ところで、特許文献1に記載の冷却装置のように、発熱体、伝熱体、及び冷却器をそれぞれ別体の部品として用意しておき、それをボルトやナットの締結具によって組み立てることとすると、それらの組み立てのコストが発生するとともに、発熱体から冷却器まで熱が効率的に伝達されにくくなることから冷却効率が低下するという問題がある。このため、組み立てコストを削減したり冷却効率を向上させるために、特許文献2に記載の技術のように、バスバー(発熱体)とヒートシンク(冷却器)を樹脂でモールドすることで一体化させることも有効であると考えられる。
ただし、ヒートシンクは、一般的に多数のフィンを配置して表面積を拡大することによって対象物を冷却するものであることから、その形状に制限があり、また用途も空冷に制限される。他方で、冷却パイプは、空冷の他に水冷や油冷にも利用することができ、その形状もある程度に自由に変形させることが可能である。このため、ヒートシンクは、冷却パイプに比べて、冷却性能や汎用性に劣るという課題がある。
そこで、特許文献2に記載のバスバーに代えて冷却パイプを採用し、この冷却パイプとバスバーとを樹脂でモールドするということも考えられる。しかしながら、冷却パイプとバスバーとを金型内に配置し、その金型内に高熱を帯びた樹脂を射出して冷却パイプとバスバーとを一体化させようとすると、その樹脂の射出圧によって冷却パイプが変形してしまうという新たな課題が発生する。このため、バスバーなどの発熱体と冷却パイプを樹脂によって一体化することは、従来は不可能であるとされていた。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、発熱体と冷却パイプとを樹脂によって一体化させたインサート製品及びその製造方法において、インサート成形時に冷却パイプに生じる変形を抑制あるいはコントロールすることを主な目的とする。
本発明の発明者らは、上記した従来技術の課題を解決する手段について鋭意検討した結果、発熱体と冷却パイプとをインサート成形によって一体化させる際に、この冷却パイプ内に充填物を充填しておくことで、樹脂の射出圧よって生じる冷却パイプの変形を抑制あるいはコントロールできるようになるという知見を得た。そして、本発明者らは、上記知見に基づけば、従来発明の課題を解決できることに想到し、本発明を完成させた。具体的に説明すると、本発明は以下の工程又は構成を有する。
本発明の第1の側面は、インサート製品の製造方法に関する。本発明に係るインサート製品の製造方法は、冷却パイプ内に充填物を充填する工程と、充填物を充填した状態の冷却パイプと発熱体とをインサート成形により一体化する工程とを含む。本発明において、「充填物」は、流動性を有するものであれば、固形状(粒子状又は粉状)、ゲル状、及び液状のいずれであってもよい。また、充填物としては、固形状、ゲル状、及び液状のうちの2種以上を混合したものを用いることもできる。「冷却パイプ」は、両端が開放された筒状であるか、一端が開放され他端が閉鎖された有底筒状の部材である。冷却パイプは、空冷、水冷、及び油冷のいずれにも利用することができ、その内部に気体、液体、及び/又は油を流通させることで発熱体から熱を奪って外部へと放出する。冷却パイプの形状は特に限定されず、直線状のものや、適宜湾曲した形状のものを用いることができる。また、冷却パイプの断面形状は、円形の他、三角形、四角形、その他の多角形とすることができ、また部分的に円形と多角形とを組み合わせた断面形状とすることもできる。「発熱体」の例は、大電流を扱う電子機器(パワーモジュール等)を構成する導電性のバスバーである。ただし、発熱体は、バスバーに限定されず、冷却が必要な発熱体であればどのようなものでも採用できる。「インサート成形」(射出成形)とは、冷却パイプと発熱体が配置された金型内に溶融樹脂を射出して、その後固化させることにより、この樹脂によって冷却パイプと発熱体とを一体化させる工程を意味する。樹脂としては、絶縁性と伝熱性を有する材料を選択することが好ましい。ただし、発熱体又は冷却パイプが導電性を有するものでなければ、樹脂は絶縁性を有しなくてもよい。また、発熱体又は冷却パイプが非導電性のものであれば両者間で通電しないため、これらを密着させた状態で樹脂により一体化できる。このように発熱体と冷却パイプとが密着している場合、樹脂は伝熱性を有していなくてもよい。さらに、発熱体と冷却パイプとの間に射出樹脂の他に放熱性材料や絶縁性材料を介在させてインサート成形することもできる。
上記のように、冷却パイプ内に充填物を充填した状態で、この冷却パイプと発熱体をインサート成形によって一体化することで、樹脂の射出圧によって冷却パイプが変形することを抑制できる。なお、冷却パイプの変形が許容できる場合は、充填物のサイズや、形状、量を調整することで、冷却パイプの変形量や変形の形状をコントロールすることも可能である。
本発明に係るインサート製品の製造方法において、充填物は、固形粒子を含むことが好ましい。例えば充填物が液状である場合、高温の樹脂を射出した場合、冷却パイプ内の充填物が気化し、その膨張圧力によって冷却パイプの出入り口に設けたキャップが外れたり、冷却パイプに却って変形が生じたりする恐れもある。この点、固形粒子であれば熱による膨張率が低いことから、冷却パイプ内に充填するのに適している。
本発明に係るインサート製品の製造方法において、充填物は、球形状の固形粒子であることが好ましい。充填物が球形状であることで、冷却パイプの形状が複雑であっても、その内部に隙間なく充填物を充填しやすくなり、またインサート成形後に冷却パイプ内から充填物を排出しやすくなる。また、球形状の充填物は、直径の大きいものと小さいものを併用することも可能である。
本発明に係るインサート製品の製造方法において、固形粒子は、セラミック製又は金属製であることが好ましい。本発明において用いられる充填物(固形粒子)には、樹脂の射出圧に耐え得る剛性が求められる。例えば固形粒子としてガラス製のものを採用すると、インサート成形時に冷却パイプ内で固形粒子が破損する恐れがある。この点、セラミック製又は金属製であれば、樹脂の射出圧に耐え得る適度な剛性を有し、またコストの面からも有利である。特に、セラミックとしてはジルコニアを採用することが好ましく、金属としてはステンレスを採用することが好ましい。
本発明に係るインサート製品の製造方法において、冷却パイプ内に充填物を充填する工程後、インサート成形によって一体化する工程の前に、冷却パイプに対して振動を与える工程をさらに含むことが好ましい。冷却パイプ内には充填物が充填されていることから、この冷却パイプに対して振動を与えることにより、この充填物が冷却パイプ内において分散され、その内部の隅々に充填物を行き渡らせることができる。
本発明の第2の側面は、インサート製品に関する。本発明に係るインサート製品は、冷却パイプと、発熱体と、これらの冷却パイプ及び発熱体とを一体的に結合する樹脂を有する。従来、冷却パイプと発熱体とをインサート成形によって一体化することは、冷却パイプに変形が生じる関係上不可能であるとされていたが、本発明によれば、前述のとおり、冷却パイプと発熱体とを樹脂によって一体的に結合したインサート製品を容易に製造できる。
本発明に係るインサート製品において、冷却パイプの外壁面には複数の凹部が形成されており、この凹部内には樹脂が密着していることが好ましい。本発明においては、冷却パイプ内に充填物を充填した状態でインサート成形を行うことが推奨されるが、充填物として固形粒子を用いた場合、樹脂の射出圧により、冷却パイプの外周面にはその固形粒子の隙間に沿って凹部が形成される。このように許容可能な範囲で凹部を形成することで、冷却パイプの外周面の表面積が増加して、冷却効率向上が期待される。また、この凹部は、樹脂の射出圧によって形成されるものであるため、この凹部内には樹脂が密着することとなる。このように凹部に樹脂を密着させることによっても冷却パイプによる冷却効率を向上させることができる。
本発明によれば、発熱体と冷却パイプとを樹脂によって一体化させたインサート製品を提供することができる。また、本発明によれば、インサート成形時に冷却パイプに生じる変形を抑制あるいはコントロールすることができる。
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されるものではなく、以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
本発明は、インサート製品とその製造方法に関する。図1及び図2は、本発明の第1の実施形態に係るインサート製品100を示している。これらの図に示されるように、インサート製品100は、基本的に、冷却パイプ10と、発熱体20と、樹脂層30を含んで構成されている。すなわち、本発明に係るインサート製品100は、発熱体20と、それを冷却するための冷却パイプ10とを、樹脂層30によって一体的化したものである。
インサート製品100の例は、パワーモジュール、インバータ、コンバータ、モータ、若しくはリチウムイオン電池などの電子機器、又はその周辺機器ある。ただし、本発明に係るインサート製品の適用例はここに挙げたものに限られず、その他、発熱体20を有し、その熱を効果的に冷却することを目的とした物全般を対象とすることができる。
冷却パイプ10は、樹脂層30の中に埋設される筒状又は有底筒状の部材である。本実施形態では、冷却パイプ10としては、両端が開放された筒状(無底)のものが採用されている。冷却パイプ10内には、気体、水又は油といった熱媒体を注入して循環させることで発熱体20から熱を奪う。冷却パイプ10は、伝熱性を有するものであれば、公知の金属製又は樹脂製のものを用いることができる。また、図1及び図2に示した実施形態において、冷却パイプ10は、断面円形(正円形)のものが採用されている。ただし、冷却パイプ10の断面形状はこれに限定されず、楕円形、三角形、四角形、その他多角形とすることもできる。本実施形態において、冷却パイプ10は、蛇行するように湾曲した形状に成型されている。このように冷却パイプ10を複数の折り返し点を持つように湾曲した形状とすることで、インサート製品100内に冷却パイプ10をコンパクトに収めることができる。
また、冷却パイプ10は、樹脂層30内に埋め込まれた埋設部11と、この樹脂層30に埋め込まれていない延出部12とを有している。本実施形態では、冷却パイプ10の両方の端部が延出部12となっており、それ以外の部分が埋設部11となっている。このため、冷却パイプ10の一方の端部から熱媒体を注入し、他方から排出できる。また、詳しくは後述するが、冷却パイプ10の一部を樹脂層30の外に延出させておくことで、この延出部12を金型によって保持した状態で、インサート成形を行うことができる。
発熱体20は、冷却パイプ10とともに樹脂層30内に埋設される。本実施形態では、発熱体20は、板状の部材が用いられているが、その形状は特に限定されない。発熱体20の例は、導電性を有するバスバーなどの電極である。発熱体20に通電することによって生じた熱を、冷却パイプ10によって放熱することができる。このため、発熱体20は、導電性を持つ金属材料で形成されていることが好ましい。また、図2に示されるように、本実施形態において、発熱体20は、効率的に放熱を行うという観点から、一方の片面が樹脂層30から露出し、もう一方の片面が樹脂層30によって被覆されるようにして樹脂層30内に埋設されてる。ただし、発熱体20の両面を樹脂層30によって被覆することも可能である。
また、発熱体20も、樹脂層30内に埋め込まれた埋設部21と、この樹脂層30に埋め込まれていない延出部22とを有している。さらに、本実施形態では、発熱体20の延出部22に開口部23が形成されている。発熱体20の延出部22は、発熱体20に通電させるための端子として利用できる。また、発熱体20の一部を樹脂層30の外に延出させておくことで、この延出部22を金型によって保持した状態で、インサート成形を行うことが可能となる。
さらに、発熱体20は、図2に示されるように、一又は複数箇所に孔部24を有することが好ましい。すなわち、本実施形態では、前述のように、発熱体20の片面が樹脂層30から露出することから、発熱体20と樹脂層30との結着強度が弱まる懸念がある。また、本実施形態では、冷却パイプ10と発熱体20との間に空隙が設けられいてるが、この空隙の内部に溶融樹脂を適切に侵入させることが難しいという課題もある。そこで、発熱体20に孔部24を形成して、この孔部24を通じて溶融樹脂を侵入させることで、冷却パイプ10と発熱体20の間の空隙に適切に樹脂を充填するとともに、発熱体20と樹脂層30の結着強度を向上させている。なお、発熱体20と樹脂層30の結着強度を向上させるという観点においては、孔部24に代えて、発熱体20の樹脂層30側の面に凹部(不図示)を形成し、この凹部内に樹脂層30を密着させるという構成を採用することもできる。また、孔部24と凹部は併用することも可能である。
樹脂層30は、冷却パイプ10と発熱体20とを一体化させるための結合材料である。樹脂層30は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のいずれであってもよいが、インサート成形時の利便性を考慮すると、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂の例は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びABS樹脂である。また、熱硬化性樹脂の例は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル、及びジアリルフタレートである。ただし、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂については、ここに挙げたものに限定されず、その他公知の樹脂を用いることができる。
また、樹脂層30としては、伝熱性と絶縁性を有する樹脂を採用することが好ましい。樹脂層30が伝熱性を有することより、発熱体20から冷却パイプ10への熱伝導効率を高めることができる。また、樹脂層30が伝熱性を有することで、発熱体20から樹脂層30を経由して放熱されることにもなるため、インサート製品100全体の冷却効果を高めることができる。また、樹脂層30が絶縁性を有することで、冷却パイプ10と発熱体20とが共に導電性材料で形成されている場合でも、両者間を樹脂層30によって絶縁することができる。ただし、例えば冷却パイプ10と発熱体20と直接密着させる場合には、樹脂層30は必ずしも伝熱性材料とする必要はない。また、例えば冷却パイプ10と発熱体20のいずれかが非導電性材料で構成されてている場合、樹脂層30は必ずしも絶縁性材料とする必要はない。
続いて、図3を参照して、上記したインサート製品100の製造方法について説明する。まず、本発明に係る製造方法では、図3(a)に示されるように、冷却パイプ10内に充填物40を充填する。本実施形態において、充填物40としては、球形状の固形粒子が用いられている。この充填物40(固形粒子)は、冷却パイプ10内の空洞を満たすことができる程度に十分な量が用意される。
充填物40としては、セラミック製又は金属製の固形粒子を用いることが好ましい。セラミック製の充填物40としては、ジルコニア、アルミナ、及び窒化珪素などの素材を用いることが好ましく、これらは単独で用いてもよいし、用途に応じて適宜複合して用いてもよい。これらのセラミック素材の中でもジルコニアは特に強度に優れているため、充填物40の主成分はジルコニアであることが好ましい。特に、充填物40は、好適な強度を得る観点から、ジルコニアの比率が全成分の90重量%以上であることが特に好ましい。また、金属製の充填物40としては、ステンレス、チタン、アルミニウム、マグネシウム、鉄、鋼、銅、鉛、及び亜鉛などの素材を用いることが好ましい。これらの金属素材の中でもステンレスは特に強度に優れているため、充填物40を金属製とする場合はステンレスを採用することが好ましい。また、複数の充填物40は、必ずしも一種材料によって構成されている必要はなく、前述したセラミック素材及び金属素材の中から選ばれた素材の充填物40を適宜混合して用いることも可能である。
また、充填物40が球形状の固形粒子である場合、その直径は0.5mm以上1.0mm以下であることが好ましく、0.6〜0.9mm又は0.7〜0.8mmであることが特に好ましい。固形粒子の直径が0.5mm未満であると、固形粒子を形成する素材によっては静電気によって互いに解離しにくくなるなど、取り扱いが困難になることが懸念される。他方で、固形粒子の直径が1.0mmを超えると、冷却パイプ10内に充填された固形粒子同士の間の隙間が大きくなり、冷却パイプ10の変形抑制効果が薄れる懸念がある。このため、固形粒子の直径は上記範囲とすることが適正である。なお、本発明では、多数の固形粒子が用いられるが、このような固形粒子群は、それらの平均粒子径が上記範囲に収まっていればよい。なお、「平均粒子径」とは、粒子径分布における最頻度粒子径であるモード径を意味する。粒子径分布は、例えば、画像解析法、コールター法、篩い分け法、遠心沈降法又はレーザー回折散乱法により測定することができる。これらのうち、本願明細書において、粒子径分布は、JISZ8827-1:2018「粒子径解析−画像解析法−第1部:静的画像解析法」に従って測定される。
なお、充填物40が球形状の固形粒子である場合、各粒子の直径を統一することもできるし、様々な直径の固形粒子を混在させることもできる。また、充填物40としては、球形状の固形粒子と非球形状の固形粒子を混合して用いることもできる。さらに、充填物40としては、固形粒子とともに、液状及び/又はゲル状の流動体を冷却パイプ10内に充填することも可能である。
また、冷却パイプ10内に充填物40を充填した後、充填物40が冷却パイプ10内に隙間なく十分に充填されるように、この冷却パイプ10に振動を与えることが好ましい。冷却パイプ10に振動を付与する工程は、公知のバイブレータを用いることができる。さらに、充填物40が十分に冷却パイプ10内に充填されたかどうかを確認することが好ましい。具体的には、ある冷却パイプ10に対して十分に充填物40が充填された状態のサンプルを作り、このサンプルの重量を予め測定することで、所定の重量の閾値を設定しておく。そして、次に別の冷却パイプ10に対して充填物40を充填する際には、その充填後の冷却パイプ10の重量を測定し、その重量が前記のようにして設定した閾値に達しているかどうかを確認すればよい。具体的には、充填物40を充填した後に冷却パイプ10の重量は、1g単位で管理することが好ましい。
次に、図3(b)に示されるように、充填物40が充填された冷却パイプ10の開口端をキャップ230によって一時的に封緘する。また、第1の金型210と第2の金型220によって形成されたキャビティ(空洞)の内部に、冷却パイプ10の一部と発熱体20とを配置する。このとき、冷却パイプ10については、その端部とキャップ230とを両金型210,220の外に配置する。また、冷却パイプ10の一部を金型210,220によって挟み込むようにして、キャビティ内において、冷却パイプ10が金型210,220に接触しないように保持するとよい。他方で、発熱体20については、その片面が第2の金型220に接するようにキャビティ内に配置される。なお、発熱体20は、その延出部22(図1参照)が両金型210,220に挟み込まれるようにして固定されている。
本実施形態においては、図3(b)に示されるように、2つの金型210,220によって形成されたキャビティ内において、冷却パイプ10と発熱体20は非接触状態で保持される。そして、後述のように、冷却パイプ10と発熱体20の間には絶縁性を有する溶融樹脂が充填される。これにより、冷却パイプ10と発熱体20とが導電性材料で形成されている場合であっても、両者の絶縁状態を維持できる。
次に、図3(c)に示されるように、第1の金型210に形成されたゲート211を介して、樹脂層30を形成するための溶融樹脂をキャビティ内に射出する。なお、溶融樹脂としては、一般的に熱可塑性樹脂が用いられる。この場合、キャビティ内に射出される溶融樹脂は高温状態となっている。このようにして、キャビティ内に溶融樹脂を射出することで、冷却パイプ10と発熱体20の周囲とそれらの間に樹脂が充填される。この射出工程においては、高熱を帯びた樹脂の射出圧によって冷却パイプ10の変形が懸念されるが、本発明においては、冷却パイプ10内に十分に充填物40が充填されていることから、冷却パイプ10の変形は最低限に抑制される。あるいは、冷却パイプ10の変形量を許容範囲内にコントロールすることができる。その後、キャビティ内において溶融樹脂を固化させる。樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合には、溶融樹脂を金型内において冷却すればよい。なお、樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合には、溶融樹脂を金型内において加熱すればよい。
次に、図3(d)に示されるように、樹脂を固化させることによって樹脂層30が形成される。これより、この樹脂層30によって冷却パイプ10と発熱体20とが一体化されたインサート製品100が得られる。なお、樹脂が固化した後、第1の金型210、第2の金型220、及びキャップ230は適宜取り外される。また、充填物40は、冷却パイプ10内から回収することが可能である。充填物40ついては、破損等が生じていない限り、基本的には回収して再利用することができる。また、冷却パイプ10内から取り出した充填物40には異物が付着又は混入していることがあるため、充填物40を再利用する際には、このような異物を除去することが好ましい。
続いて、図4を参照して、上記工程により得られたインサート製品100内の冷却パイプ10の特徴について説明する。図4は、インサート製品100内の冷却パイプ10を模式的に示した拡大図である。また、図4では、インサート成形時に冷却パイプ10内に充填されていた充填物40の一部を点線で示している。図4に示されるように、冷却パイプ10に対しては、インサート成形時に樹脂の射出圧によって、外から内に向かって(矢印の方向に向かって)大きな圧力がかかる。このとき、冷却パイプ10内には充填物40が充填されていることから、この射出圧に内部から対抗しうる。ただし、充填物40は、例えば球形状の固形粒子であることから、固形粒子の間にはある程度の隙間が生じることとなる。このとき、冷却パイプ10に対して射出圧が加わると、この充填物40の間の隙間に沿って、冷却パイプ10の外壁面が多少変形し、この外壁面には複数の凹部13が形成され得る。このように、本発明においては、冷却パイプ10にある程度の変形が生じることは許容される。
なお、冷却パイプ10の外壁面に複数の凹部13を形成することにより、その表面積が向上するため、冷却パイプ10による冷却効率が高まるというメリットもある。特に、この凹部13は、樹脂の射出圧によって形成されたものであることから、この凹部13内には樹脂が密着しており、凹部13と樹脂の間に空隙はほぼ存在しない。このため、冷却パイプ10と樹脂層30との間で効率的に熱を伝達することができる。そこで、例えば冷却パイプ10内に敢えて多少大径の充填物40を充填して、冷却パイプ10の表面に意図的に樹脂の密着した凹部13を形成するということも可能である。このように、冷却パイプ10内に充填する充填物40の量や、サイズ、形状を調整することで、冷却パイプ10の変形量をコントロールすることができる。
続いて、図5から図7を参照して、本発明の別の実施形態について説明する。別の実施形態については、前述した第1の実施形態と同じ構成については同じ符号を付することによって説明を割愛し、第1の実施形態と異なる構造を中心に説明を行う。
図5は、本発明の第2の実施形態に係るインサート製品100の断面構造を示している。第2の実施形態では、上記した第1の実施形態とは異なり、冷却パイプ10の表面に絶縁膜14を形成している。絶縁膜14としては、例えばアルマイト処理等を用いて酸化被膜を形成することによって絶縁性を付与することができる。その他、例えばPVC(塩ビ)、フッ素(ETFE)、ポリエチレン、ナイロン、又はエポキシ樹脂等の絶縁性材料を、冷却パイプ10の表面にコーティングすることにより、絶縁膜14を形成することも可能である。このように、冷却パイプ10の表面に絶縁膜14を形成することで、冷却パイプ10と発熱体20が共に導電性を有する場合であっても、両者の間隔を近づける、あるいは両者を接触させて配置することが可能である。このように、冷却パイプ10と発熱体20の間隔を近づけることで放熱効果を向上させることができる。特に、絶縁膜14の形成により、kV単位で絶縁担保できる場合、冷却パイプ10と発熱体20を接触させることも可能となる。
図6は、本発明の第3の実施形態に係るインサート製品100の断面構造を示している。第3の実施形態では、上記した第1の実施形態とは異なり、冷却パイプ10と発熱体20との間に伝熱性のスペーサ50が介在している。スペーサ50は、伝熱性を持つ樹脂材料で形成することができる。また、特に、冷却パイプ10と発熱体20が共に導電性である場合、スペーサ50は伝熱性と絶縁性を有することが好ましい。スペーサ50は、冷却パイプ10と発熱体20と共に金型内に配置し、溶融樹脂を射出してインサート成形を行うことで、これらと一体化すればよい。このように、冷却パイプ10と発熱体20との間に伝熱性のスペーサ50を配置することで、例えば樹脂層30を形成する樹脂が伝熱性を有しないものであっても、冷却パイプ10によって発熱体20が持つ熱を放熱することができる。これにより、樹脂層30を形成する素材の選択の幅が広がる。また、例えば図3(b)及び(c)を参照して説明したように、一般的には、金型210,220のキャビティ内において、冷却パイプ10と発熱体20の間の空隙を維持することが好ましいが、スペーサ50を用いることで、この空隙に代えて、冷却パイプ10と発熱体20の間にスペーサ50を配置することができるようになる。冷却パイプ10と発熱体20の間の空隙を維持する場合、その空隙に溶融樹脂が上手く充填されていないと不良品が発生するといった問題も発生し得るが、スペーサ50を用いることでこのような不良品の発生を抑制できる。
図7は、本発明の第4の実施形態に係るインサート製品100を示している。図7(a)は、インサート製品100の平面図であり、図7(b)は、図7(a)に示したA−A線の断面構造を示しており、図7(b)は、図7(a)に示したB−B線の断面構造を示している。本実施形態においては、第1の実施形態からの変更点として、冷却パイプ10に、第1の断面形状部15と第2の断面形状部16とが形成されており、各断面形状部15,16において断面形状が異なるように構成されている。具体的には、第1の断面形状部15は、断面円形に形成されており、第2の断面形状部16は、断面四角形に形成されている。このように、冷却パイプ10は、全体に亘って断面形状が統一されている必要はなく、適宜断面形状を異ならせることができる。
具体的に説明すると、本実施形態は、冷却パイプ10のうち、湾曲部位周辺と、両端部周辺(特に樹脂層30から延出した部分)において、断面円形の第1の断面形状部15が配置されている。他方で、各第1の断面形状部15の間の部位では、断面四角形の第2の断面形状部16が配置されている。特に、この第2の断面形状部16は、発熱体20上に配置されており、この発熱体20の近傍に配置されるか、あるいは発熱体20と密着して配置される。このように、発熱体20上に断面四角形の第2の断面形状部16を設けることで、発熱体20と冷却パイプ10の接触面積を増やすことができるため、冷却効率を高めることができる。
なお、上記実施形態においては、主に冷却パイプ10と発熱体20とをインサート成形によって一体化して樹脂層30内に埋め込むことについて説明した。ただし、本発明においては、これらの冷却パイプ10や発熱体20に加えて、様々な半導体部品や、電子部品、締結具、その他機能性部品をインサート成形により樹脂層30内に埋め込むことができることは当然である。
以上、本願明細書では、本発明の内容を表現するために、図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。