以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、以下の構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
まず、図1を参照して、実施形態のECU(Electronic Control Unit)50(車両の電子装置)を搭載する車両の概略構成について説明する。図1は、実施形態のECU50を搭載する車両の概略構成を示す図である。
図1に示すように、車両には、車両を走行させるための駆動力発生装置11と、前輪FR,FLを転舵輪として転舵させるための操舵装置12と、各車輪FL,FR,RL,RR(以下、符号を省略して単に「車輪」という場合もある。)に制動力を付与するための制動装置13と、が設けられている。
駆動力発生装置11には、運転者によるアクセルペダル20の操作量、即ちアクセル開度に基づいた駆動力を発生するエンジン21と、エンジン21の出力軸に接続された自動変速機22とが設けられている。また、駆動力発生装置11には、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1が設けられている。そして、エンジン21から出力された駆動力は、自動変速機22からディファレンシャルギヤ23に伝達され、ディファレンシャルギヤ23から駆動輪である前輪FR,FLに配分される。
なお、車両には、運転者によって操作されるシフト装置25が設けられている。シフト装置25のレンジが前進レンジである場合、自動変速機22からは、車両を前進させる方向の駆動力が出力される。一方、シフト装置25のレンジが後進レンジである場合、自動変速機22からは、車両を後進させる方向の駆動力が出力される。こうした前進レンジであるか又は後進レンジであるかなどのシフト情報は、制動装置13を制御するECU50に送信される。
操舵装置12には、運転者によって操舵されるステアリング30が固定されたステアリングシャフト31と、ステアリングシャフト31に連結された転舵アクチュエータ32とが設けられている。また、操舵装置12には、転舵アクチュエータ32により車両の左右方向に移動自在なタイロッドと、タイロッドの移動により前輪FL,FRを転舵させるリンクとを含んだリンク機構部33が設けられている。また、操舵装置12には、ステアリング30の操舵角に応じた検出信号をECU50に出力する操舵角センサSE2が設けられている。なお、操舵角センサSE2からは、例えば、車両を右方向に旋回させる場合には操舵角が正の値となるような検出信号を出力し、車両を左方向に旋回させる場合には操舵角が負の値となるような検出信号を出力する。
制動装置13には、運転者によるブレーキペダル40の操作力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧発生装置41と、車輪FR,FL,RR,RL毎に個別に設けられたブレーキ装置42a,42b,42c,42dに連結されたブレーキアクチュエータ43とが設けられている。また、制動装置13には、運転者によるブレーキペダル40の操作状況(オン/オフ)に応じた検出信号をECU50に出力するブレーキスイッチSW1が設けられている。
ブレーキアクチュエータ43は、運転者がブレーキペダル40を操作しない場合であっても各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力を付与できるように構成されている。例えば、ブレーキアクチュエータ43は、液圧発生装置41側のブレーキ液圧と、ブレーキ装置42a,42b,42c,42dに設けられたホイールシリンダ内のブレーキ液圧との間に差圧を発生させるための差圧調整弁と、ホイールシリンダ内にブレーキ液を供給するための電動ポンプとを備えている。また、ブレーキアクチュエータ43には、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を個別に調整するための各種弁が設けられている。つまり、本実施形態のブレーキアクチュエータ43は、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を個別に調整可能である。
また、ECU50には、アクセル開度センサSE1、操舵角センサSE2、ブレーキスイッチSW1に加え、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6が電気的に接続されている。また、ECU50には、車両の前後方向における加速度(以下、「前後方向加速度」という。)を検出するための前後方向加速度センサSE7と、車両の横方向(車幅方向)における加速度(以下、「横方向加速度」という。)を検出するための横方向加速度センサSE8と、車両のヨーレートを検出するためのヨーレートセンサSE9とが電気的に接続されている。
なお、前後方向加速度センサSE7からは、車両の走行する路面が水平路である場合において、車両が加速するときには前後方向加速度が正の値となるような検出信号が出力され、車両が減速するときには前後方向加速度が負の値となるような検出信号が出力される。また、車両が降坂路で停車する場合、車両の重心が前側に移動するため、前後方向加速度センサSE7からの検出信号に基づき算出される前後方向加速度は負の値となる。
また、横方向加速度センサSE8及びヨーレートセンサSE9からは、車両が右方向に旋回する場合には、車両の横方向加速度及びヨーレートが正の値となる一方、車両が左方向に旋回する場合には、車両の横方向加速度及びヨーレートが負の値となるような検出信号がそれぞれ出力される。
ECU50は、車両に搭載されたいずれかのシステムのECUに組み込まれてもよいし、独立したECUであってもよい。ECU50は、例えば、不図示のCPU(Central Processing Unit)、コントローラ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有する。ECU50は、インストールされ、ロードされたプログラムにしたがって処理を実行し、各機能を実現することができる。
ECU50は、処理部510と、記憶部520と、を備える。処理部510は、取得部511、判定部512、および、所定の処理を実施するデータ処理部の一例であるゼロ点補正部513を備える。つまり、ECU50は、プログラムにしたがって処理が実行されることにより、取得部511、判定部512、ゼロ点補正部513等として機能することができる。また、記憶部520には、各部の演算処理で用いられるデータや、演算処理の結果のデータ等が記憶される。なお、上記各部の機能の少なくとも一部は、ハードウエアによって実現されてもよい。
取得部511は、車両に搭載された各センサSE1〜SE9、ブレーキスイッチSW1等からデータ(検出データ)を取得する。
各センサSE1〜SE9のうち、ゼロ点を補正する対象となるのは、例えば、ヨーレートセンサSE9である。ゼロ点とは、センサの基準値である。ゼロ点は、例えば、車両のヨーレートの場合、車両のヨーレートがゼロ、すなわち車両に全く左右の回転が発生していない状態を示す値である。ヨーレートセンサSE9は、周囲の温度変化による出力電圧等の変動である温度ドリフト等によって、現在設定されているゼロ値と現実のゼロ値に差のある場合がある。そこで、ゼロ点の補正が必要となる。ヨーレートセンサSE9のゼロ点補正では、例えば、車両が直進走行しているときのヨーレートセンサSE9のデータ(サンプルデータ)を用いて、ゼロ点補正を行う(詳細は後述)。なお、以下では、ゼロ点を補正する対象を単に「センサ」と称する。また、サンプルデータを単に「データ」と称する場合がある。
判定部512は、第1の所定数のデータのバラツキ度合が第1の所定値未満であるか否かを判定する。判定部512は、その前に、取得部511によって第1の所定数よりも少ない第2の所定数のデータが取得された時点で、第2の所定数のデータに基づいて、第1の所定数のデータのバラツキ度合が第1の所定値以上になる確率が第2の所定値以上であるか否かを判定し、当該確率が第2の所定値以上であると判定した場合、第2の所定数のデータのすべて又は一部を使用せず新たなデータを選定するリセット処理を行う(詳細は後述)。
ゼロ点補正部513は、判定部512によって第1の所定数のデータのバラツキ度合が第1の所定値未満であると判定された場合、第1の所定数のデータ(第1の所定数のデータを用いた各種演算結果であってもよい。以下同様)を用いてセンサのゼロ点を補正する。このゼロ点補正部513によるゼロ点補正処理は既知であるので、詳細な説明を省略する。
次に、図2を参照して、実施形態のECU50による第1のゼロ点補正処理について説明する。図2は、実施形態のECU50による第1のゼロ点補正処理の手順を示すフローチャートである。なお、以下において、処理部510の動作のうち、取得部511、判定部512、ゼロ点補正部513以外の動作を説明するときは、その動作主体を処理部510と表す。
まず、ステップS1において、処理部510は、RAMの初期化(リセット)を実行する。次に、ステップS2において、取得部511は、センサのデータ(サンプルデータ)を1つ取得する。次に、ステップS3において、処理部510は、2つ以上のデータを取得したか否かを判定し、Yesの場合はステップS4に進み、Noの場合はステップS2に戻る。
ステップS4において、判定部512は、取得した2つ以上のデータのバラツキ度合が所定値未満か否かを判定し、Yesの場合はステップS5に進み、Noの場合はステップS1に戻る。ステップS4では、データ数が所定数(例えば100個)の場合とそれよりも小さい場合で異なる判定方法や異なる判定値を取り得る。なお、このステップS4の処理の詳細については後述する。
ステップS5において、処理部510は、所定数(例えば100個)のデータを取得したか否かを判定し、Yesの場合はステップS6に進み、Noの場合はステップS2に戻る。ステップS6において、ゼロ点補正部513は、所定数のデータの各種演算結果を用いてセンサのゼロ点を補正する。
次に、図3を参照して、実施形態における全体処理の概要について説明する。図3は、実施形態におけるデータの演算値と閾値Eとの関係を示すグラフである。ここで、Nは、センサのゼロ点補正処理を行うために取得すべきデータの数(第1の所定数)である。また、S(第2の所定数)は、Nよりも小さい数である。また、図3のグラフにおいて、縦軸は、データに所定の演算(例えば後述のRMS法による演算)を実行したときの演算値を表す。Eは、閾値(第1の所定値)である。符号L1は演算値の推移を表す。なお、この演算値は減少することがないものとする(詳細は後述)。また、横軸は時間を表し、横軸中の「N」、「S」は、それぞれ、「N個のデータを取得するまでに要する時間」、「S個のデータを取得するまでに要する時間」を表す。
従来技術と同様、本実施形態でも、取得したN個のデータによる演算値が所定値E未満であれば、そのN個のデータは正常であると判定し、そのN個のデータを用いてセンサのゼロ点補正を行う。本実施形態で、従来技術と異なるのは、例えば、S個のデータを取得した時点で、符号L2に示すように、演算値が所定値E以上となった場合、その時点で、判定をリセットする点である(詳細は後述)。
次に、具体的な演算内容について説明する。所定数のデータ(サンプルデータ)を用いてゼロ点補正を行う場合、その所定数のデータのすべてが正常データであること、つまり、大きなノイズ等の影響を受けた異常データでないことが重要となる。その場合、例えば、所定数のデータの値がすべて予め定められた所定範囲内に収まっているときに、すべてが正常データであると判定することができる。以下、この判定手法を「所定範囲判定法」と称する。また、ノイズはある確率分布にしたがってその振幅が変動するため、所定数が大きくなるほど、大きなノイズ等の影響を受けたデータの発生確率は高くなる。
そして、上述の所定範囲判定法では、現在設定されているゼロ値と現実のゼロ値との差を考慮することができないので、所定数のデータが実際にはすべて正常データであっても、所定範囲外のデータを異常なデータと判定してしまうことがある。
所定範囲判定法のこの短所を解決できる手法の1つに、RMS(Root Mean Square)法がある。RMS法では、所定範囲を設定することなく、データのバラツキ度合だけを判定することができる。具体的には、以下の式(1)、式(2)を用いてデータのバラツキ度合を判定することができる。
ここで、Nは所定数である。x
iはi番目(1≦i≦N)のデータの値である。Eは閾値である。
このRMS1の手法では、N個のデータをバッファ(記憶部)に記憶させ、その後にRMS1を算出し、そのRMS1が所定値E未満であるか否かを判定する。RMS1が所定値E未満であれば、そのN個のデータを用いてゼロ点補正を行う。RMS1が所定値E以上であれば、一旦、取得したデータを破棄するなどのリセットをして、再度データの取得と式(1)による判定を、RMS1が所定値E未満になるまで繰り返す。しかし、このRMS1の手法によれば、N個のデータのすべてを記憶することができるバッファが必要になり、コストアップにつながってしまう。
そこで、そのバッファの問題を解決する手法として、以下の式(3)と上述の式(2)を用いて判定するRMS2の手法がある。
このRMS2の手法では、式(3)の根号の中の第1項を記憶するバッファと第2項を記憶するバッファを用意し、データを取得するたびにその第1項と第2項を更新してRMS2を算出し、そのRMS2が所定値E未満であるか否かを判定する。RMS2が所定値E未満であれば、N個のデータはゼロ点補正処理に使用可能であり、各種演算結果を用いてゼロ点補正を行う。RMS2が所定値E以上であれば、リセットして、再度、所定数のデータを取得して式(3)による判定を行う。このRMS2の手法によれば、必要なバッファの容量を小さく抑えることができるが、所定数のデータを取得した後にしか判定を行うことができず、ゼロ点補正を早期に完了できない点で改善の余地がある。
そこで、本実施形態では、以下の式(4)によるRMS3の手法を採用する。
ここで、Nは第1の所定数である。xiはi番目(1≦i≦N)のデータの値である。Eは第1の所定値(閾値)である。S(2≦S<N)は第2の所定数である。このRMS3は、S番目のサンプルデータまでを取得した時点で、「S+1」番目〜N番目のデータがバラツキ0(S個のデータの平均値からの偏差が0)と仮定した二乗平均平方根である。したがって、RMS3は、減少することのない増加関数となっている。つまり、データxiのS番目のデータxsを取得した時点でRMS3が所定値E以上となった場合は、その後にN個のデータが揃ったときのRMS3(RMS2と同値)も所定値E以上となるのが確定となる。すなわち、前述した第2の所定値が100%の場合となる。
判定部512は、上述の式(4)を満たさなかったときに、リセット処理を行う。つまり、判定部512は、S個のデータに基づいてRMS3が所定値E以上となった場合、リセットを行う。換言すると、判定部512は、第1の所定数がNであり、第2の所定数がSであり、S個のデータと、バラツキが0(ゼロ)と仮定したN−S個のデータに基づいて算出したバラツキ度合の結果に基づいて、リセット処理を行う。
次に、図4を参照して、RMS2の手法を用いた場合とRMS3の手法と用いた場合のゼロ点補正処理の流れについて説明する。図4は、実施形態においてRMS2の手法を用いた場合とRMS3の手法と用いた場合のゼロ点補正処理の流れを示すグラフである。
図4において、図示のような値のサンプルデータが順次取得されるものとする。そして、サンプルデータx3は大きなノイズ等の影響を受けたデータである。RMS2の手法を用いた場合、途中のサンプルデータ(x1〜xs)の段階の演算結果はその後のサンプルデータ(xS+1〜xN)によって大きくも小さくもなり得るため、すべてのサンプルデータ(x1〜xN)を用いた演算結果でなければ、サンプルデータ(x1〜xN)のバラツキが所定値E未満か否かを確実に判定できない。したがって、サンプルデータxNを取得してから式(3)による判定をし、判定結果がNGであればリセットし、再びサンプルデータをN個(xN+1〜x2N)取得してから式(3)による判定をし、判定結果がOKであれば、その後にゼロ点補正を行うことで、学習(ゼロ点補正処理)を完了する。
一方、RMS3の手法を用いた場合、2個目のサンプルデータ(x2)を取得してからは、サンプルデータを取得するごとに式(4)による判定を行う。そして、サンプルデータx3を取得してから式(4)による判定をし、判定結果がNGであるのでリセットする。その後、再びサンプルデータを取得して式(4)による判定を繰り返し、N個のサンプルデータを取得して式(4)による判定結果がOKであれば、その後にゼロ点補正を行うことで、学習(ゼロ点補正処理)を完了することができる。つまり、減少することのない増加関数であるRMS3の手法を用いた場合、RMS2の手法を用いた場合のサンプルデータx2Nを取得した時点よりも格段に早く、サンプルデータxN+3を取得した時点で、学習を終了することができる。
図5は、実施形態においてヨーレートセンサ値を取得してRMS2の手法を用いた場合とRMS3の手法と用いた場合のゼロ点補正処理の流れについて説明する。図5は、実施形態においてヨーレートセンサ値を取得してRMS2の手法を用いた場合とRMS3の手法と用いた場合のゼロ点補正処理の流れを示すグラフである。
ヨーレートセンサ値(ヨーレートセンサSE9による検出データの値)を用いる場合は、例えば、車両の直進走行時(舵角がほぼ0、左右の車輪速度の差がほぼ0等のとき)のヨーレートセンサ値を所定数サンプリングして、データの平均値からヨーレートのゼロ点を算出する。そのとき、取得したデータが所定のバラツキ度合以上である場合は信用できないものとして、再度サンプリングする。
必要なサンプルデータ数が多くなると、サンプルデータ内にノイズ等の影響を受けたデータが含まれる確率が高くなり、バラツキ度合が所定以上になってサンプリングを繰り返すことが多くなり、ゼロ点補正処理が完了しにくくなる。
例えば、10個のデータを用いてゼロ点を補正する場合に、図5に示すように、データNo.1〜No.33のデータを取得し、その中のデータNo.4、No.19、No.20にノイズ等の影響を受けたデータが混ざっているものとする。その場合、RMS2の手法では、第1回サンプリング(データNo.1〜No.10)してNGと判定してリセットし、第2回サンプリング(データNo.11〜No.20)してNGと判定してリセットし、第3回サンプリング(データNo.21〜No.30)してそこで初めてOKと判定し、その後にゼロ点補正処理を完了することができる。
一方、RMS3の手法では、最初にサンプリングし始めてから、データNo.4のデータをサンプリングした時点でNGと判定してリセットし、再サンプリングでデータNo.5〜No.14のデータを取得してOKと判定し、その後にゼロ点補正処理を完了することができる。つまり、RMS3の手法によれば、RMS2の手法と比較して、早期に、データのサンプリングをやり直して、ゼロ点補正処理を完了することができる。
次に、別の判定基準について説明する。上述したように、データxiのS番目のデータxSを取得した時点でRMS3が所定値E以上となった場合は、その後にN個のデータが揃ったときのN個のサンプルデータのバラツキ度合が所定値E以上となる確率が100%であった。しかし、「S+1」番目〜N番目のデータがバラツキ0(S個のデータの平均値からの偏差が0)となる可能性は低いので、当該確率が100%よりも少し小さい値(例えば、99%、95%等)になるようにすることも有効である。
以下では、サンプルデータの値が正規分布にしたがうと仮定する。そして、S個のサンプルデータに基づいて、以下の式(5)に示すように、指標値Zが閾値E4(第3の所定値)未満か否かを判定する。
換言すると、判定部512は、第2の所定数がSであり、S個のデータに基づいて、第1の所定数のデータのバラツキ度合が第1の所定値以上になる確率が第2の所定値以上となるか否かを判定する判定値を、自由度S−1のカイ二乗分布に基づいて算出する。
ここで、図6は、実施形態において指標値Zと閾値E4との関係を示すグラフである。縦軸は、指標値Zの値を表す。符号L11は指標値Zの推移を表す。また、横軸は時間を表し、横軸中の「N」、「S」は、それぞれ、「N個のデータを取得するまでに要する時間」、「S個のデータを取得するまでに要する時間」を表す。S番目までのサンプルデータを取得して算出した指標値ZがE4以上となった場合は(符号L12)、その後、N番目までのサンプルデータを取得した場合に、N個のサンプルデータのバラツキ度合が所定値E以上となる確率は第2の所定値以上であることを示す。以下、閾値E4の決め方について説明する。
ここで、図7(a)は、標準正規分布(平均が0。分散が1)を示すグラフである。図7(b)は、正規分布を示すグラフである。図7(c)は、標準正規分布に対応するカイ二乗分布の累積分布関数を示すグラフである。図7(d)は、正規分布に対応するカイ二乗分布の確率密度関数を示すグラフである。
サンプルデータが標準正規分布にしたがうと仮定するとサンプルデータ数がS個で算出した指標値Zは自由度「S−1」のカイ二乗分布にしたがう。したがって、図7(a)の標準正規分布について、サンプルデータ数がS個で、自由度「S−1」のカイ二乗分布の累積確率が所定確率P1(例えば0.95)となる数値E2を算出する。そのとき、指標値ZがE2以下となる確率がP1となる。
そして、サンプルデータが正規分布にしたがう場合(図7(b))は、標準正規分布(図7(a))と相互変換可能なので、標準正規分布の場合のE2を、サンプルデータの正規分布の場合の値に変換してE4とする(図7(d))。このようにして、E4を算出することができる。そして、S個のサンプルデータを取得したときに、指標値ZがE4以上となった場合にNGと判定してリセットすればよい。
また、図6のE4は、直線や折れ線に近似してE41としてもよい。その際、最小二乗法等を用いて近似の直線や折れ線としてもよい。
また、サンプルデータ数がS個で、自由度「S−1」のカイ二乗分布の累積確率が所定確率P1(例えば0.95)となる数値E2を算出する代わりに、サンプルデータ数がN個となったときにRMS3が所定値E以上となる確率を考慮し、自由度「N−S−1」のカイ二乗分布の累積確率が所定確率P2(例えば0.05)となる数値E5を算出し、標準正規分布の場合のE5をサンプルデータの正規分布の場合の値に変換してE4としてもよい。この場合、指標値ZがE4以上となったとき、1−P2の確率(例えばP2が0.05のときは0.95となる)でNGとなるため、S個のサンプルデータを取得したときに、指標値ZがE4以上となった場合にNGと判定してリセットすればよい。その場合のE4も、最小二乗法等を用いて近似の直線や折れ線としてもよい。
また、さらに別の判定基準として、RMS3に対する閾値として、Eの代わりにE6(E6<Eの部分のみ使用)を用いてもよい。E6は、例えば、所定値E7を用いて以下のように表すことができる。
E6=E7×√(S/N)
このE6を用いることで、Eを用いる場合よりも早くNGを判定し、リセットをすることができる。なお、E7は、センサの仕様におけるノイズの分散の値等により決定することができる。また、E7>Eとすることが好ましい。
次に、図8を参照して、実施形態のECU50による第2のゼロ点補正処理について説明する。図8は、実施形態のECU50による第2のゼロ点補正処理の手順を示すフローチャートである。
まず、ステップS11において、処理部510は、RAMの初期化(リセット)を実行する。次に、ステップS12において、取得部511は、センサのデータ(サンプルデータ)を1つ取得する。次に、ステップS13において、処理部510は、2つ以上のデータを取得したか否かを判定し、Yesの場合はステップS14に進み、Noの場合はステップS12に戻る。
ステップS14において、判定部512は、それまでに取得したデータの平均値を算出する。次に、ステップS15において、判定部512は、それまでに取得したデータについて、平均値からの乖離度が所定値(第4の所定値)未満か否かを判定し、Yesの場合はステップS18に進み、Noの場合はステップS16に進む。
ステップS16において、判定部512は、平均値からの乖離度が所定値以上のデータを破棄する。次に、ステップS17において、判定部512は、データ破棄回数が所定回数以上であるか否かを判定し、Yesの場合はステップS11に戻り、Noの場合はステップS18に進む。ステップS11に戻った場合、判定部512は、それまでに取得したデータすべてを使用せず新たなデータを選定するリセット処理を行う。
ステップS18において、処理部510は、所定数(例えば100個)のデータを取得したか否かを判定し、Yesの場合はステップS19に進み、Noの場合はステップS12に戻る。ステップS19において、ゼロ点補正部513は、所定数のデータの各種演算結果を用いてセンサのゼロ点を補正する。
なお、図2の処理と、図8の処理は、いずれか一方だけで実行してもよいし、あるいは、両方を並行して実行してもよい。
このようにして、本実施形態のECU50によれば、取得した複数個のデータに基づいて実施される処理を早期に完了することができる。具体的には、例えば、N個のデータのバラツキ度合を判定する前に、N個よりも少ないS個のデータに基づいてN個のデータのバラツキ度合を高精度で予測することで、早期なリセットを実現し、それにより、早期なゼロ点補正完了を実現することができる。
より具体的には、例えば、RMS3(式(4))を用いて、S個のデータに基づいて、その後にN個のデータのバラツキ度合が100%の確率で所定値E以上となることを判定することができる。
また、例えば、指標値Z(式(5))を用いて、S個のデータに基づいて、その後にN個のデータのバラツキ度合が高確率で所定値E以上となることを判定することができる。
また、図8の処理によれば、平均値からの乖離度が大きいデータを破棄したり、当該破棄回数が所定回数以上の場合にリセットしたりすることで、ノイズによる影響を抑えることができる。
また、従来技術と異なり、学習可能なゼロ点は所定範囲内のみに限定されないため、任意の大きさのゼロ点学習を実現できる。つまり、現在のゼロ点が初期値や前回値から大きく離れていた場合にも対応できる。
また、すべてのサンプルデータをバッファに記憶させる必要がないため、データ数が多くても、バッファの容量を小さく抑えることができる。
また、特に、RMS3(式(4))を用いることで、以下の作用効果を奏する。上述した従来のRMS1(RMS2も同様)を用いた手法では、サンプルデータを途中まで取得した時点でRMS1の値が閾値より大きくなっても、RMS1の最終的な値がその閾値よりも大きくなるとは限らない。一方、減少しない増加関数であるRMS3(式(4))を用いることで、RMS1の最終的な値が閾値を超えることを、100%の確率や高確率で予測することができる。
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状等のスペック(構造や、種類、数等)は、適宜に変更して実施することができる。
例えば、本実施形態のゼロ点補正処理を適用するセンサは、ヨーレートセンサに限定されず、加速度センサ等の別のセンサであってもよい。
また、ゼロ点補正処理以外の、例えば、加圧機構で所定の出力を行った際の実際の圧力を取得し、複数のサンプルデータから決定する場合など、複数のサンプルデータに基づいて処理を実施する場合に広く応用可能である。