図1は、本発明の実施形態であるタンクの製造方法で得られる高圧水素タンク30の概要を示す説明図である。本実施形態のタンク製造方法で製造されるタンクは、高圧水素を貯蔵する高圧水素タンク30であって、両端に口金14を備えたライナー10の外表に繊維強化樹脂層20を複数層に亘って積層して備える。
繊維強化樹脂層20は、ライナー10の側の最内層の第1繊維強化樹脂層21に、第2繊維強化樹脂層22、第3繊維強化樹脂層23、および第4繊維強化樹脂層24が順次、積層して形成された繊維強化樹脂層である。第1繊維強化樹脂層21と第2繊維強化樹脂層22は、樹脂含浸の繊維束、例えばエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸したカーボン繊維束(以下、このカーボン繊維束を樹脂含浸カーボン繊維束Wと称する)を、ライナー10の軸心と低角度(例えば、20〜30°)で交差させつつライナー10に連続的に巻き付けた低ヘリカル巻層である。第3繊維強化樹脂層23は、樹脂含浸カーボン繊維束Wを、ライナー10の軸心と高角度(例えば、40〜60°)で交差させつつ、形成済みの第2繊維強化樹脂層22に重ねて連続的に巻き付けた高ヘリカル巻層である。第4繊維強化樹脂層24は、樹脂含浸カーボン繊維束Wを、ライナー10の軸心と更に高角度(例えば、70〜80°)で交差させつつ、形成済みの第3繊維強化樹脂層23に重ねて連続的に巻き付けたフープ巻層である。なお、繊維強化樹脂層20は、上記した4層の繊維強化樹脂層が積層した形態に限られるものではなく、水素ガスの貯留圧力等に応じて層数やヘリカル・フープの巻層種別は規定される。
図2は、本実施形態のタンク製造工程の手順を示すフローチャートである。本実施形態のタンク製造工程では、まず、最初のステップS100で、口金14が装着済みの樹脂製容器をライナー10として用意する。本実施形態では、樹脂容器として、ナイロン系樹脂からなる樹脂製容器を用いるものとした。樹脂容器として、他の樹脂からなる樹脂容器を用いるものとしてもよい。また、薄肉の金属製容器をライナー10とすることもできる。
次に、ステップS200にて、ライナー10の外周部に、繊維強化樹脂層20をフィラメント・ワインディング法(以下、FW法)により形成する(繊維強化樹脂層の積層工程)。FW法によるステップS200では、フィラメント・ワインディング装置(以下、FW装置100)が用いられる。図3は、FW装置100の構成を概略的に示す説明図である。このFW装置100は、クリールスタンド110と、巻取部130と、クリールスタンド110と巻取部130とを結ぶ経路部120と、制御部150とを備える。そして、FW装置100は、ライナー10の外周に、樹脂含浸カーボン繊維束Wを、第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24ごとの巻き付け張力で連続的に巻き付けることにより、第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24を、この順に順次、積層して形成する。
クリールスタンド110は、熱硬化樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wを巻き付けた複数のボビン112を備え、固定滑車114等を用いて各ボビン112から所定の方向に樹脂含浸カーボン繊維束Wを繰り出す機能を有する。本実施形態では、熱硬化性樹脂を含浸済みのいわゆるプリプレグの樹脂含浸カーボン繊維束Wとしたが、ボビン112にはカーボン繊維のみを巻き取って備え、クリールスタンド110からの繊維繰り出し経路途中で、その繰り出されるカーボン繊維に熱硬化性樹脂を含浸させるようにすることもできる。なお、カーボン繊維に代えて、適当な強度を有するフィラメントワインディングに適した他の材料、例えばガラス繊維やアラミド繊維とすることもできる。また、エポキシ樹脂に代えて、熱硬化により適当な接合強度を有するフィラメントワインディングに適した熱硬化性樹脂、例えばポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂とすることもできる。
各ボビン112からは、制御部150の制御を受けた巻取部130の働きにより樹脂含浸カーボン繊維束Wがそれぞれ引き出され、各樹脂含浸カーボン繊維束Wは経路部120を介して巻取部130へ導かれる。
経路部120は、ローラーやガイド等を備え、クリールスタンド110から巻取部130への樹脂含浸カーボン繊維束Wへの経路を構成する。
巻取部130は、アイクチガイド132と、ライナー10がセットされる回転駆動装置134とを備える。回転駆動装置134は、ライナー10を軸支してその軸周りにライナー10を回転駆動させる。
アイクチガイド132は、ライナー10への樹脂含浸カーボン繊維束Wの供給と、ライナー10への樹脂含浸カーボン繊維束Wの連続的な巻き付けの際の巻き付け張力を調整する。つまり、アイクチガイド132は、ライナー10の長軸方向であるx軸、x軸に垂直なy軸、x軸およびy軸に垂直なz軸の3次元で移動して、経路部120から供給された複数本の樹脂含浸カーボン繊維束Wを束ねてライナー10に向かって供給する。アイクチガイド132の3次元方向への移動と回転駆動装置134によるライナー10の回転とにより、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、ライナー10の外周に繰り返し連続的に巻き付けられる。
巻取部130により樹脂含浸カーボン繊維束Wをライナー10に連続的に巻き付けることで、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、引っ張られる形で、クリールスタンド110から引き出されて張力を受ける。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、その張力(巻き付け張力)でライナー10の外周に繰り返し連続的に巻き付けられ、第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24がこの順で積層された繊維強化樹脂層20となる(図1参照)。アイクチガイド132は、樹脂含浸カーボン繊維束Wの連続的な巻き付けの際の巻回張力を、第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24の各繊維強化樹脂層ごとに調整すべく、固定ローラー140を樹脂含浸カーボン繊維束Wの経路上下流に備え、その間に、上下動可能な可動ローラー144を備える。この可動ローラー144は、後述の制御部150から制御を受ける張力調整部142にて上下に駆動され、樹脂含浸カーボン繊維束Wがライナー10に連続的に巻き付けられる際の巻き付け張力を調整する。
制御部150は、内部にCPU、RAM、ROMを備えるマイクロコンピュータとして構成されており、ROMに記憶されたコンピュータプログラムをRAMに展開して実行することで、図2に示すステップS200を経たライナー10への第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24の各繊維強化樹脂層を順次形成を実行する。
図2に戻ってタンク製造工程について説明すると、FW装置100を用いたステップS200の最初のステップS210では、第i層目(iは層数を示し、本実施形態では1〜3の整数)、即ち第1層目の第1繊維強化樹脂層21を、ライナー10の側の最内層に形成する。この際、第1繊維強化樹脂層21は、低ヘリカル巻層であることから、制御部150は、低ヘリカル巻層の形成に適合した巻き付け張力(例えば、180〜230N)を、張力調整部142により調整して樹脂含浸カーボン繊維束Wに掛ける。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、この巻き付け張力を受けた状態で、回転駆動装置134により回転しているライナー10に、所定の時間、或いは所定の巻き付け数に亘って、繰り返し連続的に巻き付けられ、ライナー10に最内層の第1繊維強化樹脂層21を形成する。この巻き付け時間や巻き付け数は、第1繊維強化樹脂層21に求められる層厚により予め規定されている。
制御部150は、第1繊維強化樹脂層21についての樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付け開始からの経過時間や巻き付け数のカウントに基づいて、巻き付けが完了したか否かを判定し(ステップS220)、第i層(i=1)である第1繊維強化樹脂層21についての樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けが完了するまでステップS210を繰り返す。制御部150は、ステップS220において、樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けが完了したと判定すると、層数を示すiを値1だけインクリメントし(ステップS230)、全層、本実施形態では第4層までの巻き付けが完了したか否かを判定する(ステップS240)。ここで全層(第4層)までの巻き付けが完了していないと判定すると、制御部150は、回転駆動装置134によるライナー10の回転を停止して樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けを一時停止する(ステップS250)。そして、この巻き付け一時停止の期間において、制御部150は、樹脂含浸カーボン繊維束Wが受ける張力を、形成済み第1繊維強化樹脂層21の形成時の巻き付け張力(180〜230N)に拘わらず、この巻き付け張力より小さい40〜100Nの張力に調整する。本実施形態では、一時停止を2〜3分確保することにしたが、これに限らない。一時停止の際に張力調整をなす工程は、形成済みの第1繊維強化樹脂層21に重ねて新たな第2繊維強化樹脂層22を形成する際の本発明における一時停止工程となる。図4は、第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24をライナー10に順次形成する際に樹脂含浸カーボン繊維束Wに掛ける張力の推移を示す説明図である。
制御部150は、第1繊維強化樹脂層21の形成後の一時停止(ステップS250)に続き、既述したステップS210に移行し、巻き付け張力の調整を経た第2層目の第2繊維強化樹脂層22の形成を行う。この際の巻き付け張力は、第2繊維強化樹脂層22が低ヘリカル巻層であることから、制御部150は、低ヘリカル巻層(第2繊維強化樹脂層22)の形成に適合した巻き付け張力(180〜230N)を、張力調整部142により調整して樹脂含浸カーボン繊維束Wに掛ける。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、この巻き付け張力を受けた状態で、回転駆動装置134により回転しているライナー10に、所定の時間、或いは所定の巻き付け数に亘って、繰り返し連続的に巻き付けられ、形成済みの第1繊維強化樹脂層21に重ねて第2繊維強化樹脂層22を形成する(ステップS210)。第2繊維強化樹脂層22の形成の際の巻き付け時間や巻き付け数も、第2繊維強化樹脂層22に求められる層厚により予め規定されている。
第2繊維強化樹脂層22の形成後、制御部150は、既述したステップS220〜250を順次実行することで、第2繊維強化樹脂層22の形成後の樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けの一時停止と、この巻き付け一時停止の間における一時停止張力を、形成済み第2繊維強化樹脂層22の形成時の巻き付け張力(180〜230N)に拘わらず、この巻き付け張力より小さい図4に示す40〜100Nの張力に調整する。本実施形態では、一時停止を2〜3分確保することにしたが、これに限らない。この場合、第2繊維強化樹脂層22に重ねて次回に形成する第3繊維強化樹脂層23は高ヘリカル巻層であり、この第3繊維強化樹脂層23に適合した巻き付け張力は、第2繊維強化樹脂層22の巻き付け張力より大きい。よって、本実施形態では、第2繊維強化樹脂層22の形成後の一時停止の間において樹脂含浸カーボン繊維束Wが受ける張力を、図4に示すように、40〜100Nの範囲で高めの張力(例えば、70〜100N)に調整する。第2繊維強化樹脂層22の形成後の一時停止において張力調整をなす工程にあっても、本発明における一時停止工程となる。
制御部150は、第2繊維強化樹脂層22の形成後の一時停止(ステップS250)に続き、既述したステップS210に移行し、巻き付け張力の調整を経た第3層目の第3繊維強化樹脂層23の形成を行う。この際の巻き付け張力は、第3繊維強化樹脂層23が高ヘリカル巻層であることから、制御部150は、高ヘリカル巻層(第3繊維強化樹脂層23)の形成に適合した巻き付け張力(例えば、430〜470N)を、張力調整部142により調整して樹脂含浸カーボン繊維束Wに掛ける。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、この巻き付け張力を受けた状態で、回転駆動装置134により回転しているライナー10に、所定の時間、或いは所定の巻き付け数に亘って、繰り返し連続的に巻き付けられ、形成済みの第2繊維強化樹脂層22に重ねて第3繊維強化樹脂層23を形成する(ステップS210)。第3繊維強化樹脂層23の形成の際の巻き付け時間や巻き付け数も、第3繊維強化樹脂層23に求められる層厚により予め規定されている。
第3繊維強化樹脂層23の形成後、制御部150は、既述したステップS220〜250を順次実行することで、第3繊維強化樹脂層23の形成後の樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けの一時停止と、この巻き付け一時停止の間における一時停止張力を、形成済み第3繊維強化樹脂層23の形成時の巻き付け張力(430〜470N)に拘わらず、この巻き付け張力より小さい図4に示す40〜100Nの張力に調整する。本実施形態では、一時停止を2〜3分確保することにしたが、これに限らない。この場合、第3繊維強化樹脂層23に重ねて次回に形成する第4繊維強化樹脂層24はフープ巻層であって適合巻き付け張力も大きいことから、本実施形態では、第3繊維強化樹脂層23の形成後の一時停止の間において樹脂含浸カーボン繊維束Wが受ける張力を、図4に示すように、40〜100Nの範囲で高めの張力(例えば、70〜100N)に調整する。第3繊維強化樹脂層23の形成後の一時停止において張力調整をなす工程にあっても、本発明における一時停止工程となる。
制御部150は、第3繊維強化樹脂層23の形成後の一時停止(ステップS250)に続き、既述したステップS210に移行し、巻き付け張力の調整を経た第4層目の第4繊維強化樹脂層24の形成を行う。この際の巻き付け張力は、第4繊維強化樹脂層24がフープ巻層であることから、制御部150は、フープ巻層(第4繊維強化樹脂層24)の形成に適合した巻き付け張力(例えば、430〜470N)を、張力調整部142により調整して樹脂含浸カーボン繊維束Wに掛ける。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、この巻き付け張力を受けた状態で、回転駆動装置134により回転しているライナー10に、所定の時間、或いは所定の巻き付け数に亘って、繰り返し連続的に巻き付けられ、形成済みの第3繊維強化樹脂層23に重ねて第4繊維強化樹脂層24を形成する(ステップS210)。第4繊維強化樹脂層24の形成の際の巻き付け時間や巻き付け数も、第4繊維強化樹脂層24に求められる層厚により予め規定されている。第4繊維強化樹脂層24の形成により繊維強化樹脂層20が形成されるので、ステップS240では、全層の巻き付けが完了したと判定され、制御部150は、回転駆動装置134によるライナー10の回転を停止して樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けを停止する(ステップS260)。この際、制御部150は、作業者による、或いは切断装置による樹脂含浸カーボン繊維束Wの切断処理と繊維束末端の固定処理、並びにタンク取り外し・取り付け処理を待機し、これら処理の後は、新たな高圧水素タンク30の製造、即ち新たなライナー10への樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けを行う。なお、第4繊維強化樹脂層24の形成後から樹脂含浸カーボン繊維束Wの切断・固定がなされるまでの間において、樹脂含浸カーボン繊維束Wが受ける張力を、40〜100Nの範囲で高めの張力(例えば、70〜100N)に調整するようにしてもよい。
FW装置100を用いた上記の繊維強化樹脂層20の形成に続いては、熱硬化を行い(ステップS300)、本ルーチンを終了する。熱硬化工程では、放熱ヒーターを備える熱硬化炉や、加熱コイルを用いた高周波誘電加熱式の熱硬化炉において、高圧水素タンク30を回転させつつ加熱して、繊維強化樹脂層20の形成に用いた上記の熱硬化樹脂(例えば、エポキシ樹脂)を熱硬化させる。そして、樹脂の熱硬化後の冷却養生を経て、ライナー10の外周にエポキシ樹脂を含浸して熱硬化した繊維強化樹脂層20を有する高圧水素タンク30が得られる。
図5は、繊維強化樹脂層の形成後の一時停止の際における樹脂含浸カーボン繊維束Wの張力とアイクチガイド132から送り出された樹脂含浸カーボン繊維束Wの挙動との関係を模式的に示す説明図である。図5(A)に示すように、繊維強化樹脂層の形成後の一時停止の際における樹脂含浸カーボン繊維束Wの張力(以下、一時停止張力と略称する)が40N未満であると、樹脂含浸カーボン繊維束Wの引き付けが緩い分、形成済みの第1繊維強化樹脂層21と連続している樹脂含浸カーボン繊維束Wに弛みが生じる。よって、アイクチガイド132と第1繊維強化樹脂層21の最外表の繊維束起点域Wrを結ぶ直線軌道Wpからの弛み変位tは、大きくなる。これに対し、図5(B)や図5(C)に示すように、樹脂含浸カーボン繊維束Wに掛かる一時停止張力が大きくなると、樹脂含浸カーボン繊維束Wの引き付けが増すので、樹脂含浸カーボン繊維束Wに弛みが少なくなり、弛み変位tは、小さくなる。
樹脂含浸カーボン繊維束Wの一時停止張力は、第1繊維強化樹脂層21の繊維束起点域Wrにおける樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けの状態に影響を及ぼし、一時停止張力が小さいと繊維束起点域Wrにおいて樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けが緩んで繊維の配向の乱れが生じ、繊維束起点域Wrが脆弱となり得る。その一方、一時停止張力が大きいと繊維束起点域Wrにおいて樹脂含浸カーボン繊維束Wが巻き締まって樹脂の染み出しが進むので、繊維束起点域Wrが破壊起点となり得る。このことを、弛み変位tと関連付けて説明すると、弛み変位tが図5(A)に示すように大きいと、一時停止張力が小さい故に繊維束起点域Wrが脆弱となり得、弛み変位tが図5(C)に示すように小さいと、一時停止張力が大きい故に繊維束起点域Wrが破壊起点となり得ることになる。
こうした知見に立ち、第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24の順次形成の際の一時停止張力が相違する高圧水素タンク30を複数製造し、一時停止張力とタンク強度との関係を調べた。図6は、第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24の順次形成の際の一時停止張力とタンク強度(バースト強度)との関係を示す説明図である。図6に示すサンプルAは、図4に示すそれぞれの一時停止の際の張力を40N未満の異なる7種の張力にそれぞれ設定して、第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24を順次形成した複数種の高圧水素タンク30である。図示するように、このサンプルAの高圧水素タンク30では、規定のバースト強度(下限値)を得られないものがあった。図6に示すサンプルBは、図4に示すそれぞれの一時停止の際の張力を40〜100Nにおいて異なる5種の張力にそれぞれ設定して、第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24を順次形成した高圧水素タンク30である。図示するように、このサンプルBの高圧水素タンク30では、いずれも高いバースト強度を備えていた。図6に示すサンプルCは、図4に示すそれぞれの一時停止の際の張力を100Nを越えて異なる4種の張力にそれぞれ設定して、第1繊維強化樹脂層21〜第4繊維強化樹脂層24を順次形成した複数種の高圧水素タンク30である。図示するように、このサンプルCの高圧水素タンク30では、いずれも規定のバースト強度(下限値)を得られなかった。なお、規定のバースト強度を得られなかった高圧水素タンク30は、バースト試験にて不良品と判定されるので、製品化されることはない。
図7は、樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けの一時停止張力と弛み変位tとの関係を示す説明図である。この図7に示すように、樹脂含浸カーボン繊維束Wの一時停止張力が大きくなる程、図5で説明したように弛み変位tは小さく推移する。そして、一時停止張力が100Nを超えると、図6のように強度が得られない。この強度不足は、一時停止張力が大きい故に繊維束起点域Wr(図5参照)において樹脂含浸カーボン繊維束Wが巻き締まって樹脂の染み出しが進み、これにより、繊維束起点域Wrが破壊起点となり得ることに起因すると想定される。その一方、一時停止張力が40N未満であると、図6のように強度が得られない場合もある。このことは、一時停止張力が小さい故に繊維束起点域Wr(図5参照)において樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けが緩んで繊維の配向の乱れが生じ、繊維束起点域Wrが脆弱となり得ることに起因すると想定される。これに対し、一時停止張力を40〜100Nとする本実施形態のタンク製造方法によれば、図6に示すサンプルBのように高圧水素タンク30を高強度とできる。これは、一時停止張力の適正化により、樹脂の染み出しに伴う繊維束起点域Wrの破壊起点化や、樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けの緩みに伴う繊維束起点域Wrの脆弱化を回避できるためであると想定される。また、一時停止張力を40〜100Nとする本実施形態のタンク製造方法によれば、弛み変位tを2〜3mmの範囲とするので、この弛み変位tの計測等により、樹脂含浸カーボン繊維束Wの一時停止において、樹脂含浸カーボン繊維束Wには適切な一時停止張力が掛かっていることを判定できる。
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
既述した実施形態では、樹脂含浸カーボン繊維束Wの一時停止の際の張力調整を、樹脂含浸カーボン繊維束Wの送り出しを行うアイクチガイド132において実行したが、アイクチガイド132の下流側に張力調整用のローラー機構を設けてもよい。