以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は一例であり、本発明はこの実施形態により限定されるものではない。
まず、図1を参照して、本実施形態に係る油圧機械式変速機を搭載した車両1の全体構成について説明する。図1には、車両1の前後方向が描かれている。以下の説明では、車両前側を単に「前」、車両後側を単に「後」と呼ぶことがある。
車両1は、駆動源10と、ダンパ20と、差動機構30と、油圧変速部40と、有段変速部50と、制御装置80とを備えている。そして、有段変速部50の出力側に、プロペラシャフト61、デファレンシャル62およびドライブシャフト63を介して、駆動輪64が動力伝達可能に連結されている。
駆動源10は、例えばディーゼルエンジンである。なお、駆動源10は、ガソリンエンジン、電動機等でも構わない。駆動源10の出力軸11には、ダンパ20の入力側部材21が接続されている。なお、以下において、駆動源10はディーゼルエンジンであるとして説明を行う。
ダンパ20は、入力側部材21と、出力側部材22と、入力側部材21と出力側部材22とを弾性的に連結する弾性連結部材23とを備える。ダンパ20の出力側部材22は、差動機構30の入力軸31と接続されている。ダンパ20は、駆動源10の発生する回転振動が差動機構30に伝達されるのを抑制する機能を有する。ダンパ20の構造は一般的なダンパの構造と同様であるため、詳細な説明を省略する。
差動機構30は、円周方向に等配に設けられた複数のベベルギヤ32、第1差動出力ギヤ33および第2差動出力ギヤ34を備えている。ベベルギヤ32は、図1に示すように、入力軸31に相対回転可能に軸支されている。第1差動出力ギヤ33は、第1ポンプモータ41の第1入出力軸41aの前端に設けられている。第2差動出力ギヤ34は、差動出力軸35の前端に設けられている。
差動出力軸35は、第1入出力軸41aと同軸かつ第1入出力軸41aの外周側に設けられた円筒状の部材である。差動出力軸35の後端には、第1ギヤ36が設けられている。差動出力軸35は、不図示の軸受を介して、第1入出力軸41aに軸支されている。第1ギヤ36は、第2ポンプモータ42の第2入出力軸42aの前端に設けられた第2ギヤ37と噛合している。
なお、本実施形態では、第1差動出力ギヤ33の歯数は、第2差動出力ギヤ34の歯数と同一である。また、第1ギヤ36の歯数は、第2ギヤ37の歯数と同一である。差動機構30の構造は一般的なベベルギヤ型差動機構の構造と同様であるため、詳細な説明を省略する。
油圧変速部40は、第1ポンプモータ41と、第2ポンプモータ42と、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42を油圧接続する閉回路43とからなる。また、閉回路43には、高圧側油路43aの油圧が所定油圧以上となった場合に開き、圧油を低圧側油路43bへ排出するリリーフ弁44が設けられている。なお、図1では、閉回路43における一部の構成部品(チャージポンプ、チャージ油路等)を省略している。
第1ポンプモータ41は、押し除け容積をゼロから正負の両方向に変化させることのできる、いわゆる両振り型のポンプモータである。第1ポンプモータ41の第1入出力軸41aは、第1ポンプモータ41を前から後へ貫通している。このような第1ポンプモータ41としては、アキシャルピストン型、ラジアルピストン型等、各種の形式のものを採用することができる。なお、第1ポンプモータ41は、本発明の「他方の可変容量型ポンプモータ」に相当する。
第2ポンプモータ42は、押し除け容積をゼロから正負の両方向に変化させることのできる、いわゆる両振り型のポンプモータである。第2ポンプモータ42の第2入出力軸42aは、第2ポンプモータ42を前から後へ貫通している。このような第2ポンプモータ42としては、アキシャルピストン型、ラジアルピストン型等、各種の形式のものを採用することができる。なお、第2ポンプモータ42は、本発明の「一方の可変容量型ポンプモータ」に相当する。
なお、本実施形態では、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42は同形式のものを用いている。また、第1ポンプモータ41の最大押し除け容積は、第2ポンプモータ42の最大押し除け容積と等しい。
有段変速部50は、第1入出力軸41aと、第1入出力軸41aと平行に配置された第2入出力軸42aと、副軸51と、出力軸52とを備えている。なお、第1入出力軸41aは、本発明の「他方の可変容量型ポンプモータの入出力軸」に相当する。また、第2入出力軸42aは、本発明の「一方の可変容量型ポンプモータの入出力軸」に相当する。
第1入出力軸41aの前端には、上述のとおり、差動機構30の第1差動出力ギヤ33が設けられている。また、第1入出力軸41aの後端には、第1入力ハブ41bが、第1入出力軸41aと一体回転するように設けられている。
副軸51は、第1入出力軸41aと同軸かつ第1入出力軸41aの外周側に設けられた円筒状の部材である。副軸51の前端には第1副ギヤ53が設けられ、副軸51の後端には第2副ギヤ54が設けられている。
第1入力ギヤ55は、第1入出力軸41aの外周側に、第1入出力軸41aに対して相対回転可能に設けられている。第1入力ギヤ55は、副軸51と第1入力ハブ41bとの間に設けられている。
第2入出力軸42aの前端には、上述のとおり、差動機構30の第2ギヤ37が設けられている。また、第2入出力軸42aの後端には、第2入力ハブ42bが、第2入出力軸42aと一体回転するように設けられている。
第2入力ギヤ56は、第2入出力軸42aと一体回転するように設けられている。第2入力ギヤ56は、第2ポンプモータ42と第2入力ハブ42bとの間に設けられている。第2入力ギヤ56は、第1副ギヤ53と噛合している。
出力軸52の前端には、出力ハブ57が、出力軸52と一体回転するように設けられている。第1出力ギヤ58は、出力軸52の外周側に、出力軸52に対して相対回転可能に設けられている。第1出力ギヤ58は、出力ハブ57の後側に設けられている。第1出力ギヤ58は、第2副ギヤ54と噛合している。
第2出力ギヤ59は、出力軸52と一体回転するように設けられている。第2出力ギヤ59は、第1出力ギヤ58の後側に設けられている。第2出力ギヤ59は、第1入力ギヤ55と噛合している。
有段変速部50には、第1入出力軸41aと第1入力ギヤ55とを選択的に一体回転可能に連結する第1連結機構71が設けられている。第1連結機構71は、第1入力ハブ41bと、第1入力ギヤ55と一体に設けられた第1クラッチギヤ55aと、第1スリーブ72とを備えている。
第1スリーブ72は、第1入力ハブ41bの外周側に、第1入力ハブ41bと一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に設けられている。第1スリーブ72が図1に示す後位置の場合、第1入出力軸41aと第1入力ギヤ55とは相対回転可能である。
第1スリーブ72を前位置とすることで、第1入力ギヤ55は、第1入出力軸41aと一体に回転する。本実施形態では、第1連結機構71として一般的なシンクロナイザ方式のものを使用している。シンクロナイザ方式の連結機構は公知であるため、詳細な説明は省略する。なお、第1連結機構71は、本発明の「第2の係合機構」に相当する。
有段変速部50には、第2入出力軸42aと出力軸52、または、第1出力ギヤ58と出力軸52とを、選択的に一体回転可能に連結する第2連結機構73が設けられている。第2連結機構73は、第2入力ハブ42bと、出力ハブ57と、第1出力ギヤ58と一体に設けられた出力クラッチギヤ58aと、第2スリーブ74とを備えている。
第2スリーブ74は、出力ハブ57の外周側に、出力ハブ57と一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に設けられている。第2スリーブ74が図1に示す中央位置の場合、第2入出力軸42aと出力軸52とは相対回転可能である。また、第2スリーブ74が図1に示す中央位置の場合、第1出力ギヤ58と出力軸52とは相対回転可能である。
第2スリーブ74を前位置とすることで、出力軸52は、第2入出力軸42aと一体に回転する。また、第2スリーブ74を後位置とすることで、出力軸52は、第1出力ギヤ58と一体に回転する。なお、第2連結機構73は、本発明の「第1の係合機構」に相当する。
ここで、図2を参照して、有段変速部50の動作について説明する。図2は、有段変速部50の状態と、各スリーブ72および74の動作状態との関係を示す図表である。
第1スリーブ72が後位置とされ、第2スリーブ74が後位置とされる状態を、「第1伝動状態」という(図3を参照)。第1伝動状態では、駆動源10からの動力は、第2入出力軸42aから、第2入力ギヤ56、第1副ギヤ53、第2副ギヤ54および第1出力ギヤ58を経由して出力軸52へ伝達される。
第1スリーブ72が前位置とされ、第2スリーブ74が中央位置とされる状態を、「第2伝動状態」という(図5を参照)。第2伝動状態では、駆動源10からの動力は、第1入出力軸41aから、第1入力ギヤ55および第2出力ギヤ59を経由して出力軸52に伝達される。
第1スリーブ72が後位置とされ、第2スリーブ74が前位置とされる状態を、「第3伝動状態」または「直結状態」という(図7を参照)。第3伝動状態では、駆動源10からの動力は、第2入出力軸42aから、直接出力軸52に伝達される。
さらに、本実施形態では、有段変速部50は、上述の各変速状態の他に、以下に示す変速状態を取る。第1スリーブ72が前位置とされ、第2スリーブ74が後位置とされる状態を「第1中間伝動状態」という(図4を参照)。
第1中間伝動状態では、駆動源10からの動力は、第2入出力軸42aから、第2入力ギヤ56、第1副ギヤ53、第2副ギヤ54および第1出力ギヤ58を経由して出力軸52に伝達されるとともに、第1入出力軸41aから、第1入力ギヤ55および第2出力ギヤ59を経由して出力軸52に伝達される。
また、第1中間伝動状態では、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42の容量が調整され、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42が仕事をしないようにされる。
第1スリーブ72が前位置とされ、第2スリーブ74が前位置とされる状態を「第2中間伝動状態」という(図6を参照)。
第2中間伝動状態では、駆動源10からの動力は、第1入出力軸41aから、第1入力ギヤ55および第2出力ギヤ59を経由して出力軸52に伝達されるとともに、第2入出力軸42aから、出力軸52に直接伝達される。
また、第2中間伝動状態では、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42の容量が調整され、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42が仕事をしないようにされる。
本実施形態では、第2入力ギヤ56、第1副ギヤ53、第2副ギヤ54および第1出力ギヤ58の歯数は、第1伝動状態において、第2入出力軸42aの回転が減速して出力軸52に伝達されるように、設定されている。また、第1入力ギヤ55および第2出力ギヤ59の歯数は、第2伝動状態において、第1入出力軸41aの回転が減速して出力軸52に伝達されるように、設定されている。
第1伝動状態における変速比(第2入出力軸42aの回転数/出力軸52の回転数)をα1、第2伝動状態における変速比(第1入出力軸41aの回転数/出力軸52の回転数)をα2とすると、α1>α2>1である。なお、α1、α2および1(直結)の関係はこれに限定されない。具体的には、例えば、α1<α2<1とすることも可能である。
図1に戻って、制御装置80は、駆動源10、油圧変速部40(第1ポンプモータ41、第2ポンプモータ42)、有段変速部50(第1スリーブ72、第2スリーブ74)の制御を行う。
制御装置80は、駆動源10を制御するエンジン制御部81(本発明の「駆動源制御部」)と、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42を制御する油圧変速制御部82(本発明の「変速制御部」)と、第1スリーブ72および第2スリーブ74を制御する係合機構制御部83とを機能要素として備える。
なお、本実施形態では、エンジン制御部81、油圧変速制御部82および係合機構制御部83を制御装置80に含まれるものとして説明するが、エンジン制御部81、油圧変速制御部82および係合機構制御部83は、それぞれ独立したハードウェアとすることもできる。
次に、図3〜図8を参照して、変速動作について説明する。図3〜図7は、各伝動状態におけるスケルトン図である。図8は、速度比と押し除け容積との関係を示す図である。
車両1の発進は、図3に示す第1伝動状態で行われる。この場合、第1ポンプモータ41はポンプとして動作し、第2ポンプモータ42はモータとして動作する。なお、以下の説明において、「ポンプとして動作」および「モータとして動作」は、駆動源10により車両1が駆動されている場合(すなわち、タイヤが正の仕事をしている場合)における第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42の役割をいう。車両1が車輪側から駆動されている場合(すなわち、エンジンブレーキを掛ける場合)には、ポンプおよびモータの役割は逆転する。
車両1を発進させるには、第2ポンプモータ42の押し除け容積を最大に保持した状態で、ポンプとして動作する第1ポンプモータ41の押し除け容積を、ゼロから徐々に増大させていく。こうすることで、図8に示すように、速度比(出力軸52の回転数Nout/駆動源10の回転数Nin)がゼロから上昇していく。
なお、このとき、第1ポンプモータ41から第2ポンプモータ42への吐出圧が一定となるように駆動源10の出力トルクを制御した場合(すなわち、増加するポンプ側押し退け容積に合わせて駆動源10の出力トルクを増加させた場合)には、第2ポンプモータ42が発生するトルクは一定となる。また、差動歯車から第2ポンプモータ42の第2入出力軸42aへ伝達されるトルクは増加する。したがって、出力軸52に伝わるトルクは増大する。
第1ポンプモータ41の押し除け容積が最大になると、第1ポンプモータ41の押し除け容積を最大に保持した状態で、モータとして動作する第2ポンプモータ42の押し除け容積をゼロに向けて徐々に減少させていく。こうすることで、速度比はさらに上昇していく。
第2ポンプモータ42の押し除け容積を徐々に減少させていき、第2ポンプモータ42の押し除け容積がQ1となると、第1入力ハブ41bの回転数(すなわち、第1入出力軸41aの回転数)と、第1入力ギヤ55の回転数とが一致する。
このタイミングで、第1伝動状態から第1中間伝動状態への変速が行われる。具体的には、第1スリーブ72を前位置に移動させる(図4を参照)。これにより、駆動源10からの動力は、第2入出力軸42aから、第2入力ギヤ56、第1副ギヤ53、第2副ギヤ54および第1出力ギヤ58を経由して出力軸52に伝達されるとともに、第1入出力軸41aから、第1入力ギヤ55および第2出力ギヤ59を経由して出力軸52に伝達される。
第1中間伝動状態では、駆動源10からの動力は、油圧変速部40において油圧に変換されることなく、第1入出力軸41aおよび第2入出力軸42aから出力軸52へ出力される。そのため、第1中間伝動状態は、第1伝動状態および第2伝動状態に比べ、伝達効率が良い。
さらに、この状態から、第2伝動状態への変速が行われる。具体的には、第2スリーブ74を後位置から中央位置に移動させ、第2ポンプモータ42の第2入出力軸42aから出力軸52への動力伝達を遮断する(図5を参照)。第2伝動状態への変速が完了することで、第1伝動状態においてポンプとして動作していた第1ポンプモータ41がモータとして動作し、モータとして動作していた第2ポンプモータ42がポンプとして動作することになる。
続いて、第1ポンプモータ41の押し除け容積を最大に保持した状態で、ポンプとして動作する第2ポンプモータ42の押し除け容積を、Q1から徐々に増大させていく。こうすることで、速度比がさらに上昇していく。
第2ポンプモータ42の押し除け容積が最大になると、第2ポンプモータ42の押し除け容積を最大に保持した状態で、モータとして動作する第1ポンプモータ41の押し除け容積をゼロに向けて徐々に減少させていく。こうすることで、速度比がさらに上昇していく。
第1ポンプモータ41の押し除け容積を徐々に減少させていき、第1ポンプモータ41の押し除け容積がQ2となると、第2入力ハブ42bの回転数(すなわち、第2入出力軸42aの回転数)と、出力ハブ57の回転数(すなわち、出力軸52の回転数)とが一致する。
このタイミングで、第2伝動状態から第2中間伝動状態への変速が行われる。具体的には、第2スリーブ74を前位置に移動させる(図6を参照)。これにより、駆動源10からの動力は、第1入出力軸41aから、第1入力ギヤ55および第2出力ギヤ59を経由して出力軸52に伝達されるとともに、第2入出力軸42aから、出力軸52に直接伝達される。
第2中間伝動状態では、駆動源10からの動力は、油圧変速部40において油圧に変換されることなく、第1入出力軸41aおよび第2入出力軸42aから出力軸52へ出力される。そのため、第2中間伝動状態は、第2伝動状態および第3伝動状態に比べ、伝達効率が良い。
さらに、この状態から、第3伝動状態への変速が行われる。具体的には、第1スリーブ72を前位置から後位置に移動させ、第1ポンプモータ41の第1入出力軸41aから出力軸52への動力伝達を遮断する(図7を参照)。第3伝動状態への変速が完了することで、第2伝動状態においてポンプとして動作していた第2ポンプモータ42がモータとして動作し、モータとして動作していた第1ポンプモータ41がポンプとして動作することになる。
続いて、第2ポンプモータ42の押し除け容積を最大に保持した状態で、ポンプとして動作する第1ポンプモータ41の押し除け容積を、Q2から徐々に増大させていく。こうすることで、速度比がさらに上昇していく。
第1ポンプモータ41の押し除け容積が最大になると、第1ポンプモータ41の押し除け容積を最大に保持した状態で、モータとして動作する第2ポンプモータ42の押し除け容積をゼロに向けて徐々に減少させていく。こうすることで、速度比がさらに上昇していく。そして、第2ポンプモータ42の押し除け容積が略ゼロとなるまで、速度比は上昇していく。
なお、速度比を減少させる場合も同様であり、第3伝動状態から第2中間伝動状態、第2中間伝動状態から第2伝動状態、第2伝動状態から第1中間伝動状態、第1中間伝動状態から第1伝動状態への変速が順次行われる。
次に、図9、図10Aおよび図10Bを参照して、高トルク発進について説明する。図9は、高トルク発進制御の処理を示すフローチャートである。また、図10Aおよび図10Bは、通常発進時および高トルク発進時における、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42の押し除け容積、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42の吐出(吸入)流量、および高圧側油路43aにおける圧力Pの推移を示すタイムチャートである。
まず、図9のフローチャートを参照して、高トルク発進制御処理について説明する。図9に示す処理は、高トルク発進要求が行われた場合に実行される。ここで、「高トルク発進要求が行われた場合」とは、例えば、油圧変速部40における高圧側油路43aの圧力Pがリリーフ圧に達したにもかかわらず、車両1が停止したままの状態で、運転者によるアクセルペダルの踏み増しが行われた場合を指す。
ステップS1で、制御装置80(具体的には、駆動源制御部81)は、駆動源10を制御して、駆動源10の出力トルクを増大させる。
ステップS2で、制御装置80(具体的には、変速制御部82)は、第1ポンプモータ41を制御して、第1ポンプモータ41の押し除け容積を増大させる。
次に、図10Aおよび図10Bを参照して、車両の発進時における発進動作について説明する。まず、図10Aを参照して、通常の発進動作について説明する。時刻t0において、発進のために、モータとして動作する第2ポンプモータ42の押し除け容積が最大とされ、ポンプとして動作する第1ポンプモータ41の押し除け容積がゼロとされる。すると、駆動源10の回転により第1ポンプモータ41から圧油が高圧側油路43aへ供給され、時刻t0から時刻t1まで、高圧側油路43a内の圧力Pが上昇する。
時刻t1において、高圧側油路43a内の圧力PがP1となる(P=P1)。なお、実際には高圧側油路43aの圧力Pは瞬時にP1に達するが、図10Aでは時刻t0から時刻t1までの長さを誇張して記載している。また、P1は、車両1が動き出すのに必要なトルクに対応する高圧側油路43a内の圧力である。そのため、時刻t1において、車両1が発進する。
時刻t1以降、制御装置80からの制御信号に基づいて、時間の経過に応じて第1ポンプモータ41の押し除け容積が増大されて吐出流量が増大していく。また、第1ポンプモータ41が吐出した圧油をすべて受け取るかたちで、第2ポンプモータ42の吸入流量が上昇していく。
次に、図10Bを参照して、高積載時、登坂時等により、通常の発進動作では車両1の発進トルクが確保できない場合について説明する。なお、図10Bでは、車両1が動き出すのに必要なトルクに対応する高圧側油路43a内の圧力P2が記載されている。圧力P2は、リリーフ圧PMAXよりも高い圧力である。
高積載時、登坂時等では、時刻t11で高圧側油路43a内の圧力PがP1となっても、車両1を発進させることができない。
時刻t12において、高圧側油路43a内の圧力Pはリリーフ圧PMAXに達し、高圧側油路43a内の圧油が、リリーフ弁44を介して低圧側油路43bへ排出される。この状況で、例えば時刻t13において、運転者が発進を望んでアクセルペダルの踏み増しを行うと、上述の高トルク発進制御が行われる。すなわち、アクセルペダルの踏み増しに伴い、駆動源10の出力トルクが増大される。それとともに、第1ポンプモータ41の押し除け容積が増大される。
第1ポンプモータ41の押し除け容積が増大されることで、図10Bに示すように、ポンプの吐出流量と、モータの吸入流量とが一致しなくなるので、第1ポンプモータ41からの吐出流量だけが増大する。この時点で高圧側油路43a内の圧力はリリーフ圧PMAXに達しているため、高圧側油路43a内の圧油は、リリーフ弁44を介して低圧側油路43bへ排出される。。
一方、駆動源10の出力トルクが増大されることによって、機械式伝達経路経由で第2入出力軸42aへ伝達されるトルクも増大する。そして、時刻t14において、第2入出力軸42aへ伝達される、油圧式伝達経路経由のトルクおよび機械式伝達経路経由のトルクの合計トルクが、車両1の発進に必要なトルクに達すると、車両1が発進する。
時刻t14以降、制御装置80からの制御信号に基づいて、時間の経過に応じて第1ポンプモータ41の押し除け容積が増大されて吐出流量が増大していく。また、第2ポンプモータ42は、第1ポンプモータ41が吐出した圧油の一部を受け取ることになる。そのため、第2ポンプモータ42の吸入流量は、車両速度の増加(第2ポンプモータ42の回転数の増加)によって上昇し、第1ポンプモータ41の吐出流量から第2ポンプモータ42の吸入流量を減算した量の圧油がリリーフ弁44を介して低圧側油路43bへ排出される。
次に、図11および図12を参照して、一時的高トルク制御について説明する。図11は、一時的高トルク制御の処理を示すフローチャートである。また、図12は、一時的高トルク制御実行時の、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42の押し除け容積、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42の吐出(吸入)流量、および高圧側油路43aにおける圧力Pの推移を示すタイムチャートである。
まず、図11のフローチャートを参照して、一時的高トルク制御処理について説明する。図11に示す処理は、第1、第2または第3伝動状態で、運転者により一時的に高トルク要求が行われた場合に実行される。ここで、「一時的に高トルク要求が行われた場合」とは、例えば、運転者によるアクセルペダルの踏み増しが行われた場合を指す。
ステップS11で、制御装置80は、油圧変速部40において、第1ポンプモータ41または第2ポンプモータ42のうち、ポンプとして動作しているポンプモータの押し除け容積が最大でないか否かを判定する。
ポンプの押し除け容積が最大である場合(ステップS11:NO)、一時的高トルク制御処理を終了する。なお、この場合には、アクセルペダルの踏み増しが行われ、駆動源10の出力トルクが増大することで、高圧側油路43a内の圧力Pが駆動源10の出力トルクと釣り合うように上昇する。そして、高圧側油路43a内の圧力Pがリリーフ圧PMAXに到達したところで、本システムの最大トルク状態となる。一方、ポンプの押し除け容積が最大でない場合(ステップS1:YES)、処理はステップS12へ進む。
ステップS12で、制御装置80は、駆動源10を制御して、駆動源10の出力トルクを増大させる。駆動源10の出力トルクの増大に伴って、高圧側油路43a内の圧力Pが駆動源10の出力トルクに釣り合うように上昇し、リリーフ圧PMAXに到達する。
続くステップS13で、制御装置80は、第1ポンプモータ41または第2ポンプモータ42のうち、ポンプとして動作しているポンプモータを制御して、押し除け容積を増大させる。
次に、図12を参照して、走行中に伝動状態の変更を行わずに一時的に車両1を高トルク状態とする際の動作について説明する。図12に示す例は、ポンプとして動作しているポンプモータの押し除け容積を一定とした状態での走行中に、運転者が一時的なトルクの増大を要求してアクセルペダルの踏み増しを行った場合を示している。
時刻t21で、運転者によるアクセルペダルの踏み増しが行われると、駆動源10の出力トルクの増大に伴って高圧側油路43a内の圧力Pが上昇し、リリーフ圧PMAXに到達する。ここから更にアクセルペダルの踏み増しが行われると、上述の一時的高トルク制御が行われる。すなわち、時刻t21では、ポンプの押し除け容積は最大でないため、アクセルペダルの踏み増しに伴い、駆動源10の出力トルクが増大される。それとともに、ポンプの押し除け容積が増大される。
ポンプの押し除け容積が増大されることで、ポンプからの吐出流量が増大する。また、高圧側油路43a内の圧力はリリーフ圧PMAXに達しており、高圧側油路43a内の圧油は、図12に示すように、ポンプの吐出流量と、モータの吸入流量とが一致しなくなるので、リリーフ弁44を介して低圧側油路43bへ排出される。
一方、駆動源10の出力トルクが増大されることによって、機械式伝達経路でモータの入出力軸へ伝達されるトルクも増大する。そのため、モータの入出力軸へ伝達される、油圧式伝達経路経由のトルクおよび機械式伝達経路経由のトルクの合計が増大する。
なお、図12に示す例では、時刻t22で、アクセルペダルの踏み込み量が時刻t21以前の状態に戻される。それに伴い、ポンプの押し除け容積も、時刻t21以前の状態に戻される。そのため、時刻t22以降、ポンプの吐出流量とモータの吸入流量とが一致する。
以上説明したように、本実施形態によれば、車両の駆動力の増大が要求された場合に、制御装置80は、駆動源10の出力トルクを増大させるとともに、第1ポンプモータ41および第2ポンプモータ42のうち、ポンプとして動作しているポンプモータを制御して、押し除け容積を増大させる。
これにより、高圧側油路43a内の圧油の一部を、リリーフ弁44を介して低圧側油路43bへ排出させることになるが、駆動源10の出力トルクが増大されることによって、機械式伝達経路でモータの入出力軸へ伝達されるトルクも増大する。そのため、一時的に高い駆動力を確保することができる。
また、本実施形態によれば、以下に示す効果も得られる。
高積載時、登坂時に車両を発進させるために、低速ギヤ段を用意する必要がない。そのため、有段変速部の変速段数を減らすことができる。もしくは、各ギヤ段におけるギヤ比を高め(高速寄り)に設定することができる。
また、伝動状態の切り替え点に近い速度比で車両を走行させている場合に、一時的にトルクを増大させるために、伝動状態を切り替える必要がない。例えば、第2伝動状態での走行中に、一時的にトルクを増大させるために、有段変速部50を第1伝動状態へ切り替える必要がない。
なお、上述の実施形態では、差動機構を、ベベルギヤ型の差動機構としたが、これに限定されない。差動機構としては、公知の構造を適宜採用し得る。具体的には、例えば、差動機構を遊星歯車機構としてもよい。
また、上述の実施形態では、有段変速部を、第1入出力軸側を1段、第2入出力軸側を2段とし、計3段としたが、これに限定されない。具体的には、例えば、第1入出力軸を2段、第1入出力軸側を1段としてもよい。
また、本実施形態では、有段変速部における変速段数を3段としたが、これに限定されない。具体的には、例えば、第1入出力軸の回転力を変速して出力軸に伝達する変速機構を設け、第1入出力軸側2段、第2入出力軸側2段の計4段としてもよい。この場合、各変速比は、第1入出力軸と第2入出力軸とを交互に使用するように設定される。さらに、各入出力軸から出力軸への変速段数を3以上とし、高速側へのさらなる多段化を図ることも可能である。また、逆に、第1入出力軸から出力軸への伝達経路および第2入出力軸から出力軸への伝達経路をそれぞれ1つずつのみ有する、低速および高速の2段切り替えとしてもよい。