以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
<第一実施形態>
≪電池の構成≫
図1〜図3を参照して、第一実施形態に係る電池1の構成について説明する。図1は、第一実施形態に係る電池1の構成を概略的に示す図である。本実施形態に係る電池1は、充放電可能な二次電池である。図1に示したように、電池1は、複数の電池素子10と、隣り合う電池素子10の間に配置された磁場発生部20と、これら電池素子10及び磁場発生部20を収容するハウジング30とを備える。
まず、電池素子10について説明する。図2は、各電池素子10の概略的な断面図である。図2に示したように、各電池素子10は、正極集電体層51、正極活物質層52、固体電解質層53、負極活物質層54及び負極集電体層55がこの順に積層されて形成される。本実施形態では、正極集電体層51、正極活物質層52、固体電解質層53、負極活物質層54、及び負極集電体層55は、それぞれ固体材料で形成される。
正極集電体層51は、正極集電体を有し、正極活物質層52からの集電を行う機能を有する。正極集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、SUS、ニッケル、鉄、チタン等を用いることができる。正極集電体層51は電池素子10から突出して電池素子10の正極として機能する正電極51aを備える。
正極活物質層52は正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム等の公知の正極活物質を適宜用いることができる。また、正極活物質層52は、正極活物質に加えて、更に固体電解質、導電剤、バインダを含有していても良い。
正極活物質層52に用いることができる固体電解質としては、後述する固体電解質層53に用いる材料と同様の材料等を用いることができる。
正極活物質層に用いることができる導電剤としては、例えば、VGCF、カーボンブラック、黒鉛等の炭素材、又は金属材等が挙げられる。正極活物質層に用いることができるバインダとしては、例えば、ポリテトラフロオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アミン変性ブチルゴム(ABR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
固体電解質層53は、イオン導電性を示す固体物質である固体電解質を含む。固体電解質としては、例えばLi2S−P2S5やLi7P3S11等の硫化物系固体電解質や、LiIやLi2O−B2O3−P2O5等の酸化物系固体電解質等の公知の固体電解質を適宜用いることができる。
負極活物質層54は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えばグラファイトなどの公知の負極活物質を適宜用いることができる。負極活物質層54も、負極活物質に加えて、上述したような固体電解質、導電剤、バインダを含有していても良い。
負極集電体層55は、負極集電体を有し、負極活物質層54からの集電を行う機能を有する。負極集電体の材料としては、正極集電体の材料に加え、銅を用いることができる。負極集電体層55は電池素子10から突出して電池素子10の負極として機能する負電極55aを備える。
なお、本実施形態では、電池素子10は固体電解質層53を有するように構成されている。しかしながら、電池素子10は電解質層として固体電解質層ではなく、液体の電解質層を備えても良い。
次に、磁場発生部20について説明する。図3は、本実施形態における磁場発生部20を概略的に示す図である。図3に示したように、磁場発生部20は、動磁場を発生させるためのコイル61と、コイル61全体を覆うように形成された絶縁体62とを備える。
コイル61は、コイル61に交流電流が流されるとコイル61周りに動磁場を形成するように構成される。また、各磁場発生部20のコイル61は、同一の交流電流が流されたとしても、他の磁場発生部20のコイル61とは磁束密度の分布が異なる動磁場が発生するように構成される。具体的には、例えば、各磁場発生部20のコイル61は、他の磁場発生部20のコイル61とは巻き数が異なるように形成されたり、又はコイルの巻き形状が異なるように形成されたりするように構成される。巻き形状の異なるコイルとは、円形や、楕円形、矩形等、コイルの巻かれた形状が互いに異なるコイルのみならず、例えば円形であればその半径の異なるコイルをも意味するものである。
絶縁体62は、磁場発生部20の表面にはコイル61が露出することのないように、コイル61全体を覆うように形成される。したがって、磁場発生部20が隣り合う二つの電池素子10の間に配置されても、コイル61が電池素子10に接触することはない。絶縁体62は、例えば、コイル61が埋め込まれたフィルムとして形成される。また、絶縁体62の材料としては、絶縁性を示す様々な材料を使用可能であるが、例えば、絶縁性を示す樹脂が用いられる。この場合、磁場発生部20は、例えば、コイル61周りに絶縁体62として用いられる樹脂を射出成形することによって形成される。
次に、ハウジング30について説明する。図1に示したように、ハウジング30は全ての電池素子10及び全ての磁場発生部20を収容するように構成される。ハウジング30は例えば樹脂によって形成される。ハウジング30は、電池1全体の正極として機能する正極端子31と、電池1全体の負極として機能する負極端子32とを備える。加えて、ハウジング30は、磁場用第1端子33と磁場用第2端子34とを備える。磁場用第1端子33及び磁場用第2端子34は、磁場発生部20に接続されると共に、磁場発生部20に電流を流すべく外部の電源を接続するのに用いられる。
次に、電池1における電池素子10、磁場発生部20及びハウジング30の配置について説明する。図1に示した例では、電池1は第1電池素子11から第4電池素子14まで、四つの電池素子10を備えている。これら電池素子11〜14は互いに直列に接続されている。したがって、例えば、第1電池素子11の負電極55aと第2電池素子12の正電極51aとが接続され、第2電池素子12の負電極55aと第3電池素子13の正電極51aとが接続されている。なお、電池1が備える電池素子10の数は必ずしも4つである必要はなく、複数の電池素子10を備えていれば4つよりも多くても少なくてもよい。
また、直列に接続された複数の電池素子11〜14のうち一方の端に接続された第1電池素子11の正電極51aがハウジング30の正極端子31に接続される。加えて、これら電池素子11〜14のうち他方の端に接続された第4電池素子14の負電極55aがハウジング30の負極端子32に接続される。
また、図1に示した例では、電池1は第1磁場発生部21から第3磁場発生部23まで、三つの磁場発生部を備えている。各磁場発生部20は、隣合った二つの電池素子10の間に配置される。したがって、第1電池素子11と第2電池素子12との間に第1磁場発生部21が配置され、第2電池素子12と第3電池素子13との間に第2磁場発生部22が配置され、第3電池素子13と第4電池素子14との間に第3磁場発生部23が配置される。
本実施形態では、これら磁場発生部20のコイル61は直列に接続される。したがって、第1磁場発生部21のコイル61の第2端部は第2磁場発生部22のコイル61の第1端部に接続され、第2磁場発生部22のコイル61の第2端部は第3磁場発生部23のコイル61の第1端部に接続される。また、第1磁場発生部21のコイル61の第1端部はハウジング30の磁界用第1端子33に接続され、第3磁場発生部23のコイル61の第2端部はハウジング30の磁界用第2端子34に接続される。なお、これら磁場発生部20のコイル61はその一部又は全部が互いに並列に接続されてもよい。
このように構成された磁場発生部20では、ハウジング30の磁界用第1端子33と磁界用第2端子34との間に交流電流が流されると、各磁場発生部20周りに動磁場が形成される。このようにして形成される動磁場は、上述したようにコイルの巻き数等が磁場発生部20毎に異なることから、各磁場発生部20毎に磁束密度の分布が異なる動磁場となる。
また、各磁場発生部20によって形成される動磁場はその磁場発生部20から近いほど強い。したがって、各磁場発生部20によれば、その磁場発生部20に隣接する電池素子10には強い磁場が形成されるが、隣接しない電池素子10には弱い磁場が形成される。したがって、例えば、第1磁場発生部21によれば、第1電池素子11と第2電池素子12内に強い磁場が形成されるが、第3電池素子13及び第4電池素子14内には弱い磁場が形成されるか、又はほとんど磁場が形成されない。
以上より、本実施形態では、電池1は、磁束密度の分布が互いに異なる動磁場を発生させる複数の磁場発生部20を備え、各磁場発生部20は二つの対応する電池素子内に動磁場を発生させるように各電池素子10に隣接して配置されているといえる。
≪動磁場と電池素子のインピーダンスとの関係≫
次に、図4〜図7を参照して、磁場発生部20によって形成された動磁場と電池素子10のインピーダンスとの関係について説明する。斯かる動磁場とインピーダンスとの関係を確認すべく或る電池素子を用いて実験を行った。実験においては、電池素子に外部の交流電源を接続すると共に、この交流電源によって入力される交流信号の周波数を変えてインピーダンスの計測を行い、その結果に基づいてインピーダンスの実数部(Z’)及びインピーダンスの虚数部(Z’’)を算出した。
図4は、電池素子内に動磁場を形成させなかった場合の電池素子のインピーダンスの計測結果を示すナイキストプロット図である。図4に示したように、周波数が高くなるほどインピーダンスの実数部が小さくなる。加えて、周波数が10Hz程度のとき及び10kHz程度のときにはインピーダンスの虚数部が小さい。一方、周波数が10Hz以下のときや周波数が10kHz以上のときには10Hz又は10kHzから離れるにつれて虚数部が大きくなる。また、周波数が10Hzと10kHzとの間のときにも10Hzと10KHzから離れるほどインピーダンスの虚数部が大きくなる。電池素子がこのような性質を示す理由は、主に、コイン電池内に形成される電気二重層がキャパシタと同様に作用することによるものである。
一方、図5は、電池素子に隣接して円筒コイルを配置し、この円筒コイルによって電池素子内に動磁場が形成された場合の電池素子のインピーダンスの計測結果を示すナイキストプロット図である。図中の各プロットは、円筒コイルに異なる電流を流したときの計測結果を示している。したがって、0Aのプロットは、円筒コイルに電流を流さなかったとき、すなわち電池素子に動磁場が形成されなかったときの計測結果を示している。また、1.5Aのプロットは、円筒コイルに1.5Aの電流を流したとき、すなわち電池素子に弱い動磁場が形成されたときの計測結果を示している。さらに、6Aのプロットは、円筒コイルに6Aの電流を流したとき、すなわち電池素子に強い動磁場が形成されたときの計測結果を示している。
図5からわかるように、電池素子に動磁場が形成されたときには、電池素子に動磁場が形成されていないときに対して、約1kHzから約100kHzの領域において、インピーダンスが変化することがわかる。特に、30kHz近傍の領域では、電池素子に動磁場が形成されたときと、動磁場が形成されていないときとでインピーダンスが大きく変化する。
図6は、電池素子に隣接して円筒コイルを配置し、この円筒コイルによって動磁場が形成された場合の電池素子のインピーダンスの計測結果を示す、図5と同様なナイキストプロット図である。図5の計測を行ったときには、インピーダンスの計測を行うべく電池素子に加える交流信号と、円筒コイルに流す交流電流とを同期させていなかった。これに対して、図6の計測を行ったときには、インピーダンスの計測を行うべく電池素子に加える交流信号と、円筒コイルに流す交流電流とを同期させた。
図6からわかるように、交流信号と交流電流とを同期させた場合であっても、図5の計測結果と同様に、電池素子に動磁場が形成されたときには、電池素子に動磁場が形成されていないときに対して、約1kHzから約100kHzの領域において、インピーダンスが変化し、特に30kHz近傍の領域ではインピーダンスが大きく変化する。加えて、交流信号と交流電流とを同期させていない場合には円筒コイルに流れる電流の大きさに応じてインピーダンスが変化していたのに対して、交流信号と交流電流とを同期させた場合には円筒コイルに流れる電流の大きさを変えてもインピーダンスがほとんど変化しないことがわかる。
一方、図7は、電池素子に隣接してトロイダルコアを配置し、このトロイダルコアによって動磁場が形成された場合の電池素子のインピーダンスの計測結果を示すナイキストプロット図である。図中の各プロットは、トロイダルコアに異なる電流を流したときの計測結果を示している。したがって、0Aのプロットは、トロイダルコアに電流を流さなかったとき、すなわち電池素子に動磁場が形成されなかったときの計測結果を示している。また、0.25Aのプロット及び1.0Aは、それぞれ、トロイダルコアに0.25A及び1.0Aの電流を流したとき、すなわち電池素子に弱い動磁場及び強い動磁場が形成されたときの計測結果を示している。
図7からわかるように、トロイダルコアが配置された場合、電池素子に動磁場が形成されたときには、電池素子に動磁場が形成されていないときに対して、約100Hzから約10kHzの領域において、インピーダンスが変化することがわかる。特に、約100Hzから約10kHzの領域では、電池素子に動磁場が形成されたときと、動磁場が形成されていないときとでインピーダンスが大きく変化する。
図5及び図6に示した計測結果と図7に示した計測結果とから、電池素子に動磁場が形成されると、或る周波数領域において電池素子に動磁場が形成されていないときに対してインピーダンスが大きく変化することがわかる。また、図5及び図6では、30kHz近傍の領域でインピーダンスが大きく変化しているのに対して、図7では、約100Hzから約10kHzの領域の領域でインピーダンスが大きく変化している。したがって、インピーダンスが大きく変化する周波数領域は、電池素子に形成される動磁場に応じて変わることがわかった。このような現象が生じる理由は必ずしも明確に解明できてはいないが、電池素子に外部から形成される動磁場が、リチウムイオンの動きに影響を与えているものと考えられる。
また、図5及び図6に示した計測結果から、電池素子に加える交流信号と電池素子に形成される動磁場とを同期させていない場合には動磁場の強さに応じてインピーダンスがばらつくのに対して、交流信号と動磁場とを同期させた場合には動磁場の強さを変えてもインピーダンスがほとんどばらつかないことがわかった。
≪動磁場と電池のインピーダンスとの関係≫
ここで、図8に示したように、三つの電池素子10とこれら三つの電池素子10の間に配置された二つの磁場発生部20から構成された電池1’を考える。図8に示した電池1’は、電池素子10及び磁場発生部20の数を除いて図1に示した電池1’と同様に構成されている。
このような電池1’全体のインピーダンスは、基本的に三つの電池素子10のインピーダンスを合計した値となる。より詳細には、ナイキストプロット図において、各周波数における各電池素子10のインピーダンスの実数部の値を合計したものがその周波数におけるその電池1’全体のインピーダンスの実数部の値となる。同様に、ナイキストプロット図において、各周波数における各電池素子10のインピーダンスの虚数部の値を合計したものがその周波数におけるその電池1’全体のインピーダンスの虚数部の値となる。
図9は、図8に示した電池1’等のインピーダンスを示すナイキストプロット図である。図9の一点鎖線は一つの電池素子10のインピーダンスを示しており、図9の破線は電池1’全体のインピーダンス、すなわち直列に接続された三つの電池素子10のインピーダンスを示している。図9に示したように、破線で示した電池1’全体のインピーダンスは、各電池素子10のインピーダンスを合計した値となっている。
一方、図9の実線は、電池素子10間に配置された磁場発生部20に電流を流すことによって各電池素子10に動磁場が形成された場合における、電池1’全体のインピーダンスを示している。図9に示した例では、各電池素子10の動磁場が形成された場合には、周波数が3kHz近傍及び30kHz近傍であるときに、動磁場が形成されていない場合に対してインピーダンスが大きく変化することがわかる。
このように各電池素子10に動磁場が形成されると、或る周波数領域において各電池素子に動磁場が形成されていないときに対してインピーダンスが大きく変わるのは、図5〜図7を参照して説明したとおりである。
図8に示した例では、第1磁場発生部21によって第1電池素子11及び第2電池素子12に動磁場が形成される。この結果、周波数が30kHz近傍の領域において第1電池素子11及び第2電池素子12のインピーダンスが動磁場の形成されていないときのインピーダンスから大きく変化する。一方、第1磁場発生部21は第3電池素子13から離れているため、第1磁場発生部21によって形成される動磁場は第3電池素子13のインピーダンスにはほとんど影響を与えない。
加えて、図8に示した例では、第2磁場発生部22によって第2電池素子12及び第3電池素子13に動磁場が形成される。この結果、周波数が3kHz近傍の領域において第2電池素子12及び第3電池素子13のインピーダンスが動磁場の形成されていないときのインピーダンスから大きく変化する。一方、第2磁場発生部22は第1電池素子11から離れているため、第2磁場発生部22によって形成される動磁場は第1電池素子11のインピーダンスにはほとんど影響を与えない。
このように、第1磁場発生部21によって形成される動磁場によって第1電池素子11及び第2電池素子12のインピーダンスが30kHz近傍において大きく変化し、第2磁場発生部22によって形成される動磁場によって第2電池素子12及び第3電池素子13のインピーダンスが3kHz近傍において大きく変化する。その結果、図9に示したように、磁場発生部20に電流を流したときの電池1’全体のインピーダンスは、周波数が30kHz近傍及び3kHz近傍であるときにおいて、磁場発生部20に電流を流していないときの電池1’のインピーダンスから大きく変化することになる。
≪電池の劣化に伴う変化≫
ところで、電池1’を構成する電池素子10に劣化の異常が生じると、そのインピーダンスが大きく変化する。このようにインピーダンスが変化するのは、電池素子10に劣化の異常が生じると、電池素子10内においてリチウムイオンが移動しにくくなることがその要因の一つである。したがって、電池1を構成する電池素子10に劣化の異常が生じると、その電池素子10に動磁場が形成されているときと形成されていないときとのインピーダンスの差(以下、「インピーダンス差」という)が、その電池素子10に劣化の異常が生じていないときに比べて変化する。特に、電池素子10に劣化の異常が生じるとそのインピーダンスが大きくなることから、電池素子10に劣化の異常が生じると、劣化の異常が生じていないときに比べてインピーダンス差が大きくなる。
図10は、図8に示した電池1’等のインピーダンスを示す、図9と同様なナイキストプロット図である。図10の破線は、図9の破線と同様に、磁場発生部20によって動磁場が形成されていない場合における電池1’全体のインピーダンスを示している。また、図10の一点鎖線は、図9の実線と同様に、電池素子10に劣化の異常が生じていないときの、磁場発生部20によって動磁場が形成された場合における電池1’全体のインピーダンスを示している。
一方、図10の実線は、第1電池素子11に劣化の異常が生じているときの、磁場発生部20によって動磁場が形成された場合における電池1’全体のインピーダンスを示している。図10からわかるように、第1電池素子11に劣化の異常が生じているとき(実線)には、劣化の異常が生じていないとき(一点鎖線)に対して、周波数が30kHz近傍の領域においてインピーダンス差が大きくなっていることがわかる。
その一方で、周波数が3kHz近傍の領域では、第1電池素子11に劣化の異常が生じているときであっても、劣化の異常が生じていないときに対して、インピーダンス差はほぼ同一となっている。したがって、電池素子10に劣化の異常が生じているときには、その電池素子10に形成されている動磁場に対応する周波数近傍において、インピーダンス差が大きくなることがわかる。
一方、図10に示した例とは異なり第3電池素子13に劣化の異常が生じているときには、劣化の異常が生じていないときに比べて、周波数が3kHz近傍の領域においてインピーダンス差が大きくなり、一方、周波数が30kHzの領域ではインピーダンス差はほとんど変化しない。加えて、第2電池素子12に劣化の異常が生じているときには、劣化の異常が生じていないときに比べて、周波数が30kHz近傍の領域及び3kHz近傍の領域のいずれにおいてもインピーダンス差が大きくなる。
したがって、各磁場発生部20によって各電池素子10に動磁場が形成されているときと形成されていないときとの電池全体のインピーダンス差を各周波数について検出することによって、いずれに電池素子10に劣化の異常が生じているかを診断することができる。
≪本実施形態における異常診断制御≫
そこで、本実施形態では、上述したような性質を利用して、複数の電池素子10を備える電池1において、異常が生じている電池素子10を特定する異常診断が行われる。特に、本実施形態では、磁場発生部20によって各電池素子10内に動磁場を発生させた状態で、電池1に周波数の異なる複数の交流信号が入力されたときの電池1のインピーダンスを検出し、検出されたインピーダンスに基づいて電池1を構成する電池素子10のうち異常の発生している電池素子を特定するようにしている。以下では、具体的な異常診断制御における診断方法について説明する。
図11は、異常診断制御を行うために計測機器等が接続された状態の電池1を概略的に示す、図1と同様な図である。図11に示したように、電池1のインピーダンスの検出を行うインピーダンス検出装置70が電池1の両端子31、32に接続される。加えて、磁場発生部20に電流を流す交流電源71が、磁場用第1端子33及び磁場用第2端子34に接続される。
インピーダンス検出装置70は、電池1に様々な周波数の交流信号を入力したとき(すなわち、電池1に交流電流を流したときや、電池1に交流電圧を印加したとき)の電池1のインピーダンスを検出することができる。具体的には、インピーダンス検出装置70は、電池1に所定の周波数の交流電流を流すと共にこのときの両端子31、32間の電圧を測定し、測定された電圧に基づいてその周波数における電池1のインピーダンス等を算出する。或いは、インピーダンス検出装置70は、電池1の両端子31、32間に交流電圧を印加すると共にこのときに電池1に流れる電流を測定し、測定された電流に基づいてその周波数における電池1のインピーダンス等を算出する。なお、インピーダンス検出装置70は、電池1に様々な周波数の交流信号を入力したときの電池1のインピーダンスを検出することができれば、周波数応答アナライザ(FRA:Frequency Response Analyzer)等、公知の装置を用いることができる。
交流電源71は、バイポーラ電源であり、直列に接続された磁場発生部20に交流電流を流す。交流電源71から交流電流が流れることによって各磁場発生部20は隣接する電池素子10に動磁場を形成する。
本実施形態では、電池1にこのようなインピーダンス検出装置70及び交流電源71を接続した後に、インピーダンス検出装置70によって交流信号が電池素子10に入力され、加えて交流電源71によって交流電流が磁場発生部20に流される。そして、このときのインピーダンスがインピーダンス検出装置70によって検出される。
このとき、インピーダンス検出装置70によって入力される交流信号の周波数は、磁場発生部20によって動磁場を電池素子10に形成することにより、いずれかの電池素子10において、動磁場の形成されていないときに対してインピーダンスが大きく変化するような周波数を含む異なる複数の周波数に設定される。図11に示したように三つの磁場発生部20を備える場合には、第1磁場発生部21によって発生する動磁場により隣接する電池素子11、12が最も影響を受ける第1周波数と、第2磁場発生部22によって発生する動磁場により隣接する電池素子12、13が最も影響を受ける第2周波数と、第3磁場発生部23によって発生する動磁場により隣接する電池素子13、14が最も影響を受ける第3周波数とを含む異なる複数の周波数に設定される。例えば、図9に示した例であれば、第1磁場発生部21によって発生する動磁場により隣接する電池素子11、12が最も影響を受ける周波数である30kHzと、第2磁場発生部22によって発生する動磁場により隣接する電池素子12、13が最も影響を受ける周波数3kHzの周波数とを含む異なる複数の周波数に設定されることになる。
また、本実施形態では、交流電源71は、インピーダンス検出装置70において入力される交流信号と同一周波数であって、この交流信号と同期した交流電流を流すことが好ましい。このように、インピーダンス検出装置70によって入力される交流信号と交流電源71によって流される交流電流とを同期させることにより、図6を用いて説明したように動磁場の強さの変化に伴うインピーダンスのばらつきを抑制することができる。
より具体的には、まず、交流電源71から交流電流が流されていない状態で、インピーダンス検出装置70によって第1周波数の交流信号が入力され、このときの電池1全体のインピーダンスが検出される。次いで、交流電源71からインピーダンス検出装置70の交流信号と同期した第1周波数の交流電流が磁場発生部20に流され、このときの電池1全体のインピーダンスが検出される。そして、このようにして検出されたインピーダンスに基づいて、第1周波数におけるインピーダンス差(電池素子10に動磁場が形成されているときと形成されていないときとのインピーダンスの差)が算出される。そして、周波数を第2周波数、第3周波数に変えて、同様な操作が繰り返し行われる。
その後、このようにして算出された各周波数におけるインピーダンス差に基づいて、電池1の各電池素子10の異常診断が行われる。例えば、図11に示した電池1では、第1周波数においてのみインピーダンス差が予め定められた第1基準値以上に大きい場合には第1電池素子11に異常があると判定される。また、第3周波数においてのみインピーダンス差が予め定められた第3基準値以上に大きい場合には第4電池素子14に異常があると判定される。加えて、第1周波数及び第2周波数においてインピーダンス差がそれぞれ予め定められた第1基準値及び第2基準値以上に大きい場合には、第2電池素子12に異常があると判定される。さらに第2周波数及び第3周波数においてインピーダンス差がそれぞれ予め定められた第2基準値及び第3基準値以上に大きい場合には、第3電池素子13に異常があると判定される。本実施形態によれば、このようにして異常が生じている電池素子を特定することができる。
なお、上記実施形態では、各周波数におけるインピーダンス差が対応する基準値以上であるか否かに基づいて各電池素子の異常診断を行っている。しかしながら、異常診断を行うにあたって、必ずしもインピーダンス差を算出する必要は無い。したがって、例えば、動磁場が形成されていないときの各周波数におけるインピーダンスを予め実験的に又は計算によって求めておき、動磁場が形成されているときの各周波数におけるインピーダンスと予め求められたインピーダンスとの差を、基準値と比較して異常診断を行うようにしてもよい。或いは、動磁場が形成されているときの各周波数におけるインピーダンスを予め実験的に又は計算によって求められた基準値と比較し、この基準値との差が大きいときにはその周波数に対応する電池素子に異常があると判定するようにしてもよい。
≪フローチャートの説明≫
図12は、第一実施形態に係る電池1の各電池素子10の異常診断を行う異常診断制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。このような異常診断制御は、インピーダンス検出装置70及び交流電源71によって自動的に行われる。しかしながら、このような異常診断制御は、同様な手順によりインピーダンス検出装置70及び交流電源71を手動で操作することによって行われてもよい。
異常診断制御が開始されると、まず、ステップS11では、測定回数iが1に初期化される。次いで、ステップS12では、測定回数iが磁場発生部総数Ncよりも多いか否かが判定される。磁場発生部総数Ncは、電池1に設けられた磁場発生部20の数を示す。したがって、図1及び図10に示した例では、磁場発生部総数Ncは3とされる。
異常診断制御の開始直後は測定回数iは1であるため、ステップS12では測定回数iは磁場発生部総数Nc以下であると判定され、ステップS13へと進む。ステップS13では、インピーダンス検出装置70によって周波数fiの交流信号が電池1に入力される。ここで、周波数fiは、第i磁場発生部に電流を流すことによって生成される動磁場により隣接する電池素子10においてインピーダンス差が大きくなる周波数を意味する。したがって、例えば測定回数iが1のときには、第1磁場発生部21に電流を流すことによって第1電池素子11及び第2電池素子12においてインピーダンス差が大きくなる第1周波数の交流信号が電池1に入力されることになる。なお、このときは交流電源71からは磁場発生部20へ交流電流は流されていない。
次いで、ステップS14では、ステップS13において周波数fiの交流信号を電池1に入力したときの電池1全体のインピーダンスの実数部Zi’ref及び虚数部Zi’’refがインピーダンス検出装置70によって検出される。これらインピーダンスの実数部Zi’ref及び虚数部Zi’’refは、いずれの磁場発生部20によっても動磁場が形成されていないときのインピーダンスを表している。
次いで、S15では、交流電源71によって磁場発生部20へ交流電流が流される。このとき、交流電源71からは、インピーダンス検出装置70によって入力される交流信号と同期された周波数fiの交流電流が流される。その後、ステップS16では、インピーダンス検出装置70によって周波数fiの交流信号が電池1に入力され、且つ交流電源71によって周波数fiの交流電流が流された状態で、電池1全体のインピーダンスの実数部Zi’及び虚数部Zi’’がインピーダンス検出装置70によって検出される。
次いで、ステップS17では、ステップS14で検出された動磁場が形成されていないときのインピーダンスの実数部Zi’ref及び虚数部Zi’’refと、ステップS16で検出された動磁場が形成されているときのインピーダンスの実数部Zi’及び虚数部Zi’’とに基づいて、下記式(1)によりインピーダンス差Diが算出される。
Di=((Zi’−Zi’ref)2+(Zi’’−Zi’’ref)2)1/2 …(1)
ステップS18では、ステップS17において算出された周波数fiにおけるインピーダンス差Diが基準値Diref以上であるか否かが判定される。ここで、基準値Direfは、第i電池素子及び第i+1電池素子において劣化の異常が発生していないときの周波数fiにおけるインピーダンス差よりも大きな値となるように且つ劣化の異常が発生しているときの周波数fiにおけるインピーダンス差よりも小さな値となるように、予め実験的に又は計算によって求められる。
ステップS18においてインピーダンス差Diが基準値Diref以上であると判定された場合には、ステップS19へと進む。ステップS19では、第i電池素子及び第i+1電池素子に異常があると判定され、ステップS21へと進む。一方、ステップS18において、インピーダンス差Diが基準値Diref未満であると判定された場合には、ステップS20へと進む。ステップS20では、第i電池素子及び第i+1電池素子には異常がないと判定され、ステップS21へと進む。
ステップS21では、測定回数iに1を加算したものが新たな測定回数iとされ、ステップS22ではステップS15において交流電源71から流されていた交流電流が停止され、ステップS12へと戻される。
ステップS13〜S22が繰り返し実行されると、遂にはステップS22によって算出される測定回数iが磁場発生部総数Ncよりも多くなる。このように測定回数iが磁場発生部総数Ncよりも多くなると、ステップS12からステップS23へと進む。ステップS23では、測定回数iが1から磁場発生部総数Ncに達するまでの間にステップS19又はS20において行われた判定に基づいて、異常が生じている電池素子10が特定され、制御ルーチンが終了せしめられる。
<第二実施形態>
≪異常診断制御≫
次に、図13〜図15を参照して、第二実施形態に係る電池素子10の異常診断制御について説明する。第二実施形態においても第一実施形態における電池1と同様な電池が用いられる。以下では、第一実施形態における異常診断制御とは異なる部分を中心に説明する。
図13は、異常診断制御を行うために計測機器等が接続された状態の第二実施形態に係る電池2を概略的に示す、図11と同様な図である。図13に示したように、電池2は、複数の電池素子10と、対応する電池素子に隣接して配置された磁場発生部25と、これら電池素子10及び磁場発生部25を収容するハウジング30とを備える。第二実施形態における電池素子10及びハウジング30は、第一実施形態における電池素子10及びハウジング30と同様に配置される。
図14は、本実施形態における磁場発生部25を概略的に示す断面図である。図14に示したように、本実施形態の磁場発生部25は、動磁場を発生させるためのコイル61と、透磁率の高い板状部材63と、これらコイル61及び板状部材63とを覆うように形成された絶縁体62とを備える。
コイル61は、第一実施形態におけるコイルと同様に形成される。したがって、各磁場発生部25のコイル61は、同一の交流電流がなされたとしても、他の磁場発生部25のコイル61とは磁束密度の分布が異なる動磁場が発生するように構成される。
板状部材63は、コイル61の一方の側に配置される。特に、板状部材63は、透磁率の高い材料で形成されることから、コイル61に交流電流が流れることによってコイル61周りに動磁場が形成されても、この動磁場は板状部材63を貫通して発生しない。したがって、コイル61に交流電流が流されると、コイル61の側面のうち板状部材63が配置されていない側には動磁場が形成され、コイル61の側面のうち板状部材63が配置されている側には動磁場が形成されないことになる。
図14に示すように、本実施形態では、第一実施形態と同様に、電池2は、第1電池素子11から第4電池素子14まで、四つの電池素子10を備えている。加えて、本実施形態では、電池2は、第1磁場発生部21から第4磁場発生部24まで、四つの磁場発生部を備えている。すなわち、本実施形態では、電池2は、電池素子10の数と同数の磁場発生部25を備えている。各磁場発生部25は、対応する電池素子に隣接して配置される。したがって、例えば、第1磁場発生部21は第1電池素子11に隣接して配置され、第2磁場発生部22は第2電池素子12に隣接して配置される。
また、各磁場発生部25は、各磁場発生部25に交流電流が流されると、対応する電池素子10に動磁場を形成し、それ以外の電池素子10には動磁場を形成しないように配置される。したがって、例えば、第1磁場発生部21は、交流電流が流されると第1電池素子11に動磁場を形成し且つ他の電池素子には動磁場を形成しないように配置される。
以上より、本実施形態では、電池2は、磁束密度の分布が互いに異なる動磁場を発生させる複数の磁場発生部25を備え、各磁場発生部25は一つの対応する電池素子内に動磁場を発生させるように各電池素子10に隣接して配置されているといえる。この結果、より正確に各電池素子10における劣化の異常を診断することができるようになる。
≪フローチャートの説明≫
図15は、第二実施形態に係る電池2の各電池素子10の異常診断を行う異常診断制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。このような異常診断制御は、インピーダンス検出装置70及び交流電源71によって自動的に行われる。しかしながら、このような異常診断制御は、同様な手順によりインピーダンス検出装置70及び交流電源71を手動で操作することによって行われてもよい。
異常診断が開始されると、まず、ステップS31では、測定回数iが1に初期化される。次いで、ステップS32〜S36では、図12のステップS13〜S17と同様な操作が行われる。
ステップS37では、ステップS36において算出された周波数fiにおけるインピーダンス差Diが、基準値Diref異常であるか否かが判定される。ここで、基準値Direfは、第i電池素子において劣化の異常が発生していないときの周波数fiにおけるインピーダンス差よりも大きな値となるように且つ劣化の異常が発生しているときの周波数fiにおけるインピーダンス差よりも小さな値となるように、予め実験的に又は計算によって求められる。
ステップS37においてインピーダンス差Diが基準値Diref以上であると判定された場合には、ステップS38へと進む。ステップS38では、第i電池素子に異常があると判定され、ステップS40へと進む。一方、ステップS37において、インピーダンス差Diが基準値Diref未満であると判定された場合には、ステップS39へと進む。ステップS39では、第i電池素子には異常がないと判定され、ステップS40へと進む。
ステップS40では、測定回数iに1を加算したものが新たな測定回数iとされ、次いで、ステップS41ではステップS34において交流電源71から流されていた交流電流が停止され、ステップS42へと進む。ステップS42では、測定回数iが磁場発生部総数Ncよりも多いか否かが判定される。このときの測定回数iは1であるため、ステップS42では測定回数iは磁場発生部総数Nc以下であると判定され、ステップS32へ戻される。
その後、ステップS32からS41が繰り返し実行されると、遂にはステップS42によって算出される測定回数iが磁場発生部総数Ncよりも多くなる。このように測定回数iが磁場発生部総数Ncよりも多くなると、制御ルーチンが終了せしめられる。