrixを作成する工程と、AmatrixとBmatrixのそれぞれのマトリックスの要素を規格化して、Amatrix_normalizedと、Bmatrix_normalizedとを作成する工程と、規格化されたマトリックス同士の各要素の差分の2乗和(D)を次式で計算する工程と、
Amatrixの配列を異ならせて2乗和(D)を計算し、前記2乗和(D)が最小となるAmatrixを求め、このときのAmatrixの並びとBmatrixの並びの対応関係から、nbitのビット列とrbitのパターンとを対応付けてn:r変調符号とする工程と、を備えることを特徴とする。
また、上記課題を解決するために本発明に係るホログラム記録方法は、前記変調符号作成法によりn:r変調符号を作成し、記録時に、nbitのデータを前記n:r変調符号によりrbitの2次元コードにして記録媒体に記録することを特徴とする。
上記課題を解決するために本発明に係るホログラム再生方法は、前記変調符号作成法によりn:r変調符号を作成し、再生時に、記録媒体より再生したn:r変調されている信号から、rbitを抽出する工程と、前記rbitの再生信号から、前記n:r変調符号に基づいてnbitの硬判定を行う工程と、硬判定されたnbitのデータに基づいて、尤度を算出するビットを1とした第1nbitと、尤度を算出するビットを0とした第2nbitを作成し、前記第1nbitに対応するrbit変換データと前記第2nbitに対応するrbit変換データとの差分と、規格化されたrbitの再生信号とのビットごとの積の平均値に基づいて、前記ビットの尤度を算出する工程と、前記算出された尤度に基づいて、nbitの誤り訂正復号処理を行う工程を含むことを特徴とする。
上記課題を解決するために本発明に係るホログラム記録再生装置は、記録媒体より再生したn:r変調されている信号から、rbitを抽出し、前記rbitの再生信号から、n:r変調テーブルに格納されたn:r変調符号に基づいてnbitの判定を行う、ホログラム記録再生装置において、前記n:r変調テーブルに格納されたn:r変調符号は、rbitのピクセルからなるブロックのパターンの全ての組み合わせについて、各パターン間の輝点(白)間ユークリッド距離の和をマトリックス配置したAmatrixを規格化したAmatrix_normalizedと、 nbitのビット列の全ての組み合わせについて、各ビット列間の各ビットのユークリッド距離の和をマトリックス配置したBmatrixを規格化したBmatrix_normalizedとのマトリックス同士の各要素の差分の2乗和(D)[次式]が、rbitのピクセルからなるブロックのパターンをランダムに配置したAmatrixを用いて求めた前記2乗和(D)の値の90%以下であるAmatrixの並びとBmatrixの並びの対応関係を有する、nbitのビット列とrbitのパターンとのn:r変調符号であることを特徴とする。
上記課題を解決するために本発明に係るホログラム記録再生装置は、記録媒体より再生したn:r変調されている信号から、rbitを抽出し、前記rbitの再生信号から、n:r変調テーブルに格納されたn:r変調符号に基づいてnbitの判定を行う、ホログラム記録再生装置において、前記n:r変調テーブルは5:9変調テーブルであり、前記5:9変調テーブルに格納された5:9変調符号は、9bitのピクセルからなる32通りのブロックのパターンの全ての組み合わせについて、各パターン間の輝点(白)間ユークリッド距離の和をマトリックス配置したAmatrixを規格化したAmatrix_normalizedと、5bitのビット列の全ての組み合わせについて、各ビット列間の各ビットのユークリッド距離の和をマトリックス配置したBmatrixを規格化したBmatrix_normalizedとのマトリックス同士の各要素の差分の2乗和(D)[次式]が、2122以下となるAmatrixの並びとBmatrixの並びの対応関係を有する、nbitのビット列とrbitのパターンとの5:9変調符号であることを特徴とする。
また、前記ホログラム記録再生装置は、再生したn:r変調されている信号を、rbitのブロックにブロック化するブロック抽出部と、ブロック化されたrbitの入力信号から、前記n:r変調符号によりnbitの硬判定を行う硬判定部と、硬判定されたnbitのデータに基づいて、尤度を算出するビットを1とした第1nbitと、尤度を算出するビットを0とした第2nbitを作成し、前記第1nbitに対応するrbit変換データと前記第2nbitに対応するrbit変換データとの差分と、rbitの入力信号とのビットごとの積の平均値に基づいて、前記ビットの尤度を算出するLLR判定部と、前記LLR判定部で算出された尤度に基づいて、nbitの誤り訂正復号処理を行う誤り訂正復号部と、を備えることが望ましい。
また、前記ホログラム記録再生装置において、再生したn:r変調されている信号は、LDPC符号により誤り訂正符号化処理がなされていることが望ましい。
本発明の変調符号生成方法によれば、誤り訂正の能力を向上させることのできるn:r変調符号を生成することができる。
また、本発明のホログラム記録再生方法、及び、ホログラム記録再生装置によれば、n:r変調信号に基づくホログラム記録・再生において、誤り訂正能力を向上させることができ、再生信号の誤り率を低下させることができる
2つのパターン間の輝点(白)間ユークリッド距離の和の計算を説明する図である。
3×3ブロックの36通りのパターンと仮番号の対応を示す図である。
36通りのブロックの相互のパターン間の輝点(白)間ユークリッド距離和の結果の例である。
選択された32通りのブロックのパターンを示す図である。
32通りのビットの相互のビット列間の距離和の結果である。
遺伝的アルゴリズムよる最適並びの導出方法を説明する図である。
5ビットと3×3ブロックパターンの対応関係の最適解の一例である。
本発明のホログラム記録再生装置の復号装置の一例のブロック図である。
本発明と従来例の5:9変調符号による硬判定結果の比較を示す図である。
本発明と従来例の5:9変調符号によるLDPC誤り訂正の比較を示す図である。
本発明と従来例の5:9変調符号によるLDPC誤り訂正収束回数の比較を示す図である。
ホログラフィックメモリー記録システムにおける記録時の光学配置図の一例である。
ホログラフィックメモリー記録システムにおける再生時の光学配置図の一例である。
sum-productアルゴリズムによるLDPC復号処理を示すフローチャートである。
効率的な尤度決定方法を示すフローチャートである。
効率的な尤度決定方法を受信(読出)信号の一例に基づいて説明する図である。
本発明の課題を解決するために、測定値のパターン間ユークリッド距離の総和と最終的なビットの符号間距離とが同じような特性を持つように、nbitのデータ列とrbitのピクセルパターンの組み合わせを最適化することにより、誤り特性を向上させる。以下、本発明の実施の形態について説明する。
n:r変調の一例として、5:9変調を用いて説明する。なお、本発明は5:9変調に限らず、9:16変調や15:25変調等、他の変調方式にも応用できるものである。
nbitのデータ(データ列)とrbitのピクセルのパターンとの間の関連が高くなるような変調符号(データ列とパターンの対応関係)を次の[1]〜[8]の工程により求めた。
[1]ホログラム記録(3×3ブロック)のパターン間の輝点(白)間ユークリッド距離の和を計算する。
「パターン間の輝点(白)間ユークリッド距離の和」とは、2つのブロックのパターンを重ねたときの、一方のパターンの輝点(白)の中心から、他方のパターンの輝点(白)の中心までの全ての直線距離(ユークリッド距離)の和を意味する。
図1を例として説明する。図1の左側のブロック1は、図2のブロックのパターン一覧において、$3の番号が付与されたパターンを有している。また、右側のブロック2は、図2のパターン一覧で$30の番号が付与されたパターンを有している。この2つのパターンの「輝点(白)間ユークリッド距離の和」(単に「ユークリッド距離の和」と言うこともある。)は、次式(14)のように計算される。(なお、次式(14)で、| |は距離の絶対値を意味する。)
同様に、36×36通りの相互のパターンで輝点(白)間ユークリッド距離の和を計算し、36×36のマトリックスとする。もちろん、パターン$1とパターン$2の関係と、パターン$2とパターン$1の関係とは同じであるから、同じ値を入れる事で計算を省略できる。また、パターン$1とパターン$1という同じパターン同士のユークリッド距離の和は0である。計算結果を図3に示す。
[2]nbit(5ビット)の表示に使用する32通りのパターンを選択する。
計算した36通りのパターンのうち、必要なパターンは32通りなので、読み取り誤りが多くなる可能性の高い、すなわち、他のパターンと輝点(白)間ユークリッド距離の和が短い場合が多く出現するパターンを4つ選択し、削除する。
削除対象となったのは、$10、$21、$26、$28の4つのパターンである。これらのパターンは、輝点(白)間ユークリッド距離の和が最小である3.414の出現回数が多く(8回)、他のパターンとの距離が短いパターンと判断される(図3)。これら4つのパターンは、いずれも、3×3ブロックの中央とその上下左右に白が配置されたパターンであった。
次に、3×3のうちの2つの白をとる方法36通りから上記4パターンを除いた32通りのパターンに対して、再度、番号#0〜#31を付与し、パターンの識別番号とする。図4に、選択された32通りのブロックのパターンを示す。
[3]選択された32通りのパターンに対して、32×32のマトリックスを作成し、パターン相互間の輝点(白)間ユークリッド距離の和を再度計算する(図示せず)。
このようにして得られたマトリックスを、Amatrix(32,32)とする。
[4]nbit(5ビット)のビット列についても、同様に相互のユークリッド距離の計算を行う。
nbit(5ビット)の32通りのビット列で、ビット列間の各ビットの距離の和を計算する。例えば、ビット列「00101」とビット列「11111」の間の各ビットのユークリッド距離の和(実際には、数値の差の絶対値の和であるが、ここでは「輝点(白)間ユークリッド距離の和」に対応させて、ビット列間の「ユークリッド距離の和」と言う。)は、次式(15)のように計算される。なお、ビットの差は1,0,−1の値しか取りえないので、絶対値の代わりに2乗値を用いても良い。
同様に、32×32通りの相互のビット列でユークリッド距離の和を計算し、32×32のマトリックスとする。なお、上記[1]と同様に自己同士の場合は0とする。
このようにして得られたマトリックスを、Bmatrix(32,32)とする。図5は、32通りのビット列の相互のビット列間のユークリッド距離の和の結果である。このようにして得られたマトリックスを、Bmatrix(32,32)とする。
[5]それぞれのマトリックスにおいて、値の規格化をする。
各マトリックスにおいて、それぞれの値の最大値、最小値(0を除く)を求め、値の規格化をする。例えば、0〜10の値に規格化する。対角行列は0とする。
規格化されたAmatrixとBmatrixを次のように呼ぶ。
Amatrix_normalized(32,32)
Bmatrix_normalized(32,32)
[6]次に、[5]で求めたそれぞれの規格化されたマトリックス同士の差分の2乗和(D)を計算する。
2乗和(D)は、規格化された2つのマトリックス(32×32)の各要素(i,j)の差分について、2乗した和であり、次式(16)で、求められる。
[7]Amatrixのパターンの並びを入れ替え、2乗和(D)を再計算する。
好ましくはすべての並び替え配列について、計算することが望ましい。この場合、場合の通りは32!=2.63×1035通りとなる。
なお、様々に並び変えたAmatrixのパターンで2乗和(D)を再計算するのは、より望ましいAmatrixとBmatrixの対応関係を見い出すためである。したがって、この計算を全ての場合の組み合わせで行うのは、非常に多くの時間を要するので、最適化手法として、遺伝的アルゴリズムを用いることも可能である。
遺伝的アルゴリズムの手法についても記載しておく。図6は最適並びの導出方法(そのうちの(1)〜(3)の工程)を説明する図である。
(1)#1〜#32のパターンの並びをランダムに並べる。例えばそれを4つ作る。さらに#1〜#32のパターンの並びをランダムに並べたものを4つ作る。
(2)合計8つの並びをそれぞれ中間点から半分に割る。
(3)半分づつとなった並びを全ての通りで掛け合わせ、それぞれで接合(交差)して、新たな並びをつくる。(このとき、8×8=64通りの並びができる。)
(4)作成した並びでマトリックス(64通り)を作成し、それぞれ上述の2乗和(D)の計算を行う。
(5)評価値であるDの小さいものを4つ選択し、(1)に戻る。2回目以降は、新たなランダムな並びを4通り追加する。
(6)ある程度の回数経過した後、残ったマトリックスのうちの評価値Dが最小なものを選択する。
この遺伝的アルゴリズムを用いることにより、局所的な解の可能性は否定できないが、比較的高速にかつ、目的としたマトリックスを得ることが可能である。
[8]2乗和(D)が最小となるAmatrixを求める。
このときの2乗和(D)が最小値をとるAmatrixの並びが、Bmatrixにおけるnbit(最終的なビット)のビット並びとの相関が高いと判断される。
この相関の高い並びを選択することにより、LDPCなど尤度を使用する計算時には、測定点の尤度を最終ビット列の尤度に適用することが可能となる。
上記の遺伝的アルゴリズムを用いて求めた、2乗和(D)が最小値をとるAmatrixの各パターンと、最終的なビットであるnbit(5ビット)との対応関係を図7に示す。図7は、5ビットと3×3ブロックパターンの対応関係(5:9変調符号)の最適解の一例である。各パターンに対応する数字は5bitのビット列を意味し、「1」が「00001」、「31」が「11111」を示している。
当初の図4を機械的に5bitと対応付けた場合(パターン$0を「00000」に、パターン$31を「11111」に対応付けた場合)では、求めた2乗和(評価値)Dは2358であったが、パターンの並びを最適化することにより、2乗和(評価値)Dは1965まで減少した。つまり並び替えを行うことにより、それぞれマトリックス同士の関連性が高まったことが分かる。
その後の検証で、5:9変調符号の場合は、規格化したAmatrixとBmatrixの各要素の差分の2乗和(D)が、「2122」以下であると、誤り訂正能力が大きく向上することが確認できた。2乗和(D)が最小値(1965)となるAmatrixに基づく変調符号が最も高い誤り訂正能力を示すが、2乗和(D)が「2122」以下である場合の変調符号は、最小値の場合にほぼ匹敵する誤り訂正能力を発揮できた。したがって、2乗和(D)が、「2122」以下であるAmatrixの並びとBmatrixの並びの対応関係を有する5:9変調符号を、以下、「最適化された5:9変調符号」ということとする。なお、この2乗和(D)の「2122」は、当初の機械的にビット列とパターンを対応付けた場合(これは、ビット列とパターンに何ら意図的な対応付けを行っていないから、ランダムにビット列とパターンを対応付けた場合と等価である)の2乗和(D)の「2358」の90%に相当する。そして、他のn:r変調符号においても、当初のランダムにビット列とパターンを対応付けた場合の2乗和(D)の90%以下の2乗和(D)となるAmatrixに基づく変調符号は、誤り訂正能力が大きく向上する。したがって、一般的に、2乗和(D)が、ランダムに配列されたパターンのAmatrixを用いて求めた2乗和(D)の90%以下であるAmatrixの並びとBmatrixの並びの対応関係を有する変調符号を、「最適化された変調符号」ということができる。
以下、本発明の最適化したn:r変調符号を利用したホログラム記録再生方法、及びホログラム記録再生装置について、説明する。
本発明の最適化したn:r変調符号を利用したホログラム記録方法は、まず、前述の[1]〜[8]の工程に従って、最適化されたn:r変調符号を求め、その後、その最適化されたn:r変調符号により、nbitデータ(望ましくは、誤り訂正符号化されたnbitデータ)をrbitの2次元コードにして、記録媒体に記録することで、誤り訂正能力が向上したホログラム記録をすることができる。
また、本発明のホログラム再生方法は、最適化されたn:r変調符号を求め、その後、そのn:r変調符号により、図15のフローチャートに従って、rbitの測定データからnbitの尤度を求め、さらに誤り訂正を行う。すなわち、本発明の最適化したn:r変調符号で変調された入力信号から、rbitを抽出し、rbitの入力信号から、nbitの硬判定を行う。硬判定されたnbitのデータに基づいて、尤度を算出するビットを1とした第1nbitと、尤度を算出するビットを0とした第2nbitを作成し、前記第1nbitに対応するrbit変換データと前記第2nbitに対応するrbit変換データとの差分と、rbitの入力信号とのビットごとの積の平均値に基づいて、前記ビットの尤度を算出する。その後、算出された尤度に基づいて、nbitの誤り訂正復号処理を行う方法である。
次に、本発明のホログラム記録再生装置は、上述した最適化したn:r変調符号をn:r変調テーブルとして備えている。そして、nbitデータ(望ましくは、誤り訂正符号化されたnbitデータ)を、最適化したn:r変調符号で変調し、rbitの2次元データとして記録媒体に記録する。こうして、復号の際に誤り訂正能力を高めたホログラム記録をすることができる。
図8は、本発明の実施の形態としてのホログラム記録再生装置の復号装置の一例のブロック図である。
復号装置10は、ブロック抽出部11と、硬判定部12と、LLR算出部13と、誤り訂正復号部14を含み、最適化したn:r変調符号をn:r変調テーブル15として備えている。復号装置10は、n:r変調信号が入力され、誤り訂正復号されたnbitデータが出力される。ここで、入力されるn:r変調信号は、nbit信号の段階で(rbitへの変換前に)、誤り訂正符号化(例えば、LDPC符号化)されているのが望ましい。このn:r変調信号は、本発明の最適化したn:r変調符号で変調されており、図13のホログラム記録再生装置においては、2次元撮像素子118で撮像(読取)された測定データを用いることができる。
ブロック抽出部11は、n:r変調信号(n:r変調された入力信号)を、rbitのブロック(元のnbitに対応するrbit単位)にブロック化し、抽出されたブロックを硬判定部12に出力する。例えば、図12、図13のホログラフィックメモリー記憶システムにおいて、5:9変調が用いられた場合、3×3のピクセルからなる9bitのデータ単位が1ブロックとなる。
硬判定部12は、ブロック抽出部11から入力されたrbitの入力信号データに基づいて、nbitの硬判定を行い、判定結果をLLR算出部13に出力する。例えば、入力信号の強度に基づいて、rbitのパターンを判定し、n:r変調テーブル15を参照して、このrbitに対応するnbitを硬判定結果として出力する。具体的には、図15のステップ1(S1)とステップ2(S2)の処理を行う。
LLR算出部13は、硬判定部12から入力されたnbitのデータの各ビットについて、尤度の情報としてLLRを算出し、誤り訂正復号部14に出力する。LLRの算出は、硬判定されたnbitの変換データのうちLLR算出対象のビットを1とした第1nbitと、LLR算出対象のビットを0とした第2nbitを作成し、それぞれのrbit変換データの差分をとり、それに入力信号(rbitの測定データ)をビットごとに乗算した値の平均値に基づいて、尤度(LLR)を算出するものである。具体的には、図15のステップ3(S3)からステップ10(S10)の処理を行う。なお、図示されていないが、LLR算出部13においても、nbitとrbitとの変換には、n:r変調テーブル15を参照している。
誤り訂正復号部14は、LLR算出部13から入力されたnbit信号のLLRに基づいて、入力信号の誤り訂正符号化に対応した誤り訂正復号を行う。例えば、誤り訂正符号化がLDPC符号化であれば、前述したLDPC復号処理を行う。誤り訂正復号処理により推定ビットを決定し、この得られた推定ビットをLLR算出部13に出力して、再度尤度(LLR)算出を行なう。繰り返し処理の結果、パリティ検査を満足する推定ビットが得られると、誤り訂正復号されたnbitデータとして、復号装置10から出力される。
なお、図13のホログラム記録再生装置においては、復号装置10は、演算装置119により実現することができる。
(検証結果)
本発明のn:r変調符号作成方法で作成されたn:r変調符号を用いて、ホログラムの記録再生を行い、その結果の誤り率等を検証した。
図9は、本発明と従来例の5:9変調符号による硬判定結果の比較を示す図である。横軸は、信号対雑音比(SNR:Signal-to-Noise Ratio)(dB)であり、縦軸は再生符号の誤り率である。図9で「最適化」として示された●のグラフが、図7に示す本発明による5:9変調符号により記録再生したときの硬判定結果であり、「従来」として示された○のグラフが、図4に示す任意の対応関係による5:9変調符号により記録再生したときの硬判定結果である。硬判定結果においても、本発明の変調符号を用いた場合の方が、従来よりも誤り率が改善している。したがって、本発明のn:r変調符号は、誤り訂正を行う場合のみならず、通常の硬判定結果でも効果があり、広く一般のホログラム記録再生装置においてn:r変調テーブルとして持たせることにより、応用できるものである。
図10は、本発明と従来例の5:9変調符号によるLDPC誤り訂正の比較を示す図である。図10(A)は、横軸が信号対雑音比(dB)であり、縦軸はLDPCによる誤り訂正後の誤り率である。また、図10(B)は、横軸が信号対雑音比(dB)であり、縦軸はLDPCによる誤り訂正の繰り返し回数の総和である。ここでは、十分なデータ数で検証を行うため、4577個のLDPCブロックを48セット用いてデータを取得している。なお、図における「最適化」と「従来」のグラフの意味は、図9と同じである。図10の結果は、図15、図16で示された尤度決定方法で導出された尤度(LLR)を使用して、誤り訂正をした結果を示している。
本発明の最適化されたn:r変調符号を用いた場合は、従来よりもLDPC誤り訂正後の誤り率が1桁以上低減し、また、繰り返し回数が大きく減少して早く収束している。したがって、本発明によるn:r変調信号によれば、ホログラム記録での誤り訂正能力を向上させることができ、再生信号の誤り率を低下させることができることが、検証できた。
図11は、本発明と従来例の5:9変調符号によるLDPC誤り訂正収束回数の比較を示す図である。図11(A)が図7に示す本発明による5:9変調符号により記録再生したときのLDPC誤り訂正収束回数を示しており、図11(B)が従来(図4に基づく任意の対応関係)の5:9変調符号により記録再生したときのLDPC誤り訂正収束回数を示している。ここでは4577個のLDPCブロックで検証した。LDPCでは、測定値の尤度を用いて、計算、判定を行、列と繰りかえしながら行う。当然、誤りが少ない場合には、繰返し回数は少なくなり、誤りが多い場合には、繰返し回数は多くなる。図11を見ると、従来(B)の場合には、繰返し回数が多く、長い線(繰り返し回数の多いブロック)が多数存在しているが、最適化(A)した場合には、線の数が少なくなっていることが分かる。つまり、マトリックスを最適化することにより、誤り訂正能力をより発揮できるようになったと言うことがいえる。
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
10 復号装置
11 ブロック抽出部
12 硬判定部
13 LLR算出部
14 誤り訂正復号部
15 n:r変調テーブル
101 レーザ光源
102 シャッタ
103 1/2波長板
104 PBS(偏光ビームスプリッタ)
105 シャッタ
106 拡大レンズ
107 PBS(偏光ビームスプリッタ)
108 SLM(空間光変調素子)
109 FTレンズ
110 空間フィルタ
111 FTレンズ
112 FTレンズ
113 ホログラム記録媒体
114 リレーレンズ
115 ガルバノミラー
116 PBS
117 1/2波長板
118 2次元撮像素子
119 演算装置
120 ミラー
121 ガルバノミラー
122 リレーレンズ