本発明は、魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原、及び、Vibrio anguillarum(学名、以下、「V.anguillarum」とする。)由来の抗原、を有効成分として含有する、魚類のレンサ球菌症に対する経口ワクチン製剤、レンサ球菌症及びビブリオ病に対する経口混合ワクチン製剤、該感染症の予防方法などに関連する。
収穫量を増大でき、比較的安価に安定供給できる点などから、多くの魚類で養殖が広く普及している。一方、養殖の場合、天然魚と比較して、飼育密度が高く環境条件も悪化しやすいため、感染症が発生・伝播しやすい。それに対し、養殖魚の感染症に対する防除手段の一つとして、魚類におけるいくつかの感染症に対してはワクチン製剤が開発され、上市されている。
魚類のワクチン製剤の投与方法として、注射法、経口法、浸漬法などがある。
注射法は、魚類の腹部などに注射によりワクチン製剤を接種する方法である。注射法は、一般に有効性・持続性が高いため、最も広く採用されているが、作業に多大な時間・労力が必要で、一度に多くの魚を処理できない、魚に対しストレスを与えやすいなどの問題もある。
一方、経口法は、ワクチン製剤を飼料に混ぜて投与する方法である。経口法は、魚にストレスを与えず、かつ時間や労力をかけずに多くの魚にワクチンを投与できるが、胃を経由するため有効抗原が分解されやすく、また、消化管からの吸収により免疫を付与するため、一般的に効果が劣る傾向がある。加えて、経口法には、餌にしみ込ませるために多くのワクチン液が必要となるという問題もある。現在、日本において、承認されている海産魚用経口ワクチンは、Lactococcus garvieae(学名、以下、「L.garvieae」とする。)に対する単味ワクチンのみである。
その他、浸漬法は、飼育水中にワクチン製剤を添加し、そこに魚類を浸漬する方法である。浸漬法は、注射法に比べ魚にストレスを与えず、かつ時間や労力をかけずに多くの魚にワクチンを投与できる一方、経口法と比較しても効果が劣る傾向があり、また、経口法による場合よりもさらに多くのワクチン液が必要となるという問題がある。
魚類のレンサ球菌症は、特に養殖魚などにおいて、発生頻度が高く、経済的損失も大きい疾病の一つである。魚類のレンサ球菌症には、L.garvieaeを起因菌とするα溶血性レンサ球菌症、Streptococcus iniae(学名、以下、「S.iniae」とする。)を起因菌とするβ溶血性レンサ球菌症、Streptococcus dysgalactiae(学名、以下、「S. dysgalactiae」とする。)を起因菌とするC群レンサ球菌症(ストレプトコッカス・ディスガラクティエ感染症)などがある。
L.garvieaeを起因菌とするα溶血性レンサ球菌症は、ブリ・カンパチ・ヒラマサなどのブリ属魚類などに多く発生しており、マアジ・シマアジ・マダイ・チダイ・カワハギ・ウマズラハギ・マサバ・マグロ・メジナ・ヒラメなどの海産魚、ウナギ、ニジマスなどでも発症する。ブリ属魚類などにおいては、眼球白濁・突出、躯幹の変形、鰓蓋内側の発赤、心外膜炎、狂奔遊泳などの症状を示す。S.iniaeを起因菌とするβ溶血性レンサ球菌症は、サケ科魚類(アユ・ニジマス)・アマゴ・ヒラメ・マダイ・イシダイなどで発生しており、眼球周囲の出血、眼球突出、腹部発赤、点状出血、腹部膨満、尾柄部膿瘍、肛門の拡張腹水貯留、腸炎、脾腫などの症状を示す。S. dysgalactiaeを起因菌とするC群レンサ球菌症は、主にブリ・カンパチに発生し、尾柄部の潰瘍及び壊死が特徴的であり、胸鰭や背鰭基部の潰瘍を示すこともある。
ビブリオ病は、ビブリオ属細菌を起因菌とした魚類の疾病で、代表的な起因菌は、V.anguillarumである。全身性の出血、筋肉・体表の膿瘍形成などを主症とし、急性に敗血症死に到る場合もあるなど、致死率も高い。養殖現場では、ブリ・マダイ・トラフグ・ヒラメなどの海産魚、アユ、サケ科魚類などで被害が大きい。
L.garvieaeに関する魚類のワクチンとして、例えば、特許文献1には、莢膜が極薄いか若しくは莢膜を有しないことを特徴とするL.garvieaeに属する菌株を不活化させた菌体を含有する魚類の腸球菌症用ワクチンが、特許文献2には、新規株を利用した魚類のレンサ球菌症を予防治療するためのワクチンが、それぞれ開示されている。S.iniaeに関する魚類のワクチンとして、例えば、特許文献3には、β型溶血性のB群連鎖球菌の完全に殺された細胞及びβ型溶血性のB群連鎖球菌の培養物の濃縮された抽出物から調合された混合物が、S. dysgalactiaeに関する魚類のワクチンとして、例えば、特許文献4には、魚類ストレプトコッカス・ディスガラクティエ感染症を予防するワクチンが、それぞれ開示されている。V.anguillarumに関する魚類のワクチンとして、例えば、特許文献5には、V.anguillarumに対する弱毒生ワクチンなどが開示されている。その他、特許文献6には、L.garvieaeとPasteurella piscicidaとV.anguillarumを含む、ノカルジア感染を治療するためのノカルジア不含混合ワクチンが開示されている。
特開平11-332558号公報
特開2001-103961号公報
特表2007-532485号公報
特許第5567244号公報
米国特許第6,913,757号
特表2011-506577号公報
本発明は、魚類レンサ球菌症などに対する、より有効な防除手段を提供することなどを目的とする。
本発明者らは、魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原にV.anguillarum由来の抗原を添加すると、V. anguillarum感染症(ビブリオ病)に対する予防効果を保持しつつ、魚類レンサ球菌症に対する予防効果が増強されることを新規に見出した。
そこで、本発明では、魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原、及び、V. anguillarum由来の抗原を有効成分として含有する、魚類レンサ球菌症に対する経口ワクチン製剤、並びに魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原、及び、V.anguillarum由来の抗原、を有効成分として含有する、魚類レンサ球菌症及びビブリオ病に対する経口混合ワクチン製剤などを提供する。
魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原にV.anguillarum由来の抗原を添加することで、魚類レンサ球菌症に対する予防効果が増強される。そのため、本発明では、一般的に注射ワクチンなどと比較して効果が劣る傾向があるとされる経口ワクチンでの適用が可能であり、かつ経口ワクチンとしての投与でも魚類レンサ球菌症に対する高い予防効果を実現できる。若しくは、この免疫増強効果により、従来の単味経口ワクチンより魚類レンサ球菌症起因菌由来抗原の量を減らしても、魚類レンサ球菌症に対する同等の予防効果を保持できるため、製造コスト・販売コストを低く抑えることができる。
加えて、魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原とV.anguillarum由来の抗原を混合しても、ビブリオ病に対する予防効果は保持される。そのため、魚類レンサ球菌症及びビブリオ病に対する経口混合ワクチンとしても適用できる。
その他、経口ワクチンとして適用でき、経口法による投与が可能であることには、魚にストレスを与えず、かつ時間や労力をかけずに多くの魚にワクチンを投与できる、魚体の大きさに関わらず、簡易かつ低労力にワクチンを投与できる、などの利点がある。特に、ワクチン投与の適期に既に魚体が大きくなっている場合や、逆に、稚魚など、魚体が小さい場合などにも、簡易かつ低労力にワクチンを投与できるため、養殖現場などにおいて、有用性が高い。
本発明により、魚類レンサ球菌症などを低労力かつ有効に予防できる。これにより、養殖現場などにおいて、同感染症などの発生・伝播・蔓延をより効果的に予防できる。
<本発明に係る経口ワクチン製剤について>
本発明は、魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原、及び、V.anguillarum由来の抗原を有効成分として含有する、魚類レンサ球菌症に対する経口ワクチン製剤をすべて包含する。なお、本発明は、各菌由来の抗原として、少なくとも菌体を有効成分として含有するもののほか、例えば、菌体とその培養液の両方を含有するもの、即ち、例えば、菌体と培養液を分離せずに用いることにより、若しくは菌体と培養液を分離しないまま濃縮することにより、菌体と、それ以外の菌体由来成分の両方を含有したものなども広く包含する。
本発明における魚類レンサ球菌症の起因菌として、例えば、L.garvieae、S.iniae、S. dysgalactiaeなどが挙げられる。従って、本発明に係る魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原は、L.garvieae由来の抗原、S.iniae由来の抗原、若しくはS. dysgalactiae由来の抗原であるのが好適である。
L.garvieae、S.iniae、S. dysgalactiaeは、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、公知の分離株を用いてもよいし、魚類レンサ球菌症を発症した魚類から分離された分離株を用いてもよい。各菌は、公知の固形培地・液体培地、例えば、肉エキス寒天平板培地、カゼイン・ダイズ混合ペプトン寒天平板培地、肉エキス液状培地、カゼイン・ダイズ混合ペプトン液状培地などで培養し、増殖させることができる。
一方、V.anguillarumも、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、公知の分離株を用いてもよいし、ビブリオ病を発症した魚類から分離された分離株を用いてもよい。V.anguillarumは、公知の固形培地・液体培地、例えば、食塩1〜3%を含有する肉エキス寒天平板培地、同カゼイン・ダイズ混合ペプトン寒天平板培地、同肉エキス液状培地、同カゼイン・ダイズ混合ペプトン液状培地などで培養し、増殖させることができる。
魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原及びV.anguillarum由来の抗原は、弱毒化抗原であってもよい。弱毒化された菌は、例えば、公知の方法で樹立されたものを広く採用できる。また、例えば、膜ろ過や遠心分離などにより菌体を回収したり、菌体と培養液を分離しないまま培養菌液を濃縮したりしたものであってもよい。
魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原及びV.anguillarum由来の抗原は、不活化抗原であってもよい。菌の不活化は、例えば、培養菌液に対し、物理的処理(紫外線照射、X線照射、熱処理、超音波処理など)、化学的処理(ホルマリンなどによる処理、クロロホルム・アルコールなどによる有機溶媒処理、酢酸などの弱酸による酸処理、塩素・水銀などによる処理)などにより、行うことができる。
例えば、培養菌液にホルマリンを0.001〜2.0%、より好適には0.01〜1.0%の容量濃度で添加し、培養菌液を4〜30℃で、1〜10日間感作することにより、ホルマリンによる不活化を行うことができる。例えば、緩衝液などで不活化処理菌体を洗浄してホルマリンなどの不活化剤を除去したり、不活化処理菌体に中和剤を添加して中和したりしてもよい。また、上記と同様、膜ろ過や遠心分離などにより不活化処理菌体を回収したり、菌体と培養液を分離しないまま培養菌液を濃縮したりしてもよい。
本発明に係る経口ワクチン製剤は、例えば、魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原、及び、V.anguillarum由来の抗原を、それぞれ調製した後、それらを混合することで作製することができる。
経口ワクチン製剤に含まれる抗原の量は、特に制限はないが、例えば、一日当たり魚体重の約1.5〜2.5%の量の飼料を各魚に与えるとともに、一日分の飼料中に混合又は展着させる魚類レンサ球菌症起因菌由来及びV.anguillarum由来の抗原量が、(経口不活化ワクチン製剤の場合は、不活化前の抗原量で、)それぞれ、好適には107〜1012CFU/kg(魚体重)、より好適には108〜1011CFU/kg(魚体重)であり、該飼料を自由摂餌で、好適には1〜20日間、より好適には1〜10日間、連続的に投与するように適用されるようにする。なお、本発明における連続的な投与には、投与期間中連続投与する場合の他、例えば、投与間隔を4日以内とし、投与期間中に計3回以上投与する場合なども含まれる(以下同じ)。そのために、例えば、一尾当たり、一日当たり、魚体重の約1.0〜2.5%の重量の飼料を与えるとともに、(経口不活化ワクチン製剤の場合は、不活化前の抗原量で、)それぞれ、好適には107〜1012CFU/mL、より好適には108〜1011CFU/mLになるようにワクチン製剤を調製し、そのワクチン製剤を約0.5〜20mL/kg程度の適当な量だけ、当該量の飼料に混ぜ込むことで、投与するようにしてもよい。
本発明に係る経口ワクチン製剤は、アジュバントを含有するものであってもよい。
アジュバントには、公知のものを広く用いることができる。例えば、動物油(スクアレンなど)又はそれらの硬化油、植物油(パーム油、ヒマシ油など)又はそれらの硬化油、無水マンニトール・オレイン酸エステル、流動パラフィン、ポリブテン、カプリル酸、オレイン酸、高級脂肪酸エステルなどを含む油性アジュバント、PCPP、サポニン、グルコン酸マンガン、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸マンガン、可溶性酢酸アルミウム、サリチル酸アルミニウム、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、無水マレイン酸コポリマー、アルケニル誘導体ポリマー、水中油型エマルジョン、第四級アンモニウム塩を含有するカチオン脂質などの水溶性アジュバント、水酸化アルミニウム(ミョウバン)、水酸化ナトリウムなどの沈降性アジュバント、コレラ毒素、大腸菌易熱性毒素などの微生物由来毒素成分、その他、ベントナイト、ムラミルジペプチド誘導体、インターロイキンなどが挙げられる。また、これらを混合したものでもよい。
また、本発明に係る経口ワクチン製剤は、目的・用途などに応じて、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、抗菌剤、抗酸化剤、pH調節剤、分散剤、芳香剤、着色剤、消泡剤、甘味剤、矯味剤、清涼化剤などが適宜添加されていてもよい。
緩衝剤の好適な例として、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩酒石酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、HEPESなどの緩衝液などを用いることができる。
等張化剤の好適な例として、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトールなどを用いることができる。
防腐を目的とした薬剤の好適な例として、例えば、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、その他、各種防腐剤、抗生物質、合成抗菌剤などを用いることができる。
抗酸化剤の好適な例として、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸などを用いることができる。
pH調節剤の好適な例として、例えば、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸、リン酸、ホウ酸、硫酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウムなどのアルカリ金属クエン酸塩、トロメタモールなどの塩基、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどを用いることができる。
分散剤の好適な例として、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリソルベート80(TWEEN80)などを用いることができる。
芳香剤の好適な例として、例えば、レモン、オレンジ、グレープフルーツなどの柑橘系香料、ペパーミント、スペアミント、メントール、パイン、チェリー、フルーツ、ヨーグルト、コーヒーなどを用いることができる。
着色剤の好適な例として、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、アナトー色素、パプリカ色素、紅花色素、紅麹色素、カロチン色素、カロチノイド色素、フラボノイド色素、コチニール色素、アマランス(赤色2号)、エリスロシン(赤色3号)、アルラレッドAC(赤色40号)、ニューコクシン(赤色102号)、フロキシン(赤色104号)、ローズベンガル(赤色105号)、アシッドレッド(赤色106号)、タートラジン(黄色4号)、サンセットイエローFCF(黄色5号)、ファストグリーンFCF(緑色3号)、ブリリアントブルーFCF(青色1号)、インジゴカルミン(青色2号)、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウムなどを用いることができる。
消泡剤の好適な例として、例えば、ジメチコーン、シメチコン、シリコーンエマルション、ソルビタンセスキオレエート、ノニオン系物質などを用いることができる。
甘味剤・矯味剤の好適な例として、例えば、砂糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、ショ糖、水飴、異性化糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノース、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、還元水飴、還元パラチノース、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、グリセリン、クルクリン、モネリン、モナチン、ミラクリン、エリトリトール、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリンナトリウム、ズルチン、サイクラミン酸、ネオテームなどを用いることができる。
清涼化剤の好適な例として、例えば、天然由来のものとして、ミントオイル、パセリオイル、ユーカリオイル、セージオイル、レモンオイル、カシアオイル、マスティックオイル、マンダリンオイル、ライムオイル、ローレルオイル、カモミルオイル、キャラウェイオイル、ベイオイル、レモングラスオイル、パインニードルオイル、ネロリオイル、アニスオイル、ティーツリーオイル、クローオイル、ローズマリーオイル、タイムオイル、ジュニパーベリーオイル、グレープフルーツオイル、オレンジオイル、ラベンダーオイル、ジャスミンオイル、ローズオイル、ウインターグリーンオイル及びフェンネルオイルなどを、人工的に合成・抽出・精製されたものとして、メントール、カンフル、メントン、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、リナロール、リモネン、カルボン、アネトール、ピネン、リナリールアセテート、メンチルアセテート、乳酸メンチル、メトキシプロパンジオール、N-置換-p-メンタン-3-カルボキサミド、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オクチルアルデヒドなどを用いることができる。
加えて、本発明に係る経口ワクチン製剤は、増粘剤が添加されたものであってもよい。増粘剤を添加することにより、例えば、餌などに経口ワクチン製剤を混ぜ込んだ場合であっても、同製剤の拡散・流失を抑制でき、適量のワクチンを確実に投与することができるようになるため、経口ワクチンとしての有効性を高めることができる。
増粘剤の好適な例として、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ヒプロメロース、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、糖アルコール(ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトールなど)、多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなど)、ポリビニルピロリドン、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、低糖化還元水飴などを用いることができる。
上記の他、本製剤には、補助成分、例えば、魚類用の吸収促進剤・食欲増進剤、保存・効能の助剤となる光吸収色素(リボフラビン、アデニン、アデノシンなど)、安定化のためのキレート剤・還元剤(ビタミンC、クエン酸など)、炭水化物(ソルビトール、ラクトース、マンニトール、デンプン、シュークロース、グルコース、デキストランなど)、カゼイン消化物、各種ビタミンなどが含有させてもよい。
ワクチン製剤の剤型などについては、公知のものを採用でき、特に限定されない。例えば、液体製剤として用いてもよいし、凍結乾燥などの処置の後、餌などに混入させてもよい。
その他、本発明は、上記の二種の抗原に、他の疾患に対するワクチン、例えば、イリドウイルス病不活化ワクチン、類結節症不活化ワクチンなどのいずれか又は複数を加えた経口混合ワクチン製剤であってもよい。
<本発明に係る経口混合ワクチン製剤について>
本発明は、魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原及びV.anguillarum由来の抗原を有効成分として含有する、魚類のレンサ球菌症及びビブリオ病に対する経口混合ワクチン製剤をもすべて包含する。なお、本発明は、上記と同様、抗原成分として、菌体のみを含有するものに狭く限定されない。
上述の通り、魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原とV.anguillarum由来の抗原を混合しても、V. anguillarum感染症に対する予防効果は保持される。そのため、本発明は、魚類レンサ球菌症及びビブリオ病に対する経口混合ワクチンとしても適用できる。
魚類レンサ球菌症起因菌由来の抗原、及び、V.anguillarum由来の抗原は、上記と同様のものを広く用いることができる。採用する抗原、不活化抗原を採用する場合の菌の不活化の手順、調製・混合の手順、抗原量、アジュバントや添加剤、剤型、他の疾患に対するワクチンとの混合などについても、上記と同様である。
<本発明に係る感染症予防方法について>
本発明は、上述の経口ワクチン製剤を投与する、魚類性レンサ球菌症予防方法、並びに上述の経口混合ワクチン製剤を投与する、魚類レンサ球菌症及びビブリオ病の予防方法を広く包含する。
上述の経口ワクチン製剤を魚類に経口投与することにより、魚類レンサ球菌症の発生・伝播・蔓延を有効に予防できる。また、本剤は、ビブリオ病の予防にも有効であるため、経口混合ワクチン製剤としても有効である。
適用対象となる魚類として、例えば、ブリ属魚類(ブリ、カンパチ、ヒラマサなど)、マアジ属魚類(マアジなど)、シマアジ属魚類(シマアジなど)などのアジ科魚類、マダイ亜科魚類(マダイ、チダイ)、カワハギ科魚類(カワハギ、ウマズラハギ)、サケ科魚類(アユ・ニジマス)、その他、マサバ、マグロ、メジナ・ヒラメ・アマゴ・イシダイなどの海産魚類、ウナギなど、魚類レンサ球菌症に罹患する魚類が挙げられる。特に、ブリ属魚類、マダイ亜科魚類、ヒラメなどは、α溶血性レンサ球菌症及びビブリオ病の両方に罹患する魚類であるため、本発明は、それらの魚類のα溶血性レンサ球菌症及びビブリオ病の包括的な予防にも適用できる。また、ブリ属魚類は、α溶血性レンサ球菌症及びビブリオ病に加えて、C群レンサ球菌症にも罹患する魚類であるため、本発明は、該魚類のα溶血性レンサ球菌症、C群レンサ球菌症並びにビブリオ病の包括的な予防にも適用できる。
本発明に係るワクチン製剤、若しくは混合ワクチン製剤の投与方法には、例えば、経口法を採用する。上述の通り、経口法による投与が可能であることには、魚にストレスを与えず、かつ時間や労力をかけずに多くの魚にワクチンを投与できる、魚体の大きさに関わらず、簡易かつ低労力にワクチンを投与できる、などの利点がある。
具体的な投与方法は、公知のものを広く採用でき、特に限定されないが、例えば、一日当たり魚体重の約1.5〜2.5%の量の飼料を各魚に与えるとともに、一日分の飼料中に混合又は展着させる魚類レンサ球菌症起因菌由来及びV.anguillarum由来の抗原量が、(経口不活化ワクチン製剤の場合は、飼料不活化前の抗原量で、)それぞれ、好適には107〜1012CFU/kg(魚体重)、より好適には108〜1011CFU/kg(魚体重)であり、該飼料を自由摂餌で、好適には1〜20日間、より好適には1〜10日間、連続的に投与することにより、魚類のα溶血性レンサ球菌症、若しくは魚類のα溶血性レンサ球菌症及びビブリオ病の防除を有効に行うことができる。
経口ワクチン製剤などの投与回数は、その作用が持続する限り上記一定期間内における1回の連続投与でよいが、対象魚類の大きさ、ワクチン効果の度合いなどに応じて、例えば、1〜60日の間隔を置いて、それらの連続投与を複数回行ってもよい。その他、複数の投与方法を適宜組み合わせて、対象魚類にワクチン製剤を投与してもよい。
実施例1では、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した場合における、L.garvieae感染症に対する予防効果を検証した。
L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原の調製を次の通り行った。L.garvieae KS-7M株を培養後、最終濃度0.3vol%となるように日本薬局方ホルマリンを加えて2日間感作させ、その不活化菌液をポアサイズ0.45μmのろ過膜でろ過・濃縮、PBSで置換し、L.garvieaeの不活化菌液を得た。また、V. anguillarum KT-5株を培養後、その培養菌液に最終濃度0.3vol%となるように日本薬局方ホルマリンを加えて2日間感作させ、V.anguillarumの不活化菌液を得た。L.garvieaeの不活化菌液とV.anguillarumの不活化菌液を4:1の割合で混合し、水産用展着剤・増粘剤として低糖化還元水飴を添加し、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原液を得た。この抗原液の菌量は、不活化前生菌数で、L.garvieae が1.59×1011CFU/mL、V. anguillarumが1.0×109CFU/mLであった。
また、L.garvieae単味の不活化抗原を、上記と同様の手順で作製した。単味不活化抗原液の菌量を、不活化前生菌数で、1.59×1011CFU/mLに調製した。
次に、約146gのブリ45尾を準備し、15尾ずつ三群に分け、それぞれ群ごとに試験水槽に入れて飼育した。
三群のうち、第一群のブリには、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原液を、第二群のブリにはL.garvieaeの単味不活化抗原液を、それぞれ一日当たりの用量が0.5mL/kg(魚体重)になるように餌に混ぜ込み、5日間連続経口投与し、最終投与日から14日間、飼育観察した。対照群として、第三群のブリには、同じ期間、通常の餌を与えながら飼育した。
続いて、攻撃用株として、L.garvieae LC0714株を培養し、不活化抗原の最終投与日から14日後、各ブリに麻酔下で1.2×106CFU/尾、腹腔内注射した。そして、L.garvieae LC0714株による攻撃後14日間、飼育観察を続けた。
結果を図1に示す。図1は、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した後、L.garvieae LC0714株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフである。図中、横軸は攻撃した日からの日数を、縦軸は生残率(%)を、それぞれ表す。図中、「2混(Lg+Va)」はL.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原で免疫した場合の結果を、「単味Lg」はL.garvieaeの単味不活化抗原で免疫した場合の結果を、「対照群」は免疫しなかった場合の結果を、それぞれ表す。
図1に示す通り、対照群の生残率が7%、混合不活化抗原を投与した群の生残率が87%、単味の不活化抗原を投与した群の生残率が60%であり、対照群と比較して、免疫した群の生残率が有意に高かった。
また、単味の不活化抗原を投与した群の生残率(60%)と比較して、混合不活化抗原を投与した群の生残率(87%)が有意に高かった。このことは、L.garvieaeの不活化抗原にV.anguillarumの不活化抗原を添加することにより、L.garvieae感染症に対する予防効果が増強されることを示す。
実施例2では、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をカンパチに経口投与して免疫した場合における、L.garvieae感染症に対する予防効果を検討した。
L.garvieaeの不活化抗原の調製を次の通り行った。200mL容三角フラスコに、SCD液体培地(栄研化学株式会社製)100mLを入れ、凍結保存したL.garvieae KS-7M株を接種し、25℃、24時間培養し、次に、50L容培養装置にSCD液体培地25Lを入れ、その培養菌液をPBSで希釈してから接種し、25℃、24時間攪拌培養した。この培養菌液に最終濃度0.3vol%となるように日本薬局方ホルマリンを加えて2日間感作させ、L.garvieaeの不活化抗原液とした。この抗原液の菌量は、寒天平板希釈法による不活化前生菌数で、1.1×1010CFU/mLであった。
また、V.anguillarumの不活化抗原の調製を次の通り行った。200mL容三角フラスコに、SCD液体培地(栄研化学株式会社製、0.5%NaCl添加)100mLを入れ、凍結保存したV.anguillarum KT-5株を接種し、25℃、24時間培養し、次に、5L容培養装置にSCD液体培地2.5Lを入れ、その培養菌液をPBSで希釈してから接種し、25℃、72時間攪拌培養した。この培養菌液に最終濃度0.3vol%となるように日本薬局方ホルマリンを加えて2日間感作させ、V.anguillarumの不活化抗原液とした。この抗原液の菌量は、寒天平板希釈法による不活化前生菌数で、9.6×109CFU/mLであった。
次に、約42.5gのカンパチ74尾を準備し、25尾又は24尾の三群に分け、それぞれ群ごとに試験水槽に入れて飼育した。
三群のうち、第一群のカンパチには、L.garvieaeの不活化抗原及びV.anguillarumの不活化抗原を、1日当たりの投与抗原量がそれぞれ1.0×1010CFU/kg(魚体重)になるように餌に混ぜ込み、5日間連続経口投与し、最終投与日から14日間、飼育観察した。同様に、第二群のカンパチには、L.garvieaeの不活化抗原を、1日当たりの投与抗原量が1.0×1010CFU/kg(魚体重)になるように餌に混ぜ込み、5日間連続経口投与し、最終投与日から14日間、飼育観察した。対照群として、第三群のカンパチには、同じ期間、通常の餌を与えながら飼育した。
続いて、攻撃用株として、L.garvieae KGLG01株(日本国鹿児島県でカンパチより分離された株)を培養し、不活化抗原の最終投与日から14日後、各カンパチ2.8×104CFU/尾、腹腔内注射した。そして、L.garvieae KGLG01株による攻撃後14日間、飼育観察を続けた。
結果を図2に示す。図2は、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をカンパチに経口投与して免疫した後、L.garvieae KGLG01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフである。図中、横軸は攻撃した日からの日数を、縦軸は生残率(%)を、それぞれ表す。図中、「2混(Lg+Va)」はL.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原で免疫した場合の結果を、「単味Lg」はL.garvieaeの単味不活化抗原で免疫した場合の結果を、「対照群」は免疫しなかった場合の結果を、それぞれ表す。
図2に示す通り、対照群の生残率が16.7%、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原を投与した群の生残率が92%、L.garvieaeの単味不活化抗原を単独で投与した群の生残率が56%であり、対照群と比較して、不活化抗原を投与した群の生残率が有意に高かった。
また、L.garvieaeの不活化抗原を単独で投与した群の生残率(56%)と比較して、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原を投与した群の生残率(92%)が有意に高かった。このことは、カンパチにおいても、L.garvieaeの不活化抗原にV.anguillarumの不活化抗原を添加することにより、L.garvieae感染症に対する予防効果が増強されることを示す。
実施例3では、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した場合に、V.anguillarum感染症に対する予防効果が維持されているかどうか、検証した。
L.garvieaeの不活化抗原を、実施例2と同様の手順で調製した。不活化前菌液の生菌数は、1.1×1010CFU/mLであった。V.anguillarumの不活化抗原については、実施例2と同様の手順で培養・不活化した後、その不活化培養菌液を10倍濃縮し、不活化前菌液の生菌数が1.4×1010CFU/mLになるように調整して用いた。
約171gの天然ブリ30尾を準備し、15尾ずつ二群に分け、それぞれ群ごとに試験水槽に入れて飼育した。
二群のうち、免疫群のブリには、L.garvieaeの不活化抗原及びV.anguillarumの不活化抗原を、1日当たりの投与抗原量がそれぞれ1.0×109CFU/kg(魚体重)になるように餌に混ぜ込み、5日間連続経口投与し、最終投与日から14日間、25℃条件下で飼育観察した。一方、対照群のブリには、同じ期間、通常の餌を与えながら飼育した。
続いて、攻撃用株として、V.anguillarum V09K01株を培養し、混合不活化抗原の最終投与日から14日後、各ブリに2.2×107CFU/尾、腹腔内注射した。そして、V.anguillarum V09K01株による攻撃後7日間、飼育観察を続けた。
結果を図3に示す。図3は、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した後、V.anguillarum V09K01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフである。図中、横軸は攻撃した日からの日数を、縦軸は生残率(%)を、それぞれ表す。図中、「2混(Lg+Va)」はL.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原免疫した場合の結果を、「対照群」は免疫しなかった場合の結果を、それぞれ表す。
図3に示す通り、対照群の生残率が6.7%であったのに対し、混合不活化抗原を投与した群の生残率が80%であり、対照群と比較して、免疫群の生残率が有意に高かった。
この結果より、ブリに、L.garvieaeの不活化抗原とV.anguillarumの不活化抗原を混合投与しても、V.anguillarum感染症に対する予防効果が有効程度に維持されることが実証された。
実施例4では、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をカンパチに経口投与して免疫した場合に、V.anguillarum感染症に対する予防効果が維持されているかどうか、検証した。
約179gの天然カンパチ26尾を準備し、13尾ずつ二群に分け、それぞれ群ごとに試験水槽に入れて飼育した。
二群のうち、免疫群のカンパチには、実施例3で調製したL.garvieaeの不活化抗原と同じく実施例3で調製したV.anguillarumの不活化抗原を、1日当たりの投与抗原量がそれぞれ1.0×109CFU/kg(魚体重)になるように餌に混ぜ込み、5日間連続経口投与し、最終投与日から14日間、25℃条件下で飼育観察した。一方、対照群のカンパチには、同じ期間、通常の餌を与えながら飼育した。
続いて、攻撃用株として、V.anguillarum V09K01株を培養し、混合不活化抗原の最終投与日から14日後、各カンパチに5.1×106CFU/尾、腹腔内注射した。そして、V.anguillarum V09K01株による攻撃後7日間、飼育観察を続けた。
結果を図4に示す。図4は、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をカンパチに経口投与して免疫した後、V.anguillarum V09K01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフである。図中、横軸は攻撃した日からの日数を、縦軸は生残率(%)を、それぞれ表す。図中、「2混(Lg+Va)」はL.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原免疫した場合の結果を、「対照群」は免疫しなかった場合の結果を、それぞれ表す。
図4に示す通り、対照群の生残率が8%であったのに対し、混合不活化抗原を投与した群の生残率が62%であり、対照群と比較して、免疫群の生残率が有意に高かった。
この結果より、カンパチに、L.garvieaeの不活化抗原とV.anguillarumの不活化抗原を混合投与しても、V.anguillarum感染症に対する予防効果が有効程度に維持されることが実証された。
実施例5では、L.garvieae及びV.anguillarumについて、実施例1〜4で用いたもの以外の株を混合不活化抗原として用いた場合でも、L.garvieae感染症に対する同様の予防効果が得られるか、検証した。
L.garvieaeとして、上記実施例で用いたKS-7M株の他に、野外分離株であるLC1605株(2016年4月、鹿児島県、カンパチ由来株)を準備した。また、V.anguillarumとして、上記実施例で用いたKT-5株の他に、J-O-3型の一般株の一つであるNOAA V-775株(1973年4月、アメリカ合衆国ワシントン州、ギンザケ由来株)を準備した。
L.garvieae(KS-7M株、LC1605株)及びV.anguillarum(KT-5株、NOAA V-775株)をそれぞれ培養後、最終濃度0.3vol%となるように日本薬局方ホルマリンを加えて3日間感作させ、その不活化菌液を遠心濃縮後、PBSで置換し、各不活化抗原液を得た。
L.garvieaeとV.anguillarumの各不活化抗原液を4:1の割合で混合し、混合不活化抗原液を得た。各抗原液の菌量は、不活化前生菌数で、L.garvieaeが、KS-7M株の場合3.8×1010CFU/mL、LC1605株の場合4.8×1010CFU/mL、V. anguillarumが、KT-5株の場合4.6×108CFU/mL、NOAA V-775株の場合8.0×108CFU/mLであった。
また、L.garvieae KS-7M株及びLC1605株の単味の不活化抗原を、それぞれ、上記と同様の手順で作製した。単味不活化抗原液の菌量は、前記と同様に調製した。
次に200L容の各試験水槽に、それぞれ平均体重83.5g(投与時)の天然種苗のブリを20尾ずつ入れて飼育し、それぞれの株の組み合わせで、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原液を、それぞれ一日当たりの用量が0.5mL/kg(魚体重)になるように餌に混ぜ込み、5日間連続経口投与した後、最終投与日から14日間、飼育した。飼育期間中、生死、摂餌行動及び遊泳行動の観察を行った。また、L.garvieae KS-7M株及びLC1605株の単味不活化抗原液投与群(各n=20)では、混合不活化抗原投与群と同様に、一日当たりの用量が0.5mL/kg(魚体重)になるように餌に混ぜ込み、5日間連続経口投与した後、最終投与日から14日間、飼育した。その他、対照群(n=20)では、同じ期間、通常の餌を等量与えながら飼育した。
続いて、攻撃用株として、L.garvieae KGLG01株(鹿児島県でカンパチから分離された株)を培養し、その培養菌液をPBSで1/10,000に希釈して、不活化抗原の最終投与日から14日後、各供試ブリに0.1mLずつ腹腔内注射し、攻撃を行った。KGLG01株の攻撃菌量は3.8×104CFU/尾であった。そして、L.garvieae KGLG01株による攻撃後7日間、25℃条件下で飼育し、生死及び発症の有無を観察した。
結果を図5及び図6に示す。図5は、L.garvieae KS-7M株とV.anguillarum NOAA V-775株の混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した後、L.garvieae KGLG01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフ、図6は、L.garvieae LC1605株とV.anguillarum KT-5株又はNOAA V-775株の混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した後、L.garvieae KGLG01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフである。図中、横軸は攻撃した日からの日数を、縦軸は生残率(%)を、それぞれ表す。図5中、「2混(I)」はL.garvieae KS-7M株とV.anguillarum NOAA V-775株の混合不活化抗原で免疫した場合の結果を、「単味Lg」はL.garvieae KS-7M株の単味不活化抗原で免疫した場合の結果を、「対照群」は免疫しなかった場合の結果を、それぞれ表す。また、図6中、「2混(II)」はL.garvieae LC1605株とV.anguillarum KT-5株の混合不活化抗原で免疫した場合の結果を、「2混(III)」はL.garvieae LC1605株とV.anguillarum NOAA V-775株の混合不活化抗原で免疫した場合の結果を、「単味Lg」はL.garvieae LC1605株の単味不活化抗原で免疫した場合の結果を、「対照群」は免疫しなかった場合の結果を、それぞれ表す。
図5に示す通り、L.garvieae KS-7M株とV.anguillarum NOAA V-775株の混合不活化抗原を投与した群の生残率が65%であったのに対し、単味の不活化抗原を投与した群の生残率が45%、対照群の生残率が5%であった。即ち、L.garvieae KS-7M株とV.anguillarum NOAA V-775株を用いた場合でも、実施例1の図1と同様、単味の不活化抗原を投与した群の生残率(45%)と比較して、混合不活化抗原を投与した群の生残率(65%)が有意に高かった。
また、図6に示す通り、L.garvieae LC1605M株とV.anguillarum KT-5株の混合不活化抗原を投与した群の生残率が50%、L.garvieae LC1605M株とV.anguillarum NOAA V-775株の混合不活化抗原を投与した群の生残率が65%であったのに対し、単味の不活化抗原を投与した群の生残率が33%、対照群の生残率が5%であった。即ち、これらの株の組み合わせの場合も、単味の不活化抗原を投与した群の生残率(33%)と比較して、混合不活化抗原を投与した群の生残率(それぞれ、50%、65%)が有意に高かった。
これらの結果は、L.garvieaeの不活化抗原に、KT-5以外のV.anguillarumの不活化抗原を添加する場合、若しくはKS-7M株以外のL.garvieaeの不活化抗原に、KT-5又はそれ以外のV.anguillarumの不活化抗原を添加する場合であっても、実施例1と同様の、L.garvieae感染症に対する予防効果が増強されること、即ち、KS-7M株とKT-5株の組み合わせに限らず、それ以外の組み合わせで不活化抗原を混合する場合でも、L.garvieae感染症に対する予防効果が増強されることを示す。
実施例6では、L.garvieae及びV.anguillarumについて、実施例1〜4で用いたもの以外の株を混合不活化抗原として用いた場合でも、V.anguillarum感染症に対する予防効果が維持されるかどうか、検証した。
実施例5と同様、L.garvieaeとして、KS-7M株及びLC1605株を、V.anguillarumとして、KT-5株及びNOAA V-775株を準備し、それぞれ培養後、最終濃度0.3vol%となるように日本薬局方ホルマリンを加えて3日間感作させ、その不活化抗原液を遠心濃縮後、PBSで置換し、各不活化菌液を得た。
L.garvieaeとV.anguillarumの各不活化抗原液を3:7の割合で混合し、混合不活化抗原液を得た。各抗原液の菌量は、不活化前生菌数で、L.garvieaeが、KS-7M株の場合1.4×1010CFU/mL、LC1605株の場合1.8×1010CFU/mL、V.anguillarumが、KT-5株の場合8.1×109CFU/mL、NOAA V-775株の場合1.4×1010CFU/mLであった。
次に120L容の各試験水槽に、それぞれ平均体重20g(投与時)の天然種苗のブリを20尾ずつ入れて飼育し、それぞれの株の組み合わせで、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原液を、それぞれ一日当たりの用量が0.3mL/尾になるように餌に混ぜ込み、5日間連続経口投与した後、最終投与日から14日間、飼育した。飼育期間中、生死、摂餌行動及び遊泳行動の観察を行った。その他、対照群(n=20)では、同じ期間、通常の餌を等量与えながら飼育した。
続いて、攻撃用株として、V.anguillarum V09K01株を培養し、その培養菌液をPBSで1/100に希釈して、不活化抗原の最終投与日から14日後、各供試ブリに0.1mLずつ腹腔内注射し、攻撃を行った。V09K01株の攻撃菌量は2.0×106CFU/尾であった。そして、V.anguillarum V09K01株による攻撃後7日間、25℃条件下で飼育し、生死及び発症の有無を観察した。
結果を図7に示す。図7は、L.garvieaeのKS-7M株又はLC1605株と、V.anguillarumのKT-5株又はNOAA V-775株との混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した後、V.anguillarum V09K01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフである。図中、横軸は攻撃した日からの日数を、縦軸は生残率(%)を、それぞれ表す。図中、「2混(IV)」はL.garvieae KS-7M株とV.anguillarum KT-5株の混合不活化抗原免疫した場合の結果を、「2混(V)」はL.garvieae KS-7M株とV.anguillarum NOAA V-775株の混合不活化抗原免疫した場合の結果を、「2混(VI)」はL.garvieae LC1605株とV.anguillarum KT-5株の混合不活化抗原免疫した場合の結果を、「対照群」は免疫しなかった場合の結果を、それぞれ表す。
図7に示す通り、対照群の生残率が75%であったのに対し、混合不活化抗原を投与した群の生残率はいずれも100%であり、対照群と比較して、免疫群の生残率が有意に高かった。
この結果より、L.garvieaeとV.anguillarumの不活化抗原をどの株の組み合わせで混合しても、V.anguillarum感染症に対する予防効果を有効程度に維持できることが実証された。
実施例1において、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した後、L.garvieae LC0714株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフ。
実施例2において、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をカンパチに経口投与して免疫した後、L.garvieae KGLG01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフ。
実施例3において、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した後、V.anguillarum V09K01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフ。
実施例4において、L.garvieaeとV.anguillarumの混合不活化抗原をカンパチに経口投与して免疫した後、V.anguillarum V09K01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフ。
実施例5において、L.garvieae KS-7M株とV.anguillarum NOAA V-775株の混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した後、L.garvieae KGLG01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフ。
実施例5において、L.garvieae LC1605株とV.anguillarum KT-5株又はNOAA V-775株の混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した後、L.garvieae KGLG01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフ。
実施例6において、L.garvieaeのKS-7M株又はLC1605株と、V.anguillarumのKT-5株又はNOAA V-775株との混合不活化抗原をブリに経口投与して免疫した後、V.anguillarum V09K01株で腹腔内注射攻撃した場合における生残率を示すグラフ。