JP6980376B2 - フォトクロミック光学物品 - Google Patents

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Description

本発明は、フォトクロミック化合物を含有する新規な光学物品に関するものである。より詳細には、無色状態(発色前の状態)において、可視光線に対する吸収特性に優れる新規なフォトクロミック光学物品に関するものである。
クロメン化合物、フルギド化合物、スピロオキサジン化合物等に代表されるフォトクロミック化合物は、太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻るという特性(フォトクロミック性)を有しており、この特性を活かして、種々の用途、特に光学材料の用途に使用されている。
例えば、フォトクロミック化合物の使用によりフォトクロミック性が付与されているフォトクロミック眼鏡レンズは、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外では速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能するものであり、近年その需要は増大している。そして、上記の様なフォトクロミック性を、特に、自動車等の移動手段で移動する際(運転時)においても、フォトクロミック性を発揮させたいという要求が高まっている。つまり、例えば、自動車等の移動手段で移動中においても、自動車等の車内で眩しく感じる場合があり、これに対応するため、上記要求が高まっている(以下、この要求を単に「防眩性」とする場合がある。)。
このような要求に応えるため、様々な検討がなされている。具体的には、380nm〜410nmの波長の光で発色するフォトクロミック化合物を用いた光学物品(特許文献1参照)、320nm〜420nmの波長の光に対する吸収能に優れるフォトクロミック化合物を用いた光学物品(特許文献2参照)、さらには、320nm〜440nmの波長の光に対する吸収能に優れるフォトクロミック化合物を用いた光学物品(特許文献3参照)が提案されている。
しかしながら、例えば、自動車等の車内においては、フロントガラスが存在するために、例えば、380nm以下の短波長の光が遮られ、フォトクロミック化合物の発色状態への変化に必要なエネルギーが低下する。そのため、上記の従来技術においては、いずれのフォトクロミック光学物品においても、380nm以下の短波長の光を遮った条件下では、十分な発色濃度を得られることが出来なかった。
また、565nm〜605nmの間に主吸収ピークを有する色素を用いた光学物品も提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、この方法において、防眩性を向上させるために、該色素の添加量を多くすれば着色が大きくなり、光学物品の透過性自体が低下するおそれがあった。一方、該色素の添加量が少ないと防眩性が不十分といった課題があった。つまり、単に、可視光領域に吸収を有する色素のみで対応しようとすると、上記のような課題が解決できないのが現状であった。
以上の通り、従来技術においては、例えば、自動車等の車内において、運転手などの乗車している人が満足する発色濃度(眩しくないと感じるような発色濃度)を得ることができ、かつ、透過性も良好となる光学物品を得るためには、さらなる改良が必要であった。
米国特許第7166357号 日本国特許第4672768号 日本国特許第5914674号 特開2013−0601653号公報
したがって、本発明の目的は、例えば、自動車等のフロントガラスが存在し、380nm以下の短波長の光を遮った条件下においても、防眩性、および透過性の相反する両方の性能に優れた、フォトクロミック光学物品を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を行った。そして、特定の物性を有するフォトクロミック化合物、すなわち、吸収端においてある程度の吸光度を有し、かつ、短波長を遮断した状態で測定した発色濃度の値が、遮断していない状態で測定した発色濃度の値の半分以上となるフォトクロミック化合物を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、第一の本発明は、
(1)下記式(1)
Figure 0006980376
(R及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、置換若しくは被置換のアミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基、または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、両方が水素原子となることはなく、Rは、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基、または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、R及びRは、それぞれ、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜14のヘテロアリール基または炭素数1〜6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数2〜7のアルコキシアルキル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、あるいは、R及びRは、それらが結合する13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3〜20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3〜20である複素環、または前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成していてもよい)に表され、420nmにおける吸光度が0.100以上0.800以下であり、430nmにおける吸光度が0.015以上0.500以下であり、かつ、発色濃度を測定する際に、380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定した発色濃度の値を、380nm以下の波長の光を遮断しない状態で測定した発色濃度の値で除した値が0.60以上となる第一フォトクロミック化合物、及び、
420nmにおける吸光度が0.100未満であり、430nmにおける吸光度が0.015未満であり、かつ、発色濃度を測定する際に、380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定した発色濃度の値を、380nm以下の波長の光を遮断しない状態で測定した発色濃度の値で除した値が0.60未満となる第二フォトクロミック化合物
を含むフォトクロミック組成物を含有してなるフォトクロミック光学物品である。なお、本発明において、上記吸光度、発色濃度は、23℃におけるフォトクロミック化合物の1mMトルエン溶液(溶媒に溶解した状態のもの)を測定した際の値である。
一の本発明は、
)さらに、550〜600nmの波長の範囲に吸収ピークを有する色素を含有してなる前記フォトクロミック光学物品であることが好ましく、
)前記色素が、ポルフィリン系化合物である前記フォトクロミック光学物品であることが好ましい。
さらに、第の本発明は、
)下記式(1)
Figure 0006980376
(R及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、置換若しくは被置換のアミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基、または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、両方が水素原子となることはなく、Rは、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基、または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、R及びRは、それぞれ、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜14のヘテロアリール基または炭素数1〜6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数2〜7のアルコキシアルキル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、あるいは、R及びRは、それらが結合する13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3〜20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3〜20である複素環、または前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成していてもよい)に表され、23℃、1.0mMの濃度に調整したトルエン溶液を測定試料とした場合に、420nmにおける吸光度が0.100以上0.800以下であり、430nmにおける吸光度が0.015以上0.500以下であり、かつ、発色濃度を測定する際に、380nm以下の波長の吸収を遮断した状態で測定した発色濃度の値を、380nm以下の波長の吸収を遮断しない状態で測定した発色濃度の値で除した値が0.60以上となる第一フォトクロミック化合物、及び、23℃、1.0mMの濃度に調整したトルエン溶液を測定試料とした場合に、420nmにおける吸光度が0.100未満であり、420nmにおける吸光度が0.100未満であり、430nmにおける吸光度が0.015未満であり、かつ、発色濃度を測定する際に、380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定した発色濃度の値を、380nm以下の波長の光を遮断しない状態で測定した発色濃度の値で除した値が0.60未満となる第二フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物を含有するフォトクロミック層と、光学基材とを、少なくとも有する積層体からなるフォトクロミック光学物品である。
の本発明は、
)前記積層体が、前記フォトクロミック層、および前記光学基材の少なくとも一方に、550〜600nmの波長の範囲に吸収ピークを有する色素を含有してなる(4)のフォトクロミック光学物品であることが好ましい。
)前記積層体が、さらに、プライマー層を有し、かつ、前記光学基材、前記プライマー層、および前記フォトクロミック層をこの順で有してなり、少なくとも、前記プライマー層が、550〜600nmの波長の範囲に吸収ピークを有する色素を含有してなる(4)又は(5)フォトクロミック光学物品。
)前記色素が、ポルフィリン系化合物である(5)又は(6)のフォトクロミック光学物品。
さらに、第の本発明は、
(8)第一〜第の本発明のフォトクロミック光学物品、および偏光シートを有する光学積層体である。

本発明によれば、380nm以下の短波長の光を遮った条件下であっても、防眩性、および透過性の両方の効果を備えたフォトクロミック光学物品を得ることができる。そのため、本発明のフォトクロミック光学物品を使用することにより、例えば、自動車等のフロントガラスにより短波長の光が遮られている車内であっても、防眩性、および透過性に優れた光学物品(例えば、眼鏡レンズ)として使用できる。
上記の様なフォトクロミック性の発現は、フォトクロミック化合物の無色状態(発色前の状態)における吸収特性に依存する。つまり、使用するフォトクロミック化合物の無色状態(発色前の状態)における吸収スペクトルが、380nmを超える波長に対し、発色状態に構造変化しうる十分な吸収特性を示すことが重要となる。
また、さらに550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素を併用したり、偏光シート等を併用したりすることにより、透過性の低下を抑制しつつ、防眩性を向上させることができる。つまり、上記色素、および偏光シートを併用することにより、可視光に対する眩しさと関連した不快感、コントラストの不鮮明感、視覚疲労などを軽減することができると考えられる。
本発明のフォトクロミック光学物品は、420nmにおける吸光度が0.100以上であり、430nmにおける吸光度が0.015以上であり、かつ、発色濃度を測定するに際し、380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定した発色濃度の値を、380nm以下の波長の光を遮断しない状態で測定した発色濃度の値で除した値が0.60以上となるフォトクロミック化合物を含有するものである。先ず、このフォトクロミック化合物の特性について説明する。
(フォトクロミック化合物の特性について)
本発明において、上記特性(吸光度、および発色濃度)を有するフォトクロミック化合物は、23℃、溶液中(溶媒に溶かした状態)で測定した値である。上記特性を有するフォトクロミック化合物であれば、例えば、樹脂をマトリックスとする光学物品中であっても、優れた効果を発揮する。そして、23℃で測定した特性が上記範囲を満足するものであれば、通常の使用、例えば、自動車等の移動手段の室内で使用する眼鏡レンズの使用温度であっても、優れた効果を発揮する。なお、測定に使用する溶媒は、フォトクロミック化合物を溶解せきるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、トルエン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム等が挙げられる。本発明においては、トルエンを使用した。具体的な測定条件は、下記の実施例において記載した。なお、フォトクロミック光学物品に含まれるフォトクロミック化合物の該吸光度、および発色濃度を測定するためには、該光学物品からフォトクロミック化合物を抽出し、抽出したフォトクロミック化合物について測定を実施すればよい。
本発明で使用するフォトクロミック化合物は、420nmにおける吸光度が0.100以上であり、430nmにおける吸光度が0.015以上でなければならない。420nmにおける吸光度が0.100以上であり、430nmにおける吸光度が0.015以上であることにより、短波長が遮断された状況、例えば、自動車等の移動手段の室内においても、防眩性を向上できる。すなわち、420nmにおける吸光度が0.100未満、430nmにおける吸光度が0.015未満である場合には、防眩性が低下するため好ましくない。
一方、本発明で使用するフォトクロミック化合物において、420nmにおける吸光度、および430nmにおける吸光度の上限値は、特に制限されるものではないが、高くなり過ぎると、相対的に430nmを超える波長領域の吸光度も増加するため、着色が大きくなる傾向がある。
そのため、得られるフォトクロミック光学物品の防眩性、透過性、および該フォトクロミック化合物自体の生産性を考慮すると、
420nmにおける吸光度が0.150以上0.800以下、430nmにおける吸光度が0.020以上0.500以下となることが好ましく、
420nmにおける吸光度が0.200以上0.700以下、430nmにおける吸光度が0.050以上0.300以下となることがより好ましく、
420nmにおける吸光度が0.300以上0.60以下、430nmにおける吸光度が0.070以上0.200以下となることがさらに好ましい。なお、以下に説明するフォトクロミック組成物も、前記範囲の吸光度を満足することが好ましい。
また、本発明で使用するフォトクロミック化合物は、上記吸光度の特性を満足し、かつ、発色濃度を測定する際に、380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定した発色濃度の値(ε)を、380nm以下の波長の光を遮断しない状態で測定した発色濃度の値(ε)で除した値(ε/ε;以下、単に「可視光感度」とする場合もある)が0.60以上とならなければならない。すなわち、380nm以下の波長の光を遮断した場合と、遮断していない場合とで測定した発色濃度が、比較的近い値となるフォトクロミック化合物を使用する必要がある。使用するフォトクロミック化合物の可視光感度が0.60以上となることにより、380nm以下の波長の光が遮断された状態であっても、優れた発色濃度を有するフォトクロミック光学物品を得ることができる。
なお、本発明において、380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定する発色濃度は、実施例で示した通り、該短波長の光をカットできる市販のフィルターを装置に取り付けて測定すればよい。該フィルターは、実質的に380nm以下の波長の光を遮断できればよい。本発明者等の検討によれば、該99.5%以上の該光を遮断できるフィルターであれば、可視光感度の値は変化しないことを確認した。つまり、市販の該フィルターにおいて、そのロットごとに遮断できる割合が若干異なるものを使用してテストしたが、380nm以下の波長の光を99.5%以上遮断できるフィルターであれば、可視光感度は変化しないことを確認した。
使用するフォトクロミック化合物の可視光感度の上限は、特に制限されるものではないが、高くなり過ぎると、防眩性、および透過性のバランスが崩れるおそれがある。そのため、得られるフォトクロミック光学物品の防眩性、透過性、および該フォトクロミック化合物自体の生産性を考慮すると、該可視光感度は、0.60〜1.0となることが好ましく、0.65〜0.95となることがより好ましく、0.70〜0.90となることがさらに好ましい。なお、以下に説明するフォトクロミック組成物も、前記範囲の可視光感度を満足することが好ましい。
以上のような特性を有するフォトクロミック化合物を使用することにより、得られるフォトクロミック光学物品は、マトリックスを形成する樹脂の構造、および温度等の外的な因子の影響があったとしても、優れた効果を発揮することができる。以下、420nmにおける吸光度が0.100以上、430nmにおける吸光度が0.015以上であり、かつ前記可視光感度が0.60以上となる3つの要件を、単に「本特性」とする場合もある。
次に、好適なフォトクロミック化合物について説明する。
<好適に使用できるフォトクロミック化合物;第一フォトクロミック化合物>
本発明で使用するフォトクロミック化合物は、1種類のフォトクロミック化合物を使用することもできるし、2種以上のフォトクロミック化合物を併用して使用することもできる。以下に説明する、420nmにおける吸光度が0.100以上、430nmにおける吸光度が0.015以上、可視光感度が0.60以上となるフォトクロミック化合物(本特性を満足するフォトクロミック化合物)を、第一フォトクロミック化合物とする場合もある。
第一フォトクロミック化合物としては、フルギド化合物、クロメン化合物、及びスピロオキサジン化合物などの化合物を使用できる。これらフォトクロミック化合物の中でも、特に無色状態(発色前の状態)における吸収特性の観点から、下記式(1)で示されるインデノ〔2,1−f〕ナフト〔1,2−b〕ピラン骨格を有するクロメン化合物を好適に使用される。
Figure 0006980376
(R、R、およびR
ここで、R、R及びRは、下記の置換基から選ばれる基であることが好ましい。
すなわち、R、及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基、またはアリール基である。ただし、R、及びRの両方が水素原子となることはない。
また、Rは、ヒドロキシル基、ニトロ基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基、またはアリール基である。
前記アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。好適なアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。
前記ハロアルキル基としては、フッ素原子、塩素原子もしくは臭素原子で置換された炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。好適なハロアルキル基の例としては、トリフルオロメチル基、テトラフルオロエチル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、ブロモメチル基等を挙げることができる。
前記シクロアルキル基としては、炭素数3〜8のシクロアルキル基が好ましい。好適なシクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
前記アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。好適なアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。
前記アミノ基は、アミノ基(−NH)に限定されるものではなく、1つまたは2つの水素原子が置換されていてもよい。かかるアミノ基が有する置換基としては、例えば炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数4〜14のヘテロアリール基等が挙げられる。好適なアミノ基の例としては、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基等を挙げることできる。
前記環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基は、例えばモルホリノ基、ピペリジノ基、ピロリジニル基、ピペラジノ基、N−メチルピペラジノ基の如き脂肪族複素環基およびインドリニル基の如き芳香族複素環基等を好ましいものとして挙げることができる。さらに、該複素環基は、置換基を有していてもよい。好ましい置換基としては、アルキル基が挙げられる。置換基を有する好適な複素環基としては、例えば2,6−ジメチルモルホリノ基、2,6−ジメチルピペリジノ基および2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ基等が挙げられる。
前記アルキルカルボニル基としては、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基が好ましい。好適なアルキルカルボニル基の例としては、アセチル基、エチルカルボニル基が挙げられる。
前記アルコキシカルボニル基としては、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基が好ましい。好適なアルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が挙げられる。
前記ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
前記アラルキル基としては、例えば炭素数7〜11のアラルキル基が好ましい。好適なアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ナフチルメチル基等を挙げることができる。
前記アラルコキシ基としては、炭素数7〜11のアラルコキシ基が好ましい。好適なアラルコキシ基の例としては、ベンジロキシ基、ナフチルメトキシ基等を挙げることができる。
これらのアラルキル基、およびアラルコキシ基は、ベンゼンもしくはナフタレン環の1〜7個の水素原子、特に好ましくは1〜4個の水素原子が、前記のヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
前記アリールオキシ基としては、炭素数6〜12のアリールオキシ基が好ましい。好適なアリールオキシ基の例としては、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等を挙げることができる。
前記アリール基としては、例えば炭素数6〜14のアリール基が好ましい。好適なアリール基の具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。
これらのアリールオキシ基は、ベンゼンもしくはナフタレン環の1〜7個の水素原子、特に好ましくは1〜4個の水素原子が、前記のアルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
その中でも、420nmにおける吸光度が0.100以上、430nmにおける吸光度が0.015以上、可視光感度が0.60以上となるクロメン化合物であって、特に、クロメン化合物自体の生産性に優れ、特に得られるフォトクロミック化合物の光学物品が優れた効果を発揮するためには、以下の基を有することが好ましい。
具体的にはフォトクロミック化合物の吸収端が長波長化すると共に、吸光度が向上するためには、上記式(1)におけるR、R及びRのうちの少なくとも2つは、上記アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基、またはアリール基であることが好ましい。残りの1つの基は、上記例示した基の何れの基であってもよい。
より好ましくは、
は、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアリール基であり、
は、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、アリールオキシ基、またはアリール基であり、
は、アルコキシ基、アミノ基、アリールオキシ基、またはアリール基であることが最も好ましい。
さらに好ましくは、
は、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアリール基のうちから選ばれるいずれかの基であり、
は、アルコキシ基、アミノ基、アリールオキシ基、またはアリール基であり、
は、アルコキシ基であることが最も好ましい。
(RおよびR
前記式(1)において、RおよびRは、それぞれ、アリール基、ヘテロアリール基またはアルキル基であることが好ましい。その中でも、特に優れたフォトクロミック特性退色速度を発揮するためには、上記RおよびRの少なくとも一方、好ましくは両方が、アリール基またはヘテロアリール基であることが好ましい。さらに、RおよびRの少なくとも一方、好ましくは両方の基が、下記(i)〜(iii)に示される何れかの基であることが特に好ましい。
(i)アルキル基もしくはアルコキシ基を置換基として有するアリール基またはヘテロアリール基、
(ii)アミノ基を置換基として有するアリール基またはヘテロアリール基、
(iii)窒素原子を環員ヘテロ原子として有し且つその窒素原子でアリール基またはヘテロアリール基と結合する複素環基を置換基として有するアリール基またはヘテロアリール基、
上記(i)〜(iii)におけるアリール基またはヘテロアリール基に置換する置換基の位置およびその総数は特に限定されるものではないが、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、アリール基がフェニル基であるときには、置換位置は3位または4位であり、その際の置換基の数は1であることが好ましい。特に、フェニル基の3位または4位に、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合しているベンゼン環に結合する複素環基、アリール基が置換している基であることが好ましい。
このような好適なアリール基を例示すると、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、4−n−プロポキシフェニル基、4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル基、4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル基、4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル基、4−モルホリノフェニル基、4−ピペリジノフェニル基、3−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル基、4−(2,6−ジメチルピペリジノ)フェニル基等を挙げることができる。
また、前記(i)〜(iii)におけるヘテロアリール基に置換する置換基の位置およびその総数は特に限定されないが、その数は1であることが好ましい。ヘテロアリール基として好適な具体例としては、4−メトキシチエニル基、4−(N,N−ジメチルアミノ)チエニル基、4−メチルフリル基、4−(N,N−ジエチルアミノ)フリル基、4−(N,N−ジフェニルアミノ)チエニル基、4−モルホリノピロリニル基、6−ピペリジノベンゾチエニル基および6−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフラニル基等を挙げることができる。
、およびRが上記基より選ばれることにより、クロメン化合物(フォトクロミック化合物)は、吸収ピークを2つ有するダブルピーク化合物となる。このダブルピーク化合物は、色調調整が容易となること、及び劣化による色調の経時変化が少ないこと等の理由により、好適に使用できる。特に、他フォトクロミック化合物と混合して色調調整する際に好適に使用できる。
(R、およびR
前記式(1)において、RおよびRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基またはアリール基である。
上記基において、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基およびアリール基としては、上記R、R及びRで説明した基と同様の基が挙げられる。
また、上記アルコキシアルキル基は、炭素数2〜7であるアルコキシアルキル基が好ましい。好ましい基として、例えばメトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシn−プロピル基、メトキシn−ブチル基、エトキシエチル基およびn−プロポキシプロピル基が挙げられる。
また、RおよびRは、それらが結合する13位の炭素原子と共に、
環員炭素数が3〜20である脂肪族環、
前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、
環員原子数が3〜20である複素環または
前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環
を形成していてもよい。
上記脂肪族環としては、例えば、例えばシクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環、シクロヘプタン環、ノルボルナン環、ビシクロノナン環、アダマンタン環が挙げられる。
また、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環としては、例えばフェナントレン環が挙げられる。
上記複素環としては、例えばチオフェン環、フラン環、ピリジン環が挙げられる。
また、前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環としては、例えば、フェニルフラン環、ビフェニルチオフェン環が挙げられる。
本発明において、RおよびRの好適な置換基としては、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、RおよびRが結合する13位の炭素原子と共に環を形成している場合が挙げられる。アルキル基としては、メチル基が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基が挙げられる。上記好適な置換基の中でも、高いダブルピーク性を維持したまま、退色速度をより速くするためには、RおよびRは、それらが結合する13位の炭素原子と共に環を形成していることが好ましい。中でも、退色速度が特に速くなるという観点から、前記脂肪族環または前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成していることがさらに好ましく、とりわけ特にサーモクロミズムによる初期着色を低減する観点から、前記脂肪族環を形成していることが特に好ましい。
およびRが形成する脂肪族環として特に好適なものは、無置換の脂肪族炭化水素環、またはアルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アラルキル基、アリール基およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有している脂肪族炭化水素環である。アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アラルキル基、アリール基およびハロゲン原子としては、前記R、R及びRについて説明した基と同様の基が挙げられる。
より好適な基としては、例えばシクロヘキサン環、シクロオクタン環、シクロヘプタン環等の単環、ノルボルナン環、ビシクロ[3,2,1]オクタン環、ビシクロ[4,2,0]オクタン環、ビシクロ[3,3,0]オクタン環、ビシクロ[3,3,1]ノナン環、ビシクロ[4,3,0]ノナン環、ビシクロ[6,3,0]ウンデカン環等のビシクロ環およびアダマンタン環等のトリシクロ環、ならびにこれらの環がメチル基等の炭素数4以下の低級アルキル基の少なくとも1個で置換されたものを挙げることができる。これらの中でも、高いダブルピーク性および速い退色速度を保ちながらサーモクロミズムによる初期着色を小さくする観点から、単環またはビシクロ環が特に優れた効果を発揮する。
本発明において、RおよびRが結合して形成する単環またはビシクロ環として最も好適なものの代表例は、例えば下記式で示される。下記式中、13を付された炭素原子が13位の炭素原子である。
Figure 0006980376
上記単環またはビシクロ環の中でも、特にシクロオクタン環、3,3,5,5−テトラメチルシクロヘキサン環、4,4−ジエチルシクロヘキサン環、4,4−ジメチルシクロヘキサン環、ビシクロ[4,3,0]ノナン環が最も好適である。
以上のような単環またはビシクロ環を有するクロメン化合物(フォトクロミック化合物)を使用することにより、自動車等の移動手段における室内における退色速度を速くすることができ、透過性を高めることができる。そのため、色素、または他のフォトクロミック化合物と組み合わせて使用する場合において、13位の基が上記単環またはビシクロ環である前記クロメン化合物は、特に好適に配合できる。
<フォトクロミック組成物>
本発明のフォトクロミック光学物品には、420nmにおける吸光度が0.100以上であり、430nmにおける吸光度が0.015以上であり、かつ可視光感度が0.60以上となるフォトクロミック化合物が含まれる。このフォトクロミック化合物は、それ単独で本特性を満足するフォトクロミック化合物(前記第一フォトクロミック化合物)であれば、それ一種類で使用することもできる。ただし、色調調整をする場合には、<第一フォトクロミック化合物>で例示した化合物以外の、その他のフォトクロミック化合物を併用することができる。当然のことであるが、複数種類のフォトクロミック化合物を使用した場合には、複数種類のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物の状態で前記物性を満足する必要がある。
複数種類のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物を使用する場合には、全てのフォトクロミック化合物が、420nmにおける吸光度が0.100以上であり、430nmにおける吸光度が0.015以上であり、かつ可視光感度が0.60以上となる(本特性を満足する)化合物であってもよい。つまり、全フォトクロミック化合物が、第一フォトクロミック化合物であるフォトクロミック組成物を使用することもできる。また、該フォトクロミック組成物は、本特性を満足するフォトクロミック化合物(第一フォトクロミック化合物)と、本特性の少なくとも1つを満足しない、その他のフォトクロミック化合物とを含むものであってもよい。中でも、自動車等の車内において、防眩性、および透過性の両方の効果を高度に発揮するためには、本特性を全て満足しない第二フォトクロミック化合物を含むことが好ましい。以下に、その他のフォトクロミック化合物(第二フォトクロミック化合物)について説明する。
<その他のフォトクロミック化合物;第二フォトクロミック化合物>
本発明に使用される第二フォトクロミック化合物は、1種類のフォトクロミック化合物を使用することもできるし、2種以上のフォトクロミック化合物を併用して使用することもできる。
この第二フォトクロミック化合物は、420nmにおける吸光度が0.100未満であり、430nmにおける吸光度が0.015未満であり、かつ可視光感度が0.60未満となる化合物である(本特性の少なくとも1つを満足しない化合物である。)。中でも、この第二フォトクロミック化合物は、第一フォトクロミック化合物と併用して使用する場合(フォトクロミック組成物として使用する場合)、得られるフォトクロミック光学物品は、特に、防眩性、および透過性に優れたものとなる。すなわち、自動車内等において、可視光応答性の低い、透過性の高い第二フォトクロミック化合物と、可視光応答性が高い、防眩性に優れた第一フォトクロミック化合物とを併用することにより、より高い性能を発揮するものと考えられる。
さらに、本発明のフォトクロミック光学物品に、第二フォトクロミック化合物を併用することにより、発色濃度、発色色調、退色速度、耐久性といったフォトクロミック性を調整することが容易となる。
このような第二フォトクロミック化合物として代表的なものは、フルギド化合物、クロメン化合物及びスピロオキサジン化合物であり、例えば、特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、WO94/22850号パンフレット、WO96/14596号パンフレット等、多くの文献に開示されている。
本発明においては、公知のフォトクロミック化合物の中でも、発色濃度、初期着色性、耐久性、退色速度などのフォトクロミック性の観点から、前記式(1)で示されるクロメン化合物を除く、インデノ〔2,1−f〕ナフト〔1,2−b〕ピラン骨格を有するクロメン化合物を用いることがより好ましい。特に、分子量が540以上のクロメン化合物が、発色濃度及び退色速度に特に優れるため好適に使用される。その中でも、下記式(2)で示されるクロメン化合物であることが好ましい。
Figure 0006980376

<R30
式中、R30は、水素原子である。
<R10、およびR20
式中、R10、およびR20は、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、またはアリール基である。
すなわち、前記式(2)で示されるクロメン化合物(第二フォトクロミック化合物)は、11位の置換基(R30)が水素原子となる化合物である点で、前記式(1)で示されるクロメン化合物とは異なる化合物となる。また、R10、およびR20は、前記の通りであり、前記例示した具体的な基はR、R、およびRで説明した基と同一の基が挙げられ、好ましい基も同じである。
さらに、R10、およびR20には、前記の通り、アリールチオ基を使用することもできる。該アリールチオ基としては、炭素数6〜12のアリールチオ基が好ましい。好適なアリールチオ基の例としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等を挙げることができる。また、アリールチオ基がフェニルチオ基の場合、少なくとも1つのオルト位に置換基を有していることが好ましく、該置換基としては炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数6〜14のアリール基が好ましい。
中でも、得られるフォトクロミック光学物品において、色調の調整がし易く、透過性、および防眩性の両立を高度に計るためには、R10、およびR20が水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、またはアリール基であることが好ましい。R10およびR20において、水素原子以外の基は、前記の通り、前記例示したR、R、およびRで説明した基と同一の基が挙げられ、好ましい基も同じである。
<R40、およびR50
40、およびR50は、前記式(1)におけるR、およびRと同一の基が挙げられる。つまり、R40、およびR50は、アリール基、ヘテロアリール基またはアルキル基であることが好ましい。その中でも、特に優れたフォトクロミック特性退色速度を発揮するためには、上記R40およびR50の少なくとも一方、好ましくは両方が、アリール基またはヘテロアリール基であることが好ましい。さらに、R40およびR50の少なくとも一方、好ましくは両方の基が、下記(i)〜(iii)に示される何れかの基であることが特に好ましい。
(i)アルキル基もしくはアルコキシ基を置換基として有するアリール基またはヘテロアリール基、
(ii)アミノ基を置換基として有するアリール基またはヘテロアリール基、
(iii)窒素原子を環員ヘテロ原子として有し且つその窒素原子でアリール基またはヘテロアリール基と結合する複素環基を置換基として有するアリール基またはヘテロアリール基、
上記(i)〜(iii)におけるアリール基またはヘテロアリール基に置換する置換基の位置およびその総数は特に限定されるものではないが、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、アリール基がフェニル基であるときには、置換位置は3位または4位であり、その際の置換基の数は1であることが好ましい。特に、フェニル基の3位または4位に、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合しているベンゼン環に結合する複素環基、アリール基が置換している基であることが好ましい。
そして、R40、およびR50において、特に好適な具体的な基も、前記(R、およびR)で説明した基と同一の基が挙げられる。
<R60、およびR70
60、およびR70は、前記式(1)におけるR、およびRと同一の基が挙げられる。その中でも、特に、得られるフォトクロミック光学物品の防眩性、および透過性を高度に両立するためには、RおよびRと同じく、 R60、およびR70は、それらが結合する13位の炭素原子と共に、
環員炭素数が3〜20である脂肪族環、
前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、
環員原子数が3〜20である複素環または
前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環
を形成することが好ましい。これら環基を形成する場合において、好ましい基は、R、およびRで説明した基と同様の基が挙げられる。さらには、R60、およびR70は、R、およびRにおいて、特に好ましい基として具体的に例示した、単環またはビシクロ環であることが好ましい。
第二フォトクロミック化合物として、具体的な化合物を例示すると、以下の化合物を挙げることができる。
Figure 0006980376
Figure 0006980376
<フォトクロミック組成物;第一フォトクロミック化合物、および第二フォトクロミック化合物の組み合わせ、および配合割合>
本発明のフォトクロミック光学物品において、フォトクロミック組成物が含まれる場合には、そのフォトクロミック組成物を溶媒で溶解した際に、420nmにおける吸光度が0.100以上、430nm以上における吸光度が0.015以上、可視光感度が0.60以上とならなければならない。
中でも、得られるフォトクロミック光学物品において、優れた性能を発揮するためには、フォトクロミック組成物は、以下の構成からなることが好ましい。すなわち、該フォトクロミック組成物に含まれる第一フォトクロミック化合物、および第二フォトクロミック化合物は、以下の特性を満足することが好ましい。
第一フォトクロミック化合物は、420nmにおける吸光度が0.150以上0.800以下であり、430nmにおける吸光度が0.020以上0.500以下であり、可視光感度が0.61以上1.0以下であることが好ましい。さらには、420nmにおける吸光度が0.200以上0.700以下であり、430nmにおける吸光度が0.050以上0.300以下であり、可視光感度が0.65以上0.95以下であることが好ましい。特には、420nmにおける吸光度が0.300以上0.600以下であり、430nmにおける吸光度が0.070以上0.200以下であり、可視光感度が0.70以上0.90以下であることが好ましい。
そして、第二フォトクロミック化合物は、420nmにおける吸光度が0.001以上0.120未満であり、430nmにおける吸光度が0.000以上0.015未満であり、可視光感度が0.10以上0.60未満であることが好ましい。さらには、420nmにおける吸光度が0.005以上0.100以下であり、430nmにおける吸光度が0.001以上0.013以下であり、可視光感度が0.20以上0.55以下であることが好ましい。特には、420nmにおける吸光度が0.02以上0.095以下であり、430nmにおける吸光度が0.005以上0.012以下であり、可視光感度が0.30以上0.55以下であることが好ましい。
フォトクロミック組成物を使用する場合において、前記第一フォトクロミック化合物、および前記第二フォトクロミック化合物の配合割合は、使用する化合物の特性等に応じて、該フォトクロミック組成物が、420nmにおける吸光度が0.0100以上、430nmの吸光度が0.015以上、可視光感度が0.60以上となるように決定すればよい。中でも、得られるフォトクロミック光学物品の色調の調整のし易さ等を考慮すると、第一フォトクロミック化合物を100質量部としたとき、第二フォトクロミック化合物を1〜100質量部の範囲で使用することが好ましく、さらに10〜50の範囲で使用することが好ましい。なお、フォトクロミック組成物における好ましい本特性は、前記フォトクロミック化合物の好ましい本特性と同じ範囲である。
本発明のフォトクロミック光学物品は、上記に例示したフォトクロミック化合物(またはフォトクロミック組成物)を含むことが好ましい。そして、より防眩性を向上させるためには、550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素をさらに含むことが好ましい。次に、この色素について説明する。
<550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素>
本発明に使用される550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素としては、それ自体公知のものを使用することができ、これらは、1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
本発明に使用される550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素としては、ニトロ系化合物、アゾ系化合物、アントラキノン系化合物、スレン系化合物、ポルフィリン系化合物、希土類金属化合物などが挙げられる。その中でも、防眩性と視認性の兼ね合いから、ポルフィリン系化合物、希土類系化合物が好ましい。更には、プラスチック材料中への分散安定性の観点から、ポルフィリン系化合物が最も好ましい。
本発明で使用される希土類金属化合物としては、アクアヒドロキシ(1−フェニル1,3−ブタンジオナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(フェナシルフェニルケトナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(1−フェニル−2−メチル−1,3−ブタンジオナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(1−チオフェニル−1,3−ブタンジオナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(1−フェニル1,3−ブタンジオナト)エルビウム、アクアヒドロキシ(1−フェニル1,3−ブタンジオナト)ホロニウムなどの錯体を挙げることが出来る。
本発明で使用されるポルフィリン系化合物としては、ポルフィリン骨格に種々の置換基を有していても良い化合物であり、例えば、特開平5−194616号公報、特開平5−195446号公報、特開2003−105218号公報、特開2008−134618号公報、特開2013−61653号公報、特開2015−180942号公報、WO2012/020570号パンフレット、日本国特許第5626081号、日本国特許第5619472号、日本国特許第第5778109号等に記載されている化合物を好適に使用することができる。その中でも、特に好適なポルフィリン系化合物としては、下記式(3)
Figure 0006980376
(式中、
、Y、Y、およびYは、水素原子であり、
、Y、Y、およびYは、それぞれ、炭素数1〜6の直鎖、または分岐のアルキル基であり、
Mは、2価の金属原子または酸化金属原子である。)
で示されるテトラアザポルフィリン化合物が挙げられる。
炭素数1〜6の直鎖、または分岐アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基が挙げられる。
2価の金属原子としては、例えば、Cu、Zn、Fe、Co、Ni、Ru、Pd、Pt、Mn、Mg、Ti、Ba、Cd、Hg、Pd、Snなどを挙げることができる。酸化金属原子としては、例えば、VO、MnO、TiOなどを挙げることができる。
なお、前記式(3)で示されるテトラアザポルフィリン化合物は、実際には、1種または2種以上の異性体から成る混合物を表している。このような複数の異性体から成る混合物の構造の記載に際しても、本発明においては、便宜上、例えば、前記式(3)で示される一つの構造式を記載している。
本発明の光学物品においては、前記テトラアザポルフィリン化合物は、1種を単独で使用してもよく、あるいは複数を併用してもよい。さらに、1種または2種以上の異性体から成る混合物を使用することができる。また、所望により、該混合物から各異性体を分離し、異性体の内の1種の化合物を用いることができ、さらには、任意の割合から成る複数の異性体を併用することができる。
要求される本発明の光学物品の特性を考慮すると、前記テトラアザポルフィリン化合物の中でも、好ましくは、580〜605nmに吸収極大を有する化合物を使用することが好ましい。
<550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素を使用する場合の好適な配合量>
本発明において、前記色素を使用する場合には、使用するフォトクロミック化合物(フォトクロミック組成物)、および色素自体の特性に応じて配合量を適宜決定すればよい。中でも、より効果の優れた性能のフォトクロミック光学物品とし、かつ該光学物品をより容易に製造するためには、以下の配合割合とすることが好ましい。
具体的には、420nmにおける吸光度が0.100以上、430nmにおける吸光度が0.015以上、可視光感度が0.60以上であるフォトクロミック化合物またはフォトクロミック組成物を100質量部としたとき、前記色素を0.01〜20質量部の範囲で使用することが好ましく、さらに0.05〜5の範囲で使用することが好ましい。本発明のフォトクロミック光学物品においては、前記フォトクロミック化合物(フォトクロミック組成物)、および該色素が同一の層に混合される場合、または、フォトクロミック化合物(フォトクロミック組成物)を有する層と、色素を有する層とが別々に存在する場合であっても、前記配合割合を満足することが好ましい。つまり、フォトクロミック光学物品中に含まれる全フォトクロミック化合物の合計量(フォトクロミック組成物の量)に対して、全色素の配合割合が前記範囲を満足することが好ましい。
該色素の吸収ピークにおける吸収強度は、得られるフォトクロミック光学物品の防眩性、および透過性を考慮すると、0.1×10〜10.0×10ml/g・cmであることが好ましく、さらに、1.0×10〜5.0×10ml/g・cmであることが好ましい。
次に、本発明で使用されるフォトクロミック光学物品の形態、及び製造方法について説明する。
<フォトクロミック光学物品の形態、及び製造方法>
本発明のフォトクロミック光学物品の形態、及び製造方法は、特に制限されず、公知の形態、及び製造方法を、目的に応じて適用することが出来る。
本発明のフォトクロミック光学物品の形態、及び製造方法としては、以下に挙げる様な方法を採用することが好ましく、一般的には、フォトクロミック化合物(フォトクロミック組成物)とプラスチック材料を併用することにより達成される。以下、フォトクロミック組成物を使用する場合であっても、フォトクロミック化合物とする場合もある。
(a)練り込み品;重合性モノマーにフォトクロミック化合物を溶解させ、それを光、または/及び熱重合させることにより、直接、レンズ等のフォトクロミック光学物品を成形する方法により作製される物品。この方法は、練り込み法と呼ばれている。
(b)積層品;レンズ等のプラスチック成形品の表面に、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層を、コーティング或いは注型により設け、それを光、または/及び熱重合により硬化させる方法により作製される物品。この方法は、積層法と呼ばれている。
(c)バインダー品;2枚の光学シートを、フォトクロミック化合物が分散された接着材樹脂により形成された接着層により接合して作製される物品。この方法は、バインダー法と呼ばれている。一種の積層品に該当する。
上記の様な(a)練り込み品、(b)積層品、及び(c)バインダー品に使用される重合性モノマー、及び樹脂としては、アクリル系樹脂(ポリ(メタ)アクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂など)、エポキシ樹脂、エピスルフィド樹脂、チエタニル樹脂、アリル樹脂、ビニル樹脂、(チオ)ウレタン樹脂、(チオ)ウレタン−ウレア樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、カゼイン、ゼラチン、でんぷん、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、スチレン系樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂など)、ポリカーボネート、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリアミド(ナイロンなど)、ポリイミド、ポリジエン(ポリイソプレン、ポリブタジエンなど)、ポリシロキサン(ポリジメチルシロキサンなど)、ポリスルホン、ポリイミン、ポリ無水酢酸、ポリ尿素、ポリスルフィド、ポリフォスファゼン、ポリケトンポリフェニレン、ポリハロオレフィン等を挙げることができる。これらの樹脂は、適宜共重合されていてもよく、また変性されたものであってもよい。
次に、(a)練り込み品、(b)積層品、及び(c)バインダー品の製造方法を詳しく説明する。
<(a)練り込み品>
本発明において、練り込み方法でフォトクロミック光学物品を製造する場合には、具体的には、以下の方法を採用することが好ましい。前記樹脂成分において、熱可塑性樹脂とフォトクロミック化合物とを溶融混練してフォトクロミック化合物を含む樹脂組成物を調製し、該樹脂組成物を射出成型する方法が挙げられる。
また、前記樹脂成分において、熱硬化性樹脂を形成するモノマーにフォトクロミック化合物を溶解して、これを重合硬化させることにより、フォトクロミック硬化体(フォトクロミック光学物品)を作製する方法が挙げられる。中でも、少なくとも、重合性モノマー、およびフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物を、エストラマーガスケット又はスペーサー等で保持されているガラスモールド間に注入し、前記フォトクロミック硬化性組成物に配合された重合硬化剤の種類に応じて、空気炉中での加熱や紫外線等の活性エネルギー線照射によって重合硬化させて、フォトクロミック硬化体(フォトクロミック光学物品)とすることが好ましい。
上記重合硬化剤としては、重合性モノマーの種類等に応じて、公知の熱重合開始剤、光重合開始剤などを用いることが出来る。
フォトクロミック光学物品を作製するための重合硬化は、紫外線、α線、β線、γ線等の活性エネルギー線の照射、熱、あるいは両者の併用等で実施できる。重合の方法も、ラジカル重合、開環重合、アニオン重合或いは縮重合が挙げられる。即ち、重合性モノマー、必要に応じて配合する重合硬化剤の種類によって重合手段を採用すればよい。
フォトクロミック硬化性組成物を熱重合させるに際しては、特に重合時の温度が得られるフォトクロミック光学物品の性状に影響を与える。この温度条件は、熱重合開始剤の種類と量や重合性モノマーの種類によって影響を受けるので一概に限定はできないが、一般的に比較的低温で重合を開始し、ゆっくりと温度を上げていく方法が好適である。重合時間も温度と同様に各種の要因によって異なるので、予めこれらの条件に応じた最適の時間を決定するのが好適であるが、一般には、2〜48時間で重合が完結するように条件を選ぶのが好ましい。
また、フォトクロミック硬化性組成物を光重合させる際には、重合条件のうち、特にUV強度は得られるフォトクロミック光学物品の性状に影響を与える。この照度条件は、光重合開始剤の種類と量や重合性モノマーの種類によって影響を受けるので一概に限定はできないが、一般的に365nmの波長で50〜500mW/cmのUV光を0.5〜5分の時間で光照射するように条件を選ぶのが好ましい。
練り込み法を採用する場合には、比較的厚手のフォトクロミック光学物品を容易に製造できる。すなわち、前記フォトクロミック組成物の硬化体からなる光学物品の厚さを厚くし易いため、単層のものを製造する場合に好適である。
練り込み法を採用する場合のフォトクロミック光学物品は、厚さが0.5〜30mmとすることが好ましい。また、フォトクロミック光学物品に含まれる、420nmにおける吸光度が0.100以上、430nmにおける吸光度が0.015以上、可視光感度が0.60以上であるフォトクロミック化合物(以下、前記吸光度、および可視光感度の要件を満足するフォトクロミック化合物を、「本特性を満足するフォトクロミック化合物」とする場合もある)を以下の配合量とすることが好ましい。具体的には、光学物品を形成する重合性モノマー、あるいは樹脂を100質量部としたとき、本特性を満足するフォトクロミック化合物を0.001〜2.0質量部とすることが好ましい。なお、フォトクロミック組成物を使用する場合には、該フォトクロミック組成物が0.001〜2.0質量部となることが好ましい。
また、練り込み法を採用する場合において、前記色素、および/または前記その他のフォトクロミック化合物を使用する場合には、以下のように調整することが好ましい。具体的には、重合性モノマー、あるいは樹脂、および本特性を満足するフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物に、前記色素、および/または前記その他のフォトクロミック化合物を加え、得られた硬化性組成物を硬化することが好ましい。
<(b)積層品>
本発明において、積層法でフォトクロミック光学物品を製造する場合には、具体的には、以下の方法を採用することが好ましい。
コーティング法によりフォトクロミック光学物品を製造する場合には、先ず、少なくとも重合性モノマー、およびフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物を、スピンコートやディッピング等により、レンズ基材等の光学基材の表面に塗布液を塗布する。該フォトクロミック硬化性組成物が高粘度の場合には、適宜、有機溶剤で希釈した塗布液を調製して塗布した後、乾燥して有機溶剤を除去すればよい。次いで、加熱により熱硬化を行うことで光学基材の表面にフォトクロミック硬化体からなるフォトクロミック層が形成される。また、該フォトクロミック組成物に、ラジカル重合性基を有するものを用いる場合には、窒素などの不活性ガス中でのUV照射や加熱等により重合硬化を行ってもよい。
また、レンズ基材等の光学基材を所定の空隙が形成されるようにガラスモールドに対面して配置し、この空隙に該フォトクロミック硬化性組成物を注入して硬化させる方法を採用することができる。該フォトクロミック硬化性組成物を注入した状態で、UV照射や加熱等により重合硬化を行うインナーモールドによる注型重合によって、光学基材の表面にフォトクロミック硬化体からなるフォトクロミック層を形成することができる。この方法は、注型重合法による、積層フォトクロミック光学物品の製造方法である。
この積層法におけるUV照射や加熱等による重合硬化は、前述の練り込み方法に記載されている条件の中から適宜採用することができる。
積層法を採用する場合には、汎用的なレンズ基材等の光学基材上にフォトクロミック硬化体を形成させ、光学基材の屈折率や機械強度といった特性を生かすことが可能となる。
この積層法におけるフォトクロミック硬化体(フォトクロミック層)の厚さは、コーティング法の場合には10〜100μm、注型重合法の場合には50〜1000μmとすることが好ましい。また、このフォトクロミック硬化体(フォトクロミック層)に含まれる、420nmにおける吸光度が0.100以上、430nmにおける吸光度が0.015以上、可視光感度が0.60以上であるフォトクロミック化合物(本特性を満足するフォトクロミック化合物)を以下の配合量とすることが好ましい。具体的には、フォトクロミック硬化体(フォトクロミック層)を形成する重合性モノマー、あるいは樹脂を100質量部としたとき、本特性を満足するフォトクロミック化合物を、コーティング法の場合には0.5〜5.0質量部、注型重合法の場合には0.01〜2.0質量部とすることが好ましい。なお、フォトクロミック組成物を使用する場合には、コーティング法の場合には該フォトクロミック組成物が0.5〜5.0質量部となることが好ましく、注型重合法の場合には、該フォトクロミック組成物が0.01〜2.0質量部となることが好ましい。
上記のような積層法によりフォトクロミック層を光学基材の表面に形成する場合には、予め光学基材の表面に、アルカリ溶液、酸溶液などによる化学的処理、コロナ放電、プラズマ放電、研磨などによる物理的処理を行っておくことが好ましい。このような処理を行うことにより、フォトクロミック層と光学基材との密着性を高めることができる。勿論、光学基材の表面に透明な接着樹脂層(すなわち、プライマー層)を設けておくことも可能であり、特にコーティング法で積層品を得る場合に、プライマー層を形成することは有用である。
上記接着樹脂層(プライマー層)は、公知の接着樹脂を使用して形成できる。例えば、湿気硬化型ポリウレタン系、ポリイソシアネート−ポリエステル系の二液型、ポリイソシアネート−ポリエーテル系の二液型、ポリイソシアネート−ポリアクリル系の二液型、ポリイソシアネート−ポリウレタンエラストマー系の二液型、エポキシ系、エポキシ−ポリウレタン系の二液型、ポリエステル系、ポリウレタンウレア系の一液型、水分散性ポリウレタン系等の接着剤を使用することが好ましい。前記接着樹脂層(プライマー層)を形成する場合には、接着樹脂層(プライマー層)の厚みは0.5〜10μmであることが好ましい。
積層法を採用する場合において、前記色素、および/または前記その他のフォトクロミック化合物を使用する場合には、以下のように調整することが好ましい。具体的には、先ず、重合性モノマー、あるいは樹脂、および本特性を満足するフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物に、前記色素、および/または前記その他のフォトクロミック化合物を加え、得られた組成物を準備する。そして、該組成物を光学基材上に塗布して硬化させることにより、光学基材の表面にフォトクロミック硬化体(フォトクロミック層)を形成することができる。
さらには、色素、好適なフォトクロミック化合物を有効に使用するためには、以下の方法を採用することが好ましい。具体的には、前記色素を含有する接着樹脂層(プライマー層)を積層した光学基材の表面上に、重合性モノマーあるいは樹脂、および本特性を満足するフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物を硬化し、光学基材の表面に、接着樹脂層(色素を含有するプライマー層)を介してフォトクロミック硬化体(フォトクロミック層)を形成することが好ましい。すなわち、接着樹脂層(プライマー層)に前記色素が含まれることにより、少なくとも本特性を満足するフォトクロミック化合物を有するフォトクロミック硬化体(フォトクロミック層)に、効率よく太陽光のような紫外線を含む光が照射される。そのため、より効率良く前記フォトクロミック硬化体(フォトクロミック層)が発色状態となる。
また、積層法で使用される光学基材の厚みは特に限定されないが、0.5〜30mmとすることが好ましい。
<(c)バインダー品>
本発明において、バインダー法でフォトクロミック光学物品を製造する場合には、具体的には、以下の方法を採用することが好ましい。
バインダー法によりフォトクロミック光学物品を製造する場合には、フォトクロミック硬化性組成物を用いてフォトクロミックシートを作製し、これを2枚の透明なシート(光学シート)で挟んで、フォトクロミックシートを接着層とするフォトクロミック光学物品とする。
この場合、フォトクロミックシートの作製には、フォトクロミック硬化性組成物に有機溶剤を用いた塗布液を採用し、コーティングによりフォトクロミックシートを得ることが好ましい。
上記光学シートとしては、熱可塑性樹脂からなる光透過性を有するシートが特に制限なく使用できる。前記光学シートとして、好適な熱可塑性樹脂を例示すれば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等が挙げられる。その中でも、接着性が良好で射出成形法に対する適用性が高いという理由から、ポリカーボネート樹脂が特に好ましい。また、染色されたシートも、本発明の熱可塑性樹脂からなる光学シートとして使用することが可能である。
上記染色シートを用いて積層体を得る場合には、フォトクロミック層の方が該染色シートよりも上側(太陽光や紫外線が照射される側)に積層されていることが好ましい。
上記染色シートに用いる染料としては、前記色素を用いることも可能である。
本発明において使用する熱可塑性樹脂からなる光学シートの好適な厚みとしては、30〜1000μmが好ましく、50〜400μmがより好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂からなる光学シートは、異なる厚みを組み合わせて使用することも可能である。
また、本発明の熱可塑性樹脂からなる光学シートの表面(フォトクロミック層側)には、光学シートとフォトクロミック層の密着性を向上させる目的で、前述の積層法で使用される接着樹脂層が形成されていてもよい。
このバインダー法におけるフォトクロミックシート(フォトクロミック層)の厚さは、10〜100μmとすることが好ましい。また、このフォトクロミックシート(フォトクロミック層)に含まれる、420nmにおける吸光度が0.100以上、430nmにおける吸光度が0.015以上、可視光感度が0.60以上であるフォトクロミック化合物(本特性を満足するフォトクロミック化合物)を以下の配合量とすることが好ましい。具体的には、フォトクロミックシート(フォトクロミック層)を形成する重合性モノマー、あるいは樹脂を100質量部としたとき、少なくとも本特性を満足するフォトクロミック化合物を、0.5〜5.0質量部とすることが好ましい。なお、フォトクロミック組成物を使用する場合には、該フォトクロミック組成物が0.5〜5.0質量部となることが好ましい。
また、前記接着樹脂層(プライマー層)を形成する場合には、接着樹脂層(プライマー層)の厚みは0.5〜10μmであることが好ましい。
バインダー法を採用する場合において、前記色素、および/または前記その他のフォトクロミック化合物を使用する場合には、以下のように調整することが好ましい。具体的には、樹脂、本特性を満足するフォトクロミック化合物、及び有機溶剤を含むフォトクロミック硬化性組成物に、前記色素、および/または前記その他のフォトクロミック化合物を加え、得られた硬化性組成物をコーティング・乾燥し、2枚の光学シートの間にフォトクロミック層を形成することが好ましい。
さらには、接着樹脂層(プライマー層)を積層した1枚の光学シートと、前記色素を含有する接着樹脂層(プライマー層)を積層したもう1枚の光学シートとの間に、樹脂、本特性を満足するフォトクロミック化合物、及び有機溶剤を含むフォトクロミック硬化性組成物をコーティング・乾燥してフォトクロミックシート(フォトクロミック層)を挟み込み、フォトクロミック光学物品を形成することが好ましい。
この場合、前記色素を有する接着樹脂層(プライマー層)よりも、フォトクロミックシート(フォトクロミック層)の方が上側、つまり太陽光や紫外線が照射される側に配置されて使用されることが好ましい。
更に、積層法により得られたフォトクロミック光学物品は、裏面の熱可塑性樹脂からなる光学シート側に、該光学シートと同じ物質からなる熱可塑性樹脂を射出成型して一体化することができる。こうすることにより、プラスチックレンズなどの光学物品とすることが出来る。本発明の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂が好ましい。
一体化する方法としては、前記フォトクロミック光学物品を金型内に装着し、ポリカーボネート樹脂などの光学基材を構成するための熱可塑性樹脂を射出成型する方法が挙げられる。また、バインダー法により得られるフォトクロミック光学物品は、光学基材と一体化する前に、曲げ加工を実施することにより、レンズ状の球面形状に加工することもできる。前記フォトクロミック光学物品を曲げ加工する方法としては、例えば、熱プレス加工、加圧加工、減圧吸引加工などが挙げられる。
<フォトクロミック光学物品が含むその他の添加剤等>
本発明のフォトクロミック光学物品には、本発明の効果を損なわない範囲でそれ自体公知の各種配合剤、例えば、離型剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、香料等の各種安定剤、添加剤を、必要に応じて配合することができる。
<光学積層体>
また、本発明のフォトクロミック光学物品においては、更に偏光シートを積層し、フォトクロミック機能と偏光機能を併せ持つ光学積層体とすることも出来る。
本発明で使用する偏光シートとしては、公知の偏光シートを特に制限なく使用することができる。例えば、該偏光シートは、厚さが10〜200μm、全光線透過率が30%以上、偏光度が95.0%以上であることが好ましい。より好ましくは、厚さが10〜100μm、全光線透過率は35%以上、偏光度は99.0%以上である。
前記偏光シートは、ベースフィルムとして一般的に用いられているポリビニルアルコール系フィルムを、二色性物質のヨウ素や二色性染料を用いて染色し、染色したポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸することにより形成される。また、この染色したポリビニルアルコール系フィルムの両面に、ポリカーボネートやトリアセチルセルロース等からなる光学シートが積層されたシートも、本発明の偏光シートとして使用することができる。
本発明において、光学積層体は、以下の方法により製造できる。
例えば、練り込み法よりフォトクロミック光学物品を製造するに際し、エストラマーガスケット又はスペーサー等で保持されているガラスモールド間の中空に偏光シートを配置する。次いで、その偏光シートの上下に、少なくとも重合性モノマー、および本特性を満足するフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物を注入し、空気炉中での加熱によって熱重合硬化させて、光学積層体とすることができる。
積層法よりフォトクロミック光学物品を製造する場合には、以下の方法を採用できる。具体的には、偏光シートを有する光学基材上に、コーティング法、もしくは注型重合法により、フォトクロミック硬化体(フォトクロミック層)を形成して、光学積層体とすることが好ましい。
バインダー法によりフォトクロミック光学物品を製造する場合には、以下の方法を採用できる。具体的には、2枚の光学シートの間に、フォトクロミックシート(フォトクロミック層)に加えて偏光シートを積層して光学積層体とすることが好ましい。
<フォトクロミック光学物品のその他の加工>
また、本発明のフォトクロミック光学物品、または光学積層体の表面には、その用途に応じて、シランカップリング剤やケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム、スズ、タングステン等のゾルを主成分とするハードコート剤を用いてのハードコート膜の形成、SiO、TiO、ZrO等の金属酸化物の蒸着による薄膜形成、有機高分子を塗布しての薄膜による反射防止処理、帯電防止処理、防汚処理、防曇処理等の後加工を施すことも可能である。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、本実施例で使用した使用した化合物は下記の通りである。
<フォトクロミック化合物>
<第一フォトクロミック化合物>
Figure 0006980376
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<第二フォトクロミック化合物>
Figure 0006980376
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<550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素>
Dye1;テトラアザポルフィリン化合物(三井化学社製:染料PD311S)。テトラヒドロフラン中で測定した結果、吸収ピークは585nmであり、585nmにおける吸収強度は2.7×10ml/g・cmであった。
<偏光シートの調製>
厚み75μmのポリビニルアルコールフィルム(商品名VF−PS#7500;クラレ社製)原反を、ヨウ素0.04%とヨウ化カリウム0.4%の混合溶液(染色液)を用いて、30℃に保持した前記染色浴中で、原反の長さに対して3倍になるように延伸しながら、前記フィルムを染色した。このフィルムをさらに3.5%ホウ酸水溶液(延伸浴)に浸漬して、原反の6倍になるように延伸を行うことによって、偏光フィルム(厚み27μm)を作製した。得られた偏光フィルムの視感透過率は42.5%、偏光度は99.2%であった。
<フォトクロミック化合物(組成物)の発色前の吸光度測定>
本発明において、420nm、及び430nmにおけるフォトクロミック化合物の吸光度は、以下の方法により測定した。実施例、比較例で使用したフォトクロミック化合物をトルエンに溶解し、1.0mMの濃度に調製した溶液を準備した。この溶液を、光路長1mmの石英セルに入れて測定試料とした。測定試料の温度は23℃とし、UV/VIS分光光度計(島津製作所製、型式:UV−1700)を用いて、420nm、及び430nmにおける吸光度を測定した。なお、フォトクロミック組成物の場合には、表1に示す配合割合で配合したフォトクロミック組成物において、含まれるフォトクロミック化合物の合計濃度が1.0mM濃度となるように調整した。
<フォトクロミック化合物の可視光感度の測定方法>
本発明において、可視光感度(380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定した発色濃度の値(ε)とし、380nm以下の波長の吸収を遮断しない状態で測定した発色濃度の値(ε)としたとき、(ε/ε)で示される値)は、以下の方法により測定した。実施例、比較例で使用したフォトクロミック化合物をトルエンに溶解し、1.0mM(ミリモル)の濃度に調製した溶液を準備した。この溶液を、光路長1mmの石英セルに入れて試料とし、(株)浜松ホトニクス製のキセノンランプL−2480(300W)SHL−100を、エアロマスフィルター(コーニング社製)、及びUVカットフィルター(アイエヌジー株式会社製合わせガラス;ガラス/HPR膜/ガラスを使用。380nm以下の波長の光を99.8%遮断できるもの。)を介して23℃、試料表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm、245nm=24μW/cmで120秒間照射して発色させた。最大吸収波長における発色濃度を測定し、UVカットフィルター使用時の発色濃度(ε)を得た。この測定を、UVカットフィルター未使用のでも実施し、UVカットフィルター未使用時の発色濃度(ε)を得た。なお、フォトクロミック組成物の場合には、表1に示す配合割合で配合したフォトクロミック組成物において、含まれるフォトクロミック化合物の合計濃度が1.0mM濃度となるように調整した。
1)最大吸収波長(λmax):(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディレクターMCPD1000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は、発色時の色調に関係する。
2)発色濃度〔ε(120)−ε(0)〕:前記最大吸収波長における、120秒間照射した後の吸光度ε(120)と最大吸収波長における未照射時の吸光度ε(0)との差。この差を求め、ε、およびεを求め、可視光感度(ε/ε)を算出した。
以上のように測定したフォトクロミック化合物の吸光度、および可視光感度を表1にまとめた。
Figure 0006980376
<実施例1>
グリシジルメタクリレート3質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が508)20質量部、トリプロピレングリコールジメタクリレート40質量部、4官能性ウレタン(メタ)アクリレート(新中村化学工業製U−4HA)10質量部、メチルエーテルポリエチレングリコールアクリレート(平均分子量454)3質量部、α−メチルスチレン1質量部、α−メチルスチレンダイマー3質量部からなる重合性単量体100質量部に、フォトクロミック化合物(PC1)を0.04質量部、重合開始剤としてパーブチルND 1部、パーオクタO 0.1部添加し十分に混合した(フォトクロミック硬化性組成物を製造した。)。
得られたフォトクロミック硬化性組成物をガラス板とエチレン−酢酸ビニル共重合体からなるガスケットで構成された鋳型の中に注入し、注型重合により前記フォトクロミック硬化性組成物を重合した。重合は空気炉を用い、30℃〜90℃まで18時間かけ徐々に温度を上げていき、90℃で2時間保持した。重合終了後、硬化体を鋳型のガラス型から取り外し、厚み2mmのフォトクロミック光学物品(練り込み品)を得た。
得られたフォトクロミック光学物品は、発色前の420nmの吸光度が0.38、430nmの吸光度が0.07であり、380nm以下の波長の光を実質的に100%遮断した状態で測定したフォトクロミック特性において、最大吸収波長が582nm、発色濃度(ε)が0.91、退色半減期が74秒であり、380nm以下の波長の吸収を遮断しない状態で測定したフォトクロミック特性おいて、最大吸収波長が582nm、発色濃度(ε)が1.20、退色半減期が74秒であり、可視光感度(ε/ε)が0.76であった。尚、発色前の420nm、及び430nmの吸光度、更に最大吸収波長、発色濃度、退色速度、発色感度といったフォトクロミック特性の評価は、以下に示す方法により実施した。
<フォトクロミック光学物品の発色前の吸光度測定>
本発明において、420nm、及び430nmにおけるフォトクロミック光学物品の吸光度は、測定温度23℃にて、UV/VIS分光光度計(島津製作所製、型式:UV−1700)を用いて測定した。
<フォトクロミック特性評価>
得られたフォトクロミック光学物品を試料とし、これに、浜松ホトニクス製のキセノンランプL−2480(300W)SHL−100をエアロマスフィルター(コーニング社製)、及びUVカットフィルター(アイエヌジー株式会社製合わせガラス;ガラス/HPR膜/ガラスを使用。380nm以下の波長の光を99.8%遮断できるもの)を介して23℃±1℃、重合体表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm、245nm=24μW/cmで300秒間照射して発色させ、前記光学物品のフォトクロミック特性を測定した。この測定を、UVカットフィルター未使用のでも実施した。各フォトクロミック特性は、以下の方法で評価した。
1)最大吸収波長(λmax):(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD3000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は、発色時の色調に関係する。
2)発色濃度{ε(300)−ε(0)}:前記最大吸収波長における、300秒間光照射した後の吸光度{ε(300)}と光照射前の吸光度{ε(0)}との差。この値が高いほどフォトクロミック特性が優れているといえる。これにより、UVカットフィルター使用時の発色濃度(ε)、及びUVカットフィルター未使用時の発色濃度(ε)を得た。
3)退色半減期〔t1/2(sec.)〕:300秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の前記最大吸収波長における吸光度が{ε(300)−ε(0)}の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほど速やかに消色することを意味し、フォトクロミック特性が優れているといえる。
4)可視光感度(ε/ε):上記2)で得られたUVカットフィルター使用時の発色濃度(ε)を、UVカットフィルター未使用時の発色濃度(ε)で除した値(ε/ε)を可視光感度として算出した。
<防眩性、透過性(透明性)の評価>
前記方法で作製したフォトクロミック光学物品からなる眼鏡レンズを作製した。該眼鏡レンズを使用して、以下の方法により、自動車内での防眩性を評価した。この防眩性は、7月の10時〜15時(場所;日本)において、当該眼鏡レンズ、または、当該眼鏡レンズからフォトクロミック化合物のみを除外した眼鏡レンズを着用して被験者10人に自動車を運転してもらい、上記2種類の眼鏡レンズ装着時の眩しさの違いにより評価した。評価結果は、当該眼鏡レンズの方が、当該眼鏡レンズからフォトクロミック化合物のみを除外した眼鏡レンズと比較して、防眩性が高い(眩しくない)と感じた人数で評価した。
また、透過性(透明性)については、屋内において、当該眼鏡レンズ、または、当該眼鏡レンズからフォトクロミック化合物を含まない光学物品からなる眼鏡レンズを被験者10人に着用してもらい、上記2種類の眼鏡レンズの着色の違いにより評価した。評価結果は、当該眼鏡レンズが、当該眼鏡レンズからフォトクロミック化合物を含まない光学物品からなる眼鏡レンズと比較して、同程度の着色であると感じた人数(当該眼鏡レンズであっても透明性(透過性)が高いと感じた人数)で評価した。
<実施例2〜9、比較例1〜4>
表2に示したフォトクロミック化合物(組成物)の種類以外は、実施例1と同様の方法にてフォトクロミック光学物品を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(練り込み品)の特性を評価した。その結果を、表2に示す。
Figure 0006980376
<実施例10>
m−キシレンジイソシアネート55質量部、ジペンタエリスリト−ルヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)40質量部、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル(n≒10、Mw=668)10質量部からなる重合性単量体100部に、PC1を0.04部、内部離型剤としてZelecUN(酸性リン酸エステル、STEPAN社製)を0.1部、硬化触媒としてジブチルチンジラウレート0.01部添加し十分に混合した(フォトクロミック硬化性組成物を準備した。)。
得られたフォトクロミック硬化性組成物を、脱気後にガラス板とエチレン−酢酸ビニル共重合体からなるガスケットで構成された鋳型の中に注入し、注型重合により前記フォトクロミック硬化性組成物を重合した。重合は空気炉を用い、27℃から120℃まで徐々に昇温しながら、24時間かけて硬化させた。重合終了後、硬化体を鋳型のガラス型から取り外し、厚み2mmのフォトクロミック光学物品(練り込み品)を得た。
得られたフォトクロミック光学物品は、発色前の420nmの吸光度が0.38、430nmの吸光度が0.07であり、380nm以下の波長の光を実質的に100%遮断した状態で測定したフォトクロミック特性において、最大吸収波長が580nm、発色濃度(ε)が0.84、退色半減期が80秒であり、380nm以下の波長の吸収を遮断しない状態で測定したフォトクロミック特性おいて、最大吸収波長が580nm、発色濃度(ε)が1.11、退色半減期が80秒であり、可視光感度(ε/ε)が0.76であった。これらの物性は、実施例1と同様の操作を行い取得した。また、防眩性、透明性(透過率)についても、実施例1と同様の操作で評価した。
<実施例11〜18、比較例5〜8>
表3に示したフォトクロミック化合物の種類以外は、実施例10と同様の方法にてフォトクロミック光学物品を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(練り込み品)の特性を評価した。その結果を、表3に示す。
Figure 0006980376
<実施例19>
ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が14であり、平均分子量が736)30質量部、2,2−ビス[4−(メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレグリコール鎖の平均鎖長が10であり、平均分子量が、804)30質量部、ペンタンジオールとヘキサンジオールを主成分とするポリアルキレンカーボネートジオールとアクリル酸のエステル化物(平均分子量640、(メタ)アクリル等量320)10質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート29質量部、グリシジルメタアクリレート 1質量部、及びフォトクロミック化合物PC1 1.5質量部を加え、70℃で15分間撹拌混合し、フォトクロミック化合物を溶解させた。室温に冷却後、更に、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5質量部、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート(分子量508)3質量部、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Irganox245)3質量部、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−ホスフィンオキシド(商品名:Irgacure819、BASF社製)0.3質量部、レベリング剤として東レ・ダウコーニング株式会社製L7001 0.1質量部を加え、コーティング法に用いるフォトクロミック硬化性組成物を得た。
次いで、スピンコーター(1H−DX2、MIKASA製)を用いて、中心厚2mm、屈折率1.50のアリル系プラスチックレンズ基材の表面に、湿気硬化型ウレタン樹脂溶液(製品名:TR−SC−P、(株)トクヤマ製)を回転数70rpmで15秒、続いて1500〜2000rpmで4秒間スピンコートし、15分間室温にて乾燥した。この際、乾燥後の接着樹脂層の膜厚が5μmとなるようにスピン条件を調整した。その後、前記方法で準備したフォトクロミック硬化性組成物約2gを、硬化後の膜厚が40μmになるようにスピンコートし、窒素ガス雰囲気中で出力200mW/cmのメタルハライドランプを用いて、90秒間光を照射し、塗膜を硬化させた。その後さらに100℃で1時間加熱することにより、フォトクロミック層を有するフォトクロミック光学物品(積層品;コーティング法)を得た。
得られたフォトクロミック光学物品は、発色前の420nmの吸光度が0.38、430nmの吸光度が0.07であり、380nm以下の波長の光を実質的に100%遮断した状態で測定したフォトクロミック特性において、最大吸収波長が582nm、発色濃度(ε)が1.00、退色半減期が50秒であり、380nm以下の波長の吸収を遮断しない状態で測定したフォトクロミック特性おいて、最大吸収波長が582nm、発色濃度(ε)が1.30、退色半減期が50秒であり、可視光感度(ε/ε)が0.77であった。これらの物性は、実施例1と同様の操作を行い取得した。また、防眩性、透明性(透過率)についても、実施例1と同様の操作で評価した。
<実施例20〜27、比較例9〜12>
表4に示したフォトクロミック化合物の種類以外は、実施例19と同様の方法にてフォトクロミック光学物品を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(積層品;コーティング法)の特性を評価した。その結果を、表4に示す。
Figure 0006980376
<実施例28>
ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が14であり、平均分子量が736)30質量部、2,2−ビス[4−(メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレグリコール鎖の平均鎖長が10であり、平均分子量が、804)30質量部、ペンタンジオールとヘキサンジオールを主成分とするポリアルキレンカーボネートジオールとアクリル酸のエステル化物(平均分子量640、(メタ)アクリル等量320)10質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート29質量部、グリシジルメタアクリレート 1質量部、及びフォトクロミック化合物PC1 0.12質量部を加え、70℃で15分間撹拌混合し、フォトクロミック化合物を溶解させた。室温に冷却後、更に、2−イソシアナトエチルメタクリレート5質量部、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート(分子量508)3質量部、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Irganox245)3質量部、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−ホスフィンオキシド(商品名:Irgacure819、BASF社製)0.2質量部を加え、注型重合法に用いるフォトクロミック硬化性組成物を得た。
得られたフォトクロミック硬化性組成物を、ガラス板を上型、屈折率1.50のアリル系プラスチックレンズ(厚み2mm)を下型に用い、外周をテープ(シリコン系粘着剤付き)で巻いた鋳型の中に注入した。
次いで、200mW/cmのメタルハライドランプを用いて、150秒間光を照射し、鋳型中のフォトクロミック硬化性組成物を硬化させた。重合終了後、上型に使用したガラス板を取り外し、さらに100℃で1時間加熱することにより、フォトクロミック層0.5mmが積層された総厚2.5mmのフォトクロミック光学物品(積層品;注型重合法)を得た。
得られたフォトクロミック光学物品は、発色前の420nmの吸光度が0.38、430nmの吸光度が0.07であり、380nm以下の波長の光を実質的に100%遮断した状態で測定したフォトクロミック特性において、最大吸収波長が582nm、発色濃度(ε)が0.95、退色半減期が55秒であり、380nm以下の波長の吸収を遮断しない状態で測定したフォトクロミック特性おいて、最大吸収波長が582nm、発色濃度(ε)が1.23、退色半減期が55秒であり、可視光感度(ε/ε)が0.77であった。これらの物性は、実施例1と同様の操作を行い取得した。また、防眩性、透明性(透過率)についても、実施例1と同様の操作で評価した。
<実施例29〜36、比較例13〜16>
表5に示したフォトクロミック化合物の種類以外は、実施例28と同様の方法にてフォトクロミック光学物品を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(積層品;注型重合法)の特性を評価した。その結果を、表5に示す。
Figure 0006980376
<実施例37>
(1)フォトクロミック組成物用ポリウレタンウレア樹脂の製造
撹拌翼、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を取り付けた5Lのセパラブルフラスコ(4つ口)を用意し、この容器に数平均分子量800のポリカーボネートジオール885質量部、イソホロンジイソシアネート350質量部、トルエン250質量部を仕込み、窒素雰囲気下、100℃で7時間反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成した。ウレタンプレポリマー反応終了後、反応液を0℃付近まで冷却し、イソプロピルアルコール715質量部、ジエチルケトン1335質量部に溶解させた後、液温を0℃に保持した。次いで、鎖延長剤であるビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン85質量部とジエチルケトン70質量部の混合溶液を30分以内に滴下し、0℃で1時間反応させた。その後さらに、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノピペリジン20質量部を滴下し、0℃で1時間反応させることにより、ポリウレタンウレア樹脂のジエチルケトン溶液を得た。
(2)フォトクロミック硬化性組成物の調製
(1)で得られたポリウレタンウレア樹脂の溶液500質量部、フォトクロミック化合物PC1 3.0質量部、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物 20質量部、さらに酸化防止剤としてエチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート] 2質量部、界面活性剤としてDOW CORNING TORAY L−7001 0.3質量部を添加し、室温で攪拌・混合を行い、バインダー法用のフォトクロミック硬化性組成物を得た。
(3)接着層用ポリウレタンウレア樹脂の製造
撹拌翼、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を取り付けた5Lのセパラブルフラスコ(4つ口)を用意し、この容器に数平均分子量1000のポリカーボネートジオール400質量部、イソホロンジイソシアネート175質量部、トルエン120質量部を仕込み、窒素雰囲気下、110℃で7時間反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成した。ウレタンプレポリマー反応終了後、反応液を20℃付近まで冷却し、プロピレングリコール−モノメチルエーテル2500質量部に溶解させた後、液温を20℃に保持した。次いで、鎖延長剤であるイソホロンジアミン60質量部を滴下し、20℃で1時間反応させた。その後さらに、n−ブチルアミン3質量部を滴下し、20℃で1時間反応させることにより、ポリウレタンウレア樹脂のプロピレングリコール−モノメチルエーテル溶液を得た。
(4)接着層用接着剤の調製
(3)で得られたポリウレタンウレア樹脂溶液500質量部に、界面活性剤としてDOW CORNING TORAY L−7001 0.2質量部を添加し、室温で攪拌・混合を行い、接着層用接着剤を得た。
(5)フォトクロミック光学物品(バインダー品)の製造
コーター(テスター産業製)を用いて、(3)で得られたポリウレタンウレア樹脂溶液を厚み400μmのポリカーボネートシート(第一、第二光学シート)上に、塗工速度0.5m/minで塗工し、乾燥温度110℃で3分間乾燥させることにより、膜厚5μmの接着樹脂層を有するポリカーボネートシートを得た。
次いで、コーター(テスター産業製)を用いて、(2)で得られたフォトクロミック硬化性組成物を、厚み50μmのOPPフィルム(延伸ポリプロピレンフィルム)上に塗工速度0.3m/minで塗工し、乾燥温度100℃で5分間乾燥させた。その後、フォトクロミック層(厚み40μm)側を接着樹脂層を有する第一光学シートの接着樹脂層上に配置し、張り合わせた。
更に、上記方法で準備した第一光学シート/接着樹脂層/フォトクロミック層/OPPフィルムがこの順で積層されたものからOPPフィルムを剥離した構造体と、接着樹脂層を有するポリカーボネートシート(第二光学シート)とを、フォトクロミック層とポリカーボネートシート(第二光学シート)上の接着樹脂層とが接合するように、貼り合わせた。次いで、得られた積層体を、40℃、真空下で24時間静置した後、110℃で60分加熱処理し、次いで60℃、100%RHで24時間の加湿処理を行い、最後に40℃、真空下で24時間静置し、フォトクロミック光学物品(バインダー品)を得た。
得られたフォトクロミック光学物品は、発色前の420nmの吸光度が0.38、430nmの吸光度が0.07であり、380nm以下の波長の光を実質的に100%遮断した状態で測定したフォトクロミック特性において、最大吸収波長が580nm、発色濃度(ε)が1.00、退色半減期が45秒であり、380nm以下の波長の吸収を遮断しない状態で測定したフォトクロミック特性おいて、最大吸収波長が580nm、発色濃度(ε)が1.30、退色半減期が45秒であり、可視光感度(ε/ε)が0.77であった。これらの物性は、実施例1と同様の方法を行い取得した。また、防眩性、透明性(透過率)についても、実施例1と同様の操作で評価した。
<実施例38〜45、比較例17〜20>
表6に示したフォトクロミック化合物の種類以外は、実施例37と同様の方法にてフォトクロミック光学物品を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(バインダー品)の特性を評価した。その結果を、表6に示す。
Figure 0006980376
<実施例46>
実施例1で準備したフォトクロミック硬化性組成物に、550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素Dye1 0.001質量部を添加した以外は、実施例1と同様の方法にてフォトクロミック光学物品を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(練り込み品)の特性を評価した。その結果を、表7に示す。
<実施例47>
実施例10のフォトクロミック硬化性組成物に、550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素Dye1 0.001質量部を添加した以外は、実施例10と同様の方法にてフォトクロミック光学物品を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(練り込み品)の特性を評価した。その結果を、表7に示す。
<実施例48>
実施例19の湿気硬化型ウレタン樹脂溶液(プライマー層形成用樹脂溶液)に、550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素Dye1 0.1質量部を添加した以外は、実施例19と同様の方法にてフォトクロミック光学物品を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(積層品;コーティング法)の特性を評価した。その結果を、表7に示す。
<実施例49>
実施例28のフォトクロミック硬化性組成物に、550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素Dye1 0.004質量部を添加した以外は、実施例28と同様の方法にてフォトクロミック光学物品を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(積層品;注型重合法)の特性を評価した。その結果を、表7に示す。
<実施例50>
実施例37の第二光学シート上の接着樹脂層に、550〜600nmの範囲に吸収ピークを有する色素Dye1 0.1質量部を添加した以外は、実施例37と同様の方法にてフォトクロミック光学物品を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(バインダー品)の特性を評価した。その結果を、表7に示す。
Figure 0006980376
表7中に記載した550〜600nmの範囲の吸収ピーク、またその吸収ピークにおける透過率に関しては、測定温度23℃にて、UV/VIS分光光度計(島津製作所製、型式:UV−1700)を用いて測定した値である。
<実施例51、及び52>
実施例37、または50で得られたフォトクロミック光学物品(バインダー品;第一光学シート/接着樹脂層/フォトクロミック層/接着樹脂層/第二光学シート)において、第二光学シート側のフォトクロミック層と接着樹脂層の間に、偏光フィルムを積層した以外は、実施例37、または50と同様の方法にて光学積層体を作製し、得られたフォトクロミック光学物品(バインダー品)の特性を評価した。その結果を、表8に示す。
Figure 0006980376
上記実施例1〜52から明らかなように、好適に使用できるフォトクロミック化合物を用いた本発明のフォトクロミック光学物品は、良好なフォトクロミック特性、可視光感度を有し、更に良好な防眩性を有していることが分かる。
一方、比較例1〜20に示すように、好適に使用できるフォトクロミック化合物を含有しないフォトクロミック光学物品においては、可視光感度、また防眩性が不十分であった。

Claims (10)

  1. 下記式(1)
    Figure 0006980376
    (R及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、置換若しくは被置換のアミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基、または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、両方が水素原子となることはなく、
    は、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基、または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、
    及びRは、それぞれ、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜14のヘテロアリール基または炭素数1〜6のアルキル基であり、
    及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数2〜7のアルコキシアルキル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、あるいは、
    及びRは、それらが結合する13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3〜20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3〜20である複素環、または前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成していてもよい)
    に表され、
    23℃、1.0mMの濃度に調整したトルエン溶液を測定試料とした場合に、
    420nmにおける吸光度が0.100以上0.800以下であり、
    430nmにおける吸光度が0.015以上0.500以下であり、かつ、
    発色濃度を測定する際に、380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定した発色濃度の値を、380nm以下の波長の光を遮断しない状態で測定した発色濃度の値で除した値が0.60以上となる第一フォトクロミック化合物、及び、
    23℃、1.0mMの濃度に調整したトルエン溶液を測定試料とした場合に、
    420nmにおける吸光度が0.100未満であり、
    430nmにおける吸光度が0.015未満であり、かつ、
    発色濃度を測定する際に、380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定した発色濃度の値を、380nm以下の波長の光を遮断しない状態で測定した発色濃度の値で除した値が0.60未満となる第二フォトクロミック化合物
    を含むフォトクロミック組成物を含有してなるフォトクロミック光学物品。
  2. 前記式(1)において、Rは、炭素数1〜6のアルコキシ基である請求項1に記載のフォトクロミック光学物品。
  3. さらに、550〜600nmの波長の範囲に吸収ピークを有する色素を含有してなる請求項1又は2に記載のフォトクロミック光学物品。
  4. 前記色素が、ポルフィリン系化合物である請求項に記載のフォトクロミック光学物品。
  5. 下記式(1)
    Figure 0006980376
    (R及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、置換若しくは被置換のアミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基、または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、両方が水素原子となることはなく、
    は、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を含み且つその窒素原子でそれが結合している芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環に結合する複素環基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基、または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、
    及びRは、それぞれ、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜14のヘテロアリール基または炭素数1〜6のアルキル基であり、
    及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数2〜7のアルコキシアルキル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリールオキシ基または置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、あるいは、
    及びRは、それらが結合する13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3〜20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3〜20である複素環、または前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成していてもよい)
    に表され、
    23℃、1.0mMの濃度に調整したトルエン溶液を測定試料とした場合に、
    420nmにおける吸光度が0.100以上0.800以下であり、
    430nmにおける吸光度が0.015以上0.500以下であり、かつ、
    発色濃度を測定する際に、380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定した発色濃度の値を、380nm以下の波長の光を遮断しない状態で測定した発色濃度の値で除した値が0.60以上となる第一フォトクロミック化合物、及び、
    23℃、1.0mMの濃度に調整したトルエン溶液を測定試料とした場合に、
    420nmにおける吸光度が0.100未満であり、
    430nmにおける吸光度が0.015未満であり、かつ、
    発色濃度を測定する際に、380nm以下の波長の光を遮断した状態で測定した発色濃度の値を、380nm以下の波長の光を遮断しない状態で測定した発色濃度の値で除した値が0.60未満となる第二フォトクロミック化合物
    を含むフォトクロミック組成物を含有するフォトクロミック層と、
    光学基材と
    を少なくとも有する積層体からなるフォトクロミック光学物品。
  6. 前記式(1)において、Rは、炭素数1〜6のアルコキシ基である請求項に記載のフォトクロミック光学物品。
  7. 前記積層体が、
    前記フォトクロミック層、および前記光学基材の少なくとも一方に、550〜600nmの波長の範囲に吸収ピークを有する色素を含有してなることを特徴とする請求項5又は6に記載のフォトクロミック光学物品。
  8. 前記積層体が、さらに、プライマー層を有し、かつ、前記光学基材、前記プライマー層、および前記フォトクロミック層をこの順で有してなり、
    少なくとも前記プライマー層が、550〜600nmの波長の範囲に吸収ピークを有する色素を含有してなることを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載のフォトクロミック光学物品。
  9. 前記色素が、ポルフィリン系化合物である請求項7又は8に記載のフォトクロミック光学物品。
  10. 請求項1〜の何れかに記載のフォトクロミック光学物品、および偏光シートを有する光学積層体。
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