以下では、適宜図面を参照しながら、一実施形態の眼鏡レンズの評価方法等について説明する。以下の記載において、屈折力の単位は、特に言及しない場合にはディオプター(D)によって表されるものとする。また、以下の説明において、眼鏡レンズの「上方」、「下方」、「上部」、「下部」等と表記する場合は、当該眼鏡レンズが装用されたときのレンズの位置関係に基づくものとする。
図1は、本実施形態の眼鏡レンズ評価方法に係る眼鏡レンズ評価装置の構成を示す概念図である。眼鏡レンズ評価装置200(以下、評価装置200と呼ぶ)は、制御部210と、記憶部220と、通信部230と、表示部240と、入力部250とを備える。制御部210は、データ取得部211と、評価部300と、画像作成部212と、表示制御部213とを備える。評価部300は、個別特性指標算出部310と、統合特性指標算出部330とを備える。
図2は、評価部300の構成を示す概念図である。評価部300の個別特性指標算出部310は、加入度特性値算出部311と、加入度指標算出部321と、明視域特性値算出部312と、明視域指標算出部322と、ゆがみ特性値算出部313と、ゆがみ指標算出部323と、揺れ特性値算出部314と、揺れ指標算出部324と、処方特性値算出部315と、処方指標算出部325とを備える。
評価装置200は、複数の眼鏡レンズにおける光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかに基づいて、複数の眼鏡レンズの間の装用感の違いを示す指標を算出する。評価装置200は、算出された指標を用いて、上記複数の眼鏡レンズ(以下、適宜「対象レンズ」と呼ぶ)のうち評価の対象となる少なくとも一つの眼鏡レンズ(以下、「評価対象レンズ」と呼ぶ)の評価を行う。
評価装置200による評価対象レンズの評価は、例えば、眼鏡レンズの装用者(以下、単に「装用者」と呼ぶ)および/または眼鏡店の販売員(以下、単に「販売員」と呼ぶ)に向けて表示される。装用者および/または販売員は、この評価から、眼鏡レンズを今まで使用してきたレンズから新しいレンズに切り替えたときの違和感についての情報や、用途等に基づいて使い分ける複数の眼鏡レンズにおいて、光学特性が所望の程度に異なっているかについての情報等を得ることができる。装用者はこのような情報に基づいて、装用する眼鏡レンズを選択することができる。販売員はこのような情報に基づいて装用者に提示するまたは勧める眼鏡レンズを選択することができる。
装用者は、眼鏡を掛け替えたときの違和感が小さくなるように複数の眼鏡レンズの装用感の違いを小さくしたい場合もあれば、異なる距離の対象物を見るために複数の眼鏡レンズを使い分ける場合のように、装用感を異ならせたい場合もある。このような、装用者が眼鏡レンズに求める装用感についての情報を、装用感情報と呼ぶ。評価装置200はこの装用感情報に基づいて評価対象レンズの評価を行うことも好ましい。
眼鏡レンズの光学特性とは、眼鏡レンズの加入度分布等の屈折力分布および非点収差等の収差分布、球面度数、円柱度数および乱視軸角度等を含む処方データで示される特性、ならびにこれらの分布、処方、または眼鏡レンズの形状若しくは物性から値(以下、特性値と呼ぶ)を算出することができる特性を含む。当該特性としては、例えば眼鏡レンズの少なくとも一部の領域による視野のゆがみおよび揺れ等が含まれる。
眼鏡レンズの加入度について説明する。眼鏡レンズの装用状態における、眼球の回旋点(回旋中心)を通る光線が眼鏡レンズの物体側(若しくは眼球側)の面と交差する位置における、眼鏡レンズの最大屈折力と最小屈折力の算術平均を狭義の平均屈折力とする。以下の実施形態における眼鏡レンズの加入度とは、狭義の平均屈折力から、装用者の処方データにおいて指定された装用者の眼の収差を補正して完全矯正にするために必要な眼鏡レンズの度数である、球面度数、円柱度数および乱視軸角度の分を、適宜眼球運動におけるリスティングの法則を考慮して取り除いた一種の残存収差であり、残存平均屈折力とも呼ばれる。
眼鏡レンズの非点収差について説明する。上記回旋点を通る光線における、最大屈折力と最小屈折力の差を狭義の非点収差とする。以下の実施形態における非点収差とは、狭義の非点収差から、加入度の場合と同様に、装用者の処方データにおいて指定された装用者の眼の、収差を補正して完全矯正にするために必要な眼鏡レンズの度数を取り除いた、一種の残存収差であり、残存非点収差や残存屈折力差とも呼ばれる。
なお、上記のように定義した加入度および非点収差に代わり、それぞれ狭義の平均屈折力および狭義の非点収差を用いてもよい。
よって、以下の実施形態における加入度分布および非点収差分布は、装用者の眼の処方に依存する成分を取り除いた、眼鏡レンズの製品としての特徴を表す分布となる。さらに、遠用参照点で無限遠方に完全矯正された眼鏡レンズであれば、以下の実施形態における加入度は、遠用参照点では、0Dとなり、加入度分布は遠用参照点での加入度を0Dとした分布となる。ただし、完全矯正するための処方に合わせた度数を持つ眼鏡レンズであっても、設計誤差や製造誤差の影響がある場合は、遠用参照点での加入度や非点収差は完全に0Dとはならない。
なお、上記のように定義した加入度および非点収差に代わり、後述する基本設計における加入度と非点収差とを用いてもよい。これは例えば、眼鏡レンズの個別最適化設計によって眼鏡レンズの形状が決定される前の眼鏡レンズのように、残存収差が決定していない場合により好適に用いることができる。
図1に戻って評価装置200の各部の説明を行う。記憶部220は、不揮発性の記憶媒体を備える。記憶部220は、眼鏡レンズの加入度分布等の屈折力分布および/若しくは非点収差等の収差分布を示すデータ、ならびに/または装用者の処方データ等を含む眼鏡レンズの光学特性に関するデータ(これらを全て、以下、光学特性データと呼ぶ)、制御部210が処理を実行するためのプログラム等を記憶する。
通信部230は、インターネット等のネットワークに無線または有線接続により通信可能な通信装置を含んで構成され、光学特性データを受信したり、適宜必要なデータを送受信する。
表示部240は、液晶モニタ等の表示装置を備え、評価部300の眼鏡レンズの評価に関する情報等を表示制御部213の制御により表示する。
なお、表示部240は、評価装置200の外部に設けられてもよい。この場合、表示部240は、評価装置200とネットワークを介して無線または有線により通信可能に接続される。
入力部250は、マウス、キーボード、各種ボタンおよび/またはタッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部250は、対象レンズおよび評価対象レンズについての情報や装用感情報等、制御部210の行う処理に必要な情報を、評価装置200のユーザ(以下、単に「ユーザ」と呼ぶ)から受け付ける。
なお、入力部250は、評価装置200の外部に設けられてもよい。この場合、入力部250は、評価装置200とネットワークを介して無線または有線により通信可能に接続される。
制御部210は、CPU等のプロセッサを含んで構成され、記憶部220に記憶されたプログラムを実行し、評価装置200の各動作の主体となる。制御部210は、複数の眼鏡レンズの光学特性データに基づいて評価対象レンズの評価を行い、当該評価に関する情報を表示部240に表示させる。
なお、本実施形態の眼鏡レンズの評価方法に用いるデータの一部は遠隔のサーバ等に保存してもよく、当該評価方法で行う演算処理の一部は遠隔のサーバ等で行ってもよい。
制御部210のデータ取得部211は、入力部250から入力された対象レンズおよび評価対象レンズの情報に基づいて、記憶部220に記憶された光学特性データを取得し、制御部210内の記憶媒体に保持する。光学特性データでは、各光学特性とその値が対応付けられている。
ユーザが対象レンズおよび評価対象レンズを入力する際には、例えば以下のように設定することができる。眼鏡レンズを1対装用している装用者が既存の眼鏡レンズ(旧レンズと呼ぶ)から新しい眼鏡レンズ(新レンズと呼ぶ)に切り替える場合、旧レンズおよび新レンズの2対を対象レンズとし、新レンズの一対を評価対象レンズとする。他の例として、装用者が遠近両用の累進屈折力レンズと中近両用の累進屈折力レンズとをそれぞれ1対購入する場合、これら2対の累進屈折力レンズの両方を対象レンズとし、かつ、評価対象レンズとすることができる。更に他の例として、眼鏡レンズを1対以上所持して装用している装用者が既存の眼鏡レンズ(旧レンズと呼ぶ)を所持し適時装用しながら、新しく遠近両用の累進屈折力レンズと中近両用の累進屈折力レンズとをそれぞれ1対購入する場合、これら旧レンズを含め全ての対の眼鏡レンズを対象レンズとし、新しく購入する2対の累進屈折力レンズを評価対象レンズとすることができる。
データ取得部211は、入力部250から入力された装用感情報についてのデータ(以下、装用感データと呼ぶ)を取得し、制御部210内の記憶媒体に保持する。装用感データでは、眼鏡レンズ上の一部または全部の領域と、光学特性と、装用者が当該光学特性を類似させたいかまたは異ならせたいかを示す情報とが対応付けられている(例えば図39参照)。眼鏡レンズ上の一部の領域の例としては、累進屈折力レンズでは後述する遠用部、中間部または近用部、単焦点レンズではレンズの外周に近い辺縁部等が挙げられる。
評価部300は、データ取得部211が取得した光学特性データおよび/または装用感データに基づいて、評価対象レンズの評価を行う。評価部300は、複数の光学特性のそれぞれについて、光学特性データから、光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかを示す特性値を算出する。評価部300は、算出された特性値から、複数の光学特性のそれぞれについて装用感の違いを示す指標(以下、「個別特性指標」と呼ぶ)を算出する。評価部300は、類似させたい光学特性がどの程度類似しているか、および、異ならせたい光学特性がどの程度異なっているかに基づいて、個別特性指標を算出することも好ましい。評価部300は、個別特性指標から、複数の光学特性に基づいた装用感の違いを示す指標(以下、「統合特性指標」と呼ぶ)を算出する。
(個別特性指標の算出方法)
以下では、個別特性指標算出部310が、複数の光学特性のそれぞれについて、個別特性指標を算出する方法を、光学特性ごとに説明する。以下の実施形態では、個別特性指標および統合特性指標はそれぞれ0から1までの値をとり、値が大きい程装用者にとって好ましくないものとするが、個別特性指標および統合特性指標の値と評価との対応付けの方法は特に限定されない。
(加入度についての個別特性指標の算出方法)
個別特性指標算出部310は、累進屈折力レンズ等の眼鏡レンズの一または複数の所定の位置または範囲における加入度の差に基づいて、個別特性指標を算出する。以下では、説明をわかりやすくするため、遠近両用の累進屈折力レンズおよび中近両用の累進屈折力レンズの2対を対象レンズとし、これらの一方または両方を評価対象レンズとして評価する場合を例に説明する。
なお、対象レンズおよび評価対象レンズは3以上のレンズでもよく、眼鏡レンズの種類も特に限定されず単焦点レンズ等を含んでもよい。
図3(A)は、遠近両用累進屈折力レンズの一例を示す概念図である。遠近両用累進屈折力レンズLSA(以下、「遠近両用レンズLSA」と呼ぶ)は、眼鏡用フレームの形状に合わせてレンズを加工する前の状態(玉摺り加工前の状態)になっており、平面視で円形に形成されている。遠近両用レンズLSAは、図中上側が装用時において上方に配置されることとなり、図中下側が装用時において下方に配置されることとなる。遠近両用レンズLSAは、遠用部Fと、近用部Nと、中間部Pとを有している。
遠用部Fは、遠近両用レンズLSAの上部に配置されており、近用部Nは、遠近両用レンズLSAの下部に配置されている。遠近両用レンズLSAが眼鏡用に加工された後には遠用部Fは、近用部Nと比較して、より長い距離に対応する屈折力を有する部分となる。中間部Pは、遠近両用レンズLSAのうち遠用部Fと近用部Nの中間に配置されており、遠用部Fと近用部Nとの間の屈折力を適宜連続的に滑らかに変化させて接続する。
遠近両用レンズLSAは、複数の基準点を有している。このような基準点として、例えば、図3(A)に示すように、アイポイント(フィッティングポイントとも呼ばれる)EP、遠用基準点FV、近用基準点NV等が挙げられる。アイポイントEPは、装用者がレンズを装用する時の基準点となる。遠用基準点FVは、遠用部Fに位置し、遠用部Fにおいてレンズの遠用度数を測定する測定基準点となる。近用基準点NVは、近用部Nに位置し、近用部Nにおいてレンズの近用度数を測定する測定基準点となる。
遠近両用レンズLSAのほぼ中央には、装用者が正面上方から正面下方にある物体を見た場合に視線が通過するレンズ上の仮想線である主注視線Mが設けられている。主注視線Mは、主子午線とも呼ばれる。主注視線Mは、遠用部Fにおいて、遠用基準点FVとアイポイントEPとを通り、装用時における鉛直方向に対応する方向(以下、「高さ方向」と呼ぶ)に沿って設定される。主注視線Mは、近用部において、近用基準点NVを通り、高さ方向に沿って設定される。近用基準点NVは、輻輳を考慮して鼻側(図3(A)(B)では右側)に内寄せされている。主注視線Mの一部は、中間部Pにおいて、遠用基準点FVと近用基準点NVとを接続するため、高さ方向に対して斜めに設定されている。
図3(B)は、中近両用累進屈折力レンズの一例を示す概念図である。中近両用累進屈折力レンズLSB(以下、「中近両用レンズLSB」と呼ぶ)は、遠用参照点FVの位置が、遠近両用レンズLSAの遠用参照点FVの位置よりも上方にある点、および加入度や非点収差の分布が異なる点で、遠近両用レンズLSAとは異なっている。中近両用レンズLSBにおいて、遠近両用レンズLSAと同一の部分は同一の符号で参照して説明を省略する。以下の実施形態では、高さ方向に沿った遠用基準点FVと近用基準点NVとの間の距離Dが24mm未満であり、アイポイントEPでの加入度が、遠用基準点FVにおける加入度(通常は実質的に0D)と近用基準点NVにおける加入度の差(以下、「公称加入度」と呼ぶ)の15%未満である累進屈折力レンズを遠近両用累進屈折力レンズとする。距離Dが24mm以上であるか、アイポイントEPでの加入度が、公称加入度の15%以上である累進屈折力レンズを中近両用累進屈折力レンズとする。
なお、遠近両用累進屈折力レンズと中近両用累進屈折力レンズとの定義は、上記に限られず、適宜設定される。
遠近両用レンズLSAにおいては、例えば遠用部Fを通して遠距離の対象物を好適に見るように設計され、近用部Nを通して近距離の対象物を好適に見るように設計される。中近両用レンズLSBにおいては、例えば遠用部Fよりも広い領域である中間部Pを通して中間距離の対象物を好適に見るように設計され、近用部Nを通して近距離の対象物を好適にみるように設計される。遠距離、中間距離および近距離に対応する距離は、国・地域や眼鏡レンズの用途等によっても変化し特に限定されないが、例えば遠距離が1m以上、中間距離が50cm以上1m未満、近距離が25cm以上50cm未満である。
図4は、以下の例で対象レンズとして用いる眼鏡レンズAおよびBの加入度曲線AcaおよびAcbを示すグラフである。眼鏡レンズAは遠近両用レンズLSAであり、眼鏡レンズBは中近両用レンズLSBとする。図4のグラフは、アイポイントEPからの高さ(縦軸)に対して、主注視線M(図3(A)(B)参照)上における加入度(横軸)を示している。図4のグラフでは、わかりやすくするため、加入度を曲線ではなく折れ線により模式的に示した。
なお、アイポイントEPからの高さは眼鏡レンズAおよびBの物体側の面における高さであるが、眼側の面における高さであってもよい。アイポイントEPからの高さの代わりに、左右方向を回転軸とした眼球の回旋角度を用いて加入度に関する個別特性指標を算出してもよい。以下の実施形態において、光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかを定量することができれば、パラメータの取り方等は特に限定されない。
眼鏡レンズAは、遠用参照点FVがアイポイントEPより5mm高い位置にあり、近用参照点NVがアイポイントEPより14mm低い位置にある。眼鏡レンズBは、遠用参照点FVがアイポイントEPより10mm高い位置にあり、近用参照点NVがアイポイントEPより14mm低い位置にある。眼鏡レンズAおよびBの公称加入度は2Dである。眼鏡レンズAのアイポイントEPにおける加入度は、眼鏡レンズBのアイポイントEPにおける加入度よりも小さく、公称加入度の15%未満である。
図5は、眼鏡レンズAおよびB上のアイポイントEPからの高さに対し、ピントが合う距離範囲を示すグラフである。図5は、図4のグラフの加入度曲線AcaおよびAcbに、それぞれ装用者の最大調節力の値だけ横軸に沿って移動させた加入度曲線Aca1およびAcb1を追加したものである。例えば、装用者が眼鏡レンズAの主注視線上の高さH1の位置を通して見る場合にピントが合う距離範囲は矢印Dfa、眼鏡レンズBの主注視線上の高さH2の位置を通して見る場合にピントが合う距離範囲は矢印Dfb、眼鏡レンズAの主注視線上の高さH3の位置を通して見る場合にピントが合う距離範囲は矢印Dna、および眼鏡レンズBの高さH4の位置を通して見る場合にピントが合う距離範囲は矢印Dnbにより示される。このように、ピントが合う距離範囲は眼鏡レンズの加入度曲線と装用者の調節力とから算出される。
装用者の調節力は、実際に測定してもよいし、装用者の年齢または処方データにおける加入度等に基づいて算出してもよい。また、対象レンズが過去に作成されたレンズを含む場合には、当該レンズが作成されたときの装用者の調節力を算出して、装用者が当該レンズを作成したときのピントが合う距離範囲を用いて評価対象レンズを評価してもよい。これにより、装用者の好みに合わせ、当該レンズを作成した当時のピントの合う距離範囲に近い眼鏡レンズをより高く評価したりすることができる。
加入度特性値算出部311は、対象レンズの光学特性データに基づいて、加入度に関する特性値(以下、加入度特性値と呼ぶ)を算出する。加入度指標算出部321は、加入度に関する特性値から加入度に関する個別特性指標(以下、個別加入度指標と呼ぶ)を算出する。個別加入度指標と、以下で個別加入度指標を算出するために予備的に算出する指標とを総称して加入度指標と呼ぶ。加入度特性値算出部311および加入度指標算出部321は、入力部250からの入力や装用感情報等に基づいて、眼鏡レンズの使用目的により眼鏡レンズの評価方法を、以下の第1〜第3の各場合から選択することができる。
(第1の場合)
第1の場合として、無限遠方から手元等の近距離の対象物を見る目的の眼鏡レンズとして既存の眼鏡レンズAを日常的に装用していた装用者が、同じ目的で眼鏡レンズBに切り替える場合を説明する。装用者は、違和感を抑えるため、眼鏡レンズを切り替える際に装用感の違いが小さくなるように希望しているまたは好むものとする。
図5の加入度曲線Aca、Acb、Aca1およびAcb1によると、眼鏡レンズAおよびBの遠用度数および近用度数は等しいため、装用者は、無限遠方から手元までの同じ距離範囲でピントを合わせることができる。
しかし、無限遠方を見る場合、眼鏡レンズAの場合には、眼鏡レンズAのアイポイントEPから5mm上方の位置を通して見ることになるが、眼鏡レンズAに慣れた装用者が眼鏡レンズBにおける同じ位置を通して無限遠方を見ると、約0.1Dの加入度が有るため、ぼやけてしまう。眼鏡レンズBを通して無限遠方を見る場合には、装用者はアイポイントEPから10mm上方の位置を見るように眼球を回旋する必要がある。
近用基準点NVに対応する、アイポイントEPからの高さが−14mmの位置とそれよりも低い位置とでは眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとでピントが合う距離範囲が完全に重なっている。しかし、中間部Pおよび近用部Nにおける近用基準点NVよりも高い位置ではピントが合う距離範囲がずれているため、眼鏡レンズAを通して見る場合と眼鏡レンズBを通して見る場合とで眼球の回旋角度を異ならせる必要がある場合がある。このように、ピントが合う範囲が異なると、眼球の回旋角度を調節する等の手間を強いられ、眼鏡レンズを切り替えたときの違和感の一因になる。
加入度特性値算出部311(図2)は、眼鏡レンズAの遠用参照点FVに対応する高さの、眼鏡レンズBの主注視線M上の位置における加入度を遠用部Fの加入度に関する特性値ΔAddf(以下、遠用部加入度特性値ΔAddfと呼ぶ)として算出する。
加入度指標算出部321(図2)は、遠用部加入度特性値ΔAddfの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、遠用部加入度特性値ΔAddfから予備遠用部加入度指標PAIR_add_farを算出する。
図6は、遠用部加入度特性値ΔAddfの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、遠用部加入度特性値ΔAddfの各値と予備遠用部加入度指標PAIR_add_farとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。遠用部加入度特性値ΔAddfの変化に対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、遠用部Fにおける加入度の装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
なお、以下の実施形態における特性値の変化に対応する装用感の変化に関するデータの数値は例示であり、本実施形態の眼鏡レンズの評価方法はこれらの数値に限定されるものではない。
図6の例は、遠用部Fにおける違和感の程度が、常用していた眼鏡レンズAの遠用参照点FVでの眼鏡レンズBの加入度が0.1D以下では違和感をほとんど感じないが、0.25Dになると許容できるものの明らかに違和感を感じ、0.5D以上になると許容できないほど違和感が強くなると仮定した場合のものである。
従って、図6の例では、遠用部加入度特性値ΔAddfの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(1)のように遠用部加入度特性値ΔAddfの各値に予備遠用部加入度指標PAIR_add_farが対応づけられている。
ΔAddf≦0.1DのときPAIR_add_far=0
ΔAddf=0.25DのときPAIR_add_far=0.5
ΔAddf≧0.5DのときPAIR_add_far=1
…(1)
ここで、0.1D<ΔAddf<0.25D、0.25D<ΔAddf<0.5Dの領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
加入度特性値算出部311(図2)は、眼鏡レンズAの公称加入度数の50%に対応する高さから近用部側に向かって眼鏡レンズAの公称加入度数の100%に対応する高さまでの、主注視線M上の位置における眼鏡レンズAの加入度と眼鏡レンズBの加入度との差の二乗の算術平均の平方根を中間部から近用部にかけての加入度に関する特性値ΔAddn(以下、近用側加入度特性値ΔAddnと呼ぶ)として算出する。
なお、加入度特性値を算出する際、眼鏡レンズAおよびBの加入度の差を算出する一若しくは複数の位置または範囲は特に限定されず、遠用部、中間部および近用部等、任意の領域に適宜設定することができる。また、加入度の違いの定量の方法は特に限定されない。
加入度指標算出部321(図2)は、近用側加入度特性値ΔAddnの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、近用側加入度特性値ΔAddnから予備近用側加入度指標PAIR_add_nearを算出する。
図7は、近用側加入度特性値ΔAddnの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、近用側加入度特性値ΔAddnの各値と予備近用側加入度指標PAIR_add_nearとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。近用側加入度特性値ΔAddnの変化に対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、中間部Pおよび/または近用部Nにおける加入度の装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
中間部Pや近用部Nの加入度曲線が異なると、眼鏡レンズにおける他の領域と比較して違和感を覚えやすい。図7の例は、近用部Nにおける違和感の程度が、常用していた眼鏡レンズAの公称加入度数の50%に対応する高さから、近用部側に向かって眼鏡レンズAの公称加入度数の100%に対応する高さまでの、主注視線M上の位置における加入度の差により大きく影響されると仮定した場合のものである。具体的には、この範囲の眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとの加入度の差が0Dを超え0.1D以下になると許容できるものの明らかに違和感を感じ、0.25D以上になると許容できないほど違和感が強くなると仮定した場合のものである。
従って、図7の例では、近用側加入度特性値ΔAddnの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(2)のように近用側加入度特性値ΔAddnの各値に予備近用側加入度指標PAIR_add_nearが対応づけられている。
ΔAddn≦0DのときPAIR_add_near=0
ΔAddn=0.1DのときPAIR_add_near=0.5
ΔAddn≧0.25DのときPAIR_add_near=1
…式(2)
ここで、0D<ΔAddn<0.1D、0.1D<ΔAddn<0.25Dの領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
加入度指標算出部321は、算出された予備遠用部加入度指標PAIR_add_farと、算出された予備近用側加入度指標PAIR_add_nearとに基づいて、これらの指標を統合した個別加入度指標PAIR_addを算出する。個別加入度指標PAIR_addは、以下の式(3)により算出される。
PAIR_add=Max(PAIR_add_far,PAIR_add_near)
…(3)
ここで、Max(X,Y)は、XとYとの最大値を示し、以下の実施形態でも同様である。遠用部Fから近用部Nにかけての領域のうち、いずれか一方でも許容できない眼鏡レンズを装用することは望ましくないため、予備遠用部加入度指標PAIR_add_farおよび予備近用側加入度指標PAIR_add_nearのうち、より大きな値を、加入度について統合した個別加入度指標PAIR_addとしている。
(第2の場合)
第2の場合として、眼鏡レンズの光学特性上、同じ使用目的により眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを併用する場合、すなわちファッションやその日の気分により眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを使い分ける場合を説明する。第2の場合は、眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを使い分ける場合であって、光学特性を異ならせることが必要でない場合を含む。装用者は、違和感を抑えるため、眼鏡レンズを切り替える際に装用感の違いが小さくなるように希望しているまたは好むものとする。
上述の第1の場合では、加入度特性値算出部311は、今まで装用していた既存の眼鏡レンズAを基準として、すなわち眼鏡レンズAの遠用基準点FVの位置または眼鏡レンズAの加入度曲線において加入度が所定の値をとる範囲に基づいて遠用部加入度特性値ΔAddfおよび近用側加入度特性値ΔAddnを算出していた。ここで、遠用部加入度特性値ΔAddfおよび近用側加入度特性値ΔAddnは、眼鏡レンズBを基準として、すなわち眼鏡レンズBの遠用基準点FVの位置または眼鏡レンズBの加入度曲線において加入度が所定の値をとる範囲に基づいて算出すると、異なる値となる。
第2の場合では、眼鏡レンズAおよびBを同じ使用目的で使い分けるため、いずれか一方のみを基準として加入度特性値および加入度指標を算出するのではなく、両方を基準とした加入度特性値および加入度指標を算出することが好ましい。
加入度特性値算出部311は、眼鏡レンズAを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_abおよび近用側加入度特性値ΔAddn_ab、ならびに眼鏡レンズBを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_baおよび近用側加入度特性値ΔAddn_baを算出する。
加入度指標算出部321は、算出されたΔAddf_abおよびΔAddn_abと、ΔAddf_baおよびΔAddn_baとから、それぞれ眼鏡レンズAを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abおよび予備近用側加入度指標PAIR_add_near_abと、眼鏡レンズBを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_baおよび予備近用側加入度指標PAIR_add_near_baとを算出する。
加入度指標算出部321は、眼鏡レンズAを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abおよび予備近用側加入度指標PAIR_add_near_abと、眼鏡レンズBを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_baおよび予備近用側加入度指標PAIR_add_near_baとに基づいて、これらの指標を統合した個別加入度指標PAIR_addを算出する。個別加入度指標PAIR_addは、以下の式(4)により算出される。
PAIR_add=Max(PAIR_add_far_ab,PAIR_add_near_ab,PAIR_add_far_ba,PAIR_add_near_ba)
…(4)
遠用部Fから近用部Nにかけての領域について、眼鏡レンズAおよびBを基準とした場合のいずれか一方でも許容できない眼鏡レンズを装用することは望ましくないため、PAIR_add_far_ab、PAIR_add_near_ab、PAIR_add_far_baおよびPAIR_add_near_baのうち、最も大きな値を、加入度について統合した個別加入度指標PAIR_addとしている。
(第3の場合)
第3の場合として、眼鏡レンズの光学特性上、異なる使用目的により眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを併用する場合、すなわち日常生活等で、対象物までの距離等により眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを使い分ける場合を説明する。第3の場合では、装用者は、異なる使用目的に合わせて眼鏡レンズを使い分けるため、使用目的に合わせて異ならせた光学特性を有する眼鏡レンズを必要とする。装用者は、眼鏡レンズの少なくとも一部の領域において、眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとの装用感を異ならせたいものとし、眼鏡レンズの他の領域において、眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとの装用感を類似させたいものとする。
このような装用者の装用感情報は、装用者から電子機器への入力、聞き取りや書面への記入等により取得した後、ユーザにより入力部250から入力される。加入度特性値算出部311および加入度指標算出部321は、装用感情報に基づいて、それぞれ加入度特性値および加入度指標の算出を行う。
以下の例では、装用者は、眼鏡レンズAおよび眼鏡レンズBの機能について、遠用部Fでは同じような装用感でありながら、アイポイントEPおよびアイポイントEPより下方の中間部Pおよび近用部Nでは異なる装用感であることを希望しているまたは好むとする。
加入度特性値算出部311および加入度指標算出部321は、遠用参照点FVの位置、ならびにアイポイントEPおよびアイポイントEPより下方における主注視線M上の2か所の位置における眼鏡レンズAおよびBの加入度に基づいて、それぞれ加入度特性値および加入度指標を算出する。このことは、装用者が、遠用参照点FVの付近で遠方視するときには同じような装用感でありながら、中間部Pおよび/または近用部Nではピントの合う範囲が異なることを希望しているまたは好む場合に特に好適である。
なお、加入度特性値算出部311および加入度指標算出部321は、遠用部Fにおいて2カ所以上、中間部Pおよび/または近用部Nにおいて1,2か所または4か所以上の位置または任意の範囲における加入度に基づいて加入度特性値および加入度指標を算出してもよい。
遠用部Fについては、装用者が同じような装用感であることを希望しているまたは好むため、眼鏡レンズAおよびBの光学特性がどの程度類似しているかの指標により評価される。従って、上述の第2の場合と同様に、加入度特性値算出部311は、眼鏡レンズAを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_ab、および眼鏡レンズBを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_baを算出する。加入度指標算出部321は、算出されたΔAddf_abおよびΔAddf_baから、それぞれ眼鏡レンズAを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abおよび眼鏡レンズBを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_baを算出する。
アイポイントEPより下方の中間部Pおよび近用部Nについては、装用者が異なる装用感であることを希望しているまたは好むため、眼鏡レンズAおよびBの光学特性がどの程度異なっているかの指標により評価される。
加入度特性値算出部311は、アイポイントEPおよびアイポイントEPより下方の2カ所の主注視線M上の位置において、眼鏡レンズAおよびBのうち、一方の眼鏡レンズだけを使った場合に対する両方の眼鏡レンズを使った場合の、ピントが合う距離範囲の比率を算出する。当該比率は、1以上2以下の数値をとり、当該比率が1のときは眼鏡レンズAおよびBのピントの合う距離範囲が完全に重なっている場合であり、当該比率が2のときは、眼鏡レンズAおよびBのピントの合う距離範囲が全く重なっていないことになる。加入度特性値算出部311は、ピントが合う距離範囲の比率に関する加入度特性値Radd(以下、比率加入度特性値Raddと呼ぶ)を、アイポイントEPにおけるピントが合う距離範囲の比率Radd1、アイポイントEPから5mmおよび10mm下方の主注視線M上の位置におけるピントが合う距離範囲の比率Radd2およびRadd3、ならびにRadd1、Radd2およびRadd3のそれぞれの重みWadd1、Wadd2およびWadd3に基づいて、以下の式(5)により算出する。
Radd=Sqrt((Wadd1*Radd1^2+Wadd2*Radd^2+Wadd3*Radd3^2)/(Wadd1+Wadd2+Wadd3))
…(5)
ここで、Sqrt(X)は、Xの平方根をとる意味であり、X^Yは、XのY乗の意味であり、X*Yは、XとYの積の意味であり、以下の実施形態でも同様である。このように、比率加入度特性値Raddは、眼鏡レンズ上の各位置におけるピントが合う距離範囲の比率の、所定の重みによる重み付け二乗平均の平方根により算出される。
重みWadd1、Wadd2およびWadd3は、眼鏡レンズAおよびBの中心付近であり最も多用されるアイポイントEPで最大とし、眼球のより大きな回旋を必要とするために使用頻度が下がる周辺部ほど小さくなるように予め設定されていることが好ましい。例えば、眼鏡レンズのそれぞれの高さでの重みは、アイポイントEPに対応する重みWadd1を1、眼鏡レンズAと眼鏡レンズBの近用参照点NVのうちより下方に位置する点(本実施形態ではアイポイントEPの14mm下方)に対応する重みを0として、その間は線形補間することにより設定することができる。この場合、アイポイントEPでの重みWadd1が1、アイポイントEPの下方5mmの点における重みWadd2が0.64、アイポイントEPの下方10mmの点における重みWadd3が0.29となる。
眼鏡レンズのそれぞれの高さと重みとを対応付けたデータは、予め作成され記憶部220に記憶されており、加入度特性値算出部311により適宜参照される。
加入度指標算出部321(図2)は、比率加入度特性値Raddの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、比率加入度特性値Raddから予備比率加入度指標PAIR_add_underepを算出する。
図8は、比率加入度特性値Raddの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、比率加入度特性値Raddの各値と予備比率加入度指標PAIR_add_underepとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。比率加入度特性値Raddの変化に対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、中間部Pおよび/または近用部Nにおける加入度の装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
図8の例は、眼鏡レンズAおよびBのピントの合う範囲の重なりの量に比例して眼鏡レンズを低く(指標の値は高く)評価すると仮定した場合のものである。具体的には、眼鏡レンズAとBとのピントの合う範囲が重なっているときには予備比率加入度指標PAIR_add_underepが1となり、全く重なっていないときには予備比率加入度指標PAIR_add_underepが0となる。
従って、図8の例では、比率加入度特性値Raddの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(6)のように比率加入度特性値Raddの各値に予備比率加入度指標PAIR_add_underepが対応づけられている。
Radd=2のときPAIR_add_underep=0
Radd=1のときPAIR_add_underep=1
…式(6)
ここで、1<Radd<2の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
加入度指標算出部321は、眼鏡レンズAを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abおよび眼鏡レンズBを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_baならびに予備比率加入度指標PAIR_add_underepに基づいて、これらの指標を統合した個別加入度指標PAIR_addを算出する。個別加入度指標PAIR_addは、以下の式(7)により算出される。
PAIR_add=Max(PAIR_add_far_ab,PAIR_add_far_ba,PAIR_add_underep)
…(7)
ここで、予備比率加入度指標PAIR_add_underepが大きい場合には、眼鏡レンズAおよびBのうち装用者が装用感を異ならせたい領域において十分に光学特性が異なっておらず望ましくないものとした。眼鏡レンズAを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abおよび眼鏡レンズBを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_baならびに予備比率加入度指標PAIR_add_underepのうち、最も大きな値を、個別加入度指標PAIR_addとしている。
(明視域の広さについての個別特性指標の算出方法)
以下では、明視域の広さについての個別特性指標を説明する。明視域特性値算出部312(図2)は、対象レンズの光学特性データに基づいて、明視域の広さに関する特性値(以下、明視域特性値と呼ぶ)を算出する。明視域指標算出部322は、明視域の広さに関する特性値から明視域の広さに関する個別特性指標(以下、個別明視域指標と呼ぶ)を算出する。
図9(A)は、対象レンズのうち、眼鏡レンズAの加入度分布71aと非点収差分布72aとを示す図である。図9(B)は、対象レンズのうち、眼鏡レンズBの加入度分布71bと非点収差分布72bとを示す図である。加入度分布71aおよび71bと非点収差分布72aおよび72bは、明視域の広さに基づいて算出される個別特性指標を説明するための仮想的な例であり、本実施形態の眼鏡レンズの評価方法は、この例に限定されない。
加入度分布71a、71bおよび非点収差分布72aおよび72bでいう加入度と非点収差は、国際公開第2015/125868号における、「透過パワー」と「透過アス」に相当する。透過パワーは、眼球の回旋点を通る光線の眼鏡レンズ上の位置、より具体的には例えば、眼球の回旋点を通る光線が物体側の面と交差する位置における平均屈折力であり、透過アスは当該光線の当該位置における非点収差である。ただし、装用者の処方データにおいて指定された眼鏡レンズの球面度数、円柱度数および乱視軸角度の分を取り除いた、残存収差の成分だけにしている。
なお、球面度数、円柱度数および乱視軸角度等を反映した眼鏡レンズの設計データについて、以下のように明視域の広さについての個別特性指標を算出してもよい。
図9(A)および9(B)において、「+」のマークで示されている加入度分布71aおよび71b、ならびに非点収差分布72aおよび72bのそれぞれの中心はアイポイントEPである。各分布の外径は直径40mmである。図の点線は主注視線Mを示している。図9(A)および9(B)に示されたように、眼鏡レンズAと眼鏡レンズBは、加入度の分布および非点収差の分布が異なるので、明視域の広さも異なり、装用者が掛け替えたときに違和感を生じる可能性がある。
明視域特性値算出部312は、明視域の広さを算出するために、眼鏡レンズAおよびBについて以下の式(8)で定義される明視度CVを算出する。
CV=Sqrt((Max(0,Pow−Pme,Pme−Acc−Pow))^2+(Ast/2))
…式(8)
ここで、眼鏡レンズは遠用参照点FVで完全矯正であり、Powは眼鏡レンズ上の任意の位置における加入度であり、Astは眼鏡レンズ上の任意の位置における非点収差であり、Pmeは眼鏡レンズ上の任意の点と同じ高さにある主注視線M上の加入度であり、Accは装用者の調節力である。明視度CVは、調節力Accの装用者が、眼鏡レンズの任意の点を使って、その点と同じ高さにある主注視線M上の加入度に相当する距離にある物点を見ているときの、視覚を通じて感じるピントの誤差を表したものである。
明視域特性値算出部312は、眼鏡レンズAおよびBの遠用参照点FVの低い方に対応する点、アイポイントEPおよび眼鏡レンズAおよびBの近用参照点NVの高い方に対応する点の3か所に対応する高さにおいて、明視域の幅を算出する。以下の眼鏡レンズAおよびBの例では、明視域特性値算出部312は、遠用部FにおけるアイポイントEPから5mm上方の位置、アイポイントEPの位置および近用部NにおけるアイポイントEPから14mm下方の位置の3か所に対応する高さにおいて、高さ方向および眼鏡レンズの光軸の両方に垂直な方向(以下、左右方向と呼ぶ)についての明視域の幅を算出する。
なお、明視域の幅を算出する位置は、特に限定されず、明視域特性値算出部312は、任意の数の位置において明視域の幅を算出することができる。
明視域特性値算出部312は、眼鏡レンズAについて、アイポイントEPから5mm上方の位置、アイポイントEPの位置およびアイポイントEPから14mm下方の位置において、左右方向に明視度CVが所定の閾値CVlimit以下となる幅をそれぞれ明視域の幅Wcv1a、Wcv2aおよびWcv3aとして算出する。明視域特性値算出部312は、眼鏡レンズBについても、アイポイントEPから5mm上方の位置、アイポイントEPの位置およびアイポイントEPから14mm下方の位置において、左右方向に明視度CVが所定の閾値CVlimit以下となる幅をそれぞれ明視域の幅Wcv1b、Wcv2bおよびWcv3bとして算出する。
なお、眼鏡レンズは、アイポイントEPを中心とした直径50mmの円の外側の領域を通して見ることに使われることはほとんど無いので、明視度CVが所定の閾値CVlimit以下となる幅を算出する際には、アイポイントEPを中心とした直径50mmの円の外側の領域に対応する部分は含めないことが好ましい。
ここで、上記所定の閾値CVlimitは、装用者がどの程度はっきり見たいか等に基づいて、例えば0.5D等、適宜設定することができるが、装用者の完全矯正の際の視力(以下、完全矯正視力と呼ぶ)に基づいて設定することが好ましい。完全矯正視力に基づく場合、閾値CVlimitは、装用者の完全矯正視力をVとして、例えば以下の式(9)により設定される。
CVlimit=(0.4/V+0.6)/2
…式(9)
これにより、完全矯正視力が高い装用者ほど眼鏡レンズを通して見た際の視野のぼけに敏感である傾向にあることに基づいて、より精密に装用感を反映した指標を算出することができる。
明視域特性値算出部312および明視域指標算出部322は、入力部250からの入力や装用感情報等に基づいて、眼鏡レンズの使用目的により眼鏡レンズの評価方法を、以下の第1〜第3の各場合から選択することができる。
(第1の場合)
第1の場合として、無限遠方から手元等の近距離の対象物を見る目的の眼鏡レンズとして眼鏡レンズAを日常的に装用していた装用者が、同じ目的で眼鏡レンズBに切り替える場合を説明する。装用者は、眼鏡レンズを切り替える際に装用感の違いが小さくなるように希望しているまたは好むものとする。この場合、眼鏡レンズAよりも眼鏡レンズBの方が明視域が広いときには違和感が生じないが、眼鏡レンズAよりも眼鏡レンズBの方が明視域が狭くなると違和感が生じる。
明視域特性値算出部312は、眼鏡レンズBに対応する明視域の幅を分母に、眼鏡レンズAに対応する明視域の幅を分子にとり、上記3か所の位置における眼鏡レンズAおよびBの明視域の幅の比率Rwcv1、Rwcv2およびRwcv3を以下の式(10)により算出する。
Rwcv1=Wcv1a/Wcv1b
Rwcv2=Wcv2a/Wcv2b
Rwcv3=Wcv3a/Wcv3b
…式(10)
明視域特性値算出部312は、算出されたRwcv1、Rwcv2およびRwcv3から明視域特性値Rwcvを以下の式(11)により算出する。
Rwcv=Sqrt((Rxcv1^2+Rwcv2^2+Rwcv3^2)/3)
…式(11)
すなわち、明視域特性値Rwcvは、Rwcv1、Rwcv2およびRwcv3の二乗の算術平均の平方根により算出される。
明視域指標算出部322(図2)は、明視域特性値Rwcvの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、明視域特性値Rwcvから個別明視域指標PAIR_rangeを算出する。
図10は、明視域特性値Rwcvの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、明視域特性値Rwcvの各値と個別明視域指標PAIR_rangeとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。明視域特性値Rwcvの変化に対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、明視域の幅の装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
図10の例では、明視域特性値Rwcvの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(12)のように明視域特性値Rwcvの各値に個別明視域指標PAIR_Rangeが対応づけられている。
Rwcvが0.8以下ならPAIR_range=0
Rwcvが1ならPAIR_range=0.5
Rwcvが1.2以上ならPAIR_range=1
…式(12)
ここで、0.8<Rwcv<1、1<Rwcv<1.2の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
(第2の場合)
第2の場合として、眼鏡レンズの光学特性上、同じ使用目的により眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを併用する場合、すなわちファッションやその日の気分により眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを使い分ける場合を説明する。第2の場合は、眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを使い分ける場合であって、光学特性を異ならせることが必要でない場合を含む。装用者は、眼鏡レンズを切り替える際に装用感の違いが小さくなるように希望しているまたは好むものとする。この場合、眼鏡レンズAおよびBで明視域の広さが異なると広い方の眼鏡レンズから狭い方の眼鏡レンズに掛け替えたときに違和感が生じてしまい好ましくない。
明視域特性値算出部312は、上記各3か所の位置において、眼鏡レンズAに対応する明視域の幅および眼鏡レンズBに対応する明視域の幅のうち、大きい方を分母に、小さい方を分子にとる。すなわち、明視域特性値算出部312は、上記3か所の位置における眼鏡レンズAおよびBの明視域の幅の比率Rwcv1、Rwcv2およびRwcv3を以下の式(13)により算出する。
Rwcv1=Min(Wcv1a,Wcv1b)/Max(Wcv1a,Wcv1b)
Rwcv2=Min(Wcv2a,Wcv2b)/Max(Wcv2a,Wcv2b)
Rwcv3=Min(Wcv3a,Wcv3b)/Max(Wcv3a,Wcv3b)
…式(13)
ここで、Min(X,Y)は、XとYとの最小値を示し、以下の実施形態でも同様である。
明視域特性値算出部312は、算出されたRwcv1、Rwcv2およびRwcv3の二乗の算術平均の平方根により明視域特性値Rwcvを算出する(式(11)と同様)。
明視域指標算出部322(図2)は、明視域特性値Rwcvの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、明視域特性値Rwcvから個別明視域指標PAIR_rangeを算出する。
図11は、第2の場合における明視域特性値Rwcvの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。図11の例では、明視域特性値Rwcvの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(14)のように明視域特性値Rwcvの各値に個別明視域指標PAIR_rangeが対応づけられている。
Rwcvが1ならPAIR_range=0
Rwcvが0.8以下ならPAIR_range=1
…式(14)
ここで、0.8<Rwcv<1の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
(第3の場合)
第3の場合として、眼鏡レンズの光学特性上、異なる使用目的により眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを併用する場合、すなわち日常生活等で、対象物までの距離等により眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを使い分ける場合を説明する。第3の場合では、装用者は、異なる使用目的に合わせて眼鏡レンズを使い分けるため、使用目的に合わせて異ならせた光学特性を有する眼鏡レンズを必要とする。
一例として、眼鏡レンズAは遠近両用レンズLSAであり、眼鏡レンズBは中近両用レンズLSBであるとする。装用者は両方の眼鏡レンズに対して遠くが良く見えることを期待する。そして明視域の広さは、遠方から近方までの全ての領域でできるだけ広いことが理想ではあるが、特に眼鏡レンズAでは遠距離に対応する部分の明視域の広さを優先的に期待し、眼鏡レンズBに対しては中間距離から近距離までの明視域の広さを期待する。よって、実際の眼鏡レンズAと眼鏡レンズBの機能がこのような期待に沿ったものである場合、装用者は掛け替え時にも機能の違いを予想したうえで掛け替えるので、それぞれの眼鏡レンズの装用感が異なっていても、それによる違和感は生じにくい。ところが逆にこのような期待に沿ったもので無い場合は、予想に反した装用感になるので違和感を生じてしまう。
第3の場合では、明視域の幅を算出する位置および当該位置において装用者の求める装用感に基づいて、眼鏡レンズAの明視域の幅を分母にとるか、眼鏡レンズBの明視域の幅を分母にとるかを異ならせる。
以下の例では、上述のように眼鏡レンズAは遠近両用レンズLSAであり、眼鏡レンズBは中近両用レンズLSBであるとして説明する。第1の場合と異なり、明視域特性値算出部312は、アイポイントEPの位置での明視域の幅を算出する代わりに、中間部Pにおいて公称加入度に対して所定の割合の加入度に対応する位置における明視域の幅を算出する。
明視域特性値算出部312は、眼鏡レンズAおよびBの遠用参照点FVの低い方に対応する点、中間部Pにおいて公称加入度の50%の加入度に対応する点および眼鏡レンズAおよびBの近用参照点NVの高い方に対応する点の3か所に対応する高さにおいて、明視域の幅を算出する。上述の眼鏡レンズAおよびBの例では、明視域特性値算出部312は、遠用部FにおけるアイポイントEPから5mm上方の位置、中間部Pにおいて公称加入度の50%の加入度に対応する位置および近用部NにおけるアイポイントEPから14mm下方の位置の3か所に対応する高さにおいて、左右方向についての明視域の幅を算出する。
明視域特性値算出部312は、遠用部FにおけるアイポイントEPから5mm上方の位置について、遠近両用の眼鏡レンズAに対応する明視域の幅Wcv1aを分母とし、中近両用の眼鏡レンズBに対応する明視域の幅Wcv1bを分子とした比率Rwcv1を算出する。明視域特性値算出部312は、中間部Pにおいて公称加入度の50%の加入度に対応する位置および近用部NにおけるアイポイントEPから14mm下方の位置について、遠近両用の眼鏡レンズAに対応する明視域の幅WcvmaおよびWcv3aを分子とし、中近両用の眼鏡レンズBに対応する明視域の幅WcvmbおよびWcv3bを分母とした比率Rwcv2、Rwcv3をそれぞれ算出する。すなわち、明視域特性値算出部312は、上記3か所の位置における眼鏡レンズAおよびBの明視域の幅の比率Rwcv1、Rwcv2およびRwcv3を以下の式(15)により算出する。
Rwcv1=Wcv1b/Wcv1a
Rwcv2=Wcvma/Wcvmb
Rwcv3=Wcv3a/Wcv3b
…式(15)
明視域特性値算出部312は、算出されたRwcv1、Rwcv2およびRwcv3の二乗の算術平均の平方根により明視域特性値Rwcvを算出する(式(11)と同様)。
明視域指標算出部322は、明視域特性値Rwcvの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、明視域特性値Rwcvから個別明視域指標PAIR_rangeを算出する。
図12は、第3の場合における明視域特性値Rwcvの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。図12の例では、明視域特性値Rwcvの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(16)のように明視域特性値Rwcvの各値に個別明視域指標PAIR_rangeが対応づけられている。
Rwcvが0.5以下ならPAIR_range=0
Rwcvが0.9ならPAIR_range=0.5
Rwcvが1.0以上ならPAIR_range=1
…式(16)
ここで、0.5<Rwcv<0.9、0.9<Rwcv<1.0の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
(ゆがみについての個別特性指標の算出方法)
以下では、ゆがみについての個別特性指標を説明する。ゆがみ特性値算出部313(図2)は、対象レンズの光学特性データに基づいて、眼鏡レンズを通して見た視野のゆがみに関する特性値(以下、ゆがみ特性値と呼ぶ)を算出する。ゆがみ指標算出部323は、ゆがみ特性値からゆがみに関する個別特性指標(以下、個別ゆがみ指標と呼ぶ)を算出する。個別ゆがみ指標と、以下で個別ゆがみ指標を算出するために予備的に算出する指標とを総称してゆがみ指標と呼ぶ。
個別特性指標算出部310は、複数の眼鏡レンズの少なくとも一部の領域を通して所定の対象物を見る場合の網膜像における対象物の形状および/または大きさの変化に基づいて、上記複数の眼鏡レンズの上記領域を通して見る場合の視野のゆがみがどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかの指標を算出する。ただし、ここで網膜像とは、眼鏡レンズの装用者が眼球運動を伴って所定の対象物を見る場合に視覚的に認識する対象物の像の意味を含む。
以下の例では、眼鏡レンズAおよびBは累進屈折力レンズであるものとして説明する。ゆがみ特性値算出部313は、装用者の眼球と、眼鏡レンズAまたはBと、対象物が配置された仮想空間において光線追跡を行い、眼鏡レンズAおよびBにおけるゆがみ特性値を算出する。
図13は、仮想空間における眼鏡レンズ等の配置を示す概念図である。図13において、点Pは装用者の眼球の回旋中心である。装用者の眼球の前方には格子Grが配置されている。格子Grは、中心点Eo、上端点Foおよび下端点Noを備える。装用者は、眼鏡レンズAのアイポイントEPを通して正面の中心点Eoを見ると想定する。格子Grは、装用者が、中心点Eoの真上にある上端点Foと、真下にある下端点Noとを眼鏡レンズAを通して見られる位置に配置されている。装用者が裸眼で中心点Eoを見る際の視線方向に平行な軸をAx、裸眼で上端点Foを見る際の視線方向に平行な軸をBL1、裸眼で下端点Noを見る際の視線方向に平行な軸をBL2とすると、AxとBL1とがなす角度およびBL2とAxとがなす角度は共に等しい角度θである。また、装用者が裸眼で中心点Eoを見る際の視線方向と格子Grがなす面は略垂直となっている。眼鏡レンズBのゆがみ特性値を算出する場合には、図13における眼鏡レンズAの位置に眼鏡レンズBが配置される。
角度θは、20度〜30度が好ましい。この場合、格子Grは、装用者の視野において、空間座標感覚に影響を与える誘導視野という領域に対応する位置に配置されることになり、眼鏡レンズによる視野のゆがみを評価するために適した構成となる。
図14は、格子Grを正面から見た図である。格子Grは、縦2×横2の4つの正方形の形状を備える正方格子である。格子Grは、4つの正方形の中心に中心点Eoを備え、中心点Eoから鉛直方向および水平方向にそれぞれ伸びる第1中心線L1および第2中心線L2を備える。格子Grは、中心点Eoから鉛直方向に伸びる第1中心線L1の上端に上端点Fo、下端に下端点Noを備える。
図15(A)は、ゆがみ特性値算出部313が光線追跡により算出した、眼鏡レンズAにより格子Grからの光が屈折されて得られた格子Grの網膜像Ia1を示す図である。網膜像Ia1は、中心対応点Eaと、上端対応点Faと、下端対応点Naと、第1中心線対応線L1aと、第2中心線対応線L2aとを備える。格子Grにおける中心点Eo、上端点Foおよび下端点Noは、中心対応点Ea、上端対応点Faおよび下端対応点Naにそれぞれ対応する。格子Grにおける第1中心線L1および第2中心線L2は、第1中心線対応線L1aおよび第2中心線対応線L2aに対応する。眼鏡レンズAによる網膜像Ia1は、第1中心線対応線L1aおよび第2中心線対応線L2aはゆがみがないが、格子Grと比較して、視野のゆがみにより全体的に斜め方向に伸びた形状となっている。
図15(B)は、ゆがみ特性値算出部313が光線追跡により算出した、眼鏡レンズBにより格子Grからの光が屈折されて得られた格子Grの網膜像Ib1を示す図である。網膜像Ib1は、中心対応点Ebと、上端対応点Fbと、下端対応点Nbと、第1中心線対応線L1bと、第2中心線対応線L2bとを備える。格子Grにおける中心点Eo、上端点Foおよび下端点Noは、中心対応点Eb、上端対応点Fbおよび下端対応点Nbにそれぞれ対応する。格子Grにおける第1中心線L1および第2中心線L2は、第1中心線対応線L1bおよび第2中心線対応線L2bに対応する。眼鏡レンズBによる網膜像Ib1は、格子Grと比較して、視野のゆがみにより斜め方向に伸びた形状となっているが、その程度は眼鏡レンズAによる網膜像Ia1よりも小さい。さらに、眼鏡レンズBによる網膜像Ib1では、第1中心線対応線L1bおよび第2中心線対応線L2bが折れ線になっており、眼鏡レンズ網膜像Ib1の中心付近にもゆがみが見られる。
なお、実際の累進屈折力レンズによるゆがみによると、図15(A)および15(B)に示された像よりも複雑に歪んだ像となるが、わかりやすく説明するため、簡単な例を示している。
図16は、格子Gr、眼鏡レンズAによる網膜像Ia1および眼鏡レンズBによる網膜像Ib1を重ねて示した図である。格子Grおよび網膜像Ia1,Ib1は、中心点Eoおよび中心対応点Ea,Ebが一致するような位置で重ねられて配置されている。上端点Fo、上端対応点Fa、Fbはそれぞれ異なった位置となる。下端点No、下端対応点Na、Nbはそれぞれ異なった位置となる。
図17は、眼鏡レンズの上側の部分のゆがみに関する特性値を算出する方法を説明するための概念図である。ゆがみ特性値算出部313は、眼鏡レンズAによる網膜像Ia1および/または眼鏡レンズBによる網膜像Ib1を拡大または縮小し、網膜像Ia1における中心対応点Eaと網膜像Ib1における中心対応点Ebとが一致し、かつ網膜像Ia1における上端対応点Faと網膜像Ib1における上端対応点Fbの高さが一致するようにする。
図18(A)は、図17における網膜像Ia1を示す図である。ゆがみ特性値算出部313は、上下方向の伸縮の度合に基づいて大きさが調整された眼鏡レンズAによる格子Grの網膜像Ia1において、第2中心線対応線L2aよりも上側の部分の面積(図中のハッチングされた部分;以下、網膜像Ia1の上側面積Sfaと呼ぶ)を算出する。
図18(B)は、図17における網膜像Ib1を示す図である。ゆがみ特性値算出部313は、上下方向の伸縮の度合に基づいて大きさが調節された眼鏡レンズBによる格子Grの網膜像Ib1において、第2中心線対応線L2bよりも上側の部分の面積(図中のハッチングされた部分;以下、網膜像Ib1の上側面積Sfbと呼ぶ)を算出する。
ゆがみ特性値算出部313は、眼鏡レンズの上側部分のゆがみ特性値Rfを、網膜像Ia1の上側面積Sfaに対する網膜像Ib1の上側面積Sfbの比率として以下の式(17)により算出する。
Rf=Sfb/Sfa …式(17)
なお、ゆがみ特性値算出部313は、網膜像Ia1,Ib1の変形量等を示す、形状や大きさに関する任意のパラメータを用いて、ゆがみ特性値を算出することができる。
ゆがみ指標算出部323(図2)は、眼鏡レンズの上側部分のゆがみ特性値Rfの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、このゆがみ特性値Rfから眼鏡レンズの上側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_farを算出する。
図19は、眼鏡レンズの上側部分のゆがみ特性値Rfの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、眼鏡レンズの上側部分のゆがみ特性値Rfの各値と眼鏡レンズの上側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_farとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。眼鏡レンズの上側部分のゆがみ特性値Rfの変化に対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、視野の上側部分におけるゆがみの装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
図19の例は、網膜像Ia1の上側面積Sfaと網膜像Ib1の上側面積Sfbとが1%異なると、装用者はゆがみをやや感じ、3%異なるとゆがみを明らかに感じるがそれ程強くは感じず、10%以上異なるとゆがみによる違和感が許容できないほど強くなると仮定した場合のものである。
従って、図19の例では、眼鏡レンズの上側部分のゆがみ特性値Rfの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(18)のように眼鏡レンズの上側部分のゆがみ特性値Rfの各値に眼鏡レンズの上側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_farが対応づけられている。
Rf=1のときPAIR_dis_far=0
Rf=1.01のときPAIR_dis_far=0.25
Rf=1.03のときPAIR_dis_far=0.5
Rf≧1.1のときPAIR_dis_far=1
…式(18)
ここで、1<Rf<1.01、1.01<Rf<1.03、1.03<Rf<1.1の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
図20は、眼鏡レンズの下側の部分のゆがみに関する特性値を算出する方法を説明するための概念図である。ゆがみ特性値算出部313は、眼鏡レンズAによる網膜像Ia1および/または眼鏡レンズBによる網膜像Ib1を拡大または縮小し、網膜像Ia1における中心対応点Eaと網膜像Ib1における中心対応点Ebとが一致し、かつ網膜像Ia1における下端対応点Naと網膜像Ib1における下端対応点Nbの高さが一致するようにする。図20において、網膜像Ia1と網膜像Ib1の大きさは、格子Grからの視野の下側の中心部の上下方向の伸縮の度合が同程度になるように調節されている。
図21(A)は、図20における網膜像Ia1を示す図である。ゆがみ特性値算出部313は、上下方向の伸縮の度合に基づいて大きさが調節された眼鏡レンズAによる格子Grの網膜像Ia1において、第2中心線対応線L2aよりも下側の部分の面積(図中のハッチングされた部分;以下、網膜像Ia1の下側面積Snaと呼ぶ)を算出する。
図21(B)は、図20における網膜像Ib1を示す図である。ゆがみ特性値算出部313は、上下方向の伸縮の度合に基づいて大きさが調節された眼鏡レンズBによる格子Grの網膜像Ib1において、第2中心線対応線L2bよりも下側の部分の面積(図中のハッチングされた部分;以下、網膜像Ib1の下側面積Snbと呼ぶ)を算出する。
ゆがみ特性値算出部313は、眼鏡レンズの下側部分のゆがみ特性値Rnを、網膜像Ia1の下側面積Snaに対する網膜像Ib1の下側面積Snbの比率として以下の式(19)により算出する。
Rf=Snb/Sna …式(19)
ゆがみ指標算出部323(図2)は、眼鏡レンズの下側部分のゆがみ特性値Rnの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、このゆがみ特性値Rnから眼鏡レンズの下側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_nearを算出する。
図22は、眼鏡レンズの下側部分のゆがみ特性値Rnの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、眼鏡レンズの下側部分のゆがみ特性値Rnの各値と眼鏡レンズの下側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_nearとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。眼鏡レンズの下側部分のゆがみ特性値Rnの変化に対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、視野の下側部分におけるゆがみの装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
図22の例は、網膜像Ia1の下側面積Snaと網膜像Ib1の下側面積Snbとが1%異なると、装用者はゆがみをやや感じ、3%異なるとゆがみを明らかに感じるがそれ程強くは感じず、10%以上異なるとゆがみによる違和感が許容できないほど強くなると仮定した場合のものである。
従って、図22の例では、眼鏡レンズの下側部分のゆがみ特性値Rnの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(20)のように眼鏡レンズの下側部分のゆがみ特性値Rnの各値に眼鏡レンズの下側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_nearが対応づけられている。
Rn=1のときPAIR_dis_near=0
Rn=1.01のときPAIR_dis_near=0.25
Rn=1.03のときPAIR_dis_near=0.5
Rn≧1.1のときPAIR_dis_near=1
…式(20)
ここで、1<Rn<1.01、1.01<Rn<1.03、1.03<Rn<1.1の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
ゆがみ指標算出部323は、眼鏡レンズの上側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_farおよび眼鏡レンズの下側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_nearに基づいて、これらの指標を統合した個別ゆがみ指標PAIR_disを算出する。個別ゆがみ指標PAIR_disは、以下の式(21)により算出される。
PAIR_dis=Max(PAIR_dis_far,PAIR_dis_near)
…(21)
ここで、眼鏡レンズの上側部分および下側部分のうち、いずれか一方でも許容できない視野のゆがみを生む眼鏡レンズを装用することは望ましくないため、眼鏡レンズの上側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_farおよび眼鏡レンズの下側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_nearのうち、より大きな値を、個別ゆがみ指標PAIR_disとしている。
なお、ゆがみに関する特性値の算出方法は、上記の方法に限定されず、日本国特許4301399号に記載の眼鏡レンズの性能評価方法や、日本国特開2012−141221号公報に記載の眼鏡用レンズの性能評価方法を用いてもよい。
(視野の揺れについての個別特性指標の算出方法)
以下では、視野の揺れについての個別特性指標を説明する。揺れ特性値算出部314(図2)は、対象レンズの光学特性データに基づいて、眼鏡レンズを通して見た視野の揺れに関する特性値(以下、揺れ特性値と呼ぶ)を算出する。揺れ指標算出部324は、揺れ特性値から視野の揺れに関する個別特性指標(以下、個別揺れ指標と呼ぶ)を算出する。
視野の揺れとは、装用者が首を左右に回転するなどしたときに、特に累進屈折力レンズの近用部等の視野の下方の部分で強く感じる違和感であり、累進屈折力レンズで特に重要な個別特性指標である。視野の揺れに関する個別特性指標は、収差特性の分布が異なる眼鏡レンズに掛け替えたときに感じる違和感の程度を表す。
以下では、日常生活等の常用する場合において、眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを併用する場合の例を説明する。眼鏡レンズAおよびBは累進屈折力レンズであるものとして説明するが、単焦点レンズでも同様の方法で算出することが可能である。
図23は、揺れ特性値を算出する方法を説明するための概念図である。図23には、累進屈折力レンズである眼鏡レンズAを例に遠用基準点FV、アイポイントEP、近用基準点NVおよびこれらを通る主注視線Mが示されている。揺れ特性値算出部314は、眼鏡レンズAおよびBのそれぞれの近用参照点NVを通る所定の長さLyの線分Ln上における加入度および収差に基づいて、揺れ特性値を算出する。以下の例では、線分Lnは近用参照点NVを中心とした長さLy=20mmの線分とし、左右方向に伸びているものとするが、視野の揺れに影響する位置に配置されていれば、特に限定されない。
揺れ特性値算出部314は、線分Ln上における加入度の変動量および非点収差の変動量を定量する。揺れ特性値算出部314は、眼鏡レンズAの線分Ln上における加入度の最大値と最小値との差PowPPaおよび非点収差の最大値と最小値との差AstPPa、ならびに、眼鏡レンズBの線分Ln上における加入度の最大値と最小値との差PowPPbおよび非点収差の最大値と最小値との差AstPPbに基づいて、以下の式(21)により揺れ特性値Yureを算出する。
Yure=Sqrt(((PowPPa−PowPPb)^2+(AstPPa−AstPPb)^2)/2)
…式(21)
揺れ指標算出部324(図2)は、揺れ特性値Yureの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、揺れ特性値Yureから眼鏡レンズAおよびBを併用したときの個別揺れ指標PAIR_yureを算出する。
図24は、揺れ特性値Yureの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、揺れ特性値Yureの各値と個別揺れ指標PAIR_yureとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。揺れ特性値Yureの変化に対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、視野の下側部分における加入度分布や非点収差分布等の装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
図24の例は、眼鏡レンズAおよびBの線分Ln上での揺れ特性値Yureが一定以上となると違和感を感じはじめ、揺れ特性値Yureが1以上になるとゆれによる違和感が許容できないほど強くなると仮定した場合のものである。
従って、図24の例では、眼鏡レンズAおよびBの線分Ln上での揺れ特性値Yureの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(22)のように揺れ特性値Yureの各値に個別揺れ指標PAIR_yureが対応づけられている。
Yure≦0.05のときPAIR_yure=0
Yure=0.25のときPAIR_yure=0.5
Yure=0.5のときPAIR_yure=0.75
Yure≧1のときPAIR_yure=1
…式(22)
ここで、0.05<Yure<0.25、0.25<Yure<0.5、0.5<Yure<1の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
(処方についての個別特性指標の算出方法)
ここまでは、眼鏡レンズの処方に関係しない基本設計の収差や、処方に関係する特性を除外した残存収差によっても算出することができる個別特性指標の算出方法について説明した。以下では、処方についての個別特性指標を説明する。処方特性値算出部315(図2)は、対象レンズの光学特性データに基づいて、眼鏡レンズの処方に関する特性値(以下、処方特性値と呼ぶ)を算出する。処方指標算出部325は、処方特性値から処方に関する個別特性指標(以下、個別処方指標と呼ぶ)を算出する。個別処方指標と、以下で個別処方指標を算出するために予備的に算出する指標とを総称して処方指標と呼ぶ。
個別特性指標算出部310は、球面度数、円柱度数および/または乱視軸角度を含む眼鏡レンズの処方に基づいて、処方に関する個別特性指標を算出する。個別処方指標は、処方の異なる眼鏡レンズに掛け替えたときに感じる違和感等の装用感の違いを表す指標である。
以下の例では、日常生活等の眼鏡レンズを常用する場合において、眼鏡レンズAと眼鏡レンズBとを併用する場合の例を説明する。個別処方指標を用いて、例えば、装用者が、現在装用中の眼鏡レンズAを購入後に年月が経過して眼の完全矯正度数が変化しているときに、新しい眼鏡レンズBを購入して眼鏡レンズAおよびBを併用する場合に感じる違和感の程度や、併用の適性度合等を表すこともできる。
このように新しい眼鏡レンズを購入するときに眼の度数が現在装用中の眼鏡レンズの購入時から変化していた場合には、新しい眼鏡レンズの度数を完全矯正になる度数に合わせる場合があり得る。しかし、装用感の変化を避けるために敢えて完全矯正ではなく現在装用中の眼鏡レンズの度数に合わせたり、当該度数と完全矯正になる度数の中間等、現在装用中の眼鏡レンズの度数に基づいた度数にすることも好ましい。
このように過去に購入した眼鏡レンズから新しい眼鏡レンズに掛け替えたときに感じる違和感は、複数の要因による違和感が混ざり合ったものである。第1に完全矯正からの矯正誤差の程度が変わることで見え具合が変わるために感じる違和感がある。第2に眼鏡レンズの倍率が変わることで視界の見かけの大きさや形状が変わるために感じる違和感がある。さらにこれらには処方のうちの等価球面度数の違いにより感じる違和感と乱視度数(円柱度数に対応)の違いにより感じる違和感とがある。この他にも、装用者が期待した見え方と異なることで感じる違和感もある。
(完全矯正からの矯正誤差に基づく個別処方指標の算出方法)
以下では、完全矯正からの矯正誤差が変化することで生じる装用感の違いを示す指標(以下、予備矯正誤差処方指標と呼ぶ)を算出する方法を説明する。説明をわかりやすくするために、完全矯正度数が弱度から中程度の度数であり、完全矯正にしても老視に起因すること以外には特段の問題が生じないことを前提とする。
一般に、装用者の眼に対し完全矯正となる度数の球面度数Sp、円柱度数Cpおよび乱視軸角度Xpと、眼鏡レンズの球面度数Sl、円柱度数Clおよび乱視軸角度Xlとから、この眼鏡レンズでの矯正誤差の球面度数Sr、円柱度数Crおよび乱視軸角度Xrを以下の式(23)により求めることができる。
Sr=Sp−Sl+(Cp−Cl−Cr)/2
Cr=(kx2+ky2 )0.5
Xr=tan−1(ky/kx)/2
…式(23)
ここで、kxおよびkyは以下の式(24)により表される。
kx=Cp*cos(2*Xp)−Cl*cos(2*Xl)
ky=Cp*sin(2*Xp)−Cl*sin(2*Xl)
…式(24)
矯正誤差の等価球面度数SErは、以下の式(25)により表される。
SEr=Sr+Cr/2 …式(25)
処方特性値算出部315は、上記式(23)〜(25)により、装用者の眼に対し完全矯正となる度数の球面度数Sp、円柱度数Cpおよび乱視軸角度Xpと、眼鏡レンズAの球面度数Sla、円柱度数Claおよび乱視軸角度Xlaとから、眼鏡レンズAでの矯正誤差の球面度数Sra、円柱度数Cra、乱視軸角度Xraおよび等価球面度数SEraを算出する。同様に、処方特性値算出部315は、装用者の眼に対し完全矯正となる度数の球面度数Sp、円柱度数Cpおよび乱視軸角度Xpと、眼鏡レンズBの球面度数Slb、円柱度数Clbおよび乱視軸角度Xlbとから、眼鏡レンズBでの矯正誤差の球面度数Srb、円柱度数Crb、乱視軸角度Xrbおよび等価球面度数SErbを算出する。
以下では、装用者が無限遠方での完全矯正を前提に眼鏡レンズAおよびBを装用する場合について指標を算出する。処方特性値算出部315は、球面度数についての矯正誤差処方特性値SrMaxを、眼鏡レンズAの矯正誤差の球面度数Sraおよび眼鏡レンズBの矯正誤差の球面度数Srbのうち大きい方の値をとり、以下の式(26)に基づいて算出する。ただし、ここでの矯正誤差の球面度数は絶対値をとるものとする。
SrMax=Max(Sra,Srb) …式(26)
処方指標算出部325(図2)は、球面度数についての矯正誤差処方特性値SrMaxの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、球面度数についての矯正誤差処方特性値SrMaxから球面度数についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_sを算出する。
図25は、球面度数についての矯正誤差処方特性値SrMaxの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、球面度数についての矯正誤差処方特性値SrMaxの各値と予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_sとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。球面度数についての矯正誤差処方特性値SrMaxに対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、球面度数についての矯正誤差の装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
以下の例では、眼鏡レンズAおよびBがどちらも完全矯正になっているときに、球面度数についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_sは0となり最も評価が良いとする。そうでなければ例え片方が完全矯正であってもPAIR_presc_p_sは0より大きな値となり、眼鏡レンズAおよびBが全く同じ処方であっても完全矯正でなければPAIR_presc_p_sは0より大きな値となる。これは、眼鏡レンズAとBの両方が完全矯正となる度数であることが、眼鏡レンズ製造者が最も推奨する状態であることを意味する。
図25の例は、球面度数についての矯正誤差処方特性値SrMaxは、0Dであれば違和感がないので最も望ましく、0.25Dまでであれば違和感はあっても小さいのでほとんど問題ないが、0.5Dを超えると遠方を見たときに明確に違和感があり、1Dを超えるともはや遠方は明視できないと仮定した場合のものである。
従って、図25の例では、球面度数についての矯正誤差処方特性値SrMaxの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(27)のようにSrMaxの各値に球面度数についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_sが対応づけられている。
SrMax=0DのときPAIR_presc_p_s=0
SrMax=0.25DのときPAIR_presc_p_s=0.25
SrMax=0.5DのときPAIR_presc_p_s=0.75
SrMax≧1DのときPAIR_presc_p_s=1
…式(27)
ここで、0<SrMax<0.25、0.25<SrMax<0.5、0.5<SrMax<1の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
処方特性値算出部315は、円柱度数についての矯正誤差処方特性値CrMaxを、眼鏡レンズAの矯正誤差の円柱度数Craおよび眼鏡レンズBの矯正誤差の円柱度数Crbのうち大きい方の値をとり、以下の式(28)に基づいて算出する。ただし、ここでの矯正誤差の円柱度数は絶対値をとるものとする。
CrMax=Max(Cra,Crb) …式(28)
処方指標算出部325(図2)は、円柱度数についての矯正誤差処方特性値CrMaxの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、円柱度数についての矯正誤差処方特性値CrMaxから円柱度数についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_cを算出する。
図26は、円柱度数についての矯正誤差処方特性値CrMaxの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、円柱度数についての矯正誤差処方特性値CrMaxの各値と予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_cとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。円柱度数についての矯正誤差処方特性値CrMaxに対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、円柱度数についての矯正誤差の装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
以下の例では、眼鏡レンズAおよびBがどちらも完全矯正になっているときに、円柱度数についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_cは0となり最も評価が良いとする。そうでなければ例え片方が完全矯正であってもPAIR_presc_p_cは0より大きな値となり、眼鏡レンズAおよびBが全く同じ処方であっても完全矯正でなければPAIR_presc_p_cは0より大きな値となる。
図26の例は、円柱度数についての矯正誤差処方特性値CrMaxは、0Dであれば違和感がないので最も望ましく、0.125Dまでであれば違和感はほとんどなく、0.25D程度でも違和感は比較的に小さいが、0.5Dでは細かい物が二重に見えるなど許容できないほど違和感が大きくなると仮定した場合のものである。
従って、図26の例では、円柱度数についての矯正誤差処方特性値CrMaxの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(29)のようにCrMaxの各値に円柱度数についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_cが対応づけられている。
CrMax=0DのときPAIR_presc_p_s=0
CrMax=0.125DのときPAIR_presc_p_s=0.25
CrMax=0.25DのときPAIR_presc_p_s=0.5
CrMax≧0.5DのときPAIR_presc_p_s=1
…式(29)
ここで、0<CrMax<0.125、0.125<CrMax<0.25、0.25<CrMax<0.5、0.5<CrMax<1の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
処方特性値算出部315は、過矯正についての矯正誤差処方特性値SErMaxを、眼鏡レンズAの矯正誤差の等価球面度数SEraおよび眼鏡レンズBの矯正誤差の等価球面度数SErbのうち大きい方の値をとり、以下の式(30)に基づいて算出する。ただし、ここで矯正誤差の等価球面度数は絶対値をとるものとし、ここで過矯正とは、矯正により遠点が無限遠方より遠くなりすぎて遠視気味になることを意味する。よって矯正により遠点が無限遠方より近くて近視気味になる場合は過矯正ではないので、矯正誤差の等価球面度数を0とする。
SErMax=Max(SEra,SErb) …式(30)
処方指標算出部325(図2)は、過矯正についての矯正誤差処方特性値SEMaxの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、過矯正についての矯正誤差処方特性値SErMaxから過矯正についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_overを算出する。
図27は、過矯正についての矯正誤差処方特性値SErMaxの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、過矯正についての矯正誤差処方特性値SErMaxの各値と過矯正についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_overとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。過矯正についての矯正誤差処方特性値SErMaxに対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、過矯正についての装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
以下の例では、眼鏡レンズAおよびBがどちらも完全矯正になっているときに、過矯正についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_overは0となり最も評価が良いとする。そうでなければ例え片方が完全矯正であってもPAIR_presc_p_overは0より大きな値となり、眼鏡レンズAおよびBが全く同じ処方であっても完全矯正でなければPAIR_presc_p_overは0より大きな値となる。
図27の例は、特に近視眼の矯正等を考慮し、矯正度数が完全矯正を超えてしまう過矯正は0.25Dでも好ましくないと仮定した場合のものである。
従って、図27の例では、過矯正についての矯正誤差処方特性値SErMaxの変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(31)のようにSErMaxの各値に過矯正についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_overが対応づけられている。
SErMax=0DならPAIR_presc_p_over=0
SErMax≧0.25DならPAIR_presc_p_over=1
…式(31)
ここで、0<SErMax<0.25の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
処方指標算出部325は、算出された球面度数についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_sと、円柱度数についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_cと、過矯正についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_overに基づいて、これらの指標を統合した予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_pを算出する。予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_pは、以下の式(32)により算出される。
PAIR_presc_p=Max(PAIR_presc_p_s,PAIR_presc_p_c,PAIR_presc_p_over)
…(32)
これらの予備矯正誤差処方指標は、一つでも推奨することのできないものがあると全体としても推奨することができないため、球面度数、円柱度数および過矯正のそれぞれについての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_s、PAIR_presc_p_cおよびPAIR_presc_p_overのうち、最も大きな値を、予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_pとしている。
(眼鏡レンズの倍率の変化に基づく処方指標の算出方法)
以下では、眼鏡レンズの倍率が変化することで生じる処方に関する装用感の違いを示す指標(以下、予備眼鏡倍率処方指標と呼ぶ)を算出する方法を説明する。
処方特性値算出部315は、眼鏡レンズAの球面度数Sa、円柱度数Caおよび乱視軸角度Xaと、眼鏡レンズBの球面度数Sb、円柱度数Cbおよび乱視軸角度Xbとに基づいて、以下の式(33)により、眼鏡レンズBに対する眼鏡レンズAでの矯正度数の差の球面度数Sd、円柱度数Cdおよび乱視軸角度Xdを算出する。
Sd=Sa−Sb+(Ca−Cb−Cd)/2
Cd=(kx2+ky2 )0.5
Xd=tan−1(ky/kx)/2
…式(33)
ここで、kxおよびkyは以下の式(34)により表される。
kx=Ca*cos(2*Xa)−Cb*cos(2*Xb)
ky=Ca*sin(2*Xa)−Cb*sin(2*Xb)
…式(34)
矯正度数の差の等価球面度数SEdは、以下の式(35)により表される。
SEd=Sd+Cd/2 …式(35)
処方特性値算出部315は、処方に基づく眼鏡レンズの倍率の変化に関する特性値(以下、眼鏡倍率処方特性値|Cd|と呼ぶ)として、眼鏡レンズBに対する眼鏡レンズAでの矯正度数の差の円柱度数Cdの絶対値を算出する。
処方指標算出部325(図2)は、眼鏡倍率処方特性値|Cd|の変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、眼鏡倍率処方特性値|Cd|から予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_cを算出する。
図28は、眼鏡倍率処方特性値|Cd|の変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、眼鏡倍率処方特性値|Cd|の各値と予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_cとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。眼鏡倍率処方特性値|Cd|の変化に対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、眼鏡倍率の変化による視野の変化についての装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
眼鏡レンズAから眼鏡レンズBに掛け替えたときに、Cdが0Dでないと眼鏡レンズ越しの視界の見かけの形が変形し、違和感を生じる。予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_cは、眼鏡倍率処方特性値|Cd|が大きいほど大きな値となる。図28の例では、眼鏡倍率処方特性値|Cd|が0Dなら最も望ましく、0.5Dまでなら違和感は小さいが、1Dなら違和感が強く好ましくないと仮定した場合のものである。
従って、図27の例では、眼鏡倍率処方特性値|Cd|の変化に対する装用感の変化に関するデータは、以下の式(36)のように|Cd|の各値に過矯正についての予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_cが対応づけられている。
|Cd|=0DならPAIR_presc_d_c=0
|Cd|=0.5DならPAIR_presc_d_c=0.5
|Cd|≧1DならPAIR_presc_d_c=1
…式(36)
ここで、0<|Cd|<0.5、0.5<|Cd|<1の領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
処方指標算出部325は、算出された予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_pと、予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_cとに基づいて、これらの指標を統合した個別処方指標PAIR_prescを算出する。個別処方指標PAIR_prescは、以下の式(37)により算出される。
PAIR_presc=Max(PAIR_presc_p,PAIR_presc_d_c)
…(37)
これらの処方指標は、一つでも推奨することのできないものがあると全体としても推奨することができないため、予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_pと、予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_cのうち、最も大きな値を、個別処方指標PAIR_prescとしている。
なお、処方特性値算出部315は、眼鏡レンズBに対する眼鏡レンズAでの矯正度数の差の球面度数Sdを、球面度数についての眼鏡倍率処方特性値としてもよい。この場合、処方指標算出部325は、球面度数についての眼鏡倍率処方特性値Sdの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、球面度数についての眼鏡倍率処方特性値Sdから球面度数についての予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_sを算出することができる。処方指標算出部325は、予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_dとして、球面度数についての予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_sと、円柱度数についての予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_cのうち大きい方の値を以下の式(38)により算出することができる。
PAIR_presc_d=Max(PAIR_presc_d_s,PAIR_presc_d_c)
…式(38)
さらに、処方指標算出部325は、算出された予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_pと、予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_dとに基づいて、これらの指標を統合した個別処方指標PAIR_prescを算出することができる。個別処方指標PAIR_prescは、以下の式(39)により算出される。
PAIR_presc=Max(PAIR_presc_p,PAIR_presc_d)
…式(39)
なお、上記の個別特性指標ごとの算出方法は、使用目的ごとに、複数の眼鏡レンズの間の光学特性が類似するほど0に近づく(類似しないほど1に近づく)場合と、類似するほど1に近づく(類似しないほど0に近づく)場合を示したが、個別特性指標の算出方法はこれに限らない。たとえば、複数の眼鏡レンズの間の光学特性のうち、類似させたい光学特性と異ならせたい光学特性を装用感情報として装用者等が任意に指定する場合、類似させたい光学特性に対応する個別特性指標は、光学特性が類似するほど0に近づく(類似しないほど1に近づく)ように算出方法を変更してもよい。さらに、異ならせたい光学特性に対応する個別特性指標は、光学特性が類似するほど1に近づく(類似しないほど0に近づく)ように算出方法を変更してもよい。この際、上記で説明した算出方法とは光学特性の類似性と指標の大小関係が反対になる場合は、0から1の範囲を反転して指標が算出されるようにすればよい。または、特性値から指標を算出する過程を、予め個別特性指標算出部310に使用目的ごとや光学特性の類似性と指標の大小関係ごとに設定されていた複数の装用感の変化に関するデータから、適宜選択して対応づけを変更してもよい。このように個別特性指標を算出することで、装用者等が指定した装用感と、個別特性指標の「推奨」、「非推奨」の値が統一的に対応付けられるので、装用者等が容易に評価結果を認識することができる。
(統合特性指標の算出方法)
統合特性指標算出部330(図2)は、上述した、個別加入度指標PAIR_add、個別明視域指標PAIR_range、個別ゆがみ指標PAIR_dis、個別揺れ指標PAIR_yureおよび個別処方指標PAIR_prescを含む個別特性指標に基づいて、これらの指標を統合した統合特性指標PAIRを算出する。このように、本実施形態では、複数の対象レンズにおける光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかに基づいて、複数の対象レンズの間の装用感の違いを示す指標(個別特性指標、個別特性指標を算出する際に用いた予備特性指標、および統合特性指標)が算出され、これらの値により、評価対象レンズが評価される。
統合特性指標算出部330は、一つの光学特性でも許容できないものがあると好ましくないことから、算出された複数の光学特性に対応する個別特性指標のうち、以下の式(40)により、最も大きな値を、統合特性指標PAIRの値とする。
PAIR=Max(PAIR_add,PAIR_range,PAIR_dis,PAIR_yure,PAIR_presc)
…(40)
または、統合特性指標PAIRの値は、個別加入度指標PAIR_add、個別明視域指標PAIR_range、個別ゆがみ指標PAIR_dis、個別揺れ指標PAIR_yureおよび個別処方指標PAIR_prescからなる群から、ユーザにより選択される少なくとも一つの個別特性指標のうちの最大値とすることができる。
なお、算出された個別特性指標から統合特性指標PAIRを算出する方法は、上記に限る必要はない。例えば、基本設計を最小二乗法で最適化設計する場合などにおいて、それぞれの個別特性指標に大きなばらつきが出ることの無いことが好まれる場合などは、算出された個別特性指標の二乗の算術平均の平方根をとって統合特性指標PAIRを算出することが望ましいし、更にそのときに特に優先的に良好にしたい特性がある場合には、該当する個別特性指標に重みつけして算出するようにすることで、その特性を優先的に最適化することもできる。または、単純に算出された個別特性指標の算術平均の平方根をとって統合特性指標PAIRを算出してもよい。または、個別特性指標のうち、一部はそれを算出するために予備的に算出した指標を用いて統合特性指標PAIRを算出してもよい。
更に、これらの算出方法は、通常は評価の前に予め決められるが、想定外の眼鏡レンズの使い方を装用者が望んだ場合や、後述する変形例のように新しい特性の眼鏡レンズの基本設計を開発する場合などの場合は、統合特性指標を算出する時点で、ユーザである装用者や眼鏡販売店の販売員等や設計者に、任意に試行錯誤的に決定させてもよい。
さらに、ここまでは少なくとも1つの評価対象レンズに対する対象レンズの数が2つまでの場合について説明したが、対象レンズの数が3つ以上の場合は、評価対象レンズに対する全ての対象レンズについて、それぞれ一つの対象レンズ毎に個別特性指標を算出し、全ての対象レンズの個別特性指標ごとに統合した個別特性指標を求め、それを評価対象レンズの個別特性指標とすればよい。ここで全対象レンズの個別特性指標の値から統合した個別特性指標を算出するには、望ましくは全ての最大値を用いるが、算術平均などを用いて算出してもよい。
(眼鏡レンズの評価の表示方法)
画像作成部212(図1)は、統合特性指標および/または個別特性指標の値に基づいて、評価対象レンズの評価を示す画像を作成する。
図29は、統合特性指標による評価対象レンズの評価を示す画像の一例を示す図である。統合特性指標は、0以上1以下の値を取り、値が大きい程、装用者にとって許容できないまたは好ましくない評価対象レンズであることを示す。図29は、統合特性指標を値の大きさにより区別して表示するようにした場合の表示画像Di1を示している。表示画像Di1は画像作成部212により作成される。統合特性指標を用いた評価は、装用者や販売員等誰に対して表示してもよい。しかし、統合特性指標を用いると一つの値による評価を行うことができわかりやすいため、眼鏡レンズの光学特性に関する専門的な知識のない装用者、特に眼鏡店への来店者等に向けた表示画像とすることが好ましい。
表示画像Di1では、統合特性指標の値を複数の数値範囲に区切り、各数値範囲ごとに特定の明度、彩度、色相および/またはハッチングの種類等を異ならせることで区別して表示することができる。また、表示画像Di1では、統合特性指標の値を1次元の線上の位置により区別して表示することができる。
表示画像Di1の例では、統合特性指標の値を各矩形部b1〜b5毎に0〜0.2(b1)、0.2〜0.4(b2)、0.4〜0.6(b3)、0.6〜0.8(b4)および0.8〜1.0(b5)の5つの数値範囲にわけ、それぞれ異なる種類のハッチングで示している。統合特性指標の数値は、図中縦方向の位置により区別されて表示され、矢印A1により、評価対象レンズの統合特性指標の値が示されている。表示画像Di1では、統合特性指標が0で最も好ましい評価がされる場合には「推奨」、統合特性指標が0.5で標準的な評価がされる場合には「標準」、統合特性指標が1で最も好ましくない評価がされる場合には「非推奨」の、眼鏡レンズ製造業者の推奨度合を示す文字が対応する位置に示されている。これらの文字と並んで、統合特性指標の値が示されている。表示画像Di1の下部には、複数の眼鏡レンズの間の装用感の違いを示していることを表すため、眼鏡レンズの光学特性に関する専門的な知識のない装用者等にもわかりやすいような名称(「ペアリング指数」)が付されている。
図30は、個別特性指標による評価対象レンズの評価を示す画像の一例を示す図である。表示画像Di2は、画像作成部212により、個別加入度指標PAIR_add、個別明視域指標PAIR_range、個別ゆがみ指標PAIR_disおよび個別処方指標PAIR_prescに基づいて作成されたものである。表示画像Di2は、個別特性指標ごとに評価を表示する。
表示画像Di2は、加入度特性評価軸Axa、明視域の広さ評価軸Axw、ゆがみ特性評価軸Axdおよび処方特性評価軸Axpを含む。各評価軸Axa,Axw,Axd,Axpは、原点Voが1の値に対応し、それぞれ正方形V1との交点が0.5の値に対応し、正方形V2との接点が0の値に対応する。評価対象レンズの個別加入度指標PAIR_addは、加入度特性評価軸Axa上のマークPaにより示されている。評価対象レンズの個別明視域指標PAIR_rangeは、明視域の広さ評価軸Axw上のマークPwにより示されている。評価対象レンズの個別ゆがみ指標PAIR_disは、ゆがみ特性評価軸Axd上のマークPdにより示されている。評価対象レンズの個別処方指標PAIR_prescは、処方特性評価軸Axp上のマークPpにより示されている。
マークPa、Pd、PpおよびPwは、評価線Leにより結ばれている。表示画像Di2を見た販売員または装用者等は、評価線Leを見ることにより、視覚的に個別特性指標のそれぞれの値を捉えることができ、評価対象レンズの評価を容易に理解することができる。
図31は、個別特性指標による評価対象レンズの評価を示す画像の他の例を示す図である。表示画像Di3は、画像作成部212により、個別加入度指標PAIR_add、個別明視域指標PAIR_range、個別ゆがみ指標PAIR_dis、個別揺れ指標PAIR_yureおよび個別処方指標PAIR_prescに基づいて作成されたものである。表示画像Di3において、表示画像Di2と同一の内容を表す部分については同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
表示画像Di3は、加入度特性評価軸Axa、明視域の広さ評価軸Axw、ゆがみ特性評価軸Axd、揺れ特性評価軸Axyおよび処方特性評価軸Axpを含む。表示画像Di2と比較して揺れ特性評価軸Axyが加わっており、評価対象レンズの個別揺れ指標PAIR_yureは、揺れ特性評価軸Axy上のマークPyにより示されている。表示画像Di3では、個別特性指標が0で最も好ましい評価がされる場合には「推奨」、個別特性指標が0.5で標準的な評価がされる場合には「標準」、個別特性指標が1で最も好ましくない評価がされる場合には「非推奨」の、眼鏡レンズ製造業者の推奨度合を示す文字が対応する位置に示されている。これらの文字と並んで、個別特性指標の値が示されている。
なお、複数の眼鏡レンズを併用する場合の評価では、個別特性指標や統合特性指標は、複数の眼鏡レンズを併用することの適正度合、つまりその複数の眼鏡レンズの組み合わせで併用することを眼鏡レンズ製造業者が推奨する度合を示す情報でもある。
マークPa、Py、Pd、PpおよびPwは、評価線Leにより結ばれている。表示画像Di3を見た販売員または装用者等は、評価線Leを見ることにより、視覚的に個別特性指標のそれぞれの値を捉えることができ、評価対象レンズの評価を容易に理解することができる。個別特性指標を用いた評価は、装用者や販売員等誰に対して表示してもよい。しかし、各個別特性指標に対応する光学特性を理解している人間、特に眼鏡レンズの販売員等に向けた表示画像とすることが好ましい。
なお、評価対象レンズの評価を表示する方法は、個別特性指標や統合特性指標を利用するもので有れば特に限定されず、例えば上述の表示画像の例にさらに評価条件や装用者の眼や眼鏡レンズについてのデータ等を加えて適宜表示することができる。
表示制御部213(図1)は、画像作成部212が作成した評価対象レンズの評価に関する画像を表示部250の表示装置に表示させる。
眼鏡レンズの設計に係る眼鏡レンズ受発注システムについて説明する。本実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システムは、評価対象レンズの評価により、装用者の装用感の違いに基づいて適切に選択された眼鏡レンズを提供することができる。以下では、販売店側に評価装置200が配置されている例を示すが、個別特性指標および/または統合特性指標を用いた眼鏡レンズの評価を装用者および/または販売員等に向けて示すものであれば、眼鏡レンズ受発注システムの構成は特に限定されない。
図32は、本実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システム10の構成を示す図である。眼鏡レンズ受発注システム10は、発注者側の眼鏡店に設置される発注装置1および評価装置200と、受注者側のレンズ製造業者に設置される、受注装置2、加工機制御装置3、および眼鏡レンズ加工機4と、を含んで構成される。発注装置1と受注装置2とは、例えばインターネット等のネットワーク5を介して通信可能に接続されている。また、発注装置1には評価装置200が接続されており、受注装置2には、加工機制御装置3が接続されており、加工機制御装置3には眼鏡レンズ加工機4が接続されている。
なお、図32では、図示の都合上、発注装置1を1つのみ記載しているが、実際には複数の眼鏡店に設置された複数の発注装置1が受注装置2に接続されている。
発注装置1は、眼鏡レンズの発注処理を行うコンピュータであり、制御部11と、記憶部12と、通信部13と、表示部14と、入力部15とを含む。制御部11は、記憶部12に記憶されたプログラムを実行することにより、発注装置1を制御する。制御部11は、眼鏡レンズの発注処理を行う発注処理部16を備える。通信部13は、受注装置2とネットワーク5を介して通信を行う。表示部14は、例えば液晶モニタ等の表示装置であり、発注する眼鏡レンズの情報(発注情報)を入力するための発注画面等を表示する。入力部15は、例えばマウス、キーボード等を含む。例えば、入力部15を介して、発注画面の内容に応じた発注情報が入力される。
なお、表示部14と入力部15とはタッチパネル等により一体的に構成されていてもよい。
受注装置2は、眼鏡レンズの受注処理や設計処理、光学性能の演算処理等を行うコンピュータであり、制御部21と、記憶部22と、通信部23と、表示部24と、入力部25とを含んで構成される。制御部21は、記憶部22に記憶されたプログラムを実行することにより、受注装置2を制御する。制御部21は、眼鏡レンズの受注処理を行う受注処理部26と、眼鏡レンズの設計処理を行う設計部27とを備える。通信部23は、発注装置1とネットワーク5を介して通信を行ったり、加工機制御装置3と通信を行ったりする。記憶部22は、眼鏡レンズ設計のための各種データを読み出し可能に記憶する。表示部24は、例えばCRTや液晶ディスプレイ等の表示装置であり、眼鏡レンズの設計結果等を表示する。入力部25は、例えばマウスやキーボード等を含んで構成される。
なお、表示部24と入力部25とはタッチパネル等により一体的に構成されていてもよい。
次に、眼鏡レンズ受発注システム10において、眼鏡レンズを提供する手順について、図33に示すフローチャートを用いて説明する。図33の左側には発注者側で行う手順を示し、図33の右側には受注者側で行う手順を示す。眼鏡レンズ受発注システム10による眼鏡レンズの製造方法および眼鏡レンズの販売方法では、上述の眼鏡レンズの評価方法による評価に基づいて選択された眼鏡レンズが設計および製造される。
ステップS11において、眼鏡レンズ(評価対象レンズ)の評価に基づいて眼鏡レンズが選択される。
図34は、ステップS11をさらに複数の段階に分けてその流れを示したフローチャートである。ステップS111において、評価装置200のデータ取得部211は、複数の眼鏡レンズ(対象レンズ)の光学特性についてのデータを取得する。眼鏡店に来た装用者は、一または複数の新しい眼鏡レンズの使用目的やこれらの眼鏡レンズに求める装用感に関する情報を販売員に伝える。この使用目的に関する情報とは、今まで装用していた眼鏡レンズから新しい眼鏡レンズに切り替えて装用するか、新しい眼鏡レンズと今まで装用していた眼鏡レンズを併用するか、または複数の眼鏡レンズを併用する場合、光学特性に基づいて使い分けるか否か等の情報である。
販売員は、装用者から得た情報に基づいて対象レンズおよび評価対象レンズならびに評価条件を評価装置200の入力部250を介して入力する。データ取得部211は当該入力に基づいて記憶部220を参照して対象レンズの光学特性のデータを取得する。ステップS111が終了したらステップS112が開始される。
ステップS112において、評価装置200の個別特性指標算出部310は、複数の眼鏡レンズ(対象レンズ)の光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかに基づいて、複数の光学特性のそれぞれについて、複数の眼鏡レンズ(対象レンズ)の間の装用感の違いを示す複数の指標(個別特性指標)を算出する。ステップS112が終了したら、ステップS113が開始される。
ステップS113において、評価装置200の統合特性指標算出部330は、ステップS112で算出した複数の指標(個別特性指標)に基づいて、複数の眼鏡レンズ(対象レンズ)の間の装用感の違いを示す指標(統合特性指標)を算出する。個別特性指標および/または統合特性指標に基づいて評価対象レンズの評価が行われる。ステップS113が終了したら、ステップS114が開始される。
ステップS114において、評価装置200の表示部240は、ステップS112および/またはS113で算出した指標に基づいた、評価対象レンズの評価を表示する。例えば、販売員に向けて表示される表示装置に個別特性指標に基づく表示画像Di2またはDi3等が表示され、装用者に向けて表示される表示装置に統合特性指標に基づく表示画像Di1等が表示される。ステップS114が終了したら、ステップS115が開始される。
ステップS115において、ステップS114の評価に基づいて、眼鏡レンズが選択される。装用者は、評価対象レンズの評価に基づいて、装用する、すなわち、多くの場合購入する、眼鏡レンズを選択する。装用する眼鏡レンズは評価対象レンズや対象レンズに限られず、例えばこれらの眼鏡レンズの評価が好ましくない等の理由により他の眼鏡レンズを選択してもよい。ステップS115が終了したらステップS12が開始される。
なお、評価装置200が評価対象レンズの評価に基づいて眼鏡レンズを選択し、装用者が確認してもよい。
ステップS12(図33)において、発注者は、ステップS115において選択された眼鏡レンズの発注情報を決定する。そして、発注者は、発注装置1の表示部14に発注画面を表示させ、入力部15を介して発注情報を入力する。発注画面は、変形例において後述する発注画面100のレンズ情報101、加工指定情報102、染色情報103、アイポイント情報104およびフレーム情報105等の発注情報を入力するための画面である(図39参照)。発注者が、発注画面の各項目を入力し、送信ボタン(不図示)をクリックすると、発注装置1の発注処理部16は、発注情報を取得する。ステップS12が終了したら、ステップS13が開始される。
ステップS13において、発注装置1は、当該発注情報を、通信部13を介して受注装置2へ送信する。図33では、発注情報が発注装置1から受注装置2へと送信される点を、矢印A2で模式的に示した。ステップS13が終了したら、ステップS21が開始される。
発注装置1において、発注画面を表示する処理、発注画面において入力された発注情報を取得する処理、当該発注情報を受注装置2に送信する処理については、発注装置1の制御部11が、記憶部12に予めインストールされた所定のプログラムを実行することによって行う。
ステップS21(図33)において、受注装置2の受注処理部26は、通信部23を介して、発注装置1から発注情報を受信する。ステップS21が終了したら、ステップS22に進む。
ステップS22において、受注装置2の設計部27は、受信した発注情報に基づいて眼鏡レンズの設計を行う。設計部27は、受信した発注情報に基づいて、設計する眼鏡レンズの目標収差を設定する。設計部27は、設定された目標収差に基づいて、眼鏡レンズの形状の最適化設計を行う。この最適化設計では、眼鏡レンズの形状を設計した後、目標収差等の設計条件をどの程度満たしているかを示す値が算出され、当該値が最適な値になるように眼鏡レンズが適宜再設計される。予め設定された一定の基準を満たす眼鏡レンズの形状が設計されたら、眼鏡レンズの設計を完了する。ステップS22が終了したら、ステップS23が開始される。
ステップS23において、受注装置2は、ステップS22で設計した眼鏡レンズの設計データを加工機制御装置3(図32)に出力する。加工機制御装置3は、受注装置2から出力された設計データに基づいて、眼鏡レンズ加工機4に加工指示を送る。この結果、眼鏡レンズ加工機4によって、当該設計データに基づく眼鏡レンズが加工され、製造される。眼鏡レンズ加工機4によって製造された眼鏡レンズが眼鏡店に出荷され、眼鏡フレームにはめ込まれて顧客(装用者)に提供される。
なお、受注装置2において、発注装置1から発注情報を受信する処理、受信した発注情報に基づいて眼鏡レンズを設計する処理、眼鏡レンズの設計データを加工機制御装置3に出力する処理については、受注装置2の制御部21が、記憶部22に予めインストールされた所定のプログラムを実行することによって行う。
なお、受注装置2の設計部27は、受注装置2とは別の設計装置に配置されてもよい。
上述の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法は、評価部300が、複数の対象レンズにおける光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかに基づいて、複数の対象レンズの間の装用感の違いを示す統合特性指標および/または個別特性指標を算出すること、を含む。これにより、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(2)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、表示制御部213は、複数の対象レンズにおける光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかについての情報を表示装置に表示する。これにより、光学特性の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を装用者や販売員等に提供することができる。
(3)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、個別特性指標算出部310は、複数の対象レンズにおける、複数の光学特性のそれぞれについて個別特性指標を算出する。これにより、それぞれの光学特性による装用感の違いへの影響に基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(4)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、表示部240は、複数の個別特性指標に基づいて、複数の対象レンズにおける、複数の光学特性のそれぞれがどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかについての情報を表示する。これにより、それぞれの光学特性の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を装用者や販売員等に提供することができる。
(5)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、データ取得部211は、複数の光学特性のうち、類似させたい光学特性と、異ならせたい光学特性とが選択された装用感情報を取得し、個別特性指標310は、類似させたい光学特性がどの程度類似しているか、および、異ならせたい光学特性がどの程度異なっているかに基づいて、複数の個別特性指標を算出する。これにより、装用者の光学特性への希望に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(6)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、個別特性指標算出部310は、過去に取得された、光学特性の変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて個別特性指標を算出する。これにより、過去のデータに基づいて、より精密に装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(7)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、光学特性の変化に対する装用感の変化に関するデータは、非線形の部分を含む関数とすることができる。これにより、より精密なデータに基づいて、より精密に装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(8)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、評価部300は、装用者が評価対象レンズの少なくとも一部の領域に求める装用感にさらに基づいて、個別特性指標および/または統合特性指標を算出する。これにより、装用者が眼鏡レンズに求める装用感に基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(9)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、評価部300は、装用者が、光学特性の少なくとも一つを類似させたいかおよび/または異ならせたいかに基づいて、個別特性指標および/統合特性指標を算出する。これにより、装用者の光学特性への希望に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(10)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、個別特性指標算出部310は、評価対象レンズが既存の眼鏡レンズから切り替える眼鏡レンズであるか、あるいは、評価対象レンズが使い分けて併用する複数のレンズであるかに基づいて、個別特性指標および/または統合特性指標を算出する方法を異ならせる。これにより、装用者の眼鏡レンズの使用目的等に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(11)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、個別特性指標算出部310は、評価対象レンズが切り替えのための眼鏡レンズの場合、複数の対象レンズは 既存の眼鏡レンズを含み、既存の眼鏡レンズを基準として、個別特性指標および/または統合特性指標を算出する。これにより、装用者が眼鏡レンズを切り替える場合に合わせて、適切に装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(12)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、評価対象レンズが併用する複数の眼鏡レンズである場合、併用する複数の眼鏡レンズのそれぞれを基準として、個別特性指標および/または統合特性指標を算出する。これにより、装用者が評価対象レンズを併用する場合に合わせて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(13)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、光学特性は、処方データ、加入度曲線、眼鏡レンズの少なくとも一部の領域の加入度分布および収差分布、ならびに眼鏡レンズの少なくとも一部の領域による視野のゆがみおよび揺れからなる群から選択される少なくとも一つである。これにより、これらの光学特性による装用感への影響に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(14)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、光学特性は、眼鏡レンズの少なくとも一部の領域による視野のゆがみを含み、ゆがみ特性指標算出部313は、この領域を通して対象物である格子Grを見る場合の網膜像における対象物の形状および/または大きさの変化に基づいて、ゆがみ指標を算出する。これにより、視野のゆがみによる装用感への影響に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(15)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、光学特性は、眼鏡レンズのアイポイントよりも上方にある上方領域による視野のゆがみおよび/または眼鏡レンズのアイポイントよりも下方にある下方領域による視野のゆがみを含む。これにより、これらの領域における視野のゆがみによる装用感への影響に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(16)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、光学特性は、加入度曲線を含み、複数の対象レンズは複数の累進屈折力レンズであり、加入度指標算出部311は、累進屈折力レンズの一または複数の所定の位置または範囲における加入度の差に基づいて、加入度指標を算出する。これにより、加入度曲線による装用感への影響に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(17)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、上記累進屈折力レンズの一または複数の所定の位置は、遠用参照点を含む。これにより、遠用参照点での加入度による装用感への影響に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(18)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、加入度指標算出部321は、累進屈折力レンズの遠用部Fおよび/または中間部Pにおける一または複数の所定の位置または範囲における加入度の差に基づいて、前記光学特性がどの程度類似しているかの指標を算出する。これにより、対象レンズの間で遠用部Fまたは中間部Pの装用感の違いが小さいことが好ましい場合に、適切に装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(19)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、加入度指標算出部321は、累進屈折力レンズの近用部Nにおける一または複数の所定の位置または範囲における加入度の差に基づいて、光学特性がどの程度異なっているかの指標を算出する。これにより、対象レンズの間で遠用部Fまたは中間部Pの装用感の違いが大きいことが好ましい場合に、適切に装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(20)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、光学特性は、眼鏡レンズの少なくとも一部の領域の加入度分布および/または収差分布であり、明視域指標算出部322は、この領域の加入度分布、収差分布および/または装用者の調節力に基づいて算出した、一または複数の所定の位置における明視域の広さに基づいて、明視域指標を算出する。これにより、明視域の広さによる装用感への影響に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(21)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、光学特性は、処方データを含み、処方指標算出部325は、複数の対象レンズの球面度数、円柱度数、および/または乱視軸角度に基づいて、処方指標を算出する。これにより、眼鏡レンズの度数等の処方による装用感への影響に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(22)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、処方指標算出部325は、装用者が完全矯正となる球面度数、円柱度数、および/または乱視軸角度にさらに基づいて、処方指標を算出する。これにより、球面度数、円柱度数、および/または乱視軸角度による装用感への影響に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(23)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、処方指標算出部325は、球面度数、円柱度数、および/または乱視軸角度が装用者にとって過矯正となるか否かに基づいて、処方指標を算出する方法を異ならせる。これにより、過矯正による装用感への影響に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(24)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、評価部300は、装用者の完全矯正での視力、装用者の調節力、装用者が眼鏡レンズに優先的に求める性能にさらに基づいて個別特性指標および/または統合特性指標を算出する。これにより、完全矯正での視力および調節力による装用感への影響、ならびに装用者が眼鏡レンズに優先的に求める性能に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(25)本実施形態の眼鏡レンズの評価方法において、複数の対象レンズは、遠近両用レンズと中近両用レンズとを含み、評価対象レンズは、遠近両用レンズおよび/または中近両用レンズである。これにより、好適に併用される遠近両用レンズと中近両用レンズとの使用目的の違い等に基づいて、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(26)本実施形態に係る眼鏡レンズの選択方法は、上述の眼鏡レンズの評価方法に基づいて眼鏡レンズを選択する。これにより、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの選択を行うことができる。
(27)本実施形態に係る眼鏡レンズの選択方法において、表示制御部213が、上述の眼鏡レンズの評価方法による評価を装用者および/または眼鏡レンズの販売員に示すために、当該評価に関する情報を表示装置に表示し、当該評価に基づいて、装用者が、購入する眼鏡レンズを選択するか、および/または、当該評価に基づいて販売員が装用者に勧める眼鏡レンズを選択し、当該選択した眼鏡レンズに関する情報を入力装置が取得する。これにより、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価が視覚を通じて装用者または販売員等に伝えられ、適切に眼鏡レンズの選択が行われる。
(28)本実施形態に係る眼鏡レンズの選択方法において、表示制御部213は、評価に関する情報として、眼鏡レンズの製造業者の推奨度合を示す情報である指標を表示部240に表示する。これにより、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの推奨度合を装用者や販売員等に適切に伝えることができる。
(29)本実施形態に係る眼鏡レンズの選択方法において、表示制御部213は、評価対象レンズが使い分けて併用する複数の眼鏡レンズである場合、評価に関する情報として、複数の眼鏡レンズを併用することの適性度合を示す情報である個別特性指標および/または統合特性指標を表示装置に表示する。これにより、装用感の違いに基づいた、眼鏡レンズを併用することの適正度合を装用者や販売員等に適切に伝えることができる。
(30)本実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、上述の眼鏡レンズの評価方法に基づいて選択された眼鏡レンズを製造する。これにより、装用感の違いに基づいて好適に選択された眼鏡レンズを提供することができる。
(31)本実施形態に係る眼鏡レンズ評価装置は、複数の対象レンズにおける光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかに基づいて、複数の対象レンズの間の装用感の違いを示す個別特性指標および/または統合特性指標を算出し、当該指標を用いて、評価対象レンズの評価を行う評価部300を備える。これにより、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(32)本実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システムは、上述の眼鏡レンズの評価装置と、眼鏡レンズ発注装置と、眼鏡レンズ受注装置とを備える。これにより、装用感の違いに基づいて好適に選択された眼鏡レンズを提供することができる。
(33)本実施形態に係る眼鏡レンズの販売方法は、上述の眼鏡レンズの選択方法で選択された眼鏡レンズを販売する。これにより、装用感の違いに基づいて好適に選択された眼鏡レンズを提供することができる。
次のような変形例も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。
(変形例1)
上述の実施形態では、加入度指標算出部321は、対象レンズの加入度曲線上の加入度の値に基づいて加入度指標を算出したが、加入度指標算出部321は、対象レンズの一部の領域の加入度の値に基づいて加入度指標を算出してもよい。特に、加入度指標算出部321は、それぞれの対象レンズにおける異なる大きさの領域における加入度分布に基づいて、加入度指標を算出してもよい。それぞれの対象レンズにおける当該領域は、光学特性について対応する領域であることが好ましい。
図35は、本変形例の眼鏡レンズの評価方法を説明するための概念図である。以下では、眼鏡レンズAを遠近両用レンズLSAとし、眼鏡レンズBを中近両用レンズLSBとして説明するが、当該評価方法は、光学特性に基づいて眼鏡レンズ間で対応する領域を設定することにより、これら以外の累進屈折力レンズや累進屈折力レンズ以外の眼鏡レンズにも適用できる。
加入度特性値算出部311は、眼鏡レンズAの加入度分布71aから、中間部Pおよび近用部Nを含む領域(以下、第1領域Ra−1と呼ぶ)を、設定する。第1領域Ra−1は、図35ではアイポイントEPを中心に左右方向の幅がw1の長方形の部分としている。第1領域Ra−1の高さ方向の範囲は、上端を遠用参照点FVの高さとし、下端は非点収差が装用者にとって許容できなくなる値等に基づいて予め設定される。図35では、第1領域Ra−1を加入度分布71aから分離して示した(矢印A3)。なお、第1領域Ra−1は、予め定められた形状や、予め定められた範囲の大きさであればよく、その形状や大きさは上記に限定されない。
加入度特性値算出部311は、眼鏡レンズBの加入度分布71bから第1領域Ra−1に対応する第2領域Rbを設定する。第2領域Rbは、アイポイントEPを中心に左右方向の幅がw1の長方形の部分としている。第2領域Rbの高さ方向の範囲は、上端を遠用参照点FVの高さとし、下端は非点収差が装用者にとって許容できなくなる値等に基づいて設定される。
なお、第1領域Ra−1および第2領域Rbを設定する方法は、上記の方法に限定されず、加入度、非点収差等の収差の値等の光学特性に基づいて、適宜設定することができる。図35では、第2領域Rbを加入度分布71bから分離して示した(矢印A5)。
加入度特性値算出部311は、第1領域Ra−1を拡大し、第2領域Rbと等しい大きさの拡大第1領域Ra−2にして(矢印A4)比較する(矢印A6)。図35の例では、加入度特性値算出部311は、第1領域Ra−1を高さ方向に所定の倍率で伸長させ、第2領域Rbと等しい高さにする。加入度特性値算出部311は、拡大第1領域Ra−2と第2領域Rbとの対応する位置の加入度の差の二乗を、これらの領域の全体にわたって算出平均した平方根を、本変形例の加入度特性値(以下、領域加入度特性値AddDと呼ぶ)として算出する。
なお、領域加入度特性値AddDの算出方法は、第1領域Ra−1と第2領域Rbとの間の加入度がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかを定量できれば、特に限定されない。例えば、図35の例のように、加入度や非点収差等の収差の値等の光学特性の等高線を示す図を、等高線の間隔を細かく設定し、値をグレースケールの濃淡で表して、これらを画像として、SSD(Sum of Squared Difference)、SAD(Sum of Absolute Difference)等の公知のマッチング技術によって両者の類似度を算出してもよい。また、第1領域Ra−1を拡大せずに、第2領域Rbを縮小してもよいし、光学特性の比較に問題がなければ拡大および縮小の代わりにサンプリング間隔を変化させてもよい。第1領域Ra−1の各位置と第2領域Rbの各位置との間の対応付けができれば、その方法は特に限定されない。
加入度指標算出部321(図2)は、上述の実施形態の場合と同様、領域加入度特性値AddDの変化に対する装用感の変化に関するデータに基づいて、領域加入度特性値AddDから予備領域加入度指標PAIR_add_domainを算出する。遠近両用レンズの中間部Pおよび近用部N等を拡大したような形状の中近両用レンズを設計することが行われ得るため、予備領域加入度指標PAIR_add_domainを用いると、当該拡大以外の光学特性についてどの程度類似しているかまたは異なっているかの情報を提供することができる。予備領域加入度指標PAIR_add_domainおよび他の加入度についての予備特性指標のうち最大値等を、個別加入度指標とすることができる。
なお、本変形例の評価方法は、加入度指標以外の、ゆがみ指標等についても適用することができる。
本変形例の眼鏡レンズの評価方法において、複数の対象レンズは、複数の累進屈折力レンズであって、対象レンズのアイポイントEPよりも上方にある上方領域または対象レンズのアイポイントよりも下方にある下方領域で視認する想定距離が異なり、加入度指標算出部321は、複数の対象レンズのうち、第1対象レンズの一部領域である第1領域Ra−1と、第1対象レンズとは異なる第2対象レンズの、第1領域Ra−1よりも大きな第2領域Rbとで、光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかに基づいて、予備特性指標および/または個別特性指標を算出する。これにより、眼鏡レンズ関で大きさの異なる領域について、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
本変形例の眼鏡レンズの評価方法において、上記第1対象レンズは、遠近両用レンズであるとともに、第1領域Ra−1は、近用部Nから中間部Pを含む領域であり、第2対象レンズは、中近両用レンズであり、加入度指標算出部321は、第1領域Ra−1を第2領域Rbと同じ大きさに拡大したときの、光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかに基づいて、個別特性指標および/または統合特性指標を算出する。これにより、遠近両用レンズと、中近両用レンズとの間で、中間部P等を広げたことによる光学特性の変化以外の光学特性の変化による、装用感の違いに基づいた眼鏡レンズの評価を行うことができる。
(変形例2)
上述の実施形態では、加入度指標算出部321は、装用者が眼鏡レンズに優先的に求める性能にさらに基づいて、加入度特性値から加入度指標を算出してもよい。以下では、加入度指標算出部321が、眼鏡レンズAを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_abから、眼鏡レンズAを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_abの変化に対する装用感の変化に関するデータと、装用者が眼鏡レンズに優先的に求める性能とに基づいて、眼鏡レンズAを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abを算出する例を説明する。
なお、眼鏡レンズBを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_baを算出する場合も以下と同様に算出することができる。
図36は、遠用部加入度特性値ΔAddf_abの変化に対する装用感の変化に関するデータの一例をグラフにより示したものである。このデータでは、眼鏡レンズAを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_abの各値と予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abとを対応づける関数が数式や二次元の配列等により示されている。遠用部加入度特性値ΔAddf_abの変化に対する装用感の変化に関するデータは、過去に取得された、遠用部Fにおける加入度の装用感への影響を示すデータまたは理論等に基づいて、予め生成され記憶部220に記憶されている。
図36の例では、装用者が遠用部Fの加入度をどの程度類似させたいかの優先度に基づいて、眼鏡レンズAを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_abの各値と予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abとを対応づける3つの特性曲線C1、C2およびC3が示されている。
特性曲線C1は、眼鏡レンズAに対して眼鏡レンズBの遠用参照点FVでの見え方が、略同一であることを期待している場合(以下、優先度「高」の場合と呼ぶ)の特性曲線である。例えば、眼鏡レンズBの遠用参照点FVでの見え方(性能)の優先順位が、遠用部以外の部分または加入度以外の光学特性による性能と同じ程度以上である場合や、装用者が眼鏡レンズAの遠用参照点FVと同じ高さの眼鏡レンズBの主注視線上の位置を通して見たとき、矯正視力が略同一であることを期待している場合である。
特性曲線C1では、以下の式(41)のように眼鏡レンズAを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_abの各値に眼鏡レンズAを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abが対応づけられている。
ΔAddf_ab≦0.1DのときPAIR_add_far_ab=0
ΔAddf_ab=0.25DのときPAIR_add_far_ab=0.5
ΔAddf_ab≧0.5DのときPAIR_add_far_ab=1
…(41)
ここで、0.1D<ΔAddf_ab<0.25D、0.25D<ΔAddf_ab<0.5Dの領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
特性曲線C2は、眼鏡レンズAに対して眼鏡レンズBの遠用参照点FVでの見え方が、ある程度類似していることを期待している場合(以下、優先度「中」の場合と呼ぶ)の特性曲線である。例えば、眼鏡レンズBの遠用参照点FVでの見え方(性能)の優先順位が、遠用部以外の部分または加入度以外の光学特性による性能よりも同等またはやや低い場合である。他の例として、装用者が眼鏡レンズAの遠用参照点FVと同じ高さの眼鏡レンズBの主注視線上の位置を通して見たとき、矯正視力がやや劣るが、数mm等、若干視線の通る眼鏡レンズ上の位置をずらすことで同一の視力を得られることを期待している場合である。
特性曲線C2では、以下の式(42)のように眼鏡レンズAを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_abの各値に眼鏡レンズAを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abが対応づけられている。
ΔAddf_ab≦0.25DのときPAIR_add_far_ab=0
ΔAddf_ab=0.5DのときPAIR_add_far_ab=0.5
ΔAddf_ab≧1DのときPAIR_add_far_ab=1
…(42)
ここで、0.25D<ΔAddf_ab<0.5D、0.5D<ΔAddf_ab<1Dの領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
特性曲線C3は、眼鏡レンズAに対して眼鏡レンズBの遠用参照点FVでの見え方が、ある程度以上類似していることを期待していない場合(以下、優先度「低」の場合と呼ぶ)の特性曲線である。例えば、眼鏡レンズBの遠用参照点FVでの見え方(性能)の優先順位が、遠用部以外の部分または加入度以外の光学特性による性能よりも低い場合である。他の具体例として、装用者が眼鏡レンズAの遠用参照点FVと同じ高さにおける眼鏡レンズBの主注視線上の位置を通して見たときに遠点が装用者の眼から1mより遠ければ許容できるという程度の期待しかしていないような場合である。
特性曲線C3では、以下の式(43)のように眼鏡レンズAを基準とした遠用部加入度特性値ΔAddf_abの各値に眼鏡レンズAを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abが対応づけられている。
ΔAddf_ab≦0.5DのときPAIR_add_far_ab=0
ΔAddf_ab=1DのときPAIR_add_far_ab=0.5
ΔAddf_ab≧1.75DのときPAIR_add_far_ab=1
…(43)
ここで、0.5D<ΔAddf_ab<1D、1D<ΔAddf_ab<1.75Dの領域では、値が連続になるように直線により補間される。
なお、上記補間は直線の他、非線形の曲線によるものでもよい。
装用者の優先度が高い眼鏡レンズ上の部分や光学特性については、特性曲線C1が示すように、より優先度が低い場合(特性曲線C2,C3)に比べて、光学特性の違いを示す特性値の少なくとも一部の範囲について装用感の違いを示す指標の値がより高くなるように設定される。このように、加入度指標算出部321は、装用者が眼鏡レンズに優先的に求める性能に基づいて、加入度指標の値を異ならせることができる。
なお、個別特性指標算出部310が、ゆがみ、明視域、揺れおよび処方に関する指標を算出する際にも、装用者が眼鏡レンズに優先的に求める性能に基づいてこれらの指標の値を異ならせることができる。個別特性指標算出部310は、装用者が、眼鏡レンズの一部の領域および/または特定の光学特性に求める優先度が高い場合、優先度が低い場合よりもこれらの指標がより装用者にとって好ましくない値を示すように設定することができる。
(変形例3)
上述の実施形態において、発注装置1が評価装置200を備え、発注装置1の少なくとも一部が評価装置200の少なくとも一部と一体的に構成されていてもよい。これにより、適宜よりコンパクトな装置により発注および評価を行うことができる。
(変形例4)
上述の実施形態では、対象レンズが指定された後に評価部300が評価を行っているが、予め評価装置200により行われた評価が販売者側の発注装置等の装置または当該装置に接続されたサーバ等に記憶されており、装用者から対象レンズが指定されたら、記憶された当該評価が装用者や販売員に向けて表示される構成にしてもよい。
レンズ製造業者は、眼鏡レンズの種類、特徴または商品名に対応させて、特定のまたは一つ以上の代表的な処方による基本設計を定めている。レンズ製造業者等は、眼鏡レンズを切り替える場合や、複数の眼鏡レンズを併用する場合を想定して、特定の眼鏡レンズの組合せを対象レンズとして、予めこの基本設計における光学特性データを用いて上述の評価装置200による評価を行っておく。レンズ製造業者等は、例えば、併用するのに好適な遠近両用レンズの商品と中近両用レンズの商品とについて予め基本設計を用いた評価を行っておくことが好ましい。
上述の実施形態または以下の変形例における基本設計とは、眼鏡レンズの装用者の処方条件を反映する前の加入度および非点収差の分布などの収差特性を表すものである。装用者が実際に購入して装用する眼鏡レンズは、この基本設計を基にして、度数などの処方条件や眼鏡フレームなどの装用条件などを反映して眼鏡レンズの形状を最終的に決定するための最適化設計をした後の眼鏡レンズである。そして、この一旦最適化設計をした後の眼鏡レンズの特性から、装用者の眼の処方に依存する成分を取り除いたものが、上述の実施形態における残存収差である。基本設計と残存収差の違いは、残存収差には基本設計には無い最適化の誤差の影響が含まれていることである。
基本設計を用いた評価は、販売者側の発注装置等の装置または当該装置に接続されたサーバ等に記憶され、販売者側の眼鏡店において眼鏡レンズを販売する場合等に、装用者および/または販売員等に向けて表示される。基本設計を用いた評価は装用者の処方とは一致しない場合が多いため、実際に装用者の処方に合わせた眼鏡レンズを用いて評価した場合とは完全に同じ評価とはならないが、かなり類似した評価が得られる。従って、基本設計を用いた評価に基づいた場合でも、装用感の違いに応じて好適に眼鏡レンズを選択することができる。
本変形例の眼鏡レンズの選択方法において、評価対象レンズの評価は、特定の処方データおよび特定の眼鏡レンズの組合せに基づいて予め行われたものである。これにより、装用者が眼鏡レンズを選択する際に評価のための計算を行う必要がなく、効率的に眼鏡レンズの装用感の違いに基づいた評価を提供することができる。
(変形例5)
上述の実施形態において、対象レンズが販売者側において指定された後に、レンズ製造者側に当該対象レンズについてのデータが送信され、レンズ製造者側の評価装置200が評価対象レンズの評価を行う構成にしてもよい。
図37は、本変形例の眼鏡レンズ受発注システム10aの構成を示す図である。眼鏡レンズ受発注システム10aは、上述の眼鏡レンズ受発注システム10と略同一の構成を示しているが、製造者側に評価装置200を備え、販売者側に評価表示制御部17を備える点が異なっている。眼鏡レンズ受発注システム10と同一の機能を有する部分は同一の符号で参照して適宜説明を省略する。
眼鏡レンズ受発注システム10aは、制御部11aを備える。制御部11aは、上述の制御部11の機能に加え、評価表示制御部17を備える。受注装置2は、評価装置200と接続されている。
なお、受注装置2が評価装置200を備え、受注装置2の少なくとも一部が評価装置200の少なくとも一部と一体的に構成されていてもよい。これにより、適宜よりコンパクトな装置により受注および評価を行うことができる。
次に、眼鏡レンズ受発注システム10aにおいて、眼鏡レンズを提供する手順について、図38に示すフローチャートを用いて説明する。図38の左側には発注者側で行う手順を示し、図38の右側には受注者側で行う手順を示す。眼鏡レンズ受発注システム10aによる眼鏡レンズの製造方法および眼鏡レンズの販売方法では、上述の眼鏡レンズの評価方法による評価に基づいて眼鏡レンズが設計され製造される。
ステップS11aにおいて、複数の眼鏡レンズが選択され、装用者が求める装用感についての情報が取得される。例えば、眼鏡レンズ販売店の販売員が、装用者から、新しく装用したい眼鏡レンズについての情報と、装用者が眼鏡レンズの全体またはいずれの部分のいかなる光学特性を類似させたいかまたは異ならせたいかの情報を取得する。なお、複数の眼鏡レンズには、新しく装用したい眼鏡レンズの他に、眼鏡レンズ販売店で過去に購入して現在も使用している眼鏡レンズが一対以上含まれていてもよい。このような過去に購入した眼鏡レンズについては、購入当時の発注情報が眼鏡店に保管されているので、対象レンズおよび評価対象レンズに容易に含めることができる。以下では、対象レンズおよび評価対象レンズを遠近両用レンズおよび中近両用レンズとして、装用者がこれらのレンズを併用する場合を例に説明するが、対象レンズ、評価対象レンズおよびその使用目的は特に限定されない。
ステップS12aにおいて、発注者は、ステップS11aにおいて選択された眼鏡レンズの発注情報を決定する。そして、発注者は、発注装置1aの表示部14に発注画面を表示させ、入力部15を介して発注情報を入力する。
図39は、発注画面100の一例を示す図である。レンズ情報項目101では、注文するレンズの商品名、球面度数(S度数)、乱視度数(C度数)、乱視軸角度(軸度)、加入度等のレンズ注文度数に関連する項目を入力する。加工指定情報項目102は、注文するレンズの外径を指定する場合や、任意点厚さを指定する場合に利用される。染色情報項目103は、レンズの色を指定する場合に利用される。アイポイント(EP)情報項目104は、装用者の眼の位置情報を入力する。PDは瞳孔間距離を表す。フレーム情報項目105では、フレームモデル名、フレーム種別等を入力する。レンズ情報項目101、加工指定情報項目102、染色情報項目102、アイポイント情報項目104およびフレーム情報項目105については、1つの対象レンズの分のみを示したが、他の対象レンズについても同様に表示され入力される。
装用感情報項目106では、眼鏡レンズの一部または全部の領域と、当該領域に求める装用者の装用感とが対応付けられて入力される。発注画面100では、装用者が評価対象レンズ間で遠用部Fおよび中間部Pの光学特性を類似させたいものとし、近用部Nの光学特性を異ならせたいものとしている場合の例を示したが、特に限定されない。さらに、装用者が眼鏡レンズに優先的に求める性能についての情報も、ここで入力されるように表示を適宜変更することもできる。
なお、発注画面100では、上述の項目の他にも、装用者の調節力に関する情報等、様々な情報を追加することができる。また、発注画面100に表示されていないが、発注情報には、現在も使用している眼鏡レンズが含まれてもよい。すなわち、ステップS11aにおいて選択された全ての眼鏡レンズの情報を、対象レンズとして別の任意の方法で入力することができる。
発注者が、発注画面100の各項目を入力し、送信ボタン(不図示)をクリックすると、発注装置1aの発注処理部16は、発注情報を取得する。ステップS12aが終了したら、ステップS13aが開始される。
ステップS13a(図38)において、発注装置1aは、当該発注情報を、通信部13を介して受注装置2へ送信する。図38では、発注情報が発注装置1から受注装置2へと送信される点を、矢印A7で模式的に示した。ステップS13aが終了したら、ステップS21aが開始される。
発注装置1aにおいて、発注画面100を表示する処理、発注画面100において入力された発注情報を取得する処理、当該発注情報を受注装置2に送信する処理については、発注装置1aの制御部11aが、記憶部12に予めインストールされた所定のプログラムを実行することによって行う。
ステップS21a(図38)において、受注装置2の受注処理部26は、通信部23を介して、発注装置1から発注情報を受信する。ステップS21aが終了したら、ステップS22aが開始される。
ステップS22aにおいて、受信した発注情報に基づいて、評価装置200の評価部300は、基本設計に基づいて眼鏡レンズの評価を行い、受注装置2の設計部27は、評価装置200が行う眼鏡レンズの評価に基づいて、眼鏡レンズのうち今回新しく注文された眼鏡レンズの設計を行う。
図40は、ステップS22aに対応する眼鏡レンズの設計の手順を示すフローチャートである。ステップS221において、受注装置2は、受信された発注情報に含まれる、複数の眼鏡レンズの情報と、装用感情報とを取得する。ステップS221が終了したらステップS222が開始される。
ステップS222において、受注装置2の設計部27は、ステップS221で取得された複数の眼鏡レンズのうち、評価対象レンズである今回新しく注文された眼鏡レンズについて、その情報に含まれる商品名に基づいて、その商品名に対応する基本設計を決定する。レンズの基本設計が決定されたら、ステップS222を終了し、ステップS223が開始される。
ステップS223において、評価装置200は、装用者が眼鏡レンズに求める装用感に基づいて、ステップS111からS113(図34)までの方法により、基本設計が決定された複数の評価対象レンズである眼鏡レンズについて、装用感の違いを示す指標を算出する。評価装置200は、受注装置2から、ステップS222で基本設計が決定された評価対象レンズである眼鏡レンズの形状データおよびその他の光学特性および装用感情報に関するデータを取得する(ステップS111に対応)。当該データを取得したら、ステップS112により評価対象レンズの個別特性指標を算出し、その後ステップS113により統合特性指標を算出する。ステップS223が終了したら、ステップS224が開始される。
ステップS224において、評価装置200の評価部300は、算出された個別特性指標および/または統合特性指標が所定の条件を満たすか否かを判定する。所定の条件とは、例えば統合特性指標が0.5等の閾値より小さいか否か等の条件である。このような閾値は、予め適宜設定される。なお、最も判定条件が緩く全てが肯定判定されるのは、例えば統合特性指標の閾値が1の場合である。この所定の条件が満たされる場合、評価部300はステップS224を肯定判定してその旨を伝える情報を設計部27に送信し、ステップS225が開始される。この所定の条件が満たされない場合、評価部300はステップS224を否定判定してその旨を伝える情報を設計部27に送信し、ステップS222が開始されて設計部27は再評価を行う。この際、例えば、評価対象レンズの眼鏡レンズの種類を変更して、類似の光学特性を持つ別の眼鏡レンズの製品群から、S11aで選択されなかった眼鏡レンズを選択してもよい。この場合、装用者が候補としていなかった眼鏡レンズを推奨眼鏡レンズとして後で提案することができる。
なお、ステップS224における判定は受注装置側で行ってもよい。また、設計部27は、評価対象レンズの眼鏡レンズのうち少なくとも一つの上記評価が基準より悪かった場合に、全ての評価対象レンズの眼鏡レンズの種類を変更してもよい。これにより、評価結果が良好になる眼鏡レンズの種類の対を柔軟に提案することができ、より装用者が求める装用感に近い眼鏡レンズの対を提案することができる。
ステップS225において、設計部27は、評価対象レンズである眼鏡レンズの個別最適化設計を行う。個別最適化設計では、光線追跡等による通常の最適化処理により、発注情報に含まれる装用者の処方データに適するように眼鏡レンズの形状が決定される。ステップS225が終了したら、ステップS226が開始される。ステップS226において、受注装置2の設計部27は、眼鏡レンズの屈折力、非点収差等の光学特性が所定の条件を満たすかを判定する。ステップS226における所定の条件とは、累進屈折力レンズ等の眼鏡レンズで一般的に必要とされる、加入度分布や非点収差分布等が製品としての品質基準を満たしているかという条件である。この所定の条件が満たされる場合、設計部27はステップS226を肯定判定し、設計処理を終了し、ステップS23a(図38参照)に進む。この所定の条件を満たさない場合、設計部27はステップS226を否定判定し、最適化の初期条件や評価関数の重みなどの条件を少しだけ変えてからステップS225が開始されて再度、最適化設計が行われる。
ステップS23aにおいて、受注装置2の通信部23は、眼鏡レンズの評価結果を発注装置1aに送信する(矢印A8)。ステップS23aが終了したら、ステップS14aが開始される。ステップS14aにおいて、発注装置1aの通信部13は、眼鏡レンズの評価結果を受信する。ステップS14aが終了したら、ステップS15aが開始される。
ステップS15aにおいて、発注装置11aの評価表示制御部17が眼鏡レンズの評価結果を表示部14等に表示し、ユーザが眼鏡レンズの評価結果を確認し、ステップS22aで決定された基本設計を持つ眼鏡レンズまたは他の眼鏡レンズを装用者が装用する眼鏡レンズとして決定するか否かを判定する。眼鏡レンズが決定されない場合、ステップS15aは否定判定されステップS11aに戻る。眼鏡レンズが決定される場合、ステップS15aは肯定判定されステップS16aが開始される。ステップS16aにおいて、ユーザにより決定された眼鏡レンズが発注装置1aの入力部15を介して入力され、発注装置1aの通信部13は決定された眼鏡レンズの情報(決定情報)を受注装置2に送信する(矢印A9)。ステップS16aが終了したら、ステップS24aが開始される。ステップS24aにおいて、受注装置2の通信部23は、決定情報を受信する。ステップS24aが終了したら、ステップS25aが開始される。なお、ここでユーザとは、発注者側で発注装置を操作している眼鏡レンズ販売店の販売員や、望ましくは購入を予定している装用者のことである。
ステップS25aにおいて、決定情報に基づいて、決定された眼鏡レンズが加工される。眼鏡レンズの加工の方法は、上述の実施形態の眼鏡レンズの製造方法の流れを示すフローチャート(図33)のステップS23と同様なため説明を省略する。
なお、受注装置2において、発注装置1から発注情報を受信する処理、受信した発注情報に基づいて眼鏡レンズを設計する処理、眼鏡レンズの設計データを加工機制御装置3に出力する処理については、受注装置2の制御部21が、記憶部22に予めインストールされた所定のプログラムを実行することによって行う。
なお、本変形例での評価部300による評価および設計部27による評価は、装用感情報を適宜利用しない構成で行ってもよい。設計部27は、上述の実施形態の眼鏡レンズの評価方法による眼鏡レンズの評価に基づいて、装用感の違いが小さくなるように眼鏡レンズの種類を選択して基本設計を決定することができる。これにより、例えば眼鏡レンズを今まで装用していたレンズから新しい眼鏡レンズに切り替える場合や、ファッションやその日の気分で眼鏡レンズを使い分ける場合に、違和感の小さい眼鏡レンズを提供することができる。
また、本変形例の眼鏡レンズの選択方法において、評価部300による評価は、装用者の処方データに基づいてレンズ面の形状が個別最適化設計された後の眼鏡レンズについて行われてもよいし、対象レンズおよび評価対象レンズの眼鏡レンズの残存収差について行われてもよい。これにより、装用者の処方に基づき、実際に提供される眼鏡レンズにより近い眼鏡レンズの光学特性データに基づいて精密に評価を行うことができる。また、評価部300による評価は、装用者の処方データと基本設計のそれぞれについて行われてもよい。これにより、基本設計の光学特性データとともに、装用者の処方データにも基づいて精密に評価を行うことができる。
本変形例の眼鏡レンズの設計方法は、上述の眼鏡レンズの評価方法による評価に基づいて眼鏡レンズを設計してもよい。これにより、装用感の違いに基づいて装用者に適した眼鏡レンズを提供することができる。
なお、本変形例のように評価部300による評価を眼鏡レンズの種類および基本設計の決定に用いる他、評価部300による評価を利用して眼鏡レンズの種類および基本設計を決定することができればその決定方法は特に限定されない。
(変形例6)
上述の実施形態において評価部300による評価を表示部240に表示する際、評価対象レンズの使用目的に基づいて表示方法を変えてもよい。以下では、眼鏡レンズを今まで装用していたレンズから新しいレンズに切り替える場合を使用目的1とし、ファッションやその日の気分等により複数の眼鏡レンズを併用し、当該眼鏡レンズの光学特性を異ならせる必要が無い場合を使用目的2とし、遠近両用や中近両用等、光学特性の違いにより複数の眼鏡レンズを併用する場合を使用目的3とする。
図41は、本変形例での評価部300による評価を表示する画像の一例を示す図である。表示画像Di4は画像作成部212により作成される。個別特性指標算出部310は、上記の使用目的1〜3のそれぞれの場合について個別加入度特性指標PAIR_addおよび個別明視域指標PAIR_rangeを算出する。表示画像Di4において、表示画像Di3と同一の内容を表す部分については同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
表示画像Di4は、処方特性、ゆがみ特性および揺れ特性についての評価軸Axp、AxdおよびAxyに加え、使用目的1、2および3のそれぞれについての加入度特性評価軸Axa1、Axa2およびAxa3、ならびに、使用目的1、2および3のそれぞれについての明視域の広さ評価軸Axw1、Axw2およびAxw3を含む。
使用目的1、2および3のそれぞれの場合についての個別加入度特性指標PAIR_addは、それぞれ加入度特性評価軸Axa1、Axa2およびAxa3上のマークPa1、Pa2およびPa3により示されている。使用目的1、2および3のそれぞれの場合についての個別明視域指標PAIR_rangeは、それぞれ明視域の広さ評価軸Axw1、Axw2およびAxw3上のマークPw1、Pw2およびPw3により示されている。
Pa1、Pa2およびPa3ならびにマークPw1、Pw2およびPw3は、評価線Leにより結ばれている。表示画像Di4を見た販売員または装用者等は、評価線Leを見ることにより、視覚的に個別特性指標のそれぞれの値を捉えることができ、それぞれの使用目的についての評価対象レンズの評価を容易に理解することができる。使用目的ごとの個別特性指標を用いた評価は、装用者や販売員等誰に対して表示してもよい。しかし、各個別特性指標に対応する光学特性を理解している人間、特に眼鏡レンズの販売員等に向けた表示画像とすることが好ましい。
(変形例7)
評価装置200の情報処理機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された、上述した指標算出処理等の評価処理および表示処理ならびにそれに関連する処理の制御に関するプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
また、パーソナルコンピュータ(以下、PCと記載)等に適用する場合、上述した制御に関するプログラムは、CD−ROM、DVD−ROM等の記録媒体やインターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。図42はその様子を示す図である。PC950は、CD−ROM953を介してプログラムの提供を受ける。また、PC950は通信回線951との接続機能を有する。コンピュータ952は上記プログラムを提供するサーバーコンピュータであり、ハードディスク等の記録媒体にプログラムを格納する。通信回線951は、インターネット、パソコン通信などの通信回線、あるいは専用通信回線などである。コンピュータ952はハードディスクを使用してプログラムを読み出し、通信回線951を介してプログラムをPC950に送信する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波により搬送して、通信回線951を介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体や搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
上述した情報処理機能を実現するためのプログラムとして、複数の対象レンズの光学特性についてのデータを取得するデータ取得処理と、複数の対象レンズにおける光学特性がどの程度類似しているかまたはどの程度異なっているかに基づいて、複数の対象レンズの間の装用感の違いを示す個別特性指標および/または統合特性指標を算出する指標算出処理とを処理装置に行わせるためのプログラムが含まれる。
(変形例8)
上述の実施形態では、販売者側において眼鏡レンズを選択する際に評価装置200による評価を利用する例を示したが、眼鏡レンズ製造業者等が、処方に依存しない眼鏡レンズの基本設計を設計する場合に当該評価を利用してもよい。本変形例では、上述の実施形態の眼鏡レンズの評価方法による評価に基づいて眼鏡レンズが設計される。
図43は、本変形例の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。以下では、眼鏡レンズ製造者側に配置された受注装置2の設計部27(図37)により基本設計を設計するものとするが、設計装置は受注装置と一体化したものでなくともよく、任意の設計装置を用いて眼鏡レンズを設計することができる。また、以下では、設計部27が既存の眼鏡レンズを比較対象として改良した眼鏡レンズを設計する例を示すが、全く新しい眼鏡レンズを設計してもよく、さらに比較対象とする眼鏡レンズは任意に設定することができる。
なお、基本設計の他、処方を反映した眼鏡レンズの形状を決定する場合にも本変形例と同様に設計を行うことができる。
ステップS301において、設計部27は、眼鏡レンズを設計する。このとき、既存の眼鏡レンズの基本設計の設計データに変更を加えた、光学特性データを含む設計データを作成する。この設計データの変更の方法は特に限定されず、所定の評価関数が好ましい値に変化するようにパラメータを変化させる等、予め定められたアルゴリズム等に基づいて適宜設定される。ステップS301が終了したら、ステップS302が開始される。
ステップS302において、設計部27は、比較対象となる眼鏡レンズの光学特性データを取得する。この例では、比較対象となる眼鏡レンズとして、既存の眼鏡レンズを用いる。設計部27は、受注装置2の記憶部22等に記憶されている既存の眼鏡レンズの光学特性データを取得する。ステップS301およびS302において取得された光学特性のデータは、評価装置200に送信される。ステップS302が終了したら、ステップS303が開始される。
ステップS303において、ステップS301およびS302において光学特性データが取得された眼鏡レンズについて、評価装置200の評価部300は、ステップS111(図34)からステップS114の方法により、装用感の違いを示す指標を算出する。ただし、基本設計について評価する場合は、処方についての指標は除く。装用感情報は、例えば想定される装用者の求める装用感に基づいて設定されたものを用いてもよいし、装用感情報を利用せずに評価を行ってもよい。ここでは、評価部300は、既存の眼鏡レンズとステップS301で設計した眼鏡レンズとを対象レンズとし、ステップS301で設計した眼鏡レンズを評価対象レンズとして評価を行う。ステップS303が終了したら、ステップS304が開始される。
なお、評価部300は、装用感の違いが小さい場合に好ましい値となるよう評価対象レンズの評価を行うことができる。その場合、評価部300による眼鏡レンズの評価に基づいて、設計部27は、比較対象のレンズと比べ、装用感の違いが小さくなるように眼鏡レンズを設計することができる。これにより、例えば既存の眼鏡レンズと掛け替えの際に違和感の少ない眼鏡レンズを設計することができる。
ステップS304において、評価部300は、ステップS303で算出された指標が所定の条件を満たすか否かを判定する。この所定の条件とは、例えば統合特性指標が0.5以下である等、適宜予め設定される。評価部300は、所定の条件を満たす場合、ステップS304を肯定判定し、評価が予め設定された条件を満たしたことについての情報を受注装置2に送信する。受注装置2は当該情報を受信するとステップS301で設計した眼鏡レンズの基本設計を設計データとして眼鏡レンズの設計を終了する。評価部300は、所定の条件が満たされない場合、ステップS304を否定判定し、評価が予め設定された条件を満たさなかったことについての情報を受注装置2に送信し、ステップS301に戻って設計部27は再設計を行う。
(変形例9)
上述の変形例では、既存の眼鏡レンズとの比較により新しい眼鏡レンズを設計する例を示したが、複数の眼鏡レンズを、これらの眼鏡レンズの間の装用感の違いの評価に基づいて設計することもできる。設計する複数の眼鏡レンズとしては、例えば遠近両用レンズおよび中近両用レンズとすることが好ましいが、これに限定されない。
図44は、本変形例の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。以下では、眼鏡レンズ製造者側に配置された受注装置2の設計部27(図37)により複数の眼鏡レンズの基本設計を設計するものとするが、設計装置は受注装置と一体化したものでなくともよく、任意の設計装置を用いて眼鏡レンズを設計することができる。
なお、基本設計の他、処方を反映した眼鏡レンズの形状を決定する場合にも本変形例と同様に設計を行うことができる。
ステップS401において、設計部27は、複数の眼鏡レンズを設計し、当該眼鏡レンズの光学特性データを取得する。設計部27は、所定の評価関数が好ましい値に変化するようにパラメータを変化させる等、予め定められたアルゴリズム等に基づいて複数の眼鏡レンズを設計する。ステップS403からS401へ戻った後再設計を行う場合は、再設計後の個別特性指標または統合特性指標が最小となるように、例えば統合特性指標および/または個別特性指標の目標値と設計値との差についての最小二乗法等に基づいて自動修正されることが好ましい。ここで、自動修正される過程で装用感の違いを示す指標が必要な場合は、内部的に適宜に評価装置200と送受信を行い、評価装置200の評価部300が、ステップS111(図34)からステップS114の方法により算出した、装用感の違いを示す指標を使う。装用感情報は、例えば想定する装用者の求める装用感に基づいて設定されたものを用いてもよいし、装用感情報を利用せずに評価を行ってもよい。ここでは、評価部300は、自動設計している複数の眼鏡レンズを対象レンズとし、かつ評価対象レンズとして評価を行う。これにより、比較的設計値がばらつくような、自由度の高い設計パラメータについても、個別特性指標または統合特性指標が相乗的に高くなるような評価関数を設けることで、効率よく、良い設計解を得ることができる。ステップS401が終了したら、ステップS402が開始される。
ステップS402において、ステップS401において光学特性データが取得された複数の眼鏡レンズについて、当該光学特性データが評価装置200に送信され、評価装置200の評価部300は、ステップS111(図34)からステップS114の方法により、装用感の違いを示す指標を算出する。装用感情報は、例えば想定する装用者の求める装用感に基づいて設定されたものを用いてもよいし、装用感情報を利用せずに評価を行ってもよい。ここでは、評価部300は、ステップS401で設計した複数の眼鏡レンズを対象レンズとし、かつ評価対象レンズとして評価を行う。ステップS402が終了したら、ステップS403が開始される。
ステップS403において、評価部300は、ステップS402で算出された指標が所定の条件を満たすか否かを判定する。この所定の条件とは、例えば複数の眼鏡レンズの全てにおいて統合特性指標が0.5以下である等、適宜予め設定される。評価部300は、所定の条件を満たす場合、ステップS403を肯定判定し、評価が予め設定された条件を満たしたことについての情報を受注装置2に送信する。受注装置2は当該情報を受信するとステップS401で設計した眼鏡レンズの基本設計を設計データとして記憶部22に記憶し眼鏡レンズの設計を終了する。評価部300は、所定の条件が満たされない場合、ステップS403を否定判定し、評価が予め設定された条件を満たさなかったことについての情報を受注装置2に送信し、ステップS401に戻って設計部27は再設計を行う。
なお、ステップS403が肯定判定され基本設計が完了した後、得られた設計データに対応する評価部300による評価を、販売者側の発注装置や電子計算機等に送信して記憶しておくことが好ましい。これにより、予め得られた評価に基づいて、装用者や販売員等に迅速に眼鏡レンズの評価についての情報を提供することができる。
本変形例の眼鏡レンズの設計方法において、設計部27は、設計する複数の眼鏡レンズのうち少なくとも一つの評価が基準より悪かった場合に、設計する全ての眼鏡レンズを再設計してもよい。これにより、一部の眼鏡レンズのみを再設計する場合に比べて、効率よく装用感の違いに基づいた眼鏡レンズを設計することができる。
以下では、具体的な数値に基づいた実施例を示すが、本発明はこれらの数値により限定されるものではない。
眼鏡レンズの装用者Wは、1年前の検眼において、老視のため調節力が1Dであると測定され、遠近両用の累進屈折力レンズである眼鏡レンズaを購入し、現在も装用している。今回、近方がより楽に、眼鏡レンズの広い範囲を通して見えることを期待して中近両用の累進屈折力レンズである眼鏡レンズbまたはcを眼鏡店で購入しようとしている。
装用者Wの今回の検眼において、両眼とも完全矯正での遠方視力は1.2と測定され、乱視度数が0.125Dほどマイナス側に強くなっていた。調節力を含めた他の処方は全く変わりなかった。装用者Wは、中近両用の累進屈折力レンズの購入について眼科医や眼鏡店の販売員と相談した。その結果、装用者Wは、老視がある程度進んでいるので中近両用の累進屈折力レンズには遠近両用の累進屈折力レンズである眼鏡レンズaほどの遠方の見やすさは期待しないこととした。装用者Wは、遠方を見るときに視線が通過する眼鏡レンズ上の位置を多少高めに変えることでほぼ同じ視力が得られれば良いとし、中間から近方の見やすさを重視することとした。
図45(A)、図45(B)、図46(A)および図46(B)は、それぞれ眼鏡レンズaの加入度の分布と、明視度CVの分布と、非点収差の分布と、主注視線上の加入度とを示す図である。各分布を示す図(以下、分布図と呼ぶ)はアイポイントを中心に直径50mmの範囲で描いている。等高線は加入度分布および非点収差分布で0.5D間隔、明視度の分布で0.25D間隔の各値に対応している。分布図中の環状で示された部分は上から順に遠用参照点、アイポイント、近用参照点の位置を示している。ここで加入度と非点収差は、全て装用者Wの今回の検眼結果での処方に依存する成分を取り除いた、眼鏡レンズの製品としての特徴を表す残存収差であり、明視度CVはこれらから算出されたものである。分布図の描き方についての上記説明は眼鏡レンズbおよびcの分布図においても同様である。眼鏡レンズaは公称加入度が2Dであり、アイポイントを基準に遠用参照点は5mmの高さにあり、近用参照点は−14mmの高さにある。
図47(A)、図47(B)、図48(A)および図48(B)は、それぞれ眼鏡レンズbの加入度の分布と、明視度CVの分布と、非点収差の分布と、主注視線上の加入度とを示す図である。眼鏡レンズbは公称加入度が2Dであり、アイポイントを基準に遠用参照点は10mmの高さにあり、近用参照点は−14mmの高さにある。
図49(A)、図49(B)、図50(A)および図50(B)は、それぞれ眼鏡レンズcの加入度の分布と、明視度CVの分布と、非点収差の分布と、主注視線上の加入度とを示す図である。眼鏡レンズcは公称加入度が2Dであり、アイポイントを基準に遠用参照点は10mmの高さにあり、近用参照点は−14mmの高さにある。
(加入度に関する個別特性指標の算出)
以下では、個別加入度指標PAIR_addを算出する。遠用参照点での見え方についての装用者Wの優先度は「中」に相当する。眼鏡レンズaの遠用参照点の位置での眼鏡レンズbの加入度ΔAddf_abは0.40Dで、眼鏡レンズbの遠用参照点の位置での眼鏡レンズaの加入度ΔAddf_baは−0.07Dである。従って、眼鏡レンズaを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_abおよび眼鏡レンズbを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_baは、図36のグラフに基づいて以下ののように算出された。
PAIR_add_far_ab = 0.3
PAIR_add_far_ba = 0
眼鏡レンズにおけるアイポイントよりも下方の領域については、装用者Wは遠近両用の眼鏡レンズaと中近両用の新しい眼鏡レンズbまたはcとで異なる見え方を期待している。上述の眼鏡レンズの評価方法により、片方の眼鏡レンズによるピントが合う距離範囲に対する両方の眼鏡レンズによるピントが合う距離範囲の比率に基づいて比率加入度特性値Raddが算出された。
アイポイントについてのピントが合う距離範囲の比率Radd1、アイポイントを基準に−5mmの高さについてのピントが合う距離範囲の比率Radd2、アイポイントを基準に−10mmの高さについてのピントが合う距離範囲の比率Radd3は、以下のように算出された。
Radd1 = 1.83
Radd2 = 1.60
Radd3 = 1.29
Radd1,Radd2およびRadd3に対応するそれぞれの重みWadd1、Wadd2およびWadd3は、上述の実施形態と同様に以下のように算出された。
Wadd1 = 1
Wadd2 = 0.64
Wadd3 = 0.29
比率加入度特性値Raddは、ピントが合う距離範囲の比率Radd1、Radd2およびRadd3ならびにこれらそれぞれの重みWadd1、Wadd2およびWadd3に基づいて以下のように算出された。
Radd=Sqrt((Wadd1*Radd1^2+Wadd2*Radd2^2+Wadd3*Radd3^2 )/(Wadd1+Wadd2+Wadd3 ))
=Sqrt((1*1.83^2+0.64*1.60^2+0.29*1.29^2)/(1 + 0.64 + 0.29))
=1.68
予備比率加入度指標PAIR_add_underepは、図8のグラフに基づいて、以下のように算出された。
PAIR_add_underep = 0.32
個別加入度指標PAIR_addは、以下のように算出された。
PAIR_add=Max(PAIR_add_far_ab,PAIR_add_far_ba,PAIR_add_underep )
=Max(0.3,0,0.32)
=0.32
同様に、眼鏡レンズcについて、眼鏡レンズaを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_acおよび眼鏡レンズcを基準とした予備遠用部加入度指標PAIR_add_far_caは、以下のように算出された。
PAIR_add_far_ac = 0.34
PAIR_add_far_ca = 0
眼鏡レンズcについて、比率加入度特性値Raddおよび予備比率加入度指標PAIR_add_underepは、以下のように算出された。
Radd = 1.82
PAIR_add_underep = 0.18
以上から、眼鏡レンズcについて、個別加入度指標PAIR_addは、以下のように算出された。
PAIR_add=Max(0.34,0,0.18)=0.34
眼鏡レンズaとbについての個別加入度指標PAIR_addは0.32であり、眼鏡レンズaとcについての個別加入度指標PAIR_addは0.34であり、加入度の特性については眼鏡レンズaとbとの組み合わせの方が併用により適することがわかった。
(明視域の広さに関する個別特性指標の算出)
以下では、個別明視域指標PAIR_rangeを算出する。眼鏡レンズaとbの遠用参照点の位置を比較すると、より低い位置はアイポイントを基準に上方5mmの位置(以下、遠用部位置と呼ぶ)であった。眼鏡レンズaとbの近用参照点の位置を比較すると、より高い位置はアイポイントを基準に14mm下方の位置(以下、近用部位置)であった。そして、主注視線上の加入度が公称加入度の50%になる位置(以下中間部位置と呼ぶ)は、眼鏡レンズaではアイポイントの6mm下方の位置であり、眼鏡レンズbではアイポイントの位置(0mm)である。装用者Wの完全矯正での遠方視力Vは1.2であるので、明視度の閾値CVlimitは以下のように算出された。
CVlimit=(0.4/V+0.6)/2=(0.4/1.2+0.6)/2= 0.467
図51、図52および図53は、それぞれ眼鏡レンズa、bおよびcにおける、遠用部位置(図中「遠用部」に対応)、中間部位置(図中「中間部」に対応)および近用部位置(図中「近用部」に対応)の高さにおける明視度CVと、閾値CVlimitの値を示す図である。
遠用部位置における眼鏡レンズaおよびbの明視域の幅Wcv1aおよびWcv1bは、図51および図52における遠用部のCVがCVlimit以下となる幅により算出された。中間部位置における眼鏡レンズaおよびbの明視域の幅WcvmaおよびWcvmb、ならびに近用部位置における眼鏡レンズaおよびbの明視域の幅Wcv3aおよびWcv3bについても同様である。これらの値から、眼鏡レンズaおよびbの明視域の幅の比率Rwcv1、Rwcv2およびRwcv3は以下のように算出された。
Rwcv1=Wcv1b/Wcv1a=13.6/17.0=0.80
Rwcv2=Wcvma/Wcvmb =10.0/11.8=0.85
Rwcv3=Wcv3a/Wcv3b =11.0/16.1=0.68
眼鏡レンズaおよびbの明視域の幅の比率Rwcv1、Rwcv2およびRwcv3の二乗の算術平均の平方根から、明視域特性値Rwcvは、以下のように算出された。
Rwcv = 0.78
この明視域特性値Rwcvから、図12のグラフに基づいて、個別明視域指標PAIR_rangeが、以下のように算出された。
PAIR_range = 0.35
同様に、眼鏡レンズaとcについては、図51および図53から、眼鏡レンズaおよびcの明視域の幅の比率Rwcv1、Rwcv2およびRwcv3は以下のように算出された。
Rwcv1=Wcv1c/Wcv1a=10.7/17.0=0.63
Rwcv2=Wcvma/Wcvmc=10.0/8.6=1.16
Rwcv3=Wcv3a/Wcv3c=11.0/10.6=1.04
眼鏡レンズaおよびcの明視域の幅の比率Rwcv1、Rwcv2およびRwcv3の二乗の算術平均の平方根から、明視域特性値Rwcvは、以下のように算出された。
Rwcv = 0.97
この明視域特性値Rwcvから、図12のグラフに基づいて、個別明視域指標PAIR_rangeが、以下のように算出された。
PAIR_range = 0.85
眼鏡レンズaとbの個別明視域指標PAIR_rangeは0.35であり、眼鏡レンズaとcの個別明視域指標PAIR_rangeは0.85であり、明視域の広さについては眼鏡レンズaとbの組合せの方が併用により適することがわかる。
(ゆがみに関する個別特性指標の算出)
以下では、個別ゆがみ指標PAIR_disを算出する。
図54は、正方格子の各点と、眼鏡レンズaを通してこの正方格子を見たと仮定した場合に算出された網膜像における当該各点の位置を示す図である。上端点Foおよび下端点Noは、中心点Eoと眼の回旋中心を結ぶ線から上に25度、下に25度の方向に位置する。図52で符号が示された各点は中心点Eoと上端点Foの距離が1になるように規格化された位置に配置されている。
白抜きの四角は、眼鏡レンズから1mの距離にある正方格子上の9つの格子点(遠用左側格子点Flg、中間左側格子点Elg、近用左側格子点Nlg、上端点Fo、中心点Eo、下端点No、遠用右側格子点Frg、中間右側格子点Ergおよび近用右側格子点Nrg)の位置を示している。
遠用左側像点Flaは、遠用左側格子点Flgを眼鏡レンズaを通して見たときに装用者Wにとって見える像点の位置を示している。同様に、中間左側像点Ela、近用左側像点Nla、上端対応点Fa、中心対応点Ea、下端対応点Na、遠用右側像点Fra、中間右側像点Eraおよび近用右側像点Nraは、それぞれ中間左側格子点Elg、近用左側格子点Nlg、上端点Fo、中心点Eo、下端点No、遠用右側格子点Frg、中間右側格子点Ergおよび近用右側格子点Nrgを眼鏡レンズaを通して見たときに装用者Wにとって見える像点の位置を示している。
図54において、上側の6つの像点Fla,Fa,Fra,Era,EaおよびElaで囲まれる領域の面積(上側面積)Sfaは、上端点Faの高さをFaHとしてこの値により規格化すると、以下のように算出された。
Sfa=2.255/FaH^2=2.255/1.051^2=2.042
そして、下側の6つの像点Nla,Na,Nra,Era,EaおよびElaで囲まれる領域の面積(下側面積)Snaは、下端点Naの高さをNaHとしてこの値により規格化すると、以下のように算出された。
Sna=2.431/NaH^2=2.431/1.091^2=2.041
図55は、正方格子の各点と、眼鏡レンズbを通してこの正方格子を見たと仮定した場合に算出された網膜像における当該各点の位置を示す図である。遠用左側像点Flbは、遠用左側格子点Flgを眼鏡レンズbを通して見たときに装用者Wにとって見える像点の位置を示している。同様に、中間左側像点Elb、近用左側像点Nlb、上端対応点Fb、中心対応点Eb、下端対応点Nb、遠用右側像点Frb、中間右側像点Erbおよび近用右側像点Nrbは、それぞれ中間左側格子点Elg、近用左側格子点Nlg、上端点Fo、中心点Eo、下端点No、遠用右側格子点Frg、中間右側格子点Ergおよび近用右側格子点Nrgを眼鏡レンズbを通して見たときに装用者Wにとって見える像点の位置を示している。
図55において、上側の6つの像点Flb,Fb,Frb,Erb,EbおよびElbで囲まれる領域の面積(上側面積)Sfbは、上端点Fbの高さをFbHとしてこの値により規格化すると、以下のように算出された。
Sfb=2.260/FbH^2=2.260/1.051^2=2.045
そして、下側の6つの像点Nlb,Nb,Nrb,Erb,EbおよびElbで囲まれる領域の面積(下側面積)Snbは、下端点Nbの高さをNbHとしてこの値により規格化すると、以下のように算出された。
Snb=2.478/NbH^2=2.478/1.112^2=2.004
眼鏡レンズの上側部分のゆがみ特性値Rfは、眼鏡レンズaについての上側面積Sfaと、眼鏡レンズbについての上側面積Sfbとから、以下のように算出される。
Rf=Max(Sfa,Sfb)/Min(Sfa,Sfb)=2.045/2.042 = 1.001
眼鏡レンズの下側部分のゆがみ特性値Rnは、眼鏡レンズaについての下側面積Snaと、眼鏡レンズbについての下側面積Snbとから、以下のように算出される。
Rn=Max(Sna,Snb)/Min(Sna,Snb)=2.041/2.004= 1.018
眼鏡レンズの上側部分のゆがみ特性値Rfから、図19に基づいて眼鏡レンズの上側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_farが以下のように算出された。
PAIR_dis_far = 0.025
眼鏡レンズの下側部分のゆがみ特性値Rnから、図22に基づいて眼鏡レンズの下側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_nearが以下のように算出された。
PAIR_dis_near = 0.35
個別ゆがみ指標PAIR_disは、以下のように算出された。
PAIR_dis=Max(PAIR_dis_far,PAIR_dis_near)=0.35
同様に、眼鏡レンズcについての上側面積Sfcおよび下側面積Sncは、以下のように算出された。
Sfc=2.264/FcH^2=2.264/1.054^2=2.037
Snc=2.473/NcH^2=2.473/1.114^2=1.995
従って、眼鏡レンズaとcについてのゆがみ特性値RfおよびRnは以下のように算出された。
Rf=Max(Sfa,Sfc)/Min(Sfa,Sfc)=2.042/2.037 = 1.002
Rn=Max(Sna,Snc)/Min(Sna,Snc)=2.041/1.995 = 1.023
眼鏡レンズaとcについて、眼鏡レンズの上側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_farおよび眼鏡レンズの下側部分の予備ゆがみ指標PAIR_dis_nearが以下のように算出された。
PAIR_dis_far = 0.05
PAIR_dis_near = 0.41
個別ゆがみ指標PAIR_disは、以下のように算出された。
PAIR_dis=Max(PAIR_dis_far,PAIR_dis_near)=0.41
眼鏡レンズaとbについての個別ゆがみ指標PAIR_disは0.35であり、眼鏡レンズaとcの個別ゆがみ指標PAIR_disは0.41であり、ゆがみ特性については眼鏡レンズaとbとの組合せの方が併用により適することがわかる。
(揺れに関する個別特性指標の算出)
以下では、個別揺れ指標PAIR_yureを算出する。眼鏡レンズaおよびbの近用参照点の位置は、いずれもアイポイントを原点として、高さが−14mmで、左右方向について鼻側に2mm寄った位置である。加入度分布から、近用参照点から左右方向に片側10mmずつの線分上において、眼鏡レンズaおよびbのそれぞれの加入度の最大値と最小値の差PowPPaおよびPowPPbは、以下のように算出された。
PowPPa = 0.60
PowPPb = 0.56
同じ線分上において、非点収差分布から、眼鏡レンズaおよびbのそれぞれの非点収差の最大値と最小値の差AstPPaおよびAstPPbは、以下のように算出された。
AstPPa = 0.85
AstPPb = 0.67
PowPPaおよびPowPPb、ならびにAstPPaおよびAstPPbから、眼鏡レンズaとbについての揺れ特性値Yureは、以下のように算出された。
Yure=Sqrt(((PowPPa−PowPPb)^2+(AstPPa−AstPPb)^2)/2)
= Sqrt(((0.60−0.56)^2+(0.85−0.67)^2)/2)
= 0.13
眼鏡レンズaとbについての個別揺れ指標PAIR_yureは、揺れ特性値Yureから、図24に基づいて以下のように算出された。
PAIR_yure = 0.20
同様に、眼鏡レンズcについて、上記線分上の加入度の最大値と最小値の差PowPPcおよび非点収差の最大値と最小値の差AstPPcは、以下のように算出された。
PowPPc = 1.01
AstPPc = 1.59
眼鏡レンズaとcについての揺れ特性値Yureは、以下のように算出された。
Yure=Sqrt(((PowPPa−PowPPc)^2+(AstPPa−AstPPc)^2)/2
=Sqrt(((0.60−1.01)^2+(0.85−1.59)^2)/2)
= 0.60
眼鏡レンズaとcについての個別揺れ指標PAIR_yureは、揺れ特性値Yureから、図24に基づいて以下のように算出された。
PAIR_yure = 0.80
眼鏡レンズaとbの個別揺れ指標PAIR_yureは0.20であり眼鏡レンズaとcの個別揺れ指標PAIR_yureは0.80であり、揺れ特性については眼鏡レンズaとbとの組合せの方が併用により適することがわかる。
(処方に関する個別特性指標の算出)
以下では、個別処方指標PAIR_prescを算出する。第一に、完全矯正からの矯正誤差の程度が変わることで感じる違和感を評価する予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_pを算出する。眼鏡レンズbおよびcはどちらも完全矯正であるが、眼鏡レンズaは、購入時からの装用者Wの乱視度数の変化により、現在では、完全矯正に対して乱視度数がマイナス側に0.125D弱くなっている。
眼鏡レンズaおよびbの矯正度数について、球面度数についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_sは、球面度数についての矯正誤差処方特性値SrMaxが0Dであるため、以下のように算出された。
PAIR_presc_p_s = 0
円柱度数についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_cは、円柱度数についての矯正誤差処方特性値CrMaxが0.125Dであるため、以下のように算出された。
PAIR_presc_p_c = 0.25
過矯正についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_overは、過矯正についての矯正誤差処方特性値SErMaxが0Dであるため、以下のように算出された。
PAIR_presc_p_over = 0
予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_pは、球面度数、円柱度数および過矯正についての予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_p_s、PAIR_presc_p_cおよびPAIR_presc_p_overから、以下のように算出された。
PAIR_presc_p=Max(PAIR_presc_p_s,PAIR_presc_p_c,PAIR_presc_p_over)
=Max(0,0.25,0)=0.25
この値は眼鏡レンズaとcの場合についても同じ値である。
次に、眼鏡の倍率が変わることで視界の見かけの大きさや形状が変わるために生じる違和感を評価する、予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_cを算出する。眼鏡レンズaから眼鏡レンズbに掛け替えたときに、眼鏡倍率処方特性値|Cd|は、0.125Dである。眼鏡倍率処方特性値|Cd|から、図28のグラフに基づいて予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_cは以下のように算出された。
PAIR_presc_d_c = 0.125
算出された予備矯正誤差処方指標PAIR_presc_pおよび予備眼鏡倍率処方指標PAIR_presc_d_cに基づいて、個別処方指標PAIR_prescは以下のように算出された。
PAIR_presc=Max(PAIR_presc_p,PAIR_presc_d_c)
=Max(PAIR_presc_p,PAIR_presc_d)
=Max(0.25,0.125)=0.25
この値は眼鏡レンズaとcの場合についても同じ値である。
(統合特性指標の算出)
眼鏡レンズaとbについての統合特性指標PAIRは、算出された個別特性指標のうち最も大きな値として、以下のように算出された。
PAIR=Max(PAIR_add,PAIR_range,PAIR_dis,PAIR_yure,PAIR_presc)
= Max(0.32,0.35,0.35,0.20,0.25)=0.35
眼鏡レンズaとcについての統合特性指標PAIRは、算出された個別特性指標のうち、最も大きな値として、以下のように算出された。
PAIR=Max(0.34,0.85,0.41,0.80,0.25)=0.85
となる。
眼鏡レンズaとbとを比較した場合(「aおよびb」)および眼鏡レンズaとcとを比較した場合(「aおよびc」)について、光学特性のそれぞれに対応した個別特性指標と、統合特性指標とを以下の表1に示した。
表1
光学特性(指標) aおよびb aおよびc
加入度(PAIR_add) 0.32 0.34
明視域の広さ(PAIR_range) 0.35 0.85
ゆがみ(PAIR_dis) 0.35 0.41
揺れ(PAIR_yure) 0.20 0.80
処方(PAIR_presc) 0.25 0.25
統合(PAIR) 0.35 0.85
図56は、実施例で算出された、眼鏡レンズaとbとの組合せ、および眼鏡レンズaとcとの組合せについての個別特性指標を表示する表示画像を示す図である。表示画像Di5は、レーダーチャートにより各個別特性指標の値を示している。図31と同一の情報を示す部分については、同一の符号で参照し適宜説明を省略する。図56のレーダーチャートでは外側にいくほど、個別特性指標が最も推奨される好ましい値である0に近づいていることを示す。
実施例における評価により、遠近両用の累進屈折力レンズである眼鏡レンズaと併用するための中近両用の累進屈折力レンズとしては、光学特性全体からは眼鏡レンズbの方が適していることがわかる。特に、眼鏡レンズbは、明視域の広さと揺れ特性において眼鏡レンズcよりもはるかに優れていることがわかる。よって、眼鏡レンズ販売店において眼鏡レンズbとcを比較したときは、眼鏡レンズbを眼鏡レンズaと併用する眼鏡レンズとして推奨して販売することができる。また、ここでの各指標の値は、眼鏡レンズaとbの設計データを保持している眼鏡レンズ製造業者が、眼鏡レンズaと組み合わせて併用する場合の眼鏡レンズbの推奨の度合を定量的に判定した結果、全ての項目で標準値(0.5)を上回る推奨度合であると判定した結果である。眼鏡レンズ販売店の販売員は、この結果を装用者Wに対して、製造業者が標準以上の推奨度合と判定した製品であると通知して、販売を勧めることができる。
なお、眼鏡レンズcが眼鏡レンズbに比べて非常に安価である等、ここでの評価に含まれない理由で優れている場合で、かつ/または、装用者Wが、明視域の広さと揺れ特性についてあまり優先的に機能を欲しない場合等には、適宜眼鏡レンズcの購入を勧めてもよい。
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。