JP6914703B2 - 1−ケストースを含んでなる食品の製造方法 - Google Patents

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本発明は1−ケストースを含んでなる食品の製造方法に関する。詳しくは、1−ケストースの加熱による分解が抑制された、1−ケストースを含んでなる食品の製造方法に関する。
食物に起因する齲蝕を避けたい場合、砂糖を比較的多く含む食品を控えるほうが好ましい。
一方、砂糖と同様の甘味質を備え(非特許文献1)、齲蝕性が低い糖として1−ケストースが知られている(特許文献1)。
そこで、1−ケストースを砂糖の代わりに酸味のある食品にも用いたいが、酸性条件下で加熱すると1−ケストースは分解することが知られている(非特許文献1)。分解すると果糖、ショ糖やブドウ糖が遊離されるので齲蝕性が高まってしまう。
したがって、加熱を要する酸味のある食品に1−ケストースを用いても分解が進むので、期待する難齲蝕性効果が十分に得られないという問題があった。
国際公開2009/088083号
明治製菓研究年報 Sci.Report of Meiji Seika Kaisha No.43,31-38(2004)
製造工程中に加熱処理を必要とする、1−ケストースを含んでなる食品の製造方法を提供する。特に、1−ケストースを含んでなる酸味のある食品を加熱する場合であっても、1−ケストースの分解が抑制された製造方法を提供する。
本発明者らは、1−ケストースを油脂性生地と混合した後、50〜100℃に加熱したところ、意外なことに、酸味のある油脂性生地においても加熱処理後の油脂性生地中の1−ケストースの分解が抑えられることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下を包含する。
(1)1−ケストースを油脂性生地と混合した後、50〜100℃で加熱処理を行うことを特徴とする1−ケストースを含んでなる食品の製造方法。
(2)油脂性生地のpHが4.5以下である前記(1)に記載の1−ケストースを含んでなる食品の製造方法。
(3)1−ケストースを含んでなる油脂性生地を他の食材と組み合わせ、油脂性生地部分を50〜100℃に加熱処理する複合油脂性食品の製造方法。
(4)1−ケストースを含んでなる油脂性生地が50〜100℃に加熱処理された油脂性食品。
(5)油脂性生地のpHが4.5以下である前記(4)に記載の油脂性食品。
(6)1−ケストースを含んでなる油脂性生地が他の食材と組み合わされてなり、油脂性生地部分が50〜100℃に加熱処理された複合油脂性食品。
(7)加熱処理の前に、1−ケストースと油脂性生地とを混合することを特徴とする、食品中の1−ケストースの安定化方法。
本発明によれば、1−ケストースを油脂性生地と混合して加熱処理することによって、酸味のある油脂性生地であっても、加熱処理後の油脂性生地に含まれる1−ケストースの分解を抑えることができるので、加熱を要する酸味のある食品に1−ケストースを用いても、1−ケストースを含んでなる食品の難齲蝕性を保つことが期待できる。
1−ケストース5%溶液のpH安定性を示す従来技術である。
本発明は1−ケストースを油脂性生地と混合した後、50〜100℃で加熱処理を行うことを特徴とする。
定義
1−ケストース
1−ケストースはショ糖分子のフルクトース1位にさらにフルクトースがβ−2,1結合した3糖類である。そして1−ケストースはフラクトオリゴ糖の一成分である。
また、フラクトオリゴ糖は難齲蝕性であり生体内の消化酵素では消化されず、さらには腸内におけるビフィズス菌の特異的生育促進効果を有することが明らかにされており、1−ケストースはフラクトオリゴ糖としての生理活性機能を有する。
油脂性生地、油脂性食品
本願において油脂性生地とは、油脂を連続層とする食品生地をいう。油脂性生地は油脂のみからなる場合も含む。1−ケストースを含んでなる油脂性生地の水分は5重量%以下であり、好ましくは3重量%未満であり、より好ましくは1.5重量%以下である。また、1−ケストースを含んでなる油脂性生地の粘度は100000mPa・s以下である(粘度測定条件は40℃、B型粘度計、ローターNo.6、ローター回転数4r.p.m.)。さらに、1−ケストースを含んでなる油脂性生地に含まれる最大粒子径は200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
本発明においては油脂性生地のpHは限定されない。しかしながら、油脂性生地のpHが4.5以下である場合に課題解決効果が顕著となり、pH3以下である場合に課題解決効果がさらに顕著となる。
そして、油脂性食品とは、油脂性生地を成形等加工してできあがった食品をいう。
油脂性菓子生地、油脂性菓子
本願において油脂性菓子生地とは油脂性生地の一種である。油脂性菓子生地を成形等加工してできあがった菓子を「油脂性菓子」という。油脂性菓子は、油脂性原料によってその物性特性が支配されている菓子であり、代表的にはチョコレートであるが、規格上のチョコレートに限定されるものではなく、チョコレート類の表示に関する公正競争規約に定めるチョコレート、準チョコレートや、それに該当しないファットクリームなどを含む。
油脂性菓子生地の基本的な原料は、カカオマス、ココアバター、ココアパウダー、乳製品、糖質、油脂類、乳化剤、酸、香料等である。
カカオマスは、例えばカカオ豆をローストして磨砕することによって得られる。
乳製品としては、例えば、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、乾燥乳清などが使用できる。
糖質としては、1−ケストースに加え、例えば、ショ糖、乳糖、ブドウ糖、果糖、オリゴ糖、澱粉、アルファー化澱粉、トレハロース、デキストリン、セルロースなどの糖類の他、マルチトール、エリスリトール、ソルビトールなどの糖アルコールも使用できる。
油脂類としては、例えば、サル脂、シア脂、パーム油、乳脂、DHA、EPA、ショートニング、マーガリンなどが使用できる。
酸としては有機酸が好ましく、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などを使用することができる。
香料としては、例えば、バニリン、バニラ抽出物などを用いることができるが、これらに限らず広く用いることができる。
この他に、食塩などの塩類や、色素、乳化剤、さらにその他の成分も必要に応じて適宜用いることができる。
他の食材
本願において他の食材とは、1−ケストースを含んでなる油脂性生地と物理的に接して配置できて、さらに加熱できる食材であれば特に限定されず、小麦粉を主成分とするビスケット等の焼菓子生地やパン生地であってもよいし、ナッツ類であってもよいし、組成の異なる油脂性生地そのものであってもよい。
また、本願において他の食材と組み合わせるとは、他の食材と1−ケストースを含んでなる油脂性生地とが物理的に接して配置される状態にすることであり、1−ケストースを含んでなる油脂性生地を他の食材が取り囲んでもよいし、逆に1−ケストースを含んでなる油脂性生地が他の食材を取り囲んでもよいし、あるいは両者が相対的に左右上下等どのように位置してもよい。
複合油脂性食品
本願において複合油脂性食品とは、油脂性生地と他の食材とを組み合わせ、必要に応じてさらに成形等加工をした結果できあがった食品である。複合油脂性食品においては、1−ケストースを含んでなる油脂性生地から他の食材に実質的に1−ケストースが移動しないよう、1−ケストースを含んでなる油脂性生地と他の食材とが接合されているのみで、実質的に成分が混合されてはいない。
油脂性生地の調製方法
油脂性生地の一種である油脂性菓子生地は、例えば次のようにして調製できる。
1−ケストースと、ショ糖、乳糖、全粉乳、脱脂粉乳、有機酸、クリームパウダー等の粉体原料と、融解させたカカオマス、ココアバター、植物油脂やレシチン等の油性液状原料とを、微粒化に適した油分(通常25〜30%)になるよう攪拌混合してペースト状の種生地を得、当該種生地をレファイナーで微粒化し、得られたフレークを撹拌混合(ドライコンチングと呼ぶ)し、再びペースト状とした後、所望の油分、粘度になるよう更にココアバター、植物油脂等の油脂原料、及びレシチン等を添加し、攪拌混合して得ることができる。更にこれに、必要に応じ香料等を添加してもよい。
油脂性生地への酸味付与方法
油脂性生地への酸味付与は、油脂性生地に酸を添加することによって行うことができる。酸としては有機酸が好ましく、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などを使用することができる。酸の添加量は、付与対象の食品に適切な酸味が付与されれば限定されないが、例えば、油脂性生地中の酸の添加量として0〜10重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。
pH測定方法
本願におけるpHの測定は、油脂性生地をその9倍重量の脱イオン水で十分に分散し、pH測定装置を用いて25℃で測定する。
加熱処理方法
加熱処理は油脂性生地を50〜100℃に加熱することによって行う。50〜100℃に加熱するとは、油脂性生地の少なくとも一部が、上限として50〜100℃に達することをいう。加熱処理温度は、好ましくは60〜90℃であり、より好ましくは60〜75℃である。加熱方法及び加熱時間は特に限定されない。
次に、実施例を示して本願発明をより詳細に説明するが、本願発明は以下実施例に限定されない。
表1に記載された組成のチョコレート生地(油脂性生地)を、下記のように調製した。なお、表1において、コンチング中配合とは微粒化する際の配合を、最終配合とは文字通り最終調製時の配合を表す。
Figure 0006914703
まず、コンチング中配合の原料を攪拌混合してペースト状の種生地を得、当該種生地を微粒化した。得られたフレークをドライコンチング(本実施例において加熱処理工程に相当する)し、ペースト状とした後、最終配合になるよう更にココアバターとレシチンを添加し、攪拌混合した。ドライコンチングには湯煎式オーバーミキサーを使用し、コンチング温度は60℃と90℃、コンチング時間は60分とした。
表2は、表1のコンチング中配合に示したチョコレート生地の10%水分散液のpHの測定結果を示している。
Figure 0006914703
表3は、種生地を微粒化したフレーク、及び加熱処理前後のチョコレート生地の水分量を示している。
Figure 0006914703
表4は、ドライコンチング(加熱処理)前と比較したドライコンチング後の1−ケストースの残存率(%)を示している。
なお、1−ケストースの定量は、以下の条件により行った。カラム:RT250−4.0LiChrosphor 100 NH2(Cica−Reagenet社)、移動相:66%アセトニトリル、流速:1ml/min、カラム温度:40℃、検出器:示差屈折計。
Figure 0006914703
上記の結果より、チョコレート生地に1−ケストースを配合した場合、60℃加熱処理ではチョコレート生地のpH2.9〜7.5において1−ケストースは安定であり、90℃加熱処理ではpH2.9において4%残存量が減少したものの、チョコレート生地のpH4.1〜7.5において1−ケストースは安定だった。
一方、図1は1−ケストースの5%溶液のpH安定性を示す参考図であり、これは出願時の従来技術(非特許文献1)である。
図1によれば、5%溶液の場合、pH4かつ90℃条件下で15分間保持すると、残存率が約20%低下しており、pH3かつ90℃条件下で15分間保持すると、残存率は約90%も低下している。
以上の結果から、意外なことに、加熱処理前に1−ケストースをチョコレート生地(油脂性生地)に含まれる状態とすることにより、酸性から弱アルカリ性の範囲で60〜90℃にて60分間加熱処理しても、1−ケストースの残存率は極めて高いことがわかった。
実施例5
(タルト生地の調製)
薄力粉50g、強力粉150g、グラニュー糖50gを混ぜ合わせ、そこに溶かしたバター100g、卵黄30g、バニラフレーバー0.1gを加えて十分に混合した。これを冷蔵庫で2時間冷却したのち、タルト焼成用の円形型へ移し、型の形状に合わせて円形凹状に成形した。次に空気穴を全体に均一に開け、重石を載せて180℃のオーブンで20分間焼成してタルト生地を調製した。
(チョコレートタルトの製造)
焼成後の前記タルト生地の凹部に、60℃で加熱処理した実施例1と同じチョコレート生地500gを流し込み、170℃で10分間焼成して複合油脂性食品であるチョコレートタルトを得た。得られたチョコレートタルトは、チョコレート表面が固化していたが、内部は舌触りの滑らかさを保持していた。
参考例6
(焼チョコレートの製造)
90℃で加熱処理した参考例4と同じチョコレート生地を型に流し込んで1粒6gの略直方体状に成形し、次に200℃で3分間焼成して、油脂性食品である焼チョコレートを得た。得られた焼チョコレートは、チョコレート表面が固化していたが、内部は舌触りの滑らかさを保持していた。

Claims (3)

  1. 1−ケストースを、pHが4.5以下である油脂性生地と混合した後、50〜100℃で加熱処理を行うことを特徴とする1−ケストースを含んでなる食品の製造方法。
  2. 1−ケストースを含んでなり、pHが4.5以下である油脂性生地を他の食材と組み合わせ、油脂性生地部分を50〜100℃に加熱処理する複合油脂性食品の製造方法。
  3. 加熱処理の前に、1−ケストースと、pHが4.5以下である油脂性生地とを混合することを特徴とする、食品中の1−ケストースの安定化方法。
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