JP6952225B2 - T細胞レセプターとその利用 - Google Patents

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本発明は、HLA−A*24:02に拘束された癌抗原を認識する2種類のT細胞レセプター(T cell receptor,以下、「TCR」と称する)、及びHLA−A*24:02に拘束された癌抗原の検出や癌治療等における当該TCRの利用に関する。
日本国内では、毎年約36万人が癌により死亡しており、約85万人が新規に癌と診断されている。癌治療は、手術・化学療法・放射線療法を中心とした標準治療が行われており、これらの治療後に改善が見られない場合は、癌に伴う様々な苦痛の除去を目的とした緩和医療に移る以外の選択肢はほぼ存在していない。このような日本の癌治療状況の中、患者本人あるいは患者の家族が更なる治療法を求めてさまよう姿は、「癌難民」と呼ばれて社会問題化している。
近年、この標準治療と緩和医療の隙間を埋める位置付けで、癌ワクチン療法の研究が盛んに行われている。癌ワクチン療法は、患者自身の免疫力を活性化して癌を消滅あるいは退縮させることを目的に行われる治療であり、米国食品医薬品局(FDA)が2010年4月に承認したProvenge(Sipuleucel−T)も癌ワクチン療法の1つである。転移性でホルモン療法抵抗性の前立腺癌患者に対して承認されたProvengeは、前立腺癌の殆どで過剰発現しているPAP(prostatic acid phosphatase)タンパク質を用いて患者末梢血を刺激後、患者体内に移入する治療法である。癌ワクチン療法の成否は患者本来の免疫力に依存するため、様々な標準療法を受けて患者の症状が悪化する前に実施することができれば、より効果的に奏功すると考えられている。将来的には治療選択肢のひとつとして、また化学療法や放射線療法と併用可能な治療法として承認されることが望まれている。
癌ワクチン療法は、抗原非特異的な治療法と抗原特異的な治療法の2つに大別される。抗原非特異的な免疫療法は、免疫賦活作用のあるビシバニルやクレスチン、結核死菌(BCG−CWS)等を用いて1970年代から始まった。1980年代にはIL−2等のサイトカインを用いた免疫療法や、非特異的に増幅させたT細胞を患者体内に戻すLAK(リンフォカイン活性化キラー細胞)療法が行われてきたが、いずれも明確な臨床的効果を上げることができず、保険診療として認められることはなかった。
1991年に患者から分離増幅させた細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T Lymphocyte、以下、「CTL」と称する)が、癌細胞で高発現しているMAGE(melanoma antigen)と呼ばれる癌抗原を特異的に認識し、癌細胞を殺傷することが報告された(非特許文献1)。また、1994年にはCTLが、癌細胞表面上のMHC(主要組織適合性抗原、Major Histocompatibility Complex、ヒトではHLAと呼ばれる)に提示されたペプチド断片を認識して殺傷するメカニズムが報告された(非特許文献2)。その後、世界中の研究者によってHLAに提示される様々なペプチド断片が同定された。1996年にはAltmanらによって、特異的なCTLを検出することが可能なMHCテトラマー試薬が開発され(非特許文献3)、それまではクロムリリースアッセイ法により間接的にしか検証できなかったCTLの検出を、TCRの立体構造より直接的に証明することが可能になった。1998年に報告されたメラノーマ(悪性黒色腫)を対象とする癌ペプチドワクチン療法は驚くべき臨床的成果を上げ、一気に癌免疫療法を開花させるに至った(非特許文献4)。その後、ペプチドを皮下あるいは皮内に接種する癌ペプチドワクチン療法は世界的な規模で進められている。
2004年に報告されたRosenbergらの報告では、癌ワクチン療法の奏功率は期待されたよりも低く、臨床試験の対象が末期癌患者であることを考慮すべきとの報告がなされた(非特許文献5)。これは、ペプチドワクチンを接種後、患者体内で癌細胞を攻撃するCTLが思惑通りに増幅されるかどうかは、患者自身の免疫力という要因に左右されるからである。したがって、化学療法や放射線療法で著しく免疫力が低下している状態では、当然奏効率も下がるであろうと考えられている。ペプチドワクチンを接種された患者では、その接種部位周辺に存在する抗原提示細胞と呼ばれる樹状細胞やマクロファージが、ペプチドを取り込んで細胞表面上のMHCに提示することでT細胞を活性化し、さらに所属リンパ節へ抗原提示細胞がリクルートされてT細胞を活性化するステップが必要である。抗癌剤や放射線療法で免疫力が著しく低下した患者では、抗原提示細胞の数の減少や正常な機能の損失等も想定され、抗腫瘍効果が限定される一因と考えられている。そこで、抗原提示能が高い樹状細胞を体外で分離・誘導培養し、予め抗原を提示させた状態で患者に接種する樹状細胞療法が行われている。しかしながら、この方法を用いても、ペプチドワクチン療法と同様に、免疫力が低下した患者では体内のT細胞の量が不十分あるいは十分活性化されないという現象により、効果が限定される場合もあると考えられている。
このようなペプチドワクチンや樹状細胞療法の欠点を補う目的で、体外で活性化させたT細胞を患者体内に戻すCTL移入療法が実施されている。この方法では血中に細胞を移入するため、専用の培養施設(CPC、Cell Processing Center)が必要になる。煩雑な細胞培養を繰り返すため、例えば自動培養装置等の開発も進んでいるが、体外で特異的なCTLを如何に効率よく短期間で増幅させるかという非常に難易度の高い培養技術が必要である。
T細胞はその細胞表面上に発現しているTCRを介して、抗原提示細胞や癌細胞、ウィルス感染細胞等の標的細胞表面上に提示されているMHC分子と抗原ペプチドの複合体(以下、「MHC/ペプチド複合体」と称する)を認識して結合することで作用する。CD8陽性T細胞は、MHC class I分子/抗原ペプチドの複合体のみに結合し(MHC class I拘束性)、CD4陽性T細胞はMHC class II分子/抗原ペプチドの複合体のみにしか結合できない(MHC class II拘束性)とされている。MHC class I分子はほとんどの有核細胞と血小板に発現しているが、MHC class II分子は限られた一部の細胞しか発現していない。このためCD4陽性T細胞はMHCクラスII分子を発現した樹状細胞やB細胞、活性化T細胞等とは結合できるが、これら以外の腫瘍細胞や感染細胞等には直接結合することができない。
癌抗原特異的CTL由来のTCR遺伝子は、末梢血リンパ球に導入することにより、特異的に癌を傷害できることが報告された(非特許文献6)。その後は特異的なCTLから単離されたTCR遺伝子を末梢リンパ球に人為的に発現させ、人工的なCTLを作製して患者体内に戻す、いわゆるTCR遺伝子治療が積極的に試みられている(非特許文献7)。CTLの強力な細胞傷害活性は抗腫瘍免疫において重要視されており、これを利用する方法のひとつとして、腫瘍抗原特異的なモノクローナル抗体の可変領域をCTLに発現させた、可変領域キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor,CAR)を用いた遺伝子改変T細胞(CAR−T細胞)療法等が報告されている。その効果は実際にはモノクローナル抗体の性能に依存する部分が大きいが、急性リンパ性白血病等に対しては一定の効果が得られており、今後の更なる改善や生体内における安全な維持等に関して議論が行われている(非特許文献8)。
近年のがん免疫療法に関する研究の進歩は特に目を見張るものがあり、その火付け役となったのは免疫チェックポイントを標的とした抗体医薬として知られる抗PD−1抗体(ニボルマブ)である。抗PD−1抗体は免疫抑制すなわちブレーキの役割をするPD−1を介したシグナル伝達を阻害することにより免疫抑制を解除し、癌に対する免疫応答をより効率的に誘導することが可能となる(非特許文献9、10)。この成果は2013年、アメリカの科学雑誌サイエンスにおけるBreakthrough of the yearのトップを飾り、大きな注目を集めた。これまでの概念を覆し、癌の治療には免疫を無視することができないと言われるほどのインパクトを与え、国内では悪性黒色腫に関して2014年7月に製造販売が承認された。現在は肺癌や腎癌等に対する臨床試験が行われている。米国では同じく免疫チェックポイント阻害効果が期待される抗CTLA−4抗体(イピリブマブ)との併用療法にて腫瘍退縮効果が認められており、抗癌剤や放射線療法は勿論、癌ワクチン療法を含む他の免疫療法と抗PD−1抗体との併用療法にも期待が集まっている。現在は9種類のPD−1/PD−L1関連抗体医薬について臨床試験が実施されており(非特許文献11、12)、国内外において30種類以上の癌に対して60種類以上のPD−1単剤あるいは他剤併用療法の臨床試験が開始されている。
1991年、Boonらにより悪性黒色腫抗原MAGEタンパク質由来のペプチド断片(CTLエピトープ)が同定されて以来、癌、感染症、自己免疫疾患や移植に関連するCTLエピトープが多数同定されている。同一のタンパク質由来のCTLエピトープであっても、HLA型によって提示されるペプチド断片の種類は異なり、一般にはCTLエピトープのHLA拘束性と呼ばれている。近年、著しい技術の発展を見せる次世代シークエンサーを用いた解析により、腫瘍細胞に実際に起こっている変異に関しての網羅的な解析が可能となった。その結果、CTLがこの腫瘍特異的変異抗原を非常に良く認識して傷害することが報告され、変異の入りやすい癌に対しては変異抗原をターゲットとして免疫応答を活性化させることが非常に有効に働くことが示唆された。究極のオーダーメイド医療として、患者個人に特有の変異抗原由来のCTLエピトープをコンピューターアルゴリズムで選択して接種する個別医療も考案され、事業化に向け既に稼働している(非特許文献13)。しかし、変異の少ない癌においてはこの方法は対応しないため、癌の特徴に応じたCTLエピトープを選択することが必要であると言える。
このような現状より、癌ワクチン療法を行う上で、対象患者に対してどの癌抗原由来のCTLエピトープを選択するかということは非常に重要なポイントである。CTLエピトープは、非常に多様性に富んだHLA型の中でも、人種間で広く保持されているHLA型の拘束を受けていることが望ましい。例えば、HLA−A*24:02は日本人の60〜70%が保有しており、HLA−A*02:01は欧米人の約50%が保有し、日本人でも約20%が保有するHLA型であるが、これは、他のHLA型頻度の多くが10%にも満たないことを考えると非常に高頻度であることから、これらのHLA型に拘束を受けるCTLエピトープの同定は非常に有意義である。
対象患者でどの癌抗原に対するワクチン療法を実施すべきであるかという点については、ワクチン療法を開始する前に診断されることが望ましい。例えば、HLA−A*24:02拘束性のsurvivin−2Bペプチドワクチン療法を行うには、まず対象患者のHLA型がHLA−A*24:02であることが必須条件となる。HLA型検査は、臓器移植や骨髄移植では必須の検査であり、様々な施設で実施されている。また、標的となる癌細胞表面上にHLA−A*24:02拘束性のsurvivin−2Bペプチドが提示されていることがCTLによる認識において必須であることから、HLA−A*24:02拘束性のsurvivin−2Bペプチドワクチン療法を行うには、このことが証明されることが最も望ましい。しかしながら、現時点では直接的に証明する検査方法は存在せず、間接的な検査が行われている。例えばsurvivin−2Bの場合は、生検試料を用いて定量的PCR法でsurvivin−2B mRNAの発現量を確認する方法や、抗survivin−2B抗体を用いて組織や細胞におけるsurvivin−2Bタンパク質の発現を確認する方法、抗HLA抗体を用いてHLAの発現を確認する方法が利用されている。直接的に証明するためのツールとして研究されているものには、MHCにペプチドが結合した状態を特異的に認識する抗体(以下、「抗pMHC抗体」と称する)や、TCRを利用したTCRテトラマーや、1本鎖化したTCRを利用したscTCR(single chain TCR)マルチマー等が存在する。
抗pMHC抗体に関しては、1989年にペプチドが提示されたMHC class IIを特異的に認識する抗体が報告され(非特許文献14)、1997年にマウスのMHC class I分子であるH−2KにOVA(ovalbumin)由来ペプチドが提示された状態を認識する抗体が報告され(非特許文献15)、多くの研究者が同様の抗体を取得する試みを開始した。
MHC/ペプチド複合体を構成する分子は、分子量約45kDaのMHCと、約12kDaのβ2m(β2−microglobulin)が非共有結合した状態に、例えばMHC class Iに提示されるペプチドであれば、8〜11個程度のアミノ酸が結合している。この提示されたペプチドの違いだけを特異的に認識する抗体をハイブリドーマ法で取得することは大変難しく、実際に、過去20年間に数種類の抗体しか報告されていない。
例えば、1996年に、免疫したマウス由来のライブラリーを使用したファージディスプレイ法によりMHC/ペプチド複合体に対する抗体を取得したという報告がある(非特許文献16)。続けて2000年には免疫されていないヒト由来のライブラリーからHLA−A1/MAGE−A1複合体特異的な抗体を取得したという報告がなされている(非特許文献17)。この様にして得られた抗体は、細胞表面上で人工的にペプチドを結合させた場合は反応性を示すことができる。しかしながら、細胞表面上に自然な状態で内在性のペプチドが提示されている場合に反応性を示すことができる抗体の開発は大変難しいことが知られている。CTLは標的細胞表面上の数個から10個程度のMHC/ペプチド複合体と結合することで十分活性化するが、それを検出するための系も同じく数個から10個程度の分子が結合した状態を検出しなければならず、現行の技術では、その感度が十分ではない可能性が指摘されている。
可溶性のTCRを利用するMHC/ペプチド複合体の検出系は古くから考えられていたが(非特許文献18)、TCRを構成するタンパク質α鎖、β鎖を、機能的な組み換えタンパク質複合体としてその立体構造を保持した状態で取得することの困難性、TCRとMHC/ペプチド複合体の結合力の弱さからその実用性は低いと思われた。しかしながらMHCテトラマー試薬合成技術と同様に、TCRを4量体化することで実用的に使用できることが2004年に報告されている(非特許文献19)。2006年には、α鎖とβ鎖のヘテロ2量体を形成しているTCRタンパク質を、Vα、Vβ、及びCβを連結させた一本鎖TCR(scTCR)に改変し、これを多量体化することで、MHC/ペプチド複合体を特異的に検出することが可能な試薬を製造することに成功している(非特許文献20)。
以上説明した通り、TCRは免疫療法において極めて有用であり、またそれを構成するα鎖及びβ鎖の配列を同定することは当該分野において極めて重要である。しかしながら、癌抗原として知られているsurvivin−2B及びPBFに関し、HLA−A*24:02に拘束された当該癌抗原を認識するTCRは、いまだ同定されていない。
Science 1991.254:1643−1647 Science 1994;264:716−719 Science 1996;274:94‐96 Nat Med,1998;4:321−327 Nat Med,2004;10:909−915 J.Immunol.2003;171:3287−3295 Science 2006;314:126−129 N Engl J Med 2011;365:725−733 J.Clin.Oncol.2010;28:3167−3175 N Engl J Med,2012;366:2443−54 Crit Rev Oncol Hematol,2014;89:140−165 Curr Opin Pharmacol.2015;23: 32−38 Nature 2015;520:692−696 Nature 1989;338:765−768 Immunity,1997;6:715−726 PNAS,1996;93:1820−1824 PNAS,2000;97:7969−7974 J Mol Biol,1994;242:655−669 Nat Biotechnol,2004;22:1429−1434 J.Immunol.2006;176:3223−3232
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを認識することができるTCR及び該TCRをコードするDNAを提供することを目的とする。また、本発明は、HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを認識することができるTCR及び該TCRをコードするDNAを提供することを目的とする。
癌抗原特異的CTLの存在頻度は非常に低い。したがって、目的のTCR遺伝子を有するCTLを得るには、CTLを増殖培養する等の工夫が必要である。また、TCRの遺伝子配列は極めて多様性に富んでいる。TCRは、T細胞表面に存在する膜表面タンパク質であり、α鎖/β鎖から成るヘテロ二量体と、γ鎖/δ鎖から成るヘテロ二量体の二種類が同定されている。TCR遺伝子は免疫グロブリン遺伝子と同様に、細胞膜表面へ表出する時に切断されるシグナル配列、可変領域(V:variable)、多様性領域(D:diversity)、結合領域(J:joining)と呼ばれる分子の多様性を生じるVドメインと、細胞外定常領域、膜貫通領域、細胞内領域を含む定常領域(C:constant)からなるCドメインにより構成されている。これらのアミノ酸配列はT細胞ごとに異なっていることから、TCRは抗原認識分子であると同時に個々のT細胞の目印にもなっている。このTCRの多様性は後天的なTCR遺伝子の再構成によって生みだされており、TCRβとδ鎖はV−D−Jを、TCRαとγ鎖はV−Jを再構成することが知られている。IMGTのデータベースに登録されている配列を連結させるだけでも、α鎖はVα(115種類)、Jα(61種類)、Cα(1種類)で7,015種類の組合せがあり、β鎖は、Vβ(146種類)、Dβ(3種類)、Jβ(16種類)、Cβ(4種類)で28,032種類の組合せになる。そして、α鎖とβ鎖の組合せは、2×10個の組合せとなる(但し、T細胞の多様性は、各領域の結合部位における塩基の挿入や欠失が多く存在するため、正確に算出することは難しく、1015の多様性とする報告もある)。したがって、目的とするTCR遺伝子の正しいα鎖とβ鎖の組合せを同定するためには、単一のTCRを有するCTLを増殖させる工夫が必要である。
そこで、本発明者らは、先ず、限界希釈条件下でsurvivin−2Bペプチド又はPBFペプチドに特異的なCTLを効率良く増殖し、培養する方法につき鋭意検討を行い、当該ペプチドが各々HLA−A*24:02に提示された状態を認識することができるCTLを取得することに成功した。また、取得した各癌抗原ペプチドに特異的なCTLの細胞傷害活性の検証を行ったところ、対応する癌抗原ペプチドがHLA−A*24:02に提示されているリンパ腫の亜細胞株に対して、各々特異的な細胞傷害活性を示した。
さらに、取得した各CTL細胞集団のTCRのレパトア解析を行ったところ、survivin−2B特異的CTLクローンのVβ鎖がサブグループVβ8に属し、またPBF特異的CTLクローンのVβ鎖はVβ1に属することが判明した。
また、本発明者らは、取得した各CTLから抽出した全RNAから逆転写酵素反応にてcDNA合成後、PCR法等によりTCRα鎖とβ鎖の全長配列を決定した。さらに、TCRα鎖とβ鎖を培養細胞に発現させ、各HLA−A*24:02テトラマー試薬を用いた分析を行うことにより、HLA−A*24:02に提示された対応する癌抗原ペプチドを特異的に認識する正しいα鎖とβ鎖の組み合わせを各々同定した。
また、正しいα鎖とβ鎖の組み合わせを発現させた形質転換細胞株は、各HLA−A*24:02テトラマー試薬によって効率的に検出することができる一方、該形質転換細胞株を用いることにより、各HLA−A*24:02テトラマー試薬や、対応する癌抗原ペプチドがHLA−A*24:02に提示されている細胞を効率的に検出することができた。
また、一般的に、癌抗原ペプチドが提示されたHLA分子とTCRとの結合において、CD8分子は非常に重要な分子であることが知られている。しかしながら、本発明においては取得したこれらTCRと、対応する癌抗原ペプチドが提示されたHLA−A*24:02分子との結合の際にはCD8の補佐を必要としないことも明らかになった。さらに、当該TCRを多量体化することで、癌抗原ペプチドが提示されたHLA−A*24:02分子を検出するツールの開発に有用であることを示した。実際に、取得したTCRを多量体化し、得られたTCRマルチマーが対応する癌抗原ペプチドが提示されたHLA−A*24:02分子を特異的に結合できることも確認した。
したがって、本発明は、survivin−2Bペプチドが拘束されているHLA−A*24:02を認識することができるTCR、PBFペプチドが拘束されているHLA−A*24:02を認識することができるTCR、及びこれらのTCRを各々コードするDNA、並びにそれらの利用に関するものであり、より詳しくは以下の発明を提供するものである。
<1> 下記(i) 〜(iii)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプター
(i) 配列番号:1〜3に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:6〜8に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる
(ii) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる
(iii) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:10に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる。
<2> HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを認識する、<1>に記載のT細胞レセプター。
<3> 下記(i)〜(iii)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質
(i) 配列番号:1〜3に記載のアミノ酸配列を有する
(ii) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有する
(iii) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有する。
<4> 下記(i)〜(iii)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質
(i) 配列番号:6〜8に記載のアミノ酸配列を有する
(ii) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有する
(iii) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列を有する。
<5> <3>及び<4>のうちのいずれか一に記載のタンパク質をコードするDNA。
<6> <5>に記載のDNAを発現可能に含有するベクター。
<7> <5>に記載のDNAが導入された形質転換細胞。
<8> <3>に記載のタンパク質をコードするDNA及び<4>に記載のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換細胞であって、HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを結合して多量体化した分子によって検出することができる形質転換細胞。
<9> リンパ球である、<7>又は<8>に記載の形質転換細胞。
<10> <9>に記載の形質転換細胞を有効成分とする、survivin−2B陽性の癌を治療するための医薬組成物。
<11> 以下の(a)〜(c)のいずれかに記載の分子に特異的に結合する抗体。
(a)<3>に記載のT細胞レセプターα鎖タンパク質
(b)<4>に記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質
(c)<1>又は<2>に記載のT細胞レセプター
<12> <1>又は<2>に記載のT細胞レセプターを結合して多量体化した分子。
<13> HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを検出又は捕捉するための薬剤であって、<12>に記載の分子を含む薬剤。
<14> HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを検出するためのキットであって、以下の(a)〜(h)の少なくとも1つの構成要素を含むキット。
(a)<3>に記載のT細胞レセプターα鎖タンパク質
(b)<4>に記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質
(c)<1>又は<2>に記載のT細胞レセプター
(d)<5>に記載のDNA
(e)<6>に記載のベクター
(f)<7>〜<9>のいずれかに記載の形質転換細胞
(g)<11>に記載の抗体
(h)<12>に記載の分子
<15> HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを結合して多量体化した分子の品質管理方法であって、該分子と<7>〜<9>のいずれかに記載の形質転換細胞との反応性を確認する工程を含む方法。
<16> 下記(i)〜(iii)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプター
(i) 配列番号:11〜13に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:16〜18に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる
(ii) 配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる
(iii) 配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる。
<17> HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを認識する、<16>に記載のT細胞レセプター。
<18> 下記(i)〜(iii)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質
(i) 配列番号:11〜13に記載のアミノ酸配列を有する
(ii) 配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有する
(iii) 配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有する。
<19> 下記(i)〜(iii)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質
(i) 配列番号:16〜18に記載のアミノ酸配列を有する
(ii) 配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有する
(iii) 配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有する。
<20> <18>及び<19>のうちのいずれか一に記載のタンパク質をコードするDNA。
<21> <20>に記載のDNAを発現可能に含有するベクター。
<22> <20>に記載のDNAが導入された形質転換細胞。
<23> <18>に記載のタンパク質をコードするDNA及び<19>に記載のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換細胞であって、HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを結合して多量体化した分子によって検出することができる形質転換細胞。
<24> リンパ球である、<22>又は<23>に記載の形質転換細胞。
<25> <24>に記載の形質転換細胞を有効成分とする、PBF陽性の癌を治療するための医薬組成物。
<26> 以下の(a)〜(c)のいずれかに記載の分子に特異的に結合する抗体。
(a)<18>に記載のT細胞レセプターα鎖タンパク質
(b)<19>に記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質
(c)<16>又は<17>に記載のT細胞レセプター
<27> <16>又は<17>に記載のT細胞レセプターを結合して多量体化した分子。
<28> HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを検出又は捕捉するための薬剤であって、<27>に記載の分子を含む薬剤。
<29> HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを検出するためのキットであって、以下の(a)〜(h)の少なくとも1つの構成要素を含むキット。
(a)<18>に記載のT細胞レセプターα鎖タンパク質
(b)<19>に記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質
(c)<16>又は<17>に記載のT細胞レセプター
(d)<20>に記載のDNA
(e)<21>に記載のベクター
(f)<22>〜<24>のいずれかに記載の形質転換細胞
(g)<26>に記載の抗体
(h)<27>に記載の分子
<30> HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを結合して多量体化した分子の品質管理方法であって、該分子と<22>〜<24>のいずれかに記載の形質転換細胞との反応性を確認する工程を含む方法。
本発明のTCRやその形質転換細胞は、HLA−A*24:02テトラマー試薬の使用条件の設定や品質管理に有用であり、また、生体試料中にsurvivin−2Bペプチド又はPBFペプチドがHLA−A*24:02に提示されている細胞が存在するか否かを確認するためのコンパニオン診断薬として有用である。さらに、survivin−2B又はPBFに関連する癌の治療薬としても有用である。
survivin−2BのCTL集団のMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す、ドット−プロット展開図である。 PBFのCTL集団のMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す、ドット−プロット展開図である。 survivin−2BのCTLクローンITG−MT3のMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す、ドット−プロット展開図である。 PBFのCTLクローンFKS−D11PのMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す、ドット−プロット展開図である。 エフェクター細胞にITG−MT3を使用した場合の、ターゲット細胞に対する細胞傷害活性を示すグラフである。 エフェクター細胞にFKS−D11Pを使用した場合の、ターゲット細胞に対する細胞傷害活性を示すグラフである。 HLA−A*24:02 survivin−2Bペプチド特異的なCTLクローンITG−MT3を染色分析した結果を示す、ドット−プロット展開図である。 HLA−A*24:02 PBFペプチド特異的なCTLクローンFKS−D11Pを染色分析した結果を示す、ドット−プロット展開図である。 HLA−A*24:02 survivin−2Bペプチド特異的なCTLクローンITG−MT3のTCRα鎖遺伝子及びTCRβ鎖遺伝子のPCR増幅産物を、各々アガロースゲル電気泳動で展開した結果を示す写真である。 HLA−A*24:02 PBFペプチド特異的なCTLクローンFKS−D11PのTCRα鎖遺伝子及びTCRβ鎖遺伝子のPCR増幅産物を、各々アガロースゲル電気泳動で展開した結果を示す写真である。 ITG−MT3由来の2種類のTCRα鎖(A4とA13−2)と1種類のβ鎖(B12−4)との正しい組み合わせについて解析した結果、及びFKS−D11P由来のTCRα鎖(A1−2)とTCRβ鎖(B9)の組合せが正しい事を示す、ドット−プロット展開図である。 HLA−A*24:02 survivin−2Bペプチド特異的なCTLクローンITG−MT3のTCRα鎖及びβ鎖の構成を示す概略図である。 HLA−A*24:02 PBFペプチド特異的なCTLクローンFKS−D11PのTCRα鎖及びβ鎖の構成を示す概略図である。 TCR遺伝子発現形質転換細胞株SMT3SのMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す、ドット−プロット展開図である。 TCR遺伝子発現形質転換細胞株PD11SのMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す、ドット−プロット展開図である。 TCR遺伝子発現形質転換細胞株SMT3Sを用いたMHCテトラマー試薬の評価(添加回収試験)結果を示す、ドット−プロット展開図である。 TCR遺伝子発現形質転換細胞株PD11Sを用いたMHCテトラマー試薬の評価(添加回収試験)結果を示す、ドット−プロット展開図である。 SMT3Sを用いたMHCテトラマー試薬の評価(濃度依存的染色性の検証と保存安定性の確認)結果を示す図である。 PD11Sを用いたMHCテトラマー試薬の評価(濃度依存的染色性の検証と保存安定性の確認)結果を示す図である。 TCR遺伝子(survivin−2B TCR A4/B12−4)を導入したJ.RT3−T3.5細胞株のMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す、ドット−プロット展開図である。 TCR遺伝子(PBF TCR A1−2/B9)を導入したJ.RT3−T3.5細胞株のMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す、ドット−プロット展開図である。 CD8抗体クローン(T8又はRFT−8)存在下における、SMT3S及びPD11Sの、各々に対応するMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す、ドット−プロット展開図である。 図11Cに示した結果において、クローンT8使用時のテトラマー陽性率を100%とした時の、クローンRFT−8使用時のMHCテトラマー陽性率の割合を示した、グラフである。 SMT3JのMHCテトラマー試薬に対する反応性を検証した結果を示す、ドット−プロット展開図である。 PD11JのMHCテトラマー試薬に対する反応性を検証した結果を示す、ドット−プロット展開図である。 SMT3JにおけるTCRシグナル伝達を、ルシフェラーゼの活性を指標として解析した結果を示すグラフである。 PD11JにおけるTCRシグナル伝達を、ルシフェラーゼの活性を指標として解析した結果を示すグラフである。 HLA−A*24:02 survivin−2Bペプチド特異的なCTLクローンITG−MT3のTCRα鎖のアミノ酸配列(配列番号:22に記載のアミノ酸配列)を示す図である。 HLA−A*24:02 PBFペプチド特異的なCTLクローンFKS−D11PのTCRα鎖のアミノ酸配列(配列番号:26に記載のアミノ酸配列)を示す図である。 HLA−A*24:02 survivin−2Bペプチド特異的なCTLクローンITG−MT3のTCRβ鎖のアミノ酸配列(配列番号:24に記載のアミノ酸配列)を示す図である。 HLA−A*24:02 PBFペプチド特異的なCTLクローンFKS−D11PのTCRβ鎖のアミノ酸配列(配列番号:28に記載のアミノ酸配列)を示す図である。 TCRマルチマーを作製するためのコンストラクトを示す概略図である。 TCRマルチマーのHLA−A*24:02拘束性survivin−2Bペプチドをパルスした細胞への反応性を示す、ヒストグラム図である。 TCRマルチマーのHLA−A*24:02拘束性survivin−2Bペプチドをパルスした細胞への反応性を示す、グラフである。 TCRマルチマーのHLA−A*24:02拘束性survivin−2Bペプチドをパルスした細胞への濃度依存的な反応性を示す、ヒストグラム図である。 TCRマルチマーのHLA−A*24:02拘束性survivin−2Bペプチドをパルスした細胞への濃度依存的な反応性を示す、グラフである。 TCRマルチマーのHLA−A*24:02拘束性PBFペプチドをパルスした細胞に対するパルスしたペプチド濃度依存的な反応性を示す、ヒストグラム図である。 TCRマルチマーのHLA−A*24:02拘束性PBFペプチドをパルスした細胞へのTCRマルチマー濃度依存的な反応性を示す、ヒストグラム図である。 抗HLA―A24抗体を用いてブロッキングアッセイを行った結果、TCRマルチマーのHLA−A*24:02拘束性survivin−2B及びPBFペプチドをパルスした細胞への反応性が阻害されることを示す、ヒストグラム図である。 TCRマルチマーのHLA−A*24:02拘束性PBFペプチドをパルスした細胞への反応性を示す、顕微鏡写真である。 TCRマルチマーの、PBFをナチュラルに発現したHLA−A*24:02陽性骨肉腫由来細胞株KIKUへの反応性を示す、顕微鏡写真である。
<TCR、TCRα鎖、TCRβ鎖>
本発明は、T細胞レセプター(TCR)、並びにそれを構成するT細胞レセプターα鎖タンパク質(TCRα鎖)及びT細胞レセプターβ鎖タンパク質(TCRβ鎖)を提供する。
本発明のTCRの一態様として、より具体的には、
(i) 配列番号:1〜3に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:6〜8に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる
(ii) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる、又は
(iii) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:10に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなるT細胞レセプターであり、当該TCRの典型的な特徴は、HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドに対する認識である。
また、本発明のTCRの一態様として、より具体的には、
(i) 配列番号:11〜13に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:16〜18に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる
(ii) 配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる、又は
(iii) 配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなるT細胞レセプターであり、当該TCRの典型的な特徴は、HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドに対する認識である。
また、一般的に、癌抗原ペプチドが提示されたHLA分子とTCRとの結合において、CD8分子は非常に重要な分子であることが知られている。しかしながら、上記本発明のTCRに関しては、後述の実施例10に示す通り、CD8の非存在下においても、HLA−A*24:02に拘束された対応する抗原ペプチドを認識し得るという優れた特徴を有する。
本発明における「HLA−A*24:02」は、ヒト組織適合性白血球抗原(HLA)のクラスI分子のA座にコードされており、血清学的HLA型ではA24に分類され、アミノ酸変異を伴うサブタイプに分類され、日本人では保有頻度が最も高い型である(HLA−A*24:02のアミノ酸配列を配列番号:32に示す)。
「survivin−2B(サバイビン−2B)」は、アポトーシスを抑制するIAPファミリーに属するタンパク質であって、ヒト由来のものであれば典型的には、GenBankアクセッション番号:BAA93676.1にて特定されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。また、「PBF」は、骨肉腫特異抗原 パピローマウィルス結合因子(Papillomavirus Binding Factor)、ZNF395と称されるタンパク質であって、ヒト由来のものであれば典型的には、GenBankアクセッション番号:AAH01237.1にて特定されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。なお、survivin−2B及びPBFのいずれにおいても、このような典型的なアミノ酸配列を有するもの以外に、天然においてアミノ酸が変異したものも存在しうることも理解されたい。
また、本発明における「HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチド」及び「HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチド」とは、これらペプチドが細胞表面上に存在する場合、及び単離若しくは精製された分子として存在する場合(例えば、多量体化されたTCRにこれらペプチドが拘束された分子)の双方を含む意である。
本発明において「survivin−2Bペプチド」とは、「AYACNTSTL」(配列番号:29)を意味し、「PBFペプチド」とは、「AYRPVSRNI」(配列番号:30)を意味する。なお、これらのペプチド断片によって誘導されたCTLが、癌細胞に対して高い細胞傷害活性を有することは明らかになっている(特開2002−284797号公報、国際公開第2004/029248号)。
本発明は、また、上記TCRを構成するTCRα鎖タンパク質及びTCRβ鎖タンパク質を提供する。本発明者らにより同定されたTCRを構成するTCRα鎖タンパク質は、可変領域上の相補性決定領域として、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。また、本発明者らにより同定された他のTCRを構成するTCRα鎖タンパク質は、可変領域上の相補性決定領域として、配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号:13に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。したがって、本発明は、配列番号:1〜3又は11〜13に記載のアミノ酸配列を有するTCRα鎖タンパク質を提供する。
なお、本発明におけるCDRは、文献(Nucleic Acids Res.2008 July 1;36(Web Server issue):W503−W508)に記載の方法及びIMGT提供のソフトウェアによる解析で特定することができる。
これら相補性決定領域を含む可変領域は、当該相補性決定領域以外の領域におけるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸(例えば、数個以内のアミノ酸、3個以内のアミノ酸、2個以内のアミノ酸)が置換、欠失、付加等していてもよいが、好ましくは配列番号:4又は14に記載のアミノ酸配列からなる可変領域である。また、本発明のTCRα鎖タンパク質は、好ましくは配列番号:5又は15に記載のアミノ酸配列を有する。なお、配列番号:5及び15に記載のアミノ酸配列は、前記可変領域に定常領域が付加された態様であり、より具体的には、図14A及び14Bに記載の各々のTCRα鎖タンパク質からリーダー配列及びTM(膜貫通領域)を除いたアミノ酸配列である。
一方、本発明者らにより同定されたTCRを構成するTCRβ鎖タンパク質は、可変領域上の相補性決定領域として、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。また、本発明者らにより同定された他のTCRを構成するTCRβ鎖タンパク質は、可変領域上の相補性決定領域として、配列番号:16に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:17に記載のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号:18に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。したがって、本発明は、配列番号:6〜8又は16〜18に記載のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖タンパク質を提供する。
これら相補性決定領域を含む可変領域は、当該相補性決定領域以外の領域におけるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸(例えば、数個以内のアミノ酸、3個以内のアミノ酸、2個以内のアミノ酸)が置換、欠失、付加等していてもよいが、好ましくは配列番号:9又は19に記載のアミノ酸配列からなる可変領域である。また、本発明のTCRα鎖タンパク質は、好ましくは配列番号:10又は20に記載のアミノ酸配列を有する。なお、配列番号:10及び20に記載のアミノ酸配列は、前記可変領域に定常領域が付加された態様であり、より具体的には、図15A及び15Bに記載の各々のTCRα鎖タンパク質からリーダー配列及びTMを除いたアミノ酸配列である。
<遺伝子、ベクター、形質転換細胞>
本発明は、また、上記TCRα鎖タンパク質をコードするDNA、及び上記TCRβ鎖タンパク質をコードするDNAを提供する。これらDNAを発現ベクターに組み込んで細胞に導入することにより、上記TCRα鎖タンパク質、上記TCRβ鎖タンパク質、またはこれらタンパク質からなるTCR複合体を、細胞において発現させることができる。これらタンパク質を細胞に発現させるためのベクターとしては、本実施例に示したベクターを用いることができるが、それに制限されない。例えば、2種類の遺伝子をIRESを介して単一mRNAから翻訳可能なベクターpIRES(TaKaRa Bio社)やMammalian PowerExpress System(東洋紡)のベクター等を利用することもできる。ベクターは、上記TCRα鎖タンパク質をコードするDNAと上記TCRβ鎖タンパク質をコードするDNAのいずれかを発現可能に含有するベクターであってもよく、両者を発現可能に含有するベクターであってもよい。上記ベクターを導入する細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の細胞を用いることができる。細胞への遺伝子導入は、エレクトロポレーション法等当業者に公知の方法で行うことができる。
こうして調製された形質転換細胞は、例えば、ペプチドワクチン療法を行う際のコンパニオン診断薬として利用することが可能である。ペプチドワクチン療法を行う場合には、どのペプチドをワクチンとして使用すべきかは重要な診断情報となるが、当該形質転換細胞を用いれば、対象細胞の膜表面中にHLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチド又はPBFペプチド(以下、「癌抗原ペプチド」とも総称する)が提示されているか否かを評価することができる。
このような目的においては、形質転換細胞の調製に用いる細胞として、TCRシグナル伝達の活性化に応じてレポータータンパク質が発現するように改変された細胞(例えば、Jurkat細胞亜株であるJurkat/MA細胞)を用いることができる(Int J Cancer,2002;99(1):7−13)。また、同目的においては、Jurkat、HPB−ALLやHPB−MLT等、刺激に応答してサイトカインを産生する細胞も、前記形質転換細胞の調製に用いる細胞として用いることができる。これにより形質転換細胞におけるサイトカインの産生を指標として、対象細胞の膜表面におけるHLA−A*24:02に拘束された癌抗原ペプチドの存在を検出することが可能である(J.Immunology,1984;133:1123−1128 参照のこと)。
また、患者から分離した樹状細胞にペプチドを結合させ患者に接種する樹状細胞ワクチン療法が行われているが、実際に樹状細胞上の特定のHLAにペプチドが提示されていることを確認する試薬としても利用することが可能である。
本発明の形質転換細胞の他の好ましい態様は、HLA−A*24:02に拘束された癌抗原ペプチドを結合して多量体化した分子によって検出することができる形質転換細胞である。
本発明のHLA−A*24:02に拘束された癌抗原ペプチドを結合して多量体化した分子、すなわち「HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを結合して多量体化した分子」あるいは「HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを結合して多量体化した分子」は、Science,1996;274:94‐96、米国特許5,635,363号、日本特許第3506384号に記された方法により調製することができる。具体的には、HLA−A*24:02とβ2mの組換えタンパク質と化学合成したsurvivin−2Bペプチド又はPBFペプチドをフォールディング溶液中で撹拌することで会合させ、HLA−A*24:02とβ2mとペプチドの複合体(以下「モノマー」と称する)を形成させる。つづいて、モノマーを構成するHLA−A*24:02のC末端側の1箇所のアミノ酸に酵素反応によりビオチンを結合させる。ビオチン化されたモノマーをカラムクロマトグラフィー法で精製し、これをアビジンと反応させることで多量体化した分子を合成できる。アビジンを予めFITC(fluorescein isothiocyanate)、PE(Phycoerythrin)あるいはAPC(allophycocyanin)等の蛍光物質で標識することで、フローサイトメーターや蛍光顕微鏡を用いて、抗原特異的T細胞の検出が可能である。
また、本発明において、多量体化した分子を形成するモノマーの数としては特に制限はないが、通常2〜10であり、好ましくは4〜8であり、より好ましくは4又は5であり、特に好ましくは4である。
「HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを結合して多量体化した分子」の製品としては、例えば、T−Select MHC Tetramer HLA−A*24:02 survivin−2B Tetramer−AYACNTSTL(MBL社製、PE標識物の製品コード:TS−M025−1、APC標識物の製品コード:TS−M025−2)が挙げられ、「HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを結合して多量体化した分子」の製品としては、例えば、T−Select MHC Tetramer HLA−A*24:02 PBF A24.2 Tetramer−AYRPVSRNI(MBL社製、PE標識物の製品コード:TS−M136−1、APC標識物の製品コード:TS−M136−2)が挙げられる。
このような形質転換細胞の調製に用いる細胞としては、例えば、ヒト白血病由来であるJurkatの変異株で、TCRβ鎖を欠損しているJ.RT3−T3.5や、TCRα鎖を欠損しているSup−T1が挙げられる。これらの細胞を用いて調製した形質転換細胞株SMT3S及びPD11S(実施例7参照のこと)は、無限の増殖性を持つ細胞株であり、感染性の心配もない。また、煩雑で特殊な培養方法により、増殖させる必要もないことから、HLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬及びHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬の陽性コントロール細胞として各々頒布することも可能である。SMT3S又はPD11Sを陽性コントロール細胞として利用することで、実験者が前記テトラマー試薬の反応性を随時確認できるため、臨床検体で得られたデータの正確性と信頼性は非常に高くなると思われる。また、当該細胞株はフローサイトメトリーの取り込み条件の設定にも有効である。SMT3S,PD11Sを頒布する場合には、通常の液体窒素やドライアイスを利用した保存や輸送も可能であるし、フローサイトメトリー用のヒト全血コントロール細胞であるImmuno−TROL(登録商標) Cells(Beckman Coulter社)のように適切な溶液中に希釈することで冷蔵条件下での保存や輸送も可能になる。さらに凍結乾燥することで利便性を高めることも可能である(米国特許第第5,861,311号)。
本発明の形質転換細胞の他の好ましい態様は、リンパ球を利用して調製した形質転換細胞である。例えば、ヒトから末梢血リンパ球を採取し、これに遺伝子導入して、生体内に戻すことにより、癌の治療を行うことが可能である。したがって、本発明は、本発明の形質転換細胞を有効成分とする、survivin−2B陽性の癌又はPBF陽性の癌を治療するための医薬組成物をも提供する。
治療の対象となるsurvivin−2B陽性の癌としては、例えば、肺癌、胃癌、大腸癌、膀胱癌、膵癌、前立腺癌、乳癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、頭頚部癌、脳腫瘍等の上皮癌、悪性リンパ腫、骨肉腫、滑膜肉腫等の非上皮癌が挙げられるが、これらに制限されない。また、PBF陽性の癌としては、主に骨原発肉腫、軟部肉腫が挙げられるが、肺癌、胃癌、乳癌、肝臓癌等でもPBFの高発現が認められており、PBFはこの様な上皮系の癌においても有望な免疫療法の標的になり得る。
なお、調製した細胞の細胞傷害活性は、例えば、CFSE(同仁化学社)で標的細胞を標識するIMMUNOCYTO Cytotoxicity Detection Kit(MBL社)や、標的細胞から放出されるLDH(乳酸脱水素酵素)を測定するCytotoxicity Detection Kit(Roche社)等を利用して測定することも可能である。また、放射性同位元素である51Crで標的細胞を標識して利用するクロムリリースアッセイにより測定することが可能である。
<抗体>
また、本発明は、上記TCRα鎖タンパク質に特異的に結合する抗体、上記TCRβ鎖タンパク質に特異的に結合する抗体、及びこれらタンパク質からなるTCRに特異的に結合する抗体を提供する。
これらの抗体を用いることで細胞表面上に発現された本発明のTCRを特異的に検出することが可能である。本発明の抗体は、例えば、上記本発明の形質転換細胞や医薬品組成物の検定に使用することができる。また、本発明の形質転換細胞や医薬品組成物を製造する過程で、これらの純度を上げるための単離において使用することもできる。また医薬品組成物として投与された後、投与された患者の末梢血中における有効成分の定量に使用することもできる。
本発明の抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体を生産する方法としては、代表的には、コーラー及びミルスタインの方法(Kohler&Milstein,Nature,256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原であるTCRα鎖タンパク質又はTCRβ鎖タンパク質で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球等である。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞又はリンパ球等に対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、抗原に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。抗原に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
上記抗体をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等)に導入することにより、抗体を組換え抗体として産生させることもできる(例えば、Antibody Production:Essential Techniques,1997 WILEY、Monoclonal Antibodies,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Eur.J.Biochem.192:767−775(1990))。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジ又はブタ等)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
本発明の抗体は、TCRの検出のために、標識されていてもよい。標識としては、例えば、放射性物質、蛍光色素、化学発光物質、酵素、補酵素等を用いることが可能である。また、TCRの単離のために、タグが付加されていてもよい。タグとしては、例えば、磁性ビーズ、ビオチン、アビジン等を用いることが可能である。
<TCRマルチマー>
本発明は、また、上記TCRを結合して多量体化した分子を提供する。当該分子の調製は、例えば、次の通り、行うことができる。TCRの細胞外領域をコードするDNAを発現ベクターに組み込み、人工的にTCRα鎖及びβ鎖の組み換えタンパク質を作製し、TCRα鎖あるいはβ鎖のC末端を酵素反応を利用してビオチン化する。ビオチン化されたTCRをカラムクロマトグラフィー法で精製し、これをアビジンと反応させることで多量体化した分子を調製できる。さらに、後述の実施例12に示す通り、TCRα鎖及びβ鎖のヘテロ二量体化を促進するため、これらタンパク質に多量体形成能を有するモチーフ(ロイシンジッパー領域等)を融合させてもよい。また、アビジンを予めFITC、PEあるいはAPC等の蛍光物質で標識することでフローサイトメーターや蛍光顕微鏡を用いて、特異的なMHC/ペプチド複合体を発現する細胞の検出が可能である。
また、別の調製方法としては、TCRα鎖及びβ鎖の細胞外領域を短鎖ペプチドリンカーを利用して連結させ一本のタンパク質(scTCR)として発現させることができる。そして、前記同様にC末端側をビオチン化することにより多量体化することも可能であり、また、IgGの可変領域に組み込んで多量体化することも可能である。
また、本発明において、多量体化した分子を形成するTCRの数としては特に制限はないが、通常2〜10であり、好ましくは4〜8であり、より好ましくは4又は5であり、特に好ましくは4である。
こうして調製された分子は、上記本発明の形質転換細胞と同様に、ペプチドワクチン療法を行う際のコンパニオン診断薬として、あるいは樹状細胞ワクチン療法を行う際に、樹状細胞上の特定のHLAにペプチドが提示されていることを確認するための試薬として利用することが可能である。さらには、癌治療目的で放射性同位元素や抗癌剤と結合し、薬物送達システム(DDS)のツールとして利用することも可能である。したがって、本発明は、HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチド又はHLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを検出又は捕捉するための薬剤であって、上記本発明の分子を含む薬剤をも提供する。
<検出キット>
本発明は、また、HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチド又はHLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを検出するためのキットであって、以下の(a)〜(h)の少なくとも1つの構成要素を含むキットを提供する。
(a)本発明のTCRα鎖タンパク質
(b)本発明のTCRβ鎖タンパク質
(c)本発明のTCR複合体
(d)(a)又は(b)のタンパク質をコードするDNA
(e)(d)のDNAを発現可能に保持するベクター
(f)(d)のDNAが導入された形質転換細胞
(g)(a)若しくは(b)のタンパク質又は(c)の複合体に特異的に結合する抗体
(h)(c)の複合体を結合して多量体化した分子
ここで「HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチド」及び「HLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチド」とは、上記の通り、これらペプチドが細胞表面上に存在する場合、及び単離若しくは精製された分子(例えば、多量体化されたTCRにこれらペプチドが拘束された分子)として存在する場合の双方を含む意である。本発明のキットにおいては、さらに、当該キットの使用説明書が含まれていてもよい。
<MHCテトラマー試薬の品質管理>
本発明は、また、HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを結合して多量体化した分子又はHLA−A*24:02に拘束されたPBFペプチドを結合して多量体化した分子の品質管理方法であって、当該分子と上記本発明の形質転換細胞との反応性を確認する工程を含む方法を提供する。本発明の品質管理方法における反応性の確認は、例えば、本実施例8〜11に記載の方法で実施することができる。その結果、反応性が維持されている場合には、当該分子の品質が維持されていると評価することができ、一方、反応性が低下した場合には、当該分子の品質が劣化したと評価することができる。なお、反応性の維持は、例えば、陽性率の維持及び/又はS/N比(signal noise ratio)の維持を指標に判定することができる。S/N比は陽性細胞集団のMFI(平均蛍光強度、mean fluorescence intensity)を陰性細胞集団のMFIで割った値から算出される。また、いずれかの指標の低下で、その品質の欠陥点を推認し、改善策を立てることができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1) HLA−A*24:02 survivin−2Bペプチド特異的CTL line及びHLA−A*24:02 PBFペプチド特異的CTL lineの誘導と増幅培養
本発明者らは、先ず、2003年に報告されたKaraniksらの論文(J.Immunol.2003;171:4898−4904)を参考に検証と改良を繰り返し、限界希釈条件下で効率よく癌抗原特異的CTLを増殖培養するMLPC法(mixed lymphocyte−peptide cultures)を確立した。MLPC法はPBMCに抗原ペプチドを直接添加して培養する方法であり、血液提供者の体内に存在するメモリーT細胞、あるいはメモリー/エフェクターT細胞を刺激して増殖させていると考えられる。したがって試験管内で調製した抗原提示細胞を利用した場合に心配されるような、ナイーブT細胞を人為的なプライミングにより刺激増殖してしまうリスクは低いと考えられる。本発明者らは、HLA−A*24:02 survivin−2Bペプチド特異的CTL line及びHLA−A*24:02 PBFペプチド特異的CTL lineの誘導を、次の通り、本発明者らが実際に患者検体を用いて免疫モニタリングを実施する際に使用している方法にて行った。
HLA−A*24:02を保持することが予め分かっているインフォームドコンセント実施済の癌患者PBMCを1〜5×10個/mLの密度になるようにCTL培地(10% human AB serum/100U/mL Penicillin/100μg/mL Streptomycin/1×GlutaMAX/55μM 2−Mercaptoethanol/25mM HEPES/AIM−V)で調整し、最終濃度が40μg/mLになるようにHLA−A*24:02 survivin−2B peptide(AYACNTSTL,MBL社)又はHLA−A*24:02 PBF A24.2 peptide(AYRPVSRNI,MBL社)を添加し、よく攪拌後、24−ウェルプレートの1個のウェル当たり1mLずつ分注した。その後、37℃の5%CO2インキュベータ内で48時間培養した。48時間後に、100U/mLのIL−2(塩野義製薬)を含むCTL培地を1mL添加して培養を続けた。CTL培地の交換は、培養の状態を観察しつつ、約半量の培地を吸引除去し、50U/mLのIL−2添加CTL培地を加えて実施した。最初の1週間は1回程度、1週間経過後は、2〜3日に一度交換を行った。
培養開始から10〜14日後に、各ウェルから70μLの細胞浮遊液を回収し、HLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー−AYACNTSTL−PE(以下HLA−A*24:02 survivin−2B テトラマー試薬と略す、MBL社)またはHLA−A*24:02 PBF A24.2 テトラマー−AYRPVSRNI−PE(以下HLA−A*24:02 PBF テトラマー試薬と略す、MBL社)で染色した。染色手順は次の通りである。
回収した細胞浮遊液にFCMバッファー[2%FBS(fetal bovine serum)/0.05% NaN/PBS]を加え、400×gで5分間遠心した。上清を吸引除去後、再度FCMバッファーを適量加え400×gで5分間遠心後、上清を吸引除去した。20μLのFCMバッファーと10μLのClear Back Human FcR blocking reagent(MBL社)を加え良く攪拌後、室温にて5分間静置した。10μLのHLA−A*24:02 survivin−2B テトラマー試薬あるいはHLA−A*24:02 PBF テトラマー試薬を加え穏やかに攪拌後、2〜8℃の冷蔵室で30分間反応させた。10μLのCD8(clone T8)−FITC(Beckman Coulter社)を加え、冷蔵室で20分間反応させた。適量のFCMバッファーを加え400×gで5分間遠心した。上清を注意深く捨て、死細胞染色試薬 7−AAD(Beckman Coulter社)を1%添加した400μLのFCMバッファーを加えて細胞を懸濁し、フローサイトメーター(FACSCalibur、BD biosciences社)で細胞を取込み分析した。分析データは、CellQuest software(BD biosciences社)あるいはFlowJo(Tree Star社)を用いて解析した。MHCテトラマー試薬のコントロールとしてHLA−A*24:02 HIV env テトラマー−RYLRDQQLL−PE(MBL社、配列番号:31)を用いて染色を行い、非特異的な染色では無いことを確認した。この試薬は、MHCにHLA−A*24:02を、抗原ペプチドにHIV(ヒト免疫不全ウィルス)envelope由来のペプチドを用いて合成しており、これに特異的なCTL集団を検出定量することが可能である。日本国内ではHIV罹患率が低いことから、MHCテトラマー試薬のネガティブコントロールとしてしばしば利用されている。CTLの存在頻度は基本的に低いためMHC−テトラマー試薬陽性細胞の有無を判定する場合、このようなネガティブコントロールMHCテトラマー試薬をコントロールに用いることは非常に重要である。この染色試験の結果、HLA−A*24:02 survivin−2B テトラマー試薬に反応を示す細胞集団及びHLA−A*24:02 PBF テトラマー試薬に反応を示す細胞集団が得られた。
図1Aにsurvivin−2BのCTL集団のMHCテトラマー試薬に対する反応性を示した。X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示したドットプロット展開図である。各ドットプロット上部に使用したMHCテトラマー試薬の種類を示した。各ドットプロットを四分割した右上に抗CD8抗体陽性かつMHCテトラマー試薬陽性CTLの生細胞中での存在率(%)を示した。
抗CD8抗体陽性かつHLA−A*24:02 survivin−2B テトラマー試薬特異的なCTLが細胞集団中に占める割合は3.93%であり、HLA−A*24:02 HIV envテトラマー試薬での陽性率が0.04%であることから、抗CD8抗体陽性かつHLA−A*24:02 survivin−2B テトラマー試薬陽性細胞集団は、そのほとんどが特異的なCTL集団と考えられた。
また、図1BにPBFのCTL集団のMHCテトラマー試薬に対する反応性を図1Aと同様に示した。抗CD8抗体陽性かつHLA−A*24:02 PBF テトラマー試薬特異的なCTLが細胞集団中に占める割合は5.25%であり、HLA−A*24:02 HIV envテトラマー試薬での陽性率が0.10%であることから、抗CD8抗体陽性かつHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬陽性細胞集団は、そのほとんどが特異的なCTL集団と考えられた。
(実施例2) HLA−A*24:02 survivin−2Bペプチド特異的CTLクローン及びHLA−A*24:02 PBFペプチド特異的CTLクローンの樹立と増幅培養
これらの細胞集団は、FACSAriaII(Becton Dickinson社)を用いてシングルセルソーティングを行い、マイトジェンとしてよく使用されるPHA(phytohemagglutinin)にて刺激して約1ヶ月間培養を続けた。更に、X線照射したHLA−A*24:02保持健常人由来PBMCにペプチドをパルスした細胞を添加混合培養する事で増殖刺激し2週間培養を続けた。
なお、その他の刺激増殖方法としては、抗原提示細胞にヒトB細胞をEBウィルスで不死化させたリンパ芽球様細胞株(lymphoblastoid cell lines,LCL)を用いたり、抗CD3抗体やPHAやIL−2等のT細胞刺激薬剤で活性化させた活性化T細胞を利用することもできる。これらの抗原提示細胞は、HLA−A*24:02を細胞表面上に発現していることが重要であり、HLA−A*24:02が発現しているかどうかの確認は、例えば抗HLA−A24抗体(MBL社)等を用いてフローサイトメトリー法で確認できる。あるいは、抗原提示細胞を用いずに抗CD137抗体によるCTLの増殖作用を利用して直接的にCTLに増殖刺激を加える方法等を用いることもできる(特許5433825号公報、WO2008/023786)。
次に、ペプチドパルス処理は以下のように行った。HLA−A*24:02陽性の抗原提示細胞を2% FBS/PBSで一回洗浄後、1mLのペプチドパルス用培地[0.1% HSA(ヒト血清アルブミン)/55μM 2−Mercaptoethanol/RPMI 1640]若しくはAIM−V medium(Thermo Fisher Scientific社)に懸濁し、最終濃度が10μg/mLになるようにsurvivin−2BペプチドあるいはPBFペプチドを添加し、良く攪拌後、およそ15分間隔で穏やかに混合させながら室温にて1時間インキュベーションした。この操作を行うことで、抗原提示細胞上のHLA分子にペプチドが結合すると考えられる。続けて適量のペプチドパルス用培地を添加し、良く攪拌後、400×gで5分間遠心した。遠心後、上清を注意深く廃棄した。過剰量のペプチドを完全に除去する目的でこの洗浄処理をさらに2回実施後、適量のCTL培地に再懸濁し細胞数を数えた。これらの抗原提示細胞はX線照射あるいはマイトマイシン処理等で増殖能を損失させておくことが重要であり、X線照射はペプチドと抗原提示細胞を混合後1時間室温でインキュベーションする時に同時に行うことも可能である。マイトマイシン処理は、ペプチドパルス処理を行う前に実施することが望ましい。ペプチドパルス処理した抗原提示細胞は、HLA−A*24:02 survivin−2B テトラマー試薬あるいはHLA−A*24:02 PBF テトラマー試薬に反応性を示す細胞集団の細胞数に対して1/10倍量〜等量を添加した。
図2Aにsurvivin−2BのCTLクローン ITG−MT3のMHCテトラマー試薬に対する反応性を示した。X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示したドットプロット展開図である。各ドットプロット上部に使用したMHCテトラマー試薬の種類を示した。各ドットプロットを四分割した右上に抗CD8抗体陽性かつMHCテトラマー試薬陽性CTLの生細胞中での存在率(%)を示した。
抗CD8抗体陽性かつHLA−A*24:02 survivin−2B テトラマー試薬特異的なCTLが細胞集団中に占める割合は87.7%であり、HLA−A*24:02 HIV envテトラマー試薬での陽性率が0.75%であることから、抗CD8抗体陽性かつHLA−A*24:02 survivin−2B テトラマー試薬陽性細胞集団について、クローン化が完了したと考えられた。
また、図2BにPBFのCTLクローン FKS−D11PのMHCテトラマー試薬に対する反応性を図2A同様に示した。
抗CD8抗体陽性かつHLA−A*24:02 PBF テトラマー試薬特異的なCTLが細胞集団中に占める割合は98.8%であり、HLA−A*24:02 HIV envテトラマー試薬での陽性率が0.00%であることから、抗CD8抗体陽性かつHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬陽性細胞について、クローン化が完了したと考えられた。
(実施例3) ITG−MT3及びFKS−D11Pにおける細胞傷害活性の確認
図2Aに示した通り、ITG−MT3にはHLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬と反応するTCRを有する細胞が87.7%の比率で存在することが明らかとなった。また、図2Bに示した通り、FKS−D11Pについては、HLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬と反応するTCRを有する細胞が98.8%の比率で存在することが明らかとなった。
しかしながら、かかるHLA−A*24:02テトラマー試薬は人工的に合成されたHLA−A*24:02とβ2mとエピトープペプチドとの3者複合体で構成されているため、実際の細胞表面上に発現している3者複合体を上記TCRが各々認識できるか確認する必要がある。さらに、これらTCRを各々有するCTLが、TCRと3者複合体との結合により活性化され、3者複合体を発現している細胞に対して細胞傷害活性を発揮できるかどうかは、各CTLクローン由来のTCRのα鎖とβ鎖を人為的に導入発現させたリンパ球が生体内で機能するかを推測する上で重要である。そこで、HLA−A*24:02テトラマー試薬陽性細胞集団として検出可能なHLA−A*24:02拘束性ペプチド特異的なCTL細胞集団(ITG−MT3又はFKS−D11P)の細胞傷害活性を測定した。
なお、細胞傷害活性の確認は、ITG−MT3あるいはFKS−D11Pをエフェクター細胞とし、培養細胞C1R−A24とHLA発現欠損細胞株K562とをターゲット細胞に用いて定法に従って実施した。また、C1R−A24細胞は、HLA−A*24:02を発現するリンパ腫細胞株である(Oiso M,et al.,Int.J.Cancer 81:387−394,1999 参照のこと)。
以下に具体的な実験方法を示す。ターゲット細胞であるC1R−A24及びK562をそれぞれ1mLのペプチドパルス用培地に懸濁し、最終濃度が20μg/mLになるようにsurvivin−2Bペプチド、PBFペプチド又はHIVペプチドを添加し、良く攪拌後、室温で1時間インキュベーションした。過剰量のペプチドパルス用培地を添加し、良く攪拌後、400×gで5分間遠心した。遠心後、上清を注意深く廃棄した。過剰量のペプチドを除去する目的でこの洗浄処理をさらに2回実施後、CFSEにて染色を行った。適量のCTL培地に再懸濁し、細胞数を数えた。96−ウェルU底プレートの1個のウェル当たり、5,000個の標的細胞を添加し、エフェクター細胞の量を500〜150,000個になるように添加し、37℃の5%COインキュベータ内で5時間培養した。培養後、塩化カルシウム溶液を1mMの濃度で添加し、蛍光標識したAnnexin Vにて染色し、フローサイトメトリーにてCFSEでラベルされたターゲット細胞の死細胞率を測定した。
細胞傷害活性(%)は次の計算式で算出した。Cytotoxicity=[(E−T0)/(100−T0)]×100
Eはターゲット細胞とエフェクター細胞を共培養した時のCFSE陽性細胞集団中のAnnexxin V陽性細胞率を示し、T0はターゲット細胞のみを培養した時のCFSE陽性細胞集団中のAnnexxin V陽性細胞率を示す。
結果を図3A及びBに示した。これらの図面において、X軸にエフェクター細胞の細胞数と標的細胞の細胞数の比(E/T ratio)を、Y軸に細胞傷害活性(%)を示した。図3Aはエフェクター細胞にITG−MT3を使用した場合の結果であり、図3Bはエフェクター細胞にFKS−D11Pを使用した場合の結果である。survivin−2BペプチドをパルスしたC1R−A24ではE/T比=10において97%の細胞傷害活性が認められ、PBFペプチドをパルスしたC1R−A24の場合ではE/T比=1において73.4%の細胞傷害活性が認められた。一方、HIVペプチドをパルスしたC1R−A24の場合及びK562の場合は、細胞傷害活性はほとんど検出されなかった。以上より、survivin−2Bペプチド特異的なCTL細胞集団(ITG−MT3)とPBFペプチド特異的なCTL細胞集団(FKS−D11P)は、標的細胞の膜表面に発現しているHLA−A*24:02に提示されたsurvivin−2BペプチドあるいはPBFペプチドをそれぞれ認識し、殺傷する事が可能な細胞集団であることが明らかになった。すなわち、このCTL膜表面上に発現しているTCRは標的細胞の膜表面に発現しているHLA−A*24:02に提示されたsurvivin−2BペプチドあるいはPBFペプチドをそれぞれ認識し、標的細胞を殺傷するシグナルを細胞内に伝達する機能を有するTCRであることが示された。
(実施例4) survivin−2B特異的CTLクローンITG−MT3及びPBF特異的CTLクローンFKS−D11PのTCR β鎖レパトア解析
本発明者らは、遺伝子を取得する過程でPCRを繰り返し行うことによる予測不可能な変異の挿入を避けるために、遺伝子情報を抽出する前に取得可能な情報を得ておくべきと考えた。この目的のため、TCRβ鎖のVβ領域を特異的に認識することが可能な抗体を用いたフローサイトメトリーにより24種類のVβ領域をレパトア分析することが可能なキット(IOTest beta Mark TCR Vβ Repertoire Kit、Beckman Coulter社)を利用した。このキットに含まれているTCRVβ領域に特異的な抗体は、Vβ1、Vβ2、Vβ3、Vβ4、Vβ5.1、Vβ5.2、Vβ5.3、Vβ7.1、Vβ7.2、Vβ8、Vβ9、Vβ11、Vβ12、Vβ13.1、Vβ13.2、Vβ13.6、Vβ14、Vβ16、Vβ17、Vβ18、Vβ20、Vβ21.3、Vβ22、Vβ23の24種類である。このキットはTCRβ鎖のVβ領域の約70%を検出可能であり、TCRβ鎖のVβ領域のみの情報が判別できる。
データーシートの操作手順に従い、survivin−2Bペプチド特異的なCTLクローン ITG−MT3を染色分析した結果を図4Aに、PBFペプチド特異的なCTLクローン FKS−D11Pを染色分析した結果を図4Bに示した。このキットには8本の染色試薬が入っており、CTLクローンを8本の試薬で染色することで24種類のVβ領域の分析が可能である。1本の試薬には、FTIC標識抗Vβ抗体、PE標識抗Vβ抗体、PEとFITCの両方で標識された抗Vβ抗体が含まれている。図4A及びBに示すドットプロット展開図は、X軸がFTIC標識抗Vβ抗体の蛍光強度(logスケール)を、Y軸にPE標識抗Vβ抗体の蛍光強度(logスケール)を示す。四分割されたドットプロット展開図の左下領域はいずれの抗体でも染色されなかった細胞集団を示し、左上領域はPE標識抗Vβ抗体で染色された細胞集団を示し、右上領域はPEとFITCの両方で標識された抗Vβ抗体で染色された細胞集団を示し、右下領域は、FTIC標識抗Vβ抗体で染色された細胞集団を示す。各抗Vβ抗体が特異的に染色するVβ領域のサブグループ名を図中に表記した。この結果、ITG−MT3含まれる殆ど全ての細胞はVβ8であり、FKS−D11Pに含まれる殆ど全ての細胞はVβ1であることが明らかになった。
(実施例5) survivin−2B特異的CTLクローンITG−MT3及びPBF特異的CTLクローンFKS−D11P由来TCR遺伝子クローニング
−TCR遺伝子のクローニング−
本発明者らは、IMGTに登録されているTCRの遺伝子情報を網羅的に分析し、全てのTCRのα鎖とβ鎖の全長をクローニングできるように多数のプライマーを設計した。この方法の優位点は1回のPCRで全長配列が取得できることである。この方法では、PCR産物を基に得られたDNA配列情報に従ってプライマーを設計する必要が無いため、変異が含まれる可能性は最小限にとどめられている。しかしながら、プライマーの組合せが膨大になり、少ないcDNAを用いて検証できるPCRの回数は限られている。そこで、PCR反応をお互いに阻害しないことを確認したプライマーを10〜11種類混合させたプライマーミックスを用いてPCRを実施し、遺伝子産物が得られたプライマーミックスの全ての組合せでPCRを実施して、全長配列が得られるように工夫した。プライマーミックスの組合せとPCRの反応温度条件の設定は、既にTCRのレパトアが報告されているJurkat細胞、未処理のヒトPBMC、及び特定のVβ鎖を発現するT細胞のそれぞれから調製したcDNAを用いて行った。特定のVβ鎖を発現するT細胞は、ヒトPBMCよりVβ鎖抗体を用いて自動磁気分離装置で分離濃縮して調製した。
前述のITG−MT3及びFKS−D11Pから、RNeasy Protect Mini Kit(QIAGEN社)を用いて全RNAを回収した。続いて、SuperScript III First−Strand Synthesis System(Thermo Fisher Scientific社)のマニュアルに従ってOligo(dT)20プライマーを用いて、cDNAを調製した。TCRα鎖の全長配列を得るために、網羅的に設計した各TCRα鎖特異的なフォワードプライマーを10−11種類ずつ混合した、4種のプライマーミックスとTCRα鎖のCα領域に設計した1種類のリバースプライマーを用いて得られたcDNAを鋳型にPCRを実施した。その結果、ITG−MT3由来のcDNAからは3種類のプライマーミックスでPCR産物が得られ、FKS−D11P由来のcDNAからは1種類のプライマーミックスでPCR産物が得られた。それぞれのプライマーミックスに含まれる個々のフォワードプライマーとCα領域に設計した1種類のリバースプライマーを用いて、得られたcDNAを鋳型にPCRを実施した。増幅されたPCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で展開した結果を図5A及びBに示した。
ITG−MT3のα鎖は合計32組のプライマーでPCRを行った結果、図5Aに示す通り、TRAV4、TRAV9−2、TRAV13−2のプライマーでPCR産物の増幅が確認された。また、図5Bに示す通り、FKS−D11Pのα鎖は合計12組のプライマーでPCRを行った結果、TRAV1−1、TRAV1−2、TRAV8−2のプライマーでPCR産物の増幅が確認された。
次に、これらのPCR産物をアガロースゲルから切り出し、MinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて精製し、TOPO TA Cloning Kit(Thermo Fisher Scientific社を用いてpCR2.1−TOPOに遺伝子断片を挿入した後、定法に従ってDNA配列を解析した。判読した配列情報はIMGTのデータベースを用いてレパトア解析を行った。
その結果、ITG−MT3由来のTCRα鎖は、2種類同定され、Vα−Jαの構成は、TRAV4/TRAJ27/TRAC(以下、「A4」と記す)及びTRAV13−2/TRAJ24/TRAC(以下、「A13−2」と記す)であった(「A4」については、図14A参照のこと)。FKS−D11P由来のTCRα鎖は、TRAV1−1とTRAV1−2のPCR産物が同一のDNA配列であり、Vα−Jαの構成は、TRAV1−2/TRAJ42/TRAC(以下、「A1−2」と記す)であった(図14B参照のこと)。なお、TRAV8−2のPCR産物の配列は、アミノ酸置換した場合に途中でストップコドンが入っていたため、シュードジーンであると考えられる。
次に、ITG−MT3及びFKS−D11PのTCRβ鎖の解析を行った。ITG−MT3のTCRβ鎖については、図4Aの結果よりVβ8であった事からTCRβ鎖の全長配列は、TRBV12−3又はTRBV12−4に該当する。このIMGTに登録されているTRBV12−3及びTRBV12−4のシグナル配列特異的なフォワードプライマーを設計した。
FKS−D11PのTCRβ鎖については、図4Bの結果よりVβ1であった事からTCRβ鎖の全長配列は、TRBV9に該当する。したがって、IMGTに登録されているTRBV9のシグナル配列特異的なフォワードプライマーを設計した。これらフォワードプライマーと2種類のTCR Cβ領域に特異的なリバースプライマー(BC1とBC2)を用いて得られたcDNAを鋳型にPCRを行った。増幅されたPCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で展開した結果を図5A及びBに示した。
図5Aに示す通り、ITG−MT3のTCRβ鎖では、BC1とBC2の両方でPCR産物が得られた。また、図5Bに示す通り、FKS−D11PのTCRβ鎖では、BC1でPCR産物が得られた。PCR産物はいずれもアガロースゲルから切り出し、MinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて精製し、TOPO TA Cloning Kit(Thermo
Fisher Scientific社)を用いてpCR2.1−TOPOに遺伝子断片を挿入した後、定法に従ってDNA配列を解析した。その結果、ITG−MT3のTCRβ鎖では、TRBV12−3/BC1、TRBV12−3/BC2、TRBV12−4/BC1、TRBV12−4/BC2の4種のPCR産物がいずれも同一のDNA配列であった。IMGTのデータベースを用いてレパトア解析を行った結果、ITG−MT3由来のTCRβ鎖は1種類同定され、Vβ/Dβ/Jβ/Cβの構成は、TRBV12−4/TRBD2/TRBJ2−1/TRBC2(以下、「B12−4」と記す)であった(図15A参照のこと)。また、FKS−D11PのTCRβ鎖は、1種類同定され、Vβ/Dβ/Jβ/Cβの構成は、TRBV9/TRBD1/TRBJ1−1/TRBC1(以下、「B9」と記す)であった(図15B参照のこと)。
(実施例6) 培養細胞での発現とTCRα鎖とβ鎖の組合せ確認
ITG−MT3由来の2種類のTCRα鎖(A4とA13−2)と1種類のβ鎖(B12−4)の正しい組合せを解明する為に、哺乳動物細胞用発現ベクターであるpcDNA3.1(Thermo Fisher Scientific社)とpEF6/Myc−His(Thermo Fisher Scientific社)にcDNAをサブクローニングした。コントロールとして、本発明者らが過去に同定したHLA−A*24:02 WT1特異的TCRのα鎖及びβ鎖のcDNAを用い、同様に発現ベクターを構築した(特開2014−143982,Biomed Res. 2013;34:41−50)。
遺伝子導入に使用した培養細胞株は、ヒト白血病由来であるJurkatの変異株で、TCRβ鎖を欠損しているJ.RT3−T3.5やJurkat/MA、TCRα鎖を欠損しているSup−T1を使用した。これら3種の細胞株がTCRを発現していないことは、抗TCR pan α/β抗体(Beckman Coulter社)を用いたフローサイトメトリーで確認した。遺伝子導入は、Neon(登録商標) Transfection System(Thermo Fisher
Scientific社)を用いてエレクトロポレーション法で実施した。3日間静置培養後、細胞集団の一部を分取し、HLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬若しくはHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬にて染色し、フローサイトメーターにて分析した。
その結果を図6に示した。X軸はFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸はPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示す。pcDNA3.1とpEF6/Myc−Hisを遺伝子導入した細胞集団(control cells)と、pcDNA3.1−A13−2とpEF6/Myc−His−B12−4を遺伝子導入した細胞集団survivin−2B TCR A13−2/B12−4では、HLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬陽性の細胞集団は確認できなかった。一方、pcDNA3.1−A4とpEF6/Myc−His−B12−4を遺伝子導入した細胞集団survivin−2B TCR A4/B12−4は、HLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬で24.0%の陽性細胞が確認された。pcDNA3.1−A1−2とpEF6/Myc−His−B9を遺伝子導入した細胞集団PBF TCR A1−2/B9は、HLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬で16.4%の陽性細胞が確認された。
以上より、HLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬と特異的に結合するTCRは、TCRα鎖がTRAV4/TRAJ27/TRACであり、TCRβ鎖がTRBV12−4/TRBD2/TRBJ2−1/TRBC2であることが明らかとなった。HLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬と特異的に結合するTCRは、TCRα鎖がTRAV1−2/TRAJ42/TRACであり、TCRβ鎖がTRBV9/TRBD1/TRBJ1−1/TRBC1であることが明らかとなった。同定したTCRの略図を図7A及びBに示した。
(実施例7) TCR遺伝子発現形質転換細胞(SMT3S,PD11S)の樹立
陽性像が得られた細胞集団survivin−2B TCR A4/B12−4及びPBF TCR A1−2/B9に、各ベクターの耐性薬剤であるG418(Roche社)と、Blastisidin(Thermo Fisher Scientific社)を添加し、薬剤耐性のTCR遺伝子発現形質転換細胞株SMT3S,PD11Sをそれぞれ樹立した。SMT3SのMHCテトラマー試薬に対する反応性を検証した結果を図8Aに示した。PD11SのMHCテトラマー試薬に対する反応性を検証した結果を図8Bに示した。これらの図面において、X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示した。各ドットプロット上部に使用したMHCテトラマー試薬の種類を示した。各ドットプロットを四分割した右上に存在する抗CD8抗体陽性かつMHCテトラマー試薬陽性細胞の生細胞中での存在率(%)を示した。
SMT3SはHLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬に対して89.6%の細胞集団が反応し、平均蛍光強度(MFI)は720、変動係数(CV値)は61.2であった。PD11SはHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬に対して95.8%の細胞集団が反応し、MFIは379、CV値は42.8であった。一方、MHCテトラマー試薬のコントロールとして用いたHLA−A*24:02 HIV envテトラマー−RYLRDQQLL−PEでは特異的な染色は認められなかった。
以上より、SMT3SとPD11Sに遺伝子導入されているTCR遺伝子は、それぞれテトラマー試薬と結合する能力を有するTCRタンパク質として翻訳され、それぞれの細胞膜表面上に機能的に発現している事が明らかとなった。
(実施例8) SMT3S,PD11Sを用いたHLA−A*24:02 テトラマー試薬の評価(添加回収試験)
SMT3S細胞を用いたHLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬の評価の正確性及びPD11S細胞を用いたHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬の評価の正確性を確認する目的で添加回収試験を行った。実験方法は、SMT3S又はPD11Sと、TCR遺伝子を導入していない親株細胞とを混合し、HLA−A*24:02テトラマー試薬で染色後、その陽性率と混合率から期待される陽性率とを比較した。培養中のSMT3S、PD11S及びこれら形質転換細胞の親細胞株から各々20μLの細胞浮遊液を分取し、20μLのTrypan Blue Stain 0.4%(Thermo Fisher Scientific社)を加え血球計算盤にて生細胞数をカウントした。次いで、測定した生細胞数に基づき、SMT3S又はPD11Sと親細胞株とを各々混合し、SMT3S又はPD11Sの存在比率が100%、50%、25%、12.5%、6.3%、3.1%、1.6%、0.8%、0.4%、0%の細胞集団を調整した。各細胞集団から5×10個細胞をエッペンドルフチューブに分取し、400×gで5分間遠心処理後、上清を注意深く廃棄した。1mLのFCMバッファーを添加し、再懸濁後、400×gで5分間遠心し、上清を注意深く廃棄した。20μLのFCMバッファーと10μLのClear Back Human FcR blocking reagentを加え良く攪拌後、室温にて5分間反応させた。10μLのHLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬あるいはHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬を加え穏やかに攪拌後、4℃で30分間反応させた。10μLのCD8(clone T8)−FITCを加え、4℃で20分間反応させた。適量のFCMバッファーを加え400×gで5分間遠心した。上清を注意深く捨て、7−AADを1%添加したFCMバッファーを400μL加えて細胞を懸濁し、フローサイトメーターで細胞を取込み分析した。なお、解析はFSC−H/SSC―Hドットプロット展開図中で選択した領域をR1とし、FSC―H/7−AADドットプロット展開図での生細胞領域(すなわち、7−AAD陰性細胞集団)をR2として、「R1かつR2」の細胞集団において行った。得られた結果を図9A及びBに示した。これらの図面において、X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示した。図9AはHLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬を用いて染色した結果である。SMT3Sの各混合率のドットプロット展開図を四分割した右上に陽性率を示した。SMT3Sが100%の時の陽性率が91.0%であったことから、混合率から期待される陽性率を、ドットプロット展開図を四分割した右上のカッコ内に示した。図9BはHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬を用いて染色した結果である。PD11Sが100%の時の陽性率が92.8%であったことから、混合率から期待される陽性率を、ドットプロット展開図を四分割した右上のカッコ内に示した。これらの添加回収試験の結果より、SMT3S,PD11Sの混合率はHLA−A*24:02テトラマー試薬によって正確に陽性率として検出されることが明らかとなった。
(実施例9) SMT3S,PD11Sを用いたHLA−A*24:02テトラマー試薬の評価(濃度依存的染色性の検証と保存安定性の確認)
フローサイトメーターで使用するMHCテトラマー試薬の保存安定性を確認するためには、ポジティブコントロール細胞が必須である。ポジティブコントロール細胞は、常に試薬に対して同一の反応性を示すことが重要である。SMT3SやPD11Sのようにテトラマー試薬が特異的に結合するTCR遺伝子が導入された安定的形質転換細胞は理想的なポジティブコントロール細胞といえる。そこで、本発明者らはSMT3SとPD11Sを利用して、survivin−2Bテトラマー試薬及びPBFテトラマー試薬の保存安定性試験の実施方法を検証した。MHCテトラマー試薬の保存安定性は、フローサイトメトリーで期待される陽性率が保たれる期間として評価できる。SMT3SとPD11Sの陽性率をそれぞれ5〜15%に調整し、定期的に試薬の希釈系列により反応性を確認し、HLA−A*24:02 テトラマー試薬陽性率、MFI、CV値を分析することで保存安定性の検証を行った。
図10Aに、保存安定性試験の一つの例として、SMT3S細胞の存在比率を約10%に調整した細胞集団を用いてHLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬の試験データを示した。HLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬は、精製ビオチン化モノマー濃度換算で反応溶液中の濃度が、10、5、2.5、1.25、0.625、0μg/mLとなるように調整した。図10A(a)は、X軸がFITC標識CD8抗体の蛍光強度(logスケール)を、Y軸がHLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬の蛍光強度(logスケール)を示す。各ドットプロット展開図の四分割右上にMHCテトラマー試薬陽性かつCD8陽性の細胞集団の陽性率とMFIを示した。図10A(b)にはMFIと試薬濃度の関係を示すグラフを、図10A(c)には、CV値と試薬濃度の関係を示すグラフを示した。この結果より、HLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬は0.625μg/mLの濃度でも陽性細胞の検出が可能だが、検出感度としては2.5μg/mLの濃度以下でMFIが徐々に低下し、CV値が上昇することから、2.5μg/mLを検出感度の許容範囲のボーダーラインに設定できることが示唆された。
図10Bに、保存安定性試験の一つの例として、PD11S細胞の存在比率を約14%に調整した細胞集団を用いてHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬の試験データを示した。HLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬は、精製ビオチン化モノマー濃度換算で反応溶液中の濃度が、10、5、2.5、1.25、0.625、0μg/mLとなるように調整した。図10B(a)は、X軸がFITC標識CD8抗体の蛍光強度(logスケール)を、Y軸がHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬の蛍光強度(logスケール)を示す。各ドットプロット展開図の四分割右上にMHCテトラマー試薬陽性かつCD8陽性の細胞集団の陽性率とMFIを示した。図10B(b)にはMFIと試薬濃度の関係を示すグラフを、図10B(c)には、CV値と試薬濃度の関係を示すグラフを示した。この結果より、HLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬は0.625μg/mLの濃度でも陽性細胞の検出が可能だが、検出感度としては1.25μg/mLの濃度以下でMFIが低下し、CV値も徐々に上昇することから、1.25μg/mLを検出感度の許容範囲のボーダーラインに設定できることが示唆された。
以上より、SMT3SやPD11Sのように、テトラマー試薬が特異的に結合するTCR遺伝子が導入された安定的形質転換細胞を用いて経時的に反応性の検証を行う事で、MHCテトラマー試薬の保存安定性試験を実施する事が可能であることが示された。
(実施例10) TCR遺伝子(survivin−2B TCR A4/B12−4、PBF TCR A1−2/B9)の発現とテトラマー試薬のCD8依存性に関する検討
実施例6で使用した細胞株のうち、J.RT3−T3.5はMHCとTCRの結合を補佐するCD8分子を発現していない細胞株である。この細胞株にTCRを遺伝子導入し、テトラマー試薬で反応性が確認できた場合、そのTCRにおいてはMHC分子との結合の際にCD8分子の補佐を必須としないことが証明できる。MHC分子との結合の際にCD8分子の影響が低いTCRを取得することは、TCRテトラマーやTCRマルチマー等、取得したTCR遺伝子をツール化する上で非常に重要である。TCR遺伝子配列survivin−2B TCR A4/B12−4とPBF TCR A1−2/B9に関して、いかにその後の開発に有用な配列であるかを確認するため、J.RT3−T3.5にこれらのTCR遺伝子を遺伝子導入し、発現確認を行った。その結果、図11A及びBに示す通り、survivin−2B TCR A4/B12−4とPBF TCR A1−2/B9のいずれにおいても各テトラマー試薬との反応が確認された。
テトラマー試薬とTCRの相互作用において、CD8分子は上記の通り非常に重要な分子であり、テトラマー試薬の反応性がCD8抗体の由来となるクローンの種類に影響されることは周知の事実である(Mathew C.ら、J.Immunol.Jul 2011;187:654−663 参照のこと)。また、取得したTCRがCD8非依存的に機能するか否かを事前に予期することも困難である(TV Mooreら、Cancer Immunol Immunother,May 2009;58(5):719−28 参照のこと)。そこで、テトラマー試薬とTCRの結合を阻害しないことが知られているCD8抗体クローンT8(Beckman
Coulter社)と、阻害的に働くことが知られているCD8抗体クローンRFT−8(SouthernBiotech社)の2種類のクローンを用いて、今回取得したTCRのテトラマー染色性に差が見られるかを確認した。その結果を図11Cに示す。なお、染色には今回樹立したSMT3S、PD11Sの存在比率を約10%に調製した細胞集団をそれぞれ使用した。
また、比較対照として、WT1 TCR遺伝子発現形質転換細胞株SK37を使用した(Watanabe K,et al.,Biomed Res.34(1):41−50,2013 参照のこと)。この細胞株に発現しているWT1 TCRは、対応するテトラマー試薬との反応において、CD8分子の補佐が必要であることが明らかになっている。また、図11Dには、クローンT8使用時のテトラマー陽性率を100%とした時の、クローンRFT−8使用時のテトラマー陽性率の割合を示した。
図11Cに示した通り、SMT3S及びPD11Sにおいては、クローンT8及びクローンRFT−8のいずれのクローンを用いた場合でも、各テトラマー試薬との反応が確認された。SK37においては、クローンT8使用時にはテトラマー試薬との反応性が確認されたが、クローンRFT−8使用時にはテトラマー試薬との反応性が見られなかった。
また、図11Dに示した結果から明らかなように、SMT3S及びPD11Sにおいては、RFT−8使用時でもそれぞれ92.3%、90.8%と、T8使用時の9割以上のテトラマー陽性細胞が検出できたが、SK37においては5.1%しか検出されなかった。
これらのことより、survivin−2B TCR A4/B12−4とPBF TCR A1−2/B9は、HLA−A*24:02分子との結合の際にCD8分子の補佐を必須としないことが明らかとなり、マルチマー化されたこれらTCRは、MHC/peptide複合体の検出において有用なツールとして機能することも証明された。
(実施例11) TCRのα鎖とβ鎖を利用した癌細胞あるいは抗原提示細胞の検出1
HLAに目的とするペプチド断片が提示されているかどうかの判定は非常に難しく、抗HLA/ぺプチド複合体抗体やTCRマルチマー等の研究が盛んに行われている。現在世界中で200種類以上のがんペプチドワクチン療法の臨床試験が進められているが、接種するペプチドの選択は、患者癌検体を用いたPCR法によるmRNAレベルの判定、又は癌抗原タンパク質そのものに対する抗体を用いた組織染色による癌抗原タンパク質の検出が主たる解析方法として用いられている。しかしながら、癌を特異的に認識するCTLは癌抗原タンパク質そのものを認識して癌細胞を殺傷するのではなく、癌抗原タンパク質が癌細胞内で分解され、そのペプチド断片がHLAに結合して細胞膜表面上に提示されている場合に癌細胞を認識して殺傷する。すなわち、癌細胞膜表面上でHLAとペプチドが複合体を形成している状態を認識している。HLAとペプチドが複合体を形成している状態を検出可能な試薬は、がん免疫療法を実施する上で、適切な癌抗原を選択する為に必須の分析ツールとなり得る。発明者らは本発明により同定したTCR遺伝子を用いてこの様な分析ツールとして利用できないかについて、検討を実施した。
Jurkat細胞亜株であるJurkat/MA細胞には、TCRのシグナルにより活性化する転写因子NF−ATの下流にレポータージーンを組み込んだベクターが遺伝子導入されている。(Int J Cancer,2002;99(1):7−13)。本実施例では、Jurkat/MAに実施例6で示した特異的なTCRを安定的に発現させた遺伝子導入細胞株を樹立し、該細胞に予め導入されたレポータージーンによるルシフェラーゼ活性を指標に、細胞表面のHLAに目的ペプチドが提示されていることを検出可能かについて検証した。
先ず、Jurkat/MA細胞に実施例7と同様の方法でsurvivin−2B TCR遺伝子(A4/B12−4)あるいはPBF TCR遺伝子(A1−2/B9)を遺伝子導入した安定的形質転換細胞、SMT3JとPD11Jをそれぞれ樹立した。樹立した細胞株の特異性を確認した結果を図12A及びBに示した。これら図面において、X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示した。各ドットプロット上部に使用したMHCテトラマー試薬の種類を示した。各ドットプロットを四分割した右上に、存在する抗CD8抗体陽性かつMHCテトラマー試薬陽性細胞の生細胞中での存在率(%)を示した。
SMT3JはHLA−A*24:02 survivin−2Bテトラマー試薬に対して89.2%の細胞集団が反応し、MFIは266、CV値は65.1であった。PD11SはHLA−A*24:02 PBFテトラマー試薬に対して93.2%の細胞集団が反応し、MFIは756、CV値は37.2であった。一方、MHCテトラマー試薬のコントロールとして用いたHLA−A*24:02 HIV envテトラマー−RYLRDQQLL−PEでは特異的な染色はいずれも認められなかった。この結果はSMT3Jが人工的に作製したHLA−A*24:02とsurvivin−2Bペプチド(AYACNTSTL)とβ2mの複合体に結合し、HLA−A*24:02とHIV envペプチド(RYLRDQQLL)とβ2mの複合体には結合しない事を示している。同様にPD11Jが人工的に作製したHLA−A*24:02とPBFペプチド(AYRPVSRNI)とβ2mの複合体に結合し、HLA−A*24:02とHIV envペプチド(RYLRDQQLL)とβ2mの複合体には結合しない事を示している。
次に、実際の細胞膜表面上に発現しているHLA−A*24:02とβ2mとsurivin−2BペプチドあるいはPBFペプチドの複合体にも反応するかどうかを検証した。すなわち、上記の通りに樹立したSMT3J及びPD11Jを用いて、TCRから下流に存在するNF−ATを介したシグナル伝達を、上記ルシフェラーゼの活性を指標として検出した。実験は以下のように実施した。ターゲット細胞として、各種ペプチドをパルスしたK562又はC1R−A24を用いた。K562にはsurvivin−2BペプチドあるいはPBFペプチドを10μg/mLの濃度でパルスし、HIVペプチドは10μg/mLの濃度でC1R−A24にパルスして使用した。C1R−A24細胞にはsurvivin−2BペプチドあるいはPBFペプチドは、0.1、1、10、100μg/mLの濃度でパルスした。1×10個のターゲット細胞と、同量のSMT3J細胞あるいはPD11J細胞を、200μLの培地中でU底の96−ウェルプレートで混合し、37℃の5%COインキュベータで24時間培養した。培養後、U底の96−ウェルプレートを400×gで5分間遠心し、上清を捨てて200μLのPBSで2回洗浄してCell Culture Lysis Reagent(Promega社)で懸濁し、一回の凍結融解を行った。遠心して上清を回収し、Luciferase Assay Reagent(Promega社)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図13A及びBに示した。これら図面において、X軸にターゲット細胞の種類とパルスしたペプチドの濃度を、Y軸にルシフェラーゼ活性を示した。
図13Aに示した通り、SMT3J細胞は、survivin−2BペプチドをパルスしたC1R−A24細胞を認識し、ペプチド濃度依存的に活性が上昇することが明らかになった。また、図13Bに示した通り、PD11J細胞は、PBFペプチドをパルスしたC1R−A24細胞を認識し、ペプチド濃度依存的に活性が上昇することが明らかになった。
以上の結果は、本発明において同定されたTCRを用い、患者由来の生検試料を対象として同様の解析を行っても当該試料に含まれる細胞集団のHLA−A*24:02において、エピトープが提示されているかどうかを判別できることを意味している。
(実施例12) TCRマルチマーの作製及びTCRのα鎖とβ鎖を利用した癌細胞あるいは抗原提示細胞の検出2
癌抗原特異的TCR遺伝子を発現させた安定形質転換細胞株を利用して、目的とするHLAとペプチドの複合体を発現している抗原提示細胞、あるいは癌細胞を検出する方法を実施例11に示した。しかしながら、特異的なTCR遺伝子を発現させた安定形質転換細胞株を利用する方法では、常に安定形質転換細胞株を良好な条件下で培養維持する必要がある。加えて安定形質転換細胞株では継代を重ねることで遺伝子の脱落など予測不可能な現象が生じる可能性があり、必ずしも安定した実験系が複数の施設で実施できるかについては保証できない。そのため、特異的なTCRと反応するMHCテトラマー試薬のように、人工的に合成した試薬で代用できることが望ましい。
MHCテトラマー試薬は多量体化する事でTCRとの結合を検出する事が可能になった。また、TCRも単量体ではMHC(HLA)とペプチドの複合体に結合する能力が低いと考えられる。そこで、本発明者らは、MHCテトラマー試薬の製造と同様に、TCR遺伝子を用いて人工的にTCRタンパク質を製造し、これを用いてTCRマルチマーの試薬化を検討した。すなわち、本実施例の目的は、上述の通りにして得られたTCRの配列に基づき、可溶性TCRの多量体(TCRマルチマー)を作製し、TCRマルチマーによって、細胞表面上に提示されたHLAとペプチドの複合体を検出可能であるかを検証する事にある。
(1)可溶性TCRをコードする発現コンストラクトの調製
図16に示す通り、先ず、ITG−MT3 TCRα鎖又はFKS−D11P TCRα鎖の細胞外領域のC末端側にリンカーを介してFosのロイシンジッパー領域及び6×His−tagが付加されてなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を設計した。またITG−MT3 TCRβ鎖又はFKS−D11P TCRβ鎖の細胞外領域のC末端側にリンカーを介してJunのロイシンジッパー領域及びビオチン結合部位(BirA認識サイト)が付加されてなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列も設計した。
なお、化学と生物 Vol.27,No.8「ロイシンジッパー 転写制御因子に固有な新しい構造」においても示されているように、Fos及びJunのロイシンジッパー領域がお互いに結合する事を利用し、これらタグが各々付加されたTCRのα鎖及びβ鎖を培養細胞にて発現させることにより、これらを二量体化させて可溶性TCRを作出することが可能となる。
次に、上記にて設計したヌクレオチド配列に基づき、Integrated DNA Technologies社にてcDNAを化学合成した。次いで、哺乳動物細胞用発現ベクターであるpXC17.4及びpXC18.4(Lonza社)に前記cDNAを各々サブクローニングし、pXC17.4−survivin−2B TCRα及びpXC18.4−survivin−2B TCRβを得た。続いてpXC18.4−survivin−2B TCRβを制限酵素Not IとSal Iで切断して得られたsurvivin−2B TCRβ遺伝子断片を、同じ制限酵素で切断したpXC17.4−survivin−2B TCRαに組み込むことで、pXC−survivin−2B TCRαβのダブルジーンベクターを作製した。同様にしてpXC−PBF TCRαβのダブルジーンベクターを作製した。
(2)TCRマルチマーの作製
次に、上記の通りにして設計した可溶性TCRを発現させるべく、前記発現ベクターを培養細胞株に導入した。遺伝子導入に使用した培養細胞株は、Chinese Hamster CHO−K1SV GSKO(Lonza社)を用いた。なお、CHO−K1SV GSKOはCHO−K1SV細胞のグルタミン合成酵素(GS)の欠失変異株で、GSをコードする上記発現ベクター(pXC17.4)と組み合わせて用いることにより、当該合成酵素系を指標としてクローンの選択を行うこと(GS Gene Expression System(登録商標))が可能である。また、遺伝子導入は、Neon Transfection System (Thermo Fisher Scientific社)を用いてエレクトロポレーション法で実施した。このようにして遺伝子導入を行った後、限界希釈法により可溶性TCRを発現する細胞を単クローン化し、可溶性TCRを高発現する安定形質転換細胞株を取得した。なお、可溶性TCRの発現確認は、抗His−tag抗体を用いたELISA法で行った。
培養細胞から培養上清に分泌されたTCRは、可溶性TCRのα鎖に付加されている6×His−tagを利用してNi Sepharose excel(GEヘルスケア社)を用いて精製した。次いで、可溶性TCRのβ鎖のC末端側に付加したビオチン結合部位にBirA酵素を用いてビオチンを付加した。ビオチン化された可溶性TCRをカラムクロマトグラフィー法で精製し、色素標識されたストレプトアビジンと、ビオチン化可溶性TCRとをモル比1:4で混合し、TCRマルチマーを得た。
(実施例13) TCRマルチマーの評価
上記の通りにして得られたTCRマルチマーの染色性評価のため、先ずHLA−A*24:02とsurvivin−2Bペプチドとの複合体を形成する細胞の調製を行った。抗原提示細胞として、HLA−A*24:02を発現する上述のC1R−A24を用い、当該細胞に最終濃度10μg/mLのsurvivin−2Bペプチドと混合し、またはネガティブコントロールとして同濃度のHIVペプチドと混合し、37℃の5%COインキュベータで24時間培養することで、HLA−A*24:02へペプチドをパルスした。
ペプチドパルスを行ったC1R−A24細胞の適量に対して、上記の通りにして調製したTCRマルチマーは、可溶性TCRモノマー濃度で換算して終濃度20μg/mLになるように添加して穏やかに混合し、4℃で30分静置した後、2μLのHLA−A24−FITC抗体(MBL社)を加え、4℃で30分静置した。1.5mLのFCMバッファーを加え撹拌後、3,000rpmで5分間遠心分離し、上清を吸引廃棄後、細胞を400μLのFCMバッファーに再懸濁し、24時間以内にフローサイトメーターで解析した。結果を図17A及びBに示す。
なお、図17Aは、X軸にTCRマルチマーに対する蛍光をlogスケールで示し、Y軸に細胞数を示したヒストグラム図で表されており、白色のヒストグラムはペプチドの溶媒であるDMSOのみを処理した細胞、灰色のヒストグラムはHIVペプチドをパルスした細胞、黒色のヒストグラムはsurvivin−2Bペプチドをパルスした細胞を示した。図17Bは、各細胞集団のMFIを示す棒グラフであり、DMSOのみを処理した細胞、HIVペプチドをパルスした細胞及びsurvivin−2Bペプチドをパルスした細胞におけるMFIは、それぞれ0.76、0.68及び2.02であった。
また、図18A及びBにおいて、前記同様の方法にて、TCRマルチマーの濃度依存性について解析した結果を示す。ペプチドパルスを行ったC1R−A24細胞の適量に対して、添加したTCRマルチマーは、可溶性TCRモノマー濃度で換算しての終濃度は、0.3μg/mL、1.2μg/mL、5μg/mL、20μg/mL、80μg/mLとして、これら5条件について検討した。図18Aは、X軸にTCRマルチマーに対する蛍光をlogスケールで示し、Y軸に細胞数を示したヒストグラム図で表されており、灰色のヒストグラムはHIVペプチドをパルスした細胞、黒色のヒストグラムはsurvivin−2Bペプチドをパルスした細胞を表している。また、各細胞集団のMFIを算出し、survivin−2Bペプチドをパルスした細胞集団におけるそれをシグナルとし、HIVペプチドをパルスした細胞集団におけるそれをノイズとし、TCRマルチマーの可溶性TCRモノマー濃度で換算した各終濃度におけるシグナル/ノイズ比(S/N比)を算出した。得られた結果を図18Bに示す。なお、図18Bには、X軸にTCRマルチマーの終濃度(可溶性TCRモノマー換算濃度)を、Y軸にS/N比を表している。TCRマルチマーの終濃度:0.3μg/mL、1.2μg/mL、5μg/mL、20μg/mL及び80μg/mLにおけるS/N比はそれぞれ、1.042、1.464、2.267、3.533及び5.549であった。
図17A、17B、18A及び18Bにおいて示す通り、survivin−2Bペプチドをパルスした場合のみMFIの増加が観察され(特に図17B参照のこと)、TCRマルチマーの終濃度依存的にS/N比が増大していることが認められた(特に図18B参照のこと)。したがって、実施例12において製造したHLA−A*24:02−survivin−2B特異的TCRマルチマーは、HLA−A*24:02とそれによって提示されたsurvivin−2Bペプチドとの複合体に対して特異的に反応していることが明らかになった。
(実施例14) HLA−A*24:02−PBF特異的TCRマルチマーの評価
HLA−A*24:02−PBF特異的TCRマルチマーの反応性を評価するため、HLA−A*24:02とPBFペプチドとの複合体を形成する細胞の調製を行った。抗原提示細胞として、HLA−A*24:02を発現するC1R−A24を用い、当該細胞に最終濃度0μg/mL、0.1μg/mL、1μg/mL、10μg/mL、100μg/mLのPBFペプチドと混合し、37℃の5%COインキュベータで24時間培養することで、HLA−A*24:02へペプチドをパルスした。
ペプチドパルスを行ったC1R−A24細胞の適量に対して、TCRマルチマーを可溶性TCRモノマー濃度で換算して終濃度20μg/mLになるように添加して穏やかに混合し、4℃で30分静置した。1.5mLのFCMバッファーを加え撹拌後、3,000rpmで5分間遠心分離し、上清を吸引廃棄後、細胞を400μLのFCMバッファーに再懸濁し、24時間以内にフローサイトメーターで解析した。得られた結果を図19Aに示す。なお、図19Aは、X軸にTCRマルチマーに対する蛍光をlogスケールで示し、Y軸に細胞数を示したヒストグラム図で表されており、図中の数値はMFIを示す。 また、HLA−A*24:02−PBF特異的TCRマルチマーの濃度依存性について解析すべく、最終濃度10μg/mLにてペプチドパルスを行ったC1R−A24細胞の適量に対して、TCRマルチマーを可溶性TCRモノマー濃度で換算して終濃度0μg/mL、2μg/mL、6μg/mL、20μg/mLになるように添加して穏やかに混合し、4℃で30分静置した。1.5mLのFCMバッファーを加え撹拌後、3,000rpmで5分間遠心分離し、上清を吸引廃棄後、細胞を400μLのFCMバッファーに再懸濁し、24時間以内にフローサイトメーターで解析した。得られた結果を図19Bに示す。なお、図19Bは、X軸にTCRマルチマーに対する蛍光をlogスケールで示し、Y軸に細胞数を示したヒストグラム図で表されており、図中の数値はMFIを示す。
図19A、19Bにおいて示す通り、PBFペプチドをパルスした場合のみMFIの増加が観察され、かつパルスしたPBFペプチドの濃度依存的にMFIが増大し(特に図19A参照のこと)、TCRマルチマーの終濃度依存的にMFIが増大していることが認められた(特に図19B参照のこと)。したがって、実施例12において製造したHLA−A*24:02−PBF特異的TCRマルチマーは、HLA−A*24:02とそれによって提示されたPBFペプチドとの複合体に対して特異的に反応していることが確認された。
(実施例15) 抗HLA−A24抗体によるブロッキングアッセイ
C1R−A24細胞は、HLA−A*24:02を発現するリンパ腫細胞株であるが、他にもHLA−A*02:01、HLA−B*35:03、HLA−C*04:01を有する。そこで、HLA−A*24:02に対する特異性を確認する目的で、抗HLA−A24抗体をHLA−A24とエピトープペプチドとの複合体に結合させた場合に、TCRマルチマーの反応性に変化が生じることを確認した。
抗原提示細胞として、C1R−A24を用い、当該細胞を最終濃度10μg/mLのsurvivin−2Bペプチド又はPBFペプチドと混合し、37℃の5%COインキュベータで24時間培養することで、HLA−A*24:02へペプチドをパルスした。ペプチドパルスを行ったC1R−A24細胞の適量に対して、HLA−A24とTCRの結合を阻害することが知られている抗HLA−A24抗体クローンC7709A2(Immunity,1997;6(2):199−208 参照のこと)又はネガティブコントロールとしてアイソタイプコントロール抗体を、0.1mg/mLの濃度で添加して穏やかに混合し、4℃で1時間ブロッキング処理した。1.5mLのFCMバッファーを加え撹拌後、3,000rpmで5分間遠心分離し、上清を吸引廃棄後、細胞を50μLのFCMバッファーに再懸濁し、TCRマルチマーをそれぞれ添加して4℃で30分静置した。1.5mLのFCMバッファーを加え撹拌後、3,000rpmで5分間遠心分離し、上清を吸引廃棄後、細胞を400μLのFCMバッファーに再懸濁し、24時間以内にフローサイトメーターで解析した。得られた結果を図20に示す。なお、図20において、白色のヒストグラムはアイソタイプコントロール抗体にてブロッキング処理した細胞を、灰色のヒストグラムは抗HLA−A24抗体にてブロッキング処理した細胞を示す。
図20に示した通り、アイソタイプコントロール抗体にてブロッキング処理した場合と抗HLA−A24抗体にてブロッキング処理した場合のMFIを比較したところ、HLA−A*24:02−survivin−2B特異的TCRマルチマーのMFIは24.6から8.8へ減少しており、HLA−A*24:02−PBF特異的TCRマルチマーのMFIは982から11.3に減少した。したがって、実施例12において製造したTCRマルチマーは、いずれもHLA−A*24:02とそれによって提示されたsurvivin−2BペプチドあるいはPBFペプチドとの複合体に対して特異的に反応していることが確認された。
(実施例16) 蛍光顕微鏡による観察
上記にて製造したTCRマルチマーのうち、反応性の高かったHLA−A*24:02−PBF特異的TCRマルチマーに関して、蛍光顕微鏡による観察を行った。抗原提示細胞として、HLA−A*24:02を発現するC1R−A24を用い、当該細胞に最終濃度0μg/mL、0.1μg/mL、10μg/mLのPBFペプチド又は10μg/mLのHIVペプチドと混合し、37℃の5%COインキュベータで24時間培養することで、HLA−A*24:02へペプチドをパルスした。ペプチドパルスを行ったC1R−A24細胞の適量に対して、TCRマルチマーを可溶性TCRモノマー濃度で換算して終濃度20μg/mLになるように添加して穏やかに混合し、4℃で30分静置した。1.5mLのFCMバッファーを加え撹拌後、3,000rpmで5分間遠心分離し、上清を吸引廃棄後、細胞をFCMバッファーに再懸濁し、うち100μLを3cmのGLASS BASE DISH(IWAKI社)に分取した。これらの細胞をHSオールインワンBZ9000蛍光顕微鏡(KEYENCE社)にて観察した。得られた結果を図21Aに示す。なお、図21Aにおいて、「TCR−multimer」は、TCRマルチマーの標識色素に由来する蛍光シグナルを検出した結果を示す(図21Bにおいても同じ)。
図21Aに示した通り、0.1μg/mL、10μg/mLのPBFペプチドをパルスした細胞において、細胞表面に特異的なシグナルが観察された。10μg/mLのHIVペプチドをパルスした細胞においては、特異的なシグナルは観察されなかった。
次に、PBFを発現していることが分かっているHLA−A*24:02陽性の骨肉腫由来細胞株KIKU(Cancer Res. 1988;48(8):2273−2279 参照のこと)について、HLA−A*24:02−PBF特異的TCRマルチマーによる染色を行った。KIKUの適量に対して、TCRマルチマーを可溶性TCRモノマー濃度で換算して終濃度20μg/mLになるように添加して穏やかに混合し、4℃で30分静置した。1.5mLのFCMバッファーを加え撹拌後、3,000rpmで5分間遠心分離し、上清を吸引廃棄後、細胞をFCMバッファーに再懸濁し、うち100μLを3cmのGLASS BASE DISH(IWAKI社)に分取した。これらの細胞をHSオールインワンBZ9000蛍光顕微鏡(KEYENCE社)にて観察した。得られた結果を図21Bに示す。
図21Bに示した通り、KIKUに関して、細胞表面に特異的なシグナルが観察された。PBFペプチドをパルスしなくてもKIKUがHLA−A*24:02−PBF特異的TCRマルチマーによって染色された事から、KIKUで発現しているPBFが、プロテアソームにより分解されPBFペプチドとしてHLA−A*24:02に結合し、KIKU細胞表面に提示されている事が確認された。
以上説明したように、本発明によれば、survivin−2BペプチドがHLA−A*24:02に提示された状態及びPBFペプチドがHLA−A*24:02に提示された状態を認識することができる。本発明のTCRを発現させた細胞や本発明のTCRを多量体化した分子は、ペプチドワクチン療法を行う場合のコンパニオン診断薬として、また、樹状細胞ワクチン療法を行う場合に樹状細胞のHLAに目的のペプチドが提示されているか否かを確認するための試薬として利用しうる。また、癌細胞へ薬物を送達するためのツールとしても利用しうる。さらには、MHCテトラマー試薬の品質管理にも利用しうる。したがって、本発明は、主として医療分野及び関連する研究分野に大きく貢献しうるものである。
配列番号:1
<223> ITG−MT3 TCRα鎖のCDR1
配列番号:2
<223> ITG−MT3 TCRα鎖のCDR2
配列番号:3
<223> ITG−MT3 TCRα鎖のCDR3
配列番号:4
<223> ITG−MT3 TCRα鎖の可変領域
配列番号:5
<223> 可溶性ITG−MT3 TCRα鎖
配列番号:6
<223> ITG−MT3 TCRβ鎖のCDR1
配列番号:7
<223> ITG−MT3 TCRβ鎖のCDR2
配列番号:8
<223> ITG−MT3 TCRβ鎖のCDR3
配列番号:9
<223> ITG−MT3 TCRβ鎖の可変領域
配列番号:10
<223> 可溶性ITG−MT3 TCRβ鎖
配列番号:11
<223> FKS−D11P TCRα鎖のCDR1
配列番号:12
<223> FKS−D11P TCRα鎖のCDR2
配列番号:13
<223> FKS−D11P TCRα鎖のCDR3
配列番号:14
<223> FKS−D11P TCRα鎖の可変領域
配列番号:15
<223> 可溶性FKS−D11P TCRα鎖
配列番号:16
<223> FKS−D11P TCRβ鎖のCDR1
配列番号:17
<223> FKS−D11P TCRβ鎖のCDR2
配列番号:18
<223> FKS−D11P TCRβ鎖のCDR3
配列番号:19
<223> FKS−D11P TCRβ鎖の可変領域
配列番号:20
<223> 可溶性FKS−D11P TCRβ鎖
配列番号:21
<223> ITG−MT3 TCRα鎖
配列番号:23
<223> ITG−MT3 TCRβ鎖
配列番号:25
<223> FKS−D11P TCRα鎖
配列番号:27
<223> FKS−D11P TCRβ鎖
配列番号:29
<223> HLA−A*24:02拘束性survivin−2Bペプチド
配列番号:30
<223> HLA−A*24:02拘束性PBFペプチド
配列番号:31
<223> HLA−A*24:02拘束性HIV envペプチド
配列番号:32
<223> HLA−A*24:02

Claims (15)

  1. 下記(i) 〜(iii)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプター
    (i) 配列番号:1〜3に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:6〜8に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる
    (ii) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる
    (iii) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:10に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる。
  2. HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを認識する、請求項1に記載のT細胞レセプター。
  3. 下記(i)〜(iii)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質
    (i) 配列番号:1〜3に記載のアミノ酸配列を有する
    (ii) 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有する
    (iii) 配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有する。
  4. 下記(i)〜(iii)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質
    (i) 配列番号:6〜8に記載のアミノ酸配列を有する
    (ii) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有する
    (iii) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列を有する。
  5. 請求項3及び4のうちのいずれか一項に記載のタンパク質をコードするDNA。
  6. 請求項5に記載のDNAを発現可能に含有するベクター。
  7. リンパ球に請求項5に記載のDNAが導入されてなる形質転換細胞。
  8. 請求項3に記載のタンパク質をコードするDNA及び請求項4に記載のタンパク質をコードするDNAが導入されたリンパ球であって、HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを結合して多量体化した分子によって検出することができる形質転換細胞。
  9. 前記DNAが導入されるリンパ球が、Jurkat、Jurkat/MA、HPB−ALL、HPB−MLT、J.RT3−T3.5、又はSup−T1である、請求項7又は8に記載の形質転換細胞。
  10. 請求項7〜9のうちのいずれか一項に記載の形質転換細胞を有効成分とする、survivin−2B陽性の癌を治療するための医薬組成物。
  11. 以下の(a)〜(c)のいずれかに記載の分子に特異的に結合する抗体。
    (a)請求項3に記載のT細胞レセプターα鎖タンパク質
    (b)請求項4に記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質
    (c)請求項1又は2に記載のT細胞レセプター
  12. 請求項1又は2に記載のT細胞レセプターを結合して多量体化した分子。
  13. HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを検出又は捕捉するための薬剤であって、請求項12に記載の分子を含む薬剤。
  14. HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを検出するためのキットであって、以下の(a)〜(e)の少なくとも1つの構成要素を含むキット。
    )請求項1又は2に記載のT細胞レセプター
    請求項3に記載のタンパク質をコードするDNA及び請求項4に記載のタンパク質をコードするDNA、又は、請求項3に記載のタンパク質及び請求項4に記載のタンパク質をコードするDNA
    請求項3に記載のタンパク質をコードするDNAを発現可能に含有するベクター及び請求項4に記載のタンパク質をコードするDNAを発現可能に含有するベクター、又は、請求項3に記載のタンパク質及び請求項4に記載のタンパク質をコードするDNAを発現可能に含有するベクター
    リンパ球に、請求項3に記載のタンパク質をコードするDNA及び請求項4に記載のタンパク質をコードするDNAが導入されてなる形質転換細胞
    )請求項12に記載の分子
  15. HLA−A*24:02に拘束されたsurvivin−2Bペプチドを結合して多量体化した分子の品質管理方法であって、該分子と請求項7〜9のいずれかに記載の形質転換細胞との反応性を経時的に検証し、前記反応性が維持されている場合には、前記分子の品質が維持されていると評価し、一方、前記反応性が低下した場合には、当該分子の品質が劣化したと評価する工程を含む方法。
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