本発明では、意味の違いを明確にするために、3種類の「非点収差」を用いる。
第1の非点収差は「処方非点収差」である。処方非点収差は、目の欠陥(目の乱視)を矯正する処方データに関連し、処方データの乱視度数に対応する。
第2の非点収差は「固有非点収差」である。固有非点収差は、光学レンズの収差の一種(非点収差)であり、光学レンズ設計の業界において一般に用いられる言葉「非点収差」と同じ意味を有する。本発明では、固有非点収差は、累進多焦点レンズであることにより本質的に生じる非点収差として定義される。
第3の非点収差は「付加非点収差」である。付加非点収差は、累進多焦点レンズのプロセスを設計する初期段階において透過の目標分布を設定する際、処方非点収差とは別個に意図的に付加される非点収差に関連する。
透過ベース設計の従来の概念では、理想的な設計は、子午線に沿った固有非点収差を可能な限りゼロに近づけることであると信じられていた。これは、子午線に沿った目の収差の値(透過収差)が、実質的にゼロに設計されることを意味する。
図2は、快適な近方視についての主観評価の臨床試験結果を示す。本発明者らは、結果を通して、目が特定量の付加非点収差に上手く適合できることに気付いた。
本発明者らが認識したように、結果は、理想的な設計が子午線に沿った固有非点収差を可能な限りゼロに近づけることであると信じられていた従来の設計方法とは真逆の示唆を示す。これは、子午線に沿った目の収差の値(透過収差)が実質的にゼロに設計されることを意味する。
近方視の場合、「調節」、「輻輳」、及び「近見縮瞳」は近見反応として生じる。焦点距離は縮瞳により深くなり、したがって、付加非点収差への耐性は、遠方視の場合と比較して増大する。新聞を40cmの距離で読んでいる間、非点収差を意図的に生じさせたレンズを装用した場合の視覚についてヒアリング調査(例えば、患者インタビュー)を行った。換言すれば、透過固有非点収差を処方非点収差よりも意図的に高めた(又は非乱視装用者の場合、透過固有非点収差がゼロよりも高い)レンズを装用しながら新聞を読むように装用者に求め、次に、影響を調査し記録した。
図2は、快適な近方視についての主観評価の臨床試験結果を示す。結果は10人の異なる装用者に対し、意図的に付加された透過固有非点収差が、どのレベルまで、各装用者により気付かれず、又は許容可能と見なされたかを示す。
詳細な実験プロトコルでは、各装用者の処方の完全矯正を測定し、次に、平均度数が一定であることを維持するように球面度数を調整しながら、非処方乱視度数をAx90において0.25Dステップで徐々に付加した。ここでは、意図的に付加される非処方乱視度数を特定量の付加非点収差の推定と見なした。
以下の表は、臨床試験の10人の装用者の処方の完全矯正値を示す。
図2では、レベル「A」は、装用者が新聞を快適に読むことができることを意味する。レベル「B」は、装用者が努力を伴って新聞を読むことができ、困難さを感じることを意味する。レベル「C」は、装用者が新聞を快適に読むことができないことを意味する。
近方視での臨床試験結果は、図2に見ることができるように、付加非点収差が概ね0.50Dの場合、快適な近方視を維持することができることを示す。しかしながら、Ax180という異なる条件の同じ装用者に対する別の臨床試験の結果によれば、快適な近方視を維持することができる許容可能な付加非点収差の閾値が0.75Dであったことが示された。
この結果は、個々人の違いを考慮に入れた場合、付加非点収差の量が0.50Dに制限されないことがあることを示唆する。後に説明する本発明の実施形態では、付加非点収差の例である0.50Dを採用する。
しかしながら、累進多焦点レンズの中間部又は近用部に特定量の付加非点収差を「人工的」に付加することが可能であり、そのような付加非点収差が人により全く知覚されず、又は知覚されるとしても少なくとも不快ではないことを本発明者らは認識した。このような付加非点収差は、レンズを透過した、または、レンズの眼球側において呈示される非点収差であり、眼に対し実際に生成されるものである。
換言すれば、付加非点収差は、人の視覚を損なわずに中間部及び/又は近用部に導入し得る。上記認識は臨床試験により確認されている。
そのような領域への付加非点収差の提供により、例えば、近用部の明視域の拡張、中間部及び近用部の側における固有非点収差の低減、水平幅の拡張及びスキュー歪みの低減、非点収差変化率の低減、スキュー歪みの低減、固有非点収差の最大量の低減のような一連の他の利点も生じ得ることを本発明者らは驚くべきことに更に発見した。そのような利点については後に説明する。
ここでは、透過における付加非点収差に関連して、透過ベース設計の概説を説明する。透過ベース設計は、処方データに一致する必要がある透過屈折力(例えば、図3参照)のような特定の透過性能パラメータの計算に基づく。
そのようなパラメータが決定されると、決定された透過性能パラメータに基づいて表面を決定又は計算し得る。次に、表面が計算されると、レンズを製造することができ(例えば、機械加工により)、そのようなレンズは通常、最初に設計に使用された透過性能パラメータを示す。
透過ベース設計は、表面を計算する基となる所望の透過性能(例えば、目に示される所望の球面度数及び/又は乱視度数)に制約を課すことにより開始されると言うことができる。これもまた後に説明するように、付加非点収差は、中間部及び/又は近用部に対応して付加し得る。透過ベース設計の状況では、これは、光線がレンズの近用部及び/又は中間部に対応して透過するとき、透過性能が目に(例えば、目に直接、眼球側の表面等に)追加の非点収差を生じさせるように、制約が所望の透過性能に課されることを暗示する。次に、そのような制約を背景にして、最初に与えられた付加非点収差を含めて可能な限り大きな透過性能を示すレンズが得られるようなレンズ表面が計算される。したがって、近用部及び/又は中間部に対応して提供される付加非点収差は、近用部及び/又は中間部においてレンズを透過して、それぞれ光を透過するものとして付加非点収差を表すと言える。
図3は、透過ベース設計の説明のための概略全体図を示す。図3は、透過度数及び透過固有非点収差の計算の仕方を示す。透過度数の焦点距離が導出される原点は、眼球の回旋中心からレンズの後部頂点(back apex)までの距離に等しい半径を有する、頂点球面(vertex sphere)と呼ばれる仮想的な湾曲面と見なし得る。
更に、理想的な焦点位置は単焦点レンズと異なる。図3における遠点球面は使用できないため、度数の累進変化に対応する特徴的な湾曲面が使用される。
図3から見て取ることができるように、理想的な単焦点レンズを透過した光線は、遠点球面上の眼底に投射され、累進多焦点レンズを透過した光線は、曲率半径が加入度数の増大に対応して低減することの結果として、遠点球面(点Rn、Rm、及びRfが存在する曲線)と比較して僅かに内側に(すなわち、レンズに向かうように)曲がった曲線上に投射される。更に、理想的なレンズは、透過された光線が上記曲線上で結像するように、固有非点収差を生じさせない。
しかしながら、非理想的なレンズ(単焦点レンズ又は累進多焦点レンズの何れか)は通常、固有非点収差を生み出し、これは、タンジェンシャル透過屈折力(T)及びサジタル透過屈折力(sagittal transmittance)(S)により説明される。
透過固有非点収差を生成する仕方を図3に示す。タンジェンシャル透過屈折力(T)とサジタル透過屈折力(S)との差が透過固有非点収差である。例えば、1組の点Tf及び点Sf又は1組の点Tn及び点Snにより、遠距離を見た場合、点Tfはタンジェンシャル透過屈折力(T)を意味し(添え字「f」は距離として遠いこと(far)を表す)、近距離を見た場合、点Tnはタンジェンシャル透過屈折力(T)を意味する(添え字「n」は近方視を表す)。
同様に、遠距離を見た場合、点Sfはサジタル透過屈折力(S)を意味し(添え字「f」は距離として遠いこと(far)を表す)、近距離を見た場合、点Snはサジタル透過屈折力(S)を意味する(添え字「n」は近方視を表す)。
各組は、固有非点収差の2つの成分、すなわち、点像が結像する2つの異なる点を表す点を含む。複数(2以上)の非点収差成分を表し得、その場合、タンジェンシャル透過屈折力(T)及びサジタル透過屈折力(S)が複数のうちの最大非点収差成分及び最小非点収差成分を表し得ることに更に留意する。
次に、遠くを見る場合、固有非点収差は、タンジェンシャル透過屈折力(Tf)とサジタル透過屈折力(Sf)との差から計算され、近くを見る場合、固有非点収差は、タンジェンシャル透過屈折力(Tn)とサジタル透過屈折力(Sn)との差から計算される。
図4は、本発明の一般方法実施形態のフローチャートを示す。図4は、コンピュータにより、累進多焦点レンズを設計する例示的な方法の概略全体図も示す。図4はS101及びS102という2つのステップからなる。S101の詳細な説明は、図25のS101AからS101Hまでに示されている。
累進多焦点レンズは、遠用部、近用部、及び中間部を含み、ここで、図1Aに示されるように、遠用部と近用部との間で度数は累進的に変化し、且つ/又は曲率は累進的に変化する。
累進多焦点レンズは処方データに基づく。更に、累進多焦点レンズはまた、例えば、装用スタイル、フレームの形状等として他のパラメータに基づくこともできる。方法は、透過非点収差性能パラメータを決定するステップS101を含む。
このパラメータは、目に生成される固有非点収差、すなわち、目により実際に知覚される固有非点収差又はレンズを透過した非点収差等の指示を与え得る。パラメータは、固有非点収差自体であることができ、又は固有非点収差を間接的に示すパラメータであることができる。透過非点収差性能パラメータは、処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応し得る。好ましくは、所定量の付加非点収差は0.5Dである。
ステップS101における透過非点収差性能パラメータの導入は、従来の光学設計方法で採用されていなかった手法である。この導入により、従来の光学設計方法を適用する場合よりも、累進多焦点レンズの幾つかの種類の光学性能が改善される。
改善の例は、近用部の明視域の拡張、中間部及び近用部の側における固有非点収差の低減、水平幅の拡張及びスキュー歪みの低減、固有非点収差変化率の低減、スキュー歪みの低減、固有非点収差の最大量の低減である。
透過非点収差性能パラメータは、タンジェンシャル透過屈折力(T)及びサジタル透過屈折力(S)、又は一般に、固有非点収差の2つの代表的な成分、例えばそれぞれ、レンズにより透過される複数の非点収差成分の中の最大値(T)及び最小値(S)を含み得る。
パラメータT及びパラメータS(サジタル透過屈折力及びタンジェンシャル透過屈折力の略称、これらの用語が本明細書に記載される幾つかの例を包含することを念頭に置く)の値は、処方非点収差と付加非点収差との和を考慮に入れることにより計算し得る。
又は逆も同様に、パラメータT及びパラメータSの値は、処方非点収差と付加非点収差との和に対応する所望の固有非点収差を得るように設定することができる。上記は、処方非点収差がゼロであるか、又は処方データが処方非点収差を含まない場合にも当てはまる。
付加非点収差は単純に、処方非点収差に付加し得、目の少なくとも一点において示される。付加非点収差は、目により知覚される−知覚されるはずである−が、不快ではない付加非点収差であり、したがって、表面固有非点収差と異なる。例えば、目で知覚される付加非点収差の提供又は意図される透過屈折力の結果として水平方向の屈折力及び垂直方向の屈折力を互いと異なるものにする等。
本発明は、透過非点収差性能パラメータの計算に対し、装用スタイル等のような他のパラメータの使用を除外しない。
方法は、特定された透過性能パラメータに対応するレンズ表面データを決定するステップS102を更に含む。ステップS102は、図25のステップS102Aに対応する。一例では、パラメータT及びパラメータSの値が決定されると、ソフトウェアは、特定されたタンジェンシャル透過屈折力及びサジタル透過屈折力を提供する表面の曲率を計算し得る。
別の例では、レンズ表面データは、レンズの高さデータの分布である「z値」又は「サグ値」とも呼ばれるものに対応する。
別の例では、表面は所与のソフトウェアにより設計され、レンズ表面の透過固有非点収差は、測定又はシミュレーション等により確認され、透過固有非点収差が、処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応しない場合、満足のいく結果が得られるまで、表面は変更される。換言すれば、ステップS102が、得られる表面が満たす必要がある初期条件又は制約として透過非点収差性能パラメータを考慮に入れる(付加非点収差を考慮に入れる)ことによりレンズ表面データを決定すると言える。換言すれば、ステップS102は、所定量の付加非点収差(処方される場合、処方非点収差に加えて)という要件を満たす非点収差を示すレンズのレンズデータを決定する。一般に、付加非点収差(特に、本明細書に説明されるように所定量以内の付加非点収差)を付加することにより、平均度数を一定に維持又は変わらないように維持しながら、度数の成分を変更することにより、快適な中間部又は近用部を維持することが可能である。実際には、これもまた本明細書に説明されるように、レンズの度数は、異なる成分(例えば、水平及び垂直であるが、水平及び垂直に限定されず、他の成分も機能する)を有するものとして見ることができ、したがって、平均度数を変わらないようにしながら又は一定に維持しながら(処方データに基づいて予期される(又は決定された)平均度数の値と比較した場合、平均度数が変わらないか、又は一定であるという意味で)、度数の2つの成分の値を変更することが可能である。この例では、快適な視覚に達する。実施形態及び後の例において、これが本発明に限定されず、更にいかに適用することができるかについて更に説明する。一例では、本発明に限定されず、付加非点収差0.50Dが中間部及び/又は近用部に付加される場合を考え、その場合、平均度数値を変わらない(すなわち、垂直成分及び水平成分を変更する前の元の値と同じ)ままにしながら、垂直方向の屈折力を0.25Dだけ低減し、水平方向の屈折力を0.25Dだけ増大させることが可能である。これは、以下として表すこともできる(ここでも、以下に更に説明される快適な視覚を得る他の方法に限定されずに)。
MP=(Ph+Pv)/2=((Ph+0.25)+(Pv−0.25))/2=(Ph+Pv)/2= MP
AS=PhとPvとの差
式中:Phは水平方向の屈折力であり、Pvは垂直方向の屈折力であり、ASは非点収差であり、MPは平均度数である。したがって、上述したように、垂直方向の屈折力及び水平方向の屈折力は互いに相対して変更することができる(すなわち、同じ値に設定されない)。他の例では、快適な視覚は、中間部において異なる垂直方向の屈折力及び水平方向の屈折力を有することにより、例えば、中間部において一定の付加非点収差を有することにより且つ/又は子午線において付加非点収差が単調に増加することにより、且つ/又は子午線において付加非点収差が単調に減少すること等により達成することができる。
そのようなソフトウェアは、レンズを設計する任意の従来のソフトウェアであり得る。ソフトウェアの入力は、処方非点収差及び所定量の付加非点収差であり得る(任意選択的に、付加非点収差の閾値が、所定量の付加非点収差を表し得る)。次に、レンズはレンズ表面データに基づいて機械加工される。レンズの表面は、透過固有非点収差が処方非点収差量と所定量の付加非点収差との和に限りなく近づくように設計される。次に、レンズはレンズ表面データに基づいて機械加工される。それにより製造されたレンズは、改善された性能を有する。
(従来の設計)
図5及び図6(以下、図6は、全ての図6A、図6B等が参照されることを意味し、同様の考慮事項は他の図にも当てはまる)は、従来の透過ベース設計の結果を示す。
図5A〜図5Dは、透過平均度数により特徴付けられた表面並びに子午線に沿った透過平均度数の変化及び表面の水平断面を示す。
図6A〜図6Dは、透過固有非点収差により特徴付けられた表面並びに子午線に沿った透過固有非点収差の変化及び表面の水平断面を示す。
そのような表面は、レンズを透過した光線が透過する眼球側の仮想的な表面として意図し得る。「仮想的な」という言葉は、表面がレンズの実際の表面ではないことを意味する。透過平均度数及び透過固有非点収差は、平均度数及び眼球側に示された固有非点収差として意図し得、表面平均度数(曲率半径の逆数の意味で)及び表面固有非点収差と異なる。
以下、より詳細な説明を図5及び図6に与える。
図5Aは、従来の累進多焦点レンズに対応する透過平均度数マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。処方データはS+0.00 ADD2.00である。矢印「A」及び「B」は、矢印「A」としてy=−14mm及び矢印「B」としてy=−20mmにおける水平幅に対応する。2つの矢印はそれぞれy=−14.0mm(近用部を表す)及びy=−20.0mm(近用部の下部を表す。y=−20.0mmは、フレームへのレンズ処方条件を考慮に入れた場合、下限として近用部を固定するのにかなり十分であるように見える)におけるものである。これらの矢印は、後に従来の設計と本発明の実施形態とを比較する際に参照される。
図5Bは、従来の累進多焦点レンズに対応する垂直方向の屈折力、水平方向の屈折力、及び平均度数における子午線に沿った透過度数変化を示す。縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は加入度数ADD(D)を示す。図5Bでは、垂直方向の屈折力(VP)線は点線であり、水平方向の屈折力(HP)線は破線であり、平均度数(MP)線は実線である。MPはVP及びHPの平均である。図5BのMP線によれば、y=4.0mmにおける累進の開始点から、平均度数が加入度数(ADD)2.00Dに達するy=−14.0mmにおける累進の終わりまでの累進帯長は18mmを示す。
図5C及び図5Dはそれぞれ、図5Cではy=−4.0mm及び図5Dではy=−14.0mmにおける従来の累進多焦点レンズに対応する水平断面における透過度数変化の概略全体図を示す。縦軸は度数(D)を示し、横軸はx方向における位置(mm)を示す。それぞれ、y=−4.0mmは中間部の代表として設定され、y=−14.0mmは近用部の代表として設定される。
図5B〜図5Dは、子午線に沿って透過固有非点収差が実質的にないことを示す。透過固有非点収差は、透過垂直方向の屈折力及び透過水平方向の屈折力が互いに直交する場合、透過垂直方向の屈折力と透過水平方向の屈折力との差として定義され、図5Bが示すように、透過垂直方向の屈折力及び透過水平方向の屈折力は子午線に沿って上から下まで実質的に同じである。また、図5C及び図5Dにおいては、x=0.0mmにおけるVP及びHPは実質的に同じであり、したがって、透過固有非点収差は子午線に沿って実質的にゼロである。
図6Aは、従来の累進多焦点レンズに対応する透過固有非点収差マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。処方データはS+0.00 ADD2.00である。
エリア「a」は明視域の尺度に対応する。明視域とは、装用者が累進多焦点レンズを通して視界をクリアに見ることができる領域である。明視域は、固有非点収差の特定の等高線で囲まれた領域(換言すれば、属性/パラメータに1つの一定の値を有する等高線、この場合、固有非点収差に一定の値を有する線により画定される閉領域)として定義される。この例では、固有非点収差の値は0.50Dである。値は0.50Dに限定されず、例えば、0.25Dがより好ましいが、0.50Dを超えないほうがいい。
エリア「a」における2つの矢印はそれぞれ、y=−14.0mm(近用部を表す)及びy=−20.0mm(近用部の下部を表す。y=−20.0mmは、フレームへのレンズ処方条件を考慮に入れた場合、下限として近用部を固定するのにかなり十分であるように見える)におけるものである。
図6Aにおける符号「b」を有する丸が付いたエリアは、最大固有非点収差が存在するエリアに対応し、エリア「b」内の固有非点収差の値が最大である。これらの矢印、エリア「a」及びエリア「b」は、後に本発明の実施形態と比較する際に参照される。
図6Bは、従来の累進多焦点レンズに対応する子午線に沿った透過固有非点収差変化を示す。縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は透過固有非点収差(D)を示す。図6Bはまた、子午線に沿った固有非点収差が図5Bに関連して実質的にゼロであることも示す。
図6C及び図6Dはそれぞれ、図6Cではy=−4.0mm及び図6Dではy=−14.0mmにおける従来の累進多焦点レンズに対応する水平断面における透過固有非点収差変化の概略全体図を示す。縦軸は透過固有非点収差(D)を示し、横軸はx方向における位置(mm)を示す。それぞれ、y=−4.0mmは中間部の代表として設定され、y=−14.0mmは近用部の代表として設定される。図6C及び図6Dによれば、子午線(x=0.0mm)に沿った固有非点収差の値は実質的にゼロである。
(実施形態1)
図7及び図8は、付加非点収差が近用部及び中間部に対応して付加され、垂直方向の屈折力の量が水平方向の屈折力の量よりも低い実施形態1を示す。
図7A〜図7Dは、透過平均度数により特徴付けられた表面、子午線に沿った透過平均度数の変化、及び表面の水平断面を示す。
図8A〜図8Dは、透過固有非点収差により特徴付けられた表面、子午線に沿った透過固有非点収差の変化、及び表面の水平断面を示す。
そのような表面は、レンズを透過した光線が透過する眼球側の仮想的な表面として意図し得る。「仮想的な」という言葉は、表面がレンズの実際の表面ではないことを意味する(仮想的な表面は、収差を計算するための参照表面セットであり、角膜、網膜等上にある必要はない)。透過平均度数及び透過固有非点収差は、平均度数及び眼球側に示される固有非点収差として意図し得、表面平均度数(曲率半径の逆数の意味で)及び表面固有非点収差と異なる。
以下、より詳細な説明を図7及び図8に与える。
図7Aは、実施形態1に対応する透過平均度数マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。処方データはS+0.00 ADD2.00である。
図7Bは、実施形態1に対応する垂直方向の屈折力、水平方向の屈折力、及び平均度数における子午線に沿った透過度数変化を示す。縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は加入度数ADD(D)を示す。図7Bでは、垂直方向の屈折力(VP)線は点線であり、水平方向の屈折力(HP)線は破線であり、平均度数(MP)線は実線である。MPはVP及びHPの平均である。図7BのMP線によれば、y=4.0mmにおける累進の開始点から、平均度数が加入度数(ADD)2.00Dに達するy=−14.0mmにおける累進の終わりまでの累進帯長は18mmを示す。
累進の開始点と終了点との間の領域は、中間部に対応する。累進の開始点の上の領域は、遠用部に対応する。累進の終了点の下の領域は、近用部に対応する。
図7Bでは、垂直方向の屈折力線、水平方向の屈折力線、及び平均度数線は、付加非点収差0.50Dが、平均度数値を維持しながら、垂直方向の屈折力を0.25Dだけ低減し、水平方向の屈折力を0.25Dだけ増大させることにより、中間部及び近用部において付加されることを更に示す。また、図7Bは、垂直方向の屈折力の量が水平方向の屈折力の量よりも低いことを示す。
付加非点収差は、累進面に元々存在する固有の非点収差を相殺する方向において機能し、したがって、近用部の明視域は拡張する。
図7C及び図7Dはそれぞれ、図7Cではy=−4.0mm及び図7Dではy=−14.0mmにおける水平断面における透過度数変化の概略全体図を示す。縦軸は度数(D)を示し、横軸はx方向における位置(mm)を示す。それぞれ、y=−4.0mmは中間部の代表として設定され、y=−14.0mmは近用部の代表として設定される。図7Dは、垂直方向の屈折力の量が、近用部の少なくとも一点において水平方向の屈折力の量よりも低いことを示す。
図7C及び図7Dでは、垂直方向の屈折力の量は、子午線の近傍において概ねx=−5.0mmからX=5.0mmまで水平方向の屈折力の量よりも低く、一方、レンズの周縁に向かい、垂直方向の屈折力の量は水平方向の屈折力の量よりも高い。
図7Dでは、垂直方向の屈折力はレンズの周縁に向かい低減するため、近用部の周縁における固有非点収差は低減する。近用部の側における固有非点収差の低減については、図6Aと図8Aとの比較において後に説明する。
換言すれば、付加非点収差は、0.50Dにおいて、垂直方向における度数が、中間部及び近用部において子午線に沿って水平方向における度数よりも低いように生じる。これは、累進面に特有の歪みが解決する方向である。
図8Aは、実施形態1に対応する透過固有非点収差マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。処方データはS+0.00 ADD2.00である。
エリア「a」は明視域の尺度に対応する。明視域とは、装用者が累進多焦点レンズを通して視界をクリアに見ることができる領域である。明視域は、所定の閾値を有する固有非点収差の特定の等高線で囲まれた領域として定義される。この例では、固有非点収差の値は0.50Dである。値は0.50Dに限定されず、例えば、0.25Dがより好ましいが、0.50Dを超えないほうがいい。
エリア「a」における2つの矢印はそれぞれ、y=−14.0mm(近用部を表す)及びy=−20.0mm(近用部の下部を表す。y=−20.0mmは、フレームへのレンズ処方条件を考慮に入れた場合、下限として近用部を固定するのにかなり十分であるように見える)におけるものである。
図8Aにおける符号「b」を有する丸が付いたエリアは、最大固有非点収差が存在するエリアに対応し、エリア「b」内の固有非点収差の値が最大である。これらの矢印、エリア「a」及びエリア「b」は、後に従来の設計と比較する際に参照される。
図8Bは、実施形態1に対応する子午線に沿った透過固有非点収差変化を示す。縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は透過固有非点収差(D)を示す。図8Bはまた、所定量の付加非点収差0.50Dが、図7Bと比較して中間部及び近用部において子午線に沿って意図的に付加されることを示す。処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応する透過性能パラメータは0.50Dである。
図8C及び図8Dはそれぞれ、図8Cではy=−4.0mm及び図8Dではy=−14.0mmにおける水平断面における透過固有非点収差変化の概略全体図を示す。縦軸は透過固有非点収差(D)を示し、横軸はx方向における位置(mm)を示す。それぞれ、y=−4.0mmは中間部の代表として設定され、y=−14.0mmは近用部の代表として設定される。
図8C及び図8Dでは、約0.50Dの付加非点収差が子午線に沿って付加される。近用部における近用基準点(NP)が設定されるy=−14.0mmにおいて、付加非点収差は0.50Dに達する。
(実施形態1の説明)
実施形態1は、付加非点収差が、目において且つ近用部及び中間部に対応して生成されるように付加されることを示す。更に、一例では、垂直方向の屈折力の量は、近用部の少なくとも一点に対応して水平方向の屈折力の量よりも低い。
換言すれば、付加非点収差は、付加非点収差を目において取得し得るよう垂直方向の屈折力の量が水平方向の屈折力の量よりも低いように付加される。垂直方向の屈折力及び水平方向の屈折力は、目で知覚されるか、又は目において生成し得、すなわち、透過垂直方向の屈折力及び透過水平方向の屈折力であり得る。
より一般的には、垂直方向の屈折力及び水平方向の屈折力は、2より多い複数の成分が存在する場合、2つの屈折力成分である。また、水平及び垂直は、固有非点収差を記述することができる基となる2つの成分がある限り、特定の基準系に限定されない。それにより、拡張された近用部を取得することができる。
実施形態1において任意選択的に、付加非点収差は近用部の明視域の尺度に対応する。換言すれば、付加非点収差は、近用部の明視域の尺度に関連し、又は尺度に基づいて決定される。尺度は明視域の幅を含み得、幅は任意選択的に、所定の閾値を下回る固有非点収差値を特徴とするエリアの幅であり、別の例では、尺度は明視域の面積(の尺度)であり得、別の例では、拡張幅と拡張面積との組合せである。
更に換言すれば、付加非点収差は、所与の閾値を下回る(又は所与の閾値に等しい)固有非点収差を有する領域の幅に関連して設定される。このようにして、付加非点収差は、近用部における明視域の幅を制御するように付与することができる。
実施形態1において任意選択的に、付加非点収差は拡張された明視域に対応し、ここで、拡張された明視域は、実質的にゼロの付加非点収差に対応する明視域よりも大きい明視域である。すなわち、付加非点収差の量は、実質的にゼロ付加の場合と比較した明視域の拡張を考慮に入れて計算し得る。
実施形態1において任意選択的に、付加非点収差は、拡張された明視域に関連し、付加非点収差の増大は、拡張された明視域の幅の増大に対応する。
従来の光学設計では、子午線が臍状(umbilical)でなければならないと考えられており、したがって、光学レンズ設計者が明視域を拡張しようとする場合、制約があった。しかしながら、従来の光学設計とは対照的に、付加非点収差を提供して、子午線を臍状でないようにすることにより、制限は低くなる。拡張の効果は付加非点収差の量に比例するが、上限がある。
したがって、付加非点収差を変更することにより、近用部における拡張された明視域の幅を制御することが可能である。一例では、明視域とは、所定の閾値を下回る付加非点収差を特徴とする領域である。
(目標分布の状態としての従来の設計と実施形態1との比較)
透過固有非点収差マップにおいて、従来の透過ベース設計を使用した従来の設計(図6A)及び実施形態1(図8A)を比較する。これらのマップは、最終的に得られるレンズの実際の表面を製造する際、基準として設定される透過固有非点収差の目標分布として使用される。
図6A及び図8Aは、従来の設計(図6A)と実施形態1(図8A)との透過固有非点収差マップの比較を示す。比較は、実施形態1の近用部の明視域が従来のものよりも拡張することを示す。両方の透過固有非点収差マップのエリア「a」を参照のこと。
実施形態1の透過固有非点収差マップにおける画像測定による明視域の幅は、y=−14.0mm(上の「a」)及びy=−20.0mm(下の「a」)においてそれぞれ10.65mm及び13.55mmである。従来の設計では、同じように、y=−14.0mm(上の「a」)及びy=−20.0mm(下の「a」)においてそれぞれ8.71mm及び10.64mmである。
また、図8Aにおける周縁エリアは高固有非点収差値を示さず、すなわち、図6Aのサイドエリアにおける1.50Dに等しい固有非点収差を有するエリアは、図8Aの対応するマップに現れない。透過固有非点収差マップ上の符号「b」を有する丸が付けられたエリアを参照のこと。従来の設計の丸が付けられたエリア「b」の固有非点収差値は1.50Dを超え、一方、本実施形態のものは1.50D未満である。それにより、改善されたレンズが得られる。
(最終的に得られるレンズの状態としての従来の設計と実施形態1との比較)
次に、以下において、目標分布としての1組の透過平均度数マップ及び透過固有非点収差マップに基づく、最終的に得られるレンズへの設計フローについて説明する。次に、最終的に得られるレンズの透過固有非点収差マップにおける従来の設計と実施形態1との比較を行うことを後に図13A及び図13Bに示す。
目標分布が決定された後、外面及び内面が、透過において目標分布が実際に得られるように設計される(図4のステップS102又は図25のステップS102Aを参照のこと)。
ここで、設計プロセスは図25を参照して進められる。
まず、眼鏡の仕様及び装用者に適したパラメータが取得される。例えば、処方データ。処方データは、従来の場合及び本発明の実施形態の場合の両方で同じであり、例えば、S+0.00D ADD2.00Dである(図25のステップS101Aを参照のこと)。
次に、基本設計を新たに設計し得、又は累進多焦点レンズの任意の既存設計ラインナップから選択し得る。ここで、サンプル設計Aを基本設計として使用する(図25のステップS101Bを参照のこと)。サンプル設計Aの累進帯長は、レンズ設計として18mmであり、表面構造として内面累進多焦点レンズであり、インセットは2.5mmであり、屈折率は1.60に等しい。基本設計は、従来の設計及び本発明の実施形態の両方で共通である。
基本設計は設計又は選択されるが、業界で利用可能な他の設計を用いても同様の結果が得られよう。本実施形態の基本設計は、例えば、従来技術の場合と同様に得ることができる。
次に、目標分布が決定される(図25のステップS101Cを参照のこと)。実施形態1では、付加非点収差の量は、垂直方向の屈折力が水平方向の屈折力よりも低い子午線に沿って0.50Dに設定される(図25のステップS101Dを参照のこと)。付加非点収差の量及び垂直方向の屈折力と水平方向の屈折力との関係は、好ましくは、レンズ製造業者により設定することができるが、S101Aにおいて事前に光学設計者により設定することもできる。従来の設計の目標分布は、ゼロ付加非点収差のため、基本設計と同じである。
次に、外面及び内面は、光線がこれらの2つの表面を透過した後の度数分布が、透過における目標分布に一致するように設計される(図25のステップS102Aを参照のこと)。この実施形態では、内面は累進面であり、内面側は最適に設計されている(いわゆる非球面補正が実行されているが、他の技法も同様の結果をもたらすであろう)。
外面及び内面は、透過における目標分布が実際に得られるように設計される。換言すれば、目標分布は、決定された透過性能パラメータに対応すると言える。上述した効果は、図13A(実施形態1)と図13B(従来の設計)との比較からも認識することができる。
透過計算のパラメータは、例えば、角膜−頂点距離(CVD)は12.0mmであり、頂点から目の回旋中心までは25.0mmであり、パンソフィック角(pansophic angle)は10.0度であり、瞳孔間距離(PD)は64.0mmであり、フレームと顔がなす角度は0.0度である。
パラメータのこれらの数字の例は、上述した透過ベース設計に基づき、これは好ましいが、目に提供される付加非点収差を有するように付加非点収差が意図的に付加される限り、他の方法を用いても同様の結果を得ることができる。
図13A及び図13Bは、実施形態1と従来の設計との最終的に得られる透過固有非点収差マップの比較を示す。比較は、実施形態1の近用部における明視域が従来のものよりも拡張することを示す。両方の透過固有非点収差マップ上のエリア「a」を参照のこと。
実施形態1の透過固有非点収差マップにおける画像測定による明視域の幅は、y=−14.0mm(上の「a」)及びy=−20.0mm(下の「a」)においてそれぞれ11.13mm及び15.00mmである。従来の設計では、同じように、y=−14.0mm(上の「a」)及びy=−20.0mm(下の「a」)においてそれぞれ7.74mm及び10.16mmである。
また、図13Aにおける周縁エリアは高固有非点収差値を示さず、すなわち、図13Bのサイドエリアにおける1.75Dに等しい固有非点収差を有するエリアは、図13Aの対応するマップにはほぼ現れない。透過固有非点収差マップ上の符号「b」を有する丸が付けられたエリアを参照のこと。従来の設計の丸が付けられたエリア「b」の固有非点収差値は1.75Dを超え、一方、実施形態1のものは略1.75D未満である。
(実施形態2)
図9及び図10は、付加非点収差が近用部及び中間部に対応して付加され、垂直方向の屈折力の量が水平方向の屈折力の量よりも高い実施形態2を示す。
図9A〜図9Dは、透過平均度数により特徴付けられた表面、子午線に沿った透過平均度数の変化、及び表面の水平断面を示す。
図10A〜図10Dは、透過固有非点収差により特徴付けられた表面、子午線に沿った透過固有非点収差の変化、及び表面の水平断面を示す。
そのような表面は、レンズを透過した光線が透過する目のサイド上の仮想的な表面として意図し得る。「仮想的な」という言葉は、表面がレンズの実際の表面ではないことを意味する。透過平均度数及び透過固有非点収差は、平均度数及び目のサイドに示される固有非点収差として意図し得、表面平均度数(曲率半径の逆数の意味で)及び表面固有非点収差と異なる。
以下、より詳細な説明を図9及び図10に与える。
図9Aは、実施形態1に対応する透過平均度数マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。処方データはS+0.00 ADD2.00である。矢印「A」及び「B」は、矢印「A」としてy=−14mmにおける水平幅及び矢印「B」としてy=−20mmにおける水平幅に対応する。2つの矢印はそれぞれ、y=−14.0mm(近用部を表す)及びy=−20.0mm(近用部の下部を表す。y=−20.0mmは、フレームへのレンズ処方条件を考慮に入れた場合、下限として近用部を固定するのにかなり十分であるように見える)におけるものである。これらの矢印は後に従来の設計と比較する際に参照される。
図9Bは、実施形態2に対応する垂直方向の屈折力、水平方向の屈折力、及び平均度数における子午線に沿った透過度数変化を示す。縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は加入度数ADD(D)を示す。図9Bでは、垂直方向の屈折力(VP)線は点線であり、水平方向の屈折力(HP)線は破線であり、平均度数(MP)線は実線である。MPはVPとHPとの平均である。図9BのMP線によれば、y=4.0mmにおける累進の開始点から、平均度数が加入度数(ADD)2.00Dに達するy=−14.0mmにおける累進の終わりまでの累進帯長は18mmを示す。
累進の開始点と終了点との間の領域は、中間部に対応する。累進の開始点の上の領域は、遠用部に対応する。累進の終了点の下の領域は、近用部に対応する。
図9Bでは、垂直方向の屈折力線、水平方向の屈折力線、及び平均度数線は、付加非点収差0.50Dが、平均度数値を維持しながら、水平方向の屈折力を0.25Dだけ低減し、垂直方向の屈折力を0.25Dだけ増大させることにより、中間部及び近用部において付加されることを更に示す。また、図9Bは、垂直方向の屈折力の量が水平方向の屈折力の量よりも高いことを示す。
図9C及び図9Dはそれぞれ、図9Cではy=−4.0mm及び図9Dではy=−14.0mmにおける水平断面における透過度数変化の概略全体図を示す。縦軸は度数(D)を示し、横軸はx方向における位置(mm)を示す。それぞれ、y=−4.0mmは中間部の代表として設定され、y=−14.0mmは近用部の代表として設定される。図9Dは、垂直方向の屈折力の量が、近用部の少なくとも一点において水平方向の屈折力の量よりも高いことを示す。
図10Aは、実施形態2に対応する透過固有非点収差マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。処方データはS+0.00 ADD2.00である。
図10Bは、実施形態2に対応する子午線に沿った透過固有非点収差変化を示す。縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は透過固有非点収差(D)を示す。図10Bはまた、所定量の付加非点収差0.50Dが、図9Bと比較して中間部及び近用部において子午線に沿って意図的に付加されることが示される。処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応する透過性能パラメータは0.50Dである。
図10C及び図10Dはそれぞれ、図10Cではy=−4.0mm及び図10Dではy=−14.0mmにおける水平断面における透過固有非点収差変化の概略全体図を示す。縦軸は透過固有非点収差(D)を示し、横軸はx方向における位置(mm)を示す。それぞれ、y=−4.0mmは中間部の代表として設定され、y=−14.0mmは近用部の代表として設定される。
図10C及び図10Dでは、約0.50Dの付加非点収差が子午線に沿って付加される。近用部における近用基準点(NP)が設定されるy=−14.0mmにおいて、付加非点収差は0.50Dに達する。
(実施形態2の説明)
実施形態2は、付加非点収差が、目において且つ近用部及び中間部に対応して生成されるように付加されることを示す。更に、一実施形態では、垂直方向の屈折力の量は、近用部の少なくとも一点に対応して水平方向の屈折力の量よりも高い。
換言すれば、付加非点収差は、付加非点収差を目において取得し得るよう垂直方向の屈折力の量が水平方向の屈折力の量よりも高いように付加される。垂直方向の屈折力及び水平方向の屈折力は、目で知覚されるか、又は目において生成し得、すなわち、透過垂直方向の屈折力及び透過水平方向の屈折力であり得る。
より一般的には、垂直方向の屈折力及び水平方向の屈折力は、2より多い複数の成分が存在する場合、2つの屈折力成分である。また、水平及び垂直は、固有非点収差を記述することができる基となる2つの成分がある限り、特定の基準系に限定されない。それにより、水平幅の拡張を得ることができる。
水平幅とは、特定の視覚距離で安定且つ十分な平均度数を得ることができる面積の幅である。換言すれば、水平幅とは、近用部における特定の位置での平均度数マップにおける平均度数閾値等高線の交点間の水平距離である。水平幅は、レンズの2つの刻印を通る線に平行する。
矢印「A」及び矢印「B」は、図9Aにおける水平幅を参照するために使用され、ここで、閾値は1.00Dの等高線により表され、対応するエリアを区切る。区切られたエリアは、付加非点収差を使用して、そのようなエリアの拡張幅を制御すると言えるように付加非点収差に関連する幅を有する。
実施形態2では、付加非点収差は、平均度数閾値以上の平均度数を有する近用部の水平幅に対応する。
実施形態2において任意選択的に、付加非点収差は水平幅の拡張(又は拡張)に対応する。拡張された水平幅は、ゼロ付加非点収差に対応する水平幅よりも広い近用部における水平幅である。
図9は、付加非点収差が近用部及び中間部に対応して付加され、垂直方向の屈折力の量が水平方向の屈折力の量よりも高い一例を示す。この場合、付加非点収差は、中間部及び近用部において子午線に沿って垂直方向における力が水平方向における力よりも高いように、0.50Dにおいて生じ得る。
付加非点収差0.50Dは、水平方向の屈折力を0.25Dだけ低減し、垂直方向の屈折力を0.25Dだけ増大させることにより中間部及び近用部に付加される。
付加非点収差を提供することにより、より高い垂直方向の屈折力とより低い水平方向の屈折力との組合せで生じ得、子午線の近傍における度数変更が累進的になり、水平方向の屈折力の幅はそれに従って広くなる。累進多焦点レンズ上の周縁エリアにおける水平方向の屈折力は、遠用部と回廊とを滑らかに結ぶために維持されるため。
(目標分布の状態としての従来の設計と実施形態2との比較:水平幅)
透過平均度数マップにおいて、従来の透過ベース設計を使用した従来の設計(図5A)及び実施形態2(図9A)を比較する。これらのマップは、最終的に得られるレンズの実際の表面を製造する際、基準として設定される透過平均度数の目標分布として使用される。
図5A及び図9Aは、従来の設計(図5A)と実施形態2(図9A)との透過固有平均度数マップの比較を示す。比較は、近用部の水平幅の拡張を示す(平均度数は1.00D以上であり、透過固有平均度数マップ上の矢印「A」及び「B」も参照のこと)。
実施形態2の透過固有平均度数マップにおける画像測定による水平幅は以下の通りである。これは、透過固有平均度数マップにおいて矢印により強調表示されている。従来の設計(図5A)及び実施形態2(図9A)でのy=−14mmにおける矢印「A」はそれぞれ20.32mm及び27.10mmである。従来の設計(図5A)及び実施形態2(図9A)でのy=−20mmにおける矢印「B」はそれぞれ26.61mm及び34.84mmである。この実施形態によるレンズでは、そのような幅が拡張したこと、すなわち、広くなるか、又は大きくなることを見て取ることができる。
(最終的に得られるレンズの状態としての従来の設計と実施形態2との比較:水平幅)
目標分布が決定された後、外面及び内面は、透過において目標分布が実際に得られるように設計される(図4のステップS102又は図25のステップS102Aを参照のこと)。
図14A及び図14Bは、本発明の実施形態2によるレンズ(図14A)及び従来の累進多焦点レンズ(図14B)での平均度数値を示す表面を更に比較する、最終的に得られた透過平均度数マップを示す。
ここで、最終的に透過固有非点収差マップを得るプロセスは、図25を参照して進められる。
まず、眼鏡の仕様及び装用者に適したパラメータが取得される。例えば、処方データ。処方データは、従来の場合及び本発明の実施形態の場合の両方で同じであり、具体的にはS+0.00D ADD2.00である(図25のステップS101Aを参照のこと)。
次に、基本設計を新たに設計し得、又は累進多焦点レンズの任意の既存設計ラインナップから選択し得る。ここで、サンプル設計Aを基本設計として使用する(図25のステップS101Bを参照のこと)。サンプル設計Aの累進帯長は、レンズ設計として18mmであり、表面構造として内面累進多焦点レンズであり、インセットは2.5mmであり、屈折率は1.60に等しい。基本設計は、従来の設計及び本発明の実施形態の両方で共通である。
基本設計は設計又は選択されるが、業界で利用可能な他の設計を用いても同様の結果が得られよう。本実施形態の基本設計は、例えば、従来技術の場合と同様に得ることができる。
次に、目標分布が決定される(図25のステップS101Cを参照のこと)。実施形態2では、付加非点収差の量は、垂直方向の屈折力が水平方向の屈折力よりも高い子午線に沿って0.50Dに設定される(図25のステップS101Eを参照のこと)。付加非点収差の量及び垂直方向の屈折力と水平方向の屈折力との関係は、好ましくは、レンズ製造業者により設定することができるが、光学設計者により設定又は光学設計者と一緒に設定することもできる。従来の設計の目標分布は、ゼロ付加非点収差のため、基本設計と同じである。
次に、外面及び内面は、光線がこれらの2つの表面を透過した後の度数分布が、透過の目標分布に一致するように設計される(図25のステップS102Aを参照のこと)。この実施形態では、内面は累進面であり、内面サイドは最適に設計されている(いわゆる非球面補正が実行されているが、他の技法も同様の結果をもたらすであろう)。
外面及び内面は、透過の目標分布が実際に得られるように設計される。換言すれば、目標分布は、決定された透過性能パラメータに対応すると言える。上述した効果は、図14A(実施形態2)と図14B(従来の設計)との比較からも認識することができる。
透過計算のパラメータは、例えば、角膜−頂点距離(CVD)は12.0mmであり、頂点から目の回旋中心までは25.0mmであり、装用時前傾角は10.0度であり、瞳孔間距離(PD)は64mmであり、フレームと顔がなす角度は0.0度である。
パラメータのこれらの数字の例は、上述した透過ベース設計に基づき、これは好ましいが、目に提供される付加非点収差を有するように付加非点収差が意図的に付加される限り、他の方法を用いても同様の結果を得ることができる。
図14A及び図14Bは、従来の設計(図14B)と実施形態2(図14A)との最終的に得られる透過平均度数マップの比較を示す。比較は、近用部の水平幅が拡張することを示す。
実施形態2と従来の設計とのy=−14.0mm(近用部を表す)における矢印「A」に示される水平幅はそれぞれ、20.32mm及び17.90mmである。実施形態2と従来の設計とのy=−20.0mm(近用部の下部位置を表す)における矢印Bに示される水平幅はそれぞれ、20.81mm及び20.32mmである。幅の数字は、透過固有平均度数マップの画像測定に基づく。
実施形態2は、スキュー歪みの低減に関連する別の効果を有する。
(目標分布の状態としての従来の設計と実施形態2との比較:スキュー歪み)
図11A及び図11Bはそれぞれ、図11Aではy=4.0mm及び図11Bではy=−14.0mmにおける水平断面上の乱視軸の挙動における実施形態2と従来の設計との比較を示す。縦軸は乱視軸AX(度)を示し、横軸はx方向における位置(mm)を示す。それぞれ、y=−4.0mmは中間部の代表として設定され、y=−14.0mmは近用部の代表として設定される。
従来の設計の点線(ゼロ付加非点収差の場合)と付加非点収差を適用する場合の実線とを比較した場合、付加非点収差を適用する場合、乱視軸は斜めの方向から垂直方向に変化する。例えば、45度から90度の方向に。乱視軸が90度に近づくほど、スキュー歪みの知覚は下がる。
矩形知覚における違いの画像図を表す四辺形を用いてスキュー歪みの低減の効果を視覚的に理解するために、図11に関連する図12A及び図12Bを使用する。実施形態2と従来の設計との間で(x,y)=(−5.0,−4.0)における乱視軸を比較した場合、図11Aにおいて、Axは実施形態2では点Bにおいて62度であり、Axは従来の設計では点Aにおいて51度である。これは、付加非点収差を適用することにより乱視軸が90度の方向に向かって変化することを意味する。図12Aにおける四辺形は、図12Bに示されるより矩形に近い形状になる。
(最終的に得られるレンズの状態としての従来の設計と実施形態2との比較:スキュー歪み)
次に、以下において、最終的に得られるレンズの状態としての水平断面上の乱視軸の挙動における従来の設計と実施形態2との比較。
図15A及び図15Bはそれぞれ、最終的に得られるレンズの透過状態における中間部y=−4.0mm(中間部を表す、図15A)及び近用部y=−14.0mm(近用部を表す、図15B)での水平断面上の乱視軸の挙動を示す。図15A及び図15Bの横軸は水平位置x(mm)を表し、縦軸は乱視軸Ax(度)を表す。実施形態2は実線で示され、従来の設計は点線で示される。
透過を計算する条件は実施形態1と同じである。基本設計はサンプル設計Aとして採用される。サンプル設計Aの累進帯長は、レンズ設計として18mmであり、表面構造として内面累進多焦点レンズであり、インセットは2.5mmであり、屈折率は1.60に等しい。例えば、透過計算のパラメータは、角膜−頂点距離(CVD)は12.0mmであり、頂点から目の回旋中心までは25.0mmであり、装用時前傾角は10度であり、瞳孔間距離(PD)は64mmであり、フレームと顔がなす角度は0.0度である。
図15A及び図15Bでは、スキュー歪みが低減することを見て取ることができる。特に、従来設計のレンズと比較した場合、曲線が90度方向に向かって移動し、したがって、スキュー歪みを低減又は相殺することを見て取ることができる。
(実施形態3)
本発明の実施形態3によれば、付加非点収差の量は子午線(の少なくとも一点)に対応して付加され、子午線に沿って垂直方向の屈折力の量は水平方向の屈折力の量と異なる。
子午線とは、球面度数が累進多焦点レンズの下部に向かう方向に対応して増大する(又は曲率が徐々に変化する)レンズの子午線ラインである。
実施形態3は、実施形態1及び実施形態2よりも短い累進帯長を有する累進多焦点レンズを示す。実施形態3の累進帯長は10mmであり、一方、実施形態1及び実施形態2の累進帯長は18mmである。
累進帯長が短いほど、度数は子午線に沿って急激に変化する。したがって、累進帯長が短いと、固有非点収差及びスキュー歪みは高くなる。そのような大きな非点収差及びスキュー歪みは、装用者に不快な装用感を生じさせる。
しかしながら、実施形態3は、より短い累進帯長のみならず、一般的な累進帯長の場合にも適用することができ、したがって、より短い累進帯長に限定されない。
図16Aは、左端の従来の累進多焦点レンズに対応する透過固有非点収差マップを示す。図16Aの中央の図には、中間部における子午線近傍の拡張エリアを示す。図16Aの右端の図には、正規化された加入度数曲線を示す。
図16B〜図16Dは、実施形態3として累進多焦点レンズの中間部に付加非点収差を提供する仕方を示す。
図16Aの左端の図は透過固有非点収差マップを示す。透過固有非点収差マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。18mm等の共通の累進帯長を有する実施形態1及び実施形態2と比較すると、固有非点収差の等高線の密度は非常に高い。これは不快な視覚的感覚を装用者に生じさせる。
快適な装用感を得る解決策の1つは、等高線の間隔を増大させること、すなわち、非点収差の変化率を下げることである。図16Aの左端の図では、固有非点収差の等高線の密度が高い2つのエリアがある。一方は、非点収差が遠用部と中間部との境界の周囲で高密度であるエリアである。他方は、非点収差が中間部における子午線近傍で水平方向において高密度であるエリアである。
垂直方向で非点収差が高密度であるエリアで固有非点収差の等高線の密度を低減するために、従来の設計方法を使用することによりサポートすることができる。
しかしながら、非点収差が水平方向において高密度であるエリアでは、既存設計方法で有効な対策はない。これは、従来の設計方法では、子午線は臍点の群として設計されるためである。これは、ミンクウィッツの法則が支配することを意味する。ミンクウィッツの法則によれば、子午線の周囲に生じる固有非点収差は、加入度数の増大率の2倍であり、したがって、累進帯長が短いほど、固有非点収差は高くなる。
この制限を回避するために、中間部における子午線を臍状ではない形状にすることを考えた。具体例を図16B〜図16Dに示す。
図16Aの中央の図には、中間部における子午線近傍の拡張エリアを示す。拡張エリアのサイズは、例えば、10mm×10mm四方である。この場合、10mmの値が累進帯長の参照に採用される。しかしながら、値は必ずしも一致する必要はない。図16Aの中央の図は、子午線近傍に非常に高い固有非点収差があることを示す。
図16Aの中央の図は、図16Aの左端の図における実際の等高線に基づいて描かれた固有非点収差の概略等高線を示す(以後、これらの概略等高線を「等高線」と呼ぶ)。図16Aの中央の図における等高線は、子午線近傍で局所的に有効な数学関数により計算される。数学関数は、子午線が臍状である場合、ミンクウィッツの法則に従う。
図16Aの中央の図では、固有非点収差の量はグレースケールで表現される。グレーの陰影が明るいほど、固有非点収差の値は低くなる。グレーの陰影が濃いほど、固有非点収差の値は高くなる。このグレースケールにおいて、固有非点収差の最小量は0.00Dであり、固有非点収差の最大量は4.00Dである。
図16Aの中央の図では、拡張エリアの中央線に沿った垂直中央エリアはグレースケールで最も明るく、その理由は、子午線が中央線を通るためである。すなわち、垂直中央エリアでは固有非点収差は非常に低く、実質的にゼロであり、その理由は、子午線が従来の設計に起因して臍状であるためである。これとは対照的に、拡張エリアの左端部及び右端部では、グレーの陰影は非常に濃い。左端部及び右端部のエリアのみならず、子午線近傍の両サイドエリアも急に暗くなる。すなわち、累進帯長がより短い累進多焦点レンズの中間部における非点収差の値は一般に高い。
図16Aの右端の図では、正規化された加入度数曲線を示す。縦軸はy方向における距離(mm)を示し、横軸は正規化された加入度数(D)を示す。加入度数は正規化されるため、実際の加入度数が2.00Dである場合、横軸上の値は2倍になり、実際の加入度数が3.00Dである場合、横軸上の値は3倍になることができる。
図5Bにおける正規化された加入度数の線によれば、y=5.0mmにおける累進の開始点から、平均度数が正規化加入度数1.00Dに達するy=−5.0mmにおける累進の終了までの累進帯長は、10mmを示す。
図16Aの右側の図における実線は、垂直方向の屈折力及び水平方向の屈折力の平均である平均度数を示す。この場合、垂直方向の屈折力と水平方向の屈折力との差はゼロであるため、垂直方向の屈折力及び水平方向の屈折力の線は重なる。
図16B〜図16Dはそれぞれ、平均度数を維持ながら、付加非点収差0.25Dが子午線に沿って適用される拡張エリア内部の透過固有非点収差マップを示す。付加非点収差が適用される拡張エリアの形状は、正方形に限定されない。矩形、円形、又は楕円形も可能であり得る。付加非点収差が適用されるエリアの数は1に限定されない。2つ以上のエリアも可能である。
図16B〜図16Dの右側の図は、正規化された加入度数曲線である。実線は垂直方向の屈折力変化を示し、点線は水平方向の屈折力変化を示す。
従来の累進多焦点レンズの場合、子午線は臍点の群であり、したがって、理論上、この部分(図16Aの中央の図の中央部)には非点収差がなく、周縁に向かって移動すると、非点収差は増大する。
図16A〜図16Dに示される小さな斜線はスキュー(斜め方向の固有非点収差)を示す。より詳細には、斜線の長さは特定の点におけるスキューの強度(乱視度数の量)を示し、傾きは乱視軸を示す。
付加非点収差の量は、子午線に沿った中間部に対応して付加される。子午線ラインは必ずしも垂直であるわけではなく、実際には、レンズの下部に向かって移動する場合、鼻側に向かって湾曲した線であることができる。
(実施形態3の事例1)
図16Bに示される本発明の実施形態3の第1の事例では、付加非点収差の量は子午線に沿って中間部(の少なくとも一点)に対応して一定である。
正規化表記のベースにおける付加非点収差の所定量は0.25Dである。線分の長さで示される度数差を文字「c」で参照し、cは0.25Dに対応する。線分の長さは、垂直方向の屈折力と水平方向の屈折力との差に対応する。処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応する透過性能パラメータは、正規化表記のベースにおいて0.25Dである。
実施形態3の一例及び/又は実施形態3の第1の事例(図16B)では、付加非点収差の量は中間部における子午線に対応して一定である。余分なことだが、導入部でも更に上述したように、中間部が累進多焦点レンズで与えられる通常の意味を有することに留意する。
実施形態3の一例及び/又は実施形態3の第1の事例(図16B)では、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率、好ましくは(必ずしもそうである必要はないが)スキュー歪みに対応する。固有非点収差変化率とは、例えば、少なくとも1つの空間変数(例えば、一表面上の基準点からの距離)の所定の関数に従って固有非点収差が変化する率である。この例では、付加非点収差の量は固有非点収差変化率に基づいて計算される。
実施形態3の第1の事例の別の例(図16A)によれば、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率、好ましくは(必ずしもそうである必要はないが)スキュー歪みの低減に対応する。低減した固有非点収差変化率とは、ゼロ付加非点収差に対応する固有非点収差変化率よりも低い固有非点収差変化率である。
この場合、固有非点収差の最大値及び最小値はより近くなり、したがって、固有非点収差の等高線の密度は穏やかになる。等高線の密度が穏やかになる程度は、図16Aの中央の図と図16Bの中央部とで比較することができる。図16Aにおける等高線の間隔「a−a」は、図16Bにおける「a’−a’」に拡張する。また、中央部から周縁へ互いに隣りの第1及び第2の等高線である等高線の間隔「a(b)−b(a)」及び「a’(b’)−b’(a’)」も拡張する。
図16Bは、固有非点収差の密度が子午線の近傍及びその周囲で低減していることを示す。固有非点収差(非点収差)の急激な変化が低減するため、装用感は改善する。
すなわち、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率、好ましくはスキュー歪みの低減に基づいて計算される。換言すれば、付加非点収差の量が、固有非点収差変化率の低減を制御するのに使用されると言える。
換言すれば、図16Bに示されるように、本発明の実施形態3の第1の事例では、一定量の付加非点収差は、中間部において子午線に沿って付加され、すなわち、中間部における子午線に沿った垂直方向の屈折力の量及び水平方向の屈折力の量は異なる(図で見て取ることができるように、重ならない)。これは、固有非点収差変化率を低減させ得る。
したがって、付加非点収差を変更することにより、固有非点収差の低減は、特定の値内に入るように制御することができる。換言すれば、付加非点収差は、固有非点収差の低減を制御し、又は固有非点収差の低減に関連する(他の実施形態と共に一般に又は他の実施形態と同様に、ここで、付加非点収差はレンズの特性に関連し、又はレンズの特性の制御に使用される)。ここに記載される事例によれば、図16Bに示されるように、固有非点収差変化率の低減を達成することができる。
しかしながら、この事例では、固有非点収差の最大量は変化しない。生成された斜め方向の固有非点収差(図中の斜め線又は斜線)の低減はあまり十分ではなく、したがって、歪みはあまり改善されない。
(実施形態3の事例2)
図16Cに示される本発明の実施形態3の第2の事例では、付加非点収差の量は、中間部における子午線の拡張エリアの上から下に、子午線に対応して単調に増加する。
正規化表記のベースにおける付加非点収差の所定量は0.25Dである。線分の長さで示される度数差を文字「c」で参照し、cは0.25Dに対応する。処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応する透過性能パラメータは、正規化表記のベースにおいて0.25Dである。
実施形態3の第2の事例(図16C)は、実施形態3の第1の事例の残っている上述した問題を改善する。
実施形態3の第2の事例(図16C)の一例では、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率、固有非点収差の量、好ましくはスキュー歪みに対応する。すなわち、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率、固有非点収差の量、及びスキュー歪みの少なくとも1つに基づいて計算される。
換言すれば、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率、非点収差の固有量、及びスキュー歪みの少なくとも1つの値の制御に使用される。
実施形態3の第2の事例(図16C)の別の例では、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率の低減、固有非点収差の最大量の低減、好ましくはスキュー歪みの低減に対応する。低減した固有非点収差変化率は、ゼロ付加非点収差に対応する固有非点収差変化率よりも小さな固有非点収差変化率であり、固有非点収差の低減した最大量は、ゼロ付加非点収差に対応する固有非点収差の最大量よりも小さな固有非点収差の最大量である。
すなわち、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率の低減及び固有非点収差の最大量の低減に基づいて計算され、低減したスキュー歪みは、ゼロ付加非点収差に対応するスキュー歪みよりも小さなスキュー歪みである。換言すれば、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率の低減及び固有非点収差の最大量の低減のそれぞれの値の制御に使用される。
換言すれば、本発明の実施形態3の第2の事例(図16C)では、量が単調に増加する固有非点収差が中間部において子午線に沿って付加され、すなわち、中間部における子午線に沿った垂直方向の屈折力の量及び水平方向の屈折力の量は、異なる率で増大する。
付加非点収差の単調に増加する量のこの差は、中間部の周囲の斜め方向における現存している固有非点収差に直行する方向における斜め方向に固有非点収差を生じさせ、その結果、斜め方向に現存している固有非点収差を相殺することができる。
したがって、固有非点収差の急激な変化のみならず、スキュー歪み、及び最大固有非点収差の量も低減することが可能である。
量が単調に増加する付加非点収差は、固有非点収差変化率を低減させ、スキュー歪みを低減させ、固有非点収差の最大量を低減させる。ここで記載され、図16Cに示される事例によれば、固有非点収差変化率の低減、スキュー歪みの低減、及び固有非点収差の最大量の低減を達成することができる。
固有非点収差変化率の低減は、等高線の間隔が、図16A及び図16Bと比較して図16Cにおいて全体的に拡張することにおいて示すことができる。
スキュー歪みの低減は、図16A及び図16Bよりも図16Cにおいて斜線の長さが短く、斜線の傾斜が垂直に近いことから示すことができる。
固有非点収差の最大量の低減は、図16Cのグレーの陰影が図16A及び図16Bよりも全体的に明るいことにおいて見ることができる。
図16Cでは、グレーの陰影が最も明るい部分、換言すれば、固有非点収差が最も低い部分は、拡張エリアの上縁部の中央であり、図16Cの右側図におけるy=5.0mmである。ここで、水平方向と垂直方向との度数差は実質的にゼロである。
(実施形態3の事例3)
図16Dに示される本発明の実施形態3の第3の事例では、付加非点収差の量は、上から子午線に沿って拡張エリアの中央まで子午線に対応して単調に低下し、中央から子午線に沿って拡張エリアの下部まで単調に増加している。拡張エリアは、中間部に一致し得、又は中間部の少なくとも一部であり得る。
この事例では、子午線の中央は拡張エリアの中央に対応する。一般に、子午線の中央はレンズの中央に対応する。
拡張エリアに記載される累進帯長は、特に実線の長さでは、ゼロ付加非点収差の事例よりも短いように見え得る。
換言すれば、本発明の実施形態3の第3の事例(図16D)では、量が単調に減少し、次に単調に増加する固有非点収差が、中間部において子午線に沿って付加され、すなわち、中間部における子午線に沿った垂直方向の屈折力の量及び水平方向の屈折力の量は、異なる点で増大を開始し、異なる率で増大する。
ここに記載され、図16Dに示される事例によれば、大きな低収差エリアを達成することができる。実際には、グレーの陰影が図16Dにおけるマップでのグレースケールでより明るい部分は、中央周囲のエリアの大半が低非点収差を特徴とすることを示す。
本発明の実施形態3の第3の事例(図16D)において任意選択的に、単調増加及び単調減少(上記参照)の少なくとも一方の割合は、レンズの中央周囲の低収差エリアの広がりを制御するように設定される。したがって、単調増加及び/又は単調減少(すなわち、単調関数の割合)及び/又は両方の組合せを変更することにより、低収差エリアをいかに位置させるかを制御することが可能である。
この構成は、小さな非点収差許容差を有する装用者、すなわち、目に処方されたものからの非点収差の違いを容易に知覚する装用者(例えば、非点収差許容差1.0Dで不快を感じる装用者に対して、非点収差許容差0.5Dで不快を感じる装用者)にとって有用であることができる。
図16Dでは、まず、付加非点収差は単調に減少し、次に単調に増加する。効果は第2の事例と同様であるが、付加される付加非点収差の量を半減することができ、したがって、付加非点収差の許容可能量が小さな人にとって有効である。
図16Dにおいて文字「c」を有する上部線分の長さ及び文字「c」を有する下部線分の長さにそれぞれ示されるように、付加非点収差の量は図16B及び図16Cよりも小さく、その理由は、線分の長さが0.25Dの概ね半分の値を示すためである。
したがって、付加非点収差の所定量は、正規化表記のベースにおいて0.13Dである。処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応する透過性能パラメータは、正規化表記のベースにおいて0.13Dである。
固有非点収差変化率の低減は、等高線の間隔が図16A及び図16Bと比較して図16Dにおいて全体的に拡張することにおいて示すことができる。
スキュー歪みの低減は、図16A及び図16Bよりも図16Dにおいて斜線の長さが短く、斜線の傾斜が垂直に近いことから示すことができる。
固有非点収差の最大量の低減は、図16Dのグレーの陰影が図16A及び図16Bよりも全体的に明るいことにおいて見ることができる。
図16Dでは、グレーの陰影が最も明るい部分、換言すれば、固有非点収差が最も低い部分は、拡張エリアの中央であり、図16Dの右側図におけるy=0.0mmである。ここで、水平方向と垂直方向との度数差は実質的にゼロである。
次に、実施形態3において付加非点収差を拡張エリアに提供する仕方及びその光学的効果について説明する。以下に示すのは、数式での実施形態3(図16D)の拡張エリアの説明である。これらの式は、拡張エリアの内部のみに適用され、エリアの外部には適用されない。
式(1)中、f(x,y)は、累進多焦点レンズの累進面の形状データを表す。すなわち、累進面の高さデータ、「z」値、又は「サグ値」とも呼ばれるものの分布である。
式(1)の最初の項であるf_prog(x,y)は、面補正を適用する前の累進面に対応する。f_prog(x,y)は、従来の設計の表面である図16Aの中央の図に対応する。式(1)の2番目の項であるf_compは補正面に対応する。添え字「comp」は補償を表す。したがって、f(x,y)はf_prog(x,y)とf_compとの和であり、補正後に得られる最終的な累進面として言うことができる。
f_compを更に説明するために、C1、C2、及びy0は定数係数である。y0は、y方向における累進面と補正面との間のシフト量を示す。このシフト量は、累進面のどの位置に補正面の原点が配置されるかに関連する。この事例では、補正面は累進面よりもy0だけ下の位置に合成される。
次に、付加非点収差を拡張エリア外、換言すれば、累進面全体に拡張する方法について説明する。付加非点収差の提供の仕方は、拡張エリア内部の前の例と同様であるように、すなわち、補正面が、適用される基の累進面に付加されるように実行される。ここで、式(2)の代わりに式(3)において適用される。
累進面全体の形状データの数式を以下に示す。式(1)中、f(x,y)は、累進多焦点レンズの累進面の形状データを表す。すなわち、累進面の高さデータ、「z」値、又は「サグ値」とも呼ばれるものの分布。高さデータの分布は、換言すれば、決定された透過性能パラメータに対応するレンズ表面データである。
式(3)の最初の半分は式(2)と同じであり、式(3)は、式(2)中の重みとして指数関数で乗算される。
C1、C2、y0、σx、σy、a、b、及びcは定数値である。
指数関数の乗算は、表面制御の自由度を高める。この実施形態では、主に補正すべきエリアは、中間部における子午線の近傍である。指数関数の乗算は、中央部分から累進面の周縁エリアに向けて補正効果を小さくさせる。
図17A〜図17Cは、式(1)及び式(3)を本発明の実施形態3の第3の事例(図16D)に適用するように設計することの結果である。処方データはS+0.00D ADD2.00である(図25のステップS101Aを参照のこと)。付加非点収差の量は0.30Dであり、0,50Dの概ね半分である。
図17Aは、実施形態3の第3の事例に対応する垂直方向の屈折力、水平方向の屈折力、及び平均度数における子午線に沿った透過度数変化を示す。縦軸はy方向にける位置(mm)を示し、横軸は加入度数ADD(D)を示す。図17Aでは、垂直方向の屈折力(VP)線は点線であり、水平方向の屈折力(HP)線は破線であり、平均度数(MP)線は実線である。図17AのMP線によれば、y=4.0mmにおける累進の開始点から、平均度数が処方された加入度数(ADD)2.00Dに達するy=−8.0mmにおける累進の終わりまでの累進帯長は12mmを示す。
累進の開始点と終了点との間の領域は、中間部に対応する。累進の開始点の上の領域は、遠用部に対応する。累進の終了点の下の領域は、近用部に対応する。
yが正であるエリアでは、垂直方向の屈折力の量は水平方向の屈折力の量よりも低く、yが負である領域では、垂直方向の屈折力の量は水平方向の屈折力の量よりも高い。
図17B及び図17Cは、実施形態3の最終的に得られた透過平均度数マップ及び最終的に得られた透過固有非点収差を示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
ここで、基本設計としてサンプル設計Bを使用する(図25のステップS101Bを参照のこと)。サンプル設計Bの累進帯長は、レンズ設計として12mmであり、表面構造として内面累進多焦点レンズであり、インセットは0.0mmであり、屈折率は1.60に等しい。なお、付加非点収差を提供する仕方を説明するために、実施形態3の第1の事例から第3の事例まで累進帯長10mmを使用するが、ここでは実際的に累進帯長12mmを使用する。累進帯長12mmは、18mmのものよりも短いと見なすことができる。
次に、目標分布が決定される(図25のステップS101Cを参照のこと)。実施形態3の第3の事例の場合、付加非点収差の量は子午線に沿って0.30Dに設定され、単調に減少し単調に増加する(図25のステップS101Hを参照のこと)。
目標分布が決定された後、外面及び内面は、透過の目標分布が実際に得られるように設計される(図4のステップS102又は図25のステップS102Aを参照のこと)。
式(3)のパラメータは、C1=−0.00012、C2=−0.000002、y0=−1.0、σx=4.0、σy=2.5、y1=1.0、a=0.0、b=0.0、c=2.0である。
透過計算のパラメータは、例えば、角膜−頂点距離(CVD)は12.0mmであり、頂点から目の回旋中心までは25.0mmであり、パンソフィック角(pansophic angle)は10.0度であり、瞳孔間距離(PD)は64.0mmであり、フレームと顔がなす角度は0.0度である。
図17Bでは、ここでは1.00Dの等高線に注目する。参照としての1.00Dの等高線の挙動は、実施形態2(図14A)と同じ傾向を有する。すなわち、y=0.0mm(中間部を表す)における1.00Dの平均度数(MP)の等高線の水平幅において従来の設計と実施形態3とを比較した場合、そのような水平幅はゼロ付加非点収差の場合よりも広い(ゼロ付加非点収差の事例の図はここでは省かれている)。
図17Cでは、ここでは中間部の側における等高線の間隔に注目する。中間部の側における等高線の間隔は、ゼロ付加非点収差の事例と比較した場合、拡張する。加えて、最大固有非点収差の位置は、ゼロ付加非点収差の事例と比較した場合、子午線から離れてレンズの周縁エリアに向かう。
上記に付け加えて、この実施形態では、1.50Dを超える高非点収差がレンズの下半分、換言すれば、y=0.0mmの線の下に存在し、一方、ゼロ付加非点収差の事例の結果では、2.00Dを超える高固有非点収差が、y=0.0mmにわたる上部エリア及び下部エリアの両方に存在するとともに、中間部の近傍に存在する(ゼロ付加非点収差の事例の図はここでは省かれている)。
従来、累進帯長が短くなると、急速な度数変化に起因して高い固有非点収差が生じる。図17B及び図17Cは、累進帯長がより短い場合であっても、本発明を適用することにより快適な中間視が達成されることを示す。
本発明では任意選択的に、本明細書に開示される透過非点収差性能パラメータは、サジタル透過屈折力及びタンジェンシャル透過屈折力を含む。サジタル透過屈折力及びタンジェンシャル透過屈折力は、レンズ上の少なくとも一点を参照する。
ここでは、子午線のみならず設計面全体で付加非点収差を拡張する方法について図18、図20、及び図22において3パターンで説明する。
(パターン1)
図18は、付加非点収差を設計面上の特定のエリアに割り振る本発明の第1の実施態様を示す。図18では、付加非点収差は、一点NPのみにおいて達成することができる(例えば、レンズ上の点NPに対応して0.50Dの付加非点収差を提供する)(図18の右側図を参照のこと)。
図18の左側図は、直径60mmの設計面を示す。FPはフィッティングポイント(又はアイポイント)を意味し、GCは幾何中心を意味し、NPは近用基準点を意味する。図18の右側図は、子午線に沿った透過の付加非点収差の変化を示し、その位置相関は左側図に対応する。図18の右側図の縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は付加非点収差の量(D)を示す。yが正のエリアにある場合、付加非点収差は付加されず、yが負のエリアにある場合、付加非点収差は増大し始め、NPにおいて0.50Dに達し、増大し続ける。
付加非点収差は、弧e−d−f、線分e−GC、及び線分f−GCで囲まれた扇型エリア「AS_add」に割り振られる。エリア「AS_add」は、線分e−GC及び線分f−GCがなす角度αにより制御される。
付加非点収差は、レンズの上半分のエリア「AS_0」(弧a−b−c及び線分a−cで囲まれた半円)に割り振られない。
2つの扇形エリア「AS_int」がある。一方の「AS_int」は弧a−e、線分a−GC、及び線分e−GCで囲まれ、他方の「AS−int」は弧c−f、線分c−GC、及び線分f−GCで囲まれる。
換言すれば、一制約を一点上の透過固有非点収差に課すことにより、目において付加非点収差を示す円の扇形を得ることが可能である。当然ながら、付加非点収差は、実際に、上述したエリア内(又は線上でも)の任意の数の点に提供することができるため、2点以上の点に与え得る。
図18におけるパラメータは、付加非点収差の量及び付加非点収差が割り振られるエリアの範囲を制御する角度αである。付加非点収差の量は0.50Dであり、角度αは30度である。角度αの値は15度から45度内の任意の値であり得る。
図19A〜図19Dは、パターン1が実施形態1の状態(図25のS101D)に適用された結果を示す。
図19E〜図19Hは、パターン1が実施形態2の状態(図25のS101E)に適用された結果を示す。
図19Aは、中間視及び近用部における度数変化がVP<HPである場合の本発明の第1の実施態様に対応する透過平均度数マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
図19Bは、中間部及び近用部における度数変化がVP<HPである場合の本発明の第1の実施態様に対応する透過固有非点収差マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
図19Bでは、エリア「a」は明視域の尺度に対応する。2つの矢印はそれぞれy=−14mm及びy=−20mmにおけるものである。符号「b」を有する丸が付けられたエリアは、最大固有非点収差が存在するエリアに対応し、エリア「b」における固有非点収差の値は最大である。
従来の設計(図6A)と本実施形態(図19B)との比較は、本実施形態における近用部の明視域が従来の設計よりも拡張することを示す。両方の透過固有非点収差マップ上のエリア「a」を参照のこと;周縁上の固有非点収差は低減し、固有非点収差1.50Dを有する領域は本実施形態の透過固有非点収差に存在するが、固有非点収差1.50Dを有する領域で占められる割合は従来よりも小さい;両方の透過固有非点収差マップにおける符号「b」を有する丸が付けられたエリアを参照のこと。
実施形態1の透過固有非点収差マップにおける画像測定による明視域の幅は、y=−14.0mm(上の「a」)及びy=−20.0mm(下の「a」)においてそれぞれ10.65mm及び15.97mmである。従来の設計では、同じように、y=−14.0mm(上の「a」)及びy=−20.0mm(下の「a」)においてそれぞれ9.97mm及び11.13mmである。
図19Eは、中間部及び近用部における度数変化がVP>HPである場合の本発明の第1の実施態様に対応する透過平均度数マップを示す。
例えば、図19Eと突き合わせて図5Aの1.00D以上である平均度数(MP)を有するエリアを比較した場合、この実施形態によるレンズでそのようなエリアが拡張したこと、すなわち、より広い又は大きいことを見て取ることができる。これは透過固有平均度数マップにおいて矢印で強調表示されている。図5A及び図19Eにおけるy=−14.0mmにおける矢印「A」はそれぞれ20.32mm及び32.90mmである。図5A及び図19Eにおけるy=−20.0mmにおける矢印「B」はそれぞれ26.61mm及び44.03mmである。幅の数字はマップの画像測定に基づく。
図19Fは、中間部及び近用部における度数変化がVP>HPである場合の本発明の第1の実施態様に対応する透過固有非点収差マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
図19C及び図19Gは、本発明の第1の実施態様に対応する垂直方向の屈折力、水平方向の屈折力、及び平均度数における子午線に沿った透過度数変化を示す。
図19C及び図19Gでは、縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は加入度数ADD(D)を示す。垂直方向の屈折力(VP)線は点線であり、水平方向の屈折力(HP)線は破線であり、平均度数(MP)線は実線である。図19Cによれば、垂直方向の屈折力の量は水平方向の屈折力の量よりも低く、図19Gによれば、垂直方向の屈折力の量は水平方向の屈折力の量よりも高い。
図19D及び図19Hは、本発明の第1の実施態様に対応する子午線に沿った透過固有非点収差変化を示す。縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は固有非点収差AS(D)を示す。図19D及び図19Hはそれぞれ、付加非点収差が図19C及び図19Gに関連して中間部及び近用部において子午線に沿って意図的に付加されたことも示す。
(パターン2)
図20は、付加非点収差が設計面上の特定のエリアに割り振られる本発明の第2の実施態様を示す。第2の実施態様は実施形態1及び実施形態2に対応する。図20では、付加非点収差は一点NPに対応して付加され、その結果、付加非点収差は、設計面の下半分略全体に提供される(図20の右側図を参照のこと)。
図20の左側図は、直径60mmの設計面を示す。FPはフィッティングポイント(又はアイポイント)を意味し、GCは幾何中心を意味し、NPは近用基準点を意味する。図20の右側図は、子午線に沿った透過固有非点収差の変化を示し、その位置相関は左側図に対応する。図20の右側図の縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は付加非点収差の量(D)を示す。付加非点収差は、yが正であるエリアに付加されない。
付加非点収差は、弧g−d−h及び線分g−hで囲まれたエリア「AS_add」に割り振られる。エリア「AS_add」では、付加非点収差の値は0.50Dである。付加非点収差は、レンズの上半分のエリア「AS_0」(弧a−b−c及び線分a−cで囲まれた半円)には割り振られない。点a、点c、点h、及び点gで囲まれた矩形様エリア「AS_int」は、エリア「AS_add」及びエリア「A_0」を補間するエリアである。
図21A〜図21Dは、パターン2が実施形態1の状態(図25のS101D)に適用された結果を示す。
図21E〜図21Hは、パターン2が実施形態2の状態(図25のS101E)に適用された結果を示す。
図21Aは、中間部及び近用部における度数変化がVP<HPである場合の本発明の第2の実施態様に対応する透過平均度数マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
図21Bは、中間部及び近用部における度数変化がVP<HPである場合の本発明の第2の実施態様に対応する透過固有非点収差マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
図21Bでは、エリア「a」は明視域の尺度に対応する。2つの矢印はそれぞれy=−14.0mm及びy=−20.0mmにおけるものである。符号「b」を有する丸が付けられたエリアは、最大固有非点収差が存在するエリアに対応し、エリア「b」における固有非点収差の値は最大である。
従来の設計(図6A)と本実施形態(図21B)との比較は、本実施形態における近用部の明視域が従来の設計よりも拡張することを示す。両方の透過固有非点収差マップ上のエリア「a」を参照のこと;周縁上の固有非点収差は低減する(非点収差1.50Dを有する領域は本実施形態の透過固有非点収差マップには現れない);両方の透過固有非点収差マップにおける符号「b」を有する丸が付けられたエリアを参照のこと。
実施形態1の透過固有非点収差マップにおける画像測定による明視域の幅は、y=−14.0mm(上の「a」)及びy=−20.0mm(下の「a」)においてそれぞれ10.65mm及び13.55mmである。従来の設計では、同じように、y=−14.0mm(上の「a」)及びy=−20.0mm(下の「a」)においてそれぞれ8.71mm及び10.64mmである。
図21Eは、中間部及び近用部における度数変化がVP>HPである場合の本発明の第2の実施態様に対応する透過平均度数マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
例えば、図21Eと突き合わせて図5Aの1.00D以上である平均度数(MP)を有するエリアを比較した場合、この実施形態によるレンズでそのようなエリアが拡張したこと、すなわち、より広い又は大きいことを見て取ることができる。これは透過固有平均度数マップにおいて矢印で強調表示されている。図5A及び図21Eにおけるy=−14mmにおける矢印「A」はそれぞれ20.32mm及び27.10mmである。図5A及び図21Eにおけるy=−20mmにおける矢印「B」はそれぞれ26.61mm及び34.84mmである。幅の数字は透過固有平均度数マップの画像測定に基づく。
図21Fは、中間部及び近用部における度数変化がVP>HPである場合の本発明の第2の実施態様に対応する透過固有非点収差マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
図21C及び図21Gは、本発明の第2の実施態様に対応する垂直方向の屈折力、水平方向の屈折力、及び平均度数における子午線に沿った透過度数変化を示す。
図21C及び図21Gでは、縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は加入度数ADD(D)を示す。垂直方向の屈折力(VP)線は点線であり、水平方向の屈折力(HP)線は破線であり、平均度数(MP)線は実線である。図21Cによれば、垂直方向の屈折力の量は水平方向の屈折力の量よりも低く、図21Gによれば、垂直方向の屈折力の量は水平方向の屈折力の量よりも高い。
図21D及び図21Hは、本発明の第2の実施態様に対応する子午線に沿った透過固有非点収差変化を示す。縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は固有非点収差AS(D)を示す。
図21D及び図21Hではそれぞれ、付加非点収差が図21C及び図21Gに関連して中間部及び近用部において子午線に沿って意図的に付加されることも示す。
(パターン3)
図22は、付加非点収差が設計面上の特定のエリアに割り振られる本発明の第3の実施態様を示す。図22では、付加非点収差は曲率ベースで表現され、一点NPに対応して付加される。その結果、付加非点収差は特定のエリアに提供される。
図22の左側図は、直径60mmの設計面を示す。FPはフィッティングポイント(又はアイポイント)を意味し、GCは幾何中心を意味し、NPは近用基準点を意味する。図22の右側図は、子午線に沿った透過の水平曲率(C−h)と垂直曲率(C−v)との差の変化を示し、その位置相関は左側図に対応する。
図22の右側図、縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は曲率の差を示す。yが正であるエリアでは、C−hとC−vとの差は実質的にゼロであり、すなわち、付加非点収差は付加されない。
付加非点収差は、弧g−d−r並びに線分r−s、線分s−p、及び線分p−gで囲まれたエリア「AS_add」に割り振られる。エリア「AS_add」では、付加非点収差の値は、一点NPのみに提供することができる(例えば、レンズ上の一点NPに対応して付加非点収差0.50Dを提供する)。
パターン3では、付加非点収差は、スプライン関数を使用して曲率制御により付加される。図22の左側図の小さな円「cp」は、スプライン関数の制御点である。制御点のより多くは子午線の近傍に設定される。また、このパターンでは、制御点は点「a」及び点「c」の接線にも配置される。
図23A〜図23Dは、パターン3が実施形態1の状態(図25のS101D)に適用された結果を示す。
図23E〜図23Hは、パターン3が実施形態2の状態(図25のS101E)に適用された結果を示す。
図23Aは、中間部及び近用部における度数変化がVP<HPである場合の本発明の第3の実施態様に対応する透過平均度数マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
図23Bは、中間部及び近用部における度数変化がVP<HPである場合の本発明の第3の実施態様に対応する透過固有非点収差マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
図23Bでは、エリア「a」は明視域の尺度に対応する。2つの矢印はそれぞれy=−14.0mm及びy=−20.0mmにおけるものである。符号「b」を有する丸が付けられたエリアは、最大固有非点収差が存在するエリアに対応し、エリア「b」における固有非点収差の値は最大である。
従来の設計(図6A)と本実施形態(図23B)との比較は、本実施形態における近用部の明視域が従来の設計よりも拡張することを示す。両方の透過固有非点収差マップ上のエリア「a」を参照のこと;周縁上の固有非点収差は低減し、固有非点収差1.50Dを有する領域は本実施形態の透過固有非点収差マップに存在するが、固有非点収差1.50Dを有する領域により占められる割合は従来よりも小さい;両方の透過固有非点収差マップにおける符号「b」を有する丸が付けられたエリアを参照のこと。
実施形態1の透過固有非点収差マップにおける画像測定による明視域の幅は、y=−14.0mm(上の「a」)及びy=−20.0mm(下の「a」)においてそれぞれ9.91mm及び13.55mmである。従来の設計では、同じように、y=−14.0mm(上の「a」)及びy=−20.0mm(下の「a」)においてそれぞれ9.97mm及び11.13mmである。
図23Eは、中間部及び近用部における度数変化がVP>HPである場合の本発明の第3の実施態様に対応する透過平均度数マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
例えば、図23Eと突き合わせて図5Aの1.00D以上である平均度数(MP)を有するエリアを比較した場合、この実施形態によるレンズでそのようなエリアが拡張したこと、すなわち、より広い又は大きいことを見て取ることができる。これは透過固有平均度数マップにおいて矢印で強調表示されている。図5A及び図23Eにおけるy=−14.0mmにおける矢印「A」はそれぞれ20.32mm及び27.58mmである。図5A及び図23Eにおけるy=−20.0mmにおける矢印「B」はそれぞれ26.61mm及び34.65mmである。幅の数字は透過固有平均度数マップの画像測定に基づく。
図23Fは、中間部及び近用部における度数変化がVP>HPである場合の本発明の第3の実施態様に対応する透過固有非点収差マップを示す。マップの直径は60mmであり、インセットは0.0mmである。
図23C及び図23Gは、本発明の第3の実施態様に対応する垂直方向の屈折力、水平方向の屈折力、及び平均度数における子午線に沿った透過度数変化を示す。
図23C及び図23Gでは、縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は加入度数ADD(D)を示す。垂直方向の屈折力(VP)線は点線であり、水平方向の屈折力(HP)線は破線であり、平均度数(MP)線は実線である。図23Cによれば、垂直方向の屈折力の量は水平方向の屈折力の量よりも低く、図23Gによれば、垂直方向の屈折力の量は水平方向の屈折力の量よりも高い。
図23D及び図23Hは、本発明の第3の実施態様による子午線に沿った透過固有非点収差変化を示す。縦軸はy方向における位置(mm)を示し、横軸は固有非点収差AS(D)を示す。図23D及び図23Hはそれぞれ、図23C及び図23Gに関連して中間部及び近用部において子午線に沿って付加非点収差が意図的に付加されることも示す。
(実施形態4)
本発明の実施形態4の第1の実施態様によれば、近用部及び中間部は、付加非点収差に対応する付加非点収差値を示し、近用部の少なくとも一点において水平方向の屈折力の量よりも低い垂直方向の屈折力の量を示す。ここで、展示は、目において生成される意味又は目により知覚されるものとして、レンズを透過したもの等として使用される。
一例では、付加非点収差は、レンズにより示される、近用部での明視域の拡張に対応する。拡張した明視域は、ゼロ付加非点収差に対応する明視域よりも大きい明視域である。
別の例では、明視域は、所定の閾値未満の固有非点収差を示すことを特徴とする領域である。
本発明の実施形態4の第2の実施態様によれば、近用部及び中間部は、付加非点収差に対応する付加非点収差値を示す領域であり、垂直方向の屈折力の量は、近用部の少なくとも一点に対応して水平方向の屈折力の量よりも高い。
一例では、付加非点収差は、好ましくは、閾値以上の平均度数を有する近用部の水平幅に対応する。
別の例では、付加非点収差は水平幅の拡張に対応し、ここで、拡張された水平幅は、ゼロ付加非点収差に対応する水平幅よりも広い水平幅である。
本発明の実施形態4の第3の実施態様によれば、子午線は、付加非点収差の量に対応する付加非点収差値を示し、垂直方向の屈折力の量は、子午線に沿って水平方向の屈折力の量と異なる。子午線とは、累進多焦点レンズの下部に向かう方向に対応して球面度数が増大するレンズの子午線ラインである。
一例では、子午線に沿った中間部は、付加非点収差値が付加非点収差の量に対応することを示す。
別の例では、付加非点収差の量は、中間部において子午線に沿って一定である。
一例では、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率、好ましくはスキュー歪みに対応する。
別の例では、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率及びスキュー歪みの低減に対応する。低減した固有非点収差変化率は、ゼロ付加非点収差に対応する固有非点収差変化率よりも小さな固有非点収差変化率であり、低減したスキュー歪みは、ゼロ付加非点収差に対応するスキュー歪みよりも小さなスキュー歪みである。
別の例では、付加非点収差の量は、子午線の上から下に子午線に沿って単調に増加している。
一例では、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率、固有非点収差の最大量、好ましくはスキュー歪みの最大量に対応する。
別の例では、付加非点収差の量は、固有非点収差変化率の低減及び固有非点収差の最大量の低減、好ましくはスキュー歪みの低減に対応する。低減した固有非点収差変化率は、ゼロ付加非点収差に対応する固有非点収差変化率よりも小さな固有非点収差変化率である。
固有非点収差の最大量の低減は、ゼロ付加非点収差に対応する固有非点収差の最大量よりも小さな固有非点収差の最大量であり、低減したスキュー歪みは、ゼロ付加非点収差に対応するスキュー歪みよりも小さなスキュー歪みである。
更なる例によれば、付加非点収差の量は、中間部において、子午線の上から中央まで子午線に沿って単調に減少し、子午線の中央から下まで単調に増加する。この場合、子午線の中央はレンズの中央に対応する。
好ましくは、累進多焦点レンズにおいて、単調減少及び単調増加の少なくとも一方の率は、レンズの中央周囲の低収差を有するエリアの広がりを制御するように設定される。
本発明の実施形態1によれば、コンピュータにより、遠用部、近用部、及び中間部を備える累進多焦点レンズを設計する方法であって、度数は遠用部と近用部との間で累進的に変化する、方法が提供される。累進多焦点レンズは処方データに基づく。
方法は、処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応する透過非点収差性能パラメータを決定することと、特定された透過性能パラメータに対応するレンズ表面データを決定することとを含む。付加非点収差は、近用部及び中間部に対応して付加され、垂直方向の屈折力の量は、近用部の少なくとも一点において水平方向の屈折力の量よりも低い。
本発明の実施形態1によれば、遠用部、近用部、及び中間部を備える累進多焦点レンズであって、度数は遠用部と近用部との間で累進的に変化する、累進多焦点レンズが提供される。レンズは、処方データ及び付加非点収差に対応する非点収差性能パラメータ値の透過を示す表面を有する。
近方視近用部及び中間部は、付加非点収差に対応する付加非点収差値を示し、垂直方向の屈折力の量は、近用部の少なくとも一点において水平方向の屈折力の量よりも低い。
本発明の実施形態2によれば、コンピュータにより、近用部、遠用部、及び中間部を備える累進多焦点レンズを設計する方法であって、度数は遠用部と近用部との間で累進的に変化する、方法が提供される。累進多焦点レンズは処方データに基づく。
方法は、処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応する透過非点収差性能パラメータを決定することと、特定された透過性能パラメータに対応するレンズ表面データを決定することとを含む。付加非点収差は、近用部及び中間部に対応して付加され、垂直方向の屈折力の量は、近用部の少なくとも一点において水平方向の屈折力の量よりも高い。
本発明の実施形態2によれば、近用部、遠用部、及び中間部を備える累進多焦点レンズであって、度数は遠用部と近用部との間で累進的に変化する、累進多焦点レンズが提供される。レンズは、付加非点収差への処方データに対応する透過非点収差性能パラメータ値を示す表面を有する。近用部及び中間部は、付加非点収差に対応する付加非点収差を示し、垂直方向の屈折力の量は、近用部の少なくとも一点に対応して水平方向の屈折力の量よりも高い。
本発明の実施形態3によれば、コンピュータにより、近用部、遠用部、及び中間部を備える累進多焦点レンズを設計する方法であって、度数は遠用部と近用部との間で累進的に変化する、方法が提供される。累進多焦点レンズは処方データに基づく。
方法は、処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応する透過非点収差性能パラメータを決定することと、特定された透過性能パラメータに対応するレンズ表面データを決定することとを含む。付加非点収差の量は、子午線に対応して付加され、垂直方向の屈折力の量は、子午線に沿って水平方向の屈折力の量と異なる。子午線は、累進多焦点レンズの下部に向かう方向に対応して球面度数が増大するレンズの子午線ラインである。
本発明の実施形態3によれば、近用部、遠用部、及び中間部を備える累進多焦点レンズであって、度数は遠用部と近用部との間で累進的に変化する、累進多焦点レンズが提供される。レンズは、処方データ及び付加非点収差に対応する透過非点収差性能パラメータ値を示す表面を有する。
子午線は、付加非点収差の量に対応する付加非点収差値を示し、垂直方向の屈折力の量は、子午線に沿って水平方向の屈折力の量と異なる。子午線は、累進多焦点レンズの下部に向かう方向に対応して球面度数が増大するレンズの子午線ラインである。
本発明において任意選択的に、方法は、透過非点収差性能パラメータを設定することを更に含む。透過非点収差性能パラメータを設定することは、処方データに基づいて、レンズの一点に対応して、第1のタンジェンシャル透過屈折力及び第1のサジタル透過屈折力を設定することであって、それにより、第1のタンジェンシャル透過屈折力と第1のサジタル透過屈折力との処方透過屈折力差を得る、設定することを含む。
設定することは、所定量の付加非点収差に対応する量だけ処方透過差を増大させることを更に含む。
透過屈折力は、レンズの表面の少なくとも一点に対応して計算し得る。例えば、子午線に沿った近用基準点に対応する(例えば、眼球側に投影される)点において計算し得る。
透過に加えて、任意選択的に透過ベース設計に使用し得る他のパラメータは、装用時前傾角、頂点距離、顔がなす角度である。本発明が、処方データがいかなる乱視度数も含まない場合にも適用可能なことに留意する。
付加非点収差は、目に示される非点収差である。すなわち、レンズの実際の表面に与えられる固有非点収差ではなく、処方非点収差以外で意図的に付加される非点収差である。付加非点収差は、レンズにより透過され、したがって、目により知覚される。その結果、「仮想的な」表面での透過固有非点収差は、子午線が臍状ではないようなものである。「仮想的な」という言葉は、表面がレンズの実際の表面ではないことを意味する。
付加非点収差は、近用部及び中間部の少なくとも一方の少なくとも一点に対応して提供される。ここで、「対応して」は、人工的に付加される付加非点収差が、レンズの近用部又は中間部の点が投影される目のエリアに与えられるべきであることを意味し得る。
換言すれば、付加非点収差は、エリア内の仮想的な表面上のタンジェンシャル透過屈折力及びサジタル透過屈折力に与えられ、ここで、仮想的な表面の点は、光線を介してレンズ表面に対応する。
本発明の一実施態様では、透過非点収差性能パラメータを決定することは、差が、そのような透過が処方データのみに基づく差よりも大きくなるように、レンズの少なくとも一点に対応してタンジェンシャル透過屈折力及びサジタル透過屈折力を変更することを含む。
更に、本発明の更なる実施態様では、サジタル透過屈折力は、レンズの近用部の少なくとも一点に対応してタンジェンシャル透過屈折力よりも低い。
加えて、本発明の更なる実施態様では、サジタル透過屈折力は、レンズの近用部の少なくとも一点に対応してタンジェンシャル透過屈折力よりも高い。
本発明の更なる実施態様によれば、処方データは、処方非点収差に関連するパラメータを含み、所定量の付加非点収差は、処方の値を超える付加非点収差の値を提供する。上記の考慮事項は全て、繰り返しを可能な限り避けるように以下に等しく適用される。
本発明の更なる実施形態による累進多焦点レンズは、近用部、遠用部、及び中間部を備え、度数は遠用部と近用部との間で累進的に変化する。レンズは、処方データ及び付加非点収差に対応する透過非点収差性能パラメータを示す表面を有する。したがって、表面は、目における付加非点収差を示すように構成された構造(例えば、曲率)を有する。
(眼鏡レンズ製造システム)
図24は、の実施形態による眼鏡レンズを製造する方法を実現する眼鏡レンズの製造システムの構造を説明するブロック図を示す。
図24に示されるように、眼鏡レンズ製造システムは、クライアント(見込み装用者)の処方データに基づいて眼鏡レンズを発注する眼鏡店200と、眼鏡店200からの注文を受けて眼鏡レンズを製造するレンズ製造業者300とを有する。
レンズ製造業者300への注文は、インターネット及びFAX等の特定のネットワークによりデータ送信を通して実行される。眼科医及び一般顧客が注文者に含まれ得る。
[眼鏡店200]
コンピュータ201が眼鏡店200に設置される。コンピュータ201は、例えば、汎用PC(パーソナルコンピュータ)であり、眼鏡レンズをレンズ製造業者300に発注するためのソフトウェアがコンピュータ201にインストールされる。レンズデータ及びフレームデータは、眼鏡店スタッフによりマウス及びキーボード等の操作を通してコンピュータ201に入力される。
レンズデータは、例えば、処方データ(球面度数、乱視度数、乱視軸、プリズム度数、プリズム基底方向、加入度数、瞳孔間距離(PD)、近用PD、ベースカーブ等)、眼鏡レンズのフレーム関連装用状況(頂点距離、装用時前傾角、顔となす角度)、眼鏡レンズのタイプ(球面単焦点レンズ、非球面単焦点レンズ、二重焦点レンズ、及び累進多焦点レンズ)、コーティング(染色、ハードコート、反射防止膜、UVカット等)、及びクライアントの要求に従ったレイアウトデータを含む。
フレームデータは、クライアントにより選択されたフレームの形状データを含む。フレームデータは、例えば、バーコードタグにより管理され、バーコードリーダによりフレームに取り付けられたバーコードタグを読み取ることを通して入手可能であることができる。コンピュータ201は、例えば、インターネットを通して注文データ(レンズデータ及びフレームデータ)をレンズ製造業者300に送信する。
[レンズ製造業者300]
センターとしてホストコンピュータ200を有するLAN(ローカルエリアネットワーク)がレンズ製造業者300内に構築され、そこにレンズ設計用のコンピュータ及びレンズ加工用のコンピュータ303等の複数の端末デバイスが接続される。レンズ設計用コンピュータ302及びレンズ加工用コンピュータ303は汎用PCであり、眼鏡レンズを設計するプログラム及び眼鏡レンズを加工するプログラムがそれぞれインストールされている。
インターネットを通してコンピュータ201から送信された注文データは、ホストコンピュータ301に入力される。ホストコンピュータ301は、入力された注文データをレンズ設計用コンピュータ302に送信する。
レンズ製造業者300において、注文データを受信した後、見込み装用者の処方を満たすように、凸面(物体側)及び凹面(眼球側)の両面の設計及び加工が未加工のブロックピースに適用される。
なお、レンズ製造業者300において、生産性を改善するために、全ての製造範囲内の度数は複数の群に分割され、凸状の湾曲形(球面形又は非球面形)を有するセミフィニッシュドブランク及び各群の度数範囲に一致するレンズ径は、眼鏡レンズの注文への準備として事前に準備し得る。
この場合、レンズ製造業者300において、凹面加工(及び縁摺加工)を実行するか、又は凸面加工及び凹面加工の両方(及び縁摺加工)を実行することのみにより、見込み装用者の処方に基づく眼鏡レンズを製造することができる。
レンズ設計用コンピュータ302には、注文又は注文受信に従って眼鏡レンズを設計するプログラムがインストールされており、レンズ設計用コンピュータ302は、注文データ(レンズデータ)に基づいてレンズ設計データを準備し、注文データ(フレームデータ)に基づいて縁摺加工データを準備するように構成される。
レンズ設計用コンピュータ302による眼鏡レンズの設計については詳細に後述する。レンズ設計用コンピュータ302は、準備したレンズ設計データ及び縁摺加工データをレンズ加工用コンピュータ303に送信する。
オペレータは、曲線生成機等の加工機304にブロックピースをセットし、加工を開始する命令をレンズ加工用コンピュータ303に入力する。レンズ加工用コンピュータ303は、レンズ設計用コンピュータ302からレンズ設計データ及び縁摺加工データを読み取り、加工機304の加工の駆動を制御する。
加工機304は、レンズ設計データに基づいてブロックピースの両面を研磨し/磨き、それにより、眼鏡レンズの凸形及び凹形を作製する。更に、加工機304は、凸面及び凹面をレンズ形状に対応する周形状に作製した後、未カットレンズの外周面を加工する。
縁摺加工後、染色、ハードコート、反射防止膜、及びUVカット等の各種のコーティングが眼鏡レンズに適用される。したがって、眼鏡レンズは完成し、眼鏡店200に送られる。
本発明の別の態様によれば、コードを含むコンピュータプログラムであって、コードは、処理リソースで実行されると、処理リソースに本発明による方法実施形態を実行するように指示する、コンピュータプログラムが提供される。任意のコンピュータが方法の実行に適する。例えば、プロセッサ、メモリ(コード及び/又はコードの動作に必要なデータを記憶する)、オペレータとデータを交換するためのインターフェース、他のデバイスとデータを交換するためのインターフェース等を備えるコンピュータ。
本発明の更に別の実施形態によれば、レンズを設計するエンティティであって、処方データに含まれる処方非点収差と所定量の付加非点収差との和に対応する透過非点収差性能パラメータを決定するように構成された第1の決定手段(又はプロセッサ)と、決定された透過性能パラメータに対応するレンズ表面データを決定するように構成された第2の決定手段(又は同じプロセッサ)とを備える、エンティティが提供される。
エンティティは、ハードウェア及び/又はソフトウェアの任意の組合せで実現することができ、分散してもよく(例えば、クライアント−サーバアーキテクチャ、クラウド等)、又は1つのデバイス(デバイスは任意のハードウェア及び/又はソフトウェア組合せであることができる)に集中してもよい。
図25は、本発明の実施形態による眼鏡レンズを設計する方法を実現する眼鏡レンズを設計するステップのフローチャートを示す。
本発明はまた、片面累進タイプ(内面又は外面)及び両面複合タイプを含む両面累進タイプ)等の各種の累進多焦点レンズに適用することができる。
[S101A処方データ及び/又は任意選択的データの取得]
このステップでは、装用者の処方データ及び/又は任意選択的データが眼鏡店から取得される。任意選択的データは、装用スタイル及び/又はフレーム形状等のような装用者の好みである。例えば、装用時前傾角、頂点距離、及び顔となす角度等のフレーム形状関連データが透過計算に使用される。任意選択的データが未知の場合、デフォルト値が透過計算に使用される。
別の任意選択的データは、装用スタイル「明瞭な近方視指向」又は「水平方向における安定した度数分布指向」のような装用者の好みである。光学設計者が装用者スタイル及び付加非点収差の量を決定する場合、これらのデータはS101Aにおいて取得される。装用スタイル及び/又は付加非点収差の量の任意選択的データが光学設計者から提供されない場合、レンズ製造業者はこれらのデータを決定し得る。
任意選択的データは上記のものに限定されない。生理学的パラメータも任意選択的データであることができる。
[S101B基本設計の決定]
このステップでは、基本設計が決定される。基本設計は、累進多焦点レンズの基本光学性能及び設計特徴を提供する。これらの光学性能及び設計特徴は、平均度数及び固有非点収差の分布により特徴付けられる。分布は、曲率のない平面で表される(最終的に得られる累進多焦点レンズの実際の表面の曲率はS102Aにおいて提供される)。基本設計は新たに設計してもよく、又は累進多焦点レンズの任意の既存の設計ラインナップから選択してもよい。
[S101C目標分布の決定]
このステップでは、所定量の付加非点収差及び付加非点収差(本明細書では「付加AS」とも呼ばれる)を提供する仕方のバリエーションを反映した透過目標分布。バリエーションはS101DからS101Hに示される。
[S101D目標分布、付加AS:VP<HP]
このステップでは、付加ASは、子午線に沿って中間部及び近用部において垂直方向の屈折力が水平方向の屈折力よりも低くなるように特定量、生じる。
[S101E目標分布、付加AS:VP>HP]
このステップでは、付加ASは、子午線に沿って中間部及び近用部において垂直方向の屈折力が水平方向の屈折力よりも高くなるように特定量、生じる。
[S101F目標分布、付加AS:一定]
このステップでは、一定量の付加非点収差が中間部において子午線に沿って付加される。このバリエーションは、累進帯長が短い累進多焦点レンズに好ましい。
[S101G目標分布:付加AS:単調増加]
このステップでは、量が単調に増加する付加非点収差が中間部において子午線に沿って付加される。このバリエーションは、累進帯長が短い累進多焦点レンズに好ましい。
[S101H目標分布、付加AS:単調減少及び単調増加]
このステップでは、量が単調に減少し、次に単調に増加する付加非点収差が中間部において子午線に沿って付加される。このバリエーションは、累進帯長が短い累進多焦点レンズに好ましい。
[S102A外面及び内面の設計]
このステップでは、外面及び内面が、S101Cにおいて決定された透過の目標部分が実際に得られるように設計される。
[符号の説明]
MP:平均度数、AS:固有非点収差、VP:垂直方向の屈折力、HP:水平方向の屈折力、ADD:加入度数、AX:乱視軸、Tf:遠方視の場合のタンジェンシャル透過屈折力(T)、Tn:近方視の場合のタンジェンシャル透過屈折力(T)、Sf:遠方視の場合のサジタル透過屈折力(S)、Sn:近方視の場合のサジタル透過屈折力(S)、S101:透過非点収差性能パラメータを決定するステップ、S102:レンズ表面データを決定するステップS102、GC:幾何中心、FP:フィッティングポイント、NP:近用基準点、AS_0:付加非点収差が割り当てられないエリア、AS_int:付加非点収差のエリア及びゼロ付加非点収差エリアを補間するエリア、AS_add:付加非点収差が割り振られるエリア、200:眼鏡店、201:眼鏡店のコンピュータ、300:レンズ製造業者、301:レンズ製造業者のホストコンピュータ、302:レンズ設計用コンピュータ、303:レンズ加工用コンピュータ、304:処理機。
図から及び当業者には明らかなように、上記設計方法(及び他の設計方法)の任意の組合せが本発明の実施に適する。
本発明の範囲又は趣旨から逸脱せずに、本発明のエンティティ、方法、システム、コンピュータプログラム、媒体、及び信号(プログラムを実行する命令を搬送する)並びに本発明の構造に様々な変更及び変形を行うことができることが当業者には理解されよう。本発明は、全ての点で限定ではなく例示であることが意図される特定の実施形態及び例に関連して説明した。ハードウェア、ソフトウェア、及びファームウェアの多くの異なる組合せが本発明の実施に適し、本発明の範囲及び趣旨は以下の特許請求の範囲により規定されることを当業者は理解するであろう。