JP6933789B2 - 直熱真空管パワーアンプのハム雑音低減装置 - Google Patents
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Description
今日のオーディオ再生における音楽ソースは、1982年に登場したCD(コンパクトディスク)を始めとするデジタル音楽ソースが主流であり、そのダイナミックレンジ(最弱音と最強音の振幅比率)は90dBを超えている。300Bを使用した直熱管パワーアンプの最大出力を10W(8.94V/8Ω)とすると、90dBのダイナミックレンジの音楽ソースでは最弱音の電圧振幅は0.283mV/8Ωとなり、残留雑音はこの値以下でなければ正確な再生ができない。
図1(a)に示す直熱真空管は、フィラメントを平衡交流点火したときにフィラメント内部に仮想的に生じる振幅ゼロ点である仮想中点で分割された、図1(b)に示すA、B2本の直熱真空管の合成と等価である。
理想的な直熱真空管であれば図1(b)の直熱真空管A、Bの特性は完全に一致し、グリッド電圧に対するプレート電流の変換特性を表す相互コンダクタンス(gm)およびプレート電圧に対するプレート電流の変換特性を表す動的プレート抵抗(rp)は同一で、かつ直熱真空管A、Bのフィラメントに加わるフィラメント電圧は各1/2で逆位相となる。
直熱真空管の場合フィラメント電圧がグリッド電圧およびプレート電圧の基準電圧であるため、フィラメント電圧が交流の場合グリッド電圧およびプレート電圧にも交流成分が発生し、直熱真空管A、Bに加わるフィラメント電圧が各1/2で逆位相の場合、直熱真空管A、Bのプレート電圧およびグリッド電圧に発生する交流成分も各1/2で逆位相となる。
このとき直熱真空管A、Bのgmおよびrpが等しければ、直熱真空管A、Bのグリッド電圧およびプレート電圧の交流成分によってプレート電流に発生する交流成分も各1/2で逆位相となり、合成したプレート電流の交流成分は相殺される。
図1(b)の直熱真空管A、Bが理想的な直熱真空管の場合、(0005)で述べたように、直熱真空管A、Bのフィラメント電圧によって発生するプレート電流の交流成分は各1/2で逆位相となり、合成されたプレート電流では交流成分は打ち消される。
同様に、プレート電圧対プレート電流特性も非線形性を持っているため、二倍波ハム雑音を発生する。
この二倍波ハム雑音は従来技術であるハムバランサーでは低減できないため、直熱真空管300Bを使用しフィラメントを交流電源により点火する無帰還シングル構成パワーアンプでは、8Ωスピーカー端子で10mV程度の音楽聴取を妨げるレベルのハム雑音が発生する。
また、この方法ではフィラメントの各部位の電位が定常的に一定値であるために以下の問題を生じていた。
300B直熱真空管では、5Vの直流点火の場合フィラメント各点の電位分布の最大電位差は5Vでgmは6mSであるため、プレート電圧400V、プレート電流70mAの標準的な動作点状態において最大30mA相当のプレート電流密度の差がフィラメント内に定常的に発生する。これはフィラメントからの熱電子放出量の偏りを生じることであり、熱電子放出量の大きなフィラメントの部位の損耗(エミッション減小)が激しくなり、直熱真空管の寿命を短縮させてしまう。
フィラメントを交流電源によって点火する方法では、フィラメントの各部位の電位が交流電源により時間とともに変化し、その平均値は等しくなるため、フィラメントからの熱電子放出量の偏りを生じることはない。
また、ハム雑音打消し信号を注入点に注入したとき、そのハム雑音打消し信号によって打ち消しを行った結果のハム雑音信号が最小となるハム雑音打消し信号の遅延係数、レベル係数を求め記憶する。
この記憶した指数係数、インパルス応答係数、遅延係数、レベル係数と、逐次入力されるフィラメント電圧信号を逐次演算し、ハム雑音打消し信号を生成し出力する。
この実施形態ではハム雑音低減装置を、信号入力部であるAD変換器と、信号出力部であるDA変換機と、演算部である積和演算器を備えるDSPと、係数記憶部である不揮発性メモリを備えるマイコンとを備えたワンチップDSPマイコンで構成している。これにより、本発明の実施に係るデジタル信号処理をワンチップDSPマイコンの内部で完結させ、直熱真空管パワーアンプに対するハム雑音低減装置からの不要なデジタル雑音による音質劣化を防止することができる。
以下に、本発明の実施例について説明する。
フィラメント電圧信号を入力とし二倍波ハム雑音信号を出力とする系の伝達関数は非線形部と線形部を含み、この伝達関数は直熱真空管の型式により大きく異なる。また、同じ型式であっても直熱真空管の個体によるばらつき、およびパワーアンプを構成するその他の回路部品のばらつきによっても異なる。このため、精度の良い二倍波ハム雑音低減のためには、この伝達関数を直熱真空管パワーアンプの個体ごとに求めることが望ましい。
(0009)で述べたように、フィラメント電圧信号に対して非線形な二乗波ハム雑音信号が発生する原因は、直熱真空管のグリッド電圧(Vg)対プレート電流(Ip)の非線形性、およびプレート電圧(Vp)対プレート電流(Ip)の非線形性に起因し、その特性は数1で近似されることが非特許文献1により知られている。
指数係数による非線形部の演算に加え、線形部であるインパルス応答を直熱真空管パワーアンプの個体ごとに求め、その係数を記憶して演算することにより、精度良く近似された二倍波ハム雑音打消し信号を生成することができる。
フィラメント電圧信号に指数演算を実施した結果と二倍波ハム雑音信号にFFTを実施し周波数スペクトルを求める。求めた二倍波ハム雑音信号の周波数スペクトルをフィラメント電圧信号指数演算結果の周波数スペクトルで除算し伝達関数を求める。求めた伝達関数に逆FFTを実施しインパルス応答を求め、このインパルス応答係数を記憶する。
これらの係数は、二倍波ハム雑音打消し信号を注入点に注入したとき、その二倍波ハム雑音打消し信号によって打ち消しを行った結果の二倍波ハム雑音信号を最小とする二倍波ハム雑音打消し信号の遅延係数、レベル係数である。
二倍波ハム雑音打消し信号が、入力されるフィラメント電圧信号に対して全く遅延なく生成できれば遅延係数の演算は必要ないが、二倍波ハム雑音打消し信号の入力処理と演算処理には一定の処理時間を必要とするため、二倍波ハム雑音打消し信号を二倍波ハム雑音信号に同期させるためには、少なくとも入力されるフィラメント電圧信号に対し一周期遅延させる必要がある。
二倍波ハム雑音打消し信号の遅延係数は、演算処理のステップ数によって決まり個体差はないため、あらかじめ演算処理のステップ数により求めた遅延係数を記憶する。
二倍波ハム雑音打消し信号のレベル係数は、図5に示すように記憶されている指数係数、インパルス応答係数、遅延係数、レベル係数を用いて演算した二倍波ハム雑音打消し信号を注入点に注入し、その二倍波ハム雑音打消し信号によって打ち消しを行った結果の二倍波ハム雑音信号の周波数スペクトルに含まれる二次高調波レベルを測定し、この二次高調波レベルが最小になるようにレベル係数を更新し、求めたレベル係数を記憶する。
逐次入力されるフィラメント電圧信号に対し、記憶された係数を使用して逐次指数演算とインパルス応答係数の畳み込み演算と遅延演算とレベル演算を行い、二倍波ハム雑音打消し信号として出力する。
本発明のハム雑音低減装置の入力信号であるフィラメント電圧信号およびこの二倍波ハム雑音打消し信号出力の注入点は、音楽信号増幅経路とは異なるため音楽信号との相互干渉の発生がなく、ハム雑音低減装置による音質劣化を防止できる。
また後述する実施例2に示すように、従来のハムバランサー回路を使用せず、本発明のハム雑音低減装置で基本波ハム雑音と二倍波ハム雑音の両方を低減する場合には、ハム雑音打消し信号を巻線の中点タップが抵抗器を介してアースされたフィラメント電源用トランスの中点タップに注入することもできる。
本実施例では、逐次入力されるフィラメント電圧信号に対して逐次演算を行うため、電源電圧および電源波形の変動によりフィラメント電圧およびフィラメント電源波形が変動しても、変動に対応した二倍波ハム雑音打消し信号が逐次出力される。しかし、直熱真空管パワーアンプでは、グリッド直流電源およびプレート直流電源が定電圧化されていない場合が多く、電源電圧が変動した場合グリッド直流電源電圧およびプレート直流電源電圧が変動しパワーアンプのゲインが変動するため、記憶したレベル係数を使用して演算した二倍波ハム雑音打消し信号を注入したとき、打消しを行った結果の二倍波ハム雑音信号が最小値から変動する。
これを防止するため、プレート電流直流値の入力部と、レベル係数を記憶した時点のプレート電流直流値の初期値を記憶する記憶部を持ち、逐次入力されるプレート電流直流値と記憶したプレート電流直流値の初期値の差分によってレベル係数を演算して逐次更新することにより、二倍波ハム雑音打消し信号レベルを最良値に保持することができる。
フィラメント電圧信号とハム雑音信号にFFTを実施し周波数スペクトルを求める。ハム雑音信号周波数スペクトルの基本波は、(0006)で述べた基本波ハム雑音の基本波でありフィラメント電圧信号により発生しているので、ハム雑音信号周波数スペクトルの基本波レベルとフィラメント電圧信号周波数スペクトルの基本波レベルが一致するようにフィラメント電圧信号周波数スペクトルのレベルを較正し、ハム雑音信号周波数スペクトルからフィラメント電圧信号周波数スペクトルを減算することにより、ハム雑音信号周波数スペクトルから基本波ハム雑音成分を除去する。
この基本波ハム雑音を除去したハム雑音信号は、二倍波ハム雑音信号と等値となる。
基本波ハム雑音打消し信号の遅延値は演算処理のステップ数によって決まり個体差はないため、あらかじめ演算処理のステップ数により求めた遅延係数を記憶する。二倍波ハム雑音打消し信号の遅延係数は(0024)と同様に、あらかじめ求めた遅延係数を記憶する。
二倍波ハム雑音打消し信号のレベル係数は、(0025)と同様に個体ごとにレベル係数を求め記憶する。
基本波ハム雑音打消し信号のレベル係数は、記憶されている遅延係数とレベル係数を用いて演算した基本波ハム雑音打消し信号を注入点に注入し、その基本波ハム雑音打消し信号によって打ち消しを行った結果のハム雑音信号の周波数スペクトルに含まれる基本波レベルを測定し、この基本波レベルが最小になるようにレベル係数を更新し、求めたレベル係数を記憶する。
逐次入力されるフィラメント電圧信号に対し、記憶された基本波ハム雑音打消し信号の係数を使用して遅延演算とレベル演算を行い、基本波ハム雑音打消し信号とする。また、逐次入力されるフィラメント電圧信号に対し、記憶された二倍波ハム雑音打消し信号の係数を使用して指数演算とインパルス応答係数の畳み込み演算と遅延演算とレベル演算を行い、二倍波ハム雑音打消し信号とする。
この基本波ハム雑音打消し信号と二倍波ハム雑音打消し信号を加算して、基本波ハム雑音信号と二倍波ハム雑音信号が混合された信号の打消し信号として出力する。
さらに電源電圧や電源波形の変動により、フィラメント電圧やフィラメント電源波形が変動しハム雑音レベルが変動しても、逐次変動に適応したハム雑音打消しを行うことが可能となり、オーディオ愛好家が待望していた直熱真空管のフィラメントを交流電源により点火する無帰還シングル構成パワーアンプの商業レベルでの製品化が可能となる。
Claims (6)
- 直熱真空管を使用した音声増幅部を持ち、該直熱真空管のフィラメントを交流電源によ
り点火するパワーアンプの音声出力に発生するハム雑音を、音声増幅部にハム雑音打消し
信号を注入することにより低減するハム雑音低減装置であって、該直熱真空管のフィラメ
ント交流電源からの電圧信号を入力するフィラメント電圧信号入力部と、パワーアンプの
音声出力に発生するハム雑音信号を入力するハム雑音信号入力部と、該直熱真空管のプレ
ート電圧対プレート電流の非線形性に基づく指数係数値と、音声増幅部のフィラメント電
圧信号の指数演算結果を入力としハム雑音信号を出力とする系のインパルス応答に基づく
インパルス応答係数値と、演算処理による遅延を補正する遅延係数値と、ハム雑音を最小
とするハム雑音打消し信号のレベル係数値を記憶する係数記憶部と、指数演算とインパル
ス応答畳み込み演算と遅延演算とレベル演算を演算する演算部を備え、逐次入力されるフ
ィラメント電圧信号に対し、係数記憶部に記憶された係数値を使用して、演算部において
指数演算とインパルス応答畳み込み演算と遅延演算とレベル演算を演算した信号をハム雑
音打消し信号とするハム雑音低減装置。 - 請求項1の装置において、ハム雑音打消し信号を該直熱真空管のフィラメントの両端と
アース間にスター接続された抵抗器の共通接続点に注入するハム低減装置。 - 請求項1の装置において、ハム雑音打消し信号を巻線の中点タップが抵抗器を介し
てアースされたフィラメント電源用トランスの該中点タップに注入するハム低減装置。 - 請求項1の装置において、プレート電流直流値の入力部と、プレート電流直流値初期値
の記憶部と、レベル係数更新演算を行う演算部を持ち、プレート電流直流値の現在値と初
期値の差分に対応してレベル係数を更新するハム雑音低減装置。 - 請求項1の装置において、フィラメント駆動電源に低域通過フィルタを備えるハム雑音
低減装置。 - 請求項1の装置において、音声増幅部のフィラメント電圧信号の指数演算結果を入力と
しハム雑音信号を出力とする系のインパルス応答係数を求める演算を実行する期間、音声
増幅部の入力をミュートするハム雑音低減装置。
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