(実施形態1)
以下では、図1に示すように、単一の空間に、リビングとダイニングとの少なくとも一方であるゾーンZ1と、キッチンであるゾーンZ2とが存在する場合を想定する。リビングとダイニングとの少なくとも一方であるゾーンZ1とキッチンであるゾーンZ2とは、いわゆる対面式の関係である。以下に説明する実施形態は、シンク21などを有するカウンタトップ22が、リビングとダイニングとの少なくとも一方であるゾーンZ1とキッチンであるゾーンZ2とを仕切る仕切壁23を備えている場合を想定する。要するに、単一の空間に複数のゾーンZ1、Z2があり、複数のゾーンZ1、Z2のうちの1つがキッチンとして使用されるゾーンZ2である。
空間に存在する複数のゾーンZ1、Z2のうち、リビングとダイニングとの少なくとも一方であるゾーンZ1は、ゾーンの機能を表しているにすぎない。このゾーンZ1を、リビングとして使用するか、ダイニングとして使用するか、またはリビングとダイニングとに兼用するかはユーザが決めることである。一方、キッチンであるゾーンZ2は、水栓から吐出する水の音、食器などを洗う際の接触音、まな板の上で野菜を切る音、換気扇の動作音、コンロで調理する際の音などを発生させる音源が存在するゾーンである。
キッチンであるゾーンZ2で上述のような音が発生していると、ゾーンZ2に滞在するユーザは、リビングとダイニングとの少なくとも一方であるゾーンZ1からの音が聞き取りにくくなる。とくに、ゾーンZ2に滞在しているユーザは、音源からの距離が近いために、ゾーンZ1からの音が聞き取りにくくなる可能性が高い。
以下、ゾーンZ1を第1ゾーンと呼び、ゾーンZ2を第2ゾーンと呼ぶ。第1ゾーンZ1はリビングとダイニングとの少なくとも一方とは限らず、また第2ゾーンZ2はキッチンに限らない。すなわち、単一の空間に第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2とがあり、聞き取りを妨げる音を発生する音源が第2ゾーンZ2に存在していれば、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2とはどのような場所でもよい。第2ゾーンZ2は、たとえば複写機の周囲であって、第1ゾーンZ1は、複写機から離れた場所であってもよい。
上述のように、第2ゾーンZ2のユーザは、第2ゾーンZ2で発生する音のために、第1ゾーンZ1からの音を聞き取りにくい場合がある。第1ゾーンZ1からの音には、第1ゾーンZ1の人からの音声、第1ゾーンZ1に置かれているテレビジョン受像機の音声などがある。
図2に示すように、以下に説明する会話支援システム10は、複数のマイクロホン11A、11Bと、スピーカ12と、処理装置13とを備えている。以下の説明では、2つのマイクロホン11A、11Bを備える会話支援システム10を想定しているが、3つ以上のマイクロホンを2つのグループに分けてもよい。マイクロホン11A、11Bそれぞれはコンデンサ型が採用される。
一方のマイクロホン11Aは、第1ゾーンZ1を向くように配置され、主として第1ゾーンZ1で生じる音を受け取る。また、他方のマイクロホン11Bは、第2ゾーンZ2を向くように配置され、主として第2ゾーンZ2で生じる音を受け取る。以下、マイクロホン11Aを第1マイクロホンと呼び、マイクロホン11Bを第2マイクロホンと呼ぶ。第1マイクロホン11Aと第2マイクロホン11Bとは、いずれも1つ以上あればよい。
第1マイクロホン11Aには第1ゾーンZ1のみの音が入射するわけではなく第2ゾーンZ2からの音も回り込んで入射し、第2マイクロホン11Bには第2ゾーンZ2のみの音が入射するわけではなく第1ゾーンZ1からの音も回り込んで入射する(図4参照)。そのため、第1マイクロホン11Aは、第2ゾーンZ2から入射する音が第1ゾーンZ1から入射する音の音圧に比べて小さくなるように、配置が工夫されている。同様に、第2マイクロホン11Bは、第1ゾーンZ1から入射する音が第2ゾーンZ2から入射する音の音圧に比べて小さくなるように、配置が工夫されている。
スピーカ12は、主として第2ゾーンZ2に向けて音波を出力するように配置されている。第1マイクロホン11Aおよび第2マイクロホン11Bから出力される音信号(第1音信号)は、処理装置13を通して第2音信号に変換され、第2音信号がスピーカ12に与えられる。処理装置13は、第1音信号のうち第2ゾーンZ2で生じた音の成分が相対的に低減された音信号を第2音信号としてスピーカ12に与える。したがって、スピーカ12が出力する音は、第1マイクロホン11Aに入射した音から第2ゾーンZ2で発生した音の成分が低減された音である。
処理装置13は、帯域フィルタ131と前置処理部132と主処理部133と後置処理部134とを備える。処理装置13は、プログラムを実行するプロセッサを有したデバイスを主要なハードウェア要素として備える。この種のデバイスには、メモリを一体に備えるデバイスと、メモリを別途に必要とするデバイスとがある。とくに、本実施形態の処理装置13は、DSP(Digital Signal Processor)を主要なハードウェア要素として備えていることが望ましい。プログラムは、ROM(Read Only Memory)にあらかじめ保存されている場合があるが、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリのようなコンピュータで読取可能な記録媒体から読み込んでもよい。さらに、処理装置13は、インターネットのような電気通信回線を通してプログラムを取得するように構成されていてもよい。
帯域フィルタ131は、第1マイクロホン11Aと第2マイクロホン11Bとのそれぞれから出力される第1音信号のうち、可聴周波数を通過させるように構成されている。第1マイクロホン11Aが出力する音信号に対する帯域フィルタ131の通過帯域特性と、第2マイクロホン11Bが出力する音信号に対する帯域フィルタ131の通過帯域特性とは、同じである場合を想定しているが、異なる場合もある。
帯域フィルタ131は、アナログ回路とデジタル回路とのどちらであってもよい。ただし、帯域フィルタ131の後の信号処理はデジタル信号処理を行う。そのため、会話支援システム10は、帯域フィルタ131に入力される第1音信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、帯域フィルタ131を通過した音信号をデジタル信号に変化するAD変換器とのいずれかを備える。
前置処理部132は、スピーカ12が出力した音波が、第1マイクロホン11Aおよび第2マイクロホン11Bに入射することによって生じる現象を抑制するために設けられている。この種の現象には、エコーおよびハウリングがある。すなわち、前置処理部132は、エコーおよびハウリングの抑制を行う。
具体的には、前置処理部132は、第1マイクロホン11Aと第2マイクロホン11Bとがそれぞれ出力する第1音信号と、スピーカ12に与える第2音信号を適応フィルタで調節した後の音信号との差分を出力する。適応フィルタは、第1マイクロホン11Aとスピーカ12との伝達特性および第2マイクロホン11Bとスピーカ12との伝達特性に基づいてフィルタ係数が定められる。
第1マイクロホン11Aとスピーカ12との位置関係および第2マイクロホン11Bとスピーカ12との位置関係は、変化しないと仮定できる。そのため、適応フィルタの伝達特性の変化も大きくない。したがって、前置処理部132は、適応フィルタを用いない構成であっても、既知の伝達関数を適用して、エコーおよびハウリングの抑制を行うことが可能である。
主処理部133は、第1マイクロホン11Aが出力し前置処理部132を通った音信号と、第2マイクロホン11Bが出力し前置処理部132を通った音信号とを用いて、第2ゾーンZ2で発生した音の成分を抑制した音信号を出力する。言い換えると、主処理部133は、第1ゾーンZ1で発生した音の成分に相当する音信号を抽出する。
説明を簡単にするために、以下では、第1マイクロホン11Aが出力し前置処理部132を通った音信号を主信号と呼び、第2マイクロホン11Bが出力し前置処理部132を通った音信号を副信号と呼ぶ。主信号は第1マイクロホン11Aが出力した音信号に基づいているから、主として第1ゾーンZ1で生じた音の成分を含む。また、副信号は第2マイクロホン11Bが出力した音信号に基づいているから、主として第2ゾーンZ2で生じた音の成分を含む。ただし、主信号は第2ゾーンZ2で生じた音の成分を含み、副信号は第1ゾーンZ1で生じた音の成分を含む。
ここで、会話支援システム10が抑制すべき音は、第2ゾーンZ2に存在する水栓から吐出する水の音のように、おおむね第2ゾーンZ2の定位置に存在する音源が発生させている。そのため、第2マイクロホン11Bは音源からの距離が近い定位置に位置させることが可能である。第2ゾーンZ2の音源に近い定位置に第2マイクロホン11Bが配置されていれば、副信号において、第1ゾーンZ1で発生した音のパワーは、第2ゾーンZ2で発生した音のパワーに対して、きわめて小さいと言える。そのため、副信号に含まれる音の成分は、おおむね第2ゾーンZ2に存在する音源から生じた音の成分とみなせる。
主処理部133は、主信号のうち第2ゾーンZ2で発生した音声の成分を低減させるために、副信号のパワーおよび遅延時間を調節した信号を主信号から減算している。言い換えると、主信号のうち副信号の成分を減殺している。主処理部133は、適応フィルタ31と係数更新部32と減算部33とを備える。適応フィルタ31は、可変FIRフィルタ(FIR:finite impulse response)であって、フィルタ係数を変化させることにより伝達関数を調節して副信号を低減させる。係数更新部32は、減算部33が出力する音信号と副信号とに基づいて、減算部33が出力する音信号に副信号に相当する成分が含まれないように、適応フィルタ31のフィルタ係数を調節する。係数更新部32は、たとえばLMSアルゴリズム(LMS:Least Mean Square)によりフィルタ係数を定める。減算部33は、主信号から適応フィルタ31が出力する音信号を減算し、主信号のうち第2ゾーンZ2で生じた音に相当する成分を低減させる。
図2に示す会話支援システム10は、後置処理部134を備える。後置処理部134は主処理部133が出力した音信号に関して、周波数特性を調節する機能と、レベルを調節する機能とを有している。また、後置処理部134は、主処理部133から受け取ったデジタル信号をアナログ信号に変換するDA変換器と、デジタル信号をアナログ信号に変換する際に生じるノイズを抑制するノイズシェーピングの機能を有している。後置処理部134が出力する第2音信号はアナログ信号である。
音信号の周波数特性は、音信号の周波数に対するパワーの関係である。後置処理部134は、たとえば高音域のパワーを低音域よりも大きくする機能、低音域のパワーを高音域よりも大きくする機能、あるいは高音域と低音域との両方のパワーを中音域よりも大きくする機能などから選択される機能を有している。
一般に、人は加齢により1kHz以上の高音域の聴力が低下することが知られている。そのため、後置処理部134は、たとえば、年齢に応じた平均的な聴力低下に合わせて高音域のレベルを調節するように構成される。また、処理装置13は、年齢を選択する操作部を備えることが望ましい。後置処理部134は、操作部で年齢が選択されると、年齢に応じた周波数特性が設定されるように構成されていればよい。また、聴力が低下する程度には個人差があるから、処理装置13が周波数特性を任意に調節する操作部を備え、後置処理部134は、操作部の操作に応じた周波数特性が設定されるように構成されていてもよい。
後置処理部134におけるレベル調節機能は、スピーカ12に与える第2音信号のレベルを調節する機能である。処理装置13は、スピーカ12から出力される音のレベルを調節する操作部を備えることが望ましい。後置処理部134は、操作部で音のレベルが調節されると、スピーカ12から出力される音のレベルが調節されるように構成されていればよい。また、処理装置13に年齢を選択する操作部を設けている場合、後置処理部134は、操作部で年齢を選択すると、人の加齢による聴力低下に対応するように、スピーカ12から出力される音のレベルを調節する構成であってもよい。あるいはまた、後置処理部134は、第2ゾーンZ2で発生している音のレベルに応じて、スピーカ12から出力する音のレベルを自動的に調節する構成であってもよい。
上述した後置処理部134の機能は、適宜に組み合わせて用いることが可能である。また、必要に応じて後置処理部134の機能が選択可能となるように、処理装置13が後置処理部134の機能を選択するための操作部を備えていることが望ましい。
図2に示す会話支援システム10は、後置処理部134からスピーカ12に与える第2音信号の経路において、前置処理部132との分岐点よりも前に、加算回路135を備える。加算回路135は、後置処理部134が出力した第2音信号と、他装置から入力インターフェイス136を通して受け取る音信号とを加算する。
入力インターフェイス136は、テレビジョン受像機あるいはインターホン親機などの他装置からの音信号を受け取る。入力インターフェイス136は、有線伝送路と無線伝送路との少なくとも一方を通して音信号を受け取るように構成されている。入力インターフェイス136は、他装置からアナログ信号である音信号を受け取る構成のほか、他装置との通信により音信号の情報を受け取る構成であってもよい。他装置とは、Bluetooth(登録商標)のような既存の通信方式で通信する。他装置から直接または通信によって、入力インターフェイス136が音信号を受け取ると、加算回路135は、他装置からの音信号を第2音信号と併せてスピーカ12から出力する。この種の加算回路135は、演算増幅器を用いた加算増幅器を構成することにより実現される。なお、加算回路135および入力インターフェイス136は必須ではない。
上述した構成の会話支援システム10は、第1マイクロホン11Aが主として第1ゾーンZ1で発生した音を受け取るように配置され、第2マイクロホン11Bが主として第2ゾーンZ2の音源で発生した音を受け取るように配置される。具体例を示すと、第1ゾーンZ1に滞在する人が発する音を第1マイクロホン11Aで受け取るために、第1マイクロホン11Aは第1ゾーンZ1を向くように配置される。また、第2ゾーンZ2の音源からの音を第2マイクロホン11Bで受け取るために、第2マイクロホン11Bは音源の近くに配置される。
第1マイクロホン11Aと第2マイクロホン11Bとが上述したように配置されているとすると、第1マイクロホン11Aには、主として第1ゾーンZ1で発生した音波が入射するが、第2ゾーンZ2で発生した音波も回り込む。一方、第2マイクロホン11Bに入射する音波は、大部分が第2ゾーンZ2の音源で発生した音波である。したがって、主処理部133では、第1マイクロホン11Aが出力した音信号において、第2ゾーンZ2の音源で発生した音波の成分が低減される。その結果、後置処理部134から出力される第2音信号は、第2ゾーンの音源で発生した音の成分をほとんど含まない。そのため、スピーカ12が出力する音波の大部分は、第1ゾーンZ1で発生した音に相当する音波であって、第2ゾーンZ2に滞在するユーザに、第1ゾーンZ1で発生した音を伝達することが可能になる。スピーカ12から出力する音波の音圧が適正に調節されていれば、ユーザが第2ゾーンZ2において音源の近くに滞在する場合でも、ユーザは第1ゾーンZ1で発生した音を聞き取れる可能性が高くなる。
処理装置13は、後置処理部134において、第2音信号における周波数特性を調節するように構成されていてもよい。たとえば、後置処理部134は、第2音信号の高音域のゲインを低音域および中音域のゲインよりも大きくするように周波数特性を調節する。また、後置処理部134は、高音域と低音域とのゲインを中音域のゲインよりも大きくするように周波数特性を調節してもよい。あるいは、後置処理部134は、複数の周波数域について、周波数域ごとにゲインを調節するように構成されていてもよい。
具体的な周波数特性について、とくに制限はないが、年齢に応じた聴力低下あるいは疾病による聴力低下などによる平均的なデータに基づいて、周波数特性が定められることが望ましい。とくに、年齢が高くなるにつれて、全周波数に対する聴力が低下し、高音域ほど聴力が低下することが知られているから、後置処理部134は、年齢の区間に応じて周波数とゲインとの関係を定めるように構成されていることが望ましい。
たとえば、後置処理部134は、年齢が高いほど、全体のゲインが大きく、かつ高音域での周波数に対するゲインが相対的に大きくなるように、年齢に応じて周波数特性を定めていることが望ましい。たとえば、年齢は、50歳代、60歳代、70歳代、80歳代のように区間が定められ、年齢の区間ごとに周波数特性が定められる。ここでは、周波数特性は、周波数の区間ごとのゲインとして定められている。
周波数の区間は、一例として、大部分の音が含まれる30[Hz]から10[kHz]までの周波数範囲内で、低周波側から2倍の周波数ごとに分けて定められる。いま、処理装置13が、250[Hz]から6[kHz]までの周波数帯域を扱うとすれば、250[Hz]、500[Hz]、1[kHz]、2[kHz]、4[kHz]、6[kHz]を、周波数の区間の境界とする。
年齢の区間ごとのゲインは、50歳代ならば5[dB]、80歳代なら20[dB]などに定められる。また、60歳代であれば、1[kHz]から2[kHz]の区間では7[dB/oct]、2[kHz]から4[kHz]の区間では10[dB/oct]などに周波数特性が定められる。
上述した数値は、例を示す目的で用いており、たとえば、年齢の区分は、さらに細分化することが可能であり、年齢の区分は等間隔でなくてもよい。また、周波数の区間の境界が2倍の周波数であることも必須ではない。
年齢の区間ごとに周波数特性が定められている場合、上述したように処理装置13が操作部を備え、操作部を通して年齢の区間が入力されると、後置処理部134が年齢の区間に応じた周波数特性を選択する構成であることが望ましい。なお、処理装置13は、スマートフォンまたはタブレットコンピュータのような操作表示装置を備えた端末装置と通信するための通信用インターフェイスを備えていてもよい。通信用インターフェイスを備える処理装置13は、端末装置からの指示を受けて年齢の区間を選択するように構成されていることが望ましい。
なお、処理装置13が周波数特性を調節する構成を備えるか否かは選択可能である。また、周波数特性を調節する目的は、年齢などによる聴力の低下に限らない。後置処理部134は、たとえば、会話支援システム10を設ける場所の音響的な特性、第2ゾーンZ2に滞在するユーザが聞こうとする音の特性などに応じて、全体のゲインと周波数特性との一方を調節してもよい。
ところで、会話支援システム10は、第1マイクロホン11A、第2マイクロホン11B、スピーカ12、処理装置13を個別に備えていてもよいが、複数の要素が分離されていると、会話支援システム10を設置する作業に手間がかかる。もちろん、処理装置13をケースに収納し、接続線およびコネクタを介して、第1マイクロホン11A、第2マイクロホン11B、スピーカ12をそれぞれ処理装置13に接続してもよい。あるいは、第1マイクロホン11A、第2マイクロホン11B、スピーカ12の少なくとも1つを処理装置13と同じ筐体に収納してもよい。
ここでは、会話支援システム10について複数種類の形態を例として説明する。いずれの形態であっても、図3に示すように、処理装置13は筐体40に収納される。また、会話支援システム10は、屋内配線から電源電力を受ける構成を想定しており、電源線を通して供給される交流電力を内部回路の電源に変換する電源装置も筐体40に収納される。図3に示す会話支援システム10は、処理装置13と併せて、第1マイクロホン11A、第2マイクロホン11B、スピーカ12が筐体40に収納されている。この筐体40は、キッチンに配置されることが想定されており、防滴の構造が採用されている。また、第1マイクロホン11A、第2マイクロホン11B、スピーカ12は、水滴、水蒸気、油煙などが付着しても、長期間に亘って性能を維持できるように構成されている。
図3に示す筐体40は、キッチンとしての第2ゾーンZ2に設置されているカウンタトップ22と、第1ゾーンZ1との間に設置されている仕切壁23に少なくとも一部が収納された状態で、仕切壁23に固定される。仕切壁23は、カウンタトップ22の上に載っている物品を第1ゾーンZ1から見えにくくし、かつカウンタトップ22が備えるシンク21から第1ゾーンZ1への水滴の飛散を抑制する。そのため、仕切壁23は、カウンタトップ22の上面に対して、10[cm]から30[cm]程度高い。筐体40は、仕切壁23において、カウンタトップ22の上面よりも上方に突出している部位に、少なくとも一部が埋め込まれる。
筐体40は、直方体状であって、長方形状のパネル41と、パネル41が取り付けられた容器42とを備える。パネル41と容器42とは、たとえば次の構成によって結合されている。すなわち、パネル41に一体に備える爪が、容器42が有する溝あるいは孔に結合する構成が採用される。パネル41と容器42とを結合させる構成は、2部材を結合するための周知の構成を採用することが可能である。
筐体40を仕切壁23に配置する場合、筐体40は、長手方向がカウンタトップ22の上面に沿うように配置される。また、筐体40は、仕切壁23において第2ゾーンZ2を向いた面にパネル41が露出するように配置される。図3に示す筐体40は、仕切壁23において第2ゾーンZ2を向いた面にのみ露出し、仕切壁23において第1ゾーンZ1を向いた面に筐体40は露出しない。
筐体40を仕切壁23に取り付けるために、たとえば以下の構成が用いられる。ここでは、仕切壁23が、離れて配置された2枚の板材231、232を有し、2枚の板材231、232の間に空洞が形成されている構造を想定する。2枚の板材231、232のうち、第2ゾーンZ2に近いほうの板材232には筐体40の一部が嵌まる埋込孔233が開口する。また、容器42は開口面に沿って外向きに突出する取付片を備え、取付片は貫通孔を有している。容器42が埋込孔に挿入されたときに、取付片の一部が埋込孔の周部に当たるように、取付片の寸法が定められている。貫通孔には取付ねじが挿入され、取付ねじの先端部には挟み板がねじ結合される。挟み板は、取付片との間で埋込孔の周部を挟めるように寸法および形状が設計されており、取付ねじを締め付けると、挟み板が取付板に近づくように移動して、挟み板と取付板との間で、埋込孔の周部が挟まれる。すなわち、容器42が仕切壁23に固定される。容器42が仕切壁23に固定された後には、パネル41を容器42に結合させると、取付ねじの頭部がパネル41により隠される。
筐体40を仕切壁23に取り付ける技術は、配線器具などを壁に取り付ける技術と同様である。したがって、上述した構造に限らず、配線器具に準じた周知の技術を採用して、筐体40を仕切壁23に取り付けることができる。
第1マイクロホン11Aは筐体40とは別に配置され、パネル41には、第2マイクロホン11Bとスピーカ12が取り付けられている。第1マイクロホン11Aは、仕切壁23において、第1ゾーンZ1を向いた面に配置される。したがって、第1マイクロホン11Aは、主として第1ゾーンZ1で発生した音波を受け取り、第2マイクロホン11Bは、主として第2ゾーンZ2で発生した音波を受け取る。また、スピーカ12は、主として第2ゾーンZ2に向けて音波を出力する。スピーカ12は1個でもよいが、筐体40の大きさに制限があるから、複数個のスピーカ12が筐体40の長手方向に並べられる。この構成により、小口径のスピーカ12を用いながらも、十分大きい音圧を確保することが可能である。
会話支援システム10が図3に示す構成を備えている場合、第1マイクロホン11Aと第2マイクロホン11Bとは、図4に示すように音波を受け取ると考えられる。ここで、筐体40は第2ゾーンZ2の音源SS2に近い場所に配置されると仮定する。たとえば、筐体40と音源SS2との距離は、50[cm]より短い。一方、仕切壁23と第1ゾーンZ1の音源SS1とは、1[m]から3[m]程度離れていることが多い。
上述した条件を仮定すると、音源SS1から第1マイクロホン11Aへの音波の経路R11の長さと、音源SS1から第2マイクロホン11Bへの音波の経路R12の長さとの比は1に近い。一方、音源SS2から第1マイクロホン11Aへの音波の経路R21の長さと、音源SS2から第2マイクロホン11Bへの音波の経路R22の長さとの比は1より大幅に大きく、たとえば2を超える場合もある。
実測では、以下のような結果が得られた。すなわち、音源SS1が発生した音波は、おおむね2[kHz]より低い周波数では、第1マイクロホン11Aでの音圧と第2マイクロホン11Bでの音圧とに大きな差異が生じなかった。一方、音源SS2が発生した音波は、おおむね2[kHz]より低い周波数では、第1マイクロホン11Aでの音圧が第2マイクロホン11Bでの音圧に対して10[dB]以上低くなった。
このことから、上述したように、処理装置13は、第1マイクロホン11Aに入射した音から、音源SS2で生じた音の成分を低減させた音をスピーカ12から出力することが可能である。すなわち、スピーカ12から出力される音は、第1ゾーンZ1で生じた音が強調されているから、第2ゾーンZ2において音源SS2の近くに滞在しているユーザであっても、第1ゾーンZ1からの音が聞き取りやすくなる。
ところで、第1マイクロホン11Aが筐体40から分離される場合、必ずしも筐体40を仕切壁23に埋め込む必要はなく、筐体40の全体が仕切壁23から露出していてもよい。たとえば、仕切壁23において第2ゾーンZ2に向かう面に筐体40を固定する構成を採用可能であり、またアウトレット(電源コンセント)に差し込む栓刃が筐体40の一面から突出する形態を採用することも可能である。前者の構成では、図5のように、仕切壁23の内部に敷設された屋内配線24が仕切壁23から引き出されて筐体40に接続される。筐体40を仕切壁23に固定する技術としては、仕切壁23に固定された取付具に筐体40を取り付ける構成、容器42をねじのような固定具で仕切壁23に固定する構成などが採用される。後者の会話支援システム10は、アウトレットが仕切壁23に設けられている場合に便利である。どちらの構成であっても、第1マイクロホン11Aは、図4に示した会話支援システム10と同様に、筐体40から分離して設けられる。
上述した会話支援システム10では、第1マイクロホン11Aが筐体40から分離されているが、図6に示すように、第1マイクロホン11Aは筐体40に収納されてもよい。図6に示す会話支援システム10は、図4に示す会話支援システム10と同様に、筐体40を仕切壁23に埋め込んでいる。ただし、図4に示す会話支援システム10は、仕切壁23において第2ゾーンZ2に向いた面から筐体40が露出しているが、図6に示す会話支援システム10の筐体40は、仕切壁23において第1ゾーンZ1に向いた面にも露出している。すなわち、筐体40の奥行寸法が、仕切壁23の厚み寸法と同程度に設計されている。
図6に示す筐体40のうち第1ゾーンZ1に向かう面を第1面401とし、筐体40のうち第2ゾーンZ2に向かう面を第2面402とする。第1マイクロホン11Aは第1面401に入射する音波を受け取るように筐体40に設けられ、第2マイクロホン11Bは第2面402に入射する音波を受け取るように筐体40に設けられる。図4に示した会話支援システム10と同様に、第1ゾーンZ1の音源SS1からの音波は、第1マイクロホン11Aと第2マイクロホン11Bとに同程度の音圧で入射する。また、第2ゾーンZ2の音源SS2からの音波については、第1マイクロホン11Aへの入射時の音圧のほうが第2マイクロホン11Bへの入射時の音圧よりも相当程度に小さくなる。したがって、図6に示す会話支援システム10でも、上述した処理装置13によって、音源SS2で生じた音の成分を低減させた第2音信号がスピーカ12に与えられる。
上述した説明から明らかなように、第2マイクロホン11Bは、第2ゾーンZ2の音源SS2からの音波が入射しやすいように音源SS2の近くに配置されることが望ましい。また、スピーカ12が出力した音が第2ゾーンZ2に滞在するユーザに聞き取り易いように、スピーカ12はユーザの耳の近くに配置されることが望ましい。そのため、第2マイクロホン11Bは音源SS2の高さに合わせて仕切壁23に配置し、スピーカ12は比較的高い位置に配置されていることが望ましい。すなわち、スピーカ12は、仕切壁23の上に載せる構成、仕切壁23よりも高い場所に配置する構成などであってもよい。また、第1マイクロホン11Aとスピーカ12とを筐体40に収納する場合には、スピーカ12が第1マイクロホン11Aより上に配置されていることが望ましい。
会話支援システム10は、第2ゾーンZ2に人が滞在するときに動作すればよく、また第2ゾーンZ2において音源SS2から音が生じる期間に動作すればよい。そのため、第2ゾーンZ2に人が存在するか否かを監視する装置、音源SS2の動作と連動するように会話支援システム10を動作させる機能などが会話支援システム10に付加されていてもよい。
第2ゾーンZ2に人が存在するか否かを監視する装置は、焦電型赤外線センサを用いた人感センサ、半導体イメージセンサを備えるカメラで撮像した画像に基づいて人が存在するか否かを判断する人センサなどから選択される。また、会話支援システム10の動作を音源SS2の動作と連動させる場合には、音源SS2を動作させるときのレバーあるいはスイッチの機械的な動きを会話支援システム10に電気的に通知すればよい。会話支援システム10は電気的に通知された情報を受け取って動作を開始するように構成されていればよい。
会話支援システム10に電気的に通知する技術としては、接点のオンまたはオフで表す場合と、音源SS2の動作を信号により通知する場合とがある。たとえば、水栓を開いて吐水させると接点がオンになるように水栓が構成されている場合、この接点がオンになることにより会話支援システム10が動作を開始すればよい。
以上説明した実施形態1の会話支援システム10は、複数のマイクロホン11A、11Bとスピーカ12と処理装置13とを備える。複数のマイクロホン11A、11Bは、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2とを有する単一の空間で発生する音を受け取る。スピーカ12は、第2ゾーンZ2に向けて音を出力する。処理装置13は、複数のマイクロホン11A、11Bが出力した第1音信号から第2ゾーンZ2で生じた音の成分を相対的に低減させた第2音信号をスピーカ12に与える。
すなわち、会話支援システム10は、第1ゾーンZ1で生じた音に対応する音信号と第2ゾーンZ2で生じた音に対応する音信号とを用いて、第2ゾーンZ2で生じた音の成分を相対的に低減させた音信号をスピーカ12から出力させる。その結果、主として第1ゾーンZ1で生じた音がスピーカ12から出力され、会話支援システム10を用いない場合と比較すると、第2ゾーンZ2に滞在するユーザにとって、第1ゾーンZ1で生じた音が聞き取りやすくなる。第2ゾーンZ2に滞在するユーザに近接してスピーカ12が配置され、かつスピーカ12が出力する音は主として第1ゾーンZ1で発生した音である。そのため、第2ゾーンZ2で騒音が生じていても、第2ゾーンZ2に滞在するユーザは第1ゾーンZ1からの音を聞き取ることが可能である。
複数のマイクロホン11A、11Bは、第1ゾーンZ1を向いた第1マイクロホン11Aと、第2ゾーンZ2を向いた第2マイクロホン11Bとであることが望ましい。また、処理装置13は、第1マイクロホン11Aが出力した第1音信号から第2マイクロホン11Bが出力した第1音信号を減殺することにより、第2音信号を生成するように構成されていることが望ましい。
すなわち、第1マイクロホン11Aには第1ゾーンZ1からの音波と第2ゾーンZ2からの音波とが入射しているのに対して、第2マイクロホン11Bには主として第2ゾーンZ2からの音波が入射する。そのため、第1マイクロホン11Aが出力した第1音信号から第2マイクロホンが出力した第1音信号を減殺すると、第2ゾーンZ2で生じた音の成分を低減させることが可能である。
ところで、単一の空間は、リビングとダイニングとの少なくとも一方であるゾーンとキッチンであるゾーンとを有することがある。この場合、リビングとダイニングとの少なくとも一方であるゾーンが第1ゾーンZ1であり、キッチンであるゾーンが第2ゾーンZ2である。
この構成は、会話支援システム10を使用する一形態であって、キッチンに滞在するユーザが水栓を使用するような場面を想定している。このような場面では、キッチンに滞在するユーザは、水栓で生じている音によって、リビングとダイニングとの少なくとも一方で発生した音を直接には聞き取りにくい場合がある。これに対して、会話支援システム10を用いると、リビングとダイニングとの少なくとも一方で発生した音がスピーカ12から出力されるから、キッチンに滞在するユーザは、リビングとダイニングとの少なくとも一方で発生した音の聞き取りが容易になる。
会話支援システム10は、複数のマイクロホン11A、11Bのうちの少なくとも一部とスピーカ12と処理装置13とが設けられている筐体40を備えていてもよい。筐体40は、第2ゾーンZ2に設置されたカウンタトップ22と第1ゾーンZ1との間に設置されている仕切壁23に少なくとも一部が収納された状態で仕切壁23に固定されるように構成されていることが望ましい。
この構成は、会話支援システム10の一形態であって、筐体40の少なくとも一部が仕切壁23に埋め込まれた状態で会話支援システム10が設置される。この構成を採用すると、第2マイクロホン11Bを水栓のような音源の近くに固定することにより、音源からの音波を確実に捉えることができる。したがって、第2マイクロホン11Bに入射する音波は大部分が音源からの音波であり、処理装置13では第2ゾーンZ2で生じた音の成分の除去が容易になる。
筐体40は、第2ゾーンZ2に設置されたカウンタトップ22と第1ゾーンZ1との間に設置されている仕切壁23における第2ゾーンZ2に向いた面から全体が露出した状態で仕切壁23に取り付けられるように構成されていてもよい。
この構成を採用すると、筐体40を取り付けるための埋込孔が不要であり、既存の仕切壁23に筐体40を取り付けることが可能である。また、第2マイクロホン11Bを水栓のような音源の近くに固定することが可能であり、音源からの音波を確実に捉えることができる。したがって、第2マイクロホン11Bに入射する音波は大部分が音源からの音波であり、処理装置13では第2ゾーンZ2で生じた音の成分の除去が容易になる。
会話支援システム10は、複数のマイクロホン11A、11Bとスピーカ12と処理装置13とが設けられている筐体40を備えていてもよい。筐体40は、第2ゾーンZ2に設置されたカウンタトップ22と第1ゾーンZ1との間に設置されている仕切壁23に収納された状態で仕切壁23に固定されていてもよい。この筐体40は、仕切壁23における第1ゾーンZ1に向いた面と第2ゾーンZ2に向いた面とにそれぞれ露出するように構成される。複数のマイクロホン11A、11Bのうちの一部は、筐体40において第1ゾーンZ1に向いた面に入射する音を受け取るように設けられる。また、複数のマイクロホン11A、11Bのうちの残りは、筐体40において第2ゾーンZ2に向いた面に入射する音を受け取るように設けられる。
この構成によれば、第1マイクロホン11Aと第2マイクロホン11Bとが、スピーカ12および処理装置13と併せて筐体40に収納される。すなわち、筐体40の外部に、第1マイクロホン11A、第2マイクロホン11B、スピーカ12などを接続するための接続線が引き出されることがなく、会話支援システム10を見栄えよく設置することが可能である。また、第1マイクロホン11A、第2マイクロホン11B、スピーカ12の位置が、筐体40に対して固定されるから、施工状態のばらつきが抑制される。
処理装置13は、第2音信号における周波数特性を調節するように構成されていてもよい。この構成によれば、第2音信号の周波数特性を、高齢者あるいは聴力に関する疾病があるユーザに合うように調節することが可能である。すなわち、聴力が低下しているユーザであっても、スピーカ12を通して聞き取りやすい音を出力させることが可能である。
(実施形態2)
実施形態1の会話支援システム10は、第1ゾーンZ1を向いた第1マイクロホン11Aと、第2ゾーンZ2を向いた第2マイクロホン11Bとを備えている。これに対して、本実施形態の会話支援システム10は、図7のように、第1ゾーンZ1からの音波と第2ゾーンZ2からの音波とをとくに区別することなく受け取るように配置された複数のマイクロホン11を備える。そのため、複数のマイクロホン11は、たとえば仕切壁23の上面に配置される。複数のマイクロホン11は、音源から発生する音波の最高周波数の波長に基づいて定められた間隔で互いに離れて配置される。複数のマイクロホン11は、音波の最高周波数の半波長より間隔が小さくなるように配置される。複数のマイクロホン11の中心間の距離は、たとえば20[mm]より小さく、マイクロホン11の個数は最小では2個である。ただし、複数のマイクロホン11の個数、間隔、配置などは適宜に設計される。複数のマイクロホン11は、たとえば一直線上に等間隔で配列されていてもよく、2次元格子の格子点上に配列されていてもよい。
本実施形態の会話支援システム10は、複数のマイクロホン11それぞれが出力する音信号(第1音信号)に対して処理装置13が行う信号処理により、音波の到来方向に指向性を付与するように構成されている。処理装置13は、音波が複数のマイクロホン11に到来する時間差と振幅差とのうちの少なくとも時間差に着目する。そして、処理装置13は、複数のマイクロホン11それぞれが出力する音信号の時間差と振幅差とのうちの少なくとも時間差に基づいて、特定の方向から到来する音波に対応した音の成分を強調するか減衰させる。具体的には、音波を平面波とみなす場合、音波が到来する方向に応じて複数の音信号それぞれの遅延時間を調節する。さらに、遅延後の音信号の加算で目的方向の音波に対応した音信号を強調し、遅延後の音信号の減算で目的方向ではない音波に対応した音信号を減衰させるように構成されている。言い換えると、目的方向に感度を高め、目的方向ではない方向には感度を低減させるように、音信号に対する遅延時間が調節される。目的方向の制御をビームステアリングと呼び、目的方向ではない方向の制御をヌルステアリングと呼ぶ。なお、マイクロホン11の間隔、音源とマイクロホン11との距離などによっては、音波を球面波とみなす必要がある。この場合、ビームステアリング、ヌルステアリングを行うために、時間差だけではなく振幅差も用いる。
複数のマイクロホン11それぞれは、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2との両方の音波が入射するように配置される。そのため、マイクロホン11は、たとえば仕切壁23の上面に配置される。処理装置13は、ビームフォーマ137とブロッキングフィルタ138とを備える。ビームフォーマ137は、目的方向からマイクロホン11に到来する音波に対する感度を高めるように音信号の遅延時間を調節する。また、ブロッキングフィルタ138は、目的方向ではない方向からマイクロホン11に到来する音波に対する感度を下げるように音信号の遅延時間を調節するブロッキングフィルタ138とを備える。
ビームフォーマ137は、第1ゾーンZ1からマイクロホン11に入射する音波に対する感度を高めるように、複数のマイクロホン11それぞれに対応した音信号の遅延時間を調節し、遅延後の音信号を加算する。すなわち、ビームフォーマ137は、ビームステアリングを行う。また、ブロッキングフィルタ138は、第2ゾーンZ2の音源SS2からマイクロホン11に入射する音波に対する感度を下げるように、複数のマイクロホン11それぞれに対応した音信号の遅延時間を調節し、調節後の音信号を減算する。すなわち、ブロッキングフィルタ138は、ヌルステアリングを行う。
処理装置13は、ビームフォーマ137とブロッキングフィルタ138とのほかに、雑音抑圧フィルタ139を備える。雑音抑圧フィルタ139は、ビームフォーマ137の出力とブロッキングフィルタ138の出力とを組み合わせることにより、第1ゾーンZ1からの音波に対応する音信号を強調し、第2ゾーンZ2からの音波に対応する音信号を減衰させる。雑音抑圧フィルタ139が出力した音信号は第2音信号としてスピーカ12に与えられる。
以上のように、処理装置13は、第1ゾーンZ1からの音波に対する感度を高めるようにビームステアリングを行い、第2ゾーンZ2の音源SS2からの音波に対する感度を下げるようにヌルステアリングを行う。なお、処理装置13は、実施形態1と同様に、プログラムを実行するプロセッサを有したデバイスを主要なハードウェア要素として備える。また、プログラムは、プログラムがあらかじめ格納されたROM(Read Only Memory)に格納されているか、コンピュータ読取可能な記録媒体により提供されるか、電気通信回線を通して提供される。
図7では図2における主処理部133に置き換える構成のみを記載している。したがって、本実施形態の処理装置13は、帯域フィルタ131、前置処理部132、後置処理部134を備える。また、本実施形態の処理装置13においても、加算回路135、入力インターフェイス136は必要に応じて設けられる。また、実施形態1と同様に、会話支援システム10は、仕切壁23に固定される筐体40を備えていることが望ましい。本実施形態の他の構成および動作は実施形態1と同様である。
以上説明したように、実施形態2の会話支援システム10は、複数のマイクロホン11とスピーカ12と処理装置13とを備える。複数のマイクロホン11は、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2とを有する単一の空間で発生する音を受け取る。スピーカ12は、第2ゾーンZ2に向けて音を出力する。処理装置13は、複数のマイクロホン11が出力した第1音信号から第2ゾーンZ2で生じた音の成分を相対的に低減させた第2音信号をスピーカ12に与える。
すなわち、会話支援システム10は、第1ゾーンZ1で生じた音に対応する音信号と第2ゾーンZ2で生じた音に対応する音信号とを用いて、第2ゾーンZ2で生じた音の成分を相対的に低減させた音信号をスピーカ12から出力させる。その結果、主として第1ゾーンZ1で生じた音がスピーカ12から出力され、会話支援システム10を用いない場合と比較すると、第2ゾーンZ2に滞在するユーザにとって、第1ゾーンZ1で生じた音が聞き取りやすくなる。第2ゾーンZ2に滞在するユーザに近接してスピーカ12が配置され、かつスピーカ12が出力する音は主として第1ゾーンZ1で発生した音である。そのため、第2ゾーンZ2で騒音が生じていても、第2ゾーンZ2に滞在するユーザは第1ゾーンZ1からの音を聞き取ることが可能である。
また、実施形態2の会話支援システム10は、以下の構成を備える。すなわち、複数のマイクロホン11は互いに離れている。また、処理装置13は、複数のマイクロホン11それぞれが出力した第1音信号の時間差と振幅差とのうちの少なくとも時間差に基づいて、第1ゾーンで生じた音の成分を強調し第2ゾーンZ2で生じた音の成分を減衰させた第2音信号を生成するように構成されている。
この構成により、複数のマイクロホン11に入射する音波について、第1ゾーンZ1から到来する音波を強調し、第2ゾーンZ2から到来する音波を減衰させることが可能である。すなわち、音波を受ける感度に指向性を付与することによって、第2ゾーンZ2からの音を低減させ、第1ゾーンZ1からの音を強調して、スピーカ12から出力させることが可能である。
以上説明した実施形態1および実施形態2は、本発明の様々な実施形態の一部に過ぎない。また、実施形態1および実施形態2は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。