従来より、ラジエータやヒータ等、伝熱チューブ(伝熱管)が冷却液の流路となる熱交換器では、かかる伝熱チューブの内面防食のために、チューブ内面側となる面に犠牲材料がクラッドされてなる板材を、チューブ状に折り曲げて、形成される板製の伝熱チューブが、用いられてきている。特に、熱交換器の高性能化には、流路数を増加させることが有効であるところから、板製の伝熱チューブにおいては、インナーフィンを設けることによって、複数の流路がチューブ内に形成されているのである。しかし、そのような構造は、接合点が多いために、ろう付け接合不良が生じやすく、耐圧強度不足によるバーストが懸念される問題がある。また、ろう付け時に用いられるフラックスによって、内面に形成される流路の目詰まり等の問題も内在している。これらの問題を解決するには、各流路の仕切り壁がろう付けされたものではなく、またフラックスも使用されることのない、アルミニウム材料の如き金属材料を押出加工することによって製造される押出扁平多穴管を使用することが有効である。
そして、かかる押出扁平多穴管としては、通常、特開平3−193209号公報や特開平6−142755号公報等に明らかにされている如き、ポートホールダイスを用いて、アルミニウム若しくはアルミニウム合金をポートホール押出して得られるものが用いられてきており、円形形状や矩形形状の空孔(流路)の他、特開平5−222480号公報、WO2013/187156等に示される如き各種の断面形状を有する空孔の多数が管幅方向に配設されてなる構造の押出扁平多穴管が、明らかにされている。
ところで、そのような熱交換器の伝熱チューブとして用いられる、押出加工によって得られる扁平多穴管にあっては、上述せるように、その内部に配設された空孔からなる流路(通路)に冷却液が流通せしめられるものであるところから、そのような冷却液に起因して、流路内面に腐食が惹起されるという問題が内在しており、そしてそのような腐食の進行によって、管壁(外周壁)を貫通する腐食孔等が生じたりすると、熱交換器としての機能を全く喪失することとなる。
そこで、上記した押出扁平多穴管にあっては、前記特開平5−222480号公報にも明らかにされている如く、特定の成分組成のアルミニウム合金を単一で用いて、押出加工することによって、適切な防食性を具備する扁平多穴管を製造することが提案されているのであるが、流路内面の防食性においては未だ充分でなく、近年における高い防食性の要請に充分に応え得ないのみならず、チューブ全体を特定材質のアルミニウム合金にて構成するものであるところから、得られるチューブの特性が、かかる特定合金組成のアルミニウム合金によって制限を受けるという問題も内在している。
また、特開2017−36906号公報においては、通常のアルミニウム管本体材料とそれよりも電気化学的に卑なアルミニウム犠牲陽極材料とを用いて、それらを同時に熱間押出加工することにより、得られるアルミニウム押出扁平多穴管の複数の流路の内面に、かかるアルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部を露呈せしめ、その犠牲陽極部の存在によって発揮される犠牲陽極効果により、アルミニウム押出扁平多穴管の流路に対して優れた内面防食性を付与し得ることが明らかにされている。
しかしながら、そのようなアルミニウム押出扁平多穴管の製造に際しては、アルミニウム犠牲陽極材料を芯材とし、その周りに、アルミニウム管本体材料からなる鞘材(皮材)を配してなる構造の複合ビレットを用い、それをポートホールダイスから熱間押出加工することとなるのであるが、かかる多穴管の横断面構造自体が複雑であることに加えて、自動車用熱交換器の伝熱管としての用途等においては、厚さ:2mm程度、幅:16mm程度の外形サイズにおいて、幅:1.5mm程度、高さ:1.5mm程度の流路が、多数、管軸方向に独立して設けられてなる微細な扁平多穴構造が形成されることとなるところから、それら多数の微細な流路内面に、アルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部が必ず露呈せしめられ得るように、ポートホール押出することには、技術的な困難を伴い、複合ビレットの複合形態やポートホールダイスの構造、ポートホール押出条件等に様々な工夫が必要となって、目的とする押出扁平多穴管の製造を困難としていると共に、その製造コストが高くなるものであった。
しかも、複合ビレットのポートホール押出に際しては、その中心部に配置されるアルミニウム犠牲陽極材料からなる芯材が、周りのアルミニウム管本体材料からなる鞘材に先立って押し出され易く、そのために、アルミニウム犠牲陽極材料にて構成される犠牲陽極部が管軸方向において安定的に形成され得ない不良クラッド部の長さが、押出開始時において長くなる問題に加えて、アルミニウム犠牲陽極材料が、管外周壁部を構成するアルミニウム管本体材料側に入り込むメタルフローが惹起される場合がある。そして、その場合において、アルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部が、管外周壁部の壁厚全体に入り込み、アルミニウム犠牲陽極材料からなる巻込み部が形成される問題が惹起される恐れがある。なお、そのようなアルミニウム犠牲陽極材料からなる巻込み部が存在すると、かかる巻込み部は、アルミニウム管本体材料から構成される管外周壁部の他の部位よりも、腐食によって消滅され易く、そのために、管外周壁部に腐食による早期貫通を生ぜしめ、管内を流通せしめられる冷却水等の冷媒の漏洩等を惹起して、熱交換器としての熱交換性能を低下せしめ、ひいては使用不能に至らしめる等の問題を惹起する恐れが内在することとなる。
かかる状況下、本発明者らは、アルミニウム管本体材料とアルミニウム犠牲陽極材料からなる複合ビレットの押出加工によって得られるアルミニウム押出扁平多穴管において、その管軸方向に互いに独立して平行に延びるように設けられる複数の流路の内面に、アルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部を確実に露呈せしめて、流路内面の防食性の有効な向上を図ると共に、容易に且つ安価に製造することの出来る扁平多穴管構造を実現すべく、鋭意検討した結果、アルミニウム管本体材料とアルミニウム犠牲陽極材料からなる複合ビレットを押出加工することによって得られる、かかるアルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部が管軸方向に延びる突条の少なくとも先端部に形成されてなる、横断面が円形の内面突条付きアルミニウム押出丸管を用い、それを成形加工乃至は押圧変形加工して、目的とする扁平多穴管構造とすることによって、管内部に形成される複数の流路の各々に、犠牲陽極部が確実に存在せしめられ得ると共に、簡単且つ容易に、そして安価に扁平多穴管構造が実現され得ることを見出したのである。
従って、本発明は、かくの如き知見に基づいて完成されたものであって、その解決課題とするところは、管幅方向に配列せしめられた複数の流路の何れにも、アルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部が確実に存在せしめられて、露呈され得るようにした構造のアルミニウム押出管製扁平多流路管と、その有利な製造方法を提供することにあり、また他の課題とするところは、流路内面の防食性を犠牲陽極効果によって効果的に高め得る、簡単且つ容易に、そして安価に製造可能なアルミニウム押出管製扁平多流路管構造を提供することにあり、更に、そのようなアルミニウム押出管製扁平多流路管を用いて得られる、防食性に優れたアルミニウム製熱交換器を提供することにある。
そして、本発明にあっては、かくの如き課題を解決するために、横断面が円形の管内面から所定高さで突出し、管軸方向に延びる少なくとも1条の突条を有するアルミニウム押出丸管に対する成形加工乃至は押圧変形加工によって、全体として扁平な横断面形状を呈すると共に、前記突条の先端部が管内面に当接せしめられて、扁平な管内が該突条によって仕切られることにより、管軸方向に互いに独立して平行に延びる複数の流路が形成され、且つそれら流路が管幅方向に配列されてなる構造のアルミニウム押出丸管の扁平化多流路管にして、前記アルミニウム押出丸管が、アルミニウム管本体材料とこのアルミニウム管本体材料よりも電気化学的に卑なアルミニウム犠牲陽極材料とを用いた押出加工によって形成されていると共に、管横断面における少なくとも前記突条の先端部を含む部位において、前記アルミニウム犠牲陽極材料が管内に露呈せしめられて、犠牲陽極部が形成されていることを特徴とするアルミニウム押出管製扁平多流路管を、その要旨とするものである。
なお、本発明においては、有利には、前記アルミニウム押出丸管の内面に形成された前記突条の全体が、前記アルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部にて構成されることとなる。
また、かかる本発明に従うアルミニウム押出管製扁平多流路管の望ましい態様の一つにあっては、前記アルミニウム押出丸管の管周壁部が、その厚さの90%以下の割合において、前記犠牲陽極部にて構成されていると共に、かかる犠牲陽極部が管内面に露呈せしめられている。
さらに、本発明の他の望ましい態様の一つにあっては、前記アルミニウム犠牲陽極材料と前記アルミニウム管本体材料との電位差は、5mV以上、300mV以下であるように構成されている。
更にまた、本発明あっては、望ましくは、前記犠牲陽極部が、管横断面において、前記流路の周長の少なくとも10%以上の長さに亘って形成されて、該流路内面に露呈せしめられているように構成される。
加えて、本発明の望ましい別の態様の一つによれば、前記突条が複数配設されていると共に、それら複数の突条が、扁平な横断面形状における二つの対向する平坦部からそれぞれ交互に突出し、対応する平坦部の内面にそれぞれ当接せしめられているように構成される。
また、上述の如き本発明に従うアルミニウム押出管製扁平多流路管の製造に際しては、有利には、(a)アルミニウム管本体材料とこのアルミニウム管本体材料よりも電気化学的に卑なアルミニウム犠牲陽極材料とからなり、該アルミニウム犠牲陽極材料を芯材とする一方、該芯材の周りに配される鞘材を該アルミニウム管本体材料にて構成してなる複合ビレットを用いて、押出加工することにより、横断面が円形の管内面から所定高さで突出し、管軸方向に延びる少なくとも1条の突条を有する円形の丸管形状を呈すると共に、管横断面における少なくとも該突条の先端部を含む部位の表面に、前記アルミニウム犠牲陽極材料が露呈せしめられて、犠牲陽極部が形成されてなる内面突条付きアルミニウム押出丸管を準備する工程と、(b)かかる内面突条付きアルミニウム押出丸管に対する成形加工乃至は押圧変形加工によって、全体として扁平な横断面形状を呈すると共に、前記突条の先端部が管内面に当接せしめられて、扁平な管内が該突条によって仕切られることにより、管軸方向に互いに独立して平行に延びる複数の流路が形成され、且つそれら流路が管幅方向に配列されてなる扁平化多流路管を形成して、前記少なくとも突条の先端部を含む部位に形成された犠牲陽極部がそれぞれの流路内面に露呈せしめられるようにする加工工程とを含む製造手法が、有利に採用されることとなる。
そして、そのような本発明に従う製造方法の好ましい態様の一つによれば、前記内面突条付きアルミニウム押出丸管が、複数の前記突条を有していると共に、それら複数の突条が、前記成形加工乃至は押出変形加工により形成される扁平な横断面形状における二つの対向する平坦部に相当する部位に配設されて、それぞれの平坦部から突出する突条が交互に対応する平坦部の内面に当接せしめられ得るようになっている。
さらに、本発明の望ましい態様の一つによれば、前記複合ビレットと共に、前記アルミニウム管本体材料と同じ材質の前板を用い、且つかかる前板の直径を、該複合ビレットの直径に対して90%以上、100%以下とし、更に該前板の厚さを、該複合ビレットの直径に対して3%以上、30%以下となるように構成して、この前板を前記複合ビレットの押出方向前方側に配置せしめ、それら前板及び複合ビレットをポートホールダイスにて共に押出加工することからなる手法が採用される。
そして、本発明にあっては、上述の如き本発明に従うアルミニウム押出管製扁平多流路管と、このアルミニウム押出管製扁平多流路管の外面にろう付け接合されたアルミニウム製アウターフィンとを含んで構成されていることを特徴とするアルミニウム製熱交換器をも、その要旨とするものである。
このように、本発明に従う構成とされたアルミニウム押出管製の扁平多流路管においては、管軸方向に延びる突条の少なくとも先端部を含む部位に、犠牲陽極部が存在せしめられてなる構造の内面突条付きアルミニウム押出丸管を用いて、その成形加工乃至は押圧変形加工によって、複数の流路が管軸方向に互いに独立して平行に延びるように形成されてなる扁平化多流路管構造として形成されているために、複数の流路を仕切る突条に少なくとも存在する犠牲陽極部によって、それぞれの流路には、確実に、犠牲陽極部が露呈するように位置せしめられることとなるところから、犠牲陽極効果によって、各流路の内面防食性が効果的に高められ得ることとなるのであり、これによって、ラジエータやヒータ等のチューブ内面側が冷却液となる熱交換器の伝熱管として、有利に用いられ得ることとなるのである。
また、かかる本発明に従うアルミニウム押出管製扁平多流路管を与える内面突条付きアルミニウム押出丸管にあっては、薄い扁平な形状ではなく、外形形状が大きな円形形状において、押出加工されるものであるところから、その円形の内面に形成される管軸方向に延びる所定高さの突条と共に、横断面が円形の管内面に、犠牲陽極部が、複合ビレットの押出加工によって、簡単且つ容易に、しかも安定的に形成され得ることとなるのであって、それ故に、目的とする扁平多流路管を押出加工によって直接に得る必要がないために、押出加工工程における各種の問題が悉く解消され得て、製造コストの低減にも大きく寄与し得るのである。
さらに、本発明に従うアルミニウム押出管製扁平多流路管を用いて、それとアルミニウム製アウターフィンとを組み付け、ろう付け加熱により接合して構成されるアルミニウム製熱交換器にあっては、かかるアルミニウム押出管製扁平多流路管の優れた内面防食特性によって、熱交換器としての価値が有利に高められ得ることとなる。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
先ず、図1(a)及び(b)には、本発明に従うアルミニウム押出管製扁平多流路管の一例が、その長手方向(管軸方向)に対して直角な方向の断面となる横断面の形態において、模式的に示されている。そこにおいて、本発明に従う扁平多流路管10は、全体として扁平な横断面形状を呈するアルミニウム材料製の管体であって、互いに管軸方向に平行に延びる矩形形状の空孔からなる複数の流路12を備えていると共に、それら複数の流路12が、管幅方向に、換言すれば扁平形状の長手方向(図において左右方向)に、所定間隔を隔てて、それぞれ配列せしめられてなる構造とされている。なお、この扁平多流路管10の対向する上面と下面は、それぞれ、平坦面とされて、そこに、従来と同様に、プレートフィンやコルゲートフィンの如きアウターフィン(図示せず)がろう付け等の接合手法により取り付けられて、熱交換器として用いられ得るようになっている。
そして、図1に示される扁平多流路管10においては、その管周壁部14の互いに対向する上側平坦部14aと下側平坦部14bとから、それぞれ、管軸方向に互いに平行に延びる複数の上側突条16aと複数の下側突条16bとが一体的に設けられており、それら上側突条16aと下側突条16bとが、それらの先端部において、管周壁部14(上側平坦部14a及び下側平坦部14b)の内面にそれぞれ当接するように位置せしめられている。これによって、管内空間がそれら複数の突条16a,16bにて仕切られるようして、それらの間に、矩形の流路12の複数が形成されるようになっているのである。即ち、ここでは、管周壁部14における上側平坦部14aから3条の突条16aが垂下する一方、下側平坦部14bからは4条の下側突条16bが直立してなる形態において、且つ上側突条16aと下側突条16bとが交互に位置するように配設せしめられてなる形態において、管内に配置され、それら上側突条16aと下側突条16bとの間に、略等しい大きさの流路12が形成されているのである。
しかも、そのような構造の扁平多流路管10においては、図1(a)及び(b)から明らかな如く、その管周壁部14の少なくとも外周部が、通常のアルミニウム管本体材料にて構成されている一方、かかる管周壁部14の内周部と共に、隣り合う流路12,12間に位置する突条16a,16bが、所定のアルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部18にて構成されており、これによって、流路12の周囲には、かかる犠牲陽極部18が存在せしめられて、それが、流路12の内周部の少なくとも一部において(ここでは、全周において)、露呈せしめられるようになっている。
なお、かくの如き扁平多流路管10において、その管周壁部14の少なくとも外周部を構成するアルミニウム管本体材料としては、従来から押出加工による扁平多穴管の製造に用いられている公知の各種のアルミニウム材料が、そのまま用いられ得るところであって、例えば、JIS称呼のA1000系純アルミニウム材料やA3000系アルミニウム合金材料等を用いることが出来、更には、そのようなアルミニウム材料に、電位を貴にするため、合金成分としてCuを所定量含有せしめることも可能である。また、犠牲陽極部18を与えるアルミニウム犠牲陽極材料には、上記の管本体材料よりも電気化学的に卑、換言すれば自然電位が卑となる公知のアルミニウム合金材料が用いられ、例えば、Znを所定量含むアルミニウム合金等が用いられることとなる。ここで、かかるアルミニウム犠牲陽極材料は、アルミニウム管本体材料との間の電位差が0mVよりも大となるものであるが、そのような電位差は、好ましくは5mV以上、300mV以下の範囲である。この電位差が5mV以上となることで、より厳しい腐食環境下においても、確実に犠牲陽極効果を発揮し易くなるのである。一方、電位差が300mVを超えるようになると、犠牲陽極効果が顕著となり過ぎて、犠牲陽極材の腐食消耗が激しくなる等の問題が惹起される。このように、流路12の内面に露呈せしめられる犠牲陽極部18が、アルミニウム管本体材料からなる管周壁部14等より電気的に卑となることによって、有効な犠牲陽極効果が発揮され得て、流路内面の防食性がより有利に発現され得ることとなるのである。
ところで、上述の如き本発明に従う扁平多流路管10は、図2に示される如き、横断面形態を有する内面突条付きアルミニウム押出丸管20に対して、複数のロールによる成形加工やプレス等による押圧変形加工を施して、全体として扁平な横断面形状を呈するように加工することによって、形成されることとなるものである。即ち、かかる内面突条付きの押出丸管20は、図2から明らかな如く、円形の横断面形状を呈するものであって、その管周壁部14の所定厚さの外周部が、アルミニウム管本体材料にて構成されている一方、その内周部が、管軸方向に延びる所定高さの突条16の7条と共に、アルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部18にて構成されている。なお、それら7条の突条16は、図1に示される扁平多流路管10における内部空間の仕切り壁としての上側突条16aの3条と下側突条16bの4条とを与えるものであって、管周壁部14の円形の内周面から同一高さにおいて、管中心に向かって突出し、且つ管軸方向に連続して延びるように、一体的に設けられている。
そして、上述の如き内面突条付きの押出丸管20は、押出加工されるアルミニウム材料として、上記したアルミニウム管本体材料とアルミニウム犠牲陽極材料とを用い、それら材料を同時押出加工することによって製造されるものであるが、それら管本体材料と犠牲陽極材料とは、一般に、図3(a)や(b)に示される如き芯鞘構造の複合ビレット30として用いられることとなる。具体的には、管本体材料からなる鞘ビレット34の内部(中心部)に設けた空洞部に、例えば矩形形状(角部が曲線状のものを含む)、円形、多角形等の、該空洞部に対応した断面形状を有すると共に、断面寸法を最適化した犠牲陽極材料からなる芯ビレット32を配置せしめて、それらを溶接等によって接合して一体化することにより、犠牲陽極材料からなる芯部分(32)の周りに管本体材料からなる鞘部分(34)が形成されてなる構造の複合ビレット30が、用いられるのである。なお、この複合ビレット30の製造には、公知の各種の手段が採用され得、例えば、管本体材料からなるビレットの中心部に所定大きさの貫通孔を設けて鞘ビレット34を形成し、そしてその貫通孔内に、犠牲陽極材料からなる芯ビレット32を挿入して一体化せしめる手法の他、そのような鞘ビレット34を二つ割りにした形態において作製し、そしてそれら二つ割りの鞘ビレット34の空所に芯ビレット32を配置した形態において、全体を溶接等により固定して一体化せしめる手法等によって、目的とする複合ビレット30を形成することが可能である。
なお、かかる複合ビレット30を押出加工して、本発明に従う内面突条付きの押出丸管20を製造するに際しては、従来の押出中空パイプの製造の場合と同様な押出口(但し、突条形成部が設けられている)を有するダイス、所謂ポートホールダイスを用いて、熱間押出加工する手法が採用されることとなる。即ち、そこでは、内面突条付きの押出丸管20の横断面に対応する押出口を有するポートホールダイスから、上記した複合ビレット30を、従来と同様にして熱間押出加工することにより、目的とする押出丸管20を得ることが出来るのである。
また、そのような内面突条付きの押出丸管20の製造に際して、複合ビレット30を構成するアルミニウム犠牲陽極材料(32)が、アルミニウム管本体材料(34)よりも先に押し出されて、不良クラッド部の長さを長くしたり、管周壁部14の管壁厚さの全体を構成したりする恐れがあるところから、本発明にあっては、図3(c)の如く、複合ビレット30の押出方向前頭部(前方側)に、複合ビレット30を構成するアルミニウム管本体材料(34)と同じ材質の円板状の前板36を一体的に配設してなる形態において、ポートホールダイスから押出加工する手法が有利に採用され、これによって、形成される内面突条付き押出丸管20の管周壁部14へのアルミニウム犠牲陽極材料(34)の極端なメタルフローが、有利に抑制乃至は阻止され得ることとなる。
さらに、そのような前板36を用いた複合ビレット30の押出加工においては、当該複合ビレット30を構成するアルミニウム管本体材料(34)と同じ材質の円形の前板36が、複合ビレット30の前頭部に溶接等により固定せしめられてなる状態において、実施されることとなるが、その際、かかる前板36の直径は、複合ビレット30の直径に対して90%以上、100%以下の範囲内とされることとなる。なお、かかる前板36の直径が複合ビレット30の直径の100%よりも大きくなると、押出コンテナへ複合ビレット30を挿入する際に引っ掛かり、押出不可となる等の問題を惹起し、一方、前板36の直径が、複合ビレット30の90%よりも小さくなると、押出加工時に、押出コンテナの内周面との間の隙間から、押出方向後方に位置する複合ビレット30の外表層に存在する酸化皮膜や異物等が優先して押し出され、管周壁部14に巻き込まれて、欠陥を発生せしめる恐れがある。更に、そのような前板36の厚さとしては、複合ビレット30の直径に対して3%以上、30%以下とされることが望ましく、中でも10%以上、25%以下の割合が最適である。なお、前板36の厚さが、複合ビレット30の直径の3%よりも薄くなると、前板36の存在による効果を充分に実現することが困難となり、一方、前板36の厚さが複合ビレット30の直径の30%を超えるようになると、前板36の材料比率が高くなり過ぎて、得られる内面突条付き押出丸管20の内面に、アルミニウム犠牲陽極材料(18)が安定してクラッドされるまでの押出長さが長くなり、そのため製品切り捨て量が多くなる等の問題を惹起するようになるところから、かかる前板36の厚さを余りに厚くすることは、避けることが望ましい。
このように、本発明に従う扁平多流路管10を与える内面突条付き押出丸管20は、図1に示される如き扁平形態において押し出されるものではなく、図2に示されるように、横断面が円形形状において、所定のポートホールダイスから押出加工されるものであるところから、その押出加工が容易であることに加えて、管周壁部14の内周部や突条16にアルミニウム犠牲陽極材料を効果的に配分せしめ得て、目的とする犠牲陽極部18を、円形の管内面に容易に且つ有利に露出せしめることが出来るのである。
そして、かくの如き内面突条付き押出丸管20を用いて、扁平多流路管10を製造するに際しては、かかる押出丸管20に対して成形加工乃至は押圧変形加工を施すことによって、それを扁平化せしめて、突条16の先端部を管内面に当接せしめると共に、その扁平化された管内を突条16にて仕切って、その両側に流路12,12が形成されるようにすることにより、目的とする扁平多流路管10が形成されることとなるのである。なお、その一例の工程が、図4に示されているが、その図4において、内面突条付き押出丸管20に対して、複数のロールによる成形加工やプレス等による押圧変形加工の如き、公知の扁平化加工が施されて、図において白抜き矢印方向の押圧力が作用せしめられて、かかる内面突条付き押出丸管20が挟圧されることにより、その円形形状が漸次扁平化されて、目的とする扁平形状に最終的に到達せしめられるのである。そして、そのような内面突条付き押出丸管20の扁平化によって、当該押出丸管20の内面に一体的に形成された等しい高さの複数の突条16は、扁平多流路管10における上側平坦部14aに位置する上側突条16aと、下側平坦部14bに位置する下側突条16bとに別れて、それぞれ、対向する平坦部位の内面に当接せしめられるようにされるのであり、これによって、扁平化された管内が、それら突条16a,16bによって複数に仕切られて、それら上側突条16aと下側突条16bに囲まれた複数の流路12が、形成されることとなるのである。
なお、ここでは、内面突条付き押出丸管20の管内面には、複数の突条16が一体的に配設され、それら複数の突条16が、扁平な横断面形状における二つの対向する平坦部14a,14bからそれぞれ交互に突出し、対応する平坦部の内面に当接せしめられるような構造とされていることによって、かかる内面突条付き押出丸管20の押出加工が容易とされ、またその管内面における犠牲陽極部18が、安定的に形成され得るようになっているのであるが、勿論、そのような構造の他にも、複数の突条16が、一方の平坦部側にのみ配設されて、それら複数の突条16が、他方の平坦部の内面にそれぞれ当接せしめられるように構成することも可能である。またそれら上側突条16aと下側突条16bのそれぞれの配設個数は、適宜に選定され得るところである。更に、それら複数の突条16(16a,16b)によって、扁平化された管内が仕切られることによって形成される複数の流路12にあっても、ここでは、略同様な大きさの通路面積となるように構成されているが、異なる流路面積の複数の流路12が形成されるように、それら突条16の配設位置を変化させたり、突条16自体の厚さを変化させたりすることも可能である。
そして、かくの如くして、内面突条付き押出丸管20を扁平化して得られる、図1に示される如き扁平多流路管10にあっては、その管周壁部14の少なくとも外周部がアルミニウム管本体材料にて構成されている一方、流路12の周りに位置する突条16a,16bを含む当該流路12の内面には、アルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部18が存在せしめられることとなるのであるが、そのような犠牲陽極部18が管周壁部14に位置する場合には、扁平多流路管10及び内面突条付き押出丸管20の何れの形態にあっても、図1(b)や図2に示される如く、その厚さTaは、かかる管周壁部14の厚さTsの90%以下、望ましくは80%以下の割合において存在せしめられ、その下限としては、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上の割合となるように存在せしめられることとなる。なお、犠牲陽極部18が、管周壁部14の肉厚Tsの90%を超えるようになると、犠牲陽極部18の腐食消耗後に、管周壁部14の厚さが薄くなり過ぎて、耐圧強度が低下する等の問題が惹起されるようになるからである。
また、かかる犠牲陽極部18は、図1や図2に示されるように、管周壁部14の内周部と共に、突条16の全体に位置するように構成することが、望ましいものであるが、図5(a)や(b)に示される如く、突条16のみに、犠牲陽極部18が存在するように構成することも可能である。なお、図5(a)においては、突条16(16a,16b)のみが、その全体を犠牲陽極部18にて構成されてなる形態とされており、また図5(b)においては、突条(16a,16b)の先端部を含む所定長さ部位に、犠牲陽極部18が設けられてなる構造とされている。
そして、そのような犠牲陽極部18の各流路12内面における露呈領域としては、図1(b)に示される流路12の横断面における周長Lの少なくとも10%以上に相当する範囲において露呈するように構成されていることが望ましく、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上が、有利に採用されることとなる。このように犠牲陽極部18が、流路12の周長Lのより長い領域に亘って露呈せしめられていることにより、犠牲陽極効果による防食性が、より有利に発現され得ることとなるのであり、特に、最も好ましい形態は、図1に示される如く、犠牲陽極部18が流路12の周長Lの全長に亘って存在している場合である。なお、各流路12における犠牲陽極部18の露呈領域を全て同一とする必要はなく、流路12毎に、異なる露呈割合において、犠牲陽極部18を露呈させることも可能である。
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
例えば、本発明に従うアルミニウム押出管製扁平多流路管10の管内に形成される流路12の個数としては、そのような扁平多流路管10の用途に応じて適宜に選定され得るところであり、そして、そのような流路12の複数を形成するために必要な突条16の条数が決定されて、内面突条付き押出丸管20において、その必要数の突条16が一体的に形成されることとなる。
また、内面突条付き押出丸管20の扁平化加工によって、突条16が、その対向する管内面に当接せしめられることにより、そのような突条16の両側において、所定の流路12,12が、それぞれ、形成されることとなるのであるが、そのような突条16の管内面に対する当接状態としては、管内面に密接してなる状態において当接せしめられていることの他、突条16が、その両側の流路12,12の仕切壁として機能する限りにおいて、完全な密接状態ではなく、管内面と突条16の先端との間に或る程度の間隙が存在していても、何等差支えない。
その他、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、またそのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
なお、上述の如き、本発明に従うアルミニウム押出管製扁平多流路管10は、熱交換器における冷媒流路部材として、好適に用いられ得るものである。そして、そのような扁平多流路管10を冷媒流路管として用いられる場合においては、例えば、互いに間隔をおいて配置された一対のアルミニウム製ヘッダータンクと両ヘッダータンク間に、幅方向を通風方向に向けた状態でヘッダータンクの長手方向に間隔をおいて互いに平行に配列され、且つ両端部が両ヘッダータンクに接続された複数の扁平多流路管(10)と、隣り合う扁平多流路管同士の間及び両端の扁平多流路管の外側に配置されて、それら扁平多流路管にろう付けされたアウターフィンであるアルミニウム製コルゲート状フィンと、両端のコルゲート状フィンの外側に配置されて、かかるフィンにろう付けされたアルミニウム製サイドプレートとを備えてなる構造において、熱交換器が構成されることとなるが、勿論、そのような構造の熱交換器の他にも、公知の各種の熱交換器における冷媒通路管として、本発明に従うアルミニウム押出管製扁平多流路管10を用いることが出来ることは言うまでもないところである。
また、よく知られているように、熱交換器における一対のヘッダータンクは、一方のヘッダータンクから扁平多流路管に冷媒若しくは冷却液を分配して流入させると共に、他方のヘッダータンクは、扁平多流路管から流出した冷媒若しくは冷却液を集合させるものであって、例えば、公知の如く、ヘッダープレートとヘッダープレートとを対向してろう付けしたものや、板を環状に曲げ成形して、端部を溶接又はろう付けして構成されたものの他、環状に押し出された押出管等が、用いられることとなる。
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことも、また、理解されるべきである。
−実施例1−
先ず、管本体材料用として、Al−0.4Cuなる合金組成のアルミニウム材料を用いて、常法に従って、円柱状のDC鋳造ビレットを作製した。一方、犠牲陽極材料用として、Al−2Znなる合金組成のアルミニウム材料を用いて、同様に作製したDC鋳造ビレットを、所定寸法の円柱状に成形加工した。そして、図3(a)及び(b)に示される如く、管本体材料用ビレット(34)の断面中央部に、かかる加工済みの犠牲陽極材料用ビレット(32)を挿入し得る貫通孔を形成せしめて、その貫通孔内に、犠牲陽極材料用ビレット(32)を嵌入し、更にそれら管本体材料用ビレット(34)と犠牲陽極材料用ビレット(32)とを、それらの長手方向両端面においてMIG溶接により固定・接合せしめて、一体的な複合ビレット(30)を作製した。
次いで、かかる得られた複合ビレット(30)を、ビレットヒータにて500℃まで加熱した後、管内面から内方に所定高さ突出する突条(16)を形成するための突条形成口を有する押出口を備えた、従来と同様なポートホールダイスを用いて、熱間押出加工することにより、図2に示される如き、7条の突条(16)が管内面に形成されてなる内面突条付き押出丸管(20)を製造した。そして、その得られた内面突条付き押出丸管(20)を、複数のロールに通過させて、挟圧することによって、押圧変形加工することにより、管内面に形成された突条(16)が、その向かい合う管内面に接触することで、かかる突条(16)が仕切り壁となることにより、8個の流路が管内に独立して形成されてなる扁平多流路管(10)を製造した。なお、かかる扁平多流路管(10)は、その全体厚さが約2.0mm、扁平方向の幅が約16mm、管周壁部(14)及び突条(16)の肉厚が約0.25mmのサイズを有しており、犠牲陽極部(18)は、突条(16)の全体を構成すると共に、管周壁部(14)の厚さの約80%において、管周壁部(14)の内周部を構成しており、更に、犠牲陽極部(18)の各流路(12)における犠牲陽極部(18)の最小形成範囲は、周長Lの95%に達するものであった。
そして、上記で得られた扁平多流路管(10)を供試材として、OY水浸漬試験を実施し、その内面防食の効果を検証した。なお、このOY水浸漬試験は、純水1Lに、塩化ナトリウム:0.026g、硫酸ナトリウム(無水):0.089g、塩化第二銅(2水和物):0.003g、及び塩化第二鉄(6水和物):0.145gを溶かして得られた試験液に対して、上記の供試材を、その内面のみにおいて暴露されるように浸漬せしめ、80℃の温度で8時間保持した後、室温で16時間保持することを1サイクルとして、それを、10サイクル毎、順次繰り返すことにより、各10サイクル後における内面防食性を評価するものである。
そして、かかる防食性の評価試験の終了した供試材に対しては、表面のマスキングを剥離した後、ヒータで昇温したリン酸クロム酸液に投入して、供試材表面の腐食生成物を除去して、供試材表面における貫通孔の有無を調べた結果、供試材には、90サイクル後においても、貫通孔は、何等認められず、優れた防食性を有していることが認められた。
−実施例2−
実施例1において準備された複合ビレット(30)を用い、その押出方向前端面に、図3(c)に示される如き円板状の前板(36)を、下記表1に示される如き各種寸法において、溶接により固定した。次いで、かかるビレット−前板組付け体を、ビレットヒータにて500℃まで加熱した後、実施例1と同様なポートホールダイスを用いて、前板(36)側から、熱間押出加工することにより、8個の流路(12)を有する各種の扁平多流路管(10)AA〜AHを、それぞれ、製造した。そして、それら得られた各種の扁平多流路管AA〜AHについて、それらの横断面を調べ、その押出方向頭部から1m間隔で断面観察を行い、犠牲陽極部(18)が安定していない不良クラッド部の長さについて、それぞれ、光学顕微鏡を用いて観察し、その不良クラッド部の長さが、20m未満は「○」と評価する一方、20m以上の場合には「×」と評価し、その結果を、下記表1に示した。なお、扁平多流路管AGの製造に際しては、前板(36)の直径が複合ビレット(30)の直径に対して110%であったため、押出加工時に、押出コンテナに引っ掛かり、押出不可となった。
かかる表1の結果より明らかな如く、本発明に係る扁平多流路管AA乃至AFは、何れも、不良クラッド部の長さが20m以下となった。このことから、複合ビレット(30)の前頭部に、所定の前板材(36)を設置することで、不良クラッド部の長さを短くすることが出来ることが確認された。一方、直径が複合ビレット(30)の直径よりも大きな前板(36)を用いた扁平多流路管AGの製造においては、押出不可となり、また扁平多流路管AHの如く、厚さの厚い前板(36)を用いた場合にあっては、不良クラッド部の長さが30mとなり、その有用性に欠けるものであった。