以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
図1は、本実施の形態におけるエンジン1の概略構成を示す図である。本実施の形態において、エンジン1は、たとえば、コモンレール式のディーゼルエンジンを一例として説明する。しかしながら、エンジン1としては、その他の形式のディーゼルエンジンであってもよい。
エンジン1は、エンジン本体10と、エアクリーナ20と、インタークーラ26と、吸気マニホールド28と、吸気絞り弁29と、過給機30と、排気マニホールド50と、排気処理装置56と、排気再循環装置(以下、EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置と記載する)60と、制御装置200と、エンジン回転数センサ202と、手動再生スイッチ204と、エアフローメータ208と、燃料ポンプ210と、燃料フィルタ212と、燃料タンク214とを備える。
エンジン本体10は、複数の気筒12と、コモンレール14と、複数のインジェクタ16とを含む。本実施の形態においては、エンジン1は、直列4気筒エンジンを一例として説明するが、その他の気筒レイアウト(たとえば、V型あるいは水平型)のエンジンであってもよい。
複数のインジェクタ16は、複数の気筒12の各々に設けられ、その各々がコモンレール14に接続されている燃料噴射装置である。燃料タンク214に貯留された燃料は、燃料フィルタ212を経由して燃料ポンプ210によって所定圧まで加圧されてコモンレール14へ供給される。コモンレール14に供給された燃料は複数のインジェクタ16の各々から所定のタイミングで噴射される。複数のインジェクタ16は、制御装置200からの制御信号IJ1〜IJ4に基づいて動作する。
エアクリーナ20は、エンジン1の外部から吸入される空気から異物を除去する。エアクリーナ20には、第1吸気管22の一方端が接続される。
第1吸気管22の他方端には、過給機30のコンプレッサ32の吸気流入口に接続される。コンプレッサ32の吸気流出口には、第2吸気管24の一方端が接続される。コンプレッサ32は、第1吸気管22から流通する空気を過給して第2吸気管24に供給する。コンプレッサ32の詳細な動作については後述する。
第2吸気管24の他方端には、インタークーラ26の一方端が接続される。インタークーラ26は、第2吸気管24を流通する空気を冷却する空冷式あるいは水冷式の熱交換器である。
インタークーラ26の他方端には、第3吸気管27の一方端が接続される。第3吸気管27の他方端には、吸気マニホールド28が接続される。吸気マニホールド28は、エンジン本体10の複数の気筒12の各々の吸気ポートに連結される。
吸気絞り弁29は、第3吸気管27における、インタークーラ26とEGR通路66への分岐点との間に設けられる。吸気絞り弁29は、制御装置200からの制御信号に応じて動作する。吸気絞り弁29は、たとえば、第3吸気管27から吸気マニホールド28に流通する吸気の流量を調整する。
排気マニホールド50は、エンジン本体10の複数の気筒12の各々の排気ポートに連結される。排気マニホールド50には、第1排気管52の一方端が接続される。第1排気管52の他方端は、過給機30のタービン36の排気流入口に接続される。そのため、各気筒の排気ポートから排出される排気は、排気マニホールド50に集められた後、第1排気管52を経由してタービン36に供給される。
タービン36の排気流出口には、第2排気管54の一方端が接続される。第2排気管54には、排気処理装置56が設けられる。排気処理装置56は、酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)56aと、PM除去フィルタ56bと、燃料添加装置56cと、第1排気温度センサ70と、第2排気温度センサ72とを含む。
PM除去フィルタ56bは、酸化触媒56aよりも排気の流路(排気通路)における下流側に設けられる。燃料添加装置56cは、酸化触媒56aよりも排気の流路における上流側に設けられる。第1排気温度センサ70は、タービン36の排気流出口と、酸化触媒56aとの間の排気の流路に設けられる。第2排気温度センサ72は、酸化触媒56aとPM除去フィルタ56bとの間の排気の流路に設けられる。
PM除去フィルタ56bは、流通する排気に含まれる粒子状物質(以下、PM(Particulate Matter)と記載する。)を捕集する。PM除去フィルタ56bは、たとえば、セラミックやステンレス等によって形成される。捕集されたPMは、PM除去フィルタ56b内に堆積する。
酸化触媒56aと燃料添加装置56cとは、PM除去フィルタ56bに堆積したPMを燃焼させ、除去する(再生する)再生機構として機能する。酸化触媒56aは、排気が流通する場合に、流通する排気中の窒素酸化物(NOx)および炭素酸化物(COx)などを酸化するとともに、排気中に燃料添加装置56cから添加された燃料が含まれる場合には燃料を酸化する。燃料の酸化によって生じる反応熱により酸化触媒56aを通過する排気の温度が上昇する。高温の排気がPM除去フィルタ56bを通過することによってPM除去フィルタ56bの温度が上昇し、PM除去フィルタ56b内に堆積したPMが酸化除去される(燃焼させられる)。これにより、PM除去フィルタ56bが再生される。
排気処理装置56のPM除去フィルタ56bの後端には、第3排気管58の一方端が接続される。第3排気管58の他方端には、触媒などの排気から特定の成分を除去する追加の排気処理装置やマフラー等が接続される。そのため、タービン36から排出された排気は、第2排気管54、排気処理装置56、第3排気管58、各種触媒およびマフラー等を経由して車外に排出される。
第3吸気管27と排気マニホールド50とは、エンジン本体10を経由せずにEGR装置60によって接続される。EGR装置60は、EGRバルブ62と、EGRクーラ64と、EGR通路66とを含む。EGR通路66は、第3吸気管27と排気マニホールド50とを接続する。EGRバルブ62と、EGRクーラ64とは、EGR通路66の途中に設けられる。
EGRバルブ62は、制御装置200からの制御信号に応じて、排気マニホールド50からEGR通路66を経由して吸気マニホールド28に還流する排気(以下、吸気マニホールド28に還流される排気をEGRガスとも記載する)の流量を調整する。
EGRクーラ64は、たとえば、EGR通路66を流通するEGRガスを冷却する水冷式あるいは空冷式の熱交換器である。排気マニホールド50内の排気がEGR装置60を経由してEGRガスとして吸気側に戻されることによって気筒内の燃焼温度が低下され、NOxの生成量が低減される。
過給機30は、コンプレッサ32と、タービン36とを含む。コンプレッサ32のハウジング内にはコンプレッサホイール34が収納され、タービン36のハウジング内にはタービンホイール38が収納される。コンプレッサホイール34とタービンホイール38とは、連結軸42によって連結され、一体的に回転する。そのため、コンプレッサホイール34は、タービンホイール38に供給される排気の排気エネルギーによって回転駆動される。
エンジン1の動作は、制御装置200によって制御される。制御装置200は、各種処理を行なうCPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよびデータを記憶するROM(Read Only Memory)およびCPUの処理結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むメモリと、外部との情報のやり取りを行なうための入・出力ポート(いずれも図示せず)とを含む。
入力ポートには、上述したセンサ類(たとえば、第1排気温度センサ70、第2排気温度センサ72、エンジン回転数センサ202、水温センサ206およびエアフローメータ208等)や上述したスイッチ類(たとえば、手動再生スイッチ204)が接続される。
出力ポートには、制御対象となる機器(たとえば、複数のインジェクタ16、燃料添加装置56c、EGRバルブ62および燃料ポンプ210等)が接続される。
制御装置200は、各センサおよび機器からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン1が所望の運転状態となるように各種機器を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。また、制御装置200には、時間の計測を行うためのタイマー回路(図示せず)が内蔵されている。
第1排気温度センサ70は、タービン36の排気流出口から流出する排気の温度(以下、排気温度Tex1と記載する)を検出する。第1排気温度センサ70は、検出した排気温度Tex1を示す信号を制御装置200に送信する。
第2排気温度センサ72は、酸化触媒56aから流出する排気の温度(以下、排気温度Tex2と記載する)を検出する。第2排気温度センサ72は、検出した排気温度Tex2を示す信号を制御装置200に送信する。
なお、排気温度Tex1,Tex2は、酸化触媒56a近傍に設置した温度センサで直接検出する以外に、エンジン1の運転状態や別の場所に設けられた温度センサから推定によって求めてもよい。
エンジン回転数センサ202は、エンジン1のクランクシャフトの回転数をエンジン回転数NEとして検出する。エンジン回転数センサ202は、検出したエンジン回転数NEを示す信号を制御装置200に送信する。
手動再生スイッチ204は、後述するPM除去フィルタ56bの再生制御をユーザが手動で実行するためのスイッチである。手動再生スイッチ204は、ユーザによって所定の操作が行なわれると所定の操作が行なわれたことを示す信号を制御装置200に送信する。
水温センサ206は、エンジン1の冷却水の温度を水温Twとして検出する。水温センサ206は、検出した水温Twを示す信号を制御装置200に送信する。
エアフローメータ208は、第1吸気管22に導入される新気の流量(吸入空気量)Qinを検出する。エアフローメータ208は、検出した吸入空気量Qinを示す信号を制御装置200に送信する。
燃料タンク214は、複数のインジェクタ16および燃料添加装置56cに供給するための燃料を貯留する。燃料ポンプ210は、制御装置200からの制御信号に応じて動作し、燃料タンク214に貯留される燃料をコモンレール14に圧送したり、燃料添加装置56cに供給したりする。燃料ポンプ210と燃料タンク214との間の燃料が流通する通路には燃料フィルタ212が設けられる。燃料フィルタ212は、流通する燃料に含まれる異物を捕集する。
以上のような構成を有するエンジン1においては、PM除去フィルタ56bにおけるPMの堆積量が多くなると、PM除去フィルタ56bのフィルタ部分が目詰まりを起こして機能が低下する場合がある。そのため、制御装置200は、PM除去フィルタ56bを再生するための再生制御を実行する。
より具体的には、制御装置200は、PM除去フィルタ56b内のPMの堆積量を取得する。制御装置200は、たとえば、エンジン1の運転条件(たとえば、エンジン回転数NEや燃料噴射量の指令値や吸入空気量Qin等)から複数の気筒12からのPMの排出量の推定値を算出する。制御装置200は、算出された推定値を積算することによって堆積量を取得してもよい。なお、PMの排出量の具体的な算出方法については周知の技術を用いればよくその詳細な説明は行なわない。制御装置200は、取得したPMの堆積量が再生判定値を超えると再生制御を実行する。
制御装置200は、再生制御が実行されると、燃料添加装置56cから燃料添加を開始する。制御装置200は、たとえば、排気温度Tex2を、目標温度に昇温するための指令添加量を設定し、設定された指令添加量に従って燃料添加装置56cを制御する。ここで、排気の目標温度は、PM除去フィルタ56bの温度をPM除去フィルタ56bの再生が可能な温度まで昇温することができる排気温度として設定される。
上述のような再生制御により、排気処理装置56では、燃料添加装置56cから排気に燃料が添加され、添加された燃料が酸化触媒56aで反応し、その反応熱によって排気が昇温する。そして、高温となった排気がPM除去フィルタ56bに流れることによって、PM除去フィルタ56bの温度が、PM除去フィルタ56bの再生が可能な温度範囲内の温度まで昇温し、PM除去フィルタ56内のPMが燃焼される。制御装置200は、PM除去フィルタ56bの温度がPM除去フィルタ56bの再生が可能な温度範囲内の温度になった状態の経過時間をカウントし、カウントした経過時間の合計が所定の再生終了時間を超えた場合に、PM除去フィルタ56bの再生が完了したと判定する。
さらに制御装置200は、たとえば、エンジン1がアイドル状態である場合に、図示しない表示装置に手動再生が可能であることを示す所定の表示を行なうことによってユーザにPM除去フィルタ56bの手動再生を促進する。ユーザによって手動再生スイッチ204に所定の操作が行なわれると、制御装置200は、エンジン1のアイドル回転数を通常値よりも高い予め定められた回転数に上昇させるアイドルアップ制御を実行するとともに、上述したように再生制御を実行する。制御装置200は、たとえば、エンジン回転数NEが所定のアイドル回転数範囲内である場合にエンジン1がアイドル状態であると判定してもよい。
上述したような構成を有するエンジン1において、たとえば、高地環境下でエンジン1が運転している場合や、酸化触媒56aが経年劣化している場合には、酸化触媒56aにおいて排気を適切に昇温させることができない場合がある。
図2は、高地環境下での運転時あるいは酸化触媒56aの劣化時における燃料の添加による排気温度の昇温代について説明するための図である。
図2の上段においては、酸化触媒56aと、第1排気温度センサ70および第2排気温度センサ72による排気温度Tex1,Tex2の検出位置とが示される。図2の下段においては、上段の第1排気温度センサ70の検出位置から第2排気温度センサ72の検出位置までの排気の流通方向に沿った温度分布が示される。
図2の破線は、平地環境下での運転時であって、かつ、酸化触媒56aが劣化していない場合(酸化触媒56aの非劣化時)における排気の温度分布を示す。図2の実線は、高地環境下での運転時であるか、あるいは、酸化触媒56aが劣化している場合(酸化触媒56aの劣化時)における排気の温度分布を示す。
図2の実線に示すように、高地環境下での運転時には、気圧が低下することによる酸化触媒56aの空間速度の上昇によって酸化触媒56aにおいて酸化反応による反応熱が得られにくくなる場合がある。また、酸化触媒56aの経年劣化時においても酸化触媒56aでの燃料の反応機会が減少することによって、酸化触媒56aにおいて酸化反応による反応熱が得られにくくなる場合がある。その結果、排気温度Tex1に対する排気温度Tex2の昇温代が小さくなり、PM除去フィルタ56bに流入する排気を適切に昇温させることができない場合がある。
そこで、本実施の形態においては、制御装置200は、燃料添加装置56cを用いた燃料の添加による、酸化触媒56aの上流の排気温度Tex1に対する酸化触媒56aの下流の排気温度Tex2の昇温代が、しきい値よりも小さい場合には、昇温代がしきい値よりも大きい場合よりも気筒12における燃料の着火時期を遅らせるようにエンジン1を制御するものとする。
このようにすると、酸化触媒56aに流入する排気の温度を上昇させることができるため、酸化触媒56aの温度を上昇させて酸化反応の速度を上昇させることができる。これにより酸化触媒56aを活性化させてPM除去フィルタ56bに流入する排気の温度を適切に昇温させることができる。
なお、本実施の形態における「排気処理システム」は、酸化触媒56aと、PM除去フィルタ56bと、燃料添加装置56cと、制御装置200とによって構成される。
以下に、図3を参照して、本実施の形態おける制御装置200で実行される制御処理について説明する。図3は、制御装置200で実行される制御処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、所定の制御周期毎にメインルーチン(図示せず)から呼び出されて実行される。
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、制御装置200は、手動再生の開始操作があるか否かを判定する。制御装置200は、たとえば、手動再生スイッチ204に対して所定の操作が行なわれたことを示す信号を受信した場合に、手動再生の開始操作があると判定する。手動再生の開始操作があると判定される場合(S100にてYES)、処理はS102に移される。
S102にて、制御装置200は、PM堆積量がしきい値PM(0)よりも大きいか否かを判定する。しきい値PM(0)は、たとえば、自動的に再生制御を実行するための再生判定値よりも低い値であって、かつ、PM堆積量が再生可能な量だけ堆積していると判定できる値である。PM堆積量がしきい値PM(0)よりも大きいと判定される場合(S102にてYES)、処理はS104に移される。
S104にて、制御装置200は、アイドルアップ制御を実行する。制御装置200は、たとえば、エンジン回転数NEのアイドル回転数が通常値よりも高い予め定められた回転数になるようにエンジン1を制御する。
S106にて、制御装置200は、水温Twがしきい値Tw(0)よりも大きいか否かを判定する。水温Twのしきい値Tw(0)は、エンジン1の暖機が完了したことを判定するための値であって、実験等によって適合される。水温Twがしきい値Tw(0)よりも大きいと判定される場合(S106にてYES)、処理はS108に移される。
S108にて、制御装置200は、第1昇温制御を実行する。第1昇温制御は、たとえば、アイドルアップ制御後のアイドル状態に対応する燃料噴射量および噴射時期等のエンジン1の燃焼に関連する各種パラメータを排気温度が上昇する側に変更する制御をいうものとする。
S110にて、制御装置200は、排気温度Tex1がしきい値Tex(0)よりも大きいか否かを判定する。しきい値Tex(0)は、第1昇温制御の実行により想定され得る昇温後の排気温度Tex1の範囲の下限値であって、たとえば、実験等によって適合される予め定められた値である。排気温度Tex1がしきい値Tex(0)よりも大きいと判定される場合(S110にてYES)、処理はS112に移される。
S112にて、制御装置200は、燃料添加量を算出する。制御装置200は、たとえば、排気温度Tex2を目標温度に昇温するための燃料添加量を算出する。目標温度は、上述のとおり、PM除去フィルタ56bの温度をPM除去フィルタ56bの再生が可能な温度まで昇温することができる排気温度として設定される。
制御装置200は、たとえば、排気温度Tex2と目標温度との差分と所定のマップとを用いて燃料添加量を算出する。所定のマップは、排気温度Tex2と目標温度との差分と燃料添加量との関係を示し、実験等によって適合され、予め制御装置200のメモリに記憶される。
S114にて、制御装置200は、燃料添加制御を実行する。具体的には、制御装置200は、S112にて算出された燃料添加量に対応する制御信号を生成して、生成された制御信号を燃料添加装置56cに送信することによって、算出された燃料添加量の燃料が添加されるように燃料添加装置56cを制御する。
S116にて、制御装置200は、排気温度Tex2から排気温度Tex1を減算して算出される酸化触媒56aにおける昇温代を算出する。
S118にて、制御装置200は、昇温代がしきい値αよりも小さいか否かを判定する。しきい値αは、たとえば、高地環境下での運転時で昇温代あるいは酸化触媒56aの劣化時の昇温代であるか否かを判定するための値であって、実験等によって適合される。昇温代がしきい値αよりも小さいと判定される場合(S118にてYES)、処理はS120に移される。
S120にて、制御装置200は、エンジン回転数NEの変動量ΔNEがしきい値ΔNE(0)よりも小さいか否かを判定する。エンジン回転数NEの変動量ΔNEは、たとえば、予め定められた期間における、アイドルアップ制御後のアイドル回転数を基準値として、エンジン回転数NEの検出値と基準値との差分の大きさのうちの最大値であってもよいし、あるいは、予め定められた期間におけるエンジン回転数NEの検出値の最大値から最小値を減算した値であってもよい。しきい値ΔNE(0)は、たとえば、エンジン1において失火が発生していると判定するための値であって、実験等によって適合される予め定められた値である。エンジン回転数NEの変動量ΔNEがしきい値ΔNE(0)よりも小さいと判定される場合(S120にてYES)、処理はS122に移される。
S122にて、制御装置200は、実昇温代と目標昇温代との差分を算出する。なお、制御装置200は、たとえば、S116にて算出された昇温代を実昇温代として取得する。さらに、制御装置200は、たとえば、S112にて算出された燃料添加量が酸化触媒56aにおいて酸化反応した場合に想定される昇温代を目標昇温代として設定する。制御装置200は、たとえば、燃料添加量と所定のマップとを用いて目標昇温代を設定する。所定のマップは、平地環境下での運転時であって、かつ、酸化触媒56aの非劣化時における燃料添加量と目標昇温代との関係を示し、実験等によって適合され予め制御装置200のメモリに記憶される。
S124にて、制御装置200は、第2昇温制御を実行する。第2昇温制御は、昇温代がしきい値αよりも大きい場合よりも気筒12における燃料の着火時期を遅らせる制御である。より具体的には、第2昇温制御は、たとえば、酸化触媒56aの上流の排気温度Tex1が上昇し、かつ、気筒12において失火が発生しない範囲で着火時期を遅らせる制御である。本実施の形態において、昇温代がしきい値αよりも小さい場合には、昇温代がしきい値αよりも大きい場合よりも吸気マニホールド28に流通する空気量を減少させる吸気絞り弁29の制御を第2昇温制御の一例として説明する。制御装置200は、たとえば、吸気絞り弁29の閉度を実昇温代と目標昇温代との差分の大きさに応じた量だけ大きくする(吸気絞り弁29の閉じ量を増やす)制御を第2昇温制御として実行する。
S126にて、制御装置200は、PM堆積量がしきい値PM(1)よりも小さいか否かを判定する。制御装置200は、たとえば、再生制御を開始した時点(たとえば、アイドルアップ制御の実行を開始した時点)から予め定められた時間が経過した場合にPM堆積量がしきい値PM(1)よりも小さいと判定する。なお、しきい値PM(1)は、しきい値PM(0)よりも小さい値であってもよいし、しきい値PM(0)と同じ値であってもよい。PM堆積量がしきい値PM(1)よりも小さいと判定される場合(S126にてYES)、処理はS128に移される。S128にて、制御装置200は、PM除去フィルタ56bの再生制御を終了する。このとき、制御装置200は、たとえば、アイドルアップ制御を終了する。さらに、制御装置200は、吸気絞り弁29の閉度をエンジン1の運転状態に応じた閉度に設定する。
なお、S100にて手動再生の開始操作がないと判定される場合(S100にてNO)、あるいは、S102にてPM堆積量がしきい値PM(0)以下であると判定される場合(S102にてNO)、この処理は終了される。
また、S106にて水温Twがしきい値Tw(0)以下であると判定される場合には(S106にてNO)、処理はS106に戻される。S110にて排気温度Tex1がしきい値Tex(0)以下であると判定される場合(S110にてNO)、処理はS110に戻される。さらに、S118にて昇温代がしきい値α以上であると判定される場合(S118にてNO)あるいはS120にてエンジン回転数NEの変動量ΔNEがしきい値ΔNE(0)以上であると判定される場合(S120にてNO)、処理はS126に移される。
S126にてPM堆積量がしきい値PM(1)以上であると判定される場合(S126にてNO)、処理はS112に戻される。
以上のような構造およびフローチャートに基づく制御装置200の動作について図4を参照しつつ説明する。図4は、制御装置200の動作の一例を説明するための図である。図4(A)においては、酸化触媒56aと、第1排気温度センサ70および第2排気温度センサ72による排気温度Tex1,Tex2の検出位置とが示される。図4(B)においては、図4(A)の第1排気温度センサ70の検出位置から第2排気温度センサ72の検出位置までの排気の流通方向に沿った温度分布が示される。図4(C)においては、第2昇温制御実行前後の温度分布が示される。
図4(B)の破線は、平地環境下での運転時であって、かつ、酸化触媒56aの非劣化時における排気の温度分布を示す。図4(B)の実線は、高地環境下での運転時であるか、あるいは、酸化触媒56aの劣化時における排気の温度分布を示す。
図4(C)の実線は、図4(B)の実線と同様に、高地環境下での運転時であるか、あるいは、酸化触媒56aの劣化時における排気の温度分布を示す。図4(C)の一点鎖線は、高地環境下での運転時であるか、あるいは、酸化触媒56aの劣化時であって、かつ、第2昇温制御実行後の排気の温度分布を示す。
たとえば、ユーザによって手動再生スイッチ204に対して所定の操作が行なわれると、手動再生開始操作があると判定され(S100にてYES)、PM堆積量がしきい値PM(0)よりも大きいと判定される場合(S102にてYES)、アイドルアップ制御が実行される(S104)。そして、水温Twがしきい値Tw(0)よりも大きいと判定される場合(S106にてYES)、第1昇温制御が実行される(S108)。
そして、排気温度Tex1がしきい値よりも大きいと判定される場合には(S110にてYES)、燃料添加量が算出され(S112)、燃料添加制御が実行され(S114)、昇温代が算出される(S116)。
平地環境下での運転時であって、かつ、酸化触媒56aの非劣化時においては、図4(B)の破線に示すように、昇温代がしきい値αよりも大きくなるため(S118にてNO)、第2昇温制御は実行されない。
一方、高地環境下での運転時であるか、あるいは、酸化触媒56aの劣化時においては、図4(B)の実線に示すように、昇温代がしきい値αよりも小さくなるため(S118にてYES)、エンジン回転数NEの変動量ΔNEがしきい値ΔNE(0)よりも小さい場合には(S120にてYES)、実昇温代と目標昇温代との差分が算出されるとともに(S122)、第2昇温制御が実行される。
図5は、第2昇温制御における制御装置200の詳細な動作の一例を説明するためのタイミングチャートである。図5には、排気温度Tex2の変化(LN1)と、昇温代の変化(LN2)と、吸気絞り弁29の閉度の変化(LN3)と、吸入空気量Qinの変化(LN4)と、エンジン回転数NEの変動量ΔNEの変化(LN5)とが示される。
たとえば、時間T(0)にて、第2昇温制御が実行される場合を想定する。このとき、αが目標昇温代として設定されているものとする。この場合、制御装置200は、時間T(0)以降において、実昇温代と目標昇温代との差分の大きさに応じた量だけ吸気絞り弁29の閉度を大きくする制御を実行する。時間T(0)直後においては、図4のLN2に示すように、実昇温代と目標昇温代との差分の大きさが最も大きく、時間の経過とともに実昇温代と目標昇温代との差分の大きさが減少していく。そのため、吸気絞り弁29の閉度は、図4のLN3に示すように、時間T(0)直後において単位時間当たりの閉度の増加量(傾き)が大きく、実昇温代と目標昇温代との差分の大きさの減少に応じて単位時間当たりの閉度の増加量が小さくなる(傾きが緩やかになる)。吸気絞り弁29の閉度が大きくなるにつれて、図4のLN4に示すように吸入空気量が減少していく。そのため、気筒12における燃料の着火時期が遅れることになるため、排気温度Tex1が上昇する。その結果、図4のLN1に示すように排気温度Tex2も上昇していくこととなる。このとき、図4のLN5に示すように、エンジン回転数NEの変動量ΔNEがしきい値ΔNE(0)よりも小さい範囲においては、吸気絞り弁29の閉度は、昇温代が目標昇温代αを超えるまで増加することになる。
このようにして、第2昇温制御が実行されることによって、図4(C)の一点鎖線に示すように、排気温度Tex1が上昇することによって、酸化触媒56aに流入する排気の温度が上昇する。これにより、酸化触媒56aの温度を上昇させて酸化反応の速度が上昇する。その結果、昇温代が増加することとなる。なお、エンジン回転数NEの変動量ΔNEがしきい値ΔNE(0)を超える場合には、エンジン1において失火が発生していると判定され、第2昇温制御が中止あるいは中断されることとなる。
以上のようにして、本実施の形態に係る排気処理システムによると、燃料の添加による昇温代がしきい値αよりも小さい場合には、昇温代がしきい値αよりも大きい場合よりも燃料の着火時期が遅らせられる。そのため、酸化触媒56aに流入する排気の温度を上昇させることができる。酸化触媒56aに流入する排気の温度を上昇させることによって、酸化触媒56aの温度を上昇させて酸化反応の速度を上昇させることができる。これにより酸化触媒56aを活性化させてPM除去フィルタ56bに流入する排気の温度を適切に昇温させることができる。したがって、高地環境下での運転時や酸化触媒の劣化時においてPM除去フィルタに流入する排気温度を適切に昇温する排気処理システムを提供することができる。
以下、変形例について説明する。
上述の実施の形態では、吸入空気量Qinが減少するように吸気絞り弁29を制御することによって気筒12における燃料の着火時期を遅らせる制御を第2昇温制御の一例として説明したが、気筒12における燃料の着火時期を遅らせる第2昇温制御としては、吸気絞り弁29の制御に特に限定されるものではない。制御装置200は、たとえば、気筒12に燃料を供給する時期を遅らせる制御を第2昇温制御として実行してもよい。制御装置200は、たとえば、昇温代がしきい値αよりも小さい場合には、昇温代がしきい値αよりも大きい場合よりも気筒12に燃料を供給する時期を遅らせる。また、制御装置200は、たとえば、目標昇温代と実昇温代との差の大きさが大きくなるほど燃料噴射時期を遅らせるようにしてもよい。このようにしても着火時期を遅らせることができるため、酸化触媒56aに流入する排気の温度を上昇させることができる。あるいは、吸気絞り弁29の制御と燃料噴射時期の制御とを第2昇温制御として実行してもよい。
さらに上述の実施の形態では、制御装置200は、PM除去フィルタ56bの手動再生を開始した時点(たとえば、アイドルアップ制御を開始した時点)から予め定められた時間が経過した場合にPM堆積量がしきい値PM(1)よりも小さいと判定するものとして説明したが、たとえば、PM除去フィルタ56bのPM堆積量を推定し、推定されたPM堆積量がしきい値PM(1)よりも小さいか否かを判定してもよい。制御装置200は、たとえば、PM除去フィルタ56bの上流と下流との圧力差を検出し、検出された圧力差に基づいてPM除去フィルタ56bにおけるPM堆積量を推定してもよい。
さらに上述の実施の形態では、制御装置200は、手動再生スイッチ204への所定の操作によって手動再生の実行を受け付けるものとして説明したが、たとえば、図示しないタッチパネルへの所定の操作によって手動再生の実行を受け付けてもよい。
なお、上記した変形例は、その全部または一部を組み合わせて実施してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。