以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、一実施形態に係るX線検査装置1の構成図である。図1に示されるように、X線検査装置1は、装置本体2と、支持脚3と、シールドボックス4と、搬送コンベア5と、X線照射部6と、X線検出部7と、LCDディスプレイ(報知部)8と、コントローラ10と、を備える。X線検査装置1は、物品Gを搬送しつつ物品GのX線透過画像を取得し、当該X線透過画像に基づいて物品Gの検査(例えば、収納数検査、異物混入検査、欠品検査、割れ欠け検査等)を行う。
X線検査装置1は、当該X線検査装置1に電力を供給する外部電源(不図示)に接続されている。X線検査装置1においては、X線照射部6とLCDディスプレイ8とコントローラ10とによりX線発生装置100が構成されている。なお、検査前の物品Gは、搬入コンベア9aによってX線検査装置1に搬入され、検査後の物品Gは、搬出コンベア9bによってX線検査装置1から搬出される。X線検査装置1によって不良品と判定された物品Gは、搬出コンベア9bの下流に配置された振分装置(不図示)よって生産ライン外に振り分けられ、X線検査装置1によって良品と判定された物品Gは、当該振分装置をそのまま通過する。
装置本体2は、コントローラ10等を収容している。支持脚3は、装置本体2を支持している。シールドボックス4は、装置本体2に設けられており、X線の漏洩を防止する。シールドボックス4には、搬入口4a及び搬出口4bが形成されている。検査前の物品Gは、搬入コンベア9aから搬入口4aを介してシールドボックス4内に搬入され、検査後の物品Gは、シールドボックス4内から搬出口4bを介して搬出コンベア9bに搬出される。搬入口4a及び搬出口4bのそれぞれには、X線の漏洩を防止するX線遮蔽カーテン(不図示)が設けられている。
搬送コンベア5は、シールドボックス4内に配置されており、搬入口4aから搬出口4bまで搬送方向Aに沿って物品Gを搬送する。搬送コンベア5は、例えば、搬入口4aと搬出口4bとの間に掛け渡されたベルトコンベアである。
X線照射部6は、シールドボックス4内に配置されており、搬送コンベア5によって搬送される物品GにX線を照射する。X線照射部6は、X線を照射するX線管球50(図3参照)を少なくとも有している。X線照射部6の詳細については、後述する。
X線検出部7は、シールドボックス4内に配置されており、X線照射部6から照射されて物品G及び搬送コンベア5を透過したX線を検出する。X線検出部7は、X線検出装置を構成する。X線検出部7は、例えば、ラインセンサとして構成されている。具体的には、X線検出部7は、搬送方向Aに垂直な水平方向に沿って一次元に配列された複数のフォトダイオードと、各フォトダイオードに対してX線入射側に配置されたシンチレータと、を有している。この場合、X線検出部7では、シンチレータに入射したX線が光に変換され、各フォトダイオードに入射した光が電気信号に変換される。
LCDディスプレイ8は、装置本体2に設けられている。LCDディスプレイ8は、タッチパネルとしての表示画面とスピーカとを有している。LCDディスプレイ8は、表示画面を介して各種条件の入力受付等を行う操作入力部として機能する。LCDディスプレイ8は、表示画面を介してX線検査装置1の検査結果等を表示する表示部として機能する。
コントローラ10は、装置本体2内に配置されており、X線検査装置1の各部の動作を制御する。コントローラ10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成されている。コントローラ10には、X線検出部7から出力されてA/D変換された信号が入力される。コントローラ10は、当該信号に基づいて物品GのX線透過画像を生成し、当該X線透過画像に基づいて物品Gの検査を行う検査装置として機能する。コントローラ10は、X線照射部6及びX線検出部7を制御する。
次に、X線検査装置1が備えるX線発生装置100について詳説する。
図2は、X線発生装置100の構成を示すブロック図である。図3は、図2のX線発生装置100のX線照射部6の概略構成を示す模式図である。X線発生装置100は、X線を発生させる装置であって、図2に示されるように、X線照射部6とコントローラ10とLCDディスプレイ8とを含む。
図3に示されるように、X線照射部6は、X線管球50と、高圧電源51と、フィラメント電源52と、タンク53と、異常放電検出回路54と、電流監視機構71と、を備える。X線管球50は、ステンレス鋼及びセラミクスで形成されたX線管本体55と、X線管本体55の内部に配置されターゲットTを含むアノード電極56(陽極部)と、X線管本体55の内部に配置されフィラメントFを含むカソード電極57(陰極部)と、を含む。X線管本体55には、X線を透過するX線照射窓58が形成されている。
高圧電源51は、外部電源と接続され、入力電圧をインバータ等(図示省略)によって昇圧して高圧の直流電圧を生成する。高圧電源51は、正側の出力端子がアノード電極56と接続されると共に負側の出力端子がカソード電極57と接続されている。高圧電源51は、アノード電極56及びカソード電極57のそれぞれに所定の電圧を供給し、アノード電極56とカソード電極57との間に電位差(以下、「管電圧」ともいう)を生じさせる。
フィラメント電源52は、カソード電極57にフィラメント電流を供給する。上述のようにアノード電極56とカソード電極57との間に所定の電位差が生じている状態で、フィラメント電源52からカソード電極57にフィラメント電流が供給されると、X線管球50内において、カソード電極57が加熱されてカソード電極57から熱電子が放出され、カソード電極57から放出された熱電子がアノード電極56に衝突する(破線矢印を参照)。その結果、X線照射窓58を介してX線管球50外に照射されるX線が生じる(1点鎖線矢印Xを参照)。
タンク53は、X線管球50、高圧電源51、及びフィラメント電源52を収容する。タンク53内には、高圧電源51とアノード電極56とを結ぶ電気回路(すなわち、アノード電極56を含む電気回路)である第1電気回路59と、高圧電源51とカソード電極57とを結ぶ電気回路(すなわち、カソード電極57を含む電気回路)である第2電気回路60と、が配置されている。
タンク53内には、絶縁油61が封入されている。絶縁油61は、電気的絶縁性を有しており、タンク53内の空間において電位差のある各部間(例えば、第1電気回路59と第2電気回路60との間、又は、第1電気回路59若しくは第2電気回路60とタンク53若しくはX線管本体55との間)において電気的絶縁状態を確保する。絶縁油61は、X線を発生させる際に高熱を生じさせるX線管球50を冷却する役割を担っている。なお、タンク53内においては、絶縁油61に代えて又は加えて、エポキシ又はシリコーン等の固体絶縁体が封入されてもよい。
異常放電検出回路54は、X線管球50内、又はX線管球50外であってタンク53内において発生した異常放電を検出するための回路である。「異常放電」には、X線管球50の構造に起因する異常放電と、X線管球50又は絶縁油61等の耐用年数の経過に起因する異常放電と、が含まれる。
X線管球50の構造に起因する異常放電は、カソード電極57から放出された電子がアノード電極56に衝突することなくX線管球50内に留まること等を要因として、X線管球50内において生じるものであり、耐用年数の経過との関連性は小さい。より詳細には、X線管球50の内部のガスがカソード電極57から放出された電子等によって電離されることでアノード電極56及びカソード電極57間で引き起こされる放電や、絶縁を保っているX線管壁にカソード電極57から放出された電子が一時的に蓄積され飽和にいたることでX線管球50内において引き起こされる放電等が、X線管球50の構造に起因する異常放電に該当する。耐用年数の経過に起因する異常放電は、真空度の劣化や絶縁油61の絶縁性能の劣化等を要因として、X線管球50内、又はX線管球50外であってタンク53内において生じうる。以下、X線管球50内における異常放電を「第1異常放電」と称し、X線管球50外であってタンク53内における異常放電を「第2異常放電」と称する。
図4は、異常放電検出回路54の概略構成を示した模式図である。異常放電検出回路54は、第1電気回路59、第2電気回路60、及びコントローラ40にそれぞれ接続されている。異常放電検出回路54は、第1電気回路59における電圧値の変化(急降下)に応じてパルスを出力する第1検出ユニット62と、第2電気回路60における電圧値の変化(急降下)に応じてパルスを出力する第2検出ユニット63と、XOR回路64と、AND回路65と、を有している。
第1検出ユニット62及び第2検出ユニット63は、それぞれ、順に直列接続された電圧検出回路541と、微分回路542と、比較器543と、パルス発生器544と、を含む。電圧検出回路541は、入力側において、第1電気回路59又は第2電気回路60と接続されている。電圧検出回路541は、出力側において、微分回路542と接続されている。微分回路542の出力側は、比較器543の負側入力端に接続されている。比較器543は、正側入力端において図示しない基準電源と接続されており、基準電圧を供給されている。比較器543は、出力端においてパルス発生器544と接続されている。パルス発生器544は、出力側において、XOR回路64及びAND回路65と接続されている。
第1検出ユニット62及び第2検出ユニット63において、電圧検出回路541は、接続されている回路(すなわち、第1電気回路59又は第2電気回路60)に供給される電圧の値(電圧値)を検出する。微分回路542及び比較器543は、電圧検出回路541の検出結果に基づき、第1電気回路59又は第2電気回路60に供給される電圧値の変化(急降下)を検出する。パルス発生器544は、比較器543の出力に基づき、第1電気回路59又は第2電気回路60に供給される電圧値の変化(急降下)が生じた際に、パルスを出力する。
XOR回路64及びAND回路65は、出力側においてコントローラ40と接続されている。XOR回路64は、第1検出ユニット62及び第2検出ユニット63の一方のみからパルスを入力された際(すなわち、第1電気回路59及び第2電気回路60の一方において電圧値の変化(急降下)が生じた際)に、コントローラ40に対して信号(XOR信号)を出力する。AND回路65は、第1検出ユニット62及び第2検出ユニット63の双方からパルスを入力された際(すなわち、第1電気回路59及び第2電気回路60の双方において電圧値の変化(急降下)が生じた際)に、コントローラ40に対して信号(AND信号)を出力する。
このように構成される異常放電検出回路54は、第1電気回路59及び第2電気回路60の少なくとも何れかにおける電圧値の変化(急降下)が生じた際、これを検出して信号を出力する機能を有している。なお、異常放電検出回路54の構成については、必ずしも図4に示す態様には限定されず、適宜構成してもよい。
電流監視機構71は、X線管球50を流れる電流(以下、「管電流」とも称する)を監視する機能を有している。電流監視機構71は、例えば電流検出器により構成することができる。電流監視機構71の配置は特に限定されないが、ここでの電流監視機構71は、高圧電源51とアノード電極56との間に配置されている。
図2に戻り、コントローラ10は、機能的構成として、推定部10a、判断部10b、切替部10c、記憶部10d及び報知制御部10eを有している。推定部10aは、X線管球50内又はX線管球50外で発生した異常に基づき、故障の発生を推定する。X線管球50内の故障は、例えば、カソード電極57のフィラメントFの破断(フィラメント切れ)、及び、第1異常放電による破損を含む。X線管球50外の故障は、例えば、第2異常放電による破損を含む。推定部10aは、異常(管電流の増加、異常放電)を検知し、その検知結果に基づいて当該故障の発生を推測する。以下、各故障の推定について説明する。
(1)フィラメントFの破断の推定
コントローラ10は、電流監視機構71によりX線管球50を流れる管電流の減少を検知したとき、フィラメント電源52を制御してフィラメント電流を増加させる。フィラメント電流が増加すると、フィラメントFの温度が上昇して、フィラメントFから放出される熱電子の量が増える。この熱電子の量はX線管球50を流れる管電流に比例するため、管電流を増加させることになる。一方、電流監視機構71により管電流の増加を検知したとき、フィラメント電流を減少させ、管電流を減少させる。このように、コントローラ10は、電流監視機構71の検知結果に基づき管電流の増減を監視し、管電流を一定(基準電流値)に維持するようにフィラメント電源52を制御する。
X線管球50のフィラメントFは、一般的に、タングステン等の金属を焼結させて製造したものである。そのため、フィラメントFには結晶粒界が存在する。X線発生装置100の使用に伴い、フィラメントFの結晶粒界に沿って微細な亀裂又はずれが発生することがある。この亀裂等によりフィラメントFの電気抵抗が増大すると共にフィラメント電流が減少し、フィラメント電流の減少に比例して管電流が減少する。コントローラ10は、減少した管電流を基準電流値に戻そうとするので、フィラメント電源52を制御してフィラメント電流を増加させる。フィラメント電流が増加すると、フィラメントFの温度が上昇して、フィラメントFを構成する金属が延びて亀裂又はずれの部分が密着する。
亀裂等の密着によりフィラメントFの電気抵抗が小さくなるので、フィラメント電流が急激に増加し、これに伴い管電流が増加する。コントローラ10は、増加した管電流を基準電流値に戻そうとするので、フィラメント電源52を制御してフィラメント電流を減少させる。フィラメント電流が減少すると、フィラメントFの温度が低下して、フィラメントFを構成する金属が縮んで亀裂又はずれが再び発生し、フィラメント電流が減少する。以上の現象が繰り返されることにより、コントローラ10により管電流が基準電流値で一定となる状態に制御しているにも関わらず、管電流の変動具合に数Hzから数kHzの振動現象が発生することが見出される。
そこで、推定部10aは、電流監視機構71で測定される電流値のデータを逐次取得して蓄積し、電流値のデータ波形を生成する。このデータ波形を基に電流値の変動具合(波形の振幅Ap、振動数fn、継続時間t等の値や変化量の少なくとも一つ)を取得する。推定部10aは、電流値の変動具合に基づいてフィラメントFの破断予兆の有無を判定する。
例えば推定部10aは、振幅Apが1μA以上であり、振動数fnがフィラメント電源52等のインバータ電源の発信周波数(20kHz)よりも小さく、継続時間tが0.5時間以上という振動を検知したときに、フィラメントFの破断予兆ありと判定する。例えば推定部10aは、電流値の直流分をカットした後、10kHz又は100Hz等の所定閾値を予め設定し、この所定閾値よりも小さい振動数が検知されたときに、フィラメントFの破断予兆ありと判定してもよい。例えば推定部10aは、振幅Apが1μA以上であり、20kHzよりも小さい振動数fnの振動が所定時間以上継続する場合に、フィラメントFの破断予兆ありと判定する。例えば推定部10aは、振幅Apが1μA以上であり、20kHzよりも小さい振動数fnの振動が発生した場合に、フィラメントFの破断予兆ありと判定する。
(2)第1異常放電及び第2異常放電による破損の推定
推定部10aは、異常放電が生じた際に、X線管球50内における異常放電である第1異常放電、及び、X線管球50外であってタンク53内における異常放電である第2異常放電の何れが生じたかを判定する。推定部10aは、当該判定結果に基づき、第1異常放電による破損(例えばX線管球50の割れ)の有無を推定、及び、第2異常放電による破損(例えばタンク53の割れ)の有無を推定する。
具体的には、推定部10aは、XOR信号フラグ又はAND信号フラグが立てられると異常放電が生じたことを検出する。より具体的には、図2〜図4に示されるように、推定部10aは、XOR信号フラグが立てられた場合(すなわち、第1電気回路59及び第2電気回路60の一方において電圧値の変化(急降下)が検出された場合)、第2異常放電が生じたと判定する。つまり、推定部10aは、第1電気回路59及び第2電気回路60の一方における電圧値の変化に基づき第2異常放電を検出する。また、推定部10aは、AND信号フラグ420が立てられた場合(すなわち、第1電気回路59及び第2電気回路60の双方において電圧値の変化(急降下)が検出された場合)、第1異常放電が生じたと判定する。つまり、異常放電判定部47は、第1電気回路59及び第2電気回路60の双方における電圧値の変化に基づき第1異常放電を検出する。
推定部10aは、第2異常放電が生じたと判定したとき(XOR信号フラグが立てられたとき)には、直ちに、発生した異常放電が耐用年数の経過に起因する異常放電であると判断して、第2異常放電による破損の発生を推定する。
推定部10aは、第1異常放電が生じたと判定したとき(AND信号フラグが立てられたとき)には、記憶部10dに当該判定を行った時刻(第1異常放電の検出時刻)に関する情報を格納する。この際、推定部10aは、記憶部10dに記憶されている以前の第1異常放電の検出時刻に関する情報を取得する。そして、推定部10aは、取得した検出時刻に関する情報に基づき、第1異常放電の発生頻度が異常か否か(具体的には、所定期間における第1異常放電の発生回数が第1閾値ΔTh1以上であるか否か)を判定する。当該判定において、所定期間における第1異常放電の発生回数が第1閾値ΔTh1以上であるとき(すなわち、第1異常放電の発生頻度が異常であるとき)には、発生した第1異常放電が耐用年数の経過に起因する異常放電であると判断して、第1異常放電による破損の発生を推定する。また、第1異常放電の発生回数が第1閾値ΔTh1以上でないとき(すなわち、第1異常放電の発生頻度が異常でないとき)には、推定部10aは、発生した第1異常放電がX線管球50の構造に起因する異常放電であると判断して、第1異常放電による破損を推定しない。例えば本実施形態では、所定期間は168時間(1週間)に設定されており、第1閾値ΔTh1は3(回)に設定されている。
ここで、推定部10aによる推定処理は、次の原理に基づいている。異常放電が生じた際には、X線照射部6内の回路(特に、第1電気回路59及び/又は第2電気回路60)において電圧値の変化(急降下)が生じる。この際、第1異常放電が生じた場合には、第1電気回路59及び第2電気回路60の双方において電圧値の変化(急降下)が生じる。また、第2異常放電が生じた場合には、第1電気回路59及び第2電気回路60の一方のみにおいて電圧値の変化(急降下)が生じる。X線管球50の構造に起因する異常放電については、主にX線管球50内において生じるため、原則として第1異常放電として発生し得る。一方、耐用年数の経過に起因する異常放電については、X線管球50内及びX線管球50外であってタンク53において生じるため、第1異常放電及び第2異常放電の何れかの異常放電として発生し得る。
このことから、第2異常放電が生じた場合には、直ちに耐用年数の経過に起因する異常放電が生じたと判定することが可能である。よって、推定部10aは、XOR信号フラグが立てられているときには、直ちに、第2異常放電による破損を推定する。
また、第1異常放電が生じた場合には、X線管球50の構造に起因する異常放電、及び耐用年数の経過に起因する異常放電の何れに該当するものかを判定する必要がある。この点、第1異常放電が生じる頻度(すなわち、X線管球50内における異常放電の発生頻度)は、X線管球50又はタンク53の使用年数が耐用年数(交換時機)に近づくにつれて増加する。よって、第1異常放電の発生頻度に基づき、生じた第1異常放電が耐用年数の経過に起因する異常放電であるか否かを判断することが可能となると共に、メンテナンスの必要性の有無を判断することが可能となる。
このことから、第1異常放電が所定頻度を越えて生じた場合(すなわち、第1異常放電の発生頻度が異常な場合)には、耐用年数の経過に起因する異常放電が生じたと判定することが可能である。よって、推定部10aは、AND信号フラグが立てられた場合には、所定期間における第1異常放電の発生回数が第1閾値ΔTh1以上であるか否かを判定し、第1異常放電の発生回数が第1閾値ΔTh1以上であるときには、第1異常放電による破損を推定する。一方で、推定部10aは、第1異常放電の発生回数が第1閾値ΔTh1未満であるときには、第1異常放電による破損を推定しない。
図2及び図3に示されるように、判断部10bは、推定部10aで推定した故障の内容に応じて、寿命延長駆動条件を判断する。寿命延長駆動条件とは、X線発生装置100の寿命を延長させる駆動条件である。判断部10bは、カソード電極57のフィラメントFの破断を推定部10aにより推定した場合、X線管球50の管電流の低下を寿命延長駆動条件(以下、「フィラメント寿命延長駆動条件」という)として判断する。フィラメント寿命延長駆動条件では、管電流の低下量は、検査する物品Gの種類等に応じて設定できる。フィラメント寿命延長駆動条件では、管電流の低下と共に、管電圧及びX線検出部7のゲインの少なくとも何れかを増加してもよい。以下、詳説する。
フィラメントFは、フィラメント電流Ifを流し赤熱させることにより、カソード電極57に対して熱電子を送り込む機能を果たしており、この電子の流れが管電流Ipとなる。管電流Ipは、カソード電極57に印加する管電圧Vpに依存する。管電圧Vpを上げることにより電子は加速され、管電流Ipは増加する。最終的に目的とするX線は、電子がアノード電極56のターゲットTに衝突することで発生するが、X線の強さ(エネルギ)は管電圧Vpに対して2乗に比例する特性がある。一方、管電流Ipは、リニアに変化する。
X線管球50の駆動条件において、できるだけ管電流Ipを少なくする設定を考慮すると、管電圧Vpを上げることによりエミッションが上がるため、管電流Ipを減らすことができ、熱電子の量すなわちフィラメント電流Ifを減らすことができる。これは、フィラメントFの温度上昇を低減(=昇華する速度を低減)できるので、フィラメントFのストレス低減に繋がり、最終的に延命に関する効果となる。実際には、フィラメント寿命延長駆動条件では、検出感度等は同等レベルの性能を期待され、撮像上で同等レベルのX線の強さを求められる。そのため、フィラメント寿命延長駆動条件では、X線の強さに2乗で効く管電圧Vpを上げ、管電流Ipを下げる設定とする。
例えば、下式(A)のように、管電圧Vpを10%向上すると、X線の強さが121%となり、上昇分を管電圧Vpで下げると、管電流Ip/1.21となる。
電力Wp=(Vp×1.1)×(Ip/1.21) …(A)
これにより、X線の強さを維持しつつ、約90%の電力Wpで駆動でき、アノード電極56を中心にX線管球50全体の温度を下げ、その動作環境に対する負荷低減に寄与できる。管電流Ipを減らすことは、フィラメント電流Ifの低減でもあり、フィラメントFで消費する電力を抑えることにより直接温度を下げることに繋がり、ターゲットTの昇華する速度の低減となる。昇華にて経時的に上昇するフィラメントFの抵抗値Rfとすると、フィラメント温度に影響する電力Wfとの関係は下式(B)であり、効率的にフィラメント電流Ifを下げることは、延命効果に寄与する。なお、フィラメント寿命延長駆動条件では、管電圧Vpが既に最高電圧値の設定になっている場合には、管電流Ipのみを下げてもよい。
電力Wf=電圧(電流×抵抗)×電流=If^2×Rf …(B)
判断部10bは、X線管球50内の異常放電である第1異常放電又はX線管球50外の異常放電である第2異常放電による破損を推定部10aにより推定した場合、X線管球50の管電圧Vpの低下を寿命延長駆動条件(以下、「放電時寿命延長駆動条件」という)として判断する。放電時寿命延長駆動条件では、管電圧Vpの低下量は、検査する物品Gの種類等に応じて設定できる。放電時寿命延長駆動条件では、管電圧Vpの低下と共に、管電流Ip及びX線検出部7のゲインの少なくとも何れかを増加してもよい。
放電時寿命延長駆動条件では、理想的には、放電が発生しない限界電圧まで管電圧Vpを下げることにより放電を抑制する。X線は加速された電子がアノード電極56のターゲットTに衝突することにより発生するが、X線の強さは管電圧Vpに対して2乗に比例する一方、管電流Ipはリニアに変化する。したがって、放電緩和措置のために管電圧Vpを下げると、撮像するX線の強さを維持するためには、管電流Ipを大きく上げる必要がある。仮に管電圧Vpが半分になれば、管電流Ipは4倍に設定しなければ同等にならない。この点、X線発生装置100の最大出力(≦X線管球50の最大入力)及び管電流Ipの仕様上の制限より同等とするのは難しく、X線検出部7のゲインを上げることも含めて不足分を補う。
例えば、元の管電圧Vpを0.8倍した電圧Vs(=Vp×0.8)を設定し、元の管電流Ipを0.8で割ったものを2乗した電流Is(=(Ip/0.8)^2=Ip×1.55)を設定する。電流Isが管電流Ipの上限を超えるか、Vs×IsがX線発生装置100の最大出力以上であれば、管電圧Vpを0.9倍し、管電流Ipを0.9で割ったものを2乗する(Ip×1.23)。なお、電流Isが管電流Ipの上限を超えていれば、その上限を管電流Ipとして採用する放電時寿命延長駆動条件を作成してもよい。管電流Ipが既に最高電流値の設定になっている場合には、管電圧Vpのみを下げてもよい。
切替部10cは、推定部10aにより故障の発生を推定した場合、駆動条件を、通常時の駆動条件である通常駆動条件から寿命延長駆動条件へ切り替える。これにより、コントローラ10は、寿命延長駆動条件でX線発生装置100を制御する。ここでの切替部10cは、寿命延長駆動条件での運転の了承がLCDディスプレイ8を介してユーザから得られた場合、寿命延長駆動条件へ駆動条件を切り替える。
記憶部10dは、ROM、RAM、HDD(Hard Disk Drive)及びフラッシュメモリ等により構成されており、揮発性の記憶領域及び不揮発性の記憶領域を有している。記憶部10dは、各種の制御プログラム、各種のフラグ、生成されるX線画像、第1異常放電の検出時刻、通常駆動条件及び寿命延長駆動条件等を記憶する領域である。
報知制御部10eは、LCDディスプレイ8の動作を制御する。報知制御部10eは、推定部10aにより故障が推定された場合、LCDディスプレイ8の表示画面及びスピーカの少なくとも何れかを介して、推定した故障を表示ないし音声で報知する。報知制御部10eは、判断部20bにおいて寿命延長駆動条件が判断された場合に、表示画面及びスピーカの少なくとも何れかを介して、当該寿命延長駆動条件を表示ないし音声出力で報知する。報知制御部10e及びLCDディスプレイ8は、報知部を構成する。
次に、X線発生装置100において、発生し得る故障に対応した動作の一例について説明する。
事前に、検査する物品Gに対応する通常駆動条件をコピーし、記憶部10dに記憶する。通常駆動条件に対して管電流Ipが低く且つ管電圧Vpが高いフィラメント寿命延長駆動条件と、通常駆動条件に対して管電圧Vpが低く且つ管電流Ipが高い放電時寿命延長駆動条件と、を準備して記憶部10dに記憶する。このとき、当該準備の有無がわかるよう、通常駆動条件には、フィラメント寿命延長駆動条件及び放電時寿命延長駆動条件に関する予約番号を関連付けておく。
推定部10aによりフィラメントFの破断が推定された場合には、判断部10bにより寿命延長駆動条件を判断する。すなわち、記憶部10dに記憶されたフィラメント寿命延長駆動条件を、寿命延長駆動条件として判断する。その旨をLCDディスプレイ8を介してユーザに報知する。そして、寿命延長駆動条件での運転を了承する旨がユーザからLCDディスプレイ8を介して入力された場合に、切替部10cにより駆動条件をフィラメント寿命延長駆動条件へ切り替える。
他方、推定部10aにより第1異常放電及び第2異常放電による破損が推定された場合には、通常駆動条件の管電圧Vp(つまり、その時点で運用している管電圧Vpの設定値)がX線発生装置100の最大定格電圧の50%以上か否かを判定する。管電圧Vpが最大定格電圧の50%に満たなければ、放電の要因が管電圧Vp以外である可能性が高いため、積極的な延命策(駆動条件の寿命延長駆動条件への変更)を行わない。
管電圧Vpが最大定格電圧の50%以上であれば、判断部10bにより寿命延長駆動条件を判断する。すなわち、記憶部10dに記憶された放電時寿命延長駆動条件を、寿命延長駆動条件として判断する。その旨をLCDディスプレイ8を介してユーザに報知する。そして、寿命延長駆動条件での運転を了承する旨がユーザからLCDディスプレイ8を介して入力された場合に、切替部10cにより駆動条件を放電時寿命延長駆動条件へ切り替える。
なお、寿命延長駆動条件が記憶部10dに予め記憶されていなければ、その時点で寿命延長駆動条件を作成してもよい。寿命延長駆動条件での運転の了承がユーザから得られない場合には、例えば駆動条件を切り替えない旨をLCDディスプレイ8を介して報知した上で、駆動条件をそのままとしてもよい。
ちなみに、駆動条件を寿命延長駆動条件へ切り替えた後には、X線検査装置1においてX線の撮像条件が変わっているため、コントラスト、検出感度、欠品検査性能等の確認ないし調整作業が行われる。例えば、通常駆動条件で撮像したX線透過画像を記憶部10dに残しておき、残したX線透過画像の濃淡ヒストグラムに対して寿命延長駆動条件で撮像したX線透過画像の濃淡ヒストグラムを合わせ込むように、変換テーブル(Look Up11 Table)を変更してもよい。
以上、X線発生装置100では、推定部10aにより推定した故障の内容に応じて、寿命延長駆動条件が判断部10bにより判断される。したがって、故障の発生が推定された場合に、当該故障に適した寿命延長が可能な駆動条件を把握することができる。推定した故障に対する緩和措置を講じることができる。故障推定後に仮に継続的に使用された場合でも故障発生を低減できるように、当該故障に適した寿命延長を図り、保守の緊急度を低下させることが可能となる。
X線発生装置100では、判断部10bは、フィラメントFの破断を推定部10aにより推定した場合に、管電流Ipの低下を寿命延長駆動条件として判断する。これにより、フィラメントFの破断に適した寿命延長が可能な駆動条件を把握できる。
X線発生装置100では、判断部10bは、第1異常放電又は第2異常放電による破損を推定部10aにより推定した場合、管電圧Vpの低下を寿命延長駆動条件として判断する。これにより、異常放電による破損に適した寿命延長が可能な駆動条件を把握できる。
X線発生装置100では、切替部10cは、推定部10aにより故障の発生を推定した場合、判断部10bにより判断した寿命延長駆動条件へ駆動条件を切り替える。この構成によれば、推定した故障に適した寿命延長を実現することができる。
X線発生装置100では、LCDディスプレイ8は、推定部10aにより故障の発生を推定した場合、判断部10bにより判断した寿命延長駆動条件を報知する。これにより、寿命延長駆動条件をガイダンスすることができる。
X線検査装置1においても、上述したX線発生装置100が搭載されていることから、X線発生装置100と同様に、故障の発生が推定された場合に当該故障に適した寿命延長が可能な駆動条件を把握できる等の効果が奏される。また、X線検査装置1では、故障によるNG品(不良品の物品G)の再検査のリスク及び作業時間ロスを低減できる。故障によるNG品の廃棄を抑制できる。
以上、一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
上記実施形態では、推定部10aにより推定する故障は、フィラメントFの破断及び異常放電による破損に特に限定されない。公知手法を用いて種々の故障を推定してもよい。上記実施形態では、寿命延長駆動条件は、フィラメント寿命延長駆動条件、及び、放電時寿命延長駆動条件に特に限定されない。寿命延長駆動条件は、X線発生装置100の寿命を延長させる駆動条件であれば、種々の駆動条件であってもよい。
上記実施形態では、切替部10cは、推定部10aにより故障の発生を推定した場合、駆動条件を寿命延長駆動条件へ自動的に切り替えてもよい。この場合、推定した故障に適した寿命延長を自動的に実現することができる。上記実施形態では、報知部としてLCDディスプレイ8を用いたが、LCDディスプレイ8に代えてもしくは加えて、寿命延長駆動条件を報知可能な種々の装置を報知部として用いてもよい。