<変性共役ジエン系ゴムの製造方法>
本発明の変性共役ジエン系ゴムの製造方法は、
重合開始剤として、アルカリ金属原子と芳香環とに直接結合した炭素原子を、1分子中に2個有するアルカリ金属化芳香族化合物を用いて、少なくとも共役ジエン化合物を含んでなる単量体を重合し、活性末端を有する共役ジエン系ゴムを得る第1工程と、
水酸基の保護基を1分子中に少なくとも1個有する、2官能のカップリング剤を用いて、前記活性末端を有する共役ジエン系ゴムのカップリング反応を行う第2工程と、
前記カップリング反応を行った共役ジエン系ゴムの活性末端に、前記活性末端と反応することができる原子または反応基を1分子中に1個有する変性剤を反応させて、変性共役ジエン系ゴムを得る第3工程と、を備える。
<第1工程>
まず、本発明の製造方法における、第1工程について説明する。本発明の製造方法における第1工程は、重合開始剤として、アルカリ金属原子と芳香環とに直接結合した炭素原子を、1分子中に2個有するアルカリ金属化芳香族化合物を用いて、少なくとも共役ジエン化合物を含んでなる単量体を重合し、活性末端を有する共役ジエン系ゴムを得る工程である。
本発明の製造方法の第1工程において用いられる重合開始剤は、アルカリ金属原子と芳香環とのそれぞれに直接結合した炭素原子を1分子中に2個有するアルカリ金属化芳香族化合物である。本発明で重合開始剤として用いられるアルカリ金属化芳香族化合物が有するアルカリ金属原子は、特に限定されるものではないが、リチウム、ナトリウム、またはカリウムであることが好ましく、これらのなかでも、リチウムが特に好ましい。また、アルカリ金属化芳香族化合物が有する芳香環も、芳香族性を有する共役環であれば特に限定されず、具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの電気的に中性な芳香族炭化水素環;シクロペンタジエニルアニオン環、インデニルアニオン環、フルオレニルアニオン環などの負電荷を有する芳香族炭化水素環;フラン環、チオフェン環などのヘテロ原子を含有する芳香環;などを挙げることができる。これらのなかでも、電気的に中性な芳香族炭化水素環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。電気的に中性な芳香族炭化水素環を有するアルカリ金属化芳香族化合物が、その安定性や重合活性の観点から好ましく用いられる。
なお、本発明で用いるアルカリ金属化芳香族化合物においては、前記アルカリ金属原子は、アルカリ金属化芳香族化合物内において、通常、カチオンの状態で存在しており、また、アルカリ金属原子と芳香環とのそれぞれに直接結合する炭素原子は、このようなカチオンの状態のアルカリ金属原子と結合するために、通常、アニオンの状態で存在している。そして、本発明で用いるアルカリ金属化芳香族化合物中においては、このようにカチオンの状態で存在するアルカリ金属原子と、アニオンの状態で存在する炭素原子とがイオン結合を形成し、これにより互いに直接結合した状態となっている。
本発明においては、重合開始剤として、アルカリ金属原子と芳香環とのそれぞれに直接結合した炭素原子を1分子中に2個有するアルカリ金属化芳香族化合物を用いることにより、該アルカリ金属化芳香族化合物に含まれる2個のアルカリ金属原子が直接結合した炭素原子のそれぞれを重合開始点として、共役ジエン系重合体鎖がリビング重合性を伴って成長することとなるため、得られる共役ジエン系ゴムを、アルカリ金属化芳香族化合物を起点とした、直鎖状の構造を有するものとすることができる。
また、本発明において重合開始剤として用いられるアルカリ金属化芳香族化合物は、アルカリ金属原子と芳香環とのそれぞれに直接結合した炭素原子を1分子中に2個有するものであれば、その構造は特に限定されず、たとえば、1つの芳香環に対して、アルカリ金属原子と直接結合した炭素原子が2個直接結合したものであっても、アルカリ金属原子と直接結合した炭素原子が1個直接結合した2つの芳香環を備え、かつこのような芳香環が、化学的な単結合または結合基を介して結合されたものであってもよい。
1つの芳香環に対して、アルカリ金属原子と直接結合した炭素原子が2個直接結合してなるアルカリ金属化芳香族化合物としては、下記一般式(7)で表される化合物が好ましく用いられる。
上記一般式(6)において、sは、0〜5の整数であり、R
48〜R
55は、それぞれ独立して水素原子、アルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基、または、芳香環に直接あるいは任意の結合基を介して結合された炭素数6〜12のアリール基を表し、R
48〜R
55のうち2個のみが、アルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基である。また、sが2以上である場合には、R
52およびR
55はそれぞれ複数存在するが、この場合においても、R
48〜R
51、R
53、R
54、および複数存在するR
52、R
55のうち2個のみが、アルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基であればよい。さらに、sが2以上である場合には、上記一般式(7)で表される構造にかかわらず、3個以上存在するベンゼン環は互いに任意の位置で縮合したものであってもよい。なお、上記「それぞれ独立して」とは、sが2以上である場合、複数存在するR
52、R
55も、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよいとの意味を含むものである(以下、本明細書において、「それぞれ独立して」は、同様な意味で使用する。)。また、上記一般式(7)において、アルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基としては、アルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜5のアルカリ金属化アルキル基がより好ましく、アルカリ金属原子が結合したメチル基であることがさらに好ましい。さらに、芳香環に直接あるいは任意の結合基を介して結合された炭素数6〜12のアリール基としては、芳香環に直接あるいは炭素数1〜6のアルキレン基を介して結合されたフェニル基が好ましく、芳香環に直接あるいはメチレン基を介して結合されたフェニル基がより好ましい。また、R
48〜R
55のうち、アルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基以外の基としては、水素原子、または、芳香環に直接あるいは任意の結合基を介して結合された炭素数6〜12のアリール基のいずれかであればよいが、水素原子であることが好ましい。sは、好ましくは0〜2の整数であり、より好ましくは、0である。
あるいは、アルカリ金属原子と直接結合した炭素原子が1個直接結合した2つの芳香環を備え、かつこのような芳香環が、化学的な単結合または結合基を介して結合されてなるアルカリ金属化芳香族化合物としては、下記一般式(8)で表される化合物が好ましく用いられる。
上記一般式(8)において、tは、1〜5の整数であり、R
56〜R
65は、それぞれ独立して水素原子、またはアルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基を表し、R
56〜R
65のうち2個のみが、アルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基であり、かつ、このようなアルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基は互いに異なる芳香環に結合されている。また、tが2以上である場合には、R
57〜R
60はそれぞれ複数存在するが、この場合においても、R
61〜R
65、および複数存在するR
57〜R
60のうち2個のみが、アルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基であり、かつ、このようなアルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基は互いに異なる芳香環に結合されていればよい。また、A
4は、化学的な単結合または任意の結合基を表す。また、上記一般式(8)において、アルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜10のアルカリ金属化アルキル基としては、アルカリ金属原子がα位に結合した炭素数1〜5のアルカリ金属化アルキル基が好ましく、アルカリ金属原子が結合したメチル基であることがより好ましい。A
4としては、化学的な単結合または炭素数1〜5のアルキレン基であることが好ましく、化学的な単結合またはメチレン基であることがより好ましい。tは、好ましくは1〜2の整数であり、より好ましくは、1である。
本発明において重合開始剤として用いられるアルカリ金属化芳香族化合物の合成方法は特に限定されないが、芳香環に直接結合した炭素原子を1分子中に2個有する芳香族化合物に、有機アルカリ金属化合物を反応させて得られたものが好適に用いられる。
本発明で用いるアルカリ金属化芳香族化合物を合成するために用いられる有機アルカリ金属化合物としては、特に限定されないが、アルキル基またはアリール基を有するアルカリ金属化合物が好適に用いられ、その具体例としては、メチルリチウム、メチルナトリウム、メチルカリウム、エチルリチウム、エチルナトリウム、エチルカリウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルカリウム、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、n−ブチルナトリウム、n−ブチルカリウム、n−ペンチルリチウム、n−アミルリチウム、n−オクチルリチウム、フェニルリチウム、ナフチルリチウム、フェニルナトリウム、ナフチルナトリウムなどが挙げられる。これらのなかでも、アルキル基を有するアルカリ金属化合物が好ましく、アルキル基を有するリチウム化合物がより好ましく、n−ブチルリチウムが特に好ましい。
本発明で用いるアルカリ金属化芳香族化合物を合成するために、アルキル(またはアリール)カリウムやアルキル(またはアリール)ナトリウムを用いる場合は、アルキル基またはアリール基を有するリチウム化合物と、アルコキシル基を有するカリウムまたはナトリウム化合物とを混合することにより、目的とするカリウムまたはナトリウム化合物を得てもよい。このとき用いられるアルコキシル基を有するカリウムまたはナトリウム化合物としては、t−ブトキシカリウムやt−ブトキシナトリウムが例示される。アルコキシル基を有するカリウムまたはナトリウム化合物の使用量は、特に限定されないが、アルキル基またはアリール基を有するリチウム化合物に対して、通常0.1〜5.0モル、好ましくは0.2〜3.0モル、より好ましくは0.3〜2.0モルである。
アルカリ金属化芳香族化合物の合成に用いられ得る芳香環に直接結合した炭素原子を1分子中に2個有する芳香族化合物としては、上記一般式(7)で表されるアルカリ金属化芳香族化合物を得るための芳香族化合物である、下記一般式(1)で表される芳香族化合物や、上記一般式(8)で表されるアルカリ金属化芳香族化合物を得るための芳香族化合物である、下記一般式(2)で表される芳香族化合物を例示することができる。
上記一般式(1)において、mは、0〜5の整数であり、R
1〜R
8は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または、芳香環に直接あるいは任意の結合基を介して結合された炭素数6〜12のアリール基を表し、R
1〜R
8のうち2個のみが炭素数1〜10のアルキル基である。また、mが2以上である場合には、R
5およびR
8はそれぞれ複数存在するが、この場合においても、R
1〜R
4、R
6、R
7、および複数存在するR
5、R
8のうち2個のみが炭素数1〜10のアルキル基である。さらに、mが2以上である場合には、上記一般式(1)で表される構造にかかわらず、3個以上存在するベンゼン環は互いに任意の位置で縮合したものであってもよい。また、上記一般式(1)において、炭素数1〜10のアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基がより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。さらに、芳香環に直接あるいは任意の結合基を介して結合された炭素数6〜12のアリール基としては、芳香環に直接あるいは炭素数1〜6のアルキレン基を介して結合されたフェニル基が好ましく、芳香環に直接あるいはメチレン基を介して結合されたフェニル基がより好ましい。また、R
1〜R
8のうち、炭素数1〜10のアルキル基以外の基としては、水素原子、または、芳香環に直接あるいは任意の結合基を介して結合された炭素数6〜12のアリール基のいずれかであればよいが、水素原子であることが好ましい。mは、好ましくは0〜2の整数であり、より好ましくは、0である。
上記一般式(2)において、nは、1〜5の整数であり、R
9〜R
18は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、R
9〜R
18のうち2個のみが炭素数1〜10のアルキル基であり、かつ、このような炭素数1〜10のアルキル基は互いに異なる芳香環に結合されている。また、nが2以上である場合には、R
10〜R
13はそれぞれ複数存在するが、この場合においても、R
9、R
14〜R
18、および複数存在するR
10〜R
13のうち2個のみが炭素数1〜10のアルキル基であり、かつ、このような炭素数1〜10のアルキル基は互いに異なる芳香環に結合されている。また、A
1は、化学的な単結合または任意の結合基を表す。また、上記一般式(2)において、炭素数1〜10のアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、メチル基であることがより好ましい。A
1としては、化学的な単結合または炭素数1〜5のアルキレン基であることが好ましく、化学的な単結合またはメチレン基であることがより好ましい。nは、好ましくは1〜2の整数であり、より好ましくは、1である。
上記一般式(1)で表される芳香族化合物の具体例としては、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1,2−ジエチルベンゼン、1,3−ジエチルベンゼン、1,4−ジエチルベンゼン、1,2−ジプロピルベンゼン、1,3−ジプロピルベンゼン、1,4−ジプロピルベンゼン、1,4−ジブチルベンゼン、1,4−ジペンチルベンゼンなどの2個のアルキル基を有するベンゼン類;2,3−ジメチルナフタレン、2,6−ジメチルナフタレン、2,7−ジメチルナフタレン、1,3−ジメチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、1,5−ジメチルナフタレンなどの2個のアルキル基を有するナフタレン類;などが挙げられる。
また、上記一般式(2)で表される芳香族化合物の具体例としては、2,2’−ジメチルビフェニル、3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジメチルビフェニル、2,4’−ジメチルビフェニル、2,3’−ジメチルビフェニル、3,4’−ジメチルビフェニル、ジ−p−トリルメタン、1,2−ビス(4−メチルフェニル)エタン、3,3’−ジトリルメタン、3,4’−ジトリルメタン、1,4’−ジトリルメタン、2,3−ジメチルビフェニル、2,4−ジメチルビフェニル、2,5−ジメチルビフェニル、2,6−ジメチルビフェニル、3,4−ジメチルビフェニル、3,5−ジメチルビフェニルなどが挙げられる。
芳香環に直接結合した炭素原子を1分子中に2個有する芳香族化合物に、有機アルカリ金属化合物を反応させる方法は特に限定されるものではないが、不活性雰囲気下、不活性溶媒中で反応させる方法が好ましく用いられる。用いられる不活性溶媒は、反応させる化合物を溶解させ得る溶媒であれば特に限定されないが、炭化水素系溶媒を用いることが好ましい。具体的には、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;などが挙げられる。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、芳香環に直接結合した炭素原子を1分子中に2個有する芳香族化合物に対する、有機アルカリ金属化合物の使用量も特に限定されるものではないが、芳香族化合物中の芳香環に直接結合した炭素原子1モルに対して、通常0.1〜100モル、好ましくは0.2〜50モル、より好ましくは0.3〜10モル、特に好ましくは0.3〜1.1モルである。この反応の反応時間、反応温度も特に限定されないが、反応時間は、通常1分〜10日、好ましくは1分〜5日の範囲であり、反応温度は、通常−50℃〜100℃の範囲である。
また、芳香環に直接結合した炭素原子を1分子中に2個有する芳香族化合物に、有機アルカリ金属化合物を反応させるにあたり、反応を促進させる目的で、アルカリ金属原子への配位能を有する化合物を共存させてもよい。アルカリ金属原子への配位能を有する化合物としては、ヘテロ原子を含有するルイス塩基化合物が好適に用いられ、これらのなかでも、窒素原子または酸素原子を含有するルイス塩基化合物が特に好適に用いられる。窒素原子または酸素原子を含有するルイス塩基化合物の具体例としては、ジエチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル、ジメトキシベンゼン、ジメトキシエタン、ジグライム、エチレングリコールジブチルエーテルなどの鎖状エーテル化合物;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの分子内に窒素原子を1つ有する第3級アミン化合物;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどの分子内に酸素原子を1つ有する環状エーテル化合物;ピリジン、ルチジン、1−メチルイミダゾールなどの含窒素複素環化合物;ビステトラヒドロフリルプロパンなどの分子内に酸素原子を2つ以上有する環状エーテル化合物;N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジピペリジノエタン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、(−)−スパルテイン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンなどの分子内に窒素原子を2つ以上有する第3級アミン化合物;ヘキサメチルホスホアミドなどの分子内に窒素−ヘテロ原子結合を有する第3級アミド化合物;などが挙げられる。
アルカリ金属原子への配位能を有する化合物の使用量は、特に限定されず、その配位能の強さに応じて決定すればよい。たとえば、アルカリ金属原子への配位能を有する化合物として、比較的に配位能が弱い化合物である、鎖状エーテル化合物や分子内に窒素原子を1つ有する第3級アミン化合物を用いる場合、その使用量は、芳香族化合物と反応させる有機アルカリ金属化合物中のアルカリ金属原子1モルに対して、通常1〜100モル、好ましくは5〜50モル、より好ましくは10〜25モルの範囲である。また、アルカリ金属原子への配位能を有する化合物として、配位能が中程度である化合物である、分子内に酸素原子を1つ有する環状エーテル化合物や含窒素複素環化合物を用いる場合、その使用量は、芳香族化合物と反応させる有機アルカリ金属化合物中のアルカリ金属原子1モルに対して、通常1〜100モル、好ましくは1〜20モル、より好ましくは2〜10モルの範囲である。また、アルカリ金属原子への配位能を有する化合物として、比較的に配位能が強い化合物である、分子内に酸素原子を2つ以上有する環状エーテル化合物や分子内に窒素原子を2つ以上有する第3級アミン化合物や分子内に窒素−ヘテロ原子結合を有する第3級アミド化合物を用いる場合、その使用量は、芳香族化合物と反応させる有機アルカリ金属化合物中のアルカリ金属原子1モルに対して、通常0.01〜5モル、好ましくは0.01〜2モル、より好ましくは0.01〜1.5モルの範囲である。アルカリ金属原子への配位能を有する化合物の使用量が多すぎると、反応が進行しなくなるおそれがある。なお、これらのアルカリ金属原子への配位能を有する化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アルカリ金属原子と芳香環とに直接結合した炭素原子を、1分子中に2個有するアルカリ金属化芳香族化合物の生成効率を特に良好とし、重合により得られる共役ジエン系ゴム中における直鎖状の重合体の割合を高める観点からは、アルカリ金属原子への配位能を有する化合物として、分子内に酸素原子を2つ以上有する環状エーテル化合物、分子内に窒素原子を2つ以上有する第3級アミン化合物、および分子内に窒素−ヘテロ原子結合を有する第3級アミド化合物から選択される少なくとも1種の化合物を用い、その使用量を、芳香族化合物と反応させる有機アルカリ金属化合物中のアルカリ金属原子1モルに対して、0.02〜3モルの範囲とすることが特に好ましい。
芳香族化合物に、有機アルカリ金属化合物を反応させるにあたり、アルカリ金属原子への配位能を有する化合物を共存させる場合において、それぞれの添加順序は特に限定されない。ただし、アルカリ金属化芳香族化合物の生成効率を特に良好とする観点からは、芳香族化合物および有機アルカリ金属化合物を共存させた後、その系にアルカリ金属原子への配位能を有する化合物を添加する順序、または芳香族化合物およびアルカリ金属原子への配位能を有する化合物を共存させた後、その系に有機アルカリ金属化合物を添加する順序が好適である。このような順序で添加を行うことにより、有機アルカリ金属化合物とアルカリ金属原子への配位能を有する化合物との錯体形成による不溶化が防止され、アルカリ金属化芳香族化合物の生成効率が特に良好となる。
本発明の製造方法の第1工程においては、たとえば、以上のようにして得られる、アルカリ金属原子と芳香環とに直接結合した炭素原子を、1分子中に2個有するアルカリ金属化芳香族化合物を重合開始剤として用いて、少なくとも共役ジエン化合物を含んでなる単量体を重合することで、活性末端を有する共役ジエン系ゴムを得るものである。上述した重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。共役ジエン化合物としては、特に限定されず、たとえば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−3−エチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−シクロヘキサジエンなどを挙げることができる。これらのなかでも、1,3−ブタジエン、イソプレンまたは1,3−ペンタジエンが好ましく、1,3−ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。なお、これらの共役ジエン化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本発明の製造方法においては、活性末端を有する共役ジエン系ゴムは、共役ジエン化合物に加えて芳香族ビニル化合物を含んでなる単量体を共重合してなるものであることが好ましい。芳香族ビニル化合物としては、特に限定されず、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノメチルスチレン、ジメチルアミノエチルスチレンなどを挙げることができる。これらのなかでも、スチレン、α−メチルスチレン、または4−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。なお。これらの芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明で用いられる活性末端を有する共役ジエン系ゴムは、共役ジエン単量体単位50〜100重量%を含むものが好ましく、55〜95重量%を含むものが特に好ましく、また、芳香族ビニル単量体単位50〜0重量%を含むものが好ましく、45〜5重量%を含むものが特に好ましい。
また、本発明の製造方法においては、活性末端を有する共役ジエン系ゴムは、本発明の目的を損なわない範囲において、所望により、共役ジエン化合物、および芳香族ビニル化合物以外に、その他の単量体を共重合してなるものであってもよい。その他の単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸または酸無水物;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル;1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンなどの非共役ジエン;などを挙げることができる。これらのその他の単量体は、活性末端を有する共役ジエン系ゴム中に、単量体単位として、10重量%以下とするのが好ましく、5重量%以下とするのがより好ましい。
本発明の製造方法において、2種以上の単量体を用いて共重合体を得る場合の、共重合の様式は特に限定されず、ランダム状、ブロック状、テーパー状などのいずれであってもよいが、ランダム状の結合様式であることが好ましい。ランダム状にすることにより、得られるゴム架橋物は低発熱性により優れたものとなる。
本発明の製造方法では、通常、重合反応はリビング性を伴って進行するので、重合開始剤として用いるアルカリ金属化芳香族化合物と単量体との使用割合は、目的とする重合体の分子量に応じて決定すればよいが、単量体1モルに対する、アルカリ金属化芳香族化合物中のアルカリ金属の量が、通常0.000001〜0.1モル、好ましくは0.00001〜0.05モル、特に好ましくは0.0001〜0.01モルとなる範囲で選択される。アルカリ金属化芳香族化合物の使用量が少なすぎると、得られる共役ジエン系ゴムの分子量が高くなりすぎて取り扱いが困難となったり、重合反応が十分に進行しなかったりするおそれがある。一方、アルカリ金属化芳香族化合物の使用量が多すぎると、得られる共役ジエン系ゴムの分子量が低くなりすぎて、ゴム材料として特性に劣るものとなるおそれがある。
また、重合反応を行うに際しては、重合速度や得られる共役ジエン系ゴムのミクロ構造を制御する目的で、重合反応系に、上述したようなアルカリ金属原子への配位能を有する化合物を添加してもよい。これらのアルカリ金属原子への配位能を有する化合物の使用量は、重合開始剤として用いるアルカリ金属化芳香族化合物中のアルカリ金属原子1モルに対して、通常、5モル以下、好ましくは4モル以下、特に好ましくは2モル以下である。これらのアルカリ金属原子への配位能を有する化合物の使用量が多すぎると、重合反応を阻害するおそれがある。なお、重合開始剤として用いるアルカリ金属化芳香族化合物を調製する際に、アルカリ金属原子への配位能を有する化合物を用いた場合は、その化合物を含有する溶液をそのまま使用することもできる。
特に、得られるゴム架橋物を低発熱性により優れるものとすることができる観点からは、分子内に酸素原子を2つ以上有する環状エーテル化合物、分子内に窒素原子を2つ以上有する第3級アミン化合物、および分子内に窒素−ヘテロ原子結合を有する第3級アミド化合物から選択される少なくとも1種の化合物を、重合開始剤として用いるアルカリ金属化合物(ここでいうアルカリ金属化合物は、アルカリ金属化芳香族化合物に限られず、反応系中に存在し、重合開始剤として働くアルカリ金属化合物全てを含むものである)中のアルカリ金属原子1モルに対して、0.02〜3.0モルの範囲で存在させることが好ましい。このようにすることで、適度なビニル結合含有量を有する共役ジエン系ゴムが得られ、その結果として、これを用いて得られるゴム架橋物を低発熱性により優れるものとすることができる。
本発明の製造方法における、共役ジエン化合物を含んでなる単量体の重合様式は、溶液重合法を用いることが好ましい。
溶液重合法にて用いる溶媒は、重合反応において不活性であり、単量体や重合触媒を溶解させ得る溶媒であれば特に限定されない。用いうる溶媒の具体例としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル類;などが挙げられる。これらのなかでも、脂肪族炭化水素や脂環族炭化水素を溶媒として用いると重合活性が高くなるので好ましい。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
溶液重合法における重合溶液中の単量体の濃度は、特に限定されないが、通常1〜50重量%、好ましくは2〜45重量%、より好ましくは5〜40重量%の範囲で選択される。溶液中の単量体の濃度が低すぎると、共役ジエン系ゴムの生産性が悪くなるおそれがあり、濃度が高すぎると、溶液の粘度が高くなりすぎて、その取り扱いが困難となる場合がある。また、重合温度にも特に制限はないが、通常−30℃〜+200℃、好ましくは0℃〜+180℃の範囲である。重合時間にも特に制限は無く、通常1分〜100時間の範囲である。重合様式としては、回分式、連続式などいずれの様式をも採用できるが、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合させる場合は、共役ジエン単量体単位と芳香族ビニル単量体単位との結合のランダム性を制御しやすい点で、回分式が好ましい。
以上のようにして、共役ジエン化合物を含んでなる単量体を重合することで、共役ジエン系ゴムを得ることができる。なお、本発明の製造方法においては、通常、重合反応はリビング性を伴って進行するので重合反応系には、活性末端を有する重合体が存在することとなる。そのため、第1工程において、重合反応により得られる共役ジ
エン系ゴムは、活性末端を有するものとなる。また、本発明の製造方法においては、重合開始剤として、アルカリ金属原子と芳香環とのそれぞれに直接結合した炭素原子を1分子中に2個有するアルカリ金属化芳香族化合物を用いるため、第1工程で得られる活性末端を有する共役ジエン系ゴムは、アルカリ金属化芳香族化合物を起点とした、直鎖状の構造を有するものとなる。
<第2工程>
次いで、本発明の製造方法における、第2工程について説明する。本発明の製造方法における第2工程は、水酸基の保護基を1分子中に少なくとも1個有する、2官能のカップリング剤(すなわち、1分子中に、水酸基の保護基を少なくとも1個有し、かつ、共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子または反応基を2個有するカップリング剤)を用いて、上記第1工程で得られた活性末端を有する共役ジエン系ゴムのカップリング反応を行う工程である。
上記第1工程で得られた活性末端を有する共役ジエン系ゴムは、上述したように直鎖状の構造を有するものである。そのため、本発明の製造方法の第2工程によれば、このような直鎖状の、活性末端を有する共役ジエン系ゴムに対して、水酸基の保護基を1分子中に少なくとも1個有する、2官能のカップリング剤(以下、適宜、「保護基含有2官能カップリング剤」とする。)を用いてカップリング反応を行うことにより、直鎖状の構造を保持したまま、カップリング反応による高分子量化が可能となる。また、本発明の製造方法の第2工程によれば、直鎖状の構造を保持したまま、高分子量化を行うことができることにより、三次元化によるゲル化を効果的に抑制しながら、高分子量化を実現することができるものである。加えて、このようなカップリング剤として、このような保護基含有2官能カップリング剤を使用することにより、カップリング反応部位に、水酸基の保護基を導入することができる。なお、本発明において、水酸基の保護基は、加水分解することにより、水酸基を与えることのできる基である。そのため、本発明によれば、このような水酸基の保護基に対し加水分解を行うことで、カップリング反応部位に水酸基を導入することができる。このような水酸基の保護基、または加水分解により得られる水酸基は、シリカなどの充填剤を配合した際に、シリカなどの充填剤などとの親和性の向上に寄与するものと考えられる。
水酸基の保護基としては、加水分解することにより、水酸基を与えることのできる基であればよいが、直鎖状の共役ジエン系ゴムを好適に得るという観点より、水酸基の保護基として作用するものであり、かつ、上記第1工程で得られた活性末端を有する共役ジエン系ゴムの活性末端に対し反応性を示さない(あるいは、反応性が極めて低い)ものであることが望ましく、たとえば、下記一般式(9)で表される基であることが好ましく、本発明で用いる、保護基含有2官能カップリング剤は、珪素原子または錫原子に、下記一般式(9)で表される基が結合した構造を備えるものであることがより好ましい。
上記一般式(9)中、R
66、R
67は,それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、メチル基またはエチル基であることが特に好ましい。
本発明で用いる、保護基含有2官能カップリング剤としては、1分子中に、水酸基の保護基として作用する基を少なくとも1個有し、かつ、共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子または反応基を2個有する化合物であればよいが、上記一般式(9)で表される基を少なくとも1つ有する、下記一般式(3)で表される珪素原子含有化合物を好適に用いることができる。
上記一般式(3)において、X
1、X
2は、それぞれ独立して活性末端を有する共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子もしくは反応基、または、活性末端を有する共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子および反応基のいずれか一つを含む炭化水素基であり、R
19、R
20は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基であり、R
21は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、または−R
22−NR
23R
24で表される基(R
22は、炭素数1〜10のアルキレン基、R
23、R
24は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基である。)を表し、aは1または2である。
上記一般式(3)において、共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子もしくは反応基としては、特に限定されず、該活性末端と反応可能なものであればよいが、活性末端に対する反応性の観点より、ハロゲン原子、ビニル基、アルコキシル基、カルボニル基またはエポキシ基が好ましく、エポキシ基、アルコキシ基またはハロゲン原子がより好ましく、ハロゲン原子がさらに好ましく、塩素原子が特に好ましい。また、上記一般式(3)において、活性末端を有する共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子および反応基のいずれか一つを含む炭化水素基としては、特に限定されないが、このような原子および反応基のいずれか一つを含む炭素数1〜10の炭化水素基が好ましい。なお、この炭素数には、前記反応基を構成している炭素の数は含まないものとする。
また、上記一般式(3)において、R19、R20は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基である。なお、上記一般式(3)で表される珪素原子含有化合物において、−NR19R20で表される基は、水酸基の保護基として作用するものであり、加水分解することにより、水酸基を与えることのできる基である。そのため、水酸基の保護基としてより好適に作用することができるという観点より、R19、R20は、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、メチル基であることが特に好ましい。また、R19、R20とは互いに異なる基であってもよいが、水酸基の保護基としてより好適に作用することができるという点より、R19、R20とは同じ基であることが好ましく、R19、R20ともにメチル基であることが特に好ましい。
また、上記一般式(3)において、R21は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、または−R22−NR23R24で表される基(R22は、炭素数1〜10のアルキレン基、R23、R24は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基である。)であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、メチル基であることが特に好ましい。
さらに、上記一般式(3)において、aは、水酸基の保護基としての−NR19R20で表される基の数を示すものであり、aは、1または2であり、aは、1であることが好ましい。
保護基含有2官能カップリング剤の具体例としては、特に限定されないが、たとえば、ジメチルアミノ(メチル)ジクロロシラン、ジエチルアミノ(メチル)ジクロロシラン、エチルメチルアミノ(メチル)ジクロロシラン、ジメチルアミノ(エチル)ジクロロシラン、ジエチルアミノ(エチル)ジクロロシラン、エチルメチルアミノ(エチル)ジクロロシランなどの水酸基の保護基を1つ有するジハロシラン化合物;ビス(ジメチルアミノ)ジクロロシラン、ビス(ジエチルアミノ)ジクロロシラン、ビス(エチルメチルアミノ)ジクロロシランなどの水酸基の保護基を2つ有するジハロシラン化合物;などが挙げられる。なお、これらの保護基含有2官能カップリング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の製造方法の第2工程において、保護基含有2官能カップリング剤の使用量は、特に限定されないが、重合開始剤として使用した、アルカリ金属原子と芳香環とに直接結合した炭素原子を、1分子中に2個有するアルカリ金属化芳香族化合物中のアルカリ金属原子1モルに対し、0.001〜1.0モルの範囲となる量とすることが好ましく、0.01〜0.5モルとなる量とすることがより好ましく、0.05〜0.3モルとなる量とすることが特に好ましい。保護基含有2官能カップリング剤の使用量を上記範囲とすることにより、カップリング反応による高分子量化をより適切に行うことができる。
本発明の製造方法の第2工程において、上述した第1工程で得られた活性末端を有する共役ジエン系ゴムに対し、保護基含有2官能カップリング剤を反応させ、これによりカップリング反応を起こさせる方法としては、特に限定されないが、上述した第1工程で得られた活性末端を有する共役ジエン系ゴムと、保護基含有2官能カップリング剤とを、これらを溶解可能な溶媒中で、混合する方法などが挙げられる。この際に用いる溶媒としては、上述した共役ジエン系ゴムの重合に用いる溶媒として例示したものなどを用いることができる。また、この際においては、上述した第1工程で得られた活性末端を有する共役ジエン系ゴムを、その重合に用いた重合溶液のままの状態とし、ここに保護基含有2官能カップリング剤を添加する方法が簡便であり、好ましい。第2工程における反応温度は、特に限定されないが、通常、0〜120℃であり、反応時間は、特に限定されないが、通常、1分〜1時間である。
また、活性末端を有する共役ジエン系ゴムを含有する溶液に、保護基含有2官能カップリング剤を添加する時期は特に限定されないが、重合反応が完結しておらず、活性末端を有する共役ジエン系ゴムを含有する溶液が単量体をも含有している状態、より具体的には、活性末端を有する共役ジエン系ゴムを含有する溶液が、100重量ppm以上、より好ましくは300〜50,000重量ppmの単量体を含有している状態で、この溶液に保護基含有2官能カップリング剤を添加することが望ましい。保護基含有2官能カップリング剤の添加をこのように行なうことにより、活性末端を有する共役ジエン系ゴムと重合系中に含まれる不純物などとの副反応を抑制して、反応を良好に制御することが可能となる。
なお、本発明の製造方法の第2工程においては、共役ジエン系ゴムが有する活性末端のうち、保護基含有2官能カップリング剤と反応した活性末端は、保護基含有2官能カップリング剤と反応することにより、保護基含有2官能カップリング剤と化学結合を形成し、これにより失活する。一方、保護基含有2官能カップリング剤と反応しなかった活性末端は、その反応活性を維持したまま、残存することとなる。
<第3工程>
次いで、本発明の製造方法における、第3工程について説明する。本発明の製造方法における第3工程は、上記第2工程においてカップリング反応を行った共役ジエン系ゴムの活性末端に、このような活性末端と反応することができる原子または反応基を1分子中に1個有する変性剤を反応させることで、変性共役ジエン系ゴムを得る工程である。
本発明の製造方法においては、上記第2工程においてカップリング反応を行った共役ジエン系ゴムの活性末端に、このような活性末端と反応することができる原子または反応基を1分子中に1個有する変性剤(以下、適宜、「単官能変性剤」とする。)を反応させることにより、共役ジエン系ゴムを改質し、これにより、シリカなどの充填剤に対する親和性を改良することができ、架橋剤などを配合して架橋することにより得られるゴム架橋物を、低発熱性に優れ、しかも、高い引張強度を有するものとすることができる。
特に、本発明の製造方法においては、変性剤として、単官能変性剤を使用することにより、上述した第2工程において、高分子量化された直鎖状の活性末端を有する共役ジエン系ゴムに対し、直鎖状の構造を維持したまま、その重合体鎖末端の変性を行うことができるものであり、これにより、三次元化によるゲル化を効果的に抑制しながら、高分子量化された直鎖状の共役ジエン系ゴムの末端に変性基を適切に導入することができるものである。そして、このような変性基の導入効果により、充填剤などとの親和性を飛躍的に向上させることができ、これにより、シリカなどの充填剤を配合し、ゴム架橋物とした場合における低発熱性を向上させることができ、しかも、高分子量化の効果により、このようなゴム架橋物を、高い引張強度を有するものとすることができるものである。
第3工程で用いる、単官能変性剤としては、特に限定されないが、活性末端と反応することができる原子または反応基を1分子中に1個有するシラン化合物が好ましい。共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子もしくは反応基としては、特に限定されず、該活性末端と反応可能なものであればよいが、活性末端に対する反応性の観点より、ハロゲン原子、ビニル基、アルコキシル基、カルボニル基またはエポキシ基が好ましく、エポキシ基、アルコキシ基またはハロゲン原子がより好ましく、ハロゲン原子がさらに好ましく、塩素原子が特に好ましい。また、上記シラン化合物は、分子中に含まれるケイ素原子が1個以上の水酸基の保護基と結合していることが好ましく、これにより、シリカなどの充填剤に対する親和性をより適切に高めることができ、結果として、得られるゴム架橋物の低発熱性および引張強度をより向上させることができる。なお、水酸基の保護基としては、上述した保護基含有2官能カップリング剤と同様のものを挙げることができる。
単官能変性剤としては、下記一般式(10)で表されるシラン化合物が好適に用いられる。
上記一般式(10)中、X
3は、活性末端を有する共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子もしくは反応基、または、活性末端を有する共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子および反応基のいずれか一つを含む炭化水素基であり、R
68、R
69は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基であり、R
70は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、または−R
71−NR
72R
73で表される基(R
71は、炭素数1〜10のアルキレン基、R
72、R
73は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基である。)を表し、bは0〜3の整数である。
上記一般式(10)において、共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子もしくは反応基としては、活性末端に対する反応性の観点より、ハロゲン原子、ビニル基、アルコキシル基、アミノ基またはエポキシ基が好ましく、エポキシ基またはハロゲン原子がより好ましく、ハロゲン原子がさらに好ましく、塩素原子が特に好ましい。また、上記一般式(10)において、活性末端を有する共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子および反応基のいずれか一つを含む炭化水素基としては、特に限定されないが、このような原子および反応基のいずれか一つを含む炭素数1〜10の炭化水素基が好ましい。なお、この炭素数には、前記反応基を構成している炭素の数は含まないものとする。
また、上記一般式(10)において、R68、R69は、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、メチル基であることが特に好ましい。R70は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、または−R71−NR72R73で表される基(R71は、炭素数1〜10のアルキレン基、R72、R73は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基である。)であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、メチル基であることが特に好ましい。
さらに、上記一般式(10)において、bは0〜3の整数であり、得られるゴム架橋物の引張強度、低発熱性および操縦安定性をより向上させることができるという観点より、bは1〜3の整数であることが好ましい。すなわち、上記一般式(10)で表される化合物として、少なくとも、−NR68R69で表される基を有することが好ましく、これにより、シリカなどの充填剤に対する親和性をより適切に高めることができ、結果として、得られるゴム架橋物の引張強度、低発熱性および操縦安定性をより向上させることができる。なお、−NR68R69で表される基は、水酸基の保護基として作用するものであり、加水分解することにより、水酸基を与えることのできる基である。
第3工程にける、単官能変性剤の使用量は、特に限定されないが、重合開始剤として使用したアルカリ金属化芳香族化合物中のアルカリ金属原子1モル当たりの、共役ジエン系ゴムの活性末端と反応することができる原子または反応基の量が、0.05〜5モルの範囲となる量とすることが好ましく、0.1〜3モルとなる量とすることがより好ましく、0.2〜1.5モルとなる量とすることが特に好ましい。単官能変性剤の使用量を上記範囲とすることにより、その変性効果をより顕著なものとすることができる。なお、単官能変性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の製造方法の第3工程において、上述した第2工程においてカップリング反応を行った共役ジエン系ゴムの活性末端に、単官能変性剤を反応させる方法としては、特に限定されないが、上述した第2工程においてカップリング反応を行った共役ジエン系ゴムと、単官能変性剤とを、これらを溶解可能な溶媒中で、混合する方法などが挙げられる。この際に用いる溶媒としては、上述した共役ジエン系ゴムの重合およびカップリング反応に用いる溶媒として例示したものなどを用いることができる。また、この際においては、上述した第2工程においてカップリング反応を行った共役ジエン系ゴムを、その重合に用いた重合溶液のままの状態とし、ここに単官能変性剤を添加する方法が簡便であり、好ましい。第3工程における反応温度は、特に限定されないが、通常、0〜120℃であり、反応時間は、特に限定されないが、通常、1分〜1時間である。
また、カップリング反応を行った共役ジエン系ゴムを含有する溶液に、単官能変性剤を添加する時期は特に限定されないが、重合反応が完結しておらず、カップリング反応を行った共役ジエン系ゴムを含有する溶液が単量体をも含有している状態、より具体的には、カップリング反応を行った共役ジエン系ゴムを含有する溶液が、100重量ppm以上、より好ましくは300〜50,000重量ppmの単量体を含有している状態で、この溶液に単官能変性剤を添加することが望ましい。単官能変性剤の添加をこのように行なうことにより、共役ジエン系ゴムと重合系中に含まれる不純物などとの副反応を抑制して、反応を良好に制御することが可能となる。
また、カップリング反応を行った共役ジエン系ゴムに、単官能変性剤を反応させた後に、未反応の活性末端が残存している場合、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールまたは水等の、重合停止剤を重合溶液に添加して、未反応の活性末端を失活させることが好ましい。
以上のようにして得られる変性共役ジエン系ゴムの溶液には、所望により、フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤などの老化防止剤を添加してもよい。老化防止剤の添加量は、その種類などに応じて適宜決定すればよい。さらに、所望により、伸展油を配合して、油展ゴムとしてもよい。伸展油としては、たとえば、パラフィン系、芳香族系及びナフテン系の石油系軟化剤、植物系軟化剤、ならびに脂肪酸等が挙げられる。石油系軟化剤を用いる場合には、IP346の方法(英国のTHE INSTITUTE PETROLEUMの検査方法)により抽出される多環芳香族の含有量が3%未満であることが好ましい。伸展油を使用する場合、その使用量は、変性共役ジエン系ゴム100重量部に対して、通常5〜100重量部である。
また、変性反応後の変性共役ジエン系ゴムは、たとえば、再沈澱、加熱下での溶媒除去、減圧下での溶媒除去、水蒸気による溶媒の除去(スチームストリッピング)等の、ゴムを溶液から単離する際の通常の操作によって、反応混合物から分離、取得することができる。なお、この場合において、スチームストリッピングにより溶媒を除去した際に、保護基含有2官能カップリング剤に含まれる水酸基の保護基の少なくとも一部、さらには、単官能変性剤として、水酸基の保護基を含有するものを使用した場合には、単官能変性剤に含まれる水酸基の保護基の少なくとも一部が加水分解することで、これらを水酸基とすることができる。
そして、このようにして得られる本発明の変性共役ジエン系ゴムは、高分子量化された直鎖状の構造を有するものであり、直鎖状の構造であることから、三次元化によるゲル化が効果的に抑制されたものであり、しかも、直鎖状の構造による効果、高分子量化による効果、および末端変性基の導入効果により、シリカなどの充填剤の分散性を高めることができ、これにより、シリカなどの充填剤を配合し、ゴム架橋物とした場合における、低発熱性を優れたものとすることができ、さらには得られるゴム架橋物を高い引張強度をも有するものとすることができるものである。
本発明の変性共役ジエン系ゴムは、下記一般式(4)で表される変性共役ジエン系重合体鎖を含有する。本発明の変性共役ジエン系ゴムを製造するための方法は、特に限定されないが、上述したように、本発明の製造方法(上記第1〜第3の工程を経るもの)に従うことが好ましい。
上記一般式(4)において、pは、1〜10の整数であり、R
25〜R
32は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、水酸基、−NR
33R
34で表される基、または−R
35−NR
36R
37で表される基(R
33、R
34、R
36、R
37は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基、R
35は、炭素数1〜10のアルキレン基)を表し、R
31、R
32のうち少なくとも一方は、水酸基または−NR
33R
34で表される基であり、Polは、共役ジエン単量体単位を含む重合体鎖を表し、Armは、それぞれ独立して、下記一般式(5)または(6)で表される基を表し、A
2は、珪素原子または錫原子を表す。
上記一般式(5)において、qは、0〜5の整数であり、好ましくは0〜2の整数、より好ましくは、0である。R
38、R
39は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜9のアルキル基を表し、好ましくは水素原子である。R
40〜R
45は、それぞれ独立して水素原子、または、芳香環に直接あるいは任意の結合基を介して結合された炭素数6〜12のアリール基を表し、好ましくは、R
40〜R
45は、水素原子である。なお、芳香環に直接あるいは任意の結合基を介して結合された炭素数6〜12のアリール基としては、芳香環に直接あるいは炭素数1〜6のアルキレン基を介して結合されたフェニル基が好ましく、芳香環に直接あるいはメチレン基を介して結合されたフェニル基がより好ましい。上記一般式(6)において、rは、1〜5の整数であり、好ましくは0〜2の整数、より好ましくは、1である。R
46、R
47は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜9のアルキル基を表し、好ましくは水素原子である。A
3は、任意の結合基を表し、化学的な単結合または炭素数1〜5のアルキレン基であることが好ましく、化学的な単結合またはメチレン基であることがより好ましい。
なお、上記一般式(4)において、R25〜R32として、水酸基を有するものとする場合には、保護基含有2官能カップリング剤に含まれる水酸基の保護基の少なくとも一部、さらには、単官能変性剤として、水酸基の保護基を含有するものを使用した場合には、単官能変性剤に含まれる水酸基の保護基の少なくとも一部を加水分解することで、水酸基とすればよい。加水分解する方法としては、上述したように、変性反応後の変性共役ジエン系ゴムを溶液から分離させる際に、スチームストリッピングによる溶媒除去を行うことで、変性反応後の変性共役ジエン系ゴムの溶液からの分離とともに、これらの基の少なくとも一部を加水分解することで、水酸基を導入することができる。
本発明の変性共役ジエン系ゴムの重量平均分子量は、特に限定されないが、ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定される値として、通常、500,000〜3,000,000、好ましくは750,000〜2,750,000、より好ましくは1,000,000〜2,500,000の範囲と高分子量化されたものである。変性共役ジエン系ゴムの重量平均分子量を上記範囲とすることにより、低発熱性および引張強度をより向上させることができる。
また、本発明の変性共役ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布も、特に限定されないが、好ましくは1.1〜5.0、特に好ましくは1.2〜3.0である。変性共役ジエン系ゴムの分子量分布を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物は低発熱性に優れたものとなる。
また、本発明の変性共役ジエン系ゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)も、特に限定されないが、通常、20〜250、好ましくは30〜200の範囲である。変性共役ジエン系ゴムのムーニー粘度を上記範囲とすることにより、ゴム組成物の加工性が優れたものとなる。なお、変性共役ジエン系ゴムを油展ゴムとする場合は、その油展ゴムのムーニー粘度を上記の範囲とすることが好ましい。
また、本発明の変性共役ジエン系ゴムの共役ジエン単位部分におけるビニル結合含有量は、通常1〜80モル%であり、好ましくは5〜75モル%である。ビニル結合量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物は低発熱性により優れたものとなる。
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、上述した本発明の変性共役ジエン系ゴムを含むゴム成分100重量部に対して、シリカ10〜200重量部を含有してなる組成物である。
本発明で用いるシリカとしては、たとえば、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ、沈降シリカなどが挙げられる。これらの中でも、含水ケイ酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。また、カーボンブラック表面にシリカを担持させたカーボン−シリカデュアル・フェイズ・フィラーを用いてもよい。これらのシリカは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。用いるシリカの窒素吸着比表面積(ASTM D3037−81に準じBET法で測定される)は、好ましくは50〜300m2/g、より好ましくは80〜220m2/g、特に好ましくは100〜170m2/gである。また、シリカのpHは、5〜10であることが好ましい。
本発明のゴム組成物におけるシリカの配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、10〜200重量部であり、好ましくは30〜150重量部、より好ましくは50〜100重量部である。シリカの配合量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の低発熱性および引張強度をより向上させることができる。
本発明のゴム組成物には、低発熱性をさらに改良する観点より、さらにシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤としては、たとえば、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−オクタチオ−1−プロピル−トリエトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、γ−トリメトキシシリルプロピルジメチルチオカルバミルテトラスルフィド、およびγ−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィドなどを挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100重量部に対して、好ましくは0.1〜30重量部、より好ましくは1〜15重量部である。
また、本発明のゴム組成物には、さらに、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、およびグラファイトなどのカーボンブラックを配合してもよい。これらのなかでも、ファーネスブラックが好ましい。これらのカーボンブラックは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。カーボンブラックの配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、通常、120重量部以下である。
なお、本発明の変性共役ジエン系ゴムを含むゴム成分に、シリカを添加する方法としては特に限定されず、固形のゴム成分に対して添加して混練する方法(乾式混練法)や変性共役ジエン系ゴムを含む溶液に対して添加して凝固・乾燥させる方法(湿式混練法)などを適用することができる。
また、本発明のゴム組成物は、架橋剤をさらに含有していることが好ましい。架橋剤としては、たとえば、硫黄、ハロゲン化硫黄などの含硫黄化合物、有機過酸化物、キノンジオキシム類、有機多価アミン化合物、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂などが挙げられる。これらの中でも、硫黄が好ましく使用される。架橋剤の配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、好ましくは0.1〜15重量部、より好ましくは0.5〜5重量部、特に好ましくは1〜4重量部である。
さらに、本発明のゴム組成物には、上記成分以外に、常法に従って、架橋促進剤、架橋活性化剤、老化防止剤、充填剤(上記シリカおよびカーボンブラックを除く)、活性剤、プロセス油、可塑剤、滑剤、粘着付与剤などの配合剤をそれぞれ必要量配合できる。
架橋剤として、硫黄または含硫黄化合物を用いる場合には、架橋促進剤および架橋活性化剤を併用することが好ましい。架橋促進剤としては、たとえば、スルフェンアミド系架橋促進剤;グアニジン系架橋促進剤;チオウレア系架橋促進剤;チアゾール系架橋促進剤;チウラム系架橋促進剤;ジチオカルバミン酸系架橋促進剤;キサントゲン酸系架橋促進剤;などが挙げられる。これらのなかでも、スルフェンアミド系架橋促進剤を含むものが好ましい。これらの架橋促進剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。架橋促進剤の配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、好ましくは0.1〜15重量部、より好ましくは0.5〜5重量部、特に好ましくは1〜4重量部である。
架橋活性化剤としては、たとえば、ステアリン酸などの高級脂肪酸;酸化亜鉛;などを挙げることができる。これらの架橋活性化剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。架橋活性化剤の配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、好ましくは0.05〜20重量部、特に好ましくは0.5〜15重量部である。
また、本発明のゴム組成物には、上述した本発明の変性共役ジエン系ゴム以外のその他のゴムを配合してもよい。その他のゴムとしては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、乳化重合スチレン−ブタジエン共重合ゴム、溶液重合スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリブタジエンゴム(1,2−ポリブタジエン重合体からなる結晶繊維を含むポリブタジエンゴムであってもよい)、スチレン−イソプレン共重合ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合ゴムなどが挙げられる。これらのなかでも、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、溶液重合スチレン−ブタジエン共重合ゴムが好ましい。これらのゴムは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のゴム組成物において、本発明の変性共役ジエン系ゴムは、ゴム組成物中のゴム成分の10〜100重量%を占めることが好ましく、50〜100重量%を占めることが特に好ましい。このような割合で、本発明の変性共役ジエン系ゴムをゴム成分中に含めることにより、引張強度が高く、低発熱性および操縦安定性に優れたゴム架橋物を得ることができる。
本発明のゴム組成物を得るためには、常法に従って各成分を混練すればよく、たとえば、架橋剤や架橋促進剤などの熱に不安定な成分を除く成分と変性共役ジエン系ゴムとを混練後、その混練物に架橋剤や架橋促進剤などの熱に不安定な成分を混合して目的の組成物を得ることができる。熱に不安定な成分を除く成分と変性共役ジエン系ゴムとの混練温度は、好ましくは80〜200℃、より好ましくは100〜180℃であり、その混練時間は、好ましくは30秒〜30分である。また、その混練物と熱に不安定な成分との混合は、通常100℃以下、好ましくは80℃以下まで冷却した後に行われる。
<ゴム架橋物>
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明のゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明のゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜12時間、特に好ましくは3分〜6時間である。
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の変性共役ジエン系ゴムを用いて得られるものであるため、引張強度が高く、低発熱性および操縦安定性に優れたものである。特に、本発明の変性共役ジエン系ゴムは、高分子量化された直鎖状の構造を有するものであるため、直鎖状の構造であることから、三次元化によるゲル化が効果的に抑制されたものであり、しかも、直鎖状の構造による効果、高分子量化による効果、カップリング反応部位における水酸基の保護基の導入効果、および末端変性基の導入効果により、シリカなどの充填剤の分散性を高めることができ、これにより、シリカなどの充填剤を配合し、ゴム架橋物とした場合において、高い引張強度を有するものとしながら、低発熱性および操縦安定性を向上させることができるものである。
そして、本発明のゴム架橋物は、このような特性を活かし、たとえば、タイヤにおいて、キャップトレッド、ベーストレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部などのタイヤ各部位の材料;ホース、ベルト、マット、防振ゴム、その他の各種工業用品の材料;樹脂の耐衝撃性改良剤;樹脂フィルム緩衝剤;靴底;ゴム靴;ゴルフボール;玩具;などの各種用途に用いることができる。とりわけ、本発明のゴム架橋物は、引張強度が高く、低発熱性および操縦安定性に優れたものであることから、タイヤの材料、特に低燃費タイヤの材料として好適に用いることができる。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記に従った。
[ゴムの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)]
ゴムの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によりポリスチレン換算の分子量のとして求めた。ゲルパーミエーションクロマトグラフィの具体的な測定条件は、以下のとおりとした。
測定器:高速液体クロマトグラフ(東ソー社製、商品名「HLC−8320」)
カラム:東ソー社製ポリスチレン系カラム、商品名「GMH−HR−H」を二本直列に連結した。
検出器:示差屈折計
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
[ゴムのミクロ構造、および変性基の導入]
ゴムのミクロ構造、および導入された変性基は、1H−NMRにより測定した。
測定器:JEOL社製、商品名「JNM−ECA−400WB」
測定溶媒:重クロロホルム
[重合開始剤のリチオ化率]
重合開始剤のリチオ化率は、GC−MSと1H−NMRにより測定した。
GC:アジレント・テクノロジー社製、商品名「Agilent GC 6890NGC」
MS:アジレント・テクノロジー社製、商品名「Agilent MS 5973MSD」
カラム:アジレント・テクノロジー社製、商品名「DB1701」
1H−NMR測定は、上記と同じ測定器、測定溶媒を用いて行った。
[ゴム架橋物の低発熱性]
ゴム架橋物の低発熱性については、長さ50mm、幅12.7mm、厚さ2mmの試験片を、レオメトリックス社製ARESを用い、動的歪み2.0%、10Hzの条件で60℃におけるtanδを測定することにより評価した。このtanδの値については、比較例1の測定値を100とする指数で示した。この指数が大きいほど、低発熱性に優れる。
[ゴム架橋物の操縦安定性]
ゴム架橋物の操縦安定性については、長さ50mm、幅12.7mm、厚さ2mmの試験片を、レオメトリックス社製ARESを用い、動的歪み2.0%、10Hzの条件で60℃における貯蔵弾性率(G1)を測定することにより評価した。この貯蔵弾性率の値については、比較例1の測定値を100とする指数で示した。この指数が大きいほど、低発熱性に優れる。
[ゴム架橋物の引張強度]
ゴム架橋物の引張強度は、JIS K6251に従って、ダンベル状3号形試験片を作製し、得られたダンベル状3号形試験片を用いて引張試験を行ない、引張強度を測定することにより評価した。引張強度の値については、比較例1の測定値を100とする指数で示した。この指数が大きいほど、ゴム架橋物の引張強度に優れる。
[製造例1:重合開始剤1の製造(m−キシレンのリチオ化)]
窒素雰囲気下、ガラス反応容器に、シクロヘキサン20部、m−キシレン0.531部、およびテトラメチルエチレンジアミン0.581部を加えた。次に攪拌しながら、n−ブチルリチウム0.641部(n−ブチルリチウム1モル当たりテトラメチルエチレンジアミン0.5モル)を加え、反応温度60℃にて1日間撹拌することで反応させ、重合開始剤1を得た。次に、反応により得られたリチオ化されたm−キシレンのリチオ化率を測定する目的で、得られた反応液を、トリメチルシリルクロライドを過剰量加えたガラス容器に数滴加え、30分間反応させることで、リチオ化されたメチル基を、トリメチルシリルメチル基に変換した。次に、水道水にて触媒残渣を抽出洗浄した後に溶媒を留去することで、黄色いオイル状の液体を得た。
そして、この黄色いオイル状の液体について、ガスクロマトグラフ質量分析測定(GC−MS)を行ったところ、それぞれの割合は以下の通りであった。
EI−MS,無置換体(m−キシレン)m/z=106(M+)(10%),1置換体(1−トリメチルシリルメチル−3−メチルベンゼン)m/z=178(M+)(17%),2置換体(1,3−ビス(トリメチルシリルメチル)−ベンゼン)m/z=250(M+)(73%)。
次に、この黄色いオイル状の液体について、1H−NMR測定を行ったところ、m−キシレンのメチル基のリチオ化率は81%であり、m−キシレン1分子に導入された平均リチウム原子数は1.63であった。
[製造例2:重合開始剤2の製造(p−キシレンのリチオ化)]
窒素雰囲気下、ガラス反応容器に、シクロヘキサン20部、p−キシレン0.531部、およびテトラメチルエチレンジアミン0.581部を加えた。次に攪拌しながら、n−ブチルリチウム0.641部(n−ブチルリチウム1モル当たりテトラメチルエチレンジアミン0.5モル)を加え、反応温度60℃にて1日間撹拌することで反応させ、重合開始剤2を得た。次に、反応により得られたリチオ化されたp−キシレンのリチオ化率を測定する目的で、得られた反応液を、トリメチルシリルクロライドを過剰量加えたガラス容器に数滴加え、30分間反応させることで、リチオ化されたメチル基を、トリメチルシリルメチル基に変換した。次に、水道水にて触媒残渣を抽出洗浄した後に溶媒を留去することで、黄色いオイル状の液体を得た。
そして、この黄色いオイル状の液体について、ガスクロマトグラフ質量分析測定(GC−MS)を行ったところ、それぞれの割合は以下の通りであった。
EI−MS,無置換体(p−キシレン)m/z=106(M+)(12%),1置換体(1−トリメチルシリルメチル−4−メチルベンゼン)m/z=178(M+)(25%),2置換体(1,4−ビス(トリメチルシリルメチル)−ベンゼン)m/z=250(M+)(63%)。
次に、この黄色いオイル状の液体について、1H−NMR測定を行ったところ、p−キシレンのメチル基のリチオ化率は76%であり、p−キシレン1分子に導入された平均リチウム原子数は1.51であった。
[製造例3:重合開始剤3の製造(ジビニルベンゼン開始剤)]
窒素雰囲気下、ガラス反応容器に、シクロヘキサン20部、ジビニルベンゼン0.345部、およびブタジエン6.274部を加えた。次に攪拌しながら、n−ブチルリチウム4.575部を加え、反応温度60℃にて1時間撹拌することで反応させ、重合開始剤3を得た。得られた重合開始剤3は、GPC測定において、ポリスチレン換算で、数平均分子量(Mn)が2,400、重量平均分子量(Mw)が4,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.70のものであった。
[製造例4:重合開始剤4の製造(1,3,5−トリメチルベンゼンのリチオ化)]
窒素雰囲気下、ガラス反応容器に、シクロヘキサン16部、1,3,5−トリメチルベンゼン0.841部、およびテトラメチルエチレンジアミン0.813部を加えた。次に攪拌しながら、n−ブチルリチウム1.345部(n−ブチルリチウム1モル当たりテトラメチルエチレンジアミン0.3モル)を加え、反応温度60℃にて2日間放置することにより反応させ、重合開始剤4を得た。次に、反応により得られたリチオ化された1,3,5−トリメチルベンゼンのリチオ化率を測定する目的で、得られた反応液を、トリメチルシリルクロライドを過剰量加えたガラス容器に数滴加え、30分間反応させることで、リチオ化されたメチル基を、トリメチルシリルメチル基に変換した。次に、水道水にて触媒残渣を抽出洗浄した後に溶媒を留去することで、黄色いオイル状の液体を得た。
そして、この黄色いオイル状の液体について、ガスクロマトグラフ質量分析測定(GC−MS)を行ったところ、それぞれの割合は以下の通りであった。
EI−MS,無置換体(1,3,5−トリメチルベンゼン)m/z=120(M+)(3%),1置換体(1−トリメチルシリルメチル−3,5−ジメチルベンゼン)m/z=192(M+)(3%),2置換体(1,3−ビス(トリメチルシリルメチル)−5−メチルベンゼン)m/z=264(M+)(24%),3置換体(1,3,5−トリス(トリメチルシリルメチル)ベンゼン)m/z=336(M+)(70%)。
次に、この黄色いオイル状の液体について、1H−NMR測定を行ったところ、1,3,5−トリメチルベンゼンのメチル基のリチオ化率は87%であり、1,3,5−トリメチルベンゼン1分子に導入された平均リチウム原子数は2.44であった。
[実施例1]
[末端変性スチレンブタジエンゴム1の製造]
窒素雰囲気下、オートクレーブに、シクロヘキサン800部、1,3−ブタジエン94.8部、スチレン25.2部、およびテトラメチルエチレンジアミン0.075部を仕込んだ後、製造例1で得られた重合開始剤1の溶液0.950部(反応系中に存在するテトラメチルエチレンジアミンの量が、重合開始剤1の製造に使用したn−ブチルリチウム1モル当たり2.0モルとなる量)を添加し、60℃で重合を開始した。60分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、ジメチルアミノ(メチル)ジクロロシラン0.013部を添加し、15分間反応させた。さらに、ジメチル(ジメチルアミノ)クロロシラン0.059部を添加し、30分間反応させた後、重合停止剤としてメタノール0.064部を添加することで、変性スチレンブタジエンゴム1を含有する溶液を得た。
そして、得られた溶液に対し、溶液中のゴム成分100部に対して、老化防止剤として2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール(BASF社製、商品名「イルガノックス1520」)0.15部を添加した後、スチームストリッピングにより、溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥することで、固形状の変性スチレンブタジエンゴム1を得た。
得られた変性スチレンブタジエンゴム1は、GPC測定において、数平均分子量(Mn)が962,000、重量平均分子量(Mw)が1,250,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.30のものであった。また、この変性スチレンブタジエンゴム1のスチレン単位含有量は21.0モル%、ブタジエン単位中のビニル結合含有量は59.2モル%であった。さらに、この変性スチレンブタジエンゴム1について、1H-NMR測定を行ったところ、変性スチレンブタジエンゴム1中に、シラノール基が導入されていることが確認でき、また、その含有量より、シラノール基は、重合体鎖中および重合体鎖末端の両方に存在しているといえるものであった。
[ゴム組成物の調製]
次に、容量250mlのブラベンダータイプミキサー中で、上記にて得られた変性スチレンブタジエンゴム1 100部を30秒間素練りし、次いでシリカ(ソルベイ社製、商品名「Zeosil1165MP」)50部、プロセスオイル(JX日鉱日石エネルギー社製、商品名「アロマックス T−DAE」)25部、およびシランカップリング剤:ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド(エボニック社製、商品名「Si69」)5.6部を添加して、110℃を開始温度として1.5分間混練した後、シリカ(ソルベイ社製、商品名「Zeosil1165MP」)20部、酸化亜鉛3部、ステアリン酸2部および老化防止剤:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアン(大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック6C」)2部を添加し、さらに2.5分間混練した後、ミキサーから混練物を排出させた。混練終了時の混練物の温度は150℃であった。混練物を、室温まで冷却した後、再度ブラベンダータイプミキサー中で、110℃を開始温度として2分間混練した後、ミキサーから混練物を排出させた。次いで、50℃のオープンロールで、得られた混練物と、硫黄1.5部、架橋促進剤:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーCZ−G」)1.8部、および架橋促進剤:1,3−ジフェニルグアニジン(大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーD」)1.5部とを混練した後、シート状のゴム組成物を取り出した。そして、得られたゴム組成物を、160℃で20分間プレス架橋してゴム架橋物の試験片を作製し、このゴム架橋物の試験片について、上記方法にしたがって、低発熱性、操縦安定性および引張強度の評価を行なった。結果を表1に示す。
[実施例2]
ジメチル(ジメチルアミノ)クロロシラン0.059部の代わりに、トリス(ジメチルアミノ)クロロシラン0.084部を使用した以外は、実施例1と同様にして、変性スチレンブタジエンゴム2の製造を行った。得られた変性スチレンブタジエンゴム2は、GPC測定において、数平均分子量(Mn)が910,000、重量平均分子量(Mw)が1,220,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.34のものであった。また、この変性スチレンブタジエンゴム2のスチレン単位含有量は21.2モル%、ブタジエン単位中のビニル結合含有量は60.0モル%であった。さらに、この変性スチレンブタジエンゴム2について、1H-NMR測定を行ったところ、変性スチレンブタジエンゴム2中に、シラノール基が導入されていることが確認でき、また、その含有量より、シラノール基は、重合体鎖中および重合体鎖末端の両方に存在しているといえるものであった。
そして、変性スチレンブタジエンゴム1の代わりに、上記にて得られた変性スチレンブタジエンゴム2を使用した以外は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の調製およびゴム架橋物の試験片の作製を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例3]
重合開始剤1の溶液0.950部の代わりに、製造例2で得られた重合開始剤2の溶液0.950部を使用した以外は、実施例1と同様にして、変性スチレンブタジエンゴム3の製造を行った。得られた変性スチレンブタジエンゴム3は、GPC測定において、数平均分子量(Mn)が891,000、重量平均分子量(Mw)が1,150,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.29のものであった。また、この変性スチレンブタジエンゴム3のスチレン単位含有量は20.9モル%、ブタジエン単位中のビニル結合含有量は59.8モル%であった。さらに、この変性スチレンブタジエンゴム3について、1H-NMR測定を行ったところ、変性スチレンブタジエンゴム3中に、シラノール基が導入されていることが確認でき、また、その含有量より、シラノール基は、重合体鎖中および重合体鎖末端の両方に存在しているといえるものであった。
そして、変性スチレンブタジエンゴム1の代わりに、上記にて得られた変性スチレンブタジエンゴム3を使用した以外は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の調製およびゴム架橋物の試験片の作製を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
ジメチルアミノ(メチル)ジクロロシラン0.013部の代わりに、ジメチルジクロロシラン0.011部を使用した以外は、実施例1と同様にして、変性スチレンブタジエンゴム4の製造を行った。得られた変性スチレンブタジエンゴム4は、GPC測定において、数平均分子量(Mn)が944,000、重量平均分子量(Mw)が1,180,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.25のものであった。また、この変性スチレンブタジエンゴム4のスチレン単位含有量は21.3モル%、ブタジエン単位中のビニル結合含有量は60.0モル%であった。さらに、この変性スチレンブタジエンゴム4について、1H-NMR測定を行ったところ、重合体鎖末端のみにシラノール基が導入されたものであった。
そして、変性スチレンブタジエンゴム1の代わりに、上記にて得られた変性スチレンブタジエンゴム4を使用した以外は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の調製およびゴム架橋物の試験片の作製を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
ジメチル(ジメチルアミノ)クロロシラン0.059部を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、スチレンブタジエンゴム5の製造を行った。得られた変性スチレンブタジエンゴム5は、GPC測定において、数平均分子量(Mn)が909,000、重量平均分子量(Mw)が1,100,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.21のものであった。また、このスチレンブタジエンゴム5のスチレン単位含有量は21.1モル%、ブタジエン単位中のビニル結合含有量は59.8モル%であった。さらに、このスチレンブタジエンゴム5について、1H-NMR測定を行ったところ、重合体鎖中のみにシラノール基が導入されたものであった。
そして、変性スチレンブタジエンゴム1の代わりに、上記にて得られたスチレンブタジエンゴム5を使用した以外は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の調製およびゴム架橋物の試験片の作製を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例3]
重合開始剤1の溶液0.950部の代わりに、製造例3で得られた重合開始剤3の溶液0.139部を使用するとともに、テトラメチルエチレンジアミンの使用量を0.075部から0.100部に変更した以外は、実施例1と同様にして、変性スチレンブタジエンゴム6の製造を行った。得られた変性スチレンブタジエンゴム6は、ゲル化しており溶媒に不溶であったため、GPC測定、および1H-NMR測定ができないものであった。
次いで、変性スチレンブタジエンゴム1の代わりに、上記にて得られた変性スチレンブタジエンゴム6を使用した以外は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の調製およびゴム架橋物の試験片の作製を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例4]
重合開始剤1の溶液0.950部の代わりに、製造例4で得られた重合開始剤4の溶液0.396部を使用するとともに、テトラメチルエチレンジアミンの使用量を0.075部から0.100部に変更した以外は、実施例1と同様にして、変性スチレンブタジエンゴム7の製造を行った。得られた変性スチレンブタジエンゴム7は、ゲル化しており溶媒に不溶であったため、GPC測定、および1H-NMR測定ができないものであった。
次いで、変性スチレンブタジエンゴム1の代わりに、上記にて得られた変性スチレンブタジエンゴム7を使用した以外は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の調製およびゴム架橋物の試験片の作製を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例5]
重合開始剤1の溶液0.950部の代わりに、n−ブチルリチウム0.028部を使用するとともに、テトラメチルエチレンジアミンの使用量を0.075部から0.100部に変更した以外は、実施例1と同様にして、変性スチレンブタジエンゴム8の製造を行った。得られた変性スチレンブタジエンゴム8は、GPC測定において、数平均分子量(Mn)が428,000、重量平均分子量(Mw)が450,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.05のものであった。また、この変性スチレンブタジエンゴム4のスチレン単位含有量は21.0モル%、ブタジエン単位中のビニル結合含有量は59.2モル%であった。さらに、この変性スチレンブタジエンゴム8について、1H-NMR測定を行ったところ、重合体鎖末端のみにシラノール基が導入されたものであった。
次いで、変性スチレンブタジエンゴム1の代わりに、上記にて得られた変性スチレンブタジエンゴム8を使用した以外は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の調製およびゴム架橋物の試験片の作製を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
表1より、重合開始剤として、アルカリ金属原子と芳香環とに直接結合した炭素原子を、1分子中に2個有するアルカリ金属化芳香族化合物を用い、かつ、水酸基の保護基を1分子中に少なくとも1個有する、2官能のカップリング剤を用いたカップリング反応、および、活性末端と反応することができる原子または反応基を1分子中に1個有する変性剤による変性を行うことにより得られた変性共役ジエン系ゴムは、ゲル化が抑制されており、しかも、これを用いて得られるゴム架橋物は、引張強度が高く、低発熱性および操縦安定性に優れるものであった(実施例1〜3)。
これに対し、カップリング剤として、水酸基の保護基を有しないものを用いた場合には、得られるゴム架橋物は、低発熱性および操縦安定性が十分なものではなかった(比較例1)。
水酸基の保護基を1分子中に少なくとも1個有する、2官能のカップリング剤を用いたカップリング反応を行ったものの、活性末端と反応することができる原子または反応基を1分子中に1個有する変性剤による変性を行わなかった場合にも、得られるゴム架橋物は、低発熱性および操縦安定性が十分なものではなかった(比較例2)。
また、重合開始剤として、ジビニルベンゼンとn−ブチルリチウムとの反応物を使用した場合、およびリチオ化1,3,5−トリメチルベンゼンを使用した場合には、変性共役ジエン系ゴムのゲル化が発生してしまい、これに起因して、得られるゴム架橋物は、低発熱性、操縦安定性、および引張強度に劣るものであった(比較例3,4)。
さらに、重合開始剤として、n−ブチルリチウムを使用した場合には、末端変性反応を行うことができたものの、得られるゴム架橋物は、低発熱性、操縦安定性、および引張強度に劣るものであった(比較例5)。