JP6957937B2 - 乾熱加熱食品用風味増強剤 - Google Patents
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Description
例えばパン類の風味を増強するために、様々な方法が開発されている。例えば、酵母発酵及び乳酸菌発酵を行った発酵風味液をパン生地に添加して焼成する方法(特許文献1)、酵母エキスを添加する方法(特許文献2)、特定の方法で酵素分解した大豆タンパク質加水分解物をドウ生地に添加する方法(特許文献3)、ラクトン類を添加する方法(特許文献4)、リパーゼによる脂肪酸の分解と酵母発酵を行って製造した油脂乳化組成物をパン生地に配合する方法(特許文献5)などが提示されている。
本発明では、特許文献1〜5などの方法に代わり、パンなどの乾熱加熱食品に適した新たな風味増強剤を提供する。
(1)下記A及びBの要件を満たす豆類抽出物を固形分換算で5質量%以上含む、乾熱加熱食品用風味増強剤、 A)該豆類抽出物の原料が、予め加熱処理された豆類であること、 B)該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、1〜400質量%、
(2)要件A)において、該加熱処理された豆類のNSI(水溶性窒素指数)が、15〜77である、前記(1)記載の乾熱加熱食品用風味増強剤、
(3)要件B)において、該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、100質量%以上200質量%未満である、前記(1)又は(2)記載の乾熱加熱食品用風味増強剤。
(4)該豆類が、全脂大豆である、前記(1)〜(3)の何れか1項記載の乾熱加熱食品用風味増強剤、
(5)C)該豆類抽出物中の脂質含量が、固形分換算で15質量%以下である、前記(1)〜(4)の何れか1項記載の風味増強剤、
(6)前記(1)〜(5)の何れか1項記載の豆類抽出物を固形分として0.1〜5質量%含有させた食品原料を、乾熱加熱することを特徴とする、乾熱加熱食品の製造法、
(7)前記(1)〜(5)の何れか1項記載の豆類抽出物を固形分として0.1〜5質量%含有させた食品原料を、乾熱加熱することを特徴とする、乾熱加熱食品の風味増強方法。
本発明の風味増強剤は、特定の豆類抽出物を含む組成物であり、該豆類抽出物は、原料が予め加熱処理された豆類であること、及び、該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が1〜400質量%であること、を特徴とする。以下、本発明の風味増強剤の実施形態について具体的に説明する。
本発明の有効成分である豆類抽出物の原料としては、大豆、エンドウ豆、インゲン、緑豆等の豆類が挙げられる。工業性の観点では、大豆またはエンドウ豆が好ましい。大豆を原料とする場合には、全脂大豆、部分脱脂大豆、脱脂大豆のいずれを用いることもできる。全脂大豆の脂質含量は特に限定されないが、抽出処理がされていない全脂大豆では固形分中15質量%を超えるのが通常であり、多くは18質量%以上である。全脂大豆から得られる大豆抽出物は不快な大豆臭がより少ないため、乾熱加熱食品の加熱風味増強効果をより発揮しやすくなる。
前記豆類は生のままではなく、水性溶媒により抽出する前に予め加熱処理されていることが重要である。特に豆類を砕く場合においては砕く前に予め加熱処理を行っておくのがより好ましい。豆類の加熱処理の方法は特に限定されず、例えば乾熱処理、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、マイクロ波処理等を用いることができる。また水に浸漬した後、抽出前に加熱処理することもできるが、水に浸漬する前の段階で加熱処理されていることがより好ましい。
すなわち、試料2.0gに100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分間遠心分離し、上清1を得る。残った沈殿に再度100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分遠心分離し、上清2を得る。上清1および上清2を合わせ、さらに水を加えて250mlとする。No.5Aろ紙にてろ過したのち、ろ液の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素含量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素(水溶性窒素)の試料中の全窒素に対する割合を質量%として表したものをNSIとする。
本発明に用いられる豆類抽出物は、上記の加熱処理された豆類を水性溶媒で抽出して得られるものであって、下記の組成を有する豆類抽出物である(以下、この抽出物を「本抽出物」と称する場合がある)。本抽出物には、該水性溶媒からの抽出物からさらに特定の画分を分画、濃縮又は精製したものも含まれる。
一方、分離大豆蛋白や濃縮大豆蛋白などのような、蛋白質が固形分中約70質量%以上にまで濃縮された大豆蛋白質素材では、貯蔵蛋白質が主成分で炭水化物が少量しか含まれないため、P/C含量が過剰で本抽出物とは異なるものであり、本発明のような効果を奏さない。逆に該素材そのものの風味が風味増強剤の効果に影響する場合がある。
なお、本発明において、蛋白質含量はケルダール法により測定される。また炭水化物含量は、固形分から脂質、蛋白質及び灰分の含量の和を引いた計算値とする。以下、本抽出物のより具体的な例を示す。
本抽出物の一形態として、加熱処理された大豆や脱脂大豆を水中で磨砕抽出するか、予め粉砕してから水を加えて抽出し、繊維分と脂質を遠心分離等で除去して得られた低脂肪の抽出物は、大豆蛋白質がある程度抽出されるため、P/C含量が比較的高く、100質量%以上200質量%未満程度である。ただし、この範囲は通常の豆乳や未変性の脱脂大豆から抽出した脱脂豆乳と比べると十分に低いレベルである。かかる特定の範囲において当業者は任意に選択することができ、下限は120質量%以上、130質量%以上や140質量%以上の範囲、上限は190質量%以下、180質量%以下、170質量%以下、160質量%未満、155質量%以下、150質量%以下等の範囲を選択することができる。蛋白質含量の比率をなるべく低減したい場合には、例えば限外ろ過等により高分子の蛋白質を除去してその透過液を回収したり、蛋白質をpH調整により沈殿させたりしてその上清を回収する方法等を用いることができる。
本抽出物の他の一形態としては、予め加熱処理された豆類から公知の方法で蛋白質がなるべく抽出されない条件で抽出された抽出物、あるいは、該豆類から蛋白質と共に抽出した抽出液から蛋白質が除去された抽出物であり、具体的な呼称として浸漬液、煮汁やホエーなどと称されるものが該当しうるが、無論これらの呼称には限定されない。本形態における本抽出物のP/C含量は上記の中程度P/C含量の形態に比べて低くすることができ、1質量%以上100質量%未満程度とすることができる。かかる範囲において当業者は任意に選択することができ、下限は5質量%以上、10質量%以上や20質量%以上の範囲、上限は90質量%以下、80質量%以下や70質量%以下の範囲を選択することができる。
加熱処理後の豆類の浸漬液や煮汁は通常、豆類を砕かずに丸豆のまま水に浸漬し、必要により熱水で煮沸して得られる。大豆の場合は味噌,豆乳,豆腐,醤油,納豆などの大豆加工製品を製造する過程で副産物として生成するものを利用することができる。
ホエーは、豆類から調製した水抽出液(豆乳)に酸を加えて蛋白質の等電点付近であるpH4〜5に調整したり、豆乳にカルシウム塩やマグネシウム塩などの2価金属塩を加えたり、豆類に50〜80%のアルコール溶液を用いてアルコール抽出したり、あるいは豆類にpH4〜5の酸溶液を加えて酸洗浄したりすることにより、不溶化した蛋白質を分離して得られる水可溶性画分である(この場合必要により中和してもよい)。また該抽出物を限外ろ過膜等のろ過膜に通して蛋白質、好ましくは分画分子量50万以上ないし1万以上の蛋白質を除去した透過液なども該当する。
本抽出物のさらに別の一形態として、予め加熱処理された豆類から公知の方法で蛋白質と炭水化物を抽出して得たスラリー(懸濁液)から不溶性画分であるオカラを除去して得られる抽出物は、一般に豆乳と称され、P/C含量が比較的高く、200〜400質量%程度である。かかる範囲において当業者は任意に選択することができ、下限は205質量%以上、210質量%以上や220質量%以上の範囲、上限は350質量%以下、330質量%以下や300質量%以下の範囲を選択することができる。本発明においては炭水化物に起因する乾熱加熱食品の加熱風味増強効果を得るために、P/C含量がなるべく低いものを選択することができる。上記の通り、公知の方法で抽出して得たスラリー(大豆粉砕液)から不溶性画分であるオカラを除去して得られる豆乳では固形分中の脂質含量が上記範囲よりも高くなり、20質量%以上となる。
例えば、パンの場合、パン生地に本風味増強剤を加えたり、パン生地に練りこむマーガリン等の油脂組成物中に本風味増強剤を加えることにより、パン独特の焼成により生じる風味をより強く発現させることができる。
また例えば、グラノーラ等のシリアル食品の場合、シリアル食品に糖衣掛けする糖液中に本風味増強剤を添加しておき、糖衣掛けしたシリアル食品を加熱乾燥することにより、独特のカラメル様の加熱風味をより強く発現させることができる。
本風味増強剤は、本抽出物を固形分換算で5質量%以上含む組成物である。該含量は多いほど改良効果が高いため、15質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上又は100質量%であることもできる。
本発明において乾熱加熱食品とは、一の食品原料、又は、二以上の食品原料を混練し、組合せもしくは結着した物に、乾熱加熱を施し、該原料中の水分を蒸発させて得られる固形食品をいう。乾熱加熱としては、焼成、フライ、炒め、焙煎、マイクロ波加熱、パフ(膨化)等が挙げられる。乾熱加熱時の温度は一般に100℃を超える温度であり、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。
シリアル食品としては、コーンフレーク,玄米フレーク,グラノーラ,オートミール,ミューズリー,ブラン,パフ,ポン菓子,ポップコーン等が挙げられる。特にシリアル食品では糖液を付着させて加熱乾燥した、いわゆる糖衣掛けしたタイプのものが挙げられる。
本発明では、上記の乾熱加熱食品の中でも、特に香ばしく甘い加熱風味が付与されることが好ましい食品へ適用することができる。
パン類への適用例として、表2に示す配合に従い、スクラッチ製法(非凍結)でクロワッサンを作製した。すなわち、折り込み油脂を除く全ての表1に示す原材料を加えて、低速5分、ついで中速5分でミキシングを行い、26℃に捏ね上げた。室温で60分間フロアタイムをとった後に、29℃,湿度70%で一次発酵させた。−6℃で120分間リタードをとった後、折り込み油脂を生地に折り込んだ。3つ折りを2回、再度−6℃で60分間リタードをとり、さらに3つ折りを1回行い、最終生地厚3mmまで展延して底辺120mm、高さ180mmの三角形にカットした生地を、クロワッサン成形した。成形後、32℃,湿度80%条件下でホイロをとり、オーブン(上火220℃,下火200℃)で14分間焼成した。30分間室温下で冷まし、クロワッサンを得た。
実施例1、比較例1,2で得られたクロワッサンについて、クラムとクラストに分離して香気成分分析を行った。
フードプロセッサーで実施例1、比較例1で得られたクロワッサン40gを10秒間粉砕した。次に精製水160gを加えて5倍希釈し、1分間撹拌した。次に遠心分離機を用いて3,000rpmで10分間室温で遠心分離し、水層を回収した。さらに水層を上記と同じ条件で遠心分離し、その上清を味覚センサーに供試した。
味覚センサーには表6に示したうま味、塩味、酸味、苦味、渋味の5種類のセンサーを用いて、先味である酸味、苦味雑味、渋味刺激、旨味、塩味の計5つの味覚項目について測定を行った。
先味の膜電位変化量は、サンプル液中で測定した膜電位(Vs)から、基準液中で測定した膜電位(Vr)を減算して算出した。また、後味の膜電位変化量は、サンプル液に浸した味覚センサーをCPA液で洗浄した後に測定した膜電位(Vr’)から、基準液中で測定した膜電位(Vr)を減算して算出した。
実施例1、比較例1,2の各例で調製したクロワッサンを20名のパネラーに試食してもらい、加熱風味(香ばしく甘い)とジュージー感について、官能評価を実施した。
評価基準として、加熱風味については咀嚼した際のクロワッサンの焼成後の加熱風味の強度が強いものを最大で5、強度が弱いものを最小で1とし、5段階で評価した。ジューシー感については、クロワッサンを咀嚼した際に口中で感じるジューシー感が強いものを最大で5、弱いものを最小で1とし、5段階で評価した。官能評価の結果(20名の平均点)を表8に示した。
以上の通り、低脂肪豆乳を生地に練り込むと、パンに独特の焼成後の加熱風味が、低脂肪豆乳を添加しない場合よりも強く感じられた。このことは、香気成分分析でクロワッサン中のマルトールやフルフラールといった香気成分が、無添加区の比較例1、さらには全脂豆乳添加区の比較例2と比べて明らかに増えている点や、味覚センサーによる分析で旨味や塩味の数値が無添加よりも高い傾向となった点からも裏付けられた。
表9の上欄に記載の実施例2、比較例3〜5の各配合に従い、原材料のA部すべてを天板に入れ、均一になじませ、これを160℃のオーブンで10分間焼成した。次に、原材料のB部をA部と混合し、さらに160℃のオーブンで10分間焼成した。次に、全体をまんべんなく混ぜた後、再度160℃で10分間焼成した。その後、80℃のオーブンで乾燥焼きにした。十分に乾燥したのち、常温に放冷し、グラノーラを得た。
実施例2、比較例3〜5の各例で調製したグラノーラを30名のパネラーに試食しもらい、加熱風味(香ばしく甘い)について、官能評価を実施した。
加熱風味の評価方法として、咀嚼した際のグラノーラの加熱風味が最も良好と感じられる試験区を1つ、各パネラーに投票してもらい、各試験区の票数を数えた。票数に応じて、15票以上を◎、7票以上を○、3票以上を△、3票未満を×と評価した。官能評価の結果を表9の下欄に示した。
以上の通り、低脂肪豆乳をグラノーラに糖衣掛けする糖液に加えると、グラノーラに独特の焼成後の加熱風味(香ばしさや甘さ)が強く感じられ、グラノーラの原料に糖液が付着した状態で加熱されたときの、グラノーラ独特の加熱風味が増強された。一方で、低脂肪豆乳の代わりに全脂豆乳、牛乳や脱脂豆乳を糖液に加えた比較例3〜5のグラノーラでは、実施例2のような加熱風味増強効果は得られず、風味評価は低かった。特に比較例3,5では豆乳由来の渋味や雑味が付与されてしまった。
以上の結果から、本発明における加熱風味増強効果の発現は、原料である大豆の加熱処理の有無が関与していると思料される。
Claims (7)
- 下記A,B及びCの要件を満たす豆類抽出物を固形分換算で5質量%以上含む、焼成食品、フライ食品又はシリアル食品から選択される乾熱加熱食品用加熱風味増強剤。
A)該豆類抽出物の原料が、予め加熱処理された豆類であって該豆類のNSI(水溶性窒素指数)が、30〜60であること、
B)該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量が、100質量%以上200質量%未満。
C)該豆類抽出物中の脂質含量が、固形分換算で15質量%以下。 - 該豆類が、全脂大豆である、請求項1記載の乾熱加熱食品用加熱風味増強剤。
- 該乾熱加熱食品が、焼き菓子もしくはパン類から選択される焼成食品、フライ菓子もしくは揚げパン類から選択されるフライ食品、又はシリアル食品である、請求項1又は2記載の乾熱加熱食品用加熱風味増強剤。
- 請求項1記載のA,B及びCの要件を満たす豆類抽出物を固形分として0.1〜3質量%含有させた食品原料を、乾熱加熱することを特徴とする、焼成食品、フライ食品又はシリアル食品から選択される乾熱加熱食品の製造法。
- 該食品原料中に該豆類抽出物を固形分として0.1〜1質量%含有させる、請求項4記載の乾熱加熱食品の製造法。
- 請求項1記載のA,B及びCの要件を満たす豆類抽出物を、食品原料中に固形分として0.1〜3質量%含有させ、乾熱加熱することを特徴とする、焼成食品、フライ食品又はシリアル食品から選択される乾熱加熱食品の加熱風味増強方法。
- 該食品原料中に該豆類抽出物を固形分として0.1〜1質量%含有させる、請求項記載6の乾熱加熱食品の加熱風味増強方法。
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