以下、図面を参照して本開示の細胞容器および細胞塊について説明する。また、細胞容器および細胞塊と併せて、細胞塊の作成方法、搬送方法、回収方法、および評価方法についても説明する。
[細胞容器]
図1Aは、本開示の一実施形態に係る細胞容器100を示す概略的な断面図である。本実施形態の細胞容器100は、後述する複数の細胞塊CS(図9参照)を収容可能な容器である。細胞容器100は、主に、底壁10と、この底壁10の周囲に立設された側壁20と、この側壁20との間に間隔をあけて底壁10の内表面10aに凹状に設けられた細胞収容部30と、この細胞収容部30の底面31に凹状に設けられ個々の細胞塊CSを収容可能な複数のウェル40と、を備えている。
細胞容器100は、細胞C(図5参照)または細胞塊CSを収容して培養したり、培養した細胞Cまたは細胞塊CSを収容して搬送したり、一定の期間に亘って保存したり、顕微鏡観察や所定の操作を行うために一時的に収容したりするための容器である。すなわち、細胞容器100は、たとえば、細胞収容容器、細胞培養容器、細胞搬送容器、細胞保存容器、または細胞観察容器として用いることができる。
細胞容器100に収容される細胞Cとしては、たとえば、受精卵、卵細胞、ES細胞(胚性幹細胞)およびiPS細胞(人工多能性幹細胞)等、哺乳動物および鳥類の細胞を挙げることができる。ここで、哺乳動物は、温血脊椎動物を指し、例えば、ヒトおよびサルなどの霊長類、マウス、ラットおよびウサギ等の齧歯類、イヌおよびネコ等の愛玩動物、ならびにウシ、ウマおよびブタ等の家畜が挙げられる。
細胞容器100の素材は、特に限定されず、無機材料および有機材料のいずれも用いることができる。無機材料としては、たとえば、金属、ガラス、およびシリコン等を用いることができる。有機材料としては、たとえば、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂等のプラスチック材料を用いることができる。なお、細胞容器100に収容された細胞Cや細胞塊CSを観察するために、細胞容器100の素材は、可視光に対する透明性、すなわち透光性を有することが好ましい。
図1Aに示す例において、細胞容器100は、有底短円筒形状のディッシュ型である。なお、細胞容器100の形状は、特に限定されず、たとえば、底壁10に垂直な平面視で、矩形、多角形、円形、楕円形等、任意の形状にすることができる。細胞容器100は、底壁10とその周囲を取り囲む側壁20とによって、細胞Cまたは細胞塊CSを収容するための内部空間が画定されている。なお、細胞容器100は、側壁20によって画定され、底壁10に接続された側壁20の下端部と反対側の側壁20の上端部に開口する開口部21を覆う、蓋部50(図12参照)を有してもよい。
底壁10は、細胞容器100の内部空間に臨む内表面10aに凹部を有している。この底壁10の内表面10aの凹部によって、底壁10の内表面10aに開口する細胞収容部30が画定されている。図1Aに示す例において、底壁10は、細胞容器100の底面(外底面)10b側に配置された底壁下部11と、底壁10の内表面10a側に配置された底壁上部12とを有している。底壁上部12は、底壁下部11の上面に接合されていてもよいし、底壁下部11の上面に取り外し可能に配置されていてもよい。また、底壁下部11と底壁上部12とは、たとえば、同一素材を一体成形することにより一体に設けられていてもよい。
図1Aに示す例において、底壁下部11は、周縁部に側壁20が接続され、細胞容器100の底面10bと反対側の上面が、細胞収容部30に露出し、細胞収容部30の底面31になっている。底壁下部11の上面の一部である細胞収容部30の底面31には、複数の凹状のウェル40が設けられている。また、図1Aに示す例において、底壁上部12は、側壁20の内側にぴったりとはめ込まれた平板状の部材であり、細胞収容部30に対応する位置に開口する貫通孔を有している。底壁上部12の貫通孔の内壁面が、細胞収容部30の側面32になっている。
図1Aに示す例において、側壁20と細胞収容部30との間の底壁10の内表面10aは、平坦面とされている。平坦面とは、たとえば、ウェル40を含む凹部や細胞の三次元培養を目的とする凸部のような凹凸を有しない平らな面である。すなわち、底壁10の内表面10aは、底壁10の底面10bとおおむね平行であり、細胞容器100を水平な面の上に置いたときに、水平面におおむね平行になるような傾斜を有しない面である。
図1Bおよび図1Cは、図1Aに示す細胞容器100の別の例を示す概略的な断面図である。図1Bおよび図1Cに示すように、側壁20と細胞収容部30との間の底壁10の内表面10aは、傾斜面であってもよい。たとえば、底壁10の内表面10aは、細胞収容部30の開口縁33eから側壁20へ向けて、細胞容器100の開口部21から遠ざかるように傾斜した傾斜面であってもよい。この場合、底壁10の内表面10aは、細胞収容部30の開口縁33eに隣接する部分において、底壁10の底面10bから内表面10aまでの高さが最大になり、側壁20に隣接する部分において、底壁10の底面10bから内表面10aまでの高さが最小になる。すなわち、底壁10の内表面10aは、細胞容器100を水平な面の上に置いたときに、細胞収容部30の開口縁33eから側壁20へ向けて次第に低くなるように傾斜した傾斜面になっていてもよい。
図1Bに示す例において、細胞容器100の底壁10の内表面10aは、底面10bに沿う一方向の片側だけが傾斜面になっている。このように、細胞容器100の底壁10の内表面10aは、上記一方向における中心に対して非対称の形状になっている。また、図1Cに示す例において、細胞容器100の底壁10の内表面10aは、細胞収容部30の開口部33の近傍の部分と、側壁20の近傍の部分が、底面10bに平行な平坦面になっている。そして、底壁10の内表面10aは、細胞収容部30に隣接する平坦面の外縁から側壁20に隣接する平坦面の内縁までが、傾斜面になっている。なお、底壁10の内表面10aにおける傾斜面の底面10bに対する傾斜角度は、0°から90°までの範囲で選択することができる。なお、細胞容器100の底面10bから細胞収容部30の開口縁33eまでの高さは、開口部33の全周にわたって等しくなっている。
また、図示は省略するが、底壁10の内表面10aは、細胞収容部30の開口部33を取り囲む凸部を有してもよい。凸部は、たとえば、細胞収容部30の開口縁33eの全周にわたって環状に連続して設けられ、底壁10の内表面10aから細胞容器100の開口部21へ向けて突出した堤防状に設けることができる。底壁10の内表面10aから凸部の先端までの高さは特に限定されないが、たとえば、細胞収容部30の開口部33から底面31までの深さよりも低くすることができる。
また、底壁10の内表面10aは、タンパク質低吸着処理が施された細胞低吸着面Fであってもよい。ここで、タンパク質低吸着処理は、細胞容器100に対するタンパク質の吸着性を低下させ、細胞容器100に対する細胞の吸着を防止することができる処理であれば、特に限定されない。具体的には、タンパク質低吸着処理は、たとえば、親水性ポリマーを用いた表面の親水化処理、ならびに、容器の原料に対する親水性ポリマーの配合および表面の平滑化処理などを含む。すなわち、細胞低吸着面Fは、タンパク質低吸着処理が施されていない細胞容器100の表面と比較して、細胞の吸着性が低下されている。
側壁20は、底壁10の周縁部に接続され、たとえば底壁10の底面10bにおおむね垂直に設けられている。より具体的には、側壁20は、底壁10の底面10bに対して、たとえば80°から90°程度の角度αを有している。側壁20は、底壁10に対して取り外し可能に取り付けられていてもよいし、下端が底壁10の周縁部に接合されていてもよいし、底壁10と一体に設けられていてもよい。図1Aに示す例において、側壁20は、たとえば同一素材を一体成形することで底壁下部11と一体に設けられ、下端が底壁下部11の周縁部に接続されている。細胞容器100の内部空間に臨む側壁20の内表面22は、前述のタンパク質低吸着処理が施された細胞低吸着面Fであってもよい。
細胞収容部30は、側壁20との間に間隔をあけて底壁10の内表面10aに凹状に設けられている。細胞収容部30は、底面31と側面32によって画定された凹状の空間であり、細胞懸濁液S、培地M、細胞塊CS(図5参照)を収容することができるようになっている。細胞収容部30の容積は、たとえば、細胞懸濁液Sの濃度調整を容易にするとともに、細胞懸濁液Sの収容時に細胞懸濁液Sに細胞Cが均一に分散した状態を維持する観点から、10μL以上にすることができる。
図1Aに示す例において、細胞収容部30の底面31は、前述のように、底壁下部11の上面の一部であり、細胞収容部30の側面32は、前述のように、底壁上部12の貫通孔の内側面である。細胞収容部30の内表面、すなわち、底面31と、この底面31の周囲の側面32は、前述のタンパク質低吸着処理が施された細胞低吸着面Fであってもよい。また、細胞収容部30の側面32は底面31に対しておおむね垂直になっている。より具体的には、たとえば、細胞収容部30の側面32は、底面31に対して85°以上95°以下の角度βを有することができる。なお、細胞収容部30の側面32は、底面31に対する角度βが、可能な限り90°に近いことが好ましい。
細胞収容部30の底面31から開口部33までの深さは、取り扱う細胞Cに応じて適宜変更することができる。たとえば、細胞容器100によってHepG2(ヒト肝癌由来細胞株)の細胞塊CSを作成する場合には、細胞収容部30の底面31から開口部33までの深さは、約1mm程度にすることができる。また、図1Aに示す例において、細胞収容部30は、細胞容器100の底壁10の中央に設けられているが、細胞容器100の底壁10の中央と側壁20との間の一方向に偏った位置に設けられていてもよい。
図2は、図1Aに示す細胞収容部30の側面32と底面31の拡大図である。
複数のウェル40は、細胞収容部30の底面31に凹状に設けられ、ひとつのウェル40にひとつの細胞塊CSを収容可能に構成されている。すなわち、複数のウェル40のそれぞれに1つの細胞塊CSを収容することによって、複数の細胞塊CSを個々に分離して収容することができるようになっている。ウェル40の開口部41の形状は、特に限定されないが、たとえば円形である。ウェル40の内表面、すなわちウェル40の底面42と側面43は、前述のタンパク質低吸着処理が施された細胞低吸着面Fであってもよい。また、複数のウェル40は、細胞収容部30の底面31に設けられた凸部と凸部の間に凹状に設けられていてもよい。
図2に示す例において、ウェル40は、台形状の断面形状を有し、全体として円錐台形状の形状に形成されている。ウェル40は、開口部41から底面42へ向けて内径が次第に減少するように、底面42に垂直な方向に対して側面43が傾斜している。ウェル40の開口部41の直径または開口幅は、複数の細胞を収容し、かつ、酸素不足等の細胞への悪影響を抑制する観点から、たとえば、10μm以上かつ1mm以下の範囲にすることができる。
なお、ウェル40の形状は、図2に示す円錐台形状の形状に限定されない。たとえば、ウェル40は、断面形状が矩形の円筒状の形状を有してもよいし、断面形状がV字形または三角形の円錐状の形状を有してもよいし、底面42が凹曲面とされてU字状の断面形状を有してもよい。ウェル40は、開口部41から底面42までの深さが底面42の中央部において最大になり、ウェル40の底面42の中央部に細胞を集め、または、ウェル40の底面42の中央部に細胞塊CSを保持することができるように構成された傾斜面を有することが好ましい。
複数のウェル40は、たとえば、等間隔に配置することができる。また、複数のウェル40の配置パターンは特に限定されないが、たとえば縦横に所定の間隔で配置することができる。複数のウェル40において、互いに隣接するウェル40同士の間隔は、ウェル40の開口部41の直径または最大幅より小さくすることができる。また、複数のウェル40において、細胞収容部30の側面32と、この側面32に隣接するウェル40との間隔は、ウェル40の開口部41の直径または最大幅より小さくすることができる。
より具体的には、細胞容器100によってHepG2の細胞塊CSを作成する場合には、ウェル40の開口部41の大きさは、たとえば約600μm程度、ウェル40の開口部41から底面42までの深さは、たとえば約400μm程度、ウェル40の間隔は、たとえば約150μm程度にすることができる。この場合、細胞収容部30は、底面31に、たとえば約100個程度のウェル40を有することができる。
図2に示す例において、ウェル40とウェル40との間の細胞収容部30の底面31は、図1Aに示す細胞容器100の底面10bにおおむね平行な平坦面となっているが、ウェル40の開口部41から離れるほど細胞容器100の底面10bからの高さが高くなるように凸状に隆起させてもよい。このように細胞収容部30の底面31を隆起させることで、ウェル40とウェル40との間に、ウェル40の開口部41に近づくほど低くなるように傾斜した傾斜面を形成することができる。
また、ウェル40の底面42における細胞容器100の底壁10の厚さ、たとえば、底壁下部11の最も薄い部分の厚さは、透光性を有する細胞容器100の底壁10を介して細胞または細胞塊CSの観察を精度良く行う観点から、1mm以下であることが望ましい。また、細胞容器100の強度を確保して破損を防止する観点から、ウェル40の底面42における細胞容器100の底壁10の厚さは、0.1mm以上であることが望ましい。
[細胞塊の作成方法]
以下、前述の細胞容器100を用いた本開示の細胞塊の作成方法について説明し、併せて前述の細胞容器100の作用についても説明する。
図3は、図1Aに示す細胞容器100を用いた本開示の細胞塊の作成方法S100の一例を示すフロー図である。本開示の細胞塊の作成方法S100は、前述の細胞容器100を用いた細胞塊CSの作成方法であって、たとえば、懸濁液導入工程S101と、細胞沈降工程S102と、細胞塊形成工程S103と、検査工程S104と、を有している。
(懸濁液導入工程)
図4は、図3に示す懸濁液導入工程S101の説明図である。懸濁液導入工程S101は、任意の細胞Cが懸濁された細胞懸濁液Sを、細胞容器100の細胞収容部30に導入する工程である。細胞懸濁液Sに含まれる細胞Cおよび培地Mは、作成する細胞塊CSの種類によって適宜選択することができる。たとえば、細胞容器100によってHepG2の細胞塊CSを作成する場合には、細胞懸濁液Sとして、100μLあたり約2.5×105個のHepG2が均一に分散された培地Mを用いることができる。培地Mとしては、たとえば、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:ダルベッコ改変イーグル培地)を用いることができる。
懸濁液導入工程S101では、まず、細胞収容部30の開口部33が水平になるように、たとえば細胞容器100を水平な面の上に配置する。次に、細胞懸濁液Sの液面Saが細胞収容部30の開口部33に位置して水平になるように、細胞懸濁液Sを細胞収容部30に導入する。すなわち、細胞懸濁液Sの液面Saにメニスカスが形成されないように細胞収容部30に細胞懸濁液Sを導入する。換言すると、細胞懸濁液Sの液面Saが細胞収容部30の開口部33に位置して水平面になるように、複数のウェル40を含む細胞収容部30の容積とおおむね等しい体積の細胞懸濁液Sを細胞収容部30に導入する。
より具体的には、まず、細胞収容部30に、細胞収容部30の容積よりも少ない体積の細胞懸濁液Sを導入する。すると、細胞懸濁液Sの液面Saの周縁部は、細胞収容部30の開口部33よりも底面31側の位置で細胞収容部30の側面32に接し、たとえば凹型のメニスカスが液面Saに形成される。すなわち、細胞懸濁液Sの液面Saは、細胞収容部30の内部で凹曲面状に屈曲した状態になり、細胞収容部30の側面32に接する液面Saの周縁部が、細胞収容部30の側面32から離れた液面Saの中央部よりも、細胞収容部30の開口部33に近い上方側に位置した状態になる。
この状態で、細胞懸濁液Sの液面Saが細胞収容部30の開口部33から外へ出ないように、少量の細胞懸濁液Sを細胞収容部30に加えていくと、細胞懸濁液Sの液面Saの周縁部が、やがて細胞収容部30の開口部33の位置、すなわち細胞収容部30の開口縁33eに達する。この状態では、まだ、細胞懸濁液Sの液面Saに凹型のメニスカスが形成されている。
この状態から、さらに少量の細胞懸濁液Sを細胞収容部30に加えていくと、細胞懸濁液Sの液面Saのメニスカスの曲率が次第に減少していき、やがて、図4に示すように、細胞懸濁液Sの液面Saが細胞収容部30の開口部33の位置で水平面になる。ここで、細胞容器100の底面10bから細胞収容部30の開口縁33eまでの高さは、開口部33の全周にわたって等しくなっている。これにより、細胞懸濁液Sの液面Saに歪みが発生するのを防止することができる。以上により、懸濁液導入工程S101が終了する。懸濁液導入工程S101の終了後は、図3に示すように、細胞沈降工程S102が行われる。
(細胞沈降工程)
図5は、図3に示す細胞沈降工程S102を説明する説明図である。細胞沈降工程S102は、懸濁液導入工程S101後に、細胞懸濁液Sに含まれる細胞Cを沈降させ、細胞収容部30の底面31の複数のウェル40に細胞Cを導入する工程である。ここで、細胞収容部30に収容された細胞懸濁液Sの液面Saにメニスカスが形成されている場合には、細胞収容部30の側面32に近いウェル40と、細胞収容部30の側面32から離れたウェル40との間で、ウェル40に収容される細胞Cの数にばらつきが生じるおそれがある。
たとえば、細胞沈降工程S102において、前述のように細胞収容部30の内部で細胞懸濁液Sの液面Saに凹状のメニスカスが形成されているとする。この場合、細胞収容部30の側面32の近傍の周縁部では、細胞収容部30の底面31から細胞懸濁液Sの液面Saまでの高さが相対的に高くなり、細胞収容部30の側面32から離れた中央部では、細胞収容部30の底面31から細胞懸濁液Sの液面Saまでの高さが相対的に低くなる。そのため、細胞収容部30の底面31の周縁部に位置するウェル40の上には相対的に多くの細胞懸濁液Sが存在し、細胞収容部30の底面31の中央部に位置するウェル40の上には相対的に少ない細胞懸濁液Sが存在する状態になる。
その結果、細胞Cが均一に分散した細胞懸濁液Sを細胞収容部30に導入しても、細胞収容部30の底面31の周縁部に位置するウェル40の内部には、相対的に多くの細胞Cが沈降して導入され、細胞収容部30の底面31の中央部に位置するウェル40の内部には、相対的に少ない細胞Cが沈降して導入される。したがって、細胞沈降工程S102において、細胞収容部30に収容された細胞懸濁液Sの液面Saにメニスカスが形成されていると、細胞収容部30の側面32から離れたウェル40と側面32の近傍のウェル40との間で、ウェル40に収容される細胞Cの数にばらつきが生じるおそれがある。
これに対し、前述のように、懸濁液導入工程S101において、細胞懸濁液Sの液面Saが細胞収容部30の開口部33に位置して水平になるように細胞懸濁液Sを細胞収容部30に導入することで、細胞沈降工程S102において、ウェル40に収容される細胞Cの数をより均一化することができる。具体的には、濁液導入工程において、細胞懸濁液Sの液面Saを細胞収容部30の開口部33の位置で水平にすることで、細胞収容部30の底面31の周縁部と中央部において、ウェル40の上に存在する細胞懸濁液Sの量を均一化することができる。
これにより、細胞Cが均一に分散した細胞懸濁液Sを細胞収容部30に導入すると、細胞収容部30の底面31の周縁部と中央部において、ウェル40の内部におおむね均等な数の細胞Cが沈降して導入される。したがって、細胞沈降工程S102において、細胞収容部30の底面31の周縁部と中央部との間で、ウェル40に収容される細胞Cの数にばらつきが生じるのを防止し、複数のウェル40の各々に分離して収容される細胞Cの数を均一化することができる。また、細胞容器100は、底面10bから細胞収容部30の開口縁33eまでの高さが開口部33の全周にわたって等しく、細胞懸濁液Sの液面Saの歪みが防止されている。したがって、複数のウェル40の各々に分離して収容される細胞Cの数を、より均一化することができる。
さらに、細胞収容部30の側面32を底面31に対しておおむね垂直にすることで、細胞収容部30の側面32から離隔した底面31の中央部のウェル40に収容される細胞Cの数と、細胞収容部30の側面32の近傍の底面31の周縁部のウェル40に収容される細胞Cの数との間のばらつきを低減することができる。逆に、細胞収容部30の側面32が底面31に垂直ではなく、底面31と側面32とがなす角度βが、たとえば85°よりも小さい場合には、細胞収容部30の底面31の中央部と周縁部において、個々のウェル40に収容される細胞Cの数にばらつきが生じるおそれがある。細胞収容部30の側面32の底面31に対する角度βが小さくなると、細胞収容部30の側面32は、開口部33に近づくほど外側に広がるように傾斜し、細胞収容部30の底面31の周縁部において、底面31の中央部よりも、上方に存在する細胞懸濁液Sの量が増加するためである。
また、複数のウェル40を等間隔に配置することで、複数のウェル40に細胞Cをより均等に収容することができる。また、複数のウェル40において、前述のように、互いに隣接するウェル40同士の間隔がウェル40の開口部41の直径または最大幅より小さい場合には、次のような効果が得られる。すなわち、この構成により、互いに隣接するウェル40同士の間の細胞収容部30の底面31の面積を減少させ、沈降した細胞Cが細胞収容部30の底面31の上に留まるのを抑制し、細胞Cをウェル40の開口部41により効率よく導入してウェル40に収容することができる。
同様に、複数のウェル40において、前述のように、細胞収容部30の側面32とその側面32に隣接するウェル40との間隔が、ウェル40の開口部41の直径または最大幅より小さい場合には、次のような効果が得られる。すなわち、この構成により、細胞収容部30の側面32とその側面32に隣接するウェル40との間の細胞収容部30の底面31の面積を減少させ、沈降した細胞Cが細胞収容部30の底面31の上に留まるのを抑制し、細胞Cをウェル40の開口部41により効率よく導入してウェル40に収容することができる。
また、ウェル40とウェル40との間の細胞収容部30の底面31を前述のように凸状に隆起させ、細胞収容部30の底面31にウェル40の開口部41に近づくほど低くなるように傾斜した傾斜面を形成することで、次のような効果が得られる。すなわち、この構成により、細胞収容部30の底面31に沈降した細胞Cを、細胞Cに作用する重力によって傾斜面に沿って移動させ、ウェル40の内部に効率よく導入してウェル40に収容することができる。
さらに、細胞収容部30において、前述のように、底面31、その底面31の周囲の側面32、およびウェル40の内表面が、タンパク質低吸着処理が施された細胞低吸着面Fであれば、細胞懸濁液Sに含まれる細胞Cが細胞収容部30の底面31および側面32に吸着されることが抑制される。したがって、細胞沈降工程S102において、細胞Cをウェル40に効率よく導入することができる。以上のように、細胞沈降工程S102において、細胞懸濁液Sに含まれる細胞Cを沈降させ、細胞収容部30の底面31の複数のウェル40に細胞Cを分離して収容した後、図3に示すように、細胞塊形成工程S103が行われる。
(細胞塊形成工程)
図6から図8は、図3に示す細胞塊形成工程S103の説明図である。細胞塊形成工程S103は、前述の細胞沈降工程S102によって細胞収容部30の底面31の複数のウェル40に分離して収容された細胞Cを培養して細胞塊CSを作成する工程である。このように、細胞沈降工程S102によって複数のウェル40に分離して収容した細胞Cを、細胞塊形成工程S103によって培養することで、複数の細胞塊CSを効率よく作成することができる。より詳細には、細胞沈降工程S102の終了後、細胞塊形成工程S103の開始前は、図4に示すように、細胞懸濁液Sに含まれる培地Mが細胞収容部30に選択的に貯留されている。
細胞塊形成工程S103では、まず、細胞容器100の開口部21を介して、細胞収容部30が形成されていない細胞容器100の底壁10の内表面10aの上に培地Mを供給する。これにより、図6に示すように、培地Mの液面Maを上昇させ、培地Mの液面Maの位置を細胞容器100の底壁10の内表面10aよりも開口部21に近い上方側にして、細胞容器100の内部空間における培地Mの量を増加させる。このように、細胞収容部30が形成されていない細胞容器100の底壁10の内表面10aの上に培地Mを供給することで、細胞容器100の開口部21から内部空間に導入された培地Mの流れの方向を、細胞容器100の底壁10の内表面10aに向かう方向から、底壁10の内表面10aに沿う方向に変えることができる。
すなわち、細胞容器100の側壁20の上端部によって画定された開口部21から側壁20の下端部に隣接する底壁10の上に導入された培地Mは、慣性によって開口部21から底壁10の内表面10aへ向けて流れる傾向がある。このような上方から下方へ向けた培地Mの流れは、図5に示すように、細胞収容部30の複数のウェル40の内部に収容された細胞Cを、ウェル40の外部へ流出させるおそれがある。
しかし、細胞塊形成工程S103では、図6の矢印に示すように、細胞収容部30が形成されていない細胞容器100の底壁10の内表面10aの上に培地Mを供給することで、開口部21から供給された培地Mの流れを底壁10の内表面10aに沿う方向に変更することができる。これにより、細胞収容部30の内部の培地Mも、図7に示すように、細胞収容部30の底面31に沿う方向に流れるようになる。したがって、培地Mの導入時や交換時に、細胞収容部30の複数のウェル40の内部に収容された細胞Cが、培地Mの流れによってウェル40の外部へ流出するのを防止することができる。
このとき、前述のように、細胞容器100の側壁20と細胞収容部30との間の底壁10の内表面10aが平坦面であれば、底壁10の内表面10aをおおむね水平な面にすることができる。これにより、細胞容器100に培地M等を導入するときに、側壁20の上部の開口部21から導入された培地Mを底壁10の内表面10aに沿う水平方向に流し、細胞収容部30およびウェル40の深さ方向に対しておおむね垂直な方向に培地Mを流すことができる。したがって、培地Mの導入時や交換時に、細胞収容部30の底面31に向かうようなウェル40の深さ方向の培地Mの流れが生じるのを抑制し、細胞収容部30の複数のウェル40の内部に収容された細胞Cが、培地Mの流れによってウェル40の外部へ流出するのを、より効果的に防止することができる。
また、前述のように側壁20と細胞収容部30との間の底壁10の内表面10aが、細胞収容部30の開口縁33eから側壁20へ向けて、細胞容器100の開口部21から遠ざかるように傾斜している傾斜面である場合や、細胞収容部30の開口を取り囲む凸部を有している場合には、次のような効果が得られる。すなわち、この構成により、培地Mの導入時や交換時に、培地Mが細胞容器100の底壁10の内表面10aに沿って流れても、培地Mの流れが底壁10の内表面10aの傾斜面や凸部によって細胞収容部30から離れる方向へ向けられ、培地Mが細胞収容部30の内部へ勢いよく流れ込むのを防止できる。したがって、培地Mの導入時や交換時に、細胞Cや細胞塊CSが収容されたウェル40から、培地Mの流れによって細胞Cや細胞塊CSが流出するのを防止できる。
細胞塊形成工程S103は、たとえば、図8に示すような細胞培養システム200を用いて行うことができる。細胞培養システム200は、細胞容器100の内部に新しい培地Mを供給するとともに、細胞容器100の内部から使用済みの培地Mを回収する培地還流部201を備えている。培地還流部201は、新しい培地Mを供給するための培地供給管202と、使用済みの培地Mを回収するための培地回収管203に接続されている。培地供給管202の先端の培地供給口202aと、培地回収管203の先端の培地回収口203aは、それぞれ、細胞容器100の底壁10の内表面10aの細胞収容部30が形成されていない領域の上に、細胞収容部30を挟んで配置されている。
以上の構成により、細胞培養システム200は、培地還流部201から培地供給管202を介して細胞容器100の底壁10の内表面10aの上に新しい培地Mを供給して、細胞収容部30の底面31のウェル40に収容された細胞Cを培養して細胞塊CSを形成することができる。また、細胞Cの培養に使用された使用済みの培地Mを、細胞容器100の底壁10の内表面10aの上から培地回収管203を介して培地還流部201に回収することができる。このように、細胞塊形成工程S103において細胞培養システム200を用いることで、培地Mの追加と培地Mの廃液を自動的に行いながら、細胞塊CSを形成することができる。
この細胞塊形成工程S103において、前述のように、ウェル40の内表面が、タンパク質低吸着処理が施された細胞低吸着面Fである場合には、ウェル40に導入された細胞がウェル40の内表面に吸着されることを抑制して、ウェル40の内部で細胞塊CSを効率よく培養することができる。以上のように、細胞塊形成工程S103において細胞塊CSを形成した後は、図3に示すように、検査工程S104が行われる。
(検査工程)
図9は、図3に示す検査工程S104を説明する写真図である。検査工程S104は、細胞塊形成工程S103において形成された細胞塊CSを検査する工程である。具体的には、細胞容器100の細胞収容部30の底面31に設けられた複数のウェル40を、図1Aに示す細胞容器100の底面10bに垂直な方向から顕微鏡によって観察して顕微鏡画像を撮影する。そして、撮影した画像に基づいて、各ウェル40に分離して収容された個々の細胞塊CSについて、異常の有無を判定する。細胞塊CSの異常の有無の判定は、たとえば、基準となる画像と撮影した画像との比較によって行うことができる。ある細胞塊CSが異常であると判定された場合には、その細胞塊CSを取り除き、または、その細胞塊CSと正常な細胞塊CSとを入れ替える操作を行うようにしてもよい。
以上のように、前述の細胞容器100を用いた本開示の細胞塊の作成方法S100は、細胞容器100の細胞収容部30に細胞懸濁液Sを導入する懸濁液導入工程S101と、細胞懸濁液Sに含まれる細胞Cを沈降させ複数のウェル40に導入する細胞沈降工程S102と、複数のウェル40に分離して収容された細胞Cを培養して細胞塊CSを形成する細胞塊形成工程S103と、形成された細胞塊CSを検査する検査工程S104と、を有している。そのため、本開示の細胞塊の作成方法S100によれば、簡単な操作で効率よく複数の細胞塊CSを作成することができる。
[細胞塊の搬送方法]
以下、前述の細胞容器100を用いた細胞塊の搬送方法について説明し、併せて前述の細胞容器100の作用および前述の細胞容器100の他の例についても説明する。
図10は、図1Aに示す細胞容器100を用いた細胞塊の搬送方法S200の一例を示すフロー図である。本開示の細胞塊の搬送方法S200は、前述の細胞容器100に収容された細胞塊CSの搬送方法であって、たとえば、培地除去工程S201と、カバー設置工程S202と、搬送工程S203と、を有している。前述の細胞容器100を用いた細胞塊の作成方法S100による細胞塊CSの形成が終了すると、図6に示すように、細胞容器100内の培地Mの液位は、底壁10の内表面10aよりも開口部21に近い上方側に位置している。
(培地除去工程)
図11は、図10に示す培地除去工程S201の説明図である。培地除去工程S201は、細胞収容部30に収容された培地Mを除いて、細胞容器100に収容された培地Mを除去する工程である。これにより、細胞容器100は、細胞収容部30およびその底面31の複数のウェル40が培地Mによって満たされ、複数のウェル40のそれぞれに細胞塊CSが収容された状態になっている。このとき、細胞収容部30に収容される培地Mの液量を調節し、培地Mの表面張力によって、培地Mの液面Maに、細胞収容部30の開口部33よりも上方に突出する凸状のメニスカスを形成してもよい。培地除去工程S201の終了後は、図10に示すように、カバー設置工程S202が行われる。
(カバー設置工程)
図12は、図10に示すカバー設置工程S202の説明図である。カバー設置工程S202は、培地Mによって満たされた細胞収容部30の開口部33を覆う被覆部材34を設置する工程である。被覆部材34は、細胞収容部30の開口部33の全体を覆うとともに、被覆部材34の周縁部が細胞容器100の底壁10の内表面10aの上方に配置される形状および寸法に形成することができる。被覆部材34の素材としては、たとえば、カバーガラスや樹脂フィルムなどを用いることができる。なお、後述する搬送工程S203において、たとえば細胞容器100内の二酸化炭素の濃度を5%以下にするなど、ガス濃度を制御する必要がある場合には、被覆部材34はガス透過性を有することが好ましい。ガス透過性を有する被覆部材34の素材としては、たとえば、多孔質フィルム、ポリジメチルシロキサン(PDMS樹脂)、ハイドロゲルシートなどを用いることができる。
前述の培地除去工程S201において、培地Mの液面Maに、細胞収容部30の開口部33よりも上方に突出する凸状のメニスカスが形成されている場合には、カバー設置工程S202において、培地Mの表面張力を利用して、細胞容器100の底壁10の内表面10aに被覆部材34を保持することができる。より詳細には、細胞収容部30の開口部33よりも上方に突出して凸状のメニスカスが形成された培地Mの液面Ma上に被覆部材34を配置する。すると、図12に示すように、被覆部材34の周縁部と細胞容器100の底壁10の内表面10aとの間に、培地Mが毛細管現象によって浸透する。これにより、培地Mの表面張力を利用して、細胞容器100の底壁10の内表面10aに被覆部材34を保持することができる。
すなわち、図1Aに示す前述の細胞容器100は、図12に示すように、細胞収容部30の開口部33を覆うシート状の被覆部材34を備え、この被覆部材34の周縁部が底壁10の内表面10aの上に支持されていてもよい。これにより、細胞塊CSおよび培地Mが収容された細胞収容部30を被覆部材34によって覆い、細胞塊CSおよび培地Mが細胞収容部30の外に流出するのを防止できる。また、被覆部材34の周縁部と底壁10の内表面10aとの間に培地Mが介在する場合には、培地Mの表面張力によって被覆部材34の周縁部を底壁10の内表面10aに保持し、細胞収容部30の開口部33を覆う被覆部材34が外れて開口部33が露出するのを防止できる。なお、被覆部材34の大きさは、たとえば、被覆部材34が底壁10の内表面10aに沿う方向にずれて、被覆部材34の一端が側壁20に当接したときにも、細胞収容部30の開口部33の全体を覆うことができる程度の大きさを有することが好ましい。
図13は、図10に示すカバー設置工程S202の他の例を示す説明図である。図13に示すカバー設置工程S202の他の例に用いられる細胞容器100Aは、図1Aに示す細胞容器100の一例とは異なる他の例である。図13に示す細胞容器100Aにおいて、底壁10の内表面10aは、細胞収容部30の開口部33の周囲に、被覆部材34の周縁部を嵌合させる凹状の嵌合部35を有している。図13に示す細胞容器100Aのその他の構成は、図1Aに示す細胞容器100と同一である。
このように、細胞容器100Aが底壁10の内表面10aに嵌合部35を有する場合には、カバー設置工程S202において、培地Mによって満たされた細胞収容部30の開口部33を覆うときに、被覆部材34の周縁部を底壁10の内表面10aの嵌合部35に嵌合させることができる。これにより、細胞収容部30の開口部33を覆う被覆部材34が外れて開口部33が露出するのを、より確実に防止できる。この場合、培地Mの液面Maは、細胞収容部30の開口部33の位置よりも細胞収容部30の底面31に近い下方側に位置してもよい。
また、図12および図13に示すように、細胞容器100,100Aは、側壁20によって画定された開口部21を覆う蓋部50を有してもよい。細胞容器100,100Aが開口部21を覆う蓋部50を有することで、開口部21から細胞容器100,100Aの内部への雑菌などの侵入を抑制することができる。また、細胞容器100,100Aが開口部21を覆う蓋部50を有することで、内部に収容された培地Mや細胞塊CS等が開口部21から外へ出るのを防止できる。
また、細胞容器100,100Aは、蓋部50を側壁20に取り外し可能に固定する蓋固定部を有してもよい。蓋固定部の構成は、特に限定されないが、たとえば、蓋部50と側壁20のうち、いずれか一方に凸部を有し、他方に凸部を係合させる凹部を有することができる。また、蓋固定部は、蓋部50と側壁20に設けられて互いに螺合するねじ部によって構成することができる。また、蓋固定部として、蓋部50を側壁20に固定する治具を用いてもよい。蓋固定部を有することで、細胞容器100,100Aの開口部21を覆う蓋部50が、細胞容器100,100Aから意図せず脱落するのを防止できる。
図14は、図10に示すカバー設置工程S202の他の例を示す説明図である。このカバー設置工程S202の他の例において用いられる細胞容器100Bは、図1Aに示す細胞容器100と同一の構成を有し、さらに、側壁20によって画定された開口部21を覆う蓋部50Bを有している。この蓋部50Bは、支持部51を有している。支持部51は、蓋部50Bと被覆部材34との間に配置されて底壁10との間に被覆部材34の周縁部を挟持するように、蓋部50Bから底壁10に向けて延在している。
このような構成の細胞容器100Bを用いることで、カバー設置工程S202において、被覆部材34を設置した後に細胞容器100Bの開口部21を蓋部50Bによって覆うことにより、支持部51と底壁10との間に被覆部材34の周縁部を挟持することができる。したがって、細胞収容部30の開口部33を覆う被覆部材34が外れて開口部33が露出するのを、より確実に防止できる。以上のように、カバー設置工程S202において、細胞収容部30の開口部33を覆う被覆部材34を設置した後に、図10に示すように、搬送工程S203が行われる。
(搬送工程)
搬送工程S203は、たとえば、図12、図13または図14に示すように、複数のウェル40のそれぞれに細胞塊CSが収容され、その複数のウェル40を含む凹状の細胞収容部30に培地Mが満たされ、その細胞収容部30の開口部33が被覆部材34によって覆われた細胞容器100,100A,100Bを搬送する工程である。これにより、細胞容器100,100A,100Bの搬送中に振動や衝撃が加わっても、細胞塊CSが細胞容器100,100A,100Bの細胞収容部30から外に出ることが防止され、細胞塊CSを凍結保存することなく、安定して搬送することができる。また、蓋部50,50Bを備えた細胞容器100,100A,100Bを用いることで、細胞容器100,100A,100Bの開口部21を蓋部50,50Bによって覆うことができ、雑菌等が細胞容器100,100A,100Bに侵入することを防止して、より安定して細胞容器100,100A,100Bを搬送することができる。
以上のように、前述の細胞容器100,100A,100Bを用いた本開示の細胞塊の搬送方法S200は、細胞収容部30に収容された培地Mを除いて細胞容器100,100A,100Bに収容された培地Mを除去する培地除去工程S201と、培地Mによって満たされた細胞収容部30の開口部33を覆う被覆部材34を設置するカバー設置工程S202と、細胞収容部30の開口部33が被覆部材34によって覆われた細胞容器100,100A,100Bを搬送する工程と、を有している。そのため、本開示の細胞塊の搬送方法S200によれば、簡単な操作で効率よく複数の細胞塊CSを搬送することができる。また、細胞容器100,100A,100Bに収容された細胞塊CSを凍結することなく輸送することができるので、細胞塊CSの冷凍および解凍を行う必要がなくなる。また、細胞塊CSを培養しながら輸送することが可能になる。これにより、細胞塊CSの供給サイクルを短縮することができる。
[細胞塊の回収方法]
以下、前述の細胞容器100を用いた細胞塊の回収方法について説明し、併せて前述の細胞容器100の作用についても説明する。
図15は、図12に示す細胞容器100を用いた細胞塊の回収方法S300の一例を示すフロー図である。本開示の細胞塊の回収方法S300は、前述の細胞容器100に収容された細胞塊CSの回収方法であって、たとえば、カバー除去工程S301と、細胞塊回収工程S302と、検査工程S303と、を有している。前述の細胞容器100を用いた細胞塊の搬送方法S200による細胞塊CSの搬送が終了すると、図12に示すように、細胞容器100は、培地Mによって満たされた細胞収容部30が被覆部材34で覆われた状態になっている。
(カバー除去工程)
図16は、図15に示すカバー除去工程S301の説明図である。カバー除去工程S301は、細胞容器100の内部に培地Mを導入することで、細胞収容部30の開口部33を覆う被覆部材34を取り外す工程である。より具体的には、まず、細胞容器100の開口部21を閉塞する蓋部50を取り除いて開口部21を開放する。次に、細胞容器100の開口部21から細胞容器100内へ培地Mを供給して、底壁10および被覆部材34の上を培地Mによって満たす。
図12に示すように、被覆部材34と細胞容器100の底壁10との間に浸透した培地Mの表面張力によって底壁10に保持された被覆部材34は、その上に培地Mが満たされることで、被覆部材34を底壁10に保持する表面張力が作用しなくなる。また、被覆部材34は、図16に示すように、培地Mに浸漬されることで浮力が作用し、細胞収容部30の開口部33を覆う位置から容易に取り除くことができる。カバー除去工程S301の後は、図15に示す細胞塊回収工程S302または以下に説明する薬剤スクリーニング工程が行われる。
(薬剤スクリーニング工程)
図15に示す細胞塊の回収方法S300は、カバー除去工程S301の後で、細胞塊回収工程S302の前に、薬剤スクリーニング工程を有してもよい。薬剤スクリーニング工程は、複数のウェル40にそれぞれ細胞塊CSが収容された細胞容器100に薬剤を投入し、細胞塊CSの反応性を評価することで、薬剤の性能を評価する工程である。細胞塊CSの反応性を評価する方法としては、たとえば、細胞塊CSの顕微鏡像による画像評価、毒性評価、代謝活性評価、RNA発現量評価、細胞電位測定などを例示することができる。薬剤スクリーニング工程の後は、図15に示す細胞塊回収工程S302が行われる。
(細胞塊回収工程)
図17は、図15に示す細胞塊回収工程S302の説明図である。細胞塊回収工程S302は、たとえば、細胞塊CSを細胞収容部30に満たされた培地Mとともに細胞容器100の底壁10の内表面10a上に流出させて回収する工程である。より具体的には、まず、カバー除去工程S301において細胞容器100の内部へ追加した培地Mを除去し、培地Mが細胞収容部30の内部だけに残存した状態にする。次に、細胞容器100の底壁10を水平に対して傾斜させ、細胞収容部30の複数のウェル40に収容された細胞塊CSを、細胞収容部30に満たされた培地Mとともに細胞容器100の底壁10の内表面10a上に流出させて回収する。このとき、たとえばピペットPなどを用いて細胞収容部30の底面31に培地Mを流し込むことで、細胞収容部30の底面31に設けられた複数のウェル40からの細胞塊CSの排出を促進させるようにしてもよい。
また、前述のように、細胞容器100の側壁20と細胞収容部30との間の底壁10の内表面10aは、平坦面である。この場合、ウェル40に収容された細胞や細胞塊CSを回収するときに、細胞容器100を傾斜させ、ウェル40に収容された細胞や細胞塊CSを培地Mとともに細胞収容部30から平坦面である底壁10の内表面10aに流出させて回収することで、細胞や細胞塊CSの回収を容易にすることができる。さらに、前述のように、細胞容器100の側壁20の内表面22および底壁10の内表面10aが、タンパク質低吸着処理が施された細胞低吸着面Fである場合には、細胞容器100の側壁20の内表面22および底壁10の内表面10aに細胞Cおよび細胞塊CSが吸着されるのを抑制して、細胞Cまたは細胞塊CSの回収を容易にすることができる。
また、前述のように、細胞容器100の側壁20と細胞収容部30との間の底壁10の内表面10aは、細胞収容部30の開口縁33eから側壁20へ向けて、側壁20の上端部によって画定された開口部21から遠ざかるように傾斜した傾斜面である場合がある。この場合、ウェル40に収容された細胞Cや細胞塊CSを回収するときに、細胞容器100を傾斜させ、ウェル40に収容された細胞Cや細胞塊CSを培地Mとともに細胞収容部30から傾斜面である底壁10の内表面10aに流出させ、細胞容器100を水平な面の上に置く。すると、底壁10の内表面10aが前述のような傾斜面であるため、底壁10の内表面10aに流出させた細胞Cや細胞塊CSが再び細胞収容部30へ流入することが抑制され、細胞Cや細胞塊CSの回収を容易にすることができる。
たとえば、図1Bに示す例のように、底面10bに沿う一方向における片側だけが傾斜面になっている底壁10の内表面10aを有する細胞容器100の場合、底壁10の内表面10aの片側の最も低くなっている場所だけに細胞Cや細胞塊CSが集積する。これにより、細胞Cや細胞塊CSの回収を容易にすることができる。また、図1Cに示す例のように、細胞容器100の底壁10の内表面10aにおいて、細胞収容部30の開口部33の近傍の部分と、側壁20の近傍の部分が、底面10bに平行な平坦面になっている場合、前述のカバー設置工程S202における被覆部材34の設置を容易にすることができ、被覆部材34による被覆効果を向上させることができる。
なお、前述のように、細胞容器100の底壁10が底壁下部11と底壁上部12とを有し、底壁上部12が底壁下部11の上に取り外し可能に配置されている場合には、たとえば細胞塊CSの作成後に底壁上部12を取り外してもよい。これにより、細胞塊CSの培養時に細胞容器100の底壁10の内表面10aに設けられた凹状の細胞収容部30によって培地Mの流れによる細胞塊CSの流出を抑制しつつ、細胞塊回収工程S302において、細胞収容部30をなくして、細胞塊CSの回収を容易にすることができる。また、前述のように、細胞収容部30が細胞容器100の底壁10の中央部ではなく、細胞容器100の底壁10の中央と側壁20との間の一方向に偏った位置に設けられている場合には、当該一方向において細胞塊CSを回収するスペースを広く確保することができる。したがって、細胞容器100の底壁10上の細胞塊CSの回収を容易にすることができる。
図18から図20は、図15に示す細胞塊回収工程S302の他の例を示す説明図である。細胞塊回収工程S302は、たとえば、細胞容器100の複数のウェル40に収容された細胞塊CSを選択的に回収する工程である。より具体的には、図18に示すように、複数のウェル40のそれぞれに収容された細胞塊CSのうちのいずれかを、たとえば顕微鏡像に基づいて選択する。次に、図19に示すように、たとえば、選択された細胞塊CSが収容されたウェル40の開口部41に、シリンジ状の吸引具MSの先端の開口を近づけて、選択された細胞塊CSを培地Mとともに吸引して回収する。回収した細胞塊CSは、たとえば、図20に示すように、シリンジ状の吸引具MSを用いて他の細胞容器100のウェル40に配置される。
図21から図23は、図15に示す細胞塊回収工程S302を説明する写真図である。図21に示すように、細胞塊回収工程S302を行う前は、細胞収容部30の底面31に設けられた複数のウェル40に、それぞれ、細胞塊CSが分離して収容されている。そして、前述の細胞塊回収工程S302を行った後は、図22に示すように、細胞収容部30の底面31に設けられた複数のウェル40は空になっている。また、前述のように、細胞塊回収工程S302において、細胞塊CSを培地Mとともに細胞容器100の底壁10の内表面10a上に流出させることで、図23に示すように、細胞容器100の底壁10の内表面10a上の細胞塊CSを容易に回収することができる。細胞塊回収工程S302の後は、図15に示す検査工程S303が行われる。
(検査工程)
検査工程S303は、細胞塊回収工程S302において回収された細胞塊CSを検査する工程である。具体的には、回収された細胞塊CSを顕微鏡によって観察して顕微鏡画像を撮影する。そして、撮影した画像に基づいて、回収された個々の細胞塊CSについて、異常の有無を判定する。細胞塊CSの異常の有無の判定は、たとえば、基準となる画像と撮影した画像との比較によって行うことができる。
以上のように、本開示の細胞塊の回収方法S300は、カバー除去工程S301と、細胞塊回収工程S302と、検査工程S303と、を有している。したがって、本開示の細胞塊の回収方法S300によれば、簡単な操作で効率よく複数の細胞塊CSを回収することができる。
[細胞塊の評価方法]
次に、前述の細胞容器100を用いた本開示の細胞塊の評価方法について説明する。本開示の細胞塊の評価方法は、前述の細胞容器100を用いた細胞塊CSの評価方法であって、細胞塊CSが収容された細胞収容部30に薬剤を投入する薬剤投入工程と、その薬剤による細胞の反応を評価する評価工程とを有している。
より具体的には、本開示の細胞塊の評価方法は、たとえば、前述の細胞塊の回収方法S300において、カバー除去工程S301の後のスクリーニング工程として行うことができる。また、本開示の細胞塊の評価方法は、たとえば、前述の細胞塊の作成方法S100の後に、前述のスクリーニング工程と同様に行うことができる。本開示の細胞塊の評価方法によれば、前述の細胞容器100を用いることで、細胞塊CSの薬剤に対する反応の評価を容易に行うことができる。
[細胞塊]
次に、前述の細胞容器100に収容された本開示の細胞塊CSについて説明する。本開示の細胞塊CSは、たとえば、図12、図13または図14に示す細胞容器100,100A,100Bに収容された細胞塊CSであって、細胞収容部30の底面31の複数のウェル40に収容されている。細胞収容部30は、培地Mが収容され、開口部33が被覆部材34によって覆われている。本開示の細胞塊CSは、前述の細胞容器100,100A,100Bに収容されているので、簡単な操作で効率よく複数の細胞塊CSを作成、搬送、回収、および評価することができる。
[細胞容器の変形例]
最後に、図1Aに示す細胞容器100の変形例について説明する。図24は、図1Aに示す細胞容器100の変形例1に係る100Cを示す概略的な平面図である。図25は、図1Aに示す細胞容器100の変形例2に係る細胞容器100Dを示す概略的な平面図である。細胞容器100Cおよび細胞容器100Dは、複数の細胞収容部30を備える点で共通している。なお、図24および図25では、細胞収容部30の底面31の複数のウェル40の図示を省略している。このように、細胞容器100C,100Dが複数の細胞収容部30を備えることで、複数の細胞収容部30において、均一な条件で細胞塊CSを作成することができる。
また、図25に示す変形例2に係る細胞容器100Dは、分離可能に接続された複数の小容器1を備えている。複数の小容器1は、それぞれ底壁10と側壁20と細胞収容部30と複数のウェル40とを有している。これにより、複数の小容器1を連結させた状態で、各小容器1において均一な条件で細胞塊CSを作成することができるだけでなく、各小容器1を分離して形成した細胞塊CSを個別に取り扱うことが可能なる。また、各小容器1において、細胞収容部30の平面形状が矩形であり、細胞収容部30の位置が中心から偏って配置されている。これにより、各小容器1の底壁10の内表面10aに、培地Mの供給や細胞の回収を行うための広いスペースを確保することができる。
図26Aおよび図26Bは、図1Aに示す細胞容器100の変形例3に係る細胞容器100Eを示す概略的な断面図である。変形例3の細胞容器100Eは、セルカルチャーインサート60を備えている点で、図1Aに示す細胞容器100と異なっているが、その他の構成は細胞容器100と同一である。
図26Aに示すように、変形例3の細胞容器100Eでは、セルカルチャーインサート60の内部に培地Mや薬剤を投入することで、セルカルチャーインサート60の多孔質膜61を通して細胞収容部30に培地Mを供給し、または薬剤を投入することができる。また、セルカルチャーインサート60の内部の培地Mを除去することで、多孔質膜61を通して細胞収容部30の内部の培地Mを除去することができる。
このように、セルカルチャーインサート60を用いることで、多孔質膜61を通して培地Mが浸透するので、ウェル40への培地の流れをより抑制できる。また、細胞塊CSを回収するときには、セルカルチャーインサート60を細胞容器100Eから取り外すことができる。
また、図26Bに示すように、セルカルチャーインサート60は、細胞収容部30の開口部33を覆う被覆部材として用いることもできる。この場合、前述のカバー除去工程S301を省略して、その後のスクリーニング工程において、セルカルチャーインサート60の内部に薬剤を添加して薬剤スクリーニング行うことも可能である。
以上、図面を用いて本開示の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。たとえば、本開示は、前述の薬剤スクリーニング用途に加えて、次の用途に適用することも可能である。すなわち、本開示は、再生医療用途として、作成した細胞塊を回収して移植に用いる用途に適用することができる。また、本開示は、幹細胞の分化制御のために、細胞塊を作製する用途に適用することもできる。