JP6964875B2 - 窒化物半導体発光素子の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は窒化物半導体発光素子の製造方法に関するものである。
半導体素子のほとんどはp型半導体層とn型半導体層とを積層して形成される。高い効率で動作する素子を実現するためには、電気抵抗が小さいp型半導体層及びn型半導体層が必要である。ところが、紫外可視光波長域発光・受光素子として有用であるとされる窒化物半導体は、p型半導体層のGaNにおいて、電気抵抗率が1Ωcm以上である。これは、n型窒化物半導体や赤外半導体であるn型GaAs(ガリウムヒ素)やp型GaAsの電気抵抗率が0.01Ωcm以下であることに比べて100倍以上大きい。さらに、深紫外領域で必要とされる、AlN(窒化アルミニウム)モル分率が大きいAlGaNは、p型AlGaNが得られないという課題がある。
トンネル接合は通常のpn接合に比べてp型半導体層及びn型半導体層のそれぞれにp型不純物及びn型不純物が高濃度に添加されたpn接合である。これにより、トンネル接合は通常のpn接合に比べてp型半導体層とn型半導体層との界面に形成される空乏層の厚みが薄くなる。これにより、トンネル接合のp型半導体層とn型半導体層とに逆バイアス電圧を印加すると電子が空乏層を通り抜けp型半導体層の価電子帯からn型半導体層の伝導帯へ移動する(トンネルする)ことができる。つまり、トンネル接合はn型半導体層からp型半導体層に向けて電流を流すことができる。
ゆえに、窒化物半導体発光素子において、電子に比べ移動度が低く有効質量が大きい正孔の供給源であるp型半導体層の大部分を、トンネル接合を用いることによって、正孔に比べ移動度が高く有効質量が小さい電子の供給源であるn型半導体層に置き換えることができる。つまり、窒化物半導体発光素子にトンネル接合を用いることによって、電気抵抗が大きいp型半導体層の大部分を電気抵抗の小さいn型半導体層に置き換えることができる。そして、さらにトンネル接合自体の電気抵抗を小さくすることができれば、従来の素子の電気抵抗をより小さくすることができ、さらに、現在実用化が遅れている面発光レーザや深紫外発光素子の実用化が可能になる。しかし、窒化物半導体はバンドギャップが大きく、アクセプタ(p型不純物)の濃度を大きくすることが難しい。このため、窒化物半導体を用いたトンネル接合は、電気抵抗を小さくすることが難しいと考えられてきた。
非特許文献1、2の窒化物半導体発光素子はp-GaN層114の表面にトンネル接合層115が積層されて結晶成長している。トンネル接合層115はp型半導体層115AにGaInNを用いている(図7(A)参照。)。また、トンネル接合層115はp型半導体層115Aの表面にn型半導体層115Bを積層して形成している。そして、非特許文献1、2の窒化物半導体発光素子はMOCVD法(有機金属気相成長法)を用いてトンネル接合層115を形成している。
非特許文献1の窒化物半導体発光素子ではトンネル接合層115のバンドギャップが小さくなり、InN(窒化インジウム)が添加されて発生するピエゾ分極によって大きな分極電荷が生じるため、トンネル接合層115を介して、窒化物半導体発光素子であるLEDを駆動する際に必要な低電流密度領域(100A/cm2以下)において、極めて低い電圧降下を示すことが開示されている。
また、非特許文献2の窒化物半導体発光素子では、レーザ駆動に必要な高電流密度領域(10kA/cm2以下)において、素子の表面側にp型コンタクト層(p型半導体層)を有した従来の素子と同等の低い駆動電圧を示すことが開示されている。
つまり、非特許文献1、2の窒化物半導体発光素子は、トンネル接合層にGaInN層を用いると、MOCVD法によって電気抵抗が小さいトンネル接合層を得ることができる。
Sriram Krishnamoorthy, Fatih Akyol, Pil Sung Park, Siddharth Rajan"Low resistance GaN/InGaN/GaN tunnel junctions"、Applied Physics Letter、(米国)、2013年、Vol.102,Issue11、P.113503 Daiki Takasuka, Yasuto Akatsuka, Masataka Ino, Norikatsu Koide, Tetsuya Takeuchi, Motoaki Iwaya, Satoshi Kamiyama and Isamu Akasaki"GaInN-based tunnel junctions with graded layers"、Applied Physics Express、(米国)、2016年、Vol.9,Number8、P.081005 Erin C. Young, Benjamin P. Yonkee, Feng Wu, Sang Ho Oh, Steven P. DenBaars, Shuji Nakamura and James S. Speck" Hybrid tunnel junction contacts to III-nitride light-emitting diodes"、Applied Physics Express、(米国)、2016年、Vol.9,Number2、P.022102 B.P.Yonkee, E.C.Young, S.P.DenBaars, S.Nakamura, J.S.Speck"Silver free III-nitride flip chip light-emitting-diode with wall plug efficiency over 70% utilizing a GaN tunnel junction"Applied Physics Letter、(米国)、2016年、Vol.109,Issue19、P.191104
しかし、多くの窒化物半導体発光素子において、Inの組成が大きいGaInNをトンネル接合層に用いると、トンネル接合層に光が吸収される光吸収ロスが生じることが知られている。この光吸収ロスを抑制する方法として、よりバンドギャップの大きなGaN等の材料を用い、MOCVD法とMBE法とを組み合わせてエピタキシャル成長をさせてトンネル接合層を形成する方法が提案されている(図7(B)参照。)。
具体的には、先ず、MOCVD法を実行することができるMOCVD装置を用いてp−GaN層214やトンネル接合層215のp型不純物を高濃度に添加したGaN層215A(以下、p++GaN層215Aという)までを基板の表面に積層して作製する。そして、基板をMOCVD装置の反応炉から取り出して、N2(窒素)とO2(酸素)とを用いてアニール処理してp++GaN層215Aの表面を酸化させる。そして、MBE法を実行することができるMBE装置の反応炉に基板をセットして、n型不純物を高濃度に添加したGaN層215B(以下、n++GaN層215Bという)から後の部分をp++GaN層215Aの表面に積層して形成する。つまり、光吸収ロスを抑制した窒化物半導体発光素子を作る方法とは、MOCVD法と、Mgの表面偏析が少ないMBE法とを用いるハイブリッド成長法である。
このハイブリッド成長法は、基板をMOCVD装置の反応炉から取り出すと、基板に作製したp++GaN層215Aの表面が自然に酸化する。さらに、反応炉から取り出した基板をN2とO2(酸素)とでアニール処理してp++GaN層215Aの表面を酸化させて、還元作用を有するH2(水素)等の元素を用いない(すなわち、酸化したp++GaN層215AにO(酸素)が残留し易い)MBE法を用いてn++GaN層215Bから後の部分を積層して形成する。
このハイブリッド成長法を用いて作製された非特許文献3、4の窒化物半導体発光素子は、p++GaN層215Aとn++GaN層215Bとの界面215Cに極めて高い濃度のO(酸素)(1×1020cm-3以上)が存在する状態を形成し、電流密度7〜10kA/cm2の範囲において1.5×10-4Ωcm2という低い微分抵抗を得ている。
しかし、このハイブリッド成長法は、MOCVD装置の反応炉から取り出した基板をMBE装置の反応炉にセットして窒化物半導体発光素子の再成長を行うことになる。つまり、このハイブリッド成長法は高価な二種類の結晶成長装置(MOCVD装置、及びMBE装置)を用いなければならない。
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、素子の電気抵抗が小さく、これにより高効率で発光することができる窒化物半導体発光素子を容易に製造することができる窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
上記課題を解決するために発明者らが鋭意検討した結果、従来、上述したように、GaInNを用いないとトンネル接合層の電気抵抗を小さくすることが難しいMOCVD法のみを用い(すなわち、他の成長法(MBE法)を用いて再成長を行う必要がない)た窒化物半導体において、GaNを用いた(すなわち、GaInNを用いない)トンネル接合層の電気抵抗を小さくすることができる手法を見出した。具体的には、p++GaN層とn++GaN層との界面(以下、トンネル接合層の界面という)に対して活性酸素を供給する処理を実行することによって、トンネル接合層の界面にO(酸素)を適度な濃度で存在させる。これにより、窒化物半導体で形成されたトンネル接合層の電気抵抗を大幅に小さくできることを新たに見出した。
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、
有機金属気相成長法を用い、基板の表面に窒化物半導体を用いたトンネル接合層を形成する窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
p型不純物を添加してp型トンネル接合層を形成するp型トンネル接合層形成工程と、
前記p型トンネル接合層形成工程を実行後、前記p型トンネル接合層の表面に活性酸素を供給する活性酸素供給工程と、
前記活性酸素供給工程を実行後の前記p型トンネル接合層の表面に、n型不純物を添加してn型トンネル接合層を形成するn型トンネル接合層形成工程と、
を備えることを特徴とする。
この窒化物半導体発光素子の製造方法は、p型トンネル接合層が形成された基板を大気中に暴露した場合に比べて、より良好にp型トンネル接合層の表面に酸素を吸着させることができる。これにより、この窒化物半導体発光素子の製造方法はトンネル接合層の電気抵抗をより小さくすることができる。
したがって、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は良好に発光することができる窒化物半導体発光素子を容易に製造することができる
実施例1、2、及び比較例1、2の試料を用いて素子の形成をした状態の構造を示す模式図である。 実施例1、2、及び比較例1、2の試料のトンネル接合層の厚み方向におけるO(酸素)の濃度の変化を示すグラフである。 実施例1、2、及び比較例1、2の試料の電流に対する電圧の大きさの変化を示すグラフである。 実施例1、及び比較例1、3の試料のそれぞれのGa 3dの結合エネルギーをXPSを用いて測定した結果を示すグラフである。 実施例1、及び比較例1、3の試料のGa 3dの結合エネルギーをXPSを用いて測定した結果のそれぞれにおいてGa−N及びGa−Oに分離した状態を示すグラフである。 実施例1、及び比較例1、3の試料の電流に対する電圧の大きさの変化を示すグラフである。 (A)は非特許文献1、2に開示されたGaInNを含んだ従来のトンネル接合層を示す模式図であり、(B)は非特許文献3、4に開示されたMOCVD法と、MBE法とを用いて形成された従来のトンネル接合層を示す模式図である。
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法の活性酸素供給工程は、p型トンネル接合層の表面をUVオゾン処理し得る。この場合、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、p型トンネル接合層の表面にUV光を照射することによって、p型トンネル接合層の表面の近傍に活性酸素を発生させ、p型トンネル接合層の表面に活性酸素を供給することができる。つまり、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、加熱したり、薬品を用いたりすることなく、容易にp型トンネル接合層の表面に酸素を吸着させることができる。
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、活性酸素供給工程を実行後において、p型トンネル接合層の表面を露出した状態でのGa 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比が2.30以上であり得る。この場合、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、Ga 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比を得ることによって、p型トンネル接合層の表面を露出した状態での酸化度合いを定量的に扱うことができる。また、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、p型トンネル接合層の表面を露出した状態でのGa 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比が2.30以上である。これにより、この窒化物半導体発光素子の製造方法はトンネル接合層の電気抵抗をより小さくすることができる。
次に、本発明の窒化物半導体発光素子を具体化した実施例1、2、及び比較例1、2について、図面を参照しつつ説明する。
<実施例1、2及び比較例1〜3>
実施例1、2、及び比較例1〜3の窒化物半導体発光素子は、図1に示すように、第1n−GaN層11、GaInN/GaN5重量子井戸活性層12、p−AlGaN層13、p−GaN層14、トンネル接合層15、及び第2n−GaN層16を備えている。
実施例1、2、及び比較例1〜3の窒化物半導体発光素子は、基板であるサファイア基板9(以下、基板9という)の表面側(表は図1における上側である、以下同じ。)に低温堆積緩衝層(図示せず)を介して形成したu-GaN層10の表面側に、MOCVD法(有機金属気相成長法)を用いて積層して結晶成長する。
先ず、基板9の表面側に形成されたu-GaN層層10の表面に第1n−GaN層11を積層して結晶成長する。詳しくは、先ず、MOCVD法を実行することができるMOCVD装置の反応炉内にu-GaN層層10が表面に形成された基板9をセットする。そして、反応炉内にN(窒素)の原料であるNH3(アンモニア)、及びキャリアガスであるH2を供給して、反応炉内の温度を調節して基板の温度を1050℃にする。反応炉内に供給するガスは、別途記載があるまで供給を停止しない。そして、反応炉内にGa(ガリウム)の原料であるTMGa(トリメチルガリウム)と、ドナー(n型不純物)であるSi(ケイ素)の原料であるSiH4(シラン)とを供給して、2μmの厚みの第1n−GaN層11を積層して結晶成長させる。反応炉内へのSiH4の供給量は第1n−GaN層11に添加されるドナー(n型不純物)であるSiの濃度が8×1018cm-3になるように調節する。
次に、第1n−GaN層11の表面にGaInN/GaN5重量子井戸活性層12を積層して結晶成長する。GaInN/GaN5重量子井戸活性層12は、GaInN井戸層(図示せず)、及びGaNバリア層(図示せず)を有している。
先ず、GaInN井戸層を積層して結晶成長する。詳しくは、反応炉内へのH2、TMGa、及びSiH4の供給を停止する。すなわち、NH3以外の原料のガスの供給を停止する。そして、反応炉内にキャリアガスとしてN2を供給する。そして、反応炉内の温度を調節して基板9の温度を780℃にする。そして、反応炉内にGaの原料であるTEGa(トリエチルガリウム)と、In(インジウム)の原料であるTMIn(トリメチルインジウム)とを供給して、2nmの厚みのGaInN井戸層を積層して結晶成長させる。
次に、GaInN井戸層の表面にGaNバリア層を積層して結晶成長する。詳しくは、反応炉内へのTMInの供給を停止して、10nmの厚みのGaNバリア層を積層して結晶成長させる。こうして成長させたGaInN量子井戸層、及びGaNバリア層を1ペアとして、この1ペアを5ペア積層して結晶成長する。こうしてGaInN/GaN5重量子井戸活性層12を形成する。そして、反応炉内へのTEGa及びTMInの供給を停止する。
次に、GaInN/GaN5重量子井戸活性層12の表面にp−AlGaN層13を積層して結晶成長する。詳しくは、反応炉内へ供給するキャリアガスをN2からH2に切り替える。そして、反応炉内の温度を調節して基板9の温度を1000℃にする。そして、反応炉内にTMGa、Al(アルミニウム)の原料であるTMAl(トリメチルアルミニウム)、及びアクセプタ(p型不純物)であるMg(マグネシウム)の原料であるCp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を供給して、20nmの厚みのp−AlGaN層13を積層して結晶成長させる。反応炉内へのCp2Mgの供給量はp−AlGaN層13に添加されるMgの濃度が2×1019cm-3になるように調節する。
次に、p−AlGaN層13の表面にp−GaN層14を積層して結晶成長する。詳しくは、反応炉内へTMAlの供給を停止して、100nmの厚みのp−GaN層14を積層して結晶成長させる。p−GaN層14に添加されるMgの濃度は2×1019cm-3である。
次に、p−GaN層14の表面に窒化物半導体を用いたトンネル接合層15を形成する。トンネル接合層15はp型トンネル接合層であるp++−GaN層15A、及びn型トンネル接合層であるn++−GaN層15Bを有している。
先ず、p型不純物を添加してp++−GaN層15Aを形成するp型トンネル接合層形成工程を実行する。
反応炉内へ供給するキャリアガスをH2からN2に切り替える。そして、反応炉内の温度を調節して基板9の温度を720℃にする。そして、反応炉内の圧力を20MPaから40MPaにし、NH3の流量を3400sccmから7200sccmにする。そして、反応炉内にTEGa、及びCp2Mgを供給する。
このとき、実施例1、2、及び比較例1、3で、反応炉内に供給するCp2Mgの流量を変化させる。具体的には、実施例1及び比較例1、3のMg/Gaのモル比が2.17×10-3であり、実施例2のMg/Gaのモル比が9.15×10-3である。つまり、実施例2のCp2Mgの流量は実施例1及び比較例1、3のおよそ4倍である。
こうして、4nmの厚みのp++−GaN層15Aを成長させ、p++−GaN層15Aに添加されるMgの濃度が1×1020cm-3以上になるようにする。こうして、p++−GaN層15Aの結晶成長を終了する。そして、反応炉内へのTEGa、及びCp2Mg、及びNH3の供給を停止する。つまり、p型トンネル接合層形成工程では、アクセプタであるMgを1×1020cm-3以上含むp++−GaN層15AをMOCVD法により成長させる。
次に、p型トンネル接合層形成工程を実行後、実施例1、2、及び比較例3では、p++−GaN層15Aの表面に活性酸素を供給する活性酸素供給工程を実行する。活性酸素供給工程はp++−GaN層15Aの表面をUVオゾン処理する。
先ず、MOCVD装置の反応炉から基板9を取り出す。そして、反応炉から取り出した基板9をUVオゾン処理装置内にセットし、基板9の表面に対して表面処理(UVオゾン処理)を行う。具体的には、実施例1、2では空気中でp++−GaN層15Aの表面に対してUV光の照射を15分間行う。また、比較例3では空気中でp++−GaN層15Aの表面に対してUV光の照射を5分間行う。これによりUV光が照射されたp++−GaN層15Aの表面近傍に活性酸素が生成されて、生成された活性酸素がp++−GaN層15Aの表面に供給され、p++−GaN層15Aの表面にO(酸素)を吸着させる。
ここで、活性酸素供給工程を実行する実施例1、2、及び比較例3との比較を行うための比較例1、2の作製手順を説明する。具体的には、比較例1は基板9をMOCVD装置の反応炉から取り出した後、活性酸素供給工程を実行しない。また、比較例2は基板9をMOCVD装置の反応炉から取り出した後、活性酸素供給工程に代えて、O2(酸素)雰囲気中で基板9に対してアニール処理(725℃、5分)を施す。
ここで、活性酸素供給工程を実行後において、p++−GaN層15Aの表面を露出した状態での実施例1、及び比較例1、3のそれぞれの試料について、XPS(X線光電子分光分析法)を用いてGa 3dの結合エネルギーを測定した結果を図4に示す。図4に示すように、比較例1の試料のグラフのピークの強度が最も大きく、比較例3の試料のグラフ、実施例1の試料のグラフの順にピークの強度が小さくなっている。また、比較例3の試料のグラフのピークの位置が最も図4の左側に位置しており、比較例1の試料のグラフ、実施例1の試料のグラフの順に図4の右側により近い位置となっている。
なお、XPSにおいて、試料の表面に対するX線の入射角度は45°である。このため、図4に示す各試料のグラフは、試料の表面だけでなく、試料の表面より深い位置におけるGa 3dの結合エネルギーも含んでいると考えられる。
また、実施例1、及び比較例1、3の試料の、図4に示すGa 3dの結合エネルギーのグラフのそれぞれをGa−NとGa−Oとに分離した結果を図5(A)〜(C)に示す。Ga 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比は、活性酸素供給工程を実行後において、p++−GaN層15Aの表面を露出した状態での値であり、Ga−Oの強度を示すグラフの面積の値をGa−Nの強度を示すグラフの面積の値で除した値である。
比較例1の試料のGa 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比はおよそ0.06である(図5(A)参照。)。
比較例3の試料のGa 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比はおよそ0.47である(図5(B)参照。)。
実施例1の試料のGa 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比はおよそ2.30である(図5(C)参照。)。
次に、活性酸素供給工程を実行後のp++−GaN層15Aの表面に、n型不純物を添加してn++−GaN層15Bを形成するn型トンネル接合層形成工程を実行する。
実施例1、2、及び比較例3ではUVオゾン処理装置から基板9を取り出し、アセトン、メタノールで有機洗浄を行う。また、比較例1は基板9をアセトン、メタノールで有機洗浄を行う。また比較例2は基板9にアニール処理を施した後、アセトン、メタノールで有機洗浄を行う。
そして、MOCVD装置の反応炉内に基板9を再びセットする。そして、反応炉内にキャリアガスのH2、及びNの原料であるNH3を供給し、反応炉内の温度を調節して基板9の温度を720℃にする。そして、反応炉内の圧力を40MPa、NH3の流量を7200sccmにする。そして、反応炉内にTEGa、及びSiH4を供給して2nmのn++−GaN層15Bを成長させる。このとき、n++−GaN層15Bに添加されるSiの濃度が2×1020cm-3になるようにTEGa、及びSiH4の流量を調節する。つまり、n型トンネル層形成工程では、ドナーであるSiを2×1020cm-3以上含むn++−GaN層15Bを成長させる。こうして、トンネル接合層15を形成する。
次に、トンネル接合層15の表面に第2n−GaN層16を積層して結晶成長する。第2n−GaN層16の厚みは400nmである。第2n−GaN層16に添加されるSiの濃度は8×1018cm-3である。
次に、第2n−GaN層16の表面にn−GaNコンタクト層17を積層して結晶成長する。n−GaNコンタクト層17の厚みは10nmである。
そして、反応炉内へのTMGa及びSiH4の供給を停止して結晶成長を終了する。そして、反応炉内へ供給するキャリアガスをH2からN2に切り替える。そして、反応炉内の温度を調節して基板9の温度が400℃以下になった時点で、反応炉内へのNH3の供給を停止する。そして、基板9の温度が室温になった後、反応炉内のパージを行い、基板9を反応炉から取り出す。こうして、図1に示す層構造を有した実施例1、2、及び比較例1〜3の基板9を作成することができる。
次に、上記の手順に基づいて結晶成長して層構造を形成し、窒化物半導体によって形成されたトンネル接合層15を備えた実施例1、2、及び比較例1、2の試料のそれぞれを電流注入可能な素子に形成する前の状態における、O(酸素)の試料の厚み方向の濃度プロファイルをSIMSにより測定した結果を図2(A)〜(D)に示す。実施例1、2、及び比較例1、2の試料のトンネル接合層15はMgが添加されたp++−GaN層15Aと、p++−GaN層15Aの表面に積層され、Siが添加されたn++−GaN層15Bとを有している。
ここで、SIMSの測定条件を以下に示す。測定装置:CAMECA IMS−6F、一次イオン種:Cs+、一次加速電圧、5.0kV、検出領域:60μmφである。測定濃度はそれぞれイオン注入した標準試料を用いて較正した。
活性酸素供給工程を実行しない比較例1の試料における、トンネル接合層15の界面15C付近のO(酸素)濃度は2×1018cm-3である(図2(A)参照。)。
また、O2(酸素)雰囲気中でのアニール処理(725℃、5分)した比較例2の試料における、トンネル接合層15の界面15C付近のO(酸素)濃度は2×1019cm-3である(図2(B)参照。)。
これに対して、活性酸素供給工程を実行した実施例1、2の試料におけるトンネル接合層15の界面15C(p++−GaN層15Aとn++−GaN層15Bとの界面15C)付近のO(酸素)濃度は、4×1018cm-3以上、1×1019cm-3以下であった(図2(C)、(D)参照。)。具体的には、実施例1の試料におけるトンネル接合層15の界面15C付近のO(酸素)濃度が1×1019cm-3であり、実施例2の試料におけるトンネル接合層15の界面15C付近のO(酸素)濃度が4×1018cm-3であった。これは、p型トンネル接合層形成工程において、実施例1、2とで反応炉内へのCp2Mgの流量を変化させたことによるものである。
つまり、比較例1の試料はトンネル接合層15の界面15CのO(酸素)濃度が最も低く、比較例2の試料はO(酸素)濃度が最も高い。実施例1、2の試料のトンネル接合層15の界面15CのO(酸素)濃度は比較例1より高く、比較例2より低い値である。
また、比較例2の試料はトンネル接合層15を形成する前に形成されたp−AlGaN層13、及びp−GaN層14におけるO(酸素)濃度が高くなっている。つまり、比較例2の試料はO(酸素)がp−AlGaN層13、及びp−GaN層14に大きく拡散している。
次に、実施例1、2、及び比較例1〜3の試料のそれぞれを用いて電流注入が可能な素子の形成を行う。
先ず、表面からの平面視において、基板9上に直径35μmの円形形状であるメサ構造20を形成する。詳しくは、フォトリソグラフィ及びドライエッチングを用いて基板9上にメサ構造20を形成する。より詳しくは、基板9上の最も表面に積層して結晶成長したn−GaNコンタクト層17の表面に直径35μmの円形形状のフォトレジスト又は金属マスクを形成する(図示せず。)。フォトレジスト又は金属マスクが形成された直下はエッチングで除去されない。また、フォトレジスト又は金属マスクが形成されていない領域は、表面に第1n−GaN層11が露出するまでエッチングされる。露出した第1n−GaN層11には後述する第2電極22を形成する。こうして、基板9上に直径35μmの円形形状であるメサ構造20を形成する。
次に、メサ構造20を形成した基板9をO2(酸素)雰囲気中にて、725℃で30分間アニール処理を行い、埋め込まれたp−AlGaN層13、p−GaN層14、及びトンネル接合層15のp++−GaN層15AのMgを活性化させる。ここで、活性化とはp型不純物であるMgに結合しているH(水素)を離脱させてMgを活性化させ、Mgが添加されたp−AlGaN層13、p−GaN層14、及びトンネル接合層15のp++−GaN層15Aの電気伝導性を向上させることである。こうして活性化することで、エッチングによって、側面が露出したp−AlGaN層13、p−GaN層14及びトンネル接合層15のp++−GaN層15Aのそれぞれの側面からMgを不活性化させていたHを離脱させる。
次に、第1電極21、及び第2電極22を形成する。詳しくは、円形形状をなした第1電極21をメサ構造20の表面に形成する。また、円環状をなした第2電極22をメサ構造20の周囲を囲むように、第1n−GaN層11の露出した表面に形成する。第1電極21、及び第2電極22は、Ti/Al/Ti/Auである。また、第1電極21、及び第2電極22はそれぞれを一括して形成する。こうして、第1電極21からトンネル接合層15、及びGaInN/GaN5重量子井戸活性層12を通過して第2電極22に電流を流すことができる実施例1、2、及び比較例1〜3の窒化物半導体発光素子を形成する。
次に、電流注入が可能な素子に形成された実施例1、2、及び比較例1、2の試料について電流電圧特性を測定した結果を図3に示す。
比較例1の試料の5kA/cm2における駆動電圧は8.7Vである。
比較例2の試料の5kA/cm2における駆動電圧は8.0Vである。
実施例1の試料(トンネル接合層15の界面15CのO(酸素)濃度が1×1019cm-3)の5kA/cm2における駆動電圧は6.7Vである。
実施例2の試料(トンネル接合層15の界面15CのO(酸素)濃度が4×1018cm-3)の5kA/cm2における駆動電圧は4.9Vである。
実施例1、2の試料は比較例1の試料に比べて駆動電圧が小さい。
また比較例2の試料は、比較例1の試料に比べて駆動電圧が小さくなっているが、実施例1、2の試料に比べて駆動電圧が大きい。これは、比較例2の試料は実施例1、2の試料に比べて基板9側(p−AlGaN層13、及びp−GaN層14側)にO(酸素)が大きく拡散していることが原因と考えられる(図2(B)参照。)。
実施例2の試料の駆動電圧は、GaInNを用いることによって電気抵抗を小さくしたトンネル接合層や、従来の金属によるp電極コンタクト品(すなわち、トンネル接合層を備えない)で得られた駆動電圧と同等の大きさである(図示せず。)。
次に、電流注入が可能な素子に形成された実施例1、及び比較例1、3の試料について電流電圧特性を測定した結果を図6に示す。
図6に示すように、比較例1の試料の5kA/cm2における駆動電圧は8.7Vである。
比較例3の試料の5kA/cm2における駆動電圧は9.0Vである。
実施例1の試料の5kA/cm2における駆動電圧は6.7Vである。
比較例3の試料は、UVオゾン処理を行っているにもかかわらず、UVオゾン処理を行っていない比較例1の試料と同等の大きな駆動電圧である。つまり、比較例1、3の試料のようにGa 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比が0.47以下では5kA/cm2における駆動電圧を小さくする効果はなく、実施例1の試料のように、UVオゾン処理において、p++−GaN層15Aの表面に対してUV光を15分間照射し、Ga 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比を2.30以上に高めることによって5kA/cm2における駆動電圧を小さくできることがわかった。
こうして、p++−GaN層15Aの表面に活性酸素を供給する活性酸素供給工程を実行することで、バンドギャップの大きいGaNであっても極めて電気抵抗が小さいトンネル接合層15が形成できることがわかった。
つまり、UVオゾン処理によって発生する活性酸素によってp++−GaN層15Aの表面を酸化処理することは駆動電圧の低減に有効であることがわかった。これにより、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は従来困難であったMOCVD法のみによって、電気抵抗が小さいトンネル接合層15を形成できることがわかった。
このように、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、p++−GaN層15Aが形成された基板9を大気中に暴露した場合に比べて、より良好にp++−GaN層15Aの表面にO(酸素)を吸着させることができる。これにより、この窒化物半導体発光素子の製造方法はトンネル接合層15の電気抵抗をより小さくすることができる。
また、この窒化物半導体発光素子は、従来の窒化物半導体発光素子のように、トンネル接合層15の界面15Cに高い濃度のO(酸素)を存在させなくても、トンネル接合層15の電気抵抗を良好に抑えることができる。このため、この窒化物半導体発光素子はO(酸素)を添加することによるトンネル接合層15の結晶性への影響を抑えることができる。
したがって、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は良好に発光することができる窒化物半導体発光素子を容易に製造することができ、本発明の窒化物半導体発光素子は良好に発光することができる。
また、この窒化物半導体発光素子の製造方法の活性酸素供給工程は、p++−GaN層15Aの表面をUVオゾン処理する。このため、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、p++−GaN層15Aの表面にUV光を照射することによって、p++−GaN層15Aの表面の近傍に活性酸素を発生させ、p++−GaN層15Aの表面に活性酸素を供給することができる。つまり、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、加熱したり、薬品を用いたりすることなく、容易にp++−GaN層15Aの表面にO(酸素)を吸着させることができる。
また、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、活性酸素供給工程を実行後において、p++−GaN層15Aの表面を露出した状態でのGa 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比が2.30以上であり得る。この場合、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、Ga 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比を得ることによって、p++−GaN層15Aの表面を露出した状態での酸化度合いを定量的に扱うことができる。また、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、p++−GaN層15Aの表面を露出した状態でのGa 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比が2.30以上である。これにより、この窒化物半導体発光素子の製造方法はトンネル接合層15の電気抵抗をより小さくすることができる。
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1、2に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1、2では、トンネル接合層の裏面側は一般的な青色LED構造であるが、これに限らず、高電流密度領域における電圧降下が大きく改善されることから、端面レーザダイオードや、第1n−GaN層の裏面側に、多層膜反射鏡を設けた面発光レーザ構造としても良い。
(2)実施例1、2では、p型不純物としてMgを用いているが、これに限らず、p型不純物である、Zn,Be、Ca、Sr、及びBa等であっても良い。
(3)実施例1、2では、n型不純物としてSiを用いているが、これに限らず、n型不純物である、Ge、Te等であっても良い。
(4)実施例1、2では、GaInN/GaN5重量子井戸活性層の表面にp−AlGaN層を積層して形成しているが、これに限らず、GaInN量子井戸活性層の表面にp−AlGaN層を積層して形成しなくても良い。
(5)実施例1、2では、サファイア基板を用いているが、これに限らず、窒化ガリウム基板やAlN基板等の他の基板を用いても良い。
(6)実施例1、2では、トンネル接合層のp++−GaN層の厚みを4nmとしているが、これに限らず、トンネル接合層のp++−GaN層の厚みを4nmより小さくしても良く、4nmより大きくしても良い。
(7)実施例1、2では、トンネル接合層のn++−GaN層の厚みを2nmとしているが、これに限らず、トンネル接合層のn++−GaN層の厚みを2nmより小さくしても良く、2nmより大きくしても良い。
(8)実施例1、2では、トンネル接合層にGaNを用いているが、活性層の発光波長の長さに応じて、GaInNやAlGaNをトンネル接合層の材料として用いても良い。
(9)実施例1、2では、UVオゾン処理において、p++−GaN層の表面に対してUV光を15分間照射しているが、UV光を15分以上照射してもよい。
9…サファイア基板(基板)
15…トンネル接合層
15A…p++−GaN層(p型トンネル接合層)
15B…n++−GaN層(n型トンネル接合層)
15C…界面

Claims (3)

  1. 有機金属気相成長法を用い、基板の表面に窒化物半導体を用いたトンネル接合層を形成する窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
    p型不純物を添加してp型トンネル接合層を形成するp型トンネル接合層形成工程と、
    前記p型トンネル接合層形成工程を実行後、前記p型トンネル接合層の表面に活性酸素を供給する活性酸素供給工程と、
    前記活性酸素供給工程を実行後の前記p型トンネル接合層の表面に、n型不純物を添加してn型トンネル接合層を形成するn型トンネル接合層形成工程と、
    を備えることを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。
  2. 前記活性酸素供給工程は、前記p型トンネル接合層の表面をUVオゾン処理することを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
  3. 前記活性酸素供給工程を実行後において、前記p型トンネル接合層の表面を露出した状態でのGa 3dの結合エネルギーにおけるGa−O/Ga−Nの強度比が2.30以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
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