以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
<第一実施形態>
≪電池の構成≫
図1〜図3を参照して、第一実施形態に係る電池1の構成について説明する。図1は、第一実施形態に係る電池1の構成を概略的に示す図である。本実施形態に係る電池1は、充放電可能な二次電池である。図1に示したように、電池1は、複数の電池素子10と、各電池素子10の両電極間に接続された共振回路20と、これら電池素子10及び共振回路20を収容するハウジング30とを備える。
まず、電池素子10について説明する。図2は、各電池素子10の概略的な断面図である。図2に示したように、各電池素子10は、正極集電体層51、正極活物質層52、固体電解質層53、負極活物質層54及び負極集電体層55がこの順に積層されて形成される。本実施形態では、正極集電体層51、正極活物質層52、固体電解質層53、負極活物質層54、及び負極集電体層55は、それぞれ固体材料で形成される。
正極集電体層51は、正極集電体を有し、正極活物質層52からの集電を行う機能を有する。正極集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、SUS、ニッケル、鉄、チタン等を用いることができる。正極集電体層51は電池素子10から突出して電池素子10の正極として機能する正電極51aを備える。
正極活物質層52は正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム等の公知の正極活物質を適宜用いることができる。また、正極活物質層52は、正極活物質に加えて、更に固体電解質、導電剤、バインダを含有していても良い。
正極活物質層52に用いることができる固体電解質としては、後述する固体電解質層53に用いる材料と同様の材料や、酸化物系非晶質固体電解質、結晶質酸化物等を用いることができる。
正極活物質層に用いることができる導電剤としては、例えば、VGCF、カーボンブラック、黒鉛等の炭素材、又は金属材等が挙げられる。正極活物質層に用いることができるバインダとしては、例えば、ポリテトラフロオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アミン変性ブチルゴム(ABR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
固体電解質層53は、イオン導電性を示す固体物質である固体電解質を含む。固体電解質としては、例えばLi2S−P2S5やLi7P3S11等の硫化物系固体電解質や、LiIやLi2O−B2O3−P2O5等の酸化物系固体電解質等の公知の固体電解質を適宜用いることができる。
負極活物質層54は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えばグラファイトなどの公知の負極活物質を適宜用いることができる。負極活物質層54も、負極活物質に加えて、上述したような固体電解質、導電剤、バインダを含有していても良い。
負極集電体層55は、負極集電体を有し、負極活物質層54からの集電を行う機能を有する。負極集電体の材料としては、正極集電体の材料に加え、銅を用いることができる。負極集電体層55は電池素子10から突出して電池素子10の負極として機能する負電極55aを備える。
なお、本実施形態では、電池素子10は固体電解質層53を有するように構成されている。しかしながら、電池素子10は電解質層として固体電解質層ではなく、液体の電解質層を備えても良い。
次に、共振回路20について説明する。図3は、本実施形態における共振回路20を概略的に示す。図3に示したように、共振回路20は、直列に接続されたコイル61とコンデンサ62とを備える。このように構成された共振回路20では、共振周波数の交流信号が入力される(すなわち、共振周波数の交流電流が流されるか又は共振周波数の交流電圧が印加される)と、共振回路20のインピーダンスが小さくなる。以下では、特定の共振周波数において共振回路20のインピーダンスが小さくなる理由について簡単に説明する。
図4は、共振回路20に入力された交流信号の周波数と、共振回路20の両端の間のインピーダンスとの関係を示す図である。図4は、両対数グラフで表されている。図中の実線は、共振回路20全体のインピーダンスの推移を示している。一方、図中の破線はコイル61のリアクタンスを示しており、図中の一点鎖線はコンデンサ62のリアクタンスを示している。
図4からわかるようにコイル61のリアクタンス(誘導性リアクタンス)は周波数が大きくなるにつれて徐々に低下する。一方、コンデンサ62のリアクタンス(容量性リアクタンス)は周波数が高くなるにつれて徐々に増大する。そして、図4においてコイル61のリアクタンスとコンデンサ62のリアクタンスとが交わる点では、コイル61のリアクタンスとコンデンサ62のリアクタンスが同じ大きさになることからこれらリアクタンスは相殺されることになる。
この結果、コイル61のリアクタンスとコンデンサ62のリアクタンスとが交わる点でのインピーダンスは非常に小さい値となる(実質的にコイルの導線抵抗程度の値となる)。このようにリアクタンスが相殺されてインピーダンスが非常に小さい値となる現象は共振と呼ばれ、このときの周波数は共振周波数と呼ばれる。共振周波数frは、コイル61のインダクタンスをL(H)とし、コンデンサ62のキャパシタンスをC(F)とすると、下記式(1)によって表される。
このように、共振回路20は、共振回路20に共振周波数の交流信号が入力されると、共振周波数近傍以外の交流信号が入力されたときと比べて、共振回路20のインピーダンスが小さくなるように構成される。なお、共振回路20は、このような性質を有していれば、必ずしもコイル61とコンデンサ62とを直列に接続した回路でなくてもよい。
次に、ハウジング30について説明する。図1に示したように、ハウジング30は全ての電池素子10及び全ての共振回路20を収容するように構成される。ハウジング30は例えば樹脂によって形成される。ハウジング30は、電池1全体の正極として機能する正極端子31と、電池1全体の負極として機能する負極端子32とを備える。
次に、上述した電池素子10と共振回路20とハウジング30とのお互いの接続形態について説明する。図1に示した例では、電池1は第1電池素子11から第4電池素子14まで、四つの電池素子10を備えている。これら電池素子11〜14は互いに直列に接続されている。したがって、例えば、第1電池素子11の負電極55aと第2電池素子12の正電極51aとが接続され、第2電池素子の負電極55aと第3電池素子の正電極51aとが接続されている。なお、電池1が備える電池素子10の数は必ずしも4つである必要はなく、複数の電池素子10を備えていれば4つよりも多くても少なくてもよい。
また、直列に接続された複数の電池素子11〜14のうち一方の端に接続された第1電池素子の正電極51aがハウジング30の正極端子31に接続される。加えて、これら電池素子11〜14のうち他方の端に接続された第4電池素子の負電極55aがハウジング30の負極端子32に接続される。
また、図1に示した例では、電池1は第1共振回路21から第4共振回路24まで、四つの共振回路を備えている。各共振回路20は、各電池素子10の正電極51aと負電極55aとの間に接続される。したがって、第1電池素子11の電極間には第1共振回路21が接続され、第2電池素子12の電極間には第2共振回路22が接続され、第3電池素子13の電極間には第3共振回路23が接続され、第4電池素子14の電極間には第4共振回路24が接続される。すなわち、各共振回路20は各電池素子10に並列に接続される。
各共振回路21〜24は、その共振周波数が他の共振回路21〜24の共振周波数とは互いに異なるように構成されている。したがって、各共振回路21〜24を構成するコイル61及びコンデンサ62は、そのインダクタンス及びキャパシタンスの少なくとも何れか一方が他の共振回路21〜24を構成するコイル61及びコンデンサ62のインダクタンス及びキャパシタンスとは異なる値となるように形成される。本実施形態では、各共振回路21〜24は、第1共振回路21、第2共振回路22、第3共振回路23、第4共振回路24の順に共振周波数が高くなるように形成される。
なお、上記実施形態では、各共振回路20はそれぞれ他の共振回路20と接続されていない一つの電池素子10に並列に接続されている。しかしながら、各共振回路20は、電池1の一部の複数の電池素子から構成される群(以下、「電池素子群」という)であって他の共振回路20と接続されていない電池素子群に並列に接続されてもよい。したがって、例えば、第1共振回路は、第1電池素子11の正極と第2電池素子12の負極とに接続されてもよい。また、複数の共振回路20のうち一部の共振回路は電池素子10に並列に接続され、他の共振回路は電池素子群に並列に接続されてもよい。
また、各電池素子10は複数の共振回路に接続されてもよい。したがって、例えば、第1共振回路が第1電池素子11のみと並列に接続されると共に、第2共振回路が第1電池素子11及び第2電池素子12から構成される電池素子軍と並列に接続されてもよい。
加えて、上記実施形態の電池1では、隣接する電池素子10同士はこれらの電極を接続することによって行われている。しかしながら、電池1は、隣接する電池素子同士が集電体層を共有するように構成されてもよい。すなわち、電池1は、隣接する電池素子が正極集電体層及び負極集電体層の両方として機能する集電体層を共有するバイポーラ型の構成であってもよい。具体的には、電池1は、例えば、隣接する二つの電池素子が、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極兼正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層の積層順で、積層されるような構成であってもよい。すなわち、電池1は、負極兼正極集電体層として機能する集電体層を共有する隣接する二つの電池素子を有するように構成されてもよい。
以上より、本実施形態では、直列に接続された複数の電池素子10を備える電池は、互いに共振周波数の異なる複数の共振回路20を備え、各共振回路20は一つの電池素子の両電極間又は複数の電池素子から成る電池素子群の両電極間に接続されるように構成される。
≪各電池素子のインピーダンス検出原理≫
ところで、各電池素子10に共振回路20を並列に接続することにより、各電池素子10の両電極間に外部から入力される交流信号の周波数に応じて、電池素子10と共振回路20とのインピーダンスの大小関係を変化させることができる。
図5は、電池素子10の両電極間に入力される交流信号の周波数と、電池素子10のインピーダンス及び共振回路20のインピーダンスとの関係を示す図である。共振回路20のインピーダンスは、図4の実線と同一となっている。一方、電池素子10のインピーダンスは、周波数が高くなるにつれて徐々に低下する。
図5からわかるように、共振回路20のコイル61のインダクタンス及びコンデンサ62のキャパシタンスを適切に設定すると、共振回路20の共振周波数近傍では共振回路20のインピーダンスを対応する電池素子10のインピーダンス以下にすると共に、共振回路20の共振周波数近傍以外では共振回路20のインピーダンスを対応する電池素子10のインピーダンスよりも大きくすることができる。
特に、図5に示した例では、共振周波数において共振回路20のインピーダンスは電池素子10のインピーダンスよりもかなり小さい(電池素子10のインピーダンスの1/10未満)。加えて、共振周波数近傍以外では、共振回路20のインピーダンスは電池素子10のインピーダンスよりもかなり大きい(電池素子10のインピーダンスの10倍以上)。
したがって、各電池素子10の両電極間に外部から入力される交流信号の周波数が共振周波数であるときには、電流は並列に接続された電池素子10と共振回路20のうち主に共振回路20を通って流れることになる。特に、共振周波数における共振回路20のインピーダンスが非常に小さくなるように共振回路20を構成すると、実質的にこの電池素子10を短絡するのと同様な効果が得られる。
その一方で、各電池素子10の両電極間に外部から入力される交流信号の周波数が共振周波数近傍以外であるときには、電流は並列に接続された電池素子10と共振回路20のうち主に電池素子10を通って流れる。特に、共振周波数近傍以外における共振回路20のインピーダンスが電池素子10のインピーダンスに比べて非常に大きくなるように共振回路20を構成すると、実質的に電流は共振回路20には流れずに、電池素子10のみを通って流れる。したがって、このとき電池素子10の両電極間のインピーダンスを測定すると、測定されたインピーダンスは電池素子10のインピーダンスを表すことになる。
以上より、各電池素子10の両電極間に外部から入力される交流信号の周波数が、対応する共振回路20の共振周波数であるときには、実質的にこの電池素子10が短絡されることになる。したがって、電池1の両端子間に或る共振回路20の共振周波数の交流信号を入力してこのとき電池1の両端子31、32間のインピーダンスを検出すると、検出されたインピーダンスはこの共振回路20に接続された電池素子10以外の電池素子10のインピーダンスの合計となる。例えば、第1電池素子10に接続された第1共振回路21の共振周波数の交流信号を電池1に入力すると、電池1の両端子31、32間のインピーダンスは第2電池素子12、第3電池素子13及び第4電池素子14のインピーダンスの合計となる。このようにして、入力された周波数が共振周波数である共振回路20に接続された一つの電池素子10を除く残りの電池素子10のインピーダンス合成値を求めることができる。
≪実験の結果≫
電池素子に共振回路を並列に接続した場合に、電池素子の両電極間に外部から交流電流又は交流電圧を加えたときに、上述したように共振周波数と共振周波数近傍以外とでインピーダンスが大きく変化することを確認すべく実験を行った。実験においては、電池素子としてコイン電池を用い、二つの共振回路X、Yを用意した。
共振回路Xはコイルのインダクタンスが10.9mHであり、コンデンサのキャパシタンスが275nFであり、よって共振周波数は2888Hzであった。また、共振周波数におけるインピーダンス(すなわち、コイル等の導線抵抗)は193mΩであった。このように構成された共振回路Xの両端に外部から交流信号を入力すると共に、この交流信号の周波数を変えてインピーダンスの計測を行った。このときの周波数とインピーダンスとの関係は、図6に一点鎖線で示したとおりである。
一方、共振回路Yはコイルのインダクタンスが745mHであり、コンデンサのキャパシタンスが32.8nFであり、よって共振周波数は1010Hzであった。また、共振周波数におけるインピーダンス(すなわち、コイル等の導線抵抗)は29.3Ωであった。このように構成された共振回路Yの両端に外部から交流信号を入力すると共に、この交流信号の周波数を変えてインピーダンスの計測を行った。このときの周波数とインピーダンスとの関係は、図6に二点鎖線で示したとおりである。
また、コイン電池についても両電極間に外部から交流信号を入力すると共に、この交流信号の周波数を変えてインピーダンスの計測を行った。このときの周波数とインピーダンスとの関係は、図6に実線で示したとおりである。
なお、図6中の破線は、コイン電池のインピーダンスの100倍のインピーダンス(図中のZ100)と、コイン電池のインピーダンスの1/100のインピーダンス(図中のZ1/100)を示す。共振回路のインピーダンスがコイン電池のインピーダンスの100倍以上になれば、コイン電池と共振回路とを図7に示したように並列に接続して外部の交流電源から電流を流しても、共振回路にはほとんど電流は流れない。したがって、共振回路のインピーダンスがコイン電池のインピーダンスの100倍を示すラインZ100以上であれば、コイン電池のインピーダンスを簡単且つ比較的に正確に計測することができる。したがって、共振周波数近傍以外の領域では、共振回路のインピーダンスはラインZ100以上であることが好ましい。図6に示した本実験の例では、共振回路Yは、共振周波数近傍のごく僅かな領域(691Hz〜1442Hz)以外の領域ではそのインピーダンスがラインZ100を超えている。したがって、共振回路Yのインピーダンスは、共振周波数近傍のごく僅かな領域を除くほとんどの周波数領域でコイン電池のインピーダンスの100倍以上となっており、斯かる点でコイン電池のインピーダンスを簡単且つ正確に計測することができるようにする。
また、共振回路のインピーダンスがコイン電池のインピーダンスの1/100以下であれば、コイン電池と共振回路とを図7に示したように並列に接続して外部から交流信号を入力すると、共振回路にほとんどの電流が流れ、コイン電池にはほとんど電流が流れない。したがって、共振回路のインピーダンスがコイン電池のインピーダンスの1/00を示すラインZ1/100以下であれば、コイン電池を実質的に短絡することができる。したがって、共振周波数においては、共振回路のインピーダンスはラインZ1/100以下であることが好ましい。図6に示した本実験の例では、共振回路Xは、共振周波数においてそのインピーダンスがラインZ1/100以下になっており、斯かる点でコイン電池を実質的に短絡することができる。
このような性質を持つ共振回路X、共振回路Y及びコイン電池を用いて、実験を行った。実験を行うにあたっては、図7に示したようにコイン電池に並列に各共振回路を接続した。そして、図7に示した並列回路の両端に外部の交流電源を接続すると共に、この交流電源によって入力される交流信号の周波数を変えてインピーダンスの計測を行い、その結果に基づいてインピーダンスの実数部(Z’)及びインピーダンスの虚数部(Z’’)を算出した。
図8は、コイン電池と共振回路Xとを並列に接続した並列回路についてのインピーダンスの計測結果を示すナイキストプロット図である。図8は、各測定点をプロットすると共に、これらプロットした測定点を曲線でつなげたものを示している。図中の実線は、コイン電池と共振回路Xとを並列に接続した並列回路についての結果を示しており、図中の破線は共振回路Xを接続していないコイン電池のみの結果を示している。
図8に破線で示したように、コイン電池単体では、周波数が高くなるほどインピーダンスの実数部が小さくなる。加えて、コイン電池単体では、周波数が高いとき(例えば、100KHz以上)及び低いとき(例えば、100Hz以下)には、インピーダンスの虚数部が小さい。一方、周波数が中程度のとき(例えば、1KHz〜10KHz)には、インピーダンスの虚数部が大きい。コイン電池がこのような性質を示す理由は、特に、コイン電池内に形成される電気二重層がキャパシタと同様に作用することによるものである。
一方、図8に実線で示したように、コイン電池と共振回路Xとを並列に接続した並列回路のインピーダンスは、周波数が共振周波数に対して十分に高いとき(特に、10KHz以上)及び共振周波数に対して十分に低いとき(特に、100Hz以下)にはコイン電池単体と同様に変化する。これに対して、周波数が共振周波数に或る程度近い領域(1KHz〜10KHz)内にあるとき、並列回路のインピーダンスはコイン電池単体のインピーダンスとは異なって変化する。特に、図8に示したように、並列回路のインピーダンスは、周波数が共振周波数(2890Hz)であるときには、実数部(Z’)及び虚数部(Z’’)共にほぼゼロとなる。このように、共振回路Xでは、共振周波数におけるインピーダンスがコイン電池のインピーダンスに対して十分に小さいことから、ナイキストプロットがほぼ原点を通過していると考えられる。
図9は、コイン電池と共振回路Yとを並列に接続した並列回路についてのインピーダンスの計測結果を示す、図8と同様なナイキストプロット図である。図9においても、図中の実線は、コイン電池と共振回路Yとを並列に接続した並列回路についての結果を示しており、図中の破線は共振回路Yを接続していないコイン電池のみの結果を示している。
図9に実線で示したように、コイン電池と共振回路Yとを並列に接続した並列回路のインピーダンスも、周波数が共振周波数に対して或る程度高いとき(特に、1442Hz以上)及び共振周波数に対して或る程度低いとき(特に、691Hz以下)にはコイン電池単体と同様に変化する。これに対して、周波数が共振周波数近傍の領域(691Hz〜1442Hz)内にあるときには、並列回路のインピーダンスはコイン電池単体のインピーダンスとは異なって変化する。すなわち、コイン電池と共振回路Yとを並列に接続した並列回路では、周波数が691Hz〜1442Hzの小さな領域内にあるときにのみ、並列回路のインピーダンスはコイン電池単体のインピーダンスとは異なって変化する。したがって、共振回路Yを接続した並列回路では、ほとんどの周波数領域において共振回路Yの影響を受けないことがわかる。
すなわち、図7〜図9に示した実験結果からは、共振回路におけるコイルのインダクタンス及びコンデンサのキャパシタンスを適切に設定することにより、共振周波数におけるインピーダンスを電池のインピーダンスに対して十分に小さくすることができ且つ共振周波数近傍以外の周波数において並列回路のインピーダンスに対する共振回路の影響を十分に小さくすることができることがわかる。
≪異常診断制御≫
そこで、本実施形態では、上述したような性質を利用して、複数の電池素子10を備える電池1において、異常が生じている電池素子10又は電池素子群を特定する異常診断が行われる。特に、本実施形態では、電池1に各共振回路の共振周波数の交流信号が入力されたときの電池1のインピーダンスを検出し、各共振回路の共振周波数におけるインピーダンスに基づいて、電池1を構成する電池素子のうち異常の発生している電池素子10又は電池素子群を特定するようにしている。以下では、具体的な異常診断制御における診断方法について説明する。
異常診断制御を行うにあたっては、図10に示したように、電池1のインピーダンスの検出を行うインピーダンス検出装置70が電池1の両端子31、32に接続される。インピーダンス検出装置70は、電池1に様々な周波数の交流信号を入力したとき(すなわち、電池1に交流電流を流したときや、電池1に交流電圧を印加したとき)の電池1のインピーダンスを検出することができる。具体的には、インピーダンス検出装置70は、電池1に所定の周波数の交流電流を流すと共にこのときの両端子31、32間の電圧を測定し、測定された電圧に基づいてその周波数における電池1のインピーダンス等を算出する。或いは、インピーダンス検出装置70は、電池1の両端子31、32間に交流電圧を印加すると共にこのときに電池1に流れる電流を測定し、測定された電流に基づいてその周波数における電池1のインピーダンス等を算出する。なお、インピーダンス検出装置70は、電池1に様々な周波数の交流信号を入力したときの電池1のインピーダンスを検出することができれば、周波数応答アナライザ(FRA:Frequency Response Analyzer)等、公知の装置を用いることができる。
本実施形態では、電池1にこのようなインピーダンス検出装置70を接続した後に、インピーダンス検出装置70によって電池1の各共振回路20の共振周波数における交流信号が電池1に入力されると共に、インピーダンス検出装置70によってこのときの電池1のインピーダンスが検出される。
ここで、上述したように、或る共振回路20の共振周波数の交流信号が電池1に入力されると、その共振回路20に並列に接続された電池素子10は実質的に短絡されることになる。したがって、例えば、第1共振回路21の共振周波数(以下、「第1共振周波数」という)の交流信号を電池1に入力すると、このときインピーダンス検出装置70によって検出された電池1のインピーダンスは、第1電池素子11を除く残りの電池素子12〜14のインピーダンス合成値を表す。
したがって、第1共振周波数の交流信号を電池1に入力したときに検出された電池1のインピーダンスと、電池素子12〜14に異常が生じていないときのこれら電池素子12〜14のインピーダンス合成値(以下、「正常時インピーダンス合成値」という)とを比較することにより、第1電池素子11以外の電池素子12〜14に異常が生じているか否かを判定することができる。具体的には、例えば、検出された電池1のインピーダンスと正常時インピーダンス合成値との差が所定の正常基準値以下であれば、電池素子12〜14のいずれにも異常は生じていないと判定される。逆に、検出された電池1のインピーダンスと正常時インピーダンス合成値との差が所定の正常基準値よりも大きければ、電池素子12〜14のいずれかには異常が生じていると判定される。
同様に、第2共振回路22の共振周波数の交流信号を入力したとき、第3共振回路23の共振周波数の交流信号を入力したとき、及び第4共振回路24の共振周波数の交流信号を入力したときの、電池1のインピーダンスが検出される。これら検出値は、それぞれ、第2電池素子12以外の電池素子のインピーダンス合成値、第3電池素子13以外の電池素子のインピーダンス合成値、第4電池素子14以外の電池素子のインピーダンス合成値を表す。したがって、これらインピーダンス合成値とこれに対応する正常時インピーダンス合成値とを比較することにより、第2電池素子12以外の電池素子、第3電池素子13以外の電池素子及び第4電池素子14以外の電池素子における異常の有無を判定することができる。
そして、このようにして判定された各電池素子以外の電池素子における異常の有無に基づいて、特定の電池素子の異常の有無を判定することができる。例えば、第1電池素子11以外の電池素子には異常が無いと判定されると共に、第2電池素子12以外の電池素子のいずれか、第3電池素子以外の電池素子のいずれか及び第4電池素子以外の電池素子のいずれかには異常が有ると判定された場合には、第1電池素子11に異常があると判定することができる。
≪フローチャートの説明≫
図11は、第一実施形態に係る電池1の各電池素子10の異常診断を行う異常診断制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。このような異常診断制御は、インピーダンス検出装置70によって自動的に行われる。しかしながら、このような異常診断制御は、同様な手順によりインピーダンス検出装置70を手動で操作することによって行われてもよい。
異常診断制御が開始されると、まず、ステップS11では、測定回数iが1に初期化される。次いで、ステップS12では、測定回数iが共振回路総数Ncよりも多いか否かが判定される。共振回路総数Ncは、電池1に設けられた共振回路20の数を示す。したがって、図1及び図10に示した例では、共振回路総数Ncは4とされる。
異常診断制御の開始直後は測定回数iは1であるため、ステップS12では測定回数iは共振回路総数Nc以下であると判定され、ステップS13へと進む。ステップS13では、インピーダンス検出装置70によって周波数fiの交流信号が電池1に入力される。ここで、周波数fiは、第i共振回路の共振周波数を意味する。したがって、例えば測定回数iが1のときには、第1共振回路の共振周波数の交流信号が電池1に入力されることになる。
次いで、ステップS14では、ステップS13において周波数fiの交流信号を電池1に入力したときのインピーダンスZfiがインピーダンス検出装置70によって検出される。このインピーダンスZfiは、第i共振回路に接続された電池素子10又は電池素子群以外の電池素子10のインピーダンス合成値を表している。
次いで、ステップS15では、ステップS14で検出されたインピーダンスZfiと、第i共振回路に接続された電池素子10又は電池素子群以外の電池素子10の正常時インピーダンス合成値Zfirefとの差が、正常基準値A以下であるか否かが判定される。正常時インピーダンス合成値Zfirefは、実験的に又は計算によって予め求められた値であってもよい。或いは、正常時インピーダンス合成値Zfirefは、電池1の出荷時又は電池1を搭載した装置の出荷時において周波数fiの交流信号を電池1に入力したときにインピーダンス検出装置70によって検出されたインピーダンスであってもよい。
ステップS15において、検出されたインピーダンスZfiと正常時インピーダンス合成値Zfirefとの差が正常基準値A以下であると判定された場合にはステップS16へと進む。ステップS16では、第i共振回路に接続された電池素子10又は電池素子群以外の電池素子10には異常がないと判定され、ステップS18へと進む。一方、ステップS15において、検出されたインピーダンスZfiと正常時インピーダンス合成値Zfirefとの差が正常基準値A以下であると判定された場合にはステップS17へと進む。ステップS17では、第i共振回路に接続された電池素子10又は電池素子群以外の電池素子10のいずれかに異常があると判定され、ステップS18へと進む。ステップS18では、測定回数iに1を加算したものが新たな測定回数iとされ、ステップS12へと戻される。
ステップS13〜S18が繰り返し実行されると、遂にはステップS18によって算出される測定回数iが共振回路総数Ncよりも多くなる。このように測定回数iが共振回路総数Ncよりも多くなると、ステップS12からステップS19へと進む。ステップS19では、測定回数iが1から共振回路総数Ncに達するまでの間にステップS16又はS17において行われた判定に基づいて、異常が生じている電池素子10又は電池素子群が特定され、制御ルーチンが終了せしめられる。
<第二実施形態>
≪異常診断制御≫
次に、図12を参照して、第二実施形態に係る電池素子10又は電池素子群の異常診断制御について説明する。第二実施形態においても第一実施形態における電池1と同様な電池が用いられる。以下では、第一実施形態における異常診断制御とは異なる部分を中心に説明する。
異常診断制御を行うにあたっては、本実施形態においても、電池1にインピーダンス検出装置70を接続した後に、インピーダンス検出装置70によって電池1の各共振回路20の共振周波数における交流信号が電池1に入力される。加えて、本実施形態では、インピーダンス検出装置70によって電池1の各共振回路20の共振周波数とは異なる一つ又は複数の周波数の交流信号が電池1に入力される。そして斯かる交流信号が電池1に入力されたときのインピーダンスが、インピーダンス検出装置70によって検出される。
ここで、各共振回路20の共振周波数とは異なる周波数の交流信号が電池1に入力されると、インピーダンス検出装置70によって検出されるインピーダンスは、いずれの電池素子10も短絡されていないときのその周波数におけるインピーダンス、すなわち全ての電池素子10のその周波数におけるインピーダンスの合成値を表している。
また、共振周波数以外の或る周波数における全ての電池素子10のインピーダンス合成値を把握することができれば、この周波数とインピーダンス合成値とに基づいて、他の周波数における全ての電池素子10のインピーダンス合成値を算出することができる。したがって、共振周波数における全ての電池素子10のインピーダンス合成値(いずれの電池素子10も短絡されていないときのインピーダンスの合成値)を算出することができる。したがって、例えば、電池1に共振回路20が接続されていないと仮定したときの、第1共振回路21の共振周波数、第2共振回路22の共振周波数、第3共振回路23の共振周波数及び第4共振回路24の共振周波数における全ての電池素子10のインピーダンス合成値(以下、「共振回路非接続時のインピーダンス合成値」という)を算出することができる。
一方、上述したように、或る共振回路20の共振周波数の交流信号を電池1に入力すると、このときインピーダンス検出装置70によって検出された電池1のインピーダンスは、その共振回路20に並列に接続された電池素子10以外の電池素子10のインピーダンス合成値を表す。したがって、このようにして検出された電池1のインピーダンスを、上述したように算出されたその共振周波数における共振回路非接続時のインピーダンス合成値から減算することで、或る共振回路20に並列に接続された電池素子10のインピーダンスを算出することができる。
例えば、第1共振周波数の交流信号を電池1に入力したときにインピーダンス検出装置70によって電池1のインピーダンスを検出する。また、共振周波数以外の或る周波数の交流信号を電池1に入力したときのインピーダンス合成値に基づいて、第1共振周波数における共振回路非接続時のインピーダンス合成値を算出する。そして、このようにして算出された共振回路非接続時の電池素子10のインピーダンス合成値から、上記検出された電池1のインピーダンスを減算することによって、第1共振周波数の交流信号を入力したときの第1共振回路21に接続された第1電池素子11のインピーダンスを算出することができる。
このようにして算出された各電池素子10のインピーダンスに基づいて各電池素子10の異常診断を行うことができる。具体的には、例えば、第1電池素子11に異常が生じていないときの第1電池素子11の第1共振周波数におけるインピーダンスを正常時インピーダンスとして予め求めておく。そして、上述したようにして算出された第1共振周波数における第1電池素子11のインピーダンスと、第1共振周波数における第1電池素子11の正常時インピーダンスとを比較することにより、第1電池素子11に異常が生じているか否かを判定する。より具体的には、上述したようにして算出された第1電池素子11のインピーダンスと正常時インピーダンスとの差が所定の正常基準値以下であれば、第1電池素子11には異常が生じていないと判定する。逆に、上述したようにして算出された第1電池素子11のインピーダンスと正常時インピーダンスとの差が所定の正常基準値よりも大きければ、第1電池素子11には異常が生じていると判定する。
同様に、第2共振回路22の第2共振周波数の交流信号を入力したとき、第3共振回路23の共振周波数の交流信号を入力したとき、及び第4共振回路24の共振周波数の交流信号を入力したときの、電池1のインピーダンスが検出される。そしてこれら検出されたインピーダンスと、対応する正常時インピーダンスとに基づいて、第2電池素子12、第3電池素子13、第4電池素子14における異常の有無を判定することができる。
≪フローチャートの説明≫
図12は、第二実施形態に係る電池1の各電池素子の異常診断を行う異常診断制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。このような異常診断制御は、インピーダンス検出装置70によって自動的に行われる。しかしながら、このような異常診断制御は、同様な手順によりインピーダンス検出装置70を手動で操作することによって行われてもよい。
異常診断制御が開始されると、まず、ステップS31では、測定回数iが0に初期化される。次いで、ステップS32では、インピーダンス検出装置70によって周波数fiの交流信号が電池1に入力される。ここで、周波数fiは、第i共振周波数を意味する。したがって、例えば測定回数iが1のときには、第1共振周波数の交流信号が電池1に入力されることになる。また、測定回数iが0のときにはいずれの共振回路の共振周波数とも異なる周波数の交流信号が電池1に入力される。
次いで、ステップS33では、ステップS32において周波数fiの交流信号を電池1に入力したときのインピーダンスZfiがインピーダンス検出装置70によって検出される。このインピーダンスZfi(i=1〜4)は、第i共振回路に接続された電池素子又は電池素子群以外の電池素子のインピーダンス合成値を表している。一方、インピーダンスZf0は、いずれの共振周波数でもない周波数における全ての電池素子のインピーダンス合成値を表している。
次いで、ステップS34では、測定回数iが0で有るか否かが判定される。測定回数iが0である場合には、ステップS35へと進む。ステップS35では、ステップS33において検出されたZf0に基づいて、いずれの電池素子10も短絡されていないと仮定したときの各共振周波数における電池1のインピーダンス、すなわち回路非接続時の全電池素子10のインピーダンス合成値Znrfi(i=1〜4)が算出される。
その後、ステップS36に進み、測定回数iに1を加算したものが新たな測定回数iとされ、ステップS37へと進む。ステップS37では、測定回数iが共振回路総数Ncよりも多いか否かが判定される。このときの測定回数iは1であるため、ステップS37では測定回数iは共振回路総数Nc以下であると判定され、ステップS32へ戻される。
制御ルーチンがステップS37からS32に戻された後には、測定回数iは0以外の値となっているため、ステップS34において測定回数iが0ではないとして、ステップS38へと進む。ステップS38では、ステップS35において算出された第i共振周波数における共振回路非接続時の全電池素子10のインピーダンス合成値ZnrfiからステップS33で検出されたインピーダンスZfiを減算した値が、第i共振周波数における第i電池素子10のインピーダンスZiとして算出される。
次いで、ステップS39では、ステップS38で算出された第i共振周波数における第i電池素子10のインピーダンスZiと、第i共振周波数における第i電池素子10の正常時インピーダンスZirefとの差が、正常基準値B以下であるか否かが判定される。第i共振周波数における第i電池素子10の正常時インピーダンスZirefは、例えば、実験的又は計算によって予め求められた値であってもよい。或いは、電池1の出荷時又は電池1を搭載した装置の出荷時等において、上記と同様な手法で算出した第i共振周波数における第i電池素子10のインピーダンスZiを第i共振周波数における第i電池素子10の正常時インピーダンスZirefとしてもよい。
ステップS39において、算出されたインピーダンスZiと正常時インピーダンスZirefとの差が正常基準値B以下であると判定された場合にはステップS40へと進む。ステップS40では、第i電池素子10には異常が無いと判定され、ステップS36へと進む。一方、ステップS39において、算出されたインピーダンスZiと正常時インピーダンスZirefとの差が正常基準値Bよりも大きいと判定された場合にはステップS41へと進む。ステップS41では、第i電池素子10には異常があると判定され、ステップS36へと進む。
その後、ステップS32からS37が繰り返し実行されると、遂にはステップS36によって算出される測定回数iが共振回路総数Ncよりも多くなる。このように測定回数iが共振回路総数Ncよりも多くなると、制御ルーチンが終了せしめられる。