JP6933882B2 - オイルオフ低減作用を有する組成物および可塑性油脂組成物 - Google Patents

オイルオフ低減作用を有する組成物および可塑性油脂組成物 Download PDF

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Description

本発明は、オイルオフ低減作用を有する組成物、及びこの組成物を含む可塑性油脂組成物に関する。
パンに塗る、料理に使用する、等の用途で用いられる可塑性油脂組成物は通常冷蔵で保存されるが、購入時に店舗から持ち帰る際や、家庭での利用の際には、可塑性油脂組成物の原料として用いられる一部の油脂の融点よりも高い温度の雰囲気下に一定時間晒される。
このような場合に固体状の可塑性油脂組成物の表面に目視可能な液状物が発生する現象であるオイルオフが生じることがある。このため、可塑性油脂組成物は、可塑性油脂組成物の原料として用いられる一部の油脂の融点よりも高い温度の雰囲気下においても、オイルオフが生じないことが品質上要求される。
従来、可塑性油脂組成物には、動物性、又は植物性の油脂を水素添加処理して得られる部分水素添加油脂が利用されてきた。部分水素添加油脂は、油脂の不飽和脂肪酸残基の炭素間の二重結合に水素を付加することにより、二重結合を減らし、飽和脂肪酸残基の割合を高めることによって融点を上昇させた固体又は半固体状の油脂である。
部分水素添加油脂の製造工程中で不飽和脂肪酸残基にトランス異性体(以下、トランス脂肪酸)が生成する。アメリカ食品医薬品局が「不飽和脂肪酸であって、トランス配位である非共役二重結合を1つ以上持つ物質」と定義しているトランス脂肪酸を脂肪酸残基として有する油脂は、一般にシス配位体を脂肪酸残基として有する油脂よりも融点が高く、β’型の結晶多形を維持することが知られている。
不飽和脂肪酸残基と上記した特性を持つトランス脂肪酸残基を含む部分水素添加油脂は、水素添加の程度により融点を自由に調節でき、また、高温や常温下における部分的な液状化の低減ができるため、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等に広く使用されている。
一方で、近年、トランス脂肪酸残基を含む油脂の摂取による健康被害が懸念されている。トランス脂肪酸残基を含む油脂の過剰摂取は、心筋梗塞などの冠動脈心疾患の危険因子となることから、多くの国がトランス脂肪酸の表示規制とトランス脂肪酸残基を多く含む部分水素添加油脂の使用規制を設けている。
アメリカにおいては、アメリカ食品医薬品局が部分水素添加油脂を、一般に安全と認められる指標であるGRAS(Generally Recognized As Safe)対象から除外することを決定している(2015年6月)。
また、油脂中の飽和脂肪酸残基も、その過剰摂取により冠動脈心疾患のリスクを高めることが指摘されている。
このように、部分水素添加油脂は可塑性油脂組成物に所望の物性を付与できる一方、健康被害への関与が指摘されていることから、部分水素添加油脂の代替原料を用いて、油脂中のトランス脂肪酸残基、あるいはトランス脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基を低減しつつ、可塑性油脂組成物に所望の物性を付与する取り組みがなされている。
特許文献1には、高融点油脂の使用量を調整し、さらにポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するトランス脂肪酸を低減したマーガリン及びショートニングが開示されている。
特許文献2には、油脂原料としてトランス脂肪酸残基を実質的に有さない油脂のみを用い、ジエステル体を50質量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルを添加した可塑性油脂組成物が開示されている。
特許文献3には、異なる融点の油脂原料を用い、液状の高融点油脂原料に冷却した液状の低融点油脂原料を混合することで得られるトランス脂肪酸残基を含まない可塑性油脂組成物の製造方法が開示されている。
特許文献1と2では、油脂中のトランス脂肪酸残基は低減されているが、飽和脂肪酸残基については考慮されていない。例えば、特許文献2のジエステル体を50質量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルを添加した可塑性油脂組成物は、使用する油脂の飽和脂肪酸含量が低い場合は常温保存下でオイルオフが発生する。
特許文献3ではトランス脂肪酸残基も飽和脂肪酸残基も低減化されているが、飽和脂肪酸残基はなお一定量含まれており、さらなる低減化の余地がある。
上記したように、トランス脂肪酸残基、及び飽和脂肪酸残基をともに低減した場合であってもオイルオフを生じない可塑性油脂組成物とその簡便な製造方法は開示されていない。
その理由は以下が一因と考えられる。すなわち、トランス脂肪酸残基、飽和脂肪酸残基が少ない油脂は、融点の低い不飽和脂肪酸残基を多く含む油脂の占める割合が高くなる。このような構成の油脂を原料とする可塑性油脂組成物は、製造時の冷却工程で飽和脂肪酸残基、トランス脂肪酸残基を含む油脂が優先的に結晶化され、不飽和脂肪酸残基の多い油脂が飽和脂肪酸残基、トランス脂肪酸残基を含む油脂に全て抱き込まれない状態で固化する。さらに、可塑性油脂組成物の冷却保存中に飽和脂肪酸残基、トランス脂肪酸残基を含む油脂の収斂が生じる。このような可塑性油脂組成物が、不飽和脂肪酸残基の多い油脂の融点よりも高い温度の雰囲気下に晒されると、抱き込まれなかった不飽和脂肪酸残基の多い油脂が液状化し、分離することでオイルオフが生じる。
特開2008−125358号公報 特開2007−89527号公報 特開2010−106170号公報
可塑性油脂組成物の原材料として使用する油脂の飽和脂肪酸及びトランス脂肪酸の含有量を低減した場合であっても、可塑性油脂組成物のオイルオフの低減が可能な組成物、及びこの組成物を含む可塑性油脂組成物、並びにその製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明には以下の構成が含まれる。
(1)飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、を含むことを特徴とするオイルオフ低減作用を有する組成物。
(2)さらに飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含むことを特徴とする上記(1)記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(3)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基のうち、ステアリン酸が50mol%以上であることを特徴とする上記(1)又は上記(2)記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(4)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルの脂肪酸残基が、グリセリン骨格の1、3−位に結合したものであることを特徴とする上記(1)から上記(3)のいずれか1項に記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(5)前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸残基のうち、ステアリン酸残基が50mol%以上、かつステアリン酸残基とパルミチン酸残基で90mol%以上となることを特徴とする上記(1)から上記(4)のいずれか一つに記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(6)前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルのショ糖残基のヒドロキシル基に結合した脂肪酸残基の平均結合数が2から8であることを特徴とする上記(1)から上記(5)のいずれか一つに記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(7)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の重量比が、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1とした時、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルが0.5以上7.5以下であることを特徴とする上記(1)から上記(6)のいずれか一つに記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(8)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、の重量比が、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1とした時、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルが0.055以上1以下であることを特徴とする上記(2)から上記(7)のいずれか一つに記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(9)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の合計が50重量%以上となることを特徴とする上記(1)から上記(8)のいずれか一つに記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(10)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の合計が70重量%以上となることを特徴とする上記(1)から上記(8)のいずれか一つに記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(11)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の合計が50重量%以上となることを特徴とする上記(2)から上記(8)のいずれか一つに記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(12)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の合計が70重量%以上となることを特徴とする上記(2)から上記(8)のいずれか一つに記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
(13)飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、を混合することを特徴とするオイルオフ低減作用を有する組成物の製造方法。
(14)さらに飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを混合することを特徴とする上記(13)記載のオイルオフ低減作用を有する組成物の製造方法。
(15)飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、を含むことを特徴とする可塑性油脂組成物。
(16)さらに飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含むことを特徴とする上記(15)記載の可塑性油脂組成物。
(17)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基のうち、ステアリン酸が50mol%以上であることを特徴とする上記(15)又は上記(16)記載の可塑性油脂組成物。
(18)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルの脂肪酸残基が、グリセリン骨格の1、3−位に結合したものであることを特徴とする上記(15)から上記(17)のいずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
(19)前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸残基のうち、ステアリン酸残基が50mol%以上、かつステアリン酸残基とパルミチン酸残基で90mol%以上となることを特徴とする上記(15)から上記(18)のいずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
(20)前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルのショ糖残基のヒドロキシル基に結合した脂肪酸残基の平均結合数が2から8であることを特徴とする上記(15)から上記(19)のいずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
(21)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の重量比が、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1とした時、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルが0.5以上7.5以下であることを特徴とする上記(15)から上記(20)のいずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
(22)前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、の重量比が、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1とした時、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルが0.055以上1以下であることを特徴とする上記(16)から上記(21)のいずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
(23)飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を実質的に含まないことを特徴とする上記(15)から上記(22)のいずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
(24)上記(1)から上記(12)のいずれか一つに記載のオイルオフ低減作用を有する組成物の添加量が0.3重量%以上17.2重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。
(25)可塑性油脂組成物がマーガリン又はショートニングであることを特徴とする上記(15)から上記(24)のいずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
(26)上記(1)から上記(12)のいずれか一つ記載のオイルオフ低減作用を有する組成物と飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を実質的に含まない油脂を混合する混合工程と、前記混合工程で得られたオイルオフ低減作用を有する組成物と油脂の混合物と水とを乳化する工程と、前記乳化する工程で得られる乳化物を急速冷却する工程と、混練工程と、を含むことを特徴とする可塑性油脂組成物の製造方法。
本発明は、可塑性油脂組成物の原材料として使用する油脂の飽和脂肪酸及びトランス脂肪酸の含有量を低減した場合であっても、可塑性油脂組成物のオイルオフの低減が可能な組成物、及びこの組成物を含む可塑性油脂組成物、並びにその製造方法を提供するものである。
本発明のオイルオフ低減作用を有する組成物と可塑性油脂組成物について詳細に説明する。
オイルオフ低減作用を有する組成物について説明する。
オイルオフ低減作用を有する組成物は、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、を含むものである。
また、さらにこれらに加えて飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含むものを用いることができる。
オイルオフ低減作用を有する組成物に用いる飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸結合型モノグリセリドジ脂肪酸を構成する脂肪酸残基のうち、ステアリン酸含量が50mol%以上のものであれば、どのようなものでも用いることができるが、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルに結合する飽和脂肪酸残基が、グリセリン骨格の1、3−位に結合したものがより好ましい。
オイルオフ低減作用を有する組成物に用いる飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基中、ステアリン酸残基が50mol%以上、かつステアリン酸残基とパルミチン酸残基で90mol%以上であるものであれば、どのようなものでも用いることができる。また、ショ糖残基のヒドロキシル基に結合した脂肪酸残基の平均結合数が2から8ものを用いることができる。
オイルオフ低減作用を有する組成物に用いる飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸結合型モノグリセリドモノ脂肪酸を構成する脂肪酸残基が飽和脂肪酸であれば、どのようなものでも用いることができる。
オイルオフ低減作用を有する組成物中における飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の質量比は飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1とした時、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルが0.5以上7.5以下であればよい。
また、オイルオフ低減作用を有する組成物に用いる飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、の質量比は飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1としたとき、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルは0.055以上1.0以下であればよい。
オイルオフ低減作用を有する組成物は、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル以外に、不飽和蒸留モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン脂質等の乳化剤、ソルビタン脂肪酸エステル等の結晶調整剤、ビタミンE、ビタミンC誘導体、茶抽出物等の抗酸化剤、カロテン、カラメル、紅麹色素等の着色料、及び香料等を配合することができる。
オイルオフ低減作用を有する組成物中における飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルの合計量は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。
同様に、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含む場合も、3成分の合計量は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。
本発明のオイルオフ低減作用を有する組成物は、上記したオイルオフ低減作用を有する組成物を構成する成分が全て粉末、あるいは顆粒状のものであれば固体のまま混合したものをそのまま用いることができる。液状のものを含む場合は、混合しペースト状としたものを用いることができる。
本発明のオイルオフ低減作用を有する組成物は、可塑性油脂組成物を製造する際には加温した油脂原料に添加し攪拌するだけでよいため、特別な設備を要することなく、一般的な可塑性油脂組成物の製造設備で用いることができる。
オイルオフ低減作用を有する組成物の添加量は、可塑性油脂組成物中に飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルが0.2重量%以上1.0重量%以下、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルが0.1重量%以上7.5重量%以下となるように適宜調整すればよい。
さらに、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含む場合には、これを可塑性油脂組成物中に0.055重量%以上1.0重量%以下となるように適宜調整すればよい。
次に可塑性油脂組成物について説明する。
可塑性組成物の原材料について説明する。
本発明の可塑性油脂組成物に用いる油脂は、得られる可塑性油脂組成物においてトランス脂肪酸残基と飽和脂肪酸残基を実質的に含まないようにできるものであれば特に制限はない。
ここで「実質的に含まない」とは、トランス脂肪酸では可塑性油脂組成物100g中3.5g以下の場合のことであり、飽和脂肪酸では可塑性油脂組成物100g中1.5g以下であり、かつ可塑性油脂組成物油脂の構成脂肪酸残基に占める飽和脂肪酸残基の割合が15重量%以下であることをいう。
油脂の例としては、大豆油、コーン油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、キャノーラ油、米ぬか油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、菜種油、菜種白絞油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、綿花油、綿実油、落花生油、しそ油、ゴマ油、エゴマ油、ベニバナ油、高オレイン酸ベニバナ油、ぶどう種子油、ピーナッツ油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、かぼちゃ種子油、亜麻仁油、クルミ油、椿油、茶実油、カラシ油、米油、小麦麦芽油等、あるいはこれらの部分水素添加油、エステル交換油、分別油等を挙げることができ、これらから1種類以上が選択される。選択された油脂は可塑性油脂組成物の油分が20重量%〜85重量%となるように配合する。
本発明の可塑性油脂組成物に用いるオイルオフ低減作用を有する組成物の組成と添加量は(0026)段落に記載したとおり、可塑性油脂組成物中に飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルが0.2重量%以上1.0重量%以下、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルが0.1重量%以上7.5重量%以下となるように適宜調整すればよい。
さらに、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含む場合には、これを可塑性油脂組成物中に0.055重量%以上1.0重量%以下となるように適宜調整すればよい。
オイルオフ低減作用を有する組成物の添加量は、上記(0030)段落に記載した条件を満たしていればよく、可塑性油脂組成物に対してオイルオフ低減作用を有する組成物を0.3〜17.2重量%添加することができる。
さらに、必要に応じて、上記(0022)段落で記載した以外の原材料を添加することが出来る。それらは、水、脱脂粉乳、食塩、塩化カリウム、酸味料、甘味料、pH調整剤等が例示される。
次に可塑性油脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の可塑性油脂組成物は、原材料の油脂を40〜85℃に加温し、ここにオイルオフ低減作用を有する組成物を添加溶解して油相を調製する。必要に応じて、油相にグリセリン脂肪酸エステルやソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤や、βカロテン等の色素、油溶性ビタミンを添加することできる。
約40〜60℃の温湯に食塩、脱脂粉乳等の乳製品を添加溶解して水相を調製する。
油相に水相を撹拌しながら一定速度で添加して乳化物を調製する。この時の油相の攪拌速度と水相の添加速度は可塑性油脂組成物の油分の量に応じて、均一な乳化物ができるよう適宜調整することができる。
この乳化物に、必要に応じて、香料を添加し、50℃に維持した乳化物をコンビネーター、パーフェクター等の密閉型連続式掻き取りチューブ式冷却機により10℃まで急冷捏和して結晶化する。結晶化した乳化物をピンマシン等で混練することにより可塑性油脂組成物が得られる。可塑性油脂組成物としてはマーガリン、スプレッド等が例示できる。
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
菜種白絞油53.7重量%(飽和脂肪酸比率7%、トランス脂肪酸比率2%)、大豆硬化油4.5重量%(融点40℃、飽和脂肪酸比率26%、トランス脂肪酸比率44%)、精製パーム油5.2重量%(飽和脂肪酸比率48%、トランス脂肪酸比率1%)を混合し、可塑性油脂組成物100gあたり、トランス脂肪酸を2.8g以下、飽和脂肪酸を15g以下とした原料油脂を調製した。
この原料油脂63.4kgに、表1のとおりオイルオフ低減作用を有する組成物を添加し、50℃に加温・攪拌することにより油相を調製し、実施例品1〜4とした。実施例品1〜4のオイルオフ低減作用を有する組成物の添加量はそれぞれ重量%で2.00 、1.76、1.56、及び2.06であった。
ここで、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルは、構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸が60mol%で、グリセリン骨格の1,3−位に結合したものが80重量%であるものを用いた。
飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルは、構成する脂肪酸の30mol%がパルミチン酸、70mol%がステアリン酸、かつショ糖残基のヒドロキシル基に結合した脂肪酸の平均結合数が4.75のものを用いた。
飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルは、構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸が50mol%であるものを用いた。
また、表1に記載の配合で比較例品1〜5を調製した。比較例に配合したステアリン酸結合型ポリグリセリン脂肪酸エステルは、構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸含量が60mol%、グリセリンの平均重合数が10、かつグリセリンのヒドロキシル基に結合した脂肪酸の平均結合数が10のものを用いた。
ステアリン酸結合型ショ糖脂肪酸エステルは、構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸含量が70mol%、かつショ糖残基のヒドロキシル基に結合した脂肪酸の平均結合数が6のものを用いた。
パルミチン酸ショ糖脂肪酸エステルは、構成する脂肪酸のうち、パルミチン酸含量が80mol%、かつショ糖残基のヒドロキシル基に結合した脂肪酸の平均結合数が5のものを用いた。
表1に示す量の水に1.0重量%の脱脂粉乳と1.0重量%の食塩を添加し、50℃に加温・攪拌することにより水相を調製した。
140rpmで攪拌した油層に、20L/分で水相を添加し乳化物を得た。
得られた乳化物を50℃に維持し、密閉型連続式掻き取りチューブ式冷却機にて10℃まで急冷捏和し、さらに10℃に保持したままピンマシンで混練した。得られた可塑性油脂組成物160gをプラスチック容器に充填し、蓋をした後、10℃で保存した。
得られた可塑性油脂組成物のトランス脂肪酸含量は、いずれも0.29g/10g・可塑性油脂組成物、油脂の構成脂肪酸に占める飽和脂肪酸は14%であった。
(試験例1)
<オイルオフ評価試験>
調製した可塑性油脂組成物を15℃で静置保存し、24時間後にプラスチック容器に充填した可塑製油組成物表面のオイルオフを評価した。オイルオフはプラスチック容器の側面に沿って発生した液状油の容器側面からの距離を計測することで評価した。
液状油が確認されない場合は「なし」、プラスチック容器の側面から0.5mm未満の場合は「〜0.5mm」、0.5mm以上1mm未満の場合は「〜1mm」、1mm以上2mm未満の場合は「〜2mm」、プラスチック容器の側面から2mm以上の場合は「2mm〜」とした。
これらの評価基準を元に、オイルオフの発生の程度別に容器の個数を計上した。各水準における油脂の染み出しの程度については、以下のとおり求めた。
各水準における油脂の染み出しの程度(%)
=油脂の染み出したサンプルの個数/各水準全体のサンプルの個数
各水準におけるオイルオフの評価結果について表2に示す。
(試験例2)
<ヒートショック耐性試験>
実施例1で調製した可塑性油脂組成物を2週間10℃で静置させた。静置後の1つの試料を1つの外箱(紙カートン)に入れ、これを高温で保持した際の油脂の染み出しの程度を評価した。
温度帯は30℃とし、1時間間隔で3回、外箱とプラスチック容器を開け、容器の淵に染み出た液状油の量を確認した。
評価は、0.5g/10gのトランス脂肪酸と、油脂の構成脂肪酸に占める飽和脂肪酸が14.9%である可塑性油脂組成物を基準品として、各水準のヒートショック耐性が基準品と同等以上の場合は「良好」、同等未満の場合は「悪化」とした。ヒートショック耐性の結果を表3に示す。
実施例品1〜4は、試料の70%以上がオイルオフの程度が「なし」と「〜0.5mm」に計上されておりオイルオフは少なかった。また、ヒートショック耐性も良好であった。
一方、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを含まない比較例品1〜4は、ヒートショック耐性及びオイルオフの程度が悪化した。
一方、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを含むものの、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルを含まない比較例品5は、オイルオフの程度は実施例品1〜4と同様であったが、ヒートショック耐性が悪化した。
このように、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルを同時に所定量加えた場合、及び飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルを同時に所定量加えた場合に、飽和脂肪酸及びトランス脂肪酸の少ない油脂を使用したにも関わらず、オイルオフが低減され、ヒートショック耐性が付与された可塑性油脂乳化組成物の調製が可能となることが明らかとなった。

Figure 0006933882
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Claims (22)

  1. 飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、を含み、
    前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の重量比が、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1とした時、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルが0.5以上7.5以下であり、
    前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基のうち、ステアリン酸が50mol%以上であることを特徴とするオイルオフ低減作用を有する組成物。
  2. さらに飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含むことを特徴とする請求項1記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
  3. 前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルの脂肪酸残基が、グリセリン骨格の1、3−位に結合したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
  4. 前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸残基のうち、ステアリン酸残基が50mol%以上、かつステアリン酸残基とパルミチン酸残基で90mol%以上となることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
  5. 前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルのショ糖残基のヒドロキシル基に結合した脂肪酸残基の平均結合数が2から8であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
  6. 前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、の重量比が、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1とした時、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルが0.055以上1以下であることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のオイルオフ低減作用を有する組成物。
  7. 飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、を含み、
    前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の合計が50重量%以上となることを特徴とするオイルオフ低減作用を有する組成物。
  8. 飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、を含み、
    前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の合計が70重量%以上となることを特徴とするオイルオフ低減作用を有する組成物
  9. 飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含み、
    前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の合計が50重量%以上となることを特徴とするオイルオフ低減作用を有する組成物。
  10. 飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含み、
    前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の合計が70重量%以上となることを特徴とするオイルオフ低減作用を有する組成物。
  11. 飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、を
    前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の重量比が、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1とした時、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルが0.5以上7.5以下であって、
    前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基のうち、ステアリン酸が50mol%以上で混合することを特徴とするオイルオフ低減作用を有する組成物の製造方法。
  12. さらに飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを混合することを特徴とする請求項11記載のオイルオフ低減作用を有する組成物の製造方法。
  13. 飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、を含み、
    前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルと、の重量比が、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1とした時、前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルが0.5以上7.5以下であって、
    前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基のうち、ステアリン酸が50mol%以上であることを特徴とする可塑性油脂組成物。
  14. さらに飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含むことを特徴とする請求項13記載の可塑性油脂組成物。
  15. 前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基のうち、ステアリン酸が50mol%以上であることを特徴とする請求項13又は請求項14記載の可塑性油脂組成物。
  16. 前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルの脂肪酸残基が、グリセリン骨格の1、3−位に結合したものであることを特徴とする請求項13から請求項15のいずれか1項に記載の可塑性油脂組成物。
  17. 前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸残基のうち、ステアリン酸残基が50mol%以上、かつステアリン酸残基とパルミチン酸残基で90mol%以上となることを特徴とする請求項13から請求項16のいずれか1項に記載の可塑性油脂組成物。
  18. 前記飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルのショ糖残基のヒドロキシル基に結合した脂肪酸残基の平均結合数が2から8であることを特徴とする請求項13から請求項17のいずれか1項に記載の可塑性油脂組成物。
  19. 前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルと、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと、の重量比が、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンジ脂肪酸エステルを1とした時、前記飽和脂肪酸結合型モノグリセリンモノ脂肪酸エステルが0.055以上1以下であることを特徴とする請求項14から請求項18のいずれか1項に記載の可塑性油脂組成物。
  20. 請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のオイルオフ低減作用を有する組成物の添加量が0.3重量%以上17.2重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。
  21. 可塑性油脂組成物がマーガリン又はショートニングであることを特徴とする請求項13から請求項20のいずれか1項に記載の可塑性油脂組成物。
  22. 請求項1から請求項10のいずれか1項記載のオイルオフ低減作用を有する組成物と飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を実質的に含まない油脂を混合する混合工程と、前記混合工程で得られたオイルオフ低減作用を有する組成物と油脂の混合物と水とを乳化する工程と、前記乳化する工程で得られる乳化物を急速冷却する工程と、混練工程と、を含むことを特徴とする可塑性油脂組成物の製造方法。
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