以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
図1は、射出成形機の概略構成例、及び、射出成形機の温度制御(ピーク電力制御を含む)を実施する温度制御装置の概略構成例を示す図である。図1では、成形機の一例として、射出成形機1が図示されている。
図1の上側に示されるように、射出成形機1は、射出装置MAと型締装置MBとを備える。射出装置MAは、樹脂材料を加熱するための加熱部を備え、加熱部は、典型的には、加熱筒2である。加熱筒2の前端には、射出ノズル3が設けられ、また、加熱筒2の後端には、樹脂材料を供給するためのホッパ22(広義には、材料供給部)が設けられる。
型締装置MBの構成は、当業者によく知られているので、その説明は省略するが、典型的には、図示されない可動型と固定型とからなる金型を備え、この金型には冷却用のウォータージャケット(不図示)が設けられる。
加熱筒2の内部にはスクリュ4が挿入され、このスクリュ4の後端には、ホッパ22の後方へ延出されると共に、スクリュ4を回転駆動及び進退駆動するスクリュ駆動部40が接続される。
また、図1の例では、加熱筒2の外部に、4つのバンドヒータ5a、5b、5c、5d(これらを総称してヒータ5、あるいは加熱体5と称する)が装着されている。なお、以下の説明では、符号5a〜5dについても、単にヒータという場合がある。
加熱筒2は、4つのヒータ5a〜5dに対応して第1〜第4のゾーンZ1〜Z4に分割され、各ヒータ5a〜5dに供給される電力が制御されることで、各ゾーン毎に加熱筒2(及びノズル3)の温度が制御される。
また、加熱筒2(及びノズル3)は温度制御装置10の制御対象であり、図1の例では、加熱筒2の各ゾーンZ1〜Z4に対応して4つの温度センサ6a〜6dが設けられている。温度センサ6a〜6dは、制御対象である加熱筒2(及びノズル3)の温度を計測可能なように、その先端が加熱筒2に接続されるように、あるいは埋設されるように設けられる。
なお、ホッパ22から加熱筒2の内部に供給された固形状のペレット(樹脂材料)は、スクリュ4の回転による剪断及び加熱筒2による加熱により可塑化混練され、型締装置MBの金型に射出充填するための溶融樹脂が生成される。
また、図1の例では、初期設定等を行うための設定部(例えば、コンピュータ端末やマウス等の入力装置を含むことができる)と、入出力インタフェース(I/F)9と、成形機制御装置100と、成形機制御装置100に内蔵される温度制御装置10と、電力源(ここでは交流電源)50と、電力源50の電流を検出する電流計26、及び電圧を検出する電圧計27とが設けられている。
成形機制御装置100は、スクリュ駆動部40、型締装置MB等、射出成形機1の全体の動作を制御することができる。
成形機制御装置100に内蔵される温度制御装置10は、ピーク電力抑制部11と、タイマ12と、温度測定部13と、設定値(目標値)格納部14と、ヒータ制御部20と、作動油昇温制御部30を有する。
ヒータ制御部20は、差分器21と、PID演算部22と、PWM変換部23と、駆動部24と、スイッチ部25を有する。なお、温度測定部13には、温度センサ6a〜6dの各検出温度情報が供給されるが、図1では、紙面の都合上、温度センサ6aの検出温度情報が供給される信号線L0のみを記載している。
また、ヒータ制御部20は、ヒータ5a〜5bの各々に対応する4つの制御出力チャンネル(制御チャンネル、あるいは単にチャンネルと称する場合もある)を有するが、図1では、紙面の都合上、ヒータ5aに対応するチャンネル1(ch1)のみを描いている。なお、例えば、1つのチャンネルを時分割で動作させて、複数のチャンネルを兼ねさせるようなことは、適宜なし得ることである。
差分器21は、温度測定部13から出力される検出温度PVと、設定値格納部14に格納されている設定値(目標値)SVとの偏差eを算出し、この偏差eに基づいてPID演算部22がPID演算(具体的には、PID、又はPI、あるいはPDの少なくとも1つの演算)を実施する。PID演算部22の出力uは、PWM変換部(PWM出力部)23にてPWM(パルス幅変調)信号u’に変換される。駆動部は、PWM信号u’に基づいて駆動信号sを生成し、出力する。スイッチ部25には、例えばSCRのような双方向性スイッチ(不図示:単にスイッチと称する)が設けられている。そのスイッチがオンしている期間において、電力源(電源)50から、第1のゾーンZ1の加熱用電力POch1がヒータ5aに供給される。これによって、第1のゾーンZ1が加熱される。ヒータ5aへの電力供給の有無(言い換えれば、ヒータ5aのオン/オフ)によって、第1のゾーンZ1の温度を制御することができる。他のゾーンZ2〜Z4についても同様である。
また、作動油昇温制御部30は型締め装置MBの油圧アクチュエータ(不図示)や、スクリュ駆動部40の油圧ポンプ(不図示)の作動油の昇温を制御する。
また、射出成型機1のユーザ(作業者等)は、射出成型機1の起動に先立って設定部9から、各ヒータ(言い換えればヒータ回路)5a〜5dの各々における、出力100%で計算したピーク電力値(あるいはピーク電流値)を設定しておく。また、各ヒータ5a〜5dのピーク電力値(ピーク電流値)と共に、各ヒータ5a〜5dのヒータ容量も設定しておく。
なお、ヒータ容量は、例えば、各ゾーンZ1〜Z4における被加熱対象(制御対象である加熱筒2及びノズル3)の温度を、単位時間で単位温度(ΔT℃)だけ上昇させる場合に必要な各ヒータの電力(単位は例えばkw)のことである。
また、オンするヒータの数を決定するために必要なピーク閾値(総電力あるいは総電流の制限値)を設定しておく。
設定された各情報は、入出力インタフェース(I/F)9を経由してピーク電力抑制部11に与えられる。
ピーク電力抑制部11は、与えられた設定情報を参照し、また、必要に応じて電流計26の検出電流I、及び電圧計27の検出電圧Vの少なくとも1つを参照しつつ、所定アルゴリズムに基づいて、ピーク電力抑制処理を実施する。言い換えれば、所定期間内において、オンするヒータ5の数を制限することで、例えば射出成型機1の昇温時におけるピーク電力を抑制する。その制御の詳細については後述する。また、作動油昇温動作の詳細についても後述する。
次に、図2を参照して、ピーク電力抑制部11の動作の概要について説明する。図2は、所定期間(比例周期)において、演算部のチャンネル毎に出力の許可/禁止(待機)を行う動作の一例を示すタイミングチャートである。
射出成形機1の例えば昇温時において、一斉にヒータ5がオンすると、大きな電力が必要となる。ピーク電力の抑制は、オンするヒータ5の数を制限することで可能となる。
オンするヒータ5の数を制限することは、オンするヒータのヒータ負荷電流又はヒータ負荷電力の総和が、ピーク閾値を超えないという条件を満たす最大のヒータの個数を検出し、その検出された最大個数のヒータにのみ、電力(電源、動作電流等)を供給する構成により実現することができる。
以下、図2を参照して、オンするヒータの数を制限する動作の詳細について説明する。ピーク電力抑制部11は、複数のゾーンに対応する各ヒータを第1〜第m(mは2以上の自然数:図1の例に従えばm=4である)のヒータとするとき、オンさせることが可能なヒータを検出する所定期間(図2の比例期間TP)を繰り返し設けると共に、最初の所定期間(図2の時刻t1〜t2)内において、第1〜第n(nは、n<mを満たす自然数)の各ヒータをオンさせたときのヒータのヒータ負荷電流(又はヒータ負荷電力)の総和がピーク閾値を超えないという条件を満たすnを検出し、第1〜第nのヒータについての電力供給を許可し、かつ第(n+1)〜第mのヒータについての電力供給を禁止する。
上記の条件判定は、例えば、予め設定されている各ヒータのヒータ容量を加算していき、その総和が、予め設定されているピーク閾値を超えるか超えないかを検出することによって実現される。なお、ヒータ容量ではなく、電流計26及び電圧計27で実測した電流値及び電圧値を用いて各ヒータの電力を測定し、その実測値の総和を、ピーク閾値と比較してもよい。但し、この方法は、所定期間内に、精度が保証される電流及び電圧の測定が可能である場合にのみ採用可能である。
また、各ヒータのヒータ容量を、実測値に基づいて適宜、補正して使用することも適宜、なし得る。また、その時点でのPWM出力を考慮してヒータ容量の値を補正してもよい。また、実測値に基づいて、あるいは射出成型機1の周囲環境の温度等に基づいて各ヒータの電力の予測値を算出し、その予測値の総和がピーク閾値を超えるか否かを判定することも可能である。これらの変形、応用は適宜、なし得るものである。
図2において、時刻t1〜t2が最初の所定期間(比例期間TP)であり、この最初の比例期間TPにおいて、第1の出力(POch1)と第2の出力(POch2)の各イネーブル信号がオンしている(言い換えれば、イネーブル信号が許可レベルである)。つまり、上記のパラメータn=2である。
したがって、ヒータ5aへの第1の出力POch1の供給、及び、ヒータ5bへの第2の出力POch2の供給が許可されている。他のヒータ5c、5dについては、POch3イネーブル信号、及びPOch4イネーブル信号が共にオフしている(言い換えれば、待機レベルとなっている)ことから、電力供給が禁止されている。
次の所定期間(図2の時刻t2〜t3)内においては、第(n+1)〜第mまで、さらに先頭に戻って第1、第2・・・の各ヒータを対象として、ヒータ負荷電流又はヒータ負荷電力の総和がピーク閾値を超えないという条件を満たすk個(kは、k<mを満たす自然数)のヒータを検出し、第(n+1)のヒータを含めてk個のヒータについての電力供給を許可し、k個以降のヒータについての電力供給の出力を禁止する。
図2の時刻t2〜t3の期間が、第2回目の比例周期TPであり、この期間においては、POch3イネーブル信号、及びPOch4イネーブル信号が共にオンしている(言い換えれば、許可レベルとなっている)ことから、ヒータ5c、5dへの電力供給(POch3、POch4の出力)が可能である。POch1、POch2は出力が許可されておらず、ヒータ5a、5bへの電力供給は不可である。
以降、同様の処理が繰り返される。図2の時刻t3〜t4の期間においては、POch1、POch2の出力が許可され、時刻t4〜t5の期間においては、POch3、POch4の出力が許可される。
但し、例えば、時刻t4〜t5の期間において、POch3、POch4を出力し、さらにPOch1を出力した場合でも、各ヒータ5c、5d、5aの電力(ヒータ容量)の総和がピーク閾値を超えない場合は、POch1イネーブル信号もオンし、POch1の出力も許容されることになる。
以下、同様の処理が繰り返され、各所定期間内において、オンするヒータのヒータ負荷電流又はヒータ負荷電力の総和がピーク閾値を超えないという条件を満たす、最大個数のヒータにのみ電力供給を許可する処理が実施される。
先に説明したように、例えば、成形機が設置されている工場が長期の休暇によって操業停止となり、休暇明けに、成形機を昇温するような場合には、通常運転時とは異なり大きな電力が必要とされる。このようなときに、通常操業時と同じような時分割の手法(従来手法)でヒータのオンを管理しても、ピーク電力が必ずしも期待どおりに抑制されず、ピーク電力が閾値を超えてしまう場合もないとは言えない。しかし、上記の本発明の実施形態によれば、このような弊害は確実に防止される。
言い換えれば、本発明の実施形態によれば、所定期間内で、オンするヒータのヒータ負荷電流又はヒータ負荷電力の総和がピーク閾値を超えないか否かを確認して、確認がとれた最大個数のヒータにのみ電力を供給する。したがって、所定期間内(言い換えれば単位時間当たり)のヒータのピーク電力は、確実にピーク閾値以下となり、精度の高いピーク電力抑制処理が実現される。よって、射出成形機1が、スクリュの冷間起動防止状態から脱するまでの期間(大電力が必要となる期間である)においても、上記の弊害を確実に防止することができる。
また、ヒータのオン処理は、第1のヒータから第mのヒータに向かって進み、第mのヒータに到ると、元に戻って再び第1のヒータから第mのヒータに向かって進むというように、一方向に巡回的に行われるため、複数のヒータの各々には、時間軸上で均等にオンする機会が与えられることになる。このような制御方式は、マスターゾーンとスレーブゾーンとを同時に昇温する同時昇温処理を行う場合にも適用し得る方式である(この点は後述する)。
次に、図3を参照する。図1の温度制御装置に含まれるピーク電力抑制部の構成例を示す図である。図3において、前掲の図面と同じ箇所には同じ参照符号を付している。また、図3では、4つのヒータ5a〜5cに対応して設けられる4つのヒータ制御部(言い換えれば、4つの制御出力チャンネル)20−1〜20−4を並列に示している。なお、図3では、制御出力チャンネルについては、ch1〜ch4という表記にて記載している。
ピーク電力抑制部11は、時分割ヒータ制御部110と、制御信号生成部120を有する。各部は、例えば、メモリ(不図示)に格納されているプログラムに従ってコンピュータ(CPUやMPU)が動作することによって生成される機能ブロックとして実現することができる。ソフトプログラムによって機能ブロックを構成することができることから、実現が容易である。
時分割ヒータ制御部110は、比例周期検出部111と、設定情報取得部113と、電力算出部115と、オンヒータ決定部117(閾値比較判定部119を内蔵する)と、を有する。
比例周期検出部111は、タイマ12を用いて、また、内蔵クロック源15から出力される内部クロックを用いて、図2に示した比例期間TP(の開始タイミング及び終了タイミング)を検出し、その検出結果を用いて、図2で示した各チャンネルのイネーブル信号を生成し、オンヒータ決定部117に供給する。
設定情報取得部113は、ユーザ(作業者等)によって設定部9を介して設定された情報(先に説明したヒータ容量、ピーク閾値等の情報)を受け付け、例えば、レジスタ等(不図示)に格納すると共に、その情報をオンヒータ決定部117に供給する。
電力算出部115は、電流計26によって実測された電流値I、及び電圧計27によって実測された電圧値Vを用いて、適宜、電力を算出し、電力モニタ情報(参照情報)として、オンヒータ決定部117に供給する。
また、オンヒータ決定部117には、各ヒータ制御部(各制御出力チャンネル)20−1〜20−4に含まれるPWM変換部(PWM出力部)23の、変調されたパルス幅の情報(ヒータの出力を決定する情報)RLが、参照情報として適宜、供給される。
オンヒータ決定部117に内蔵される閾値比較判定部119は、各ヒータがオンしたときの総電流値(総電力値)とピーク閾値とを比較し、大小関係を判定する。オンヒータ決定部117は、各所定期間(各比例期間TP)内において、オンするヒータのヒータ負荷電流又はヒータ負荷電力の総和がピーク閾値を超えないという条件を満たす、最大個数のヒータを決定して、その結果を示す信号QLを生成し、制御信号生成部120に供給する。
制御信号生成部120は、出力イネーブル信号生成部121と、PID制御部123を有する。
制御信号生成部120は、オンヒータ決定部117から供給される信号QLに基づいて、現在の所定期間(比例期間)内においてオンすべきヒータを特定し、オンすべきヒータに対応するヒータ制御部(制御出力チャンネル)20−1〜20−4のスイッチ部25に、スイッチのオンを許可する制御信号CL1を出力する(言い換えれば、制御信号CL1のレベルを許可レベルとする)。これによって、オンすることが許可されたヒータに対してのみ、電力(POch1〜POch4のいずれか)が供給される。
また、PID制御部123は、例えば、待機しているヒータ(オフしているヒータ)に対応する演算部(PID演算部22)のチャンネルに対しては、演算部(PID演算部22)における過積分防止処理等を行わせる等のために、必要な制御信号CL2を生成して、演算部(PID演算部22)に適切なタイミングで供給する。これによって、ヒータのオンを時分割的に禁止することによる追従性の低下等の悪影響を抑制することができる。この点の詳細については後述する。
また、PID制御部123は、上述のとおり演算部(PID演算部22)の動作の制御も行えることから、例えば、マスター/スレーブ制御方式で同時昇温を行っている場合に、マスターとスレーブの昇温状態を監視して、例えば、マスターとスレーブの温度が逆転した場合には演算部(PID演算部22)に制御信号CL2を発して、適切な制御を行うことも可能である。この点の詳細については後述する。
次に、図4を参照する。図4(A)は、初期設定処理の手順例を示すフローチャート、図4(B)は、50ms処理の手順例を示すフローチャート、第4(C)は、PID演算処理の手順例を示すフローチャートである。
図4(A)において、ステップS1にて、Pidch(PIDチャンネル)を0として全チャンネルをクリアする。ステップS2では、通電中電力を0とする。ステップS3では、チャンネル番号を指定するパラメータiを0とする。
ステップS4では、iが最終チャンネル番号より小さいか否かが判定される。Yの場合は、ステップS5にて、MV(i)(i番目のPIDチャンネルが生成する操作量)を0に設定する。
続いて、ステップS6にてピーク電力抑制中におけるヒータの電力を0に設定し、続いて、経過時間(i)(i番目のチャンネルについてのヒータ制御開始タイミングからの経過時間)を0とし、続いて、ステップS8にて、iをインクリメント(更新)してステップS4に戻る。
ステップS4にてNのときは、ステップS9に移行し、50ms処理(50ms毎に周期的に実行される処理)を実行する。初期設定が終わると、初期設定処理用プログラムは電源オフまでスリープ状態となる(ステップS10)。
図4(B)を参照する。50ms処理では、まず、ステップS20にて、PID演算処理が実行される。続いて、ステップS21にて、PWM出力(PWM変換)処理が実施される。
図4(C)を参照する。PID演算処理では、まず、ステップS30にて、Pidchとして、Pidch+1を設定する。初期設定でPidch=0となっていることから、チャンネル1が設定されたことになる。
ステップS31では、PIDchiが、最終チャンネル番号より小さいか否かが判定される。Yのときは、ステップS32にて、Pidchを0に戻し、ステップS33に移行する。ステップS31にてNのときは、ステップS33に移行する。
ステップS33では、PV(Pidch)(Pidチャンネルに対応する検出温度PV)を取り込む。続いて、ステップS34にて、PID演算処理を実行する。
次に、図5を参照する。図5は、PWM出力処理の手順例を示すフローチャートである。ステップS40にて、チャンネル(ch)を1に設定する。
ステップS41では、チャンネル(チャンネル番号)が、最終チャンネル番号よりも大きいかを判定する。Yならば、全チャンネルのPWM出力が完了したことになるため、PWM出力処理を終了する。ステップS41でNならば、そのチャンネルの経過時間(動作開示時点からの経過時間)がそのチャンネルに対応する比例周期(ch)以上であるかを判定する。Nの場合は、ピーク電力抑制処理中である可能性はないため、ステップ47にて現在の経過時間に50msを加算して、これをチャンネルの経過時間とする処理を行い、ステップS48に移行する。
ステップS42でYならば、ステップS43にて経過時間(ch)を0に戻し、ステップS44にて、ピーク電力制御処理(PWM処理)を実行する。続いて、ステップS45にて、ヒータチャンネル(ヒータch)をオフとし、ステップS46にてピーク電力抑制中であるか否かを判定し、ステップS48に移行する。
ステップS48では、経過時間(ch)が、比例周期(ch)の半分(1/2)以上であるかが判定される。この判定の結果がNであるときは、図5の左下側に示される式(1)を満足する操作量MVchによる制御が実施される。続いて、ステップS49にて、ヒータ(ch)のオン開始のタイミングであるかを判定する。Yであるときは、ステップS50にて、出力チャンネル(OUT(ch))をオンとし、ステップS53に移行する。また、ステップS49にてNの場合は、ステップS53に移行する。
一方、ステップS48にて判定結果がYであるときは、図5の右下側に示される式(2)を満足する操作量MV(ch)にて制御が実施される。ステップS51では、ヒータ(ch)の終了タイミングであるかを判定する。Yであるときは、ステップS50にて、出力チャンネル(OUT(ch))をオンとし、ステップS53に移行する。ステップS51にてNの場合は、ステップS53に移行する。
ステップS53では、チャンネル番号をインクリメント(更新)し、ステップS41に戻る。
次に、図6を参照して、ピーク電力抑制部11によるピーク電力抑制処理について説明する。図6は、ピーク電力抑制処理の手順例を示すフローチャートである。
なお、各ゾーンZ1〜Z4に対応する各ヒータ5a〜5dのオン/オフは、一例であるが、0.03secだけタイミングをずらして実施することとする。言い換えれば、各ヒータの制御演算を、0.03sec周期で実施する。また、先に説明したように、ピーク電力抑制処理は、例えば、射出成型機1が、スクリュ冷間起動防止状態から脱するまでの期間において実施するのが好適である(但し、これに限定されるものではない)。
ピーク電力抑制処理の概要は以下のとおりである。先に説明したように、各チャンネルのピーク電力の抑制は、例えばチャンネル番号の順に進み、最終のチャンネルに達すると、1番目のチャンネルに戻って再び処理が進行するというふうに、一定方向に循環的に行われる。
ここで、先に説明した図2を参照する。図2の例では、最初の比例周期TP(時刻t1〜t2)では、4つのチャンネルの内の、第1、第2のチャンネルがオンし、第3、第4のチャンネルはオフしている。ここで、次の比例周期TPの期間(時刻t2〜t3)では、第3、第4、第1・・・の各チャネルについて、それがオンしたときに総電流(総電力)がピーク閾値を超えるか否かが判定され、総電流(総電力)がピーク閾値を超えない範囲で、ヒータのオンが許可されることになる。
次の比例周期TPの開始タイミング(時刻t2)に対応するチャンネル、言い換えれば、時刻t2において先頭に位置するチャンネルは第3のチャンネルであり、まず、この第3のチャンネルをオンさせたときに、電流(電力)がピーク閾値を超えるか否かを判定し、超えないのであれば、第3のチャンネルをオンさせる。次に、第4のチャンネルについて同様の処理を行い、オン状態のヒータの電流(電力)の総和がピーク閾値を超えないか否かを、チャンネル毎に判定することになる。
ここで、次の比例期間TPが開始されたとき(時刻t2)に、最初にピーク閾値を用いた判定処理の対象となるのは、第3のチャンネルである。この第3のチャンネルは、1つ前のチャンネルである第2のチャンネルが、直前の比例期間TP(時刻t1〜t2)においてオンしており(待機状態ではない)、そのオンしていた第2のチャンネルの次のチャンネルであるがゆえに、今回の比例期間TPが開始されると、最初の比較判定処理の対象となる、ということである。
ここで、第4のチャンネルに着目すると、時刻t2の時点では、1つ前のチャンネルである第3のチャンネルはオフであり、従って、その時点では、第4のチャンネルが比較判定処理の対象とはならない。言い換えれば、第4のチャンネルが比較判定処理の対象となるのは、第3のチャンネルがオンした後、その次の処理タイミングのときであり、時刻t2の時点では、第4のチャンネルについては、処理タイミングには至っておらず、よって待機状態を継続する、ということになる。
このようにして、比較判定処理の対象となるチャンネルを、1つ前のチャンネル(直前のチャンネル)がオンしていたか否かにより検出し、直前のチャンネルがオンしていた場合には比較判定処理の対象とし、一方、直前のチャンネルがオフしていた場合には待機状態を継続させる。そして、比較判定処理の対象となるチャンネルについては、ピーク閾値を用いた比較判定処理を行って電流(電力)がピーク閾値を超えないことを確認し、確認できればそのチャンネルをオンし、確認できなければ待機状態とする。待機状態とされたそのチャンネルをオンさせてもよいかどうかの判定は、次の比例期間の開始タイミングのときまで先送り(後回し)にされることになる。
以下、図6の各ステップについて説明する。ステップS60において、比例周期内(所定期間内)であるか否かを判定する。Nのときは、その判定を継続し、Yのときは、ステップS61に移行する。
ステップS61では、着目するチャンネルのチャンネル番号(ch)から1を引いて、これをパラメータiの値とする。着目するチャンネルの番号から1を引くのは、1つ手前のチャンネルがオンしていたか、あるいは、待機中であったかを判定する必要があるからである。
ステップS62では、iが1より小さいか否かを判定する。Nならば、ステップS64に移行し、Yならば、着目するチャンネルが第1のチャンネル(チャンネル番号が最も若いチャンネル)であることになるので、ステップS63において、直前のチャンネルのパラメータiを、最終チャンネル(チャンネル数がm個あるのであれば、第mのチャンネル)の番号とする。言い換えれば、循環的な処理が行われることから、第1番目のチャンネルの直前のチャンネルを、最終チャンネルに設定するということである。
次に、ステップS64にて、ステップS61又はステップS63で決定されたi番目のチャンネル(ch(i):着目するチャンネルの1つ前のチャンネル)について、オンしていたか(言い換えれば、待機状態のチャンネルではなかったか)を判定する。Yならば、着目するチャンネルは、今回のピーク閾値を用いた比較判定処理の対象となるため、ステップS65に移行する。Nならば、今回は、その着目するチャンネルは比較判定処理のタイミングに至っていないことから、ステップS67に移行し、待機状態が維持される。
ステップS65では、通電中電力に、オン対象のヒータ(ch)のヒータ容量の総和を加算した電流(電力)が、ピーク閾値(リミット値)を超えないか否かを判定する。ここで、通電中電力としては、例えば、作動油昇温電力(及びポンプやモータの駆動電力)をあげることができる。
ステップS65でYのときは、ステップS66に移行して、そのチャンネルのオンを許可し、Nのときは、ステップS67に移行して、そのチャンネルの待機状態を維持する。
続いて、ステップS68では比例周期の終了を判定する。Yならば処理を終了し、Nならば、ステップS69にてiをインクリメント(更新)し、ステップS61に戻る。
次に、図7を参照する。図7は、演算部(PID演算部)の構成例を示す図である。図7に示されるPID演算部22は、比例・微分先行型PID(I−PD)制御を実施する構成を有する。但し一例であり、これに限定されるものではない。
図7において、PB、Ti及びTdは、それぞれ、比例帯[℃]、積分時間[秒]及び微分時間[秒]を示す。また、SVは設定(目標)温度[℃]を示し、PVは検出温度[℃]を示す。また、MVpiは比例、積分による操作量を示し、MVdは微分による操作量を示し、MVpidは比例、積分及び微分による操作量を示す。
また、図7のPID演算部22は、差分器Q1〜Q4と、積分器42と、微分器44と、第1のリミッタ46(出力範囲は0%〜100%)と、第2のリミッタ48(出力範囲は−10%〜110%)と、2つのスイッチSW1、SW2を備える。なお、制限範囲が異なる2つのリミッタを設けるのは、操作量が、目標とする限界値(制限値)よりも低く安定してオフセットが生じることを防止するためである。
また、2つのスイッチSW1、SW2は、ピーク電力抑制部11のPID制御部22(図3も参照)から出力される制御信号CL2によって、同期して切り替えられる。
具体的には、先に図3を用いて説明したように、スイッチ部25がオフされることで、1つの制御チャンネル(20−1(ch1)〜20−4(ch4)の少なくとも1つ)の出力がオフされる(禁止される)場合には、その制御チャンネルに属するPID演算部22のスイッチSW1、SW2は、その出力のオフに同期して(あるいはほぼ同じタイミングで)、0%の端子側に切り替えられるのが好ましい。これによって、ヒータへの電力供給が禁止される期間に対応して、PID演算部における制御対象(加熱筒2の各ゾーンZ1〜Z4)に出力する操作量MVpidを0%に切り替えることができる。
制御チャンネルの出力がオフ(禁止)されている期間においては、検出温度PVの上昇が止まり、設定温度(目標温度)SVとの偏差が大きくなり、積分器42が、飽和限界(ここでは第2のリミッタ48のリミット値)を超えて偏差を足し込んでいく積分器ワインドアップ(リセットワインドアップ)が生じてオーバーシュート等が生じる場合がある。この場合、制御チャンネルの出力のオフを解除して出力可能としたときの、検出温度PVの、設定温度(目標温度)SVに対する応答性(追従性)が低下することが懸念される。この問題を防止するために、過積分を抑制する必要がある。そこで、スイッチSW1、SW2を0%端子側に切り替え、操作量Mpidを0とすることで、現状のPVを維持する、すなわちPID演算部22を待機状態とするものである。これによって、制御チャンネルの出力のオフが解除されたときに、円滑に通常のPID制御に移行することが可能となる。
また、PID制御部22は、図3に示した出力イネーブル信号生成部121が出力イネーブル信号を出力して、各制御チャンネルのスイッチ部25を制御するタイミングに同期させて(あるいは、ほぼ同じタイミングで)、制御信号CL2を出力して、スイッチSW1、SW2を同期的に切り替える制御を実施する。
次に、図8を参照する。図8は、マスター/スレーブ方式の演算部(PID演算部)の構成例を示す図である。図8において、図7と共通する部分には、同じ参照符号を付している。但し、図8では、マスター側とスレーブ側とを区別するために、同じ参照符号であっても、スレーブ側にはダッシュ記号を付している。
図8の上側に示されるのがマスター側のPID演算部であり、下側に示されるのがスレーブ側のPID演算部である。また、マスターゾーンは、制御対象である加熱筒2の、分割された複数のゾーンの1つであり、スレーブゾーンは、その他のゾーンの少なくとも1つである。典型的には、昇温が最も遅れているゾーン(言い換えれば、その時点で昇温速度が最も遅いゾーン)がマスターゾーンに設定される。図8の例では、マスターゾーンとスレーブゾーンは同時昇温される。
スレーブ側の設定値(設定温度)SV’は、マスター側の検出値(検出温度)PVに等しく設定されている(SV’=PV)。
図示されるように、マスター側、スレーブ側の基本構成は、図7で示した構成とほぼ同じである。但し、図8では、差分器Qa、Qbが追加されており、また、スレーブ側の設定値SV’が入力される差分器Qcが設けられている。また、図8では、スレーブ側の目標値であるSnV’(=SV’+PV−SV)が入力される差分器Qcが設けられている。また、図8では、及びマスター側において、検出値PVと設定値SVとの偏差eの、積分器42への入力を遮断するためのスイッチSW3が設けられている。これらの点で、図7とは異なる。
また、図8では、ピーク電力抑制部11の内部に、マスター用PID制御部123Mと、スレーブ用PID制御部123Sが設けられている。この点でも、図7とは異なる。
また、図8では、スレーブ側にて、比例及び積分による操作量Vpi’が、積分器42の飽和限界(+110%)を超えていることを検出し、スイッチSW3をオフ(開状態)として、マスター側を待機状態とするマスター待機制御部200が設けられている。この点でも、図7とは異なる。
マスター側及びスレーブ側の双方に、先に説明したピーク電力抑制処理(比例周期毎にピーク閾値を超えない個数のヒータのみをオンさせる制御方式)が適用される。このピーク電力抑制処理は、複数のチャンネルに対して、順次的、かつ循環的に行われ、各チャンネルには時間軸上で均等にオンする機会が与えられることから、マスター/スレーブの同時昇温を行う場合にも特に支障が生じない。
図8においても、図7にて説明した、スイッチSW1、SW2をオフすることによる過積分防止処理が実施される。
すなわち、ピーク電力抑制処理によって電力供給が禁止されるヒータがマスターゾーンのヒータであるときは、そのマスターゾーンのヒータに対応する演算部(PID演算部)においては、電力供給の禁止期間に対応させて制御対象(加熱筒2のマスターゾーン)に出力する操作量Vpidを0%に切り替えることで、過積分を防止する。
また、電力供給が禁止されるヒータがスレーブゾーンのヒータであるときは、そのスレーブゾーンのヒータに対応する演算部(PID演算部)においては、電力供給の禁止期間に対応させて制御対象(加熱筒2のスレーブゾーン)に出力する操作量Vpid’を0%に切り替えることで、過積分を防止する。
また、図8において、複数のゾーンの内の昇温が最も遅いゾーンをマスターゾーンとし、それ以外の少なくとも1つのゾーンをスレーブゾーンとして同時昇温を開始した後、マスターゾーンの温度が、スレーブゾーンの温度を超えて温度の逆転が生じた場合には、スレーブゾーンの昇温がマスターゾーンの昇温に追いつくことができず、いわゆるスレーブの置き去りが生じていることになる。これを放置すると、マスター/スレーブを、同じ検出温度となるように同時昇温することが達成困難となる。
そこで、このときは、ピーク電力抑制部11に含まれるマスター待機制御部200がスレーブの置き去りを検出して、スイッチSW3をオフ(開状態)させ、マスターを待機状態とする。
すなわち、スイッチSW3がオフされると、マスター側にて、設定値(目標温度)SVと検出値(検出温度)PVとの偏差eの、積分器42への入力が遮断される。このとき、検出値PVは、信号線L2を経由して差分器Q2に与えられており、時間経過と共に、積分器42の出力はPVに近づくことになり、差分器Q2にて、PV同士が相殺されることになり、その結果として操作量Vpidが0%に近づく。よって、マスターゾーンの検出温度PVが維持(保持)されることになる。言い換えれば、マスターが、マスター待機状態となる。
このようにして、マスターとスレーブの各検出温度の逆転が生じた場合でも、マスターとスレーブの各検出温度を、早期に、同レベルに収束させることができ、マスターとスレーブの同時昇温が可能となる。
なお、スレーブ側の積分器42’の出力は、帰還ループによるフィードバックのみでは上昇が遅れることがあるため、図8の例では、信号線L1を介して、マスター側の積分器42の出力を、スレーブ側の積分器42’の出力に加算している。これによって、スレーブゾーンの昇温の遅れを抑制することができる。
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、成形機(射出成形機や押出成形機等)における、例えば昇温時のピーク電力値を、予め設定したピーク閾値を超えないように確実に抑制することができる。
従って、工場の電源設備の負担を軽減することができる。また、工場の電源設備を小型化する点でも有利となる。また、例えば長期休暇明けに成形機を動作させて、加熱筒及びノズルを昇温するような場合であっても、作動油昇温等に必要な電力は確実に確保しながら、ピーク電力を適正な範囲内に保つことができ、安全で信頼性の高い機器動作が実現される。
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々、変形、応用が可能である。例えば、図7、図8に示したPID制御回路の構成は一例であり、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、種々のフィードバックループを用いた制御系に適用し得る。
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。