JP6947008B2 - ジルコニウムの標識方法 - Google Patents

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Description

本発明は、89Zrなどの放射性ジルコニウムをトレーサ分子に標識するジルコニウムの標識方法に関する。
従来、放射性ジルコニウムは、医用イメージングに有効な放射性同位元素であることが知られている。放射性ジルコニウムの製造方法としては、イットリウム(Y)ターゲットに対して陽子線を照射する方法が知られている。陽子線を用いた製造方法においては、数百ミリグラム(mg)単位のイットリウム中に、数十〜数百ナノグラム(ng)単位の微量の放射性ジルコニウムが生成される。
放射性ジルコニウムは、ペプチドや抗体などのタンパク質や高分子化合物に標識させて、陽電子断層撮影法(PET)による撮像のためのトレーサとして使用することができる。ペプチドに対する標識方法としては、数多く提案され、例えば、ペプチドのリシン残基にデフェロキサミン(DFO)などのキレート剤を導入した後、キレート剤に放射性ジルコニウムを錯形成させて結合させる方法が知られている(非特許文献1参照)。
特許第5439691号公報
Development of 68Ga- and 89Zr-Labeled Exendin-4 as Potential Radiotracers for the Imaging of Insulinomas by PET, Journal of nuclear medicine: official publication, Society of Nuclear Medicine, 2015, 37 1569-79. Standardized methods for the production of high specific-activity zirconium-89, Nucl. Med. Biol., 2009, 36, 729-739. Zirconium Solubility in Ternary Aqueous System of Zr(IV)-OH-Carboxylates, J. Nucl. Sci. Technol., 2009, 46, 142-148.
上述したようにキレート剤に放射性ジルコニウムを結合させる場合、反応溶液中の全ての放射性ジルコニウムに対してキレート剤の正しい位置に結合した放射性ジルコニウムの割合を「放射化学的純度」という。また、使用した放射性ジルコニウムのうちの目的化合物として取り出すことができた割合を「放射化学的収率」という。非特許文献1に記載の方法においては、放射性ジルコニウムの放射化学的純度は、92%とされている。
一方、放射性医薬品基準解説書(日本放射性医薬品協会、2016年)によれば、放射性医薬品の薬剤出荷時における放射化学的純度の基準値としては、多くの場合95%以上が求められている。すなわち、従来、キレート剤の導入に伴う反応、およびキレート剤と放射性ジルコニウムとの結合による反応後の状態では、放射化学的純度の基準値を満たしていなかった。
そこで、放射化学的純度の基準値を満たすため、放射性ジルコニウムのうちのキレート剤に結合していない、いわゆる非結合放射性ジルコニウムを除去することによって、放射化学的純度を高める方法が考えられる。非結合放射性ジルコニウムの除去は、ゲルろ過処理や限外膜ろ過処理などの方法により行うことができる。しかしながら、非結合放射性ジルコニウムを除去する方法を採用すると、キレート剤の導入およびキレート剤と放射性ジルコニウムとの結合以外に、非結合放射性ジルコニウムを除去するための除去工程がさらに必要となる。そのため、放射性ジルコニウムの標識に時間を要するという問題が新たに生じる。さらに、除去工程によって放射化学的純度を向上できるものの、放射化学的収率は向上しないという問題も生じる。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、非結合放射性ジルコニウムの発生を抑制し、放射性ジルコニウムの放射化学的収率を向上することができるジルコニウムの標識方法を提供することにある。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係るジルコニウムの標識方法は、キレート剤が結合したトレーサ分子と放射性ジルコニウムとを含む反応溶液内において、前記放射性ジルコニウムを前記キレート剤に結合させて、前記トレーサ分子に前記放射性ジルコニウムを標識させるジルコニウムの標識方法であって、前記放射性ジルコニウムと前記キレート剤との反応において、前記反応溶液のpHを0以上2以下にすることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウムの標識方法は、上記の発明において、前記トレーサ分子がペプチドまたは低分子有機化合物であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るジルコニウムの標識方法は、上記の発明において、前記キレート剤がデフェロキサミンであることを特徴とする。
本発明に係るジルコニウムの標識方法によれば、非結合放射性ジルコニウムの発生を抑制し、放射性ジルコニウムの放射化学的収率を向上することが可能となる。
図1は、本発明の一実施形態による、ジルコニウムをトレーサ分子に標識させる反応を行うための具体的な方法の一例を説明するための図である。 図2は、本発明者の仮説に基づいた放射化学的純度(89Zr−DFO結合率)のDFO量依存性の計算値、および非特許文献2における放射化学的純度のDFO量依存性の計測値を示すグラフである。 図3は、本発明の一実施形態による、沈殿によるジルコニウム(Zr)の損失率のpH依存性を示すグラフである。 図4は、本発明の一実施形態による、ジルコニウムの標識反応後の反応溶液における放射化学的純度のpH依存性を示すグラフである。 図5は、従来技術による、放射性ジルコニウムをトレーサ分子に標識させる反応を行うための方法を説明するための図である。
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。また、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。まず、本発明の一実施形態を説明するにあたり、本発明の理解を容易にするために、本発明者が上記課題を解決するために行った実験および鋭意検討について説明する。
最初に、本発明者の鋭意検討の対象となる放射性ジルコニウム(以下、ジルコニウム、Zr、または89Zrともいう)をトレーサ分子に標識する反応に関して、従来の想定されていた放射化学的純度が向上しない要因について説明する。
まず、例えばマイクロチューブなどを用いて、ペプチドや、抗体などのタンパク質や、高分子化合物(以下、総称してトレーサ)などに、キレート剤として例えばデフェロキサミン(DFO:deferoxamine)を導入して反応させる。この反応を以下の反応式(1)に示す。なお、以下に説明する反応式において、Rはトレーサ分子を示す。
Figure 0006947008
…反応式(1)
次に、マイクロチューブ内において、キレート剤が結合したトレーサ分子と放射性ジルコニウム溶液とを混合することによって、放射性ジルコニウムをトレーサ分子に標識させる反応(標識反応)を行う。この標識反応を以下の反応式(2)に示す。
Figure 0006947008
…反応式(2)
図5は、従来技術による、上述した反応式(2)に示す89Zrをトレーサ分子に標識させる反応を行うための具体的な方法を示す図である。図5に示すように、マイクロチューブに、89Zrを含有した濃度が1mol/Lのシュウ酸水溶液を、200μLの容量で導入する。次に、マイクロチューブに、濃度が2mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液(Na2CO3)を、90μLの容量で導入する。続いて、マイクロチューブに、pHが7程度の中性緩衝溶液として、濃度が0.5mol/LのHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)を300μLの容量で導入する。
その後、マイクロチューブに、キレート剤が結合されたトレーサ分子(以下、キレート結合トレーサ分子)の溶液を710μLの容量で導入する。ここで、キレート剤としては、上述したDFOが用いられる。続いて、マイクロチューブに、pH7程度の中性の緩衝溶液として、濃度が0.5mol/LのHEPESを700μLの容量で導入する。
以上のようにして得られたマイクロチューブ内の反応溶液を、pH7程度の中性に調整する。この段階において、マイクロチューブ内の反応溶液の合計体積は、(200+90+300+710+700=)2000μLになるため、シュウ酸濃度は、(200/2000×1mol/L=)0.1mol/Lになる。キレート結合トレーサ分子の溶液とジルコニウム溶液とを混合させた状態を、室温において約1時間程度維持することによって、反応式(2)に沿った標識反応が生じる。
その後、除去工程として、マイクロチューブ内の反応溶液をゲルろ過カラムに通液させることによって、非結合放射性ジルコニウムを除去する。これにより、ジルコニウムの放射化学的純度が、例えば95%などの基準値以上に増加された、キレート結合トレーサ分子にジルコニウムが標識された状態の目的物(以下、ジルコニウム標識トレーサ分子)が得られる。
ここで、除去工程によって、ジルコニウムの放射化学的純度を向上させて95%以上にする前段階、すなわち、反応式(2)に沿った標識反応の終了段階においては、ジルコニウムの放射化学的純度は、種々の条件を最適化しても92%程度が限界であった。この点に関する検討が従来から行われている。ジルコニウムの放射化学的純度が100%にならない理由として、ジルコニウムの数10倍から数100倍にわたる多量の不純物が混入していることが原因と考えられてきた(例えば、非特許文献2参照)。すなわち、多量の不純物としての金属イオンがキレート結合トレーサ分子に結合することによってジルコニウムによる標識が阻害されることが、放射化学的純度を向上できない原因であると考えられている。多量の不純物とは具体的に、放射性ジルコニウムを製造する際に原料として用いられる、イットリウム(Y)であると考えられている。
そこで、本発明者は、非特許文献2に記載されている従来の仮説の検証を行った。すなわち、従来技術の方法によって89Zrを精製した後、精製された溶液に含まれる金属イオン量を分析した。具体的には、非特許文献2に示されている精製方法に従って、放射性物質を用いることなく行う模擬実験、いわゆるコールド実験を行った。コールド実験においては、濃度が1mol/Lのシュウ酸水溶液に含まれる元素を、ICP−MS質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry:ICP−MS)によって計測した。なお、実験に使用したYなどの元素の純度は、非特許文献2に記載の元素の純度と同等とした。その結果を表1に示す。なお、非特許文献2においては、40〜60mCi(1480〜2220MBq)程度の89Zrが生成され、89Zrのほぼ100%が、1mol/Lの濃度で3mLの容量のシュウ酸水溶液によって回収されたと記載されている。回収されたジルコニウムを濃度に換算すると30〜45ng/mLとなる。
Figure 0006947008
表1から、シュウ酸水溶液中に含まれる不純物である金属イオンとしては、Y、ナトリウム(Na)、およびカルシウム(Ca)が多く含まれていることが分かる。まず、表1から、不純物としてのYの濃度は、89Zrの濃度の150倍〜200倍程度であることが分かる。不純物としてのYのほとんどが、89Zrを製造する際に用いられる原料であると考えられる。すなわち、従来から予想されていた通り、ジルコニウムの数10倍から数100倍にわたる多量の不純物が混入していることが確認された。また、表1に示す元素において、NaはDFOに結合せず、Caは中性ではDFOとほとんど結合しないことが知られている。一方、希土類や遷移金属は、DFOと錯形成し得る。ところが、Y以外は濃度が低く、放射化学的純度に大きな影響を与えることは想定できない。そのため、Yが放射化学的純度に大きな影響を与えている元素であると推測された。
さらに、本発明者は、混入するYの濃度と89Zrの放射化学的純度との関係について検証を行った。これにより、必要な放射化学的純度を得るためには、Yをどの程度にまで低減すべきかを明確にできる。具体的に、89Zrとキレート剤としてのDFOとの結合反応の平衡定数K1を導出した。その結果、89ZrとDFOとの結合反応における平衡定数K1は1012.9程度であり、YとDFOとの結合反応における平衡定数の10-13に比して極めて大きいことが判明した。
すなわち、89Zrに比してYが数1000倍の濃度で存在していると仮定しても、ジルコニウムはDFOに優先的に結合するため、放射化学的純度にはほとんど影響を与えないか、与えたとしても限定的であることが判明した。同様に、89ZrとDFOとの結合力は、表1に示す89Zr以外の金属イオンとDFOとの結合力に比して、極めて強い。そのため、89Zr以外の金属イオンの濃度がジルコニウムの濃度の1000倍程度であったとしても、放射化学的純度に影響を与えないと考えられる。
以上の検討によって本発明者は、不純物が多量に存在してもジルコニウムの放射化学的純度に影響を与えないことを知見した。すなわち、本発明者は、放射化学的純度が向上しない原因は、従来想定されていた原因とは異なり、不純物の存在が放射化学的純度に及ぼす影響は、限定的であることを見出すに至った。
本発明者は、以上の検討に基づいて、放射化学的純度が所定値以上に向上しない、共存する不純物以外の要因を特定するために、さらなる実験および鋭意検討を行った。まず、本発明者は、キレート結合トレーサ分子とジルコニウムとの標識反応において、シュウ酸((COOH)2)の存在に着目した。標識反応を生じさせるための反応溶液には、以下の反応式(3)に示すジルコニウム水酸化物の発生および沈殿を防ぐために、シュウ酸が添加される(非特許文献3参照)。
Zr4++4OH- → Zr(OH)4↓ …反応式(3)
また、シュウ酸とジルコニウムとは、錯形成反応によってジルコニウムオキサラト錯体(Zr(C24)4 4-)を形成することが知られている(非特許文献3参照)。本発明者の知見によれば、ジルコニウムオキサラト錯体における全安定度定数は1029.7である。本発明者は、この点に着目して、放射化学的純度が向上しない原因は、ジルコニウムの一部がシュウ酸とオキサラト錯体を形成することによって、ジルコニウムとキレート剤との結合が阻害されるためであるとする仮説を想到した。この仮説に基づいた結合阻害モデルを、以下の反応式(4)に示す。
Figure 0006947008
…反応式(4)
次に、本発明者は、上述した、ジルコニウムの一部がシュウ酸とオキサラト錯体を形成することによって、ジルコニウムとキレート剤との結合が阻害されるという仮説について、検証を行った。具体的に本発明者は、上述した反応モデルと非特許文献2に記載の実験結果との比較を行った。非特許文献2に記載の実験においては、互いに濃度が異なる複数のDFO溶液にそれぞれ、89Zrを含有し、濃度が1mol/Lのシュウ酸水溶液を等量加えて、それぞれのDFO溶液における放射化学的純度を計測している。その結果を図2に黒点で示す。図2は、非特許文献2における放射化学的純度のDFO量依存性の計測値、および本発明者の仮説に基づいた放射化学的純度(89Zr−DFO結合率)のDFO量依存性の計算値を示すグラフである。
まず、非特許文献2における実験においては、図2において黒点に示すようにDFO量が多い溶液ほど放射化学的純度が高くなっている。また、放射化学的純度が100%になるのは、DFO量が0.03μg以上、この実験においては、ジルコニウムのモル数の約100倍のモル数以上の場合であった。この点に関して非特許文献2においては、ジルコニウムを含有したDFO溶液中に多量の不純物が存在していることにより、放射化学的純度を100%にするためには、極めて過剰のDFOを用いなければならないと考察している。しかしながら、上述したように、ジルコニウムは、DFOとの間において、DFO以外の他の不純物に比して極めて大きい平衡定数を持つ。そのため、他の不純物は、ジルコニウムとDFOとの結合に影響を与えない。
一方、図2において実線で示すように、本発明者が想到したシュウ酸による結合阻害モデルに基づく計算値は、非特許文献2の実験結果と比較して結果が極めて近似しており、その傾向はほぼ一致している。すなわち、本発明者が想到した仮説、およびこの仮説に基づいた結合阻害モデルが正しい可能性が極めて高いことが確認された。
そこで、本発明者は、案出した結合阻害モデルに基づいて改めて検討を行った。その結果、本発明者は、ジルコニウムの標識反応において、シュウ酸イオンの濃度を0、具体的にはシュウ酸を用いないことを想起した。ジルコニウムの標識反応においてシュウ酸を用いなければ、略全ての放射性ジルコニウムがキレート剤としてのDFOに結合するため、放射化学的純度を大きく向上できる。
しかしながら、上述した反応式(3)に示すように、シュウ酸は、ジルコニウム水酸化物の発生および沈殿を防ぐために添加されている材料である。換言すると、ジルコニウムの標識反応においてシュウ酸を用いない場合、沈殿によってジルコニウムの損失が生じる可能性が大幅に増加する。そこで、本発明者は、シュウ酸を用いないことによる沈殿によるジルコニウムの損失を最小限にするために、さらに鋭意検討および実験を行った。
すなわち、本発明者は、ジルコニウムを含有した溶液のpHに着目し、沈殿によるジルコニウムの損失率(%)におけるpH依存性について実験を行った。具体的には、まず、ジルコニウムの濃度が100ng/mLのジルコニウム水溶液のpHを、塩酸(HCl)および水酸化ナトリウム(NaOH)の少なくとも一方の水溶液を用いて、種々のpHに調整する。次に、常温雰囲気において、ジルコニウム水溶液を1時間静置した後、孔径が0.22μmのフィルターを用いてろ過処理を行う。ろ過処理によって得られたろ液である水溶液中のジルコニウムの濃度を、ICP−MS質量分析法によって計測し、当初の濃度である100ng/mLからの濃度差を算出して沈殿によるジルコニウムの損失率(%)とする。図3は、沈殿によるジルコニウムの損失率のpH依存性を示すグラフである。
図3から、ジルコニウムを含有した溶液のpHが2より大きくなると、沈殿によるジルコニウムの損失率が急激に増加することが分かる。すなわち、pHが2以上の溶液においては、ジルコニウムの溶解度が急激に低下することが分かる。また、図3から、ジルコニウムを含有した溶液のpHが5以上になると、沈殿によるジルコニウムの損失率が略100%となって、ろ液にジルコニウムがほとんど残らないことが分かる。以上から、本発明者は、ジルコニウムの標識反応において、ジルコニウムを含有した溶液のpHを2以下にすることを想到した。なお、トレーサ分子としては、溶液のpHが2以下であっても構造を安定に維持可能な、ペプチドや低分子有機化合物を対象とするのが望ましい。本発明は、以上の実験および鋭意検討に基づいて案出されたものである。
次に、本発明の一実施形態によるジルコニウムの標識方法について説明する。図1は、この一実施形態によるジルコニウムをトレーサ分子に標識させる反応を行うための具体的な方法の一例を示す図である。
図1に示すように、まず、マイクロチューブに、89Zrを含有した酸性溶液(89Zr含有酸性溶液)を導入する。ここで、89Zr含有酸性溶液としては強酸の溶液が望ましいが、必ずしも限定されない。次に、標識される対象となるトレーサ分子にキレート剤を結合させた、キレート結合トレーサ分子の溶液を、マイクロチューブに導入する。キレート結合トレーサ分子の合成方法については、上述した反応式(1)に示す従来技術と同様である。ここで、キレート剤の濃度は、全てのジルコニウムと標識反応するために、ジルコニウムの濃度に対して1等量以上必要である。一般的に、放射性ジルコニウムは、1nmol/L以上100nmol/L以下の範囲内で用いられる。そのため、キレート剤の濃度は、ジルコニウムの濃度よりも高いことが好ましい。
続いて、マイクロチューブ内の反応溶液に、pHを調整するためのpH調整剤となる例えば塩酸(HCl)などの酸性溶液を、必要量添加する。ここで、反応溶液が例えばpHが0未満の極めて強い酸性であった場合、ペプチドのアミド結合が加水分解されてペプチドの分解が生じる可能性がある。この場合、マイクロチューブ内の反応溶液に、例えば水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)などのアルカリ性溶液を導入する。これによって、反応溶液において、89Zr含有酸性溶液のpHが0以上2以下になるように、pHの調整を行う。このようにして得られたマイクロチューブ内の反応溶液を、所定温度において所定時間維持することによって、キレート結合トレーサ分子とジルコニウムとを反応させる。以上により、ジルコニウムの標識反応が終了し、ジルコニウム標識トレーサ分子が得られる。
その後、マイクロチューブ内におけるジルコニウム標識トレーサ分子を含む反応溶液のpHを、所望のpHに調整する。具体的には、pH計を用いて、マイクロチューブ内における反応溶液のpHを確認しつつ、反応溶液に酸性溶液またはアルカリ性溶液を導入する。ここで、標識反応が終了した後の反応溶液における調整された後のpHとしては、4以上9以下が好ましく、5以上9以下がより好ましく、6以上8以下がさらに好ましい。
(実施例)
上述した一実施形態によるジルコニウムの標識方法の具体的な実施例について説明する。すなわち、マイクロチューブに導入する、89Zr含有酸性溶液やpH調整剤としての酸性溶液としては強酸が望ましく、HClの濃度が1.0mol/Lの塩酸水溶液を用いる。アルカリ性溶液としては、濃度が1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)を用いる。また、pHを再調整する場合には、まず水酸化ナトリウム水溶液によって中和した後に、例えばpHが7程度のHEPESなどの緩衝溶液を用いてpHを中性程度で安定させる。また、標識反応における所定時間は10分間とし、所定温度は室温とする。
本発明者は、以上のようにして得られたジルコニウム標識トレーサ分子を含む反応溶液において、pHを徐々に上昇させながら放射化学的純度を測定した。その結果を図4に示す。図4から、ジルコニウム標識トレーサ分子を含む反応溶液のpHが11以下であれば、放射化学的純度を略100%に維持可能であることが分かる。また、pHが11より大きい場合であっても、放射化学的純度を高い比率で維持できるので、標識反応後の反応溶液を、任意のpHにおいて利用することができる。
以上の実施例に対し、上述した従来技術によるジルコニウムの標識方法においては、放射化学的純度は高々92%程度であることが確認されている。従来、キレート剤に結合していない放射性ジルコニウムを除去すると、導入された放射性ジルコニウムの一部は、ペプチドやタンパク質を標識することなく除去されることになるため、稀少な放射性ジルコニウムを有効利用できないという問題があった。これに対し、上述した一実施形態および実施例によれば、標識反応においてシュウ酸を用いることなく反応溶液のpHを2以下にすることによって、トレーサ分子に結合していない非結合放射性ジルコニウムの発生を抑制して、放射性ジルコニウムの放射化学的純度を0.95(95%)以上に向上できる。そのため、非結合性放射性ジルコニウムを除去する工程が不要になるため、放射性ジルコニウムの放射化学的収率を向上することができ、稀少な放射性ジルコニウムのさらなる高コスト化を抑制できる。
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値や材料はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値や材料を用いても良く、本発明は、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により限定されることはない。
例えば、上述の一実施形態においては、アルカリ性溶液として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いているが、水酸化カリウム(KOH)などを用いることも可能である。
また、上述の一実施形態においては、キレート剤としてDFOを用いているが、必ずしもDFOに限定されるものではなく、ヒドロキサム酸基を3つ以上有する有機化合物を用いることも可能である。

Claims (2)

  1. キレート剤が結合したトレーサ分子と放射性ジルコニウムとを含む反応溶液内において、前記放射性ジルコニウムを前記キレート剤に結合させて、前記トレーサ分子に前記放射性ジルコニウムを標識させるジルコニウムの標識方法であって、
    前記放射性ジルコニウムと前記キレート剤との反応において、前記反応溶液のpHを0以上2以下にし、
    前記トレーサ分子がペプチドまたは低分子有機化合物である
    ことを特徴とするジルコニウムの標識方法。
  2. 前記キレート剤がデフェロキサミンである
    ことを特徴とする請求項1記載のジルコニウムの標識方法。
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