JP6950349B2 - 無方向性電磁鋼板 - Google Patents

無方向性電磁鋼板 Download PDF

Info

Publication number
JP6950349B2
JP6950349B2 JP2017157182A JP2017157182A JP6950349B2 JP 6950349 B2 JP6950349 B2 JP 6950349B2 JP 2017157182 A JP2017157182 A JP 2017157182A JP 2017157182 A JP2017157182 A JP 2017157182A JP 6950349 B2 JP6950349 B2 JP 6950349B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
copper sulfide
less
sulfide
contained
steel sheet
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2017157182A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2019035115A (ja
Inventor
藤村 浩志
浩志 藤村
村上 健一
健一 村上
有田 吉宏
吉宏 有田
水上 和実
和実 水上
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel Corp filed Critical Nippon Steel Corp
Priority to JP2017157182A priority Critical patent/JP6950349B2/ja
Publication of JP2019035115A publication Critical patent/JP2019035115A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6950349B2 publication Critical patent/JP6950349B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Classifications

    • YGENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02PCLIMATE CHANGE MITIGATION TECHNOLOGIES IN THE PRODUCTION OR PROCESSING OF GOODS
    • Y02P10/00Technologies related to metal processing
    • Y02P10/20Recycling

Landscapes

  • Manufacturing Of Steel Electrode Plates (AREA)
  • Soft Magnetic Materials (AREA)

Description

本発明は、モーターの鉄芯等に用いられる無方向性電磁鋼板の鉄損を下げてエネルギーロスを少なくし、電気機器の効率化を図り省エネに寄与できる無方向性電磁鋼板に関するものである。
無方向性電磁鋼板は、重電機器、家電用など各種モーター、変圧器、安定器等の鉄芯材料として広く用いられている。商業的には鉄損でグレード分けされ、モーターやトランスの設計特性に合せて使い分けがなされている。近年、エネルギー節減の観点から一層の低鉄損化が、また、電気機器の小型化の観点から一層の高磁束密度化が要求されており、鉄損、磁束密度ともにさらに優れた鋼板の開発が強く要望されている。
このような背景で、これまでに鉄損や磁束密度の改善を目的とした多くの技術が開示され、成分の最適化、特殊元素の添加、熱延板焼鈍の付与、仕上焼鈍の高温化などが実用化されている。これらの技術が制御しようとしている因子の一つは微細な介在物の形態であり、材質特性に強く影響を及ぼすため重要な因子と考えられている。
一般に、鋼板内に微細な介在物が存在すると焼鈍時の結晶粒成長が阻害されて鉄損が劣化する。鋼板内に含まれる微細な介在物の個数がより多くなるほど、またサイズが小さくなるほど、結晶粒成長が阻害される。したがって、結晶粒成長性を良好にするために、介在物の個数を少なくして、介在物を粗大化させる必要がある。
無方向性電磁鋼板の結晶粒成長を阻害する微細な介在物としては、例えば、硫化銅や硫化マンガン等の硫化物、シリカやアルミナ等の酸化物、窒化アルミや窒化チタン等の窒化物等が知られている。なお、以下において、介在物とは、これらの酸化物、硫化物、窒化物等の非金属析出物を意味することとする。
これらの介在物の中でも、硫化銅は析出開始温度が低く、微細かつ高個数密度で析出しやすいため、その制御は重要とされてきた。しかしながら、集合組織および鋼の強度等を制御するために意図的にCuを含有させた無方向性電磁鋼板や、意図的ではなくともスクラップや鉱石からの不可避的な混入のためCuを含有する無方向性電磁鋼板において、硫化銅の形成を回避することは困難であると考えられてきた。
このため、Cuを含有する無方向性電磁鋼板においては、微細な硫化銅が存在することを前提とし、微細な硫化銅を無害となる範囲内に制御する技術が進められてきた。
微細な硫化銅を無害となる範囲内に制御する技術としては、熱間圧延途中の鋼板の加熱温度を低温にする技術が知られている。このような技術として、例えば、特許文献1には、粗圧延された鋼板(粗バー)を950℃〜1150℃の低温の温度域で加熱することにより、熱間圧延中に微細な硫化物が形成されることを抑制する技術が開示されている。しかしながら、このような技術では、熱間圧延の温度が低温になることにより、熱間圧延後の再結晶および結晶粒成長が不十分となることで逆に磁気特性が劣化することがあった。
このような問題に対処する技術として、例えば、特許文献2には、微細な硫化銅が存在することを前提として、熱間圧延条件を特定の範囲内に制御することで、硫化銅の質量比および析出状態を特定の範囲内に制御することによって磁気特性を改善する技術が開示されている。
特開平11−61257号公報 特開2010−174376号公報
上述した従来の技術では、硫化銅は十分に無害化されていると考えられている。実際にこれらの鋼板では、高温での結晶粒成長性が良好となり、一般的な鋼板特性評価が行われる程度の高磁場での鉄損は十分に改善されている。しかしながら、本発明者らが、上述した従来の技術において、実使用環境での各種特性を調査したところ、鉄損が十分に改善されていないことがわかった。すなわち、硫化銅を結晶粒成長性に対して無害化されるように制御しても、実使用環境での鉄損に改善の余地があることがわかった。
実使用環境での鉄損に改善の余地がある原因は、以下のように考えられる。実使用環境においては、磁束が鋼板内を均一には流れず、磁束が局所的に集中する領域が発生するのにともなって磁束が弱まる領域が生じることになる。そして、局所的に磁束が集中する領域よりも磁束が弱まる領域の方が広い。このため、磁束密度がより低い領域、すなわち低磁場での鉄損がより強く影響を及ぼすようになる。そして、低磁場での鉄損の改善は十分ではないために、実使用環境での鉄損に改善の余地がある。本発明者らは、この状況に鑑み、低磁場での鉄損を改善することを課題として設定した。
本発明は、上述した課題に鑑みなされたもので、微細な硫化銅の形成を極力抑制または回避することによって、低磁場での鉄損を改善することができる無方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
本発明者らは、上述したような状況を踏まえ、上述した課題を解決する手法について鋭意研究を行った。
まず、本発明者らは、Cuを含有する無方向性電磁鋼板において微細な硫化銅を無害となる範囲内に制御する上述したような技術を用いた場合には、高磁場領域(例えば1.5〜1.7程度)での鉄損が改善されるものの、さらに低磁場(例えば1.0〜1.4T程度)での鉄損については改善する余地があると考え、その改善方法について鋭意研究を行った。その結果、鋼板の化学組成を最適化して熱間圧延条件を特定の範囲内に制御した上で、さらに熱延板焼純条件を特定の範囲内に制御すれば、微細な硫化銅の形成を極力抑制または回避することが可能となる結果、低磁場での鉄損が改善されることを見出した。
さらに、この原因について鋭意研究を行ったところ、微細な硫化銅の形成を極力抑制または回避することにより実現する低磁場での鉄損の改善は、硫化銅の無害化により実現する結晶粒成長性の向上を介した高磁場での鉄損の改善とは異なる現象に起因しており、主として磁壁の移動性が急激に向上して透磁率が大きく改善されたことが原因であることを見出した。
本発明はこれらの知見を元になされたものであり、その要旨は、質量%で、C:0.0050%以下、Si:0.05%以上4.5%以下、Mn:3.0%以下、Al:3.0%以下、S:0.008%以下、P:0.15%以下、N:0.0050%以下、Cu:0.001%以上0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ(硫化銅に含有されるS)/(全体に含有されるS)≦0.004および(硫化銅に含有されるS)/(硫化マンガンに含有されるS)≦0.004を満足することを特徴とする無方向性電磁鋼板である。
また、他の要旨は、球相当直径が0.20μm以下の硫化銅の個数密度が0.010個/μm未満であることを特徴とする上述した無方向性電磁鋼板である。
また、他の要旨は、球相当直径が0.20μm以下の硫化銅が含有されないことを特徴とする上述した無方向性電磁鋼板である。
また、他の要旨は、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅の球相当直径の平均が0.03μm未満であることを特徴とする上述した無方向性電磁鋼板である。
さらに、他の要旨は、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅のうち球相当直径が0.03μm以下の硫化銅の個数の割合が50%以上であることを特徴とする上述した無方向性電磁鋼板である。
本発明によれば、低磁場での鉄損を改善することができる無方向性電磁鋼板を提供することができる。
以下、本発明の無方向性電磁鋼板について詳細に説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.0050%以下、Si:0.05%以上4.5%以下、Mn:3.0%以下、Al:3.0%以下、S:0.008%以下、P:0.15%以下、N:0.0050%以下、Cu:0.001%以上0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ(硫化銅に含有されるS)/(全体に含有されるS)≦0.004および(硫化銅に含有されるS)/(硫化マンガンに含有されるS)≦0.004を満足することを特徴とする。
以下、本発明の無方向性電磁鋼板における各構成およびその製造方法について説明する。
1.化学組成
本発明の無方向性電磁鋼板の化学組成およびその測定方法について説明する。該化学組成とは、本発明の無方向性電磁鋼板を構成する鋼の組成である。以下において、成分の含有量は質量%での値である。
(1)化学組成
化学組成について、各成分の含有量および限定理由を中心に説明する。
a.C
Cは、磁気時効によって磁気特性を著しく劣化させるため、C含有量は0.0050%以下とする。また、鉄損低下の観点から、C含有量は0.0020%以下とすることが好ましい。
b.Si
Si含有量は、磁気特性と通板性の兼ね合いから、0.05%以上4.5%以下とする。0.05%未満では良好な磁気特性が得られず、4.5%を超えると脆化のため通板性が顕著に劣化する。
c.Mn
Mnは、Sと反応して硫化物を形成するため、含有量の制御が重要となる元素である。通常、Mnが中途半端に少ない場合には、熱間圧延中に微細な硫化マンガンが析出して鉄損および磁束密度を著しく劣化させる場合がある。しかしながら、本発明においては熱間圧延時の加熱条件を特定の範囲内に制御してこのような悪影響を回避できるため、Mn含有量は下限が特に限定されない。一方、Mn含有量が多い場合には、熱間圧延工程において再溶解・再析出する硫化マンガンが減少するので、硫化マンガンによる悪影響は減少する。Mn含有量が1.0%を超えると、このような作用は飽和するものの、固溶Mnの存在自体が磁束密度にとって不利な{111}方位の生成を抑制して磁束密度を向上させるので、Mnは多量に含有させても特に問題はない。このため、コストの観点から、Mn含有量は3.0%以下とする。
d.Al
Al含有量は、AlNの形成および粗大化を促進して結晶粒成長性を向上させる観点からは、下限が特に限定されない。一方、Al含有量が1.0%を超えると、AlNの形成および粗大化を促進する作用は飽和するが、固溶Alが電気抵抗を高めることで鉄損を低下させる観点からはAl含有量を多くすることが有利である。しかしながら、多過ぎるAl含有量を含有する溶鋼は、鋳造時の操業性が悪化するため、Al含有量は3.0%以下とする。
e.S
Sは、硫化物の形成量に直接関係する。S含有量が多いと、熱間圧延時の加熱条件を特定の範囲内に制御しても、硫化物の形成量が多くなり結晶粒成長性を阻害するため、S含有量は0.008%以下とする。鋼板の磁気特性をより向上させるためには、0.005%以下とすることが好ましい。
f.P
Pは、鋼板の硬度を高めて打ち抜き性を向上させる作用が得られるので、所望の打ち抜き硬度から必要な添加量が決められる。ただし、過剰に添加すると磁束密度が劣化するので、P含有量は0.15%以下とする。
g.N
Nは、含有量が多いと窒化物が多くなり結晶粒成長性を阻害するため、N含有量は0.0050%以下とする。鋼板の磁気特性をより向上させるためには、0.0030%以下とすることが好ましい。
h.Cu
Cuは、Mnと同様にSと反応して硫化物を形成するが、硫化銅による磁気特性への影響は硫化マンガンと比較して大きいため、含有量の制御が特に重要となる元素である。Cuは、含有量が僅かでも、熱間圧延工程、中でも仕上げ圧延以降において微細な硫化物を形成して鉄損および磁束密度を著しく劣化させると考えられている。このため、Cu含有量は出来るだけ少ないことが好ましいが、通常は、鋼板内に原料や製造工程で混入するスクラップ等からCuが不可避的に入るため、Cuを含有させないことは困難である。また、本発明は硫化銅の質量比および析出状態を制御する発明であるから、Cuを含有することを前提としており、Cuを含有しない鋼板は本発明の対象としない。さらに、硫化銅の悪影響とそれを制御することによる特性改善効果の大きさを考慮し、Cu含有量は0.001%以上とする。一方、磁束密度を特に著しく劣化させることを回避するため、Cu含有量は0.2%以下とする。
i.残部
残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物のうち結晶粒成長を阻害するTi、V、Nb、Zr等は極力低減することが望ましく、それぞれ0.008%以下とすることが好ましい。
また、本発明の無方向性電磁鋼板は、本発明の作用効果を得ることができれば、磁気特性の向上、強度、耐食性、もしくは疲労特性等の機械特性の向上、または鋳造性もしくは通板性等の生産性に関する特性の向上を図る目的、あるいはスクラップを使用する目的で、Sn、W、Mo、Sb、Cr、Ni、Co、Mg、Ca、REMを残部のFeの一部に代えて含有するか、または不可避的不純物として含有するものでもよい。
(2)化学組成の測定方法
化学組成を構成する各成分の含有量は、成分の種類に応じて、一般的な方法を用いて一般的な測定条件により測定することができる。
Cu、Si、Al、Mn、およびREMの含有量は、例えば、JIS G1253 鉄および鋼−スパーク放電発光分光分析方法、JIS G1258 鉄および鋼−誘導結合プラズマ発光分析方法、またはICP−MS法(誘導結合プラズマ質量分析法)を用いて測定することができる。CおよびSの含有量は、例えば、JIS G1211 鉄および鋼−炭素定量方法、またはJIS G1215 鉄および鋼−硫黄定量方法により測定することができる。N含有量は、JIS G1228 鉄および鋼−窒素定量方法により測定することができる。
無方向性電磁鋼板に後述する絶縁被膜等の膜が形成されていない場合には、無方向性電磁鋼板の一部を切粉状にして秤量し、測定用試料とする。無方向性電磁鋼板に後述する絶縁被膜等の膜が形成されている場合には、予め絶縁被膜等の膜を除去した上で、無方向性電磁鋼板の一部を切粉状にして秤量し、測定用試料とする。
絶縁被膜等の膜が形成された無方向性電磁鋼板から絶縁被膜等の膜を除去する方法としては、例えば、以下の方法等が用いられる。
まず、絶縁被膜等の膜が形成された無方向性電磁鋼板を、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:10質量%+HO:90質量%)に80℃で15分間浸漬する。次に、硫酸水溶液(HSO:10質量%+HO:90質量%)に80℃で3分間浸漬する。次に、硝酸水溶液(HNO:10質量%+HO:90質量%)に常温(25℃)で1分間弱浸漬して洗浄する。最後に、温風のブロアーで1分間弱、乾燥する。これにより、絶縁被膜等の膜が除去された鋼板を得ることができる。
2.硫化銅の質量比および析出状態
本発明においては、結晶粒成長を阻害する介在物である硫化物の中でも特に硫化銅の質量比および析出状態の制御が作用効果を得る上で重要である。なお、一般的には、硫化物の種類、質量比、および析出状態は、硫化物を形成する元素(例えば、S、ならびにMn、Ti、Mg、Ca、およびCu等)の含有量および熱間圧延条件等の製造条件だけではなく、硫化物が複合析出する場合には、OおよびCならびに酸化物および炭窒化物等を形成する元素の含有量により変化する。
本発明における硫化銅の質量比および析出状態は、「硫化物」、「硫化銅」、および「硫化マンガン」を通常とは異なる意味で用いて特定される。詳細は後述するが本発明の特定においては注意を要する点である。
以上を踏まえ、以下において、本発明における硫化銅の質量比および析出状態について説明する。
(1)硫化銅の質量比
本発明の無方向性電磁鋼板に含有される硫化銅の質量比は、(硫化銅に含有されるS)/(全体に含有されるS)≦0.004および(硫化銅に含有されるS)/(硫化マンガンに含有されるS)≦0.004を満足する。すなわち、硫化銅の形成が極力抑制または完全に回避されている。これにより、硫化銅による磁壁の移動性への阻害作用が急激に低減して低磁場での透磁率が急激に低減するために、低磁場での鉄損を低減することができる。
また、上述した硫化銅の質量比としては、中でも(硫化銅に含有されるS)/(全体に含有されるS)<0.0005および(硫化銅に含有されるS)/(硫化マンガンに含有されるS)<0.0005を満足するものが好ましい。特に、これらの式における(硫化銅に含有されるS)が分析限界未満の値であるものが好ましい。低磁場での鉄損をさらに効果的に低減することができるからである。
なお、本発明においては、これらの式における(硫化銅に含有されるS)が分析限界未満の値である状況を、「(硫化銅に含有されるS)/(全体に含有されるS)=0.0000および(硫化銅に含有されるS)/(硫化マンガンに含有されるS)=0.0000を満足する。」と定義する。
(2)硫化銅の析出状態
後述する硫化銅の質量比の調査方法では上述した(硫化銅に含有されるS)が分析限界未満の値となる微細かつ微量な硫化銅であっても、鏡面研磨で仕上げた鋼板表面を高分解能の走査型電子顕微鏡等を用いて直接観察することにより検出することができる場合がある。本発明においては、このような微細かつ微量な硫化銅の析出状態(個数密度、球相当直径の平均、および個数の割合)を特定の範囲に制御することが好ましい。以下、具体的に説明する。
a.硫化銅の析出状態
本発明においては、球相当直径が0.20μm以下の硫化銅の個数密度が0.010個/μm未満であることが好ましい。硫化銅の質量比を低減した状況において、さらに微細な硫化銅の個数密度を低減することにより、低磁場での鉄損を効果的に低減することができるからである。
また、中でも球相当直径が0.20μm以下の硫化銅が含有されないことが好ましい。低磁場での鉄損をさらに効果的に低減することができるからである。
ここで、本発明において、「球相当直径が0.20μm以下の硫化銅が含有されない」とは、後述するように球相当直径が1.0μm以下の硫化物の個数が500個以上となるのに十分な面積の領域を観察して、硫化銅の個数および球相当直径を調査した場合において、観察領域において球相当直径が0.20μm以下の硫化銅が存在しないことを意味する。
また、本発明においては、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅の球相当直径の平均が0.03μm未満であることが好ましい。微細な硫化銅がさらに微細となることにより、低磁場での鉄損を効果的に低減することができるからである。
さらに、本発明においては、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅のうち球相当直径が0.03μm以下の硫化銅の個数の割合が50%以上であることが好ましい。微細な硫化銅のうちの極微細な硫化銅の割合が増加することにより、低磁場での鉄損を効果的に低減することができるからである。
なお、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅が含有されない場合には、該硫化銅のうち球相当直径が0.03μm以下の硫化銅の個数の割合を算出することができない。このようなことから、本発明においては、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅のうち球相当直径が0.03μm以下の硫化銅の個数の割合が50%以上である鋼板には、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅が含有されない鋼板を含めることにする。
b.硫化銅の析出状態が作用する推定メカニズム
本発明において、硫化銅の析出状態が、低磁場での鉄損に作用するメカニズムについては、未解明な部分があるものの、以下のように推定される。
なお、本明細書においては、以下のような推定メカニズムに基づいて本発明を説明している箇所があるが、該推定メカニズムは推定に過ぎないため、将来的に本発明の作用効果が該推定メカニズムとは異なるメカニズムにより発現していることが判明する可能性もある。しかしながら、そのように判明した知見は、本発明を否定するものではない。
微細な硫化銅は、従来から結晶粒成長性を低下させる作用が特に大きい介在物として認識されており、微細な硫化銅の個数密度を低減させた場合には単調に結晶粒成長性が向上すると考えられている。これは、一般的に、ピニング効果と呼ばれている現象が原因である。ピニング効果とは、介在物が結晶粒界上に存在する場合には、結晶粒界の界面エネルギーを考える上では該介在物が存在する領域には結晶粒界が存在しないことになるので、全体での界面エネルギーが低下することにより、結晶粒界の配置が安定化して結晶粒界の移動性が低下する現象である。鋼板においては、硫化銅等を含む介在物の体積率が一定であれば、介在物が粗大化するほどピニング効果が小さくなるので、従来は、硫化銅等を含む介在物を粗大化することでピニング効果を小さくすることによって、結晶粒成長性を向上させて磁壁の移動性を向上させていた。
一方、前述した通り、無方向性電磁鋼板において、球相当直径が0.20μm以下の硫化銅の個数密度を0.010個/μm未満の範囲内にまで低減すると、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅の球相当直径の平均が100nm以下の範囲内になるまで該硫化銅が微細化した。そして、これにともなって、低磁場鉄損が急激に低減した。これは、一般的に知られている微細な硫化銅の個数密度の低減に従って該硫化銅が粗大化する結果、ピニング効果が小さくなって磁壁の移動性が向上する上述の現象とは異なるものであり、硫化銅自体が直接的に磁壁の移動性に作用したことが原因であると推定される。
具体的には、磁壁には厚さがあるために、硫化銅の球相当直径が磁壁の厚さより大きい場合において、硫化銅が磁壁の両側にはみ出すように位置した場合には、磁壁の両側にはみ出す硫化銅の部位には、地鉄の磁化とは反対の磁化が生じる上、磁壁を挟んで反対の磁気モーメントを生じることになるので、静磁エネルギーが低下する。これにより、磁壁が硫化銅の位置で安定化し、磁壁の移動性への阻害作用が発生する。
一般的に、無方向性電磁鋼板においては、磁壁の厚さが50nm〜100nm程度になると考えられるため、球相当直径が100nm程度になるまで硫化銅が微細化すると、磁壁からはみ出す部位の体積が急激に減少し、静磁エネルギーを低下させる効果が消失する。このため、硫化銅による磁壁の移動性への阻害作用が急激に低減する。したがって、このような磁壁の移動性への阻害作用を考慮すると、球相当直径が100nm以下となる微細な硫化銅においては、該硫化銅の粗大化は磁壁移動に対して必ずしも無害化することにはならず、該硫化銅の個数密度を低減し、該硫化銅をさらに微細化することで磁壁からはみ出さないようにすることにより、硫化銅による磁壁の移動性への阻害作用を低減させることができると推定される。そして、この結果、低磁場での鉄損が低減されると推定される。
さらに、このような低磁場での鉄損の低減が低磁場での透磁率の増加と高い相関を示すことを考慮に入れると、このような低磁場での鉄損の低減は、硫化銅を粗大化することにより実現する結晶粒成長性の向上を介した高磁場での鉄損の改善とは異なる現象に起因しており、硫化銅自体が直接的に磁壁の移動性に作用したことが原因であると推定することは妥当と思われる。
(3)硫化銅の質量比および析出状態の調査方法
以下、上述した硫化銅の質量比および析出状態(個数密度、球相当直径の平均、および個数の割合)を調査する方法について説明する。
a.硫化銅の質量比の調査用サンプルの採取方法および硫化銅の析出状態の調査用サンプルの作成方法
まず、上述した硫化銅の質量比の調査用サンプルの採取方法および上述した硫化銅の析出状態の調査用サンプルの作成方法について説明する。
上述した硫化銅の質量比の調査用サンプルは、鋼板表面に形成されたスケール等の酸化皮膜等を化学的研磨または機械的研磨等により除去した鋼板の試料を電解し、介在物等を試料表面から離脱させて残渣として回収することにより採取する。上述した硫化銅の質量比の調査は、このように採取した硫化銅の質量比の調査用サンプルを同定・定量分析することより実施する。
また、上述した硫化銅の析出状態の調査用サンプルは、鋼板表面に形成されたスケール等の酸化皮膜等を化学的研磨または機械的研磨等により除去して鋼板表面を露出させ、さらに鋼板表面を鏡面研磨することにより作成する。該調査用サンプルを作成する際には、鏡面研磨方法として、水分により溶解しやすい介在物または析出物を安定的に観察するために、最終仕上げ工程を油研磨で鏡面仕上げする方法を用いる。上述した硫化銅の析出状態の調査は、このように作成した硫化銅の析出状態の調査用サンプルの研磨面を観察することより実施する。
b.硫化銅の質量比の調査方法
本発明における(硫化銅に含有されるS)とは、上述した硫化銅の質量比の調査用サンプルに含有されるCuの質量を定量して、CuとSの原子比(Cu/S)を2/1としてSの質量に換算した値を意味する。同様に、本発明における(硫化マンガンに含有されるS)とは、上述した硫化銅の質量比の調査用サンプルに含有されるMnの質量を定量して、MnとSの原子比(Mn/S)を1/1としてSの質量に換算した値を意味する。また、本発明における(全体に含有されるS)とは、鋼板全体を燃焼赤外線吸収法により分析して得られる鋼板全体に含有されるSの質量の値を意味する。
なお、上述した硫化銅の質量比の調査用サンプルに含有されるCuには、結晶構造や組成等から厳密に硫化銅と判断される介在物に含有されないCuが含まれることがあるが、本発明における(硫化銅に含有されるS)を算出する場合には、このようなCuを含めてSの質量に換算する。同様に、上述した硫化銅の質量比の調査用サンプルに含有されるMnには、厳密に硫化マンガンと判断される介在物に含有されないMnが含まれることがあるが、本発明における(硫化マンガンに含有されるS)を算出する場合には、このようなMnを含めてSの質量に換算する。
c.硫化銅の析出状態の調査方法
上述した硫化銅の析出状態(個数密度、球相当直径の平均、および個数の割合)は、上述した硫化銅の析出状態の調査用サンプルの研磨面をEDXが付属した走査型電子顕微鏡(SEM)により観察することによって調査する。この場合には、例えば、観察室は真空引きし、作動距離(WD)を10mm、加速電圧を15kV、倍率を100〜200,000倍として研磨面を測定する。
具体的には、まず、観察面上の介在物を電子顕微鏡により観察して、所定面積の観察領域に存在する全ての介在物のサイズ、個数、および形状を測定する。続いて、介在物が「硫化銅」であるか否かの判定をEDXを用いた介在物の種類の判定によって行う。これにより、所定面積の観察領域に存在する硫化銅のサイズ、個数、および形状を調査する。
上述したEDXを用いた介在物の種類の判定では、EDXにより介在物においてSが検出される場合を「硫化物」と判定する。また、介在物のサイズが小さいためにSが明瞭に検出されなかったとしても、CuやMn等が検出され、かつO等が検出されない介在物について、Sが明瞭に検出された他の介在物との形態比較からSが含有されていると事実上判断できる介在物についても「硫化物」と判定する。さらに、「硫化物」のうちEDXによりCuが検出されたもの、またはCuが含有されていると事実上判断できるものを「硫化銅」と判定する。
このような判定は、一般的な解釈とは異なることもあるため注意が必要である。すなわち、一般的に、「硫化銅」は、結晶構造や組成等が決まった特定の化合物を意味する。しかしながら、結晶粒成長を阻害する硫化銅等を含む介在物は、非常に微細であるためにその結晶構造や組成等を確定することが困難となるものが多い。例えば、EDXによりSとともに例えばOやC等が検出されることがあり、Cuとともに例えばMnやTi等が検出されることもある。さらに、これら以外の元素が検出されることもある。具体的には、例えば、結晶構造および組成から完全に硫化マンガンと判断される介在物において、Cuが固溶していることで、Cuが検出されるようなことも想定される。介在物の分類については、一般的には、例えばEDXでの検出元素の強度比から、硫化物、酸化物もしくは炭化物、または酸硫化物もしくは炭硫化物等といった介在物種、さらには硫化物について硫化銅か硫化マンガンかなどの解釈がなされる。実際に、特許出願の明細書のみならず学術論文等でもそのような判断に基づいて記載されていることが多い。
しかしながら、本発明においては、介在物の種類を厳密に判定することは意味がなく、現実的にも多くの労力が必要となるため実用的ではない。そこで、本発明においては、前述のように、SまたはCuが含有されているか否かによって介在物の種類を判定する。すなわち、本発明において、「硫化物」および「硫化銅」は、それぞれ結晶構造や組成等から厳密には硫化物および硫化銅とは言えない介在物や厳密には化合物名を特定できない介在物を含む意味となる。
なお、サイズが非常に微小であるためにEDXスペクトルが明瞭に現れない介在物については「硫化物」から除外する。また、EDXスペクトルが明瞭に現れる最小の介在物の球相当直径は約0.01μmであるため、「硫化銅」等を含む介在物の球相当直径の下限は0.01μm程度となるが、球相当直径がこれよりも小さい介在物であっても、EDXスペクトルから含有元素を特定することができるものであれば、判定対象から除外することはない。
また、本発明において、「硫化銅」とは、硫化銅が単独で析出した単独硫化銅だけではなく、硫化銅が他の種類の介在物と複合析出した複合硫化銅も含む意味である。複合硫化銅を構成する複数の介在物の種類およびサイズを特定することは困難であるため、上述した介在物の種類の判定においては、一個の複合硫化銅において硫化銅と他の種類の介在物とを明瞭に分けられる場合を除いて一個の複合硫化銅を一個の硫化銅と判定する。
そして、このように「硫化銅」と判定された介在物の析出状態を、硫化銅の析出状態(個数密度、球相当直径の平均、および個数の割合)として調査する。この場合には、電子顕微鏡により、硫化銅の個数および球相当直径の分布に偏りが無くなる領域を観察する。具体的には、球相当直径が1.0μm以下の硫化物の個数が500個以上となるのに十分な面積の領域を観察して硫化銅のサイズ、個数、および形状を調査することにより、硫化銅の個数および球相当直径を調査する。
なお、このときに注意すべきことは、個数および球相当直径を計測する対象は硫化銅であるが、観察領域に500個以上存在させるようにする介在物は硫化物であるということである。これは、本発明においては硫化銅が極端に少なくなるために、多数の硫化銅を観察するためには、非現実的に広い面積の領域を観察する必要が生じる事態が想定されるからである。また、硫化銅が実質的に存在しなくなる場合には、硫化銅が存在する領域がなくなるからである。
ここで、本発明において、「硫化銅の球相当直径」とは、硫化銅を球体に換算した場合の直径、すなわち硫化銅と等しい体積の球体の直径を意味し、上述した硫化銅の析出状態の調査用サンプルにて観察された硫化銅のサイズおよび形状から求められる。そして、具体的には、三次元のサイズである「硫化銅の球相当直径」とは、該調査用サンプルにて観察された硫化銅のサイズおよび形状から直接的に求められる二次元のサイズである「硫化銅の円相当直径」を1.27倍して換算したものである。なお、全観察領域に存在する対象となる球相当直径の硫化銅は、言うまでもなく全て計測する必要がある。また、画像解析等を用いて、硫化銅の球相当直径および個数を求めることもできる。
また、このような方法により調査した所定面積の観察領域に存在する硫化銅のサイズ、個数、および形状から直接的に求められる球相当直径が0.20μm以下の硫化銅の個数密度は、単位面積当たりの個数密度[個/μm]となるが、本発明の規定には、「球相当直径が0.20μm以下の硫化銅の個数密度」として、該単位面積当たりの個数密度を球相当直径が0.20μm以下の硫化銅の球相当直径の平均[μm]を用いて変換した単位体積当たりの個数密度[個/μm]が用いられる。
具体的には、球相当直径が0.20μm以下の硫化銅の単位面積当たりの個数密度をNs[個/μm]、該硫化銅の単位体積当たりの個数密度をNv[個/μm]、球相当直径が0.20μm以下の硫化銅の球相当直径の平均をD[μm]とした場合に、本発明の規定には、「球相当直径が0.20μm以下の硫化銅の個数密度」として、下記式(1)により求められるNvが用いられる。
Nv=Ns/D (1)
また、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅の球相当直径の平均[μm]は、全観察領域に存在する該硫化銅の球相当直径の合計[μm]を全観察領域に存在する該硫化銅の個数で除することにより求められる。
さらに、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅のうち球相当直径が0.03μm以下の硫化銅の個数の割合[%]は、全観察領域に存在する球相当直径が0.03μm以下の硫化銅の個数を、全観察領域に存在する球相当直径が1.0μm以下の硫化銅の個数で除することにより求められる。
3.無方向性電磁鋼板の製造方法
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した化学組成を有するスラブを加熱するスラブ加熱工程と、加熱後のスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、熱延鋼板に熱延板焼鈍および酸洗を施して熱延焼鈍板を得る熱延板焼鈍工程と、熱延焼鈍板に一回または中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延を施して冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、冷延鋼板に仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、を有する。
以下、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について各工程を中心として説明する。各工程のうちスラブ加熱工程、熱間圧延工程、および熱延板焼鈍工程が、本発明の無方向性電磁鋼板を製造する上で重要な工程である。
(1)スラブ加熱工程
スラブ加熱工程においては、上述した化学組成を有するスラブを900℃以上1100℃以下の温度域に30分以上保持して加熱する。このようなスラブ加熱条件を満足することにより、硫化物を効果的に粗大化して無害化することができるからである。
このような作用が得られるのは、基本的には、熱間圧延前にスラブをより高温の温度域で加熱する場合には、スラブ加熱時の硫化物の溶解量が多くなり、スラブ加熱後の熱間圧延での温度降下過程において硫化物が析出する時に微細な硫化物の析出量が増加するのに対して、熱間圧延前にスラブを上述した低温の温度域で加熱する場合には、このような問題が生じないことが原因であると考えられている。
一方、スラブ加熱温度を上述した低温の温度域まで低くすると、熱間圧延の仕上げ温度も低くなり、その後の巻き取り温度も低くなるため、巻取り中における硫化物成長も期待できなくなる。さらに、仕上げ温度が低くなると、熱延組織の再結晶粒成長も起きにくくなるので、熱延鋼板において加工組織が残留して最終特性を劣化させる場合もある。
これらの問題を抑制する観点から、スラブを上述した低温の温度域で加熱した後に、短時間だけ高温の温度域に保持してから、熱間圧延を開始することが好ましいことが知られている。本発明でも、このような条件を適用することより、鋼板において特に表層が高温となることで、熱間圧延中における板全体の温度降下を抑制して、仕上げ温度および巻き取り温度の低下を抑制することができる。よって、巻取り中における硫化物成長が促進されるため、硫化物を効果的に粗大化して無害化する上で有利となり、さらに熱延組織の再結晶粒成長を促進することができる。この結果、最終特性を向上させることができるからである。具体的には、上述したようにスラブを900℃以上1100℃以下の温度域に30分以上保持して加熱した後に、1150℃以上の温度域に30分以下保持して加熱することが好ましい。加熱温度が1150℃未満では熱延組織の再結晶粒成長を促進することができないからであり、加熱時間が30分を超えると、硫化物を効果的に粗大化して無害化する上で有利とならないからである。
(2)熱間圧延工程
熱間圧延工程においては、加熱後のスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板を得る。
また、熱間圧延工程においては、仕上げ圧延中および仕上げ圧延完了後の冷却条件を特定の範囲内に制御することが好ましい。具体的には、仕上げ圧延中における平均冷却速度を50℃/秒以下とし、かつ仕上げ圧延完了後から3秒間における平均冷却速度を20℃/秒以下とすることが好ましい。硫化物を効果的に粗大化して無害化する上で有利となるからである。
なお、このような冷却条件の制御が行われる温度域は、一般的には、熱間圧延中において鋼板が冷却水やロールと接触することにより、鋼板の温度が降下する結果、熱間圧延前の加熱された鋼板の温度よりも低い温度域となる。
このような冷却条件の制御によって、硫化物を効果的に粗大化して無害化する上で有利となる原因は詳細には明らかではないが、以下のように考えられる。硫化銅は、CuおよびMnの含有量の関係も影響して硫化マンガンよりも低い温度域で形成される。この結果、硫化銅は、丁度、仕上げ温度付近の温度域で形成されることになるので、仕上げ温度付近の温度域での冷却速度は、硫化物の阻害化による無害化に対して大きい影響を及ぼすことになる。これに加えて、熱間圧延による加工誘起析出等を含むメカニズムが影響することが原因となって、仕上げ圧延中および仕上げ圧延完了後の冷却条件を上述した特定の範囲内に制御することにより、硫化物を効果的に粗大化して無害化する上で有利となると考えられる。
さらに、熱間圧延工程においては、巻取り温度を700℃以上とすることが好ましい。硫化物を効果的に粗大化して無害化する上で有利となるからである。
なお、上述したスラブ加熱工程および熱間圧延工程における条件が、硫化物の粗大化により実現する結晶粒成長性の向上を介した高磁場での鉄損の改善にとって好ましいことは公知であるが、これらの条件は、後述する熱延板焼鈍条件と併用することにより、本発明の効果である低磁場での鉄損の改善にとっても好ましいものとなる。
(3)熱延板焼鈍工程
熱延板焼鈍工程においては、熱延鋼板に熱延板焼鈍および酸洗を施して熱延焼鈍板を得る。酸洗および熱延板焼鈍は順不同であり、酸洗後に熱延板焼鈍を施してもよく、熱延板焼鈍後に酸洗を施してもよい。
また、熱延板焼鈍工程においては、熱延鋼板に対して、600℃から800℃までの平均昇温速度を50℃/秒以上800℃/秒以下として、600℃以下の温度域から800℃以上1200℃以下の温度域の最高到達温度まで昇温して、該温度域に5秒間以上300秒間以下保持した後に、800℃から400℃までの平均冷却速度を50℃/秒以上800℃/秒以下として、800℃以上の温度域から400℃以下の温度域にまで冷却する熱延板焼鈍を施すことが好ましい。上述した硫化銅の質量比および析出状態を本発明の範囲内にする上で有利となるからである。具体的には、従来技術のように硫化銅の成長過程における条件を制御して粗大化(無害化)を図るのではなく、硫化銅の析出温度域(核生成および成長初期)における条件を制御することで、特に磁壁との相互作用の観点で重要となるサイズの硫化銅の形成を極力抑制または回避して、上述した硫化銅の質量比および析出状態を本発明の範囲内にすることができるからである。
具体的には、昇温速度が上記範囲よりも小さい場合には、昇温過程において硫化銅が多量に溶解することになるので、後述するように冷却過程において再析出する硫化銅が粗大化する結果、全体の静磁エネルギーが低下することにより、低磁場において透磁率が低下する問題が生じ易くなるからである。さらに、昇温速度が上記範囲よりも大きい場合には、昇温過程において硫化銅が少量しか溶解しないことになるので、後述するように冷却過程において再析出する硫化銅が微細かつ多数となる結果、結晶粒成長性を阻害する問題が生じ易くなるからである。また、冷却速度が上記範囲よりも小さい場合には、冷却過程において再析出する硫化銅が粗大化する結果、硫化銅は磁壁を含むように存在するサイズになり、磁壁を含む硫化銅が磁壁の両側にはみ出した両部位には、地鉄の磁化とは反対の磁化が生じる上、磁壁を挟んで反対の磁気モーメントを生じることになるので、全体の静磁エネルギーが低下する。これにより、低磁場において、硫化銅による磁壁移動の阻害作用が増加することになり、透磁率が低下するからである。また、冷却速度が上記範囲よりも大きい場合には、冷却過程において再析出する硫化銅が微細かつ多数となる結果、結晶粒成長性を阻害することになるからである。
また、昇温速度を制御する温度域が600℃から800℃までであるのは、該温度域が硫化銅が溶解する温度域と重複するからである。冷却速度を制御する温度域が800℃から400℃までであるのは、硫化銅の析出温度域(核生成および成長初期)と重複するからである。また、800℃以上1200℃以下の温度域に5秒間以上300秒間以下保持するのは、熱延鋼板の結晶粒径を適度に粗大化し、冷延焼鈍後の磁気特性を確保するためである。
酸洗の条件は、特に限定されるものではないが、例えば、酸洗液の主成分を塩酸、温度を80℃以上とする。
(4)冷間圧延工程
冷間圧延工程においては、熱延焼鈍板に一回または中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延を施して冷延鋼板を得る。
冷間圧延条件としては、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではなく、例えば、一般的な条件でよい。また、冷間圧延の圧下率は、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではなく、例えば、一般的な圧下率でよい。
(5)仕上げ焼鈍工程
仕上げ焼鈍工程においては、冷延鋼板に仕上げ焼鈍を施す。
仕上げ焼鈍条件としては、本発明の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではなく、例えば、一般的な条件でよい。
(6)他の工程
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、仕上げ焼鈍工程後に、絶縁被膜形成工程において、仕上げ焼鈍により得られた鋼板表面にコーティング液を塗布し、焼き付けることによって、絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程を有していてもよい。絶縁被膜は一般的に電磁鋼板を積層して使用する際の絶縁性を付与するものであり、絶縁被膜の種類は特に限定されない。絶縁被膜は有機成分から構成されるものでもよいし、無機成分から構成されるものでもよく、さらに有機成分および無機成分の両方から構成されるものでもよい。絶縁被膜を構成する無機成分としては、例えば、重クロム酸−ホウ酸系、リン酸系、シリカ系等が挙げられる。また、絶縁被膜を構成する有機成分としては、例えば、一般的なアクリル系、アクリルスチレン系、アクリルシリコン系、シリコン系、ポリエステル系、エポキシ系、フッ素系等の樹脂が挙げられる。また、塗装性を考慮した場合、好ましい樹脂は、エマルジョンタイプの樹脂である。加熱または加圧することにより接着能を発揮する絶縁被膜を形成してもよい。接着能を有する絶縁被膜としては、例えば、アクリル系、フエノール系、エポキシ系、メラミン系等の樹脂が挙げられる。絶縁被膜の膜厚は、特に限定されないが、一般的には片面当たり0.05μm〜2μmである。また、他の絶縁被膜形成条件は、一般的なものでよい。
4.その他
本発明の作用効果は、鉄鋼メーカー側の仕上げ焼鈍により所定の磁気特性を得るフルプロセス材においても得られ、これを出荷後、需要家において打抜き加工後に歪取り焼鈍を行った場合にも得られる。また、鉄鋼メーカーからの出荷時には磁気特性は低下するものの意図的に加工歪を付与しておき、需要家において打抜き加工後に歪取り焼鈍を行うことにより、所定の磁気特性を得るセミプロセス材においても得られる。すなわち、本発明の無方向性電磁鋼板は、仕上げ焼鈍により所定の磁気特性が得られたフルプロセス材でもよいし、これを需要家にて歪取り焼鈍を行い所定の磁気特性が得られたものでもよいし、さらにセミプロセス材において歪取り焼鈍が施され、所定の磁気特性が得られたものでもよい。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様の作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例を例示して、本発明を具体的に説明する。なお、実施例の条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一例であり、本発明は実施例の条件に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱せず、その目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
まず、下記表1に示す鋼種A〜鋼種Gの化学組成を有する鋼を溶製して、これらに連続鋳造を施すことによりスラブを得た。
Figure 0006950349
続いて、得られたスラブを加熱した後に熱間圧延を施して、板厚2.0mmの熱延鋼板とした。次に、熱延鋼板に熱延板焼鈍および酸洗を施した後に、冷延圧下率85%にて冷間圧延を施して、板厚0.30mmの冷延鋼板とした。次に、冷延鋼板に仕上げ焼鈍を施して、試料No.1〜30の無方向性電磁鋼板を製造した。これらの詳細な条件は下記表2に示す。
Figure 0006950349
続いて、各無方向性電磁鋼板について、硫化銅の質量比および析出状態、結晶粒径、ならびに磁気特性を求めた。これらの結果を下記表3に示す。
硫化銅の質量比および析出状態は上述した調査方法により調査した。結晶粒径は、各鋼板の板厚断面を鏡面研磨してナイタールエッチングを施すことにより現出させた複数の結晶粒について、投影面積に対する同一面積の円の直径をそれぞれ測定して平均する方法によって求めた。また、磁気特性としては、磁化力5000A/mで磁化した際の磁束密度B50[T]および磁束密度1.5T、周波数50Hzで磁化した際の鉄損W15/50、ならびに磁束密度1.0Tでの透磁率μ[H/m]および周波数50Hzにて磁束密度1.0Tで磁化した際の鉄損W[W/kg]を求めた。
なお、磁気特性は、55mm×55mmのサイズのサンプルでコイルの圧延方向から0°、45°、90°の特性を測定して、下記式で得られる鋼板の面内平均として求めた。測定はすべて切り出しままの状態で行った。
(X0+2×X45+X90)/4
X0、X45、X90:コイルの圧延方向から0°、45°、90°の特性
Figure 0006950349
上記表3に示されるように、鋼種を同一とした比較において、(硫化銅に含有されるS)/(全体に含有されるS)≦0.004および(硫化銅に含有されるS)/(硫化マンガンに含有されるS)≦0.004を満足する試料は、他の試料と比較して低磁場透磁率μが大きくなり、低磁場鉄損Wが低くなった。特に、(硫化銅に含有されるS)/(全体に含有されるS)=0.0000および(硫化銅に含有されるS)/(硫化マンガンに含有されるS)=0.0000を満足し、かつ球相当直径が0.20μm以下の硫化銅が含有されない試料において、低磁場透磁率μの上昇、低磁場鉄損Wの低減の効果が大きくなる傾向が見られた。
また、上記表2および上記3に示されるように、熱延板焼鈍条件が本発明の好ましい範囲内である試料は、(硫化銅に含有されるS)/(全体に含有されるS)≦0.004および(硫化銅に含有されるS)/(硫化マンガンに含有されるS)≦0.004を満足するものになったのに対して、熱延板焼鈍条件が本発明の好ましい範囲外である試料は、これらを満足しないものになった。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.0050%以下、Si:0.05%以上4.5%以下、Mn:3.0%以下、Al:3.0%以下、S:0.008%以下、P:0.15%以下、N:0.0050%以下、Cu:0.001%以上0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ(硫化銅に含有されるS)/(全体に含有されるS)≦0.004および(硫化銅に含有されるS)/(硫化マンガンに含有されるS)≦0.004を満足する無方向性電磁鋼板であって、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅の球相当直径の平均が0.03μm未満であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
  2. 質量%で、C:0.0050%以下、Si:0.05%以上4.5%以下、Mn:3.0%以下、Al:3.0%以下、S:0.008%以下、P:0.15%以下、N:0.0050%以下、Cu:0.001%以上0.2%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ(硫化銅に含有されるS)/(全体に含有されるS)≦0.004および(硫化銅に含有されるS)/(硫化マンガンに含有されるS)≦0.004を満足する無方向性電磁鋼板であって、球相当直径が1.0μm以下の硫化銅のうち球相当直径が0.03μm以下の硫化銅の個数の割合が50%以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
  3. 球相当直径が0.20μm以下の硫化銅の個数密度が0.010個/μm未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
  4. 球相当直径が0.20μm以下の硫化銅が含有されないことを特徴とする請求項に記載の無方向性電磁鋼板。
JP2017157182A 2017-08-16 2017-08-16 無方向性電磁鋼板 Active JP6950349B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017157182A JP6950349B2 (ja) 2017-08-16 2017-08-16 無方向性電磁鋼板

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017157182A JP6950349B2 (ja) 2017-08-16 2017-08-16 無方向性電磁鋼板

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2019035115A JP2019035115A (ja) 2019-03-07
JP6950349B2 true JP6950349B2 (ja) 2021-10-13

Family

ID=65636816

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2017157182A Active JP6950349B2 (ja) 2017-08-16 2017-08-16 無方向性電磁鋼板

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6950349B2 (ja)

Family Cites Families (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5375678B2 (ja) * 2002-04-05 2013-12-25 新日鐵住金株式会社 鉄損および磁束密度が極めて優れた無方向性電磁鋼板
JP4383181B2 (ja) * 2004-01-16 2009-12-16 新日本製鐵株式会社 コイル内の磁気特性の均一性に優れ製造歩留まりが高い無方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP4280201B2 (ja) * 2004-05-19 2009-06-17 新日本製鐵株式会社 磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板
KR101410476B1 (ko) * 2012-05-14 2014-06-27 주식회사 포스코 무방향성 전기강판 및 그 제조방법
JP6682853B2 (ja) * 2015-12-28 2020-04-15 日本製鉄株式会社 無方向性電磁鋼板及び無方向性電磁鋼板の製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2019035115A (ja) 2019-03-07

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6891682B2 (ja) 電磁鋼板及びその製造方法、ロータ用モータコア及びその製造方法、ステータ用モータコア及びその製造方法、並びに、モータコアの製造方法
TWI531663B (zh) 無方向性電磁鋼板及其製造方法
KR101598312B1 (ko) 무방향성 전자 강판 및 그 제조 방법
JP6627226B2 (ja) 無方向性電磁鋼板の製造方法
JP7172100B2 (ja) 無方向性電磁鋼板
JP2018141206A (ja) 電磁鋼板、及びその製造方法
JP7328491B2 (ja) 無方向性電磁鋼板
CN111819301B (zh) 无取向电磁钢板
TWI535858B (zh) Soft magnetic steel and its manufacturing method, and soft magnetic parts made of soft magnetic steel parts
JP6880814B2 (ja) 電磁鋼板、及びその製造方法
JP2018178197A (ja) 無方向性電磁鋼板及びその製造方法
JP5375678B2 (ja) 鉄損および磁束密度が極めて優れた無方向性電磁鋼板
JPWO2019188940A1 (ja) 無方向性電磁鋼板
WO2020166718A1 (ja) 無方向性電磁鋼板
JP4383181B2 (ja) コイル内の磁気特性の均一性に優れ製造歩留まりが高い無方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP6809513B2 (ja) フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法
JP2018178198A (ja) 無方向性電磁鋼板及びその製造方法
JP6891673B2 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP7173286B2 (ja) 無方向性電磁鋼板
JP6969219B2 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP6950349B2 (ja) 無方向性電磁鋼板
JP2022074677A (ja) 磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP7295394B2 (ja) 無方向性電磁鋼板
TWI757156B (zh) 無方向性電磁鋼板用熱軋鋼板及其製造方法
WO2022219742A1 (ja) 無方向性電磁鋼板用熱延鋼板及びその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20200513

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20210301

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20210323

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20210420

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20210824

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20210906

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 6950349

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151