JP6978650B1 - 積層造形物の熱処理方法および低熱膨張合金造形物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】スーパーインバーの標準的な組成を有する低熱膨張合金造形物を付加製造技術を用いて製造する。【解決手段】付加製造された積層造形物の熱処理方法であって、質量%で、Ni:30.5〜33.5%、Co:4.0〜6.5%、Mn:0〜0.60%、Si:0〜0.25%、Cr:0〜0.25%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する積層造形物を900〜1150℃で保持する工程を有する、積層造形物の熱処理方法。【選択図】図1
Description
本発明は、付加製造技術を用いて製造されたスーパーインバー組成を有する積層造形物の熱処理方法に関する。また、本発明は、かかる熱処理方法を用いた低熱膨張合金造形物の製造方法に関する。
室温付近でほとんど熱膨張を生じない合金として、Fe−32Ni−5Co(数字は質量%)で表示されるスーパーインバー合金が熱膨張を嫌う各種制御機器、精密計測機器などの分野で用いられている。一方、金属の立体造形物の製造方法として、付加製造技術、いわゆる3Dプリント技術が複雑な形状の製品を比較的短時間で製造できることから注目されている。付加製造技術を適用可能な金属や合金の種類は限られているが、種々の合金に付加製造技術を適用するための研究開発が盛んに行われている。従来板材や棒材の圧延や鍛造によって製造されているスーパーインバー合金製の部材に対しても、付加製造技術を適用する開発が進められている。
スーパーインバー合金に付加製造技術を適用することに関連して、特許文献1には、スーパーインバー組成からCo含有量を少なくした合金粉末を原料として、付加製造技術を用いて低熱膨張係数の部材を製造する方法が記載されている。しかし、付加製造においてもスーパーインバーの標準的な組成を用いることができれば、付加製造用途だけのために組成の異なる原料を準備する必要がなくコスト面でメリットがあるし、過去に蓄積された技術的な知見を利用できるというメリットがある。
本発明は、上記を考慮してなされたものであり、スーパーインバーの標準的な組成を有する低熱膨張合金造形物を付加製造技術を利用して製造する方法、およびそのための積層造形物の熱処理方法を提供することを目的とする。
本発明の積層造形物の熱処理方法は、付加製造された積層造形物の熱処理方法であって、質量%で、Ni:30.5〜33.5%、Co:4.0〜6.5%、Mn:0〜0.60%、Si:0〜0.25%、Cr:0〜0.25%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する積層造形物を900〜1150℃で保持する工程を有する。
本発明の低熱膨張合金造形物の製造方法は、質量%で、Ni:30.5〜33.5%、Co:4.0〜6.5%、Mn:0〜0.60%、Si:0〜0.25%、Cr:0〜0.25%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する合金粉末の均一な薄層を形成する第1工程と、前記薄層上にレーザー光を走査しながら照射して前記合金粉末を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を製造する造形工程と、前記積層造形物を900〜1150℃で保持する溶体化処理工程とを有する。
本発明の積層造形物の熱処理方法または低熱膨張合金造形物の製造方法によれば、スーパーインバーの標準的な組成と付加製造技術を用いて、低い熱膨張係数を実現できる。
本発明の積層造形物の熱処理方法および低熱膨張合金造形物の製造方法の実施形態を説明する。本実施形態では、合金粉末を用いて付加製造により積層造形物を製造し、得られた積層造形物を熱処理することによって低熱膨張合金造形物を製造する。
原料となる合金粉末はスーパーインバー(SI)合金の粉末であり、米国試験材料協会(ASTM)と自動車技術者協会(SAE)による合金の統一番号システム(UNS)のK93500に規定されたSI合金の標準的な組成を有する。具体的には、Ni:30.5〜33.5%、Co:4.0〜6.5%、Mn:0〜0.60%、Si:0〜0.25%、Cr:0〜0.25%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる。なお、本明細書において、合金組成の各成分の%は質量%を意味する。
Fe、NiおよびCoは、SI合金を特徴づける主要成分である。
Mn、SiおよびCrは各種特性を改善するために添加されることがある。しかし、含有量が多すぎると熱膨張係数の増大が無視できないので、許容される最大含有量が定められている。Mnは脱酸素剤として添加されることがある。Mnは0.60%まで許容される。SiはMnと同じく脱酸素剤として添加されることがある。Siは0.25%まで許容される。Crは機械強度を向上させるために添加されることがある。Crは後述するひずみ取り処理中に炭化物として析出し、時効硬化により機械強度を向上させる機能を有する。Crは0.25%まで許容される。
上記規定には、いくつかの不純物についても上限が定められており、本実施形態で使用する合金粉末もそれに従う。具体的には次のとおりである。
Al:0〜0.10%
Mg:0〜0.10%
Zr:0〜0.10%
Ti:0〜0.10%
Al+Mg+Zr+Ti:0〜0.20%
C:0〜0.05%、
P:0〜0.015%
S:0〜0.015%
P+S:0〜0.025%
Al:0〜0.10%
Mg:0〜0.10%
Zr:0〜0.10%
Ti:0〜0.10%
Al+Mg+Zr+Ti:0〜0.20%
C:0〜0.05%、
P:0〜0.015%
S:0〜0.015%
P+S:0〜0.025%
また、上記以外の元素についても、原料や製造工程に由来する不純物が混入することがあるが、その場合でも不可避的不純物の含有量の合計は熱膨張係数に影響しない範囲とし、0.30%以下であることが好ましい。
合金粉末の形状および粒度は、付加製造での使用に適したものを用いることができる。粉末の薄層をレーザー光で溶解・凝固させて積層するレーザー溶融法(SLM、Selective Laser Melting)に適した合金粉末の性状は一般に次のとおりである。合金粉末は、真球であることまでは要しないが、球状であることが好ましい。薄層を形成する際の流動性が良いからである。合金粉末の粒度は、ある程度広い分布を有していることが好ましい。薄層を形成する際に充填率を高められるからである。具体的には、レーザー回折・散乱法によって測定された粒径の体積基準のメジアン径d50が、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜50μmである。また、粒径の分布幅の指標として、SD=(d84−d16)/2を用いることができ、好ましくはSDがd50の0.2〜0.5倍である。なお、d50、d84、d16は、全体積を100%としたときの累積カーブがそれぞれ50%、84%、16%となる点の粒子径を表す。以上の特性を備える合金粉末として、ガスアトマイズ法により製造されたものを好ましく用いることができる。
付加製造の方式としては、好ましくはSLM法を用いる。SLM法は粉末床溶融結合方式の一種で、原料となる金属粉末を造形ステージに敷き詰め、その所定位置にレーザー光を走査しながら照射して金属粉末を溶融・凝固させて積層することを繰り返す方法である。これにより、上記合金粉末の組成を有する積層造形物が製造される。
付加製造された積層造形物は熱処理される。熱処理は溶体化処理とひずみ取り処理からなる。
溶体化処理は合金の溶質原子(Ni、Co)を均一に固溶させて組成を均一化する目的で行われ、溶解度曲線(本実施形態の組成では500℃付近)以上に加熱して、多少急冷ぎみに冷却する処理である。溶体化処理温度が高すぎると結晶粒が粗大化して、また場合によっては炭化物が凝集して、機械強度が低下するおそれがあるので、SI合金部材では800〜850℃で行われることが多いが、本実施形態では900〜1150℃、好ましくは950〜1100℃で行う。
ひずみ取り処理は、溶体化処理後の冷却によるひずみを除去する目的で行われ、残留ひずみを緩和できる温度に加熱して徐冷する処理である。ひずみ取り処理は300〜350℃で行われることが多く、本実施形態でも一般的な条件で行うことができる。なお、合金が時効硬化成分を含む場合には、ひずみ取り処理中に時効析出する。また、ひずみ取り処理は、300〜350℃で処理した後に、再度100℃付近で行われることもある。
積層造形物に対して溶体化処理とひずみ取り処理を行うことによって、低熱膨張合金造形物が完成する。
完成したSI合金造形物は主に常温付近で用いられるため、その熱膨張係数は、−20〜50℃の平均熱膨張係数が好ましくは0±0.5ppm/℃の範囲にある。また、上記UNS K93500を引用するASTM F1684−06規格の附録には、SI合金の熱膨張係数の例として0.3ppm/℃(25〜100℃)が記載されており、本実施形態の低熱膨張合金造形物の−20〜50℃の平均熱膨張係数が0±0.3ppm/℃の範囲にあればさらに好ましい。
本実施形態の方法を実施例によってさらに詳細に説明する。
原料にはガスアトマイズ法により製造されたSI合金粉末を用いた。表1に合金粉末の組成および粒度を示す。表1において、MNは個数平均径、MVは体積平均径、d10、d50、d90は、全体積を100%としたときの累積カーブがそれぞれ10%、50%、90%となる点の粒子径を表す。d50はメジアン径である。SDは粒度分布の広がりの指標で、SD=(d84−d16)/2である。
SI合金粉末を用いて、SLM法により、後述する各種試験片の形状の積層造形物を作製した。積層造形は、Ybファイバーレーザー(レーザー焦点径100μm)を用いた粉末積層造形システム(EOS GmbH、M290)を使用し、積層厚さ40μmに対して最適化したレーザー出力でハッチ間隔0.10mmで行った。
作製した積層造形物の溶体化処理条件を変えて熱処理を行って、低熱膨張合金造形物を作製した。溶体化処理は、10℃/分の速度で所定温度まで昇温し、所定時間保持した後、水冷によって室温まで冷却した。溶体化処理後にひずみ取り処理を行った。ひずみ取り処理は、5℃/分の速度で320℃まで昇温し、1時間保持した後、設定温度を2.5℃/分の速度で下げて炉内で徐冷した。ただし、実施例5では、溶体化処理後に水冷に代えて、Arガスを吹き付ける風冷によって室温まで冷却し、ひずみ取り処理後に電気炉の電源を切って炉内で放冷した。
熱膨張係数は、4mm×4mm×15mmの試験片を4mmの方向を積層方向として造形し、熱機械試験機(真空理工株式会社、竪型熱膨張計TM−7000型)を用い、JIS Z2285に準拠して、He雰囲気中で5℃/分の速度で昇温しながら、長さ方向(積層方向に垂直な方向)の熱膨張係数を測定した。ただし、実施例5では、4mm×4mm×20mmの試験片を20mmの長さ方向を積層方向として造形し、He雰囲気中で3℃/分の速度で昇温しながら、長さ方向(積層方向)の熱膨張係数を測定した。
表2に比較例および実施例の熱処理条件と−20℃〜50℃の平均熱膨張係数を示す。図1に溶体化処理温度と−20℃〜50℃の平均熱膨張係数の関係を示す。
表2および図1から、造形まま材(比較例1)を熱処理することによって熱膨張係数の絶対値は小さくなり、比較例2〜3、実施例1〜5では0±0.5ppm/℃の範囲にあった。さらに、実施例1〜5では、比較例2〜3より熱膨張係数の絶対値が小さく、0±0.3ppm/℃の範囲にあった。
以上の結果から、900〜1150℃の範囲で溶体化処理を行うことによって、−20〜50℃の平均熱膨張係数を0±0.3ppm/℃の範囲にできる。溶体化処理の保持時間は、温度が拡散に対して指数関数的に影響するのに比べると影響が小さいので、15分〜5時間の範囲、好ましくは30分〜2時間の範囲で定めることができる。
溶体化処理温度を900℃以上とした実施例1〜5でより小さな熱膨張係数が得られた原因を以下に検討した。
比較例1〜3と実施例4の試料を積層方向に沿って切断、研磨して光学顕微鏡で観察したところ、比較例1(積層まま材)ではレーザー走査によって溶解した部分であるメルトプールを示す円弧状の痕跡が随所に見られたのに対して、比較例2〜3ではレーザー痕が減少し、実施例4では完全に消失していた。SLM法では、メルトプールが凝固した後に大きな偏析が残ることが知られている。レーザー痕が比較例2〜3では一部残存するのに対して、実施例4では完全に消失していることが、熱膨張係数の差となって現れたと考えられる。
次に同じ試料を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。比較例1では、樹枝状晶(デンドライト)が観察され、デンドライト2次枝の間隔(DAS)は0.7〜1μm程度であった。付加製造では融解した合金が急速に冷却されるため、一般的にデンドライト構造がよく観察される。比較例2〜3では、組織の変化が認められるものの、デンドライト領域の筋模様のピッチは比較例1と同程度であった。このことから、比較例2〜3では、元の樹枝状晶の粒界を維持した状態で溶質濃度の均一化が進んだものと考えられる。実施例4では、筋模様のピッチが比較例2〜3と同程度である領域中に、そのピッチが1.6〜2.5μm程度に広がった領域が混在しており、比較例2〜3と明らかに異なる組織を示していた。このピッチが広がった領域は、隣接する樹枝状晶の粒界が消滅して結晶が大きくなったものと考えられる。
実施例4において樹枝状晶の一部でだけ粒界が消滅した理由は、原料粉末中の溶質原子の偏析による可能性がある。原料粉末のX線回折(XRD)測定を行ったところ、Fe−Ni固溶相のfcc(面心立方)格子のピークが支配的であるものの、Fe相によると思われるbcc(体心立方)格子のピークが見られた。前述のとおり、付加製造で用いる粒子は粒度分布がある程度広いことが好ましく、本実施例で用いた粉末もd90が53.8μmであった。ガスアトマイズ法では冷却速度に限界があり、大きな粒子内では組成が偏析していると考えられる。付加製造工程では原料粉末中の偏析は均一化されないので、大きな粒子内の偏析に起因して濃度勾配が大きい部分で、隣接する樹枝状晶の粒界が消滅したと考えられる。付加製造技術を利用してSI合金造形物を製造する場合は、原料粉末に起因する組成偏析が避けられないので、他の製造方法を用いる場合より高い温度で溶体化処理を行うことが好ましい。
また、表2および図1から、溶体化処理を1000℃と800℃の2段階で行った実施例4では、1000℃の1段階で行った実施例2より熱膨張係数の絶対値が小さくなった。この原因は必ずしも明らかでないが、1000℃での溶体化処理後の冷却過程で偏析が生じた可能性がある。溶体化処理は、均一化された組成が冷却過程で偏析しないために、多少急冷ぎみに冷却される。Fe−Ni合金は約910℃以下の温度で2相に分離するので、組成の偏析を避けるには、その温度付近の冷却速度を大きくすることが好ましい。しかし、積層造形物を1000℃から冷却する際に、積層造形物の内部では表面より冷却速度が小さかった可能性がある。実施例4では、1000℃の溶体化処理で樹枝状晶をまたぐ組成の均一化が起こり、その後の冷却過程で多少偏析が生じたものが、800℃の溶体化処理で再度均一化した可能性がある。
また、表2および図1から、実施例5の熱膨張率の絶対値は、実施例4より大きかったが、比較例2〜3より小さく、溶体化処理後の冷却方法として風冷を採用できることが確認された。工業プロセスとして考えると、溶体化処理後の水冷には錆の発生や設備の複雑化などの問題があるため、風冷が適用可能であることは実用上大きな利点である。
次に、比較例1と実施例4の試料について、上記熱機械試験機を用いてマルテンサイト変態温度(Ms)を確認した。マルテンサイト変態温度は、比較例1では−62.6℃、実施例4では−77.5℃であった。比較例1、実施例4ともに、室温付近での使用ではマルテンサイト変態による低熱膨張特性の消失という問題が生じないことが確認できた。
比較例1〜3と実施例4について、図2の試験片を、長さ方向または直径方向を積層方向として2個ずつ作製し、万能材料試験機(米国インストロン社、5982)を用いて、JIS Z2241に準拠して、25℃で引張試験を行った。結果を表3に示す。表中の「//Z」が積層方向への引張特性、「⊥Z」が積層方向と垂直な方向への引張特性を示す。
いずれの試料についても、実用上十分な強度を有していることが確認できた。なお、各試料の機械特性は異方性を示しているが、これは主として積層方向に延びる結晶形状に起因するものと考えられる。
Claims (2)
- 付加製造された積層造形物の熱処理方法であって、
質量%で、Ni:30.5〜33.5%、Co:4.0〜6.5%、Mn:0〜0.60%、Si:0〜0.25%、Cr:0〜0.25%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する積層造形物を900〜1150℃で保持する工程を有する、
積層造形物の熱処理方法。 - 質量%で、Ni:30.5〜33.5%、Co:4.0〜6.5%、Mn:0〜0.60%、Si:0〜0.25%、Cr:0〜0.25%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する合金粉末の均一な薄層を形成する第1工程と、前記薄層上にレーザー光を走査しながら照射して前記合金粉末を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を製造する造形工程と、
前記積層造形物を900〜1150℃で保持する溶体化処理工程とを有する、
低熱膨張合金造形物の製造方法。
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