以下図面を参照して、浮遊容量を推定するモータ駆動装置について説明する。理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。図面に示される形態は実施するための一つの例であり、図示された実施形態に限定されるものではない。
図1は、本開示の実施形態によるモータ駆動装置を示す図である。図2は、電流検出回路及び温度測定部の構成を示す図である。
一例として、交流電源2に接続されたモータ駆動装置1により、1巻線タイプの交流モータ(以下、単に「モータ」と称する。)3を1個制御する場合について説明する。モータ3の個数は本実施形態を特に限定するものではなくこれ以外の個数であってもよい。また、モータ3は複数巻線タイプであってもよい。インバータ12は、モータの巻線ごとに設けられる。例えば、インバータ12は、1巻線タイプのモータ3が複数個ある場合はモータ3ごとに、複数巻線タイプのモータ3が1個ある場合は巻線ごとに、複数巻線タイプのモータ3が複数個ある場合は各モータの3の巻線ごとに、それぞれ設けられる。本実施形態における高周波電流検出部13及び浮遊容量推定部15は、1個のインバータ12に対して例えば1個設ければよい。モータ3が設けられる機械には、例えば工作機械、ロボット、鍛圧機械、射出成形機、産業機械、各種電化製品、電車、自動車、航空機などが含まれる。
モータ駆動装置1に接続される交流電源2及びモータ3の相数は本実施形態を特に限定するものではなく、例えば三相であっても単相であってもよい。また、モータ3の種類についても本実施形態を特に限定するものではなく、例えば誘導モータであっても同期モータであってもよい。なお、以下で説明する例では、モータ駆動装置1をコンバータ11及びインバータ12を有して交流電源2を駆動源として交流のモータ3を駆動するものとしたが、本実施形態は、コンバータを有さずにバッテリなどの直流電源(図示せず)を動力源としたインバータを有するモータ駆動装置にも適用可能である。
一実施形態によるモータ駆動装置1を説明するに先立ち、モータ3に対する駆動制御について説明する。モータ駆動装置1は、一般的なモータ駆動装置と同様、DCリンクから入力(印加)された直流電圧とモータ3を駆動するための交流電圧に変換して出力するインバータ12を制御する。モータ駆動装置1内のモータ制御部30は、モータ3の回転速度(速度フィードバック)、電流検出回路13を介して検出されるモータ動力線6に流れる電流(電流フィードバック)、所定のトルク指令、及びモータ3の動作プログラムなどに基づいて、モータ3の回転速度、トルク、もしくは回転子の位置を制御するためのスイッチング指令を生成する。モータ制御部30によって作成されたスイッチング指令に基づいて、インバータ12の電力変換動作が制御される。
図1に示すように、モータ駆動装置1は、インバータ12と、電流検出回路13と、温度測定部14と、浮遊容量推定部15と、上述のモータ制御部30とを備える。また、モータ駆動装置1は、インバータ12に直流電圧(直流電力)を供給するコンバータ11を備える。また、モータ駆動装置1は、オプションとして比較部16及びアラーム部17を備えてもよい。なお、図1において、モータ動力線6及びモータ3で発生する浮遊容量を参照符号5で示す。
コンバータ11は、交流電源2から入力された交流電圧を直流電圧に変換して直流側であるDCリンクに出力する。コンバータ11の例としては、ダイオード整流回路、120度通電型整流回路、あるいは内部にパワー素子を備えるPWMスイッチング制御方式の整流回路などがある。本実施形態では、交流電源2を三相としたので、コンバータ11は三相のブリッジ回路として構成されるが、交流電源2が単相である場合は単相ブリッジ回路で構成される。なお、バッテリなどの直流電源(図示せず)をインバータ12に対する直流電圧の供給源とする場合は、モータ駆動装置1はコンバータを有さない。
コンバータ11の直流出力側とインバータ12の直流入力側とを接続するDCリンクには、DCリンクコンデンサ(平滑コンデンサとも称する)4が設けられる。DCリンクコンデンサ4は、コンバータ11の直流出力の脈動分を抑える機能及びDCリンクにおいて直流電力を蓄積する機能を有する。
インバータ12は、パワー素子(半導体スイッチング素子)及びこれに逆並列に接続されたダイオードのブリッジ回路からなり、モータ制御部30から受信したスイッチング指令に基づき各パワー素子がオンオフ駆動されることで、DCリンクから入力された直流電圧を、モータ3を駆動するための交流電圧に変換して出力する。インバータ12とモータ3とはモータ動力線6を介して接続され、したがってインバータ12から出力された電圧が、モータ動力線6を介してモータ3の端子間に印加される。より詳しくは、インバータ12は、モータ制御部30から受信したスイッチング指令に基づき内部のパワー素子をオンオフ駆動させ、DCリンクから入力された直流電圧を、モータ3を駆動するための所望の電圧及び所望の周波数の交流電圧に変換して出力する。これにより、モータ3には、モータ動力線6を介して交流の駆動電流が供給されることになる。パワー素子の例としては、IGBT、サイリスタ、GTO、トランジスタなどがあるが、パワー素子の種類自体は本実施形態を限定するものではなく、その他のパワー素子であってもよい。なお、本実施形態では、モータ駆動装置1に接続されるモータ3を三相交流モータとしたので、逆変換器13は三相ブリッジ回路として構成されるが、モータ3が単相交流モータである場合は単相ブリッジ回路で構成される。
インバータ12から出力された交流電圧がモータ動力線6を介してモータ3に印加されることによって、インバータ12を介してモータ3へ電流が流れる。モータ動力線6を流れる電流は、電流検出回路13によって検出される。電流検出回路13は、ホール素子41及び磁気コア42を有するホール式電流検出回路であり、ホール電流センサとも称される。図2に示すように、電流検出回路13は、ホール素子41と、リング状の磁気コア42と、定電流源43と、アンプ44とを有する。ホール素子41は、ホール効果を利用した磁電変換素子である。ホール効果とは、流れている電流に垂直に磁場をかけたときに電流と磁場の両方に直交する方向に起電力(ホール電圧)が現れる現象であり、この現象のためにホール素子41に流す電流は、定電流源43によって供給される。電流検出対象であるモータ動力線6は、磁気コア42のリング内を通して配置される。磁気コア42のリング内に配置されたモータ動力線6に電流が流れると磁気コア42内に磁束Φが発生し、ホール素子41は、ホール効果により、磁束Φの大きさに応じたホール電圧を生成する。ホール素子41から出力されたホール電圧はアンプ44により増幅され、この増幅信号が、電流検出回路13によるモータ動力線6を流れる電流についての検出信号となる。なお、電流検出回路13は、例えばインバータ12の変換動作を制御するためにモータ制御部30にフィードバックされるインバータ出力電流を検出するために一般的に設けられる電流検出回路と共用にしてもよい。
電流検出回路13によるモータ動力線6を流れる電流についての検出信号は、例えばインバータ12の変換動作を制御するためにモータ制御部30にフィードバックされる。電流検出回路13によって検出されたモータ動力線6を流れる電流には、高周波電流が含まれるので、高周波成分が除去されたインバータ出力電流をモータ制御部30にフィードバックするために、電流検出回路13の後段にはローパスフィルタ(図示せず)が設けられるのが一般的である。
図3は、電流検出回路によるモータ動力線を流れる電流についての検出信号を例示する図であって、(A)は高周波電流を含まない電流についての検出信号を例示し、(B)は高周波電流を含む電流についての検出信号を例示する。なお、図3(A)及び図3(B)においては、図面を簡明なものとするために、PWM制御に伴い発生する電流のリプル成分は省略している。インバータ12とモータ3とを接続するモータ動力線に流れる電流検出回路13によって検出される電流には、図3(B)に示すように、インバータ12内のパワー素子のオンオフ駆動に起因する高周波電流が含まれる。一般にインバータ12の変換動作を制御するためにモータ制御部30にフィードバックされるインバータ出力電流は、図3(B)に示すような高周波電流が含まれる電流から、ローパスフィルタ(図示せず)によって高周波成分が除去された図3(A)に示すような電流が用いられる。高周波成分を含まない電流とは、例えばローパスフィルタによって所定の遮断周波数よりも高い周波数を有する電流成分が除去された電流すなわち「所定の周波数未満の成分を有する電流」と定義することができる。高周波電流の周波数は、例えば数百kHz〜数MHzであり、モータ電流の周波数には依存しない。一例を挙げると、例えば100kHz未満の周波数成分を有する電流を「高周波成分を含まない電流」と定義し、500kHz以上の周波数成分を有する電流を「高周波成分を含む電流」と定義することができる。なお、ここで説明した「100kHz」及び「500kHz」という数値はあくまでも一例であり、その他の数値で「高周波成分を含まない電流」及び「高周波成分を含む電流」を定義してもよい。
ホール素子41及び磁気コア42を有する電流検出回路13の損失としては、一般的に磁気コア42の損失が支配的である。磁気コア42の損失としては、鉄損及び銅損が存在する。このうち鉄損は、流れる電流の周波数に比例する。電流の周波数をf、磁束密度をBm、比例定数をkh、磁気コア42の厚さをt、磁気コア42の抵抗率をρとしたとき、鉄損は下記式1のように表される。
式1から分かるように、高周波電流が多いほど鉄損が増加し、電流検出回路13の発熱量は大きくなる。そこで、本実施形態では、モータ動力線6及びモータ3で発生する浮遊容量を流れる電流はモータ動力線6を流れる電流のうちの高周波成分であるとみなし、この高周波電流に依存する電流検出回路13の温度(の上昇値)に基づいて、モータ動力線6及びモータ3で発生する浮遊容量を推定する。
温度測定部14は、電流検出回路13の温度を測定する。このため、温度測定部14は、電流検出回路13の近傍に設置されるのが好まし。温度測定部14により測定された温度は、浮遊容量推定部15に送られる。
浮遊容量推定部15は、温度測定部14により測定された温度に基づいて、モータ動力線6及びモータ3で発生する浮遊容量を推定する。より詳しくは次の通りである。
浮遊容量推定部15は、記憶部21と、読出し部22と、減算部23と、出力部24とを有する。
記憶部21は、高周波成分を含まない電流の大きさ及び周波数と当該電流を電流検出回路13にて検出したときに測定された温度上昇値との関係が予め規定されたテーブルを記憶する。以下、高周波成分を含まない電流の大きさ及び周波数と当該電流を電流検出回路13にて検出したときに測定された温度上昇値との関係が予め規定されたテーブルを、「第1のテーブル」と称する。記憶部21は、例えばEEPROM(登録商標)などのような電気的に消去・記録可能な不揮発性メモリ、または、例えばDRAM、SRAMなどのような高速で読み書きのできるランダムアクセスメモリなどで構成される。
高周波成分を含まない電流の大きさ及び周波数と当該電流を電流検出回路13にて検出したときに測定される温度上昇値との関係が規定された第1のテーブルは、モータ駆動装置1の実際の運用前に、高周波成分を含まない電流を当該電流検出回路13に実際に流して、このときの電流の大きさ(電流値の実効値)及び周波数と、この電流が電流検出回路13に流れたときに温度測定部14によって測定された温度上昇値との関係を事前に測定して作成しておく。例えば、インバータ12とモータ3とをモータ動力線6を介してできるだけ近接させて接続し、かつ、インバータ13の出力にローパスフィルタを接続してこのローパスフィルタの出力とモータ3との間に電流検出回路13を設置することで、高周波成分を極力排除した交流電流を電流検出回路13に流すことができる。ある基準温度において電流検出回路13に高周波電流を含まない交流電流を流し始めると、温度測定部14が測定する温度は徐々に上昇するが、当該交流電流の流し始めからある程度時間が経過したときに温度測定部14により測定された温度と基準温度との差を、温度上昇値ΔTaとして規定することができる。第1のテーブルの作成にあたっては、高周波成分を含まない交流電流の実効値及び周波数を種々変更し、様々な交流電流の実効値及び周波数の下で温度測定部14により温度上昇値ΔTaを測定する。高周波成分を含まない交流電流の実効値及び周波数について設定変更する際の刻み幅が細かいほど、より多くの状況における温度上昇値ΔTaが得られるので、後述する浮遊容量の推定が高精度になる。このようにして作成された第1のテーブルは、記憶部21に記憶される。
図4は、高周波成分を含まない電流の大きさ及び周波数と当該電流を電流検出回路にて検出したときに測定された温度上昇値との関係が規定された第1のテーブルを例示する図である。図4において、「Arms」は電流のアンペア数の実効値(rms(root mean square)値))を意味する。図4に示すように、例えば、高周波成分を含まない交流電流の実効値が10Armsであり周波数が10kHzのとき、温度上昇値は10℃である。また例えば、高周波成分を含まない交流電流の実効値が30Armsであり周波数が20kHzのとき、温度上昇値は60℃である。なお、図4に示す数値はあくまでも一例であり、例えばPWM周波数によって、また例えば上述のようなモータ駆動装置1の実際の運用前の事前の測定内容によっても、その数値は異なったものとなり得る。
上述のようにモータ駆動装置1によりモータ3を駆動するとモータ動力線6には高周波電流を含む電流が流れ、電流検出回路13の温度は上昇するが、当該電流の流し始めからある程度時間が経過したときに温度測定部14により測定された温度と当該電流の流し始め時に温度測定部14により測定された温度との差を、温度上昇値ΔTとする。読出し部22は、温度測定部14が温度を測定したときに電流検出回路13が検出したモータ動力線6を流れる電流の大きさ(実効値)及び周波数を、記憶部21に予め記憶された第1のテーブルに規定された電流の大きさ及び周波数と照合し、当該電流の大きさ及び周波数に対応した温度上昇値ΔTaを、記憶部21から読み出す。
なお、高周波成分の実効値及び周波数は電流検出回路では検出することはできない。本実施形態では、高周波電流を含む電流の実効値及び周波数と高周波電流を含まない電流の実効値及び周波数とは電流の基本波成分において同じとみなし、読出し部22は、温度測定部14が温度を測定したときに電流検出回路13が検出したモータ動力線6を流れる電流の実効値及び周波数に対応した温度上昇値ΔTaを、記憶部21から読み出す。なお、電流検出回路13が検出したモータ動力線6を流れる電流の実効値及び周波数について、記憶部21に記憶された第1のテーブルに規定された実効値及び周波数に対応するものが存在場合は、読出し部22は、電流検出回路13が検出したモータ動力線6を流れる電流の実効値及び周波数に近い実効値及び周波数を有するものを第1のテーブルから読み出すようにしてもよい。あるいは逆に、電流検出回路13が検出するモータ動力線6を流れる電流の実効値及び周波数が、第1のテーブルに規定された実効値及び周波数と一致するようにモータ駆動装置1を駆動させてもよい。
減算部23は、温度測定部14が測定した温度の上昇値ΔTから、読出し部22が読み出した温度上昇値ΔTaを減算する。減算部23よる算出結果ΔTbは、下記式2のように表される。
温度測定部14が測定した温度上昇値ΔTは、高周波電流を含む電流を電流検出回路13が検出したときにおける温度上昇値であり、読出し部22から読み出された温度上昇値ΔTaは高周波電流を含まない電流を電流検出回路13が検出したときにおける温度上昇値であるので、減算部23によって算出された差「ΔT−ΔTa」であるΔTbは、高周波電流分に依存する温度上昇値であるといえる。出力部24は、この高周波電流に依存する電流検出回路13の温度上昇値ΔTbに基づいて、モータ動力線6及びモータ3で発生する浮遊容量を推定する。減算部23によって算出された温度上昇値ΔTbと、これに対応する浮遊容量との関係は、モータ駆動装置1の実際の運用前に事前に測定して第2のテーブルとして作成しておく。高周波電流に依存する電流検出回路13の温度上昇値ΔTbとこれに対応する浮遊容量との関係を示す第2のテーブルも、例えば記憶部21に記憶される。出力部24は、この高周波電流に依存する電流検出回路13の温度上昇値ΔTbに対応する浮遊容量を記憶部21に記憶された第2のテーブルから読み出す。
例えば、インバータ12とモータ3とをモータ動力線6を介してできるだけ近接させて接続し、インバータ13の出力にローパスフィルタを接続し、ローパスフィルタからの出力とモータ3との間に電流検出回路13を設置することで、高周波成分を含まない電流を電流検出回路13に流す環境を整える。そして、モータ3と対地(アース)との間、モータ動力線6と対地(アース)との間、及びモータ3が多相モータである場合はモータ動力線6の相間に、容量既知のコンデンサを接続する。この容量既知のコンデンサは、浮遊容量を模擬したものである。浮遊容量を模擬したコンデンサの容量を種々変更して、電流検出回路13近傍に設置された温度測定部14によって、温度上昇値を測定する。浮遊容量を模擬したコンデンサの容量について設定変更する際の刻み幅が細かいほど、より多くの状況における温度上昇値が得られるので、浮遊容量の推定が高精度になる。
またあるいは、モータ動力線6について、単位長さ当たりの浮遊容量が既知であれば、当該モータ動力線6にてインバータ12とモータ3を接続する。モータ動力線6の長さを種々変更して、電流検出回路13近傍に設置された温度測定部14によって、温度上昇値を測定する。モータ動力線6の長さについて設定変更する際の刻み幅が細かいほど、より多くの状況における温度上昇値が得られるので、浮遊容量の推定が高精度になる。
図5は、高周波電流に依存する電流検出回路の温度上昇値と浮遊容量との関係が規定された第2のテーブルを例示する図である。高周波電流に依存する電流検出回路13の温度上昇値ΔTbとこれに対応する浮遊容量との関係を示す第2のテーブルは、モータ駆動装置1の実際の運用前に事前に測定しておく。高周波電流に依存する電流検出回路13の温度上昇値ΔTbとこれに対応する浮遊容量との関係は、一般的には電流基本波の実効値及び周波数に大きくは依存しないので、例えば、図5のように温度上昇値ΔTbと浮遊容量との関係を1つ測定し、第2のテーブルとして作成しておけばよい。ただし、電流の種々の実効値及び周波数に関して温度上昇値ΔTbと浮遊容量との関係を測定し、第2のテーブルを複数測定すれば、より正確に浮遊容量を推定することができる。図5に示す例では、減算部23によって算出された高周波電流に依存する温度上昇値ΔTbに10℃のとき、浮遊容量は10pFである。また例えば、減算部23によって算出された高周波電流に依存する温度上昇値ΔTbに20℃のとき、浮遊容量は20pFである。また例えば、減算部23によって算出された高周波電流に依存する温度上昇値ΔTbに30℃のとき、浮遊容量は30pFである。なお、図5に示す数値はあくまでも一例であり、モータ駆動装置1の実際の運用環境によって、その数値は異なったものとなり得る。
上述のように作成された第1のテーブル及び第2のテーブルが記憶部21に予め記憶された後に、モータ駆動装置1により実際にモータ3を駆動したときにおいて、読出し部22、減算部23及び出力部24が動作することによって浮遊容量が推定される。
なお、浮遊容量推定部15によって推定された浮遊容量の値は、パソコン、携帯端末、モータ駆動装置1のための制御端末、モータ駆動装置1の上位制御装置などに付属のディスプレイ(図示せず)に表示させてもよい。ディスプレイを介してモータ動力線6及びモータ3で発生した浮遊容量の大きさを知ったユーザは、例えば、インバータ12とモータ3とを接続するモータ動力線6やコンバータ11と交流電源2とを接続する電源線を短いものに交換したり、配線位置を変更したりするといったような設計変更をすることができる。例えば、工場において複数の工作機械が存在する場合において、工作機械内の各々に設けられたモータ駆動装置1のインバータ12内の電流検出回路13ごとに温度測定部14及び浮遊容量推定部15を設ければ、ユーザは機械ごと(すなわち、工作機械ごと、モータ駆動装置1ごと、またはインバータ12ごと)の浮遊容量を把握することができるので、例えば機械ごとの設計変更やシステム全体として設計変更などを効率よく対応することができる。なお、浮遊容量推定部15によって推定された浮遊容量に関するデータを、記憶装置に格納し、当該データをさらなる用途に用いてもよい。
比較部16は、浮遊容量推定部15によって推定された浮遊容量と予め規定された閾値とを比較する。比較部16による比較の結果、浮遊容量推定部15によって推定された浮遊容量が閾値を超えた場合、アラーム部17は、アラーム信号を出力する。例えば閾値は、高周波ノイズによるモータ駆動装置の内部回路及び周辺機器の誤動作や、モータ駆動装置の力率の低下、モータ駆動装置、モータ動力線6及び周辺機器の発熱や破損などをもたらすほどの大きさの浮遊容量が発生したことを検知できる程度の値に設定される。この場合、アラーム部17は、浮遊容量推定部15によって推定された浮遊容量が閾値を超えたときアラーム信号を出力し、例えば、このアラーム信号に基づき、パソコン、携帯端末、モータ駆動装置1のための制御端末、モータ駆動装置1の上位制御装置などに付属のディスプレイに、「誤動作、発熱、破損などをもたらすほどの大きな浮遊容量が発生している」ことを表示させることができる。また、このアラーム信号に基づき、例えばスピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発する音響機器によって、「誤動作、発熱、破損などをもたらすほどの大きな浮遊容量が発生している」ことをユーザに報知するようにしてもよい。このアラーム信号に基づき、例えばプリンタを用いて紙面等にプリントアウトして表示させてもよい。またあるいは、これらを適宜組み合わせてユーザに「誤動作、発熱、破損などをもたらすほどの大きな浮遊容量が発生している」ことを報知してもよい。
なお、比較部16による比較処理に用いられる閾値として、大小2つのレベルの閾値を設定してもよい。例えば、「誤動作や破損はないが大きな発熱の可能性がある浮遊容量が発生している」ことを検知するための第1の閾値を設定し、「誤動作や破損をもたらすほどの大きな浮遊容量が発生した」ことを検知するための、第1の閾値よりも大きい第2の閾値を設定してもよい。例えば、アラーム部17は、比較部16による比較の結果、浮遊容量推定部15によって推定された浮遊容量が第1の閾値を超えたとき事前アラームとしてウォーニング(warning)信号を出力し、浮遊容量推定部15によって推定された浮遊容量が第2の閾値を超えたときアラーム信号を出力する。パソコン、携帯端末、モータ駆動装置1のための制御端末、モータ駆動装置1の上位制御装置などに付属のディスプレイは、ウォーニング信号を受信したときは「大きな発熱の可能性がある浮遊容量が発生している」ことを表示し、アラーム信号を受信したときは「誤動作や破損をもたらすほどの大きな浮遊容量が発生している」ことを表示させることができる。ユーザに対する報知部が上述のスピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発する音響機器やプリンタの場合も同様である。このように大小2つのレベルの閾値を設定して浮遊容量の大きさに応じてウォーニング信号やアラーム信号を出力するようにして、ユーザに報知する浮遊容量の発生状況を2段階に分けることで、よりきめ細やかな対応をとることができる。例えば、ユーザは、ディスプレイ等を通じて、「誤動作や破損はないが大きな発熱の可能性がある浮遊容量が発生している」ことを知ったときは、インバータ12とモータ3とを接続するモータ動力線6やコンバータ11と交流電源2とを接続する電源線の配線位置を変更し、「誤動作や破損をもたらすほどの大きな浮遊容量が発生している」ことを知ったときは、インバータ12とモータ3とを接続するモータ動力線6やコンバータ11と交流電源2とを接続する電源線を太いものに交換するといったような、より効率的な設計変更を行うことができる。
上述のように、一般にインバータ12の変換動作を制御するためにモータ制御部30にフィードバックされるインバータ出力電流として、電流検出回路13によって検出されたモータ動力線6を流れる電流(図3(B))からローパスフィルタ31によって所定の遮断周波数よりも高い周波数を有する電流成分が除去されたもの(図3(A))が用いられる。
図6は、本開示の実施形態によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。モータ駆動装置1によりモータ3を実際に駆動するよりも前に、高周波成分を含まない電流の大きさ及び周波数と当該電流を電流検出回路13にて検出したときに測定される温度上昇値との関係が規定された第1のテーブル、及び高周波電流に依存する電流検出回路13の温度上昇値ΔTbとこれに対応する浮遊容量との関係を示す第2のテーブルを事前に作成し、記憶部21に予め記憶しておく。
モータ駆動装置1が実際の運用にてモータ3を駆動している場合において、ステップS101では、電流検出回路13は、インバータ12とモータ3とを接続するモータ動力線6を流れる電流を検出する。
ステップS102において、電流検出回路13の温度を測定する。
ステップS103において、浮遊容量推定部15は、温度測定部14により測定された温度に基づいて、モータ動力線6及びモータ3で発生する浮遊容量を推定する。
ステップS104において、比較部16は、浮遊容量推定部15によって推定された浮遊容量と閾値とを比較する。
浮遊容量推定部15によって推定された浮遊容量が閾値を超えたと比較部16が判定した場合、ステップS105において、アラーム部17は、アラーム信号を出力する。その後、このアラーム信号に基づき、パソコン、携帯端末、モータ駆動装置1のための制御端末、モータ駆動装置1の上位制御装置などに付属のディスプレイに、「誤動作や破損をもたらすほどの大きな浮遊容量が発生している」ことを表示させてもよい。あるいは、上述のスピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発する音響機器やプリンタにて「誤動作や破損をもたらすほどの大きな浮遊容量が発生している」ことをユーザに報知してもよい。
なお、ステップS104において比較部16が大小2つのレベルの閾値と浮遊容量推定部15によって推定された浮遊容量と比較し、比較部16による比較の結果に応じて、ステップS105においてアラーム部17はウォーニング信号またはアラーム信号を出力するようにしてもよい。
上述の実施形態では、ステップS101からS105の処理は、モータ駆動装置1が実際の運用にてモータ3を駆動している場合に実行されるものとしたが、モータ駆動装置1によるモータ3の駆動の実際の運用(通常運転モード)が行われるタイミングとは異なるタイミングにおいて、モータ駆動装置1の動作モードとして浮遊容量推定モードを別途設け、この浮遊容量推定モードにて、例えば高周波成分を含まない電流の大きさ及び周波数と当該電流を電流検出回路13にて検出したときに測定された温度上昇値との関係が規定された第1のテーブルの電流の実効値及び周波数に沿うように、モータ駆動装置1を動作させてステップS101〜S105を実行して浮遊容量を推定してもよい。
上述の浮遊容量推定部15、比較部16及びモータ制御部30は、例えばソフトウェアプログラム形式で構築されてもよく、あるいは各種電子回路とソフトウェアプログラムとの組み合わせで構築されてもよい。この場合、例えばASICやDSPなどの演算処理装置にこのソフトウェアプログラムを動作させて各部の機能を実現することができる。また、浮遊容量推定部15及び比較部16は、モータ制御部30と同一のASICやDSPなどの演算処理装置にて実現してもよく、あるいはモータ制御部30と別個のASICやDSPなどの演算処理装置にて実現してもよい。
また、インバータ12とモータ3とを接続するモータ動力線6を流れる電流を検出する電流検出回路13は、例えばインバータ12の変換動作を制御するためにモータ制御部30にフィードバックされるインバータ出力電流を検出するために一般的に設けられる電流検出回路と共用にすればよく、電流検出のためのハードウェアを別途設ける必要がない。また、高調波電流を測定するための高調波電流測定器を別途設ける必要もない。本実施形態では、既存の電流検出回路13により検出した電流に基づき浮遊容量を推定するので、モータ動力線6及びモータ3の浮遊容量の発生状況を低コストかつ容易に把握することができ、浮遊容量をできるだけ小さくするような対策を効率よく行うことができる。