以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、患者眼Eに治療レーザ光を照射して、患者眼Eの治療等を行なえる。
図1と図2を用いて説明する。本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、デリバリー部2、レーザ光源ユニット10、および光ファイバー20を備える。デリバリー部2はレーザ照射光学系40(図2参照)を含む。レーザ光源ユニット10は治療レーザ光源11を含む。本実施形態では、デリバリー部2とレーザ照射光学系40が光ファイバー20等で接続されている。レーザ光源ユニット10の筐体内には制御部70が収容されている。レーザ光源ユニット10には、操作ユニット80、フットスイッチ81等が接続される。
本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は更に、細隙灯顕微鏡部3(スリットランプ)とテーブル部4を備える。細隙灯顕微鏡部3は、観察光学系30と照明光学系60を含む(図2参照)。デリバリー部2は本体部5に接続(合体)される。テーブル部4は、デリバリー部2が接続された本体部5を載置する。なお、眼科用レーザ治療装置1の態様は本開示に限るものでは無い。例えば、デリバリー部2とレーザ光源ユニット10が一体化されていてもよい。また、例えば、デリバリー部2と細隙灯顕微鏡部3が一体化されていてもよい。
本実施形態の細隙灯顕微鏡部3は、本体部5とヘッドレスト部22を備える。本体部5は、顕微鏡部7、照明部6、ジョイスティック部9、および変位機構8を備える。顕微鏡部7には観察光学系30(図2参照)が収容される。照明部6には照明光学系60(図2参照)が収容される。変位手段である変位機構8は、テーブル部4上に載置された本体部5(レーザ照射光学系40等)を、上下方向(図1ではY方向)、左右方向(図1ではX方向)、または前後方向(図1ではZ方向)に移動できる。変位機構8は更に、上下方向に伸びる軸を回動中心として、観察光学系30を水平方向に回動できる。術者はジョイスティック部9を操作して、本体部5を上下方向、左右方向、または前後方向に移動できる。
<レーザ光源ユニット>
本実施形態のレーザ光源ユニット10は、治療レーザ光を出射する治療レーザ光源11、可視の照準レーザ光(照準光)を出射する照準光源12、治療レーザ光と照準光を合波するビームスプリッタ13(コンバイナ)、および集光レンズ14を備える。治療レーザ光源11は、治療目的に応じた波長のレーザ光を出射できる。本実施形態の治療レーザ光源11は、眼底Erにレーザ光のエネルギーを吸収させるために可視域の波長、例えば、532nm(緑色)、577nm(黄色)、647nm(黄色)等のレーザ光を出射できる。なお、本実施形態では、制御部70が治療レーザ光源11を制御することで、3種類(緑色/黄色/赤色)の治療レーザ光のいずれかを、治療レーザ光源11から選択的に出射できる。
照準光源12は、治療レーザ光の照射予定位置を術者に認識させるための照準光を出射する。本実施形態では、照準光は、術者が肉眼で視認できるように可視域の波長とされている。照準光として、治療レーザ光と異なる波長を用いてもよい。例えば、波長670nm(赤色)を用いてもよい。これにより、観察光学系30に治療レーザ光を減衰させる術者保護フィルタを設けても、術者が治療レーザ光の照射予定位置を確認し易い。照準光源12としては、例えば、赤色のレーザ光を出射するレーザダイオード(LD)を用いてもよい。
ビームスプリッタ13は、治療レーザ光の大部分を反射し、照準光の一部を透過する。ビームスプリッタ13で合波されたレーザ光は、集光レンズ14により集光され、レーザ照射光学系40へと導光する光ファイバー20の入射端面に入射される。治療レーザ光源11とビームスプリッタ13の間には、治療レーザ光を遮断するシャッター15が設けられている。照準光又は治療レーザ光が導光される光路には、シャッター16が設けられている。本実施形態のシャッター16は、異常時に閉じられる安全シャッターである。
<レーザ照射光学系>
次いでレーザ照射光学系40を説明する。本実施形態のレーザ照射光学系40(照射手段)は、治療レーザ光源11から出射される治療レーザ光を患者眼Eに照射するために用いられる。なお、本実施形態では、治療レーザ光と照準光とでレーザ照射光学系を共用する。なお、本実施形態のレーザ照射光学系40は、所定のパターンに基づく照準光のスポットを、患者眼Eの組織上に形成するための照準光学系とも言える。以降では治療レーザ光に対して説明するが、照準光も同様である。光ファイバー20の出射端面から出射される治療レーザ光は、レンズ41、レーザ光のスポットサイズを変更するために光軸方向に移動可能なズームレンズ42、ミラー43を介した後、走査部50(走査手段)、対物レンズ46、反射ミラー49、コンタクトレンズCLを経て眼底Er(治療部位)に照射される。なお、コンタクトレンズCLは術者が把持する。
本実施形態の走査部50は、レーザ照射光学系40に設けられる。走査部50は、治療レーザ光のスポット(照射位置)を患者眼Eの眼底Er上で2次元的に走査するために用いられる。なお、患者眼Eの眼底Er上とは、換言するなら、患者眼Eの組織上、又は眼組織上である。本実施形態の走査部50は、レーザ光の照射位置(照射方向)を2次元的に移動させるスキャナミラーを持つ走査光学系である。本実施形態の走査部50は、ガルバノミラー51(第1ガルバノミラー)及びガルバノミラー55(第2ガルバノミラー)を備える。ガルバノミラーをガルバノスキャナと換言してもよい。本実施形態のガルバノミラー51は、レーザ光を反射するミラー52(第1ミラー)と、ミラー52を駆動(回動)する駆動部であるアクチュエータ53とを備える。同様に、ガルバノミラー55は、ミラー56(第2ミラー)とアクチュエータ57を備える。
本実施形態では、レーザ照射光学系40の各光学素子を通った治療レーザ光は、反射ミラー49にて反射された後、コンタクトレンズCLを介してターゲット面である眼底Erに照射される。ズームレンズ42は、不図示のレンズカムに保持されている。レンズカムが回転されることで、各ズームレンズ42は光軸方向に移動される。ズームレンズ42の位置は、レンズカムに取り付けられたエンコーダ42aにより検出される。本実施形態の制御部70は、各レンズの位置情報(検出信号)をエンコーダ42aより受け取り、治療レーザ光のスポットサイズを取得できる。詳細は後述するが、治療レーザ光のスポットがターゲット面で2次元のパターンとして形成されるように、走査部50は制御部70からの指令信号に基づいて制御される。なお、図示は略すが、本実施形態の反射ミラー49は、術者の操作により、レーザ光の光軸L1を2次元的に傾斜させる機構を備える。
図3を併用して、本実施形態の走査部50の構成を説明する。図3は、本実施形態の走査部50の斜視図である。ミラー52は、反射面をX方向に揺動可能となるようにアクチュエータ53に取り付けられている。一方、ミラー56は、反射面をY方向に揺動可能となるようにアクチュエータ57に取り付けられている。本実施形態では、ミラー52の回動軸はY軸と平行であり、ミラー56の回動軸はX軸と平行である。アクチュエータ53とアクチュエータ57は制御部70に接続されており、個別に駆動される。アクチュエータ53とアクチュエータ57には、モータ及びポテンショメータが内蔵されており(共に図示せず)、ミラー52とミラー56の各々は、制御部70の指令信号に基づき独立して回動(揺動)される。このとき、アクチュエータ53とアクチュエータ57のポテンショメータにより、ミラー52またはミラー56がどれだけ回動したかの位置情報が制御部70に送られ、制御部70は、指令信号に対するミラー52またはミラー56の回動位置を把握できる。つまり、本実施形態の制御部70は、ポテンシオメータの出力信号を用いて、各スポットの位置出しを行う。
本実施形態の制御部70は、走査部50の駆動開始、走査部50の駆動停止、治療レーザ光源11からの治療レーザ光の照射開始、治療レーザ光源11からの治療レーザ光の照射停止、の順を繰り返して、眼底Er上に所定パターンのスポットS(一例として図5参照)を形成できる。つまり、本実施形態の制御部70は、走査部50の駆動と治療レーザ光の照射とを制御して、治療レーザ光のパターン照射を行うことが可能である。換言するなら、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、レーザ照射光学系40と走査部50を用いて、所定パターンのスポットを形成するパターン照射手段を有している。本実施形態では、スポットSを構成する各スポットは分離している。しかし、各スポット同士が連結されていてもよい。前述したように、本実施形態のパターン照射手段は、照準光に対しても、所定パターンのスポットSを形成できる。術者は、観察光学系30と照準光を用いて、治療レーザ光の照射予定部位を把握できる。
<観察光学系>
本実施形態の観察光学系30は、患者眼Eを観察するために用いられる。つまり本実施形態の観察光学系30は、患者眼Eを観察するための観察手段である。本実施形態の観察光学系30は、対物レンズ、変倍光学系、保護フィルタ、正立プリズム群、視野絞り、接眼レンズ等を備える。術者は観察光学系30の接眼レンズを覗いて、眼底Er、照準光のスポット(換言するなら照準光が眼底Erで反射した反射光)、および治療レーザ光が照射された眼底Erの部位(照射済みスポット)を確認できる。図4で例示する観察像(術者が視認する眼底像)には、患者眼Eの眼底Er、患者眼Eの黄斑M、患者眼Eの視神経乳頭D、患者眼Eの血管Vが含まれている。なお、観察光学系に受光素子を配置して、患者眼Eの観察像を電子的に取得してもよい。
<照明光学系>
本実施形態の照明光学系60は、患者眼Eに照明光を投光するために用いられる。本実施形態の照明光学系60は、光源61、コンデンサーレンズ62、スリット63、投影レンズ64等を有する。照明光学系60は、患者眼Eにスリット光を投光できる。術者は、照明光学系60により照明された眼底Erを、観察光学系30を用いて観察できる。
<制御部>
図2に戻る。本実施形態の制御部70は、CPU71(プロセッサ)、ROM72、RAM73、および不揮発性メモリ74等を備える。CPU71は、眼科用レーザ治療装置1における各部の制御を司る。ROM72には、各種プログラム、各種パターン(パターンPS1,パターンPP等)、初期値等が記憶されている。RAM73は、各種情報を一時的に記憶できる。不揮発性メモリ74は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。例えば、制御部70に着脱可能に装着されるUSBメモリ、フラッシュROM等を、不揮発性メモリ74として使用してもよい。
本実施形態の制御部70には、治療レーザ光源11、照準光源12、エンコーダ42a、アクチュエータ53、アクチュエータ57、操作ユニット80、およびフットスイッチ81が接続されている。本実施形態のフットスイッチ81は、レーザ光を照射するためのトリガ入力手段である。本実施形態の操作ユニット80は、治療レーザ光の照射条件に係わる各種パラメータを表示するための表示手段としての機能と、治療レーザ光の照射条件に係わる各種パラメータを設定するための設定手段としての機能とを備える。本実施形態の操作ユニット80は、タッチパネル式のモニタ82を備える。タッチパネルが操作(タッチ)されることで、治療レーザ光の照射条件に係わる各種パラメータを設定可能である。なお、本実施形態の制御部70は、モニタ82の表示内容を制御する表示制御手段としての機能を有する。
本実施形態では、フットスイッチ81が術者により踏まれると、制御部70は各種パラメータの設定に基づき、治療レーザ光のパターン(1又は複数のスポット)をターゲット面に形成するように治療レーザ光を照射する。つまり、本実施形態の制御部70は、患者眼Eへの治療レーザ光の照射を制御する照射制御手段である。本実施形態の制御部70は、治療レーザ光源11を制御すると共に、設定されたパターンに基づいて走査部50を制御し、ターゲット面である眼底Er上に治療レーザ光のパターンを形成する。なお、本実施形態の制御部70は、フットスイッチ81が踏まれる前は、治療レーザ光用のパターンを用いて、ターゲット面上に照準光のパターン(1又は複数のスポット)を形成する。
図5は、スポット位置のパターンの一例を示す図である。図5で示すパターンでは、スポットS(図5では9つのスポットの集合体)が、3×3の正方行列状に並べられている。ここで、スポットSとは、照準光、治療レーザ光のいずれも指す。このようなパターンに基づいて、治療レーザ光及び照準光は走査部50により走査され、ターゲット面にパターンが形成されることとなる。スタート位置であるスポット位置SP1からスポットSの照射が開始され、終了位置であるスポット位置SP9へ向かってスポットSが2次元的に走査される。つまり、スポット位置SP1、スポット位置SP2、・・・、スポット位置SP8、スポット位置SP9の順で操作される。本実施形態では、図中の矢印(S字形状)が示すように、スポットSはできるだけスポットS間の移動を効率的に行うように、隣接するスポットSへと順番に走査される。
<使用方法>
本実施形態の眼科用レーザ治療装置1の使用方法を説明する。なお、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、通常出力モードと低出力モードを備える。本実施形態の低出力モードは、患者眼Eの治療部位を少ない照射エネルギー(治療レーザ光)で治療する際に適している。本実施形態の低出力モードは、例えば、黄斑部又は黄斑部周辺の治療に適している。術者は、眼科用レーザ治療装置1の電源を投入する。電源が投入されると、眼科用レーザ治療装置1の初期化が行われ、眼科用レーザ治療装置1は通常出力モードで待機状態となる。
術者は、患者の頭をヘッドレスト部22に固定する。術者は顕微鏡部7の接眼レンズを覗いて観察像を観察しつつ、ジョイスティック部9を操作して、レーザ照射光学系40を患者眼Eに対して位置合わせする。なお、レーザ照射光学系40を患者眼Eに位置合わせする際には、照準光が併用される。術者は、患者眼Eとレーザ照射光学系40の距離を、観察像のピント状態で判断する。以下の説明は、患者眼Eに対するレーザ照射光学系40の位置合わせが完了し、術者は、患者眼Eの眼底Erを観察可能な状態として説明する。
<通常出力モード>
本実施形態の通常出力モードでは、照射条件画面100(図6参照)がモニタ82に表示される。本実施形態の照射条件画面100には、スポットサイズ表示部140、レーザ選択部110、出力設定部120、照射時間設定部130、パターン設定部150(第1パターン選択手段)、テスト部170、および低出力モード選択部180が設けられている。術者は、モニタ82上の各項目(前述した出力設定部120等)をタッチして、治療レーザ光の照射条件等を変更できる。
本実施形態では、スポットサイズ表示部140には、エンコーダ42aの出力信号を用いたスポット直径が表示される。レーザ選択部110は、治療レーザ光の種類(緑色/黄色/赤色)を選択するために用いられる。出力設定部120は、治療レーザ光の出力値(単位はワット)を設定するために用いられる。本実施形態では、治療レーザ光(緑)の出力値を50mW〜1500mWの範囲内、治療レーザ光(黄)の出力値を50mW〜1500mWの範囲内、また、治療レーザ光(赤)の出力値を50mW〜800mWの範囲内で設定できる。
照射時間設定部130は、治療レーザ光の照射時間を設定するために用いられる。本実施形態では、治療レーザ光の照射時間を0.01〜1.00秒の範囲内、又は2.00秒、又は3.00秒に設定できる。パターン設定部150は、治療レーザ光のパターンを設定するために用いられる。本実施形態では、予めROM72に記憶されている25種類のパターンから、所定のパターンを選択できる。テスト部170は、治療レーザ光をテスト照射する際に用いられる。なお、テスト部170がタッチされると、眼科用レーザ治療装置1の照射モードは、通常照射モードとテスト照射モードとに切り替わる。テスト照射モードでは、シングルスポットであるパターンPa(図9(a)参照)が自動設定される。通常照射モードでは、パターン設定部150の操作が有効になる。本実施形態では25種類のパターンから任意のパターンを選択できる。
低出力モード選択部180は、通常出力モードから低出力モードへの切り替えに用いられる。低出力モード選択部180がタッチされると、モニタ82の表示は照射条件画面200(図7参照)に切り替わる。照射条件画面100から照射条件画面200への切り替わりに連動して、眼科用レーザ治療装置1の動作モードは、通常出力モードから低出力モードへと切り替わる。なお、本実施形態では、照射条件画面100と照射条件画面200とで、画面全体の色調が異なっている。詳細には、照射条件画面100の背景色(ベースカラー)は無彩色であるのに対して、照射条件画面200の背景色は有彩色とされている。これにより、術者は、眼科用レーザ治療装置1の動作モード(本実施形態では通常出力モードか低出力モードか)を把握し易い。なお、本実施形態では、照射条件画面100の背景色は灰色であり、照射条件画面200の背景色は黄色である。照射条件画面200の背景色は、低出力モードで固定設定される治療レーザ光(黄)に対応している。
<低出力モード>
前述したように、本実施形態の低出力モードでは、照射条件画面200(図7参照)がモニタ82に表示される。本実施形態の照射条件画面200には、スポットサイズ表示部240、レーザ選択部210、出力設定部220(出力値設定手段)、照射時間設定部230、パターン設定部250(第2パターン選択手段)、出力比率設定部260(補正手段)、テスト部270、移行部280、およびポジションチェック部290(照準選択手段)が設けられている。なお、本実施形態のポジションチェック部290は、一連のパターン照射中に照射領域が移動するパターン(例えば図11(a)〜(c))が設定されている際に表示される。
本実施形態では、スポットサイズ表示部240には、エンコーダ42aの出力信号を用いたスポット直径が表示される。レーザ選択部210は、設定されている治療レーザ光の種類(黄色)を術者に呈示するために用いられる。本実施形態では、低出力モードで照射可能な治療レーザ光の種類は黄色に固定設定されており、レーザ選択部210を用いた治療レーザ光の選択は禁止されている。しかし、緑色の治療レーザ光または赤色の治療レーザ光を選択できてもよい。出力設定部220は、治療レーザ光の出力値(単位はワット)を設定するために用いられる。本実施形態では、治療レーザ光(黄)の出力値を60mW〜1500mWの範囲内で設定できる。照射時間設定部230は、治療レーザ光の照射時間を設定するために用いられる。本実施形態では、治療レーザ光の照射時間を0.01〜0.03秒の範囲内に設定できる。しかし、照射時間設定部230で設定可能な時間を、0.01〜1.00秒の範囲内、又は2.00秒、又は3.00秒に設定できてもよい。
パターン設定部250は、治療レーザ光のパターンを設定するために用いられる。本実施形態では、予めROM72に記憶されている25種類のパターンから任意のパターンを選択できる。テスト部270は、治療レーザ光をテスト照射する際に用いられる。なお、テスト部270がタッチされると、眼科用レーザ治療装置1の照射モードは、通常照射モードとテスト照射モード(以降の説明ではLPMテストモードと呼ぶ場合がある)とに切り替わる。テスト照射モードでは、シングルスポットであるパターンPa(図9(a)参照)が自動設定される。通常照射モードでは、パターン設定部250の操作が有効になる。本実施形態では25種類のパターンから任意のパターンを選択できる。
出力比率設定部260は、出力設定部220で設定されている出力値を補正するために用いられる。詳細には、本実施形態の出力比率設定部260は、出力設定部220で設定されている出力値(補正前)を所定の割合(比率)へと減衰するために用いられる。本実施形態では出力比率設定部260の設定として、出力比率を10〜90%の範囲内で選択できる。なお、選択可能な出力比率の下限値は、出力設定部220で設定されている出力値(補正前)で変化する。一例として、出力設定部220で60mWが設定されている場合、出力比率設定部260で選択可能な出力比率値は90%である。本実施形態の制御部70は、出力比率設定部260の設定にて補正された出力値(換言するなら補正後の出力値)が50mWを下回らないように、出力比率設定部260で選択可能な出力比率値、または出力比率選択画面350で選択可能な出力比率値を制御する。ポジションチェック部290は、レーザ照射光学系40を患者眼Eに位置合わせするために用いられる。詳細には、本実施形態のポジションチェック部290は、治療レーザ光の照射予定領域を患者眼Eの治療対象部位に位置合わせするために用いられる。換言するなら、本実施形態のポジションチェック部290は、エイミング光のパターンを切り替えるために用いられる。
<操作の流れ>
図19を併用し、低出力モードにおける眼科用レーザ治療装置1の操作の流れの一例を説明する。なお、本実施形態では、通常出力モードから低出力モードへの移行時に、眼科用レーザ治療装置1の動作パラメータの一部が低出力モード用に初期設定(自動設定)される。本実施形態では初期設定として、治療レーザ光の種類が黄色に設定され、照準光と治療レーザ光で共用されるパターンがシングルスポット(図9(a)参照)に設定され、出力比率(出力設定部220)が100%に設定される。本実施形態の初期設定は更に、治療レーザ光の出力値(POWER)、照射時間(TIME)にも初期値が自動設定される。
本実施形態の低出力モードは動作状態として、通常動作モードとLPMテストモードを有する。低出力モードの初期状態は、LPMテストモードとされる。LPMテストモードでは、パターン設定部250の操作が無効とされる。つまり、本実施形態のLPMテストモードではパターンの変更が禁止される。なお本実施形態の制御部70は、通常動作モードかLPMテストモードかを、モードフラグをRAM73に記憶して管理している。
図19に戻る。ステップS101にて術者は、出力値(補正前)の設定を行う。詳細には、術者は出力設定部220を操作して、治療レーザ光の出力値(補正前)を設定する。なお、ステップS101で照射時間、または出力値(補正前)と照射時間の両方が設定(変更)されてもよい。換言するなら、ステップS101の設定で、患者眼Eに照射する照射エネルギーが設定されればよい。次いでステップS102にて術者は、フットスイッチ81を操作して治療レーザ光のテスト照射を行う。なお、ステップS102はLPMテストモードの条件下であるため、テスト照射の際に使用されるパターンはシングルスポット(図9(a)参照)である。次いでステップS103にて術者は、治療レーザ光がテスト照射された患者眼Eの部位を観察する。詳細には、術者は、スポット跡の有無、またはスポット跡の度合い(程度)を確認する。次いでステップS104にて術者は、ステップS103での観察結果に基づき、ステップS101で設定した出力値(補正前)が妥当か否かを判断する。出力値(補正前)が妥当であればステップS105に進み、出力値(補正前)が妥当でなければステップS101に戻る。つまり、術者は、LPMテストモード中に、テスト照射とスポット跡の観察とを繰り返し、出力値(補正前)を決定する。なお、出力値(補正前)とは、換言するなら基準となる出力値である。
ステップS105にて術者は、出力比率の変更(設定)を行なう。出力比率設定部260が操作され、出力比率の変更が行われる。本実施形態では、出力比率を10%〜90%の範囲内に変更可能である。なお、選択可能な出力比率の下限値は、出力設定部220で設定されている出力値(補正前)で変化する。一例として、出力設定部220で60mWが設定されている場合、出力比率設定部260で選択可能な出力比率は90%である。詳細は後述するが、本実施形態では、出力比率にて補正された出力値(補正後)が予め設けられている所定値(50mW)を下回らないように、術者の操作が規制される。一例として、術者は、治療レーザ光の照射予定部位(黄斑M,周辺部)、疾患状態等を考慮して、出力比率を変更する。つまり、ステップS105にて、ステップS101で設定された照射エネルギーが補正(本実施形態では減衰)されればよい。
本実施形態では、出力比率が変更されると、通常動作モードへと動作モードが切り替わる。換言するなら、出力比率が100%未満の値に設定されると、LPMテストモードが解除される。LPMテスト状態が解除されると、パターン変更が可能になる。次いでステップS106にて術者は、パターン設定部250を操作して任意のパターンを選択する。次いでステップS107にて術者は、フットスイッチ81を操作して治療レーザ光の照射(本照射)を行う。つまり、選択後のパターンを用いた治療レーザ光の照射は、出力値(補正前)よりも小さい出力値で行われる。以上のようにして、低出力モードでの治療が行われる。換言するなら、選択後のパターンを用いた治療レーザ光の照射は、補正前の照射エネルギーよりも小さい照射エネルギーで照射される。
ステップS101〜S107の流れをまとめると、術者は先ず、基準条件を設定する(ステップS101〜S104参照)。基準条件として、例えば、出力値が設定される。次いで術者は、照射条件の最適化を行なう(ステップS105,S106参照)。照射条件の最適化として、例えば、基準条件で設定された出力値の減衰(補正)が行われる。次いで術者は、最適化した照射条件で治療部位に対して治療を行う(ステップS107参照)。このように、照射条件(照射エネルギー)を段階的に決定することで、例えば、治療レーザ光の照射予定部位(黄斑M,周辺部)、疾患状態等を考慮した治療レーザ光の照射が容易になる。
なお、本実施形態では出力比率の変更(換言するなら出力比率100%からの変更)に連動してLPMテストモードが解除される。しかし、LPMテストモードの解除方法はこれに限るものではない。例えば、照射時間設定部230で設定された照射時間を補正するための時間補正手段を設け、時間補正手段を用いた照射時間の変更に連動して、LPMテストモードが解除されてもよい。つまり、一旦設定された照射エネルギーが補正(変更)された場合に、LPMテストモードが解除されればよい。なお、本実施形態のLPMテストモードは、患者眼Eの複数部位への治療レーザ光のパターン照射が抑制される。換言するなら、本実施形態の通常モードでは、患者眼Eの複数部位への治療レーザ光のパターン照射が可能である。このように、本実施形態ではLPMテストモードを用いることで、眼組織の広い領域への、意図せぬエネルギーの照射を抑制できる。なお、通常モードよりもLPMテストモードの方が、パターン照射時のスポット数が減少されればよい。
<低出力モードでの制御>
図20を用いて、本実施形態の低出力モードにおいて制御部70が実行する制御を説明する。ステップS201にて制御部70は、LPMテストモードか否かを判定する。LPMテストモードの場合はステップS202に進み、通常モードの場合はステップS203に進む。なお、本実施形態では、低出力モードの初期設定はLPMテストモードであり、出力比率は100%である。出力比率が変更されるとLPMテストモードが解除(通常モードへと変更)される。ステップS202ではLPMテスト処理(図21参照)が行われる。なお、LPMテスト処理の詳細は後ほど説明する。
ステップS203にて制御部70は、パターン選択操作の有無を検出する。詳細には、制御部70は、パターン選択画面400にてパターン選択操作がされたか否かを判定する。パターン選択操作がされた場合はステップS204に進む。ステップS204では選択されたパターンへと設定変更する。パターンの設定変更が完了するとステップS205に進む。ステップS205にて制御部70は、照射操作の有無を検出する。詳細には、フットスイッチ81の操作を検出した場合はステップS206に進み、フットスイッチ81の操作を検出しなかった場合はステップS207に進む。ステップS206にて制御部70は、治療レーザ光源11を制御して、レーザ選択部210で設定されている種類の治療レーザ光を、設定されている照射条件に基づき患者眼Eに照射する。ステップS207にて制御部70は、モード終了操作の有無を検出する。詳細には、移行部280の操作を検出すると低出力モードを終了し、通常出力モードに移行する。一方、移行部280の操作を検出しなかった場合は、ステップS201に戻り低出力モードを維持する。なお、本実施形態の低出力モードでは、治療レーザ光のパターン照射に用いられるパターンにて、患者眼Eへの照準光のパターン照射が継続して行われる。
<LPMテスト処理>
図21を用いて、本実施形態のLPMテスト処理(図20のステップS202)にて、制御部70が実行する制御を説明する。ステップS301にて制御部70は、出力値(補正前)の変更操作の有無を検出する。詳細には、出力設定部220の操作を検出するとステップS302に進み、出力設定部220の操作を検出しなかった場合はステップS304に進む。ステップS302にて制御部70は、変更後の出力値(補正前)が60mW未満か否かを判定する。60mW未満の場合は出力値を変更せずにステップS301に戻る。一方、60mW以上の場合はステップS303に進んで出力値(補正前)を変更し、その後、ステップS304に進む。
ステップS304にて制御部70は、照射時間の変更操作の有無を検出する。詳細には、照射時間設定部230の操作を検出するとステップS305に進み、照射時間設定部230の操作を検出しなかった場合はステップS306に進む。ステップS305にて制御部70は、照射時間設定部230の操作に基づく照射時間へと設定変更し、その後、ステップS306に進む。ステップS306にて制御部70は、出力比率の変更操作の有無を検出する。詳細には、出力比率設定部260の操作を検出するとステップS310に進み、出力比率設定部260の操作を検出しなかった場合はステップS307に進む。
ステップS307にて制御部70は、テスト部270の操作の有無を検出する。制御部70は、テスト部270の操作を検出するとステップS308に進み、テスト部270の操作を検出しなかった場合はステップS301に進む(戻る)。ステップS308にて制御部70は、出力比率選択画面350(図18参照)を表示する。出力比率選択画面350には、出力比率ボタンが配置されている。出力比率選択画面350には変更可能な出力比率に対応するボタンが配置される。詳細には、選択されても出力値(補正後)が50mW以上となる出力比率のボタンが配置される。図18に例示する出力比率選択画面350は、出力設定部220にて設定可能な出力値(補正前)が、500mW以上に設定されている場合の画面である。
ステップS309にて制御部70は、出力比率の選択操作の有無を検出する。制御部70は、出力比率の選択操作を検出するとステップS310に進み、出力比率の選択操作を検出しなかった場合はステップS309に留まる。ステップS310にて制御部70は、出力比率を変更する。詳細には、制御部70は、ステップS306で検出した変更操作、又は、ステップS309で検出した選択操作に基づき出力比率を変更する。なお、出力比率で変更された出力値(補正後)は50mW以上である。次いでステップS311にて制御部70は、LPMテストモードを解除する。つまり、LPMテストモードから通常モードへとモード変更する。以上説明したように、制御部70によるLPMテスト処理が行われる。本実施形態の低出力モードでは、患者眼Eに照射する治療レーザ光の出力値は、所定の下限値を下回らないように制御部70にて制御される。これにより、低出力が故の、患者眼Eへの不安定な治療レーザ光の照射が抑制されている。不安定な治療レーザ光とは、例えば、治療レーザ光を繰り返し照射する際に、各照射間で出力値がばらつく事象である。本実施形態では、設定した出力値(補正前)に対して出力比率を設定し易い。
<選択可能なパターン>
図8〜11を用いて、通常出力モードで選択可能なパターンと、低出力モードで選択可能なパターンを説明する。先ず図8,9,10を用いて、通常出力モードで選択可能なパターンを説明する。通常モードの照射条件画面100(図6参照)でパターン設定部150がタッチされると、パターン選択画面300(図8参照)がモニタ82に表示される。本実施形態のパターン選択画面300には、選択部310と移行部320が設けられている。選択部310には、25種類のパターン(パターンPa〜パターンPy1)が5行5列で並べられている。各パターンは形状が異なる。一例として、図9(a)はパターンPaであり、図9(b)はパターンPlであり、図9(c)はパターンPpである。なお、図10(a)はパターンPw1であり、図10(b)はパターンPx1であり、図10(c)はパターンPy1である。選択部310のいずれかのパターンが選択されると、モニタ82の表示は照射条件画面100(図6参照)に切り替わり、パターン表示領域111には選択されたパターンが表示される。なお、パターン選択画面300で移行部320がタッチされると、パターンが変更されることなく照射条件画面100に戻る。
本実施形態のパターンPw1,Px1,Py1の詳細を説明する。図10(a)〜(c)の白丸と黒丸は、眼組織上に形成されるスポットSである。白丸と黒丸はパターン照射の順番を示しており、白丸と黒丸とで照射エネルギーは同じである。本実施形態では、パターンPx1はリング形状のパターンであり、パターンPw1は右側が欠けた略リング形状のパターンであり、パターンPy1は左側が欠けた略リング形状のパターンである。パターンPw1とパターンPy1は、例えば、視神経乳頭からの神経束を避けて治療レーザ光を照射する場合に好適なパターンである。パターンPx1は、例えば、黄斑周辺の一周に対して治療レーザ光を照射する場合に好適なパターンである。
図10(a)〜(c)の各パターンにて、各パターンを構成する複数のスポットは、複数のグループ(例えば第1グループ〜第3グループ)に分割される。図10(a)〜(c)では、第1グループが黒丸で示されている。先ず、第1グループの各スポット(黒丸)の位置に、照準光のスポットが形成される。この状態でフットスイッチ81が操作されると、照準光のスポット位置に治療レーザ光が照射される。第1グループへの治療レーザ光の照射が完了すると、第2グループの各スポットの位置に、照準光のスポットが形成される。この状態でフットスイッチ81が操作されると、照準光のスポット位置に治療レーザ光が照射される。第2グループへの治療レーザ光の照射が完了すると、第3グループの各スポットの位置に、照準光のスポットが形成される。この状態でフットスイッチ81が操作されると、照準光のスポット位置に治療レーザ光が照射される。複数スポットを複数グループに分割することで、パターン照射に費やす時間を分割できる。これにより、例えば、パターン照射中に患者眼Eが動いたとしても、意図せぬ眼組織への治療レーザ光の照射を抑制し易い。
次いで図8,9,11を用いて、低出力モードで設定可能なパターンを説明する。照射条件画面200(図7参照)でパターン設定部250がタッチされると、モニタ82にはパターン選択画面400(図8参照)が表示される。本実施形態のパターン選択画面400には、選択部410と移行部320が設けられている。選択部410には、25種類のパターン(パターンPa〜パターンPy2)が5行5列で並べられている。各パターンは形状が異なる。本実施形態では、パターンPa〜パターンPvの各パターンには、通常出力モードと同じパターンが配置される。また、パターンPw2、パターンPx2、およびパターンPy2には通常出力モードとは異なるパターンが配置される。
図11(a)はパターンPw2であり、図11(b)はパターンPx2であり、図11(c)はパターンPy2である。本実施形態では、パターンPw2、パターンPx2、およびパターンPy2は全て、リング形状のパターンである。パターンPw2とパターンPx2は、複数スポットを複数グループに分割した際の、各グループに含まれるスポット数が異なる。パターンPy2は、パターンPw2とパターンPx2に対して、パターン照射範囲が異なる。パターンPw2、Px2、およびパターンPy2は、例えば、黄斑Mに治療レーザ光を照射する場合に好適なパターンである。
なお、図11(a)〜(c)の白丸と黒丸は、図10(a)〜(c)と同じ意味であるため、説明を省略する。選択部410中のいずれかのパターンが選択されると、モニタ82の表示は照射条件画面200に切り替わり、パターン表示領域211(図7参照)には選択されたパターンが表示される。なお、パターン選択画面400で移行部320がタッチされると、パターンが変更されることなく照射条件画面200に戻る。
以上説明したように、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、通常出力モードと低出力モードとで共用する共用パターン(パターンPa〜Pv)と、通常出力モードと低出力モードの各々で独立して選択可能な個別パターン(パターンPw1,Pw2,Px1,Px2,Py1,Py2)とを備える。また、本実施形態では、通常出力モードと低出力モードとで選択可能なパターンの数は同じであるが、選択可能なパターンの種類(形状)が異なっている。これにより、例えば、通常出力モードと低出力モードの各モードで、使用頻度の高いパターンのみが術者に呈示され、術者の選択操作が簡易化される。また、パターンの誤選択も抑制される。
なお、本実施形態では通常出力モードと低出力モードとで、複数個提示されるパターンのうち3つ異なるが、これに限るものではない。眼科用レーザ治療装置1が複数の動作モードを有し、選択されている動作モードに応じて複数個提示されるパターンの少なくとも何れかが変化すればよい。また、同一の動作モード中でも、照射条件等の設定に応じて複数個提示されるパターンの少なくとも何れかが変化すればよい。なお、「変化する」には呈示するパターンの数の増減も含まれる。
<ポジションチェック手段>
次いで、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1が有するポジションチェック手段を説明する。以降では、低出力モードのパターン選択画面400でパターンPx2(図11(b)参照)が選択されたものとして説明する。パターンPx2が選択されると、患者眼EにはパターンPx2に対応した照準光が照射される。照準光は走査されており、患者眼E上には図12で示す、照準光のスポットAS1が形成される。なお、図12中の×印は以降の説明で用いる基準位置Uである。本実施形態のパターンPx2は、パターンPx2を構成する複数のスポットが、複数のグループ(第1グループG1〜第8グループG8)に分割されている。フットスイッチ81を8回操作すると、パターンPx2に対応する、一連の治療レーザ光の照射が完了される。
以降の説明で用いるパターンPS1〜PS3は、パターンPx2を分割したパターンの一部である。また、一例として、パターンPS1に対応するスポットはスポットAS1である。パターンPS1が設定され、照準光のスポットAS1(第1グループG1)を呈示中にフットスイッチ81が操作されると、スポットAS1を構成する各スポットの位置に治療レーザ光が照射される。治療レーザ光の照射が完了すると、パターンPS2が設定されて、照準光の照射領域が移動する。患者眼E上には、図13で示す照準光のスポットAS2(第2グループG2)が形成される。スポットAS2を呈示中にフットスイッチ81が操作されると、スポットAS2の各スポットの位置に治療レーザ光が照射される。治療レーザ光の照射が完了すると、パターンPS3が設定されて、照準光の照射領域が再び移動する。患者眼E上には図14で示す照準光のスポットAS3(第3グループG3)が形成される。このように、照準光と治療レーザ光の照射領域は、基準位置Uに対して周方向に移動してゆく。
本実施形態の眼科用レーザ治療装置1はポジションチェック手段を有している。本実施形態では、低出力モード中にポジションチェック部290がタッチされると、治療レーザ光のパターンとは異なる形状のパターン(照準光用)を患者眼Eに照射する。図15は、パターンPPが設定され、患者眼E上に形成される照準光のスポットAPを示している。また、図22は、低出力モード中に制御部70が実行する制御を示している。
図22を説明する。ステップS401にて制御部70は、ポジションチェック部290の操作の有無を検出する。ポジションチェック部290の操作を検出した場合はステップS402に進み、ポジションチェック部290の操作を検出しなかった場合はステップS404に進む。ステップS402にて制御部70は、パターンPPを設定し、スポットAPを形成するための照準光を患者眼Eにパターン照射し、その後、ステップS403に進む。ステップS403にて制御部70は、パターンPPを用いた照準光の照射を5秒以上継続しているか否かを判定する。5秒以上継続している場合はステップS404に進み、5秒未満の場合はステップS402に進む。つまり、ポジションチェック部290が操作されると、患者眼Eの組織上に、スポットAPが5秒間形成される。ステップS404にて制御部70は、治療レーザ光のパターン照射に用いるパターン(例えばパターンAP2)に変更し、照準光をパターン照射する。ステップS401〜S404は、低出力モード中に繰返し実行される。
図16,17を用いて、観察像と照準光のスポットとの関係を説明する。図16はパターンPx2(図11(b))を用いたパターン照射の過程であり、患者眼E上に照準光のスポットAS3(第3グループG3)が形成された状態を示している。つまり、図16は、パターンPx2を用いて、黄斑M上に環状の照射を行なう過程を示している。本実施形態では、パターンPx2が選択された場合、フットスイッチ81が操作される度に、照準光のスポットの形成位置と治療レーザ光のスポットの形成位置とが移動する。照準光のスポット(図16だとスポットAS3)は、パターンPx2を構成する複数のスポットの一部である。
図17は、図16の状態にて、ポジションチェック部290をタッチした場合の観察像である。ポジションチェック部290が操作されたことで、パターン照射に用いるパターンは、パターンPS3からパターンPPへと変更される。パターン照射に用いるパターンの変更に伴い、照準光のスポットは、スポットAS3からスポットAPへと切り替わる。なお、図16と図17では図示していないが、基準位置U(図14,15参照)は、図16と図17とで同じ眼組織上の位置である。つまり、図16と図17とで、患者眼Eとレーザ照射光学系40の位置関係は維持されている。本実施形態では、治療レーザ光の照射位置(照射領域)を形成するためのスポットAS(スポットAS1,AS2,AS3等)とは異なる形状であり、治療予定部位に治療レーザ光を照射するためのスポットAPを形成できる。本実施形態では、例えば、治療レーザ光が低エネルギーで照射され、治療レーザ光のスポット痕を観察し難くても、治療レーザ光を本来予定した眼部位に照射し易い。
図22を用いて前述したように、本実施形態では、ポジションチェック部290が操作されると、眼組織上に形成される照準光のスポットは、スポットAS3からスポットAPへと切り替わる。そして、スポットAPは所定時間(予め決定されている5秒間)呈示された後、スポットAPからスポットAS3へと自動復帰される。術者は、スポットAS3からスポットAPへと切り替える際のみ、顕微鏡部7の接眼レンズを覗いた状態を中断すればよい。スポットAPからスポットAS3へは自動で切り替わるため、例えば、術者は、スポットを戻すために顕微鏡部7の接眼レンズを覗いた状態を中断する煩わしさから解放される。なお、スポットAS3からスポットAPへの切り替えが自動で行われてもよい。また、スポットAPを通常呈示とし、ポジションチェック部290が操作されるとスポットASが一時的に形成される態様であってもよい。術者は、スポットASの形成(一時的)が行われている間に治療レーザ光の照射を行えばよい。また、スポットAS3の呈示とスポットAPの呈示とが交互に繰り返されてもよい。
本実施形態のパターンPPは円環形状である。詳細には、本実施形態のパターンPPは、パターンPPを構成する複数のスポットを、基準位置Uを中心として円環形状に配列している。一方、本実施形態のパターンPSは、基準位置Uを中心として周方向に移動されるスポットである。患者眼E上にスポットAPが形成されることで、術者は、一連のパターン照射中にパターン照射領域が周方向に移動しても、患者眼Eとレーザ照射光学系40の位置関係(換言するなら治療レーザ光を当初予定の眼組織領域に照射できるか否か)を容易に判断できる。つまり、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、スポットAPとスポットASの位置関係を変更するための変更手段(一例としてパターンPS1〜3)を備える。
なお、本実施形態のパターン照射領域(スポットASの形成位置)は周方向に移動するが、パターン照射領域の移動は周方向への移動(つまり回動)に限るものでは無い。例えば、パターン照射領域が上下方向/左右方向に移動されてもよい(例えば特開2014−68909号公報を参照されたし)。パターンPPを用いた照準光のパターン照射を行うことで、複数スポットを複数グループに分割する一連のパターン照射時に、一連のパターン照射の基準とする眼組織部位に、レーザ照射光学系40を位置合わせできればよい。なお、本実施形態ではスポットASとスポットAPを切り換えるが、スポットASとスポットAPを同時に形成(呈示)してもよい。
なお、パターンPPを構成する複数のスポットの一部は、パターンPSを構成する複数のスポットの一部と共用されている。図14と図15を用いて説明すると、パターンPS3の枠G内のスポットは、パターンPPの枠H内のスポットと一致する。つまり、本実施形態のパターンPPの直径は、パターンPx2(リング状パターン)の内径と一致している。従って、パターンPx2を用いた治療レーザ光の照射では、パターンPPを構成する各スポットよりも内側に、治療レーザ光が照射されることは無い。術者は眼底Er像と照準光のスポットAPとを観察することで、パターンPx2を用いた一連のパターン照射の際の、治療レーザ光の照射範囲を把握し易い。なお、本実施形態のパターンPPは、例えば、中心窩への照準光の照射を抑制できる。しかし、パターンPPの形状はこれに限るものではない。例えば、パターンPPが、基準位置Uを重心位置にした四角形、十字形状、または中実の円形状であってもよい。また、例えば、パターンPPがシングルスポット(スポットは基準位置Uに配置)であってもよい。一連のパターン照射の基準とする眼組織部位に、レーザ照射光学系40を位置合わせできればよい。本実施形態のスポットAPは黄斑Mへの位置合わせに好適であるが、スポットAPの照準対象は黄斑Mに限るものではない。例えば、スポットAPを用いて、視神経乳頭D、血管V等への照準が行われてもよい。眼科用レーザ治療装置1が、形状が異なる複数のスポットAPを備え、スポットAPを選択できてもよい。この選択は、術者が選択できてもよいし、眼科用レーザ治療装置1の動作モードに応じて自動選択されてもよい。
<まとめ>
以上説明したように、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、治療レーザ光源11から出射される治療レーザ光を患者眼Eに照射するレーザ照射光学系40と、レーザ照射光学系40に設けられ、治療レーザ光のスポットSを患者眼Eの組織上で2次元的に走査する走査手段(走査部50)と、レーザ照射光学系40と走査手段を用いて、所定パターンのスポットを形成するパターン照射手段を備えている。また更に、複数のパターンから所定パターンを選択するためのパターン選択手段(パターン設定部250)と、治療レーザ光の照射エネルギーを設定するための設定手段(出力設定部220,照射時間設定部230)と、設定手段で設定された照射エネルギーを補正するための補正手段(出力比率設定部260)を備えている。パターン選択手段は設定手段で設定された照射エネルギーが補正手段で補正されると、パターン選択を有効にする。これにより、例えば、意図せぬ照射エネルギーでの治療レーザ光のパターン照射が抑制される。
また、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、設定手段には、前記治療レーザ光の出力値を設定するための出力値設定手段が含まれ、補正手段は出力値設定手段で設定された出力値を減衰する。これにより、例えば、治療レーザ光を意図せぬ出力値(治療レーザ光)のまま、患者眼Eに照射してしまう事象が抑制される。また、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、補正手段は補正後の出力値が所定の下限値を下回らないように出力値設定手段で設定可能な設定範囲を規制する。これにより、例えば、不安定な治療レーザ光を患者眼に照射してしまう事象を抑制できる。
また、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、患者眼Eへの治療レーザ光の照射を制御する照射制御手段を備え、パターン照射手段は、パターン選択手段でのパターン選択が禁止されている場合は、所定パターンとしてシングルスポットを形成する。これにより、例えば、基準条件を決定する際の、患者眼Eの負担が軽減される。
また、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、治療レーザ光を患者眼Eの組織に照射するためのレーザ照射光学系40と、治療レーザ光の照射予定領域を示す第1パターン(例えばパターンPS3)と、第1パターンとは異なる形状であり、第1パターンを治療対象部位に位置合わせするための第2パターン(例えばパターンPP)と、第1パターンと第2パターンを記憶する記憶手段(ROM72)と、照準光を患者眼Eの組織上で走査して、第1パターンに基づく第1スポットと第2パターンの基づく第2スポットとを患者眼Eの組織上に形成するための照準光学系(レーザ照射光学系40)を備えている。これにより、例えば、意図せぬ部位への治療レーザ光の照射を抑制できる。
また、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、患者眼Eの組織上に、第1スポットと第2スポットのいずれかを選択的に形成させるための照準選択手段(ポジションチェック部290)を備えている。これにより、例えば、第1スポットと第2スポットとを簡単な操作で容易に切り替え可能である。
また、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、第1スポットと第2スポットの位置関係を変更するための変更手段を備える。これにより、例えば、パターン照射領域を移動させても、照射予定領域に照準光を位置合わせし易い。また、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、患者眼Eへの治療レーザ光の照射を制御する照射制御手段を備え、変更手段は治療レーザ光の照射が行われると、第1スポットを回動中心として、第2スポットを第1スポットに対して周方向に移動させる。これにより、例えば、黄斑へのパターン照射を行い易い。また、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、第1パターンとして円環形状を用いている。これにより、例えば、黄斑へのパターン照射を行い易い。
なお、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、波長が異なる複数の治療レーザ光を患者眼Eに照射できる。しかし、本開示の技術を、特定波長の治療レーザ光(例えば黄色)のみを患者眼Eに照射できる眼科用レーザ治療装置に適用してもよい。また、本実施形態の眼科用レーザ治療装置1は、レーザ光を断続的に照射して、分離したスポットで構成されるパターンを形成する。しかし、レーザ光が連続照射されて、連続したスポットによるパターンが形成されてもよい。
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲及びこれと均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。