JP6933070B2 - 製品の特性の予測装置、方法、及びプログラム、並びに製造プロセスの制御システム - Google Patents
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Description
しかしながら、製造プロセスの挙動を正確に説明する物理モデルの構築は困難であることが多い。例えば鋼材の塑性加工においては、所望の形状や機械特性を得るため、鋼材の温度を制御しながら加工する必要がある。しかしながら、鋼材の内部まで含めた温度を測定する手法はなく、計算で推定する場合、材料の変形に伴い発生する熱の単位量が必要であるが、これまでの知見ではこの効率値を導出する手法は確立していない。また、例えば鋼板の熱間圧延工程の下流では加速冷却を行い、所定の温度まで鋼板を冷却することで製品に必要な機械特性を得る。この冷却温度の計算に必要な熱伝達率は、冷却水の鋼板への接し方や鋼板の表面性状によって異なるが、冷却水の状態を測定する手法はなく、また、表面性状が熱伝達率に与える影響の定量的な解明は未だなされていないため、高精度な物理モデルの構築は困難である。
特許文献1には、プロセス制御の操作量プリセット方法として、対象プロセスを表す数式モデルの入・出力値、および出力値と対象プロセスの実績値との誤差を収集するデータ収集ステップと、複数のデータを逐次蓄積するデータ蓄積ステップと、制御しようとする操業条件に対応した入力値と類似した入力値を有するデータを蓄積したデータ群から抽出したデータを用いて、前記数式モデルの出力誤差を予測する数式モデル誤差予測ステップと、前記数式モデルの出力誤差を加算あるいは乗算して、制御量の予測値とする制御量予測ステップと、前記制御量の予測値が所望の制御量と一致するように操作量を決定する操作量決定ステップとを有することが開示されている。
しかしながら、実際には製造プロセスにおける物理現象が正確に把握できず、物理モデルf(x)が必ずしも高精度であるといえない場合がある。この場合でも、一律に物理モデルf(x)の係数を1にすると、製品の特性の予測精度が低下してしまう。また、適当な物理モデルが存在しない(もしくは、物理モデルが全く当たらない)製造プロセスに対しては、式(5)のように物理モデルf(x)の係数を0として、回帰モデルg(x)だけで予測値を計算した方が、予測精度が高い場合もある。
[1] 製造プロセスで製造する製品の特性を予測する製品の特性の予測装置であって、
前記製造プロセスにおける物理現象を数式で表現した物理モデルを用いて、新たに製造する対象製品の特性の予測値である計算値を、前記対象製品の製造条件に基づいて計算する物理モデル計算手段と、
前記対象製品の製造条件と、前記計算値とを説明変数とし、前記対象製品の特性を予測する回帰モデルを用いて、前記対象製品の特性の予測値を計算する回帰計算手段と、
前記回帰モデルを前記製造プロセスの実績データに基づいて生成する回帰モデル生成手段とを備え、
前記回帰モデル生成手段は、前記物理モデルの予測精度に応じて前記物理モデルに対する重みに相当する回帰係数を調整した前記回帰モデルを生成することを特徴とする製品の特性の予測装置。
[2] 前記回帰モデル生成手段は、前記実績データに含まれる前記製造プロセスの実績値と前記回帰モデルの予測値との誤差を含む評価関数に基づいて、前記回帰モデルを生成することを特徴とする[1]に記載の製品の特性の予測装置。
[3] 前記回帰モデル生成手段は、予め設定された確率密度関数から計算される前記実績データに含まれる実績値の尤度を含む評価関数に基づいて、前記回帰モデルを生成することを特徴とする[1]に記載の製品の特性の予測装置。
[4] 前記評価関数は、さらに前記回帰モデルの回帰係数の大きさに所定の重みを乗じた項を含むことを特徴とする[2]又は[3]に記載の製品の特性の予測装置。
[5] 製品の特性の上限値及び下限値のうち少なくともいずれか一方を設定し、前記回帰モデルの予測値が前記上限値又は前記下限値の範囲外となった場合、前記回帰モデルの予測値を前記上限値又は前記下限値に制限することを特徴とする[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の製品の特性の予測装置。
[6] 前記回帰モデル生成手段は、前記実績データから、製造条件空間内の距離に基づいて抽出された、前記対象製品の製造条件と類似する類似データに基づいて前記回帰モデルを生成することを特徴とする[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の製品の特性の予測装置。
[7] 前記回帰モデルは線形重回帰モデルであることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の製品の特性の予測装置。
[8] [1]乃至[7]のいずれか一つに記載の製品の特性の予測装置の前記回帰計算手段で計算した予測値が、前記対象製品の特性の目標値目標値と一致するように前記製造プロセスの操作量を決定するセットアップ制御を行うことを特徴とする製造プロセスの制御システム。
[9] 製造プロセスで製造する製品の特性を予測する製品の特性の予測方法であって、
前記製造プロセスにおける物理現象を数式で表現した物理モデルを用いて、新たに製造する対象製品の特性の予測値である計算値を、前記対象製品の製造条件に基づいて計算する物理モデル計算ステップと、
前記対象製品の製造条件と、前記計算値とを説明変数とし、前記対象製品の特性を予測する回帰モデルを用いて、前記対象製品の特性の予測値を計算する回帰計算ステップとを有し、
前記回帰計算ステップの前段に、前記回帰モデルを前記製造プロセスの実績データに基づいて生成する回帰モデル生成ステップを有し、
前記回帰モデル生成ステップでは、前記物理モデルの予測精度に応じて前記物理モデルに対する重みに相当する回帰係数を調整した前記回帰モデルを生成することを特徴とする製品の特性の予測方法。
[10] 製造プロセスで製造する製品の特性を予測するためのプログラムであって、
前記製造プロセスにおける物理現象を数式で表現した物理モデルを用いて、新たに製造する対象製品の特性の予測値である計算値を、前記対象製品の製造条件に基づいて計算する物理モデル計算手段と、
前記対象製品の製造条件と、前記計算値とを説明変数とし、前記対象製品の特性を予測する回帰モデルを用いて、前記対象製品の特性の予測値を計算する回帰計算手段と、
前記回帰モデルを前記製造プロセスの実績データに基づいて生成する回帰モデル生成手段としてコンピュータを機能させ、
前記回帰モデル生成手段は、前記物理モデルの予測精度に応じて前記物理モデルに対する重みに相当する回帰係数を調整した前記回帰モデルを生成することを特徴とするプログラム。
図1に、実施形態に係る製造プロセスの制御システムの構成例を示す。
製造プロセスの制御システムは、新たに製造する対象製品の製造条件が与えられると、物理モデルを用いて、対象製品の品質等の特性を予測し、対象製品に対する製造プロセス101の操作量を決定するセットアップ制御を行う。物理モデルは、製造プロセス101の挙動を物理的見地から説明し、物理現象を数式で表現する。
物理モデル計算部102aは、物理モデルを用いて、対象製品の特性の予測値である計算値y´pを、対象製品の製造条件に基づいて計算する。
回帰モデルは、製品の製造条件xと、その製造条件x下での物理モデルf(x)の計算値とを説明変数とし、式(6)のように表わされる。
回帰モデルが線形重回帰モデルである場合、式(6)は式(7)の形式になる。回帰係数b0,b1,b2,・・・,bm,bfは類似データに基づいて計算することができ、類似データに対する予測精度が高くなるように決定される。式(7)の一部をあらためて式(8)のように統計モデルg´(x)とすると、式(9)のように書き直され、物理モデルf(x)に回帰係数bfを乗じた値と統計モデルg´(x)とを足し合わせる形式の予測モデルが得られる。回帰係数bfは、物理モデルf(x)に対する重みといえる。回帰係数bfが1.0のとき、式(4)と同じく、物理モデルの計算値を統計モデルで補正して予測値y´を計算する回帰モデルとなる。また、回帰係数bfが0.0のときには、式(5)と同じく、物理モデルを用いずに、統計モデルだけで予測値y´を計算する回帰モデルとなる。
回帰モデルを生成する際には、式(10)のように、類似データに含まれる実績値ynと回帰モデルの予測値yn´との誤差の絶対値の合計を最小化する評価関数Jを設定して、回帰係数b0,b1,b2,・・・,bm,bfを計算する。なお、pは累乗数、n(n=1〜N)は類似データを表わす識別番号である。
そこで、回帰モデルが線形重回帰モデルである場合、式(11)のように、回帰係数b0,b1,b2,・・・,bm,bfの大きさを表わす項を評価関数Jに加え、物理モデルf(x)の回帰係数bfの重みwfを他の重みよりも小さい値に設定することで、物理モデルを積極的に使用する回帰モデルを生成することができる。なお、qは累乗数である。
また、回帰モデルがランダムフォレストのような決定木を使うモデルである場合、物理モデルの計算値で優先的に分岐することで、物理モデルを積極的に使用する回帰モデルを生成することができる。
この場合にも、式(11)と同様に、回帰係数b0,b1,b2,・・・,bm,bfの大きさを表わす項を加え、例えばwfを他の重みより大きい値に設定することにより、物理モデルを積極的に使用する回帰モデルを生成するようにしてもよい。
式(10)のように実績値ynと予測値yn´との誤差を評価関数Jとして使用する場合、誤差の発生確率が左右対称であることが前提となる。例えば予測値より10%高い実績値が発生する確率と、10%低い実績値が発生する確率とが等しいことが前提となる。多くの場合には、この前提で問題なく、式(10)の評価関数Jであれば、計算コストも少なくて済む。その一方で、誤差の発生確率が左右非対称の場合、式(10)の評価関数Jでは回帰モデルの予測精度が低くなってしまうため、誤差の発生確率に応じた非対称の確率密度関数を指定した方がよい。
また、セットアップ計算部102、データベース103、抽出部104、回帰モデル生成部105は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータにより実現される。
なお、図1に示す構成は一例に過ぎず、これに限定されるものではない。例えば図1ではセットアップ計算部102と回帰モデル生成部105とを別の構成要素として図示したが、回帰モデル生成部105がセットアップ計算部102に含まれるような構成としてもよい。
図2は、本発明を適用して特性値を予測する手法(実施例1と呼ぶ)での加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを比較した結果を示す。
一方、図4は、物理モデルを用いずに、統計モデル(線形の回帰モデル)だけで特性を予測する比較手法(式(5)の場合に相当、従来例1と呼ぶ)での加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを比較した結果を示す。また、図5は、物理モデルの計算値を統計モデルで補正して特性を予測する比較手法(式(4)の場合に相当、従来例2と呼ぶ)での加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを比較した結果を示す。
また、従来例1、従来例2では、図4、図5に示すように、予測値が実績値から大きく外れる点も散見されるが(例えば予測値1070℃、実績値1140℃付近の点等)、本発明を適用した実施例1では、図2に示すように、予測値が大きく外れることもなく、予測精度が向上している。
予測精度は4.758℃となり、実施例1と同等或いは若干劣り、散布図は図2とほとんど変わらないが、図6に示すように、予測値は物理モデルの計算値の50℃以内に制限され、利用者にとっては信頼性の高い予測モデルとなっている。なお、図6は、85,482本のデータ中、先頭から9,500〜10,000本のデータを示している。
本発明は、上記実施形態のように鋼材の塑性加工プロセスや鋼板の加速冷却プロセスに適用されるだけでなく、汎用的に適用可能であって、製造プロセスにより製造される製品の特性を予測するのに広く効果を有する。
また、本発明は、本発明の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。
102:セットアップ計算部
102a:物理モデル計算部
102b:回帰計算部
102c:操作量修正部
103:データベース
104:抽出部
105:回帰モデル生成部
Claims (10)
- 製造プロセスで製造する製品の特性を予測する製品の特性の予測装置であって、
前記製造プロセスにおける物理現象を数式で表現した物理モデルを用いて、新たに製造する対象製品の特性の予測値である計算値を、前記対象製品の製造条件に基づいて計算する物理モデル計算手段と、
前記対象製品の製造条件と、前記計算値とを説明変数とし、前記対象製品の特性を予測する回帰モデルを用いて、前記対象製品の特性の予測値を計算する回帰計算手段と、
前記回帰モデルを前記製造プロセスの実績データに基づいて生成する回帰モデル生成手段とを備え、
前記回帰モデル生成手段は、前記物理モデルの予測精度に応じて前記物理モデルに対する重みに相当する回帰係数を調整した前記回帰モデルを生成することを特徴とする製品の特性の予測装置。 - 前記回帰モデル生成手段は、前記実績データに含まれる前記製造プロセスの実績値と前記回帰モデルの予測値との誤差を含む評価関数に基づいて、前記回帰モデルを生成することを特徴とする請求項1に記載の製品の特性の予測装置。
- 前記回帰モデル生成手段は、予め設定された確率密度関数から計算される前記実績データに含まれる実績値の尤度を含む評価関数に基づいて、前記回帰モデルを生成することを特徴とする請求項1に記載の製品の特性の予測装置。
- 前記評価関数は、さらに前記回帰モデルの回帰係数の大きさに所定の重みを乗じた項を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の製品の特性の予測装置。
- 製品の特性の上限値及び下限値のうち少なくともいずれか一方を設定し、前記回帰モデルの予測値が前記上限値又は前記下限値の範囲外となった場合、前記回帰モデルの予測値を前記上限値又は前記下限値に制限することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製品の特性の予測装置。
- 前記回帰モデル生成手段は、前記実績データから、製造条件空間内の距離に基づいて抽出された、前記対象製品の製造条件と類似する類似データに基づいて前記回帰モデルを生成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製品の特性の予測装置。
- 前記回帰モデルは線形重回帰モデルであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製品の特性の予測装置。
- 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製品の特性の予測装置の前記回帰計算手段で計算した予測値が、前記対象製品の特性の目標値と一致するように前記製造プロセスの操作量を決定するセットアップ制御を行うことを特徴とする製造プロセスの制御システム。
- 製造プロセスで製造する製品の特性を予測する製品の特性の予測方法であって、
前記製造プロセスにおける物理現象を数式で表現した物理モデルを用いて、新たに製造する対象製品の特性の予測値である計算値を、前記対象製品の製造条件に基づいて計算する物理モデル計算ステップと、
前記対象製品の製造条件と、前記計算値とを説明変数とし、前記対象製品の特性を予測する回帰モデルを用いて、前記対象製品の特性の予測値を計算する回帰計算ステップとを有し、
前記回帰計算ステップの前段に、前記回帰モデルを前記製造プロセスの実績データに基づいて生成する回帰モデル生成ステップを有し、
前記回帰モデル生成ステップでは、前記物理モデルの予測精度に応じて前記物理モデルに対する重みに相当する回帰係数を調整した前記回帰モデルを生成することを特徴とする製品の特性の予測方法。 - 製造プロセスで製造する製品の特性を予測するためのプログラムであって、
前記製造プロセスにおける物理現象を数式で表現した物理モデルを用いて、新たに製造する対象製品の特性の予測値である計算値を、前記対象製品の製造条件に基づいて計算する物理モデル計算手段と、
前記対象製品の製造条件と、前記計算値とを説明変数とし、前記対象製品の特性を予測する回帰モデルを用いて、前記対象製品の特性の予測値を計算する回帰計算手段と、
前記回帰モデルを前記製造プロセスの実績データに基づいて生成する回帰モデル生成手段としてコンピュータを機能させ、
前記回帰モデル生成手段は、前記物理モデルの予測精度に応じて前記物理モデルに対する重みに相当する回帰係数を調整した前記回帰モデルを生成することを特徴とするプログラム。
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