以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は第1の実施の形態における細胞培養装置の側面図、図2は第1の実施の形態における細胞培養装置の平面図、図3は第1の実施の形態における細胞培養装置の要部の斜視図、図4は第1の実施の形態における細胞培養装置の要部の分解図、図5は第1の実施の形態における実際に作製された細胞培養装置を示す写真である。
図において、1は本実施の形態における細胞培養装置である。該細胞培養装置1は、後述される培養液53の制御された流れの中で細胞を培養することができる装置である。前記細胞培養装置1によって培養される細胞は、いかなる種類の細胞であってもよいが、後述されるポドサイト(Podocyte)である場合に好適である。該ポドサイトは、腎臓のネフローゼ疾患の標的組織重要構成要素としての糸球体上皮細胞乃至糸球体足細胞である。
なお、本実施の形態において、細胞培養装置1の各部の構成及び動作を説明するために使用される上、下、左、右、前、後等の方向を示す表現は、絶対的なものでなく相対的なものであり、前記細胞培養装置1の各部が図に示される姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。
図に示される例において、前記細胞培養装置1は、外殻部材31と、該外殻部材31の収容空間34内に収容された本体部11と、該本体部11に着脱可能に取り付けられた挿入部20とを備える。
前記外殻部材31は、例えば、シャーレ乃至ペトリ皿と称される透明なポリエステル等の樹脂製の平皿であり、円形平板状の底板32と、該底板32の周縁から立設する円筒状の側壁33とを備え、前記収容空間34は、底板32と側壁33とによって画定された空間である。前記外殻部材31としては、例えば、Thermofisher Scientific 社が販売している商品名「Nunc 細胞培養ディッシュ」(直径:約60〔mm〕)を使用することができる。
また、前記挿入部20は、円筒状の細胞収容部21と、該細胞収容部21の上端に一体的に接続された上端部22とを備え、ポリエステル等の透明な材料から成る部材である。前記細胞収容部21の下端に一体的に接続された膜部材24は、培養液53が透過可能であり、細胞収容部21の内側の細胞収容空間23の下面を画定する。前記膜部材24は、例えば、ポリエステル、ポリカーボネイト等の材料から成る多孔膜であってもよいし、「ビトリゲル」という商品名で販売されているコラーゲン基質から成る膜であってもよいし、培養液53が透過可能な透過性の材質から成るものであれば、いかなる材質から成る膜であってもよい。また、前記上端部22は、その上面が開放されているとともに、側壁に第1アウトレットとして機能する複数の側面開口22aが形成され、細胞収容空間23内に充満した培養液53が溢れ出るように構成されている。なお、前記挿入部20は、略円筒形であって、下端に膜部材24を備え、かつ、培養液53が溢れ出るように上部が開放されているものであれば、いかなる直径及び高さを備えるものであってもよい。
なお、前記挿入部20として、例えば、コーニング社(Corning Incorporated)が販売する商品名「Transwell 」という製品を使用することができる。該製品の1例として、直径が6.5〔mm〕で、ポリカーボネイトから成り、孔の直径が0.4〔μm〕、孔密度が1×108 〔pores/cm2 〕の多孔膜である膜部材24を備えたものを選択することが可能である。なお、膜部材24は、孔の直径が細胞の大きさ以下のものを選択することが望ましい。
前記本体部11は、例えば、シリコーンゴムの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)から成る部材であるが、いかなる種類の材料から成るものであってもよく、また、その形状も、略直方体状に限定されるものでなく、いかなる形状であってもよい。図に示される例において、本体部11は、概略直方体の板状部材であり、上部空洞12と、該上部空洞12の下端に連通するように形成された液収容空洞としての下部空洞13と、該下部空洞13の左右両側に形成されたインレット空洞14a及び第2アウトレットとして機能するアウトレット空洞14bと、前記下部空洞13とインレット空洞14a及びアウトレット空洞14bとを連絡するインレット連絡空洞15a及びアウトレット連絡空洞15bとを備える。
前記上部空洞12は、中心軸が上下方向に延在する概略円筒状の空間であって、上端が本体部11の上面に開口し、挿入部20の細胞収容部21が前記上端から挿入される。そして、前記上部空洞12は、その内面が挿入された細胞収容部21の外周面に液密に密着する程度の大きさに形成されている。
前記下部空洞13は、中心軸が上下方向に延在する上部空洞12より大径の概略円筒状の空間であって、下端が本体部11の下面に開口している。そして、本体部11が外殻部材31の平坦な底板32上に載置されると、前記本体部11の下面が底板32の上面に密着し、前記細胞収容部21の下端は底板32の上面によって液密に閉止される。なお、前記本体部11の下面と底板32の上面とは、共有結合によって互いに接着された状態となることが望ましい。
なお、前記挿入部20が本体部11に取り付けられると、細胞収容部21の下端は、後述される寸法H(図6(b)参照。)だけ下部空洞13の上面から下方に突出してはいるが、底板32の上面との間に培養液が流通可能な程度の隙間を生じる位置に到達する。前記挿入部20は、例えば、オペレータの手指によって本体部11の上部空洞12に押し込まれるようにして挿入される。
前記インレット連絡空洞15a及びアウトレット連絡空洞15bは、その上面が下部空洞13の上面と面一となるように形成された溝状の通路であって、下部空洞13の側面から外方に向けて延出する。そして、前記インレット連絡空洞15a及びアウトレット連絡空洞15bの遠位端には、中心軸が上下方向に延在する細長い円筒状のインレット空洞14a及びアウトレット空洞14bの下端が接続されている。
また、前記インレット空洞14a及びアウトレット空洞14bの上端は、本体部11の上面に開口し、インレットパイプ41a及び第2アウトレットパイプとして機能するアウトレットパイプ41bの一端が前記上端から液密に挿入される。前記インレットパイプ41a及びアウトレットパイプ41bは、例えば、シリコーンゴムから成り、内径1〔mm〕及び外形2〔mm〕のパイプである。また、インレットパイプ41a及びアウトレットパイプ41bは、外殻部材31の側壁33に形成された貫通孔を液密に挿通するようにして配設されている。さらに、前記インレットパイプ41aの他端は、後述される培養液ポンプユニット51に接続され、前記アウトレットパイプ41bの他端は、後述されるバルブユニット52に接続されている。
前記本体部11は、例えば、図4に示されるように、薄い2枚の板状部材である上半部11aと下半部11bとを結合させることによって構成されたものであってもよい。この場合、上部空洞12とインレット空洞14a及びアウトレット空洞14bとを備える上半部11aと、下部空洞13とインレット連絡空洞15a及びアウトレット連絡空洞15bとを備える下半部11bとを、それぞれ、形成し、形成済みの上半部11aの下面と下半部11bの上面とを、例えば、共有結合によって接着することにより、一体化された本体部11を得ることができる。
前記上半部11aと下半部11bとは、前述のようにポリジメチルシロキサンから成る部材である場合、フォトリソグラフィー技術を利用して作成することができる(例えば、特許文献2参照。)。例えば、MicroChem 社から市販されているレジストであるSU−8 2000シリーズのフォトレジスト(紫外線に感光して固化するエポキシ樹脂)を使用して、図示されないSUMCO 社から市販されているシリコンウェハの表面に、前記上部空洞12とインレット空洞14a及びアウトレット空洞14bとに対応する形状の凸パターンと、下部空洞13とインレット連絡空洞15a及びアウトレット連絡空洞15bとに対応する形状の凸パターンとを、フォトリソグラフィーの技法により、それぞれ、形成する。
特開2006−312211号公報
次に、前記シリコンウェハの表面に、例えば、東レ・ダウコーニング社から市販されている商品名「Silpot 184」というポリジメチルシロキサンのプレポリマを塗布し、該プレポリマを焼き固めて(Cureして)硬化させた後、剥離させる。これにより、図4に示されるような、例えば、2〜4〔mm〕程度の厚さの上半部11aと下半部11bとを得ることができる。そして、前記上半部11aの下面と下半部11bの上面とを、例えば、サムコ株式会社が市販しているRIE装置を使用して酸素プラズマ処理を行うことにより、接着させることができる。また、下半部11bの下面と底板32の上面とは、例えば、Silane coupling 技術(例えば、非特許文献1参照。)により、接着させることができる。
Lab on a Chip, 2011, 11, 962-965
図5には、実際に作製された細胞培養装置1の写真が示されている。図2及び5に示されるように、外殻部材31の収容空間34内には、第1アウトレットパイプとして機能するドレインパイプ41cが配設されていることが望ましい。該ドレインパイプ41cは、開放された一端が収容空間34内のできるだけ低い箇所に位置し、図示が省略されている他端が収容空間34の外側の図示されないドレインタンクに接続されている。また、ドレインパイプ41cは、外殻部材31の側壁33に形成された貫通孔を液密に挿通するようにして配設されている。これにより、挿入部20の側面開口22aから溢れ出た培養液53は、収容空間34の外側に排出されるので、収容空間34内に充満してしまうことがない。
さらに、図1に示される例においては、透明な蓋部材36が外殻部材31の上面を覆うように配設されており、また、前記インレットパイプ41a、アウトレットパイプ41b及びドレインパイプ41cは、外殻部材31の側壁33に形成された貫通孔を液密に挿通しているので、収容空間34内は、外部からの細菌、異物等によって汚染されることがない。なお、図5に示されるように、前記蓋部材36は、適宜省略することもできる。
次に、前記細胞培養装置1を使用して細胞を培養する方法について説明する。
図6は第1の実施の形態における細胞培養装置の使用方法を示す側面図、図7は第1の実施の形態における細胞培養装置を使用して培養された細胞を示す写真である。なお、図6において、(a)は全体図、(b)は要部拡大図であり、図7において、(a)は細胞が付着した膜部材の写真、(b)は(a)の細胞を染色した蛍光写真、(c)は(b)を2倍に拡大した蛍光写真、(d)は(b)を5倍に拡大した蛍光写真である。
図6(a)に示されるように、インレットパイプ41aの他端には、培養液供給装置としての培養液ポンプユニット51の吐出口が接続され、矢印で示されるように、培養液53が培養液ポンプユニット51から細胞培養装置1の本体部11に供給される。なお、前記培養液ポンプユニット51は、いかなる種類のポンプであってもよいが、例えば、市販されている従量式マイクロシリンジポンプを使用することができる。この場合、前記培養液ポンプユニット51は、従量式送液により培養液53の流れを制御することが可能となる。
一方、アウトレットパイプ41bの他端には、アウトレット切替装置としてのバルブユニット52が接続されている。該バルブユニット52は、例えば、Upchurch社が市販する閉止弁装置であって、開放状態と閉止状態とに切り替え可能である。バルブユニット52が閉止状態になると、図6(b)において矢印55で示されるような膜部材24を通過して挿入部20の細胞収容部21の細胞収容空間23内に進入する培養液53の流れが、設定流量に依存した流れとなる。また、バルブユニット52が開放状態になると、培養液53は、アウトレットパイプ41bの方に流れていく。なお、バルブユニット52の出口は、図示されないドレインタンクに接続されている。
細胞の培養を行う場合、まず、例えば、挿入部20の細胞収容空間23内に Laminin溶液(コーニング社製)を注入して37〔℃〕の図示されないインキュベータに24時間収納しておくことが望ましい。続いて、バルブユニット52を開放状態にするとともに、挿入部20の細胞収容空間23の上部に栓をして(例えば、シリコーンゴム等から成り、滅菌した部材を詰める。)、培養液ポンプユニット51を作動させる。そして、アウトレットパイプ41bの辺りまで培養液53で満たされると、一旦、培養液ポンプユニット51を停止して送液を中止させる。
その状態で、挿入部20の細胞収容空間23の上部から栓が取り外され、続いて、挿入部20の細胞収容空間23内から前記 Laminin溶液が除去され、別途作成された細胞懸濁液が前記細胞収容空間23内に注入される。なお、挿入部20の上端部22の上面が開放されているので、ピペット(Pipette )等の器具を用いることにより、上端部22の上面を通して、細胞収容空間23内の細胞へのアクセスが可能である。したがって、容易に、細胞収容空間23内の細胞の偏在を修正することができる。そして、細胞培養装置1は、培養液ポンプユニット51等とともに、インキュベータ内に移送され、24時間インキュベートされる。
その後、バルブユニット52を閉止し、培養液ポンプユニット51の作動が再開される。すると、培養液53は、図6(b)において矢印55で示されるように、透過性の膜部材24を通過して、挿入部20の細胞収容部21の細胞収容空間23内に進入し、該細胞収容空間23内に充満する。膜部材24を通過して細胞収容空間23内に流入する矢印55で示されるような培養液53の流れは、培養液ポンプユニット51の動作を制御することによって、適切に制御することができる。そして、細胞収容空間23内に充満した培養液53は、側面開口22aから挿入部20の外へ溢れ出る。これにより、細胞収容空間23内には、矢印55で示されるように、下から上へ向けた培養液53の流れが発生する。なお、挿入部20の外へ溢れ出た培養液53は、外殻部材31の収容空間34内に流入した後、ドレインパイプ41cを通って、収容空間34の外側に排出される。
そして、前記細胞収容空間23内の細胞は、矢印55で示されるような下から上へ向けた培養液53の流れの中で培養される。そして、前記細胞収容空間23内の細胞のすべてに、満遍なく培養液53の流れの負荷がかかるようになっている。
また、本体部11、挿入部20、外殻部材31及び蓋部材36が透明なので、細胞収容空間23内で培養中の細胞を鮮明に視認することができ、顕微鏡等を使用して、外部から容易に観察することができる。さらに、挿入部20の上端部22の上面が開放されているので、培養後の細胞を、ピペット等の器具を用いることにより、上端部22の上面を通して、容易に取り出すことができる。なお、挿入部20を本体部11から取り外すことによって、培養後の細胞を、より容易に取り出すこともできる。
図7には、取り外した挿入部20の培養面である膜部材24の上面に付着した細胞の写真が示されている。図7(a)は、位相差顕微鏡で撮影した明視野の写真であるが、膜部材24に多孔膜を選択した場合、膜部材24には多数の微小孔が形成されているので、該微小孔の存在により細胞の観察が困難になっている。その場合は、細胞毒性の少ない PHK26(Sigma Aldrich )という蛍光染色剤で前記細胞の細胞膜を染色することで、蛍光顕微鏡下での観察が可能となる。なお、図7(b)〜(d)は染色された細胞の核を示す蛍光写真であって、図7(b)は図7(a)と等倍のもの、図7(c)は図7(b)を2倍に拡大したもの、図7(d)は図7(c)を2.5倍に拡大したものである。図7からは、矢印55で示されるような培養液53の流れがあっても、培養液ポンプユニット51によって培養液53の流れを適切に制御することができるので、膜部材24の上面から細胞が剥がれないことが分かる。
ところで、培養液ポンプユニット51から供給される培養液53には、何らかの原因により、気泡56が混入し、該気泡56が培養液53のスムーズな流れを阻害する場合がある。特に、気泡56が膜部材24の下面直下に位置すると、膜部材24を通過して細胞収容空間23内に流入する矢印55で示されるような培養液53の流れが阻害されてしまう。しかし、本実施の形態においては、図6(b)に示されるように、培養液53に混入した気泡56は、下部空洞13の上面に付着して捕捉されるので、培養液53の流れを阻害することがない。すなわち、下部空洞13の上面における細胞収容部21の周囲の部分は、気泡56のトラップ56aとして機能する。これは、培養液53が流入するインレット空洞14aに一端が接続された水平方向に延在するインレット連絡空洞15aの上面と前記下部空洞13の上面が面一に形成されているところ、膜部材24に塞がれた細胞収容部21の下端が寸法Hだけ前記下部空洞13の上面より下方に位置するので、気泡56は、膜部材24の下方にまで移動することなく、下部空洞13の上面における細胞収容部21の周囲の部分のトラップ56aで捕捉されたままとなるからである。
前述のように、培養される細胞は、いかなる種類のものであってもよいが、ここでは、ポドサイトである場合について説明する。該ポドサイトは、糸球体上皮細胞乃至糸球体足細胞であって、生体内の腎臓において血液を濾過するために重要な機能を発揮する。そして、生体の腎臓内で、ポドサイトは、多数の足が生えているような姿形になっていて、足同士が絡み合って生じた隙間にSlit Diaphragm Proteinと称される蛋白質が保持され、血液を濾過する際には、老廃物である尿毒素や不要な電解質等と生体内にとっては必要な血漿蛋白(アルブミン等)とを選別しながら濾過するサイズバリアとして機能する(尿毒素や電解質は血漿蛋白よりも分子サイズが小さい)。このサイズバリアが消失する疾患がネフローゼ症候群という多量の蛋白尿を呈するものである。
しかし、ポドサイトを従来の培養方法、例えば、一般的なシャーレ乃至ペトリ皿内において静止状態の液状乃至ゲル状の培地により培養すると、ポドサイトは、足が生えていない扁平な姿形となり、保持されるSlit Diaphragm Proteinも生体内の状態と大きく異なる。すなわち、従来の培養方法においては、ポドサイトを取り巻く環境が生体内とは大きく異なっている。
これに対し、ポドサイトを本実施の形態における細胞培養装置1で培養すると、細胞収容空間23内に導入されたポドサイトは、矢印55で示される下から上へ向けた培養液53の流れの中で培養される。すなわち、細胞収容空間23内のポドサイトには、下から上へ向けた培養液53の流れの負荷がかかるようになっている。この負荷は生体内におけるポドサイトが血液濾過を行う際に受ける物理的負荷と同様である。
このように、本実施の形態において、細胞培養装置1は、本体部11と、本体部11に着脱可能に取り付けられる挿入部20とを備え、本体部11は、培養液53を収容可能な下部空洞13を含み、挿入部20は、細胞を収容可能な細胞収容空間23を含む細胞収容部21と、細胞収容空間23の下面を画定する膜部材24であって培養液53が透過可能な膜部材24とを含み、本体部11に挿入部20が取り付けられると膜部材24が下部空洞13内に位置し、下部空洞13に供給された培養液53が細胞収容空間23内に流入し、細胞収容空間23内に収容された細胞が培養液53の流れの中で培養可能になる。これにより、細胞を培養液53の制御された流れの中で培養することができ、in vitroの培養でありながら、in vivo と同様の状態で細胞を培養することができる。
また、培養液53は、下部空洞13に接続された培養液ポンプユニット51から下部空洞13に供給される。したがって、培養液ポンプユニット51を制御することにより、下部空洞13に供給される培養液53の流れを容易に、正確に制御することができる。
さらに、細胞収容空間23内に収容された細胞は、培養液ポンプユニット51によって制御された培養液53の流れの負荷を受ける。したがって、in vivo と同様に、制御された培養液53の流れの負荷を受けた状態で、細胞を培養することができる。
さらに、挿入部20は、細胞収容部21の上端に接続された上端部22であって側面開口22aが形成された上端部22を含み、細胞収容空間23内に流入した培養液53は側面開口22aから細胞収容空間23外に流出する。したがって、細胞収容空間23内に下から上へ向けた培養液53の流れを安定的に発生させることができる。
さらに、上端部22の上面は開放され、上面を通して細胞収容空間23内の細胞へのアクセスが可能である。したがって、細胞収容空間23内への細胞の導入、細胞収容空間23からの細胞の取り出し、細胞収容空間23内への細胞の観察等を容易に行うことができる。
さらに、本体部11に挿入部20が取り付けられると膜部材24は下部空洞13の上面より下方に位置する。そして、下部空洞13の上面の一部分、具体的には、細胞収容部21の周囲の部分は、培養液53に含まれる気泡56のトラップ56aである。したがって、気泡56によって矢印55で示される培養液53の流れが阻害されることがなく、細胞収容空間23への培養液53の流れを安定的に発生させることができる。
さらに、本体部11は、本体部11の上面に開口するとともに下部空洞13の上面に開口する上部空洞12を含み、挿入部20は上部空洞12に挿入されて本体部11に取り付けられる。したがって、挿入部20を本体部11に取り付けることができる。
さらに、本体部11は外殻部材31内に収容され、本体部11の下面は外殻部材31の底板32の上面に接着されている。したがって、細胞収容空間23内に収容された細胞のコンタミネーションの危険性がない。
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図8は第2の実施の形態における細胞培養装置の平面図、図9は第2の実施の形態における実際に作製された細胞培養装置を示す第1の写真、図10は第2の実施の形態における実際に作製された細胞培養装置を示す第2の写真である。なお、図8において、(a)は挿入部が2つの場合の図、(b)は挿入部が4つの場合の図である。
前記第1の実施の形態においては、本体部11に取り付けられた挿入部20が単数である例についてのみ説明したが、実際にポドサイト等の細胞を培養する場合には、本体部11には複数の挿入部20が取り付けられることが望ましい。これにより、多量の細胞を同時に、同一の条件で培養することができる。
例えば、図8(a)に示されるように、2つの挿入部20を本体部11に着脱可能に取り付けることができる。この場合、インレットパイプ41aを通して供給された培養液53が両方の挿入部20の細胞収容空間23に均等に流入するように、インレットパイプ41aが挿入されるインレット空洞14aに2本のインレット連絡空洞15aが接続されるとともに、前記インレット空洞14aの下部にトラップ56aが形成されることが望ましい。このように、インレットパイプ41aとの接続部であるインレット空洞14aにトラップ56aが配設されているので、気泡56がトラップ56aに捕捉され、トラップ56aを通過した培養液53は、両方のインレット連絡空洞15aに分岐され、両方の挿入部20の細胞収容空間23に均等に流入することが可能となる。なお、図9及び10には、実際に作製された細胞培養装置1の写真が示されている。
また、例えば、図8(b)に示されるように、4つの挿入部20を本体部11に着脱可能に取り付けることができる。この場合、インレットパイプ41aを通して供給された培養液53がすべての挿入部20の細胞収容空間23に均等に流入するように、インレットパイプ41aが挿入されるインレット空洞14aに4本のインレット連絡空洞15aが接続されるとともに、前記インレット空洞14aの下部にトラップ56aが形成されることが望ましい。前記第1の実施の形態と同様に、インレットパイプ41aとの接続部であるインレット空洞14aにトラップ56aが配設されているので、気泡56がトラップ56aに捕捉され、トラップ56aを通過した培養液53は、4本のインレット連絡空洞15aに分岐され、すべての挿入部20の細胞収容空間23に均等に流入することが可能となる。また、外殻部材31としては、例えば、直径約10〔cm〕のものを使用することができる。
ここでは、説明の都合上、本体部11に取り付けられる挿入部20の数が2つ及び4つの場合についてのみ説明したが、前記挿入部20の数は、それ以上であってもよく、また、偶数であっても奇数であってもよく、いくつであってもよい。
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
このように、本実施の形態においては、本体部11には複数の挿入部20が取り付けられる。したがって、多数の細胞を同時に培養することができ、細胞を効率良く培養することができる。また、インレットパイプ41aの接続部にトラップ56aが配設されているので、インレットパイプ41aからトラップ56aを通過した後に分岐された培養液53が複数の挿入部20の細胞収容空間23内に均等に流入し、各細胞収容空間23内に収容された細胞が均等な培養液53の流れの中で培養可能になる。
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図11は第3の実施の形態における細胞培養装置の側面図、図12は第3の実施の形態における実際に作製された細胞培養装置を示す写真、図13は第3の実施の形態における細胞培養装置の使用方法を示す側面図、図14は第3の実施の形態における細胞培養装置内に付与される圧力の例を示す図である。
前記第1及び第2の実施の形態においては、従量式マイクロシリンジポンプである培養液ポンプユニット51による従量式送液によって制御された培養液53の流れの負荷、すなわち、従量式濾過流負荷が挿入部20の細胞収容空間23内の細胞にかかる例について説明したが、本実施の形態においては、圧力制御された培養液53の流れの負荷、すなわち、従圧式濾過流負荷が挿入部20の細胞収容空間23内の細胞にかかる例について説明する。
図に示されるように、本実施の形態における本体部11は、上部空洞12と、該上部空洞12の下端に連通するように形成された液収容空洞としての下部空洞13と、該下部空洞13の一側(図11における右側)下端に連通するように形成されたインレット連絡空洞15aとを備える。
前記上部空洞12は、前記第1の実施の形態と同様に、中心軸が上下方向に延在する概略円筒状の空間であって、上端が本体部11の上面に開口し、挿入部20の細胞収容部21が前記上端から挿入される。そして、前記上部空洞12は、その内面が挿入された細胞収容部21の外周面に液密に密着する程度の大きさに形成されている。また、前記下部空洞13は、中心軸が上下方向に延在する上部空洞12より大径の概略円筒状の空間であって、その上端は上部空洞12との境界に位置する環状の上面13aによって画定され、その下端は円板状の下面13bによって画定されている。前記上部空洞12の直径は、例えば、6.5〔mm〕であり、前記下部空洞13の直径は、例えば、19.0〔mm〕であり、前記下部空洞13の高さは、例えば、9.0〔mm〕である。
そして、前記下部空洞13の上面13aには、吸気孔17a及び排気孔17bが接続されている。該吸気孔17a及び排気孔17bは、前記下部空洞13の上面13a及び本体部11の上面に開口する上下方向に延在する貫通孔であり、下部空洞13の内部と本体部11の外部とを連通する。そして、前記吸気孔17a及び排気孔17bの上端には、吸気接続部材43a及び排気接続部材43bを介して、吸気パイプ42a及び排気パイプ42bが気密に接続されている。
また、前記インレット連絡空洞15aは、下部空洞13に接続されるように形成された通路であって、下部空洞13の側面下端から外方に向けて延出し、本体部11の側面に開口する。そして、前記インレット連絡空洞15aの遠位端(図11における右側端)には、インレットパイプ41aの一端が液密に接続されている。
なお、図12には、実際に作製された本実施の形態における細胞培養装置1の写真が示されている。
図13に示されるように、インレットパイプ41aの他端には、前記第1の実施の形態と同様に、培養液供給装置としての培養液ポンプユニット51の吐出口が接続され、培養液53が培養液ポンプユニット51から本体部11の下部空洞13内に供給される。
また、吸気パイプ42aの他端には、加圧空気供給装置としての加圧装置61が接続されている。該加圧装置61は、設定された圧力の空気を送出する装置であって、図示されないパーソナルコンピュータ等の制御装置からの指令に従って動作を行い、設定された圧力の空気を、前記吸気パイプ42aを介して、本体部11の下部空洞13内に供給する。なお、前記吸気パイプ42aの途中にはフィルタ62が配設され、該フィルタ62によって、加圧装置61から送出された空気は濾過される。そして、濾過された空気は、図11における矢印66で示されるように、吸気パイプ42a及び吸気孔17aを通って、下部空洞13内に供給される。これにより、図11における矢印65で示されるように、下部空洞13内における挿入部20の周囲の培養液53の表面である気液界面53aに設定された圧力が付与される。
すると、図11において矢印55で示されるような膜部材24を通過して挿入部20の細胞収容部21の細胞収容空間23内に進入する培養液53の流れは、加圧装置61を制御して設定された空気の圧力、すなわち、設定圧力に依存した流れとなる。つまり、加圧装置61を制御して下部空洞13内における培養液53の圧力を制御することによって、細胞収容空間23内に進入する培養液53の流れを制御することができる。
また、排気パイプ42bの他端には圧力センサ63が接続され、図11における矢印67で示されるように、排気孔17b及び排気パイプ42bを通って、下部空洞13内の空気の圧力が、前記圧力センサ63によって検出される。つまり、気液界面53aに付与される圧力の値が圧力センサ63によって検出される。該圧力センサ63として、例えば、ハネウエル社(Honeywell International, Inc. )が販売する商品名「TruStability」という製品を使用することができる。なお、前記圧力センサ63が出力した検出値のアナログ信号は、AD変換器64によってデジタル変換された後に、パーソナルコンピュータに送信され、Logger soft によって記録される。このように、気液界面53aに付与される圧力を圧力センサ63によってモニタすることにより、挿入部20の細胞収容空間23内の細胞にかかる培養液53の流れの負荷、すなわち、濾過流負荷の強弱を気液界面53aに付与される圧力によって正確に評価することができる。
さらに、前記制御装置にインストールされている加圧装置61の動作制御用プログラムに含まれる加圧プログラムの設定によって、高低2つの空気圧を連続的かつ交互に気液界面53aに付与することが可能である。これにより、例えば、気液界面53aに付与される圧力を、図14に示されるように、周期的に変動する脈動的圧力とすることも可能である。このような脈動的圧力を気液界面53aに付与することによって、挿入部20の細胞収容空間23内に収容された細胞にかかる培養液53の流れに、生体の血管内圧を模した脈動的圧力を発生させることができる。なお、図14に示される例は、実際に作製された本実施の形態における細胞培養装置1の気液界面53aに脈動的圧力を付与した際に、圧力センサ63によって検出された下部空洞13内の空気の圧力の実測値である。
さらに、下部空洞13の直径を、例えば、19.0〔mm〕として、挿入部20の細胞収容部21及び上部空洞12の直径(例えば、6.5〔mm〕)よりも十分に大きく設定しているので、下部空洞13内に培養液53が収容された状態で、本体部11の姿勢を水平から一時的に傾斜させた後に水平に戻した後であっても、下部空洞13内における挿入部20の周囲の培養液53の気液界面53aが水平に維持される。これは、細胞収容部21の外周面と下部空洞13の内周面との間隔が十分に大きいので、細胞収容部21の外周面及び下部空洞13の内周面における界面張力が気液界面53aに及ぼす影響が小さく、毛細管現象が発現しないからと、考えられる。仮に、下部空洞13の直径と細胞収容部21及び上部空洞12の直径との差をより小さく設定すると、下部空洞13内に培養液53が収容された状態で、本体部11の姿勢を水平から一時的に傾斜させた後に水平に戻した場合、下部空洞13内における挿入部20の周囲の培養液53の気液界面53aは、水平に復帰せずに、傾斜してしまう。
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1及び第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
このように、本実施の形態においては、細胞培養装置1は、本体部11と、本体部11に着脱可能に取り付けられる挿入部20とを備え、本体部11は、培養液53を収容可能な下部空洞13と、下部空洞13に連通する吸気孔17aとを含み、挿入部20は、細胞を収容可能な細胞収容空間23を含む細胞収容部21と、細胞収容空間23の下面を画定する膜部材24であって培養液53が透過可能な膜部材24とを含み、本体部11に挿入部20が取り付けられると膜部材24が下部空洞13内に位置し、下部空洞13内に供給された培養液53の挿入部20の周囲の気液界面53aに吸気孔17aから流入した空気の圧力が付与されると、培養液53が細胞収容空間23内に流入し、細胞収容空間23内に収容された細胞が圧力に依存した培養液53の流れの中で培養可能になる。これにより、細胞を培養液53の圧力制御された流れの中で培養することができ、in vitroの培養でありながら、in vivo と同様の状態で細胞を培養することができる。
また、培養液53は、下部空洞13に接続された培養液ポンプユニット51から下部空洞13に供給され、空気は、吸気孔17aに接続された加圧装置61から下部空洞13に流入する。したがって、加圧装置61を制御することによって、培養液53の気液界面53aに付与される圧力を制御して、細胞収容空間23内に進入する培養液53の流れを容易に、正確に制御することができる。
さらに、細胞収容空間23内に収容された細胞は、加圧装置61によって圧力制御された培養液53の流れの負荷を受ける。したがって、in vivo と同様に、圧力制御された培養液53の流れの負荷を受けた状態で、細胞を培養することができる。
さらに、培養液53の気液界面53aに付与される圧力は定常圧又は脈動的圧力である。これにより、細胞収容空間23内に収容された細胞にかかる培養液53の流れに、生体の血管内圧を模した脈動的圧力を発生させることができる。
さらに、本体部11は下部空洞13に連通する排気孔17bを含み、下部空洞13内の空気の圧力は、排気孔17bに接続された圧力センサ63によって検出可能である。これにより、培養液53の気液界面53aに付与される圧力をリアルタイムで検出してモニタすることができ、細胞にかかる培養液53の負荷をより正確に評価することができる。
さらに、本体部11に挿入部20が取り付けられると、膜部材24は下部空洞13内に供給された培養液53の挿入部20の周囲の気液界面53aより下方に位置する。したがって、培養液53に含まれる気泡56が気液界面53aの上方の空間にトラップされるので、気泡56によって矢印55で示される培養液53の流れが阻害されることがなく、細胞収容空間23への培養液53の流れを安定的に発生させることができる。
さらに、挿入部20の周囲の気液界面53aは、本体部11の姿勢を水平から一時的に傾斜させた後に水平に戻した後にも、水平に維持される。
次に、第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図15は第4の実施の形態における実際に作製された細胞培養装置を示す写真である。
前記第3の実施の形態においては、培養液ポンプユニット51及び加圧装置61に接続された本体部11が単数である例についてのみ説明したが、実際にポドサイト等の細胞を培養する場合には、培養液ポンプユニット51及び加圧装置61に複数の本体部11が接続されることが望ましい。なお、各本体部11には、挿入部20が1つずつ取り付けられる。これにより、多量の細胞を同時に、同一の条件で培養することができる。
例えば、図15に示されるように、吸気パイプ42aを途中で分岐させることによって、挿入部20が1つずつ取り付けられた4つの本体部11を加圧装置61に並列に接続することができる。
なお、図15に示される例では、一番上に位置する本体部11のみが排気パイプ42bを介して圧力センサ63に接続され、他の3つの本体部11は圧力センサ63に接続されていない。これは、加圧装置61に並列に接続された4つの本体部11の下部空洞13は、吸気パイプ42aを通じて1つの閉鎖空間を形成しているので、4つの本体部11の下部空洞13内の圧力がすべて同じ値になるからである。したがって、任意の1つの本体部11の下部空洞13内の圧力を測定すればよい。
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1〜第3の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
このように、本実施の形態において、複数の本体部11の吸気孔17aは、それぞれ、加圧装置61に並列に接続されている。したがって、複数の本体部11における培養液53の圧力制御を同時に行うことができ、多数の細胞を、同様の負荷をかけた状態で、同時に培養することができ、細胞を効率良く培養することができる。
前記第1〜第4の実施の形態における開示は、創薬におけるドラッグスクリーニングに適用することができる。例えば、ポドサイトは、腎臓病学研究分野のネフローゼ疾患の標的組織重要構成要素として重要であるが、従来のin vitro での培養では、最も注目されている生体内形質(Slit Diaphragm蛋白の発現減弱・不適切な分布)が生体内細胞骨格(一次足突起による立位ポジション・細胞体の原尿腔への浮遊、一次足突起に続く細いスクラム構造を取る二次足突起)とともに失われていることが問題となり、研究を阻んでいた。その中で、ポドサイトが生体内環境で曝されている基底膜側から頂端側への濾過流負荷が重要な分化促進因子となり、先の生体内形質の発現に深く関わっているのではないかと考えられる。また、従来のネフローゼ疾患の創薬研究分野では、動物実験及びヒトへの臨床実験という莫大な費用及び時間を要し、倫理的問題も含むシステムが主であって、研究進歩を阻んでいた。
しかし、前記第1〜第4の実施の形態における開示によって、ポドサイトがin vitro で生体内形質を発現することができるようになれば、ヒト培養のポドサイトを用いた新たなドラッグスクリーニングが可能となる。
なお、本明細書の開示は、好適で例示的な実施の形態に関する特徴を述べたものである。ここに添付された特許請求の範囲内及びその趣旨内における種々の他の実施の形態、修正及び変形は、当業者であれば、本明細書の開示を総覧することにより、当然に考え付くことである。