以下に、本発明の実施の形態に係るガス分析装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
この発明に係るガス分析装置100は、試料内に封止された残留ガスの組成を分析する。なお、説明に用いる図は、発明に実際の寸法や比について表したものではなく、本発明を説明するために表した模式図である。
図1は本発明の実施の形態1によるガス分析装置100の構成を示す概略図である。図1に例示するように、本実施の形態のガス分析装置100は、大きく試料室1と第一の分析室6と第二の分析室7、中間室4、オリフィス5、排気部8、制御演算部9から構成される。構成の詳細について次に説明する。
試料室1は、試料室1内に置かれた試験体3を開封する開封器2と、真空計G0、真空バルブVV1を備えている。試料室1は真空バルブVV1を介して中間室4に接続されている。真空計G0、G1、G2としては、例えばスピニングローターゲージ、隔膜真空計、クリスタルゲージがある。
また真空計G0、G1、G2として、例えば、コールドカソードゲージやB−A(Bayard−Alpert)ゲージなどの電離真空計、または、クリスタルゲージとコールドカソードゲージなどの電離真空計を組み合わせたコンビネーションゲージがある。真空計G0、G1、G2は圧力を計測するものである。
真空計G0は試料室1内の圧力を計測する。真空バルブVV1としては、たとえばゲートバルブが用いられる。真空バルブVV1はそのバルブの開閉によって試料室1と中間室4の空間の遮断および開放をおこなう。
ここで試験体3とは中空構造を有し、その中空構造内の容積が5mm3未満の非常に小さい半導体デバイス、またはいわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を想定している。またここで試験体3の開封とは、試験体3の破壊とにより、試験体3の残留ガスを試料室1内に開放させることを意味する。
中間室4は、真空バルブVV1、真空バルブVV2、オリフィス5を備えており、真空バルブVV1を介して試料室1から残留ガスを取込み可能に接続される。また、中間室4は、真空バルブVV2を介して第一の分析室6と、オリフィス5を介して第二の分析室7と接続されている。オリフィス5は残留ガスの流れを絞る役目を有している。オリフィス5としてはたとえば金属板に小さな穴をあけたもので円筒形状をしたものが用いられる。真空バルブVV2としては、たとえばゲートバルブが用いられる。
真空バルブVV2はそのバルブの開閉によって第一の分析室6中間室4の空間の遮断および開放をおこなう真空バルブで、制御演算部9が真空バルブを開放することにより、真空バルブの大きさは中間室4と第一の分析室6とが、ひとつの大きな部屋とみなせるような大きさであることが望ましい。
第一の分析室6は、真空計G1と質量分析計MS1とを備える。第一の分析室6は、真空バルブVV2により中間室4からの残留ガスを取り込み可能に中間室4と接続される。真空計G1は第一の分析室6内の圧力を計測する。真空計G1としては、例えば、コールドカソードゲージやB‐Aゲージ、ヌードゲージ等の電離真空計が用いられる。
試験体3の内部から解放された残留ガスは、真空バルブVV1と中間室4を通り、真空バルブVV2を通じて第一の分析室6に進む。そして、質量分析計MS1は、第一の分析室6に取込まれた残留ガスを計測、分析する。
質量分析計MS1、MS2には、例えば四重極型質量分析計が用いられる。ここで、質量分析計MS1、MS2とは、使用において上限の圧力が決まっているもので、多量のガスを計測、分析することは不向きなものを想定している。質量分析計MS1、MS2は、多量のガスによって雰囲気中において圧力が大きい場合は故障してしまうこともある。
また、本実施の形態では質量分析計を、第一の分析室6にある質量分析計MS1、第二の分析室7にある質量分析計MS2の二つであるがこの数に限定されるわけではない。一台の質量分析計により、第一の分析室に取り込まれた前記残留ガスと、第二の分析室に取り込まれた残留ガスを計測、分析してもよい。また、質量分析計の設置される位置は、第一の分析室に取り込まれた前記残留ガスと、第二の分析室に取り込まれた残留ガスを計測、分析できればよく限定されない。
第二の分析室7は、真空計G2と質量分析計MS2と排気部8が接続されている。第二の分析室7は、中間室4と、オリフィス5により中間室4からの残留ガスを取り込み可能に接続される。真空計G2は第二の分析室7内の圧力を計測する。真空計G2としてはB−Aゲージやヌードゲージ等の電離真空計が用いられる。
真空計G2は圧力が計測できればよく、真空計G0、G1と同じ種類でも異なった種類でもよく限定されない。本実施の形態では残留ガスの圧力を計測しているが、ガス量を計測できればよい。質量分析計MS2は試験体3の内部から解放された残留ガスについて、真空バルブVV1と中間室4を通り、オリフィス5を通じて第二の分析室7に導入された残留ガスを計測、分析するために設置されている。
オリフィス5は、中間室4から第二の分析室7に移動する残留ガスのガス量を絞ることができる。オリフィス5のコンダクタンスが小さすぎると、オリフィス5を通じて第二の分析室7に移動するガス量が少なくなり、計測下限を超える為、オリフィス5のコンダクタンスは小さすぎない方が好ましい。
質量分析計MS2には、質量分析計MS1と同じく、たとえば四重極型質量分析計が用いられる。ここで、質量分析計MS1と質量分析計MS2とは同等の性能のものを想定しているが、これに限定されるわけではなく、残留ガスの組成を計測、分析をするものであれば何でもよく、性能に差があってもよい。
第二の分析室7には排気部8が接続されている。排気部8は、主排気部と補助ポンプによって構成された、たとえば補助ポンプにロータリーポンプを用いたターボ分子ポンプが用いられる。また、排気部8はターボ分子ポンプだけでなくNEG(Non Evaporated Getter)ポンプやイオンポンプを併用した排気部8を用いることもある。
この排気部8により、試料室1からオリフィス5を通じて第二の分析室7に流入してきた残留ガスは、第二の分析室7から排気される。排気部8とオリフィス5とを組み合わせることで試料室1および中間室4から排気される残留ガスの流量を制御できる。試験開始前にはガス分析装置100の全ての真空バルブを開いて排気することで、試料室1、中間室4、第一の分析室6、第二の分析室7を真空にできる。ここでいう真空とはJISの定義に基づく真空をいう。
第一の分析室6、および、第二の分析室7のそれぞれに使用される質量分析計MS1、質量分析計MS2には質量分析計の動作を制御する機能および得られたデータを処理する演算機能を有する、制御演算部9が接続されている。質量分析計MS1、MS2の検出器には、例えば、ファラデーカップまたは2次電子増倍管が用いられている。なお、ファラデーカップでの計測可能な分析室内圧力の上限は0.01Pa〜0.001Pa程度である。2次電子増倍管での計測可能な分析室内圧力の上限は0.001Pa〜0.0001Pa程度である。
質量分析計として代表的なものに四重極質量分析計があるが、複数の質量電荷比を計測する場合、その計測周期は実質的に数秒かかるため、残留ガスが分析室から抜ける時間が計測の周期より短くなると質量分析計は、質量電荷比を計測できなくなる。
質量分析計MS1では第一の分析室6から残留ガスが排気されるまでの間に、着目する残留ガスの計測が少なくとも1回以上なされる必要がある。試験体3を開封した際、その残留ガスが微量である場合には、第一の分析室6内での残留ガスの滞在時間を長くすることが望ましい。本実施の形態1における構成によれば、第一の分析室6では、オリフィス5を通じて第一の分析室6から排気される残留ガスの量を小さくすることができる。また、先に述べた通り、質量分析計MS1、質量分析計MS2は、使用において上限の圧力が決まっている。
また、ガス分析装置100の真空計G0、G1、G2、および、質量分析計MS1、MS2、および、真空バルブVV1、VV2は、それぞれが制御演算部9と通信路10によって電気的に接続されている。制御演算部9は、真空計G0、G1、G2、および、質量分析計MS1、MS2にて取得した計測データの記録と演算を行うとともに、各真空バルブVV1、VV2の開閉操作の制御を可能にする。
図2は、制御演算部9の構成を示す概略図である。制御演算部9は、真空計G0、G1、G2、および、質量分析計M1、M2からの計測データを受信する受信部、受信した計測データを記憶する記憶部、計測データを演算する演算部、真空バルブVV1、VV2の開閉を判断する判断部、真空バルブVV1、VV2の開閉を操作する開閉命令を真空バルブVV1、VV2に送信する送信部を有する。
演算部や判断部の処理はCPU等の演算装置202によって実現され、記憶部はメモリやHDD、SSD等の記憶装置203によって実現される。受信部は入力インターフェイス(IF)201、送信部は出力インターフェイス(IF)204により実現される。制御演算部9は、通信路10により真空計G0、G1、G2、質量分析計MS1、MS2、真空バルブVV1、VV2等に接続される。
図3は、ガス分析装置100を用いたガス分析方法を示すフローチャートである。図3のフローチャートに沿って、試験体3の残留ガスの分析手順を説明する。本実施の形態1によれば、第一の分析室6または第二の分析室7のどちらで分圧を計測するかを、試験体3を開封した際の試料室1内の圧力の値(真空計G0)に応じて選択する。これにより、より広い圧力レンジに対応した気密封止デバイスの内部の残留ガスの分析が可能になる。
まず、試料室1を大気開放して、試料室1に気密封止デバイスである試験体3が設置される(ステップS101)。装置内の各部屋(試料室1、中間室4、第一の分析室6、第二の分析室7)を全て大気開放し、かつ、排気部8は停止、かつ、真空バルブVV1、VV2が開いた状態を初期状態とする。初期状態において、試験体3が試料室1の内部に設置される。本実施の形態では全ての部屋を大気開放しているが、これに限定される訳ではなく、試験体3を設置する場合には、少なくとも試料室1が大気開放されていればよい。
試験体3の設置後、ガス分析装置100の真空バルブVV1、VV2を全て開けた状態で排気部8を起動して、全ての部屋(試料室1、中間室4、第一の分析室6、第二の分析室7)の真空排気を開始する(ステップS102)。排気部8を用いて、装置内の全ての部屋(試料室1、中間室4、第一の分析室6、第二の分析室7)を排気する。ここで排気は全ての部屋(試料室1、中間室4、第一の分析室6、第二の分析室7)のバックグラウンドの圧力が安定するまで十分になされる(ステップS103)。
全ての部屋(試料室1、中間室4、第一の分析室6、第二の分析室7)の真空排気が完了すると、真空バルブVV1を閉じて試料室1と中間室4を隔離する(ステップS104)。開封器2を用いて、試験体3の封止構造を破壊、開封される(ステップS105)。試験体3の内部に封入されていた残留ガスは、瞬時に試料室1に広がる。その広がった残留ガスの圧力を真空計G0にて計測する。
ここで、試料室1の内部の容積をV0、試験体3の開封前における試料室1の内部の圧力をp0、真空計G0により計測される試験体3の開封直後の圧力をP0とすれば、試験体3の内部に封入されていた残留ガスのガス量Qは、Q=V0×(P0−p0)と表せる。
p0は、ビルドアップ法によっておおよその大きさを推定することができる。例えば、試験体3の封止構造破壊前の、真空排気後の本ガス分析装置100で、真空バルブVV1を閉じたそのときの真空計G0の値、すなわち、残留ガスのない試料室1の圧力がバックグラウンドの圧力p0として得られる。
またこのとき、試験体3の容積Vs、試験体3の残留ガスの圧力Psとすると、試験体3を開封した時の試料室1の圧力P0より試験体3の残留ガスの圧力は Ps=(V0/Vs)×P0と表せる。つまり、試料室1の圧力P0により、残留ガスのガス量Qや残留ガスの圧力Psが分かる。
第一の分析室6または第二の分析室7のどちらで残留ガスを計測するかの選択は、残留ガスのガス量Qによりおこなう。ここではガス量Qとしているがこれに限定される訳ではなく、本実施の形態のように、残留ガスの圧力を基に分析室の選択を行ってもよく限定されない。試料室1の圧力P0は試料室1のバックグラウンドの圧力p0がP0に比べて十分に小さい(P0>>p0)ときは、(P0−p0)≒P0として扱え、試料室1の容積V0が定数の場合は、残留ガスのガス量Qは、試料室1の圧力P0により一意に決まるので、圧力P0により第一の分析室6と第二の分析室7の選択を行ってもよい。
本発明のガス分析装置100では、この試験体3を開封したときの試料室1の圧力P0の値を元に、残留ガスの分析を第一の分析室6を使用するか、または、第二の分析室7を使用するかの判定をおこなう(ステップS106)。以下、分析室の切り替え判定においては、ガス量Qではなく真空計G0の計測値(試料室1の圧力P0)に基づいた判定方法でフローを説明する。なお、本発明の装置において、試料室1の容積V0をはじめその他部屋の容積は定数である。
試料室1で計測された真空計G0の値は、制御演算部9に送信される。制御演算部9は受け取った真空計G0の値に基づき、真空バルブVV2の開閉の制御を行う。真空計G0の値、すなわち試料室1の圧力P0が閾値P0 *以上である場合は、制御演算部9は、第一の分析室6と中間室4の間にある真空バルブVV2を閉じ(ステップS107)、第一の分析室6を中間室4と隔離する。そして、制御演算部9は、試料室1と中間室4の間の真空バルブVV1を開け(ステップS108)、第二の分析室7の質量分析計MS2は、試験体3に封止された残留ガスを計測、分析する(ステップS109)。
試験体3を開封した際に、圧力P0が閾値P0 *以上、つまり、残留ガスのガス量Q(圧力)が大きい場合には、残留ガスは、中間室4よりオリフィス5を通じて第二の分析室7に移動し、残留ガスは、第二の分析室7の質量分析計MS2を使用して計測、分析される。このとき、第二の分析室7内の圧力は、質量分析計MS2の使用上限の圧力よりも高くならないことが必要である。
ガス分析装置100は、オリフィス5を通じて試験体3の残留ガスを第二の分析室7へ徐々に流入させ、オリフィス5を通じて次から次へと流入してくる残留ガスを排気部8で排気して第二の分析室7内の残留ガスによる圧力上昇を抑制する。この仕組みにより、第二の分析室7内の残留ガスの圧力を質量分析計MS2の使用上限の圧力よりも小さく保ち、試験体3中の残留ガスの量が多い場合にも、質量分析計MS2での計測を可能とする。
真空計G0の値、すなわち試料室1の圧力P0が閾値P0 *未満である場合は、制御演算部9は、第一の分析室6と中間室4の間の真空バルブVV2を開け、または開けたままの状態で、試料室1と中間室4を隔てる真空バルブVV1を開ける(ステップS110)。真空バルブVV1を開けることで、残留ガスは中間室4から第一の分析室6へと広がっていく。そして、第一の分析室6の質量分析計MS1は、残留ガスを計測、分析する(ステップS111)。
試験体3を開封した際に、圧力P0が閾値P0 *未満、つまり、残留ガスのガス量Q(圧力)が小さい場合には、残留ガスは、中間室4より真空バルブVV2を通じて第一の分析室6に移動し、残留ガスは、第一の分析室6の質量分析計MS1を使用して計測、分析される。このとき、第一の分析室6内の圧力も、質量分析計MS1の使用上限の圧力よりも高くならないことが必要である。しかしながら、閾値P0 *未満とは質量分析計MS1の使用上限の圧力よりも小さいものを想定しており、第一の分析室6へ導かれる残留ガスが、質量分析計MS1の使用上限の圧力をこえることはない。詳細は後述する。
第一の分析室6へは、真空バルブVV2を通じて試験体3の残留ガスが流入する。真空バルブVV2の配管内径とその真空バルブの径はオリフィス5の内径よりもはるかに大きい。そのため,中間室4からオリフィス5を通じて排気されるガス分子よりも第一の分析室6へ移動するガス分子の方が多いため,質量分析計MS1での測定が可能となる。
一方、第二の分析室7には排気部8が設置されているので、中間室4、および、第一の分析室6に移動した残留ガスは、中間室4のオリフィス5を通じて第二の分析室7へ徐々に移動し、さらに、排気部8によって排気される。
本実施の形態では、圧力P0が閾値P0 *未満の場合にも排気部8は連続的に動作していることを想定しているがこれに限定される訳ではなく、制御演算部9は、圧力P0が閾値P0 *未満と判定した場合に排気部8の動作を止めるように制御してもよい。
質量分析計MS1もしくは質量分析計MS2は、どちらかで計測、分析を完了すると計測を終了する(ステップS112)。計測を終了すると、制御演算装置9は真空バルブVV1を閉じて(ステップS113)、試料室1を大気開放し、試験体3を取り出し可能とする(ステップS114)。次に閾値P0 *について説明する。閾値P0 *は、試料室1の圧力と第一の分析室6の圧力の関係を元に決定する。
ここで、第一の分析室6の容積をV1、中間室4の容積をVc、試料室1と真空バルブVV1、VV2を開けたときの第一の分析室の圧力をP1としたとき、P1はP1=(V0/(V0+Vc+V1))×P0と表せる。
つまり、質量分析計MS1が動作可能な上限の圧力をPqmsとした場合に、真空バルブVV1、VV2が開いた際に、第一の分析室6の圧力P1が質量分析計MS1の動作圧力の上限Pqmsになる試料室1の圧力P0をP0 *としたとき、P0 *はP0 *=((V0+Vc+V1)/V0)×Pqmsと表せる。
その為、閾値をP0 *とすることにより、残留ガスの圧力が質量分析計MS1の動作圧力の上限を超えない場合に、ガス分析装置100は、第一の分析室6の質量分析計MS1で計測、分析し、動作圧力の上限を超える場合に、ガス分析装置100は、第二の分析室7の質量分析計MS2で、残留ガスのガス量(圧力)を絞って計測、分析することができる。
ここで、一例として閾値を質量分析計の動作圧力の上限Pqmsを基に計算したP0 *としているがこれに限定される訳ではない。閾値は本ガス分析装置100を使用するユーザにより適時設定される値でもよく、例えば,Pqms以下の圧力で得られるP0 *とすることもできる。
図4は、ガス分析装置100の試料室1の圧力と真空バルブVV1を開いた直後の第一の分析室6の圧力の関係についての一例を示すグラフである。図4の横軸は試験体3の開封後における試料室1の圧力P0を示し、縦軸は試験体3の真空バルブVV1を開けた際の第一の分析室6の圧力P1を示す。図中のプロットは試験体3を開封した際の各P0に対するP1の関係を示す一例である。
本発明のガス分析装置100では、P0とP1の関係は、試料室1の容積V0、および、中間室4の容積Vc、第一の分析室6の容積V1、および、試験体3の中空構造内部の容積Vsを用いて、P1=(V0/(V0+Vc+V1))×P0と表される。図4中のP0とP1の関係において、質量分析計MS1の動作上限圧力Pqmsが決まれば、ガス分析に使用する分析室の判定をする試料室1の圧力P0の閾値P0 *は一意に決定できる。
図5は、ガス分析装置100において第一の分析室6にてガス分析を行う際の真空バルブVV1の開閉前後における第一の分析室6内の圧力の時間変化の一例を示すグラフである。真空バルブVV1が開かれると、試料室1内に広がった試験体3内の残留ガスは中間室4へ、さらには、第一の分析室6まで瞬時に広がる(真空バルブVV2は開かれた状態)。
この第一の分析室6まで広がった試験体3の残留ガスにより、第一の分析室6内の圧力が増加する。その圧力は真空計G1にて計測され、計測された圧力と、質量分析計MS1で計測された各質量電荷比のイオン強度とが、制御演算部9に入力されて演算され、制御演算部9は、試験体3の残留ガスの分圧および組成を得る。
例えば第一の分析室6で、残留ガスとして窒素の分圧を求める場合、第一の分析室6を窒素ガスだけで満たし、第一の分析室6の圧力変化に伴う、質量分析計MS1の検出強度との関係を得る。そして、複数の種類の気体が混合された残留ガスを第一の分析室6で分析する場合に、質量分析計MS1の計測データの内の時間ごとの窒素ガスの検出強度から、残留ガスの窒素の分圧の時間変化を得ることができる。
第一の分析室6を窒素ガスだけで満たす方法に限定されず、窒素分圧が分かっている複数の種類のガスが混ざった混合ガスを利用して、窒素ガスの分圧と、質量分析計MS1の検出強度の関係を得て、質量分析計MS1の計測データ内の時間ごとの窒素ガスの検出強度から、残留ガスの窒素の分圧の時間変化を得てもよい。
図6は、本発明の実施の形態1によるガス分析装置100において第二の分析室7にてガス分析を行う際の真空バルブVV1の開閉前後における第二の分析室7内の圧力の時間変化の一例を示すグラフである。真空バルブVV1が開かれると、試料室1内に広がった試験体3内の残留ガスは中間室4内へ瞬時に広がる。この中間室4に移動した残留ガスは、中間室4のオリフィス5を通じて第二の分析室7へ移動する。
この第二の分析室7に移動した試験体3の内部ガスにより、第二の分析室7内の圧力が増加する。その圧力は真空計G2にて計測され、計測された圧力と質量分析計MS2で計測された各質量電荷比のイオン強度とが、制御演算部9に入力されて演算され、制御演算部9は、試験体3の内部の残留ガスの分圧および組成を得る。
第二の分析室7において分圧は、第一の分析室6の場合と同様に、たとえば窒素ガスの分圧と質量分析計MS2の検出強度との関係を得られれば、計測データと組み合わせることで、窒素ガスの分圧の時間変化を得ることが出来る。窒素ガスと質量分析計MS2の検出強度の関係は、たとえば試料室1内に窒素分圧が既知の混合ガスを導入し、真空計G2による第二の分析室7内の窒素分圧の計測値と質量分析計MS2による窒素ガスの検出強度との値とを得ることにより求められる。
この発明によれば、非冷却赤外線センサや真空封止MEMSデバイスのように1mm3未満の小さなキャビティで、かつ、真空気密封止された試験体3における微量な残留ガスから、試料の封止構造におけるリーク、または、封止構造の内部の部材から何らかの原因で発生した脱ガスによって内部の残留ガスの圧力が高くなったものまで、その両方の分析を可能にする。本実施の形態により、従来にない広い圧力レンジに対応した気密封止デバイスの残留ガスの分析を可能とする。
実施の形態2.
本実施の形態では、第二の分析室7と第一の分析室6が真空バルブVV3で接続されており、第二の分析室7に質量分析計MS2を有しない点が実施の形態1とは異なっている。
図7は、実施の形態2によるガス分析装置200の構成を示す概略図である。図7に例示するように、本実施の形態のガス分析装置200は、実施の形態1のガス分析装置100と比較して、第二の分析室7には真空バルブVV3が設けられ、第二の分析室7と第一の分析室6が真空バルブVV3を介することで接続されている。また、真空バルブVV3は制御演算装置9と接続される。
さらに、実施の形態1において第二の分析室7に備えられていた真空計G2および質量分析計MS2が省略されている点で実施の形態1とは構成が異なる。真空バルブVV3としてはゲートバルブが用いられる。真空バルブVV3はそのバルブの開閉によって第一の分析室6と第二の分析室7の空間の遮断および開放をおこなう。
また、本実施の形態2では、実施の形態1では第二の分析室7で行う分圧の計測を、真空バルブの開閉操作によって第一の分析室6で行うことが可能になっている。そのため、分析手順におけるバルブの開閉方法が実施の形態1とは異なる。
本実施の形態2は、上記の点でのみ実施の形態1と異なっており、本実施の形態の大筋は実施の形態1と同様である。このため同一要素については同一符号を付しており、その説明は省略する。次に、実施の形態2におけるガス分析装置200を使用した試験体3の残留ガスの分析手順について、図8のフローチャートに沿って説明する。
図8は、実施の形態2によるガス分析装置200を用いたガス分析方法を示すフローチャートである。ここでは、実施の形態1と異なるフローについてのみ説明する。それ以外の説明は実施の形態1と同じフローとなる為省略する。具体的には、第二の分析室7に質量分析計と真空計がない為、真空バルブVV3を介して、第一の分析室6で分析することが実施の形態1とは異なる。
分析室の選択は、試料室1の圧力と第一の分析室6の圧力の関係を元に決定される点で、実施の形態1と同じであるが、本実施の形態においては、真空バルブの操作方法が実施の形態1とは異なるので説明する。
真空計G0の計測値が、閾値P0 *以上のときについて説明する。真空計G0の値、すなわち試料室1の圧力P0が閾値P0 *以上である場合は、制御演算部9は、第一の分析室6と中間室4の間にある真空バルブVV2を閉じ、第一の分析室6と中間室4の間にある真空バルブVV3を開ける(ステップS201)。
ここでステップS201では、制御演算装置9が真空バルブVV3を開けるよう制御しているがこれに限定される訳ではなく、既に真空バルブVV3が開いている場合には、開ける制御をしなくてもよい。真空バルブVV1が開かれると(ステップS110)、試料室1内に広がった試験体3内の残留ガスは中間室4内へ瞬時に広がる。
この中間室4に移動した残留ガスは、中間室4のオリフィス5を通じて第二の分析室7へ移動する。そして、第二の分析室7に移動した試験体3内の残留ガスは、真空バルブVV3を介して第一の分析室6に広がり、第一の分析室6内の圧力が増加する。その圧力は真空計G1にて計測される。また、試験体3の残留ガスの分圧は質量分析計MS1と真空計G1により得られた計測値により、制御演算部9によって演算されることで得られる。
真空計G0の計測値が、閾値P0 *よりも小さいときについて説明する。閾値P0 *未満である場合、ステップS106でNoと判断されると、制御演算装置9は真空バルブVV3が閉じる(ステップS202)。真空バルブVV3が閉じられることより,第一の分析室6と第二の分析室7の空間が遮断される。
次に、制御演算装置9は真空バルブVV1を開く(ステップS110)。真空バルブVV1が開かれると、試料室1内に広がった試験体3内の残留ガスは中間室4を通じて、第一の分析室6まで瞬時に広がる(真空バルブVV2は開かれた状態)。この後の質量分析計MS1での計測、分析移行の処理は、実施の形態1と同様であるので説明は省略する。
本実施の形態による作用効果について説明する。本実施の形態2は、質量分析計と真空計が実施の形態1に比べてそれぞれ1つずつ少ない。計器が少ないため、装置の省スペース化やメンテナンスの頻度を低減することができる。
また、本実施の形態2では、真空バルブVV3が中間室4、および、試料室1へのバイパスとしての配管として機能するため、試験体3をセットした後の真空排気において、真空バルブVV3と真空バルブVV2を開けることで、第一の分析室6、および、中間室4、試料室1をより速やかに排気することができる。なお、本実施の形態では実施の形態1と異なる部分を説明した。それ以外の部分については実施の形態1と同様であるとする。
実施の形態3.
本実施の形態では、オリフィス5がコンダクタンスを可変とする可変オリフィス12である点が実施の形態1とは異なる。またオリフィス5を可変オリフィス12とすることで、分析に実施の形態1とは異なる処理が発生するので、異なる部分について説明する。
図9は、実施の形態3によるガス分析装置300の構成を示す概略図である。図9に示す本実施の形態のガス分析装置300は、実施の形態1のガス分析装置100と比較して、オリフィス5ではなく、可変オリフィス12を備える。また、分析手順において可変オリフィス12のコンダクタンス調整の処理が加えられている点で実施の形態1とは異なる。
本実施の形態3は、上記の点でのみ実施の形態1と異なっており、本実施の形態の大筋は実施の形態1と同様である。このため同一要素については同一符号を付しており、その説明は省略する。
図10は、実施の形態3によるガス分析装置300にて用いられる可変オリフィス12の構成を示す概略図である。可変オリフィス12には、たとえば金属円盤に小さな穴で出来たオリフィス13が金属円盤の中心軸14を中心に円周方向に複数個が並ぶように設けられている。なお、オリフィス13の穴径は全て同じであってもよいし、それぞれが異なっていてもよい。
可変オリフィス12は、半円状または扇形状のふた15を備える。ふた15は中心軸14を軸に回転して、オリフィス13を塞ぐ機構になっている。制御演算部9が、ふた15の回転角を制御することにより、オリフィス13を塞ぐ個数を変化させることが出来て、可変オリフィス12のコンダクタンスはこれにより変化する。
複数個のオリフィス13による可変オリフィス12の合成コンダクタンスCTPは、オリフィス13の各コンダクタンスCnの和で、たとえば10個のオリフィス13を備えるときはCTP=C1+C2+…+C10のようにそれぞれのコンダクタンスの和で表される。
図11は、実施の形態3によるガス分析装置300を用いたガス分析方法を示すフローチャートである。図11のフローチャートに沿って、本実施の形態でのガスの分析の仕方について説明する。実施の形態1と同じ部分については説明を省略する。
本実施の形態においても実施の形態1と同様に、真空計G0で計測した試験体3の残留ガスのガス量によって、計測、分析するための分析室の選択がおこなわれる。分析室の選択は、残留ガスのガス量と比例する試料室1の圧力を元に決定される点で、実施の形態1と同じであるが、本実施の形態においては、その後に可変オリフィス12のコンダクタンス調整の操作が加わっている点で実施の形態1とは異なるので説明をおこなう。
まず、真空計G0の計測値が、P0 *未満のときについては、ガス分析装置300は、図11のフローチャートに示すように、実施の形態1と同様に、第一の分析室6で残留ガスを計測、分析する。その後、本実施の形態3では制御演算装置9は可変オリフィス12のコンダクタンスを調整する(ステップS301)。調整方法についての例を、図12を用いて説明する。
図12は試料室1の圧力P1をもとに制御演算部9によって計算された真空バルブVV1の開閉前後における第一の分析室6の圧力の時間変化の一例を示したものである。図12中では、可変オリフィス12のオリフィス13の開口数を、それぞれ1個、3個、10個に変化させた際に得られる各コンダクタンスでの第一の分析室6の圧力P1を示している。
図12において開口数が10個のプロットは、真空バルブVV1を開けた後、数秒で残留ガスが排気されてしまい、圧力P1が第一の分析室6のバックグラウンド圧力p1に到達する。つまり、開口数が10個の場合、質量分析計MS1で分圧を解析するために十分な計測点を得られないことが分かる。これに対し、可変オリフィス12におけるオリフィス13の開口数をふた15によって塞ぎ、コンダクタンスを小さくすると、図中の開口数3、開口数1のプロットのように計測点を増やすことが可能になる。
しかし、コンダクタンスを小さくし過ぎると、グラフの傾きがより小さくなり、部屋(試料室1、中間室4、第一の分析室6、第二の分析室7)の内壁面からのガス放出による圧力上昇の影響を無視できなくなる。この場合も分圧計測における解析の精度が低下するので、制御演算装置9はコンダクタンスを大きくして、第一の分析室6から排気されるガス流量を大きくする調整が行われる。
このように第一の分析室6で、残留ガスが計測、分析される場合は、第一の分析室6の圧力に応じて、第一の分析室6からの排気が大きくも小さくもなりすぎないように、制御演算装置9は可変オリフィス12のコンダクタンスを調整する。ここでは、第一の分析室6の圧力に応じてコンダクタンスを調整しているが、これに限定される訳ではなく、残留ガスのガス量に応じてコンダクタンスを調整すればよく、試料室1の圧力に応じてコンダクタンスを調整してもよく調整の仕方は限定されない。
続いて、真空計G0の計測値が、閾値P0 *以上のときについては、図11のフローチャートに示すように、実施の形態1と同様に、ガス分析装置300は、第二の分析室7での残留ガスの計測、分析を実行する。その後、制御演算装置9は可変オリフィス12のコンダクタンスを調整する(ステップS302)。調整方法についての例を、図13を用いて説明する。
図13は試料室1の圧力P1をもとに制御演算部9によって計算された真空バルブVV1の開閉前後における第二の分析室7の圧力の時間変化の一例を示したものである。図13中では、可変オリフィス12のオリフィス13の開口数を、それぞれ1個、3個、10個に変化させた際に得られる各コンダクタンスでの第二の分析室7の圧力P2を示している。
図13において開口数が10個の場合、真空バルブVV1を開けた直後に第二の分析室7の圧力がPqms(=1.0×10−3Pa)を超えること、かつ、すぐに残留ガスが排気されてしまって十分な計測点を得られないことが示されている。
この場合、制御演算装置9は可変オリフィス12の開口をふた15によって塞ぎ、開口数3、開口数1のようにコンダクタンスを小さくする。これにより、ガス分析装置300は、第二の分析室7の圧力をPqms未満に抑えながら、計測点を確保することが可能になる。
しかし、コンダクタンスを小さくし過ぎると、第二の分析室7へ単位時間あたりに導入される残留ガスのガス量が小さく、真空バルブVV1の開閉前後での第二の分析室7の圧力変化が小さくなり過ぎる。この場合も分圧計測における解析の精度が低下するので、制御演算装置9はコンダクタンスを大きくして、第二の分析室7への残留ガスのガス流量を大きくする調整が行われる。
このように第二の分析室7では、残留ガスが計測、分析される場合は、第二の分析室7の圧力に応じて、中間室4からの排気が大きくも小さくもなりすぎないように、制御演算装置9は可変オリフィス12のコンダクタンスを調整する。ここでは、第二の分析室7の圧力に応じてコンダクタンスを調整しているが、これに限定される訳ではなく、残留ガスのガス量に応じてコンダクタンスを調整すればよく、試料室1の圧力に応じてコンダクタンスを調整してもよく調整の仕方は限定されない。
コンダクタンス調整の後は、実施の形態1、実施の形態2と同様であるため、説明を省略する。本実施の形態による作用効果について説明する。本実施の形態では、可変オリフィス12を備えることによって、分析室の選択された後に、検出感度の調整が実施されるため、実施の形態1、および、実施の形態2に比べてより精度の高いガスの分圧計測を実施することが可能になる。なお、本実施の形態では実施の形態1と異なる部分を説明した。それ以外の部分については実施の形態1と同様であるとする。
本発明のガス分析装置において、各部屋(試料室1、中間室4、第一の分析室6、第二の分析室7)の内壁面から放出されるガスは真空計、および、質量分析計のバックグラウンドとして計測精度に悪影響を与える。
そのため、各部屋に使用する材料はガス放出の少ない材料で構成され、かつ、それらはガス放出を低減すべく研磨やエッチングによる表面処理が施されるなど、内壁面の表面積をなるべく小さくすることが望ましい。さらに、真空引きを行う際には、各部屋(試料室1、中間室4、第一の分析室6、第二の分析室7)をラバーヒーター等の加熱装置によって外部からベーキングしておくことも望ましい。
なお、本発明のガス分析装置、およびガス分析方法は、ガス分析装置の各部屋内、および、オリフィスにおいてガス分子の運動を分子流として扱える条件が成り立つ設計であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。