JP2020044793A - タンクの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】フープ巻層の折り返し箇所に巻き付けられた繊維束のドーム部の側への移動を回避、若しくは抑制する。【解決手段】シリンダ部の両端にドーム部を有するライナーの外面に樹脂含浸の繊維束を巻き付けた複数層の繊維強化樹脂層を有するタンクを製造するに当たり、ライナーの外面の側の繊維強化樹脂層を、繊維束の複数回の重なりが起きるようにシリンダ部に繊維束を折り返しフープ巻きした積層状のフープ巻層として形成する。その上で、2層目以降のフープ巻層の形成の過程では、フープ巻きの折り返し箇所に巻き付け済みの繊維束表面に短繊維含有樹脂が吹き付けられた状態で、2層目以降のフープ巻層を形成するためのフープ巻きを開始する。【選択図】図6
Description
本発明は、タンクの製造方法に関する。
燃料電池などのガス消費機器に供給される燃料ガスはタンクに貯留され、タンクには、高圧でのガス貯留に耐える強度の確保や、車両等への搭載を考慮した軽量化が求められる。こうした要請に対処すべく、ライナーの外面に繊維強化樹脂層を複数層に亘って積層して備えるタンクの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1)。この特許文献では、ライナーにフープ巻層とヘリカル巻層とを繰り返し積層し、フープ巻層については繊維束をライナー外面に沿うよう並べて巻き付け、ヘリカル巻層については繊維束が重なるようにして巻き付けることで、繊維束の配列の乱れを抑制している。
フープ巻層は、ライナーのシリンダ部を巻き付け対象域とし、シリンダ部の端部領域では、フープ巻層が折り返して巻き付け形成される。こうした折り返しの巻き付けにおいて、先に巻き付けられたフープ巻層の繊維束は、次に巻き付けられるフープ巻槽の繊維束から巻き付け張力を受けて、ライナーの外面の側に押し付けられる。また、先に巻き付けられたフープ巻層の繊維束のうち、巻き付けの折り返し箇所で巻かれた繊維束は、ドーム部の側において、いわゆるフリーの状態である。このため、先に巻き付けられたフープ巻層の折り返し箇所の繊維束は、次に巻き付けられる繊維束からの押し付けを受けて、ドーム部の側に移動してしまうことが危惧される。こうした繊維束の移動が起きると、隣接する繊維束の間に繊維束が存在しない領域が発現し、タンク強度の低下が懸念される。よって、フープ巻層の折り返し箇所に巻き付けられた繊維束のドーム部の側への移動を回避、若しくは抑制することが要請されるに至った。
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本発明の一形態によれば、タンクの製造方法が提供される。このタンクの製造方法は、シリンダ部の両端にドーム部を有するライナーの外面に樹脂含浸の繊維束を巻き付けた複数層の繊維強化樹脂層を有するタンクの製造方法であって、前記ライナーの前記外面の側の前記繊維強化樹脂層を、前記繊維束の複数回の重なりが起きるように前記シリンダ部に前記繊維束を折り返しフープ巻きした積層状のフープ巻層として形成し、2層目以降のフープ巻層の形成の過程では、前記フープ巻きの折り返し箇所に巻き付け済みの前記繊維束の表面に短繊維含有樹脂が吹き付けられた状態で、前記2層目以降のフープ巻層を形成するための前記繊維束のフープ巻きを開始する。この形態のタンクの製造方法では、既に形成済みのフープ巻層における折り返し箇所に巻き付け済みの繊維束は、短繊維含有樹脂を介在させた状態で、次に巻き付けられる繊維束からの押し付けを受ける。この押し付けにより、短繊維含有樹脂の短繊維は、折り返し箇所で重なる繊維束と繊維束との間は元より、それぞれの繊維束に含まれる繊維と繊維との間や、隣り合う繊維束の間にも入り込む。よって、既に形成済みのフープ巻層と次に形成されるフープ巻層との間の摩擦力が、フープ巻層の間に介在する短繊維含有樹脂の短繊維により大きくなる。この結果、この形態のタンクの製造方法によれば、フープ巻層の折り返し箇所に巻き付けられた繊維束のドーム部の側への移動を回避、若しくは抑制することが可能となり、隣接する繊維束の間に間隙を形成し難くすることができる。隣接する繊維束の間に間隙があると、タンク強度の低下を招きかねないが、この形態のタンクの製造方法によれば、繊維間の間隙の形成抑制により、タンク強度を高めることができる。
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、折り返し箇所に巻き付け済みの繊維束への短繊維含有樹脂の吹き付け方法や吹き付け装置、或いは樹脂吹き付けを実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体(non-transitory storage medium)等の形態で実現することができる。
図1は、本発明の実施形態であるタンクの製造方法で得られる高圧水素タンク30の概要を半断面視して示す説明図である。なお、この図1では、破断面のハッチングが省略されている。本実施形態のタンク製造方法で製造されるタンクは、高圧水素を貯蔵する高圧水素タンク30であって、両端に口金14を備えたライナー10の外面に繊維強化樹脂層20を複数層に亘って積層して備える。ライナー10は、円筒状のシリンダ部11の両端にドーム部12を有する。
繊維強化樹脂層20は、ライナー10の側の最内層の第1繊維強化樹脂層21に、第2繊維強化樹脂層22、第3繊維強化樹脂層23、第4繊維強化樹脂層24および第5繊維強化樹脂層25が順次、積層して形成された繊維強化樹脂層である。第1繊維強化樹脂層21は、樹脂含浸の繊維束、例えばエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸したカーボン繊維束(以下、このカーボン繊維束を樹脂含浸カーボン繊維束Wと称する)を、ライナー軸心CXと低角度の繊維角αL(例えば、15〜30°)で交差させつつ、シリンダ部11の一方のドーム部12から他方のドーム部12に掛け渡すように、ライナー10に連続的に巻き付けた低ヘリカル巻層である。この第1繊維強化樹脂層21は、樹脂含浸カーボン繊維束Wを、ライナー10におけるシリンダ部11およびドーム部12の外面を覆うように低ヘリカル巻きした単層の繊維強化樹脂層である。
第2繊維強化樹脂層22は、樹脂含浸カーボン繊維束Wを、ライナー軸心CXと高角度の繊維角α0(例えば、80〜89°)で交差させつつ、形成済みの第1繊維強化樹脂層21に重ねて巻き付けたライナー10の外面の側のフープ巻層である。この第2繊維強化樹脂層22は、樹脂含浸カーボン繊維束Wを、複数回の繊維束の重なりが起きるようにシリンダ部11に連続的に折り返してフープ巻きした積層状のフープ巻層である。本実施形態では、第2繊維強化樹脂層22を、樹脂含浸カーボン繊維束Wが3回重なるように、樹脂含浸カーボン繊維束Wをシリンダ部11に繰り返しフープ巻きした3層の繊維強化樹脂層とした。
第3繊維強化樹脂層23は、樹脂含浸カーボン繊維束Wを、第1繊維強化樹脂層21と同様、シリンダ部11の一方のドーム部12から他方のドーム部12に掛け渡すように連続的に低ヘリカル巻きした低ヘリカル巻層である。この第3繊維強化樹脂層23は、複数回の繊維束の重なりが起きるように低ヘリカル巻きした積層状の繊維強化樹脂層である。本実施形態では、第3繊維強化樹脂層23を、樹脂含浸カーボン繊維束Wが2回重なるように、樹脂含浸カーボン繊維束Wを一方のドーム部12から他方のドーム部12に掛けて繰り返し低ヘリカル巻きした2層の繊維強化樹脂層とした。
第4繊維強化樹脂層24は、樹脂含浸カーボン繊維束Wを、第2繊維強化樹脂層22と同様、3回の繊維束の重なりが起きるようにシリンダ部11に連続的にフープ巻きした積層状の繊維強化樹脂層である。第5繊維強化樹脂層25は、樹脂含浸カーボン繊維束Wを、第3繊維強化樹脂層23と同様、2回の繊維束の重なりが起きるように一方のドーム部12から他方のドーム部12に掛けて繰り返し低ヘリカル巻きした積層状の繊維強化樹脂層である。つまり、繊維強化樹脂層20は、第1繊維強化樹脂層21〜第5繊維強化樹脂層25に掛けて、低ヘリカル巻層とフープ巻層とを交互に積層した繊維強化樹脂層構成とされている。なお、第3繊維強化樹脂層23と第5繊維強化樹脂層25の一方、例えば、第3繊維強化樹脂層23を、樹脂含浸カーボン繊維束Wをライナー10の軸心と高角度の繊維角(例えば、40〜60°)で交差させつつ、一方のドーム部12から他方のドーム部12に掛け渡すように連続的に高ヘリカル巻きした高ヘリカル巻層としてもよい。また、繊維強化樹脂層20は、上記した5層の繊維強化樹脂層が積層した形態に限られるものではなく、水素ガスの貯留圧力等に応じて層数やヘリカル・フープの巻層種別は規定される。第2繊維強化樹脂層22と第4繊維強化樹脂層24における3回のフープ巻きの重なり数や、第3繊維強化樹脂層23と第5繊維強化樹脂層25における2回の低ヘリカル巻きの重なり数についても、水素ガスの貯留圧力等に応じて適宜、設定可能である。なお、第1繊維強化樹脂層21を、第5繊維強化樹脂層25と同様に、2回の低ヘリカル巻きを重ねた積層状の低ヘリカル巻層としてもよい。
図2は、本実施形態のタンク製造工程の手順を示すフローチャートである。図3は、タンク製造工程における複数層のフープ巻層の形成手順を示すフローチャートである。本実施形態のタンク製造工程では、まず、最初の工程S100で、口金14が装着済みの樹脂製容器をライナー10として用意する。本実施形態では、樹脂容器として、ナイロン系樹脂からなる樹脂製容器を用いるものとした。樹脂容器として、他の樹脂からなる樹脂容器を用いるものとしてもよい。また、薄肉の金属製容器をライナー10とすることもできる。ライナー10は、シリンダ部11と二つのドーム部12とを別々の部材としてシリンダ部11の両端に口金14が装着済みのドーム部12を溶着したスリーパーツ品とできるほか、ツーパーツ品としてもよい。ツーパーツ品のライナー10は、口金14が装着済みのドーム部12の端面からシリンダ部11の半分の長さに相当するシリンダ部を吐出したシリンダ・ドーム一体パーツを二つ用意し、これを溶着して準備される。
次に、工程S200にて、ライナー10の外面に、繊維強化樹脂層20をフィラメント・ワインディング法(以下、FW法)により形成する。FW法による工程S200では、フィラメント・ワインディング装置(以下、FW装置100)が用いられる。図4は、FW装置100の構成を概略的に示す説明図である。このFW装置100は、クリールスタンド110と、巻取部130と、クリールスタンド110と巻取部130とを結ぶ経路部120と、制御部200とを備える。そして、FW装置100は、ライナー10の外周に、樹脂含浸カーボン繊維束Wを、第1繊維強化樹脂層21〜第5繊維強化樹脂層25ごとの巻き付け張力で連続的に巻き付けることにより、第1繊維強化樹脂層21〜第5繊維強化樹脂層25を、この順に順次、積層して形成する。
クリールスタンド110は、熱硬化樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wを巻き付けた複数のボビン112を備え、固定滑車114等を用いて各ボビン112から所定の方向に樹脂含浸カーボン繊維束Wを繰り出す機能を有する。本実施形態では、熱硬化性樹脂を含浸済みのいわゆるプリプレグの樹脂含浸カーボン繊維束Wとしたが、ボビン112にはカーボン繊維のみを巻き取って備え、クリールスタンド110からの繊維繰り出し経路途中で、その繰り出されるカーボン繊維に熱硬化性樹脂を含浸させるようにすることもできる。なお、カーボン繊維に代えて、適当な強度を有するフィラメントワインディングに適した他の材料、例えばガラス繊維やアラミド繊維とすることもできる。また、エポキシ樹脂に代えて、熱硬化により適当な接合強度を有するフィラメントワインディングに適した熱硬化性樹脂、例えばポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂とすることもできる。
各ボビン112からは、制御部200の制御を受けた巻取部130の働きにより樹脂含浸カーボン繊維束Wがそれぞれ引き出され、各樹脂含浸カーボン繊維束Wは経路部120を介して巻取部130へ導かれる。
経路部120は、ローラーやガイド等を備え、クリールスタンド110から巻取部130への樹脂含浸カーボン繊維束Wへの経路を構成する。
巻取部130は、アイクチガイド132と、ライナー10がセットされる回転駆動装置134と、樹脂吹付ノズル150と、吹付樹脂の貯留槽152とを備える。回転駆動装置134は、ライナー10を軸支してその軸周りにライナー10を回転駆動させる。
アイクチガイド132は、ライナー10への樹脂含浸カーボン繊維束Wの供給と、ライナー10への樹脂含浸カーボン繊維束Wの連続的な巻き付けの際の巻き付け張力を調整する。つまり、アイクチガイド132は、ライナー10の長軸方向であるx軸、x軸に垂直なy軸、x軸およびy軸に垂直なz軸の3次元で移動して、経路部120から供給された複数本の樹脂含浸カーボン繊維束Wを束ねてライナー10に向かって供給する。アイクチガイド132の3次元方向への移動と回転駆動装置134によるライナー10の回転とにより、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、ライナー10の外面に繰り返し連続的に巻き付けられる。
巻取部130により樹脂含浸カーボン繊維束Wをライナー10に連続的に巻き付けることで、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、引っ張られる形で、クリールスタンド110から引き出されて張力を受ける。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、その張力(巻き付け張力)でライナー10の外周に繰り返し連続的に巻き付けられ、第1繊維強化樹脂層21〜第5繊維強化樹脂層25がこの順で積層された繊維強化樹脂層20を形成する(図1参照)。アイクチガイド132は、樹脂含浸カーボン繊維束Wの連続的な巻き付けの際の巻回張力を、第1繊維強化樹脂層21〜第5繊維強化樹脂層25の各繊維強化樹脂層ごとに調整すべく、固定ローラー140を樹脂含浸カーボン繊維束Wの経路上下流に備え、その間に、上下動可能な可動ローラー144を備える。この可動ローラー144は、後述の制御部200から制御を受ける張力調整部142にて上下に駆動され、樹脂含浸カーボン繊維束Wがライナー10に連続的に巻き付けられる際の巻き付け張力を調整する。
樹脂吹付ノズル150は、複数のフープ巻層が積層した第2繊維強化樹脂層22と第4繊維強化樹脂層24の形成に用いられ、樹脂含浸カーボン繊維束Wをフープ巻きする際の折り返し箇所に配設されている。図4では、一つの樹脂吹付ノズル150を示しているが、樹脂含浸カーボン繊維束Wの折り返しはシリンダ部11の両端でなされることから、樹脂吹付ノズル150は、シリンダ部11の両端に配設されている。なお、樹脂吹付ノズル150をアイクチガイド132と一体として、アイクチガイド132と共に移動するようにしてもよい。
貯留槽152は、樹脂含浸カーボン繊維束Wと同じカーボン繊維の短繊維sを含有した短繊維含有樹脂Jsを貯留し、図示しないポンプによる圧送により、短繊維含有樹脂Jsを樹脂吹付ノズル150に送り出す。短繊維sを含有する樹脂は、樹脂含浸カーボン繊維束Wの含浸した樹脂と同じエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂である。ポンプ圧送は、後述の制御部200により制御される。そして、制御部200は、樹脂含浸カーボン繊維束Wの現在の巻き付け箇所がアイクチガイド132の移動速度やライナー10の回転数等から個々のフープ巻層における折り返し箇所であると判定すると、ポンプ圧送を経て樹脂吹付ノズル150からの短繊維含有樹脂Jsの吹付を実行する。これにより、フープ巻層の折り返し箇所において、巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wの表面に短繊維含有樹脂Jsが樹脂吹付ノズル150から吹き付けらた状態となる。「短繊維s」とは、長さが1mm以上で20mm以下の繊維を意味する。本実施形態では、樹脂含浸カーボン繊維束Wに用いるカーポンのフィラメント繊維を3〜10mm程度の長さに切断し、その切断繊維を短繊維sとした。短繊維sの種類や長さは、カーボンや上記した長さ範囲に限られるわけではなく、既に巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wと、これに重なるようにしてフープ巻きで巻き付けられる樹脂含浸カーボン繊維束Wとの間の摩擦力が得られればよい。例えば、短繊維sをガラス繊維やアラミド繊維とすることもできる。短繊維sを含有する熱硬化性樹脂Jについては、樹脂含浸カーボン繊維束Wに用いた樹脂と同一の樹脂、或いは同質性状の樹脂とすれば、樹脂含浸カーボン繊維束Wにおける樹脂との一体化が繊維束巻き付けの過程で進み、好ましい。
制御部200は、内部にCPU、RAM、ROMを備えるマイクロコンピュータとして構成されており、ROMに記憶されたコンピュータプログラムをRAMに展開して実行することで、図2に示す工程S200を経たライナー10への第1繊維強化樹脂層21〜第5繊維強化樹脂層25の各繊維強化樹脂層を順次形成を実行する。
図2に戻ってタンク製造工程について説明すると、FW装置100を用いた工程S200の最初の工程S210では、第1繊維強化樹脂層21を、樹脂含浸カーボン繊維束Wに定常の張力を及ぼす状況下で、ライナー10の側の最内層に形成する。この際、第1繊維強化樹脂層21は、低ヘリカル巻層であることから、制御部200は、低ヘリカル巻層の形成に適合した定常の巻き付け張力(例えば、180〜230N)を、張力調整部142により調整して樹脂含浸カーボン繊維束Wに掛ける。その上で、制御部200は、ライナー10をライナー軸心CXの軸回りに回転駆動装置134により回転させつつ、アイクチガイド132から送り出される樹脂含浸カーボン繊維束Wとライナー軸心CXとのなす角が低角度の繊維角αL(15〜30°)となるように、アイクチガイド132の送り出し調整を行う。この送り出し調整では、ライナー10の軸心回りの回転速度に対するアイクチガイド132の往復動速度と往復動折り返し位置とが、低角度の繊維角αL(15〜30°)での低ヘリカル巻層の形成に適うよう、設定調整される。
こうした各種調整により、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、上記の巻き付け張力を受けた状態でアイクチガイド132からライナー10に送り出されて、所定の時間に亘って繰り返し連続的にライナー10に巻き付けられる。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、低角度の繊維角αL(15〜30°)で送り出されることで、シリンダ部11の両端のドーム部12に掛け渡るよう螺旋状に繰り返し巻き付けられる。両側のドーム部12では、アイクチガイド132の往路・復路の切換に伴って繊維の巻き付け方向が折り返されると共に、ライナー軸心CXからの折り返し位置も調整される。こうして、最内層の第1繊維強化樹脂層21が低ヘリカル巻層として形成される。図5は、FW装置100による第1繊維強化樹脂層21から第5繊維強化樹脂層25の形成の様子を概略的に示す説明図である。工程S210での第1繊維強化樹脂層21の形成の様子は図5の上段に示され、図においては、ライナー10の外面が露出しているが、このライナー外面の全域が低ヘリカル巻きの樹脂含浸カーボン繊維束Wで覆われると、低ヘリカル巻きの繊維束の重なりがない第1繊維強化樹脂層21が単層の低ヘリカル巻層として形成される。第1繊維強化樹脂層21を形成する際の樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付け時間は、第1繊維強化樹脂層21が単層の低ヘリカル巻層であることから、ライナー10におけるシリンダ部11およびドーム部12の外面を低ヘリカル巻きでの樹脂含浸カーボン繊維束Wで、低ヘリカル巻きの重なりが起きないように覆うに足りる時間として、予め規定されている。
制御部200は、第1繊維強化樹脂層21についての樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けが完了すると、回転駆動装置134によるライナー10の回転を停止して樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けを一時停止する。そして、この巻き付け一時停止の期間において、制御部200は、樹脂含浸カーボン繊維束Wが受ける張力を、所定の一時停止張力、例えば、40〜100Nの張力に調整する。本実施形態では、一時停止を2〜3分確保することにしたが、張力調整が可能であれば、これに限らない。以下に記す一時停止も同様である。
制御部200は、この巻き付けの一時停止の際に、第1繊維強化樹脂層21に重なる第2繊維強化樹脂層22をフープ巻層として形成することに備え、アイクチガイド132の送り出し調整等も行う。この送り出し調整では、ライナー10の軸心回りの回転速度に対するアイクチガイド132の往復動速度と往復動折り返し位置とが、高角度の繊維角α0(80〜89°)でのフープ巻層の形成に適うよう、設定調整される。この調整の様子は、図5の下段に示されており、アイクチガイド132の往復動折り返し領域は、ライナー10におけるシリンダ部11の範囲、具体的には、シリンダ部11とドーム部12の連続箇所である一方のドーム肩部11kLと他方のドーム肩部11kRの間となる。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wの折り返し箇所は、一方のドーム肩部11kLと他方のドーム肩部11kRとなる。ライナー10の軸心回りの回転速度に対するアイクチガイド132の往復動速度は、アイクチガイド132から送り出される樹脂含浸カーボン繊維束Wとライナー軸心CXとのなす角が高角度の繊維角α0(80〜89°)となるように調整される。
制御部200は、第1繊維強化樹脂層21の形成後の一時停止に続いて工程S220に移行し、樹脂吹き付けを伴う第2層目の第2繊維強化樹脂層22の形成を行う。この際の巻き付け張力は、第2繊維強化樹脂層22を構成するフープ巻層の形成に適合した定常の巻き付け張力(180〜230N)とされる。その上で、第2繊維強化樹脂層22を、フープ巻きされた樹脂含浸カーボン繊維束Wが3回重なった3層の繊維強化樹脂層となるように形成する。この際の手順は、図3に示されており、制御部200は、まず、第2繊維強化樹脂層22を構成する第i層目(iは層数を示し、本実施形態では1〜3の整数)、即ち第1層目の第1フープ巻層221を、既に形成済みの第1繊維強化樹脂層21に重ねて形成する(工程S222)。図6は、3層のフープ巻層である第2繊維強化樹脂層22における1層目の第1フープ巻層221の形成の様子を示す説明図である。
図示するように、第1フープ巻層221は、一方のドーム肩部11kLを巻き始め端として巻き始められる。ドーム肩部11kLは、第1フープ巻層221については、巻き始め端であるが、第1フープ巻層221に重なる第2フープ巻層222では折り返し箇所である。よって、制御部200は、第1フープ巻層221の形成のためのドーム肩部11kLでの樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けが終わると、この巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wに、樹脂吹付ノズル150から短繊維含有樹脂Jsを吹き付ける。この樹脂吹き付けは、実際に巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wに対して行っても良いほか、アイクチガイド132から送り出される樹脂含浸カーボン繊維束Wに短繊維含有樹脂Jsを吹き付けてもよい。この場合には、これからドーム肩部11kLに巻き付けられる範囲の樹脂含浸カーボン繊維束Wに対して、アイクチガイド132からの送り出し過程で樹脂吹き付けがなされる。なお、図6では、短繊維含有樹脂Jsはライナー軸心CX方向に沿って吹き付けられるように示されているが、樹脂吹き付けは、ドーム肩部11kLに巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wに対してライナー外表面の側からなされたり、送り出されている樹脂含浸カーボン繊維束Wに対して繊維束上方の側からなされる。図6以降の各図でも同様である。
第1フープ巻層221の形成に際しての巻き始め端でのフープ巻きに続くフープ巻きでは、制御部200は、第1フープ巻層221の形成に適合した定常の巻き付け張力(180〜230N)を、張力調整部142により調整して樹脂含浸カーボン繊維束Wに掛ける。その上で、制御部200は、ライナー10をライナー軸心CXの軸回りに回転駆動装置134により回転させつつ、樹脂含浸カーボン繊維束Wをライナー軸心CXに対して高角度の繊維角α0(80〜89°)でアイクチガイド132から送り出す。この送り出し調整は、既述した一時停止の間においてなされている。定常の巻き付け張力を受けて送り出された樹脂含浸カーボン繊維束Wは、巻き始め端のドーム肩部11kLの側から他方のドーム肩部11kRに掛けて高角度の繊維角α0(80〜89°)で繰り返し連続的にライナー10のシリンダ部11にフープ巻きされる。高角度の繊維角α0(80〜89°)での樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けは、回転駆動装置134により回転しているライナー10に、所定の時間、或いは所定の巻き付け数に亘って、連続的になされる。この巻き付け時間や巻き付け数は、樹脂含浸カーボン繊維束Wの送り出し速度やライナー10の回転速度により予め規定されている。これにより、ライナー10には、既に形成済みの第1繊維強化樹脂層21に対して、シリンダ部11のドーム肩部11kLの側からドーム肩部11kRに掛けて重なるようにして、第2繊維強化樹脂層22の第1フープ巻層221が形成される。なお、ライナー10のドーム部12およびシリンダ部11には、第1繊維強化樹脂層21が既に形成済みであるが、図6とそれ以降の各図においては、第1繊維強化樹脂層21における樹脂含浸カーボン繊維束Wは、その図示が省略されている。
樹脂含浸カーボン繊維束Wのフープ巻きが進むと、図6に示すように、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、やがて、他方のドーム肩部11kRである折り返し箇所に達する。この場合も、制御部200は、折り返し箇所である他方のドーム肩部11kRでの樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けが終わると、第1フープ巻層221においてドーム肩部11kRで巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wに、樹脂吹付ノズル150から短繊維含有樹脂Jsを吹き付ける(工程S224)。折り返し箇所での樹脂吹き付けにあっても、巻き始め端の場合と同様になされる。
制御部200は、折り返し箇所での樹脂吹き付けに続き、層数を示すiを値1だけインクリメントし(工程S226)、全層、本実施形態では、第2繊維強化樹脂層22を構成する第3層、即ち第3フープ巻層223までの巻き付けが完了したか否かを判定する(工程S228)。ここで全層(第3層)までの巻き付けが完了していないと判定すると、引き続きフープ巻層の形成(工程S222)に移行し、第2繊維強化樹脂層22を構成する第3フープ巻層223までの巻き付けが完了するまで、折り返し箇所での樹脂吹き付け(工程S224)を伴うフープ巻層の形成を継続する。これにより、第1フープ巻層221に重ねて第2フープ巻層222が形成され、第2フープ巻層222に重ねて第3フープ巻層223が形成されて、図2に示した工程S220での第2繊維強化樹脂層22の形成が完了する。
図7は、3層のフープ巻層である第2繊維強化樹脂層22における2層目の第2フープ巻層222の形成の様子を示す説明図である。第2繊維強化樹脂層22の第2フープ巻層222の形成に当たり、制御部200は、第1フープ巻層221のフープ巻きがドーム肩部11kRで終了すると、ライナー10を回転させたまま、アイクチガイド132の移動方向を反転する。これにより、第2繊維強化樹脂層22の第2フープ巻層222の巻き付け形成がドーム肩部11kRから開始される(工程S222)。第1フープ巻層221から第2フープ巻層222への折り返し箇所であるドーム肩部11kRにおいて第2フープ巻層222のフープ巻きが終了すると、この巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wに、樹脂吹付ノズル150から短繊維含有樹脂Jsを吹き付ける(工程S224)。つまり、ドーム肩部11kRでは、第1フープ巻層221と第2フープ巻層222の両フープ巻層で巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wに対して、樹脂吹付ノズル150から短繊維含有樹脂Jsが吹き付けられる。第2フープ巻層222の形成が進み、第2フープ巻層222から第3フープ巻層223への折り返し箇所であるドーム肩部11kLにおいて樹脂含浸カーボン繊維束Wが巻き付けられると、この巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wに、樹脂吹付ノズル150から短繊維含有樹脂Jsを吹き付ける。第2フープ巻層222における巻き付け済み樹脂含浸カーボン繊維束Wへの樹脂吹き付けの様子は、図7の下段に示されている。
図8は、3層のフープ巻層である第2繊維強化樹脂層22における3層目の第3フープ巻層223の形成の様子を示す説明図である。第2繊維強化樹脂層22の第3フープ巻層223の形成に当たり、制御部200は、第2フープ巻層222のフープ巻きがドーム肩部11kLで終了すると、ライナー10を回転させたまま、アイクチガイド132の移動方向を反転する。これにより、第2繊維強化樹脂層22の第3フープ巻層223の巻き付け形成がドーム肩部11kLから開始される(工程S222)。第2フープ巻層222から第3フープ巻層223への折り返し箇所であるドーム肩部11kLにおいて第3フープ巻層223のフープ巻きが終了すると、この巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wに、樹脂吹付ノズル150から短繊維含有樹脂Jsを吹き付ける。つまり、ドーム肩部11kLでは、第2フープ巻層222と第3フープ巻層223の両フープ巻層で巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wに対して、樹脂吹付ノズル150から短繊維含有樹脂Jsが吹き付けられる。第3フープ巻層223の形成が進み、第3フープ巻層223のフープ巻き終了箇所であるドーム肩部11kLにおいて樹脂含浸カーボン繊維束Wが巻き付けられると、この巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wに、樹脂吹付ノズル150から短繊維含有樹脂Jsを吹き付ける。第3フープ巻層223における巻き付け済み樹脂含浸カーボン繊維束Wへの樹脂吹き付けの様子は、図8の下段に示されている。第3フープ巻層223の形成で、図2に召した工程S220の第2フープ巻層222の形成は終了し、続く工程S230では、第3繊維強化樹脂層23が低ヘリカル巻層として形成される。よって、第3フープ巻層223には、低角度の繊維角αL(15〜30°)でフープ巻きされた第3繊維強化樹脂層23が重なることから、第3フープ巻層223においては、ドーム肩部11kLとドーム肩部11kRとにおける樹脂吹き付けを省略してもよい。
第3フープ巻層223がドーム肩部11kLから形成されて第2繊維強化樹脂層22が形成されると(図2;工程S220)、制御部200は、回転駆動装置134によるライナー10の回転を停止して樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けを一時停止する。そして、この巻き付け一時停止の期間において、制御部200は、樹脂含浸カーボン繊維束Wが受ける張力を、所定の一時停止張力、例えば、40〜100Nの張力に調整する。
制御部200は、第2繊維強化樹脂層22の形成後の一時停止に続いて図2の工程S230に移行し、第3繊維強化樹脂層23を、樹脂含浸カーボン繊維束Wに定常の張力を及ぼす状況下で、第2繊維強化樹脂層22に重ねて形成する。この際、第3繊維強化樹脂層23は、繊維強化樹脂層20における3層目の低ヘリカル巻層であることから、制御部200は、低ヘリカル巻層の形成に適合した定常の巻き付け張力(例えば、430〜470N)を、張力調整部142により調整して樹脂含浸カーボン繊維束Wに掛ける。その上で、制御部200は、ライナー10をライナー軸心CXの軸回りに回転駆動装置134により回転させつつ、アイクチガイド132から送り出される樹脂含浸カーボン繊維束Wとライナー軸心CXとのなす角が低角度の繊維角αL(15〜30°)となるように、アイクチガイド132の送り出し調整を行う。この送り出し調整では、ライナー10の軸心回りの回転速度に対するアイクチガイド132の往復動速度と往復動折り返し位置とが、低角度の繊維角αL(15〜30°)での低ヘリカル巻層の形成に適うよう、設定調整される。この送り出し調整は、第2繊維強化樹脂層22の形成後の一時停止の間に行われる。
こうした各種調整により、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、上記の巻き付け張力を受けた状態でアイクチガイド132からライナー10に送り出されて、所定の時間に亘って繰り返し連続的にライナー10に巻き付けられる。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、所定の時間、或いは所定の巻き付け数に亘って、低角度の繊維角αL(15〜30°)で送り出されることで、シリンダ部11の両端のドーム部12に掛け渡るよう螺旋状に繰り返し巻き付けられる。両側のドーム部12では、アイクチガイド132の往路・復路の切換に伴って繊維の巻き付け方向が折り返されると共に、ライナー軸心CXからの折り返し位置も調整される。こうして、既に形成済みの第2繊維強化樹脂層22に重ねて第3繊維強化樹脂層23が低ヘリカル巻層として形成される。本実施形態では、第3繊維強化樹脂層23を3層のヘリカル巻層として形成するので、第3繊維強化樹脂層23の形成の際の巻き付け時間や巻き付け数は、3層のヘリカル巻層の形成に適するよう、予め規定されている。
制御部200は、第3繊維強化樹脂層23についての樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けが完了すると、回転駆動装置134によるライナー10の回転を停止して樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けを一時停止する。そして、この巻き付け一時停止の期間において、制御部200は、樹脂含浸カーボン繊維束Wが受ける張力を、所定の一時停止張力、例えば、40〜100Nの張力に調整する。
制御部200は、第3繊維強化樹脂層23の形成後の一時停止に続いて工程S240に移行し、樹脂吹き付けを伴う第4層目の第4繊維強化樹脂層24を、樹脂含浸カーボン繊維束Wに定常の張力を及ぼす定常状況下で、第3繊維強化樹脂層23に重ねて形成する。この際の巻き付け張力は、第4繊維強化樹脂層24が繊維強化樹脂層20における4層目のフープ巻層であることを考慮した巻き付け張力(例えば、430〜470N)とされる。その上で、制御部200は、ライナー10をライナー軸心CXの軸回りに回転駆動装置134により回転させつつ、アイクチガイド132から送り出される樹脂含浸カーボン繊維束Wとライナー軸心CXとのなす角が高角度の繊維角α0(80〜89°)となるように、アイクチガイド132の送り出し調整を行う。この送り出し調整では、ライナー10の軸心回りの回転速度に対するアイクチガイド132の往復動速度と往復動折り返し位置とが、高角度の繊維角α0(80〜89°)でのフープ巻層の形成に適うよう、設定調整される。この送り出し調整は、第3繊維強化樹脂層23の形成後の一時停止の間に行われる。
こうした各種調整により、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、上記の巻き付け張力を受けた状態でアイクチガイド132からライナー10に送り出されて、所定の時間に亘って繰り返し連続的にライナー10に巻き付けられる。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、所定の時間、或いは所定の巻き付け数に亘って、高角度の繊維角α0(80〜89°)で送り出されることで、シリンダ部11のドーム肩部11kLとドーム肩部11kRとの間において、繰り返し連続的にフープ巻きされる。こうして、既に形成済みの第3繊維強化樹脂層23に重ねて第4繊維強化樹脂層24がフープ巻層として形成される。本実施形態では、第4繊維強化樹脂層24を3層のフープ巻層として形成するので、第4繊維強化樹脂層24の形成の際の巻き付け時間や巻き付け数は、3層のフープ巻層の形成に適するよう、予め規定されている。また、本実施形態では、フープ巻層が3層の積層状の第4繊維強化樹脂層24を形成するに際しても、既述した第2繊維強化樹脂層22の形成と同様、第1〜第3の各フープ巻層の形成に際しては、折り返し箇所において樹脂吹付ノズル150からの短繊維含有樹脂Jsの吹き付けを行う。
制御部200は、第4繊維強化樹脂層24の形成後の一時停止に続いて工程S250に移行し、第5繊維強化樹脂層25を、樹脂含浸カーボン繊維束Wに定常の張力を及ぼす状況下で、第4繊維強化樹脂層24に重ねて形成する。この際、第5繊維強化樹脂層25は、繊維強化樹脂層20における5層目の低ヘリカル巻層であることから、制御部200は、低ヘリカル巻層の形成に適合した定常の巻き付け張力(例えば、430〜470N)を、張力調整部142により調整して樹脂含浸カーボン繊維束Wに掛ける。その上で、制御部200は、ライナー10をライナー軸心CXの軸回りに回転駆動装置134により回転させつつ、アイクチガイド132から送り出される樹脂含浸カーボン繊維束Wとライナー軸心CXとのなす角が低角度の繊維角αL(15〜30°)となるように、アイクチガイド132の送り出し調整を行う。この送り出し調整では、ライナー10の軸心回りの回転速度に対するアイクチガイド132の往復動速度と往復動折り返し位置とが、低角度の繊維角αL(15〜30°)での低ヘリカル巻層の形成に適うよう、設定調整される。この送り出し調整は、第4繊維強化樹脂層24の形成後の一時停止の間に行われる。
こうした各種調整により、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、上記の巻き付け張力を受けた状態でアイクチガイド132からライナー10に送り出されて、所定の時間に亘って繰り返し連続的にライナー10に巻き付けられる。そして、樹脂含浸カーボン繊維束Wは、所定の時間、或いは所定の巻き付け数に亘って、低角度の繊維角αL(15〜30°)で送り出されることで、シリンダ部11の両端のドーム部12に掛け渡るよう螺旋状に繰り返し巻き付けられる。両側のドーム部12では、アイクチガイド132の往路・復路の切換に伴って繊維の巻き付け方向が折り返されると共に、ライナー軸心CXからの折り返し位置も調整される。こうして、既に形成済みの第4繊維強化樹脂層24に重ねて第5繊維強化樹脂層25が低ヘリカル巻層として形成される。本実施形態では、第5繊維強化樹脂層25を3層のヘリカル巻層として形成するので、第5繊維強化樹脂層25の形成の際の巻き付け時間や巻き付け数は、3層のヘリカル巻層の形成に適するよう、予め規定されている。
制御部200は、第5繊維強化樹脂層25についての樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けが完了すると、回転駆動装置134によるライナー10の回転を停止して樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けを停止する(工程S260)。この際、制御部200は、作業者による、或いは切断装置による樹脂含浸カーボン繊維束Wの切断処理と繊維束末端の固定処理、並びにタンク取り外し・取り付け処理を待機し、これら処理の後は、新たな高圧水素タンク30の製造、即ち新たなライナー10への樹脂含浸カーボン繊維束Wの巻き付けを行う。
FW装置100を用いた上記の繊維強化樹脂層20の形成に続いては、熱硬化を行い(工程S300)、本ルーチンを終了する。熱硬化工程では、放熱ヒーターを備える熱硬化炉や、加熱コイルを用いた高周波誘電加熱式の熱硬化炉において、高圧水素タンク30を回転させつつ加熱して、繊維強化樹脂層20の形成に用いた上記の熱硬化樹脂(例えば、エポキシ樹脂)を熱硬化させる。そして、樹脂の熱硬化後の冷却養生を経て、ライナー10の外周にエポキシ樹脂を含浸して熱硬化した繊維強化樹脂層20を有する高圧水素タンク30が得られる。
以上説明した本実施形態のタンク製造方法では、シリンダ部11の両端にドーム部12を有するライナー10の外面に樹脂含浸カーボン繊維束Wを巻き付けた複数層の繊維強化樹脂層20を形成するに際し、ライナー10の外面の側の第2繊維強化樹脂層22を、樹脂含浸カーボン繊維束Wの複数回の重なり、具体的には、3回の重なりが起きるようにシリンダ部11に樹脂含浸カーボン繊維束Wをフープ巻きした積層状のフープ巻層として形成する。その上で、第2繊維強化樹脂層22を構成するフープ巻層のうちの2層目以降の第2フープ巻層222と第3フープ巻層223の形成の過程では、既に形成済みのフープ巻層、例えば第1フープ巻層221における折り返し箇所に巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wへの樹脂吹付ノズル150からの短繊維含有樹脂Jsの吹き付けにより、折り返し箇所に巻き付け済みの樹脂含浸カーボン繊維束Wと、この折り返し箇所に次に巻き付けられる第2フープ巻層222の樹脂含浸カーボン繊維束Wとの間に、短繊維含有樹脂Jsを介在させる。図9は、第2繊維強化樹脂層22を構成する第1フープ巻層221の樹脂含浸カーボン繊維束Wの挙動を概略的に示す説明図である。
図9の最下段に示すように、折り返し箇所であるドーム肩部11kLに既に巻き付け済みの第1フープ巻層221の樹脂含浸カーボン繊維束Wは、ドーム肩部11kLの側において2層目の第2フープ巻層222が重ねて形成される際に、短繊維含有樹脂Jsが介在した状態で、第2フープ巻層222における樹脂含浸カーボン繊維束Wから、図中に矢印で示す巻き付け張力Fを受けて押し付けられる。この巻き付け張力Fによる押し付けにより、短繊維含有樹脂Jsの短繊維sは、折り返し箇所で重なる第1フープ巻層221の樹脂含浸カーボン繊維束Wと第2フープ巻層222の樹脂含浸カーボン繊維束Wとの間は元より、それぞれの樹脂含浸カーボン繊維束Wに含まれる繊維と繊維との間にも入り込む。また、短繊維含有樹脂Jsの短繊維sは、ドーム肩部11kLの側でライナー軸心CXに沿って隣り合って並ぶ樹脂含浸カーボン繊維束Wの間にも入り込む。このため、既に形成済みのフープ巻層である第1フープ巻層221とこれに重なって形成されるフープ巻層である第2フープ巻層222との間の摩擦力が、フープ巻層の間に介在する短繊維含有樹脂Jsの短繊維sにより大きくなる。この結果、本実施形態のタンク製造方法によれば、フープ巻層の折り返し箇所に巻き付けられた樹脂含浸カーボン繊維束Wのドーム部12の側への移動を回避、若しくは抑制することが可能となり、隣接する樹脂含浸カーボン繊維束Wの間に間隙を形成しないようにしたり、樹脂含浸カーボン繊維束Wの配向性を高めることができる。第2繊維強化樹脂層22における第2フープ巻層222と第3フープ巻層223とについても同様であり、第4繊維強化樹脂層24における第1〜第3のフープ巻層についても同様である。なお、図9の最下段では、吹き付け済みの短繊維含有樹脂Jsを厚みがあるものとして示しているが、これは、樹脂介在箇所を明示するためであり、短繊維含有樹脂Jsの熱硬化性樹脂Jは、樹脂含浸カーボン繊維束Wの樹脂と混じり合い、短繊維sは繊維間等に入り込むことから、短繊維含有樹脂Jsは、実際には厚みを有しない。
本実施形態のタンク製造方法で得られた高圧水素タンク30と、短繊維含有樹脂Jsの吹き付けを行わない比較例の高圧水素タンクとについて、完成品タンクのカット断面を光学的に観察して、第2繊維強化樹脂層22の繊維配向率をドーム肩部11kL或いはドーム肩部11kRにおいて測定した。本実施形態の高圧水素タンク30では、85〜98%の繊維配向率が得られたのに対し、短繊維含有樹脂Jsの吹き付けを行わない比較例の高圧水素タンクでは、70〜90%の繊維配向率しか得られなかった。また、使用圧力を70MPaに規定して製造した本実施形態の高圧水素タンク30と、短繊維含有樹脂Jsの吹き付けを行わない比較例の高圧水素タンクとについて、高圧ガスを導入してバースト強度を測定した。本実施形態の高圧水素タンク30では、200〜210MPaのバースト強度が得られたのに対し、短繊維含有樹脂Jsの吹き付けを行わない比較例の高圧水素タンクでは、180〜200MPaのバースト強度しか得られなかった。こうした測定結果からも、本実施形態のタンクの製造方法によれば、隣り合う樹脂含浸カーボン繊維束Wの間隙の形成回避や樹脂含浸カーボン繊維束Wの配向性の向上により、タンク強度を高めることができる。
そして、本実施形態のタンク製造方法では、フープ巻層の折り返し箇所での短繊維含有樹脂Jsの吹き付けを行うだけでよい。よって、既存のFW装置100に樹脂吹付ノズル150や貯留槽152を追加配設して樹脂吹き付け制御を実行するだけで、高タンク強度の高圧水素タンク30を容易に製造できる。
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
既述した実施形態では、繊維強化樹脂層20における第4層目の第4繊維強化樹脂層24においても、フープ巻層の折り返し箇所で短繊維含有樹脂Jsの吹き付けを行ったが、第4繊維強化樹脂層24においては樹脂吹き付けを省略してもよい。
既述した実施形態では、第2繊維強化樹脂層22や第4繊維強化樹脂層24をフープ巻きの樹脂含浸カーボン繊維束Wが3回重なる3層のフープ巻層としたが、4〜6層のフープ巻層としてもよい。
既述した実施形態では、フープ巻層の折り返し箇所で短繊維含有樹脂Jsの吹き付けを行う第2繊維強化樹脂層22を、第1繊維強化樹脂層21に重ねて形成したが、樹脂含浸カーボン繊維束Wが複数回重なる層状のフープ巻層をライナー10の外面に直に形成してもよい。つまり、第1繊維強化樹脂層21を省略して第2繊維強化樹脂層22をライナー10の外面に直に形成し、繊維強化樹脂層20を第2繊維強化樹脂層22〜第5繊維強化樹脂層25の4層の繊維強化樹脂層としてもよい。
10…ライナー、11…シリンダ部、11kL…ドーム肩部、11kR…ドーム肩部、12…ドーム部、14…口金、20…繊維強化樹脂層、21…第1繊維強化樹脂層、22…第2繊維強化樹脂層、23…第3繊維強化樹脂層、24…第4繊維強化樹脂層、25…第5繊維強化樹脂層、30…高圧水素タンク、100…FW装置、110…クリールスタンド、112…ボビン、114…固定滑車、120…経路部、130…巻取部、132…アイクチガイド、134…回転駆動装置、140…固定ローラー、142…張力調整部、144…可動ローラー、150…樹脂吹付ノズル、152…貯留槽、200…制御部、221…第1フープ巻層、222…第2フープ巻層、223…第3フープ巻層、CX…ライナー軸心、F…巻き付け張力、J…熱硬化性樹脂、Js…短繊維含有樹脂、W…樹脂含浸カーボン繊維束、s…短繊維
Claims (1)
- シリンダ部の両端にドーム部を有するライナーの外面に樹脂含浸の繊維束を巻き付けた複数層の繊維強化樹脂層を有するタンクの製造方法であって、
前記ライナーの前記外面の側の前記繊維強化樹脂層を、前記繊維束の複数回の重なりが起きるように前記シリンダ部に前記繊維束を折り返しフープ巻きした積層状のフープ巻層として形成し、
2層目以降のフープ巻層の形成の過程では、
前記フープ巻きの折り返し箇所に巻き付け済みの前記繊維束の表面に短繊維含有樹脂が吹き付けられた状態で、前記2層目以降のフープ巻層を形成するための前記繊維束のフープ巻きを開始する、
タンクの製造方法。
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